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特許7600524配糖体の分解方法、アグリコンの製造方法及びスフィンゴ糖脂質の分解方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】配糖体の分解方法、アグリコンの製造方法及びスフィンゴ糖脂質の分解方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 311/40 20060101AFI20241210BHJP
   C07C 231/12 20060101ALI20241210BHJP
   C07D 311/30 20060101ALI20241210BHJP
   C07C 233/18 20060101ALN20241210BHJP
   C07D 311/62 20060101ALN20241210BHJP
【FI】
C07D311/40
C07C231/12
C07D311/30
C07C233/18
C07D311/62
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020012981
(22)【出願日】2020-01-29
(65)【公開番号】P2021116286
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】有福 征宏
(72)【発明者】
【氏名】小須田 勝利
(72)【発明者】
【氏名】西木 成志
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/071019(WO,A1)
【文献】特開昭51-105069(JP,A)
【文献】特開昭54-134736(JP,A)
【文献】特開2007-210916(JP,A)
【文献】特開2008-208064(JP,A)
【文献】特開2016-79161(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07D
C08J11/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配糖体を含む原料を溶媒共存下で分解する分解工程を有し、
前記分解工程において、前記原料を溶媒共存下で加熱加圧処理し、
加熱加圧処理は、前記原料を、前記溶媒と共に耐圧性の密閉容器内に封入し、密閉したまま前記溶媒の常圧での沸点を超える温度で加熱することで行い、
前記配糖体が、ケルセチン配糖体、スダチチン配糖体、及びデメトキシスダチチン配糖体からなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記溶媒が、23℃におけるイオン積が23以下である水以外の非水溶媒を含む、配糖体の分解方法。
【請求項2】
前記加熱加圧処理は、温度110℃以上400℃以下の条件で行われる、請求項1に記載の分解方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法により前記配糖体を分解する分解工程と、
前記分解工程で得られた分解生成物からアグリコンを抽出する抽出工程と、を含む、アグリコンの製造方法。
【請求項4】
スフィンゴ糖脂質を含む原料を溶媒共存下で分解する分解工程を有し、
前記分解工程において、前記原料を溶媒共存下で加熱加圧処理し、
加熱加圧処理は、前記原料を、前記溶媒と共に耐圧性の密閉容器内に封入し、密閉したまま前記溶媒の常圧での沸点を超える温度で加熱することで行い、
前記溶媒が、23℃におけるイオン積が23以下である水以外の非水溶媒を含む、スフィンゴ糖脂質の分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル化合物の分解方法及びヒドロシキル基を有する化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機酸と、ヒドロシキル基を有する化合物とを脱水縮合することにより得られるエステル構造を有するエステル化合物は、天然に広く存在し、また、工業的にも熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等、広く利用されている。天然に存在するエステル化合物としては、糖と、非糖部となるアグリコンとがグリコシド結合により結合した配糖体が挙げられる。
【0003】
