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特許7600894含フッ素アクリル組成物、含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物並びに物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】含フッ素アクリル組成物、含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物並びに物品
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/06 20060101AFI20241210BHJP
   C08G 65/336 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C08F290/06
C08G65/336
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021103244
(22)【出願日】2021-06-22
(65)【公開番号】P2022019575
(43)【公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2020121338
(32)【優先日】2020-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 聖矢
(72)【発明者】
【氏名】坂野 安則
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-190429(JP,A)
【文献】国際公開第2020/262272(WO,A1)
【文献】特開2011-241190(JP,A)
【文献】特開2014-221875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式で表される含フッ素アクリル化合物から選ばれる1種又は2種以上
【化1】
【化2】
【化3】
[式中、Rf 2 は-CF 2 O-(CF 2 O) p (CF 2 CF 2 O) q -CF 2 -であり、pは1~199の整数、qは1~170の整数、p+qは6~200であり、( )で括られた繰り返し単位の配列はランダムである。vは4~120の整数である。R 2 は独立に水素原子又はメチル基であり、R 3 は独立に水素原子、メチル基又はフェニル基である。Z 4 は下記式
-C O 2O -(OC 3 6 j’ (OC 2 4 k’ (OCH 2 l’
(式中、各繰り返し単位は直鎖状であっても分岐状であってもよく、各繰り返し単位同士はランダムに結合されていてよく、j’、k’、l’はそれぞれ独立に0~4の整数であり、j’+k’+l’=1~10であり、oは2~10の整数である。)で表される2価のアルキレンエーテル基であり、mは2~5の整数である。]、及び
(B)25℃における粘度が100mPa・s以下で、1分子中に(メタ)アクリル基を1個又は2個含むアクリル化合物
を必須成分として含有し、(A)成分と(B)成分の質量比が0.01<(A)/(B)<10の範囲内であって、なおかつ、アクリル基と反応する基を持たない揮発性有機化合物が配合されていないものである含フッ素アクリル組成物。
【請求項2】
(B)成分の一部又は全部として、下記一般式(6)
CH2=CR5C(=O)OR4 (6)
(式中、R4はウレタン結合、エーテル結合、イソシアネート基又は水酸基を含んでいてもよい炭素数1~20の1価の炭化水素基である。R5は水素原子、メチル基、フッ素原子又は炭素数1~6のフルオロアルキル基である。)
で表されるアクリル化合物を含むものである請求項1に記載の含フッ素アクリル組成物。
【請求項3】
(B)成分の一部又は全部として、下記一般式(7)
CH2=CR7C(=O)O-R6-O(O=)CR7C=CH2 (7)
(式中、R6はウレタン結合、エーテル結合、イソシアネート基又は水酸基を含んでいてもよい炭素数1~20の2価の炭化水素基である。R7はそれぞれ独立に水素原子、メチル基、フッ素原子又は炭素数1~6のフルオロアルキル基である。)
で表されるアクリル化合物を含むものである請求項1又は2に記載の含フッ素アクリル組成物。
【請求項4】
(B)成分のアクリル化合物が、フッ素原子で置換されたアルキル基を含まないものである請求項1~のいずれか1項に記載の含フッ素アクリル組成物。
【請求項5】
活性エネルギー線硬化性組成物(E)100質量部に対し、請求項1~のいずれか1項に記載の含フッ素アクリル組成物を0.005~40質量部含むものである含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項6】
活性エネルギー線硬化性組成物(E)が、
(Ea)アクリル化合物:100質量部、
(Eb)光重合開始剤:0.1~15質量部
を含有してなるものである請求項に記載の含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項7】
25℃、相対湿度40%における水接触角が90°以上である硬化物を与えるものである請求項又はに記載の含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項8】
請求項のいずれか1項に記載の含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物の硬化物層を表面に有する物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線や電子線等の活性エネルギー線硬化性組成物に添加することで優れた撥液性、防汚性、耐摩耗性を付与することができる含フッ素アクリル組成物、及び該含フッ素アクリル組成物を有する含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物、並びにこの組成物の硬化物層を基材表面に有する物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂成形体等の表面を保護する手段として、ハードコート処理が広く一般に用いられている。これは成形体の表面に硬質の硬化樹脂層(ハードコート層)を形成し、傷つき難くするものである。ハードコート層を構成する材料としては、熱硬化性樹脂や紫外線もしくは電子線硬化型樹脂など活性エネルギー線による硬化性組成物が多く使用されている。
【0003】
樹脂成形品の利用分野の拡大や高付加価値化の流れに伴い、硬化樹脂層(ハードコート層)に対する高機能化の要望が高まっており、その一つとして、ハードコート層への防汚性の付与が求められている。これはハードコート層の表面に撥水性、撥油性などの性質を付与することにより、汚れ難く、あるいは汚れても容易に取り除くことができるようにするものである。
【0004】
ハードコート層に防汚性を付与する方法としては、一旦形成されたハードコート層表面に含フッ素防汚剤を塗工及び/又は定着させる方法が広く用いられているが、含フッ素硬化性成分を硬化前の硬化樹脂組成物に添加し、これを塗布硬化させることでハードコート層の形成と防汚性の付与を同時に行う方法についても検討されてきた。例えば、特開平6-211945号公報(特許文献1)には、アクリル系の硬化性樹脂組成物にフルオロアルキルアクリレートを添加、硬化させることで防汚性を付与したハードコート層の製造が示されている。
【0005】
また、本発明者らは、このような硬化性樹脂組成物に防汚性を付与できるフッ素化合物として、様々な開発を進めており、例えば、特開2010-53114号公報(特許文献2)、特開2010-138112号公報(特許文献3)、特開2010-285501号公報(特許文献4)等に示す光硬化可能なフッ素化合物を提案している。
【0006】
これらは1分子中にフルオロポリエーテル構造と複数のアクリル基を有する構造を持つことで硬化性樹脂組成物に高い防汚性を与えることができるが、一方で単体では扱いにくい高粘稠な液体であるため、取扱いを容易にし、樹脂組成物との混合性を高めるためには高揮発性の有機溶剤で希釈した溶液として取扱う必要があった。このため無溶剤型のハードコート剤や塗料にそのまま配合できないという問題があった。
【0007】
一方、ハードコート処理は、その塗工性や被膜性能向上のため有機溶剤によって希釈された塗工液での取扱いが広く執り行われている。しかし近年、環境や人体への影響の懸念から揮発性有機溶剤等の揮発性有機化合物(VOC)の使用を抑制する動きが高まっており、ハードコートの塗工液についてもハイソリッド化や無溶剤化が強く求められている。これに伴い、前述したようなハードコートの塗工液に撥液性、防汚性を付与するために添加する添加剤組成物についても揮発性有機溶剤等の反応性基のない揮発性有機化合物を含まない組成のものが求められてきている。
【0008】
また更に、従来の揮発性有機溶剤等の反応性基のない揮発性有機化合物を含むハードコート組成物は、塗工時と硬化時の間の寸法変化が特に大きいため、硬化物に対して高い寸法精度が求められる用途、例えば、ナノインプリント用硬化性組成物、3Dプリンタ用硬化性組成物等の用途においては特に不適となる。
【0009】
