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特許7600550熱可塑性樹脂、それよりなる光学フィルム、ジオール化合物、ジエステル化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂、それよりなる光学フィルム、ジオール化合物、ジエステル化合物
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/685 20060101AFI20241210BHJP
   C08G 85/00 20060101ALI20241210BHJP
   C08G 64/02 20060101ALI20241210BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20241210BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20241210BHJP
   C07D 221/04 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C08G63/685
C08G85/00
C08G64/02
G02B5/30
C08J5/18 CFD
C07D221/04 CSP
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2020107502
(22)【出願日】2020-06-23
(65)【公開番号】P2021001328
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2019116226
(32)【優先日】2019-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】並木 慎悟
(72)【発明者】
【氏名】平見 優一
(72)【発明者】
【氏名】中村 昂志
(72)【発明者】
【氏名】林 寛幸
(72)【発明者】
【氏名】前田 智子
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 賢一
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-077523(JP,A)
【文献】国際公開第2019/004279(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/146022(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/115649(WO,A1)
【文献】特開2020-105101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/685
C08G 85/00
C08G 64/02
G02B 5/30
C08J 5/18
C07D 221/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造単位を有する熱可塑性樹脂。
【化1】
(1)式中、A~Aは、それぞれ独立に、=CH-、又は=N-を示す。ただし、A~Aの少なくとも一つは=N-を含む。R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数6~11のアリール基、置換されていてもよい炭素数3~10のヘテロアリール基、置換されていてもよい炭素数1~10のアシル基、置換されていてもよい炭素数1~10のアルコキシ基、置換されていてもよい炭素数6~11のアリールオキシ基、置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよい炭素数2~10のビニル基又はエチニル基、置換基を有するケイ素原子、置換基を有する硫黄原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基である。R~Rのうち隣接する少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。RとR10は、それぞれ独立に、直接結合、置換されていてもよい炭素数1~20のアルキレン基である。
Xは、酸素原子、カルボニル基、置換されていてもよいアミノ基である。nは0~1の整数値を示す。
【請求項2】
前記一般式(1)におけるR 10 がメチレン基である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項3】
前記一般式(1)におけるR がエチレン基である、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項4】
前記一般式(1)におけるnが1である、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項5】
前記一般式(1)においては、R 10 がメチレン基であり、R がエチレン基であり、nが1である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項6】
前記式(1)で表される構造単位を1重量%以上、70重量%以下含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項7】
光弾性係数の絶対値が20×10-12Pa-1以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項8】
ガラス転移温度が110℃以上、160℃以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂がポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~8のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項10】
さらに、下記式(10)で表される構造単位と下記式(11)で表される構造単位の少なくとも一方を含有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂。
【化2】
【化3】
【請求項11】
前記式(1)で表される構造単位が、下記式(V-1)、下記式(V-2)、及び下記式(V-3)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~10のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂。
【化4】
【化5】
【化6】
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の樹脂を含有する透明フィルム。
【請求項13】
請求項12の透明フィルムが少なくとも一方向に延伸された位相差フィルム。
【請求項14】
波長450nmの位相差(R450)と、波長550nmの位相差(R550)との比(R450/R550)が、下記式(I)を満足する、請求項13に記載の位相差フィルム。
0.50 ≦ R450/R550 ≦ 1.02 (I)
【請求項15】
請求項13又は14に記載の位相差フィルムを含む円偏光板。
【請求項16】
下記一般式(7)で表されるジオール化合物。
【化7】
(7)式中、A~Aはそれぞれ独立に、=CH-、又は=N-を示す。ただし、A~Aの少なくとも一つは=N-を含む。R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数6~11のアリール基、置換されていてもよい炭素数3~10のヘテロアリール基、置換されていてもよい炭素数1~10のアシル基、置換されていてもよい炭素数1~10のアルコキシ基、置換されていてもよい炭素数6~11のアリールオキシ基、置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよい炭素数2~10のビニル基又はエチニル基、置換基を有するケイ素原子、置換基を有する硫黄原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基である。R~Rのうち隣接する少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。RとR10は、それぞれ独立に、直接結合、置換されていてもよい炭素数1~20のアルキレン基である。nは0~1の整数値を示す。
【請求項17】
前記一般式(7)におけるR 10 がメチレン基である、請求項16に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項18】
前記一般式(7)におけるR がエチレン基である、請求項16又は17に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項19】
前記一般式(7)におけるnが1である、請求項16~18のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項20】
前記一般式(1)においては、R 10 がメチレン基であり、R がエチレン基であり、nが1である、請求項16に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項21】
前記式(7)が、下記式(W-1)及び下記式(W-2)の少なくとも一方である、請求項16~20のいずれか1項に記載のジオール化合物。
【化8】
【化9】
【請求項22】
下記一般式(8)で表されるジエステル化合物。
【化10】
(8)式中、A~Aはそれぞれ独立に、=CH-、又は=N-を示す。ただし、A~Aの少なくとも一つは=N-を含む。R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数6~11のアリール基、置換されていてもよい炭素数3~10のヘテロアリール基、置換されていてもよい炭素数1~10のアシル基、置換されていてもよい炭素数1~10のアルコキシ基、置換されていてもよい炭素数6~11のアリールオキシ基、置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよい炭素数2~10のビニル基又はエチニル基、置換基を有するケイ素原子、置換基を有する硫黄原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基である。R~Rのうち隣接する少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。RとR10は、それぞれ独立に、直接結合、置換されていてもよい炭素数1~20のアルキレン基である。R11とR12はそれぞれ、水素原子、置換されていてもよい炭素数6~11のアリール基、置換されていてもよい炭素数3~10のヘテロアリール基、又は置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。R11とR12は同一であっても異なっていてもよい。nは0~1の整数値を示す。
【請求項23】
前記一般式(1)におけるR 10 がメチレン基である、請求項22に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項24】
前記一般式(1)におけるR がエチレン基である、請求項22又は23に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項25】
前記一般式(1)におけるnが1である、請求項22~24のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項26】
前記一般式(1)においては、R 10 がメチレン基であり、R がエチレン基であり、nが1である、請求項22に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項27】
前記式(8)が、下記式(X-1)及び下記式(X-2)の少なくとも一方である、請求項22~26のいずれか1項に記載のジエステル化合物。
【化11】
【化12】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光学物性や耐熱性、成形性等の種々の特性に優れた樹脂、並びにそれを用いて得られる光学フィルム、樹脂の製造に用いられるジオール化合物、ジエステル化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学レンズ、光学フィルム、光学記録媒体といった光学系に使用される光学用透明樹脂の需要が増大している。その中でも特に、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイに代表される薄型の平面パネルディスプレイ(FPD)の普及が顕著であり、コントラストや色つきの改善、視野角拡大、外光反射防止等の表示品質を向上させる目的で各種の光学フィルムが開発され、利用されている。
【0003】
有機ELディスプレイにおいては、外光の反射を防止するための1/4波長板が用いられている。色つきを抑え、きれいな黒表示を可能とするため、1/4波長板に用いられる位相差フィルムは、可視領域の各波長において理想的な位相差特性を得ることができる、広帯域の波長分散特性(逆波長分散性)が求められている。
これに相当するものとして、例えば、複屈折の波長分散が異なる2種類の位相差フィルムを各々の遅相軸が直交するように積層することにより、広帯域の位相差フィルムが得られることが開示されている(特許文献1)。また、1/2波長板と1/4波長板をそれぞれの遅相軸がある特定の配置となるように積層することによって得られる方法も開示されている(特許文献2)。さらに、特定のアセチル化度を有するセルロースアセテートからなる広帯域位相差フィルム(特許文献3)や、フルオレン環を側鎖に有するビスフェノール構造を含むポリカーボネート共重合体よりなり、短波長ほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示す位相差フィルムが開示されている(特許文献4)。
【0004】
近年では、前記のフルオレン環を側鎖に有する樹脂が多数報告されており、フルオレン環に由来する光学特性や耐熱性といった特徴を活かし、光学用途に有用な材料として提案されている。これらの樹脂には比較的入手のしやすいモノマーである、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンや9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンがよく用いられている(例えば、特許文献5、6)。
【0005】
さらに、新しい構造を有する樹脂も開発されている。特許文献7には、フルオレン環を側鎖に有するジアミン化合物が開示されており、さらにそれを用いたポリイミド樹脂の延伸フィルムが記載されている。特許文献8には、主鎖上に芳香環を含まないフルオレン化合物を用いたポリカーボネート樹脂が開示されている。特許文献9には、同一分子内に2つのフルオレン環を有するジヒドロキシ化合物やジエステル化合物が開示されており、さらにそれを用いたポリカーボネート樹脂やポリエステル樹脂の延伸フィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-27118号公報
【文献】特開平10-68816号公報
【文献】特開2000-137116号公報
【文献】特許第3325560号
【文献】特許第5119250号
【文献】特許第5204200号
【文献】特開2008-112124号公報
【文献】特開2008-222965号公報
【文献】特開2015-25111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
FPDの分野の発展は目覚しく、位相差フィルムにはさらなる光学性能の向上や、フィルムの薄膜化が求められている。さらに材料のコストダウンや、製膜や延伸、積層等の各工程における生産性の向上といった要求もある。それに伴い、位相差フィルムには種々の特性を兼ね備えることが求められるようになっている。例えば、位相差フィルムに用いられる材料としては、必要な波長分散性を有しつつ、低光弾性係数、高耐熱性、溶融加工性、機械強度等の諸特性を兼ね備えており、その上で固有複屈折が大きく、柔軟性や延伸性に優れ、延伸により高い分子配向度が得られるような材料が求められる。
【0008】
しかしながら、特許文献1や特許文献2のように位相差フィルムを積層する方法は、偏光板が厚くなってしまう。また、遅相軸が特定の配置となるように各位相差フィルムを積層しなければならず、偏光板の生産性や歩留まりが悪化する問題点がある。特許文献3や特許文献4の位相差フィルムは、逆波長分散性を有しており、一枚のフィルムで広帯域の位相差特性が得られるものの、特許文献3のセルロースアセテートは耐熱性が不十分であり、また、吸湿による寸法変形によって画像斑を発生させる問題点がある。
【0009】
特許文献4~6のフルオレン環を有するポリカーボネート樹脂からなる位相差フィルムは、逆波長分散性を示す位相差フィルムや画像表示装置の外光反射防止のための円偏光板として有用であることが知られている。しかしながら、本発明者らが検討したところ、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンを用いた樹脂は、フィルムが脆いために、高い配向度が得られるような延伸は難しく、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンを用いた樹脂は、延伸性は比較的優れているものの、光弾性係数がやや高く、また、高温下での信頼性に劣ることが分かった。
【0010】
各種の特性を改良する手段として、共重合成分を変えたり、比率を調整したりすることが考えられるが、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンは、非常に耐熱性が高い反面、樹脂が脆くなってしまう特性があり、適度な耐熱性を保ちつつ、樹脂の柔軟性を改善することは困難であった。また、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンの場合、所望の逆波長分散性を発現させるためには、これらのモノマー成分を50~70重量%程度含有させることが必要であり、共重合による分子設計の自由度が低く、耐熱性や機械強度等の特性と、光学特性とを両立させることは難しかった。
【0011】
また、特許文献8に記載の樹脂は、逆波長分散性、光弾性係数、耐熱性等の特性が不十分である。特許文献9に記載の樹脂は、低い光弾性係数と高い配向性を有しているが、近年ではさらに高い配向性を発現させ、部材を薄型化することが求められている。
本開示の目的は、前記の課題を解決し、光学物性や耐熱性、成形性等の種々の特性に優れた樹脂、特に逆波長分散性を有し、かつ高い配向性を発現する樹脂、並びにそれを用いて得られる光学フィルム、樹脂の製造に用いられるジオール化合物、ジエステル化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するべく、鋭意検討を重ねた結果、特定の構造単位を含有する樹脂が優れた特性を示すことを見出し、本開示に至った。即ち、本開示は以下を要旨とする。
【0013】
[1]下記式(1)で表される構造単位を有する熱可塑性樹脂。
【化1】
【0014】
(1)式中、A~Aは、それぞれ独立に、=CH-、又は=N-を示す。ただし、A~Aの少なくとも一つは=N-を含む。R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数6~11のアリール基、置換されていてもよい炭素数3~10のヘテロアリール基、置換されていてもよい炭素数1~10のアシル基、置換されていてもよい炭素数1~10のアルコキシ基、置換されていてもよい炭素数6~11のアリールオキシ基、置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよい炭素数2~10のビニル基又はエチニル基、置換基を有するケイ素原子、置換基を有する硫黄原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基である。R~Rのうち隣接する少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。RとR10は、それぞれ独立に、直接結合、置換されていてもよい炭素数1~20のアルキレン基である。
Xは、酸素原子、カルボニル基、置換されていてもよいアミノ基である。nは0~5の整数値を示す。
【0015】
[2]好ましくは、前記式(1)で表される構造単位を1重量%以上、70重量%以下含む、[1]に記載の熱可塑性樹脂。
【0016】
[3]好ましくは、光弾性係数の絶対値が20×10-12Pa-1以下である、[1]又は[2]に記載の熱可塑性樹脂。
【0017】
[4]好ましくは、ガラス転移温度が110℃以上、160℃以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
【0018】
[5]好ましくは、前記熱可塑性樹脂がポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
【0019】
[6]好ましくは、さらに、下記式(10)で表される構造単位と下記式(11)で表される構造単位の少なくとも一方を含有する、[1]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
【化2】
【化3】
【0020】
[7]好ましくは、前記式(1)で表される構造単位が、下記式(V-1)、下記式(V-2)、及び下記式(V-3)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
【化4】
【化5】
【化6】
【0021】
[8][1]~[7]のいずれかに記載の樹脂を含有する透明フィルム。
【0022】
[9][8]の透明フィルムが少なくとも一方向に延伸された位相差フィルム。
【0023】
[10]好ましくは、波長450nmの位相差(R450)と、波長550nmの位相差(R550)との比(R450/R550)が、下記式(I)を満足する、[9]に記載の位相差フィルム。
0.50 ≦ R450/R550 ≦ 1.02 (I)
【0024】
[11][9]又は[10]に記載の位相差フィルムを含む円偏光板。
【0025】
[12]下記一般式(7)で表されるジオール化合物。
【化7】
(7)式中、A~Aはそれぞれ独立に、=CH-、又は=N-を示す。ただし、A~Aの少なくとも一つは=N-を含む。R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数6~11のアリール基、置換されていてもよい炭素数3~10のヘテロアリール基、置換されていてもよい炭素数1~10のアシル基、置換されていてもよい炭素数1~10のアルコキシ基、置換されていてもよい炭素数6~11のアリールオキシ基、置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよい炭素数2~10のビニル基又はエチニル基、置換基を有するケイ素原子、置換基を有する硫黄原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基である。R~Rのうち隣接する少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。RとR10は、それぞれ独立に、直接結合、置換されていてもよい炭素数1~20のアルキレン基である。nは0~5の整数値を示す。
【0026】
[13]好ましくは、前記式(7)が、下記式(W-1)及び下記式(W-2)の少なくとも一方である、[12]に記載のジオール化合物。
【化8】
【化9】
【0027】
[14]下記一般式(8)で表されるジエステル化合物。
【化10】
(8)式中、A~Aはそれぞれ独立に、=CH-、又は=N-を示す。ただし、A~Aの少なくとも一つは=N-を含む。R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数6~11のアリール基、置換されていてもよい炭素数3~10のヘテロアリール基、置換されていてもよい炭素数1~10のアシル基、置換されていてもよい炭素数1~10のアルコキシ基、置換されていてもよい炭素数6~11のアリールオキシ基、置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよい炭素数2~10のビニル基又はエチニル基、置換基を有
するケイ素原子、置換基を有する硫黄原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基である。R~Rのうち隣接する少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。RとR10は、それぞれ独立に、直接結合、置換されていてもよい炭素数1~20のアルキレン基である。R11とR12はそれぞれ、水素原子、置換されていてもよい炭素数6~11のアリール基、置換されていてもよい炭素数3~10のヘテロアリール基、又は置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。R11とR12は同一であっても異なっていてもよい。nは0~5の整数値を示す。
【0028】
[15]好ましくは、前記式(8)が、下記式(X-1)及び下記式(X-2)の少なくとも一方である、[14]に記載のジエステル化合物。
【化11】
【化12】
【発明の効果】
【0029】
本開示の樹脂は光学物性や耐熱性、成形性等の諸特性のバランスに優れている。それ故、本開示の樹脂は位相差フィルム等の光学フィルムに好適に使用することができる。広帯域性が求められる1/4波長板や1/2波長板に特に好適に使用することができる。さらに、本開示の樹脂は、配向性に優れるので、光学フィルムの厚みをより薄くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本開示の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本開示の実施態様の一例(代表例)であり、本開示はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。尚、本開示において、「構造単位」とは、重合体において隣り合う連結基に挟まれた部分構造、及び、重合体の末端部分に存在する重合反応性基と、該重合性反応基に隣り合う連結基とに挟まれた部分構造をいう。また、本開示において「繰り返し構造単位」とは、前記の構造単位と、それに隣り合う連結基を含む構造単位を示す。
【0031】
本開示の樹脂は、下記式(1)で表される構造単位を有する熱可塑性樹脂である。尚、本明細書において、式(1)で表される構造単位を「構造単位(a)」と称する場合がある。
【0032】
【化13】
【0033】
(1)式中、A~Aはそれぞれ独立に、=CH-、又は=N-を示す。ただし、A~Aの少なくとも一つは=N-を含む。R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数6~11のアリール基、置換されていてもよい炭素数3~10のヘテロアリール基、置換されていてもよい炭素数1~10のアシル基、置換されていてもよい炭素数1~10のアルコキシ基、置換されていてもよい炭素数6~11のアリールオキシ基、置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよい炭素数2~10のビニル基、置換されていてもよい炭素数2~10のエチニル基、置換基を有するケイ素原子、置換基を有する硫黄原子、ハロゲン原子、ニトロ基、又はシアノ基である。R~Rのうち隣接する少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。RとR10は、それぞれ独立に、直接結合、又は置換されていてもよい炭素数1~20のアルキレン基である。
Xは、酸素原子、カルボニル基、又は置換されていてもよいアミノ基である。nは0~5の整数値を示す。
【0034】
[構造単位(a)]
