(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】染色装置、刺繍システム、染色装置の制御方法、染色装置の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20241210BHJP
D06B 11/00 20060101ALI20241210BHJP
D05B 19/00 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B41J2/165 207
D06B11/00 C
D05B19/00 Z
(21)【出願番号】P 2021048479
(22)【出願日】2021-03-23
【審査請求日】2024-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】小西 鷹介
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/055303(WO,A1)
【文献】特開2009-006731(JP,A)
【文献】特開平06-299458(JP,A)
【文献】特開2006-152454(JP,A)
【文献】特開2020-108951(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0245940(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
D05B 1/00-97/12
D06B 1/00-23/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状媒体を用いて後処理をおこなう後処理装置が搬送方向下流側に接続される染色装置であって、
線状媒体に液滴を吐出して染色するノズルを有する吐出ヘッドと、
前記後処理装置と連動して前記線状媒体を搬送する搬送機構と、
前記線状媒体の搬送と連動して前記吐出ヘッドを駆動させるヘッド駆動部と、
前記ヘッド駆動部を制御する制御部と、
メンテナンス実行の判断の閾値となる設定時間を記憶する設定時間記憶部と、を備え、
前記制御部は、
染色ジョブごとにかかる後処理の所要時間を基に、前記吐出ヘッドのメンテナンスを実行するか否かを判断する判定部と、
所要時間算出部と、を有
し、
前記線状媒体は糸であって、
前記後処理装置は、刺繍原稿を基に刺繍データを作成して、該刺繍データに応じて、針に通された糸を用いて布に刺繍をする刺繍手段を有する刺繍装置であり、
1つの染色ジョブは、1つの刺繍原稿に対応付けられた糸染色指示に基づく動作であり、
前記刺繍装置から、刺繍イメージを基に作成された前記刺繍データのステッチ数と糸線速情報を取得する刺繍情報取得部を有し、
前記所要時間算出部は、ステッチ数と糸線速情報を基に、前記刺繍原稿を出力するために染色ジョブに対応付けられた刺繍の予測所要時間を算出し、
実行するジョブは複数の染色ジョブを含み、
前記判定部は、前記刺繍の予測所要時間を基に、前記吐出ヘッドのメンテナンスを実行するか否かを判断し、現在の染色ジョブ終了時点で、前回メンテナンス実行時点から次回の染色ジョブの終了時点までの、染色ジョブに対応付けられた前記刺繍の予測所要時間の合計時間が設定時間以上の場合に、メンテナンスを実行するように判断する
染色装置。
【請求項2】
前記判定部は、現在の染色ジョブ終了時点で、前回メンテナンス実行時点から次回の染色ジョブの終了時点までの、前記刺繍の予測所要時間の合計時間が設定時間未満の場合であって、前回メンテナンス実行時点からの今回の染色ジョブの終了時点までの、実際に要した時間の合計時間が設定時間以上の場合に、メンテナンスを実行するように判断する
請求項
1に記載の染色装置。
【請求項3】
線状媒体を用いて後処理をおこなう後処理装置が搬送方向下流側に接続される染色装置であって、
線状媒体に液滴を吐出して染色するノズルを有する吐出ヘッドと、
前記後処理装置と連動して前記線状媒体を搬送する搬送機構と、
前記線状媒体の搬送と連動して前記吐出ヘッドを駆動させるヘッド駆動部と、
前記ヘッド駆動部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
染色ジョブごとにかかる後処理の所要時間を基に、前記吐出ヘッドのメンテナンスを実行するか否かを判断する判定部と、
搬送時間算出部と、を有し、
前記線状媒体は糸であって、
前記後処理装置は、刺繍原稿を基に刺繍データを作成して、該刺繍データに応じて、針に通された糸を用いて布に刺繍をする刺繍手段を有する刺繍装置であり、
1つの染色ジョブは、1つの刺繍原稿に対応付けられた糸染色指示に基づく動作であり、
前記搬送時間算出部は、前記吐出ヘッドのノズルから吐出された液滴が糸に付着してから前記刺繍手段の針に到達するまでにかかる時間を算出し、
前記判定部は、前記刺繍の所要時間と吐出後の搬送時間の合計時間と、設定時間との比較結果に基づいて、前記吐出ヘッドのメンテナンスを実行するかを判断する
染色装置。
【請求項4】
前記吐出ヘッドは、前記吐出ヘッドよりも前記糸の搬送方向の上流側に設けられ、染色前に、前記糸に液滴を吐出して前処理液を付与する、前処理ヘッドを含み、
前記ヘッド駆動部は、前記糸の搬送と連動して前記前処理ヘッドを駆動させ、
前記制御部は、
前記前処理ヘッドのノズルから吐出された液滴が前記糸に付着してから前記刺繍手段の針に到達するまでにかかる時間を算出する前処理後搬送時間算出部と、
前記刺繍の所要時間と、前記前処理ヘッドの吐出後の搬送時間の合計時間と、設定時間との比較結果に基づいて、前記前処理ヘッドのメンテナンスを実行するかを判断する前処理判定部と、を有する、
請求項
1に記載の染色装置。
【請求項5】
前記吐出ヘッドから、前記線状媒体への染色用以外に吐出された空吐出滴を受ける空吐出受け、を備えており、
前記吐出ヘッドは、複数のノズルが列状に並んだノズル列を有しており、
前記搬送機構は、前記吐出ヘッドの前記ノズル列の配列方向と平行に前記線状媒体を搬送し、
前記判定部は、前記吐出ヘッドのメンテナンスとして、空吐出受けへの吐出を含む空吐出動作を実行するか否かを判断する
請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の染色装置。
【請求項6】
前記吐出ヘッドを前記線状媒体の搬送方向に対して直交する直交方向に移動可能なヘッド移動手段を備え、
前記空吐出動作は、
染色動作を実行している前記吐出ヘッドの前記ノズル列を前記線状媒体の対向位置から退避させる動作と、
移動した前記吐出ヘッドの前記ノズル列から前記空吐出受けへ空吐出滴を吐出する動作と、
前記吐出ヘッドの前記ノズル列を前記線状媒体の対向位置に復帰させる動作と、を含む、
請求項
5に記載の染色装置。
【請求項7】
前記吐出ヘッドの前記ノズル列が形成されたノズル面に設けられ、前記ノズル列の配列方向と同一方向に延伸し、前記配列方向と直交する方向に前記ノズル列と隣接している第1の電極と、
前記線状媒体を挟んで、前記吐出ヘッドの前記ノズル面の少なくとも一部と対向する面に設けられ、前記第1の電極との間に電界を発生させる第2の電極と、を備え、
前記空吐出動作は、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に電界を発生させる動作と、
前記電界が発生した状態で、前記吐出ヘッドの前記ノズル列から空吐出滴を吐出し、前記空吐出滴を飛翔中に偏向させて、前記空吐出受けへ着弾させる動作と、
前記電界の発生を停止させる動作と、を含む、
請求項
5に記載の染色装置。
【請求項8】
線状媒体を用いて後処理をおこなう後処理装置が搬送方向下流側に接続され、糸を染色する染色装置と、
前記染色装置から送られる前記糸を用いて、布に刺繍を行う刺繍装置と、を備える、刺繍システムであって、
前記染色装置は、
前記糸に液滴を吐出して染色するノズルを有する吐出ヘッドと、
前記刺繍装置と連動して前記糸を搬送する搬送手段と、
前記糸の搬送と連動して前記吐出ヘッドを駆動させるヘッド駆動部と、
メンテナンス実行の判断の閾値となる設定時間を記憶する設定時間記憶部と、を備え、
前記刺繍装置は、
針に通された前記糸を用いて布に刺繍を実行する刺繍手段を備え、
染色ジョブごとにかかる刺繍の所要時間を算出する所要時間算出部と、
前記所要時間を基に、前記吐出ヘッドのメンテナンスを実行するか否かを判断する判定部と、を有しており、
前記所要時間算出部と、前記判定部は、前記染色装置、前記刺繍装置、又は前記刺繍システムと接続可能な上位制御装置に搭載されて
おり、
前記線状媒体は前記糸であって、
前記後処理装置は、刺繍原稿を基に刺繍データを作成して、該刺繍データに応じて、針に通された前記糸を用いて布に刺繍をする刺繍手段を有する前記刺繍装置であり、
1つの染色ジョブは、1つの刺繍原稿に対応付けられた糸染色指示に基づく動作であり、
前記刺繍装置から、刺繍イメージを基に作成された前記刺繍データのステッチ数と糸線速情報を取得する刺繍情報取得部を有し、
前記所要時間算出部は、ステッチ数と糸線速情報を基に、前記刺繍原稿を出力するために染色ジョブに対応付けられた刺繍の予測所要時間を算出し、
実行するジョブは複数の染色ジョブを含み、
前記判定部は、現在の染色ジョブ終了時点で、前回メンテナンス実行時点から次回の染色ジョブの終了時点までの、染色ジョブに対応付けられた前記刺繍の予測所要時間の合計時間が設定時間以上の場合に、メンテナンスを実行するように判断する
刺繍システム。
【請求項9】
前記刺繍装置は、
前記刺繍データにおいて、布に対して針が何回縫ったかのステッチ数を把握する現在位置把握部と、
前記糸の線速を検知する線速検知部を有し、
前記所要時間算出部は、前記刺繍装置から
前記刺繍データのステッチ数と糸線速情報を取得して、ステッチ数と糸線速情報を基に、染色ジョブごとにかかる、刺繍の前記所要時間を算出する
請求項
8に記載の刺繍システム。
【請求項10】
線状媒体を用いて後処理をおこなう後処理装置が搬送方向下流側に接続される染色装置の制御方法であって、
前記染色装置は、線状媒体に液滴を吐出して染色するノズルを有する染色ヘッドを含む吐出ヘッドと、前記後処理装置と連動して前記線状媒体を搬送する搬送手段と、前記線状媒体の搬送と連動して前記吐出ヘッドを駆動させるヘッド駆動部と、
メンテナンス実行の判断の閾値となる設定時間を記憶する設定時間記憶部と、を有しており、
染色ジョブごとにかかる後処理の所要時間を算出する所要時間算出ステップと、
染色ジョブごとにかかる後処理の所要時間を基に、前記染色ヘッドのメンテナンスを実行するか否かを判断する
判定ステップと、
刺繍装置から、刺繍イメージを基に作成された刺繍データのステッチ数と糸線速情報を取得する刺繍情報取得ステップと、を有
し、
前記線状媒体は糸であって、
前記後処理装置は、刺繍原稿を基に前記刺繍データを作成して、前記刺繍データに応じて、針に通された糸を用いて布に刺繍をする刺繍手段を有する前記刺繍装置であり、
1つの染色ジョブは、1つの刺繍原稿に対応付けられた糸染色指示に基づく動作であり、
前記所要時間算出ステップでは、ステッチ数と糸線速情報を基に、前記刺繍原稿を出力するために染色ジョブに対応付けられた刺繍の予測所要時間を算出し、
実行するジョブは複数の染色ジョブを含み、
