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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】窒化ガリウム系焼結体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/58 20060101AFI20241210BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20241210BHJP
   C04B 35/645 20060101ALI20241210BHJP
   H01L 21/203 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C04B35/58
C23C14/34 A
C04B35/645
H01L21/203 S
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019182824
(22)【出願日】2019-10-03
(65)【公開番号】P2020059644
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2018191481
(32)【優先日】2018-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】召田 雅実
(72)【発明者】
【氏名】倉持 豪人
(72)【発明者】
【氏名】土田 裕也
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-204748(JP,A)
【文献】特開2009-228131(JP,A)
【文献】特開2017-024970(JP,A)
【文献】特開2018-119171(JP,A)
【文献】特開2000-313670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/58
C23C 14/34
C04B 35/645
H01L 21/203
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
g、Ca、Sr,Ba,Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上のドーパントの含有量が1wtppm以上100000wtppm以下であり、酸素含有量が1atm%以下であり、なおかつ、抗折強度が50MPa以上であることを特徴とする窒化ガリウム系焼結体。
【請求項2】
酸素含有量が0.3atm%未満であることを特徴とする請求項1に記載の窒化ガリウム系焼結体。
【請求項3】
前記ドーパントの含有量が3wtppm以上50000wtppm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の窒化ガリウム系焼結体。
【請求項4】
密度が3.0g/cm以上5.4g/cm以下であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の窒化ガリウム系焼結体。
【請求項5】
密度が3.5g/cm 以上5.4g/cm 以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の窒化ガリウム系焼結体。
【請求項6】
焼結体の平均粒径が1μm以上150μm以下であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の窒化ガリウム系焼結体。
【請求項7】
ホットプレス法による窒化ガリウム系焼結体の製造方法であって、酸素含有量1atm%以下の窒化ガリウム粉末及びドーパント源を原料とし、ホットプレスの雰囲気は真空下であり、ホットプレス型の加圧方向に垂直な方向の線熱膨張率と原料の線膨張率の差が15%以内であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の窒化ガリウム系焼結体の製造方法。
【請求項8】
円板を得るホットプレス型であって、スリーブの分割数が3分割以上であることを特徴とする請求項の記載の窒化ガリウム系焼結体の製造方法。
【請求項9】
請求項1~のいずれかに記載の窒化ガリウム系焼結体を用いることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項10】
