(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】ストロンチウム吸着剤およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/06 20060101AFI20241210BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20241210BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20241210BHJP
C01G 45/12 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B01J20/06 C
B01J20/28 Z
B01J20/30
C01G45/12
(21)【出願番号】P 2021025942
(22)【出願日】2021-02-22
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】深田 由布子
【審査官】太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-142955(JP,A)
【文献】特開2020-015042(JP,A)
【文献】特開2005-139051(JP,A)
【文献】特開2020-093251(JP,A)
【文献】特開2006-021132(JP,A)
【文献】特開2003-335522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00 - 20/28
B01J 20/30 - 20/34
C01G 25/00 - 47/00
C01G 49/10 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともナトリウム、カリウム及びマンガンを含む層状マンガン酸化物から構成されており、組成式Na
xK
yMnO
2(式中、0.05≦x、0.05≦y、及び0.31≦x+y≦0.60を満たす)で表され、結晶子径が20Å以上250Å以下、BET比表面積が1m
2/g以上10m
2/g以下、層間距離が7.0Å以上7.6Å以下である層状マンガン酸化物を含み、平均粒子径D
50が50μm以上200μm未満の粉末であることを特徴とするストロンチウム吸着剤。
【請求項2】
組成式の式中、0.1≦x、0.1≦y及び0.31≦x+y≦0.60を満たすことを特徴とする請求項1に記載のストロンチウム吸着剤。
【請求項3】
BET比表面積が1m
2/g以上5m
2/g以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のストロンチウム吸着剤。
【請求項4】
結晶子径が30Å以上100Å以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかの項に記載のストロンチウム吸着剤。
【請求項5】
層間距離が7.1Å以上7.5Å以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれかの項に記載のストロンチウム吸着剤。
【請求項6】
平均粒子径D
50が50μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれかの項に記載のストロンチウム吸着剤。
【請求項7】
少なくともマンガンを含む金属塩水溶液、水酸化カリウム水溶液及びペルオキソ二硫酸ナトリウム水溶液をカリウム/マンガンモル比が3以上10以下、ペルオキソ二硫酸ナトリウム/マンガンモル比が0.5以上4以下、温度0℃以上100℃以下で混合し、析出物質を乾燥させた後粉末状になるまで粉砕することを特徴とする請求項1~6のいずれかの項に記載のストロンチウム吸着剤の製造方法。
【請求項8】
金属塩水溶液が硫酸マンガンまたは硝酸マンガン水溶液であることを特徴とする請求項7に記載のストロンチウム吸着剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストロンチウム吸着剤およびその製造方法に関するものであり、より詳細には、層状マンガン酸化物を含むストロンチウム吸着剤およびその製造方法に関する。本発明のストロンチウム吸着剤は処理液から効率的にストロンチウムを除去するのに有用である。
