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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】トナーおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/097 20060101AFI20241209BHJP
   G03G 9/08 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
G03G9/097 365
G03G9/08 381
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2023213411
(22)【出願日】2023-12-18
(62)【分割の表示】P 2019067497の分割
【原出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2024015454
(43)【公開日】2024-02-01
【審査請求日】2023-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】片岡 裕太郎
(72)【発明者】
【氏名】上原 秀隆
【審査官】川口 真隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-179547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/097
G03G 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂及び離型剤を溶融混練する工程を有するトナーの製造方法であって、該離型剤として、菜種油を水素添加して硬化処理工程を経て、その後、水蒸気を吹き込みながら、減圧、加熱する脱臭工程を経た工程により得られた、1位~3位にステアリン酸残基を有するトリグリセリドを79.1重量%以上含有し、融点が50℃以上80℃未満で、平均粒径(d50)30μm未満のβ型結晶を有する油脂粉末を離型剤として用いる、耐機内汚染性に優れたトナーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像に用いられる、トナーおよびその製造方法に関する。さらに、トナー用ワックス組成物や超微粒子粉じん低減剤にも関する。
【背景技術】
【0002】
オフィスで用いられる複合機・プリンターには省エネが求められており、そのために低温定着可能なトナーが求められている。また、前記トナーを低温定着化させるためには、低融点ワックスを併用することが古くから知られている(特許文献1)。
【0003】
他方、複合機・プリンターにおいて、トナー用ワックスから、超微粒子粉じん(以下、UFPともいう)が発生することも良く知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-278657号公報
【文献】特開2017-167524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
低融点ワックスは、加熱時に一部昇華し、超微粒子粉じん (UFP)となるが、これが使用者の健康に対する懸案事項となっている。そこで、低温定着性とUFP低減性を兼ね備えたトナーが求められていた。
【0006】
本発明の課題は、低温定着性とUFPの低減が可能なトナーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のような態様を含み得る。
〔1〕結着樹脂及び離型剤を溶融混練する工程を有するトナーの製造方法であって、該離型剤は融点が50℃以上80℃未満の極度硬化油(ただし、エルカ酸の含有量が脂肪酸全体の40重量%以上である硬化油を除く。)を含み、該極度硬化油は脱臭工程を経て製造されたものであり、該極度硬化油がβ型結晶を有する油脂粉末を含有し、該油脂粉末が30μm未満の平均粒径を有する、耐機内汚染性に優れたトナーの製造方法。
〔2〕前記極度硬化油のトナー中の含有量が、結着樹脂100重量部に対して1~10重量部である、〔1〕に記載の耐機内汚染性に優れたトナーの製造方法。
〔3〕融点が50℃以上80℃未満の極度硬化油(ただし、エルカ酸の含有量が脂肪酸全体の40重量%以上である硬化油を除く。)を有効成分とし、脱臭工程を経て製造されたものであるトナー用超微粒子粉じん低減剤であって、該極度硬化油がβ型結晶を有する油脂粉末を含有し、該油脂粉末の平均粒径が30μm未満であることを特徴とする、トナー用超微粒子粉じん低減剤。
〔4〕結着樹脂及び離型剤を溶融混練する工程を有するトナーの製造方法であって、前記離型剤が、〔3〕に記載のトナー用超微粒子粉じん低減剤を含むことを特徴とする、耐機内汚染性に優れたトナーの製造方法。
〔5〕前記トナー用超微粒子粉じん低減剤のトナー中の含有量が、結着樹脂100重量部に対して1~10重量部である、〔4〕に記載の耐機内汚染性に優れたトナーの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低温定着性を高めるとともに、UFPの発生を低減することができるため、トナーカートリッジ内に残存するトナー量を低減することができる。また、複合機・プリンターの使用者において、健康被害が発生する可能性を低くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のトナーは、結着樹脂および離型剤を含有するトナーであって、前記離型剤は融点が50℃以上80℃未満の極度硬化油を含み、前記極度硬化油が脱臭工程を経て製造されたものであることを特徴とする。
【0010】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、上記離型剤は、低温定着性能を発揮しながら、しかも、大幅なUFP低減が可能であることを見出した。この理由は定かではないが、例えば、以下のように考えられる。なお、これは本発明の原理をわかりやすくするために説明したものであり、本発明はこの原理によって拘束されない。
本発明に用いられる離型剤は、融点が50℃以上80℃未満の極度硬化油を含むため、低温であっても適度に溶融し、低温定着性を高めることができる。また、脱臭工程を経て製造された極度硬化油を用いるため、粉じんとなり得る物質の一部が脱臭工程で除去されており、複合機・プリンターでの使用の際、UFPの発生の低減が可能になったものと推測される。
【0011】
本発明のトナーの製造方法は、少なくとも結着樹脂及び離型剤を溶融混練する工程を有し、前記離型剤は融点が50℃以上80℃未満の極度硬化油を含み、前記極度硬化油は脱臭工程を経たものであることを特徴とする。
【0012】
<結着樹脂>
本発明に用いる結着樹脂は、トナーの低温定着性、保存安定性及び耐久性に優れる観点から、ポリエステルを含有することが好ましい。ポリエステルの含有量は、結着樹脂中、80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましく、結着樹脂として、ポリエステルのみを用いることがさらに好ましいが、低温定着性の効果が損なわれない範囲において、ポリエステル以外の他の樹脂が含有されていてもよい。他の結着樹脂としては、ビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等が挙げられる。
