(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】高分子圧電材料及びこれを用いた圧電素子
(51)【国際特許分類】
H10N 30/857 20230101AFI20241210BHJP
C08F 299/06 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
H10N30/857
C08F299/06
(21)【出願番号】P 2021045879
(22)【出願日】2021-03-19
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 牧人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 千登志
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-126839(JP,A)
【文献】特開2003-241032(JP,A)
【文献】特開2001-212807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F2/00-301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1官能ウレタン(メタ)アクリレートに基づく構成単位を有する重合体を含み、
前記1官能ウレタン(メタ)アクリレートが、下記(i)~(iii)の反応生成物から選ばれる1種以上の単量体である、高分子圧電材料。
(i)ポリエーテルモノオール及び(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の等モル反応生成物であって、
前記(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物は、1分子中に1個のイソシアネート基を有し、かつ、1分子中に1個
の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物である、反応生成物。
(ii)ポリエーテルモノオール、ジイソシアネート及び(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の等モル反応生成物であって、
前記(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物は、1分子中に1個のイソシアネート基と反応する基を有し、かつ、1分子中に1個
の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物である、反応生成物。
(iii)ポリエーテルポリオール及び(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の等モル反応生成物であって、
前記(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物は、1分子中に1個のイソシアネート基を有し、かつ、1分子中に1個
の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物である、反応生成物。
【請求項2】
前記1官能ウレタン(メタ)アクリレートは、数平均分子量が3,000~25,000である、請求項1に記載の高分子圧電材料。
【請求項3】
前記1官能ウレタン(メタ)アクリレートは、ガラス転移温度が-55℃以下である、請求項1又は2に記載の高分子圧電材料。
【請求項4】
前記1官能ウレタン(メタ)アクリレートの全オキシアルキレン基中のオキシエチレン基の割合が0~90質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の高分子圧電材料。
【請求項5】
前記重合体は、-20~80℃における貯蔵弾性率が5~150kPaである、請求項1~4のいずれか1項に記載の高分子圧電材料。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の高分子圧電材料が、少なくとも1対の電極に挟装されてなる、圧電素子。
【請求項7】
請求項6に記載の圧電素子を含む、アクチュエータ。
【請求項8】
請求項6に記載の圧電素子を含む、圧力センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子圧電材料、及び、該高分子圧電材料を用いた圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子は、応力の印加により電荷を生じる圧電効果を利用した圧力センサ、また、電界の印加により伸縮等の変形を生じる逆圧電効果を利用したアクチュエータ等の用途で応用されている。
このような圧電素子に用いられる圧電材料としては、軽量であり、柔軟性や成形性、加工性等に優れた高分子圧電材料が知られており、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)系の強誘電性高分子が代表的である。しかしながら、PVDF系高分子は、水やイオンの移動等が圧電素子の駆動に寄与するため、空気中での安定した圧電性が得られ難い。
【0003】
これに対しては、空気中での良好な圧電性が得られる高分子圧電材料として、例えば、特許文献1及び2に、ポリウレタンエラストマーが提案されている。
また、非特許文献1には、高分子量のポリジメチルシロキサンのグラフト鎖を側鎖に有するメタクリレート誘電エラストマーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-100046号公報
【文献】特開2014-100047号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Advanced Materials, 2017, Vol. 29, 1604209
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2に記載されているようなポリウレタンエラストマーは、架橋点間の分子鎖がランダムコイル状であるため、アクチュエータに適用する際、ヒステリシスロスの抑制のために、延伸工程を経る必要があり、また、高い伸長率が得られ難い。
【0007】
一方、非特許文献1に記載されているようなメタクリレート誘電エラストマーは、高分子量の側鎖がブラシ状に密に存在することによって分子鎖が伸びた構造となるため、延伸工程が不要であるものの、高分子量のポリジメチルシロキサンによる側鎖を有していることにより、比誘電率が圧電材料として十分であるとは言えない。
【0008】
したがって、より一層の圧電性の向上の観点から、高伸長率かつ高比誘電率の高分子圧電材料の開発が望まれている。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するものであり、低弾性率、高伸長率かつ高比誘電率であり、良好な圧電性を有する高分子圧電材料及びこれを用いた圧電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ポリエーテル鎖及びウレタン結合を有する所定のウレタンアクリレートを用いることにより、低弾性率、高伸長率かつ高比誘電率の高分子圧電材料が得られることを見出したことに基づく。
【0011】
本発明は、以下の手段を提供する。
[1] 1官能ウレタン(メタ)アクリレートに基づく構成単位を有する重合体を含み、
前記1官能ウレタン(メタ)アクリレートが、下記(i)~(iii)の反応生成物から選ばれる1種以上の単量体である、高分子圧電材料。
(i)ポリエーテルモノオール及び(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の等モル反応生成物であって、
前記(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物は、1分子中に1個のイソシアネート基を有し、かつ、1分子中に1個又は2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物である、反応生成物。
(ii)ポリエーテルモノオール、ジイソシアネート及び(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の等モル反応生成物であって、
前記(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物は、1分子中に1個のイソシアネート基と反応する基を有し、かつ、1分子中に1個又は2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物である、反応生成物。
