(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】セメント原料の製造方法及びバイオマス燃焼灰からのアルカリ金属除去方法
(51)【国際特許分類】
C04B 7/60 20060101AFI20241210BHJP
B09B 3/40 20220101ALI20241210BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20241210BHJP
B09B 5/00 20060101ALI20241210BHJP
C04B 7/38 20060101ALI20241210BHJP
B09B 101/30 20220101ALN20241210BHJP
【FI】
C04B7/60
B09B3/40
B09B3/70
B09B5/00 N
C04B7/38
B09B101:30
(21)【出願番号】P 2021062009
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小澤 聡
(72)【発明者】
【氏名】大石 千幸
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-157230(JP,A)
【文献】特開2020-158321(JP,A)
【文献】特開平07-214029(JP,A)
【文献】特開平11-347515(JP,A)
【文献】特開2020-168590(JP,A)
【文献】特開2000-024624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-7/60
B09B 1/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属及びアルカリ土類金属を含むバイオマス燃焼灰と塩素含有物とを混合して混合物を生成する工程と、
前記混合物を加熱して、アルカリ金属塩化物及びアルカリ土類金属塩化物を生成する工程と、
加熱後の前記混合物と水とを混合して懸濁液を生成し、前記アルカリ金属塩化物及び前記アルカリ土類金属塩化物を前記懸濁液に溶出させる工程と、
該懸濁液を固液分離して、ケーキをセメント原料として回収する工程とを含み、
前記バイオマス燃焼灰に含まれる前記アルカリ金属のモル当量及び前記アルカリ土類金属のモル当量の合計をA、前記塩素含有物中の塩素のモル当量をBとしたときに、モル
当量比B/Aが0.5以上1.5以下の範囲内となるように、前記バイオマス燃焼灰に前記塩素含有物を添加する、セメント原料の製造方法。
【請求項2】
二酸化炭素を含有するガス中で、前記バイオマス燃焼灰と前記塩素含有物とを混合する、請求項1に記載のセメント原料の製造方法。
【請求項3】
二酸化炭素を含有するガスを、前記懸濁液に供給して攪拌する、請求項
1に記載のセメント原料の製造方法。
【請求項4】
前記混合物を200℃以上650℃未満で加熱する、請求項1~3のいずれか1項に記載のセメント原料の製造方法。
【請求項5】
前記混合物を200℃以上600℃以下で加熱する、請求項1~3のいずれか1項に記載のセメント原料の製造方法。
【請求項6】
アルカリ金属及びアルカリ土類金属を含むバイオマス燃焼灰と塩素含有物とを混合して混合物を生成する工程と、
前記混合物を加熱して、アルカリ金属塩化物及びアルカリ土類金属塩化物を生成する工程と、
加熱後の前記混合物と水とを混合して懸濁液を生成し、前記アルカリ金属塩化物及び前記アルカリ土類金属塩化物を前記懸濁液に溶出させる工程と、
該懸濁液を固液分離する工程とを含み、
前記バイオマス燃焼灰に含まれる前記アルカリ金属のモル当量及び前記アルカリ土類金属のモル当量の合計をA、前記塩素含有物中の塩素のモル当量をBとしたときに、モル
当量比B/Aが0.5以上1.5以下の範囲内となるように、前記バイオマス燃焼灰に前記塩素含有物を添加する、バイオマス燃焼灰からのアルカリ金属除去方法。
【請求項7】
二酸化炭素を含有するガス中で、前記バイオマス燃焼灰と前記塩素含有物とを混合する、請求項6に記載のアルカリ金属除去方法。
【請求項8】
二酸化炭素を含有するガスを、前記懸濁液に供給して攪拌する、請求項
6に記載のアルカリ金属除去方法。
【請求項9】
前記混合物を200℃以上650℃未満で加熱する、請求項6~8のいずれか1項に記載のアルカリ金属除去方法。
【請求項10】