前記判定ステップでは、前記刺繍の予測所要時間を基に、前記吐出ヘッドのメンテナンスを実行するか否かを判断し、現在の染色ジョブ終了時点で、前回メンテナンス実行時点から次回の染色ジョブの終了時点までの、染色ジョブに対応付けられた前記刺繍の予測所要時間の合計時間が設定時間以上の場合に、メンテナンスを実行するように判断する
染色装置の制御方法。
【請求項11】
線状媒体を用いて後処理をおこなう後処理装置が搬送方向下流側に接続される染色装置の制御プログラムであって、
前記染色装置は、線状媒体に液滴を吐出して染色するノズルを有する染色ヘッドを含む吐出ヘッドと、前記後処理装置と連動して前記線状媒体を搬送する搬送手段と、前記線状媒体の搬送と連動して前記吐出ヘッドを駆動させるヘッド駆動部と、
メンテナンス実行の判断の閾値となる設定時間を記憶する設定時間記憶部と、を有しており、
染色ジョブごとにかかる後処理の所要時間を算出する所要時間算出処理と、
染色ジョブごとにかかる後処理の所要時間を基に、前記染色ヘッドのメンテナンスを実行するか否かを判断する判定処理と、
刺繍装置から、刺繍イメージを基に作成された刺繍データのステッチ数と糸線速情報を取得する刺繍情報取得部処理と、
をコンピュータに実行させ、
前記線状媒体は糸であって、
前記後処理装置は、刺繍原稿を基に前記刺繍データを作成して、前記刺繍データに応じて、針に通された糸を用いて布に刺繍をする刺繍手段を有する前記刺繍装置であり、
1つの染色ジョブは、1つの刺繍原稿に対応付けられた糸染色指示に基づく動作であり、
前記所要時間算出処理で部は、ステッチ数と糸線速情報を基に、前記刺繍原稿を出力するために染色ジョブに対応付けられた刺繍の予測所要時間を算出し、
前記判定処理では、前記刺繍の予測所要時間を基に、前記吐出ヘッドのメンテナンスを実行するか否かを判断し、
実行するジョブは複数の染色ジョブを含み、
前記判定処理では、現在の染色ジョブ終了時点で、前回メンテナンス実行時点から次回の染色ジョブの終了時点までの、染色ジョブに対応付けられた前記刺繍の予測所要時間の合計時間が設定時間以上の場合に、メンテナンスを実行するように判断する
染色装置の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染色装置、刺繍システム、染色装置の制御方法、染色装置の制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンティング技術として、紙のような二次元メディアにインクを吐出する画像形成装置がよく知られているが、近年、この技術の応用の1つとして、刺繍糸などの細長い一次元メディア(線状媒体)である白糸に対して、オンデマンドで染色可能なインクジェット糸捺染装置(糸染色装置)がある。
【0003】
例えば、特許文献1では、刺繍用の糸を染色するために、糸の真上にインクジェットプリントヘッドが配置されたプリント機能付き刺繍機において、デザインデータからプリント媒体を染色する色を決定し、そのプリント媒体を用いて多色の刺繍をすることが提案されている。そして、特許文献1では、糸を染色しない休止期間中に、ノズル列から糸を退避させてプリントヘッドのノズルの維持・回復動作をすることが開示されている。
【0004】
また、二次元メディアにインクを吐出するインクジェット方式の画像形成装置では、吐出動作中のメンテナンス動作のため、1又は複数のJobの間(例えばページ間)に、空吐出を実施することが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
紙のような二次元メディアにインクを吐出するインクジェット画像形成装置では、Jobごとの印刷にかかる時間は入力画像に応じて定まり、同じ入力画像ではほとんど所要時間は同じであったのに対し、糸捺染の場合は、後工程の刺繍に要する時間に応じて染色が進むため、同じ染色情報であっても、Jobごとにかかる時間は刺繍時間に応じて大きな差が発生する。
【0006】
そのため、特許文献1のようなプリント機能付き刺繍機において、維持回復動作を画像形成装置のように1又は複数のJob毎に実施しようとすると、長い刺繍時間を要するJobが行われた際に吸引や捨て打ちなどのメンテナンスが長時間行われず、不吐出などの吐出異常が発生してしまうおそれがある。また、逆に短い刺繍時間を要するJobが行われた際に、メンテナンスの間隔が短くなることで、メンテナンス回数が多くなり染色完了までの時間がかかりすぎてしまう、という問題があった。
【0007】
そこで、本発明は上記事情に鑑み、線状媒体を染色する吐出ヘッドのメンテナンス頻度を最適化することができる、染色装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の一態様は、
線状媒体を用いて後処理をおこなう後処理装置が搬送方向下流側に接続される染色装置であって、
線状媒体に液滴を吐出して染色するノズルを有する吐出ヘッドと、
前記後処理装置と連動して前記線状媒体を搬送する搬送機構と、
前記線状媒体の搬送と連動して前記吐出ヘッドを駆動させるヘッド駆動部と、
前記ヘッド駆動部を制御する制御部と、
メンテナンス実行の判断の閾値となる設定時間を記憶する設定時間記憶部と、を備え、
前記制御部は、
染色ジョブごとにかかる後処理の所要時間を基に、前記吐出ヘッドのメンテナンスを実行するか否かを判断する判定部と、
所要時間算出部と、を有し、
前記線状媒体は糸であって、
前記後処理装置は、刺繍原稿を基に刺繍データを作成して、該刺繍データに応じて、針に通された糸を用いて布に刺繍をする刺繍手段を有する刺繍装置であり、
1つの染色ジョブは、1つの刺繍原稿に対応付けられた糸染色指示に基づく動作であり、
前記刺繍装置から、刺繍イメージを基に作成された前記刺繍データのステッチ数と糸線速情報を取得する刺繍情報取得部を有し、
前記所要時間算出部は、ステッチ数と糸線速情報を基に、前記刺繍原稿を出力するために染色ジョブに対応付けられた刺繍の予測所要時間を算出し、
実行するジョブは複数の染色ジョブを含み、
前記判定部は、前記刺繍の予測所要時間を基に、前記吐出ヘッドのメンテナンスを実行するか否かを判断し、現在の染色ジョブ終了時点で、前回メンテナンス実行時点から次回の染色ジョブの終了時点までの、染色ジョブに対応付けられた前記刺繍の予測所要時間の合計時間が設定時間以上の場合に、メンテナンスを実行するように判断する。
【発明の効果】
【0009】
一態様によれば、染色装置において、線状媒体を染色する吐出ヘッドのメンテナンス頻度を最適化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る染色装置が搭載された、刺繍システムの一例の側面概略図。
【
図2】本発明の複数の実施形態の染色装置における染色部の複数の吐出ヘッド及び維持ユニットの側面概略図。
【
図3】本発明の複数の実施形態における染色部の一例の下面図。
【
図4】本発明の第1構成例に係る染色装置の染色部における糸搬送方向と直交する方向におけるヘッドの移動を説明する、搬送方向と直交する方向からみた図。
【
図5】本発明の第1構成例の染色装置の染色部における糸搬送方向と直交方向におけるヘッドの移動を説明する下面概略図。
【
図6】本発明の第1構成例の染色部のヘッド移動手段及び維持ユニットのキャップ部の移動手段の概略説明図。
【
図7】本発明の第1実施形態に係る刺繍システムの駆動制御に係る部分の概略ブロック図。
【
図8】画像形成動作と刺繍動作のジョブに対応する所要時間の説明図。
【
図9】染色ジョブに対応する刺繍時間及び染色時間と、メンテナンスの実施タイミングを説明する図。
【
図10】第1実施形態の吐出・メンテナンス制御に係る部分の機能ブロック図。
【
図11】データ処理部の、ハードウェアブロック図の一例。
【
図12】本発明におけるメンテナンスを含む染色動作のフローチャート。
【
図13】本発明の第1構成例に係るメンテナンス実行動作の詳細フローチャート。
【
図14】本発明の染色部の複数の吐出ヘッドにおいて、複数のノズルから同時に液滴を吐出する状態を示す側面図。
【
図15】複数の吐出ヘッドがそれぞれ離れている場合の染色ジョブに対応する刺繍時間及び染色時間と、メンテナンスの実施タイミングを説明する図。
【
図16】本発明の第2構成例の空吐出受け及び偏向部の概略構成を示す図。
【
図17】本発明の第2構成例に係る刺繍システムの駆動制御に係る部分の概略ブロック図。
【
図18】本発明の第2構成例に係るメンテナンス実行動作の詳細フローチャート。
【
図19】本発明の第2実施形態に係る、前処理液付与機能を有する染色装置が搭載された、刺繍システムの一例の側面概略図。
【
図20】第2実施形態の吐出・メンテナンス制御に係る部分の機能ブロック図。
【
図21】前処理ヘッドを含む場合の染色ジョブに対応する刺繍時間及び染色時間と、メンテナンスの実施タイミングを説明する図。
【
図22】本発明の第3実施形態に係る、上位制御装置を有する、刺繍システムの一例の側面概略図。
【
図23】第3実施形態に係る、吐出・メンテナンス制御に係る部分の機能ブロック図。
【
図24】本発明の第4実施形態に係る、一体型の染色・刺繍装置の一例の側面概略図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。下記、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0012】
<全体構成(第1実施形態)>
まず、
図1~
図3を用いて、本発明の染色装置を含む刺繍システムについて説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る刺繍システムの側面概略図である。
図2は、本発明の複数の実施形態に係る染色装置における染色部周辺の側面概略図である。
図3は、本発明の複数の実施形態に係る染色装置における染色部の下面図である。
【0013】
刺繍システム3は、染色装置1と刺繍装置2を備えている。本システムにおいて、染色装置1は、有線又は無線通信により、刺繍装置2と情報をやり取り可能に電気的に接続されている。
【0014】
染色装置1は、糸Nが巻回された上糸糸巻101と、染色部103と、定着部104と、後加工部105と、を備えている。本実施形態における染色装置1は、液体吐出式で糸を染色する液体吐出装置である。
【0015】
供給手段である上糸糸巻101から引き出された糸Nは、搬送機構102である搬送ローラ121,122,123で案内され、刺繍装置2まで連続して這い回されている。
【0016】
ローラ122には、ロータリーエンコーダ(以下、単にエンコーダと呼ぶこともある)125が設けられている。ロータリーエンコーダ125は、ローラ122と共に回転するエンコーダホイール125bと、エンコーダホイール125bのスリットを読取るエンコーダセンサ125aで構成されている。また、ローラ123にも同様に、エンコーダホイール126aと、エンコーダホイール126bで構成されるロータリーエンコーダ126が設けられている。
【0017】
染色部103は、上糸糸巻101から引き出されて搬送される糸Nに所要の色の液体を吐出して付与する複数の吐出ヘッド30(30K~30Y)と、各吐出ヘッド30K~30Yのメンテナンスを行う複数の個別の維持ユニット36(36K~36Y)を含んで構成されるメンテナンス機構35を備えている。
【0018】