(iii)ポリエーテルポリオール及び(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の等モル反応生成物であって、
前記(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物は、1分子中に1個のイソシアネート基を有し、かつ、1分子中に1個又は2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物である、反応生成物。
[2] 前記1官能ウレタン(メタ)アクリレートは、数平均分子量が3,000~25,000である、[1]に記載の高分子圧電材料。
[3] 前記1官能ウレタン(メタ)アクリレートは、ガラス転移温度が-55℃以下である、[1]は[2]に記載の高分子圧電材料。
[4] 前記1官能ウレタン(メタ)アクリレートの全オキシアルキレン基中のオキシエチレン基の割合が0~90質量%である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の高分子圧電材料。
[5] 前記重合体は、-20~80℃における貯蔵弾性率が5~150kPaである、[1]~[4]のいずれか1項に記載の高分子圧電材料。
[6] [1]~[5]のいずれか1項に記載の高分子圧電材料が、少なくとも1対の電極に挟装されてなる、圧電素子。
[7] [6]に記載の圧電素子を含む、アクチュエータ。
[8] [6]に記載の圧電素子を含む、圧力センサ。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低弾性率、高伸長率かつ高比誘電率であり、良好な圧電性を有する高分子圧電材料及びこれを用いた圧電素子を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書における用語及び表記についての定義及び意義を以下に示す。
「(メタ)アクリロイルオキシ基」とは、アクリロイルオキシ基及びメタクリロイルオキシ基の総称である。
「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートの総称である。
同様に、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸の総称である。
「官能基数」とは、特に断りのない限り、1分子中の(メタ)アクリロイルオキシ基の数を意味する。
「平均官能基数」とは、特に断りのない限り、化学式に基づく式量又は数平均分子量を1単位とする1分子中の平均の(メタ)アクリロイルオキシ基の数を意味する。
「1官能ウレタン(メタ)アクリレート」とは、1分子中の平均官能基数が実質的に1であるウレタン(メタ)アクリレートを意味し、1分子中の平均官能基数が0.7~1.4、好ましくは0.8~1.3であるウレタン(メタ)アクリレートを、1分子中に実質的に1個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するウレタン(メタ)アクリレート、すなわち、1官能ウレタン(メタ)アクリレートとみなす。
「等モル反応生成物」とは、反応する化合物のモル比が、実質的に1であることを意味し、該モル比が0.7~1.4、好ましくは0.8~1.3である反応生成物を、等モル反応生成物とみなす。
同様に、反応する基(又は化合物)の「モル数が等しい」とは、反応する基(又は化合物)のモル比が、実質的に1であることを意味し、該モル比が0.7~1.4、好ましくは0.8~1.3であるとき、反応する基(又は化合物)のモル数が等しいものとみなす。
「水酸基価」は、JIS K 1557:2007に準拠した測定により求められる。「水酸基換算分子量」は、56100/(水酸基価)×(開始剤の活性水素の数)の式から算出した値である。
イソシアネート基含有化合物と水酸基含有化合物との反応における「NCOインデックス」とは、水酸基含有化合物の水酸基に対するイソシアネート基含有化合物のイソシアネート基の当量比を百分率で表した値である。
「分子量」とは、特に断りのない限り、化学式に基づく式量、又は、分子量分布が存在する化合物の場合は、数平均分子量を意味する。「数平均分子量」は、標準ポリスチレン試料を用いて作成した検量線に基づいて、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定して求められたポリスチレン換算分子量である。
【0014】
[高分子圧電材料]
本発明の高分子圧電材料(以下、単に「圧電材料」とも言う。)は、1官能ウレタン(メタ)アクリレートに基づく構成単位を有する重合体を含み、前記1官能ウレタン(メタ)アクリレートが、下記(i)~(iii)の反応生成物から選ばれる1種以上の単量体である。
(i)ポリエーテルモノオール及び(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の等モル反応生成物であって、
前記(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物は、1分子中に1個のイソシアネート基を有し、かつ、1分子中に1個又は2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物である、反応生成物。
(ii)ポリエーテルモノオール、ジイソシアネート及び(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の等モル反応生成物であって、
前記(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物は、1分子中に1個のイソシアネート基と反応する基を有し、かつ、1分子中に1個又は2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物である、反応生成物。
(iii)ポリエーテルポリオール及び(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の等モル反応生成物であって、
前記(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物は、1分子中に1個のイソシアネート基を有し、かつ、1分子中に1個又は2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物である、反応生成物。
【0015】
上記のような高分子圧電材料は、低弾性率、高伸長率かつ高比誘電率であり、良好な圧電性を有する。
【0016】
〔重合体〕
本発明の高分子圧電材料は、1官能ウレタン(メタ)アクリレートに基づく構成単位を有する重合体を含み、該重合体は、1官能ウレタン(メタ)アクリレートの(メタ)アクリロイルオキシ基の光重合反応又は熱重合反応によって得られる。
1官能ウレタン(メタ)アクリレートは、架橋に寄与しない柔軟なグラフト鎖を有していることにより、ガラス転移温度が低く、-20~80℃の広範な温度域での貯蔵弾性率の温度依存性が小さく、また、残留歪が小さいという特長を有している。このため、本発明の高分子圧電材料は、従来のポリウレタンエラストマーのように、圧電性を発現させるためのフィルム延伸工程を要することなく、ヒステリシスロスが抑制された良好な圧電性を有する。
【0017】
重合体の構成単位中の1官能ウレタン(メタ)アクリレートに基づく構成単位の含有量は、圧電材料において1官能ウレタン(メタ)アクリレートによる良好な圧電性を発現させる観点から、全構成単位100質量部中、好ましくは50質量部以上、より好ましくは70~100質量部、さらに好ましくは80~100質量部である。
【0018】
本発明における1官能ウレタン(メタ)アクリレートは、上記(i)~(iii)の反応生成物(以下、「単量体1-1」、「単量体1-2」及び「単量体1-3」とも言う。)から選ばれる1種以上の単量体である。重合体を構成する単量体の1官能ウレタン(メタ)アクリレートは、1種単独でも、2種以上が併用されてもよい。
1官能ウレタン(メタ)アクリレートの(メタ)アクリロイルオキシ基は、前記重合体を得るための重合反応速度の観点からは、アクリロイルオキシ基であることが好ましい。
【0019】
<単量体1-1>
単量体1-1は、(i)の反応生成物であり、ポリエーテルモノオール(i-1)及び(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(i-2)の等モル反応生成物であって、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(i-2)は、1分子中に1個のイソシアネート基を有し、かつ、1分子中に1個又は2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物である。