ターゲット部材とボンディング層の間にタングステンを含む層が存在しないことを特徴とする請求項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項11】
請求項又は10に記載のスパッタリングターゲットを用いることを特徴とする窒化ガリウム系薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
窒化ガリウムは、青色発光ダイオード(LED)の発光層や青色レーザーダイオード(LD)の原料として注目され、近年では薄膜や基板の形態にて白色LEDや青色LDなどの様々な用途に用いられており、また将来的にはパワーデバイスなどの用途の材料としても注目されている。現在、窒化ガリウム薄膜は有機金属化学気相成長(MOCVD)法によって製造されることが一般的である。MOCVD法は、キャリアガスに原料の蒸気を含ませて基板表面に運搬し、加熱された基板との反応で原料を分解させることにより、結晶を成長させる方法である。
【0002】
MOCVD法以外の薄膜の作製法としてスパッタリング法が挙げられる。このスパッタリング法は陰極に設置したターゲットにArイオンなどの正イオンを物理的に衝突させ、その衝突エネルギーでターゲットを構成する材料を放出させて、対面に設置した基板上にターゲット材料とほぼ同組成の膜を堆積する方法であり、直流スパッタリング法(DCスパッタリング法)と高周波スパッタリング法(RFスパッタリング法)がある。
【0003】
これまで、スパッタリング法にて窒化ガリウム薄膜を成膜する方法として、金属ガリウムターゲットが用いられてきた(例えば、特許文献1参照)。しかし、金属ガリウムターゲットを用いる場合では、金属ガリウムの融点が約29.8℃であることから、スパッタ時に溶解するため、結晶性や透過性といった特性を高度に安定化させた窒化ガリウム膜を得ることが困難であり、それを防止するために高価な冷却装置を取り付け、さらに低パワーで成膜する手法が提案されているが、生産性が低下するとともに膜中への酸素の取り込みも多くなりやすいという課題があった。
【0004】
また、高密度窒化ガリウム焼結体も提案されているが(例えば、特許文献2参照)、この実施例によると、58Kbar(5.8GPa)という非常に高圧条件下では緻密化しており、このような圧力をかける装置は非常に高価な装置であり、大型焼結体を作製することができない。そのため、スパッタリング法に用いるスパッタリングターゲット自体が非常に高価となり、かつ大型化が困難なことから均質性に劣る膜となりやすいという課題を有していた。
【0005】
また、含有酸素量を低減する方法として、酸素を含有する窒化ガリウム焼結体を窒化処理する事で酸素量を低減する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、一定以上の酸素量を低減すると焼結体に割れが生じることがあるという問題があった。
【0006】
また、直流スパッタリング法を用いる場合、スパッタリングターゲットの抵抗率が低いことが求められる。その方法として、窒化ガリウム成形物に金属ガリウムを浸透させることでスパッタリングターゲットの抵抗率を低減する方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。しかし、この手法では、抵抗は低減するがボンディング中やスパッタ中において金属ガリウムが析出することで、インジウムなどのハンダ材と反応し窒化ガリウム成形物が剥離し、放電が安定に行えないという問題があった。その対策として、タングステンの薄膜を裏打ちすることで、金属ガリウムの析出を抑制する方法が提案されているが(例えば、特許文献5参照)、ターゲット作製工程が増え、煩雑になることや、高価なタングステン材料という特殊な材料を用いる必要があるといった課題があった。
【0007】
また、デバイスを構築のためには窒化ガリウムをn型並びにp型にすることが必要だが、そのためのスパッタリングターゲットはこれまでなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平11-172424号公報
【文献】特開2005-508822号公報
【文献】特開2012-144424号公報
【文献】特開2014-159368号公報