【0013】
本発明に用いるポリエステルは、2価以上のアルコールからなるアルコール成分と2価以上のカルボン酸化合物からなるカルボン酸成分とを縮重合することにより得られる。
【0014】
2価のアルコールとしては、例えば、炭素数2~20、好ましくは炭素数2~15のジオールや、式(I):
【0015】
【化1】
【0016】
(式中、RO及びORはオキシアルキレン基であり、Rはエチレン及び/又はプロピレン基であり、x及びyはアルキレンオキサイドの付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、xとyの和の平均値は1~16が好ましく、1~8がより好ましく、1.5~4がさらに好ましい)
で表されるビスフェノールのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。炭素数2~20の2価のアルコールとして、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA等が挙げられる。
【0017】
アルコール成分としては、トナーカートリッジ内に残存するトナー量を低減する観点から、式(I)で表されるビスフェノールのアルキレンオキサイド付加物が好ましい。式(I)で表されるビスフェノールのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、アルコール成分中、50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましく、実質的に100モル%がよりさらに好ましい。
【0018】
3価以上のアルコールとしては、例えば、炭素数3~20、好ましくは炭素数3~10の3価以上の多価アルコールが挙げられる。具体的には、ソルビトール、1,4-ソルビタン、ペンタエリスリトール、グリセロール、トリメチロールプロパン等が挙げられる。
【0019】
2価のカルボン酸化合物としては、例えば、炭素数3~30、好ましくは炭素数3~20、さらに好ましくは炭素数3~10のジカルボン酸、及びそれらの酸無水物、アルキル(炭素数1~4)エステル等の誘導体等が挙げられる。具体的には、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸や、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、炭素数1~20のアルキル基又はアルケニル基で置換されたコハク酸等の脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
【0020】
3価以上のカルボン酸化合物としては、例えば、炭素数4~30、より好ましくは炭素数4~20、さらに好ましくは炭素数4~10の3価以上の多価カルボン酸、及びそれらの酸無水物、アルキル(炭素数1~4)エステル等の誘導体等が挙げられる。具体的には、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸(ピロメリット酸)等が挙げられる。
【0021】
なお、アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸化合物が、ポリエステルの軟化点を調整する観点から、適宜含有されていてもよい。
【0022】
ポリエステルにおけるカルボン酸成分とアルコール成分との当量比(COOH基/OH基)は、ポリエステルの酸価を低減する観点から、0.70~1.00が好ましく、0.75~0.95がさらに好ましい。
【0023】
アルコール成分とカルボン酸成分との縮重合反応は、不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じて、エステル化触媒、エステル化助触媒、重合禁止剤等の存在下、180~250℃程度の温度で縮重合させて行うことができる。エステル化触媒としては、酸化ジブチル錫、2-エチルヘキサン酸錫(II)等の錫化合物、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート等のチタン化合物等が挙げられ、エステル化助触媒としては、没食子酸等が挙げられる。エステル化触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100重量部に対して、0.01~1.5重量部が好ましく、0.1~1.0重量部がより好ましい。エステル化助触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100重量部に対して、0.001~0.5重量部が好ましく、0.01~0.1重量部がより好ましい。
【0024】
ポリエステルの軟化点は、トナーカートリッジ内に残存するトナー量を低減する観点及びトナーの低温定着性、耐高温オフセット性を向上させる観点から、90~140℃が好ましく、100~135℃より好ましく、105~125℃がさらに好ましい。
【0025】
本発明に用いる結着樹脂は、低温定着性と耐高温オフセット性を向上させる観点から、軟化点の異なる2種のポリエステルを含有することが好ましい。
【0026】
軟化点が高い方のポリエステルと軟化点が低い方のポリエステルの軟化点の差は、トナーの低温定着性と耐高温オフセット性を向上させる観点から、10℃以上が好ましく、10~30℃がより好ましい。
【0027】
ポリエステルの軟化点は、アルコール成分やカルボン成分の種類や組成比、触媒量等の調整、反応温度や反応時間、反応圧力等の反応条件の選択によって制御することができる。
【0028】
ポリエステルのガラス転移点は、トナーカートリッジ内に残存するトナー量を低減する観点及びトナーの低温定着性、保存安定性を向上させる観点から、50~80℃が好ましく、60~70℃がより好ましい。
【0029】
ポリエステルのガラス転移点は、アルコール成分やカルボン成分の種類や組成比等によって制御することができる。
【0030】
ポリエステルの軟化点及びガラス転移点は、複数のポリエステルからなる場合は、それらの加重平均値が上記範囲内となることが好ましい。
【0031】
ポリエステルの酸価は、トナーカートリッジ内に残存するトナー量を低減する観点から、30mgKOH/g以下が好ましく、20mgKOH/g以下がより好ましい。
【0032】
ポリエステルの酸価は、アルコール成分やカルボン成分の種類や組成比、触媒量等の調整、反応温度や反応時間、反応圧力等の反応条件の選択によって制御することができる。
【0033】
なお、本発明において、ポリエステルは、実質的にその特性を損なわない程度に変性されたポリエステルであってもよい。変性されたポリエステルとしては、例えば、特開平11-133668号公報、特開平10-239903号公報、特開平8-20636号公報等に記載の方法によりフェノール、ウレタン、エポキシ等によりグラフト化やブロック化したポリエステルをいう。