【背景技術】
【0002】
水溶液から有害イオンを除去できる吸着剤として、層状マンガン酸化物が知られている。
【0003】
海水中のストロンチウムイオンの吸着剤として、マンガン原料とナトリウム原料を400℃以上で焼成して合成した、層間内にナトリウムイオンが存在している層状マンガン酸化物が特許文献1に開示されている。
【0004】
一方、マンガン原料とカリウム原料を400℃以上で焼成して合成した、層間内にカリウムイオンが存在している層状マンガン酸化物が特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6679000号
【文献】特開2020―15042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の層状マンガン酸化物は、層間距離が約5.5Åのナトリウム型層状マンガン酸化物、いわゆる脱水型バーネサイトであるが、脱水型バーネサイトは水溶液中で水和により層間距離が大幅に広がるため、吸着剤が膨潤、崩壊しやすい課題を有する。
【0007】
特許文献2の層状マンガン酸化物はカリウム型層状マンガン酸化物であり、層間距離が7.0~7.2Åと水和型バーネサイトに近い層間距離をしているため、膨潤による崩壊は起こりにくいと考えられるが、ストロンチウム吸着能が十分ではない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記した課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至ったものである。すなわち、本発明は、少なくともナトリウム、カリウム及びマンガンを含む層状マンガン酸化物から構成されており、組成式NaxKyMnO2(式中、0.05≦x、0.05≦y、及び0.31≦x+y≦0.60を満たす)で表され、結晶子径が20Å以上250Å以下、BET比表面積が1m2/g以上10m2/g以下、層間距離が7.0Å以上7.6Å以下である層状マンガン酸化物を含み、平均粒子径D50が50μm以上200μm未満の粉末であることを特徴とするストロンチウム吸着剤である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、層間距離が増大しにくいために保形性に優れ、かつ、ストロンチウム吸着性能に優れる吸着剤を提供できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明のストロンチウム吸着剤は、少なくともナトリウム、カリウム及びマンガンを含む層状マンガン酸化物から構成されており、組成式NaxKyMnO2(式中、0.05≦x、0.05≦y、及び0.31≦x+y≦0.60を満たす)で表され、結晶子径が20Å以上250Å以下、BET比表面積が1m2/g以上10m2/g以下、層間距離が7.0Å以上7.6Å以下である層状マンガン酸化物を含み、平均粒子径D50が50μm以上200μm未満の粉末であることを特徴とするストロンチウム吸着剤である。
【0012】
本発明のストロンチウム吸着剤に含まれる層状マンガン酸化物は、少なくともナトリウム、カリウム、マンガンを含む層状マンガン酸化物から構成されており、組成式NaxKyMnO2(式中、0.05≦x、0.05≦y、及び0.31≦x+y≦0.60を満たす)で表されることを特徴とする。層状マンガン酸化物へのストロンチウムの吸着は、処理液のストロンチウムイオンと層間のカチオンのイオン交換により行われる。よって、ナトリウムおよびカリウムの含有量が大きい程吸着サイトを多く持つこととなり、ストロンチウム吸着性能の向上につながる。よって、本発明については0.31≦x+y≦0.60の範囲であるが、好ましくは0.32≦x+y≦0.60の範囲で層状構造と吸着性能を両立させることが可能となる。層間のカチオンとしてナトリウムとカリウムの両方が含有されることは、ストロンチウム吸着性能と保形性の両立につながる。ナトリウムの含有はストロンチウム吸着性能を向上させるが、ナトリウムのみを層間カチオンとする層状マンガン酸化物は乾燥時と湿潤時で層間距離が大きく変動するため、液中で吸着剤粉末が微細に崩壊し、ストロンチウム吸着後の材の回収が困難になることが懸念される。カリウムを含有する層状マンガン酸化物は乾燥時と湿潤時の層間距離がほぼ一定であり、保形性が向上する。ナトリウムとカリウム両方を含有することにより、層状マンガン酸化物のストロンチウム吸着性能と保形性を両立することができる。ナトリウムとカリウム含有量は0.05≦x及び0.05≦yであることが好ましく、0.1≦x及び0.1≦yであることがより好ましい。