【文献】特開2014-91851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ドーパントによりn型、もしくはp型半導体となった高結晶窒化ガリウム薄膜を得るための低酸素量、ドーパント含有大型窒化ガリウム系焼結体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような背景に鑑み、本発明者らは鋭意検討を重ねた。その結果、酸素含有量の少ない窒化ガリウム粉末に、各種ドーパント源を含有させ適切な保持時間と熱膨張率が窒化ガリウム焼結に即したホットプレス型を用いて処理を行うことにより、低酸素量で高密度、大型窒化ガリウム系焼結体を作製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の態様は以下の通りである。
(1)Si、Ge、Sn、Pb,Be,Mg、Ca、Sr,Ba,Zn、Cd、からなる群から選ばれる1種以上のドーパントの含有量が1wtppm以上100000wtppm以下であり、酸素含有量が1atm%以下であることを特徴とする窒化ガリウム系焼結体。
(2)ドーパントが、Si、Ge、Sn、Pbからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする(1)に記載の窒化ガリウム系焼結体。
(3)ドーパントが、Be、Mg、Ca、Sr,Ba,Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする(1)に記載の窒化ガリウム系焼結体。
(4)抗折強度が50MPa以上であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の窒化ガリウム系焼結体。
(5)酸素含有量が0.3atm%未満であることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の窒化ガリウム系焼結体。
(6)密度が3.0g/cm以上5.4g/cm以下であることを特徴とする(1)~(5)のいずれかに記載の窒化ガリウム系焼結体。
(7)焼結体の平均粒径が1μm以上150μm以下であることを特徴とする(1)~(6)のいずれかに記載の窒化ガリウム系焼結体。
(8)ホットプレス法による窒化ガリウム系焼結体の製造方法であって、酸素含有量1atm%以下の窒化ガリウム粉末及びドーパント源を原料とし、ホットプレス型の加圧方向に垂直な方向の線熱膨張率と原料の線膨張率の差が15%以内であることを特徴とする(1)~(7)のいずれかに記載の窒化ガリウム系焼結体の製造方法。
(9)円板を得るホットプレス型であって、スリーブの分割数が3分割以上であることを特徴とする(8)に記載の窒化ガリウム系焼結体の製造方法。
(10)(1)~(7)のいずれかに記載の窒化ガリウム系焼結体を用いることを特徴とするスパッタリングターゲット。
(11)ターゲット部材とボンディング層の間にタングステンを含む層が存在しないことを特徴とする(10)に記載のスパッタリングターゲット。
(12)(10)又は(11)に記載のスパッタリングターゲットを用いることを特徴とする窒化ガリウム系薄膜の製造方法。
【0012】
本発明の窒化ガリウム系焼結体は、Si、Ge、Sn、Pb,Be,Mg、Ca、Sr,Ba,Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上のドーパントの含有量が1wtppm以上100000wtppm以下であることを特徴とし、3wtppm以上50000wtppm以下であることが好ましい。こうしたドーパントを含有した焼結体を得ることで、成膜した窒化ガリウム系薄膜をp型もしくはn型半導体とすることが可能となる。また、本発明の窒化ガリウム系焼結体をn型半導体とするには、ドーパントが、Si、Ge、Sn、Pbからなる群から選ばれる1種以上であることが好ましく、特にSiが好ましく、本発明の窒化ガリウム系焼結体をp型半導体とするには、ドーパントが、Be、Mg、Ca、Sr,Ba,Zn、Cdからなる群から選ばれる1種以上であることが好ましく、特にMg及び/又はZnが好ましい。
【0013】
また、酸素含有量が1atm%以下であることを特徴とし、0.5atm%以下が好ましく、より好ましくは0.3atm%未満であり、さらに好ましくは0.2atm%以下であり、さらに好ましくは0.1atm%以下である。窒化ガリウム系焼結体中の酸素含有量を低減することで、スパッタリングターゲットとして利用した場合、成膜時に不純物としての酸素の混入を低減し、より高い結晶性の膜を得ることが可能となる。
【0014】
ここで、atm%とはat%と同義であり、含有する全元素の原子数に対する特定の元素の原子数の比で表される。例えば、酸素を含有する窒化ガリウムにおいて、ガリウムと窒素と酸素がwt%で各含有されている場合、酸素含有量(atm%)は、