構造単位(a)中、A~Aはそれぞれ独立に、=CH-、又は=N-を示し、A~Aの少なくとも一つは=N-を含む、アザフルオレン環である。A~Aに含まれる窒素原子の数は2以下が好ましく、1であることがより好ましい。A~Aは窒素原子を含有することにより、特に本開示の樹脂を逆波長分散位相差フィルムとして用いる時に、高い固有複屈折を発現し、延伸により高い配向性(複屈折)を発現することが可能になる。一方、窒素原子の数が多すぎると、構造単位(a)を含有する本開示の樹脂の吸水率が高くなり、成形品の寸法安定性が悪化する場合がある。
~Aにおける=N-の位置は、特に限定されないが、A、A、A、Aからなる群のうち少なくとも1つが=N-であることが好ましく、A及びAのうち少なくとも1つが=N-であることがより好ましい。この場合には、特に本開示の樹脂を逆波長分散位相差フィルムとして用いる時に、より高い固有複屈折を発現することが可能になる。
【0035】
構造単位(a)中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数6~11のアリール基、置換されていてもよい炭素数3~10のヘテロアリール基、置換されていてもよい炭素数1~10のアシル基、置換されていてもよい炭素数1~10のアルコキシ基、置換されていてもよい炭素数6~11のアリールオキシ基、置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよい炭素数2~10のビニル基、置換されていてもよい炭素数2~10のエチニル基、置換基を有するケイ素原子、置換基を有する硫黄原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基である。R~Rのうち隣接する少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。
【0036】
前記R~Rの具体的な構造は、これらに限定されるものではないが、以下に挙げられる。置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル、n-デシルなどの直鎖状のアルキル基;イソプロピル基、2-メチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、2-エチルヘキシル基などの分岐鎖を含むアルキル基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などの環状のアルキル基が挙げられる。置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基における炭素数は、4以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。この範囲内であると、アザフルオレン環同士の立体障害が生じにくく、アザフルオレン環に由来する所望の光学特性が得られる傾向がある。
【0037】
当該アルキル基が有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子);炭素数1~10のアルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基等);炭素数1~10のアシル基(例、アセチル基、ベンゾイル基等);炭素数1~10のアシルアミノ基(例、アセトアミド基、ベンゾイルアミド基等);ニトロ基;シアノ基;ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数1~10のアルキル基(例、メチル基、エチル基、イソプロピル基等)、炭素数1~10のアルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基等)、炭素数1~10のアシル基(例、アセチル基、ベンゾイル基等)、炭素数1~10のアシルアミノ基(例、アセトアミド基、ベンゾイルアミド基等)、ニトロ基、シアノ基などからなる群より選択される少なくとも1種の置換基を有していてもよい炭素数6~11のアリール基(例、フェニル基、ナフチル基等)等が挙げられる。当該置換基の数は、特に限定されないが、1~3個が好ましい。置換基が2個以上ある場合は、置換基の種類は同一でも異なっていてもよい。また、工業的に安価な製造が可能になるとの観点からは無置換が好ましい。
【0038】
置換されていてもよい炭素数6~11のアリール基としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等のアリール基が挙げられる。置換されていてもよい炭素数6~11のアリール基の炭素数は、8以下であることが好ましく、7以下であることがより好ましい。この範囲内であると、アザフルオレン環同士の立体障害が生じにくく、アザフルオレン環に由来する所望の光学特性が得られる傾向がある。
【0039】
当該アリール基が有していてもよい置換基としては、炭素数1~10のアルキル基(例、メチル基、エチル基、イソプロピル基等);ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子);炭素数1~10のアルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基等);炭素数1~10のアシル基(例、アセチル基、ベンゾイル基等);炭素数1~10のアシルアミノ基(例、アセトアミド基、ベンゾイルアミド基等);ニトロ基;シアノ基;ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数1~10のアルキル基(例、メチル基、エチル基、イソプロピル基等)、炭素数1~10のアルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基等)、炭素数1~10のアシル基(例、アセチル基、ベンゾイル基等)、炭素数1~10のアシルアミノ基(例、アセトアミド基、ベンゾイルアミド基等)、ニトロ基、シアノ基などからなる群より選択される少なくとも1種の置換基を有していてもよい炭素数6~11のアリール基(例、フェニル基、ナフチル基等)等が挙げられる。当該置換基の数は、特に限定されないが、1~3個が好ましい。置換基が2個以上ある場合は、置換基の種類は同一でも異なっていてもよい。また、工業的に安価な製造が可能になるとの観点からは、無置換が好ましい。
【0040】
置換されていてもよい炭素数3~10のヘテロアリール基としては、イミダゾイル基、2-ピリジル基、2-チエニル基、2-フリル基などのヘテロアリール基が挙げられる。置換されていてもよい炭素数3~10のヘテロアリール基における炭素数は、8以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましい。この範囲内であると、アザフルオレン環同士の立体障害が生じにくく、アザフルオレン環に由来する所望の光学特性が得られる傾向がある。
【0041】
当該ヘテロアリール基が有していてもよい置換基としては、炭素数1~10のアルキル基(例、メチル基、エチル基、イソプロピル基等);ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子);炭素数1~10のアルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基等);炭素数1~10のアシル基(例、アセチル基、ベンゾイル基等);炭素数1~10のアシルアミノ基(例、アセトアミド基、ベンゾイルアミド基等);ニトロ基;シアノ基;ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数1~10のアルキル基(例、メチル基、エチル基、イソプロピル基等)、炭素数1~10のアルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基等)、炭素数1~10のアシル基(例、アセチル基、ベンゾイル基等)、炭素数1~10のアシルアミノ基(例、アセトアミド基、ベンゾイルアミド基等)、ニトロ基、シアノ基などからなる群より選択される少なくとも1種の置換基を有していてもよい炭素数6~11のアリール基(例、フェニル基、ナフチル基等)等が挙げられる。当該置換基の数は、特に限定されないが、1~3個が好ましい。置換基が2個以上ある場合は、置換基の種類は同一でも異なっていてもよい。また、工業的に安価な製造が可能になるとの観点からは、無置換が好ましい。
【0042】
置換されていてもよい炭素数1~10のアシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、2-メチルプロピオニル基、2,2-ジメチルプロピオニル基、2-エチルヘキサノイル基等の脂肪族アシル基;ベンゾイル基、1-ナフチルカルボニル基、2-ナフチルカルボニル基、2-フリルカルボニル基などの芳香族アシル基が挙げられる。置換されていてもよい炭素数1~10のアシル基における炭素数は、4以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。この範囲内であると、アザフルオレン環同士の立体障害が生じにくく、アザフルオレン環に由来する所望の光学特性が得られる傾向がある。
【0043】
当該アシル基が有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子);炭素数1~10のアルキル基(例、メチル基、エチル基、イソプロピル基等);炭素数1~10のアルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基等);炭素数1~10のアシルアミノ基(例、アセトアミド基、ベンゾイルアミド基等);ニトロ基;シアノ基;ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数1~10のアルキル基(例、メチル基、エチル基、イソプロピル基等)、炭素数1~10のアルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基等)、炭素数1~10のアシル基(例、アセチル基、ベンゾイル基等)、炭素数1~10のアシルアミノ基(例、アセトアミド基、ベンゾイルアミド基等)、ニトロ基、シアノ基などからなる群より選択される少なくとも1種の置換基を有していてもよい炭素数6~11のアリール基(例、フェニル基、ナフチル基等)等が挙げられる。当該置換基の数は、特に限定されないが、1~3個が好ましい。置換基が2個以上ある場合は、置換基の種類は同一でも異なっていてもよい。また、工業的に安価な製造が可能になるとの観点からは無置換が好ましい。
【0044】
置換されていてもよい炭素数1~10のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、t-ブトキシ基等のアルコキシ基;アセトキシ基等のアシルオキシ基が挙げられる。置換されていてもよい炭素数1~10のアルコキシ基における炭素数は、4以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。この範囲内であると、アザフルオレン環同士の立体障害が生じにくく、アザフルオレン環に由来する所望の光学特性が得られる傾向がある。
【0045】
当該アルコキシ基が有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子);炭素数1~10のアルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基等);炭素数1~10のアシル基(例、アセチル基、ベンゾイル基等);炭素数1~10のアシルアミノ基(例、アセトアミド基、ベンゾイルアミド基等);ニトロ基;シアノ基;ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数1~10のアルキル基(例、メチル基、エチル基、イソプロピル基等)、炭素数1~10のアルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基等)、炭素数1~10のアシル基(例、アセチル基、ベンゾイル基等)、炭素数1~10のアシルアミノ基(例、アセトアミド基、ベンゾイルアミド基等)、ニトロ基、シアノ基などからなる群より選択される少なくとも1種の置換基を有していてもよい炭素数6~11のアリール基(例、フェニル基、ナフチル基等)等が挙げられる。当該置換基の数は、特に限定されないが、1~3個が好ましい。置換基が2個以上ある場合は、置換基の種類は同一でも異なっていてもよい。また、工業的に安価な製造が可能になるとの観点からは、無置換が好ましい。
【0046】
置換されていてもよい炭素数6~11のアリールオキシ基としては、フェノキシ基、1-ナフチルオキシ基、2-ナフチルオキシ基等が挙げられる。置換されていてもよい炭素数6~11のアリールオキシ基における炭素数は、8以下であることが好ましく、7以下であることがより好ましい。この範囲内であると、アザフルオレン環同士の立体障害が生じにくく、アザフルオレン環に由来する所望の光学特性が得られる傾向がある。
【0047】
当該アリールオキシ基が有していてもよい置換基としては、炭素数1~10のアルキル基(例、メチル基、エチル基、イソプロピル基等);ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子);炭素数1~10のアルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基等);炭素数1~10のアシル基(例、アセチル基、ベンゾイル基等);炭素数1~10のアシルアミノ基(例、アセトアミド基、ベンゾイルアミド基等);ニトロ基;シアノ基;ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数1~10のアルキル基(例、メチル基、エチル基、イソプロピル基等)、炭素数1~10のアルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基等)、炭素数1~10のアシル基(例、アセチル基、ベンゾイル基等)、炭素数1~10のアシルアミノ基(例、アセトアミド基、ベンゾイルアミド基等)、ニトロ基、シアノ基などからなる群より選択される少なくとも1種の置換基を有していてもよい炭素数6~11のアリール基(例、フェニル基、ナフチル基等)等が挙げられる。当該置換基の数は、特に限定されないが、1~3個が好ましい。置換基が2個以上ある場合は、置換基の種類は同一でも異なっていてもよい。また、工業的に安価な製造が可能になるとの観点からは無置換が好ましい。
【0048】
置換されていてもよいアミノ基としては、アミノ基;N-メチルアミノ基、N,N-ジメチルアミノ基、N-エチルアミノ基、N,N-ジエチルアミノ基、N,N-メチルエチルアミノ基、N-プロピルアミノ基、N,N-ジプロピルアミノ基、N-イソプロピルアミノ基、N,N-ジイソプロピルアミノ基等の脂肪族アミノ基;N-フェニルアミノ基、N,N-ジフェニルアミノ基等の芳香族アミノ基;ホルムアミド基、アセトアミド基、デカノイルアミド基、ベンゾイルアミド基、クロロアセトアミド基等のアシルアミノ基;ベンジルオキシカルボニルアミノ基、tert-ブチルオキシカルボニルアミノ基等のアルコキシカルボニルアミノ基等が挙げられる。これらの中でも、酸性度の高いプロトンを持たず、分子量が小さく、光学材料中のアザフルオレン環の割合を高めることができる傾向があることから、N,N-ジメチルアミノ基、N-エチルアミノ基、又はN,N-ジエチルアミノ基が好ましく、N,N-ジメチルアミノ基であることがより好ましい。
【0049】
当該アミノ基が有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子);炭素数1~10のアルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基等);炭素数1~10のアシル基(例、アセチル基、ベンゾイル基等);炭素数1~10のアシルアミノ基(例、アセトアミド基、ベンゾイルアミド基等);ニトロ基;シアノ基;ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数1~10のアルキル基(例、メチル基、エチル基、イソプロピル基等)、炭素数1~10のアルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基等)、炭素数1~10のアシル基(例、アセチル基、ベンゾイル基等)、炭素数1~10のアシルアミノ基(例、アセトアミド基、ベンゾイルアミド基等)、ニトロ基、シアノ基などからなる群より選択される少なくとも1種の置換基を有していてもよい炭素数6~11のアリール基(例、フェニル基、ナフチル基等)等が挙げられる。当該置換基の数は、特に限定されないが、1~3個が好ましい。置換基が2個以上ある場合は、置換基の種類は同一でも異なっていてもよい。
【0050】
置換されていてもよい炭素数2~10のビニル基、置換されていてもよい炭素数2~10のエチニル基としては、ビニル基、2-メチルビニル基、2-エチルビニル基、2-プロピルビニル基、2,2-ジメチルビニル基、2-フェニルビニル基、2-アセチルビニル基、エチニル基、メチルエチニル基、tert-ブチルエチニル基、フェニルエチニル基、アセチルエチニル基、トリメチルシリルエチニル基等が挙げられる。置換基が2個以上ある場合は、置換基の種類は同一でも異なっていてもよい。また、工業的に安価な製造が可能になるとの観点からは無置換が好ましい。これらの中でも、分子量が小さく、光学材料中のアザフルオレン環の割合を高めることができる傾向があることから、ビニル基、2-メチルビニル基、エチニル基、2-メチルエチニル基であることがより好ましい。
【0051】
当該ビニル基、エチニル基が有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子);炭素数1~10のアルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基等);炭素数1~10のアシル基(例、アセチル基、ベンゾイル基等);炭素数1~10のアシルアミノ基(例、アセトアミド基、ベンゾイルアミド基等);ニトロ基;シアノ基;ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数1~10のアルキル基(例、メチル基、エチル基、イソプロピル基等)、炭素数1~10のアルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基等)、炭素数1~10のアシル基(例、アセチル基、ベンゾイル基等)、炭素数1~10のアシルアミノ基(例、アセトアミド基、ベンゾイルアミド基等)、ニトロ基、シアノ基などからなる群より選択される少なくとも1種の置換基を有していてもよい炭素数6~11のアリール基(例、フェニル基、ナフチル基等)等が挙げられる。当該置換基の数は、特に限定されないが、1~3個が好ましい。
【0052】
置換基を有するケイ素原子としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基等のトリアルキルシリル基;トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等のトリアルコキシシリル基等が挙げられる。これらの中でも安定に扱えるトリアルキルシリル基が好ましい。
置換基を有する硫黄原子としては、スルホ基;メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基、イソプロピルスルホニル基等のアルキルスルホニル基;フェニルスルホニル基、p-トリルスルホニル基等のアリールスルホニル基;メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、プロピルスルフィニル基、イソプロピルスルフィニル基等のアルキルスルフィニル基;フェニルスルフィニル基、p-トリルスルフィニル基等のアリールスルフィニル基;メチルチオ基、エチルチオ基等のアルキルチオ基;フェニルチオ基、p-トリルチオ基等のアリールチオ基;メトキシスルホニル基、エトキシスルホニル基等のアルコキシスルホニル基;フェノキシスルホニル基等のアリールオキシスルホニル基;アミノスルホニル基;N-メチルアミノスルホニル基、N-エチルアミノスルホニル基、N-tert-ブチルアミノスルホニル基、N,N-ジメチルアミノスルホニル基、N,N-ジエチルアミノスルホニル基等のアルキルスルホニル基;N-フェニルアミノスルホニル基、N,N-ジフェニルアミノスルホニル基等のアリールアミノスルホニル基等が挙げられる。なお、スルホ基は、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、アンモニウム等と塩を形成していてもよい。これらの中でも、酸性度の高いプロトンを持たず、分子量が小さく、光学材料中のアザフルオレン環の割合を高めることができる傾向があることから、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、又はフェニルスルフィニル基が好ましく、メチルスルフィニル基であることがより好ましい。
【0053】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。これらの中でも、比較的導入が容易で、電子求引性の置換基のため、アザフルオレンのメチレン基の反応性を高める傾向があることから、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子が好ましく、塩素原子又は臭素原子であることがより好ましい。
【0054】
上述のR~Rのうち隣接する少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していることが好ましい。この場合には、樹脂の光学特性をより向上することができる。同様の観点から、形成される環が芳香環であることがより好ましい。すなわち、構造単位(a)中のアザフルオレン環は、芳香環を縮環として有することがより好ましい。芳香環を縮環として有することでアザフルオレン環のπ共役系を拡張できるため、樹脂の光学特性をさらに優れたものにすることができる。同様の観点から、形成される環はベンゼン環又はヘテロ原子を含む六員環の芳香環を1つ以上含むことがさらに好ましい。
【0055】
構造単位(a)中のアザフルオレン環は、環を形成するヘテロ原子(具体的には、炭素以外の原子)として窒素原子のみを有することが好ましい。つまり、アザフルオレン環を形成するヘテロ原子は、窒素原子であることが好ましい。この場合には、樹脂の吸水率を小さくすることができるため、優れた光学特性と寸法安定性のバランスに特に優れる。
【0056】
構造単位(a)中、RとR10は、それぞれ独立に、直接結合、置換されていてもよい炭素数1~20のアルキレン基である。RとR10の具体的な構造は以下に挙げられ、これらに限定されるものではないが、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、n-ブチレン基、n-ペンチレン基、n-ヘキシレンなどの直鎖状のアルキレン基;メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチルメチレン基、プロピルメチレン基、ブチルメチレン基、(1-メチルエチル)メチレン基、1-メチルエチレン基、2-メチルエチレン基、1-エチルエチレン基、2-エチルエチレン基、1-メチルプロピレン基、2-メチルプロピレン基、1,1-ジメチルエチレン基、2,2-ジメチルプロピレン基、3-メチルプロピレン基などの分岐鎖を含むアルキレン基(R及びR10において置換位置の数値は、フルオレン環側の炭素からつけるものとする);シクロプロパン、シクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、アダマンタン等の脂環構造の任意の2箇所に直鎖状又は分岐状のアルキレン基の結合手を持つ脂環式アルキレン基;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキサン等の複素環構造の任意の2箇所に直鎖状又は分岐状のアルキレン基の結合手を持つ複素環式アルキレン基が挙げられる。尚、任意の2箇所に有している直鎖状又は分岐状のアルキレン基の結合手の具体的な構造は以下に挙げられ、これらに限定されるものではないが、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、n-ブチレン基、n-ペンチレン基、n-ヘキシレンなどの直鎖状のアルキレン基;1-メチルエチレン基、2-メチルエチレン基、1-エチルエチレン基、2-エチルエチレン基、1-メチルプロピレン基、2-メチルプロピレン基、1,1-ジメチルエチレン基、2,2-ジメチルプロピレン基、3-メチルプロピレン基などの分岐鎖を含むアルキレン基(ここで置換位置の数値は、前記環構造に結合した炭素からつけるものとする)が挙げられる。
【0057】
当該アルキレン基が有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子);炭素数1~10のアルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基等);炭素数1~10のアシル基(例、アセチル基、ベンゾイル基等);炭素数1~10のアシルアミノ基(例、アセトアミド基、ベンゾイルアミド基等);ニトロ基;シアノ基;ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数1~10のアルキル基(例、メチル基、エチル基、イソプロピル基等)、炭素数1~10のアルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基等)、炭素数1~10のアシル基(例、アセチル基、ベンゾイル基等)、炭素数1~10のアシルアミノ基(例、アセトアミド基、ベンゾイルアミド基等)、ニトロ基、シアノ基などからなる群より選択される少なくとも1種の置換基を有していてもよい炭素数6~11のアリール基(例、フェニル基、ナフチル基等)等が挙げられる。当該置換基の数は、特に限定されないが、1~3個が好ましい。置換基が2個以上ある場合は、置換基の種類は同一でも異なっていてもよい。また、工業的に安価な製造が可能になるとの観点からは無置換であることが好ましい。
【0058】
及びR10の選択は、逆波長分散性の発現に特に重要な影響を及ぼす。本開示の樹脂は、アザフルオレン環が主鎖方向(例えば、延伸方向)に対して垂直に配向した状態において、最も強い逆波長分散性を示す。アザフルオレン環の配向状態を前記の状態に近づけ、強い逆波長分散性を発現させるためには、R及びR10は置換されていてもよい炭素数1~20のアルキレン基であることが好ましい。置換されていてもよい炭素数1~20のアルキレン基の炭素数は1~3であることが好ましい。Rの炭素数はより好ましくは2~3であり、特に好ましくは2である。R10の炭素数は好ましくは1~2であり、特に好ましくは1である。この範囲よりも炭素数が多い場合、アザフルオレン環を好ましい方向に配向させることができず、所望の光学特性が得られない場合がある。炭素数が少ない場合も同様に所望の光学特性が得られない場合があり、また、熱安定性が損なわれ、重合反応や溶融成形時の熱により分解するおそれがある。
また、R及びR10がアルキレン基ではなく、例えばアリーレン基のような2価の芳香族基である場合、アルキレン基である場合に比べて、樹脂の光弾性係数が大きくなり、光学特性に劣る。
【0059】
構造単位(a)中、Xは酸素原子、カルボニル基、置換されていてもよいアミノ基である。即ち、構造単位(a)を含有するモノマーは、それぞれ、ジヒドロキシ化合物、ジカルボン酸化合物、ジエステル化合物、ジアミン化合物である。換言すれば、構造単位(a)を形成しうるモノマーとしては、ジヒドロキシ化合物、ジカルボン酸化合物、ジエステル化合物、ジアミン化合物が例示される。Xは酸素原子、又はカルボニル基が好ましく、カルボニル基が特に好ましい。Xがカルボニル基である場合には、樹脂の熱安定性、耐熱性、及び逆波長分散性等の諸特性が優れる傾向がある。
【0060】
構造単位(a)中、nは0~5である。0~2がより好ましく、0~1がさらに好ましく、1が特に好ましい。この範囲であると、モノマーの合成において、純度の高い、明確な構造の化合物を得やすく、また、これを用いた樹脂は耐熱性や光学特性、特に低い光弾性係数や逆波長分散の高い発現効率を得やすい。
【0061】
