(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】赤外線デバイス及び赤外線デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/10 20060101AFI20241209BHJP
H01L 33/14 20100101ALI20241209BHJP
H01L 33/08 20100101ALI20241209BHJP
H01L 33/62 20100101ALI20241209BHJP
【FI】
H01L31/10 A
H01L33/14
H01L33/08
H01L33/62
(21)【出願番号】P 2024027781
(22)【出願日】2024-02-27
【審査請求日】2024-04-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】諸原 理
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-228628(JP,A)
【文献】特表2002-525839(JP,A)
【文献】特開2013-138128(JP,A)
【文献】特開2015-088602(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0158664(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/119
H01L 33/00-33/64
H01L 27/14-27/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられ、第1の半導体層と、活性層と、第2の半導体層を有する半導体積層部と、
前記基板と前記半導体積層部との間に位置し、
前記基板と前記半導体積層部との間のリーク電流を抑制する電気障壁層と、を備え、
前記半導体積層部は複数であって、複数の前記半導体積層部が直列接続されてい
て、
前記半導体積層部を設ける側の前記基板の面を基準面として、
前記第1の半導体層の側面が前記基準面に平行な面と成す第1の角度と、前記電気障壁層の側面が前記基準面に平行な面と成す第2の角度が異なっていて、
前記第1の半導体層の側面と前記電気障壁層の側面とが接している、赤外線デバイス。
【請求項2】
前記電気障壁層は、アモルファス又はポリマーの層である、請求項1に記載の赤外線デバイス。
【請求項3】
前記電気障壁層は、窒化ケイ素、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、熱窒化ケイ素、シリカゲル、一酸化ケイ素、エポキシ樹脂又はポリイミドの層である、請求項2に記載の赤外線デバイス。
【請求項4】
前記電気障壁層は、複数の前記半導体積層部の間の領域である第1の領域に存在し、前記第1の領域における前記電気障壁層の積層方向の厚さは、前記第1の領域でない第2の領域における前記電気障壁層の積層方向の厚さに比べて薄い、請求項1から3のいずれか一項に記載の赤外線デバイス。
【請求項5】
前記第2の角度は前記基準面に対して垂直でない、請求項1に記載の赤外線デバイス。
【請求項6】
前記電気障壁層の積層方向の厚さは、500nm以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載の赤外線デバイス。
【請求項7】
前記電気障壁層の屈折率は、前記半導体積層部の平均屈折率より低い、請求項1から3のいずれか一項に記載の赤外線デバイス。
【請求項8】
波長λ
p[nm]にピークを有する光学特性を有しており、
前記半導体積層部の積層方向の厚さをt[nm]、0以上の整数をmとする場合に、以下の式(1)が満たされる、請求項1から3のいずれか一項に記載の赤外線デバイス。
【数1】
【請求項9】
前記電気障壁層は、半導体の層である、請求項1に記載の赤外線デバイス。
【請求項10】
前記電気障壁層は、前記第1の半導体層の材料よりエネルギーギャップが大きい材料が用いられる、請求項
9に記載の赤外線デバイス。
【請求項11】
前記電気障壁層は、前記第1の半導体層と導電型が異なる、請求項
9又は
10に記載の赤外線デバイス。
【請求項12】