前記混合物を200℃以上600℃以下で加熱する、請求項6~8のいずれか1項に記載のアルカリ金属除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスの燃焼で発生するバイオマス燃焼灰からアルカリ金属成分を除去する方法、及び、バイオマス燃焼灰からアルカリ金属成分を除去することによりセメント原料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能資源として、木質バイオマスが注目されている。木質バイオマスを発電用燃料として用いることにより、化石燃料を用いる場合に比べて二酸化炭素の排出量を削減することができる。木質バイオマスの燃焼により発生する燃焼灰(主灰、飛灰等)はアルカリ土類金属成分(主に、Mg、Caを含む成分)を含むことから、近年、セメント原料等などに有効利用されている。
【0003】
しかしながら、木質バイオマス由来の燃焼灰(以下、「バイオマス燃焼灰」と称する)中には、多量のアルカリ金属成分(Na、Kなどを含む成分)が含まれる。バイオマス燃焼灰をセメント原料に用いた場合に、アルカリ金属はセメント焼成やセメント品質に悪影響を及ぼす可能性がある。このため、バイオマス燃焼灰の利用にあたっては、アルカリ金属をあらかじめ除去しておく必要がある。
【0004】
バイオマス燃焼灰からアルカリ金属を除去する方法が、種々検討されている。特許文献1には、アルカリ金属除去方法として、アルカリ金属含有物と塩素含有物とを所定のモル比で混合し、該混合物を650℃以上1000℃以下で加熱することにより、アルカリ金属塩化物を形成させる工程、加熱処理物をスラリー化してアルカリ金属塩化物を液相中に溶出させる工程、及び、溶出後に固液分離してアルカリ金属成分が除去されたケーキを得る工程が開示されている。特許文献2には、バイオマス燃焼灰を、二酸化炭素を含む水で処理することにより、アルカリ長石や斜長石などの難溶性のアルカリ含有鉱物を分解除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020―157230号公報
【文献】特開2020―158321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される方法では、アルカリ金属の除去が不十分であった。このため、得られるケーキをセメント原料に用いる場合には、残存するアルカリ金属がセメントの製造や品質に影響を及ぼす懸念があった。
【0007】
特許文献2に開示される方法では、難溶性のアルカリ含有鉱物の除去には効果があるものの、その他の形態で存在するアルカリ金属の除去は考慮されていない。このため、特許文献2に開示される方法でバイオマス燃焼灰を処理した場合でも、アルカリ金属が残存することが問題となっていた。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、バイオマス燃焼灰から効率的にアルカリ金属を除去する方法を提供する。また本発明は、バイオマス燃焼灰から効率的にアルカリ金属を除去することにより、バイオマス燃焼灰からセメント原料を製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが検討したところ、特許文献1の実施例の結果から見積もられるアルカリ金属塩化物の生成(すなわち、アルカリ金属の除去)に寄与した塩素量は、塩素含有物の添加量に対して低いことが判った。バイオマス燃料灰と塩素含有物と混合して加熱することにより、アルカリ土類金属(主に、Mg、Ca)が塩素と反応して、アルカリ土類金属塩化物も同時に生成する。しかしながら、特許文献1の方法では上記アルカリ土類金属塩化物の生成が全く考慮されていないため、結果としてアルカリ金属の除去が不十分となった、と考えられた。
【0010】
そこで本発明者らが検討した結果、下記[1]~[10]により、上記課題を解決することを見出した。
[1] アルカリ金属及びアルカリ土類金属を含むバイオマス燃焼灰と塩素含有物とを混合して混合物を生成する工程と、前記混合物を加熱して、アルカリ金属塩化物及びアルカリ土類金属塩化物を生成する工程と、加熱後の前記混合物と水とを混合して懸濁液を生成し、前記アルカリ金属塩化物及び前記アルカリ土類金属塩化物を前記懸濁液に溶出させる工程と、該懸濁液を固液分離して、ケーキをセメント原料として回収する工程とを含み、前記バイオマス燃焼灰に含まれる前記アルカリ金属のモル当量及び前記アルカリ土類金属のモル当量の合計をA、前記塩素含有物中の塩素のモル当量をBとしたときに、モル等量比B/Aが0.5以上1.5以下の範囲内となるように、前記バイオマス燃焼灰に前記塩素含有物を添加する、セメント原料の製造方法。