配糖体は、柑橘類及び豆類をはじめとして、様々な植物の花、葉、根、茎、果実、種子等に含まれているが、配糖体を加水分解することで、アグリコンが得られる。アグリコンは、種類によって特徴及び作用が異なるが、アグリコンの中でもポリフェノールは、一般的にその多くが強い抗酸化作用を有している。例えば、柑橘類に含まれるポリフェノールの一種であるポリメトキシフラボンは、抗酸化作用、発ガン抑制作用、抗菌作用、抗ウイルス作用、抗アレルギー作用、メラニン生成抑制作用、血糖値抑制作用等を有することが知られており、医薬品、健康食品、化粧品等の様々な用途への応用が期待されている。
【0004】
エステル化合物である配糖体を分解し、アグリコンを得る方法としては、配糖体を高温・高圧水と接触させることを特徴とする方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2008/155890号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のエステル構造の分解は、溶媒に水を用いた加水分解反応によるものであったため、エステル化合物が分解して生成するエポキシ化合物及びアクリル化合物、並びにポリフェノール等のアグリコンは水に対してほぼ不溶なため、処理後の分離・精製時の処理効率及び収率が低いことが問題である。
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、エステル化合物を効率的にヒドロシキル基を有する化合物に分解できるエステル化合物の分解方法、及び、ヒドロシキル基を有する化合物の収率を向上できるヒドロシキル基を有する化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、有機酸と、ヒドロシキル基を有する化合物とを脱水縮合することにより得られるエステル構造を有するエステル化合物を含む原料を溶媒共存下で分解する分解工程を有し、溶媒が、23℃におけるイオン積が23以下である水以外の非水溶媒を含む、エステル化合物の分解方法を提供する。
【0009】
上記方法によれば、エステル化合物を効率的に分解することができる。なお、エステル構造は、加水分解により分解されるため、通常、水溶液の酸処理や水熱処理により分解することが考えられる。しかしながら、理由は定かではないが、溶媒が、23℃におけるイオン積が23以下である水以外の非水溶媒を含む場合、エステル構造の分解が促進されることを本発明者らは見出した。そのため、上記方法を用いることで、ヒドロシキル基を有する化合物を低コストで効率的に製造することが可能となる。
【0010】
上記分解工程において、上記原料を溶媒共存下で加熱加圧処理し、加熱加圧処理は、温度110℃以上400℃以下の条件で行われてもよい。これにより、エステル化合物を特に効率的に分解することができる。
【0011】
上記方法において、上記エステル化合物が配糖体を含んでいてもよい。上記方法によれば、配糖体を特に効率的に分解することができる。配糖体は、ポリフェノール配糖体を含んでいてもよく、フラボノイド配糖体を含んでいてもよく、スダチチン配糖体を含んでいてもよく、デメトキシスダチチン配糖体を含んでいてもよく、ケルセチン配糖体を含んでいてもよく、アントシアニンを含んでいてもよく、グリコシルセラミドを含んでいてもよい。上記方法によれば、これらの配糖体を特に効率的に分解することができる。
【0012】
本発明はまた、上記本発明の方法によりエステル化合物を分解する分解工程と、上記分解工程で得られた分解生成物からヒドロシキル基を有する化合物を分離する分離工程と、を含む、ヒドロキシル基を有する化合物の製造方法を提供する。かかる製造方法によれば、ヒドロキシル基を有する化合物を高い収率で、低コスト且つ効率的に製造することができる。溶媒としてエステル化合物が溶解しない水等を用いた場合には、エステル化合物の分解により生成したヒドロシキル基を有する化合物が析出する。そのため、分離工程では、ヒドロシキル基を有する化合物が溶解する溶媒により析出したヒドロシキル基を有する化合物を溶解させ、その後、不溶物を濾過などで除去する必要がある。しかし、上記の本発明に係る方法では、溶媒が、23℃におけるイオン積が23以下である水以外の非水溶媒を含むため、分解工程後にヒドロシキル基を有する化合物が析出せず、分離工程において新たな溶媒でヒドロシキル基を有する化合物を溶解させる必要が無い。そのため、ヒドロシキル基を有する化合物を効率的に製造することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、エステル化合物を効率的にヒドロシキル基を有する化合物に分解できるエステル化合物の分解方法、及び、ヒドロシキル基を有する化合物の収率を向上できるヒドロシキル基を有する化合物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