本発明者らは、このような揮発性有機溶剤等の反応性基のない揮発性有機化合物を含まず、硬化性樹脂組成物に撥液性、防汚性を付与することができる含フッ素アクリル組成物として様々な開発を進めており、例えば、特開2017-190429号公報(特許文献5)には、反応性基のない揮発性有機化合物の含有量を抑制することで、硬化性組成物に添加した際に硬化性組成物全体としてのアクリル基と反応する基を持たない(非反応性の)揮発性有機化合物を増加させることなく撥液性、防汚性を付与することができる含フッ素アクリル組成物を提案している。
【0010】
しかし近年、タッチパネル等の人の指が触れやすい物品に対して含フッ素組成物を含有するハードコートを使用する用途が増加傾向にあるが、従来の含フッ素組成物は、該用途に使用した場合、ハードコート表面が人の指による摩耗により消耗し、防汚性が低下してしまうため、実用上満足できる耐摩耗性を有するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平6-211945号公報
【文献】特開2010-53114号公報
【文献】特開2010-138112号公報
【文献】特開2010-285501号公報
【文献】特開2017-190429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、紫外線や電子線等の活性エネルギー線硬化性組成物に添加することで優れた撥液性、防汚性、耐摩耗性を付与することができる含フッ素アクリル組成物、及び該含フッ素アクリル組成物を有する含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物、並びにこの組成物の硬化物層を基材表面に有する物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するために更なる検討を重ねた結果、
(A)下記一般式(1)で表される含フッ素アクリル化合物
Y-Rf1-Z1-Q1-[Z2-X]a (1)
[式中、Rf1は炭素数1~6のパーフルオロアルキレン基と酸素原子によって構成される分子量400~20,000の2価のパーフルオロポリエーテル基である。Z1は独立に酸素原子、窒素原子及びケイ素原子から選ばれる1種又は2種以上を含んでいてもよい炭素数1~20の2価の炭化水素基であり、途中環状構造を含んでいてもよく、但し、構造中にウレタン結合を含有しない。Q1は独立に少なくとも(a+1)個のケイ素原子を含む(a+1)価の連結基であり、環状構造をなしていてもよく、酸素原子、窒素原子及びフッ素原子から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよく、但し、構造中にウレタン結合を含有しない。Z2は独立に下記式
-CO2O-(OC48i(OC36j(OC24k(OCH2l
(式中、各繰り返し単位は直鎖状であっても分岐状であってもよく、各繰り返し単位同士はランダムに結合されていてよく、i、j、k、lはZ2の分子量が58~748となる範囲において、それぞれ独立に0~10の整数であり、i+j+k+l=1~10である。oは2~10の整数である。)で表される2価のアルキレンエーテル基である。Xは独立に水素原子、又は酸素原子及び窒素原子から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよいアクリル基もしくはα置換アクリル基を含有する1価の有機基であり、かつ1分子中に平均して少なくとも1個の前記アクリル基もしくはα置換アクリル基を含有する1価の有機基を含有し、但し、構造中にウレタン結合を含有しない。aは独立に1~10の整数である。Yはフッ素原子又は-Z1-Q1-[Z2-X]aで表される1価の基である。式(1)におけるZ1及び[ ]で括られたa個のZ2はすべてそれぞれQ1構造中のケイ素原子と結合している。]、及び
(B)25℃における粘度が100mPa・s以下で、1分子中に(メタ)アクリル基を1個又は2個含むアクリル化合物
を必須成分として含有し、(A)成分と(B)成分の質量比が0.01<(A)/(B)<10の範囲内であって、なおかつ、アクリル基と反応する基を持たない揮発性有機化合物が配合されていないものである含フッ素アクリル組成物が、アクリル基と反応する基を持たない揮発性有機化合物の含有量を増やすことなく活性エネルギー線硬化性組成物に添加することができ、活性エネルギー線硬化性組成物への相溶性が良好で、撥液性、防汚性を有し、揮発性有機化合物の含有量を抑制し、なおかつ高い耐摩耗性を示す含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物となり得ることを見出し、本発明をなすに至った。
【0014】
従って、本発明は、下記の含フッ素アクリル組成物、含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物、及び物品を提供する。
[1]
(A)下記式で表される含フッ素アクリル化合物から選ばれる1種又は2種以上
【化1】
【化2】
【化3】
[式中、Rf 2 は-CF 2 O-(CF 2 O) p (CF 2 CF 2 O) q -CF 2 -であり、pは1~199の整数、qは1~170の整数、p+qは6~200であり、( )で括られた繰り返し単位の配列はランダムである。vは4~120の整数である。R 2 は独立に水素原子又はメチル基であり、R 3 は独立に水素原子、メチル基又はフェニル基である。Z 4 は下記式
-C O 2O -(OC 3 6 j’ (OC 2 4 k’ (OCH 2 l’
(式中、各繰り返し単位は直鎖状であっても分岐状であってもよく、各繰り返し単位同士はランダムに結合されていてよく、j’、k’、l’はそれぞれ独立に0~4の整数であり、j’+k’+l’=1~10であり、oは2~10の整数である。)で表される2価のアルキレンエーテル基であり、mは2~5の整数である。]、及び
(B)25℃における粘度が100mPa・s以下で、1分子中に(メタ)アクリル基を1個又は2個含むアクリル化合物
を必須成分として含有し、(A)成分と(B)成分の質量比が0.01<(A)/(B)<10の範囲内であって、なおかつ、アクリル基と反応する基を持たない揮発性有機化合物が配合されていないものである含フッ素アクリル組成物。

(B)成分の一部又は全部として、下記一般式(6)
CH2=CR5C(=O)OR4 (6)
(式中、R4はウレタン結合、エーテル結合、イソシアネート基又は水酸基を含んでいてもよい炭素数1~20の1価の炭化水素基である。R5は水素原子、メチル基、フッ素原子又は炭素数1~6のフルオロアルキル基である。)
で表されるアクリル化合物を含むものである[1]に記載の含フッ素アクリル組成物。

(B)成分の一部又は全部として、下記一般式(7)
CH2=CR7C(=O)O-R6-O(O=)CR7C=CH2 (7)
(式中、R6はウレタン結合、エーテル結合、イソシアネート基又は水酸基を含んでいてもよい炭素数1~20の2価の炭化水素基である。R7はそれぞれ独立に水素原子、メチル基、フッ素原子又は炭素数1~6のフルオロアルキル基である。)
で表されるアクリル化合物を含むものである[1]又は[2]に記載の含フッ素アクリル組成物。

(B)成分のアクリル化合物が、フッ素原子で置換されたアルキル基を含まないものである[1]~[]のいずれかに記載の含フッ素アクリル組成物。

活性エネルギー線硬化性組成物(E)100質量部に対し、[1]~[]のいずれかに記載の含フッ素アクリル組成物を0.005~40質量部含むものである含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物。

活性エネルギー線硬化性組成物(E)が、
(Ea)アクリル化合物:100質量部、
(Eb)光重合開始剤:0.1~15質量部
を含有してなるものである[]に記載の含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物。

25℃、相対湿度40%における水接触角が90°以上である硬化物を与えるものである[]又は[]に記載の含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物。

]~[]のいずれかに記載の含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物の硬化物層を表面に有する物品。
【発明の効果】
【0015】
本発明の含フッ素アクリル組成物によれば、アクリル基と反応する基を持たない揮発性有機化合物(特には、分子中に(メタ)アクリル基を含有しない非反応性の揮発性有機化合物)の含有量を増やすことなく活性エネルギー線硬化性組成物に添加して、撥液性、防汚性を付与することができる含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物を提供することができる。また、本発明の含フッ素アクリル組成物に含まれる含フッ素アクリル化合物は、分子中にウレタン結合を含有しないために、摩耗によっても防汚性が低下し難い。よって、該含フッ素アクリル組成物は、紫外線硬化性や熱硬化性のハードコート剤、塗料、樹脂、反射防止コート用組成物などに撥液性、防汚性、耐摩耗性を付与するための防汚添加剤等として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の含フッ素アクリル組成物は、
(A)下記一般式(1)で表される含フッ素アクリル化合物
Y-Rf1-Z1-Q1-[Z2-X]a (1)