構造単位(a)中のアザフルオレン環は、上述のR~Rのうち隣接する少なくとも2つの基が互いに結合して形成された芳香環を縮環として有することが好ましい。A~Aとして窒素原子を1つ以上含有する六員環に対して、さらに芳香環が縮環していることがより好ましい。この場合において、窒素原子を含有しない六員環がある場合には、窒素原子を含有しない六員環に対して芳香環が縮環していることが特に好ましい。アザフルオレン環のπ共役系を拡張できるため、樹脂の光学特性をさらに優れたものにすることができる。
具体的には、A及びAの少なくとも1つが=N-であり、A~A,A,Aがいずれも=CH-であり、R及びRが互いに結合して芳香環を形成していることが好ましく、この場合においてさらにR~Rのうち隣接する少なくとも2つの基が互いに結合して形成された芳香環を縮環として有することが特に好ましい。同様に、A及びAの少なくとも1つが=N-であり、A、A,A~Aがいずれも=CH-であり、R及びRが互いに結合して芳香環を形成していることが好ましく、この場合においてさらにR~Rのうち隣接する少なくとも2つの基が互いに結合して形成された芳香環を縮環として有することが特に好ましい。
構造単位(a)の具体例としては、下記[A]群に示す構造が挙げられる。
【0062】
【化14】
【0063】
これらの中で下記[B]群に示される構造単位がさらに好ましい。この場合には、樹脂は、光学特性に優れ、耐熱性、熱安定性、機械特性にも優れる。さらに、この場合には、モノマーの合成も比較的安価に行え、高純度のモノマーを得やすい。
【0064】
【化15】
【0065】
本開示におけるオリゴフルオレン構造単位は、従来多用されている9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンに由来する構造単位(下記構造式(4))や9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンに由来する構造単位(下記構造式(5))と比較して、以下のような特徴を有する。
・従来、ポリマーの主鎖に組み込まれていたフェニル基等の芳香族成分がポリマーの主鎖に組み込まれなくなるため、光弾性係数を低減できる。
【0066】
・主鎖に組み込まれた前記芳香族成分が、短波長ほど複屈折が大きくなる正の波長分散性を示すため、従来は、側鎖のフルオレン環に由来する逆波長分散性が相殺され、樹脂全体としての逆波長分散性が低下してしまっていた。これに対し、芳香族成分が主鎖に組み込まれなくなることにより、逆波長分散性をより強く発現させることができる。
・側鎖のフルオレン環をアザフルオレン環とすることで、逆波長分散性をより強く発現させることができる。
【0067】
・構造単位中に(アザ)フルオレン環を二つ導入することで、高い耐熱性と低い光弾性係数を樹脂に付与できる。
・主鎖が柔軟なアルキレン鎖で構成されるため、樹脂に柔軟性や溶融加工性を付与することができる。
【0068】
【化16】
【0069】
【化17】
【0070】
[本開示の樹脂]
本開示の樹脂は、構造単位(a)を含む熱可塑性樹脂である。好ましくは、重縮合系、又は重付加系の熱可塑性樹脂であり、具体的にはカーボネート結合、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、ウレタン結合、ウレア結合、及びイミド結合からなる群より選ばれる少なくとも1つの結合を有する樹脂、即ち、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、エポキシ、ポリウレタン、ポリイミドが例示される。より好ましくは、重縮合系の熱可塑性樹脂であり、カーボネート結合、エステル結合、アミド結合、イミド結合からなる群より選ばれる少なくとも1つの結合を有する樹脂、即ち、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミドが例示される。更に好ましくは、カーボネート結合及び/又はエステル結合を有する樹脂、即ち、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルカーボネートである。これらの樹脂は耐熱性、機械物性、溶融加工性に優れている。また、構造単位(a)の原料となるモノマーを含む、複数のモノマーを共重合することで、光学物性や耐熱性、機械物性等の諸物性を所望の範囲に制御しやすくなるという利点がある。
【0071】
本開示の構造単位(a)を樹脂中に導入する方法としては、構造単位(a)を分子構造に有するジオール、ジカルボン酸、ジエステル、ジアミンと、他のジオールやジエステル、イソシアネート、エポキシ等と重合する方法が挙げられる。具体的には、ジオールと下記式(6)で表される炭酸ジエステルとの組み合わせで重合を行うことにより、ポリカーボネートを得ることができる。また、ジオールとジエステルとの組み合わせで重合を行うことにより、ポリエステルを得ることができる。また、ジオールとジエステルと炭酸ジエステルの組み合わせで重合を行うことにより、ポリエステルカーボネートを得ることができる。
【0072】
【化18】
【0073】
前記式(6)中、R13とR14はそれぞれ、置換されていてもよい炭素数6~11のアリール基、置換されていてもよい炭素数3~10のヘテロアリール基、又は置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。R13とR14は同一であっても異なっていてもよい。
構造単位(a)の原料となるモノマーとしては、例えば、下記式(7)で表されるジオールや下記式(8)で表されるジエステルが挙げられる。なお、式(7)で表されるジオール、式(8)で表されるジエステルのことを、適宜「アザフルオレンモノマー」という。
【0074】
【化19】
【0075】
【化20】
【0076】
(7)式及び(8)式中、A~A、R~R10、及びnは式(1)と同じである。R11とR12はそれぞれ、水素原子、置換されていてもよい炭素数6~11のアリール基、置換されていてもよい炭素数3~10のヘテロアリール基、又は置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。R11とR12は同一であっても異なっていてもよい。合成が容易であるという観点では、R11とR12が同一であることが好ましい。
中でも前記式(8)で表される特定のジエステルを用いることが好ましい。前記特定のジエステルは、前記式(7)で表される特定のジオールよりも熱安定性が比較的良好であり、また、ポリマー中のアザフルオレン環が好ましい方向に配向し、より強い逆波長分散性を示す傾向がある。
【0077】
一方、ポリカーボネートとポリエステルを比較すると、ジオールと炭酸ジエステルとの重合により得られるポリカーボネートの方が耐熱性と機械特性のバランスが良好な傾向がある。そのため、本開示の樹脂としては、構造単位(a)を有する前記特定のジエステルを、ポリカーボネートに組み込んだ、ポリエステルカーボネートが特に好ましい。
前記式(8)のR11とR12が水素原子、又は、メチル基やエチル基等のアルキル基である場合、通常用いられるポリカーボネートの重合条件においては、重合反応が起こりにくいことがある。そのため、前記式(8)のR11とR12は、アリール基であることが好ましい。
【0078】
前記式(7)で表されるジオールにおいて、nが0の場合には、Rは置換されていてもよい炭素数1~20のアルキレン基であることが好ましい。この場合には、前記式(7)で表されるジオールが安定性に優れ、樹脂重合時の熱で当該ジオールが分解し、樹脂が得られなくなるおそれがない。同様の観点から、nが0の場合には、Rは、置換されていてもよい炭素数1~3のアルキレン基であることがより好ましく、置換されていてもよい炭素数2~3のアルキレン基であることがさらに好ましい。
【0079】
また、前記式(6)で表される炭酸ジエステルも用いて重合反応を行う場合には、前記式(6)のR13、R14、及び前記式(8)のR11、R12がすべて同じ構造であることが好ましい。この場合には、式(6)で表される炭酸ジエステルと式(8)で表されるジエステルとから重合反応中に同じ成分が脱離することとなるため、脱離成分を回収して再利用しやすい。また、重合反応性と再利用での有用性の観点から、R11~R14はフェニル基であることが特に好ましい。R11~R14がフェニル基である場合、重合反応中に脱離する成分はフェノールである。
【0080】
前記式(7)及び式(8)中のアザフルオレン環の具体例としては、下記[I]群に示されるような構造が挙げられる。
【0081】
【化21】
【0082】
これら(具体的には[I]群)の中で、好ましいアザフルオレン環は、下記「J」群に示される。
【0083】
【化22】
【0084】
これら(具体的には[J]群)の中で、特に好ましいアザフルオレン環は、下記「K」群に示される。
【0085】
【化23】
【0086】
式(8)のR11及びR12に関して、「置換されていてもよい炭素数6~11のアリール基」、「置換されていてもよい炭素数3~10のヘテロアリール基」及び「置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基」は、R~Rにおけるそれらの置換基と同様である。
11及びR12は、メチル基、又はエチル基であることが特に好ましい。この場合には、式(8)で表されるジエステル化合物とジヒドロキシ化合物とのエステル交換で生じる低沸点のアルコールを除去することでポリエステル及びポリエステルカーボネートを効率的に合成できる。一方で、エステル交換反応が容易に進行するため、前記ジエステル化合物とジヒドロキシ化合物、炭酸ジエステルを一括添加で反応器に仕込むことで、ポリエステルカーボネートを1段階で合成することができるという観点からは、R11及びR12は、置換されていてもよい炭素数6~11のアリール基であることが好ましい。R11及びR12は、フェニル基であることが特に好ましい。この場合には、ポリエステルカーボネート合成後、フェニル基をフェノールとして留去できる。また、R11及びR12が置換されていてもよい炭素数6~11のアリール基の場合、重合時の反応性の観点から、炭酸ジエステルとして後述のジアリールカーボネート類を用いることが好ましく、副生物を容易に除去できるとの観点からは、R11及びR12のアリール基と、ジアリールカーボネート類におけるアリール基とが同じであることがより好ましい。
【0087】
式(7)及び式(8)で表されるアザフルオレンモノマーにおいて、nは0~5の整数値を示す。nの値が大きくなると、溶解度が下がり精製が困難になるという観点から、nの値は2以下であることが好ましく、0又は1であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。
【0088】
<具体的な構造>
前記式(7)及び式(8)で表されるアザフルオレンモノマーは、下記[L]群に例示される。
【0089】
【化24】
【0090】
【化25】
【0091】
【化26】
【0092】
これらの中で、好ましいアザフルオレンモノマーは、下記「M」群に示される。
【0093】
【化27】
【0094】
本開示のアザフルオレンモノマーにおいて、アザフルオレン環に含まれる5員環と結合を共有する2つの芳香環が、5員環に対して(つまり、5員環を挟んで)非対称な場合、アザフルオレン環の向きにより、異性体が存在する。これらの異性体は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いてもよい。
【0095】
<アザフルオレンモノマーの物性>
本開示のアザフルオレンモノマーの物性値は特に限定されないが、以下に例示する物性値を満足するものであることが好ましい。
【0096】
本開示の樹脂を光学レンズなどの光学材料に使用する場合には、アザフルオレンモノマーの波長587nmにおける屈折率は1.61以上であることが好ましい。この場合には、ポリエステルカーボネート樹脂又はポリエステル樹脂を含む組成物を用いて得られる光学レンズを薄くすることができる。アザフルオレンモノマーの屈折率が高い方がレンズをより薄くする上で有利である。したがって、アザフルオレンモノマーの波長587nmにおける屈折率は、1.62以上であることがより好ましく、1.63以上であることが更に好ましく、1.64以上が特に好ましい。アザフルオレンモノマーの波長587nmにおける屈折率は通常1.75以下である。
【0097】
アザフルオレンモノマーのアッベ数は、25以下であることが好ましい。この場合には、ポリエステルカーボネート樹脂又はポリエステル樹脂を含む組成物を撮像系光学レンズなどの光学材料に使用する上で有利である。モノマーのアッベ数が低い方が撮像系光学レンズを設計する上で有利である。したがって、アザフルオレンモノマーのアッベ数は、22以下であることがより好ましく、20以下であることがさらに好ましく、18以下が特に好ましい。アザフルオレンモノマーのアッベ数は、通常13以上である。
【0098】
ポリエステルカーボネート樹脂又はポリエステル樹脂を含む組成物を光学材料に用いる場合には、アザフルオレンモノマーの波長587nmにおける屈折率が1.61以上であり、かつ、アザフルオレンモノマーのアッベ数は25以下であることが好ましい。この場合には、この場合には、光学材料を小型化、薄肉化する上で、式収差の影響を回避することができる。この効果が向上するという観点から、アザフルオレンモノマーの波長587nmにおける屈折率が1.62以上であり、かつ、アザフルオレンモノマーのアッベ数は22以下であることがより好ましく、アザフルオレンモノマーの波長587nmにおける屈折率が1.63以上であり、かつ、アザフルオレンモノマーのアッベ数は20以下であることがさらに好ましく、アザフルオレンモノマーの波長587nmにおける屈折率が1.64以上であり、かつ、アザフルオレンモノマーのアッベ数は18以下であることが特に好ましい。
【0099】
<アザフルオレンモノマーの製造方法>
本開示のアザフルオレンモノマーの製造方法は何ら限定されないが、アザフルオレンモノマーは、例えば、下記式に示される製造法A又は、製造法Bにより製造される。
【0100】
【化28】
【0101】
ここで各構造式中、A~Aはそれぞれ独立に、=CH-、又は=N-を示す。ただし、A~Aの少なくとも一つは=N-を含む。R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数6~11のアリール基、置換されていてもよい炭素数3~10のヘテロアリール基、置換されていてもよい炭素数1~10のアシル基、置換されていてもよい炭素数1~10のアルコキシ基、置換されていてもよい炭素数6~11のアリールオキシ基、置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよい炭素数2~10のビニル基、置換されていてもよい炭素数2~10のエチニル基、置換基を有するケイ素原子、置換基を有する硫黄原子、ハロゲン原子、ニトロ基、又はシアノ基である。R~Rのうち隣接する少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。RとR10は、それぞれ独立に、直接結合、又は置換されていてもよい炭素数1~20のアルキレン基である。R11とR12はそれぞれ、水素原子、置換されていてもよい炭素数6~11のアリール基、置換されていてもよい炭素数3~10のヘテロアリール基、又は置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。R11とR12は同一であっても異なっていてもよい。nは0~5の整数値を示す。
【0102】
<製造法A>
製造法Aでは、アザフルオレン類(I)を原料として、9―ヒドロキシメチルアザフルオレン類(III)へと変換させる。その後、脱水によりオレフィン体(IV)を合成し、オレフィン体(IV)をアザフルオレニルアニオンと反応させる。これにより、アザオリゴフルオレン化合物(II)を製造する。ここで得られるアザフルオレン化合物(II)から工程(ii)に従い、アザフルオレンモノマー(1)とすることができる。
【0103】
例えば、9―ヒドロキシメチルフルオレンをジベンゾフルバンに変換した後、アニオン重合によって、オリゴフルオレンの混合物を合成する方法が知られている(Tamaki Nakano, Kazuyuki Takewaki, Tohru Yade, and Yoshio Okamoto “Dibenzofulvene, a 1,1-Diphenylethylene Analogue, Gives a π-Stacked Polymer by Anionic, Free-Radical, and Cationic Catalysts” Journal of the American Chemical Society, 1155 Sixteenth,Street N.W. Washington, DC 20036, ACS Publications, 25 August 2001, 123, p.9182-9183参照)。これらを参考に、フルオレンをアザフルオレン類(I)に置き換えることで、アザフルオレン化合物(II)を製造できる。
【0104】
なお、原料のアザフルオレン類(I)の製造方法は何ら限定されないが、例えば、以下の方法が知られている。11H-インデノ[1,2-b]キノリンは、例えば2-ニトロベンズアルデヒドを還元して2-アミノベンズアルデヒドに変換した後、塩基性条件下で、2-アミノベンズアルデヒドを1-インダノンと反応させて、合成される(Nada Marquise, Guillaume Bretel, Frederic Lassagne, Floris Chevallier, Thierry Roisnel, Vincent Dorcet, Yury S. Halauko, Oleg A. Ivashkevich, Vadim E. Matulis, Philippe C. Gros and Florence Mongin. “Deproto-metallation using mixed lithium-zinc and lithium-copper bases and computed CH acidity of 2-substituted quinolines.” RSC Advances. ,Royal Society of Chemistry, Thomas Graham House (290), Science Park, Milton Road, Cambridge, CB4 0WF. ,16 April 2014. 4,19602-19612.参照)。同様の方法で、例えば、2-アミノベンズアルデヒドと2,3-ジヒドロ-1H-ベンズ[e]インデン-1-オンを塩基性条件下で反応させて、7H-ベンズ[6,7]インデノ[1,2-b]キノリンを合成することができる。11H-インデノ[1,2-b]キノキサリンは、ベンゼン-1,2-ジアミンとインダン-1,2-ジオンを反応させて、合成される(Frederic Lassagne, Floris Chevallier, Thierry Roisnel, Vincent Dorcet, Florence Mongin, Luis R. Domingo. “A Combined Experimental and Theoretical Study of the Ammonium Bifluoride Catalyzed egioselective Synthesis of Quinoxalines and Pyrido[2,3-b]pyrazines.”Synthesis, Georg Thieme Verlag KG., 19 May 2015. 47,p.2680-2689参照)。3,3’-メチレン-2,2-ビキノリンは、例えば、2-アミノベンズアルデヒドと1,2-シクロペンタンジオンを塩基性条件下で反応させて、合成される(Jacques Royer, Henri Philippe Husson. “Asymmetric synthesis. 2. Practical method for the asymmetric synthesis of indolizidine alkaloids: total synthesis of (-)-monomorine I.” The Journal of Organic Chemistry, 1155 Sixteenth Street N.W. Washington, DC 20036,ACS Publications. ,1 March 1985. ,50, 5, p.670-673.参照)。
<製造法B>
製造法Bでは、原料のアザフルオレン類(I)の架橋反応(工程(i))を行うことで、アザフルオレン化合物(II)を合成する。その後、アザフルオレン化合物(II)にエステル基を導入(工程(ii))することで、アザフルオレンモノマー(1)を製造する。
【0105】
【化29】
【0106】
式中、A~A、R~R12及びnは、式(7)及び式(8)中のA~A、R~R12及びnと同様である。
以下、製造法Bを、工程(i)アザフルオレン化合物(II)の製造法と、工程(ii)アザフルオレンモノマー(1)の製造法に分けて記載する。
【0107】
<工程(i):アザフルオレン化合物(II)の製造方法>
下記一般式(II)で表されるメチレン架橋を有するアザフルオレン化合物は、例えば、アザフルオレン類(I)及びホルムアルデヒド類から、塩基存在下、下記式で表される反応に従って製造される。
【0108】
【化30】
【0109】
式中、A~A、R~R及びnは、式(1)中のA~A、R~R及びnと同様である。
【0110】
<ホルムアルデヒド類>
工程(i)で用いられるホルムアルデヒド類は、反応系中にホルムアルデヒドを供給できる物質であれば特に限定されない。具体的には、ガス状のホルムアルデヒド、ホルムアルデヒド水溶液、ホルムアルデヒドが重合したパラホルムアルデヒド、トリオキサン等が挙げられる。これらの中で、ホルムアルデヒド水溶液、または、パラホルムアルデヒドを用いることが好ましい。この場合には、工業的に安価な製造が可能になり、また、ホルムアルデヒド類の操作性が容易で正確な秤量が可能となる。
【0111】
(理論量の定義)
nが目的とする値となるアザフルオレン化合物(II)を製造するためには、原料のアザフルオレン類(I)に対するホルムアルデヒド類の理論量(モル比)は、n/(n+1)で表される。
【0112】
(理論量を超えない方がよい理由)
アザフルオレン類(I)に対して、理論量超過のホルムアルデヒド類を用いた場合、nが目的とする値を超えるアザフルオレン化合物(IIa)が生成する傾向がある。nが増加するほど、溶解性が低下するために、目的物(具体的には、nが目的値となるアザフルオレン化合物(II))に、nが目的値を超えるアザフルオレン化合物(IIa)が存在するほど、精製負荷が大きくなる傾向がある。そのため、通常、ホルムアルデヒド類の使用量は、理論量のn/(n+1)倍モル以下であることが好ましい。
【0113】
(理論量を大きく下回わらない方がよい理由)
また、ホルムアルデヒド類の使用量が理論量のn/(n+1)を大きく下回ると、nが目的とする値を満たさないアザフルオレン化合物(IIb)が主生成物となるか、あるいは、原料のアザフルオレン類(I)が未反応で残る。そのため、収率が大きく低下する傾向があることが解っている。
【0114】
ホルムアルデヒド類の使用量は、具体的には、n=1の場合、アザフルオレン類(I)に対して通常0.1倍モル以上、好ましくは0.3倍モル以上、より好ましくは0.38倍モル以上である。また、ホルムアルデヒド類の使用量は、具体的には、n=1の場合、アザフルオレン類(I)に対して通常0.5倍モル以下、好ましくは0.46倍モル以下、さらに好ましくは0.42倍モル以下である。
また、ホルムアルデヒド類の使用量は、n=2の場合、アザフルオレン類(I)に対して、通常0.5倍モル以上、好ましくは0.55倍モル以上、さらに好ましくは0.6倍モル以上である。また、ホルムアルデヒド類の使用量は、n=2の場合、アザフルオレン類(I)に対して、通常0.66倍モル以下、好ましくは0.65倍モル以下、さらに好ましくは0.63倍モル以下である。このように、ホルムアルデヒド類の使用量に従って、主生成物の構造と生成物の比率が大きく変化することが解っており、ホルムアルデヒド類の使用量を限られた条件で用いることで、目的とするn数のアザフルオレン化合物(II)を高収率で得ることができる。
【0115】
<塩基>
工程(i)で用いられる塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどのアルカリ土類金属の炭酸塩;燐酸ナトリウム、燐酸水素ナトリウム、燐酸カリウムなどの燐酸のアルカリ金属塩;n-ブチルリチウム、ターシャリブチルリチウムなどの有機リチウム塩;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムターシャリブトキシドなどのアルカリ金属のアルコキシド塩;水素化ナトリウムや水素化カリウムなどの水素化アルカリ金属塩;トリエチルアミン、ジアザビシクロウンデセンなどの三級アミン;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドなどの四級アンモニウムヒドロキシドなどが用いられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0116】
これらの中で好ましくは、工程(i)の反応において十分な塩基性を有する、アルカリ金属のアルコキシドであり、より好ましくは、工業的に安価なナトリウムメトキシド及びナトリウムエトキシドである。ここでアルカリ金属のアルコキシドは、粉状のものを用いてもよく、アルコール溶液等の液状のものを用いてもよい。また、アルカリ金属とアルコールを反応させて調製してもよい。
【0117】
原料であるアザフルオレン類(I)に対する塩基の使用量の上限は特に限定されないが、使用量が多すぎると撹拌や反応後の精製負荷が大きくなる。このような観点から、塩基の使用量は、通常、アザフルオレン類(I)の10倍モル以下、好ましくは5倍モル以下、より好ましくは1倍モル以下である。一方、塩基の使用量が少なすぎると反応の進行が遅くなる。したがって、塩基の使用量は、通常、原料のアザフルオレン類(I)に対して0.01倍モル以上、好ましくは0.1倍モル以上、より好ましくは0.2倍モル以上である。
【0118】
<溶媒>
工程(i)は溶媒を用いて行うことが望ましい。使用可能な溶媒の具体例としては、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのアルキルニトリル系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メチルシクロペンチルエーテル、ターシャリブチルメチルエーテルなどのエーテル系溶媒;1,2-ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,1,2,2-テトラクロロエタンなどのハロゲン系溶媒;クロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼンなどのハロゲン系芳香族炭化水素;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなどのアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホランなどのスルホキシド系溶媒;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの単環状式脂肪族炭化水素(なお、単環状式脂肪族炭化水素は、環状式脂肪族炭化水素の一種である);メチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,2-ジメチルシクロヘキサン、1,3-ジメチルシクロヘキサン、1,4-ジメチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、n-プロピルシクロヘキサン、tert-ブチルシクロヘキサン、n-ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、1,2,4-トリメチルシクロヘキサン、1,3,5-トリメチルシクロヘキサンなどの単環状式脂肪族炭化水素の誘導体;デカリンなどの多環状式脂肪族炭化水素(なお、多環状式脂肪族炭化水素は、環状式脂肪族炭化水素の一種である);n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、イソオクタン、n-ノナン、n-デカン、n-ドデカン、n-テトラデカンなどの非環状式脂肪族炭化水素;トルエン、p-キシレン、o-キシレン、m-キシレンなどの芳香族炭化水素;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、ターシャリブタノール、ヘキサノール、オクタノール、シクロヘキサノールなどのアルコール系溶媒が挙げられる。