[2] 二酸化炭素を含有するガス中で、前記バイオマス燃焼灰と前記塩素含有物とを混合する、[1]に記載のセメント原料の製造方法。
[3] 前記二酸化炭素を含有するガスを、前記懸濁液に供給して攪拌する、[1]または[2]に記載のセメント原料の製造方法。
[4] 前記混合物を200℃以上650℃未満で加熱する、[1]~[3]のいずれかに記載のセメント原料の製造方法。
[5] 前記混合物を200℃以上600℃以下で加熱する、[1]~[3]のいずれかに記載のセメント原料の製造方法。
【0011】
[6] アルカリ金属及びアルカリ土類金属を含むバイオマス燃焼灰と塩素含有物とを混合して混合物を生成する工程と、前記混合物を加熱して、アルカリ金属塩化物及びアルカリ土類金属塩化物を生成する工程と、加熱後の前記混合物と水とを混合して懸濁液を生成し、前記アルカリ金属塩化物及び前記アルカリ土類金属塩化物を前記懸濁液に溶出させる工程と、該懸濁液を固液分離する工程とを含み、前記バイオマス燃焼灰に含まれる前記アルカリ金属のモル当量及び前記アルカリ土類金属のモル当量の合計をA、前記塩素含有物中の塩素のモル当量をBとしたときに、モル等量比B/Aが0.5以上1.5以下の範囲内となるように、前記バイオマス燃焼灰に前記塩素含有物を添加する、バイオマス燃焼灰からのアルカリ金属除去方法。
[7] 二酸化炭素を含有するガス中で、前記バイオマス燃焼灰と前記塩素含有物とを混合する、[6]に記載のアルカリ金属除去方法。
[8] 前記二酸化炭素を含有するガスを、前記懸濁液に供給して攪拌する、[6]または[7]に記載のアルカリ金属除去方法。
[9] 前記混合物を200℃以上650℃未満で加熱する、[6]~[8]のいずれかに記載のアルカリ金属除去方法。
[10] 前記混合物を200℃以上600℃以下で加熱する、[6]~[8]のいずれかに記載のアルカリ金属除去方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、バイオマス燃焼灰から効率的にアルカリ金属を除去することができる。本発明により得られる処理物(バイオマス燃焼灰)は、アルカリ金属の濃度が十分に低減されているため、セメント原料に利用した場合にセメントの品質等への影響を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のセメント原料の製造方法、及び、バイオマス燃焼灰からのアルカリ金属除去方法について、詳細に説明する。
【0014】
[セメント原料の製造方法]
本発明のセメント原料の製造方法は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属を含むバイオマス燃焼灰と塩素含有物とを混合して混合物を生成する工程と、前記混合物を加熱して、アルカリ金属塩化物及びアルカリ土類金属塩化物を生成する工程と、加熱後の前記混合物と水とを混合して懸濁液を生成し、前記アルカリ金属塩化物及び前記アルカリ土類金属塩化物を前記水に溶出させる工程と、該懸濁液を固液分離して、ケーキをセメント原料として回収する工程とを含み、前記バイオマス燃焼灰に含まれる前記アルカリ金属のモル当量及び前記アルカリ土類金属のモル当量の合計をA、前記塩素含有物中の塩素のモル当量をBとしたときに、モル等量比B/Aが0.5以上1.5以下の範囲内となるように、前記バイオマス燃焼灰に前記塩素含有物を添加する方法である。
【0015】
[バイオマス燃料灰からのアルカリ金属除去方法]
本発明のバイオマス燃焼灰からのアルカリ金属除去方法は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属を含むバイオマス燃焼灰と塩素含有物とを混合して混合物を生成する工程と、前記混合物を加熱して、アルカリ金属塩化物及びアルカリ土類金属塩化物を生成する工程と、加熱後の前記混合物と水とを混合して懸濁液を生成し、前記アルカリ金属塩化物及び前記アルカリ土類金属塩化物を前記水に溶出させる工程と、該懸濁液を固液分離する工程とを含み、前記バイオマス燃焼灰に含まれる前記アルカリ金属のモル当量及び前記アルカリ土類金属のモル当量の合計をA、前記塩素含有物中の塩素のモル当量をBとしたときに、モル等量比B/Aが0.5以上1.5以下の範囲内となるように、前記バイオマス燃焼灰に前記塩素含有物を添加する方法である。
【0016】
<バイオマス燃焼灰>
