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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/183 20060101AFI20241210BHJP
【FI】
C08G63/183
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020151440
(22)【出願日】2020-09-09
(65)【公開番号】P2022045706
(43)【公開日】2022-03-22
【審査請求日】2023-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】川口 高明
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-163613(JP,A)
【文献】特開2013-189521(JP,A)
【文献】特開平04-270727(JP,A)
【文献】特開2020-084151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸成分を含むジカルボン酸成分とエチレングリコールを含むジオール成分とからなるポリエステル樹脂であって、下記(1)、(2)、及び(3)を満足するポリエステル樹脂。
(1)固有粘度が0.80dL/g以上。
(2)285℃で溶融時の体積固有抵抗値が10×10Ω・cm以下。
(3)該ポリエステル樹脂(初期固有粘度IVdL/g)20gを試験管に入れ、5Torr以下の減圧下180℃のオイルバスに浸漬させて2.5時間乾燥し、引き続き窒素ガスシール下290℃で1時間30分溶融させた後に測定される該ポリエステル樹脂の固有粘度IVdL/gから、下記式で算出される固有粘度低下率が10%未満。
固有粘度低下率={(IV-IV)/IV}×100
【請求項2】
マット調フィルム用ポリエステル樹脂である請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な製膜性と優れた強度を発揮し、特に低光沢感を有するマット調フィルム原料として好適なポリエステル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、機械的強度、寸法安定性、平坦性、耐熱性、耐薬品性、光学特性等に優れた特性を有し、コストパフォーマンスに優れるため、各種用途に使用されている。特に最近では、スマートフォンなどのデジタル製品を中心にデザイン性に対する要求が高まりつつあり、高級な質感を持たせるために製品の外観をマット調(艶消し、低光沢)に仕上げることが求められている。そのため、表面をマット調に仕上げたポリエステルフィルムを製品に貼り付けたり、このマット調表面を製品に転写したりすることが提案されている。
【0003】
特許文献1には、マット調ポリエステルフィルムとして、無機又は有機粒子を高濃度に含有するポリエステルフィルムが開示されている。
この特許文献1に記載されるように、マット調ポリエステルフィルムを作成するためには、粒子を高濃度に添加することが必要であるが、粒子を高濃度に添加すると、ポリエステル樹脂の固有粘度(IV)が低い場合、フィルムの破断など強度低下を引き起こす。また、成形機での成形時に熱劣化してIVが低下するおそれもあるため、IVが高く、かつ熱履歴を受けてもIVが低下し難いポリエステル樹脂が必要となる。また、ポリエステル樹脂の体積固有抵抗値(ρV)が高いと、マット調ポリエステルフィルムの製膜時に冷却ロールへの電気密着性が低下し、製膜速度を下げる必要が生じる(高速製膜性が低下する)という不都合を生じるため、ρVがある程度低いポリエステル樹脂が望まれる。
【0004】
特許文献2には、固有粘度が0.70dl/g以上のポリエステル樹脂が開示されているが、特許文献2は、環境安全性に優れ、色調もよく、環状三量体の副生が少ないボトル用ポリエステル樹脂を提供するものであり、マット調ポリエステルフィルムの開発に必要な課題の認識はなく、ρVやIV低下率などの開示も示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-66805号公報
【文献】特開2001-200044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、マット調ポリエステルフィルムを効率よく製膜するために好適な物性のポリエステル樹脂を提供することである。すなわち、本発明は、固有粘度(IV)が高くフィルム破断性が低く、また良好なフィルム製膜速度を達成可能な程度に低い体積固有抵抗値(ρV)を有するポリエステル樹脂を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討の結果、テレフタル酸成分を含むジカルボン酸成分とエチレングリコールを含むジオール成分とからなるポリエステル樹脂であって、固有粘度(IV)が0.80dL/g以上であり、285℃で溶融時の体積固有抵抗値(ρV)が10×10Ω・cm以下であり、更に、特定の条件で溶融した後の固有粘度低下率が10%未満であるポリエステル樹脂が、上記課題を解決するとの知見を得て本発明を完成させた。
すなわち、本発明の要旨は、以下の[1],[2]に存する。
【0008】
[1] テレフタル酸成分を含むジカルボン酸成分とエチレングリコールを含むジオール成分とからなるポリエステル樹脂であって、下記(1)、(2)、及び(3)を満足するポリエステル樹脂。
(1)固有粘度が0.80dL/g以上。
(2)285℃で溶融時の体積固有抵抗値が10×10Ω・cm以下。
(3)該ポリエステル樹脂(初期固有粘度IVdL/g)20gを試験管に入れ、5Torr以下の減圧下180℃のオイルバスに浸漬させて2.5時間乾燥し、引き続き窒素ガスシール下290℃で1時間30分溶融させた後に測定される該ポリエステル樹脂の固有粘度IVdL/gから、下記式で算出される固有粘度低下率が10%未満。
固有粘度低下率={(IV-IV)/IV}×100
【0009】