【0034】
<離型剤>
本発明に用いる離型剤は、融点が50℃以上80℃未満の極度硬化油を含み、前記極度硬化油は脱臭工程を経て製造されたものであることを特徴とする。以下、離型剤の1成分である、極度硬化油について、順を追って説明する。
【0035】
<極度硬化油>
本発明の極度硬化油は、融点が50℃以上80℃未満であれば特に制限されない。例えば、極度硬化菜種油、極度硬化高エルシン酸菜種油、極度硬化ひまわり油、極度硬化紅花油、極度硬化パーム油などが挙げられる。これらの極度硬化油は、1種または2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、前記の融点は、好ましくは55℃以上75℃未満が好ましく、57℃以上73℃未満がより好ましく、60℃以上70℃未満がさらに好ましい。油脂粉末の原料となる油脂の融点が上記範囲内にあるとトナーの低温定着性を発揮しやすい。なお、融点は、「社団法人 日本油化学会 基準油脂分析試験法2.2.4.2-1996」に準じて測定することができる。
【0036】
<極度硬化油の原料油脂>
本発明の極度硬化油の原料油脂は、後述する硬化処理を行った後、融点が50℃以上80℃未満になるものであれば特に制限されない。ここで、前記原料油脂とは、極度硬化油を製造するために硬化処理(水素添加)される前の油脂のことを意味する。前記原料油脂としては、食用油脂であれば特に制限されず、例えば、ヤシ油、パーム油、パーム核油、乳脂肪、ラード、牛脂、大豆油、菜種油、ハイエルシン菜種油(高エルカ酸種の菜種油)、コーン油、ひまわり油、紅花油、ごま油、綿実油、こめ油、オリーブ油、落花生油、亜麻仁油などが挙げられ、これらの混合油が原料油脂となり得る場合がある。
【0037】
<硬化処理>
上述した原料油脂に対して行われる硬化処理(水素添加)の方法は、特に制限はなく、通常の方法により行うことができる。水素添加は、例えば、ニッケル触媒の下、水素圧0.02~0.3Mpa、160~230℃の条件にて行うことができる。本発明において、どこまで硬化処理(水素添加)するかは任意であるが、UFPの発生を低減するためには、不飽和脂肪酸含量を少なくすることが好ましいため、例えば、ヨウ素価がおよそ0~4になるまで、極度に水素添加することが好ましい。すなわち、本発明の極度硬化油のヨウ素価は、4未満であることが好ましく、2未満であることがより好ましく、1未満であることがさらに好ましい。なお、油脂のヨウ素価は、「社団法人 日本油化学会 基準油脂分析試験法2.3.4.1-1996」に従って測定することができる。
【0038】
<脱臭工程>
上述の硬化処理が行われた極度硬化油に対して行われる脱臭工程は、通常、食用油脂の精製方法で採用されている条件であれば特に制限されない。例えば、脱臭工程の温度条件は、220~260℃(好ましくは、240~260℃)である。また、脱臭工程の圧力条件は、減圧下(200~600Pa、好ましくは250~600Paの真空度)である。脱臭工程では、前記温度条件及び圧力条件下で、極度硬化油に対して2~5重量%の蒸気を吹込んで、極度硬化油の脱臭を行う。また、この脱臭時間は、10~150分であることが好ましく、30~100分であることがより好ましい。上記の条件で極度硬化油を脱臭することにより、脱臭された極度硬化油を得ることができる。
なお、脱臭工程において使用される装置は特に限定されないが、通常の脱臭油の製造において使用されるトレイ式装置等であってもよい。
なお、本発明における「真空度」は、絶対圧基準で表記される。この値は、絶対真空をゼロとして、理想的な真空の状態(絶対真空)にどの程度接近しているかを示す。
【0039】
<2鎖長β型結晶>
上記極度硬化油は、さらに2鎖長β型結晶を有する油脂粉末を含有することが好ましい。ここで、油脂結晶が2鎖長とは、油脂結晶の長面間隔をX線回折測定することにより判定される。すなわち、油脂結晶の長面間隔を、2θが0~8度の範囲で測定する。このとき、40~50Åに相当する回折ピークを検出し、60~65Åに相当する回折ピークを検出しないか、検出してとしても40~50Åに相当する回折ピークの回折強度の1/5未満(好ましくは1/10未満)の場合に、その油脂結晶は2鎖長構造であると判定される。また、ここで、β型とは、油脂の結晶多形の一つである。油脂の結晶には、同一組成でありながら、異なる副格子構造(結晶構造)を持つものがあり、結晶多形と呼ばれている。代表的には、六方晶型、斜方晶垂直型および三斜晶平行型があり、それぞれα型、β’型およびβ型と呼ばれている。ここで、油脂結晶の結晶形がβ型であるとは、上記油脂結晶が、2θが17~26度のX線回折測定において、4.5~4.7Å、好ましくは4.6Å付近に回析ピークを有し、特に、4.1~4.3Å、好ましくは4.2Å付近に回折ピークを有さない場合である。より具体的には、X線回折測定において、β型の特徴的ピークである2θ=19°(4.6Å)付近のピーク強度とα型(およびβ’型)の特徴的ピークである2θ=21°(4.2Å)付近のピーク強度の比率:19°/(19°+21°)[4.6Å/(4.6Å+4.2Å)]を算出することでβ型結晶の存在量を表す指標とできる。本発明では、上記ピーク強度比が1であることが好ましい。しかし、ピーク強度比の下限値が、例えば0.4以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上、さらに好ましくは0.7以上、ことさらに好ましくは0.75以上、最も好ましくは0.8以上であればよい。ピーク強度比が0.4以上であれば、油脂結晶の50重量%超がβ型であるとみなすことができる。ピーク強度比の上限値は1であることが好ましいが、0.99以下、0.98以下、0.95以下、0.93以下、0.90以下、0.85以下、0.80以下などであってもかまわない。ピーク強度比は、上記下限値および上限値のいずれか、もしくは、任意の組み合わせであり得る。油脂粉末の油脂結晶が2鎖長β型(ピーク強度比が上記範囲内)であると、2鎖長β型結晶シードとして効果的に機能する。
【0040】
上記の油脂の結晶多形を同定するX線回折法を補足説明する。回折の条件は下記のブラッグの式によって与えられる。
2dsinθ=nλ(n=1,2,3・・・)
この式を満たす位置に回折ピークが現れる。ここでdは格子定数、θは回折(入射)角、λはX線の波長、nは自然数である。短面間隔に対応する回折ピークの2θ=16~27°からは、結晶中の側面のパッキング(副格子)に関する情報が得られ、多形の同定を行なうことができる。特にトリアシルグリセロールの場合、2θ=19、23、24°(4.6Å付近、3.9Å付近、3.8Å付近)にβ型の特徴的ピークが、21°(4.2Å)付近にα型の特徴的なピークが出現する。なお、X線回折測定は、例えば、20℃に維持したX線回折装置(例えば、(株)リガク、試料水平型X線回折装置UItimaIV)を用いて測定される。X線の光源としてはCuKα線(1.54Å)が最もよく利用される。X線回折の測定により得られる回折ピークの強度解析においては、油脂の非晶質部分がベースラインに及ぼす影響を除くための補正を行うのが適切である。例えば、Sonneveld-Visser法などによる、バックグラウンド除去処理を行ってもよい。
