(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】触媒の再生方法及びそれを用いた芳香族化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 29/90 20060101AFI20241210BHJP
B01J 38/02 20060101ALI20241210BHJP
B01J 38/12 20060101ALI20241210BHJP
B01J 38/14 20060101ALI20241210BHJP
B01J 37/10 20060101ALI20241210BHJP
C01B 39/38 20060101ALI20241210BHJP
B01J 29/40 20060101ALI20241210BHJP
C07C 15/04 20060101ALI20241210BHJP
C07C 15/06 20060101ALI20241210BHJP
C07C 15/08 20060101ALI20241210BHJP
C07C 6/00 20060101ALI20241210BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241210BHJP
【FI】
B01J29/90 Z
B01J38/02
B01J38/12 B
B01J38/14
B01J37/10
C01B39/38
B01J29/40 Z
C07C15/04
C07C15/06
C07C15/08
C07C6/00
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020151127
(22)【出願日】2020-09-09
【審査請求日】2023-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石本 綾
(72)【発明者】
【氏名】林 智洋
(72)【発明者】
【氏名】中岡 尚太
(72)【発明者】
【氏名】花谷 誠
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-136700(JP,A)
【文献】特開2008-302291(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094806(WO,A1)
【文献】特開平10-296094(JP,A)
【文献】特表2011-502779(JP,A)
【文献】特開2012-162649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01B 39/38
C07C 1/00-409/44
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーク付着により性能低下したゼオライトを活性成分として有する芳香族化合物製造用触媒に、酸素を2~5重量%含む再生ガスを接触し芳香族化合物製造用触媒を再生する際に接触後の排ガスの酸素濃度が0.5~1.5重量%となるように接触温度を380~530℃の間で制御すると共に、該排ガスの
75~98重量%を酸素濃度が2~5重量%となるように空気と混合し再生ガスとして循環供給することを特徴とする芳香族化合物製造用触媒の再生方法。
【請求項2】
ゼオライトがMFI型ゼオライトであることを特徴とする請求項1に記載の芳香族化合物製造用触媒の再生方法。
【請求項3】
ゼオライトが、下記(i)~(iv)に示す特性を満足するMFI型ゼオライトであることを特徴とする請求項1又は2に記載の芳香族化合物製造用触媒の再生方法。
(i)メソ細孔分布曲線がピークを有するものであり、該ピークの半値幅(hw)がhw≦20nm、該ピークの中心値(μ)が10nm≦μ≦20nmであり、該ピークに相当するメソ細孔のメソ細孔容積(pv)が0.05ml/g≦pvであるメソ細孔群を有する。
(ii)回折角を2θとした粉末X線回折測定において0.1~3度の範囲にピークを有さない。
(iii)平均粒子径(PD)がPD≦100nmである。
(iv)細孔径0.3nmから0.8nmの範囲の微分細孔容積値(dV
P/d(d
P))-ミクロ細孔の分布曲線が、極大値を有するものであり、最も微分細孔容積値(dV
P/d(d
P))の大きい値を示す細孔径が0.4~0.5nmの範囲にある。
【請求項4】
ゼオライトが、
ゼオライト製造時の焼成処理の際にスチーム処理を加えた焼成処理を行ったものであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の芳香族化合物製造用触媒の再生方法。
【請求項5】