[式中、Rf1は炭素数1~6のパーフルオロアルキレン基と酸素原子によって構成される分子量400~20,000の2価のパーフルオロポリエーテル基である。Z1は独立に酸素原子、窒素原子及びケイ素原子から選ばれる1種又は2種以上を含んでいてもよい炭素数1~20の2価の炭化水素基であり、途中環状構造を含んでいてもよく、但し、構造中にウレタン結合を含有しない。Q1は独立に少なくとも(a+1)個のケイ素原子を含む(a+1)価の連結基であり、環状構造をなしていてもよく、酸素原子、窒素原子及びフッ素原子から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよく、但し、構造中にウレタン結合を含有しない。Z2は独立に下記式
-CO2O-(OC48i(OC36j(OC24k(OCH2l
(式中、各繰り返し単位は直鎖状であっても分岐状であってもよく、各繰り返し単位同士はランダムに結合されていてよく、i、j、k、lはZ2の分子量が58~748となる範囲において、それぞれ独立に0~10の整数であり、i+j+k+l=1~10である。oは2~10の整数である。)で表される2価のアルキレンエーテル基である。Xは独立に水素原子、又は酸素原子及び窒素原子から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよいアクリル基もしくはα置換アクリル基を含有する1価の有機基であり、かつ1分子中に平均して少なくとも1個の前記アクリル基もしくはα置換アクリル基を含有する1価の有機基を含有し、但し、構造中にウレタン結合を含有しない。aは独立に1~10の整数である。Yはフッ素原子又は-Z1-Q1-[Z2-X]aで表される1価の基である。式(1)におけるZ1及び[ ]で括られたa個のZ2はすべてそれぞれQ1構造中のケイ素原子と結合している。]、及び
(B)25℃における粘度が100mPa・s以下で、1分子中に(メタ)アクリル基を1個又は2個含むアクリル化合物
を必須成分として含有し、(A)成分と(B)成分の質量比が0.01<(A)/(B)<10の範囲内であって、なおかつ、アクリル基と反応する基を持たない揮発性有機化合物が配合されていないものであることを特徴とする。
【0017】
本発明の含フッ素アクリル組成物は、(A)成分の含フッ素アクリル化合物が、撥水撥油性基としてのパーフルオロポリエーテル基と、アクリル基もしくはα置換アクリル基とを有し、かつ、分子中にウレタン結合を含有しないことから、活性エネルギー線硬化性組成物に添加した際に、優れた撥液性、防汚性、耐摩耗性を付与することができるものである。
【0018】
本発明の含フッ素アクリル組成物における第一の必須成分である(A)成分の含フッ素アクリル化合物は、下記一般式(1)で表される。なお、本発明において「アクリル化合物」とは、アクリル基、α置換アクリル基を有する化合物の総称であり、各種重合体の側鎖や末端に任意の方法で2個以上のアクリル基、α置換アクリル基を導入した化合物も含む。また本発明において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートの一方又は両方を示す。
Y-Rf1-Z1-Q1-[Z2-X]a (1)
【0019】
上記式(1)中、Rf1は炭素数1~6のパーフルオロアルキレン基と酸素原子によって構成される分子量400~20,000の2価のパーフルオロポリエーテル基であり、Rf1は、炭素数1~6、特に以下の炭素数1~3のパーフルオロオキシアルキレン構造を主な繰り返し単位として有するものが好適である。
-CF2O-
-CF2CF2O-
-CF(CF3)CF2O-
-CF2CF2CF2O-
これらの構造は、いずれか一つの単独重合体、あるいは複数の構造からなるランダム、ブロック重合体でもよい。
【0020】
このような構造を有するRf1の例としては、例えば、以下の構造を挙げることができる。
【化11】
(式中、bは単位毎に独立に1~3の整数である。c、d、e、f、g、hはそれぞれ0~200の整数で、c+d+e+f+g+h=3~200である。これら各単位は直鎖状であっても分岐状であってもよく、また、c、d、e、f、g、hが付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
【0021】
上記式において、bは単位毎にそれぞれ独立して1~3の整数である。
また、c、d、e、f、g、hはそれぞれ0~200の整数、好ましくは、cは5~100の整数、dは5~100の整数、eは0~100の整数、fは0~100の整数、gは0~100の整数、hは0~100の整数であり、c+d+e+f+g+h=3~200、好ましくは10~105であり、より好ましくはc+dは10~105、特に15~60の整数であり、e=f=g=h=0である。c+d+e+f+g+hが上記上限値より小さければ密着性や硬化性が良好であり、上記下限値より大きければフルオロポリエーテル基の特徴を十分に発揮することができるので好ましい。
上記式において、各単位は直鎖状であっても分岐状であってもよい。また、c、d、e、f、g、hが付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。
【0022】
このような構造を有するRf1の好適な例としては、例えば、以下の構造を挙げることができる。
-CF2O-(CF2O)p(CF2CF2O)q-CF2
(式中、( )で括られた繰り返し単位の配列はランダムであり、pは1~199、好ましくは1~99の整数、qは1~170、好ましくは1~99の整数、p+qは6~200、好ましくは10~100の整数である。)
【化12】
(式中、( )で括られた繰り返し単位の配列はランダムであり、sは0~6の整数、tは1~100の整数、uは1~100の整数、t+uは2~120、好ましくは4~100の整数、s+t+uは3~126、好ましくは4~100の整数である。vは4~120、好ましくは4~80の整数である。)
【0023】
Rf1の分子量は、該当する構造部分の数平均分子量が、それぞれ400~20,000、好ましくは800~10,000の範囲に含まれていればよく、その分子量分布(又は重合度分布)については特に限定されるものではない。なお、本発明において、分子量(又は重合度もしくは繰り返し単位の数)は、フッ素系溶剤を展開溶媒としたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析によるポリスチレン換算の数平均分子量(又は数平均重合度)として求めることができるが、好適には、1H-NMR分析及び19F-NMR分析に基づく含フッ素アクリル化合物の末端構造と主鎖構造との特性ピーク強度比率から算出される数平均分子量(又は数平均重合度)である(以下、同じ)。
【0024】
上記式(1)において、Z1は独立に、酸素原子、窒素原子及びケイ素原子から選ばれる1種又は2種以上を含んでいてもよい、炭素数1~20の2価の炭化水素基であり、途中環状構造を含んでいてもよく、但し、構造中にウレタン結合を含有しない。Z1の特に好ましい構造としては、以下のものを挙げることができる。なお、下記の構造において、左側の結合手はRf1と、右側の結合手はQ1と結合することが好ましい。
-CH2CH2
-CH2CH2CH2
-CH2CH2CH2CH2
-CH2OCH2CH2
-CH2OCH2CH2CH2
【化13】
【0025】
1としては、下記に示すものがより好ましい。
-CH2CH2CH2CH2
-CH2OCH2CH2CH2
【化14】
【0026】
上記式(1)において、aは独立に1~10の整数であり、好ましくは2~8の整数である。
【0027】
上記式(1)において、Q1は独立に少なくとも(a+1)個のケイ素原子を含む(a+1)価の連結基であり、環状構造をなしていてもよく、酸素原子、窒素原子及びフッ素原子から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよく、但し、構造中にウレタン結合を含有しない。このようなQ1の好ましいものとして、それぞれ(a+1)個のSi原子を有するシロキサン構造、非置換又はハロゲン置換のシルアルキレン構造、シルアリーレン構造又はこれらの2種以上の組み合わせからなる(a+1)価の連結基が挙げられる。特に好ましい構造として、具体的には、下記の構造が示される。
【0028】
但し、下記式において、aは上記式(1)のaと同じであり、独立に1~10の整数であり、好ましくは2~8の整数である。a’は2~10の整数であり、好ましくは2~7の整数である。rは1~5の整数であり、好ましくは3~5の整数である。各ユニットの並びはランダムであり、(a+1)個、(a’+1)個の各ユニット等の結合手(ケイ素原子)は、上記式(1)における[ ]で括られたa個のZ2及びZ1のいずれかの基と結合する。
【化15】
【0029】
ここで、Tは(a+1)価の連結基であり、例えば以下のものが例示される。
【化16】
【0030】
これらの中でも、上記式(1)におけるQ1は、
【化17】
(式中、a’は前述の通りである。)
で表される(a’+1)価の連結基が好ましい。
【0031】
上記式(1)において、Z2は独立に下記式
-CO2O-(OC48i(OC36j(OC24k(OCH2l