以降において、染色部103から、刺繍装置2までの糸の搬送方向をX、刺繍システム3の奥行き方向(糸の幅方向)をY、高さ方向(上下方向)をZと呼ぶ。
【0019】
図2を参照して、複数の吐出ヘッド30K~30Yは、それぞれ液体付与手段であって、互いに異なる色を吐出する染色ヘッドである。例えば、30Kはブラック(K)の液滴(インク)を吐出する染色ヘッド、30Cはシアン(C)の液滴を吐出する染色ヘッド、30Mはマゼンタ(M)の液滴を吐出する染色ヘッド、30Yはイエロー(Y)の液滴を吐出する染色ヘッドである。なお、色の順番は一例であり、この説明とは異なる順番に配置されてもよい。
【0020】
また、維持ユニット36K~36Yは、各色の吐出ヘッド30K~30Yの下側に設けられており、維持回復動作として、不使用時の吐出ヘッドをキャッピングしたり、吐出ヘッド30K~30Yからの液滴の空吐出受けとなったり、空吐出受けを吐出ヘッドに近づけた状態でノズルの吸引循環動作を行ったり、ノズルのワイピング動作を行ったりする。
【0021】
ここで、
図3に示すように、各吐出ヘッド30K~30Yは、液滴を吐出する複数のノズル31を配列したノズル列32a,32bが形成されたノズル面33を有する。各吐出ヘッド30K~30Yでは、ノズル31の配列であるノズル列32a,32bの方向が糸Nの搬送方向と平行になるように配置される。
【0022】
吐出ヘッド30Kにおいて、糸Nの真下に位置する片方の列(
図3ではノズル列32a)のノズル31で吐出したインク滴が糸に着弾して糸Nへの着色(染色、捺染ともいう)を行う。
図3には、吐出ヘッド30Kはノズル面33に2列のノズル列32a,32bが配置されている例を示しているが、吐出ヘッド30Kに設けられるノズル列の数は1列でもよく、あるいは、3列以上であってもよい。なお、
図3に示すように、他の吐出ヘッド30C,30M,30Yでも、吐出ヘッド30Kと同様の構成を有している。
【0023】
図1に戻って、定着部104は、染色部103から吐出された液体が付与された糸Nに対する定着処理(乾燥処理)を行う。定着部104は、例えば赤外線照射手段、温風吹き付け手段などの加熱手段を備え、糸Nを加熱して乾燥する。
【0024】
後加工部105は、例えば、糸Nを清掃する清掃手段、糸Nの張力を調整する張力調整手段、糸Nの移動量を検出する送り量検出手段、糸Nの表面に潤滑剤を付与する潤滑剤付与手段などを含む。
【0025】
なお、本発明の染色装置1では、少なくとも、糸Nに色付きの液体を付与する染色部103と搬送機構102が設けられていればよく、定着部104及び後加工部105は、設けられていなくてもよい。
【0026】
図1に示す刺繍装置2は、針21と、下糸回転体22と、ステージ23と、刺繍ヘッド20を有している。
【0027】
針21は、針先先端の針穴に上糸Nが通されており、布Cに対して上下方向に移動駆動可能である。なお、布C等の布は化繊等シート状であればよい。
【0028】
下糸回転体22は、下糸Bが巻回された下糸ボビン221と、フック222を有しており、下糸ボビン221およびフック222は、針21の移動に連動して回転する。図示はしていないが、下糸回転体22には、下糸ボビン221を収容する円筒状の中釜や、有底円筒上の外釜、フック222と一体化した円筒体のケースなども設けられている。なお、
図1では、下糸ボビン221は、回転方向が縦方向の垂直回転方式(垂直全回転釜方式、垂直半回転釜方式)の例を示しているが、下糸ボビン221は、回転方向が横方向の水平回転方式(水平釜方式)であってもよい。
【0029】
ステージ23は、布Cを保持する台であり、針が通る穴(不図示)が形成されている。ステージ23は、布送りのために、X方向、Y方向に移動可能である。
【0030】
刺繍ヘッド20は、刺繍手段であって、演算機構25(
図7参照)が設けられており、上糸Nが通る針21の動き(運針)、及びステージ23の移動を制御することで、上糸Nと、上糸Nの送りに応じて送られる下糸Bを用いて、布Cに刺繍を行うことで布C上に刺繍パターン(刺繍模様)を形成する。
【0031】
また、「糸」とは、ガラス繊維糸、ウール糸、綿糸、合成糸、金属糸、ウール、綿、ポリマー、または金属の混合糸、ヤーン、フィラメント、あるいは液体を付与可能な線状部材(連続基材)であり、組紐、平紐なども含む。
【0032】
<第1構成例のメンテナンス機構>
次に、
図4~
図6を用いて本発明の第1構成例の染色部103のメンテナンスに関する機構について説明する。
図4は、本発明の第1構成例に係る染色部103における糸搬送方向と直交方向における吐出ヘッド30Kの移動を説明する図である。
図5は、本発明の第1構成例に係る染色部103における糸搬送方向と直交方向における吐出ヘッド30Kの移動を説明する下面概略図である。
【0033】
詳しくは、
図4において、(a)はノズル列32aから液滴が糸Nの上に吐出可能な状態、即ちノズル列32aによる染色可能な状態の吐出ヘッド30Kの位置を示し、(b)は、ノズル列32bから液滴が糸Nの上に吐出可能(染色可能)な状態の吐出ヘッド30Kの位置を示し(c)は、ノズル列32a,32bがキャップ37によってキャッピングされる状態のヘッド30Kの位置を示す。
【0034】
図4、
図5に示すようにヘッド30Kが糸Nの搬送方向に対して垂直に動くことで、ノズル列32aでの染色(着色)、ノズル列32bでの染色、ノズル面33のキャップ37によるキャッピングが可能となる。吐出ヘッド30Kの移動方向Yは、
図1に示す装置奥方向である。
【0035】
他の吐出ヘッド30C,30M,30Yでも同様に、使用するノズル列の選択、及びメンテナンス動作のため、ヘッド移動方向に自由に移動が可能である。
【0036】
また、
図3、
図4、
図5に示すように、ヘッド30Kの下面には2列のノズル列32a,32bがあり、吐出ヘッド30Kを移動させて、インク滴を糸に着弾させて糸を捺染するノズル列を、糸の真上に位置するようにセットすることで、適宜使用するノズル列を選択可能である。
【0037】
維持ユニット36Kはヘッド30Kと係合するキャップ37のキャッピングによる回復動作の他に、キャップ37を設けられていない上面である回収面38において、糸Nからはみ出た、又は空吐出された、糸Nに着弾しないインクの回収も行う。第1構成例では、回収面38が、糸Nへの染色用以外に吐出された空吐出滴を受ける空吐出受けとして機能する。
【0038】
なお、吐出ヘッド30Kの移動の基準として、ホームポジションセンサ(HPセンサ)39が、維持ユニット36Kに設けられている。なお、
図4では、維持ユニット36Kの端部に、吐出ヘッド30Kのホームポジションの位置を規定するHPセンサ39を設ける例を示しているが、HPセンサ39は、ヘッド移動方向において、他の位置に設けてもよい。
【0039】
また、
図5に示すように複数の吐出ヘッド30K~30Yは、個別に、±Y方向に位置の移動が可能である。
【0040】
ここで、夫々の吐出ヘッド30K~30Yをヘッド移動方向(装置奥行方向)に、移動させる機構について、
図6を用いて説明する。
図6は、染色部103のヘッド移動手段及び維持ユニット36Kのキャップ37の移動手段の概略説明図である。
【0041】
図6に示すように、ヘッド30Kは移動可能なキャリッジ311によって支持されている。キャリッジ311は、ヘッド移動モータ314によってキャリッジ311を支持するアーム312,313が移動することで、可動方向に移動することができる。ヘッド移動の例として、例えば、水平方向に延伸するアーム312自体が伸縮してもよいし、あるいは、アーム312に対してキャリッジ311の位置が変更することでキャリッジ311が移動してもよい。本構成例では、キャリッジ311、アーム312,313、ヘッド移動モータ314を合わせて、ヘッド移動手段(ヘッド移動部)310とする。
【0042】
このような構造により、待機時はキャリッジ311によって支持される吐出ヘッド30Kをキャップ37の位置に移動させ、染色時は糸Nの位置に移動させ、空吐出時は回収面(空吐出受け)38と対向する位置に移動させることができる。
【0043】
そして、吐出ヘッド30Kの位置を動かす可動部であるヘッド移動手段310は、ヘッド毎に備えていると好適である。これにより、ヘッド毎に空吐出等のメンテナンス実施のタイミングを変えることができる。
【0044】
また、キャップ37は、維持ユニット36Kにおいて、キャップ昇降モータ352で駆動される昇降アーム351によって昇降可能である。待機時は吐出ヘッド30Kのインクの乾燥を防ぐため、
図4(c)に示すようにキャップ37が上昇して吐出ヘッド30Kをキャッピングする。染色時は、
図4(a)、
図4(b)に示すように、キャップ37を下降させてデキャッピングしている。
【0045】
第1構成例では、キャップ37、昇降アーム351、キャップ昇降モータ352、キャップ37、回収面38、及びHPセンサ39、を備える維持ユニット36Kと、ヘッド移動手段310Kが、吐出ヘッド30Kのためのメンテナンス機構35Kとして機能する。
【0046】
なお、
図4では、維持ユニット36Kにおいて、刺繍システム3の奥側(+Y側)にキャップ37を配置する例を示しているが、
図6に示すように、維持ユニット36Kにおいて、キャップ37は、刺繍システム3の手前側(-Y側)に配置してもよい。
【0047】
<制御ブロック>
図7は、本発明の第1実施形態の刺繍システムの駆動制御に係る部分の概略ブロック図である。
【0048】
本発明で、染色装置側で実施される染色ジョブは、刺繍原稿(刺繍イメージ)に対応付けられた糸染色指示に基づく動作であり、染色動作の時間は、刺繍動作の時間に応じて規定されるため、先に刺繍装置2の駆動制御について説明する。
【0049】
図7を参照して、刺繍装置2は、
図1に示していない駆動制御に係る部分として、刺繍データ作成部24と、演算機構25と、駆動ドライバ27と、駆動モータ28と、針上下駆動部291と、下糸回転駆動部292と、X軸駆動部293と、Y軸駆動部294と、を有している。さらにステッチセンサ26が設けられていてもよい。このうち、少なくとも、駆動ドライバ27と、駆動モータ28と、針上下駆動部291と、ステッチセンサ26は、針21の上側の刺繍ヘッド20内に内蔵されている。また、点線で示すように刺繍データ作成部24と、演算機構25も刺繍ヘッド20内に内蔵されていてもよい。
【0050】
刺繍データ作成部24は、刺繍データの元となる刺繍イメージ(刺繍ファイル、刺繍原稿ともいう)を取得して、刺繍イメージを基に刺繍データを作成し、演算機構25と、駆動ドライバ27に出力する。刺繍データとは、針を移動する座標のデータとその位置で何をするかがペアになった元データである。
【0051】
演算機構25は、刺繍データを基に駆動する駆動ドライバ27から、現在位置に対応するステッチ数を呼び出して、現在位置を把握するともに、刺繍データに対する現在位置から上糸の想定消費量を算出し、そこからかかった時間を割ることで糸線速情報を算出する。
【0052】
あるいは、演算機構25においてステッチ数をより簡単に取得できるように、ステッチセンサ26が設けられていてもよい。ステッチセンサ26は、針21の上下運動を検知するセンサであって、例えば針21を保持する針棒に設けられ、針21が何回昇降したか、即ち何針分進んだかに相当する、ステッチ数を検知する。この場合は、ステッチ数と、刺繍データを基に、糸線速情報を算出する。