芳香族化合物製造用触媒に対して再生ガスを体積比で1:100~2000の割合で供給することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の芳香族化合物製造用触媒の再生方法。
【請求項6】
ゼオライトを活性成分として有する芳香族化合物製造用触媒に、炭素数2~6の脂肪族炭化水素及び/又は脂環式炭化水素を温度範囲400℃以上800℃以下で接触し芳香族化合物を製造する工程と、請求項1~5のいずれかに記載の芳香族化合物製造用触媒の再生方法を工程として含むものであることを特徴とする芳香族化合物の製造方法。
【請求項7】
芳香族化合物製造用触媒に対して炭素数2~6の脂肪族炭化水素及び/又は脂環式炭化水素を体積比で1:50~2000の割合で供給することを特徴とする請求項6に記載の芳香族化合物の製造方法。
【請求項8】
芳香族化合物がベンゼン、トルエン、キシレンからなる群のうち少なくとも1つ含むものである、ことを特徴とする請求項6又は7に記載の芳香族化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族化合物を製造した際の芳香族化合物製造用触媒を効率よく再生する方法であると共に、脂肪族炭化水素及び/又は脂環式炭化水素の炭化水素原料から芳香族化合物を製造するものであり、特に該再生の工程を付加することにより、安定的に触媒の反応と再生を繰り返し、触媒への負荷を低減する安定性に優れる芳香族化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ベンゼンやトルエン、キシレン等の芳香族化合物は、多くの場合、石油精製により得られた原料油(例えばナフサなど)を、熱分解反応装置にて分解し、得られた熱分解生成物から蒸留又は抽出によって分離精製することで得られる。これらの芳香族化合物の製造方法では、芳香族化合物以外の熱分解生成物として、脂肪族炭化水素(パラフィン系、オレフィン系、アセチレン系、脂環系の炭化水素)が副生する。そのため、芳香族化合物の製造に伴って、脂肪族炭化水素が同時に製造されるため、芳香族化合物の生産量は脂肪族炭化水素の生産量に見合って調整がなされ、おのずと生産量が制限されるものであった。
【0003】
そして、脂肪族または脂環式炭化水素原料を、中細孔径ゼオライトを主に含んだ触媒と約400℃~約800℃程度の温度で接触させることにより、芳香族化合物を製造することが提案されている(例えば、特許文献1~2、非特許文献1~4参照。)。これら製造法には、熱分解による芳香族化合物の製造法と比較して、付加価値が低く、余剰な炭化水素原料から芳香族化合物が製造できるといった利点がある。
【0004】
芳香族化合物製造ゼオライト触媒による芳香族化合物の製造における課題は、芳香族化反応中にゼオライト触媒上に炭素質が蓄積して活性が低下する、いわゆるコーキングである。このコーキングによる活性低下を回復するため工業的には炭素質を燃焼除去する、再生工程を組み込み、反応と再生を交互に繰り返して実機運転を継続する。従ってコーキングによる活性低下は見かけ上活性が低下しているが、再生すれば可逆的に活性は戻る。しかし、再生工程において過度な発熱といった触媒に負荷のかかる状況が繰り返されると、不可逆的に触媒活性は低下する。さらに、再生工程は発熱反応であるため、反応器が熱暴走し、反応設備を損傷するという課題を発生する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3741455号
【文献】特許第3264447号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Industrial & Engineering Chemistry Research 第31巻、995頁(1992年)
【文献】Industrial & Engineering Chemistry Research 第26巻、647頁(1987年)
【文献】Applied Catalysis 第78巻、15頁(1991年)