(式中、各繰り返し単位は直鎖状であっても分岐状であってもよく、各繰り返し単位同士はランダムに結合されていてよく、i、j、k、lはZ2の分子量が58~748、好ましくは72~300となる範囲において、それぞれ独立に0~10の整数であり(即ち、i、j、k、lの合計は1~10である。)、好ましくはiは0~5の整数、jは0~5の整数、kは0~5の整数、lは0~5の整数であり、i+j+k+l=1~10である。oは2~10の整数、好ましくは2~8の整数である。)で表される2価のアルキレンエーテル基である。なお、上記の構造において、左側の結合手はQ1と、右側の結合手はXと結合することが好ましい。
【0032】
2として、好ましい構造としては、以下のものを挙げることができる。
-CH2CH2OCH2
-CH2CH2OCH2CH2
-CH2CH2OCH2CH2CH2
-CH2CH2CH2OCH2
-CH2CH2CH2(OC24k1(OC36j1(OC48i1
【0033】
ここで、k1は0~10の整数、j1は0~10の整数、i1は0~10の整数であり、Z2の分子量が86~330となればよい。繰り返し単位の配列は、種類にかかわらずランダムである。また各繰り返し単位は単体でなく構造異性体の混合物でもよい。Z2の分子量が58未満であると(B)成分のアクリル化合物と混合しづらくなり、748を超えると該含フッ素アクリル化合物の防汚性付与能が不十分になる。
【0034】
2として、特に好ましい構造としては、以下のものが挙げられ、中でもk1が1~4、j1が1~4であるものが好適である。
-CH2CH2CH2(OC24k1
-CH2CH2CH2(OC36j1
【0035】
上記式(1)において、Xは独立に水素原子、又は酸素原子及び窒素原子から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよいアクリル基もしくはα置換アクリル基を含有する1価の有機基であり、かつ1分子中に平均して少なくとも1個の前記アクリル基もしくはα置換アクリル基を含有する1価の有機基を含有し、但し、構造中にウレタン結合を含有しない。
【0036】
Xとしては、下記式で表される構造が好ましい。
【化18】
(式中、R1はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、メチル基、又はトリフルオロメチル基であり、Z3は単結合、又は炭素数1~18の、エーテル結合及び/又はエステル結合を含んでいてもよい2価又は3価の炭化水素基であり、nは1又は2である。)
【0037】
ここで、R1はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、メチル基、又はトリフルオロメチル基であり、水素原子及びメチル基が好ましい。
また、ここで、nは1又は2であり、好ましくは1である。
【0038】
また、ここで、Z3は単結合、又は炭素数1~18の、エーテル結合及び/又はエステル結合を含んでいてもよい2価又は3価の炭化水素基である。好ましくは、単結合、又は以下の構造である。
-CH2
-CH2CH2
-CH2CH2CH2
【化19】
【0039】
Xとしては、下記式で示される基が好ましい。
-Z’-OC(=O)-CR8=CH2
(式中、R8は水素原子又はメチル基であり、Z’は単結合、メチレン基、エチレン基、又はプロピレン基である。)
【0040】
上記式(1)で表される含フッ素アクリル化合物としては、下記一般式(2)又は(3)で表されるものが好ましい。
【化20】
(式中、Rf1、Z1、Z2、Q1、R1、aは前述の通りである。)
【0041】
上記式(1)で表される含フッ素アクリル化合物としては、下記一般式(4)又は(5)で表されるものが更に好ましい。
【化21】
[式中、Rf1、Z1、Q1、aは前述の通りである。Z4は、下記式
-CO2O-(OC36j’(OC24k’(OCH2l’
(式中、各繰り返し単位は直鎖状であっても分岐状であってもよく、各繰り返し単位同士はランダムに結合されていてよく、j’、k’、l’はそれぞれ独立に0~4の整数であり、j’+k’+l’=1~10であり、oは2~10の整数である。)で表される2価のアルキレンエーテル基である。]
【0042】
上記式(1)で表される含フッ素アクリル化合物として、より具体的には、下記に示すものが例示できる。
【化22】
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
(式中、Rf2は-CF2O-(CF2O)p(CF2CF2O)q-CF2-であり、( )で括られた繰り返し単位の配列はランダムであり、R2は独立に水素原子又はメチル基であり、R3は独立に水素原子、メチル基又はフェニル基である。mは2~5の整数である。p、q、p+q、Z4、vは前述の通りである。)
【0043】
これらの中でも、下記に示すものが特に好ましい。
【化29】
【化30】
【化31】
(式中、Rf2、m、R2、R3、Z4、vは前述の通りである。)
【0044】
一般式(1)で表される含フッ素アクリル化合物は、特にその合成法を制限されるものではないが、例えば一般式(2)又は(3)で表される含フッ素アクリル化合物の実施形態の一つとして、まず下記一般式(8)又は(9)
F-Rf1-Z1-Q1-[H]a (8)
[H]a-Q1-Z1-Rf1-Z1-Q1-[H]a (9)
(式中、Rf1、Z1、Q1、aは前述の通りであり、式(8)、(9)における[ ]で括られたa個の水素原子(H)はすべて、それぞれQ1構造中のケイ素原子と結合している。)
で表される多官能Si-H基を有するフルオロポリエーテル化合物と、下記一般式(10)
【化32】
(式中、R1、i、j、k、lは前述の通りである。wは0~8の整数である。)
で表されるアルキレンエーテル基を有する(隣接する)末端脂肪族不飽和基(例えば、アルケニル基等の脂肪族不飽和二重結合を末端に含有するアルキル基、又は末端アルケニル基)、及びアクリル基もしくはα置換アクリル基を含有する化合物をヒドロシリル化付加反応させることにより得ることができる。
【0045】
ここで、上記式(8)、(9)で表される多官能Si-H基を有するフルオロポリエーテル化合物としては、下記に示すものが例示できる。
【化33】
【化34】
【化35】
【化36】
【化37】
【化38】
【化39】
【化40】
【化41】
(式中、Rf2、vは上記と同じである。)
【0046】
また、上記式(10)で表されるアルキレンエーテル基を有する(隣接する)末端脂肪族不飽和基(例えば、アルケニル基等の脂肪族不飽和二重結合を末端に含有するアルキル基、即ち、CH2=CH-で示される外部オレフィン(ビニル基)で末端が封鎖されたアルキル基、又は該外部オレフィン(ビニル基))、及びアクリル基もしくはα置換アクリル基を含有する化合物としては、下記のものが例示できる。
CH2=CHCH2(OC24k2(OC36j2(OC48i2-O-C(=O)-CH=CH2
CH2=CHCH2(OC24k2(OC36j2(OC48i2-O-C(=O)-C(CH3)=CH2
CH2=CH(OC24k2(OC36j2(OC48i2-O-C(=O)-CH=CH2
CH2=CH(OC24k2(OC36j2(OC48i2-O-C(=O)-C(CH3)=CH2
(式中、k2は0~10の整数、j2は0~10の整数、i2は0~10の整数、i2+j2+k2=1~16であり、式(10)のCH2=CH-Cw2w-(OC48i(OC36j(OC24k(OCH2l-に相当する部分の分子量が57~747となればよい。繰り返し単位の配列は、種類にかかわらずランダムである。また各繰り返し単位は単体でなく構造異性体の混合物でもよい。)
【0047】
中でも特に以下のものが好適である。
CH2=CHCH2-(OC24k3-O-C(=O)-C(CH3)=CH2
CH2=CHCH2-(OC36j3-O-C(=O)-C(CH3)=CH2
(式中、k3は1~4の整数であり、j3は1~4の整数である。)
【0048】
従来、ヒドロシリル化付加反応により含フッ素化合物にアクリル基もしくはα置換アクリル基を導入する場合には、主としてアリルメタクリレートが用いられていたが、アリルメタクリレート中のアリル基(末端脂肪族不飽和基)はヒドロシリル化付加反応において反応性が低いため、反応部位として、目的とするアリル基(末端脂肪族不飽和基)だけでなく、副反応としてメタクリル基においてもヒドロシリル化付加反応が進行してしまうために不適である。本発明では、アルキレンエーテル基を有する(隣接する)末端脂肪族不飽和基、及びアクリル基もしくはα置換アクリル基を含有する化合物を用いることで当該末端脂肪族不飽和基の反応性が十分担保されるため、副反応のアクリル基もしくはα置換アクリル基のヒドロシリル付加の進行が有効に抑制される。
【0049】
上記式(8)、(9)で表される多官能Si-H基を有するフルオロポリエーテル化合物と、式(10)で表される末端脂肪族不飽和基、及びアクリル基もしくはα置換アクリル基を含有する化合物は、これらを混合攪拌し、白金族金属系の付加反応触媒存在下、反応温度50~150℃、好ましくは60~120℃で、1分~72時間、特に5分~12時間反応を行うことが望ましい。反応温度が低すぎると反応が十分に進行しないまま停止してしまう場合があり、高すぎるとヒドロシリル化の反応熱による温度上昇で反応が制御できなくなり、突沸や原料の分解などが起こる場合がある。
【0050】