[2] マット調フィルム用ポリエステル樹脂である[1]に記載のポリエステル樹脂。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリエステル樹脂によれば、マット調のポリエステルフィルムを破断無く高速製膜することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0012】
尚、本発明においてポリエステル樹脂とは、繰り返し構造単位の80%以上がエチレンテレフタレート単位であるポリエステル樹脂を指す。また、本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0013】
[ポリエステル樹脂]
本発明のポリエステル樹脂は、テレフタル酸成分を含むジカルボン酸成分とエチレングリコールを含むジオール成分とからなるポリエステル樹脂であって、下記(1)、(2)、及び(3)を満足するポリエステル樹脂である。
(1)固有粘度(IV)が0.80dL/g以上。
(2)285℃で溶融時の体積固有抵抗値(ρV)が10×10Ω・cm以下。
(3)該ポリエステル樹脂(初期固有粘度IVdL/g)20gを試験管に入れ、5Torr以下の減圧下180℃のオイルバスに浸漬させて2.5時間乾燥し、引き続き窒素ガスシール下290℃で1時間30分溶融させた後に測定される該ポリエステル樹脂の固有粘度IVdL/gから、下記式で算出される固有粘度(IV)低下率が10%未満。
固有粘度低下率={(IV-IV)/IV}×100
【0014】
(1)固有粘度(IV)
本発明のポリエステル樹脂の固有粘度(IV)は、0.80dL/g以上である。ポリエステル樹脂の固有粘度(IV)が0.80dL/g以上であると、フィルム製造時の破断頻度が少なく好ましい。本発明のポリエステル樹脂の固有粘度(IV)の下限は、好ましくは0.82dL/g、より好ましくは0.83dL/gである。本発明のポリエステル樹脂の固有粘度(IV)の上限は、特に限定されないが、好ましくは1.00dL/gである。
ポリエステル樹脂の固有粘度(IV)は、ポリエステル樹脂製造時の溶融重縮合工程の温度、圧力、滞留時間によって、また固相重縮合工程の温度、圧力、滞留時間、不活性ガス中のエチレングリコールや水の濃度、ペレットの形状等によって、制御することが可能である。
固有粘度(IV)の測定には、後述する実施例の項に記載の測定方法を用いる。
【0015】
(2)体積固有抵抗値(ρV)
本発明のポリエステル樹脂の285℃で溶融時の体積固有抵抗値(ρV)は10×10Ω・cm以下である。
285℃で溶融時の体積固有抵抗値(ρV)は、フィルム製膜の際に溶融樹脂とのロール密着性を上げるために必要な物性であり、好ましくは9×10Ω・cm以下、より好ましくは8×10Ω・cm以下、更に好ましくは7×10Ω・cm以下である。体積固有抵抗値(ρV)の下限値は特に限定されないが、好ましくは1×10Ω・cmである。
ポリエステル樹脂の285℃での溶融時の体積固有抵抗値(ρV)は、後述するポリエステル樹脂製造時のリン化合物及び周期表第2族金属化合物の添加量を制御することによって、上記上限以下とすることが可能である。
体積固有抵抗値(ρV)の測定には、後述する実施例の項に記載の測定方法を用いる。
【0016】
(3)固有粘度(IV)低下率
本発明のポリエステル樹脂の固有粘度(IV)低下率は10%未満である。
固有粘度(IV)の低下は、ポリエステル樹脂の成形時にポリエステル樹脂が熱劣化することにより起こるものであり、後述するポリエステル樹脂製造時のリン化合物及び周期表第2族金属化合物の添加量を制御することによって、成形時の熱劣化による固有粘度(IV)の低下の少ないポリエステル樹脂とすることができる。
すなわち、ポリエステル樹脂(初期固有粘度IVdL/g)20gを試験管に入れ、5Torr以下の減圧下180℃のオイルバスに浸漬させて2.5時間乾燥し、引き続き窒素ガスシール下290℃で1時間30分溶融させた後に測定される該ポリエステル樹脂の固有粘度IVdL/gから、下記式で算出される固有粘度(IV)低下率が10%未満のポリエステル樹脂とすることができる。
固有粘度低下率={(IV-IV)/IV}×100
【0017】
(4)リン化合物及び周期表第2族金属化合物の添加量
本発明のポリエステル樹脂の製造において、後述のリン化合物は、得られるポリエステル樹脂に対するリン(P)原子含有量が、好ましくは0.3~2.4モル/トン、より好ましくは0.4~2.0モル/トン、特に好ましくは0.5~1.2モル/トンとなるように添加することが好ましい。
【0018】
また、リン化合物は、後述の周期表第2族金属化合物の添加量に対応して、以下の式を満足するように添加することが好ましい。
0.35≦P/M≦0.60
(上記式中、Pはポリエステル樹脂1トン当たりに含まれるリン原子のモル数、Mはポリエステル樹脂1トン当たりに含まれる周期表第2族金属原子のモル数)
P/Mが0.35以上であると、成形時の熱劣化によるポリエステル樹脂の固有粘度(IV)の低下の少ないものとすることができる。P/Mが0.35未満では、得られるポリエステル樹脂の285℃で溶融時の体積固有抵抗値(ρV)は下がるものの、ポリエステル樹脂を溶融保持した際に固有粘度(IV)の低下度合いが大きくなる。P/Mが0.60を超えると285℃で溶融時の体積固有抵抗値(ρV)が10×10Ω・cmを超えるものとなる。P/Mは特に0.40~0.57、とりわけ0.45~0.55であることが好ましい。
【0019】
ポリエステル樹脂中の各金属原子の含有量は、具体的には後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0020】
[ポリエステル樹脂の製造方法]
本発明のポリエステル樹脂は、基本的には従来公知の製造方法、即ち、原料スラリーの調製、エステル化及び溶融重縮合、更に引続く固相重縮合により製造される。
【0021】
<ポリエステル樹脂原料>
本発明においては、テレフタル酸及びそのエステル形成性誘導体の少なくともいずれか一方を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とのエステル化反応及び/又はエステル交換反応を経て重縮合反応を行い、繰り返し構造単位の80%以上がエチレンテレフタレート単位である本発明のポリエステル樹脂を得る。