【文献】Microporous and Mesoporous Materials 第47巻、253頁(2001年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、芳香族化合物を製造した際の芳香族化合物製造用触媒を効率よく再生する方法、更には、脂肪族炭化水素及び/又は脂環式炭化水素の炭化水素原料から芳香族化合物を製造する際に、安定的に触媒の反応と再生を繰り返し、触媒への負荷を低減する安定性に優れる芳香族化合物の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するため鋭意検討を行った結果、炭化水素化合物から芳香族化合物を製造し、蓄積したコークの燃焼除去を行う際に、再生ガスの酸素濃度を制御するとともに、排ガスを循環再利用することで、低コストで安全かつ安定な触媒再生が可能となり、長期にわたって安定的に芳香族化合物を効率よく製造する製造方法となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、コーク付着により性能低下したゼオライトを活性成分として有する芳香族化合物製造用触媒に、酸素を2~5重量%含む再生ガスを接触し芳香族化合物製造用触媒を再生する際に接触後の排ガスの酸素濃度が0.5~1.5重量%となるように接触温度を380~530℃の間で制御すると共に、該排ガスの一部を酸素濃度が2~5重量%となるように空気と混合し再生ガスとして循環供給することを特徴とする芳香族化合物製造用触媒の再生方法に関するものである。
【0010】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明の芳香族化合物製造用触媒の再生方法は、コーク付着により性能低下したゼオライトを活性成分として有する芳香族化合物製造用触媒に、酸素を2~5重量%含む再生ガスを接触し芳香族化合物製造用触媒を再生する際に接触後の排ガスの酸素濃度が0.5~1.5重量%となるように接触温度を380~530℃の間で制御すると共に、該排ガスの一部を酸素濃度が2~5重量%となるように制御しながら空気と混合し再度再生ガスとして循環供給するものである。このような再生方法とすることにより、安定的に安全・効率よく芳香族化合物製造用触媒の再生が可能となるものである。そして、再生ガスとして空気に混合する排ガスの割合としては酸素を2~5重量%含む再生ガスとすることが可能であれば任意であり、特に排ガスとして排出される75~98重量%を混合することが好ましい。
【0012】
(芳香族化合物製造用触媒)
本発明における芳香族化合物製造用触媒とは、ゼオライトを活性成分として含んでなるものである。該ゼオライトとしては、ゼオライトと称される範疇のものを含むものであれば特に限定されるものではなく、好ましくは10員環骨格構造を有するゼオライトであり、具体的には、AEL、EUO、FER、MWW、HEU、MEL、MFI、NES、MRE型等を含んでなるものである。そして、より芳香族化合物の反応選択性、生産性に優れるものとなることから、好ましくはMFI型を含んでなるものであり、さらに好ましくは下記(i)~(iv)に示す特性を満足するMFI型ゼオライトを挙げることができる。その際のMFI型とは、国際ゼオライト学会で定義される構造コードMFIに属するアルミノシリケート化合物を示すものである。
【0013】
(i)メソ細孔分布曲線がピークを有するものであり、該ピークの半値幅(hw)がhw≦20nm、該ピークの極大値(μ)が10nm≦μ≦20nmであり、該ピークに相当するメソ細孔のメソ細孔容積(pv)が0.05ml/g≦pvであるメソ細孔群を有する。
(ii)回折角を2θとした粉末X線回折測定において0.1~3度の範囲にピークを有さない。
(iii)平均粒子径(PD)がPD≦100nmである。
(iv)細孔径0.3nmから0.8nmの範囲の微分細孔容積値(dVP/d(dP))-ミクロ細孔の分布曲線が、極大値を有するものであり、最も微分細孔容積値(dVP/d(dP))の大きい値を示す細孔径が0.4~0.5nmの範囲にある。
【0014】
ここで、ミクロ細孔とは、IUPACで定義されたミクロ細孔であり、これは細孔直径が2nm以下の細孔を示す。また、メソ細孔とは、IUPACで定義されたメソ細孔であり、これは細孔直径が2~50nmの細孔を示すものである。そして、ミクロ細孔およびメソ細孔は、液体窒素温度における一般的な窒素吸着法により測定することができる。また、窒素吸着法で得られた測定結果を解析することにより、ミクロ細孔およびメソ細孔の細孔容積の値、および細孔分布曲線を得ることができる。その解析には、例えば以下の方法を使用することができる。
【0015】
ミクロ細孔については、Saito-Foley法(AIChE Journal、1991年、37巻、頁429~436)で吸着過程を解析する。例えば、細孔直径が2nm以下に相当する範囲の窒素ガス脱着量を積算するとミクロ細孔の全細孔容積の値を得ることができる。また、最初に、縦軸が単位質量当りの窒素脱着量VP(mL/g)、横軸がミクロ細孔直径dP(nm)とする累積曲線を得てから、縦軸をミクロ細孔からの窒素ガス脱着量のミクロ細孔直径値での微分値(dVP/d(dP))とする微分細孔容積値(dVP/d(dP))-ミクロ細孔の分布曲線とすることにより、ミクロ細孔直径における単位質量当りの窒素脱着量の増加分のピークを得ることができる。