前記電気障壁層は、前記基板の材料よりエネルギーギャップが小さい材料が用いられる、請求項
9又は
10に記載の赤外線デバイス。
【請求項13】
前記電気障壁層は、前記基板と導電型が異なる、請求項
9又は
10に記載の赤外線デバイス。
【請求項14】
前記第1の半導体層が前記活性層と直接に接しており、前記第1の半導体層のうち前記活性層と接する層の材料は、前記活性層よりエネルギーギャップが大きい、請求項1から3のいずれか一項に記載の赤外線デバイス。
【請求項15】
前記第2の半導体層が前記活性層と直接に接しており、前記第2の半導体層のうち前記活性層と接する層の材料は、前記活性層よりエネルギーギャップが大きい、請求項1から3のいずれか一項に記載の赤外線デバイス。
【請求項16】
赤外線が出射又は入射する側がn型の導電型である、請求項1から3のいずれか一項に記載の赤外線デバイス。
【請求項17】
基板上に
犠牲層と半導体積層膜とを積層し、
前記犠牲層を除去し、
前記基板とは別の基板上にアモルファス又はポリマーからなる電気障壁層を形成し、
前記電気障壁層上に前記半導体積層膜を接合し、
前記半導体積層膜をエッチングし複数の半導体積層部を形成し、
複数の前記半導体積層部を直列接続する、赤外線デバイスの製造方法
であって、
製造される前記赤外線デバイスが、
前記基板と、
前記基板上に設けられ、第1の半導体層と、活性層と、第2の半導体層を有する前記半導体積層部と、
前記基板と前記半導体積層部との間に位置し、前記基板と前記半導体積層部との間のリーク電流を抑制する電気障壁層と、を備え、
前記半導体積層部は複数であって、複数の前記半導体積層部が直列接続されていて、
前記半導体積層部を設ける側の前記基板の面を基準面として、
前記第1の半導体層の側面が前記基準面に平行な面と成す第1の角度と、前記電気障壁層の側面が前記基準面に平行な面と成す第2の角度が異なっていて、
前記第1の半導体層の側面と前記電気障壁層の側面とが接している、赤外線デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は赤外線デバイス及び赤外線デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば2~15μm程度の波長の赤外線は、気体分子に特有の吸収帯を多く含むことから、非分散赤外吸収式のガス濃度測定装置に用いられている。ガス濃度測定装置に用いられる赤外線デバイスは、検出分解能といった主要性能を大きく左右する重要な部材であり、所望の波長における高い発光強度又は受光感度が求められている。ここで、赤外線デバイスは赤外線発光素子又は赤外線受光素子であって、これらの総称として用いられる。例えば、発光素子として発光ダイオード(LED)が用いられる。また、例えば、受光素子としてフォトダイオード(PD)が用いられる。このような半導体を用いる赤外線デバイスは、材料設計により、所望の波長帯での受発光が可能であり、特定の気体を検出するガス濃度測定装置などに用いられる。ガス濃度測定装置は、例えばNDIR(non dispersive infrared)方式ガスセンサ(例えば特許文献1)である。NDIR方式ガスセンサは、検出対象ガスに応じた吸収波長帯の赤外線を受光する赤外線受光素子及びその吸収波長帯の赤外線を発光する赤外線発光素子を用いて、ガス濃度を計測することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、赤外線デバイスには、発光強度又は検出感度をさらに向上させることが求められている。例えば単位素子である小さな発光ダイオード又は小さなフォトダイオードを直列接続することによって、発光強度又は検出感度を向上させる手法が知られている。ここで、単位素子は、半導体の積層構造で基板上に形成される。基板へリークする電流があると、赤外線デバイスの発光強度又は検出感度が低下する。
【0005】
本開示はこのような事情を鑑みてされたものであって、高性能の赤外線デバイス及び赤外線デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示の一実施形態に係る赤外線デバイスは、
基板と、
前記基板上に設けられ、第1の半導体層と、活性層と、第2の半導体層を有する半導体積層部と、