【0022】
(ジカルボン酸成分)
本発明においては、テレフタル酸及び/又はテレフタル酸のエステル形成性誘導体(テレフタル酸成分)を主成分として含むジカルボン酸成分が用いられる。本発明に用いる全ジカルボン酸成分中のテレフタル酸成分の含有量は、80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることが更に好ましい。テレフタル酸成分の割合が上記下限値以上であると、フィルムやボトル、繊維などに成形する際の延伸による分子鎖の配向結晶化の点から、成形体としての機械的強度、耐熱性が良好になりやすい。全ジカルボン酸成分中のテレフタル酸成分の割合の上限は100モル%でもよい。
【0023】
本発明で用いられるテレフタル酸のエステル形成性誘導体としては、炭素数1~4のアルコールのジエステル、好ましくはジメチルテレフタレート、ジエチルテレフタレート等のテレフタル酸アルキルエステルが挙げられる。
【0024】
本発明で用いられるテレフタル酸成分以外のジカルボン酸成分としては、フタル酸、イソフタル酸、ジブロモイソフタル酸、スルホイソフタル酸、1,4-フェニレンジオキシジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’-ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等の脂環式ジカルボン酸;及び、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸;並びにこれらジカルボン酸のエステル形成性誘導体が挙げられる。該ジカルボン酸成分は上記の中から1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用することもできる。
【0025】
(ジオール成分)
本発明においては、エチレングリコールを主成分として含むジオール成分が用いられる。本発明に用いる全ジオール成分中のエチレングリコールの含有量は、80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることが更に好ましく、95モル%以上であることが特に好ましい。エチレングリコールの割合が上記下限値以上であると、フィルムやボトル、繊維などに成形する際の延伸による分子鎖の配向結晶化の点から、成形体としての機械的強度、耐熱性が良好になりやすい。全ジオール成分中のエチレングリコールの割合の上限は100モル%でもよい。
【0026】
本発明で用いられるエチレングリコール以外のジオール成分としては、例えば、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等の脂肪族ジオール;1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,1-シクロヘキサンジメチロール、1,4-シクロヘキサンジメチロール、2,5-ノルボルナンジメチロール等の脂環式ジオール;キシリレングリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4’-β-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-β-ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸等の芳香族ジオール;2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。該ジオール成分は上記の中から1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用することもできる。
【0027】
(ジカルボン酸成分及びジオール成分以外の共重合成分)
本発明においては、上記ジオール成分及びジカルボン酸成分に加えて、ポリエステル樹脂原料として、更に、その他の共重合可能な成分を用いてもよい。その他の共重合可能な成分としては、例えば、グリコール酸、p-ヒドロキシ安息香酸、p-β-ヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸やアルコキシカルボン酸、及び、ステアリルアルコール、ヘネイコサノール、オクタコサノール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、ベヘン酸、安息香酸、t-ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸等の単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ナフタレンテトラカルボン酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、シュガーエステル等の三官能以上の多官能成分等が挙げられる。これらのその他の共重合可能な成分は、その1種又は2種以上を、本発明の効果を妨げない範囲で用いることができる。
【0028】
<触媒及び助剤>
本発明のポリエステル樹脂の製造においては、エステル化反応、エステル交換反応、及び溶融重縮合反応において、触媒及び助剤を使用することができる。
【0029】
(エステル化反応又はエステル交換反応における触媒)
エステル化反応又はエステル交換反応においては、後述の重縮合時に使用される触媒及び助剤と同様の触媒及び助剤を使用することができる。ただしエステル化反応においては、これらの触媒を使用しなくても反応は進行するため、触媒を添加しなくてもよい。
【0030】
触媒としては、例えば、三酸化二アンチモン、酢酸アンチモン、酒石酸アンチモン、酒石酸アンチモンカリ、オキシ塩化アンチモン、アンチモングリコレ-ト、五酸化アンチモン、トリフェニルアンチモン等のアンチモン化合物;二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物;テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等のチタン化合物;酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキサイド、燐酸水素マグネシウム等のマグネシウム化合物や、酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、カルシウムアルコキサイド、燐酸水素カルシウム等のカルシウム化合物等の周期表第2族金属化合物;酸化マンガン、水酸化マンガン、酢酸マンガン等のマンガン化合物;亜鉛化合物等が挙げられる。