酸素含有量(atm%)=(酸素含有量(wt%)/酸素原子量)/((ガリウム含有量(wt%)/ガリウム原子量)+(窒素含有量(wt%)/窒素原子量)+(酸素含有量(wt%)/酸素原子量))
となる。
【0015】
本発明の窒化ガリウム系焼結体は、抗折強度が40MPa以上であることが好ましく、さらに好ましくは50MPa以上、特に好ましくは60MPa以上である。
【0016】
本発明の窒化ガリウム系焼結体は、密度が3.0g/cm以上5.4g/cm以下であることが好ましく、更に好ましくは3.5g/cm以上5.4g/cm以下、特に好ましくは4.0g/cm以上5.4g/cm以下である。ここで述べている窒化ガリウム系焼結体の密度は、開気孔も含めた密度を指し、JISR1634におけるかさ密度の測定結果を指す。そのような窒化ガリウム系焼結体はスパッタリングターゲットとして用いることができる。
【0017】
本発明の窒化ガリウム系焼結体は、平均粒子径(D50)が1μm以上150μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以上100μm以下であり、特に好ましくは9μm以上80μm以下である。そのような粒子径とすることで、より酸素量が少なく、なおかつ高強度である窒化ガリウム系焼結体を得ることが可能となる。
【0018】
本発明の窒化ガリウム系焼結体は、ドーパント以外のAl,In等を含有しても良い。
【0019】
次に、本発明の窒化ガリウム系焼結体の製造方法について説明する。
【0020】
本発明の窒化ガリウム系焼結体の製造方法は、酸素含有量1atm%以下の窒化ガリウム粉末及びドーパント源を原料とし、ホットプレス型の加圧方向に垂直な方向の線熱膨張率と原料の線膨張率の差が15%以内である窒化ガリウム系焼結体の製造方法である。
【0021】
焼結体中にクラックを発生させずに低酸素な窒化ガリウム系焼結体を得るためには、窒化ガリウム系焼結体にいかに応力を与えずに焼成させることが必要である。すなわち、本発明の製造方法は、ホットプレス法による窒化ガリウム系焼結体の製造方法であって、酸素含有量1atm%以下の窒化ガリウム粉末及びドーパント源を原料とし、ホットプレス型の加圧方向に垂直の方向の線熱膨張率と原料の線膨張率の差が15%以内である事を特徴とする。このような製造方法であれば、ドーパントを含有した窒化ガリウム系焼結体であっても製造することが可能である。
【0022】
以下に、窒化ガリウム系焼結体の製造方法について更に詳細に説明する。
【0023】
まず、原料となる窒化ガリウム粉末は、その酸素含有量が1atm%以下であることを必要とする。更に好ましくは0.5atm%未満であり、更に好ましくは0.3atm%以下、更に好ましくは0.2atm%以下、更に好ましくは0.1atm%以下である。酸素を低減させるためには、表面の酸化を抑制する必要があるために、粉末の比表面積は小さい方が好ましく、より好ましくは0.01m/g以上1.5m/g以下、さらに好ましくは0.01m/g以上0.8m/g未満である。そうした粉末を用いることで粉末からの酸素混入量を軽減することが可能となる。0.01m/g以上よりも比表面積が小さい場合、結晶粒子が大きすぎるため、粒子同士の接着力が弱く、最終的に焼成する際に保形することが困難であり、更には、一般的に焼結性が低下するため、焼成が困難となる。
【0024】
また、スパッタリングターゲットとして十分な強度を持った窒化ガリウム系焼結体を得るために、原料である窒化ガリウム粉末の軽装かさ密度は1.0g/cm以上3.0g/cm未満であることが好ましく、より好ましくは1.4g/cm以上3.0g/cm未満である。なお、軽装かさ密度とは、一定の容積を有する容器に振動などの負荷を与えずに粉末を充填し、充填した粉末の容量を容器の体積で除して求められる値である。3.0g/cm以上に軽装かさ密度を高めると、粉末を構成する顆粒の強度が高くなりすぎ、成型、焼成の際に顆粒がつぶれずに残るため窒化ガリウム系焼結体の強度が著しく低下する。
【0025】