前記基板と前記半導体積層部との間に位置し、前記基板と前記半導体積層部との間の電気抵抗の増加に寄与する電気障壁層と、を備え、
前記半導体積層部は複数であって、複数の前記半導体積層部が直列接続されている。
【0007】
(2)本開示の一実施形態として、(1)において、
前記電気障壁層は、アモルファス又はポリマーの層である。
【0008】
(3)本開示の一実施形態として、(2)において、
前記電気障壁層は、窒化ケイ素、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、熱窒化ケイ素、シリカゲル、一酸化ケイ素、エポキシ樹脂又はポリイミドの層である。
【0009】
(4)本開示の一実施形態として、(1)から(3)のいずれかにおいて、
前記電気障壁層は、複数の前記半導体積層部の間の領域である第1の領域に存在し、前記第1の領域における前記電気障壁層の積層方向の厚さは、前記第1の領域でない第2の領域における前記電気障壁層の積層方向の厚さに比べて薄い。
【0010】
(5)本開示の一実施形態として、(1)から(4)のいずれかにおいて、
前記半導体積層部を設ける側の前記基板の面を基準面として、
前記第1の半導体層の側面が前記基準面に平行な面と成す第1の角度と、前記電気障壁層の側面が前記基準面に平行な面と成す第2の角度が異なっている。
【0011】
(6)本開示の一実施形態として、(1)から(5)のいずれかにおいて、
前記電気障壁層は、前記基板の窪みに形成される。
【0012】
(7)本開示の一実施形態として、(1)から(6)のいずれかにおいて、
前記電気障壁層の積層方向の厚さは、500nm以上である。
【0013】
(8)本開示の一実施形態として、(1)から(7)のいずれかにおいて、
前記電気障壁層の屈折率は、前記半導体積層部の平均屈折率より低い。
【0014】
(9)本開示の一実施形態として、(1)から(8)のいずれかにおいて、
波長λ
p[nm]にピークを有する光学特性を有しており、
前記半導体積層部の積層方向の厚さをt[nm]、0以上の整数をmとする場合に、以下の式(1)が満たされる。
【数1】
【0015】
(10)本開示の一実施形態として、(1)において、
前記電気障壁層は、半導体の層である。
【0016】
(11)本開示の一実施形態として、(10)において、
前記電気障壁層は、前記第1の半導体層の材料よりエネルギーギャップが大きい材料が用いられる。
【0017】
(12)本開示の一実施形態として、(10)又は(11)において、
前記電気障壁層は、前記第1の半導体層と導電型が異なる。
【0018】
(13)本開示の一実施形態として、(10)から(12)のいずれかにおいて、
前記電気障壁層は、前記基板の材料よりエネルギーギャップが小さい材料が用いられる。
【0019】
(14)本開示の一実施形態として、(10)から(13)のいずれかにおいて、
前記電気障壁層は、前記基板と導電型が異なる。
【0020】
(15)本開示の一実施形態として、(1)から(14)のいずれかにおいて、
前記第1の半導体層が前記活性層と直接に接しており、前記第1の半導体層のうち前記活性層と接する層の材料は、前記活性層よりエネルギーギャップが大きい。
【0021】
(16)本開示の一実施形態として、(1)から(15)のいずれかにおいて、
前記第2の半導体層が前記活性層と直接に接しており、前記第2の半導体層のうち前記活性層と接する層の材料は、前記活性層よりエネルギーギャップが大きい。
【0022】
(17)本開示の一実施形態として、(1)から(16)のいずれかにおいて、
赤外線が出射又は入射する側がn型の導電型である。
【0023】
(18)本開示の一実施形態に係る赤外線デバイスの製造方法は、
基板上に
犠牲層と半導体積層膜とを積層し、
前記犠牲層を除去し、
前記基板とは別の基板上にアモルファス又はポリマーからなる電気障壁層を形成し、
前記電気障壁層上に前記半導体積層膜を接合し、
前記半導体積層膜をエッチングし複数の半導体積層部を形成し、
複数の前記半導体積層部を直列接続する。
【発明の効果】
【0024】