【0020】
単量体1-1としては、式(1)で表される化合物が好ましい。
【0021】
【0022】
式(1)中、R1は、1個又は2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する一価の有機基である。
R12は、好ましくは炭素数2~8のアルキレン基であり、より好ましくは炭素数2~4のアルキレン基である。1分子中に存在する複数のR12は互いに同じであっても異なってもよい。1分子中に2種以上のR12が存在する場合、-OR12-の連鎖はブロックでもよく、ランダムでもよい。R12は、好ましくは、エチレン基、プロピレン基、1,2-ジメチルエチレン基及び1-エチルエチレン基から選ばれる1種以上であり、より好ましくは、エチレン基及びプロピレン基から選ばれる1種以上である。
【0023】
また、(OR12)は、1分子中に1個のエポキシ基及び該エポキシ基のエーテル結合以外のエーテル結合を有する単量体aに基づく単位であることも好ましい。単量体aに基づく単位は、好ましくは、式(11)で表される単位である。単量体aは1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
【0025】
式(11)中、R101は、-R103-O-R104で表される一価の基であり、R102は、水素原子又は-R105-O-R106で表される一価の基である。R103、R105は、それぞれ独立に、炭素数1~3の直鎖又は分岐のアルキレン基であり、R104、R106は、それぞれ独立に、炭素数1~18の直鎖又は分岐のアルキル基である。
R103、R105のアルキレン基としては、それぞれ独立に、好ましくは、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基又はイソプロピレン基であり、より好ましくは、メチレン基又はエチレン基、さらに好ましくはメチレン基である。
R104、R106の炭素数は、それぞれ独立に、好ましくは1~14、より好ましくは1~12、さらに好ましくは2~10である。
R104、R106の直鎖のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-オクチル基、n-デシル基、ラウリル基、セチル基、ステアリル基が挙げられ、好ましくは、それぞれ独立に、メチル基、エチル基又はn-ブチル基である。分岐のアルキル基は、前記直鎖のアルキル基中の水素原子(ただし、末端の炭素に結合する水素原子は除く。)がアルキル基で置換された構造を有する。置換するアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基が挙げられる。分岐のアルキル基としては、好ましくは2-エチルヘキシル基である。
【0026】
単量体aとしては、好ましくは、式(12)で表される単量体である。
【化3】
【0027】
式(12)中のR101及びR102は、式(11)中のR101及びR102と同じである。
【0028】
式(12)で表される単量体としては、例えば、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、へキシルグリシジルエーテルが挙げられ、好ましくは、ブチルグリシジルエーテル又は2-エチルヘキシルグリシジルエーテルである。
【0029】
式(1)中、R13は、炭素数1~20のアルキル基である。R13は、好ましくは炭素数1~8のアルキル基、より好ましくは、メチル基、エチル基又はブチル基、さらに好ましくはブチル基である。
aは、20~600の整数であり、好ましくは35~500の整数、より好ましくは65~250の整数である。
【0030】
(ポリエーテルモノオール(i-1))
単量体1-1におけるポリエーテルモノオール(i-1)は、活性水素含有基を有し、かつ、活性水素の数が1個以上である開始剤に、アルキレンオキシド及び/又は前記単量体aを開環重合させて得られる、開始剤残基とポリエーテル鎖と開始剤の活性水素の数に対応する水酸基とを有する化合物である。
【0031】
開始剤が有する活性水素含有基としては、例えば、水酸基、カルボキシ基、窒素原子に結合した水素原子を1個有するアミノ基が挙げられる。前記開始剤が有する活性水素含有基は、好ましくは、水酸基又はカルボキシ基、より好ましくは水酸基、さらに好ましくはアルコール性水酸基である。
【0032】
活性水素の数が1個である開始剤としては、例えば、一価アルコール、一価フェノール、一価カルボン酸、窒素原子に結合した水素原子を1個有するアミン化合物等が挙げられる。前記開始剤は、好ましくは、一価脂肪族アルコール又は一価脂肪族カルボン酸、より好ましくは一価脂肪族アルコールである。また、目的のポリエーテルモノオールよりも低分子量のポリオキシアルキレンモノオールを開始剤として使用してもよい。
【0033】
開始剤としての一価脂肪族アルコールの炭素数は、好ましくは1~20、より好ましくは2~8である。開始剤としての一価脂肪族アルコールの具体例としては、エタノール、プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール等が挙げられる。
開始剤としての一価脂肪族カルボン酸の炭素数は、カルボキシ基の炭素原子を含め、好ましくは2~20、より好ましくは2~8である。
【0034】
アルキレンオキシド及び単量体aが開環重合する場合、両者の合計質量に対する単量体aの質量の割合は、圧電材料の良好な圧電性の観点から、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、さらに好ましくは10~80質量%である。
【0035】
前記アルキレンオキシドの炭素数は、好ましくは2~8、より好ましくは2~4である。前記アルキレンオキシドの具体例としては、プロピレンオキシド、エチレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、2,3-ブチレンオキシドが挙げられる。
【0036】
ポリエーテルモノオール(i-1)のオキシアルキレン基は、好ましくは、オキシプロピレン基のみ、又は、オキシプロピレン基とそれ以外の基との組み合わせからなる。オキシプロピレン基以外のオキシアルキレン基は、好ましくはオキシエチレン基である。
ポリエーテルモノオール(i-1)の全オキシアルキレン基中のオキシプロピレン基の割合は、好ましくは10~100質量%、より好ましくは20~100質量%である。なお、開始剤が目的のポリエーテルモノオールよりも低分子量のポリオキシアルキレンモノオールである場合、開始剤中のオキシアルキレン基は得られたポリエーテルモノオール(i-1)中のオキシアルキレン基とみなす。
【0037】
1官能ウレタン(メタ)アクリレートのオキシアルキレン基は、1官能ウレタン(メタ)アクリレートの製造容易性等の観点から、好ましくは、すべてがオキシプロピレン基、又は、オキシプロピレン基及びオキシエチレン基である。
1官能ウレタン(メタ)アクリレートが、オキシエチレン基を多く有していることにより、重合体の比誘電率が向上する傾向にあるが、多すぎると結晶化しやすくなる。このような観点から、1官能ウレタン(メタ)アクリレートがオキシエチレン基を有している場合、全オキシアルキレン基中のオキシエチレン基の割合は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは10~85質量%、さらに好ましくは20~80質量%である。後述する単量体1-2又は1-3の場合も同様である。
【0038】
ポリエーテルモノオール(i-1)において、低水酸基価、すなわち、高分子量のポリオキシアルキレンモノオールは、複合金属シアン化物錯体触媒の存在下に、開始剤に炭素数3以上のアルキレンオキシド、好ましくは、プロピレンオキシドを開環重合させて製造できる。
低水酸基価のポリオキシアルキレンモノオールとしては、水酸基価40mgKOH/g以下のポリオキシアルキレンモノオールが挙げられる。
オキシエチレン基を有する低水酸基価のポリオキシアルキレンモノオールは、オキシエチレン基を有する高水酸基価、例えば、水酸基価が50mgKOH/g以上のポリオキシアルキレンモノオールを開始剤とし、複合金属シアン化物錯体触媒の存在下に、炭素数3以上のアルキレンオキシド、好ましくは、プロピレンオキシドを開環重合させて製造できる。
前記ポリエーテルモノオールにおいて、高水酸基価のポリオキシアルキレンモノオール及び開始剤である高水酸基価のポリオキシアルキレンモノオールは、水酸化カリウム等のアルカリ触媒を使用しても製造できる。
【0039】