また、原料として用いる窒化ガリウムの平均粒子径(D50)は1μm以上150μm以下であることが好ましい。更には5μm以上100μm以下であることが好ましく、更に好ましくは9μm以上80μm以下である。そうした粉末を利用することで、焼結性と低酸素化を両立した窒化ガリウム系焼結体を作製することが可能となる。特に窒化ガリウムにおいては焼結開始温度と分解温度が近く、焼結温度域が狭く、焼結時に大きく粒成長することがないため、焼結前の一次粒子の分布が窒化ガリウム系焼結体に大きな影響を与える。なお、一次粒子の粒子径はSEMにより観察された最小単位の粒子の直径を指し、平均粒子径は直径法により測定し、少なくとも100以上の粒子について測定した上で、50%粒径での数値を指す。ここで平均粒子径を測定する粒子は窒化ガリウム粒子について測定する。この範囲にある粉末を用いた成型物の場合、従来よりも粒子径が大きく付着力が小さくなるため、浸漬できる程度に開気孔が存在すると粒子同士の結合力が比較的弱いために、Gaの浸漬を行った場合、浸漬時に発生する応力や、加熱及びスパッタリングによって生じる熱膨張率差によって割れが生じてしまう。
【0026】
なお、スパッタリング膜の高い結晶性を得ることや、元素を添加することにより半導体特性の変化が起きるため、原料となる窒化ガリウム粉末は不純物を極力含まないものを用いる事が望ましい。
【0027】
ドーパント源は特に限定はなく、酸素を混入しないことが好ましいこと、他の不純物を含まないことが好ましいことから、窒化物、もしくはガリウムとの合金であることが好ましい。窒化物としては、例えば窒化珪素、窒化ゲルマニウム、窒化スズ、窒化ベリリウム、窒化マグネシウム、ガリウム―マグネシウム合金、窒化カルシウム、窒化ストロンチウム、窒化亜鉛、窒化カドミウムなどである。
【0028】
発明の窒化ガリウム系焼結体をn型半導体とするには、ドーパント源は、窒化珪素、窒化ゲルマニウム、窒化スズ、からなる群から選ばれる1種以上であることが好ましく、特に窒化珪素が好ましく、本発明の窒化ガリウム系焼結体をp型半導体とするには、ドーパン源は、窒化ベリリウム、窒化マグネシウム、ガリウム―マグネシウム合金、窒化カルシウム、窒化ストロンチウム、窒化亜鉛、窒化カドミウムからなる群から選ばれる1種以上であることが好ましく、特に窒化マグネシウム及び/又は窒化亜鉛が好ましい。
【0029】
また、ドーパント源の粒子径は低酸素と高分散性を両立させるためには、窒化ガリウム粉末の平均粒子径の1/10以上10倍以下が好ましい。その範囲とすることで酸素を増加させることなく含有元素を高分散させることが可能となる。
【0030】
焼成方法は、ホットプレス法を用いる。ホットプレス法は粉末を加圧しながら温度を与えることで焼結を進める方法であり、加熱時に一軸加圧を行なうことで焼成時の拡散を補助し、拡散係数が低く、焼結しにくい材料を焼結できるようにする焼成法である。
【0031】
ホットプレス型の加圧方向に垂直の方向の線熱膨張率が投入する原料の熱膨張率との熱膨張率差が15%以内である事が好ましく、更に好ましくは10%以内、更に好ましくは5%以内である。更に好ましくは、原料の熱膨張率に対し、+0.1%以下-0.5%以上であることが好ましい。窒化ガリウムの場合は、5.0×10-6/K以上7.0×10-6/K以下であることを好ましい。更に好ましくは5.0×10-6/K以上6.0×10-6/K以下である。その範囲の熱膨張率の材料を利用することで窒化ガリウムの線熱膨張率と近くなり、大型化した際にかかる応力を低減することが可能となる。小型の場合は線熱膨張率が異なっていても寸法差が小さいため焼結が可能であったが、微細クラックが内包し強度低下の要因となっていた。150cm以上となると、熱膨張差による寸法の違いが大きくなり焼成時に応力がかかり割れが生じる。具体的には5.0×10-6/K以下では、所定の温度で加圧焼結し、降温時に窒化ガリウム系焼結体の収縮よりもホットプレス型の収縮が小さいために大きな引張応力が発生し、窒化ガリウム系焼結体に割れが生じる、逆に7.0×10-6/K以上の場合、同じく降温時に窒化ガリウム系焼結体の収縮よりもホットプレス型の収縮が大きく、外部からの圧縮応力が発生し、同じく窒化ガリウム系焼結体にクラックの発生による強度低下や割れが生じる。
【0032】
焼成温度は1060℃以上1200℃未満とする。窒化ガリウムの焼結を進ませるために1060℃以上が必要であり、窒化ガリウムの窒素及び金属ガリウムへの分解を一定量に抑えるために1200℃未満にしなければならない。また、窒化ガリウム系焼結体の密度を向上させるために焼成時の圧力を30MPa以上100Mpa以下とすることが好ましく、さらに好ましくは40MPa以上90MPa以下である。
【0033】
焼成温度は利用する粉末の粒子径に依存し、粒子径が大きいほど高い温度をかけることが可能となる。
【0034】