【0053】
駆動ドライバ27は、刺繍データに基づいて駆動モータ28を駆動制御する。そして、刺繍データにおける進行状況を、演算機構25に通知する。
【0054】
針上下駆動部291は、所謂天秤と呼ばれ、駆動モータ28に連結する上軸の回転運動を上下運動に変換することで、上糸Nが通された針21の上下の移動を駆動する。
【0055】
下糸回転駆動部292は、上記上軸と、ベルト・カム・クランクを介して連結した下軸の回転運動によって、針21の上下運動と連動して、下糸回転体22を回転させる。
【0056】
X軸駆動部293と、Y軸駆動部294は、ステージ移動駆動部(布送り部)であって、下軸の回転運動によって、針21の上下運動及び下糸回転体22の回転と連動して、布Cが載置されたステージ23のX方向、Y方向の移動を駆動する。この際、布Cを送る方法として、ステージ23の全体を移動させてもよいし、あるいは、ステージ23に形成された穴(不図示)に設けられた送り歯を移動させてもよい。
【0057】
針上下駆動部291と、下糸回転駆動部292と、X軸駆動部293と、Y軸駆動部294は、1つの駆動モータ28によって連動して駆動される駆動機構となる。そのため、駆動モータ28の回転により、針21の上下運動、下糸回転体22の回転運動、ステージ23上の布CのXY移動が発生する。例えば、針21の1回の上下運動は、下糸回転体22の、1又は整数回の回転運動と連動している。
【0058】
一方、
図7を参照して、染色装置1は、駆動制御に係る部分として、刺繍情報取得部16と、演算機構17と、を有している。なお、
図7では、必須ではない、定着部104と後加工部105の図示を省略している。また、染色部103には2つの吐出ヘッド30K,30Yとその吐出駆動に係る部分のみ示しているが、吐出ヘッド30M、30Cも同様の駆動構成を有している。
【0059】
刺繍情報取得部16は、刺繍装置2と情報のやりとりを行い、刺繍イメージ、刺繍ジョブ、刺繍データ、ステッチ数、糸線速情報等を刺繍装置2から取得する。
【0060】
演算機構17は、データ処理部701と、ヘッド位置制御部702と、搬送制御部703と、キャップ昇降制御部704と、を有している。
【0061】
染色部103は駆動機構として、吐出ヘッド30K~30Yをそれぞれ制御する、ヘッド制御部131Y~131Kと、吐出タイミングを生成する吐出タイミング生成部132と、駆動波形生成部133と、波形データ格納部134と、を有している。
【0062】
また、吐出ヘッド30Kには、ヘッド駆動部であるヘッドドライバ301と、複数のノズル31から液体を吐出させる圧力を発生する圧力発生素子としての複数の圧電素子302を有している。
【0063】
ヘッド制御部131Y~131K、吐出タイミング生成部132、駆動波形生成部133、波形データ格納部134、及びヘッドドライバ301は、吐出ヘッド30K~30Yの圧電素子302に対して駆動波形を印加する駆動波形印加手段となる。
【0064】
また、搬送制御手段として、搬送制御部703、上流側のロータリーエンコーダ125、刺繍ヘッド側のロータリーエンコーダ126、及び搬送モータ124等を備えている。
【0065】
また、ヘッド位置制御手段として、ヘッド位置制御部702と、各色のヘッド毎に設けられた、ヘッド移動モータ314K~314Y及びHPセンサ39K~39Yとを備えている。
【0066】
ここで、糸Nは、下流側の刺繍装置2の刺繍ヘッド20による刺繍動作で消費されることによって搬送(糸送り)される。刺繍ヘッド20側の下流側のロータリーエンコーダ126は、刺繍ヘッド20での糸Nの移動量を検出する送り量検出手段である。
【0067】
搬送制御部703は、搬送制御手段の一例であって、下流側のロータリーエンコーダ126の移動量を基に、糸Nの搬送速度を決定し、決定した搬送速度で搬送されるよう上流側のフィードローラである搬送モータ124にて搬送ローラ121を回転させることで糸搬送を行う。また、染色部103よりも上流に位置するロータリーエンコーダ125にて速度を検出し、搬送モータ124の糸搬送の制御を行う。
【0068】
糸Nが搬送されることで、糸Nを案内している搬送ローラ122が回転してロータリーエンコーダ125のエンコーダホイール125bが回転し、エンコーダセンサ125aから糸Nの線速に比例したエンコーダパルスが生成出力される。
【0069】
このロータリーエンコーダ125からのエンコーダパルスにより吐出タイミング生成部132で吐出タイミングパルスを生成して、ヘッド制御部131に出力し、ヘッド30K~30Yの吐出タイミングとして使用する。糸Nへのインク滴の吐出は糸Nの動き始めから実施し、糸Nの線速が変化しても、ロータリーエンコーダ125のエンコーダパルスに応じて吐出タイミングパルスの間隔が変わることで、液滴の着弾位置ずれを防ぐことができる。
【0070】
ヘッド制御部131K~131Yは、データ処理部701から染色データ及びメンテナンスデータを受け取り、この染色データ及びメンテナンスデータを含む吐出データをもとに、駆動信号をそれぞれのヘッド30K~30Yのヘッドドライバ301に出力する。さらに、ヘッド制御部131K~131Yは、吐出タイミングパルスを受信すると、駆動波形生成部133にも出力する。
【0071】
駆動波形生成部133は波形データ格納部134に格納されていた駆動波形を呼び出して、吐出タイミングパルスと同期したタイミングで駆動波形をヘッドドライバ301に出力する。
【0072】
ヘッドドライバ301は、入力された駆動波形と駆動信号を基に、インク滴の滴サイズを選択して、吐出ヘッド30K~30Yの各ノズル31から搬送中の糸Nに対して、搬送速度に応じたタイミングでインクを吐出させるように、吐出ヘッド30K~30Yを駆動する。
【0073】
ヘッド位置制御部702は、ヘッド位置制御手段の一例であって、ヘッド制御部131K~131Yからのヘッド位置指令に基づき、ヘッド移動モータ314K~314Yを回転させ吐出ヘッド30K~30Yをそれぞれのタイミングで所定の位置に移動させる。
【0074】
例えばヘッド移動モータ314K~314Yがステッピングモータの場合、位置の制御はHPセンサ39K~39Kにてホームポジション(HP)を検知した状態から、ノズル列32aでの着色位置、ノズル列32bでの着色位置、キャッピング位置などへHP位置から該当位置までの距離に応じたステップモータのステップ数の分、ヘッド移動モータ314K~314Yを回転させる制御を行う。ヘッド位置制御部702は、距離に応じたステップ数回転後、ヘッド制御部131K~131Yに対してヘッド移動が完了したことを通知する。
【0075】
キャップ昇降制御部704は、ヘッド制御部131K~131Yからのキャッピング、デキャッピング指示に基づき、キャップ昇降モータ352K~352Yを回転させ、キャップ37K~37Yを昇降させる。
【0076】
例えばキャップ昇降モータ352K~352Yがステッピングモータの場合、キャップ昇降制御部704は、上端であるキャッピング位置と、下端であるデキャッピング位置との間の距離に応じたSTEP数の分、キャップ昇降モータ352K~352Yを回転させる制御を行う。キャップ昇降制御部704は、キャップ昇降モータ352K~352Yを上端から下端までの距離に応じたSTEP数の分回転させた後、ヘッド制御部131K~131Yに対してキャップ37K~37Yの昇降によるノズル列のキャッピング及びデキャッピングが、完了したことを通知する。
【0077】
(印刷ジョブ・染色ジョブと所要時間)
ここで、
図8を用いて、ジョブに対応する所要時間について説明する。
図8(a)は、紙を吐出対象とするラインヘッド方式の画像形成装置での所要時間を示す図、
図8(b)は、糸を用いた刺繍動作における所要時間を示す図である。
【0078】
比較例として、
図8(a)に示すような一般的な、ラインヘッドインクジェット画像形成装置では、紙のような二次元上への広がりが比較的大きいメディア(二次元メディア)を、液滴の吐出対象(印刷対象)としている。このような装置では、印刷にかかる時間は印刷ジョブのサイズと、搬送時間という2つの要素で決定される。
【0079】
ここで、二次元メディアへの印刷ジョブとは、使用者から一回でされるコピーやファクシミリやスキャン等の作画指示に基づく動作を言う。例えば、印刷ジョブには、印刷する紙のページ数と部数の情報が含まれる作画指示を含む。
【0080】
(本発明におけるジョブ)
一方、糸用の染色装置では、糸のような、二次元上への広がりが比較的小さい細長いメディア(線状媒体、一次元メディア)を、液滴の吐出対象(染色対象)としている。この装置は、例えば、その中の1つに刺繍糸などの白糸にオンデマンドで染色し、後処理機としての刺繍装置と連動して使用されることを前提としている。後処理装置が刺繍装置(刺繍機)である場合、刺繍装置の上流側に設けられる染色装置では、糸の搬送において刺繍装置の影響が大きい。なお、後処理装置とは、線状媒体を後処理する装置をいう。
【0081】
図8(b)に示すような刺繍装置での刺繍動作の所要時間は、刺繍距離や刺繍速度、糸切り時間やその回数によって決定される。さらに刺繍距離は針を通す経路や布の厚みなども影響して変動する。そのため、糸への染色は、二次元メディアへの印刷に比べ複雑であり、1回の刺繍動作と対応づけられた染色ジョブあたりの時間も長くなっている。
【0082】
ここで、本発明の糸(一次元メディア)への染色ジョブとは、使用者から一回でされる刺繍原稿(刺繍イメージ)に対応付けられた糸染色指示に基づく動作を言う。即ち、1つの染色ジョブは、1つの刺繍原稿に対応付けられた糸染色指示に基づく動作である。例えば、染色ジョブには、刺繍原稿に対応づけられて作成される染色データにおける糸の染色長さの情報が含まれる糸染色指示を含む。
【0083】
例えば、
図8(b)の例では、星形(五芒星)において、5つの領域に分割されて刺繍が実行されていく。例えば、
図8(b)の星形に含まれる5つの領域を異なる色で塗りつぶす場合、各領域において、一例として、まず領域の縁部を例えばランニングステッチで縁取りし、その領域において張力を維持するために下縫いを行い、下縫い面を埋めるように模様縫い(サテンステッチ)で刺繍することで各領域の刺繍模様が完成する。そして、領域毎の刺繍模様の形成動作を5回繰り返すことで布上に星形の刺繍パターンが完成する。なお、上記刺繍手順は一例であり、下縫いは省略してもよく、さらに縁取りは、最初の領域形成前にまとめて実施し、領域毎の工程で実施しなくてよい。
【0084】
図8(b)に示す星形の刺繍パターンのうち、分割された領域それぞれが、「刺繍ジョブ」となり、1つの星全体は「刺繍ジョブ群」となる。例えば、布上にこのような星の模様が離間して複数設けられる場合は、刺繍ジョブ群が、複数存在することになる。
【0085】
(メンテナンスの実施タイミング)
図9は、染色ジョブに対応する刺繍時間及び染色時間と、メンテナンスの実施タイミングを説明する図である。
図9(a)~(c)において、上段は、染色ジョブサイズを示し、中段は刺繍時間を示し、下段は染色時間を示している。
【0086】
いずれの例でも染色ジョブA、B、C、Dは、染色ジョブサイズは同じだが刺繍にかかる時間が異なる場合を示している。例えば、染色ジョブサイズが同じとは、染色ジョブによる、糸への染色長さが等しいことを指す。そのため、