本開示によれば、高性能の赤外線デバイス及び赤外線デバイスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る赤外線デバイスの構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、赤外線デバイスの別の構成例を示す図である。
【
図3】
図3は、赤外線デバイスの別の構成例を示す図である。
【
図4】
図4は、赤外線デバイスの別の構成例を示す図である。
【
図5】
図5は、赤外線デバイスの別の構成例を示す図である。
【
図6】
図6は、赤外線デバイスの別の構成例を示す図である。
【
図7】
図7は、赤外線デバイスの別の構成例を示す図である。
【
図8】
図8は、赤外線デバイスの別の構成例を示す図である。
【
図9】
図9は、赤外線デバイスの別の構成例を示す図である。
【
図10】
図10は、赤外線デバイスの別の構成例を示す図である。
【
図11】
図11は、赤外線デバイスの別の構成例を示す図である。
【
図12】
図12は、赤外線デバイスの別の構成例を示す図である。
【
図13】
図13は、赤外線デバイスの部分断面図であって、第1の半導体層の側面の角度と電気障壁層の側面の角度の例を示す図である。
【
図14】
図14は、赤外線デバイスの部分断面図であって、電気障壁層の側面の角度を説明するための図である。
【
図15】
図15は、半導体積層部の積層方向の厚さを説明するための図である。
【
図16】
図16は、赤外線デバイスの部分断面図であって、第1の半導体層の側面の角度と電気障壁層の側面の角度の例を示す図である。
【
図17】
図17は、赤外線デバイスの部分断面図であって、電気障壁層の側面の角度を説明するための図である。
【
図18A】
図18Aは、本開示の一実施形態に係る赤外線デバイスの製造方法を説明するための図である。
【
図18B】
図18Bは、本開示の一実施形態に係る赤外線デバイスの製造方法を説明するための図である。
【
図18C】
図18Cは、本開示の一実施形態に係る赤外線デバイスの製造方法を説明するための図である。
【
図18D】
図18Dは、本開示の一実施形態に係る赤外線デバイスの製造方法を説明するための図である。
【
図18E】
図18Eは、本開示の一実施形態に係る赤外線デバイスの製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<赤外線デバイス>
図1は、本開示の一実施形態に係る赤外線デバイスの構成例を示す図である。本実施形態に係る赤外線デバイスは、波長λ
pにピークを有する光学特性を有してよい。赤外線デバイスの光学特性のピークは複数であってよい。例えば波長λ
pは、光学特性の複数のピークのうちの任意の1つであってよい。赤外線デバイスは、基板10と、半導体積層部20と、電気障壁層30と、を備える。半導体積層部20は複数であって、複数の半導体積層部20が直列接続されている。
【0027】
ここで、赤外線デバイスは、赤外線発光素子又は赤外線受光素子であって、これらをまとめた名称である。以下に説明される赤外線デバイスの構造で赤外線発光素子が実現され、また、同じ構造で赤外線受光素子が実現される。赤外線デバイスは、赤外線発光素子である場合に、具体的には発光ダイオード(LED)であってよい。また、赤外線デバイスは、赤外線受光素子である場合に、具体的にはフォトダイオード(PD)であってよい。
【0028】
<基板>
本実施形態に係る赤外線デバイスは基板10を備えている。基板10は半導体積層部20を支持する基板であれば特に制限されない。例えばGaAs基板、InP基板、GaN基板、Si基板、石英基板、アルミニウム基板、酸化物基板、窒化アルミニウム基板、ポリイミドフレキシブル基板などがあげられる。例えば基板10はIC回路を含むSi系基板が用いられてよい。
【0029】
本実施形態に係る赤外線デバイスでは、電気障壁層30によって、半導体積層部20から基板10にリークする電流(以下「リーク電流」)を抑制することができる。不純物濃度(キャリア濃度)の低い基板10又は半絶縁性の基板10が用いられることによって、リーク電流をさらに抑制することができる。また中赤外長波長域において、電子又はホールによる自由電子吸収が顕著になり得る。例えば不純物濃度の低い基板10又は半絶縁性の基板10を用いることにより、自由電子吸収を抑制する効果を高めることができる。
【0030】