本発明で処理対象となるバイオマス燃料灰は、木質バイオマスを焼却して得られる主灰、飛灰、混合灰等である。バイオマス燃焼灰は、木質バイオマスを燃料とする発電所などから排出される。木質バイオマスとしては、伐採樹木、林地残材、木質チップ、建築廃材、製材端材等が挙げられる。
【0017】
バイオマス燃焼灰は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属を含む。本発明のバイオマス燃焼灰には、アルカリ金属として主としてNa及びKが含まれる。本発明において、「アルカリ土類金属」とは、Mg、Ca、Sr、Baを指す。このうち、本発明におけるバイオマス燃焼灰には、アルカリ土類金属として主としてMg及びCaが含まれる。バイオマス燃焼灰中のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の含有率は、蛍光X線分析により測定することができる。
【0018】
アルカリ金属及びアルカリ土類金属は、バイオマス燃焼灰中で、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩などの形態で含まれる。アルカリ金属ケイ酸塩としては、正長石や微斜長石などのアルカリ長石、曹長石などの斜長石、準長石などの鉱物として含まれる。これらの鉱物は、水に対して難溶性である。「水に対して難溶性」とは、水に対する溶解が1質量%未満であることを意味する。本明細書では、バイオマス燃焼灰に含まれ、水に対して難溶性であるアルカリ金属含有鉱物を、「難水溶性鉱物」と称する。
【0019】
バイオマス燃焼灰中の難水溶性鉱物は、X線回折分析により同定することができる。バイオマス燃焼灰中の難水溶性鉱物の含有率は、X線回折分析で得られる回折パターンをリートベルト解析することによって得ることができる。
【0020】
<塩素含有物>
本発明で用いられる塩素含有物中の塩素含有率は、0.2質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。アルカリ金属の効率的な除去の観点では、塩素含有物中の塩素含有率は、4質量%以上であることが更に好ましい。塩素含有物中の塩素含有率は、蛍光X線分析法、あるいは、微量電量滴定式酸化法により測定することができる。本発明で用いられる塩素含有物は、アルカリ金属の含有率が低いものであることが好ましい。具体的に、塩素含有物中のアルカリ金属の含有率は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。また、塩素含有物中のアルカリ金属の含有率は、塩素含有量よりも少ないことが好ましい。
【0021】
塩素含有物としては、塩化第一鉄などの金属塩化物;塩化アンモニウムなどの含塩素アンモニウム塩;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、クロロプレン系合成ゴム、クロロメチル化ポリスチレン、塩素化ポリオレフィン等の塩素含有樹脂;工場設備から排出される塩素含有ダスト、などが挙げられる。塩素含有樹脂は、廃棄物であっても良い。
塩素含有ダストとしては、例えば、自動車シュレッターダスト(ASR)、ペーパースラッジ灰(PS灰)、電気集塵機捕集灰(EP灰)、高炉2次灰、廃棄物固形燃料(RPF)燃焼灰を用いることができる。塩素含有ダストを塩素含有物として用いることにより、廃棄物を有効利用でき、環境負荷を低減することが可能となる。更に、塩素含有ダストの場合、主にダスト表面に塩素が凝縮しているため、バイオマス燃焼灰中のアルカリ金属及びアルカリ土類金属と反応しやすいとの利点がある。塩素含有ダストの中でも、塩素含有率が高い自動車シュレッターダストを用いることが特に好ましい。
金属塩化物や含塩素アンモニウム塩などの工業原料を塩素含有物に用いることは、セメント原料中に混入する不純物を低減させ、セメント品質への影響を抑制できる点で有利である。
【0022】
以下、セメント原料の製造方法及びアルカリ金属の除去方法の各工程を説明する。
<準備工程>
処理が施されるバイオマス燃料灰は、事前に成分が分析され、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の各含有率が測定されている。アルカリ金属及びアルカリ土類金属の各含有率は、後述の処理を行う前に測定されても良い。あるいは、排出設備からの受け入れロット毎に、各含有率が測定されていても良い。
【0023】
また、処理が施されるバイオマス燃焼灰について、事前に難水溶性鉱物の有無、及び、鉱物の含有率が測定されていても良い。各鉱物の含有率は、同様に、後述の処理を行う前に測定されていても良く、排出設備からの受け入れロット毎に測定された値が用いられても良い。