ポリオキシアルキレンモノオールの製造において、反応系内に投入される開始剤及びアルキレンオキシドには、通常、減圧脱気等により水分を除去した水分の少ないものが使用される。通常、ポリオキシアルキレンモノオールの製造における開始剤の水分量は、少ないほど好ましく、好ましくは500質量ppm以下、より好ましくは300質量ppm以下である。水分量が上記範囲内であると、水から生成するポリオキシアルキレンジオールの生成量が抑制され、結果的に、ポリオキシアルキレンジオールに起因する副生成物の生成量が抑制され、得られるポリオキシアルキレンモノオールの平均水酸基数の上限を1.2以下に調整しやすい。
【0040】
単量体1-1の原料として用いるポリエーテルモノオール(i-1)の水分量は、少ないほど好ましく、ポリエーテルモノオール(i-1)に対して、好ましくは300質量ppm以下、より好ましくは250質量ppm以下、さらに好ましくは50~200質量ppmである。水分量が上記範囲内であると、水分とイソシアネート基含有化合物との副生物の生成が少なく、反応生成物である単量体1-1の安定性が向上する。さらに、重合体の外観の経時変化を抑制しやすく、また、良好な圧電性を有する圧電材料が得られやすい。
【0041】
ポリエーテルモノオール(i-1)の1分子中の平均の水酸基数は、好ましくは0.80~1.20、より好ましくは0.90~1.10である。
ポリエーテルモノオール(i-1)の水酸基価は、好ましくは1.6~18.1mgKOH/g、より好ましくは2.8~14.0mgKOH/g、さらに好ましくは3.1~11.2mgKOH/gである。
【0042】
単量体1-1におけるポリエーテルモノオール(i-1)は、2種以上のポリエーテルモノオールの混合物であってもよい。この場合、各々のポリエーテルモノオールは、好ましくは、いずれもが上記範疇に含まれるポリオキシアルキレンモノオールである。
【0043】
ポリエーテルモノオール(i-1)としては、例えば、式(1a)で表されるものが挙げられる。
【0044】
【0045】
式(1a)中、R12、R13及びaは、式(1)中の同一の記号と同じである。
【0046】
((メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(i-2))
(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(i-2)は、1分子中に1個のイソシアネート基を有し、かつ、1分子中に1個又は2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物である。(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(i-2)としては、好ましくは、脂肪族炭化水素基又は脂環族炭化水素基に結合したイソシアネート基を有する(メタ)アクリレート、より好ましくはイソシアネートアルキル(メタ)アクリレートである。
イソシアネートアルキル基のイソシアネート基を除くアルキレン基の炭素数は、好ましくは8以下、より好ましくは4以下である。
【0047】
(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(i-2)としては、例えば、式(1b)で表される化合物が挙げられる。
【0048】
【0049】
式(1b)中、R11は、水素原子又はメチル基であり、好ましくは水素原子である。
sは、1~4の整数であり、好ましくは1~2の整数である。
【0050】
(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(i-2)の具体例としては、2-イソシアネートエチル(メタ)アクリレート、イソシアネートメチルメタクリレート等が挙げられる。市販品としては、例えば、「カレンズAOI(登録商標;以下、表記省略。)」、「カレンズMOI(登録商標)」(以上、昭和電工株式会社製)が挙げられる。
【0051】
(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(i-2)としては、例えば、式(1c)で表される化合物も挙げられる。
【0052】
【0053】
式(1c)中、R11は、水素原子又はメチル基であり、好ましくは水素原子である。
R14は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基であり、好ましくはメチル基である。
tは、1~8の整数であり、好ましくは1~4の整数、より好ましくは1~2の整数である。
uは、0~4の整数であり、好ましくは0~2の整数である。
【0054】
(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(i-2)の具体例としては、2,2-(ビスアクリロイルオキシメチル)プロピルイソシアネート及び1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート(商品名「カレンズBEI(登録商標)」、昭和電工株式会社製)が挙げられ、好ましくは1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネートである。
【0055】
単量体1-1としては、例えば、ポリエーテルモノオール(i-1)がポリオキシプロピレンモノオールである場合、好ましくは、式(1-1-1)、式(1-1-2)及び式(1-1-3)で表される化合物から選ばれる1種以上である。
【0056】
【0057】
式(1-1-1)、式(1-1-2)及び式(1-1-3)中、m、n1及びn2は、それぞれ独立に、好ましくは20~600の整数、より好ましくは35~500の整数、さらに好ましくは65~250の整数である。
Buは、ブチル基である。
【0058】
<単量体1-2>
単量体1-2は、(ii)の反応生成物であり、ポリエーテルモノオール(ii-1)、ジイソシアネート(ii-2)及び(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(ii-3)の等モル反応生成物であって、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(ii-3)は、1分子中に1個のイソシアネート基と反応する基を有し、かつ、1分子中に1個又は2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物である。
【0059】
単量体1-2としては、式(2)で表される化合物が好ましい。
【0060】
【0061】
式(2)中、R2は、1個又は2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する1価の有機基である。
R22は、好ましくは炭素数2~8のアルキレン基であり、より好ましくは炭素数2~4のアルキレン基である。1分子中に存在する複数のR22は互いに同じであっても異なってもよい。1分子中に2種以上のR22が存在する場合、-OR22-の連鎖はブロックでもよく、ランダムでもよい。R22は、好ましくは、エチレン基、プロピレン基、1,2-ジメチルエチレン基及び1-エチルエチレン基から選ばれ、より好ましくは、エチレン基及びプロピレン基から選ばれる1種以上である。
また、(OR22)は、式(1)における(OR12)と同様に、1分子中に1個のエポキシ基及び該エポキシ基のエーテル結合以外のエーテル結合を有する単量体aに基づく単位であることも好ましい。単量体aの好ましい態様は、単量体1-1の場合と同じである。
R23は、炭素数1~20のアルキル基であり、好ましくは、炭素数2~8のアルキル基、より好ましくはブチル基である。
R24は、ジイソシアネートから2個のイソシアネート基を除いた2価の基である。ジイソシアネートの例は、後述する。
bは、20~600の整数であり、好ましくは35~500の整数、より好ましくは65~250の整数である。
【0062】
(ポリエーテルモノオール(ii-1))
ポリエーテルモノオール(ii-1)は、単量体1-1におけるポリエーテルモノオール(i-1)と同様であり、好ましい態様も同じである。
【0063】
ポリエーテルモノオール(ii-1)としては、例えば、式(2a)で表されるものが挙げられる。
【0064】
【0065】
式(2a)中、R22、R23及びbは、式(2)中の同一の記号と同じ意味である。
【0066】
(ジイソシアネート(ii-2))
ジイソシアネート(ii-2)は、1分子中に2個のイソシアネート基を有する化合物である。
ジイソシアネート(ii-2)としては、無黄変性芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、及びこれらのジイソシアネートの各種変性体(イソシアネート基を2個有する変性体)が挙げられる。ジイソシアネートは、1種単独でも、2種以上を併用してもよい。