【0031】
これらの触媒は、単独で用いてもよく、2種以上混合して使用することもできる。
これらの触媒の中でも、反応性、反応系への溶解性、得られるポリエステル樹脂の着色などの観点から、好ましくはアンチモン化合物と周期表第2族金属化合物、更に好ましくはアンチモン化合物とマグネシウム化合物、特に好ましくは三酸化二アンチモンと酢酸マグネシウムが挙げられる。
【0032】
(溶融重縮合反応触媒)
本発明においてポリエステル樹脂を製造する際に用いられる溶融重縮合反応触媒としては、先述したエステル化反応又はエステル交換反応の触媒をそのまま溶融重縮合反応触媒として用いてもよいし、前記触媒を更に添加してもよい。
溶融重縮合反応触媒の中でも好ましくは重縮合活性、得られるポリエステル樹脂の熱安定性、入手のしやすさなどの観点からアンチモン化合物、特に好ましくは三酸化二アンチモンである。
なお、ゲルマニウム化合物は色調良好な樹脂を得やすいが、得られるポリエステル樹脂の熱安定性が劣る傾向となることがある。更にゲルマニウム化合物は比較的高価である。チタン化合物は得られるポリエステル樹脂の熱安定性が劣る傾向となることがある。
【0033】
(触媒の添加量)
エステル化反応触媒又はエステル交換反応触媒、及び溶融重縮合反応触媒の添加量は、特には限定されないが、得られるポリエステル樹脂に含まれる触媒由来の金属濃度が下記の範囲内となるように添加されるのが好ましい。
例えばアンチモン化合物は、得られるポリエステル樹脂に対してアンチモン原子として、好ましくは1.0~2.5モル/トン、より好ましくは1.4~2.4モル/トン、特に好ましくは1.6~2.2モル/トンである。
また、周期表第2族金属化合物を使用する場合には、得られるポリエステル樹脂に対して金属原子として、好ましくは0.4~1.7モル/トン、より好ましくは0.6~1.5モル/トン、特に好ましくは0.8~1.2モル/トンである。
【0034】
(熱安定化助剤)
エステル化反応、エステル交換反応及び溶融重縮合反応において、前記触媒の他に熱安定化助剤としてリン化合物を添加することができる。リン化合物としては、例えば正リン酸;ポリリン酸;トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ-n-ブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート等のリン酸エステル、エチルジエチルホスホノアセテート等の5価のリン化合物;亜リン酸、次亜リン酸、及び、トリメチルホスファイト、ジエチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリスドデシルホスファイト、トリスノニルデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト等の3価のリン化合物が挙げられる。これらのリン化合物は単独で用いてもよく、2種以上混合して使用することもできる。中でも、重縮合速度制御性の面から、好ましくはリン酸、リン酸エステル等の5価のリン化合物、さらに好ましく具体的にはトリメチルホスフェート、エチルアシッドホスフェートが用いられる。
【0035】
リン化合物を使用する場合は、これを溶融重縮合反応の開始までの任意の時期に添加することができる。リン化合物はジカルボン酸成分とジオール成分のスラリー調製時に添加してもよく、エステル化反応槽に添加してもよく、重縮合反応槽に添加してもよく、又はこれらの移送配管に添加してもよいが、反応の最初の段階、即ち、スラリー調製時に添加することが、重縮合触媒の活性を低下させず、好ましい。
【0036】
なお、リン化合物は、得られるポリエステル樹脂のリン原子含有量及びP/Mが前述の好適な値を満たすように添加される。
【0037】
(その他の助剤)
エステル化反応においては、溶融重縮合時に先述の触媒及び助剤を使用することができるが、その際に、例えば、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルアミン、ベンジルジメチルアミン等の第三級アミン;水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラ-n-ブチルアンモニウム、水酸化トリメチルベンジルアンモニウム等の水酸化第四級アンモニウム;或いは、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、酢酸ナトリウム等の塩基性化合物等のその他の助剤を少量添加しておくことにより、エチレングリコールからのジエチレングリコールの副生を抑制することができる。
【0038】
<ポリエステル樹脂の製造方法>
以下にポリエステル樹脂原料のジオール成分としてエチレングリコールを主成分とし、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分を主成分とするポリエチレンテレフタレートの製造方法を例にして本発明のポリエステル樹脂の製造方法を説明する。
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、原料調製工程、エステル化反応又はエステル交換反応を行うエステル化工程、溶融重縮合工程、及び、更に引き続く固相重縮合工程により実施される。
【0039】
(原料調製工程)
原料調製工程では、テレフタル酸成分を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、必要に応じて用いられるその他の共重合成分等と共に、スラリー調製槽に投入し、撹拌下に混合した後、必要に応じてろ過することによって原料スラリーとする。ジカルボン酸成分に対するジオール成分のモル比は、好ましくは1.0~2.0、更に好ましくは1.05~1.5、特に好ましくは1.1~1.4となるように混合される。このモル比をかかる範囲内にすることにより、エチレングリコールからのジエチレングリコールの生成量を抑制しつつ十分なエステル化反応速度が得られる。