【0024】
処理が施されるバイオマス燃焼灰は、予め粉砕されていても良い。バイオマス燃焼灰の粒径を小さくすることにより、後述する混合工程において塩素含有物との接触面積及び接触確率を高めることができる。また、後述する溶出工程において塩化物を水に溶出させやすくすることができる。この結果、バイオマス燃焼灰からのアルカリ金属の除去効果を高めることができる。アルカリ金属の除去率を高める観点では、処理が施されるバイオマス燃焼灰は、粒径が3mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましく、0.5mm以下であることが更に好ましい。なお、処理が施されるバイオマス燃焼灰は、発塵抑制及び飛散抑制の観点から、粒径は0.1mm以上であることが好ましい。バイオマス燃焼灰の粉砕方法は、ハンマークラッシャー、ロールクラッシャーなど、公知の粉砕方法を採用することができる。処理が施されるバイオマス燃焼灰の粒径は、JIS Z 8801-1:2019「試験用ふるい-第1部:金属製網ふるい」に規定されている所定の目開きの篩を用いて、篩下の燃焼灰を回収して処理対象とすることにより調整することができる。
【0025】
塩素含有物は、バイオマス燃焼灰との接触面積及び接触確率を高め、アルカリ金属の除去率を高める観点から、予め粒度調整されたものであっても良い。塩素含有物は、粒径が2mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましく、0.1mm以下であることが更に好ましい。なお、塩素含有物は、ハンドリングの観点から、粒径は0.01mm以上であることが好ましい。また、アルカリ金属の除去効率との観点では、塩素含有物の粒径は、バイオマス燃焼灰の粒径よりも小さいことが特に好ましい。塩素含有物の粒度調整方法としては、ハンマーミル、ボールミル、ジェットミルなど、公知の方法による粉砕と、分級とを組み合せることができる。分級方法としては、JIS Z 8801-1:2019「試験用ふるい-第1部:金属製網ふるい」に規定されている篩を用いることができ、所定の目開きの篩下の塩素含有物を回収して処理に用いることができる。
【0026】
<混合工程>
本工程では、バイオマス燃焼灰と塩素含有物とを混合し、混合物を生成する。本発明では、バイオマス燃焼灰に含まれるアルカリ金属のモル当量及びアルカリ土類金属のモル当量の合計をA、塩素含有物中の塩素のモル当量をBとしたときに、モル当量比B/Aが0.5以上1.5以下の範囲内となるように、バイオマス燃焼灰に塩素含有物を添加して混合する。モル当量比B/Aが0.5未満である場合、アルカリ金属の塩素化に寄与する塩素量が少なくなるため、アルカリ金属の除去が不十分となるため好ましくない。モル当量比B/Aが1.5を超えると、相対的に塩素量が多くなるため、ケーキ中への塩素残存量が高くなる。モル当量比B/Aは、0.60以上であることが好ましく、0.70以上であることがより好ましく、1.4以下であることが好ましく、1.3以下であることがより好ましい。
【0027】
バイオマス燃焼灰と塩素含有物との混合手段は、特に限定されず、ボールミル、ロッドミル等を用いて行うことができる。本工程において、バイオマス燃焼灰及び塩素含有物を混合と同時に粉砕しても良い。この場合、バイオマス燃焼灰及び塩素含有物は、粒径が好ましくは2mm以下、より好ましくは1mm以下に粉砕される。なお、飛散防止等の観点から、バイオマス燃焼灰及び塩素含有物は、粒径が0.01mm以上となるように混合粉砕されることが好ましい。混合時間は特に限定されず、上記の混合手段を用いる場合に一般に採用し得る範囲で、適宜設定することができる。
【0028】
バイオマス燃焼灰中の難水溶性鉱物の含有割合が高い場合(例えば5質量%以上である場合)、二酸化炭素を含有するガス中でバイオマス燃焼灰と塩素含有物とを混合することが好ましい。二酸化炭素を含むガス雰囲気中で混合することにより、バイオマス燃焼灰中の難水溶性鉱物を二酸化炭素と反応させて分解し、後述する溶出工程において懸濁液中に分解物を溶出させることができる。この結果、アルカリ金属の除去率を更に高めることができる。
【0029】