【0016】
メソ細孔については、Barret-Joyner-Halenda法(Journal of the American Chemical Society、1951年、頁373~380)で脱着過程を解析する。例えば、細孔直径が2nm以上50nm以下に相当する範囲の窒素ガス脱着量を積算するとメソ細孔の全細孔容積の値を得ることができる。
【0017】
また、最初に、縦軸が単位質量当りの窒素脱着量VP(mL/g)、横軸がメソ細孔直径DP(nm)とする累積曲線を得てから、縦軸をメソ細孔からの窒素ガス脱着量のメソ細孔直径値での微分値(d(VP)/d(DP))とすると、メソ細孔直径における単位質量当りの窒素脱着量の増加分のピークを得ることができる。
【0018】
そして、PDは、例えば外表面積から以下の式(1)を用いて算出して求めることができる。
PD=6/S(1/2.29×106+0.18×10-6) (1)
(ここで、Sは外表面積(m2/g)を示すものである。)
また、式(1)における外表面積(S(m2/g))は、液体窒素温度における一般的な窒素吸着法を用い、t-plot法から求めることができる。例えば、tを吸着量の厚みとするときに、tについて0.6~1nmの範囲の測定点を直線近似し、得られた回帰直線の傾きから外表面積を求める方法である。
【0019】
ゼオライトの粒子径を測定する別の方法としては、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)の写真から任意の粒子を10個以上選んで、その表面積平均直径を求める方法を挙げることができる。
【0020】
該MFI型ゼオライトの製造方法としては、例えば上記(i)~(iii)の特性を満足する原料であるMFI型ゼオライトの骨格中のアルミニウムをスチーム等によって脱アルミニウム化することにより製造することが可能である。その際のスチーム処理の温度は、例えば400~900℃であることが好ましく、特に450~800℃、更に500~700℃であることが好ましい。また、スチームの分圧としては、0.001~5MPaであることが好ましく、特に0.01~0.5MPa、更に0.05~0.2MPaであることが好ましい。スチームの濃度としては、例えば0.01~100vol%水蒸気/希釈ガスであることが好ましい。希釈ガスは、窒素等の不活性ガス、空気、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素、またはその混合ガス等を用いることができる。スチーム処理時間については任意に選択可能である。さらには、スチーム処理の効果を高めるため、スチーム処理を含む焼成処理の前後にイオン交換をすることが好ましい。
【0021】
また、上記(i)~(iii)の特性を満足する原料であるMFI型ゼオライトの製造方法としては、例えば以下の方法を挙げることができる。
【0022】
テトラプロピルアンモニウム(以降、「TPA」とする場合もある。)水酸化物と水酸化ナトリウムの水溶液に不定形アルミノシリケートゲルを添加して懸濁させ、得られた懸濁液にMFI型ゼオライトを種晶として加え原料組成物とし、得られた原料組成物を結晶化させ、焼成することによりMFI型ゼオライトを得ることができる。
【0023】
本発明における芳香族化合物製造用触媒としては、その形態として、制限されるものではなく、例えばゼオライト粉末をそのまま触媒として用いること、圧縮成型を行い特定の形状物として用いること、バインダー等と混合し成形を行い特定の形状物として用いること、等のいずれの形態として用いることも可能である。
【0024】
(芳香族化合物製造用触媒の再生)
本発明の芳香族化合物製造用触媒の再生方法は、例えば炭化水素類から芳香族化合物を製造することでコークが付着し、性能が低下した芳香族化合物製造用触媒の触媒としての再生を行うものであり、コーク付着した芳香族化合物製造用触媒に、酸素を2~5重量%含む再生ガスを接触し芳香族化合物製造用触媒を再生する際に接触後の排ガスの酸素濃度が0.5~1.5重量%となるように接触温度を380~530℃の間で制御すると共に、該排ガスの一部を酸素濃度が2~5重量%となるように制御しながら空気と混合し再生ガスとして循環供給するものである。この際に排ガスを式(2)で計算される重量%で空気と混合することで酸素濃度2~5重量%に制御することが可能となる。
(21-再生ガス酸素濃度)/(21-該排ガス酸素濃度)×100 (2)