【0119】
これらの中でもアザフルオレン類(I)から生じるアニオンの溶解性が高く、反応の進行が良好である傾向があることから、極性溶媒が好ましい。具体的には、アミド系溶媒又はスルホキシド系溶媒が好ましい。その中で、n=1又は2のアザフルオレン化合物(II)(具体的には、オリゴアザフルオレン化合物(II))を製造する場合には、N,N-ジメチルホルムアミドが特に好ましい。これは、N,N-ジメチルホルムアミドに対するn=1又は2のアザフルオレン化合物(II)の溶解性が低く、目的物は生成後、速やかに析出し、それ以上の反応の進行が抑制され、目的物の選択性が上がる傾向があるためである。
【0120】
これらの溶媒としては、1種を用いても良く、2種以上(具体的には2種以上の混合溶媒)を用いても良い。
工程(i)で製造されるアザフルオレン化合物(II)は、nの値が大きくなるほど溶媒への溶解性が減少することが解っており、生成した目的物が速やかに析出することで、それ以上の反応の進行が抑制されると考えられる。そのため、溶媒の使用量は、nの値に応じて適切に調整することが好ましい。特にn=1又は2のアザフルオレン化合物(II)を製造する場合、目的物の選択性をあげるために、溶媒を過剰に用いないほうが良い。例えば、特に好ましい溶媒であるN,N-ジメチルホルムアミドを用いた場合の溶媒量の上限は、通常、原料のアザフルオレン類(I)の10倍体積量、好ましくは7倍体積量、より好ましくは4倍体積量である。一方、溶媒の使用量が少なすぎると、攪拌が難しくなるとともに反応の進行が遅くなるので、下限は、通常、原料のアザフルオレン類(I)の1倍体積量、好ましくは2倍体積量、さらに好ましくは3倍体積量である。
【0121】
<反応形式>
工程(i)を行う際、反応の形式は、特に限定されず、バッチ型反応でも流通型反応でもそれらの組み合わせでもよい。
【0122】
<反応条件>
工程(i)の反応条件は、nが目的値となるアザフルオレン化合物(II)が生成するように、適宜調整される。nが目的値を超える生成物の反応の進行を抑制するためには、なるべく低温で反応を行うことが好ましい。一方、温度が低すぎると十分な反応速度が得られない可能性がある。
特に好ましい溶媒であるN,N-ジメチルホルムアミドと特に好ましい塩基であるナトリウムエトキシドを用いた場合であって、n=1又は2である場合には、反応温度の上限は、通常30℃、好ましくは20℃、より好ましくは10℃である。一方、下限は、通常-50℃、好ましくは-20℃、より好ましくは0℃である。
工程(i)における一般的な反応時間の下限は、通常30分、好ましくは60分、より好ましくは2時間である。反応時間の上限は、特に限定はされないが、通常20時間、好ましくは10時間、より好ましくは5時間である。
【0123】
<目的物の分離・精製>
反応終了後、反応液を希塩酸などの酸性水に添加し、あるいは希塩酸などの酸性水を反応液に添加することにより、目的物であるアザフルオレン化合物(II)が、析出し、単離される。
また、反応終了後、目的物であるアザフルオレン化合物(II)が可溶な溶媒と水を反応液に添加して、目的物を抽出してもよい。溶媒により抽出された目的物は、溶媒を濃縮する方法、或いは貧溶媒を添加する方法などにより単離される。ただし、室温では溶媒に対するアザフルオレン化合物(II)の溶解性が非常に低い傾向があるため、通常は反応液と酸性水と接触させて析出させる方法が好ましい。
【0124】
得られたアザフルオレン化合物(II)は、そのまま工程(ii)の原料として使用することも可能であるが、精製を行った後に工程(ii)に用いても良い。精製法は、特に限定されず、通常の精製法が採用可能である。具体的には、再結晶、再沈法、抽出精製、カラムクロマトグラフィーなどにより精製が行われる。
【0125】
<アザフルオレンモノマー(1)の製造方法>
以下、下記式で示される工程(ii)におけるアザフルオレンモノマー(1)の製造方法を反応様式に分けて記載する。
【0126】
【化31】
【0127】
式中、A~A、R~R12及びnは、式(7)及び式(8)中のA~A、R~R12及びnと同様である。
【0128】
<工程(iia):マイケル付加による製造法>
下記一般式(1a)で表されるアザフルオレンモノマーは、塩基存在下、アザフルオレン化合物(II)及びエステル基置換オレフィン(V)から、下記の工程(iia)で表される反応に従って製造される。
【0129】
【化32】
【0130】
式中、A~A、R~R11及びnは式(7)及び式(8)中のA~A、R~R11及びnと同様である。Ri、Rii及びRiiiは、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数4~10のアリール基、又は置換されていてもよい炭素数6~10のアラルキル基を表す。
【0131】
<電子求引基置換オレフィン>
反応試剤としての電子求引基置換オレフィンは、工程(iia)における一般式(V)で表されるものである、一般式(V)中、R、Rii及びRiiiは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数4~10のアリール基、又は置換されていてもよい炭素数6~10のアラルキル基を表す。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロヘキシル基などの、直鎖であっても分岐鎖であっても良いアルキル基;フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、2-チエニル基などのアリール基;ベンジル基、2-フェニルエチル基、p-メトキシベンジル基などのアラルキル基が挙げられる。
これらの置換基は、工程(iia)において反応を阻害しない限り、更に任意の置換基で置換されていても良い。
【0132】
電子求引基置換オレフィン(V)としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸フェニル、アクリル酸アリル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル等のメタクリル酸エステル類;2-エチルアクリル酸メチル、2-フェニルアクリル酸メチル等のα-置換不飽和エステル類;桂皮酸メチル、桂皮酸エチル、クロトン酸メチル、クロトン酸エチルなどのβ-置換不飽和エステル類が挙げられる。
電子求引基置換オレフィン(V)としては、重合反応性基を直接導入できる、下記一般式(V-1)で表される不飽和カルボン酸エステルが好ましい。反応速度と反応選択性の観点から、式(V-1)で表される不飽和カルボン酸エステルに含まれるアクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、又はα-置換不飽和エステル類がより好ましく、Riiiが水素原子又はメチル基であるアクリル酸エステル類、Riiiが水素原子又はメチル基であるメタクリル酸エステル類がさらに好ましい。R11は、より小さい方が、工業的に安価な製造が可能になり、かつ蒸留精製も容易で、反応性も高い。そのため、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸フェニル、又はメタクリル酸フェニルが特に好ましい。
【0133】
【化33】
【0134】
式中、R11は式(8)中のR11と同様である。Riiiは、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数4~10のアリール基、又は置換されていてもよい炭素数6~10のアラルキル基を表す。
【0135】
エステル基の有機置換基は、ヒドロキシアルキル基であることが好ましい。具体的には、式(V-1)で表される不飽和カルボン酸エステルは、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート基等のヒドロキシアルキル基を有するエステル類であることが好ましい。この場合には、1段階でポリエステルカーボネート、ポリエステルの原料を得ることができる。
異なる2種以上の電子求引基置換オレフィン(V)を用いてもよいが、精製の簡便性から、1種類の電子求引基置換オレフィン(V)を用いることが好ましい。
【0136】
電子求引基置換オレフィン(V)は、重合活性が高いため、高濃度で存在すると、光、熱、酸・塩基などの外部刺激により、重合が容易に進行する傾向がある。その際、大きな発熱を伴う。そのため、電子求引基置換オレフィン(V)の使用量は、安全性の観点から、あまり過剰に用いない方がよい。電子求引基置換オレフィン(V)の使用量は、原料であるアザフルオレン化合物(II)に対して、通常10倍モル以下、好ましくは5倍モル以下、より好ましくは3倍モル以下である。下限の理論量は、原料に対して2倍モルであるので、電子求引基置換オレフィン(V)の使用量は、原料であるアザフルオレン化合物(II)に対して、通常は2倍モル以上である。反応の進行を速め、原料や中間体を残存させないために、電子求引基置換オレフィン(V)の使用量は、原料のアザフルオレン化合物(II)に対して、好ましくは2.2倍モル以上であり、さらに好ましくは2.5倍モル以上である。
【0137】
<塩基>
塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどのアルカリ土類金属の炭酸塩;燐酸ナトリウム、燐酸水素ナトリウム、燐酸カリウムなどの燐酸のアルカリ金属塩;n-ブチルリチウム、ターシャリブチルリチウムなどの有機リチウム塩;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムターシャリブトキシド、などのアルカリ金属のアルコキシド塩;水素化ナトリウム、水素化カリウムなどの水素化アルカリ金属塩;トリエチルアミン、ジアザビシクロウンデセンなどの三級アミン;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシドなどの四級アンモニウムヒドロキシドが用いられる。塩基としては、1種の物質を用いても、2種以上の物質を用いてもよい。
【0138】
アザフルオレン化合物(II)の架橋基であるメチレン基は溶媒中、塩基存在下で容易に分解反応が進行する。そのため、有機層と水層の2層系で反応を行った場合に、分解反応などの副反応が抑制できることから、水溶性の無機塩基を用いることが好ましい。中でもコスト、反応性の面からアルカリ金属の水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムがより好ましい。
【0139】
また、塩基として水酸化ナトリウムを用いた場合には、水溶液(具体的には、水酸化ナトリウム水溶液)の濃度が薄いと反応速度が著しく低下するため、水溶液の濃度は、通常5wt/vol%以上、好ましくは10wt/vol%以上、より好ましくは25wt/vol%以上である。
塩基の使用量の上限は、上限は特に制限はないが、原料であるアザフルオレン化合物(II)に対する塩基の使用量が多すぎると攪拌や反応後の精製負荷が大きくなる場合がある。したがって、塩基として、25wt/vol%以上の水酸化ナトリウム水溶液を用いた場合、塩基の使用量は、アザフルオレン化合物(II)に対して通常20倍体積量以下、好ましくは10倍体積量以下、より好ましくは5倍体積量以下である。塩基量が少なすぎると反応速度が著しく低下するため、塩基の使用量は、原料のアザフルオレン化合物(II)に対して、通常0.2倍体積量以上であり、好ましくは、0.5倍体積量以上、より好ましくは1倍体積量以上である。
【0140】
<1-4-2-2-3.相間移動触媒>
工程(iia)において、有機層と水層の2層系での反応を行う場合、反応速度を上げるため、相間移動触媒を用いることが好ましい。
相間移動触媒としては、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、メチルトリオクチルアンモニウムクロリド、メチルトリデシルアンモニウムクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムヨージド、アセチルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリドなどの四級アンモニウム塩のハライド(ただし、フッ化物は除く);N,N-ジメチルピロリジニウムクロリド、N-エチル-N-メチルピロリジニウムヨージド、N-ブチル-N-メチルピロリジニウムブロミド、N-ベンジル-N-メチルピロリジニウムクロリド、N-エチル-N-メチルピロリジニウムブロミドなどの四級ピロリジニウム塩のハライド(ただし、フッ化物は除く);N-ブチル-N-メチルモルホリニウムブロミド、N-ブチル-N-メチルモルホリニウムヨージド、N-アリル-N-メチルモルホリニウムブロミドなどの四級モルホリニウム塩のハライド(ただし、フッ化物は除く);N-メチル-N-ベンジルピペリジニウムクロリド、N-メチル-N-ベンジルピペリジニウムブロミド、N,N-ジメチルピペリジニウムヨージド、N-メチル-N-エチルピペリジニウムアセテート、N-メチル-N-エチルピペリジニウムヨージドなどの四級ピペリジニウム塩のハライド(フッ化物は除く);クラウンエーテル類などが挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0141】
相間移動触媒は、好ましくは四級アンモニウム塩、より好ましくはベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、又はベンジルトリエチルアンモニウムクロリドである。
原料であるアザフルオレン化合物(II)に対して、相間移動触媒の使用量が多すぎるとエステルの加水分解や逐次マイケル反応などの副反応の進行が顕著になる傾向があり、また、コストも増大する。かかる観点から、相間移動触媒の使用量は、アザフルオレン化合物(II)に対して、通常5倍モル以下、好ましくは2倍モル以下、さらに好ましくは1倍モル以下である。相間移動触媒の使用量が少なすぎると反応速度の向上効果が十分に得られず、反応速度が著しく低くなる場合があるため、相間移動触媒の使用量は、原料のアザフルオレン化合物に対して、通常0.01倍モル以上であり、好ましくは0.1倍モル以上、より好ましくは0.5倍モル以上である。
【0142】
<溶媒>
工程(iib)は、溶媒を用いて行うことが望ましい。
具体的に使用可能な溶媒としては、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのアルキルニトリル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸フェニル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸フェニル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸メチル、乳酸メチル、乳酸エチル等の直鎖状のエステル類(なお、直鎖状のエステル類は、エステル系溶媒の一種である);γ―ブチロラクトン、カプロラクトン等の環状エステル類(なお、環状エステル類は、エステル系溶媒の一種である);エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコール-1-モノエチルエーテルアセテート等のエーテルエステル類(なお、エーテルエステル類は、エステル系溶媒の一種である);ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メチルシクロペンチルエーテル、ターシャリブチルメチルエーテルなどのエーテル系溶媒;1,2-ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,1,2,2-テトラクロロエタンなどのハロゲン系溶媒;クロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼンなどのハロゲン系芳香族炭化水素;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N,-ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホランなどのスルホキシド系溶媒;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの単環状式脂肪族炭化水素(なお、単環状式脂肪族炭化水素は、環状式脂肪族炭化水素の一種である);メチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,2-ジメチルシクロヘキサン、1,3-ジメチルシクロヘキサン、1,4-ジメチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、n-プロピルシクロヘキサン、tert-ブチルシクロヘキサン、n-ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、1,2,4-トリメチルシクロヘキサン、1,3,5-トリメチルシクロヘキサンなどの単環状式脂肪族炭化水素の誘導体;デカリンなどの多環状式脂肪族炭化水素(多環状式脂肪族炭化水素は、環状式脂肪族炭化水素の一種である);n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、イソオクタン、n-ノナン、n-デカン、n-ドデカン、n-テトラデカンなどの非環状式脂肪族炭化水素;トルエン、p-キシレン、o-キシレン、m-キシレンなどの芳香族炭化水素;ピリジンなどの芳香族複素環;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、ターシャリブタノール、ヘキサノール、オクタノール、シクロヘキサノールなどのアルコール系溶媒が挙げられる。
【0143】
水と相分離する溶媒を用いることで、アザフルオレン化合物(II)の架橋基であるメチレン基の分解反応などの副反応を抑制できる傾向があることが解っている。さらに、原料のアザフルオレン化合物(II)をよく溶解する溶媒を用いた場合に、反応の進行が良好である傾向があることから、温度25℃でのアザフルオレン化合物(II)の溶解度が0.5質量%以上の溶媒を用いることが好ましい。温度25℃でのアザフルオレン化合物(II)の溶解度が1.0質量%以上の溶媒がより好ましく、1.5質量%以上の溶媒がさらに好ましい。具体的には、ハロゲン系脂肪族炭化水素、ハロゲン系芳香族炭化水素、芳香族炭化水素、又はエーテル系溶媒が好ましく、ジクロロメタン、クロロベンゼン、クロロホルム、1,2-ジクロロベンゼン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、又はメチルシクロペンチルエーテルがより好ましい。
【0144】
これらの溶媒は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
溶媒の使用量の上限は、特に制限はないが、反応器あたりの目的物の生成効率を考えると、原料のアザフルオレン化合物(II)の20倍体積量、好ましくは15倍体積量、さらに好ましくは10倍体積量である。一方、溶媒の使用量が少なすぎると試剤の溶解性が悪くなり攪拌が難しくなるとともに反応の進行が遅くなるので、下限は、原料のアザフルオレン化合物(II)の通常1倍体積量、好ましくは2倍体積量、さらに好ましくは4倍体積量である。
【0145】
<反応形式>
工程(iia)を行う際、反応の形式は、特に限定されず、バッチ型反応でも流通型反応でもそれらの組み合わせでもよい。
バッチ式の場合には、反応開始時に電子求引基置換オレフィン(V)を一括添加で反応器内に仕込むと、電子求引基置換オレフィン(V)が高濃度で存在するため、副反応の重合反応が進行し易い。副反応を抑制する観点からは、原料のアザフルオレン化合物(II)、相間移動触媒、溶媒及び塩基を反応器内に加えた後、少量ずつ電子求引基置換オレフィン(V)を逐次添加することが好ましい。
【0146】
<反応条件>
工程(iia)において、温度が低すぎると十分な反応速度が得られず、逆に高すぎると電子求引基置換オレフィン(V)と生成物のアザフルオレンモノマー(1a)の加水分解反応が進行しやすい傾向がある。そのため、温度管理を行うことが好ましい。具体的には、反応温度の下限は、通常-20℃、好ましくは-10℃、より好ましくは-5℃である。一方、反応温度の上限は、通常40℃、好ましくは30℃、より好ましくは20℃、特に好ましくは5℃である。
【0147】
工程(iia)における一般的な反応時間の下限は、通常15分、好ましくは30分、さらに好ましくは1時間である。反応時間の上限は、特に限定はされないが、通常20時間、好ましくは10時間、さらに好ましくは5時間である。
【0148】
<目的物の分離・精製>
目的物であるアザフルオレンモノマー(1a)は、例えば以下のようにして分離、精製される。まず、反応終了後、副生した金属ハロゲン化物、及び残存した無機塩基を濾過して反応液から除去する。その後、溶媒を濃縮する方法、或いは目的物の貧溶媒を添加する方法などにより、目的物であるアザフルオレンモノマー(1a)を析出、単離させる。
【0149】
また、反応終了後、反応液に酸性水と目的物であるアザフルオレンモノマー(1a)が可溶な溶媒とを添加して抽出してもよい。溶媒により抽出された目的物は、溶媒を濃縮する方法、或いは貧溶媒を添加する方法などにより単離することができる。
抽出の際に使用可能な溶媒としては、目的物であるアザフルオレンモノマー(1a)が溶解するものであれば良く、特に制限はない。具体的には、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物;ジクロロメタン、クロロホルムなどハロゲン系溶媒などが用いられる。溶媒としては、1種又は2種以上が用いられる。
【0150】
ここで得られるアザフルオレンモノマー(1a)は、そのままポリエステル、又は、ポリエステルカーボネート原料モノマーとして使用したり、あるいはポリカーボネート原料モノマーの前駆体として使用することが可能であるが、精製を行ってから使用しても良い。精製法は、特に限定されず、通常の精製法が採用可能である。具体的には、再結晶や、再沈法、抽出精製、カラムクロマトグラフィーなどにより精製が行われる。また、アザフルオレンモノマー(1a)を適当な溶媒に溶解して活性炭で処理(具体的には、精製)することも可能である。その際に使用可能な溶媒は、抽出の際に使用可能な溶媒と同じである。
【0151】
ここで得られるアザフルオレンモノマー(1a)がカルボキシ基を有する場合は、このカルボキシ基を有するアザフルオレンモノマー(1a)を、例えば、ポリエステル又はポリエステルカーボネートの原料モノマーとして使用したり、ポリカーボネートの原料モノマーの前駆体として使用することが可能である。また、エステル化反応により、エステル基を有するアザフルオレンモノマー(1a)へと変換可能である。
【0152】
<工程(iib):アルキル化反応によるアザフルオレンモノマー(1b)の製造法>
アザフルオレンモノマー(1b)は、塩基存在下、アザフルオレン化合物(II)とアルキル化剤(VI-1)及びアルキル化剤(VI-2)のアルキル化反応を経る方法により製造することができる。
【0153】
【化34】
【0154】
式中、A~A、R~R11及びnは式(7)及び式(8)中のA~A、R~R11及びnと同様である。Xは、脱離基を表す。脱離基の例としては、ハロゲン原子(ただし、フッ素を除く。)、メシル基、またはトシル基などが挙げられる。
フルオレン類のアルキル化反応は広く知られており、例えば、9,9-ビス(ブロモへキシル)フルオレンや9,9-ビス(ヨードへキシル)フルオレンなどの9,9-ビス(ハロアルキル)フルオレンが報告されている(Gunin Saikia, Parameswar K. Iyer. “Facile C-H Alkylation in Water: Enabling Defect-Free Materials for Optoelectronic Devices.” The Journal of Organic Chemistry, 1155 Sixteenth Street N.W. Washington, DC 20036, ACS Publications. ,18 March 2010. ,75, 8, p.2714-2717参照)。これらの知見から、アザフルオレン化合物(II)を原料とすることで、アザフルオレンモノマー(1b)の合成は可能である。
【0155】
工程(iib)で用いられるアルキル化剤としては、クロロ酢酸メチル、ブロモ酢酸メチル、ヨード酢酸メチル、クロロ酢酸エチル、ブロモ酢酸エチル、ヨード酢酸エチル、クロロ酢酸プロピル、クロロ酢酸n-ブチル、クロロ酢酸tert-ブチル、ブロモ酢酸tert-ブチル、ヨード酢酸tert-ブチル、2-クロロプロピオン酸メチル、ブロモ2-プロピオン酸メチル、2-ヨードプロピオン酸メチル、2-クロロプロピオン酸エチル、2-クロロプロピオン酸tert-ブチル、2-ブロモプロピオン酸tert-ブチル、2-ブロモプロピオン酸エチル、2-ヨードプロピオン酸エチル、3-クロロ酪酸メチル、3-ブロモ酪酸メチル、3-ヨード酪酸メチル、3-クロロ酪酸エチル、3-クロロ酪酸エチル、3-ヨード酪酸エチル、2-ヨードプロピオン酸tert-ブチルなどのハロアルカン酸アルキル;クロロ酢酸フェニル、ブロモ酢酸フェニル、ヨード酢酸フェニルなどのハロアルカン酸アリール;4-クロロメチル安息香酸メチル、4-ブロモメチル安息香酸メチル、4-クロロメチル安息香酸エチル、4-ブロモメチル安息香酸エチル、3-クロロメチル安息香酸メチル、3-ブロモメチル安息香酸メチルなどのハロアルキル安息香酸アルキルなどが挙げられる。
【0156】
<工程(iic):式(8)において、R11、R12がヒドロキシエステル基を有する基の場合の製造方法(アザフルオレンモノマー(1)のエステル交換反応によるアザフルオレンジヒドロキシエステル(1c)の製造法)>
下記一般式(1c)で表されるアザフルオレンジヒドロキシエステル化合物は、アザフルオレンモノマー(1)及びジオール(VII)から、塩基存在下、下記工程(iic)に従って製造される。
【0157】
【化35】
【0158】
式中、A~A、R~R12及びnは式(7)及び式(8)中のA~A、R~R12及びnと同様である。Rivは、炭素数1~10の有機置換基を表す。
【0159】
<ジオール>
工程(iic)で用いられるジオール(VII)は、炭素数1~10のジオールを表す。具体的には、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなどの鎖状(直鎖であっても分岐鎖であっても良い)のアルキレンジオール;シクロヘキサンジメタノールなどの環状のアルキレンジオール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのオリゴエチレングリコール;イソソルビドなど二級のジオール;レゾルシノールなどの芳香族を含むジオールなどが挙げられる。これらのジオールは、本反応を阻害しない範囲で任意の置換基で置換されていても良い。
【0160】
中でも、アルキレングリコール又はオリゴエチレングリコールが反応速度とコストの観点から好ましく、エチレングリコールが特に好ましい。
工程(iic)において,異なる2種以上のジオール(VII)を用いることも可能であるが、精製の簡便性からは、通常は1種類のジオール(VII)が用いられる。
ジオール(VII)の使用量は、原料のアザフルオレンモノマー(1)のエステル基の有機置換基から生じるアルコールと、加えたジオール(VII)の競争反応となる傾向があるため、ジオール(VII)の使用量が多いほうが、反応の進行が速い。また、ジオール(VII)の使用量が多い方が、下記一般式(VIII)に示すアザフルオレンがジオールで架橋された副生成物の生成を抑えることができる。この自己エステル交換生成物(VIII)は、それ自身がポリエステルカーボネートを含むポリカーボネート原料、またはポリエステル原料として働くため、アザフルオレンジヒドロキシエステル化合物(1c)中に含有されていても、ポリカーボネート原料、ポリエステル原料、ポリエステルカーボネート原料としては、大きな問題はないと考えられる。しかしながら、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルカーボネートの品質の観点から、自己エステル交換生成物(VIII)の含有割合は、生成物のアザフルオレンジヒドロキシエステル化合物(1c)に対して、通常0.1倍モル以下、好ましくは0.05倍モル以下、より好ましくは0.03倍モル以下である。ジオール(VII)の使用量は、アザフルオレンモノマー(1)に対して通常、3倍モル以上、好ましくは10倍モル以上、より好ましくは50倍モル以上である。