ここで、
図1に示される基準面10aは、半導体積層部20を設ける側の基板10の面である。
【0031】
<半導体積層部>
本実施形態に係る赤外線デバイスは、基板10上に設けられる半導体積層部20を備えている。半導体積層部20は、基板10側から、第1の半導体層21と、活性層23と、第2の半導体層25を有している。第1の半導体層21と第2の半導体層25は、活性層23に直接接続されている。半導体積層部20と電極部50が単位素子を構成している。赤外線デバイスが赤外線発光素子の場合に、必要な発光強度を得るために、また、適切な駆動電圧及び電流を実現するために、複数の単位素子が直列に接続される。本実施形態において、単位素子が1つの発光ダイオードを構成する。また、赤外線デバイスが赤外線受光素子の場合に、出力された信号を増幅回路によって増幅するにあたり、扱いやすい抵抗値を実現するため、複数の単位素子が直列に接続される。本実施形態において、単位素子が1つのフォトダイオードを構成する。
【0032】
基板10上に第1の半導体層21、活性層23及び第2の半導体層25が積層される方向が、以下の説明において「積層方向」と称されることがある。本実施形態において、積層方向は基準面10aに対して直交する。
【0033】
<第1の半導体層>
第1の半導体層21は第1導電型の半導体層である。第1導電型は、本実施形態においてn型であってよい。第1の半導体層21の構成材料として、InSb、GaAs、InAs、InGaAs、InAlSb、GaAsSb又はInGaPなどが用いられるがこれらに限定されない。また、第1の半導体層21は複数の材料による積層構造で構成されてよい。上記材料に不純物ドープが行われて、不純物濃度(キャリア濃度)が制御される。
【0034】
ここで不純物としては、例えばSn、Teがn型ドープの材料として用いられ、Zn、Be、Geがp型ドープの材料として用いられる。またSiは、母体の半導体に応じて、n型又はp型のドープ材料として用いられる。しかしながら不純物の材料は、これらに限定されない。不純物濃度については、例えば二次イオン質量分析法(SIMS)により評価することができる。また、第1の半導体層21はドナー不純物又はアクセプター不純物によりn型又はp型にドーピングされていることが好ましいが、第1導電型を有するのであればドープされていなくてよい。また、第1の半導体層21は転位フィルタ層を含んでよい。また、第1の半導体層21は複数の層からなっていてよい。ここで、第1の半導体層21が活性層23と直接に接する場合、拡散電流低減の観点から、第1の半導体層21のうち活性層23と接する層の材料は、活性層23よりエネルギーギャップの大きいものであることが好ましい。
【0035】
<活性層>
活性層23は、発光層又は受光層である。活性層23の材料として、InAsSbなどが用いられるがこれらに限定されない。ここで、活性層23は、真性半導体であってよいし、p型にドープされていてよい。特にエネルギーギャップが狭い場合に、活性層23は、P型にスライトドープされる(slightly doped)ことがある。スライトドープの一例として、1016/cm3から1018/cm3の不純物ドープが行われる。
【0036】
<第2の半導体層>
第2の半導体層25は第2導電型の半導体層である。第2導電型は、第1導電型と異なる導電型であって、本実施形態においてp型である。別の例として、第1導電型がp型で、第2導電型がn型であってよい。第2の半導体層25の構成材料として、InSb、GaAs、InAs、InGaAs、InAlSb、GaAsSb又はInGaPなどが用いられるがこれらに限定されない。また、第2の半導体層25は複数の材料による積層構造で構成されてよい。ここで、第2の半導体層25が活性層23と直接に接する場合、拡散電流低減の観点から、第2の半導体層25のうち活性層23と接する層の材料は、活性層23よりエネルギーギャップの大きいものであることが好ましい。また、発光素子における赤外線の出射方向又は受光素子における赤外線の入射方向は、基板10の上下どちらでも構わない。赤外線素子のバーシュタインモス効果による赤外線透過率の向上の観点から、赤外線が出射又は入射する側がn型の導電型であることが好ましい。
【0037】
<電極部>