ここで、芳香族化合物製造用触媒を再生する際の再生ガスとしては、酸素含有量が2~5重量%であり、例えば空気又は酸素に窒素、アルゴン、ネオン等の不活性ガスを混合して調製したものを挙げることができる。その際には、混入する水蒸気によるゼオライトの比表面積低下や酸点の減少を抑制し、触媒活性や触媒寿命への影響を排除するために乾燥ガスであることが好ましい。そして、該再生ガスは、さらに酸素濃度が0.5~1.5重量%である排ガスの一部を混合したものであり、その際には排ガスの75~98重量%を混合し調製することが好ましい。また、循環供給の際には不活性ガスをも混合してもよい。
【0025】
本発明の芳香族化合物製造用触媒の再生は、該再生ガスを接触後の排ガスの酸素濃度が0.5~1.5重量%となるように接触温度を380~530℃の間で制御しながら芳香族化合物製造用触媒の再生を行うものであり、接触温度は、排ガスの酸素濃度が0.5~1.5重量%の範囲内であれば、380~530℃の間で適宜選択可能である。ここで、再生ガスの酸素含有量が2重量%未満である場合、又は、排ガスの酸素含有量が1.5重量%より大きい場合、コークの除去効率が悪く、触媒性能を回復することが困難となる。また、再生ガスの酸素含有量が5重量%を越える場合、又は、排ガスの酸素含有量が0.5重量%未満の場合、コーク燃焼が過剰に進行することで、触媒に含まれるゼオライト自体の劣化や反応器の損傷が発生する場合がある。
【0026】
芳香族化合物製造用触媒を再生する際の再生ガスの供給量、接触時間としては、触媒の再生が可能であれば特に制限はなく、中でも、芳香族化合物製造用触媒に堆積したコークを効率よく除去することが可能となることから、触媒体積に対する再生ガスを体積比で1:100~2000で供給することが好ましい。また、接触時間としては、30~65時間であることが好ましい。
【0027】
(芳香族化合物の製造)
本発明の芳香族化合物製造用触媒の再生方法は、コーク付着により性能の低下した触媒再生にそのまま適用することが可能である。さらにはより好ましい態様として芳香族化合物製造用触媒による芳香族化合物の製造と触媒の再生とを繰り返す製造方法への適用を挙げることができ、具体的にはゼオライトを活性成分として有する芳香族化合物製造用触媒に、炭素数2~6の脂肪族炭化水素及び/又は脂環式炭化水素を温度範囲400℃以上800℃以下で接触し芳香族化合物を製造する工程と、上記した芳香族化合物製造用触媒の再生方法を工程として含む芳香族化合物の製造方法を挙げることができる。
【0028】
該炭素数2~6の脂肪族炭化水素及び/又は脂環族炭化水素としては、その範疇に属するものであれば如何なるものを挙げることができ、例えばエタン、エチレン、プロパン、プロピレン、シクロプロパン、n-ブタン、イソブタン、1-ブテン、2-ブテン、イソブテン、ブタジエン、シクロブテン、シクロブタン、n-ペンタン、1-ペンタン、2-ペンタン、1-ペンテン、2-ペンテン、3-ペンテン、n-ヘキサン、1-ヘキサン、2-ヘキサン、1-ヘキセン、2-ヘキセン、3-ヘキセン、ヘキサジエン、シクロヘキサン及びそれらの混合物等を挙げることができ、更には、石油類、例えばナフサの分解留分により得られる炭素数4の炭化水素蒸留混合物であるC4留分、炭素数5の炭化水素蒸留混合物であるC5留分、炭素数6の炭化水素蒸留混合物であるC6留分等をも挙げることができる。
【0029】
芳香族化合物製造用触媒と接触し芳香族化合物を製造する際の温度範囲としては、400℃以上800℃以下を挙げることでき、特に生産効率に優れるものとなることから450℃以上650℃以下であることが好ましい。また、芳香族化合物製造用触媒に対する原料の供給量は、生産効率と芳香族収率を両立するものとしてガス体積比として1:50~2000であることが好ましく、特に1:100~1000であることが好ましい。そして、製造の際の圧力に制限はなく、例えば0.05MPa~5MPa程度の圧力範囲で製造を行うことが好ましい。原料を供給する際には、該炭化水素の単一ガス、混合ガス、およびこれらを窒素等の不活性ガス、水素、一酸化炭素、二酸化炭素から選ばれる単一または混合ガスにより希釈したものとして用いることもできる。
【0030】
製造の際の反応形式として制限はなく、例えば固定床、輸送床、流動床、移動床、多管式反応器のみならず連続流式、間欠流式、スイング式反応器、等を用いることができる。そして、特に効率的な芳香族化合物の製造方法となることからスイング式反応器による反応形式であることが好ましい。
【0031】
また、製造される芳香族化合物としては、芳香族化合物と称される範疇に属するものであれば特に制限はなく、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、ナフタレン、メチルナフタレン等を挙げることができ、特に、ベンゼン、トルエン、キシレンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0032】