【0013】
本発明のストロンチウム吸着剤に含まれる層状マンガン酸化物は、結晶子径が20Å以上250Å以下である。粒子内の物質移動の観点から、小さい結晶子径である程ストロンチウム吸着性能が大きくなるが、結晶子径が小さすぎる場合、アモルファスに近くなってしまい、ストロンチウムを結晶内部に保持することが難しくなると考えられるため、結晶子径が20Å以上250Å以下にすることにより、良好なストロンチウム吸着性能が得られる。結晶子径は20Å以上200Å以下が好ましく、30Å以上100Å以下がより好ましい。ここで述べる結晶子径とは、CuKαを線源とする粉末X線回折で、001面のピークからシェラー式(定数K=0.9)で求められる結晶子径である。
【0014】
本発明のストロンチウム吸着剤に含まれる層状マンガン酸化物は、BET比表面積が1m2/g以上10m2/g以下である。層状マンガン酸化物と処理液の接触面積はストロンチウム吸着性能と層状マンガン酸化物の強度に大きな影響を与えるもので、BET比表面積が1m2/g未満の場合は吸着性能が低く、10m2/gを超える場合は副生相として四三酸化マンガンが生成している可能性が高い。四三酸化マンガンにはストロンチウム吸着性能がないため、生成すると粉末のストロンチウム吸着性能が低下する。BET比表面積は1m2/g以上5m2/g以下が好ましい。
【0015】
本発明のストロンチウム吸着剤は、平均粒子径D50が50μm以上200μm未満の粉末である。平均粒子径D50が50μmよりも小さい場合、吸着剤を液中から分離する際の濾過性が悪くなると考えられる。平均粒子径D50が200μm以上の場合、吸着剤粒子内部への液の浸透に時間がかかるため、吸着剤粉末として使用するには不適となる。平均粒子径D50は50μm以上100μm以下が好ましく、50μm以上80μm以下がより好ましい。なお、本明細書において、「平均粒子径D50」は、レーザー回折・散乱法によって球状近似を用いて求めた粒度分布における、体積基準での積算値50%における粒子径を意味する。
【0016】
層状マンガン酸化物へのストロンチウムの吸着は、処理液のストロンチウムイオンと層間のカチオンのイオン交換により行われる。これは、交換されるストロンチウムのイオン半径または水和半径に適した層間距離があるためといわれている。カリウム型層状マンガン酸化物の層間距離は、ストロンチウムの吸着性能の観点から、本発明のストロンチウム吸着剤に含まれる層状マンガン酸化物は、層間距離が7.0Å以上7.6Å以下である。ここで述べる層間距離とは、相対するマンガン層の基底面の距離で表されるものであり、XRD回折ピークの001面を表すピークから求めることができる。層間距離が7.0Å以上7.6Å以下である層状マンガン酸化物は、CuKαを線源とする粉末X線回折で、2θ=12.2±0.6°、2θ=24.6±1.5°及び2θ=36.5±2.0°に回折ピークを有する。層間距離が7.0Åよりも小さい場合、水溶液中に層状マンガン酸化物を投入し、層間に水が挿入された場合やストロンチウムを吸着した場合の層間距離の変動が大きくなり、吸着剤粒子の崩壊が懸念され、層間距離が7.6Åよりも大きい場合、ストロンチウム吸着性能の低下が懸念される。7.1Å以上7.5Å以下であることが好ましい。
【0017】
本発明のストロンチウム吸着剤に含まれる層状マンガン酸化物は、マンガンを含む金属塩水溶液、アルカリ金属水溶液及び酸化剤を混合し、析出した物体を乾燥させることによって製造できる。当該製造方法については、少なくともマンガンを含む金属塩水溶液、水酸化カリウム水溶液及びペルオキソ二硫酸ナトリウム水溶液を混合し、カリウム/マンガンモル比が3以上10以下、ペルオキソ二硫酸ナトリウム/マンガンモル比が0.5以上4以下、温度0℃以上100℃以下で混合し、析出した物質を乾燥させた後粉末状になるまで粉砕することを特徴とする。
【0018】