電極部50の材料としては、中赤外長波長域において反射率の高い材料が好まれる。電極部50の材料として、例えばAu、Alを用いることができる。また、電極部50は、接触抵抗の低減、密着性の向上及び電極材料と半導体材料との相互拡散防止のために、異なる電極材料を積層することができる。例えばTi、Pt、Ni、Cr、Cuなども用いることができる。ただし、電極の材料はこれらに限定されない。
【0038】
電極部50は、第1の部分において第1の半導体層21と電気的に接合(コンタクト)しており、第1の半導体層21に対して、電流を注入する又は電流を取り出す。電極部50は、第2の部分において第2の半導体層25と電気的に接合(コンタクト)しており、第2の半導体層25に対して、電流を注入する又は電流を取り出す。
【0039】
<電気障壁層>
電気障壁層30は、基板10と半導体積層部20との間に位置し、基板10と半導体積層部20との間の電気抵抗の増加に寄与する。電気障壁層30によって、リーク電流が抑制されるため、発光強度又は検出感度を低下させない高性能の赤外線デバイスが実現される。絶縁性の観点から、電気障壁層30の積層方向の厚さは500nm以上であることが好ましい。
【0040】
電気障壁層30は、アモルファス又はポリマーの層であってよい。例えば電気障壁層30は、窒化ケイ素(SiN)、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、熱窒化ケイ素、シリカゲル、一酸化ケイ素(SiO)、エポキシ樹脂又はポリイミドの層とすることができる。電気障壁層30の材料がアモルファス又はポリマーである場合に、予め形成された半導体積層部20を、電気障壁層30を介して基板10に接続し、電極部50によって隣接する半導体積層部20を接続することによって、赤外線デバイスが製造される。
【0041】
ここで、電気障壁層30の材料がアモルファス又はポリマーである場合に、MBE又はMOCVDを用いて電気障壁層30上に半導体積層部20を形成することは困難である。MBE及びMOCVDは下地となる層の結晶の情報を引き継いで結晶を成長させる方法である。下地となるアモルファス又はポリマーは非結晶である為、結晶の情報(方位、原子間隔など)を含まないためである。本開示の一実施形態に係る赤外線デバイスの製造方法は以下の通りである。まず基板10とは別の基板a(
図18A参照)上に、のちに除去される犠牲層bが積層されて(
図18B参照)、さらに半導体積層膜Xが形成される(
図18C参照)。形成の方法として、MBE又はMOCVDなどがあげられる。次に犠牲層bが除去され、半導体積層膜Xのみが剥離されて、電気障壁層30を介して半導体積層膜Xが基板10に接合される(
図18D参照)。ここで、基板10への接合は、例えば貼り合わせることで行われる。犠牲層bを除去する方法として、エッチングなどがあげられる。電気障壁層30と半導体積層膜Xを接合する方法として、原子拡散接合法又は表面活性化法などがあげられる。半導体積層膜Xのうち、基板10に接合する面は、犠牲層bに接していた面cであってよいし、犠牲層bと接していた面cの反対側の面dであってよい。これにより、基板10上に電気障壁層30と半導体積層膜Xとを積層した構造eを形成することができる(
図18E参照)。続いて構造eの半導体積層膜Xを適宜エッチングすることで、複数の半導体積層部20を形成することができる。このエッチングの際のマスクに用いた層がそのまま赤外線デバイスの保護層として用いられてよい。続いて適宜保護層を形成し電極部50によって隣接する半導体積層部20を接続することによって、赤外線デバイスが製造される。
【0042】
また、電気障壁層30は、半導体の層であってよい。この場合に、赤外線デバイスは公知の半導体製造手法によって製造される。電気障壁層30の材料が半導体である場合に、リーク電流を流れにくくするため、電気障壁層30には、第1の半導体層21の材料よりエネルギーギャップ(バンドギャップ)が大きい材料が用いられてよい。エネルギーギャップの小さい材料に対して大きい材料にはポテンシャル障壁が形成されることを利用し、エネルギーギャップが小さい第1の半導体層21からエネルギーギャップが大きい電気障壁層30へのキャリアの流入を制限し、リーク電流を低減できる。ここで、電気障壁層30は、基板10の材料よりエネルギーギャップが小さい材料が用いられてよい。これにより、エネルギーギャップが小さい電気障壁層30からエネルギーギャップが大きい基板10へのキャリアの流入を制限し、リーク電流を低減できる。また、電気障壁層30は、第1の半導体層21と導電型が異なっていてよい。また、電気障壁層30は、基板10と導電型が異なっていてよい。これは異なる導電型においてはポテンシャル障壁が形成されるため、キャリアの流入を制限できリーク電流を低減できるためである。