【0161】
【化36】
【0162】
式中、A~A、R~R10及びnは前記式(7)及び式(8)中のA~A、R~R10及びnと同様である。Rivは、炭素数1~10の有機置換基を表す。
【0163】
ジオール(VII)は、仕込み時に一括添加してもよく、反応の進行に従って分割添加してもよい。前記一般式(VIII)に示す自己エステル交換生成物は、ジオール(VII)の添加によりアザフルオレンジヒドロキシエステル化合物(1c)への変換が可能である。
<塩基>
工程(iic)で用いられる塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどのアルカリ土類金属の炭酸塩;燐酸ナトリウム、燐酸水素ナトリウム、燐酸カリウムなどの燐酸のアルカリ金属塩;n-ブチルリチウム、ターシャリブチルリチウムなどの有機リチウム塩;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムターシャリブトキシドなどのアルカリ金属のアルコキシド塩;水素化ナトリウムや水素化カリウムなどの水素化アルカリ金属塩;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドなどの四級アンモニウムヒドロキシドが用いられる。
【0164】
これらの塩基としては、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
これらの塩基中でもコスト、反応性の面からアルカリ金属のアルコキシドが好ましく、特にナトリウムメトキシド又はナトリウムエトキシドがより好ましい。
塩基の使用量の上限は、特に限定されないが、塩基の使用量が多すぎると撹拌や反応後の精製負荷が大きくなる傾向がある。したがって、塩基の使用量は、アザフルオレンモノマー(1)の10倍モル以下、好ましくは5倍モル以下、さらに好ましくは1倍モル以下である。
【0165】
一方、塩基の使用量が少なすぎると反応の進行が遅くなる傾向があるので、塩基の使用量は、原料のアザフルオレンモノマー(1)の通常0.01倍モル以上、好ましくは0.05倍モル以上、より好ましくは0.1倍モル以上である。
【0166】
<溶媒>
工程(iic)は、無溶媒で行っても良いが、原料のアザフルオレンモノマー(1)が反応試剤のジオール(VII)に対する溶解性が低く、ジオールとの反応性が低い場合には、溶媒を用いて行っても良い。
【0167】
具体的に使用可能な溶媒としては、アセトニトリル、プロピオニトリルなどアルキルニトリル系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メチルシクロペンチルエーテル、ターシャリブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒;1,2-ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,1,2,2-テトラクロロエタンなどのハロゲン系溶媒;クロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼンなどのハロゲン系芳香族炭化水素;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N,-ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホランなどのスルホキシド系溶媒;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの単環状式脂肪族炭化水素(なお、単環状式脂肪族炭化水素は、環状式脂肪族炭化水素の一種である);メチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,2-ジメチルシクロヘキサン、1,3-ジメチルシクロヘキサン、1,4-ジメチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、n-プロピルシクロヘキサン、tert-ブチルシクロヘキサン、n-ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、1,2,4-トリメチルシクロヘキサン、1,3,5-トリメチルシクロヘキサンなどの単環状式脂肪族炭化水素の誘導体;デカリンなどの多環状式脂肪族炭化水素(多環状式脂肪族炭化水素は、環状式脂肪族炭化水素の一種である);n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、イソオクタン、n-ノナン、n-デカン、n-ドデカン、n-テトラデカンなどの非環状式脂肪族炭化水素;トルエン、p-キシレン、o-キシレン、m-キシレンなどの芳香族炭化水素が挙げられる。これらの溶媒としては1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0168】
これらの溶媒中でも、原料のアザフルオレンモノマー(1)とジオール(VII)の両方の溶解性が高い溶媒を用いた場合に、反応の進行が良好である傾向があることから、エーテル系溶媒が好ましい。また、高温での反応が可能であることから、ジエチレングリコールジメチルエーテル、又はトリエチレングリコールジメチルエーテルが特に好ましい。
【0169】
溶媒の使用量の上限は、特に制限はないが、反応器あたりの目的物の生成効率を考えると、原料のアザフルオレンモノマー(1)の通常20倍体積量、好ましくは15倍体積量、より好ましくは10倍体積量である。一方、溶媒の使用量が少なすぎると試剤の溶解性が悪くなり攪拌が難しくなるとともに反応の進行が遅くなる傾向があるので、下限は、原料のアザフルオレンモノマー(1)の通常1倍体積量、好ましくは2倍体積量、より好ましくは4倍体積量である。
【0170】
<反応形式>
工程(iic)を行う際、反応の形式は、特に限定されず、バッチ型反応でも流通型反応でもそれらの組み合わせでもよい。
<反応条件>
溶媒や反応試剤であるジオール(VII)に水分が含まれている場合、エステルの加水分解が進行し、以下に示すようなジカルボン酸(IX)やヒドロキシカルボン酸(X)が副生成物として生成する傾向がある。副生成物の量は、水分量の増加に伴って増大する傾向がある。副生成物を抑制するためには、溶媒や反応試剤であるジオール(VII)として無水のものを用いるか、反応前に、トルエン、キシレンなどの反応に関与せず、水と共沸する溶媒を用いて、共沸脱水を行ってから、反応を行うことが好ましい。
【0171】
【化37】
【0172】
式中、A~A、R~R10及びnは前記式(7)及び式(8)中のA~A、R~R10及びnと同様である。Rivは、炭素数1~10の有機置換基を表す。
【0173】
なお、ジカルボン酸(IX)やヒドロキシカルボン酸(X)は、ポリエステルカーボネートを含むポリカーボネート原料、またはポリエステル原料として使用することもできる。
工程(iic)では、温度が低すぎると十分な反応速度が得られない傾向がある。そのため、反応温度の下限は、通常20℃、好ましくは50℃、より好ましくは80℃である。一方、上限は、通常150℃、好ましくは120℃、より好ましくは100℃である。
【0174】
工程(iic)における一般的な反応時間の下限は、通常1時間、好ましくは2時間、より好ましくは4時間である。反応時間の上限は、特に限定はされないが、通常30時間、好ましくは20時間、より好ましくは10時間である。
<目的物の分離・精製>
目的物であるアザフルオレンジヒドロキシエステル化合物(1c)は、例えば以下のようにして分離、精製される。まず、反応終了後、副生した金属ハロゲン化物、及び残存した無機塩基などの不溶物を濾過して反応液から除去する。その後、溶媒を濃縮する方法、或いは目的物の貧溶媒を添加する方法などにより、目的物であるアザフルオレンジヒドロキシエステル化合物(1c)を析出、単離させる。
【0175】
また、反応終了後、反応液に酸性水と目的物であるアザフルオレンジヒドロキシエステル化合物(1c)が可溶な溶媒を添加して抽出してもよい。溶媒により抽出された目的物は、溶媒を濃縮する方法、或いは貧溶媒を添加する方法などにより単離することができる。また、溶媒により抽出された目的物を、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの水溶液で洗浄することにより、副生成物であるカルボン酸を除去することができる。
【0176】
抽出の際に使用可能な溶媒としては、目的物であるアザフルオレンジヒドロキシエステル化合物(1c)が溶解するものであれば良く、特に制限はない。具体的には、酢酸エチルなどのエステル系溶媒;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物;ジクロロメタン、クロロホルムなどハロゲン系溶媒などが用いられる。溶媒としては、1種又は2種以上が用いられる。
【0177】
アザフルオレンジヒドロキシエステル化合物(1c)は、ポリエステルカーボネートを含むポリカーボネート原料、またはポリエステル原料として、そのまま重合に使用することも可能であるし、精製を行ってから使用してもよい。精製法は、特に限定されず、通常の精製法が採用可能である。具体的には、再結晶や、再沈法、抽出精製などにより精製が行われる。また、アザフルオレンジヒドロキシエステル化合物(1c)を適当な溶媒に溶解して活性炭で処理(具体的には、精製)することも可能である。その際に使用可能な溶媒は、抽出の際に使用可能な溶媒と同じである。
【0178】
<一般式(1d)のアザフルオレンジアリールエステル化合物の製造方法(アザフルオレンジエステル化合物(1)の合成後、エステル交換反応によるアザフルオレンジアリールエステル化合物(1d)の製造法)>
アザフルオレンジアリールエステル化合物(1d)は、アザフルオレンジエステル化合物(1)を合成する工程(工程(iia)、工程(iib)と、続くジアリールカーボネート類(XI)とのエステル交換反応(工程(iid))を経る方法により製造することができる。
【0179】
【化38】
【0180】
式中、A~A、R~R12及びnは式(7)及び式(8)中のA~A、R~R12及びnと同様である。Arは、炭素数6~11のアリール基を表す。
【0181】
<ジアリールカーボネート類(XI)>
ジアリールカーボネート類(XI)は、反応試剤である。アリールカーボネート類(XI)としては、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m-クレジルカーボネート、ジナフチルカーネート、ビス(ビフェニル)カーボネートなどが挙げられる。これらの中でも、安価で、工業的に入手可能なジフェニルカーボネートが好ましい。これらのジアリールカーボネート類は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いてもよい。
【0182】
ジアリールカーボネート類(XI)の使用量の上限は、特に限定されない。ただし、原料であるアザフルオレンモノマー(1)に対して、使用量が多すぎると反応後の精製負荷が大きくなる傾向がある。したがって、ジアリールカーボネート類(XI)の使用量は、アザフルオレンモノマーの通常20倍モル以下、好ましくは10倍モル以下、より好ましくは5倍モル以下である。一方、ジアリールカーボネート類(XI)の使用量が少なすぎると原料のアザフルオレンモノマー(1)生成物中に残存したり、中間体として以下に示すようなアザフルオレンモノアリールエステル化合物(1e)が生成し、最終生成物中に残ってしまう場合がある。これを抑制するために、ジアリールカーボネート類(XI)の使用量は、原料のアザフルオレンモノマー(1)に対して通常1倍モル以上、好ましくは1.5倍モル以上、さらに好ましくは2倍モル以上である。
【0183】
【化39】
【0184】
式中、A~A、R~R11及びnは前記式(7)及び式(8)中のA~A、R~R11及びnと同様である。Arは、炭素数6~11のアリール基を表す。
【0185】
<エステル交換反応触媒>
エステル交換反応触媒としては、テトラブトキシチタン、テトライソブトキシチタン、テトラメトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラキス(2-エチルヘキシルオキシ)チタン、テトラステアリルオキシチタン、テトラフェノキシチタン、チタニウム(IV)アセチルアセトナート、チタニウム(IV)ジイソプロポキシドビス(アセチルアセトナト)などのチタン化合物;炭酸リチウム、ジブチルアミノリチウム、リチウムアセチルアセトナート、ナトリウムフェノキシド、カリウムフェノキシドなどのアルカリ金属化合物;カドミウムアセチルアセトナート、炭酸カドミウムなどのカドミウム化合物;ジルコニウムアセチルアセトナート、ジルコノセンなどのジルコニウム化合物;硫化鉛、水酸化鉛、鉛酸塩、亜鉛酸塩、炭酸鉛、酢酸鉛、テトラブチル鉛、テトラフェニル鉛、トリフェニル鉛、ジメトキシ鉛、ジフェノキシ鉛などの鉛化合物;酢酸銅、銅ビスアセチルアセトナート、オレイン酸銅、ブチル銅、ジメトキシ銅、塩化銅などの銅化合物;水酸化鉄、炭酸鉄、トリアセトキシ鉄、トリメトキシ鉄、トリフェノキシ鉄などの鉄化合物;亜鉛ビスアセチルアセトナート、ジアセトキシ亜鉛、ジメトキシ亜鉛、ジエトキシ亜鉛、ジフェノキシ亜鉛などの亜鉛化合物;ジn-ブチルスズオキシド、ジフェニルスズオキシド、ジn-オクリルスズオキシド、ジn-ブチルスズジメトキシド、ジn-ブチルスズジアクリレート、ジn-ブチルスズジメタクリレート、ジn-ブチルスズジラウレート、テトラメトキシスズ、テトラフェノキシスズ、テトラブチル-1,3-ジアセトキシジスタノキサンなどの有機スズ化合物;酢酸アルミニウム、アルミニウムメトキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムフェノキシドなどのアルミニウム化合物;二塩化バナジウム、三塩化バナジウム、四塩化バナジウム、硫酸バナジウムなどのバナジウム化合物;テトラフェニルホスホニウムフェノキシドなどのホスホニウム塩などが挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0186】
これらの中で、工業的に安価であり、反応操作上の優位性があることから、ホスホニウム塩、リチウム化合物、ジルコニウム化合物、有機スズ化合物、又はチタン化合物等を用いることが好ましく、中でも有機スズ化合物又はチタン化合物が特に好ましい。
【0187】
エステル交換反応触媒の使用量の上限は、特に限定されないが、使用量が多すぎると反応後の精製負荷が大きくなるので、通常、アザフルオレンモノマー(1)に対して、通常20モル%以下、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
一方、エステル交換反応触媒の使用量が少なすぎると反応時間が長くなりすぎてしまう場合があるため、エステル交換反応触媒の使用量は、原料のアザフルオレンモノマーに対して、通常0.1モル%以上、好ましくは0.5モル%以上、より好ましくは1モル%以上である。
【0188】
<溶媒>
工程(iid)では、反応溶媒を用いてもよいが、反応溶媒を用いずに、原料のアザフルオレンモノマー(1)、ジアリールカーボネート類(XI)、エステル交換反応触媒だけで反応を行うことが好ましい。しかしながら、原料のアザフルオレンモノマー(1)、ジアリールカーボネート類(XI)が常温で固体で、攪拌が困難な場合においては、反応溶媒を使用してもよい。反応溶媒を使用する場合、上述の原料のアザフルオレンモノマー(1)、ジアリールカーボネート類(XI)、及びエステル交換反応触媒を好適に溶解及び/又は分散させることが可能な溶媒であれば、その種類は限定されない。
【0189】
具体的に使用可能な溶媒としては、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのアルキルニトリル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メチルシクロペンチルエーテル、ターシャリブチルメチルエーテルなどのエーテル系溶媒;1,2-ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,1,2,2-テトラクロロエタンなどのハロゲン系溶媒;クロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼンなどのハロゲン系芳香族炭化水素;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N,-ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホランなどのスルホキシド系溶媒;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの単環状式脂肪族炭化水素(なお、単環状式脂肪族炭化水素は、環状式脂肪族炭化水素の一種である);メチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,2-ジメチルシクロヘキサン、1,3-ジメチルシクロヘキサン、1,4-ジメチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、n-プロピルシクロヘキサン、tert-ブチルシクロヘキサン、n-ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、1,2,4-トリメチルシクロヘキサン、1,3,5-トリメチルシクロヘキサンなどの単環状式脂肪族炭化水素の誘導体;デカリンなどの多環状式脂肪族炭化水素(なお、多環状式脂肪族炭化水素は、環状式脂肪族炭化水素の一種である);n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、イソオクタン、n-ノナン、n-デカン、n-ドデカン、n-テトラデカンなどの非環状式脂肪族炭化水素;トルエン、p-キシレン、o-キシレン、m-キシレン、1,3,5-トリメチルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレンなどの芳香族炭化水素;ピリジンなどの芳香族複素環が挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0190】
工程(iid)の反応は通常100℃以上の高温で行うことが好ましい。そのため、前記の溶媒の中でも沸点が100℃以上の溶媒であるクロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、トルエン、p-キシレン、o-キシレン、m-キシレン、1,3,5-トリメチルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、又はスルホランが好ましい。原料のアザフルオレンジエステル化合物(1)を好適に溶解させることができ、沸点が130℃以上で、より高温での反応が可能になることから、1,2-ジクロロベンゼン、キシレン、1,3,5-トリメチルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、又は1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレンが特に好ましい。
【0191】
溶媒の使用量の上限は、特に限定されないが、反応器あたりの目的物の生成効率を向上させる観点から、溶媒の使用量の上限は、原料のアザフルオレンモノマー(1)の通常15倍体積量、好ましくは10倍体積量、より好ましくは5倍体積量である。一方、溶媒の使用量が少なすぎると試剤の溶解性が悪くなり攪拌が難しくなるとともに反応の進行が遅くなる。したがって、溶媒の使用量の下限は、原料のアザフルオレンモノマー(1)の通常0.5倍体積量、好ましくは1倍体積量、より好ましくは2倍体積量である。
【0192】
<反応形式>
工程(iid)を行う際、反応の形式は、特に限定されず、バッチ型反応でも流通型反応でもそれらの組み合わせでもよい。
【0193】
<反応条件>
工程(iid)の反応では、温度が低すぎると十分な反応速度が得られない傾向がある。そのため、反応温度の下限は、通常50℃、好ましくは70℃、より好ましくは100℃である。一方、反応温度の上限は、通常250℃、好ましくは200℃、より好ましくは180℃である。
工程(iid)における反応時間の下限は、通常1時間、好ましくは2時間、より好ましくは3時間である。反応時間の上限は特に限定はされないが、通常30時間、好ましくは20時間、より好ましくは10時間である。
工程(iid)において、平衡を生成物側に偏らせるために、減圧下で副生物を留去しながら反応を行ってもよい。減圧する場合、圧力は、通常20kPa以下、好ましくは10kPa以下、より好ましくは5kPa以下である。一方、減圧が過度になると、試薬として用いるジアリールカーボネート類が昇華する可能性がある。昇華を抑制するという観点から、圧力は、通常0.1kPa以上、好ましくは0.5kPa以上、より好ましくは1.0kPa以上である。
【0194】
<目的物の分離・精製>
反応終了後、反応液に貧溶媒を添加することにより、目的物であるアザフルオレンジアリールエステルモノマー(1d)を、析出させ、単離することができる。
また、反応終了後、目的物であるアザフルオレンジアリールエステルモノマー(1d)が可溶な溶媒と水を反応液に添加して、目的物を抽出してもよい。溶媒により抽出された目的物は、溶媒を濃縮する方法、或いは貧溶媒を添加する方法などにより単離される。
【0195】
得られたアザフルオレンジアリールエステルモノマー(1d)は、ポリエステルカーボネートを含むポリカーボネート原料、またはポリエステル原料として、そのまま重合に使用することも可能であるし、精製を行ってから使用してもよい。精製法は、特に限定されず、通常の精製法が採用可能である。具体的には、再結晶や、再沈法、抽出精製、カラムクロマトグラフィーなどにより精製が行われる。
【0196】
<一般式(7)のジオール化合物の製造方法>
(ジエステル化合物(8)の合成後、還元反応によるジオール化合物(7)の製造法)
ジオール化合物(7)の製造方法は、特に限定されないが、例えばジエステル化合物(8)を出発原料として、還元反応により得ることができる。
【化40】
【0197】
エステルの還元によるジオールの合成法は、よく知られており、米国特許出願公開第2012/0170118号明細書では還元剤の水素化アルミニウムリチウムを用いたエステルの還元反応により、ジオールが製造されている。金属水素化物としては、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムなどを用いることもできる。また、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金を触媒に用いた接触水素化反応によるエステルの還元も広く知られた方法である。
【0198】
(一般式(7)において、Rがメチレン基の場合の製造方法)
がメチレン基であるジオール化合物(7)は、アザフルオレン化合物(II)及びホルムアルデヒド類から、塩基存在下の反応で製造される。
【0199】
<ホルムアルデヒド類>
ホルムアルデヒド類は、反応系中にホルムアルデヒドを供給できる物質であれば特に限定されない。具体的には、ガス状のホルムアルデヒド、ホルムアルデヒド水溶液、ホルムアルデヒドが重合したパラホルムアルデヒド、トリオキサン等が挙げられる。工業的に安価かつ粉末状のため操作性が容易で正確に秤量することが可能であるという観点から、パラホルムアルデヒドを用いることが好ましい。
【0200】
ホルムアルデヒド類の使用量の上限は特に制限はないが、使用量が多すぎると反応後の精製負荷が大きくなる傾向があるので、ホルムアルデヒド類の使用量は、通常、アザフルオレン化合物(II)に対して20倍モル以下、好ましくは10倍モル以下、さらに好ましくは5倍モル以下である。下限は、原料に対して理論量で2倍モルであるので、ホルムアルデヒド類の使用量は、通常は2倍モル以上である。反応の進行を速めまた原料や中間体を残存させないために、ホルムアルデヒド類を原料のアザフルオレン化合物(II)に対して多少過剰に使用することは何ら問題ない。かかる観点からホルムアルデヒド類の使用量は、原料のオリゴフルオレン化合物(II)に対して2.1倍モル以上であることが好ましく、2.2倍モル以上であることがより好ましい。
<塩基>
塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどのアルカリ土類金属の炭酸塩;燐酸ナトリウム、燐酸水素ナトリウム、燐酸カリウムなどの燐酸のアルカリ金属塩;n-ブチルリチウム、ターシャリブチルリチウムなどの有機リチウム塩;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムターシャリブトキシドなどのアルカリ金属のアルコキシド塩;水素化ナトリウムや水素化カリウムなどの水素化アルカリ金属塩;卜リエチルアミン、ジアザビシクロウンデセンなどの三級アミン;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドなどの四級アンモニウムヒドロキシドなどが用いられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0201】
本反応において十分な塩基性を示すという観点から、塩基は、好ましくはアル力リ金属のアルコキシドである。さらに工業的に安価であるという観点から、塩基は、より好ましくはナトリウムメトキシド、又はナトリウムエトキシドである。アルカリ金属のアルコキシドは、粉状であってもよく、アルコール溶液等の液状であってもよい。また、アルカリ金属とアルコールとを反応させることにより、アルコキシドを調製してもよい。
【0202】
塩基を過剰量用いるとジオール化合物(7)の分解反応が進行する傾向がある。したがって、塩基の使用量は、原料のアザフルオレン化合物(II)に対して、通常1倍モル以下、好ましくは0.5倍モル以下、より好ましくは0.2倍モル以下がよい。一方、塩基の使用量が少なすぎると反応の進行が遅くなるので、塩基の使用量は、原料のアザフルオレン化合物(II)に対して、通常0.01倍モル以上、好ましくは0.05倍モル以上である。
【0203】