マンガンを含む金属塩水溶液は、マンガンを含む金属塩を水に溶解させることで調製することができる。マンガンを含む金属塩は、例えば、水溶性の硫酸マンガン(II)、塩化マンガン(II)、硝酸マンガン(II)、酢酸マンガン(II)などが挙げられ、無水物であっても水和物であってもよい。これらのうち、硫酸マンガン(II)が廃液処理、腐食性、原料コストを考慮した場合、最も好適である。
【0019】
水酸化カリウム水溶液は任意の濃度のものを使用できるが、生産性の観点から1mol/L以上が好ましい。カリウム/マンガンモル比は3以上10以下である。3未満であると、四三酸化マンガン(Mn3O4)が副生し、10を超える場合も、四三酸化マンガン(Mn3O4)が副生する。ストロンチウム吸着性能の点から、4以上8以下であることが好ましい。
【0020】
ペルオキソ二硫酸ナトリウム水溶液は任意の濃度のものが使用できるが、生産性の観点から5%以上が好ましい。ペルオキソ二硫酸ナトリウム/マンガンモル比は0.5以上4以下である。0.5未満であると、層状マンガン酸化物が生成せず、4を超える場合はマンガンが過剰に酸化され6価のマンガンイオンとなり液中に放出される。生産性の観点から0.7以上2以下が好ましく、0.7以上1.2以下がより好ましい。
【0021】
金属塩水溶液、水酸化カリウム水溶液及びペルオキソ二硫酸ナトリウム水溶液を混合する際は、バッチ式、連続式反応のどちらでも構わない。また、水溶液の添加方法については、アルカリ金属/マンガンモル比とペルオキソ二硫酸ナトリウム/マンガンモル比を一定にした上で同時に等速滴下することが均一な反応に繋がるため好ましい。
【0022】
反応後、析出した物質はろ過や遠心分離により分離できる。この際、固液分離可能であればどのような方法を使用してもよい。この際、析出した物質を洗浄し、副生物である硫酸カリウムやその他カリウム塩、未反応の水酸化カリウム等を除去することが好ましい。
【0023】
固液分離後の析出物を乾燥させる際の方法に特に制限はないが、600℃以上の温度ではマンガン酸化物が層状からホランダイト型トンネル構造に変化してしまうため、600℃以上の温度で乾燥させることはできない。
【0024】
乾燥させた析出物は乳鉢、ボールミル、ジョークラッシャー等任意の方法で粉砕することができる。
【0025】
粉砕後の粉末はそのままストロンチウム吸着剤として使用することができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、これらに限定されるものではない。
【0027】
<試料中のナトリウム、カリウム、マンガンの測定>
得られた試料の組成分析は誘導結合プラズマ発光分析法(ICP法)により行った。すなわち、試料粉末50mgを過酸化水素水1mlと塩酸5mlで溶解し、イオン交換水で1Lに希釈することで、測定溶液を調製した。一般的な誘導結合プラズマ発光分析装置(商品名:OPTIMA3000DV、PERKIN ELMER製)を用い、得られた測定溶液を測定することで、得られた試料の化学組成を分析した。この際、得られた測定溶液のカリウムのモル濃度をCNa[mol/L]、カリウムのモル濃度をCK[mol/L]、マンガンのモル濃度をCMn[mol/L]とし、試料中のナトリウムとマンガンのモル比xとカリウムとマンガンのモル比yを算出した。
【0028】
x=CNa/CMn
y=CK/CMn
<粉末X線回折測定>
X線回折装置(商品名:Ultima4、リガク製)を使用し、得られた試料の粉末X線回折測定を行った。線源にはCuKα線(λ=1.5405Å)を用い、測定モードはステップスキャン、スキャン条件は毎秒0.04°、計測時間は0.25秒、測定範囲は2θとして5°から70°の範囲で測定した。
【0029】
<BET比表面積の測定>
BET比表面積測定装置(商品名:FlowSorbIII、Micromeritics製)を使用し、得られた試料のBET比表面積を測定した。BET比表面積測定にあたり、前処理としてBET比表面積測定装置に付属する前処理装置を用い、試料を窒素気流中にて120℃で1時間加熱し、水分の除去を行った。
【0030】
<平均粒子径D50の測定>