本工程における「二酸化炭素を含有するガス」とは、大気よりも二酸化炭素濃度が高いガスを指す。具体的には、二酸化炭素を5体積%以上含むガスである。当該ガス中の二酸化炭素濃度は、難水溶性鉱物の分解を考慮すると、10体積%以上であることがより好ましく、15体積%以上であることが更に好ましい。当該ガス中の二酸化炭素濃度の上限には特に制限はない。使用するガス中の二酸化炭素濃度は、難水溶性鉱物の含有量及び混合時間を考慮して設定することができる。当該ガスの製造で二酸化炭素と混合する気体の種類は特に制限されないが、大気、酸素、または、窒素であることが好ましい。
【0030】
<加熱工程>
本工程では、バイオマス燃焼灰と塩素含有物との混合物を加熱する。この工程により、バイオマス燃焼灰中のアルカリ金属及びアルカリ土類金属と、塩素含有物中の塩素が反応し、アルカリ金属塩化物(例えば、NaCl、KCl)、及び、アルカリ土類金属塩化物(例えば、CaCl2、MgCl2)が生成する。アルカリ金属塩化物の方が、アルカリ土類金属塩化物よりも生成しやすい。本発明では、モル当量比B/Aが0.5以上1.5以下の範囲内としているため、アルカリ土類金属を含むバイオマス燃焼灰でも、アルカリ金属との反応に十分な塩素量を確保されている。
本発明では、加熱をしながら、バイオマス燃焼灰と塩素含有物との混合が更に行われていても良い。
【0031】
アルカリ金属塩化物及びアルカリ土類金属塩化物の生成を効率的に行う観点から、加熱温度は200℃以上であることが好ましい。なお、加熱温度が高すぎると、加熱中に混合物から塩素成分が揮発し、反応物が塊状になる場合がある。反応物が塊状化すると、後述する溶出工程において、塩化物等が懸濁液中に溶出しにくくなり、ケーキ中へのアルカリ金属成分の残留量及び塩素成分の残留量が多くなる虞がある。反応物の塊状化を抑制する観点から、加熱温度は650℃未満であることが好ましい。省エネルギー、及び、加熱工程における環境負荷低減(二酸化炭素排出量の削減など)の観点から、加熱温度はより低いことが好ましく、具体的には600℃以下とすることが有利である。
【0032】
加熱手段としては、ロータリーキルン、流動床炉、トンネル炉など、公知の手段を採用することができる。加熱時間は、加熱温度、塩化物生成反応の進行状況、処理効率などを考慮して、適宜設定することができる。
【0033】
<溶出工程>
本工程では、加熱後の混合物(加熱処理物)を水と混合し、懸濁液を生成する。この工程により、加熱処理物中のアルカリ金属塩化物及びアルカリ土類金属塩化物を懸濁液中に溶出させる。アルカリ金属塩化物(例えば、NaCl、KCl)は、水に対する溶解度が大きいため、固形分である加熱処理物からアルカリ金属成分を効果的に除去することができる。
溶出工程において、懸濁液を攪拌することが好ましい。溶出工程の条件は特に制限されないが、溶出効率、省エネルギー、処理コストなどを考慮して設定することが好ましい。具体的に、懸濁液温度が10℃以上50℃以下、溶出時間は1時間以上80時間以下の範囲内で設定することが好ましい。本工程で添加する水の量は特に制限されない。ただし、懸濁液の攪拌のしやすさ、後述の固液分離工程で生成する排液量などを考慮すると、加熱処理物と水との体積比(加熱処理物/水)は、1/3以上1/10以下の範囲内であることが好ましい。
【0034】
バイオマス燃焼灰中の難水溶性鉱物の含有割合が高い場合(例えば5質量%以上である場合)、溶出工程において、二酸化炭素を含むガスを懸濁液に供給して攪拌することが好ましい。二酸化炭素を含むガスを懸濁液に供給することにより、二酸化炭素の一部が懸濁液に溶解する。懸濁液中に二酸化炭素が存在することにより、加熱処理物中の難水溶性鉱物が分解し、懸濁液中に溶出させることができる。この結果、アルカリ金属の除去効率を更に高めることができる。
【0035】
本工程における「二酸化炭素を含有するガス」とは、大気よりも二酸化炭素濃度が高いガスであり、具体的には、二酸化炭素を5体積%以上含むガスである。当該ガス中の二酸化炭素濃度の上限には特に制限はない。ガス中の二酸化炭素濃度が高い方が、懸濁液に溶解する二酸化炭素量が増加し、難水溶性鉱物の分解効率を高めることができる。当該ガス中の二酸化炭素濃度は、10体積%以上であることがより好ましく、15体積%以上であることが更に好ましい。当該ガス中の二酸化炭素濃度の上限には特に制限はない。使用するガス中の二酸化炭素濃度は、難水溶性鉱物の含有量及び混合時間を考慮して設定することができる。当該ガスの製造で二酸化炭素と混合する気体の種類は特に制限されないが、大気、酸素、または、窒素であることが好ましい。
【0036】
<分離工程、回収工程>
本工程では、溶出工程後の懸濁液を固液分離する。分離により得られるケーキ(固相)は、処理後のバイオマス燃焼灰である。ケーキは、セメント原料として回収される。