(エステル化合物の分解方法)
本実施形態に係るエステル化合物の分解方法(以下、「本実施形態の分解方法」ともいう。)は、有機酸と、ヒドロシキル基を有する化合物とを脱水縮合することにより得られるエステル構造を有するエステル化合物を溶媒共存下で分解する分解工程を有し、溶媒が、23℃におけるイオン積が23以下である水以外の非水溶媒を含む。
【0017】
本実施形態の分解方法は、分解工程において、原料を溶媒共存下で加熱加圧処理してよい。加熱加圧処理は、原料を溶媒に溶解/分散し、密閉した容器内で常圧での沸点を超える温度で加熱処理することで、分解する方法であってよい。なお、本実施形態において、常圧とは0.1MPa(大気圧)を意味する。
【0018】
エステル化合物は、有機酸と、ヒドロキシル基を有する化合物とを脱水縮合することにより得られるエステル構造を有する化合物である。有機酸としては、例えば、糖、酢酸及びクエン酸等の有機酸などが挙げられる。ヒドロキシル基を有する化合物としては、例えば、ポリフェノールアグリコン、フェノール及びアルコール等が挙げられる。ここでエステル化合物としては、配糖体及びポリエステル等が挙げられ、中でも、配糖体を好適に用いることができる。配糖体は糖と、非糖部となるアグリコンとがグリコシド結合により結合した親水性の化合物である。そのような配糖体としては、特に限定されないが、フェノール配糖体、クマリン配糖体、フラボノイド配糖体、カルコン配糖体、アントシアニジン配糖体、アントラキノン配糖体、インドール配糖体、及びスフィンゴ糖脂質等が挙げられるが、それに限定されない。
【0019】
また、ポリフェノール配糖体のうちフラボノイド配糖体は、フラボノイドと糖とがグリコシド結合により結合した構造を有する親水性の化合物である。フラボノイド配糖体の元となるフラボノイド(アグリコン)は、フェニルクロマン骨格を基本構造とする芳香族化合物であり、フラボン類、フラボノール類、フラバノン類、フラバノノール類、イソフラボン類、アントシアニン類、フラバノール類、カルコン類及びオーロン類等が挙げられる。これらの中でも、フラボノイドは、フラボン類であるポリメトキシフラボンであってもよい。
【0020】
ポリメトキシフラボンとしては、スダチチン、デメトキシスダチチン、ノビレチン、タンゲレチン、ペンタメトキシフラボン、テトラメトキシフラボン、ヘプタメトキシフラボン等が挙げられる。これらの中でも、ポリメトキシフラボンは、スダチチン、又は、デメトキシスダチチンであってもよい。
【0021】
また、フラボノイドは、ヘスペレチン、又は、アントシアニジンを含んでいてもよい。
【0022】
スフィンゴ糖脂質は、糖とスフィンゴシンとがグリコシド結合により結合している。スフィンゴ糖脂質としては、例えば、グルコシルセラミドが挙げられる。
【0023】
フラボノイド配糖体の元となる糖としては、特に限定されず、上述したフラボノイドとグリコシド結合により結合して配糖体を形成することができる公知の糖が挙げられる。
【0024】
本実施形態の分解方法に用いられる原料は、エステル化合物以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、フラボノイド、水溶性食物繊維、難溶性食物繊維、糖類等が挙げられる。原料におけるエステル化合物の含有量は、原料の固形分全量を基準として、0.1質量%以上であることが好ましく、0.25~30質量%であることがより好ましく、0.3~15質量%であることが更に好ましく、0.5~5質量%であることが特に好ましい。原料がフラボノイドを更に含む場合、フラボノイド配糖体の含有量は、フラボノイドの含有量1質量部に対して、0.25質量部以上であることが好ましく、0.5~100質量部であることがより好ましく、5~50質量部であることが更に好ましい。
【0025】