この場合、式(8)、(9)で表される多官能Si-H基を有するフルオロポリエーテル化合物と、式(10)で表される末端脂肪族不飽和基、及びアクリル基もしくはα置換アクリル基を含有する化合物の仕込み比率は、式(8)又は(9)で表される多官能Si-H基を有するフルオロポリエーテル化合物の[ ]で括られたHの総モル数に対して、式(10)で表される末端脂肪族不飽和基、及びアクリル基もしくはα置換アクリル基を含有する化合物の不飽和基を0.8~5倍モル、特に1~2倍モル使用して反応させることが望ましい。式(10)で表される末端脂肪族不飽和基、及びアクリル基もしくはα置換アクリル基を含有する化合物が、これより少なすぎると式(8)、(9)で表される多官能Si-H基を有するフルオロポリエーテル化合物においてSi-H基が多く残存してしまい目的とする効果が得られない可能性が出てくる。これ以上多すぎると反応溶液の均一性が低下して反応速度が不安定となり、また反応後に式(10)で表される末端脂肪族不飽和基、及びアクリル基もしくはα置換アクリル基を含有する化合物の除去を行う場合に加熱、減圧、抽出等の条件を余剰の未反応成分が増える分だけ厳しくする必要が出てくる。
【0051】
付加反応触媒は、例えば、白金、ロジウム又はパラジウム等の白金族金属を含む化合物を使用することができる。中でも白金を含む化合物が好ましく、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物、白金カルボニルビニルメチル錯体、白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体、白金-シクロビニルメチルシロキサン錯体、白金-オクチルアルデヒド/オクタノール錯体、塩化白金酸とオレフィン、アルデヒド、ビニルシロキサン又はアセチレンアルコール類等との錯体、あるいは活性炭に担持された白金を用いることができる。
付加反応触媒の配合量は、式(8)又は(9)で表される多官能Si-H基を有するフルオロポリエーテル化合物に対し、含まれる金属量が0.1~5,000質量ppmとなることが好ましく、より好ましくは0.1~1,000質量ppmである。
【0052】
上記の付加反応は、溶剤が存在しなくても実施可能であるが、必要に応じて溶剤で希釈してもよい。このとき希釈溶剤は、トルエン、キシレン、イソオクタンなど、広く一般に用いられている有機溶剤を利用することができる。このような有機溶剤としては、沸点が目的とする反応温度以上でかつ反応を阻害せず、反応後に生成する式(2)又は(3)で表される含フッ素アクリル化合物が、上記反応温度において可溶であるものが好ましい。例えば、m-キシレンヘキサフロライド、ベンゾトリフロライド等のフッ素変性芳香族炭化水素系溶剤、メチルパーフルオロブチルエーテル等のフッ素変性エーテル系溶剤等の部分フッ素変性された溶剤が望ましく、特にm-キシレンヘキサフロライドが好ましい。
溶剤を使用する場合、その使用量は、式(8)又は(9)で表される多官能Si-H基を有するフルオロポリエーテル化合物100質量部に対して、好ましくは5~2,000質量部であり、より好ましくは50~500質量部である。これより少なければ溶剤による希釈の効果が薄く、多ければ希釈度が高くなりすぎて反応速度の低下を招く場合がある。
【0053】
反応終了後、未反応の式(10)で表される末端脂肪族不飽和基、及びアクリル基もしくはα置換アクリル基を含有する化合物や希釈溶剤を減圧留去、抽出、吸着等の公知の方法で除去することで、式(2)又は(3)で表される含フッ素アクリル化合物を得ることができる。
【0054】
以上のような反応で得られる一般式(1)で表される含フッ素アクリル化合物は、濃縮、カラム精製、蒸留、抽出等の精製単離操作を行い使用する。
【0055】
このようにして得られた含フッ素アクリル化合物は、揮発性有機化合物(揮発性有機溶剤)を含有していないものとなる。なお、(A)含フッ素アクリル化合物は、1種単独でも2種以上を併用してもよい。
【0056】
本発明の含フッ素アクリル組成物における第二の必須成分は、(B)25℃における粘度が100mPa・s以下で、1分子中に(メタ)アクリル基を1個又は2個含むアクリル化合物である。(B)成分のアクリル化合物は、アクリル構造以外の酸素原子、窒素原子を含んでいてもよく、具体的には、エーテル結合、ウレタン結合、イソシアネート基、水酸基を含んでいてもよい。
【0057】
(B)成分は、(A)成分との溶解性から、25℃における粘度が100mPa・s以下であり、好ましくは0.4~20mPa・sである。25℃における粘度が100mPa・sを超えると(A)成分と混合しづらくなり、かつハンドリング性に劣る。本発明において、粘度は回転粘度計(例えば、BL型,GH型、BS型、コーンプレート型、レオメータ等)によって測定することができる(以下、同じ)。
【0058】
このような(B)成分のうち分子中に1個の(メタ)アクリル基を有する化合物の好ましい例として、具体的には、下記一般式(6)で表されるものが示される。
CH2=CR5C(=O)OR4 (6)
(式中、R4はウレタン結合、エーテル結合、イソシアネート基又は水酸基を含んでいてもよい炭素数1~20の1価の炭化水素基である。R5は水素原子、メチル基、フッ素原子又は炭素数1~6のフルオロアルキル基である。)
【0059】
上記式(6)において、R4はウレタン結合、エーテル結合、イソシアネート基又は水酸基を含んでいてもよい炭素数1~20の1価の炭化水素基であり、炭素数1~20、好ましくは1~10のアルキル基、炭素数6~20、好ましくは6~10のアリール基又は炭素数7~20、好ましくは7~10のアラルキル基であることが好ましく、これらは分岐していても環状をなしていてもよく、脂肪族不飽和(二重)結合、ウレタン結合、エーテル結合、イソシアネート基、水酸基を含んでいてもよい。R4として、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、2-エチル-ヘキシル基、イソデシル基、トリデシル基、イソステアリル基、フェニル基、ベンジル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基、ジシクロペンテニル基、フルフリル基、テトラヒドロフルリル基、テトラヒドロピラニル基、2-(2-エトキシエトキシ)エチル基、-CH2CH2-OH、-CH2CH(CH3)-OH、-CH2CH2CH2-OH、-CH2CH2CH2CH2-OH、-CH2CH2CH2CH2CH2-OH、-CH2CH2CH2CH2CH2CH2-OH、4-ヒドロキシシクロヘキシル基、-CH2CH2-NCO等を挙げることができる。
また、R5は水素原子、メチル基、フッ素原子、又はトリフルオロメチル基、トリフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基等の炭素数1~6のフルオロアルキル基であり、特に水素原子、メチル基、フッ素原子、トリフルオロメチル基が好ましい。
【0060】
このような化合物として、更に具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチル-ヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール-(メタ)アクリル酸-安息香酸エステル等が挙げられる。
【0061】
また、式(6)に該当しない化合物、例えばエチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラメチレンオキシド、ラクトン等の繰り返し単位構造を有し、各種アルコキシ末端を有するアクリレート化合物のような、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノールEO付加物アクリレート等の名称で市販されている(メタ)アクリル化合物であっても25℃における粘度が100mPa・s以下であれば使用することができる。
【0062】
更に、(B)成分のうち分子中に2個の(メタ)アクリル基を有する化合物の好ましい例として、具体的には、下記一般式(7)で表されるものが示される。
CH2=CR7C(=O)O-R6-O(O=)CR7C=CH2 (7)
(式中、R6はウレタン結合、エーテル結合、イソシアネート基又は水酸基を含んでいてもよい炭素数1~20の2価の炭化水素基である。R7はそれぞれ独立に水素原子、メチル基、フッ素原子又は炭素数1~6のフルオロアルキル基である。)
【0063】
上記式(7)において、R6はウレタン結合、エーテル結合、イソシアネート基又は水酸基を含んでいてもよい炭素数1~20の2価の炭化水素基であり、炭素数1~20、好ましくは1~10のアルキレン基、炭素数6~20、好ましくは6~10のアリーレン基又は炭素数7~20、好ましくは7~10のアラルキレン基であることが好ましく、これらは分岐していても環状をなしていてもよく、脂肪族不飽和(二重)結合、ウレタン結合、エーテル結合、イソシアネート基、水酸基を含んでいてもよい。R6として、具体的には、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基(トリメチレン基、メチルエチレン基)、ブチレン基(テトラメチレン基、メチルプロピレン基)、ヘキシレン基(ヘキサメチレン基)、シクロヘキシレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、-CH2CH2-O-CH2CH2-、-C36-O-C36-、フェニレン基、ジシクロペンタニレン基、ジシクロペンテニレン基、フルフリレン基、テトラヒドロフルリレン基、テトラヒドロピラニレン基等を挙げることができる。