本発明は、芳香族化合物を製造した際の芳香族化合物製造用触媒を効率よく再生する方法を提供する共に、脂肪族炭化水素及び/又は脂環式炭化水素の炭化水素原料から芳香族化合物を製造する際に、該再生を工程とすることにより、長期にわたり安定的に高い芳香族収率を得ることができる芳香族化合物の製造方法を提供するものであり、生産性・安定性に優れ工業的にも非常に有用なものである。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0034】
なお、実施例により用いたMFI型ゼオライト、芳香族化合物製造用触媒は以下の方法により測定・定義した。
【0035】
~細孔分布、細孔直径、及び外表面積の測定~
ゼオライトの細孔分布、及び、細孔直径は窒素吸着測定により測定した。
【0036】
窒素吸着測定には、一般的な窒素吸着装置((商品名)BELSOAP-max、日本ベル社製)を用い、吸着側は相対圧(P/P0)0.025間隔で測定した。脱着側は、相対圧0.05間隔で測定した。外表面積は、t-plot法により、吸着層の厚み(t=0.6~1.0nm)の範囲を直線近似して求めた。細孔分布曲線の解析には日本ベル社製のBELMaster(ver.2.3.1)を用いた。
【0037】
窒素吸着測定の吸着過程をSaito-Foley法(AIChE Journal、1991年、37巻、頁429~436)により解析し、横軸が細孔ミクロ直径の常数、縦軸が窒素ガスの脱着量の微分値であるミクロ細孔の細孔分布曲線を得た。
【0038】
そして、窒素吸着測定の脱着過程をBarret-Joyner-Halenda法(Journal of the American Chemical Society、1951年、頁373~380)にて解析し、横軸が細孔直径の常数、縦軸が窒素ガスの脱着量の微分値であるメソ細孔の細孔分布曲線を得た。メソ細孔の全細孔容積は、2nm以上50nm以下の範囲の窒素ガス脱着量を積算することにより求めた。
【0039】
そして、メソ細孔からの窒素ガス脱着量のメソ細孔直径値での微分値(d(V/m)/d(D))のピークの内、最大のピークをガウス関数の強度近似で解析し、そのガウス関数の中心値(μ)から標準偏差の2倍(2σ)の範囲(=μ±2σ)内の直径を有するメソ細孔を均一メソ細孔と定義した。均一メソ細孔の細孔容積は、中心値(μ)を基準として±2σの範囲の窒素ガス脱着量を積算して求めた。
【0040】
~平均粒子径の測定~
外表面積から前記の式(1)を用いて平均粒子径を算出した。式(1)中、Sは外表面積(m2/g)であり、PDは平均粒子径(m)である。式(1)における外表面積(S(m2/g))は、液体窒素温度における窒素吸着法によりt-plot法から求めた。
【0041】
~SiO2/Al2O3モル比の測定~
ゼオライトのSiO2/Al2O3モル比は、MFI型ゼオライトをフッ酸と硝酸の混合水溶液で溶解し、これを一般的なICP装置((商品名)OPTIMA3300DV,PerkinElmer社製)による誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)で測定し、求めた。
【0042】
~凝集径の測定~
凝集径として、動的散乱法によって凝集粒子径の体積平均径(D50)を測定した。測定には(商品名)マイクロトラックHRA(Model9320-x100)(日機装製)を用いた。測定において粒子屈折率は1.66、粒子の設定は透明非球状粒子、溶媒の液体屈折率は1.33とした。
【0043】
~粉末X線回折の測定~
X線回折測定装置(スペクトリス社製、(商品名)X’pert PRO MPD)を用い、管電圧45kV、管電流40mAとしてCuKα1を用いて、大気中において測定した。0.04~5度の範囲を0.08度/ステップ、200秒/ステップで分析した。また、ダイレクトビームの吸収率で補正したバックグラウンドを除去している。
【0044】
ピークの有無の確認は目視で行うことができるほか、ピークサーチプログラムを利用してもよい。ピークサーチプログラムは、一般的なプログラムが利用できる。例えば、横軸が2θ(度)、縦軸が強度(a.u.)の測定結果をSAVITSKY&GOLAYの式とSliding Polynomialフィルターで平滑化した後、2次微分を行ったときに、3点以上連続する負の値がある場合、ピークが存在すると判断した。
【0045】
~芳香族化合物製造装置~