ジイソシアネート(ii-2)としては、圧電材料の良好な圧電性の観点から、好ましくは、脂肪族ジイソシアネート及び脂環式ジイソシアネートから選ばれる1種以上である。
【0067】
無黄変性芳香族ジイソシアネートの具体例としては、キシリレンジイソシアネート及びテトラメチルキシリレンジイソシアネートが挙げられる。
上記脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート及びリジンジイソシアネートが挙げられる。
脂環式ジイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,5-ノルボルナンジイソシアネート及び2,6-ノルボルナンジイソシアネートが挙げられる。
【0068】
ジイソシアネート(ii-2)としては、例えば、式(2b)で表される化合物が挙げられる。
【0069】
【0070】
式(2b)中、R24は、式(2)中の同一の記号と同じ意味である。
上記ジイソシアネートとしては、圧電材料の良好な圧電性の観点から、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートが好ましい。
【0071】
((メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(ii-3))
(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(ii-3)は、1分子中に1個のイソシアネート基と反応する基を有し、かつ、1分子中に1個又は2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物である。
イソシアネート基と反応する基としては、水酸基及び水素原子が結合した窒素原子を有するアミノ基等が挙げられる。イソシアネート基と反応する基における水酸基の数及び窒素原子に結合した水素原子の数は、好ましくは各1個である。また、イソシアネート基と反応する基としては、好ましくは、脂肪族炭化水素基又は脂環族炭化水素基に結合した水酸基である。
【0072】
(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(ii-3)としては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及びヒドロキシシクロアルキル(メタ)アクリレートネートが好ましく、ヒドロキシアルキル基の炭素数が8以下のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0073】
(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(ii-3)としては、例えば、式(2c)で表される化合物が挙げられる。
【0074】
【0075】
式(2c)中、R21は、水素原子又はメチル基であり、好ましくは水素原子である。
pは、1~4の整数であり、好ましくは1~2の整数である。
【0076】
(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(ii-3)の具体例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。市販品としては、ライトエステルHO-250(N)、ライトエステルHOP(N)、ライトエステルHOA(N)、ライトエステルHOP-A(N)、ライトエステルHOB(N)(以上、共栄社化学株式会社製)、4-HBA(大阪有機化学工業株式会社製)が挙げられる。
【0077】
(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(ii-3)としては、例えば、式(2d)で表される化合物も挙げられる。
【0078】
【0079】
式(2d)中、R21は、水素原子又はメチル基であり、好ましくは水素原子である。
R25は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基であり、好ましくはメチル基である。
qは、1~8の整数であり、好ましくは1~4の整数、より好ましくは1~2の整数である。
rは、0~4の整数であり、好ましくは0~2の整数である。
【0080】
(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(ii-3)の具体例としては、2,2-(ビスアクリロイルオキシメチル)プロパン-1-オール及び1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エタン-1-オールが挙げられ、好ましくは1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エタン-1-オールである。
【0081】
<単量体1-3>
単量体1-3は、(iii)の反応生成物であり、ポリエーテルポリオール(iii-1)及び(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(iii-2)の等モル反応生成物であって、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(iii-2)は、1分子中に1個のイソシアネート基を有し、かつ、1分子中に1個又は2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物である。
【0082】
単量体1-3としては、式(III)で表される化合物が好ましい。
R3-NH-C(=O)-Z1 ・・・(III)
式(III)中、R3は、1個又は2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する1価の有機基である。
Z1は、ポリエーテルポリオールにおける水酸基の1個から、水素原子の1個を除いたポリエーテルポリオールの残基である。
【0083】
単量体1-3としては、より好ましくは、式(3)で表される化合物である。
【0084】
【0085】
式(3)中、R3は、式(III)中のR3と同じである。
R32は、好ましくは炭素数2~8のアルキレン基、より好ましくは炭素数2~4のアルキレン基である。1分子中に存在する複数のR32は、互いに同じであっても、異なってもよい。1分子中に2種以上のR32が存在する場合、-OR32-の連鎖は、ブロックでもよく、ランダムでもよい。R32は、好ましくは、エチレン基、プロピレン基、1,2-ジメチルエチレン基及び1-エチルエチレン基から選ばれる1種以上、より好ましくは、エチレン基及びプロピレン基から選ばれる1種以上である。
また、(OR32)は、式(1)における(OR12)と同様に、1分子中に1個のエポキシ基及び該エポキシ基のエーテル結合以外のエーテル結合を有する単量体aに基づく単位であることも好ましい。単量体aの好ましい態様は、単量体1-1の場合と同じである。
cは、20~600の整数であり、好ましくは35~500の整数、より好ましくは65~250の整数である。
【0086】
(ポリエーテルポリオール(iii-1))
ポリエーテルポリオール(iii-1)は、活性水素含有基を有し、かつ活性水素の数が2個以上である開始剤に、アルキレンオキシド及び/又は上記単量体aを開環重合させて得られる、開始剤残基とポリエーテル鎖と開始剤の活性水素の数に対応する水酸基を有する化合物である。
【0087】
前記アルキレンオキシドは、好ましくは炭素数2~4のアルキレンオキシドである。炭素数2~4のアルキレンオキシドの具体例として、プロピレンオキシド、エチレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド及び2,3-ブチレンオキシドが挙げられる。
また、単量体aは、好ましくは、上記式(12)で表される単量体である。式(12)で表される単量体としては、例えば、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、へキシルグリシジルエーテルが挙げられ、圧電材料の良好な圧電性の観点から、好ましくは、ブチルグリシジルエーテル又は2-エチルヘキシルグリシジルエーテルである。
【0088】
アルキレンオキシド及び単量体aが開環重合する場合、両者の合計質量に対する単量体aの質量の割合は、圧電材料の良好な圧電性の観点から、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、さらに好ましくは10~80質量%である。
【0089】
開始剤が有する活性水素含有基としては、水酸基、カルボキシ基及び窒素原子に結合した水素原子を有するアミノ基等が挙げられる。前記開始剤が有する活性水素含有基は、好ましくは水酸基、より好ましくはアルコール性水酸基である。
【0090】