【0041】
<平均粒径>
上記油脂粉末は、さらに50μm以下の平均粒径を有することが好ましい。当該油脂粉末の平均粒径は、好ましくは30μm未満であり、より好ましくは20μm未満であり、さらに好ましく15μm未満である。なお、平均粒径(有効径)は、粒度分布測定装置(例えば、日機装株式会社製 Microtrac MT3300ExII)でレーザー回折散乱法(ISO133201、ISO9276-1)によって測定した値(d50)である。有効径とは、測定対象となる油脂粉末の実測回折パターンが、球形と仮定して得られる理論的回折パターンに適合する場合の、当該球形の粒径を意味する。このように、レーザー回折散乱法の場合、球形と仮定して得られる理論的回折パターンと、実測回折パターンを適合させて有効径を算出しているので、測定対象が板状形状であっても球状形状であっても同じ原理で測定できる。
【0042】
<板状形状>
さらに、上記油脂粉末の好ましい態様の1つとしては、例えば、上記油脂粉末の粒子が、板状の形状を呈する(板状形状である)ことが挙げられる。ここで、板状形状は、アスペクト比が、好ましくは1.2以上である。アスペクト比は、より好ましくは1.2~3.0であり、さらに好ましくは、1.3~2.5であり、ことさらに好ましくは1.4~2.0である。なお、ここでいうアスペクト比とは、粒子図形に対して、面積が最小となるように外接する長方形で囲み、その長方形の長辺の長さと短辺の長さの比と定義される。よって、粒子が球状形状の場合は、アスペクト比は1.1より小さくなる。従来技術である、極度硬化油等の常温で固体脂含量の高い油脂を溶解して直接噴霧する方法では、油脂粉末の粒子が表面張力によって、球状形状となり、アスペクト比はおおよそ1.1未満となる。そして、前記アスペクト比は、例えば、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡などによる直接観察により、任意に選択した粒子について、その長軸方向の長さおよび短軸方向の長さを計測することによって、計測した個数の平均値として求めることができる。
【0043】
<ゆるめ嵩密度>
上記油脂粉末の好ましい態様の1つとしては、また、ゆるめ嵩密度が0.05~0.6g/cm3であることが挙げられる。粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度は、例えば、実質的に油脂粉末のみからなる場合、好ましくは0.1~0.5g/cm3であり、より好ましくは0.1~0.4g/cm3または0.15~0.4g/cm3であり、さらに好ましくは0.2~0.3g/cm3である。ここで「ゆるめ嵩密度」とは、粉体を自然落下させた状態の充填密度である。ゆるめ嵩密度(g/cm3)の測定は、例えば、内径15mm×25mLのメスシリンダーに、当該メスシリンダーの上部開口端から2cm程度上方から粉末油脂組成物の適量を落下させて疎充填し、充填された重量(g)の測定と容量(mL)の読み取りを行い、mL当たりの当該粉末油脂組成物の重量(g)を算出することで求められる。また、ゆるめ嵩密度は、(株)蔵持科学器械製作所のカサ比重測定器を使用し、JIS K-6720(又はISO 1060-1及び2)に基づいて測定したカサ比重から算出することもできる。具体的には、試料120mLを、受器(内径40mm×高さ85mmの100mL円柱形容器)の上部開口部から38mmの高さの位置から、該受器に落とす。受器から盛り上がった試料はすり落とし、受器の内容積(100mL)分の試料の重量(Ag)を秤量し、以下の式からゆるめ嵩密度を求めることができる。
ゆるめ嵩密度(g/mL)=A(g)/100(mL)
測定は3回行ってその平均値を取ることが好ましい。
【0044】
<油脂粉末の製造方法>
上記油脂粉末の製造方法は特に限定されず、凍結粉砕、押出造粒、噴霧冷却造粒など、従来公知の方法を適用してもよい。しかし、50℃以上80℃未満の融点を有する極度硬化油を、本発明の油脂粉末とする好ましい態様の1つとしては、50℃以上80℃未満の融点を有する極度硬化油として、グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含み、前記炭素数xは14~22から選択される整数である、極度硬化油を使用する態様が挙げられる。
【0045】
上記50℃以上の融点を有する油脂に含まれるXXX型トリグリセリドは、グリセリン
の1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有するトリグリセリドであり、各脂肪酸残基X
は互いに同一である。ここで、当該炭素数xは14~22から選択される整数であり、好
ましくは16~22から選択される整数、より好ましくは16~20から選択される整数
、さらに好ましくは16~18から選択される整数である。脂肪酸残基Xは、飽和あるい
は不飽和の脂肪酸残基であってもよい。具体的な脂肪酸残基Xとしては、例えば、ミリス
チン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、およびベヘン酸などの残基が挙げ
られる。しかし、これに限定するものではない。脂肪酸残基Xは、より好ましくは、パル
ミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸およびベヘン酸であり、さらに好ましくは、パル
ミチン酸、ステアリン酸、およびアラキジン酸であり、ことさら好ましくは、パルミチン
酸およびステアリン酸である。50℃以上80℃未満の融点を有する極度硬化油に含まれる当該XXX型トリグリセリドの含有量は、極度硬化油の全重量を100重量%とした場合、例えば、50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上を下限とし、例えば、100重量%以下、好ましくは99重量%以下、より好ましくは95重量%以下を上限とする範囲である。XXX型トリグリセリドは1種類または2種類以上を用いることができ、好ましくは1種類または2種類であり、より好ましくは1種類が用いられる。XXX型トリグリセリドが2種類以上の場合は、その合計値がXXX型トリグリセリドの含有量となる。
【0046】
上記50℃以上80℃未満の融点を有する極度硬化油は、上記XXX型トリグリセリド以外の、その他のトリグリセリドを含んでいてもよい。その他のトリグリセリドは、複数の種類のトリグリセリドであってもよく、合成油脂であっても天然油脂であってもよい。天然油脂としては、例えば、パーム油、ココアバター、ヒマワリ油、菜種油、大豆油、綿実油などが挙げられる。上記50℃以上80℃未満の融点を有する極度硬化油を100重量%とした場合、上記XXX型トリグリセリド以外のその他のトリグリセリドは、1重量%以上、例えば、5~50重量%程度含まれていても問題はない。その他のトリグリセリドの含有量は、例えば、好ましくは0~30重量%、より好ましくは0~18重量%、さらに好ましくは0~15重量%、ことさらに好ましくは0~8重量%である。
【0047】