【0040】
テレフタル酸成分が、ジメチルテレフタレートのように、融点を有するエステル形成性誘導体の場合は、該エステル形成性誘導体を溶融保存して原料とし、必要に応じてろ過してエチレングリコールとは別にエステル化工程に供給することができる。該エステル形成性誘導体に対するエチレングリコールのモル比は、好ましくは1.5~2.5、更に好ましくは1.7~2.3、特に好ましくは1.9~2.1となるように混合される。このモル比が上記下限未満ではエステル交換反応性が低下することとなり、一方、上記上限超過ではエチレングリコールからのジエチレングリコールの生成量が増加することとなる。
【0041】
(エステル化工程)
エステル化工程はテレフタル酸とエチレングリコールとのエステル化反応及び/又はテレフタル酸エステル形成性誘導体とエチレングリコールとのエステル交換反応を行い、オリゴマーを得る工程である。
エステル化反応は、単一のエステル化反応槽、又は、複数のエステル化反応槽を直列に接続した多段反応装置を用いて、エチレングリコールの還流下、且つ、反応で生成する水と余剰のエチレングリコールを系外に除去しながら、エステル化率(原料ジカルボン酸成分の全カルボキシル基のうちジオール成分と反応してエステル化したものの割合)が、通常90%以上、好ましくは93%以上に達するまで行う。又、エステル化反応生成物としてのポリエステル低分子量体(オリゴマー)の数平均分子量は500~5,000であることが好ましい。
【0042】
エステル化反応における反応条件としては、複数のエステル化反応槽の場合、第1段目のエステル化反応槽における反応温度を、通常240~270℃、好ましくは245~270℃、圧力を、通常0~300kPaG(Gは大気圧に対する相対圧力であることを示す)、好ましくは0~200kPaGとし、最終段における反応温度を、通常250~280℃、好ましくは255~275℃、圧力を、通常0~180kPaG、好ましくは0~150kPaGとする。尚、単一のエステル化反応槽による場合には、反応温度を、通常200~280℃、好ましくは210~270℃、圧力を、通常0~180kPaG、好ましくは0~150kPaGとする。
【0043】
エステル化工程では、溶融重縮合後のポリエステル樹脂の末端カルボキシ基量を調整するために、エチレングリコールをエステル化反応中に追加添加してもよい。エステル化工程で添加されるエチレングリコールの量は生成するプレポリマーに対して50~1300モル/トンが好ましい。この上限を超えるような多量のエチレングリコールを添加すると重縮合反応の留出系への負荷が高くなる。エチレングリコールの添加量はより好ましくは100~1150モル/トンである。
【0044】
エチレングリコールを添加する時期は、エステル化工程の後段であって、エステル化率が50%以上、好ましくは60%以上、更に好ましくは80%以上、特に好ましくは90%を超えた時点以降で添加することが好ましい。これは、エステル化率が50%未満のオリゴマーに添加しても末端カルボキシル基量を制御する効果が低いからである。
【0045】
エステル交換反応の場合は、単一のエステル交換反応槽、又は、複数のエステル交換反応槽を直列に接続した多段反応装置を用いて、エチレングリコールの還流下、且つ、反応で生成するエステル由来のアルコール成分と余剰のエチレングリコールを系外に除去しながら、一般的なポリエステル樹脂製造条件で反応を行う。また、得られるエステル交換反応生成物としてのポリエステル低分子量体(オリゴマー)の数平均分子量は500~5,000であることが好ましい。
【0046】
エステル交換反応における反応条件としては、複数のエステル交換反応槽の場合、第1段目のエステル交換反応槽における反応温度を、通常180~230℃、好ましくは180~220℃、圧力を、通常0~300kPaG、好ましくは0~200kPaGとし、最終段における反応温度を、通常220~260℃、好ましくは225~240℃、圧力を、通常0~200kPaG、好ましくは0~150kPaGとする。尚、単一のエステル交換反応槽で行う場合には、エステル交換反応槽の反応温度を、通常150~280℃、好ましくは150~250℃、圧力を、通常0~200kPaG、好ましくは0~150kPaGとする。
【0047】
(溶融重縮合工程)
本発明において、エステル化反応又はエステル交換反応工程に続き、オリゴマーを溶融重縮合してポリエステル樹脂を得る溶融重縮合工程を行う。溶融重縮合は、連続式、回分式のいずれの方法でもかまわないが、連続式の場合は複数の重縮合反応槽を直列に接続した反応装置、例えば、第1段目が撹拌翼を備えた完全混合型の反応器、第2段及び第3段目が撹拌翼を備えた横型プラグフロー型の反応器からなる多段反応装置を用いて、減圧下に、副生するエチレングリコールを系外に留出させながら行う。
【0048】
連続式の溶融重縮合における反応条件としては、複数の重縮合反応槽の場合、第1段目の重縮合反応槽における反応温度を、通常250~290℃、好ましくは260~280℃、絶対圧力を、通常65~1.3kPa、好ましくは26~2kPaとし、最終段における反応温度を、通常265~300℃、好ましくは270~295℃、絶対圧力を、通常1.3~0.013kPa、好ましくは0.65~0.065kPaとする。中間段の重縮合反応槽における反応条件としては、それらの中間の条件が選択され、例えば、3段反応装置においては、第2段における反応温度を、通常265~295℃、好ましくは270~285℃、絶対圧力を、通常6.5~0.13kPa、好ましくは4~0.26kPaとする。
【0049】
一方、回分式の場合は、通常、エステル化反応槽又はエステル交換反応槽とそれに直列に接続された重縮合反応槽からなる反応装置を用いて、減圧下に、副生するエチレングリコールを系外に留出させながら行う。
【0050】
回分式の溶融重縮合における反応条件としては、重縮合反応槽における反応温度を、通常220~300℃、好ましくは220~295℃の範囲で漸次昇温すると共に漸次減圧し、最終圧力を通常1.3~0.013kPa、好ましくは0.65~0.065kPaとする。