また、R7はそれぞれ独立に、水素原子、メチル基、フッ素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロプロピル基、又はノナフルオロブチル基等の炭素数1~6のフルオロアルキル基であり、特に水素原子、メチル基、フッ素原子、トリフルオロメチル基が好ましい。
【0064】
このような化合物として、更に具体的には、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0065】
(B)成分のアクリル化合物として、フッ素原子で置換されたアルキル基を含むものを用いてもよい。ただし、フッ素原子で置換されたアルキル基を含むアクリル化合物は、フッ素原子を含まないアクリル化合物と比して環境負荷懸念が強い。VOC排出規制の観点から、(B)成分のアクリル化合物としては、フッ素原子で置換されたアルキル基を含むアクリル化合物の含有量は少ないことが望ましく、フッ素原子で置換されたアルキル基を含むアクリル化合物を含有しないことが特に望ましい。
【0066】
(B)成分は単一でもあるいは上記定義に当てはまる複数の化合物の混合物でもよく、混合物の場合は(B)成分に該当する化合物の含有量の合計を(B)成分の含有量として計算すればよい。(B)成分に該当する化合物は、必要に応じて公知の方法で合成可能であるが、試薬メーカー等から各種のものが市販されており、これをそのまま使用することもできる。
【0067】
本発明の第一の実施形態である含フッ素アクリル組成物は、上記(A)、(B)成分を必須成分とし、(A)成分と(B)成分の質量比が0.01<(A)/(B)<10、好ましくは0.015≦(A)/(B)≦8、より好ましくは0.02≦(A)/(B)≦5の範囲内である。
本発明の別な実施形態として、該含フッ素アクリル組成物を後述する活性エネルギー線硬化性組成物(E)と混合して含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物とし、これを塗布、硬化した場合に、基材上に撥液性、防汚性の硬化物層を与えることができるが、この撥液性、防汚性は、活性エネルギー線硬化性組成物(E)の成分中に分散した(A)成分が硬化物層表面に存在することで発現する。このため上記質量比(A)/(B)が0.01以下の場合には含フッ素アクリル組成物中の(A)成分の含有量が小さくなりすぎて最終的な撥液性、防汚性の発現が困難となる。一方、上記質量比(A)/(B)が10以上となった場合には、(A)成分の粘度の高さにより作業性が低下し、かつ、(E)成分との相溶性や混合性が低下する。
【0068】
(A)/(B)が上記の範囲である場合の含フッ素アクリル組成物の25℃における粘度は、好ましくは0.1~10,000mPa・sであり、より好ましくは0.5~5,000mPa・sであり、更に好ましくは1~1,000mPa・sである。このような粘度を有する場合、ハンドリング性が良好な硬化性組成物が得られる。
【0069】
本発明の含フッ素アクリル組成物は、アクリル基と反応する基を持たない揮発性有機化合物(特には、分子中に(メタ)アクリル基を含有しない非反応性の揮発性有機化合物(又は揮発性有機溶剤))が配合されていないもの(即ち、無溶剤系の含フッ素アクリル組成物)である。
【0070】
本発明の含フッ素アクリル組成物は、後述する活性エネルギー線硬化性組成物(E)に添加して含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物とすることができる。
含フッ素アクリル組成物の添加量は、後述する活性エネルギー線硬化性組成物(E)100質量部に対し、0.005~40質量部、好ましくは0.01~20質量部である。該化合物の配合量がこれ以上少なくなると、硬化物を形成した際に該化合物を表面に十分配置することができないことから期待する撥液性、防汚性を示すことができず、これより大きくなると硬化物層の強度や硬度に対する含フッ素アクリル化合物の影響が大きくなりすぎ、本来の活性エネルギー線硬化性組成物の硬化物特性が失われてしまう。
【0071】
活性エネルギー線硬化性組成物(E)は、紫外線、電子線等の活性エネルギー線の照射により硬化物を与えるものであれば、特に制限はされないが、特にアクリル化合物(Ea)、光重合開始剤(Eb)を含むことが好ましい。
【0072】
アクリル化合物(Ea)としては1官能、多官能にかかわらず使用できる。例えば上述した(B)成分である1官能及び2官能のアクリル化合物を用いることもできるが、(Ea)成分としては特に1分子中に2個以上のアクリル基を有する非フッ素化アクリル化合物を含むことが好ましい。
【0073】
このような非フッ素化アクリル化合物としては、1分子中に2個以上アクリル基やα置換アクリル基を有するものであればよく、例えば、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキシド変性ジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、トリス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート、フタル酸水素-(2,2,2-トリ-(メタ)アクリロイルオキシメチル)エチル、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート等の2~6官能の(メタ)アクリル化合物、これらの(メタ)アクリル化合物をエチレンオキシド、プロピレンオキシド、エピクロルヒドリン、脂肪酸、アルキル変性品、エポキシ樹脂にアクリル酸を付加させて得られるエポキシアクリレート類、及びアクリル酸エステル共重合体の側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入した共重合体等を含むものが好適に挙げられる。
【0074】
また、ウレタンアクリレート類、ポリイソシアネートに水酸基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られるもの、ポリイソシアネートと末端ジオールのポリエステルに水酸基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られるもの、ポリオールに過剰のジイソシアネートを反応させて得られるポリイソシアネートに水酸基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られるもの等を使用することもできる。中でも、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート、及びペンタエリスリトールトリアクリレートから選ばれる水酸基を有する(メタ)アクリレートと、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)、2-メチル-1,3-ジイソシアナトシクロヘキサン、2-メチル-1,5-ジイソシアナトシクロヘキサン及びジフェニルメタンジイソシアネートから選ばれるポリイソシアネートを反応させたウレタンアクリレート類等を好適に挙げることができる。
【0075】
また、1分子中に2個以上のアクリル基又はα置換アクリル基を有しウレタン結合を有さない多官能アクリル化合物、又はこの多官能アクリル化合物と、脂肪族ポリイソシアネートと水酸基を有するアクリル化合物とを反応させて得られた1分子中に3つ以上のアクリル基又はα置換アクリル基を有する多官能ウレタンアクリレート類からなるものとを含む少なくとも2種類のアクリル化合物の混合物であってもよい。
【0076】
この場合、1分子中に2個以上のアクリル基又はα置換アクリル基を有し、ウレタン結合を有さない多官能アクリル化合物としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート、及びこれらをエチレンオキシド又はプロピレンオキシドで変性させた化合物が挙げられる。
【0077】
また、脂肪族ポリイソシアネートと水酸基を有するアクリル化合物とを反応させて得られた1分子中に3つ以上のアクリル基又はα置換アクリル基を有する多官能ウレタンアクリレート類としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート及びこれらの3量化物、及びこれらの2官能、3官能のイソシアネート類に脂肪族ジオール、脂肪族ポリオール及び側鎖に水酸基を有するポリアクリレート類と反応させて得られる2官能以上のポリイソシアネートに、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ビス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート及びこれらのエチレンオキシド、プロピレンオキシド変性体を反応させたものや、脂肪族ポリオール及び側鎖に水酸基を有するポリアクリレート類と2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートや1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等のイソシアネート基を有するアクリル化合物を反応させたものを示すことができる。
【0078】
更に(Ea)成分としては、液状の成分だけでなく、微粒子状の高分子量体の表面や無機フィラー微粒子の表面をアクリル基で修飾したものを含んでいてもよい。