上記50℃以上80℃未満の融点を有し、かつ、XXX型トリグリセリドを有する極度硬化油は、溶融状態とした後、特定の冷却温度に保ち、冷却固化することにより、噴霧やミル等の粉砕機による機械粉砕などの特別の加工手段を採らなくても、油脂粉末を得ることができる。より具体的には、(a)上記50℃以上80℃未満の融点を有し、かつ、XXX型トリグリセリドを有する極度硬化油を準備し、任意に工程(b)として、工程(a)で得られた極度硬化油を加熱し、前記極度硬化油に含まれるトリグリセリドを融解して溶融状態の前記極度硬化油を得、さらに(d)前記溶融状態の極度硬化油を冷却固化して、2鎖長β型結晶を含有し、その粒子形状が板状である油脂粉末を得ることができる。
【0048】
上記工程(d)の冷却は、例えば、溶融状態の極度硬化油を、当該極度硬化油の融点より低い温度であって、かつ、次式:
冷却温度(℃) = 炭素数x × 6.6 - 68
から求められる冷却温度以上の温度で行われる。このような温度範囲で冷却すれば、β型の細かい油脂結晶ができるので、油脂粉末を容易に得ることができる。
【0049】
また、上記工程(b)と(d)の間に、工程(c)として粉末生成を促進するための任意工程、例えば(c1)シーディング工程、(c2)テンパリング工程、および/または(c3)予備冷却工程を含んでいてもよい。さらに上記工程(d)で得られる油脂粉末は、工程(d)の冷却後に得られる固形物を粉砕して油脂粉末を得る工程(e)によって得られるものであってもよい。
【0050】
上記工程(e)において、冷却後に得られる固形物は、ハンマーミル、カッターミルなど、公知の粉砕加工手段を適用して、50μm以下の平均粒径を有する油脂粉末を生産することもできる。なお、上記工程において、50℃以上80℃未満の融点を有し、かつ、XXX型トリグリセリドを有する極度硬化油は、すでに述べた油脂以外の成分を0~15重量%含む組成物の状態で工程(a)~(e)に供されてもよいし、β型の油脂粉末とした後、その他の成分と混合されてもよい。
【0051】
<トナー中の含有量>
上記極度硬化油のトナー中の含有量は、トナーカートリッジ内に残存するトナー量を低減する観点及びトナーの低温定着性を向上させる観点から、結着樹脂100重量部に対して、1~10重量部であることが好ましい。ここで、前記含有量としては、2重量部以上が好ましく、3重量部以上がより好ましく、4重量部以上がさらに好ましく、5重量部以上が最も好ましい。また、トナーカートリッジ内に残存するトナー量を低減する観点及びトナーの保存安定性を向上させる観点から、8重量部以下がより好ましく、7重量部以下がさらに好ましく、6重量部以下が最も好ましい。これらの観点を向上すると、上記極度硬化油のトナー中のの含有量は、結着樹脂100重量部に対して、2~8重量部が好ましくあり、3~7重量部がより好ましく、4~6重量部がさらに好ましい。
【0052】
<極度硬化油以外の離型剤>
また、本発明に用いる離型剤は、本発明の効果を損なわない範囲において、極度硬化油以外の離型剤を含有することができる。
【0053】
上記極度硬化油以外の離型剤としては、例えば、低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレンポリエチレン共重合体、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス及びそれらの酸化物、カルナウバワックス、モンタンワックス、サゾールワックス及びそれらの脱酸ワックス、脂肪酸エステルワックス等のエステル系ワックス、脂肪酸アミド類、高級アルコール等が挙げられる。
【0054】
離型剤中の極度硬化油の含有量は、80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましく、95重量%以上がさらに好ましく、実質的に100重量%が最も好ましい。
【0055】
<トナー>
また、本発明のトナーには、通常のトナーに用いられる、着色剤、荷電制御剤、その他の成分を適宜含有していてもよい。
【0056】
<着色剤>
上記着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料等のすべてを使用することができ、具体的には、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントグリーンB、ローダミン-Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、イソインドリン、ジスアゾエロー等を用いることができる。
【0057】
トナー中の着色剤の含有量は、画像濃度を向上させる観点、経済的な観点から、結着樹脂100重量部に対して、1~40重量部が好ましく、2~10重量部がより好ましい。
【0058】
<荷電制御剤>
上記荷電制御剤としては、負帯電性荷電制御剤、正帯電性荷電制御剤のいずれも用いることができる。
【0059】
上記負帯電性荷電制御剤としては、含金属アゾ染料、例えば「ボントロンS-28」(オリエント化学工業社製)、「T-77」(保土谷化学工業社製)、「ボントロンS-34」(オリエント化学工業社製)、「アイゼンスピロンブラックTRH」(保土谷化学工業社製)等;銅フタロシアニン染料;サリチル酸のアルキル誘導体の金属錯体、例えば「ボントロンE-81」、「ボントロンE-84」、「ボントロンE-304」(以上、オリエント化学工業社製)等;ニトロイミダゾール誘導体;ベンジル酸ホウ素錯体、例えば、「LR-147」(日本カーリット社製)等;無金属系荷電調整剤、例えば「ボントロンF-21」、「ボントロンE-89」(以上、オリエント化学工業社製)、「T-8」(保土ヶ谷化学工業社製)、「FCA-2521NJ」、「FCA-2508N」(以上、藤倉化成社製)等が挙げられる。
【0060】
上記正帯電性荷電制御剤としては、ニグロシン染料、例えば「ボントロンN-01」、「ボントロンN-04」、「ボントロンN-07」(以上、オリエント化学工業社製)、「CHUO CCA-3」(中央合成社製)等;3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料;4級アンモニウム塩化合物、例えば「ボントロンP-51」(オリエント化学工業社製)、「TP-415」(保土谷化学工業社製)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、「COPYCHARGEPXVP435」(クラリアント社製)等が挙げられる。
【0061】
トナー中の荷電制御剤の含有量は、トナーの帯電安定性を向上させる観点から、結着樹脂100重量部に対して、0.5~5重量部が好ましく、1~3重量部がより好ましい。
【0062】
<その他の成分>
本発明の製造方法により得られるトナーは、さらに、トナー中に磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、体質顔料、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、クリーニング性向上剤等のその他の成分を適宜含有していてもよい。
【0063】
<トナーの製造方法>