活性水素の数が2個以上である開始剤としては、水、多価アルコール、多価フェノール、多価カルボン酸及び窒素原子に結合した水素原子を2個以上有するアミン化合物が挙げられる。前記開始剤は、好ましくは、水又は2価脂肪族アルコール、より好ましくは2価脂肪族アルコールである。また、目的ポリエーテルポリオールよりも低分子量のポリオキシアルキレンポリオールを開始剤として使用してもよい。
【0091】
開始剤としての2価脂肪族アルコールの炭素数は、好ましくは2~8である。開始剤としての2価脂肪族アルコールの具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングルコール等のポリプロピレングリコール及び1,4-ブタンジオールが挙げられる。
【0092】
ポリエーテルポリオール(iii-1)のオキシアルキレン基は、好ましくは、オキシプロピレン基のみ、又は、オキシプロピレン基とそれ以外の基との組み合わせからなる。オキシプロピレン基以外のオキシアルキレン基は、好ましくは、オキシエチレン基及びオキシテトラメチレン基から選ばれる1種以上である。ポリエーテルポリオール(iii-1)の全オキシアルキレン基中のオキシプロピレン基の割合は、好ましくは10~100質量%、より好ましくは20~100質量%である。
なお、開始剤が目的ポリエーテルポリオールよりも低分子量のポリオキシアルキレンポリオールである場合、開始剤中のオキシアルキレン基は得られたポリエーテルポリオール(iii-1)中のオキシアルキレン基とみなす。
【0093】
ポリエーテルポリオール(iii-1)のうち、低水酸基価の、すなわち高分子量の、ポリオキシアルキレンポリオールは、複合金属シアン化物錯体触媒の存在下に、開始剤に炭素数3以上のアルキレンオキシド、好ましくは、プロピレンオキシドを開環重合させて製造できる。
低水酸基価のポリオキシアルキレンポリオールとしては、水酸基価40mgKOH/g以下のポリオキシアルキレンポリオールが挙げられる。
ポリエーテルポリオール(iii-1)のうち、オキシエチレン基を有する低水酸基価のポリオキシアルキレンポリオールは、オキシエチレン基を有する高水酸基価の、例えば水酸基価が50mgKOH/g以上の、ポリオキシアルキレンポリオールを開始剤とし、複合金属シアン化物錯体触媒の存在下に、炭素数3以上のアルキレンオキシド、好ましくは、プロピレンオキシドを開環重合させて製造できる。
ポリエーテルポリオール(iii-1)のうち、高水酸基価のポリオキシアルキレンポリオール及び開始剤である高水酸基価のポリオキシアルキレンポリオールは、水酸化カリウム等のアルカリ触媒を使用しても製造できる。
【0094】
ポリエーテルポリオール(iii-1)の1分子中の平均の水酸基数は、好ましくは1.60~2.00、より好ましくは1.70~2.00、さらに好ましくは1.80~1.96である。1分子中の平均の水酸基数が1.60~2.00であるポリエーテルポリオールを、ポリエーテルジオールという場合がある。
ポリエーテルポリオール(iii-1)の水酸基価は、好ましくは1.6~18.1mgKOH/g、より好ましくは2.8~14mgKOH/gである。
【0095】
ポリエーテルポリオール(iii-1)は、2種以上のポリエーテルポリオールの混合物であってもよい。この場合、各々のポリエーテルポリオールは、好ましくは、いずれもが上記範疇に含まれるポリエーテルポリオールである。
【0096】
ポリエーテルポリオール(iii-1)としては、例えば、式(3a)で表されるものが挙げられる。
【0097】
【0098】
式(3a)中、R32及びcは、式(3)中の同一の記号と同じ意味である。
【0099】
((メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(iii-2))
(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(iii-2)は、1分子中に1個のイソシアネート基を有し、かつ、1分子中に1個又は2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物である。(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(iii-2)は、単量体1-1における(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(i-2)と同様であり、好ましい態様も同じである。
【0100】
1官能ウレタン(メタ)アクリレートの分子量は、圧電材料の良好な圧電性の観点から、好ましくは3,000~25,000、より好ましくは4,000~23,000、さらに好ましくは5,000~20,000である。2種以上の単量体(1官能ウレタン(メタ)アクリレート)が併用される場合は、それぞれの分子量が上記範囲内であることが好ましい。
【0101】
同様の観点から、1官能ウレタン(メタ)アクリレートは、ガラス転移温度が、好ましくは-55℃以下、より好ましくは-85~-58℃、さらに好ましくは-80~-60℃である。
なお、本発明における1官能ウレタン(メタ)アクリレートのガラス転移温度とは、1官能ウレタン(メタ)アクリレートのホモポリマーの動的粘弾性測定により求められた値である。具体的には実施例に記載の方法により求められる。
【0102】
また、1官能ウレタン(メタ)アクリレートに基づく構成単位を有する重合体は、圧電材料の良好な圧電性の観点から、-20~80℃における貯蔵弾性率が、好ましくは5~150kPa、より好ましくは5~130kPa、さらに好ましくは5~100kPaである。
なお、本発明における重合体の貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定により求められた値である。具体的には、実施例に記載の方法により測定される。
【0103】
〔重合体の製造方法〕
本発明の重合体は、1官能ウレタン(メタ)アクリレートを含む重合性組成物を反応させることにより得られる。
重合性組成物中には、好ましくは、重合開始剤、及び必要に応じて他の成分が配合される。
重合性組成物中の1官能ウレタン(メタ)アクリレートの含有量は、圧電材料の良好な圧電性の観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70~99質量%、さらに好ましくは80~99質量%である。
重合性組成物中の各配合成分は、均一に混合することが好ましく、例えば、自公転式撹拌脱泡装置、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、3本ロールミル、ビーズミル等の公知の混合装置を使用して混合できる。各配合成分は、同時に混合してもよく、逐次添加により混合してもよい。
【0104】
<重合開始剤>
1官能ウレタン(メタ)アクリレートの付加重合を開始させるための重合開始剤は、光重合開始剤であっても、熱重合開始剤であってもよく、公知のものを用いることができる。好ましくは、光ラジカル重合開始剤又は熱ラジカル重合開始剤が用いられる。
光重合開始剤を用いる場合、重合性組成物を高温にすることなく、迅速に反応させることができ、重合体及びその周辺に熱ダメージを与えることがない。光重合開始剤としては、重合反応の制御の観点から、波長380nm以下の紫外照射により使用できるものが好ましい。
一方、熱重合開始剤を用いる場合、紫外線や可視光等の照射が困難な箇所でも、加熱等により重合体が得られる。熱重合開始剤としては、重合反応の制御の観点から、50~120℃の範囲内での加熱により使用できるものが好ましい。
【0105】
光重合開始剤としては、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、ジエトキシアセトフェノン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパノン、1-(4-ドデシルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパノン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン-n-ブチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン-4-メトキシベンゾフェノン、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、メチルフェニルグリオキシレート、ベンジル、カンファーキノン等が挙げられる。
【0106】