【0079】
以上のような(Ea)成分は、1種単独でも使用できるが、塗工性や硬化後被膜の特性を高めるために該当する複数の化合物を配合して使用することもできる。
【0080】
また、(Eb)成分として、光重合開始剤を含有することで、活性エネルギー線として紫外線を用いた場合の硬化性を高めた硬化性組成物とすることができる。
【0081】
(Eb)成分の光重合開始剤は、紫外線照射によりアクリル化合物を硬化させることができるものであれば特に限定されないが、好ましくは、例えば、アセトフェノン、ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタノン-1-オン、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、1,2-オクタンジオン-1-[4-(フェニルチオ)-2-(o-ベンゾイルオキシム)]、エタノン-1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-1-(O-アセチルオキシム)、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン等が挙げられ、1種単独でも2種以上を併用してもよい。
【0082】
(Eb)成分の含有量は、硬化条件と目的とする活性エネルギー線硬化性組成物(E)による硬化物の物性に応じて適宜決めることができるが、例えば(Ea)成分の合計100質量部に対して0.1~15質量部、特に1~10質量部となる量であることが望ましい。添加量がこれより少ないと硬化性が低下する場合があり、これより多くなると硬化後の物性への影響が大きくなるおそれがある。
【0083】
活性エネルギー線硬化性組成物(E)には、このほかにチオール化合物やマレイミド化合物など、アクリル基以外の活性エネルギー線反応性化合物、有機溶剤、重合禁止剤、帯電防止剤、消泡剤、粘度調整剤、耐光安定剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、界面活性剤、着色剤、及び高分子や無機物のフィラー等を配合することもできる。これらはその構造を特に制限されず、公知のものを本発明の目的を損なわない範囲で使用することができる。
【0084】
また、活性エネルギー線硬化性組成物(E)としては、(Ea)、(Eb)成分及び各種添加物が配合済みの活性エネルギー線硬化性組成物として、各社から塗料、インク、ハードコート剤等の分類で市販されている既存の組成物を(E)成分の一部又は全体として使用してもよい。このように市販品のハードコート剤を用いる場合であっても、目的に応じて、本発明の作用効果を阻害しない範囲で、有機溶剤、重合禁止剤、帯電防止剤、消泡剤、粘度調整剤、耐光安定剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、界面活性剤、着色剤、及びフィラー等を追加して配合することができる。
【0085】
以上のようにして得られる本発明の含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物であれば、硬化物の構造に組み入れられない揮発性有機化合物の含有を抑制することができ、撥水撥油性基としてパーフルオロポリエーテル基と、活性エネルギー線硬化性基としてアクリル基もしくはα置換アクリル基とを有する含フッ素アクリル化合物を含有することから、撥水性、撥油性、すべり性、防汚性、指紋拭き取り性、低屈折率特性、耐溶剤性、耐薬品性等の優れた硬化物を与え、また、この含フッ素アクリル化合物が分子中にウレタン結合を含有しないことから、耐摩耗性にも優れる硬化物が得られる。
【0086】
更に、本発明では、上述した本発明の含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物を基材表面に塗布し、硬化させた物品(硬化物層(硬化被膜、硬化樹脂層ともいう)を表面に有する物品)を提供する。上述したように、本発明の含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物を用いれば、基材の表面に優れた表面特性を有する硬化被膜(硬化樹脂層)を形成することが可能になる。特に、アクリルハードコートの表面に撥水性、撥油性、防汚性を付与するのに有用である。これによって、指紋、皮脂、汗などの人脂、化粧品等による汚れが付着しにくくなり、かつ拭き取り性にも優れたハードコート表面を基材(物品)に与えることができる。このため、本発明の含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物は、人体が触れて人脂、化粧品等により汚される可能性のある基材(物品)の表面に対する塗装膜もしくは保護膜を提供することができる。
【0087】
本発明の含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物を用いて形成される硬化被膜(硬化樹脂層)は、特性を付与させる物品の表面に直接塗工し硬化させる、あるいは各種基材フィルム(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン、アラミド、ポリイミド等のフィルム)上に本発明の含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物を塗工して硬化被膜を作製し、該フィルムを目的の物品の表面に張り付けることで、様々な物品に特性を付与できる。
【0088】
ここで、本発明の含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物の塗工方法としては、特に制限はされないが、例えば、ロールコート、グラビアコート、フローコート、ディップコート、スプレーコート、スピンコート、バーコート、スクリーン印刷等の公知の塗工方法を用いることができる。塗工後、塗膜に活性エネルギー線を照射してこれを硬化させる。ここで、活性エネルギー線としては、電子線、紫外線等任意のものを用いることができるが、特に紫外線が好ましい。紫外線源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプ、LEDランプが好適である。紫外線照射量としては、少なすぎると未硬化成分が残存し、多すぎると塗膜及び基材が劣化する可能性があるため、10~10,000mJ/cm2、特に20~4,000mJ/cm2の範囲にあることが望ましい。また、酸素による硬化阻害を防止するために、紫外線照射時に照射雰囲気を窒素、二酸化炭素、アルゴン等の酸素分子を含まない不活性ガスで置換したり、塗膜表面を離型性を持つ紫外線透過性のある保護層で覆い、その上から紫外線を照射したり、基材が紫外線透過性を有する場合は塗膜表面を離型性の保護層で覆った上で基材の塗工面とは反対側から紫外線を照射してもよい。また塗膜のレベリングあるいは塗膜中のアクリル基の重合を効果的に行うため、紫外線照射前及び照射中に塗膜及び基材を熱風乾燥炉等任意の手法で加熱してもよい。
【0089】
また、本発明の含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物を用いて形成される硬化被膜(硬化樹脂層)の厚さは特に限定されるものではないが、得られる膜厚が薄すぎる場合には十分な表面硬度は得られず、また厚すぎるとハードコート膜の機械的強度が低下し、クラックが入りやすくなる点から、通常、5nm~100μm、特に1μm~20μmであることが好ましい。
【0090】
また、本発明の含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物を用いて形成される硬化被膜(硬化樹脂層)は、25℃、相対湿度40%における水接触角が90°以上、好ましくは95°以上であることが望ましい。なお、本発明において、水接触角は、接触角計Drop Master(協和界面科学(株)製)を用い、液滴:2μlの条件にて測定した値である。また、上記水接触角とするためには、該含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物が均一に混合していることが好ましい。
【0091】
このような物品としては、例えば、タブレット型コンピュータ、携帯電話・スマートフォン等の携帯(通信)情報端末、ノートPC、デジタルメディアプレイヤー、時計型・眼鏡型ウェアラブルコンピュータ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、電子ブックリーダーなど人の手で持ち歩く各種機器の筐体;液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、背面投写型ディスプレイ、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションプロジェクションディスプレイ、CRT、トナー系ディスプレイなどの各種フラットパネルディスプレイ及びTVの画面などの表示操作機器表面、自動車の外装、ピアノや家具の光沢表面、大理石等の建築用石材表面、トイレ、風呂、洗面所等の水周りの装飾建材、美術品展示用保護ガラス、ショーウインドウ、ショーケース、フォトフレーム用カバー、腕時計、自動車窓用ガラス、列車、航空機等の窓ガラス、自動車ヘッドライト、テールランプなどの透明なガラス製又は透明なプラスチック製(アクリル樹脂、ポリカーボネートなど)部材、各種ミラー部材等の塗装膜及び表面保護膜として有用である。