図9(a)~(c)において染色ジョブA、B、C、Dを実行すると、糸N上の染色長さが等しい。なお、一連の染色ジョブA、B、C、Dを合わせて、1つの染色ジョブ群とする。
【0087】
一方、
図9(a)~(c)の例では、染色ジョブAの際の刺繍装置2での刺繍時間(刺繍の所要時間、算出刺繍時間)は9分であり、染色ジョブBの際の刺繍時間は2分であり、染色ジョブCの際の刺繍時間は14分であり、染色ジョブDの際の刺繍時間は5分である。
【0088】
例えば、刺繍原稿を基に作成される刺繍データに応じた刺繍動作において、1ステッチあたりのステッチ長さ(縫い幅)が長く、ステッチ密度が低く、糸切り回数が少ないほど、糸の消費速度が速くなるため、染色ジョブBのように、刺繍の所要時間が短くなる。一方、1ステッチあたりのステッチ長さが短く、ステッチ密度が高く、糸切り回数が多いほど、糸の消費速度が遅くなるため、染色ジョブCのように、刺繍の所要時間が長くなる。
【0089】
そして、下段に示す染色装置1における染色時間は、刺繍時間に対応づけられた染色実行時間と、メンテナンス時間の合計になる。
【0090】
図9において、(a)は比較例1での吐出ヘッドのメンテナンス実施タイミングを示し、(b)は比較例2での吐出ヘッドのメンテナンス実施タイミングを示し、(c)は本発明での吐出ヘッドのメンテナンス実施タイミングを示している。
【0091】
図9(a)では、比較例1として、従来の二次元メディア用のインクジェット画像形成装置でよく行われているメンテナンスを模して、全ての染色ジョブ(Job)間にメンテナンスを行う制御を示している。この制御の場合は、メンテナンスが頻繁に行われるため、吐出異常は発生しにくい。しかし、間隔が短い箇所(ここでは最短で2分後)でも、染色Job間にメンテナンスが行われているため、下段に示すように、全Job完了までに、染色時間が多くかかってしまう。
【0092】
図9(b)では、比較例2として、前回のメンテナンス実行時間から設定時間を超過した場合にメンテナンスをする、という制御を示している。この例で設定時間を15分とした場合、メンテナンス回数が減ることで刺繍ジョブ終了までの染色時間は短くなる。しかし、最大25分の間メンテナンスがされないため、15分の設定時間から乖離が大きいことから吐出異常が発生しやすくなる。
【0093】
この課題を解決すべく、
図9(c)に示す本発明の制御では、刺繍時間を考慮して、刺繍時間が、今回のジョブ終了時点に、次ジョブを終えるときに設定時間を超えるならメンテナンスをする、という方法をとる。
【0094】
具体的には、設定時間を15分とした場合、刺繍時間において、染色ジョブA終了時点では、前回メンテナンス終了時点である前回メンテナンス実行タイミングから次の染色ジョブBの終了時点までの刺繍の所要時間の合計は、染色ジョブA+B=11分でまだ設定時間の15分を超えないため、メンテナンスは実行しない。
【0095】
染色ジョブB終了時点では、前回のメンテナンス実行タイミングから次の染色ジョブCの終了時点までの刺繍の所要時間の合計は、染色ジョブA+B+C=25分で設定時間15分を超えるため、即ち、次の染色ジョブCを終えるときには設定時間を超えるため、メンテナンスを実行する。
【0096】
染色ジョブC終了時点では、前回メンテナンス実行タイミングから次の染色ジョブCの終了時点までの刺繍の所要時間の合計は、染色ジョブC+D=19分で設定時間15分を超えるため、メンテナンスを実行する。
【0097】
このように
図9(c)に示す制御では、メンテナンス間隔の最小時間は11分、最大時間は19分と設定時間(15分)から大きな乖離はないため、適切なタイミングでメンテナンスが実行できている、といえる。
【0098】
(機能ブロック図)
図10は、本発明のメンテナンス制御に係る部分の機能ブロック図である。なお、
図10では、ヘッド制御部131Kを例に挙げて説明するが、ヘッド制御部131M、131C、131Yに対しても、ヘッド制御部131K同様の制御指示が行われる。
【0099】
データ処理部701は、吐出データ編集部710と、メンテナンス制御部720とを、実行可能に有している。
【0100】
吐出データ編集部710は、ジョブ毎染色データ作成部711と、空吐出データ挿入部712と、空吐出データ記憶部713と、ヘッド毎吐出データ出力部714とを有している。吐出データ編集部710は、刺繍イメージを基に染色データを作成し、場合に応じて染色データを基に実行する染色ジョブ間にメンテナンスデータを挿入した吐出データを、ヘッド制御部131Kに出力する。
【0101】
ジョブ毎染色データ作成部711は、1回の入力によって入力される刺繍イメージから、刺繍装置側で実行される刺繍ジョブと同時に実行する染色ジョブを規定し、その染色ジョブ毎の染色データを作成する。
【0102】
メンテナンス制御部720は、ジョブ毎刺繍所要時間予測部501と、ジョブ毎予測刺繍時間記憶部502と、メンテナンス後刺繍時間カウント部503と、設定時間記憶部504と、第1メンテナンス実行判定部505と、メンテナンス後経過時間カウント部506と、第2メンテナンス実行判定部507と、メンテナンス実行指示部508と、を実行可能に有している。
【0103】
ジョブ毎刺繍所要時間予測部501は所要時間算出部であって、染色ジョブごとにかかる刺繍(後処理)の所要時間を算出する(予測する)。詳しくは、刺繍装置から取得した、ステッチ数と糸線速情報(糸消費速度)を基に、刺繍原稿を出力するために染色ジョブに対応付けられた刺繍の予測所要時間を算出する。
【0104】
ジョブ毎予測刺繍時間記憶部502は、ジョブ毎刺繍所要時間予測部501で予測されたジョブ毎の予測刺繍時間を記憶しておく。
【0105】
メンテナンス後刺繍時間カウント部503は、メンテナンスの実行を起点として、ジョブ毎の予測刺繍時間を呼び出して、メンテナンス実行後に実施される染色ジョブの予測刺繍時間の合計を算出する。これにより、現在の時点における前回メンテナンス実行時点から次回の染色ジョブの終了時点までの、染色ジョブに対応付けられた刺繍の予測所要時間の合計時間を算出する。
【0106】
設定時間記憶部504は、メンテナンス実行の判断の閾値となる設定時間を記憶しておく。
【0107】
第1メンテナンス実行判定部505は、現在の染色ジョブ終了時点で、次の染色ジョブが存在する場合に、前回メンテナンス実行時点から次回の染色ジョブの終了時点までの、染色ジョブに対応付けられた刺繍の予測所要時間の合計時間と、設定時間との比較に基づいて、メンテナンスの実行の可否を判断する。
【0108】
詳しくは、第1メンテナンス実行判定部505では、現在の染色ジョブ終了時点で、前回メンテナンス実行時点から次回の染色ジョブの終了時点までの、染色ジョブに対応付けられた刺繍の予測所要時間の合計時間が設定時間以上の場合に、メンテナンスを実行するように判断する。一方、現在の染色ジョブ終了時点で、前回メンテナンス実行時点から次回の染色ジョブの終了時点までの、染色ジョブに対応付けられた刺繍の予測所要時間の合計時間が設定時間未満の場合に、メンテナンスを実行しないように判断する。
【0109】
さらに、第1メンテナンス実行判定部505は、染色ジョブ群の開始時において、最初の染色ジョブに対応付けられた刺繍の予測所要時間の合計時間が設定時間未満である場合、刺繍の予測所要時間と、吐出ヘッドの吐出後の搬送時間の合計時間を、設定時間と比較する。そして、予測所要時間と吐出後の搬送時間との合計時間と、設定時間との比較結果に基づいて、吐出ヘッド30K~30Yのメンテナンス(起動時メンテナンス)を実行するか否かを判断する。
【0110】
ここでの判断に使用される吐出後の搬送時間は、最も吐出後の搬送時間が長くなる、最上流の吐出ヘッド(例えば、吐出ヘッド30K)の吐出後の搬送距離を用いて算出されると好適である。染色ジョブ群の開始時点において、最初の染色ジョブに対応づけられた刺繍の予測所要時間と吐出後の搬送時間との合計時間が設定時間以上の場合に、メンテナンスを実行するように判断する。一方、最初の刺繍の予測所要時間と吐出後の搬送時間の合計時間が設定時間未満の場合に、メンテナンスを実行しないように判断する。
【0111】
メンテナンス後経過時間カウント部506は、メンテナンスの実行を起点として、現在のジョブ終了タイミングまでの実際の経過時間をカウントする。即ち、前回メンテナンス実行時点から今回の染色ジョブの終了時点までの、実際の刺繍動作に伴って染色動作に要した時間の、1又は複数の染色ジョブの合計時間をカウントする。
【0112】
第2メンテナンス実行判定部507は、前回メンテナンス実行時点から今回の染色ジョブの終了時点までの、実際に要した時間の合計時間と、設定時間との比較に基づいて、メンテナンスの実行の可否を判断する。
【0113】
詳しくは、第2メンテナンス実行判定部507では、前回メンテナンス実行時点からの今回の染色ジョブの終了時点までの、実際に要した時間の合計時間が設定時間を超える場合に、メンテナンスを実行するように判断する。
【0114】
一方、前回メンテナンス実行時点か今回の染色ジョブの終了時点までの、実際に要した時間の合計時間が設定時間未満の場合に、第2メンテナンス実行判定部507は、第1メンテナンス実行判定部505にその旨を通知し、第1メンテナンス実行判定部505におけるメンテナンス実行の判定に移行する。
【0115】
第1メンテナンス実行判定部505及び第2メンテナンス実行判定部507は、吐出ヘッド30K~30Yのメンテナンスを実行するか否かを判断する判定部として機能する。
【0116】
メンテナンス実行指示部508は、第1メンテナンス実行判定部505又は第2メンテナンス実行判定部507においてメンテナンス実行と判定された場合に、空吐出データ挿入部712、ヘッド制御部131K及びヘッド位置制御部702に、メンテナンスの実行を指示する。
【0117】
また、吐出データ編集部710において、空吐出データ挿入部712は、メンテナンス実行指示部508からメンテナンス指示を受けると、空吐出データ記憶部713に記憶されたメンテナンスのための空吐出データを呼び出して、今回の染色ジョブのための染色データと、次の染色ジョブのための染色データとの間に、空吐出データを挿入した吐出データを、ヘッド制御部131Kに出力する。
【0118】
なお、データ処理部701のメンテナンス制御部720における、ヘッド毎手段間距離算出部511、ヘッド毎手段間距離記憶部512、ヘッド毎吐出後搬送所要時間算出部513の機能については、
図14、
図15とともに後述する。
【0119】
<ハードウェア構成例>
次に、
図11を用いて、演算機構17のハードウェア構成について説明する。
図11は、演算機構17の、ハードウェアブロック図の一例である。
【0120】
図11に示すように、データ処理部701では、CPU(Central Processing Unit)61と、FPGA(field-programmable gate array)62と、ROM(Read Only Memory)63と、RAM(Random Access Memory)64と、NV(Non Volatile:不揮発性)RAM65と、インターフェース(I/F)66と、IOインターフェース67とが、メモリバス68を介して接続されている。なお、メモリバス68は、複数のバスに分離されていても良い。
【0121】