合成反応には、溶媒を用いることが好ましい。使用可能な溶媒は以下に例示される。具体的には、アルキルニトリル系溶媒としては、アセ卜二トリル、プロピオニトリルなどが用いられる。ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが用いられる。エステル系溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸フロピル、酢酸フェニル、ブロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸フェ二ル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸メチル、乳酸メチル、乳酸エチル等の直鎖状のエステル類;γ-ブチロラクトン、力プロラクトン等の環状エステル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテー卜、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテ一卜、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテ一卜、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセテー卜、フロビレングリコール-1-モノエチルエーテルアセテー卜等のエーテルエステル類などが用いられる。また、エーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メチルシクロペンチルエーテル、ターシャリブチルメチルエーテルなどが用いられる。ハロゲン系溶媒としては、1,2-ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,1,2,2-テトラクロロエタンなどが用いられる。ハロゲン系芳香族炭化水素としては、クロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼンなどが用いられる。アミド系溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセ卜アミド、N-メチルピロリドンなどが用いられる。スルホキシド系溶媒としては、ジメチルスルホキシド、スルホランなどが用いられる。環状式脂肪族炭化水素としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘブタン、シクロオクタンなどの単環状式脂肪族炭化水素;メチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,2-ジメチルシクロヘキサン、1,3-ジメチルシクロヘキサン、1,4-ジメチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、n-プロピルシクロヘキサン、tert-ブチルシクロヘキサン、n-フチルシクロヘキサン、イソフチルシクロヘキサン、1,2,4-卜リメチルシクロヘキサン、1,3,5-卜リメチルシクロヘキサンなどの単環状式脂肪族炭化水素の誘導体;デカリンなどの多環状式脂肪族炭化水素;n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘブタン、n-オクタン、イソオクタン、n-ノナン、n-デ力ン,n-ドデ力ン、n-テトラデ力ンなどの非環状式脂肪族炭化水素が用いられる。芳香族炭化水素としては、トルエン、p-キシレン、o-キシレン、m-キシレンなどが用いられる。アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、ターシャリブタノール、ヘキサノール、オクタノール、シクロヘキサノールなどが用いられる。
【0204】
アザフルオレン化合物(II)から生じるアニオンの溶解性が高く、反応の進行が良好になる傾向があるという観点から、前述の溶媒の中でも極性溶媒であるアミド系溶媒又はスルホキシド系溶媒が好ましく、N,N-ジメチルホルムアミドが特に好ましい。溶媒としては1種を用いても良く、2種以上を用いても良い。溶媒の使用量の上限は、特に限定されないが、反応器あたりの目的物の生成効率という観点からは、原料のアザフルオレン化合物(II)の、通常10倍体積量、好ましくは7倍体積量、より好ましくは4倍体積量である。一方、溶媒の使用量が少なすぎると、攪拌が難しくなるとともに反応の進行が遅くなる傾向がある。したがって、溶媒の使用量の下限は、原料のアザフルオレン化合物(II)の、通常1倍体積量、好ましくは2倍体積量、より好ましくは3倍体積量である。
【0205】
<反応形式>
反応の形式はバッチ型反応でも流通型反応でもそれらを組み合わせたものでも特にその形式は制限なく採用できる。バッチ式の場合の反応試剤の反応器への投入方法は、塩基を反応開始時に一括添加で仕込んだ場合、分解反応が進行しやすいことが解っているので、原料のアザフルオレン化合物(II)、ホルムアルデヒド類、及び溶媒を加えた後に、少量ずつ塩基を添加することが好ましい。
【0206】
<反応条件>
温度が低すぎると十分な反応速度が得られず、逆に高すぎると分解反応が進行する傾向があるため、反応の温度管理が行うことが好ましい。最適な溶媒であるN,N-ジメチルホルムアミドと最適な塩基であるナトリウムエトキシドを用いた場合、反応温度の下限を通常-50℃、上限を通常30℃とする。具体的には、R10がメチレン基でかつn=1の場合、反応温度の上限は、好ましくは20℃、より好ましくは10℃である。一方、下限は、好ましくは-20℃、より好ましくは0℃以上である。また、Rがエチレン基でかつn=1の場合、反応温度の上限は、好ましくは25℃、より好ましくは20℃である。一方、下限は、好ましくは0℃、より好ましくは10℃である。また、R10がメチレン基でかつn=2の場合、反応温度の上限は、好ましくは25℃、より好ましくは20℃である。一方、下限は、好ましくは0℃、より好ましくは10℃である。
【0207】
<目的物の分離・精製>
反応終了後、目的物であるジオール化合物(7)は、反応液を希塩酸などの酸性水に添加し、あるいは希塩酸などの酸性水を反応液に添加し、析出させることにより単離することができる。また、反応終了後、目的物であるジオール化合物(7)が可溶な溶媒と水を反応液に添加して抽出してもよい。溶媒により抽出された目的物は、溶媒を濃縮する方法、或いは貧溶媒を添加する方法などにより単離することができる。
【0208】
得られたジオール化合物(7)は、ポリマー原料としてそのまま重合に使用することも可能であるが、精製を行った後に重合しても良い。精製法は、特に限定されず、通常の精製法が採用可能である、具体的には、再結品、再沈法、抽出精製、カラムクロマトグラフィーなどが採用可能である。
【0209】
金属成分の存在は重合反応に悪影響を及ぼすことが多い。モノマ-中の、長周期型周期表第1族と第2族の金属の含有割合は、好ましくは500質量ppm以下、より好ましくは200質量ppm以下、さらに好ましくは50質量ppm以下、特に好ましくは10質量ppm以下である。金属成分を除くためには、一般的に分液操作が非常に有効であるが、目的物であるジオール化合物(7)は、N,N-ジメチルホルムアミドやテトラヒドロフランなどの高極性溶媒に溶解するため、2層系で行う分液操作は非常に困難である。一方、反応停止後の析出物を水洗したり、析出物に任意の溶媒(液体)を添加して、加熱、懸濁して、洗浄するという通常の精製処理を行っても、混入している金属成分を充分に除くことは困難であり、析出物中には数100質量ppmオーダーの金属成分が残存する場合がある。したがって、不純物を含む反応析出物を、N,N-ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフランなどの高極性溶媒に溶解させた後、溶解物に水を添加して析出させる方法が、簡便かつ効果的な無機塩除去法(つまり、精製法)として好ましい。
【0210】
<アザフルオレンモノマーの具体例>
式(7)において、n=0であるアザフルオレンモノマーの具体例としては、下記[N]群に示されるものが挙げられる。
【0211】
【化41】
【0212】
【化42】
【0213】
好ましいアザフルオレンジアリールエステルモノマーの具体例としては、下記「O」群に示されるものが挙げられる。
【0214】
【化43】
【0215】
本開示の樹脂は、樹脂中の構造単位(a)の含有比率を特定の範囲に調整することで、所望の光学特性を発現することができる。樹脂中の構造単位(a)の含有量は、樹脂全体の重量に対して、1重量%以上、70重量%以下であることが好ましい。樹脂中の構造単位(a)の比率を調節する方法としては、例えば、構造単位(a)を有するモノマーと他のモノマーを共重合する方法や、構造単位(a)を含有する樹脂と他の樹脂とをブレンドする方法が挙げられる。構造単位(a)の含有量を精密に制御でき、かつ、高い透明性が得られ、フィルムの面全体において均一な特性が得られることから、構造単位(a)を有するモノマーと他のモノマーを共重合する方法が好ましい。
【0216】
後述する正の屈折率異方性と、十分な逆波長分散性とを得るためには、構造単位(a)の含有比率は40重量%以下が好ましく、25重量%以下がより好ましく、20重量%以下が特に好ましい。この場合には、光弾性係数やその安定性が良好であり、延伸によって十分に高い複屈折が得られる。また、この場合には、構造単位(a)が樹脂中に占める割合が少ないため、分子設計の幅が広がり、樹脂の改質が求められた時に改良が容易になる。また、構造単位(a)の含有比率は5重量%以上が好ましく、10重量%以上がより好ましい。この場合には、構造単位(a)の含有量のわずかなばらつきに応じて光学特性が敏感に変化することがなく、諸特性が一定の範囲に収まるように樹脂を製造することが容易になる。
【0217】
また、構造単位(a)は高い屈折率を有する構造単位であり、構造単位(a)を用いることで、樹脂は、高屈折率レンズ用途に好適になる。この場合、高い屈折率とともに、適度な耐熱性や流動性を樹脂に付与するという観点からは、樹脂中の構造単位(a)の含有比率は65重量%以下が好ましく、60重量%以下がより好ましい。また、この場合には、樹脂中の構造単位(a)の含有比率は、20重量%以上が好ましく、30重量%以上がより好ましい。
【0218】
本開示の樹脂は、構造単位(a)の原料となるモノマーと他のモノマーとを共重合して得ることが好ましい。共重合する他のモノマーとしては、例えば、ジヒドロキシ化合物やジエステル化合物が挙げられる。目的とする逆波長分散性を発現させるためには、負の複屈折を有する構造単位(a)とともに、正の複屈折を有する構造単位をポリマー構造に組み込むことが好ましい。したがって、共重合する他のモノマーとしては、正の複屈折を有する構造単位の原料となるジヒドロキシ化合物又はジエステル化合物が好ましい。
【0219】
共重合モノマーとしては、芳香族環を含む構造単位を導入可能な化合物と、芳香族環を含む構造単位を導入しない、即ち脂肪族構造で構成される化合物が挙げられる。前記脂肪族構造で構成される化合物の具体例を以下に挙げる。エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,5-ヘプタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール等の直鎖脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物;ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール等の分岐脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物;1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,3-アダマンタンジオール、水添ビスフェノールA、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール等に例示される、脂環式炭化水素の2級アルコール、及び3級アルコールであるジヒドロキシ化合物;1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6-デカリンジメタノール、1,5-デカリンジメタノール、2,3-デカリンジメタノール、2,3-ノルボルナンジメタノール、2,5-ノルボルナンジメタノール、1,3-アダマンタンジメタノール、リモネン等の、脂環式炭化水素の1級アルコールであるジヒドロキシ化合物;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシアルキレングリコール類;イソソルビド等の環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物;スピログリコール、ジオキサングリコール等の環状アセタール構造を有するジヒドロキシ化合物;1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸。なお、脂環式炭化水素の1級アルコールとしては、テルペン化合物から誘導されるジヒドロキシ化合物が例示される。
【0220】
前記芳香族環を含む構造単位を導入可能な化合物の具体例を以下に挙げる。2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-(3-フェニル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-(3,5-ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-エチルヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、ビス(4-ヒドロキシ-3-ニトロフェニル)メタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジクロロジフェニルエーテル等の芳香族ビスフェノール化合物;2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、1,3-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホン等の芳香族基に結合したエーテル基を有するジヒドロキシ化合物;テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’-ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸。
【0221】
尚、前記の脂肪族ジカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸成分は、ジカルボン酸そのものとして前記ポリエステルカーボネートの原料とすることができるが、製造法に応じて、メチルエステル体、フェニルエステル体等のジカルボン酸エステルや、ジカルボン酸ハライド等のジカルボン酸誘導体を原料とすることもできる。
また、共重合モノマーとして、負の複屈折を有する構造単位を有する化合物として従来より知られている、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン等のフルオレン環を有するジヒドロキシ化合物や、フルオレン環を有するジカルボン酸化合物も、構造単位(a)を有するモノマーと組み合わせて用いることができる。
【0222】
光学特性の観点からは、本開示の樹脂は、前記構造単位(a)以外の構造単位として、芳香族成分を含有しない構造単位を含有することが好ましい。即ち、脂肪族構造で構成される化合物を共重合モノマーとして用いることが好ましい。脂肪族構造で構成される化合物の中でも、機械物性や耐熱性に優れるという観点から、脂環式構造を有する化合物がより好ましい。ポリマーの主鎖に芳香族成分が含まれていると、前述したようにアザフルオレン環の逆波長分散性が相殺されるため、構造単位(a)の含有量を増やさなければならなくなり、それにより、光弾性係数や機械物性が悪化する懸念がある。構造単位(a)以外の構造単位として、芳香族成分を含有しない構造単位を採用することにより、主鎖に芳香族成分が組み込まれることを防止できる。
【0223】
一方、光学特性を確保しつつ、耐熱性や機械特性等とのバランスをとるために、ポリマーの主鎖や側鎖に芳香族成分を組み込むことが有効な場合もある。諸特性のバランスをとる観点から、樹脂における、芳香族基を含む構造単位(但し、構造単位(a)を除く。)の含有量が5重量%以下であることが好ましい。
本開示の樹脂は、前記脂環式構造を有する化合物によって導入可能な構造単位の中でも、光学特性、機械特性、耐熱性等の観点から、共重合成分として下記式(10)で表される構造単位と、下記式(11)で表される構造単位の少なくともいずれか一方を含有することが特に好ましい。尚、式(10)で表される構造と、式(11)で表される構造を「構造単位(b)」と称することがある。
【0224】
【化44】
【0225】
【化45】
【0226】
前記式(10)で表される構造単位を導入可能なジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド(ISB)、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、入手及び重合反応性の観点からISBを用いるのが好ましい。
前記式(11)の構造単位を導入可能なジヒドロキシ化合物としては、スピログリコールを用いることができる。
【0227】
本開示の樹脂は、前記式(10)で表される構造単位と前記式(11)で表される構造単位のどちらか片方を含有していても、両方を含有していてもよい。本開示の樹脂において、構造単位(b)は10重量%以上、90重量%以下含有されていることが好ましい。樹脂中の構造単位(b)の含有量は、85重量%以下がより好ましく、80重量%以下がさらに好ましい。樹脂中の構造単位(b)の含有量は、50重量%以上がより好ましく、60重量%以上がさらに好ましく、70重量%以上が特に好ましい。構造単位(b)の含有量が前記下限以上であれば、十分な機械物性や流動性、低い光弾性係数が得られる。一方、構造単位(b)の含有量が前記上限以下であれば、構造単位(a)によって発現する逆波長分散性が十分である。
【0228】
本開示の樹脂は、構造単位(a)及び構造単位(b)以外のさらに別の構造単位を含んでいてもよい。尚、かかる構造単位を「構造単位(c)」と称することがある。樹脂は、少なくとも構造単位(a)を含有し、構造単位(b)及び構造単位(c)の少なくとも一方をさらに含有することができる。
構造単位(c)を有するモノマー(つまり、樹脂に構造単位(c)を導入可能なモノマー)としては、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、その誘導体を用いることが好ましく、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールがより好ましい。これらのモノマーに由来する構造単位を含む樹脂は、光学特性や耐熱性、機械特性等のバランスに優れている。また、ジエステル化合物の重合反応性は比較的低いため、反応効率を高める観点から、構造単位(a)を含有するジエステル化合物以外のジエステル化合物は用いないことが好ましい。
【0229】
構造単位(c)を導入するためのジヒドロキシ化合物やジエステル化合物は、得られる樹脂の要求性能に応じて、単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。樹脂中の構造単位(c)の含有量は、1重量%以上、50重量%以下が好ましく、5重量%以上、40重量%以下がより好ましく、10重量%以上、30重量%以下がさらに好ましい。構造単位(c)は、特に樹脂の耐熱性の調整や柔軟性や靱性の付与の役割を担う。そのため、構造単位(c)の含有量が少なすぎると、樹脂の機械特性や溶融加工性が低下するおそれがある。一方、構造単位(c)含有量が多すぎると、耐熱性や光学特性が低下するおそれがある。つまり、構造単位(c)の含有量を前記範囲に調整することにより、樹脂の機械特性や溶融加工性が向上し、さらに、耐熱性や光学特性が向上する。
【0230】
[本開示の樹脂の製造方法]
本開示の樹脂として好適に用いられる、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルカーボネートは、例えば、一般に用いられる重合方法で製造される。即ち、例えば、ホスゲンやカルボン酸ハロゲン化物を用いた溶液重合法又は界面重合法や、溶媒を用いずに反応を行う溶融重合法を用いて樹脂を製造することができる。これらの製造方法のうち、溶媒や毒性の高い化合物を使用しないで樹脂を製造でき、環境負荷を低減することができるという観点、また、生産性にも優れるという観点から、溶融重合法によって樹脂を製造することが好ましい。
【0231】
重合に溶媒を使用する場合、樹脂中の残存溶媒による可塑化効果によって、樹脂のガラス転移温度が低下するおそれがある。そのため、後述する延伸工程において、分子配向を一定に制御することが困難になる。また、樹脂中に塩化メチレン等のハロゲン系の有機溶媒が残存する場合において、この樹脂は腐食の原因となり、例えば樹脂の成形体が電子機器等に組み込まれると腐食が発生するおそれがある。溶融重合法によって得られる樹脂は溶媒を含有しないため、加工工程や製品品質の安定化にとって有利である。
【0232】
溶融重合法により前記樹脂を製造する際は、例えば、構造単位(a)を有するモノマーと、その他のジオールやジエステルの共重合モノマーと、重合触媒とを混合し、溶融下でエステル交換反応させ、脱離成分を系外に除去しながら反応率を上げていく。重合の終盤では高温、高真空の条件で目的の分子量まで反応を進める。反応が完了したら、反応器から溶融状態の樹脂を抜き出す。このようにして得られた樹脂は、例えば、位相差フィルム等の成形品の原料として使用される。
【0233】
本開示において、ポリカーボネート又はポリエステルカーボネートは、少なくとも構造単位(a)を含有するモノマーと、一種以上のジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを原料に用いて、これらを重縮合させることにより得られる。
重縮合反応に用いられる炭酸ジエステルとしては、通常、前述した一般式(6)で表されるものが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0234】
【化46】
【0235】
前記式(6)中、R13とR14はそれぞれ、置換されていてもよい炭素数6~11のアリール基、置換されていてもよい炭素数3~10のヘテロアリール基、又は置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。R13とR14は同一であっても異なっていてもよい。R13とR14は、置換されていてもよいアリール基であることが好ましく、無置換のアリール基であることがより好ましい。尚、置換基としては、アルキル基、エステル基、エーテル基、カルボン酸、アミド基、ハロゲン等が挙げられる。
【0236】
前記式(6)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート(つまり、DPC)、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートが例示される。また、炭酸ジエステルとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-tert-ブチルカーボネート等が例示される。炭酸ジエステルは、好ましくはジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートであり、より好ましくはジフェニルカーボネートである。尚、炭酸ジエステルは、塩化物イオン等の不純物を含む場合がある。このような不純物は、重合反応を阻害したり、ポリカーボネートの色相を悪化させたりする場合があるため、必要に応じて、蒸留等により精製した炭酸ジエステルを使用することが好ましい。
【0237】
重縮合反応は、反応に用いる全ジヒドロキシ化合物と、ジエステル化合物のモル比率を厳密に調整することで、反応速度や得られる樹脂の分子量を制御できる。ポリカーボネートの場合、全ジヒドロキシ化合物に対する炭酸ジエステルのモル比率を、0.90~1.10に調整することが好ましく、0.95~1.07に調整することがより好ましく、0.98~1.05に調整することが特に好ましい。ポリエステルの場合、全ジヒドロキシ化合物に対する全ジエステル化合物のモル比率を、0.70~1.10に調整することが好ましく、0.80~1.05に調整することがより好ましく、0.85~1.00に調整することが特に好ましい。ポリエステルカーボネートの場合、全ジヒドロキシ化合物に対する炭酸ジエステルと全ジエステル化合物との合計量のモル比率を、0.90~1.10に調整することが好ましく、0.95~1.05に調整することがより好ましく、0.97~1.02に調整することが特に好ましい。
【0238】
前記のモル比率が上下に大きく外れると、所望とする分子量の樹脂が製造できなくなるおそれがある。また、前記のモル比率が小さくなりすぎると、製造された樹脂のヒドロキシ基末端が増加して、樹脂の熱安定性が低下する場合がある。また、前記のモル比率が大きくなりすぎると、同一条件下ではエステル交換反応の速度が低下したり、製造された樹脂中の炭酸ジエステルやジエステル化合物の残存量が増加するおそれがある。残存低分子成分は、樹脂の製膜時や延伸時に揮発し、フィルムの欠陥を招く可能性がある。
【0239】
溶融重合法は、通常、2段階以上の多段工程で実施される。重縮合反応は、1つの重合反応器を用い、順次条件を変えて2段階以上の工程で実施してもよいし、2つ以上の反応器を用いて、それぞれの条件を変えて2段階以上の工程で実施してもよいが、生産効率の観点からは、通常2つ以上、好ましくは3つ以上の反応器を用いて実施する。重縮合反応はバッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせの何れでも構わないが、生産効率と品質の安定性の観点から、連続式が好ましい。
【0240】
重縮合反応においては、反応系内の温度と圧力のバランスを適切に制御することが好ましい。温度、圧力のどちらか一方でも早く変化させすぎると、未反応のモノマーが反応系外に留出するおそれがある。その結果、ジヒドロキシ化合物とジエステル化合物のモル比率が変化し、所望の分子量の樹脂が得られない場合がある。
重縮合反応の重合速度は、ヒドロキシ基末端とエステル基末端あるいはカーボネート基末端とのバランスによって制御される。そのため、特に連続式で重合を行う場合は、未反応モノマーの留出によって末端基のバランスが変動すると、重合速度を一定に制御することが難しくなり、得られる樹脂の分子量の変動が大きくなるおそれがある。樹脂の分子量は溶融粘度と相関するため、得られた樹脂を溶融製膜する際に、溶融粘度が変動し、フィルムの膜厚等の品質を一定に保つことが難しくなり、フィルムの品質や生産性の低下を招くおそれがある。
【0241】
さらに、未反応モノマーが留出すると、末端基のバランスだけでなく、樹脂の共重合組成が所望の組成から外れ、位相差フィルムの光学品質にも影響するおそれがある。本開示の位相差フィルムにおいては、後述する位相差の波長分散性は、樹脂中の構造単位(a)と共重合成分との比率によって制御されるため、重合中に比率がくずれると、設計どおりの光学特性が得られなくなってしまったり、長尺のフィルムを取得する場合は、フィルムの位置によって光学特性が変化し、一定の品質の偏光板を製造できなくなるおそれがある。
【0242】
具体的に、第1段目の反応における反応条件としては、以下の条件を採用することができる。即ち、重合反応器の内温の最高温度は、通常150℃以上、好ましくは170℃以上、より好ましくは190℃以上の範囲で設定される。また、重合反応器の内温の最高温度は、通常250℃以下、好ましくは240℃以下、より好ましくは230℃以下の範囲で設定される。また、重合反応器の圧力は、通常70kPa以下、好ましくは50kPa以下、より好ましくは30kPa以下の範囲で設定される。また、重合反応器の圧力は、通常1kPa以上、好ましくは3kPa以上、より好ましくは5kPa以上の範囲で設定する。なお、圧力は絶対圧力である。また、反応時間は、通常0.1時間以上、好ましくは0.5時間以上で設定される。また、反応時間は、通常10時間以下、好ましくは5時間以下、より好ましくは3時間以下の範囲で設定される。第1段目の反応は、発生するジエステル化合物由来のモノヒドロキシ化合物を反応系外へ留去しながら実施される。例えば炭酸ジエステルとしてジフェニルカーボネートを用いる場合には、第1段目の反応において反応系外へ留去されるモノヒドロキシ化合物はフェノールである。
【0243】
第1段目の反応においては、反応圧力を低くするほど重合反応を促進させることができるが、一方で圧力を過度に低くしてしまうと未反応モノマーの留出が多くなってしまう。未反応モノマーの留出の抑制と、減圧による反応の促進を両立させるために、還流冷却器を具備した反応器を用いることが有効である。特に未反応モノマーの多い反応初期に還流冷却器を用いるのがよい。
【0244】
第2段目以降の反応は、反応系の圧力を第1段目の圧力から徐々に下げ、引き続き発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ除きながら、最終的には反応系の圧力を5kPa以下、好ましくは3kPa以下、より好ましくは1kPa以下にする。また、内温の最高温度は、通常210℃以上、好ましくは220℃以上の範囲で設定する。また、内温の最高温度は、通常260℃以下、好ましくは250℃以下、特に好ましくは240℃以下の範囲で設定する。また、反応時間は、通常0.1時間以上、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上の範囲で設定する。また、反応時間は、通常10時間以下、好ましくは5時間以下、より好ましくは3時間以下の範囲で設定する。着色や熱劣化を抑制し、色相や熱安定性の良好な樹脂を得るには、全反応段階における内温の最高温度は、通常260℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下である。