エステル化合物が配糖体を含む場合、配糖体の原料として具体的には、植物及び海草の花、葉、根、茎、果実、種子等を用いることができる。特に果皮はポリメトキシフラボン、及びそれらの配糖体を多く含有するため、柑橘果実の搾汁残渣を好適に用いることができる。また、原料は、柑橘類から得られた乾燥粉末であってもよく、柑橘類の果皮から得られた乾燥粉末であってもよい。柑橘類としては、スダチ、温州みかん、ポンカン、シークワサー等が挙げられる。柑橘類は、スダチチン及びデメトキシスダチチン等のポリメトキシフラボン、及びそれらの配糖体を多く含有するスダチであってもよい。
【0026】
加熱加圧処理は、原料を、溶媒と共に耐圧性の密閉容器内に封入し、密閉したまま上記溶媒の常圧での沸点を超える温度で加熱することで行うことができる。上記原料及び溶媒を含む反応液が密閉容器内で加熱されることで、密閉容器内が加熱及び加圧環境となり、エステル構造の分解反応が生じることとなる。加熱加圧処理は、原料及び溶媒を撹拌しながら行ってもよい。耐圧性の密閉容器としては特に制限されないが、例えば、水を溶媒とする水熱処理に使用可能な公知の容器を用いることができる。耐圧性の密閉容器としては、例えば、オートクレーブを用いることができる。
【0027】
本実施形態の分解方法に用いられる溶媒は、23℃におけるイオン積が23以下である水以外の非水性溶媒を含む。このような非水性溶媒としては、特に制限されないが、メタノール、エタノール及びプロパノール等のアルコール、エチレングリコール、ホルムアルデヒド、ブチルアルデヒド、ぎ酸及び酢酸等の有機酸、エタノールアミン並びにエチレンジアミンなどが挙げられる。非水性溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。これらの中でも、配糖体の分解をより促進させることができることから、非水性溶媒は、メタノール及びエタノールが好ましい。本実施形態の分解方法に用いられる溶媒は、水を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
【0028】
23℃でイオン積が23以下である水以外の非水性溶媒の23℃におけるイオン積は、18以下であってよく、12以下であってよい。
【0029】
本実施形態の分解方法に用いられる溶媒は、23℃におけるイオン積が23以下である水以外の非水性溶媒とは異なる、その他の溶媒を含んでいてもよい。このようなその他の溶媒としては、23℃におけるイオン積が23を超える水以外の非水性溶媒及び水が挙げられる。23℃におけるイオン積が23を超える水以外の非水性溶媒としては、例えば、トルエン及びヘキサン等が挙げられる。
【0030】
本実施形態の分解方法に用いられる溶媒に含まれる、23℃におけるイオン積が23以下である水以外の非水性溶媒の割合は、溶媒の全量に対して、10質量%以上であってよく、50質量%以上であってよく、100質量%であってよい。
【0031】
本実施形態の分解方法に用いられる溶媒の量は、エステル化合物を分解するのに十分な量であればよく、特に限定されないが、溶媒100質量部に対して原料の固形分が1質量部以上、2質量部以上、4質量部以上、又は、5質量以上であってもよく、100質量部以下、33質量部以下、25質量部以下、18質量部以下、又は、11質量部以下であってもよい。また、反応液中の原料の固形分の含有量(原料濃度)としては、反応液全量を基準として1.0質量%以上、2.0質量%以上、3.8質量%以上、又は、4.8質量%以上であってもよく、50質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、又は、10質量%以下であってもよい。溶媒の量又は原料濃度が上記範囲内であると、エステル化合物の分解を効率的に行うことができる。また、溶媒に対する原料の固形分の割合又は原料濃度が上記上限値以下であると、本実施形態の分解方法で得られた分解生成物から物質を抽出した際に、収率が向上する傾向がある。
【0032】
本実施形態の分解方法に用いられる溶媒は、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸を含まないことが好ましい。本実施形態の分解方法に用いられる溶媒が無機酸を含み、本実施形態の分解方法において加熱加圧処理を行う場合、密閉容器内での加熱加圧処理により、毒性の高い有機塩系化合物、有機窒素系化合物、有機硫黄化合物が生成し易いため、好ましくない。また、本実施形態の分解方法に用いられる溶媒が無機酸を含む場合、製品中に残存するおそれがあると共に、製品中への残存を防ぐために無機酸を十分に除去する工程が必要となるため高コストになるという問題がある。本実施形態の分解方法に用いられる溶媒中の無機酸の含有量は、溶媒及び原料の全量を基準として1質量%以下、0.1質量%以下、又は、0.01質量%以下であることが好ましい。