演算機構17において、CPU61は、染色装置1の吐出に関する制御を司る。ROM63には、各種情報や制御プログラム等が格納される。RAM64は、各種処理が実行されるときに作業領域として使用される。
【0122】
例えば、CPU61は、RAM64を作業領域として利用して、ROM63に格納された各種の制御プログラムを実行し、染色装置1における各種動作を制御するための制御指令を出力する。この際CPU61は、FPGA62と通信しながら、FPGA62と協働して染色装置1における各種の動作制御を行う。
【0123】
また、FPGA62は、
図10に示す、第1メンテナンス実行判定部505と、第2メンテナンス実行判定部507の機能を実行可能に有している。なお、
図11では1つのFPGA62が設けられている例を示しているが、第1メンテナンス実行判定部505と、第2メンテナンス実行判定部507とをそれぞれを実行する、2つのFPGAが別々に設けられていてもよい。
【0124】
NVRAM65には、装置固有の情報や、更新可能な情報等が格納される。例えば、NVRAM65には、ヘッドの退避及び復帰移動に必要な時間等を予め記憶しておく。なお、NVRAM65は、挿抜可能な形態としてもよい。
【0125】
インターフェース66は、刺繍装置2やホストピュータ等の外部装置(
図22参照)との情報のやり取りを仲介する。IOインターフェース67は、装置内の各部との情報のやり取りを仲介する。IOインターフェース67には、駆動波形生成部133や、操作パネル等の入出力装置や、各種センサ等が接続可能である。各種センサとは、例えば、キャリッジ331の位置を検出するHPセンサ39や、空吐出の必要性の判断に影響を与える温度や湿度等の機器内環境を検出するセンサ等である。
【0126】
本発明の第1実施形態において、メンテナンス後の経過時間のカウントは、FPGA62で行う。この構成により、クライアントPCとして染色データ(元データ)を出力する情報処理装置(
図22参照)と接続する場合であっても、クライアントPC側(レンダリング側)にカウント機能を持たせなくて済み、クライアントPCにおけるレンダリングのソフトに汎用性を出すことができる。
【0127】
なお、
図7、
図10では、演算機構17及びヘッド制御部131K~131Yの全ての機能を染色装置1に設ける例を説明したが、演算機構17及びヘッド制御部131K~131Yの機能の一部又は全部を、刺繍システムと接続されるクライアントPC(
図22の上位制御装置4)が有していてもよい。
【0128】
(制御フロー)
図12は本発明でのメンテナンスを含む染色動作のフローチャートである。
ステップS1で、刺繍ジョブ毎の、刺繍イメージ及び刺繍データを取得して、染色ジョブを作成する。
【0129】
ステップS2で、各染色ジョブの予測刺繍時間を算出する。
【0130】
ステップS3で、前回のメンテナンス時点から最初の染色ジョブの刺繍終了までにかかる時間を算出する。
【0131】
ステップS4で、予測刺繍時間が設定時間以上の場合(Yes)、ステップS6で吐出ヘッドのメンテナンス(起動時メンテナンス)を実行する。メンテナンスの詳細は、
図13又は
図18とともに後述する。
【0132】
一方、予測刺繍時間が刺繍時間未満の場合(S4でNo)、ステップS5へ進み、(予想刺繍時間+吐出後搬送時間)が設定時間以上かどうかを判定する。
【0133】
S5で(予想刺繍時間+吐出後搬送時間)が設定時間以上の場合は(Yes)、ステップS6で、吐出ヘッドのメンテナンス(起動時メンテナンス)を実行する。
【0134】
例えば、1つの布又は布製品に対して実施される、1又は複数の刺繍ジョブを含む、複数の刺繍ジョブ群のうち、最初の刺繍ジョブ群のための染色開始時は、S6の起動時メンテナンスは大抵実施される。
【0135】
一方、同一の布上に対して実施される、刺繍ジョブ群が複数含まれている場合であって、2つ目以降の刺繍ジョブ群を実施する場合は、起動時メンテナンスは不要になることが多い。
【0136】
また、前回の刺繍ジョブ群と今回の刺繍ジョブ群が、1つの布製品における異なる布(例えば、服の前身頃、後身頃、袖、襟等の異なるパーツ)上で実施され、刺繍装置側で布換えが必要になる場合は、布換えの所要時間に応じて起動時メンテナンスが必要になったり、不要になったりする。
【0137】
一方、予測刺繍時間が刺繍時間未満であって(S4でNo)、かつ(予想刺繍時間+吐出後搬送時間)が設定時間未満の場合(S5でNo)は、メンテナンスを実行せずに、ステップS7で、最初の染色ジョブを開始する。染色ジョブの開始とは、染色ジョブを実行して、染色装置1において、刺繍装置2における刺繍動作による糸の消費と連動して糸Nを搬送し、搬送中の糸Nに液滴を吐出して染色を実行することを指す。
【0138】
そして、ステップS8で、実行中の染色ジョブが終了する。
【0139】
ステップS9で、次の染色ジョブがあったら、ステップS10に進む一方、ステップS9で次の染色ジョブがなかったら、フローを終了する。
【0140】
ステップS10で、前回のメンテナンス実行時間の終了時点から次の染色ジョブの刺繍終了までにかかる時間である予測刺繍時間を算出する。
【0141】
ステップS11で、今回のジョブ終了時点で前回のメンテナンス終了時間からの実際の経過時間が、設定時間以上かどうか判定する。ステップS11で実際の経過時間が、設定時間以上の場合(Yes)、ステップS14に進み、メンテナンスを実施する。一方、実際の経過時間が設定時間未満の場合、ステップS12に進む。
【0142】
ステップS12で、前回のメンテナンス終了時点から次の染色ジョブの刺繍終了までにかかる時間である予測刺繍時間を算出する。
【0143】
ステップS13で、予測刺繍時間が、設定時間以上かどうかを判定する。予測刺繍時間が、設定時間以上の場合(Yes)、ステップS14に進み、メンテナンスを実施する。一方、予想刺繍時間が設定時間未満の場合、ステップS15に進む。
【0144】
ステップS11でNoかつ、ステップS13でNoの場合、即ち、実際の経過時間、予測刺繍時間ともに設定時間未満の場合、メンテナンスは実施せずにS15に進み、次の染色ジョブを開始する。
【0145】
その後、次の染色ジョブについて染色ジョブ実行の終了後(S8)は、S9でさらに次の染色ジョブがあるかどうかを判断し、次の染色ジョブがある場合(S9でYes)は、S10~S15、S8を繰り返す。
【0146】
一方、実行中の染色ジョブ終了後、次の染色ジョブがない場合(S9でNo)は、フローを終了する。
【0147】
本フローでは、S7での染色開始前のS3~S4、及びS15での各染色ジョブの開始前のS12~S13で、次の染色ジョブ完了までにかかる時間を参照してメンテナンスを実施するかを判断する。これにより上述の
図9(c)に示すように、メンテナンスの間隔は、設定時間から大きな乖離なく、適切なタイミングに設定され、乾燥による悪影響が発生する前に適宜メンテナンスを実施できる。
【0148】
また、刺繍にかかる時間の予測精度が低かったり、染色ジョブ中に何らかのトラブルが起きたりすると、予測した染色ジョブ終了までの時間と実際に染色ジョブが終了するまでの時間とに大きな乖離が発生し得る。そのためS8で染色ジョブ終了直後のステップS10、S11で、実際にかかった時間からメンテナンスを実施するかを判断するようになっている。
【0149】
このように実際の経過時間と設定時間とを比較した上で、さらに、予測刺繍時間と設定時間とを比較することで、実際のメンテナンスの間隔は、設定時間から大きな乖離なく、適切なタイミングに設定される。これにより、乾燥による悪影響が発生する前に適切にメンテナンスを実施できる。
【0150】
(第1構成例のメンテナンスの詳細フロー)
図13は、本発明の第1構成例に係るメンテナンス実行動作の詳細フローチャートである。
図12のステップS5、S11、S13で、「設定時間以上であり、メンテナンス要」(Yes)と判定されたら、ステップS6(S14)に進み、
図13のフローを開始する。
【0151】
S51で、該当する吐出ヘッド30K~30Yを空吐出可能な位置に移動する。空吐出可能な位置は、染色動作中のノズル列が糸Nと対向する位置から退避した位置である。
【0152】
S52で、そのタイミングで空吐出を実施する該当する吐出ヘッド30K~30Yが、空吐出可能な位置に移動したか判断する。移動したと判断された場合(Yes)はS53へ移行する。移動していないと判断された場合(S52でNo)は、空吐出実行対象となる吐出ヘッド30K~30Yが、所定の空吐出位置に到達するまでヘッド移動を続ける。
【0153】
該当する吐出ヘッド30K~30Yが、空吐出位置に移動したか否かの判断の方法としては、例えばステッピングモータの場合は該当する吐出ヘッド30K~30Yが吐出可能な位置に移動するのに必要な、複数のステッピングモータの所定のパルス数のカウントが完了したかで判断する。または、ヘッド移動モータ314にエンコーダセンサを設け、位相とエンコーダパルス数から算出した移動距離から判断する。あるいは、移動位置にフォトセンサを用意してヘッドにつけたフィラーが移動してフォトセンサを遮光することで判断、などが可能である。
【0154】
空吐出実行対象となる該当する吐出ヘッド30K~30Yが、所定の空吐出位置に到達したことが検知できたら(S52でYes)、S53で、該当する吐出ヘッド30K~30Yで空吐出受けである回収面38への吐出である空吐出を実施する。
【0155】
吐出が完了したら、S54で、空吐出を実施した該当する吐出ヘッド30K~30Yを染色可能な位置に移動する。染色可能な位置は、染色動作を実施するノズル列32aが糸Nと対向する位置である。
【0156】
S55で、空吐出を実施した、該当する吐出ヘッド30K~30Yが染色可能な位置に移動したか判断する。移動していないと判断される場合は(S55でNo)、空吐出を実行した吐出ヘッド30K~30Yが、所定の染色位置に到達するまでヘッド移動を続ける。
【0157】
判断はS52と同様にステッピングモータの所定パルス数のカウントの完了、エンコーダセンサ出力結果から算出した移動距離、フォトセンサの遮光などで判断できる。
【0158】
染色位置に復帰したと判断された場合は(S55でYes)、エンドとして空吐出動作を終了し、
図12のステップS7へ移行して、空吐出が完了したノズル列を用いて、染色ジョブの染色動作を開始する。
【0159】
なお、
図13では、
図12のステップS6におけるメンテナンス動作を説明したが、ステップS14のメンテナンス動作も同様に実施する。
【0160】
(ヘッド毎制御)
図9(c)では、本発明の制御として、比較例とのタイミングの違いを述べるために、染色時間を、算出刺繍時間とメンテナンス実施期間に合わせたタイミングで、時間ずれのない図で説明した。しかし、実際には、
図1に示すように、染色部103と、刺繍ヘッド20は離間しているため、同一ジョブで共通する刺繍イメージの染色・刺繍を実行する際、搬送を考慮して、刺繍ジョブよりも染色ジョブの方がより早いタイミングで実施される。
【0161】
図14は、
図2、
図3に示す、染色部103の複数の吐出ヘッド30K~30Yにおいて、全ノズル同時に糸N上に吐出している様子を示す。
【0162】
図3に示したように、吐出ヘッド30K~30Yにおいて、ノズル列32aは糸Nの搬送方向の真上に、糸Nの搬送方向と同じ向きに並んでいる。そのため、糸Nに対して、各吐出ヘッド30K~30Yの一つのノズル列32a(32aK,32aC,32aM,32aY(