【0245】
重合時に使用し得るエステル交換反応触媒(以下、「エステル交換反応触媒」のことを、「触媒」又は「重合触媒」と言うことがある)は、反応速度や重縮合して得られる樹脂の色調や熱安定性に非常に大きな影響を与え得る。用いられる触媒は、製造された樹脂の透明性、色相、耐熱性、熱安定性、及び機械的強度を満足させ得るものであれば限定されないが、触媒としては、長周期型周期表における1族又は2族(以下、長周期型周期表における1族を「1族」、長周期型周期表における2族を「2族」と表記する。)の金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物が挙げられる。好ましくは長周期型周期表第2族の金属、及びリチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属の化合物が使用される。
【0246】
1族金属化合物としては、例えば以下の化合物を採用することができるが、これら以外の1族金属化合物を採用することも可能である。水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、テトラフェニルホウ酸ナトリウム、テトラフェニルホウ酸カリウム、テトラフェニルホウ酸リチウム、テトラフェニルホウ酸セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩、2セシウム塩。これらのうち、重合活性と得られるポリカーボネートの色相の観点から、リチウム化合物を用いることが好ましい。
【0247】
前記の2族金属化合物としては、例えば以下の化合物を採用することができるが、これら以外の2族金属化合物を採用することも可能である。水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウム。これらのうち、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、バリウム化合物を用いることが好ましく、重合活性と得られるポリカーボネートの色相の観点から、マグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物を用いることがより好ましく、カルシウム化合物を用いることが特に好ましい。
【0248】
尚、前記の1族金属化合物及び/又は2族金属化合物と共に、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、長周期型周期表第2族の金属およびリチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物を使用することが特に好ましい。
前記の塩基性リン化合物としては、例えば以下の化合物を採用することができるが、これら以外の塩基性リン化合物を採用することも可能である。トリエチルホスフィン、トリ-n-プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、あるいは四級ホスホニウム塩。
【0249】
前記の塩基性アンモニウム化合物としては、例えば以下の化合物を採用することができるが、これら以外の塩基性アンモニウム化合物を採用することも可能である。テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、N,N,N-トリメチルエタノールアミン(コリン)、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド。
【0250】
前記のアミン系化合物としては、例えば以下の化合物を採用することができるが、これら以外のアミン系化合物を採用することも可能である。4-アミノピリジン、2-アミノピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、4-ジエチルアミノピリジン、2-ヒドロキシピリジン、2-メトキシピリジン、4-メトキシピリジン、2-ジメチルアミノイミダゾール、2-メトキシイミダゾール、イミダゾール、2-メルカプトイミダゾール、2-メチルイミダゾール、アミノキノリン、グアニジン。
【0251】
前記重合触媒の使用量は、重合に使用した全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、通常0.1μmol~300μmol、好ましくは0.5μmol~100μmol、より好ましくは1μmol~50μmolである。前記重合触媒として、長周期型周期表第2族の金属、及びリチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物を用いる場合、特にマグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物を用いる場合には、重合触媒の使用量は、金属量として、前記全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、通常0.1μmol以上、好ましくは0.3μmol以上、より好ましくは0.5μmol以上である。また、前記重合触媒の使用量は、通常30μmol以下であり、好ましくは20μmol以下であり、より好ましくは10μmol以下である。
【0252】
モノマーにジエステル化合物を用いて、ポリエステルやポリエステルカーボネートを製造する場合は、前記塩基性化合物と併用して、又は併用せずに、チタン化合物、スズ化合物、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、ジルコニウム化合物、鉛化合物、オスミウム化合物、亜鉛化合物、マンガン化合物等のエステル交換触媒を用いることもできる。これらのエステル交換触媒の使用量は、反応に用いる全ジヒドロキシ化合物1molに対して、金属量として、通常1μmol~1mmolの範囲内であり、好ましくは5μmol~800μmolの範囲内であり、より好ましくは10μmol~500μmolの範囲内である。
【0253】
触媒量が少なすぎると、重合速度が遅くなるため、所望の分子量の樹脂を得ようとするにはその分だけ重合温度を高くせざるを得なくなる。その結果、得られる樹脂の色相が悪化する可能性が高くなり、また、未反応の原料が重合途中で揮発してジヒドロキシ化合物とジエステル化合物のモル比率が崩れ、樹脂が所望の分子量に到達しない可能性がある。一方、重合触媒の使用量が多すぎると、好ましくない副反応を併発し、得られる樹脂の色相の悪化や成形加工時の樹脂の着色を招く可能性がある。
【0254】
1族金属の中でもナトリウム、カリウム、セシウムは、樹脂中に多く含まれると色相に悪影響を及ぼす可能性がある。そして、これらの金属は使用する触媒からのみではなく、原料や反応装置から混入する場合がある。出所にかかわらず、樹脂中のこれらの金属の化合物の合計量は、金属量として、前記全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、通常2μmol以下であり、好ましくは1μmol以下であり、より好ましくは0.5μmol以下である。
【0255】
本開示の樹脂は、前述のとおり重合させた後、通常、冷却固化させ、回転式カッター等でペレット化することができる。ペレット化の方法は限定されるものではないが、最終段の重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させてペレット化させる方法がある。また、最終段の重合反応器から溶融状態で一軸又は二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法がある。また、最終段の重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させて一旦ペレット化させた後に、再度一軸又は二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法がある。
【0256】
このようにして得られた樹脂の分子量は、還元粘度で表すことができる。樹脂の還元粘度が低すぎると成形品の機械強度が小さくなる可能性がある。そのため、還元粘度は、通常0.20dL/g以上であり、0.30dL/g以上であることが好ましい。一方、樹脂の還元粘度が大きすぎると、成形する際の流動性が低下し、生産性や成形性が低下する傾向がある。そのため、還元粘度は、通常1.20dL/g以下であり、1.00dL/g以下が好ましく、0.80dL/g以下がより好ましく、0.60dL/g以下が特に好ましい。尚、還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート濃度を0.6g/dLに精密に調製し、温度20.0℃±0.1℃でウベローデ粘度計を用いて測定する。
【0257】
樹脂が同一の組成の場合、還元粘度と樹脂の溶融粘度は相関がある、そのため、通常は重合反応器の撹拌動力や、溶融樹脂を移送するギアポンプの吐出圧等を運転管理の指標に用いることができる。即ち、前記の運転機器の指示値が目標値に到達した段階で、反応器の圧力を常圧に戻したり、反応器から樹脂を抜き出すことで重合反応を停止させる。
本開示の樹脂の溶融粘度は、温度240℃、剪断速度91.2sec-1の測定条件において700Pa・s以上、5000Pa・s以下であることが好ましい樹脂の溶融粘度は、4000Pa・s以下がより好ましく、3000Pa・s以下がさらに好ましく、2700Pa・s以下が特に好ましい。樹脂の溶融粘度は、1000Pa・s以上がより好ましく、1500Pa・s以上がさらに好ましく、2000Pa・s以上が特に好ましい。尚、溶融粘度は、例えば、キャピラリーレオメーター(東洋精機社製)を用いて測定される。
【0258】
本開示の樹脂のガラス転移温度は、110℃以上160℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度は、155℃以下がより好ましく、150℃以下がさらに好ましく、145℃以下が特に好ましい。ガラス転移温度は、120℃以上がより好ましく、130℃以上がさらに好ましい。ガラス転移温度が前記下限以上である場合には、樹脂の耐熱性が良好になる傾向があり、例えば成形後のフィルムに寸法変化が起きたり、位相差フィルムの使用条件下において品質が損なわれることを防止できる。一方、ガラス転移温度が前記上限以下である場合には、フィルム成形時にフィルムに厚み斑が生じたり、フィルムが脆くなることが抑制され、延伸性が向上する。さらに、フィルムの透明性が良好になる。
【0259】
重縮合反応にジエステル化合物を用いる場合、副生したモノヒドロキシ化合物が樹脂中に残存し、フィルム製膜時や延伸時に揮発し、臭気となって作業環境を悪化させたり、搬送ロール等を汚染し、フィルムの外観を損ねるおそれがある。特に有用な炭酸ジエステルであるジフェニルカーボネート(DPC)を用いる場合、副生するフェノールは比較的沸点が高く、減圧下での反応によっても十分に除去されず、樹脂中に残存しやすい。そのため、本開示の樹脂中に含まれる炭酸ジエステル由来のモノヒドロキシ化合物は1500重量ppm以下であることが好ましく、1000重量ppm以下であることがより好ましく、700重量ppm以下であることがさらに好ましい。尚、前記問題を解決するためには、モノヒドロキシ化合物の含有量は少ないほどよいが、溶融重合法では高分子中に残存するモノヒドロキシ化合物をゼロにすることは困難であり、除去のためには過大な労力が必要である。通常は、モノヒドロキシ化合物の含有量を1重量ppmまで低減することにより、前記の問題を十分に抑制することができる。
【0260】
本開示の樹脂中に残存する、炭酸ジエステル由来のモノヒドロキシ化合物をはじめとする低分子成分を低減するためには、前記のように樹脂を押出機で脱気処理することや、重合終盤の圧力を3kPa以下、好ましくは2kPa以下、さらに好ましくは1kPa以下にすることが効果的である。
重合終盤の圧力を低下させる場合には、反応の圧力を下げすぎると分子量が急激に上昇して、反応の制御が困難になる場合があるため、樹脂の末端基濃度をヒドロキシ基末端過剰かエステル基末端過剰にして、末端基バランスを偏らせて製造することが好ましい。構造単位(a)を有するモノマーとしてジエステル化合物を用いて、ポリエステルカーボネートを合成する場合、構造単位(a)を有するジエステルモノマーは比較的に反応性が低いために、未反応物が残存しやすい。そのため、樹脂の末端基濃度をヒドロキシ基末端過剰側にして重合することで、ジエステルモノマーの反応率を高く上げることが可能になる。即ち、最終的なポリマー中のエステル基末端の量を1mol/ton以上、70mol/ton以下とすることが好ましい。ポリマー中のエステル基末端の量は、50mol/ton以下がより好ましく、30mol/ton以下が特に好ましい。ポリマー中のエステル基末端の量は、5mol/ton以上がより好ましく、10mol/ton以上が特に好ましい。
【0261】
本開示の樹脂には、必要に応じて、成形時等における分子量の低下や色相の悪化を防止するために熱安定剤を配合することができる。かかる熱安定剤としては、通常知られるヒンダードフェノール系熱安定剤および/又はリン系熱安定剤が挙げられる。
ヒンダードフェノール系化合物としては、例えば、以下の化合物を採用することができる。2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、2-tert-ブチル-4-メトキシフェノール、2-tert-ブチル-4,6-ジメチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2-tert-ブチル-6-(3’-tert-ブチル-5’-メチル-2’-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2,2’-メチレン-ビス-(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス-(6-シクロヘキシル-4-メチルフェノール)、2,2’-エチリデン-ビス-(2,4-ジ-tert-ブチルフェノール)、テトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]-メタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン等が挙げられる。中でも、テトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]-メタン、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン。
【0262】
リン系化合物としては、例えば、以下に示す亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸及びこれらのエステル等を採用することができるが、これらの化合物以外のリン系化合物を採用することも可能である。トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、4,4’-ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、ベンゼンホスホン酸ジプロピル。これらの熱安定剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。
【0263】
熱安定剤は、溶融重合時に反応液に添加してもよく、押出機を用いて樹脂に添加し、樹脂と混練させてもよい。溶融押出法によりフィルムを製膜する場合、押出機に前記熱安定剤等を添加して製膜してもよいし、予め押出機を用いて、樹脂中に前記熱安定剤等を添加して、ペレット等の形状にしたものを用いてもよい。
これらの熱安定剤の配合量は、本開示に用いられる樹脂を100重量部とした場合、0.0001重量部以上が好ましく、0.0005重量部以上がより好ましく、0.001重量部以上がさらに好ましく、また、1重量部以下が好ましく、0.5重量部以下がより好ましく、0.2重量部以下がさらに好ましい。
【0264】
本開示の樹脂には、必要に応じて、酸化防止の目的で通常知られた酸化防止剤を配合することもできる。かかる酸化防止剤としては、例えば、以下に示す化合物を採用することができるが、これら以外の化合物を採用することも可能である。ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール-3-ステアリルチオプロピオネート、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-tert-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマイド)、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ベンジルホスホネート-ジエチルエステル、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’-ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)、3,9-ビス{1,1-ジメチル-2-[β-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン。前記の酸化防止剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。これら酸化防止剤の配合量は、樹脂100重量部に対して、0.0001重量部以上が好ましく、0.5重量部以上がより好ましい。
【0265】
本開示の樹脂には、熱安定剤、酸化防止剤の他に、本開示の目的を損なわない範囲で、通常用いられる紫外線吸収剤、離型剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤、核剤、難燃剤、無機充填剤、衝撃改良剤、発泡剤、染顔料等の添加剤が含まれても差し支えない。
本開示の樹脂と、樹脂の機械特性や耐溶剤性等の特性を改質する目的で、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、アクリル、アモルファスポリオレフィン、ABS、AS、ポリ乳酸、ポリブチレンスクシネート等の合成樹脂;ゴム等とを混練し、ポリマーアロイを作製することとができる。つまり、本開示の樹脂をポリマーアロイとして使用することができる。合成樹脂、ゴムとしては、1種又は2種以上を用いることができる。これらの合成樹脂、ゴムなどは、例えば改質剤として樹脂に添加される。
【0266】
前記の添加剤や改質剤を樹脂に混合、混練するタイミングは特に限定されない。例えば、樹脂に添加剤、改質剤を一度に添加するか、あるいは任意の順序で添加する。混合、混練には、タンブラー、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機等が用いられる。これらの中でも、押出機、特には二軸押出機を用いることが、分散性向上の観点から好ましい。
【0267】
[本開示の樹脂の用途例]
前記樹脂は、光学特性や耐熱性、成形性に優れ、高い透明性を兼ね備えているため、光学フィルムや光ディスク、光学プリズム、レンズ等に用いることができる。樹脂に逆波長分散性を付与した場合には、樹脂は特に位相差フィルム用途として好適に用いられる。また、樹脂に高屈折率の特性を付与した場合には、樹脂は、特に高屈折率レンズ用途に好適に用いられる。
【0268】
[本開示の樹脂からなる光学フィルム]
本開示の樹脂を用いて未延伸フィルムを製膜する方法としては、例えば、以下の方法を採用することができる。具体的には、前記樹脂を溶媒に溶解させて得られる溶液をキャストした後、溶媒を除去する流延法を採用することができる(溶液キャスト法)。なお、「キャストする」とは、溶液を例えば一定の膜厚で薄く広げることを意味する。
また、溶媒を用いずに前記樹脂を溶融させて製膜する溶融製膜法を採用することができる。溶融製膜法としては、具体的にはTダイを用いた溶融押出法、カレンダー成形法、熱プレス法、共押出法、共溶融法、多層押出、インフレーション成形法等がある。未延伸フィルムの製膜方法は、特に限定されないが、流延法では残存溶媒による問題を避けるという観点から、好ましくは溶融製膜法である。溶融製膜法の中でも、後工程に行われる延伸処理のし易さから、Tダイを用いた溶融押出法がより好ましい。
【0269】
溶融製膜法により未延伸フィルムを成形する場合、成形温度を270℃以下とすることが好ましく、265℃以下とすることがより好ましく、260℃以下とすることが特に好ましい。成形温度が高過ぎると、得られるフィルム中の異物や気泡の発生による欠陥が増加したり、フィルムが着色したりする可能性がある。ただし、成形温度が低すぎると樹脂の溶融粘度が高くなりすぎ、成形が困難となり、厚みの均一な未延伸フィルムを製造することが困難になる可能性がある。したがって、成形温度は、通常200℃以上、好ましくは210℃以上、より好ましくは220℃以上である。未延伸フィルムの成形温度は、溶融製膜法等における成形時の温度であって、通常、溶融樹脂を押し出すダイスの出口の温度である。つまり、成形温度は、ダイス出口の温度を測定することにより得られる。
【0270】
また、フィルム中に異物が存在すると、偏光板の用途では、異物が光抜け等の欠点として認識される。樹脂中の異物を除去するために、前記の押出機の後にポリマーフィルターを取り付け、樹脂を濾過した後に、ダイスから押し出してフィルムを成形する方法が好ましい。その際、押出機やポリマーフィルター、ダイスを配管でつなぎ、溶融樹脂を移送する必要がある。配管内での熱劣化を極力抑制するため、滞留時間が可能な限り短くなるように各設備を配置することが好ましい。また、押出後のフィルムの搬送や巻き取りの工程はクリーンルーム内で行い、フィルムに異物が付着しないように注意することが好ましい。
【0271】
未延伸フィルムの厚みは、例えば予め設計された延伸後の位相差フィルムの膜厚や、延伸倍率等の延伸条件に合わせて決められるが、厚すぎると厚み斑が生じやすく、薄すぎると延伸時の破断を招く可能性がある。破断を防止する観点から、未延伸フィルムの厚みは、通常30μm以上、好ましくは40μm以上、より好ましくは50μm以上である。また、斑の発生を防止する観点から、未延伸フィルムの厚みは、通常200μm以下、好ましくは160μm以下、より好ましくは120μm以下である。また、未延伸フィルムに厚み斑があると、位相差フィルムの位相差斑を招くため、位相差フィルムとして使用する部分の厚みは設定厚み±3μm以下であることが好ましく、設定厚み±2μm以下であることがより好ましく、設定厚み±1μm以下であることが特に好ましい。
【0272】
未延伸フィルムの長手方向(例えば、延伸方向)の長さは500m以上であることが好ましく、さらに1000m以上が好ましく、特に1500m以上が好ましい。生産性や品質の観点から、位相差フィルムを製造する際は、連続で延伸を行うことが好ましい。通常、延伸開始時に所定の位相差に合わせ込むための条件調整が行われるため、フィルムの長さが短すぎると条件調整後に取得できる製品の量が減ってしまう。
【0273】
未延伸フィルムは、内部ヘイズが3%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましく、1%以下であることが特に好ましい。未延伸フィルムの内部ヘイズが前記上限値よりも大きいと光の散乱が起こり、例えば偏光子と積層した際、偏光解消を生じる原因となる場合がある。内部ヘイズの下限値は特に定めないが、通常0.1%以上である。内部ヘイズの測定には、事前にヘイズ測定を行っておいた粘着剤付き透明フィルムを未延伸フィルムの両面に貼り合せ、外部ヘイズの影響を除去した状態のサンプルを用い、粘着剤付き透明フィルムのヘイズ値を前記サンプルの測定値から差し引いた値を内部ヘイズの値とする。
【0274】
未延伸フィルムのb値は3以下であることが好ましい。この場合には、着色等の発生をより防止することができる。b値はより好ましくは2以下、特に好ましくは1以下である。
未延伸フィルムは、厚みによらず、当該フィルムそのものの全光線透過率が85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、91%以上であることが特に好ましい。透過率が前記下限以上であれば、着色の少ないフィルムが得られる。その結果、フィルムを例えば偏光板と貼り合わせた際には、偏光度や透過率の高い円偏光板が得られる。このような円偏光板は、画像表示装置に用いた際に、高い表示品位を示すことができる。尚、本開示のフィルムの全光線透過率の上限は特に限定されないが、全光線透過率は、通常99%以下である。
【0275】
前記のヘイズやb値を低くすることに加えて、樹脂の屈折率を低くすることによっても、フィルムの表面の反射を抑えられ、全光線透過率を向上させることができる。本開示に用いられる樹脂の、ナトリウムd線(589nm)についての屈折率は1.49~1.56であることが好ましい。また、前記屈折率は、1.50~1.55であることがより好ましく、1.51~1.54であることがさらに好ましい。本開示の樹脂は、部分的に芳香族構造を含有する。そのため、樹脂の屈折率は、芳香族構造を有さない脂肪族ポリマーと比較すると高くなってしまうが、例えば、樹脂の共重合成分に芳香族化合物を用いないことで、屈折率を前記の範囲に収めることができる。
【0276】
本開示の樹脂は、光弾性係数の絶対値が20×10-12Pa-1以下であることが好ましく、15×10-12Pa-1以下であることがより好ましく、12×10-12Pa-1以下であることが特に好ましい。光弾性係数が過度に大きいと、位相差フィルムを偏光板と貼り合わせた際に、画面の周囲が白くぼやけるような画像品質の低下が起きる可能性がある。特に大型の表示装置や、折り曲げ可能(具体的には、ベンダブル、ローラブル、フォルダブル)の表示装置に用いられる場合にはこの問題が顕著に現れる。
【0277】
前記未延伸フィルムは、後述する折り曲げ試験において脆性破壊しないことが好ましい。脆性破壊が生じるフィルムでは、フィルムの製膜時や延伸時にフィルムの破断が起こりやすく、製造の歩留まりを悪化させるおそれがある。脆性破壊しないフィルムとするには、本開示に用いられる樹脂の分子量や溶融粘度、ガラス転移温度を前述の好ましい範囲に設計することが重要である。また、柔軟性を付与できる成分を共重合したり、ブレンドすることにより、フィルムの特性を調整する方法も効果的である。
【0278】
前記未延伸フィルムを延伸配向させることにより、位相差フィルムを得ることができる。延伸方法としては縦一軸延伸、テンター等を用いる横一軸延伸、あるいはそれらを組み合わせた同時二軸延伸、逐次二軸延伸等、公知の方法を用いることができる。延伸はバッチ式で行ってもよいが、連続で行うことが生産性において好ましい。さらにバッチ式に比べて、連続の方がフィルム面内の位相差のばらつきの少ない位相差フィルムが得られる。
【0279】
延伸温度は、通常(Tg-20℃)~(Tg+30℃)の範囲であり、好ましくは(Tg-10℃)~(Tg+20℃)、さらに好ましくは(Tg-5℃)~(Tg+15℃)の範囲内である。なお、Tgは、原料として用いる樹脂のガラス転移温度である。延伸倍率は目的とする位相差値により決められるが、縦、横それぞれ、1.2倍~4倍、より好ましくは1.5倍~3.5倍、さらに好ましくは2倍~3倍である。延伸倍率が小さすぎると、所望とする配向度と配向角が得られる有効範囲が狭くなる。一方、延伸倍率が大きすぎると、延伸中にフィルムが破断したり、しわが発生するおそれがある。
【0280】
延伸速度は、目的に応じて適宜選択される。なお、延伸速度と歪み速度は、下記数式で表される関係がある。歪み速度は、通常30%/分~2000%/分、好ましくは50%/分~1000%/分、より好ましくは70%/分~500%/分、特に好ましくは100%/分~400%/分である。延伸速度が過度に大きいと延伸時の破断を招いたり、高温条件下での長期使用による光学的特性の変動が大きくなったりする可能性がある。また、延伸速度が過度に小さいと生産性が低下するだけでなく、延伸中にポリマー分子鎖の配向緩和が生じ、所望の配向性を得られなくなるおそれがある。
【0281】
歪み速度(%/分)={延伸速度(mm/分)/未延伸フィルムの長さ(mm)}×100
【0282】