【0033】
分解処理工程において加熱加圧処理を行う場合、加熱加圧処理の反応条件は特に限定されないが、例えば、110~400℃で0.5~20時間とすることができる。反応温度は、溶媒によって最適温度が変化するが、110~350℃であることが好ましく、120~300℃であることがより好ましく、140~250℃であることが更に好ましい。反応温度が110℃以上であると、反応がより良好に発生しやすい傾向があり、400℃以下であると、原料及びフラボノイド等のヒドロキシ基を含む化合物の炭化が進行しにくく、収率がより向上する傾向がある。反応時間は、0.5~20時間であることが好ましく、1~10時間であることがより好ましい。反応時間が0.5時間以上であると、反応がより進みやすくなる傾向があり、20時間以下であると、反応の進行とコストとのバランスがとりやすくなる傾向がある。
【0034】
分解工程において加熱加圧処理を行い、溶媒が2種以上の溶媒を含む混合溶媒である場合、反応温度は、混合溶媒の状態で、混合溶媒中の沸点が低い溶媒の常圧での沸点(すなわち、沸点上昇等を加味した沸点)を超える温度であればよい。
【0035】
加熱加圧処理は、低温(例えば250℃未満)且つ長時間(例えば1時間以上)の条件で行うことが、収率を向上させる観点から好ましい。反応温度が高温であると、反応後の冷却時に反応液の突沸が生じ易く、突沸が生じると反応液が該反応液を収容した容器の外に飛散するため、収率が低下する傾向がある。また、上述した突沸が生じないように冷却する場合、冷却時間が長時間必要となるため、作業効率が低下することとなる。この冷却時間が長くなる問題は、特に量産化する際のデメリットとなる。このような問題を改善する観点から、加熱加圧処理は低温で長時間の条件で行うことが好ましい。加熱加圧処理を低温で行った場合でも、反応時間を長くすることで十分に分解することができる。また、加熱加圧処理を低温且つ長時間の条件で行った方が、加熱加圧処理を高温且つ短時間の条件で行った場合よりも、加熱加圧処理後の冷却時間を含めた全体の工程時間を短縮することができる。
【0036】
上記条件で加熱加圧処理を行うことで、エステル化合物が分子中に有するエステル構造を、効率的に分解することができる。
【0037】
(ヒドロキシル基を有する化合物の製造方法)
本実施形態に係るヒドロキシル基を有する化合物の製造方法は、エステル化合物を分解する分解工程と、分解工程で得られた分解生成物からヒドロキシル基を有する化合物を分離する抽出工程と、を含む。分解工程は、上述した本実施形態に係るエステル化合物の分解方法によりエステル構造を有するエステル化合物を分解する工程である。
【0038】
分離工程では、分解工程で得られた分解生成物から目的物を分離する。分解生成物には、目的物の他に、分解させずに残った原料等が含まれている。ここで、原料に対して分解生成物で溶解度が異なる場合、一方は固形となりもう一方は溶液として得られるため、加熱処理後、濾過や遠心分離等で固液分離をすることで目的物を高濃度で含まれる成分が得られ、濃縮することができる。また、さらに目的物を乾燥固形化後、別の溶解度の高い溶媒で抽出することでさらに抽出・精製することができる。
【0039】
上記方法により、アグリコン等のヒドロキシル基を有する化合物を高い収率で効率的に製造することができる。
【実施例
【0040】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
スダチチン含有量1000質量ppm、配糖体由来スダチチン含有量9000質量ppmであるスダチ果皮エキス粉(池田薬草株式会社製)2gを、溶媒としてエタノール(特級、純度99.5%、和光純薬工業株式会社製)50gに溶解/分散させ、容量100mlのテフロン(登録商標)容器に封入し、更にそのテフロン(登録商標)容器をステンレス製耐圧容器に収め、耐圧容器を密閉した。密閉した耐圧容器内で、テフロン(登録商標)容器内の溶液をマグネティックスターラーを用いて回転数600rpmで撹拌しながら、溶液の温度が180℃となるようにヒーターで加熱した。180℃到達後、撹拌を続けながら180℃で60分間加熱処理を行った。その後、加熱及び撹拌を止めて常温(25℃)まで自然冷却した。なお、加熱処理中の最高到達温度は181℃であった。
【0042】