【0051】
(ペレット化)
溶融重縮合工程の生成物(これをポリエステル樹脂プレポリマーと呼ぶことがある)は、溶融状態でダイを経由して空中にストランド状で流出させ、直ちに冷却水と接触させて固化させ、次いでカッターで切断する、所謂ストランドカット法でペレット化するか、又は、溶融樹脂をダイを経由して直接冷却水中に流出させ、ダイの前面に設けたカッターで切断してペレット化する所謂アンダーウォーターカッティング法を用いてペレット化する。
【0052】
(固相重縮合工程)
上記溶融重縮合後のポリエステル樹脂ペレットは、固有粘度を所望の範囲に調節するために固相重縮合を行うことが好ましい。固相重縮合は連続式又は回分式のいずれの方法でも実施することができる。
【0053】
例えば、連続式の固相重縮合工程では、窒素、二酸化炭素、アルゴン等の不活性ガス流通下、圧力として、通常100kPaG以下、好ましくは20kPaG以下で、通常5~30時間程度、温度の下限は通常190℃、好ましくは195℃、上限は通常230℃、好ましくは225℃の範囲で加熱することにより固相重縮合させることが好ましい。
【0054】
一方、回分式の固相重縮合工程では、例えば、窒素、二酸化炭素、アルゴン等の不活性ガス流通下、圧力として、通常100kPaG以下、好ましくは20kPaG以下で、通常4~30時間程度、温度の下限は通常190℃、好ましくは195℃、上限は230℃、好ましくは225℃の範囲で加熱することにより固相重縮合させる。または、例えば絶対圧力として、下限が通常0.013kPa、好ましくは0.065kPa、上限が通常は6.5kPaとなる減圧下で通常1~25時間程度、好ましくは1~20時間程度、温度の下限は通常190℃、好ましくは195℃で、上限は通常235℃、より好ましくは230~232℃で加熱することにより、固相重縮合させることが好ましい。
【0055】
このようにして重合度を調節することにより、固有粘度(IV)が0.80dL/g以上のポリエステル樹脂を得ることができる。
【0056】
なお、ペレットは固相重縮合工程に供する前に、固相重縮合を行う温度よりも低い温度で予備結晶化を行ってもよい。例えば、ペレットを乾燥状態で120~200℃、好ましくは130~190℃で1分間~4時間程度加熱したり、ペレットを水蒸気が含まれる雰囲気中で120~200℃に1分間以上加熱してから、固相重縮合に供するようにしてもよい。
【0057】
[ポリエステル樹脂組成物]
本発明のポリエステル樹脂には、下記の各種粒子や、添加剤、ポリエステル樹脂以外の樹脂を添加してポリエステル樹脂組成物とすることができる。
【0058】
<粒子>
本発明のポリエステル樹脂をフィルム製膜する際、フィルムの低光沢感を演出できるように無機質及び/又は有機質粒子を添加することが好ましい。
上記粒子はマット感を付与可能な粒子であれば特に限定されるものではない。
【0059】
無機質粒子としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、シリカ、タルク、チタニア、カオリン、マイカ、ゼオライト等、及びそれらのシランカップリング剤、又はチタネートカップリング剤等による表面処理物が挙げられる。
有機質粒子としては、例えば、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、架橋樹脂等の樹脂粒子が挙げられる。
これらの粒子は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
これら粒子の粒子径は、平均粒子径で2.0~10.0μmの範囲であることが好ましく、3.0~8.0μmがより好ましく、4.0~6.0μmが特に好ましい。
これらの粒子の添加量は、ポリエステル樹脂に対して3~10質量%が好ましく、4~10質量%がより好ましく、6~8質量%が特に好ましい。
これらの粒子は、溶融重縮合途中又は重縮合後に添加することができる。
【0061】
<添加剤>
本発明のポリエステル樹脂に、必要に応じ、その他慣用の添加剤などを配合することができる。その他の添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、核剤、可塑剤、着色剤等が挙げられる。これらの添加剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。その他の添加剤の添加量は、ポリエステル樹脂に対して通常5質量%以下、好ましくは0.05~2質量%である。
これらの添加剤は、溶融重縮合途中又は重縮合後に添加することができる。
【0062】
(配合方法)
前記の種々の粒子や添加剤の配合方法は、特に制限されないが、ベント口から脱揮できる設備を有する1軸又は2軸の押出機を混練機として使用する方法が好ましい。各成分は、付加的成分を含めて、混練機に一括して供給してもよく、順次供給してもよい。また、付加的成分を含めて、各成分から選ばれた2種以上の成分を予め混合しておくこともできる。
【0063】
[ポリエステル樹脂フィルム]
本発明のポリエステル樹脂は、好ましくはフィルム又はシート製膜、より好ましくはフィルム製膜に用いられる。フィルム製膜の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、ポリエステル樹脂をその融点以上の温度で溶融した後、押出成形によりポリエステル樹脂シートを得、次いで得られたポリエステル樹脂シートを二軸延伸することによりポリエステル樹脂フィルムを得ることができる。
【0064】
より具体的には、本発明のポリエステル樹脂を250~320℃でフィルム状に溶融押出した後、固化して、無定形シートとし、次いで70~140℃で縦、横に逐次又は同時二軸延伸し、得られたフィルムを160~240℃で熱処理する方法が挙げられる。通常、延伸温度は80~140℃が好ましく、延伸倍率は縦、横各々2~7倍の範囲から選択される。
【0065】
このようにして製膜されるポリエステル樹脂フィルムの厚さは、通常1~300μm程度であることが好ましく、なかでも5~125μm、その中でも8~100μmであることが好ましい。
【0066】