焼成時の保持時間は2時間以上5時間以下が好ましい。更に好ましくは3時間以上4時間以下である。2時間未満ではガリウムの部分分解により密度が向上しても粒子同士の固着は進行しない。5時間より長く焼成すると、分解が進行することで微細粒子が存在せず、密度が向上しても強度を維持することができない。この範囲で焼成することで、焼結を進行しつつ、分解を抑制することが可能となり、これまでよりも高い強度の窒化ガリウム系焼結体を得ることができる。
【0035】
ホットプレスでの雰囲気は真空下で行う。加熱開始時における真空度は10Pa以下とし、1×10-1Pa以下が好ましく、5×10-2Paがより好ましく、1×10-2Pa以下であることが特に好ましい。これにより雰囲気から混入する、酸素や、水などの酸素元素を低減し、焼成時の酸化を抑制することが可能となる。
【0036】
また、真空下で焼結する場合、1060℃付近より徐々に窒化ガリウム粉末の分解が進行するが、真空下で焼結することで、分解生成する金属ガリウムの一部が分解ガスである窒素と共に窒化ガリウム系焼結体から外部へ排出される。このため、ホットプレス型において、ダイスと上パンチのクリアランスが0.2mm以上ある事が好ましい。または、粉末と上下パンチとの間にカーボンフェルト等密度の低い材料を用いることが好ましい。
【0037】
ホットプレス型には分割型のスリーブ1が含まれることが好ましい。更に好ましくはスリーブの分割数は3以上であることが好ましく、4以上であることがさらに好ましい。最大の分割数は6以下であることが好ましい。スリーブをこのように分割することで窒化ガリウム系焼結体を取り出すことが容易となり、割れ、欠けを防止することが可能となる。
【0038】
また、型に吸着する酸素を低減するためには、焼成する前に一度空焼きをすることが好ましい。そうすることでホットプレス装置や型に吸着した水分を焼成前に低減することが可能になる。
【0039】
上述した条件でホットプレス処理を行うと、焼結時に金属ガリウムが阻害剤とならず、適度な量が含有されるため、焼結が進行することで、高密度でかつ、酸化の抑制された窒化ガリウム系焼結体を得ることが可能となる。特に1090℃以上1150℃以下の領域においては部分的に金属ガリウムが分解するが、窒化ガリウムの焼結も進行するため、高真空化で加圧焼結を施すことで金属ガリウムに阻害されることなく窒化ガリウムの焼結が進行することで密度が向上する。窒化ガリウムをスパッタリングターゲットとして利用する場合、窒化ガリウム系焼結体に導電性があると好ましく、そのためには金属ガリウムが存在していることが好ましい。
【0040】
得る窒化ガリウム系焼結体は円板形状であることが好ましい。円板形状であることで熱膨張収縮が円周方向で均一となり、窒化ガリウム系焼結体にかかる応力を抑制することが可能となる。
【0041】
得られた窒化ガリウム系焼結体は、スパッタリングターゲット等の用途に応じて所定の寸法に加工してもよい。加工方法は特に限定はなく、平面研削法、ロータリー研削法または円筒研削法等を用いることができる。
【0042】
窒化ガリウム系焼結体は、必要に応じて平板状または円筒状の支持体にハンダ材等の接着剤により固定(ボンディング)し、スパッタリングターゲットとしても良い。スパッタリングターゲットは、ターゲット部材とボンディング層の間にタングステンを含む層が存在しないことが好ましい。高価な金属タングステンターゲットを用いないことでコストを低減し、タングステンの成膜工程が不要になるため、生産性が向上する。
【0043】
また、本発明のスパッタリングターゲットは、ボンディング層としてスズ系ハンダ材またはインジウム系のハンダ材、亜鉛系のハンダ材を用いることが好ましい。その中でも特に導電性、熱伝導性が高く、かつ柔らかく変形しやすいインジウムハンダが好ましい。
【0044】
また、本発明のスパッタリングターゲットは、支持体として熱伝導率が高く強度が高いことからCu、SUSまたはTiなどの金属が望ましい。支持体の形状は平板形状の成形物には平板形状の支持体を用い、円筒形状の成形物には円筒形状の支持体を用いることが好ましい。
【0045】
次に、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法について説明する。
【0046】