図3参照))において、複数のノズル31から同時に液滴を吐出すると、
図14のように糸N上の搬送方向で異なる位置に同時に液滴を吐出できる。
【0163】
そのため、搬送による糸N上の染色位置を考慮して、吐出ヘッド30K~30Yのそれぞれに適したタイミングで、染色およびメンテナンスが実施できると好適である。
【0164】
刺繍情報取得部16が取得した、染色装置1と刺繍装置2との装置間距離D(
図1参照)を基に、データ処理部701のヘッド毎手段間距離算出部511(
図10参照)は、それぞれの吐出ヘッド30K~30Yと、刺繍装置2の針21の先端との間の手段間距離dk、dc、dm、dy(
図14参照)を算出する。そして、ヘッド毎手段間距離記憶部512は、算出した手段間距離dk、dc、dm、dyを記憶しておく。
【0165】
この手段間距離の算出は、例えば、染色装置1と刺繍装置2の設置レイアウトが変更されたときに実施され、その後、装置の位置が変わらない場合は、記憶された手段間距離dk、dc、dm、dyを呼び出して使用する。
【0166】
ヘッド毎吐出後搬送所要時間算出部513は、手段間距離dk、dc、dm、dyと、搬送制御部703から取得した糸の搬送速度を基に、吐出ヘッド0K,30C,30M,30Yによって液滴が付着した後の、吐出後搬送所要時間Tk、Tc、Tm、Ty(
図15参照)を算出する。吐出後搬送所要時間は、吐出ヘッド0K,30C,30M,30Yのノズルから吐出された液滴が糸Nに付着してから刺繍ヘッド20の針21に到達するまでにかかる時間である。
【0167】
そして、吐出データ編集部710におけるヘッド毎吐出データ出力部714は、夫々の色毎の染色データ及び空吐出データについて、対応する刺繍ジョブに対して吐出後搬送所要時間Tk、Tc、Tm、Tyの分、進めたタイミングで、ヘッド制御部131K~131Yにそれぞれ出力する。
【0168】
図15は、染色ジョブに対応する算出刺繍時間と、実際の刺繍時間と、吐出ヘッドの染色時間を説明する図である。
【0169】
上述のように、夫々の色毎の染色データ及び空吐出データについて、対応する刺繍ジョブに対して吐出後搬送所要時間Tk、Tc、Tm、Tyの分、進めたタイミングで、染色動作及びメンテナンス動作が実施される。
【0170】
このように、吐出後搬送所要時間を算出し、その時間を考慮して、染色実施時間及びメンテナンス実施時間を、刺繍ジョブに対して早めたタイミングに設定することで、吐出ヘッド30K~30Yのヘッド位置から刺繍開始位置(後処理開始位置)が離れている場合でも、適切なタイミングでメンテナンスを実行できる。
【0171】
なお、ここでは吐出ヘッド30K,30C,30M,30Yにおいて、それぞれの色を吐出するノズル列が、搬送方向において、
図14に示すように吐出ヘッド毎に異なる搬送位置に設けられている例を示すが、例えば、搬送方向で同じ位置で、異なる色のインク滴を吐出する構成の場合は、このようにヘッド毎に時間差を設けなくてもよい。
【0172】
さらに、上述の
図12に示すフローのステップS5のように、1又は複数の染色ジョブを含む染色ジョブ群の開始時において、第1メンテナンス実行判定部505は、刺繍の所要時間と吐出後の搬送時間の合計時間と、設定時間との比較結果に基づいて、吐出ヘッドのメンテナンス(起動時メンテナンス)を実行するかを判断する。染色ジョブ群の開始時点で、最初の染色ジョブに対応する刺繍の予測所要時間と吐出後の搬送時間との合計時間が設定時間以上の場合に、メンテナンスを実行するように判断する。一方、刺繍の予測所要時間と吐出後の搬送時間との合計時間が設定時間未満の場合に、メンテナンスを実行しないように判断する。
【0173】
<メンテナンス機構の第2構成例>
上記の構成例では、空吐出動作を実施する際、吐出ヘッドを移動させて糸と対向する位置から退避して空吐出滴を吐出させたが、吐出滴を飛翔中に曲げることで、糸に着弾させずに、液滴を空吐出受けに着弾させてもよい。その構成を、メンテナンスに関する機構の第2構成例として、
図16~
図18を用いて下記説明する。
【0174】
図16は、本発明の第2構成例のメンテナンス機構に係る吐出ヘッド、空吐出受け、及び偏向部の概略構成を示す図である。本構成例では、メンテナンス機構として維持ユニット360と、吐出ヘッド300K内の第1の電極34とを有している。
【0175】
本構成例では、メンテナンス機構として、ノズルから吐出した液滴を飛翔中に曲げる(偏向する)、偏向部40が設けられている。偏向部40は、ノズル31から吐出される液滴の飛翔方向を、糸Nの搬送方向と直交する方向(±Y方向)に偏向する。
【0176】
偏向部40は、例えば、第1の電極34と、第2の電極41と、電圧印加部42とを備える。第1の電極34は接地されており、第2の電極41には、電圧印加部42から電圧が印加される。
【0177】
詳しくは、第1の電極34は、本構成例の吐出ヘッド300Kにおいて、ノズル31を有するノズル列32aと隣接するノズル面330に設けられている。第1の電極34は、ノズル列32aと所定間隔で隣接するように奥行方向の手前側又は奥側に配置されている。
【0178】
第1の電極34は、ノズル列32aの配列方向(
図16中、±X方向)に沿って長い長尺状の板状部材である。このため、第1の電極34は、吐出ヘッド300Kに設けられた、ノズル列32aの全ての複数のノズル31の各々に対して、吐出ヘッド300Kにおける下側のノズル面330において、ノズル列32aの配列方向と直交する方向で隣接するように配置されている。
【0179】
図16に示す例では、第1の電極34は、ノズル列32aよりも奥側(+Y側)に配置されている。なお、第1の電極34は、ノズル列32aより手前側(-Y側)に配置されていてもよく、また、ノズル列32aの配列方向である糸搬送方向(+X側)と直交する方向の両側(±Y側)に配置されていてもよい。
【0180】
第2の電極41は、吐出ヘッド300Kのノズル面330に対して、糸Nを介して向かい合うように配置されている。また、本構成例では、第2の電極41の上には、上面板380が設けられており、上面板380の一部が、空吐出受けとして機能する。
【0181】
電圧印加部42は、偏向制御部705に電気的に接続されており、偏向制御部705の制御によって、第2の電極41に電圧を印加する。
【0182】
第2の電極41に電圧が印加されることで、第2の電極41と第1の電極34との間には、第2の電極41に印加された電圧の電圧値に応じた強度の電界が形成される。一方、ノズル31から吐出される液滴L0は、ノズル31からの飛翔前の状態において、予め定めた極性と電荷量に帯電されている。このため、電界の影響を受けて、ノズル31から吐出される帯電された液滴L0の飛翔方向が偏向される。
【0183】
図16に示す構成例では、第1の電極34は、ノズル31より奥側に配置されている。このため、第1の電極34と第2の電極41との間に電界が形成されることで、ノズル31から吐出される液滴L0の飛翔方向は、糸Nの搬送方向と直交方向である奥側又手前側の±Y方向に偏向される。なお、液滴L0の飛翔方向が+Y方向に偏向するか、-Y方向に偏向するかは、飛翔前に印加される帯電の電荷と、印加する電圧の正負によって決定する。
【0184】
ここで、第1の電極34と第2の電極41との間に電界が形成されていないときに、ノズル31から液滴L0が吐出された場合、吐出された液滴L0は重力によって真下に落下する。この真下に落下する液滴が、ノズル列32aに対向するように延伸している糸Nに付着することで、糸Nの上にドットL1が付着し、糸NにドットL1の成分が浸透することで、糸Nが着色する(染色される)。
【0185】
一方、第1の電極34と第2の電極41との間に電界が形成されているときに、ノズル31から液滴L0が吐出された場合、吐出された液滴L0の落下方向(飛翔方向)が、真下から-Y方向に偏向し、ドットL2が上面板380上に着弾する。本構成例では、電界を発生させることで液滴L0の飛翔方向を糸搬送方向と直交する方向に偏向させて、液滴L0の着弾位置を糸Nからずらして、空吐出受けである上面板380上に着弾させる吐出を、空吐出動作とする。
【0186】
なお、
図16に示す偏向部40は、電界を発生させることで液滴L0の飛翔方向を偏向させて、液滴L0の着弾位置を糸Nからずらして空吐出受け(上面板)380上に着弾させる構成を説明したが、液滴の飛翔を偏向可能な構成であれば、液滴の偏向方法は、限定されない。
【0187】
例えば、偏向部40は、磁界や、風力や、音波などを用いて液滴L0を偏向させる構成であってもよい。また、例えば、ヒータなどの加熱部材をノズル31の直下に複数備えた構成とし、通電するヒータの調整により、偏向方向や偏向量を調整する構成であってもよい。
【0188】
第2構成例では、上面板(空吐出受け)380、第2の電極41、及び電圧印加部42を有する維持ユニット360と、吐出ヘッド300K内の第1の電極34が、吐出ヘッド300Kのためのメンテナンス機構350Kとして機能する。
【0189】
図17は、本発明の第2構成例における染色装置及び刺繍装置の駆動制御に係るブロック図である。第1構成例との差異点のみ説明する。
【0190】
本構成例の制御構成では、演算機構17Aにおいて、ヘッド位置制御部702、キャップ昇降制御部704に代えて、偏向制御部705を有している。
【0191】
偏向制御部705は、データ処理部701で設定されるヘッド毎のメンテナンス実行タイミングに到達したら、偏向部40の第2の電極41に電圧を印加する。そして、第1の電極34と第2の電極41との間に電界を形成した状態で、ヘッド制御部131Kの制御により、予め設定された所定の滴数又は所定時間、液滴を吐出させることで、飛翔進路が変わった空吐出の液滴が、空吐出受けである上面板380に対して着弾する。この空吐出が完了したら、偏向制御部705は、第2の電極41への電圧の印加を停止する。
【0192】
そして、偏向制御部705は、第2の電極41への電界の印加が停止したことをヘッド制御部131Kにフィードバックし、ヘッド制御部131Kは、糸Nへの染色のための吐出動作を再開する。
【0193】
(第2構成例のメンテナンスの詳細フロー)
図18は、本発明の第2構成例に係るメンテナンス実行動作の詳細フローチャートである。第1構成例との相違点を説明する。
図12のステップS5、S11、S13で、「設定時間以上であり、メンテナンス要」(Yes)と判定されたら、ステップS6(S14)に進み、
図18のフローを開始する。
【0194】
S501で、該当する吐出ヘッド300K~300Yの偏向部40K~40Yの第2の電極41に電圧を印加することで、第1の電極34と第2の電極41との間に電界を形成させる。
【0195】
ここでの該当する吐出ヘッドとは
図15のように、対応する刺繍ジョブ間で実行するメンテナンス実行指示に対して、刺繍開始時間から、吐出後搬送所要時間Tk、Tc、Tm、Tyの分、進めたそれぞれのタイミングで、メンテナンスを実行する吐出ヘッド300K~300Yを指す。
【0196】
この状態で、S502で、該当する吐出ヘッド300K~300Yにおいて液滴の吐出を実施する。電界を発生させた状態で、液滴を吐出することで、飛翔中の液滴が偏向し、糸N以外の空吐出受け(上面板380)に着弾させる、空吐出になる。