本発明のポリエステル樹脂によれば、このような方法で、マット調ポリエステルフィルムを、フィルムの破断を引き起こすことなく、高速製膜することができる。
【実施例
【0067】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例によって限定されるものではない。
【0068】
試料(エステル化反応生成物、ポリエステル樹脂プレポリマー又はポリエステル樹脂)は、以下の測定方法によって測定、評価を行った。
【0069】
<金属原子含有量:モル/トン>
試料2.5gを、硫酸存在下に過酸化水素で常法により灰化、完全分解後、蒸留水にて5mLに定容したものについて、プラズマ発光分光分析装置(JOBIN YVON社製ICP-AES「JY46P型」)を用いて金属原子を定量し、試料中のモル/トンに換算した。
【0070】
<溶融時の体積固有抵抗値(ρV):Ω・cm>
試料15gを、内径20mm、長さ180mmの枝付き試験管に入れ、管内を十分に窒素置換した後、250℃のオイルバス中に浸漬し、管内を真空ポンプで1Torr以下として20分間真空乾燥した。次いで、オイルバス温度を285℃に昇温して試料を溶融させた後、窒素復圧と減圧を繰り返して混在する気泡を取り除いた。この溶融体の中に、面積1cmのステンレス製電極2枚を5mmの間隔で並行に(相対しない裏面を絶縁体で被覆)挿入し、温度が安定した後に、抵抗計(ヒューレット・パッカード社製「MODELHP4339 B」)で直流電圧100Vを印加し、そのときの抵抗値を計算して体積固有抵抗値(ρV:Ω・cm)とした。
【0071】
<固有粘度(IV):dL/g>
凍結粉砕したポリエステル樹脂試料約0.25gを、フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(質量比1/1)の混合溶媒約25mLに、濃度が1.00g/dLとなるように120℃で30分溶解させた後、30℃まで冷却し、30℃において全自動溶液粘度計(センテック社製、「DT553」)にて、試料溶液及び溶媒のみの落下秒数を測定し、以下の式により、固有粘度(IV)を算出した。
IV=((1+4Kηsp0.5-1)/(2KC)
ここで、ηsp=η/η-1であり、ηは試料溶液の落下秒数、ηは溶媒のみの落下秒数、Cは試料溶液濃度(g/dL)、Kはハギンズの定数である。Kは0.33を採用した。
なお、ポリエステル樹脂プレポリマーの固有粘度を測定する場合は、凍結粉砕は行わず、ペレット形状のまま使用し、溶解条件は110℃で30分とした。
【0072】
<固有粘度(IV)低下率:%>
上記の方法で測定した固有粘度:IVdL/gのポリエステル樹脂試料21gを枝管付き試験管に入れ、1Torr以下の減圧下、180℃のオイルバスに浸漬させて2.5時間乾燥させた後、窒素ガスで復圧させ窒素ガスでシールしたままオイルバスから引き上げた。オイルバスの温度を290℃にセットして、窒素ガスでシールした状態で試験管を浸漬し、乾燥させた試料を溶融させた。1時間30分間オイルバスに浸漬した後、試料を取り出し、急冷してアモルファスの状態とした。その試料をニッパーなどで適切な大きさに切りそろえた後、上記の方法により固有粘度(IVdL/g)を測定した。固有粘度(IV)の低下率は以下式に従って算出し、下記基準によって評価した。
固有粘度(IV)低下率={(IV-IV)/IV}×100
(評価基準)
〇:IV低下率 10%未満
△:IV低下率 10%以上~15%未満
×:IV低下率 15%以上
【0073】
<フィルム静電印加密着性の評価>
ポリエステルフィルムの製膜性を、下記基準によって評価した。
(評価基準)
◎:非常に良好な製膜性を示す。
○:製膜性は◎よりも悪いが、製膜は可能である。
×:製膜性が悪い。
【0074】
<フィルム製膜時破断性の評価>
ポリエステルフィルム製膜時の破断頻度を、下記基準によって評価した。
(評価基準)
〇:1日当たり1回未満
△:1日当たり1回以上3回未満
×:1日当たり3回以上
【0075】
[実施例1]
<ポリエステル樹脂の製造>
撹拌機、エチレングリコール仕込み配管及びテレフタル酸仕込み配管を具備するスラリー調製槽;スラリーやエステル化反応物を各エステル化反応槽へ移送する各配管;撹拌機、分離塔、原料受入れ口、触媒仕込み配管、反応物移送配管を具備する完全混合型第1段及び第2段エステル化反応槽;エステル化反応物(オリゴマー)を溶融重縮合反応槽へ移送する配管;撹拌機、分離塔、オリゴマー受入れ口、触媒仕込み配管を具備する完全混合型第1段溶融重縮合反応槽;撹拌機、分離塔、ポリマー受入れ口、ポリマー抜き出し口を具備するプラグフロー型第2段及び第3段溶融重縮合反応槽;プレポリマーを抜き出し口よりギヤポンプを介してダイプレートからストランド状に取り出し水冷下ストランドカットするペレット化装置;を備えたポリエステル樹脂連続製造装置を用いた。
【0076】
前記のポリエステル樹脂連続製造装置を用いて、ジカルボン酸とジオールとをエステル化反応し、更に溶融重縮合反応することにより得られた溶融状態のポリエステル樹脂プレポリマーをダイプレートからストランド状に取り出し切断することで、ポリエステル樹脂ペレットを製造した。具体的には以下の通りである。
【0077】
スラリー調製槽に、生成するポリエステル樹脂に対してリン原子として0.50モル/トンのエチルアシッドホスフェートのエチレングリコール溶液(濃度7.8質量%)と、テレフタル酸及びエチレングリコールを、テレフタル酸:エチレングリコール=166:87(質量比)(モル比=1:1.4)となるように供給してスラリーを調製した。
【0078】
第1段エステル化反応槽では、窒素雰囲気下で温度265℃、大気圧に対する相対圧力120kPaGに保たれており、その中へ前記のスラリー調製槽で調製されたスラリーを、反応物の平均滞留時間が4.5時間になるように連続的に供給し、分離塔から生成する水を留去しながらエステル化反応を行いつつ、反応物を連続的に第2段エステル化反応槽へ移送した。