分離手段としては特に制限されず、フィルタープレス、スクリュープレス、ベルトプレス等を用いることができる。分離により得られるケーキは、必要に応じて乾燥されても良い。
【0037】
[セメント原料]
上記の分離及び回収により得られるケーキは、処理前のバイオマス燃焼灰と比較して、アルカリ金属含有量が低減されている。また、ケーキ中に含まれる塩素含有量も低いものとなっている。具体的に、ケーキ中のアルカリ量(JIS R 5210:2019「ポルトランドセメント」に準拠して算出される全アルカリ量R2O)は、好ましくは3.20質量%以下、より好ましくは2.70質量%以下である。ケーキ中のNa2O及びK2O含有量は、蛍光X線分析により測定される。また、蛍光X線分析により測定される、ケーキ中の塩素の含有量は、好ましくは0.10質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下である。上記全アルカリ量及び塩素含有量は、バイオマス燃焼灰をセメント原料として利用した場合に、セメント品質上問題ないとされる量である。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
バイオマス燃焼灰として、バイオマス発電所から回収された、木質チップ燃料の燃焼灰を用いた。用いたバイオマス燃焼灰の化学組成を、表1に示す。バイオマス燃焼灰の化学組成は、JIS R 5204:2019「セメントの蛍光X線分析方法」に準拠して測定した。表1中、「R2O」は、JIS R 5210:2019「ポルトランドセメント」に規定されている全アルカリ量を表す。
用いたバイオマス燃焼灰の体積基準の50%粒径(D50)は0.27mmであった。粒径の測定には、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-3100、(株)島津製作所製)を用いた。分散媒としてエタノールを用い、超音波分散を10分間行った後、測定した。
【0039】
【0040】
塩素含有物として、塩化アンモニウム(関東化学社製、特級)を用いた。塩素含有物の体積基準の50%粒径(D50)は0.08mmであった。塩素化合物の粒径の測定は、バイオマス燃焼灰の粒径測定と同様にして行った。
【0041】
[試験1]
バイオマス燃焼灰及び塩化アンモニウムを、表2に示すモル当量比B/Aとなるように秤量した。本実施例において、モル当量Aはバイオマス燃焼灰中のNa,K,Mg,Caのモル当量の合計であり、表1の化学組成から計算した。モル当量Bは、塩化アンモニウム中のClのモル当量である。秤量したバイオマス燃焼灰及び塩化アンモニウムを、容器回転揺動型粉体混合機(愛知電気(株)製、ロッキングミキサー)を用いて大気中で30分間混合し、表2に示す各試料を作製した。
なお、表2において、試料1-1,2-1,3-1,4-1,5-1におけるモル当量比B/Aが「0.00」とは、バイオマス燃焼灰のみであることを意味する。試料1-1,2-1,3-1,4-1,5-1は、バイオマス燃焼灰のみを容器回転揺動型粉体混合機に投入し、30分間攪拌して作製した。
【0042】
電気炉を、用い各試料を表2に示す温度(炉内到達温度)にて大気雰囲気で30分間加熱した。なお、表2中、試料1-1~1-5は、20℃に設定した電気炉内(大気雰囲気)に30分間保管し、加熱は行わなかった。
電気炉から処理物を取り出し、塊状化しているか否かを目視で判定した。「塊」とは、直径が5mm以上の処理物を指す。処理物を625mm×410mmのステンレス容器内に厚さ約1cmとなるように敷き詰め、塊の大きさをノギスで確認しながら塊の数を計測した。表2中、「あり」とは、上記直径を満たす塊状化した処理物が10個以上確認できたことを意味する。また、「無し」とは、塊状化した処理物が確認されないか、10個未満であることを意味する。判定結果を表2に示す。
【0043】
処理物を5倍量(処理物/水=1/5(体積比))の水(20℃)中に投入し、24時間攪拌して懸濁液を生成した。なお、攪拌中に各懸濁液へのガスの導入は行わなかった。
その後、各懸濁液を吸引ろ過し、ケーキとろ液とに分離した。得られたケーキを少量の水で洗浄した。洗浄後のケーキの化学組成として、Na2O,K2O,MgO,CaO及びClの含有量を、蛍光X線分析により測定した。得られたNa2O及びK2Oの含有量から、R2Oを算出した。成分分析結果を表2に示す。
【0044】
【0045】