【0197】
そして、所定の空吐出終了後、S503で、偏向部の第2の電極41の電圧電界印加を終了する。
【0198】
上述の
図13で示した第1構成例のように吐出ヘッドを移動させる構成では、吐出ヘッドの停止位置の精度を向上させるために吐出ヘッドの移動の完了を確認する位置検知制御が必要となる。本構成例では、ヘッド移動がないため、メンテナンス実行の際の着弾位置の調整として、偏向部における電圧の印加のみで済むため位置精度の点で有利となる。さらに、時間がかかる吐出ヘッドの移動が不要のため、メンテナンスの実行時間を短くすることができる。ただし、電界を発生させるための追加の機構が必要となる。
【0199】
そのため、本発明において空吐出動作(メンテナンス)を実施する構成は、用途や構成や装置サイズ等に応じて、適宜、第1構成例、第2構成例を選択すると好適である。
【0200】
<第2実施形態>
図19は、本発明の第2実施形態に係る、前処理液付与機能を有する染色装置が搭載された、刺繍システム3Bの一例の概略図である。
【0201】
本実施形態では、染色装置1Bにおいて、染色部103の染色ヘッドである吐出ヘッド30K~30Yよりも糸Nの搬送方向の上流側に前処理部108が設けられている。
【0202】
前処理部108には、前処理液の液滴を吐出して糸Nに前処理液を付与する吐出ヘッドである前処理ヘッド80が設けられている。前処理液は、糸上で染色用のインク滴を凝集させ、滲みを防ぐための透明の先塗り液である。
【0203】
前処理ヘッド80の構成は、染色部103の吐出ヘッド30K~30Yと同様に、
図2~
図3に示すように、液滴を吐出するノズルが列状に並んだノズル列が並んでおり、ノズル列の配列方向は糸の搬送方向と略同一である。
【0204】
そして、前処理部108においても、ヘッド駆動部は、糸Nの搬送と連動して前処理ヘッド80を駆動させる。
【0205】
図20は、第2実施形態の染色装置において、吐出・メンテナンス制御に係る部分の機能ブロック図である。
【0206】
本実施形態では、刺繍情報取得部16が取得した、染色装置1Bと刺繍装置2との装置間距離D(
図19参照)を基に、データ処理部701の手段間距離算出部521は、前処理ヘッド80と、刺繍装置2の針21の先端との間の手段間距離dpを算出する。そして、手段間距離記憶部522は、算出した手段間距離を記憶しておく。
【0207】
そして、前処理ヘッド吐出後搬送所要時間算出部523は、前処理ヘッド80のノズルから吐出された液滴が糸に付着してから刺繍ヘッド20の針21に到達するまでにかかる時間Tpを算出する。
【0208】
そして、吐出データ編集部710Bにおけるヘッド毎吐出データ出力部714Bは、前処理ヘッドについても、前処理データ及び空吐出データについて、対応する刺繍ジョブに対して吐出後搬送所要時間Tpの分、進めたタイミングで、前処理ヘッド制御部181に出力する。
【0209】
また、前処理判定部524は、刺繍の所要時間と前処理液吐出後の搬送時間との合計時間と、設定時間とを比較し、その比較結果に基づいて、前処理ヘッド80のメンテナンスを実行するか否かを判断する。染色ジョブ群の開始時点で、最初の染色ジョブに対応する刺繍の予測所要時間と前処理ヘッド80の吐出後の搬送時間との合計時間が設定時間以上の場合に、前処理ヘッド80のメンテナンス(起動時メンテナンス)を実行するように判断する。一方、刺繍の予測所要時間と吐出後の搬送時間との合計時間が設定時間未満の場合に、メンテナンスを実行しないように判断する。
【0210】
なお、前処理ヘッド80のメンテナンスの方法としては、
図20では、第1構成例のようにヘッド移動して空吐出を実施する構成を示したが、第2構成例のように、飛翔中の液滴を電界によって曲げて空吐出を実施させてもよい。
【0211】
図21は、染色ジョブに対応する算出刺繍時間と、実際の刺繍時間と、吐出ヘッドの染色時間、前処理液付与時間を説明する図である。
【0212】
夫々の色毎の染色データ及び空吐出データに加えて、前処理ヘッドの前処理データ及び空吐出データについて、対応する刺繍ジョブに対して吐出後搬送所要時間Tk、Tc、Tm、Ty、Tpの分、進めたタイミングで、染色動作、前処理液付与動作及びメンテナンス動作が実施される。
【0213】
図19に示すように前処理部108は、染色部103よりもさらに上流側に設けられているため、
図21に示すように、前処理ヘッド80のメンテナンスの実施タイミングは、吐出ヘッド30K~30Yよりもさらに早いタイミングで実施される。
【0214】
このように、吐出後搬送所要時間を算出し、その時間を考慮して、染色実施時間、前処理液付与実施時間、及びメンテナンス実施時間を、刺繍ジョブに対して早めたタイミングに設定することで、吐出ヘッド30K~30Y、及び前処理ヘッド80のヘッド位置から刺繍開始位置(後処理開始位置)が離れている場合でも、適切なタイミングでメンテナンスを実行できる。
【0215】
このような制御により、前処理液が必要な場合でも、適切なタイミングでメンテナンスを実行できる。
【0216】
さらに、本実施形態では、上述の
図12に示すフローの染色ジョブ群の開始時のステップS5のタイミングにおいて、刺繍の所要時間と前処理ヘッド80の吐出後の搬送時間の合計時間と設定時間との比較結果に基づいて、前処理ヘッド80のメンテナンスを実行するか否かを判断することができる。
【0217】
<第3実施形態>
図22は、本発明の第3実施形態に係る、上位制御装置を有する、刺繍システムの一例の概略図である。本実施形態では、システム1000は、刺繍システム3Cの構成に加えて、上位制御装置4を有している。
【0218】
図23は、第3実施形態に係る、吐出・メンテナンス制御に係る部分の機能ブロック図である。
図23の制御構成では、
図10に示す機能ブロックと比較して、上位制御装置4において、染色装置1の演算機構17における吐出データ編集部710とメンテナンス制御部720の一部の機能、及び刺繍装置2の演算機構25の一部の機能を実施させている。なお、
図10と名称が同じ部材は機能が同じのため、説明は適宜割愛する。
【0219】
上位制御装置4は、入力部410と、刺繍データ作成部420と、吐出データ編集部430と、メンテナンス制御部440と、を有している。
【0220】
刺繍イメージ取得部である、入力部410は、例えば外部機器との通信部又は操作パネルであって、刺繍データの元となる刺繍イメージ(刺繍ファイル)を取得して、刺繍データ作成部420及び吐出データ編集部430に出力する。
【0221】
刺繍データ作成部420は、刺繍イメージに基づいて、刺繍データを作成する。
【0222】
吐出データ編集部430は、ジョブ毎染色データ作成部431と、空吐出データ挿入部432と、空吐出データ記憶部433と、ヘッド毎吐出データ出力部434とを有しており、染色装置1の吐出データ編集部710と同様の機能を有している。吐出データ編集部430は、刺繍イメージを基に染色データを作成し、場合に応じて染色ジョブ間にメンテナンスデータを挿入した吐出データを、ヘッド制御部131Kに出力する。
【0223】
メンテナンス制御部440は、ジョブ毎刺繍所要時間予測部441と、ジョブ毎予測刺繍時間記憶部442と、メンテナンス実行後予測刺繍時間カウント部443と、設定時間記憶部444と、第1メンテナンス実行判定部445と、メンテナンス実行後経過時間カウント部446と、第2メンテナンス実行判定部447と、メンテナンス実行指示部448と、ヘッド毎手段間距離算出部451と、手段間距離記憶部452と、ヘッド毎吐出後搬送所要時間算出部453を実行可能に有している。
【0224】
上位制御装置4では、同一の装置内に、刺繍に係る刺繍データ作成部420と、染色に係る吐出データ編集部430と、メンテナンス制御部440と、を有しているため、刺繍におけるステッチ数や糸線速情報のやりとりのための取得部や通信部は不要となる。
【0225】
このような構成の刺繍システム3Cでは、上位制御装置4は刺繍データを作成し、刺繍データを刺繍装置2Cに伝達する。そして、刺繍装置2Cはステッチ数と、糸線速情報(刺繍の現在刺繍位置の情報)を上位制御装置4に伝達する。また、染色装置1Cは上位制御装置4から染色データと糸搬送速度の情報を受け取り、メンテナンス実施タイミングを設定するための、染色ジョブの終了タイミングの情報を上位制御装置4に伝達する。
【0226】
本システムにおいても、
図12に示したように実際の経過時間と設定時間とを比較した上で、さらに、予測刺繍時間と設定時間とを比較することで、実際のメンテナンスの間隔は、設定時間から大きな乖離なく、適切なタイミングに設定される。これにより、乾燥による悪影響が発生する前に適切に染色部の吐出ヘッドのメンテナンスを実施できる。
【0227】
<第4実施形態>
図24は、本発明の第4実施形態に係る、一体型の染色・刺繍装置の一例の側面概略図である。本実施形態に係る染色・刺繍装置5は、インライン型の染色・刺繍装置であり、染色ユニット100と、刺繍ユニット110と、を備えている。
【0228】
本実施形態では、同一の装置内において、染色ユニット100と、刺繍ユニット110が設けられているため、
図7に示した演算機構17、25の機能を、1つの演算装置にまとめることができる。
【0229】
以上により、本発明の好ましい実施形態及び実施例について説明したが、本発明は、上述した実施形態及び実施例に制限されるものではない。また、本発明は、添付の特許請求の範囲に照らし、種々に変形又は変更することが可能である。
【符号の説明】
【0230】
1,1A,1B,1C 染色装置
2 刺繍装置
3,3B,3C 刺繍システム
4 上位制御装置
5 染色・刺繍装置
20 刺繍ヘッド(刺繍手段)
21 針
22 下糸回転体
23 ステージ
24 刺繍データ作成部
25 演算機構
26 ステッチセンサ
27 駆動ドライバ
30K,30C,30M,30Y 吐出ヘッド(染色ヘッド)
31 ノズル
32a,32b ノズル列
33 ノズル面
35 メンテナンス機構
36K,36C,36M,36Y 維持ユニット
37K,37C,37M,37Y キャップ
38 回収面(空吐出受け)
301 ヘッドドライバ
302 圧電素子(圧力発生手段)
310 ヘッド移動手段
34 第1の電極
40 偏向部
41 第2の電極
42 電圧印加部
80 吐出ヘッド(前処理ヘッド)
100 染色ユニット
102 搬送機構
103 染色部
108 前処理部
110 刺繍ユニット
380 上面板(空吐出受け)
430 吐出データ編集部
440 メンテナンス制御部
501,441 ジョブ毎刺繍所要時間予測部
502,442 ジョブ毎予測刺繍時間記憶部
503,443 メンテナンス後刺繍時間カウント部
504,444 設定時間記憶部
505,445 第1メンテナンス実行判定部
506,446 メンテナンス後経過時間カウント部
507,447 第2メンテナンス実行判定部
508,448 メンテナンス実行指示部
511,451 ヘッド毎手段間距離算出部
512,452 ヘッド毎手段間距離記憶部
513,453 ヘッド毎吐出後搬送所要時間算出部
521 手段間距離算出部
522 手段間距離記憶部
523 前処理ヘッド吐出後搬送所要時間算出部
710 吐出データ編集部
720 メンテナンス制御部
B 下糸
C 布
N 上糸
【先行技術文献】
【特許文献】
【0231】