本発明のトナーは、溶融混練法、乳化凝集法、重合法等の従来より公知のいずれの方法によって得られたトナーであってもよいが、生産性の観点から、溶融混練法により得られる粉砕トナーが好ましい。従って、本発明のトナーの製造方法は、ポリエステルを含む結着樹脂、離型剤、及び荷電制御剤を含むトナー成分を、溶融混練して溶融混練物を得る工程を含む方法が好ましく、具体的には、ポリエステルを含む結着樹脂、離型剤、荷電制御剤、必要に応じて用いられる着色剤等の添加剤を含むトナー成分をヘンシェルミキサー等の混合機で均一に混合した後、溶融混練し、冷却後、粉砕、分級を行ってトナーを製造することができる。
【0064】
ポリエステルを含む結着樹脂、離型剤、荷電制御剤、必要に応じて用いられる着色剤等の添加剤を含むトナー成分の溶融混練は、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の混練機、オープンロール型混練機等の公知の混練機を用いて行うことができる。溶融混練時の温度を低減し、トナーの低温定着性及び耐熱保存性を向上させる観点、及び混練の繰り返しや分散助剤の使用をしなくても、結着樹脂に離型剤及び荷電制御剤等のトナー成分を効率よく高分散させることができる観点から、2軸混練機を用いることが好ましい。
【0065】
2軸混練機とは、2本の混練軸をバレルが覆い隠す閉鎖型の混練機であり、軸の回転方向が同方向に回転できるタイプが好ましい。市販品としては、トナーの生産性を向上させる観点から高速での2軸の噛み合わせが良好な、池貝鉄工社製二軸押出機PCMシリーズが好ましい。
【0066】
ポリエステルを含む結着樹脂、離型剤、荷電制御剤、必要に応じて用いられる着色剤等の添加剤を含むトナー成分は、あらかじめヘンシェルミキサー、ボールミル等の混合機で混合した後、混練機に供給することが好ましい。
【0067】
2軸混練機での溶融混練は、バレル設定温度(押出機内部壁面の温度)、2軸の軸回転の周速、及び原料供給速度を調整することで行う。バレル設定温度は、離型剤及び荷電制御剤等の結着樹脂中での分散性を向上させる観点、及びトナーの生産性を向上させる観点から、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上であり、好ましくは140℃以下、より好ましくは120℃以下である。
【0068】
2軸の軸回転の周速は、離型剤及び荷電制御剤等の結着樹脂中での分散性を向上させる観点、及びトナーの生産性を向上させる観点から、0.1m/sec以上、1.0m/sec以下が好ましい。
【0069】
2軸混練機への原料供給速度は、使用する混練機の許容能力と、上記のバレル設定温度及び軸回転の周速に応じて適宜調整する。
【0070】
得られた混練物は、粉砕が可能な程度に冷却した後、粉砕し、分級することが好ましい 粉砕工程は、多段階に分けて行ってもよい。例えば、溶融混練物を、1~5mm程度に粗粉砕した後、さらに所望の粒径に微粉砕してもよい。
【0071】
粉砕工程に用いられる粉砕機は特に限定されないが、例えば、粗粉砕に好適に用いられる粉砕機としては、アトマイザー、ロートプレックス等が、微粉砕に好適に用いられる粉砕機としては、ジェットミル、衝突板式ミル、回転型機械ミル等が挙げられる。
【0072】
分級工程に用いられる分級機としては、風力分級機、慣性式分級機、篩式分級機等が挙げられる。分級工程の際、粉砕が不十分で除去された粉砕物は再度粉砕工程に供してもよい。
【0073】
本発明におけるトナーの製造方法において利用する離型剤としては、融点が50℃以上80℃未満の極度硬化油を含み、前記極度硬化油は脱臭工程を経て製造されたものであることが好ましい。さらに、前記極度硬化油は、2鎖長β型結晶を有する油脂粉末を含有することがより好ましく、前記油脂粉末が50μm以下の平均粒径を有することがさらに好ましく、前記油脂粉末の粒子が1.2以上のアスペクト比を有する板状形状であることが最も好ましい。
本発明のトナーの製造方法において、溶融混練法を採用するときに、上述のような極度硬化油(板状形状を有する油脂粉末を含む)を用いると、ポリエステルを含む結着樹脂、他の離型剤、荷電制御剤、必要に応じて用いられる着色剤等の添加剤を含むトナー成分に対して付着性が良く、溶融混練法においてトナー成分を溶融させるときに、上記極度硬化油が一緒に溶融して、他のトナー成分を良好にコーティングしている可能性がある。このことが、本発明の特徴である、超微粒子粉じん(UFP)の低減に効いている可能性が考えられる。なお、このメカニズムは本発明のメカニズムの一例であり、本発明のメカニズムはこれに限定されない。
【0074】
<トナー母粒子の体積中位粒径>
トナー母粒子の体積中位粒径(D50)は、トナーの画像品質を向上させる観点から、3~15μmが好ましく、4~12μmがより好ましく、6~9μmがさらに好ましい。なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。
【0075】
<外添処理工程>
本発明のトナーの製造方法において、粉砕、分級工程後、さらにシリカ等の無機微粒子や、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂微粒子等の外添剤と混合する工程を含むことが好ましい。
トナー母粒子と外添剤との混合には、回転羽根等の攪拌具を備えた混合機を用いることが好ましく、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の高速混合機が好ましく、ヘンシェルミキサーがより好ましい。
【0076】
本発明の製造方法により得られるトナーは、そのまま一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して用いられる二成分現像用トナーとして、それぞれ一成分現像方式又は二成分現像方式の画像形成装置に用いることができる。
【0077】
<トナー用ワックス組成物>
本発明のトナー用ワックス組成物は、融点が50℃以上80℃未満の極度硬化油を含み、前記極度硬化油は脱臭工程を経て製造されたものであることを特徴とする。
ここで、融点が50℃以上80℃未満の極度硬化油は上述したとおりであり、また、脱臭工程も上述したとおりである。
本発明のトナー用ワックス組成物は公知の方法により製造することができる。例えば、上記極度硬化油に他の成分を加えて均一に混合後、冷却固化して粉砕、または造粒して製造する方法が挙げられる。前記他の成分としては、上述した極度硬化油以外の離型剤を用いることができる。
また、本発明のトナー用ワックス組成物の融点は、上記極度硬化油の融点と概ね同じであるので、トナーに低温定着性を付与することができる。また、本発明のトナー用ワックス組成物によれば、トナー用ワックスとして使用した場合、良好な画質性能を得ることができる。
本発明のトナー用ワックス組成物は、結合樹脂、着色剤、帯電制御剤などとともに配合され、通常の製法によってトナーが製造される。トナー中における本発明のトナー用ワックス組成物の配合量は、結合樹脂100重量部に対して、0.1~40重量部である。
【0078】
<超微粒子粉じん(UFP)低減剤>
ところで、以上に述べたように、本発明に用いる極度硬化油は、従来のトナーを、超微粒子粉じん(UFP)の発生が低減されたものへ改良するから、本発明は、上記極度硬化油を有効成分とする、超微粒子粉じん低減剤にも関する。以下に示すように、本発明の超微粒子粉じん低減剤を従来のトナー原材料中に配合することにより、トナーからの超微粒子粉じんの発生を低減させる効果を達成することができる。