粒子径分布測定装置(商品名:MT3300 EXII、マイクロトラック・ベル製)を使用し、平均粒子径D50(レーザー回折・散乱法により球状近似を用いて求めた粒度分布における、体積基準での積算値50%における試料の粒子径)を測定した。この際、標準資料循環器を用いて純水に資料を分散させ測定を行った。粒子径の計算は装置に付属の測定用ソフトに付随する機能を用いて行い、その際に計算モードはHRA、測定時間は30秒、粒子の屈折率は2.5に設定した。
【0031】
<ストロンチウム吸着量の測定>
ストロンチウムの濃度が10mg/Lとなるように塩化ストロンチウムをイオン交換水に溶解させ、ストロンチウム水溶液を調製した。
【0032】
ストロンチウム水溶液750mLに、吸着剤試料0.05gを添加した。これを温度25℃で1時間撹拌し、吸引ろ過により吸着剤試料を除去したろ液(以下、処理後液)を得る方法で吸着試験を行った。
【0033】
試料水溶液中のストロンチウム濃度測定は誘導結合プラズマ発光分析法(ICP法)により行った。測定には一般的な誘導結合プラズマ発光分析装置(商品名:OPTIMA3000DV、PERKIN ELMER製)を用い、得られた測定溶液を測定することでストロンチウム濃度を求めた。
【0034】
吸着試験を行う前のストロンチウム水溶液のストロンチウム濃度をC0(mg/L)、処理後液のストロンチウム濃度をC(mg/L)とし、ストロンチウム除去率を下式により求めた。
【0035】
ストロンチウム除去率(%)=(C0-C)/C0×100
実施例1
内容積1Lの反応容器に純水130gを収め、これを40℃まで昇温、維持した。別に、硫酸マンガン6水和物(試薬特級、キシダ化学製)を純水に溶解し、2.0mol/Lの硫酸マンガン水溶液を調製した。加えて、別容器に40%水酸カリウム水溶液(鹿特級、関東化学)を純水で希釈し、5mol/Lの水酸化カリウム水溶液を用意した。更に、別容器にペルオキソ二硫酸ナトリウム(試薬1級、キシダ化学製)を純水に溶解し、21%ペルオキソ二硫酸ナトリウム水溶液を調製した。反応容器内部に外径80mmの4枚羽根のパドル翼を差し入れ、600ppmで回転させることにより攪拌しながら上記硫酸マンガン水溶液、水酸化カリウム水溶液、およびペルオキソ二硫酸ナトリウム水溶液を反応容器に等速で20分間かけて同時に添加した。その際の硫酸マンガン水溶液の添加速度は5.0g/min、水酸化カリウム水溶液の添加速度は7.7g/min、ペルオキソ二硫酸ナトリウム水溶液の添加速度は9.0g/minであった。この際のカリウム/マンガンモル比は4、ペルオキソ二硫酸ナトリウム/マンガンモル比は1であった。水溶液の添加終了後、容器温度を一定に保ちながら更に10分間攪拌を続けた。上記操作によりカリウム型層状マンガン酸化物が析出したスラリーを得た。得られたスラリーをろ過し、純水で洗浄した後、洗浄後のウェットケーキを60℃で16時間乾燥させることで、カリウム型層状マンガン酸化物の凝集体を得た。凝集体をアルミナ製乳鉢と乳棒ですり潰し、カリウム型層状マンガン酸化物の粉末(ストロンチウム吸着剤)を得た。粉末の平均粒子径D50は108μmであった。
【0036】
得られた試料の組成式はNa0.13K0.23MnO2であった。また、層間距離は7.45Å、結晶子径は30Åであり、BET比表面積は4.65m2/gであった。
【0037】
得られた試料のストロンチウム除去率は70.3%であった。
【0038】
実施例2
合成時の水酸化カリウム水溶液の添加速度を12g/minに変更した以外は実施例1と同様に合成を行った。この合成時のカリウム/マンガンモル比は6であった。この合成によりカリウム型層状マンガン酸化物の粉末(ストロンチウム吸着剤)を得た。粉末の平均粒子径D50は56.4μmであった。
【0039】
得られた試料の組成式はNa0.11K0.25MnO2であった。また、層間距離は7.31Å、結晶子径は53Åであり、BET比表面積は4.17m2/gであった。
【0040】
得られた試料のストロンチウム除去率は77.9%であった。
【0041】
実施例3