冷却後、溶液と固形分を目開き0.2μmの親水化PTFE製メンブレンフィルター(メルク-ミリポア社製、商品名:Omnipore 0.2μm JG)を用いて、ダイアフラムポンプを用いて減圧濾過した。分離された溶液には分解したフラボノイド(スダチチン及びデメトキシスダチチン)が高濃度で含まれているため、得られた溶液を200ccのガラス製ビーカーに入れて、50℃のオーブンで12時間乾燥し、粉末状のフラボノイド濃縮粉末1を0.17g得た。
【0043】
(実施例2)
溶媒としてエタノールに代えてメタノール(特級、純度99.5%、和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、粉末状のフラボノイド濃縮粉末2を0.16g得た。
【0044】
(実施例3)
溶媒としてエタノールに代えてイソプロピルアルコール(和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、粉末状のフラボノイド濃縮粉末3を0.13g得た。
【0045】
(実施例4)
溶媒としてエタノールに代えてブチルアルデヒド(和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、粉末状のフラボノイド濃縮粉末4を0.16g得た。
【0046】
(実施例5)
玉ねぎ皮粉(淡路島産玉ねぎ粉末、自然健康社製)を超純水とエタノールとの混合溶液(混合比は、超純水:エタノール=50:50)に対して5重量%になるように分散させ、玉ねぎ皮粉の分散液を得た。得られた分散液を60℃で3時間加熱し、玉ねぎ皮粉に含まれるケルセチンアグリコン及びケルセチン配糖体を抽出した。抽出後、遠心分離機で10000rpm 10分で固液分離し、上澄み液を分取してオーブンで乾燥し、乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末をメノウ乳鉢で粉砕してケルセチンアグリコン7質量%及びケルセチン配糖体1質量%を含む玉ねぎ皮抽出粉末を得た。
【0047】
原料としてスダチ果皮エキス粉2gに代えて得られた玉ねぎ皮抽出粉末を1g使用したこと以外は、実施例1と同様にして粉末状のフラボノイド濃縮粉末5を0.3g得た。
【0048】
(実施例6)
原料としてスダチ果皮エキス粉2gに代えて大豆由来グルコシルセラミド粉(和光純薬製)を0.2g用いたこと以外は、実施例1と同様にして粉末状のセラミド濃縮粉末6を0.18g得た。
【0049】
(実施例7)
溶媒としてエタノールに代えてブチルアルデヒドを用いたこと以外は、実施例5と同様にして粉末状のフラボノイド濃縮粉末7を0.28g得た。
【0050】
(実施例8)
溶媒としてエタノールに代えてブチルアルデヒドを用いたこと以外は、実施例6と同様にして粉末状のセラミド濃縮粉末8を0.17g得た。
【0051】
(比較例1)
溶媒としてエタノールに代えてイオン積が23を超えるトルエンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして粉末状の粉末9を0.15g得た。
【0052】
<アグリコン濃度の測定>
各実施例及び比較例で得られた濃縮粉末中のスダチチン、ケルセチン又はセラミドアグリコンの濃度は、以下の方法で測定した。まず、濃縮粉末0.1gを希釈倍率が500倍となるように、エタノールに溶解/分散させ、孔径0.1μmのPTFEフィルターでろ過して、エタノール溶液を得た。このエタノール溶液について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により成分分析を行った。標準物質に市販の各フラボノイドの標準精製試料及びセラミドアグリコン標準精製試料を用いてそれぞれ検量線を作成し、それを用いて濃縮粉末中のスダチチン濃度、ケルセチン濃度及びセラミドアグリコン濃度を概算した。HPLC装置には、日立ハイテク製「クロムマスター」を用いた。結果は表1にまとめて示した。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示すとおり、実施例1~8は全て、比較例1と比較して濃縮粉末中のアグリコン濃度及び収率が上昇しており、配糖体の分解によってアグリコンが新たに生成し、アグリコンの濃度及び収率を向上させることができることが分かった。一方、比較例1では溶媒の室温のイオン積が23を超えるトルエンでは、配糖体が分解せず、原料中のフラボノイドと同じ濃度にしかならず、濃度の向上は見られなかった。