第2段エステル化反応槽では、温度260℃、圧力0kPaG下、平均滞留時間1.2時間でエステル化反応を行い、移送配管を通じ完全混合型第1段溶融重縮合反応槽へ連続的に移送した。移送の際、エステル化反応生成物に、酢酸マグネシウム4水和物のエチレングリコール溶液(濃度6.4質量%)を、生成するポリエステル樹脂に対してマグネシウム原子として1.06モル/トン、さらに、三酸化二アンチモンのエチレングリコール溶液(濃度2.0質量%)を、生成するポリエステル樹脂に対してアンチモン原子として1.96モル/トン、それぞれ連続的に添加した。
【0079】
第1段溶融重縮合反応槽では、温度270℃、絶対圧力2.6kPa下、平均滞留時間70分にて反応を行い、反応生成物を移送配管を通じ第2段溶融重縮合反応槽へ連続的に移送した。
第2段溶融重縮合反応槽では、温度278℃、絶対圧力0.5kPa下、滞留時間70分にて溶融重縮合反応を行い、反応生成物を移送配管を通じ第3段溶融重縮合反応槽へ連続的に移送した。
第3段溶融重縮合反応槽では、温度280℃、絶対圧力0.3kPa下、平均滞留時間80分にて溶融重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂を得た。
【0080】
ポリエステル樹脂は、ダイからストランド状に押し出して冷却固化し、カッターで切断してペレットとした。このペレットの固有粘度は0.65dL/gであった。このポリエステル樹脂をポリエステル樹脂プレポリマーと呼ぶ。
得られたポリエステル樹脂プレポリマー5,000kgを、窒素導入口、加熱装置、温度計、圧力計、減圧用排気口を備えたダブルコーン型固相重縮合装置へ投入し、樹脂温度160℃、絶対圧力0.07kPaに調節して2.5時間真空乾燥した後、引き続き樹脂温度を232℃として12時間固相重縮合を行ってポリエステル樹脂を得た。
得られたポリエステル樹脂の物性を表1に示す。また溶融熱安定性を評価したところ、IV低下率は7%であり良好であった。
【0081】
<フィルムの製造>
上記で得られたポリエステル樹脂に、平均粒径が4.5μmのメタクリル酸アルキル-スチレン共重合体粒子を8質量%配合し、ベント付き二軸押出機により、290℃で溶融押出し、表面温度を25℃に設定した冷却ロール上に、静電印加密着法を適用してキャスティングして未延伸シートを得た。次いで、90℃で縦方向に3.2倍延伸した後、テンターに導き、130℃で横方向に4.2倍延伸し、更に、240℃で熱処理を行い、厚さ50μmのポリエステルフィルムを得た。フィルムの製膜性の評価結果を表1に示した。
実施例1で得られたポリエステル樹脂は体積固有抵抗値が低く、また固有粘度が高いことからマット調のポリエステルフィルム製造に好適な樹脂であった。
【0082】
[実施例2]
三酸化二アンチモンとエチルアシッドホスフェートの添加量を表1に記載したとおりに変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の物性を表1に示す。得られたポリエステル樹脂を用いて実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを製造した。フィルムの製膜性の評価結果を表1に示した。
得られたポリエステル樹脂は体積固有抵抗値が低く、また固有粘度が高いことからマット調のポリエステルフィルム製造に好適な樹脂であった。
【0083】
[比較例1]
エチルアシッドホスフェートの添加量を表1に記載した通りに変更した以外は、実施例2と同様にしてポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の物性を表1に示す。得られたポリエステル樹脂を用いて実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを製造した。フィルムの製膜性の評価結果を表1に示した。
得られたポリエステル樹脂は体積固有抵抗値は高く、フィルム製膜には不適な樹脂となった。
【0084】
[比較例2]
実施例1においてエチルアシッドホスフェートの添加量を表1記載の通りとし、ポリエステル樹脂プレポリマーの固有粘度を0.62dL/gとし、固相重合条件を表1記載の通りとした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の物性を表1に示す。得られたポリエステル樹脂を用いて実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを製造した。フィルムの製膜性の評価結果を表1に示した。
得られたポリエステル樹脂は固有粘度が低いため、フィルム製膜には不適な樹脂となった。
【0085】
[比較例3]
実施例1において酢酸マグネシウム4水和物及びエチルアシッドホスフェートの添加量を表1記載の通りに変更し、ポリエステル樹脂プレポリマーの固有粘度を表1記載の通りとした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の物性を表1に示す。得られたポリエステル樹脂を用いて実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを製造した。フィルムの製膜性の評価結果を表1に示した。
得られたポリエステル樹脂は体積固有抵抗値が高く、かつ固有粘度が低いため、フィルム製膜には不適な樹脂となった。
【0086】
[比較例4]
実施例1において酢酸マグネシウム4水和物及びエチルアシッドホスフェートの添加量を表1記載の通りに変更し、ポリエステル樹脂プレポリマーの固有粘度を表1記載の通りとした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の物性を表1に示す。得られたポリエステル樹脂を用いて実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを製造した。フィルムの製膜性の評価結果を表1に示した。
得られたポリエステル樹脂は固有粘度低下率が大きく、フィルム製膜には不適な樹脂となった。
【0087】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明のポリエステル樹脂は、高い製膜速度で製膜可能な程度に体積固有抵抗値が低く、かつマット調のフィルム製膜に適した固有粘度を有する。従って、本発明のポリエステル樹脂は、特にマット調のポリエステルフィルム原料として好適である。