ステンレス製反応管(内径38mm、長さ4000mm)を用いた固定床気相流通式反応装置を用いた。反応管に、芳香族化合物製造用触媒を充填し、乾燥空気流通下での加熱前処理を行ったのち、原料ガスをフィードして、芳香族化合物の製造反応を行った。反応管は保温材により断熱し、加熱炉で加熱したガスを導入することで温度の制御を行った。反応器の装置条件および運転条件は、本実施例記載の条件に限定されるものではなく、適宜選択可能である。なお、芳香族化合物製造工程においては反応出口ガスおよび反応液を採取し、ガスクロマトグラフを用い、ガス成分および液成分を個別に分析した。ガス成分は、TCD検出器を備えたガスクロマトグラフ(島津製作所製、(商品名)GC-14B)を用いて分析した。充填剤は、Waters社製PorapakQ(商品名)またはGLサイエンス社製MS-5A(商品名)を用いた。液成分は、FID検出器を備えたガスクロマトグラフ(島津製作所製、(商品名)GC-2025)を用いて分析した。分離カラムは、キャピラリーカラム(GLサイエンス社製、(商品名)TC-1)を用いた。また、芳香族化合物製造用触媒再生工程においては、反応器出口の成分分析をジルコニア式酸素濃度計(横河電機製、(商品名)ZS8形)、レーザーガス分析計(横河電機製、(商品名)TDLS8000)で常時行った。反応器出口の排ガスの一部は反応器入口へ循環し、空気と循環ガス、窒素ガスの混合比で再生ガス流量と酸素濃度を制御した。
【0046】
調製例1(原料ゼオライトの調製)
特開2013-227203号に記載の方法により、MFI型ゼオライトの製造を行った。
【0047】
テトラプロピルアンモニウム(以降、TPAと略記する場合がある。)水酸化物と水酸化ナトリウムの水溶液に不定形アルミノシリケートゲルを添加して懸濁させた。得られた懸濁液にMFI型ゼオライトを種晶として加え原料組成物とした。その際の種晶の添加量は、原料組成物中のAl2O3とSiO2の重量に対して、0.7重量%とした。
【0048】
該原料組成物の組成は以下のとおりである。
SiO2/Al2O3モル比=48、TPA/Siモル比=0.05、Na/Siモル比=0.16、OH/Siモル比=0.21、H2O/Siモル比=10。
【0049】
得られた原料組成物をステンレス製オートクレーブに密閉し、115℃で攪拌しながら4日間結晶化させ、スラリー状混合液を得た。結晶化後のスラリー状混合液を遠心沈降機で固液分離した後、十分量の純水で固体粒子を洗浄し、110℃で乾燥して乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末を1mol/Lの塩酸中に分散し、ろ過、乾燥させた。空気下、550℃で1時間焼成後、600℃、50%の水蒸気で2時間のスチーム処理を含む焼成処理を行った。得られた粉末を1mol/Lの塩酸中に分散し、ろ過、洗浄し、MFI型ゼオライトを得た。
【0050】
得られたMFI型ゼオライトは、平均粒子径は38nm、SiO2/Al2O3モル比は55、メソ細孔の全細孔容積0.45ml/gであった。また、ミクロ細孔分布曲線は、細孔径0.4125nmに最も大きい微分細孔容積値を有する極大値を持つものであった。そして、メソ細孔分布曲線における均一メソ細孔のピークの半値幅は16nm、中心値は15nmであった。また、その均一メソ細孔の細孔容積は0.40ml/gであり、メソ細孔の全細孔容積に占める均一メソ細孔の細孔容積の割合は89%であった。また、得られたMFI型ゼオライトの粉末X線回折では、0.1~3度の範囲にピークは存在せず、メソ細孔が不規則に連結していることが示された。
【0051】
調製例2(原料ゼオライトの成形)
調製例1で得られたMFI型ゼオライト100重量部に対して、シリカ(日産化学工業社製、(商品名)スノーテックスN-30G)43重量部、セルロース4重量部、純水30重量部を加え混練した。そして、混練物を直径3.0mm、長さ2.0~5.5mm(平均長さ4.5mm)の円柱状の成形体とした。これを100℃で1晩乾燥した後、600℃で2時間焼結し芳香族化合物製造用触媒を調製した。
【0052】
実施例1
調製例2により得られた芳香族化合物製造用触媒2.0kgを上記した芳香族化合物製造装置に充填し、原料である脂肪族炭化水素としてブテン類混合ガス(1-ブテン60%+トランスブテン15%+イソブテン15%+シスブテン10%)を用い、下記条件にて芳香族化合物の製造を行った。その後、コーク付着の生じた芳香族化合物製造用触媒に酸素濃度が3重量%となるように窒素により空気を希釈した再生ガスを排ガスの酸素濃度(反応器出口酸素濃度)が0.7~1.3%となるように再生ガスの温度を450~520℃の間で制御しながら接触すると共に、酸素濃度3重量%を維持するように排ガスの80~95重量%を空気と混合し再生ガスとして循環供給を行い芳香族化合物製造用触媒の再生を行った。芳香族化合物製造用触媒の再生条件を下記に示す。そして、芳香族化合物の製造と芳香族化合物製造用触媒の再生を繰り返し、芳香族化合物の製造評価を10回行った。芳香族化合物の製造と触媒の再生を繰り返した芳香族製造用触媒は、安定したブテン類転化率、ベンゼン収率、トルエン収率、キシレン収率を示し、再生時の熱暴走もなく安定運転が可能であった。結果を表1に示す。