フィルムを延伸した後、必要に応じて加熱炉により熱固定処理を行ってもよいし、テンターの幅を制御したり、ロール周速を調整したりして、緩和工程を行ってもよい。熱固定処理は、通常60℃~(Tg)、好ましくは70℃~(Tg-5℃)の温度範囲で行われる。なお、Tgは、未延伸フィルムに用いられる樹脂のガラス転移温度である。熱処理温度が高すぎると、延伸により得られた分子の配向が乱れ、位相差が所望値から大きく低下してしまう可能性がある。また、緩和工程を設ける場合は、延伸によって広がったフィルムの幅に対して、95%~100%に収縮させることで、延伸フィルムに生じた応力を取り除くことができる。この際にフィルムにかける処理温度は、熱固定処理温度と同様である。前記のような熱固定処理や緩和工程を行うことで、高温条件下での長期使用による光学特性の変動を抑制することができる。
【0283】
本開示の樹脂を用いた位相差フィルムは、波長590nmにおける面内の複屈折(Δn)が0.0030以上であると好ましく、0.0035以上がより好ましく、0.0040以上がさらに好ましく、0.0045以上が特に好ましい。位相差は、フィルムの厚み(d)と複屈折(Δn)に比例するため、複屈折を前記特定の範囲にすることにより、薄いフィルムで設計どおりの位相差を発現させることが可能となり、薄型の機器に適合可能な位相差フィルムを得ることができる。高い複屈折を発現させるためには、延伸温度を低くする、延伸倍率を高くする等して、ポリマー分子の配向度を上げなければならないが、そのような延伸条件ではフィルムが破断しやすくなるため、用いる樹脂が靱性に優れているほど有利である。また、複屈折は基本的には高いほど好ましいが、複屈折が過度に高くなると、延伸によって位相差を精度よく制御することが難しくなるおそれがあるため、0.1以下が好ましい。0.08以下がさらに好ましく、0.05以下が特に好ましい。
【0284】
本開示の樹脂を用いた位相差フィルムの厚みは、必要とされる位相差の設計値にもよるが、50μm以下であることが好ましい。45μm以下がより好ましく、40μm以下がさらに好ましく、35μm以下が特に好ましい。一方、厚みが過度に薄いと、フィルムの取り扱いが困難になり、製造中にしわが発生したり、破断が起こったりするため、本開示の位相差フィルムの厚みは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上である。
【0285】
本開示の樹脂を用いた位相差フィルムは、波長450nmの位相差(R450)の、波長550nmの位相差(R550)に対する比(R450/R550)である波長分散の値が0.50以上、1.02以下であることが好ましい。波長分散の値(つまりR450/R550)は、1.00以下がより好ましく、0.95以下がさらに好ましく、0.90以下がさらにより好ましく、0.87以下が特に好ましい。また、波長分散の値は、0.70以上がより好ましく、0.75以上がさらに好ましく、0.80以上がさらにより好ましい。波長分散の値が前述の範囲内であれば、可視領域の広い波長範囲において理想的な位相差特性が得られる。例えば1/4波長板としての波長依存性を有する位相差フィルムを作製し、この位相差フィルムを偏光板と貼り合わせることにより、円偏光板等を作製することができる。これにより、色相の波長依存性が少ない偏光板および表示装置の実現が可能である。
【0286】
前記位相差フィルムと、公知の偏光フィルムとを積層貼合し、所望の寸法に切断することにより円偏光板が得られる。かかる円偏光板は、例えば、各種ディスプレイ(液晶表示装置、有機EL表示装置、プラズマ表示装置、FED電界放出表示装置、SED表面電界表示装置)の視野角補償用、外光の反射防止用、色補償用、直線偏光の円偏光への変換用等に用いることができる。特に有機ELディスプレイの外光反射防止用の円偏光板に用いると、きれいな黒表示が可能となり、品質の信頼性にも優れている。さらに今後の機器の薄型化にも対応し得る性能を有している。
【0287】
前記偏光フィルムとしては、幅方向または長手方向のいずれかに吸収軸を有する偏光フィルムを採用することができる。具体的には、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したフィルム、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等ポリエン系配向フィルム等が挙げられる。これらの中でも、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素などの二色性物質を吸着させて一軸延伸した長尺偏光フィルムが、偏光二色比が高く特に好ましい。
【0288】
前記円偏光板において、前記位相差フィルムの遅相軸と前記偏光フィルムの幅方向とがなす角度は38°以上52°以下であることが好ましく、40°以上50°以下であることがより好ましく、42°以上48°以下であることが特に好ましい。これらの範囲に調整することにより、外光反射の増加を防ぎ、反射光が色づくことを防止できる。そのため、画像の表示品質がより向上する。
【0289】
前記位相差フィルムと前記偏光フィルムとは、粘接着剤を介して積層されていてもよい。粘接着剤としては、前記積層フィルムの光学特性を損なわないものであれば、公知の粘接着剤を使用することができる。
前記円偏光板は、前述のごとく、十分な光学特性を備えると共に、精密性・薄型・均質性を求められる機器に好適に用いることができるよう構成されている。そのため、前記円偏光板は、例えば液晶ディスプレイに用いる液晶パネルや、有機ELディスプレイに用いられる有機ELパネルなどに好適に用いることができる。特に有機ELパネルは外光を反射しやすい金属層を備えているため、外光反射や背景の映り込み等の問題を生じやすい。このような外光反射等を防止するためには、前記円偏光板を発光面に設けることが有効である。
【実施例
【0290】
以下、実施例、及び比較例により本開示をさらに詳細に説明するが、本開示はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。本開示の樹脂と、それを用いてなる光学フィルムの特性評価は次の方法により行った。尚、特性評価手法は以下の方法に限定されるものではなく、当業者が適宜選択することができる。
【0291】
・樹脂の還元粘度
前記樹脂を塩化メチレンに溶解させ、0.6g/dLの濃度の樹脂溶液を調製した。森友理化工業社製ウベローデ型粘度管を用いて、温度20.0℃±0.1℃で測定を行い、溶媒の通過時間t及び溶液の通過時間tを測定した。得られたt及びtの値を用いて次式(i)により相対粘度ηrelを求め、更に、得られた相対粘度ηrelを用いて次式(ii)により比粘度ηspを求めた。
【0292】
ηrel=t/t ・・・(i)
ηsp=(η-η)/η=ηrel-1 ・・・(ii)
【0293】
その後、得られた比粘度ηspを濃度c(g/dL)で割って、還元粘度ηsp/cを求めた。この値が高いほど分子量が大きい。
【0294】
・樹脂の溶融粘度
ペレット状の樹脂を100℃の熱風乾燥器に6時間以上入れて、乾燥させた。乾燥したペレットを用いて、東洋精機(株)製キャピラリーレオメーターで測定を行った。測定温度は240℃とし、剪断速度6.08~1824sec-1間で溶融粘度を測定し、91.2sec-1における溶融粘度の値を用いた。なお、オリフィスには、ダイス径が1mmφ×10mmLのものを用いた。
【0295】
・樹脂のガラス転移温度(Tg)
前記樹脂のガラス転移温度は、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製示差走査熱量計DSC6220を用いて測定した。約10mgの樹脂を同社製アルミパンに入れて密封し、50mL/分の窒素気流下、昇温速度20℃/分で30℃から200℃まで昇温した。3分間温度を保持した後、30℃まで20℃/分の速度で冷却した。30℃で3分保持し、再び200℃まで20℃/分の速度で昇温した。2回目の昇温で得られたDSCデータより、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度である、補外ガラス転移開始温度を求め、それをガラス転移温度とした。
【0296】
・フィルムの成形
100℃の熱風乾燥器で6時間以上、乾燥をした樹脂ペレット約4gを、縦14cm、横14cm、厚さ0.1mmのスペーサーを用い、試料の上下にポリイミドフィルムを敷いて、温度200~230℃で3分間予熱し、圧力7MPaで5分間加圧後、スペーサーごと取り出し、冷却してフィルムを作製した。
【0297】
・光弾性係数
He-Neレーザー、偏光子、補償板、検光子、光検出器からなる複屈折測定装置と振動型粘弾性測定装置(レオロジー社製DVE-3)を組み合わせた装置を用いて測定した(詳細は、日本レオロジー学会誌Vol.19,p93-97(1991)を参照。)。具体的な方法は以下のとおりである。まず、前述の方法により作製したフィルムから、幅5mm、長さ20mmの試料を切り出した。この試料を粘弾性測定装置に固定し、室温(具体的には25℃)で、試料の貯蔵弾性率E’を周波数96Hzにて測定した。貯蔵弾性率E’を測定しながら、He-Neレーザーから出射されるレーザー光を偏光子、試料、補償板、検光子の順に通す。次いで、レーザー光を検出器(フォトダイオード)で拾い、その信号をロックインアンプに通すことにより、角周波数ω又は2ωの波形からその振幅とひずみに対する位相差を求め、ひずみ光学係数O’を求めた。このとき、偏光子の吸収軸の方向(軸)と検光子の吸収軸の方向は直交し、またそれぞれ、試料の伸長方向に対してπ/4の角度をなすように調整した。光弾性係数Cは、貯蔵弾性率E’とひずみ光学係数O’を用いて次式より求めた。
【0298】
C=O’/E’
【0299】
・フィルムの延伸
前述の方法で作製したフィルムから、縦70mm、横100mmのフィルム片を切り出し、バッチ式二軸延伸装置(アイランド工業社製BIX-277-AL)を用いて、自由端一軸延伸を行い、延伸フィルムを得た。延伸条件としては、オーブンの設定温度を樹脂のガラス転移温度+10℃、延伸速度を250%/分とし、延伸倍率を2倍とした。この条件で延伸が成功した場合は、延伸倍率を2.1倍、2.2倍、と徐々に上げていき、破断する延伸倍率に到達するまで延伸を繰り返し行った。
【0300】
・モノマーの屈折率、アッベ数測定
溶媒に1-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用い、試料濃度5重量%から20重量%までの試料溶液を調製し、これを測定試料とした。
株式会社島津デバイス製造製カルニュー精密屈折計KPR-2000を用いて、測定試料の、波長656nm(C線)、587nm(d線)、486nm(F線)の各波長での屈折率(つまり、nC、nd、nF)を測定した。測定は、23℃で行った。
濃度と屈折率を一次関数的にプロットしてグラフを作成し、100%濃度を外挿して、屈折率を得た。
アッベ数νdは次の式で計算した。
νd=(1-nd)/(nC-nF)
アッベ数が大きいほど、屈折率の波長依存性が小さいことを表す。
【0301】
・延伸フィルムの位相差、波長分散、複屈折
前記の方法で延伸を行った中で、最大延伸倍率の延伸フィルムの中央部から幅4cm、長さ4cmの試験片を切り出した。位相差測定装置(具体的には、王子計測機器社製のKOBRA-WPR)を用いて、測定波長446.3nm、498.0nm、547.9nm、585.9nm、629.6nm、747.1nmで、試験片の位相差を測定し、その測定結果から波長分散性を調べた。波長分散性は、波長450nm(具体的には、波長446.3nm)での位相差(R450)と波長550nm(具体的には、波長547.9nm)での位相差(R550)の比(R450/R550)で表した。R450/R550が1より大きいと波長分散は正であり、1未満では逆波長分散となる。1/4波長板として用いる場合、R450/R550の理想値は0.818である(詳細には、450/550=0.818)。
【0302】
波長590nm(具体的には、波長585.9nm)での位相差(R590)と延伸フィルムの厚みとから、次式に基づいて複屈折(Δn)を求めた。
複屈折(Δn)=R590[nm]/(フィルム厚み[mm]×10
各評価サンプルの複屈折(Δn)としては、上述のとおり、延伸倍率を変更して繰り返し延伸を行った中の最大値を用いた。複屈折の値が大きいほど、ポリマーの配向度が高いことを示す。また、複屈折の値が大きいほど、所望の位相差値を得るためのフィルムの厚みを薄くすることができる。1/4波長板の波長590nmにおける理想的な位相差は147.5nmである。上述の方法で得られた複屈折(Δn)を発現した場合に、位相差を1/4波長とする場合のフィルムの膜厚を次式より求めた。
【0303】
1/4波長となる膜厚[μm]=(147.5[nm]/1000)/Δn
[モノマーの合成例]
以下に、樹脂の製造に用いたモノマーの合成方法を説明する。
[モノマーの合成例]
[合成例1]11H-インダノ[1,2-b]キノリン(化合物1)の合成
【0304】
【化47】
【0305】
窒素雰囲気下、1L 4口フラスコに鉄粉 73.9g(1324mmol)、エタノール 276g、1N塩酸 16.9g(16.5mmol)、脱塩水 300gを添加して、内温70~75℃に加熱して撹拌した。2-ニトロベンズアルデヒド 50.0g(331mmol)をエタノール 197gに溶かした液を先のフラスコに1時間かけて滴下し、30分熟成した後、内温50℃以下に冷却して、52重量%炭酸カリウム水溶液5.2gを添加した。桐山漏斗を用いて鉄粉を濾過し、濾別した鉄粉残渣をエタノール233gで洗浄した。得られた濾液をHPLCで分析した結果、2-アミノベンズアルデヒドが32.6g(269mmol、収率82%)含まれていた。この溶液を減圧濃縮して、エタノール 233gを留去した溶液に1-インダノン 39.4g(298mmol)、19重量%水酸化カリウムーエタノール溶液 101.2gを添加して、還流条件下1時間撹拌した。内温50℃以下に冷却して、1N塩酸 344gを添加し、pH7~8に調整した。析出した固体を桐山漏斗で濾過し、80℃で恒量になるまで減圧乾燥し、乳白色固体として、11H-インダノ[1,2-b]キノリン(化合物1)を60.8g(収率79%)取得した。
【0306】
[合成例2]ビス(11H-インデノ[1,2-b]キノリン-11-イル)メタン(化合物2)の合成
【0307】
【化48】
【0308】
窒素雰囲気下、2Lのフラスコにジメチルホルムアミド1.2L、化合物1 100g(460mmol)、50重量%水酸化カリウム水溶液 1.84g(23.01mmol)、37%ホルマリン水溶液 18.7g(230mmol)を添加し、内温25℃で2時間撹拌した。反応液を脱塩水 1Lに注ぎ、析出している固体を濾別し、40℃で恒量になるまで減圧乾燥し、薄茶色固体として、ビス(11H-インデノ[1,2-b]キノリン-11-イル)メタン(化合物2)を45g(101mmol、収率44%)取得した。
【0309】
[合成例3]ジエチル=3,3′-[メチレンビス(11H-インデノ[1,2-b]キノリン-11,11-ジイル)]ジプロピオナート(化合物3)の合成
【0310】
【化49】
【0311】
500mL 4口フラスコに、合成例2で得られたビス(11H-インデノ[1,2-b]キノリン-11-イル)メタン(化合物2) 10g(22mmol)、N-ベンジル-N,N,N-トリエチルアンモニウムクロリド 1g(4.4mmol)、テトラヒドロフラン 100mLを入れ、窒素置換後、内温を15~18℃に制御し、48重量%水酸化ナトリウム水溶液 6.0gを加えた後、アクリル酸エチル 4.9g(49mmol)を30分かけて滴下して、室温で3時間熟成した。トルエン 200mL、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を添加して、抽出分液した後、有機層を減圧濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで、ジエチル=3,3′-[メチレンビス(11H-インデノ[1,2-b]キノリン-11,11-ジイル)]ジプロピオナート(化合物3)を5.0g取得した。なお、化合物3は、流出するフラクションの一部をNMR解析することでジアステレオマーであることを確認した。化合物3の屈折率は1.63、アッベ数は19であった。なお、化合物3の屈折率は、波長587nmでのものである。以下の各化合物の屈折率についても同様である。
【0312】
[合成例4]
ジフェニル=3,3′-[メチレンビス(11H-インデノ[1,2-b]キノリン-11,11-ジイル)]ジプロピオナート(化合物4)の合成
【0313】
【化50】
【0314】
500mLのセパラブルフラスコに、合成例3で得られたジエチル=3,3′-[メチレンビス(11H-インデノ[1,2-b]キノリン-11,11-ジイル)]ジプロピオナート(化合物3) 41g(63.4mmol)、ジフェニルカーボネート 67.9g(317mmol)、オルトチタン酸テトライソブロピル 0.45g(1.6mmol)を入れ、減圧度を3.0kPaに調整し、副生物を留去しながら、内温が185℃に到達するまで、5時間撹拌した。窒素で常圧に腹圧した後、90℃に冷却し、オルトキシレン 203gを加えた。得られた溶液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで、白色固体として、ジフェニル=3,3′-[メチレンビス(11H-インダノ[1,2-b]キノリン-11,11-ジイル)]ジプロピオナート(化合物4)を14.8g(収率31%)で取得した。出始めのフラクションと出終わりのフラクションのNMRを測定した結果、化合物4はジアステレオマーであることを確認した。化合物4の屈折率は1.64、アッベ数は18であった。
【0315】
[合成例5]2,3-ジヒドロ-1H-ベンズ[e]インデン-1-オン(化合物5)の合成
【0316】
【化51】
【0317】
窒素下、1Lの4口フラスコに、塩化アルミニウム 33g(244mmol)、無水ジクロロメタン 300mLを添加して、室温で撹拌した。この溶液に、別途調整した3-クロロプロパノイルクロリド 25g(195mmol)、ナフタレン 25g(195mmol)、無水ジクロロメタン 200mLの混合溶液を1時間かけて滴下した後、室温で2時間撹拌した。反応液を減圧濃縮してジクロロメタンを留去し、茶色固体として化合物5を80g取得した。この化合物5に塩化ナトリウム 28g(483mmol)を添加し、140℃で2時間撹拌した後、室温まで冷却した。得られた反応液を300mLの氷水に注ぎ、30分撹拌した後、水 300mL、ジクロロメタン 300mLを添加して、分液抽出した。分液した水層は、ジクロロメタン 300mLで2回抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水 300mLで洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムを濾別した後、濾液を減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで、黄色固体として化合物5を24g(132mmol、収率68%)で取得した。
【0318】
[合成例6]7H-ベンズ[6,7]インデノ[1,2-b]キノリン(化合物6)の合成
【0319】
【化52】
【0320】
合成例1と同様の方法で合成した2-アミノベンズアルデヒド 64g(527mmol)を含むエタノール溶液 1.5Lに、酢酸アンモニウム 305g(3.95mol)、合成例5で得た2,3-ジヒドロ-1H-ベンズ[e]インデン-1-オン 48g(263mmol)を添加し、85℃で16時間撹拌した。2-アミノベンズアルデヒド 32gを含むエタノール溶液 750mLを添加して、85℃で24時間撹拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣に水 2L、ジクロロメタン 1.5Lを添加し、分液抽出した。水層は、ジクロロメタン 1.5Lで2回抽出した。得られた有機層を飽和食塩水 2Lで洗浄した。得られた有機層をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物6を85g(318mmol、収率40%)で取得した。
【0321】
[合成例7]ジエチル=3,3′-[メチレンビス(7H-ベンズ[6,7]インデノ[1,2-b]キノロン-7,7-ジイル)]ジプロピオナート(化合物7)の合成
【0322】
【化53】
【0323】
合成例6で得られた化合物6を原料として用いる事以外は、合成例2、3と同様の方法でジエチル=3,3′-[メチレンビス(7H-ベンズ[6,7]インデノ[1,2-b]キノロン-7,7-ジイル)]ジプロピオナート(化合物7)を得た。化合物7の屈折率は1.67、アッベ数は14であった。
【0324】
[合成例8]ジフェニル=3,3′-[メチレンビス(7H-ベンズ[6,7]インデノ[1,2-b]キノリン-7,7-ジイル)]ジプロピオナート(化合物8)の合成
【0325】
【化54】
【0326】
化合物7を原料として用いる事以外は、合成例4と同様の方法で化合物8を取得した。化合物8の屈折率は1.68、アッベ数は15であった。
【0327】
[樹脂の合成例、及び特性評価]
以下の実施例、及び比較例で用いた化合物の略号等は以下の通りである。
・ビス[9-(2-フェノキシカルボニルエチル)フルオレン-9-イル]メタン(化合物9)
【0328】
【化55】
【0329】
化合物9は特開2015-25111に記載の方法で合成した。
【0330】
・DPC:ジフェニルカーボネート(三菱ケミカル社製)
・BHEPF:9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-フルオレン(大阪ガスケミカル社製)
・BCF:9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)-フルオレン(大阪ガスケミカル社製)
・ISB:イソソルビド(ロケットフルーレ社製、商品名:POLYSORB)
・SPG:スピログリコール(三菱ガス化学社製)
・CHDM:1,4-シクロヘキサンジメタノール(SKケミカル社製)
【0331】
[実施例1]
ジフェニル=3,3′-[メチレンビス(11H-インデノ[1,2-b]キノリン-11,11-ジイル)]ジプロピオナート(化合物4) 24.42重量部(0.033mol)、ISB 23.76重量部(0.163mol)、SPG 50.33重量部(0.165mol)、DPC 63.21重量部(0.295mol)、及び触媒として酢酸カルシウム1水和物 1.73×10-3重量部(9.84×10-6mol)を反応容器に投入し、反応装置内を減圧窒素置換した。窒素雰囲気下、150℃で約10分間、攪拌しながら原料を溶解させた。反応1段目の工程として、圧力を53.3kPaに調整してから、220℃まで30分かけて昇温した。220℃到達時点から30分後に圧力を53kPaから13.3kPaまで60分かけて減圧した。発生するフェノールは反応系外へ抜き出した。次いで反応2段目の工程として、圧力は13.3kPaに保持したまま、熱媒温度を15分かけて245℃まで昇温し、次いで、圧力を0.10kPa以下まで30分かけて減圧した。所定の撹拌トルクに到達後、窒素で常圧まで復圧して反応を停止し、生成したポリエステルカーボネートを水中に押し出し、ストランドをカッティングしてペレットを得た。得られたポリエステルカーボネートのペレットを用いて、前述の各種評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0332】
[実施例2]
ジフェニル=3,3′-[メチレンビス(11H-インデノ[1,2-b]キノリン-11,11-ジイル)]ジプロピオナート(化合物4) 25.49重量部(0.034mol)、ISB 23.12重量部(0.158mol)、SPG 50.33重量部(0.165mol)、DPC 61.96重量部(0.289mol)、及び触媒として酢酸カルシウム1水和物 1.71×10-3重量部(9.71×10-6mol)とした以外は、実施例1と同様に行った。
【0333】
[実施例3]
ジフェニル=3,3′-[メチレンビス(11H-インデノ[1,2-b]キノリン-11,11-ジイル)]ジプロピオナート(化合物4) 21.49重量部(0.029mol)、ISB 25.54重量部(0.175mol)、SPG 50.33重量部(0.165mol)、DPC 66.66重量部(0.311mol)、及び触媒として酢酸カルシウム1水和物 1.80×10-3重量部(1.02×10-5mol)とした以外は、実施例1と同様に行った。
【0334】
[実施例4]
ジフェニル=3,3′-[メチレンビス(11H-インデノ[1,2-b]キノリン-11,11-ジイル)]ジプロピオナート(化合物4) 26.02重量部(0.035mol)、ISB 41.35重量部(0.283mol)、SPG 30.20重量部(0.099mol)、DPC 74.36重量部(0.347mol)、及び触媒として酢酸カルシウム1水和物 1.35×10-3重量部(7.64×10-6mol)とした以外は、実施例1と同様に行った。
【0335】
[実施例5]
ジフェニル=3,3′-[メチレンビス(11H-インデノ[1,2-b]キノリン-11,11-ジイル)]ジプロピオナート(化合物4) 30.03重量部(0.040mol)、ISB 46.43重量部(0.318mol)、CHDM 20.28重量部(0.141mol)、DPC 89.53重量部(0.418mol)、及び触媒として酢酸カルシウム1水和物 1.21×10-3重量部(6.88×10-6mol)とした以外は、実施例1と同様に行った。
【0336】
[実施例6]
ジフェニル=3,3′-[メチレンビス(7H-ベンズ[6,7]インデノ[1,2-b]キノリン-7,7-ジイル)]ジプロピオナート(化合物8) 18.10重量部(0.021mol)、ISB 27.06重量部(0.185mol)、SPG 50.33重量部(0.165mol)、DPC 70.49重量部(0.329mol)、及び触媒として酢酸カルシウム1水和物 1.85×10-3重量部(1.05×10-5mol)とした以外は、実施例1と同様に行った。
【0337】
[比較例1]
BHEPF 65.60重量部(0.150mol)、ISB 25.90重量部(0.177mol)、DPC 70.02重量部(0.327mol)、及び触媒として酢酸カルシウム1水和物 4.61×10-4重量部(2.61×10-6mol)を用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0338】
[比較例2]
BCF 38.90重量部(0.103mol)、SPG 53.83重量部(0.177mol)、DPC 59.90重量部(0.280mol)、及び触媒として酢酸カルシウム1水和物 4.93×10-3重量部(2.80×10-5mol)を用い、最終反応温度を260℃とした以外は実施例1と同様に行った。
【0339】
[比較例3]
ビス[9-(2-フェノキシカルボニルエチル)フルオレン-9-イル]メタン(化合物9) 30.31重量部(0.047mol)、ISB 39.94重量部(0.273mol)、SPG 30.20重量部(0.099mol)、DPC 69.67重量部(0.325mol)、及び触媒として酢酸カルシウム1水和物 7.88×10-4重量部(4.47×10-6mol)とした以外は、実施例1と同様に行った。
【0340】
[比較例4]
ビス[9-(2-フェノキシカルボニルエチル)フルオレン-9-イル]メタン(化合物9) 31.58重量部(0.049mol)、ISB 39.22重量部(0.268mol)、SPG 30.20重量部(0.099mol)、DPC 68.19重量部(0.318mol)、及び触媒として酢酸カルシウム1水和物 7.77×10-4重量部(4.41×10-6mol)とした以外は、実施例1と同様に行った。
【0341】
【表1】
【0342】
表1に示すとおり、実施例1~6はいずれも、逆波長分散性を有していながら、さらに非常に高い複屈折(Δn590nm)を発現しており、1/4波長板とした場合のフィルムの膜厚を薄くできることができる。特に実施例1~4、及び実施例6については、光弾性係数も十分に低いために、位相差フィルムとして用いた場合に、優れた性能や信頼性が得られる。また、実施例1~6は、ガラス転移温度が十分に高く、耐熱性にも優れている。