熱重合開始剤としては、例えば、アゾ化合物;ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシケタール、ケトンパーオキサイド等の有機過酸化物等が挙げられる。熱ラジカル重合開始剤の具体例としては、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイル)パーオキシヘキサン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジブチルパーオキシヘキサン、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、1,4-ジ(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、メチルエチルケトンパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等が挙げられる。
【0107】
重合性組成物中の重合開始剤の含有量は、適度な重合速度の観点から、1官能ウレタン(メタ)アクリレート100質量部に対して、好ましくは0.001~20質量部、より好ましくは0.01~10質量部、さらに好ましくは0.1~7質量部である。
【0108】
重合性組成物に光を照射して重合体を得る場合、配合される光重合開始剤の光吸収能に応じて、光源を適宜設定することができ、例えば、紫外線発光ダイオード(LED)、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、水銀キセノンランプ、メタルハライドランプ、タングステンランプ、アーク灯、エキシマランプ、エキシマレーザ、半導体レーザ、YAGレーザ、レーザと非線形光学結晶とを組み合わせたレーザシステム、高周波誘起紫外線発生装置等を光源として使用できる。積算光量は、例えば、0.01~5J/cm2程度とする。
重合体の物性の安定化の観点から、光を照射した後に、さらに加熱処理を施してもよい。通常、加熱温度は40~200℃程度、加熱時間は1分~15時間程度とする。また、室温(15~25℃程度)で1~48時間程度静置することでも、重合体の物性が安定化され得る。
【0109】
重合性組成物に加熱処理を施して重合体を得る場合、通常、加熱温度は40~250℃程度、加熱時間は5分~24時間程度とする。好ましくは、加熱温度が高い場合は加熱時間を短くし、加熱温度が低い場合は加熱時間を長くする。
【0110】
<他の成分>
重合性組成物は、良好な取り扱い性や、圧電材料の良好な圧電性等の観点から、1官能ウレタン(メタ)アクリレート及び重合開始剤以外に、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、1官能ウレタン(メタ)アクリレート以外の他の単量体成分、触媒(三級アミン化合物、四級アンモニウム化合物、2-エチルヘキサン酸ビスマス等)顔料や染料等の着色剤、シランカップリング剤、粘着付与樹脂、酸化防止剤、光安定化剤、金属不活性化剤、防錆剤、老化防止剤、吸湿剤、加水分解防止剤、消泡剤、充填材等が挙げられる。また、溶剤が含まれていてもよい。重合性組成物中のこれらの他の成分は、本発明の効果を損なわない範囲内の含有量で配合し得る。
【0111】
他の単量体成分は、エポキシ化合物及び1官能ウレタン(メタ)アクリレートと共重合する化合物であり、1種単独でも、2種以上を併用してもよい。他の単量体成分としては、例えば、2個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、水酸基含有(メタ)アクリレート、アミノ基含有(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0112】
本発明の高分子圧電材料は、成形容易性や、良好な圧電性等の観点から、上述した重合体以外に、必要に応じて、任意の添加剤が含まれていてもよい。また、重合体の生成時における副生成物が含まれる場合もある。ただし、圧電材料中の重合体以外の、添加剤等の他の成分の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲内である。なお、圧電材料中の重合体の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60~100質量%、さらに好ましくは70~100質量%である。
【0113】
高分子圧電材料の1kHzにおける比誘電率(温度25℃、湿度40%RH)は、良好な圧電性の観点から、好ましくは4~20、より好ましくは5~20である。なお、比誘電率は、具体的には、実施例に記載の方法により求められる。
【0114】
高分子圧電材料は、所望の形状に成形して用いることができ、圧電素子での使用の観点から、フィルムやシート又はケーブルとして成形されることが好ましい。厚さは、好ましくは10~1200μm、より好ましくは20~1000μm、さらに好ましくは50~900μmである。
【0115】
高分子圧電材料の成形方法としては、例えば、成形型を用いる方法や、スペーサーを配置した離型フィルム間に重合性組成物を挟んで重合させて、フィルム状の成形体を得る方法等が挙げられる。
なお、本発明の高分子圧電材料は、従来のポリウレタンエラストマーのように延伸工程を要することなく、良好な圧電性が得られる。
【0116】
[圧電素子]
本発明の圧電素子は、上述した本発明の高分子圧電材料が、少なくとも1対の電極に挟装されてなる。高分子圧電材料は、良好な圧電性の観点から、好ましくは、上述したようなフィルム状である。
圧電素子の製造は、例えば、フィルム状の高分子圧電材料の両面に電極を形成することにより行うことができる。
電極の材質としては、例えば、金、白金、アルミニウム、銀及び銅等の金属や、カーボン、カーボンナノチューブ、また、これらを樹脂に分散した導電性樹脂や導電性エラストマーが挙げられる。電極の形成は、例えば、プラズマCVD法、イオンスパッタ被覆法、真空蒸着法、スクリーン印刷、その他公知の塗布法等により行うことができる。
【0117】
本発明の圧電素子は、低弾性率、高伸長率かつ高比誘電率の高分子圧電材料で形成されており、比較的低電圧駆動で高伸縮性が得られるため、圧電性に優れたアクチュエータを構成することができる。また、応力印加による電荷発生におけるヒステリシスロスも抑制され、高精度の圧力センサも好適に構成することができる。
したがって、本発明の圧電素子は、アクチュエータとして、例えば、医療用ロボット、人工筋肉、装着アシストロボット、タッチスクリーン、タッチディスプレイデバイス、点字ブロック装置等に応用することができ、また、圧力センサとして、医療分野や工業分野での振動、超音波、触圧等の電気信号変換等に有用である。
【実施例】
【0118】
以下、実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、下記実施例により限定されるものではない。
【0119】
[重合性組成物の調製]
高分子圧電材料の製造のための各種重合性組成物を調製した。
【0120】
〔原料化合物〕
重合性組成物の原料化合物の詳細は、以下のとおりである。
・DMC-TBA:亜鉛へキサシアノコバルテート-tert-ブチルアルコール錯体
・AOI:2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート;「カレンズAOI」、昭和電工株式会社社製
・光重合開始剤:2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン;「イルガキュア 1173」、BASF社製
・PPGモノメタクリレート:ポリプロピレングリコールモノメタクリレート;「ブレンマー(登録商標) PP-1000」、日油株式会社製;分子量約376
・3官能PPG:ポリプロピレングリコール数平均分子量6,000
・2官能PPG(1):ポリプロピレングリコール;数平均分子量3,000
・2官能PPG(2):ポリプロピレングリコール;数平均分子量1,000
・TDI:トリレンジイソシアネート;「コロネート(登録商標) T-80」、東ソー株式会社製;2,4-TDI及び2,6-TDIの異性体混合物(混合比80/20)
・オクチル酸鉛:「ヘキソエート鉛24%」、東栄化工株式会社
【0121】
なお、調製例1~3における1官能ウレタンアクリレートの数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、下記の測定条件で測定した。
<測定条件>
・使用機器:「HLC-8120GPC」、東ソー株式会社製
・使用カラム:下記の2種のカラムを順に直列で連結
「TSKgel(登録商標) G7000HXL」、東ソー株式会社製、1本
「TSKgel(登録商標) GMHXL」、東ソー株式会社製、2本
・カラム温度:40℃
・検出器:示差屈折率(RI)検出器
・溶離液:テトラヒドロフラン
・流速:0.8mL/分
・試料濃度:0.5質量%
・試料注入量:100μL
・標準試料:ポリスチレン
【0122】