【0053】
(芳香族化合物製造条件)
反応(触媒)温度:570℃。
原料ガス:ブテン類混合ガス3.0kg/時間。
触媒体積に対する原料ガスの体積の比:1:480。
反応時間:48時間。
【0054】
(芳香族化合物製造用触媒再生条件)
再生温度:450℃~520℃。
再生ガス酸素濃度:3重量%。
反応器出口酸素濃度:0.7~1.3重量%。
触媒体積に対する再生ガスの体積の比:1:720。
圧力:0.1MPaG。
再生時間:35時間。
【0055】
【0056】
実施例2
芳香族化合物製造条件、芳香族化合物製造用触媒再生条件を下記の条件とした以外は、実施例1と同様の方法により芳香族化合物の製造と芳香族化合物製造用触媒の再生を繰り返し、10回の評価を行った。芳香族化合物の製造と触媒の再生を繰り返した芳香族製造用触媒は、安定したブテン類転化率、ベンゼン収率、トルエン収率、キシレン収率を示し、再生時の熱暴走もなく安定運転が可能であった。結果を表2に示す。
【0057】
(芳香族化合物製造条件)
反応(触媒)温度:585℃。
原料ガス:ブテン類混合ガス4.0kg/時間。
触媒体積に対する原料ガスの体積の比:1:650。
反応時間:48時間。
【0058】
(芳香族化合物製造用触媒再生条件)
再生温度:430℃~520℃。
再生ガス酸素濃度:3重量%。
反応器出口酸素濃度:0.7~1.3重量%。
触媒体積に対する再生ガスの体積の比:1:980。
圧力:0.15MPaG。
再生時間:40時間
【0059】
【0060】
実施例3
芳香族化合物製造条件、芳香族化合物製造用触媒再生条件を下記の条件とした以外は、実施例1と同様の方法により芳香族化合物の製造と芳香族化合物製造用触媒の再生を繰り返し、10回の評価を行った。反応と再生を繰り返した芳香族製造用触媒は、安定したブテン類転化率、ベンゼン収率、トルエン収率、キシレン収率を示し、再生時の熱暴走もなく安定運転が可能であった。結果を表3に示す。
【0061】
(芳香族化合物製造条件)
反応(触媒)温度:600℃。
原料ガス:ブテン類混合ガス2.0kg/時間。
触媒体積に対する原料ガスの体積の比:1:310。
反応時間:48時間。
【0062】
(芳香族化合物製造用触媒再生条件)
再生温度:470℃~520℃。
再生ガス酸素濃度:4.5重量%。
反応器出口酸素濃度:0.8~1.5重量%・
触媒体積に対する再生ガスの体積の比:1;470。
圧力:0.2MPaG。
再生時間:42時間。
【0063】
【0064】
比較例1
再生ガス酸素濃度を7重量%とした以外は、実施例1と同様の方法により芳香族化合物の製造と芳香族化合物製造用触媒の再生の繰り返し、10回の評価を行った。
【0065】
5サイクル目からブテン類転化率が低下し始め、6回目からはベンゼン収率、トルエン収率、キシレン収率の合計が明らかに低下し始める結果となった。評価結果を表4に示す。
【0066】
【0067】
比較例2
再生温度の制御を行わず550℃とした以外は、実施例1と同様の方法により芳香族化合物の製造と芳香族化合物製造用触媒の再生の繰り返し、10回の評価を行った。
【0068】
4サイクル目からブテン類転化率およびベンゼン収率、トルエン収率、キシレン収率の合計が明らかに低下し始める結果となった。評価結果を表5に示す。
【0069】
【0070】
比較例3
再生ガス酸素濃度を1.5重量%とし、反応器出口酸素濃度を0.5~1.0重量%となるように制御した以外は、実施例2と同様の方法により芳香族化合物の製造と芳香族化合物製造用触媒の再生の繰り返しを試みたが、コーク除去が不十分であり、芳香族化合物の製造評価を継続して行うことができなかった。
【0071】
比較例4
再生ガス酸素濃度を10重量%とし、反応器出口酸素濃度を7.0~8.0重量%となるように制御した以外は、実施例3と同様の方法により芳香族化合物の製造と芳香族化合物製造用触媒の再生の繰り返しを試みたが、再生時に反応器内温が650℃を超えるという課題が発生し、安定な再生が出来ず、芳香族化合物の製造評価を行うことが出来なかった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、芳香族化合物を製造した際の芳香族化合物製造用触媒を効率よく再生する方法を提供する共に、脂肪族炭化水素及び/又は脂環式炭化水素の炭化水素原料から芳香族化合物を製造する際に、該再生方法を工程とすることにより、触媒の反応と再生を繰り返すものであり、生産性・安定性・安全性に優れ工業的にも非常に有用なものである。