本発明の超微粒子粉じん低減剤は、上述の極度硬化油を含有する。本発明の超微粒子粉じん低減剤は、少量でも効果を発揮するため、上記の極度硬化油を、当該剤を100重量%とした場合、好ましくは60重量%以上含有し、より好ましくは80重量%以上含有し、さらに好ましくは100重量%含有する。
また、本発明の超微粒子粉じん低減剤は、有効成分であると上述した極度硬化油を含有したものであればよく、この他に本発明の効果を損なわない範囲で、他の賦形剤、他の品質改良剤等の成分を含有させたものであってもよい。
但し、本発明の好ましい超微粒子粉じん低減剤は、実質的に当該極度硬化油のみからなることが好ましい。また「実質的に」とは、超微粒子粉じん低減剤中に含まれる極度硬化油以外の成分が、当該剤を100重量%とした場合、例えば、0~15重量%、好ましくは0~10重量%、より好ましくは0~5重量%であることを意味する。
【実施例
【0079】
次に、例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。しかし、本発明はこれらに何ら限定
されない。また。以下において「%」は、特別な記載がない場合、重量%を示す。
【0080】
<分析方法>
・トリグリセリド組成
油脂の各トリアシルグリセロール含有量は、ガスクロマトグラフィー法(AOCS C
e5-86準拠)で測定した。トリアシルグリセロールの対称性は、銀イオンカラムクロ
マトグラフィー法(J.High Resol.Chromatogr.,18,105
-107(1995)準拠)で測定した。
・X線回折測定
X線回折装置UltimaIV(株式会社リガク社製)を用いて、CuKα(λ=1.
542Å)を線源とし、Cu用フィルタ使用、出力1.6kW、操作角0.96~30.
0°、測定速度2°/分の条件で測定した。この測定により、4.6Å付近のピークのみ
を有し、4.1~4.2Å付近のピークを有しない場合は、油脂成分のすべてがβ型油脂
結晶であると判断した。
なお、上記X線回析測定の結果から、ピーク強度比=[β型の特徴的ピークの強度(2
θ=19°(4.6Å))/(α型(およびβ’型)の特徴的ピークの強度(2θ=21
°(4.2Å))+β型の特徴的ピークの強度(2θ=19°(4.6Å)))]をβ型
油脂結晶の存在量を表す指標として測定した。
・ゆるめ嵩密度
実施例などで得られた粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度(g/cm3)は、内径15mm
×25mLのメスシリンダーに、当該メスシリンダーの上部開口端の2cm程度上方から
粉末油脂組成物を落下させて疎充填し、充填された重量(g)の測定と容量(mL)の読
み取りを行い、mL当たりの当該粉末油脂組成物の重量(g)を算出することで求めた。
・アスペクト比
走査型電子顕微鏡S-3400N(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)により直接観察し、
画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製 Mac-View)を
用いて、任意に選択した粒子について、その長軸方向の長さおよび短軸方向の長さを計測
し、計測した個数の平均値として測定した。
・平均粒径(d50)
粒度分布測定装置(日機装株式会社製 Microtrac MT3300ExII)で
レーザー回折散乱法(ISO133201,ISO9276-1)に基づいて測定した。なお、測定した平均
粒径は、粉体をある粒子径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側が等量となる径(
d50)の値である。
【0081】
・結着樹脂の軟化点
フローテスター(島津製作所、CFT-500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押出す。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を結着樹脂の軟化点とする。
・結着樹脂のガラス転移点
示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、Q-100)を用いて、試料を0.01~0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却した。次に試料を昇温速度10℃/分で測定した。吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度を結着樹脂のガラス転移点とする。
・結着樹脂の酸価
JIS K0070の方法により測定する。但し、測定溶媒のみJIS K0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更する。
・離型剤の融点及び半値幅
示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、DSC Q20)を用いて昇温速度10℃/分で200℃まで昇温し、その温度から降温速度5℃/分で、10℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で180℃まで昇温し、そこで得られた融解吸熱カーブから観察される吸熱の最高ピーク温度を離型剤の融点とする。
また、融点の吸熱ピーク全体のベースラインからピークトップまでの高さの中点におけるピーク幅を離型剤の半値幅とする。
・離型剤の溶融粘度
ブルックフィールド法によりB型粘度計(日本STジョンソン社製 LVT)を用いて測定を行い、測定試料を加熱し、離型剤の溶融温度以上の温度である100℃において測定する。
・トナーの体積中位粒径(D50
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマンコールター社製)
アパチャー径:100μm
解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマンコー
ルター社製)
電解液:アイソトンII(ベックマンコールター社製)
分散液:エマルゲン109P(花王社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB:13.6)
を5重量%の濃度となるよう前記電解液に溶解させる。
分散条件:前記分散液5mlに測定試料10mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、前記電解液25mlを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させて、試料分散液を調製する。
測定条件:前記電解液100mlに、3万個の粒子の粒径を20秒間で測定できる濃度となるように、前記試料分散液を加え、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求める。
【0082】