また、1官能ウレタンアクリレートのガラス転移温度は、動的粘弾性測定により、以下のようにして求めた。
1官能ウレタンアクリレート100質量部に、光ラジカル重合開始剤(「イルガキュア 819」、BASF社製)0.3質量部を加えて遊星式撹拌機で混合した。得られた混合液を、窒素ガス雰囲気下、コンベア型UV照射機(株式会社オーク製作所製;水銀キセノンランプ、照度100mW/cm2、積算光量3J/cm2)を用いて、1官能ウレタンアクリレートの硬化物試料(ホモポリマー;長さ15mm、幅5mm、厚さ2mm)を得た。
硬化物試料について、動的粘弾性測定装置(「EXSTAR TMA/SS6100」、セイコーインストルメンツ株式会社製;引張モード、温度範囲:-80~130℃、昇温速度:3℃/min、測定周波数:1Hz、歪み:1%)にて、損失弾性率を測定し、ピークにおける温度をガラス転移温度とした。
【0123】
〔調製例1〕
撹拌機及び窒素導入管を備えた耐圧反応器内に、DMC-TBA 0.5g、及び開始剤であるn-ブタノール112gを入れ、窒素雰囲気下、130℃で、プロピレンオキシド(以下、「PO」と略称する。)4887gを一定の速度で投入し、中間体Aを得た。耐圧容器内に、中間体A 1148g、及びDMC-TBA 0.2gを入れ、窒素雰囲気下、130℃で、PO 2325gを一定の速度で5.5時間かけて投入した。
耐圧反応器の内圧低下が止まったことを確認し、ポリエーテルモノオール(水酸基価5.6mgKOH/g、水酸基価換算分子量10,020、平均水酸基数1.08)を得た。
撹拌機及び窒素導入管を備えた反応容器内に、前記ポリエーテルモノオール500.0g、AOI 7.04g(NCOインデックス100)、及び2-エチルヘキサン酸ビスマスの25質量%トルエン溶液0.04gを入れ、70℃で3時間撹拌して、1官能ウレタンアクリレート(数平均分子量16,200、ガラス転移温度-69℃)を得た。
1官能ウレタンアクリレート(a)100質量部、及び光重合開始剤2質量部を混合して重合性組成物1を調製した。
【0124】
〔調製例2〕
耐圧容器内に、調製例1における中間体A 1148g、及びDMC-TBA 0.2gを入れ、窒素雰囲気下、130℃で、PO 1997g、及びエチレンオキシド(以下、「EO」と略称する。)856gを一定の速度で5.5時間かけて投入した。
耐圧反応器の内圧低下が止まったことを確認し、ポリエーテルモノオール(水酸基価5.23mgKOH/g、水酸基価換算分子量10,730、平均水酸基数1.08、EO構成単位:21質量%)を得た。
撹拌機及び窒素導入管を備えた反応容器内に、前記ポリエーテルモノオール296.1g、AOI 3.90g(NCOインデックス100)、及び2-エチルヘキサン酸ビスマスの25質量%トルエン溶液0.024gを入れ、70℃で3時間撹拌して、1官能ウレタンアクリレート(b)(数平均分子量16,230、ガラス転移温度-74℃)を得た。
1官能ウレタンアクリレート(b)100質量部、及び光重合開始剤2質量部を混合して重合性組成物2を調製した。
【0125】
〔調製例3〕
撹拌機及び窒素導入管を備えた耐圧反応器内に、DMC-TBA 0.5g、及び開始剤であるn-ブタノール740gを入れ、窒素雰囲気下、130℃で、PO 3260gを一定の速度で投入し、中間体Bを得た。耐圧容器内に、中間体B 538g、DMC-TBA 0.4gを入れ、窒素雰囲気下、130℃で、PO 1120g、及びEO 6347gを一定の速度で7.2時間かけて投入した。
耐圧反応器の内圧低下が止まったことを確認し、ポリエーテルモノオール(水酸基価9.61mgKOH/g、水酸基価換算分子量5838、平均水酸基数1.03、EO構成単位:79質量%)を得た。
撹拌機及び窒素導入管を備えた反応容器内に、前記ポリエーテルモノオール292.9g、AOI 7.08g(NCOインデックス100)、及び2-エチルヘキサン酸ビスマスの25質量%トルエン溶液0.024gを入れ、70℃で3時間撹拌して、1官能ウレタンアクリレート(c)(数平均分子量8,230、ガラス転移温度-74℃)を得た。
1官能ウレタンアクリレート(c)100質量部、及び光重合開始剤2質量部を混合して重合性組成物3を調製した。
【0126】
〔調製例4〕
PPGモノメタクリレート100質量部、及び光重合開始剤2質量部を混合して重合性組成物4を調製した。
【0127】
〔調製例5〕
反応容器に、3官能PPG 36.4質量部、及び2官能PPG(1)54.5質量部を入れ、撹拌しながら1時間減圧脱水し、反応容器内を窒素置換した。反応容器に、TDI 9.1質量部を添加して、90℃で6時間反応させて、イソシアネート末端プレポリマーを合成した。
次に、3官能PPG 74.6質量部、2官能PPG(2)18.7質量部、及びオクチル酸鉛0.8質量部を混合し、減圧脱泡して混合液を調製した。この混合液に、前記イソシアネート末端プレポリマー100重量を添加し、遊星式撹拌機(自転公転ミキサー、株式会社シンキー製)にて混合及び脱泡し、重合性組成物5を得た。
【0128】
[フィルム及び圧電素子の製造]
重合性組成物1~5の各々を用いて、高分子圧電材料の成形体であるフィルムを作製し、該フィルムを用いて圧電素子を製造した。例1~3は実施例であり、例4及び5は比較例である。
【0129】
〔例1〕
重合性組成物1を、ポリエチレンフィルムを貼り付けた型に流し込み、ポリエチレンフィルムを貼り付けたガラス板のポリエチレンフィルム側を重合性組成物に接するように重ね合わせた。窒素ガス雰囲気下、コンベア型UV照射機(株式会社オーク製作所製;水銀キセノンランプ、照度100mW/cm2、積算光量3J/cm2)にて、ガラス板側から紫外線を照射して重合させ、12時間静置後、両面のポリエチレンフィルムを剥がし、厚さ150μmのフィルムを得た。
得られたフィルムをポリプロピレン製の直径60mmの円形の枠に固定し、フィルム両面に、カーボングリースを直径15mmの円形状に、厚さ約50μmで塗布して、例1の圧電素子を製造した。
【0130】
〔例2~4〕
例1において、重合性組成物1に代えて、重合性組成物2~4をそれぞれ用い、それ以外は例1と同様にして、フィルムを作製し、例2~4の各圧電素子を製造した。
【0131】
〔例5〕
重合性組成物5を、ポリエチレンフィルムを貼り付けた型に流し込み、ポリエチレンフィルムを貼り付けたガラス板のポリエチレンフィルム側を重合性組成物5に接するように重ね合わせた。80℃で1時間加熱して重合させた後、両面のポリエチレンフィルムを剥がし、二軸延伸(倍率2倍)して、厚さ150μmのポリウレタンエラストマーのフィルムを得た。
得られたフィルムをポリプロピレン製の直径60mmの円形の枠に固定し、フィルム両面に、カーボングリースを直径15mmの円形状に、厚さ約50μmで塗布して、例4の圧電素子を製造した。
【0132】
[評価]
例1~5で作製した各フィルム及び各圧電素子について、下記の項目の評価を行った。表1に評価結果を示す。
【0133】
〔貯蔵弾性率〕
フィルムを動的粘弾性測定装置(「EXSTAR6000 DMS6100」、株式会社日立ハイテクサイエンス製;引張モード、温度範囲-80~130℃、昇温速度3℃/min、測定周波数1Hz、歪み1%)にて、貯蔵弾性率E’を測定した。
貯蔵弾性率の評価は、温度範囲-20~80℃における貯蔵弾性率E’が、100kPa以下の場合をA、100kPa超150kPa以下の場合をB、150kPa超の場合をCとした。
フィルムの貯蔵弾性率E’が低いほど、電圧を印加した場合に高い伸長率が得られやすく、良好な圧電性を発現できると言える。
【0134】
〔伸張率〕
圧電素子を、銅箔を介して直流高圧電源(「HJPM-5R0.6-SP」、松定プレシジョン株式会社製)に接続し、印加電圧10MV/mとし、電圧印加前のフィルム面積S1及び電圧印加後のフィルム面積S2を測定し、下記式により、伸張率ΔS[%]を求めた。
ΔS=(S2/S1-1)1/2×100
伸長率の評価は、伸張率ΔSが、30%の場合をAとし、30%未満の場合をBとした。
フィルムの伸張率ΔSが高いほど、良好な圧電性を有していると言える。
【0135】
〔比誘電率〕
フィルムから5cm×5cmの試験片を切り出し、上下面に厚さ11μmのアルミニウム箔を積層して積層体とし、ポテンショ/ガルバノスタット(「SP-150」、バイオロジック社製)を用いて、室温(25℃)、湿度(40%RH)、1kHzにおける比誘電率を測定した。
比誘電率が高いほど、良好な圧電性を発現できると言える。
【0136】
【0137】
表1に示した評価結果から、1官能ウレタンアクリレートを用いて作製したフィルム(例1~3)は、貯蔵弾性率が低く、伸長率が大きく、良好な圧電性を有していると言える。また、1官能ウレタンアクリレートのオキシエチレン基(EO構成単位)の割合が大きい方(例2及び3)が、高い比誘電率を示すことが確認された。