【0043】
ここで、
図1に示すように、複数の半導体積層部20の間の領域が「第1の領域」とされて、第1の領域でない領域が「第2の領域」とされる。換言すると、第2の領域が上記の単位素子の主な部分が形成されている領域であって、隣接する単位素子の間の接続領域が第1の領域である。ここで、単位素子の主な部分は、半導体積層部20が後述する第2の層21bを含む場合に、単位素子から第2の層21bを除く部分であり、半導体積層部20が第2の層21bを含まない場合に、単位素子と同じである。電気障壁層30は、少なくとも第2の領域に設けられる。電気障壁層30は、
図1のように第1の領域に存在しなくてよい。別の例として、
図2に示すように、電気障壁層30は、第1の領域に存在するように形成されてよい。また、
図3に示すように、電気障壁層30は、第1の領域に存在し、さらに第1の保護膜31を分断するように形成されてよい。ここで、第1の保護膜31は半導体積層部20の側面及び上面に形成されて、半導体積層部20を保護する膜である。第1の保護膜31として、例えば酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ハフニウムなどを選択することができる。また、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂などを選択することができる。電気障壁層30が第1の領域にも存在するように形成されると、被覆性がよくなるため、リーク電流抑制の効果がさらに高まる。
【0044】
ここで、第1の保護膜31は半導体積層部20の側面及び上面で、直接に接するように形成されてよいし、第2の保護膜32を介して接するように形成されてよい。
図4、
図5及び
図6の赤外線デバイスは、第2の保護膜32を備えており、電気障壁層30の構成がそれぞれ
図1、
図2、
図3に対応している。
【0045】
また、別の例として、電気障壁層30は基板10の窪み(凹部)に形成されてよい。この場合に、電気障壁層30は
図7のように第1の領域の一部で存在しないように(分断されるように)形成されてよいし、
図8のように第1の領域に存在するように形成されてよい。
【0046】
また、上記のように、電気障壁層30が第1の領域にも存在するように形成されるとリーク電流抑制の効果が高まるが、第1の半導体層21を性質の異なる複数の層で構成することで、さらにリーク電流を抑制することができる。
図9及び
図10の赤外線デバイスは、2層で構成される第1の半導体層21を備えており、電気障壁層30の構成がそれぞれ
図2、
図3に対応している。第1の層21aは抵抗が相対的に低い層である。第2の層21bは抵抗が相対的に高い層である。第2の層21bの抵抗が、第1の層21aの抵抗より高くなるように、構成材料又はドープが調整されて、第1の半導体層21が形成される。
図9、
図10のように第2の層21bが第1の領域に存在していてよい。
【0047】
また、
図11に示すように、電気障壁層30は、第1の領域に存在し、第1の領域における電気障壁層30の積層方向の厚さ(h1)が、第2の領域における電気障壁層30の積層方向の厚さ(h2)に比べて薄いように形成されてよい。この場合に、第1の領域と第2の領域の境界において電気障壁層30の厚さが変化するため、電気障壁層30の表面に沿った距離(沿面距離)を延ばすことができる。沿面距離が延びることによって、隣接する単位素子とのESD(Electro Static Discharge)耐性を向上させることができる。ここで、
図12に示すように、電気障壁層30が第1の保護膜31を分断するように形成されてよい。
【0048】
また、半導体積層部20の側面部分についても、沿面距離を延ばすことが好ましい。