試料2-1~2-5では、塩化アンモニウム(塩素含有物)と混合した後200℃で加熱することにより、混合しなかった試料2-1(B/A=0.00)に比べてNa2O及びK2O含有量が低減したことにより、結果としてR2Oが低くなった。一方、試料2-5(B/A=2.00)は、試料2-2~2-4(B/A=0.50~1.50)と比較して、ケーキ中に残存する塩素量が高くなった。この結果から、試料2-2~2-4は、アルカリ金属をバイオマス燃焼灰から効果的に除去でき、処理後のバイオマス燃焼灰中に残存する塩素濃度も低くすることができた。
試料3-1~3-5(加熱温度500℃)、試料4-1~4-5(加熱温度600℃)でも、上記と同様の傾向が見られた。
試料5-2~5-5(加熱温度700℃)では、塩化アンモニウム(塩素含有物)と混合して加熱することにより、R2Oが低減する傾向は見られた。しかしながら、加熱温度が低い試料に比べて、R2Oが高くなった。また、試料5-2~5-5は、加熱により処理物の塊状化が確認された。このため、モル当量比B/Aが0.5~1.5の範囲である試料5-2~5-4でも、加熱温度が低い試料に比べてケーキ中に残存する塩素量が高くなった。
【0046】
温度20℃で処理した場合(加熱を行っていない場合)、塩化アンモニウム(塩素含有物)と混合しない試料1-1と、塩化アンモニウムと混合した試料1-2~1-5とは、ケーキ中のNa2O及びK2O含有量がほぼ同じであった。試料1-1~1-5はいずれも、R2Oは3.20質量%を超えていた。
【0047】
[試験2]
バイオマス燃焼灰及び塩化アンモニウムを、モル当量比B/Aが0.50となるように秤量した。
試料6-1~6-3、試料8-1~8-2は、下記の工程で作製した。秤量したバイオマス燃焼灰及び塩化アンモニウムをステンレスバット中に入れ、中性化促進試験装置((株)マルイ製、MIT-639型)に収容した。当該装置内に、表3に示す二酸化炭素(CO2)濃度のガス(空気と二酸化炭素の混合ガス)を導入した。10分ごとにステンレスバット収容物をオペレータが攪拌し、合計60分間当該ガスに暴露した。
試料7-1~7-3は、秤量したバイオマス燃焼灰及び塩化アンモニウムを、容器回転揺動型粉体混合機(愛知電気(株)製、ロッキングミキサー)を用いて大気中で30分間混合して作製した。表3では、大気中で混合工程を行った場合の「二酸化炭素(CO2)濃度」を、「0体積%」と表記した。
【0048】
各試料を、電気炉を用い、200℃(炉内到達温度)にて大気雰囲気で30分間加熱した。
電気炉から取り出した各加熱処理物を、5倍量(処理物/水=5(体積比))の水(20℃)中に投入した。試料7-1~7-3、試料8-1~8-2は、表3に示す二酸化炭素濃度のガス(空気と二酸化炭素の混合ガス)でバブリングしながら24時間攪拌し、懸濁液を生成した。試料6-1~6-3は、バブリングすることなく24時間攪拌し、懸濁液を生成した。
【0049】
その後、各懸濁液を吸引ろ過し、ケーキとろ液とに分離した。得られたケーキを少量の水で洗浄した。洗浄後のケーキの化学組成として、Na2O,K2O,MgO,CaO及びClの含有量を、蛍光X線分析により測定した。得られたNa2O及びK2Oの含有量から、R2Oを算出した。成分分析結果を表3に示す。対比として、試料2-2の成分分析結果も表3に示す。
また、各ケーキについてX線回折装置(パナリティカル社製、X’Part Powder)を用いて回折パターンを測定した。
【0050】
【0051】
混合工程で二酸化炭素を含むガスを導入した試料6-1~6-3は、大気中で混合した試料2-2と比較してR2Oが低減した。また、溶出工程で二酸化炭素を含むガスを導入した試料7-1~7-3は、試料2-2と比較してR2Oが低減した。試料6-1~6-3、7-1~7-3はいずれも、曹長石(Albite)のX線回折ピーク(2θ=27.9°)強度はいずれも、試料2-2と比較して低下していることが確認できた。この結果は、試料6-1~6-3、7-1~7-3は試料2―2に比べて曹長石の含有量が低いことを示している。このことから、混合工程または溶出工程で二酸化炭素を含むガスを導入しながら処理を行うことにより、難水溶性鉱物である曹長石が分解されたため、バイオマス燃焼灰からのアルカリ金属の除去効率を高められたと言える。
試料8-1~8-2に示すように、混合工程及び溶出工程の両方で二酸化炭素を含むガスを導入しながら処理を行うことにより、R2Oが試料6-1~6-3及び試料7-1~7-3に比べて更に低減した。この結果から、混合工程及び溶出工程の両方で二酸化炭素を含むガスを導入しながら処理を行うことにより、バイオマス燃焼灰からのアルカリ金属の除去効率を更に高められたと言える。