本発明のスパッタリングターゲットは、窒化ガリウム系焼結体をボンディング層を介して支持体に接合することにより製造する。ボンディング層にはスズ系ハンダ材、インジウム系のハンダ材、亜鉛系のハンダ材等を用いることができ、インジウム系のハンダ材を使用する場合は、窒化ガリウム系焼結体へのインジウム濡れ性を改善するために、窒化ガリウム系焼結体とハンダ材の間に、濡れ性を改善する層を形成しても良い。その層の材質は安価なもので且つインジウムへの濡れ性が高いことが好ましく、例えばニッケル系やクロム系を用いるのが好ましい。この層はハンダ材との界面全体に渡り、均一に形成されていることが好ましい。このようなバリア層の形成方法は、特に限定はなく、スパッタリングや蒸着、塗布などを用いられる。
【発明の効果】
【0047】
本発明の窒化ガリウム系焼結体は、大型、低酸素量、高強度であり、実生産用スパッタリングターゲットとして用いるのに好適である。
【実施例
【0048】
以下、実施例をもって説明するが、これに限定されるものではない。
(ドーパント含有量測定)
ドーパント含有量については、ICP-AESで測定し、ICP-AESでの測定下限以下の場合はGDMS(グロー放電質量分析法)により測定した。
(軽装かさ密度)
パウダーテスターPT-N型(ホソカワミクロン製)を用いて測定を行った。
(窒化ガリウム系焼結体の密度)
窒化ガリウム系焼結体の密度は、JISR1634におけるかさ密度測定の方法に準じて行なった。
(酸素含有量)
酸素含有量は、酸素・窒素分析装置(LECO製)により測定した。
(平均粒子径(D50)の測定)
平均粒子径(D50)の測定は、SEMでの観察像から直径法にて少なくとも3視野以上について測定し、100以上の粒子を測定した上で50%粒径を平均粒子径とした。測定対象は窒化がガリウム粉末、窒化ガリウム焼結体中の窒化ガリウム粒子のみとした。
(抗折強度)
焼結体の抗折強度は適切な寸法に加工し、JIS R 1601に則って測定を行った。
【0049】
(実施例1)
表1に示される窒化ガリウム粉末600gに対し、金属シリコンを所定濃度となるように添加し、均一に混合した上で180mmφのカーボン製の金型に投入しホットプレスに投入した。昇温開始前の到達真空度は表2に示された条件にて焼成を開始し、温度は200℃/hにて昇温し、最終的に表2の温度まで増加させ、その際の加圧条件は最高温度保持の際に表2の圧力まで上昇させ、温度並びに圧力の保持時間2時間にてホットプレス処理を行った。降温は最終的に約50℃まで降温し、金型を取り出し、焼結体の回収を行なった。いずれも150cm以上の焼結体であった。得られた窒化ガリウム焼結体の密度、酸素含有量、平均粒子径(D50),ドーパント含有量の結果を表3に示す。
【0050】
また、実施例1の不純物量の結果を表4に示す。
【0051】
(実施例2、3)
表1に示される窒化ガリウム粉末100gに対し、窒化珪素を所定濃度となるように添加し、均一に混合した上で78mmφのカーボン製の金型に投入しホットプレスに投入した。昇温開始前の到達真空度は表2に示された条件にて焼成を開始し、温度は200℃/hにて昇温し、最終的に表2の温度まで増加させ、その際の加圧条件は最高温度保持の際に表2の圧力まで上昇させ、温度並びに圧力の保持時間2時間にてホットプレス処理を行った。降温は最終的に約50℃まで降温し、金型を取り出し、焼結体の回収を行なった。得られた窒化ガリウム焼結体の密度、酸素含有量、平均粒子径(D50),ドーパント含有量の結果を表3に示す。
【0052】
(実施例4~6)
添加するドーパント源を表1のものに変更した以外は実施例2と同様の条件で窒化ガリウム焼結体を作製した。得られた窒化ガリウム焼結体の密度、酸素含有量、平均粒子径(D50),ドーパント含有量の結果を表3に示す。
【0053】
また、実施例4の不純物量の結果を表4に示す。
【0054】
(実施例7)
添加するドーパント源を表1のものに変更した以外は実施例2と同様の条件で窒化ガリウム焼結体を作製した。得られた窒化ガリウム焼結体の密度、酸素含有量、平均粒子径(D50),ドーパント含有量の結果を表3に示す。
【0055】
(比較例1、2)
ドーパント源を表1のものに変更した以外は実施例2と同様の条件で窒化ガリウムを作製した。得られた窒化ガリウム焼結体の密度、酸素含有量、平均粒子径(D50),ドーパント含有量の結果を表3に示す。焼成時に割れを生じ、求める焼結体は得られなかった。
【0056】
(比較例3)
添加するドーパント源を表1のものに変更した以外は比較例1と同様の条件で窒化ガリウムを作製した。得られた窒化ガリウム焼結体の密度、酸素含有量、平均粒子径(D50),ドーパント含有量の結果を表3に示す。酸素量が多く、スパッタリングターゲットとして利用するために必要な品質の焼結体は得られなかった。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】