[ワックス1の製造例]
1位~3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:79.1重量%、菜種極度硬化油(融点67.3℃)、なお、前記菜種極度硬化油は、その原料油脂に対し、ニッケル触媒の下、水素圧0.1~0.3Mpa、160~230℃の条件にて硬化処理を行い、その後、2~5重量%の蒸気を吹き込んで、200~600Paの減圧下、230~260℃の温度で、60~90分間の脱臭工程を行ったものである。)25gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、60℃恒温槽にて12時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物を機械粉砕することで粉末状の油脂結晶(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比:1.6、平均粒径8.0μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.89)を得た。この油脂粉末を、ワックス1とした。
【0083】
なお、ワックス2として、カルナウバワックス「C1」(加藤洋行社製、融点:80℃)、ワックス3として、パラフィンワックス「HNP-9」(日本精蝋社製、融点75℃)を使用した。カルナウバワックスおよびパラフィンワックスはいずれも、トナー用のワックスとして通常よく用いられているものである。
【0084】
[結着樹脂Aの製造例]
ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン1286g、ポリオキシエチレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン2218g、テレフタル酸1603g、2-エチルヘキサン酸錫(II)10g、及び没食子酸2gを、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、230℃で反応率が90%に達するまで反応させた後、8.3kPaにて軟化点が108℃に達するまで反応を行い、結着樹脂Aを得た。結着樹脂Aの軟化点は108.9℃、ガラス転移点は67.4℃、酸価は3.9mgKOH/gであった。なお、反応率とは、生成反応水量/理論生成水量×100の値をいう。
【0085】
[結着樹脂Bの製造例]
ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン3486g、ポリオキシエチレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン3240g、テレフタル酸1881g、テトラプロペニル無水コハク酸269g、2-エチルヘキサン酸錫(II)30g、及び没食子酸2gを、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、230℃で反応率が90%に達するまで反応させた後、8.3kPaにて1時間反応させた。次に、220℃に温度を下げて常圧に戻し、無水トリメリット酸789gを投入し、220℃、常圧の条件にて、軟化点が127℃に達するまで反応を行い、結着樹脂Bを得た。結着樹脂Bの軟化点は126.1℃、ガラス転移点は64.5℃、酸価は16.8mgKOH/gであった。
【0086】
[トナー製造例]
実施例1及び比較例1~3
結着樹脂A:70重量部、結着樹脂B:30重量部、負帯電性荷電制御剤「ボントロンE-304」(オリエント化学社製):1重量部、着色剤「ECB-301」(大日精化社製、フタロシアニンブルー(P.B.15:3)):3.5重量部、及び表1に記載の所定量のワックス1~3を、ヘンシェルミキサーを用いて1分間混合後、以下に示す条件で溶融混練した。
【0087】
溶融混錬には、同方向回転二軸押出機PCM-30(池貝鉄工社製)を使用した。同方向回転二軸押出機の運転条件は、バレル設定温度:100℃、軸回転数:200r/min(軸の回転の周速0.30m/sec)、混合物供給速度:10kg/hrであった。
【0088】
得られた混練物を冷却し、ロートプレックス(東亜機械社製)で3mmに粗粉砕し、その後、流動槽式ジェットミル「AFG-400」(アルピネ社製)で粉砕し、ローター式分級機「TTSP」(アルピネ社製)で分級して、体積中位粒径(D50)が8.0μmのトナー母粒子を得た。得られたトナー母粒子100重量部に、疎水性シリカ「RY50」(日本アエロジル社製):1.0重量部、疎水性シリカ「R972」(日本アエロジル社製):0.5重量部を20リットル容のヘンシェルミキサー(三井鉱山社製)にて1500r/min(周速度21m/sec)で1分間混合し、トナーを得た。
【0089】
試験例1〔低温定着性〕
複写機「AR-505」(シャープ社製)にトナーを実装し、未定着で画像出しを行った(印字面積:2cm×12cm、付着量:0.5mg/cm2)。前記複写機の定着機をオフラインで、90℃から240℃へ5℃ずつ順次定着温度を上昇させながら、400mm/secで用紙に定着させた。なお、定着紙には、「CopyBond SF-70NA」(シャープ社製、75g/m2)を使用した。
定着画像に「ユニセフセロハン」(三菱鉛筆社、幅:18mm、JISZ-1522)を貼り付け、30℃に設定した定着ローラーに通過させた後、テープを剥がした。テープを貼る前と剥がした後の光学反射密度を反射濃度計「RD-915」(マクベス社製)を用いて測定し、両者の比率(剥離後/貼付前)が最初に90%を越える定着ローラーの温度で最低定着温度(低温定着性)を評価した。結果を表1に示す。値が小さいほど、低温定着性に優れていることを示す。
【0090】
試験例2〔耐機内汚染〕
排気部にフィルターを具備していないオイルレス定着方式で非磁性一成分現像方式のプ
リンター「C5800」(沖データ社製)をチャンバー(内容積 W×H×D:1000×1100×810mm=0.891m3)内に設置して、5%の印字率にて2時間印字を行いながら、チャンバー内のエアをポンプで硝子繊維のフィルター(Pall Corporation社製、A/Eタイプ、47mmφ、孔径1μm)を通して50L/分/cm2の条件で捕集し、飛散した微粉末(ダスト)の重量を測定し、1時間あたりの飛散量(mg/h)、すなわち、耐機内汚染を算出した。結果を表1に示す。値が小さいほど、耐機内汚染性に優れていることを示す。
【0091】
【表1】

※結着樹脂100重量部に対する重量部
※1 「カルナウバワックスC1」(加藤洋行社製、融点:80℃)
※2 「HNP-9」(日本精蝋社製、融点75℃)
【0092】
表1の結果より、実施例1のトナーは、比較例1~2のトナーと比べて、低温定着性については同等程度に優れていることがわかった。また、実施例1のトナーは、比較例1~2のトナーに比べて、耐機内汚染については格別に優れていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の方法により得られたトナーは、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像等に好適に用いられる。