容器上部に抜き出し口を持つ内容積1Lの反応容器に純水800gを収め、これを60℃まで昇温、維持した。別に、硫酸マンガンを純水に溶解し、0.90mol/Lの硫酸マンガン水溶液を調製した。加えて、別容器に40%水酸カリウム水溶液を純水で希釈し、2.3mol/Lの水酸化カリウム水溶液を用意した。更に、別容器にペルオキソ二硫酸ナトリウムを純水に溶解し、10%ペルオキソ二硫酸ナトリウム水溶液を調製した。反応容器内部に外径80mmの4枚羽根のパドル翼を差し入れ、600ppmで回転させることにより攪拌しながら上記硫酸マンガン水溶液、水酸化カリウム水溶液及びペルオキソ二硫酸ナトリウム水溶液を反応容器に等速で同時に添加した。その際の硫酸マンガン水溶液の添加速度は10g/min、水酸化カリウム水溶液の添加速度は19g/min、ペルオキソ二硫酸ナトリウム水溶液の添加速度は18g/minであった。この際のカリウム/マンガンモル比は5、ペルオキソ二硫酸ナトリウム/マンガンモル比は1であった。上記操作を4時間にわたり連続的に行った。層状マンガン酸化物が析出したスラリーが容器上部の抜き出し口から連続的に流れ出た。合成開始から120分から160分の間に流れ出たスラリーを回収し、ろ過した後純水で洗浄を行った。洗浄後のウェットケーキを60℃で16時間乾燥させることで、カリウム型層状マンガン酸化物の凝集体を得た。凝集体をアルミナ製乳鉢と乳棒ですり潰し、カリウム型層状マンガン酸化物の粉末(ストロンチウム吸着剤)を得た。粉末の平均粒子径D50は73.5μmであった。
【0042】
得られた試料の組成式はNa0.10K0.21MnO2であった。また、層間距離は7.26Å、結晶子径は31Åであり、BET比表面積は1.44m2/gであった。
【0043】
得られた試料のストロンチウム除去率は80.8%であった。
【0044】
比較例1
内容積1Lの反応容器に純水200gを収め、これを40℃まで昇温、維持した。別に、硫酸マンガン6水和物(試薬特級、キシダ化学製)を純水に溶解し、2.0mol/Lの硫酸マンガン水溶液を調製した。加えて、別容器に40%水酸カリウム水溶液(鹿特級、関東化学)を純水で希釈し、5mol/Lの水酸化カリウム水溶液を用意した。更に、別容器に35%過酸化水素水(試薬1級、キシダ化学)を用意した。反応容器内部に外径80mmの4枚羽根のパドル翼を差し入れ、600ppmで回転させることにより攪拌しながら上記硫酸マンガン水溶液、水酸化カリウム水溶液、および過酸化水素水を反応容器に等速で30分間かけて同時に添加した。その際の硫酸マンガン水溶液の添加速度は5.0g/min、水酸化カリウム水溶液の添加速度は5.8g/min、過酸化水素水の添加速度は1.6g/minであった。この際のカリウム/マンガンモル比は3、過酸化水素/マンガンモル比は2であった。水溶液の添加終了後、容器温度を一定に保ちながら更に10分間攪拌を続けた。上記操作によりカリウム型層状マンガン酸化物が析出したスラリーを得た。得られたスラリーをろ過し、純水で洗浄した後、洗浄後のウェットケーキを60℃で16時間乾燥させることで、カリウム型層状マンガン酸化物の凝集体を得た。凝集体をアルミナ製乳鉢と乳棒ですり潰し、カリウム型層状マンガン酸化物の粉末(ストロンチウム吸着剤)を得た。粉末の平均粒子径D50は77.0μmであった。
【0045】
得られた試料の組成式はK0.30MnO2であった。また、層間距離は7.24Å、結晶子径は40Åであり、BET比表面積は0.17m2/gであった。
【0046】
得られた試料のストロンチウム除去率は63.8%であった。
【0047】
比較例2
合成温度を60℃に変更した以外は比較例1と同様に行い、カリウム型層状マンガン酸化物(ストロンチウム吸着剤)を得た。粉末の平均粒子径D50は139μmであった。
【0048】
得られた試料の組成式はK0.30MnO2であった。また、層間距離は7.14Å、結晶子径は78Åであり、BET比表面積は0.49m2/gであった。
【0049】
得られた試料のストロンチウム除去率は44.9%であった。
【0050】
比較例3
合成温度を80℃に変更し、水酸化カリウム水溶液の添加速度を12g/minに変更した以外は比較例1と同様に行い、カリウム型層状マンガン酸化物(ストロンチウム吸着剤)を得た。粉末の平均粒子径D50は95.5μmであった。
【0051】
得られた試料の組成式はK0.22MnO2であった。また、層間距離は7.15Å、結晶子径は76Åであり、BET比表面積は44.1m2/gであった。
【0052】
得られた試料のストロンチウム除去率は61.2%であった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
層状マンガン酸化物を含む本発明のストロンチウム吸着剤はストロンチウムの吸着剤として使用できる。