図13は、赤外線デバイスの部分断面図であって、第1の半導体層21の側面の角度と電気障壁層30の側面の角度の例を示す図である。第1の半導体層21の側面が基準面10aに平行な面と成す第1の角度(θ1)と、電気障壁層30の側面が基準面10aに平行な面と成す第2の角度(θ2)が異なっており、第2の角度は、第1の角度より大きくてよい。第1の角度が第2の角度と異なることによって、第1の角度を第2の角度に揃える場合に比べて、第1の半導体層21の側面部分の沿面距離を延ばすことができる。沿面距離が延びることによって、隣接する単位素子とのESD耐性をさらに向上させることができる。ここで、
図14に示すように、積層方向の厚さが薄い部分を電気障壁層30が有する場合に、薄い部分を除いて第2の角度が定められる。また、
図16及び
図17に示すように、第2の角度は、第1の角度より小さくてよい。第2の角度は、第1の角度より小さい場合、第1の半導体層21及び電気障壁層30の上にさらに電極及び保護層を形成する際に、第1の半導体層21及び電気障壁層30との密着性を向上することができる。
【0049】
ここで、本実施形態において、電気障壁層30の屈折率は、半導体積層部20の平均屈折率より低くてよい。例えば半導体積層部20の平均屈折率が3~4であって、電気障壁層30の屈折率が1.5未満であり得る。また、基板10の屈折率は、例えば3~4であり得る。また、半導体積層部20の上面の電極(電極部50の一部)がミラーとして機能するため、赤外線デバイスは共振構造を取りえるため、波長λp[nm]にピークを有する光学特性を有しえる。半導体積層部20の積層方向の厚さをt[nm]、0以上の整数をmとする場合に、以下の式(1)が満たされる。
【0050】
【0051】
詳細に説明すると、半導体積層部20の積層方向の厚さ(t)は、半導体積層部20の平均屈折率を「n」とすれば、以下の式(2)で計算される。
【0052】
【0053】
ここで平均屈折率とは、半導体積部の各々の層の屈折率について膜厚で重みづけをした平均値を指す。ここで、
図15は半導体積層部20の積層方向の厚さと、共振構造の内部に閉じ込められる光のエネルギーの大きさ(|E|
2)との関係を示す。共振構造において、
図15のように金属と半導体積層部20との界面に固定端、及び半導体積層部と電気障壁層30との界面に自由端が位置しており、半導体積層部20の積層方向の厚さtと波長λ
pが式(2)のような関係式にある。また、本実施形態における半導体積層部20の平均屈折率(3~4)を式(2)に代入することによって、式(1)が得られる。本実施形態に係る赤外線デバイスは、式(1)を満たすように、積層構造の厚さなどを設計することで、所望の波長λ
pにピークを有する光学特性を有することができる。
【0054】
以上、実施形態を諸図面及び実施例に基づき説明したが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形及び修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形及び修正は本開示の範囲に含まれることに留意すべきである。例えば、各部材、各手段などに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段などを1つに組み合わせたり又は分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0055】
10 基板
20 半導体積層部
21 第1の半導体層
21a 第1の層
21b 第2の層
23 活性層
25 第2の半導体層
30 電気障壁層
31 第1の保護膜
32 第2の保護膜
50 電極部
【要約】
【課題】高性能の赤外線デバイス及び赤外線デバイスの製造方法が提供される。
【解決手段】赤外線デバイスは、基板(10)と、基板(10)上に設けられ、第1の半導体層(21)と、活性層(23)と、第2の半導体層(25)を有する半導体積層部(20)と、基板(10)と半導体積層部(20)との間に位置し、基板(10)と半導体積層部(20)との間の電気抵抗の増加に寄与する電気障壁層(30)と、を備え、半導体積層部(20)は複数であって、複数の半導体積層部(20)が直列接続されている。
【選択図】
図1