【0092】
特に、タッチパネルディスプレイなど人の指あるいは手のひらで画面上の操作を行う表示入力装置を有する各種機器、例えば、タブレット型コンピュータ、ノートPC、時計型ウェアラブルコンピュータ、活動量計、携帯電話・スマートフォン等携帯(通信)情報端末、デジタルメディアプレイヤー、電子ブックリーダー、デジタルフォトフレーム、ゲーム機及びゲーム機のコントローラー、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、自動車用等のナビゲーション装置、自動現金引出し預け入れ装置、現金自動支払機、自動販売機、デジタルサイネージ(電子看板)、セキュリティーシステム端末、POS端末、リモートコントローラーなど各種コントローラー、車載装置用パネルスイッチなどの表示入力装置などの表面保護膜として有用である。
【0093】
更に本発明の含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物により形成される硬化被膜は、光磁気ディスク、光ディスク等の光記録媒体;メガネレンズ、カメラレンズ、プロジェクターレンズプリズム、レンズシート、ペリクル膜、偏光板、光学フィルター、レンチキュラーレンズ、フレネルレンズ、反射防止膜、光ファイバーや光カプラーなどの光学部品・光デバイスの表面保護被膜としてあるいはこれら機器の各種保護部品の表面保護膜としても有用である。
【0094】
また更に、本発明の含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物により形成される硬化被膜は、従来の揮発性有機化合物を含むハードコート組成物により形成される硬化被膜と比して塗工時と硬化時の間の寸法変化が小さいために、硬化物に対して高い寸法精度が求められる用途、例えば、ナノインプリント用硬化性組成物、3Dプリンタ用硬化性組成物の表面保護膜としても有用である。
【実施例
【0095】
以下、合成例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0096】
[合成例1]含フッ素アクリル化合物(A-1)の合成
乾燥窒素雰囲気下で、還流装置と攪拌装置を備えた2,000mL三つ口フラスコに、下記式
CH2=CH-CH2-O-CH2-Rf’-CH2-O-CH2-CH=CH2
Rf’:-CF2O(CF2O)p1(CF2CF2O)q1CF2
(q1/p1=0.9、p1+q1≒45、19F-NMRより算出した数平均分子量≒4,300)
で表されるパーフルオロポリエーテル500g(0.12モル)と、m-キシレンヘキサフロライド700g、及びテトラメチルシクロテトラシロキサン361g(1.50モル)を投入し、攪拌しながら90℃まで加熱した。ここに白金/1,3-ジビニル-テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液0.442g(Pt単体として1.1×10-6モルを含有)を投入し、内温を90℃以上に維持したまま4時間攪拌を継続した。1H-NMRで原料のアリル基が消失したのを確認した後、溶剤と過剰のテトラメチルシクロテトラシロキサンを減圧留去した。その後活性炭処理を行い、下記式で示される無色透明の液状化合物(a)498gを得た。
【化42】
Rf’:-CF2O(CF2O)p1(CF2CF2O)q1CF2
(q1/p1=0.9、p1+q1≒45、19F-NMRより算出した数平均分子量≒4,800)
【0097】
乾燥空気雰囲気下で、上記で得られた化合物(a)10.0g(Si-H基量1.3×10-2モル)に対して、アリルオキシエチルメタクリレート3.2g(1.88×10-2モル)、m-キシレンヘキサフロライド10.0g、及び塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液1.0×10-2g(Pt単体として0.3×10-7モルを含有)を混合し、80℃で4時間攪拌した。1H-NMR及びIRでSi-H基が消失したのを確認した後、溶剤と過剰のアリルオキシエチルメタクリレートを減圧溜去し、活性炭処理を行い、下記式で示される無色透明の含フッ素アクリル化合物(A-1)10.4gを得た。
【化43】
Rf’:-CF2O(CF2O)p1(CF2CF2O)q1CF2
(q1/p1=0.9、p1+q1≒45)
【0098】
[合成例2]含フッ素アクリル化合物(A-2)の合成
乾燥窒素雰囲気下で、還流装置と攪拌装置を備えた1,000mL三つ口フラスコに、下記式
CH2=CH-CH2-O-CH2-Rf”-CH2-O-CH2-CH=CH2
Rf”:-CF2O(CF2O)p2(CF2CF2O)q2CF2
(q2/p2=1.3、p2+q2≒16、19F-NMRより算出した数平均分子量≒1,800)
で表されるパーフルオロポリエーテル188g(0.10モル)と、m-キシレンヘキサフロライド188g、及びテトラメチルシクロテトラシロキサン361g(1.50モル)を投入し、攪拌しながら90℃まで加熱した。ここに白金/1,3-ジビニル-テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液0.442g(Pt単体として1.1×10-6モルを含有)を投入し、内温を90℃以上に維持したまま4時間攪拌を継続した。1H-NMRで原料のアリル基が消失したのを確認した後、溶剤と過剰のテトラメチルシクロテトラシロキサンを減圧留去した。その後活性炭処理を行い、下記式で示される無色透明の液状化合物(b)192gを得た。
【化44】
Rf”:-CF2O(CF2O)p2(CF2CF2O)q2CF2
(q2/p2=1.3、p2+q2≒16、19F-NMRより算出した数平均分子量≒2,300)
【0099】
乾燥空気雰囲気下で、上記で得られた化合物(b)10.0g(Si-H基量2.6×10-2モル)に対して、アリルオキシエチルメタクリレート5.1g(2.60×10-2モル)、m-キシレンヘキサフロライド10.0g、及び塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液2.0×10-2g(Pt単体として0.6×10-7モルを含有)を混合し、80℃で4時間攪拌した。1H-NMR及びIRでSi-H基が消失したのを確認した後、溶剤と過剰のアリルオキシエチルメタクリレートを減圧溜去し、活性炭処理を行い、下記式で示される無色透明の含フッ素アクリル化合物(A-2)11.6gを得た。
【化45】
Rf”:-CF2O(CF2O)p2(CF2CF2O)q2CF2
(q2/p2=1.3、p2+q2≒16)
【0100】
[合成例3]含フッ素アクリル化合物(A-3)の合成
乾燥窒素雰囲気下で、還流装置と攪拌装置を備えた2,000mL三つ口フラスコに、下記式
CH2=CH-CH2-O-CH2-Rf’-CH2-O-CH2-CH=CH2
Rf’:-CF2O(CF2O)p1(CF2CF2O)q1CF2
(q1/p1=0.9、p1+q1≒45、19F-NMRより算出した数平均分子量≒4,300)
で表されるパーフルオロポリエーテル500g(0.12モル)と、m-キシレンヘキサフロライド700g、及びペンタメチルシクロペンタシロキサン451g(1.50モル)を投入し、攪拌しながら90℃まで加熱した。ここに白金/1,3-ジビニル-テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液0.442g(Pt単体として1.1×10-6モルを含有)を投入し、内温を90℃以上に維持したまま4時間攪拌を継続した。1H-NMRで原料のアリル基が消失したのを確認した後、溶剤と過剰のペンタメチルシクロペンタシロキサンを減圧留去した。その後活性炭処理を行い、下記式で示される無色透明の液状化合物(c)511gを得た。
【化46】
Rf’:-CF2O(CF2O)p1(CF2CF2O)q1CF2
(q1/p1=0.9、p1+q1≒45、19F-NMRより算出した数平均分子量≒4,900)
【0101】
乾燥空気雰囲気下で、上記で得られた化合物(c)10.0g(Si-H基量1.6×10-2モル)に対して、アリルオキシエチルメタクリレート4.2g(2.44×10-2モル)、m-キシレンヘキサフロライド10.0g、及び塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液1.0×10-2g(Pt単体として0.3×10-7モルを含有)を混合し、80℃で4時間攪拌した。1H-NMR及びIRでSi-H基が消失したのを確認した後、溶剤と過剰のアリルオキシエチルメタクリレートを減圧溜去し、活性炭処理を行い、下記式で示される無色透明の含フッ素アクリル化合物(A-3)10.1gを得た。
【化47】
Rf’:-CF2O(CF2O)p1(CF2CF2O)q1CF2
(q1/p1=0.9、p1+q1≒45)
【0102】
[合成例4]含フッ素アクリル化合物(A-4)の合成
乾燥窒素雰囲気下で、還流装置と攪拌装置を備えた1,000mL三つ口フラスコに、下記式
CH2=CH-CH2-O-CH2-Rf”-CH2-O-CH2-CH=CH2
Rf”:-CF2O(CF2O)p2(CF2CF2O)q2CF2
(q2/p2=1.3、p2+q2≒16、19F-NMRより算出した数平均分子量≒1,800)
で表されるパーフルオロポリエーテル188g(0.10モル)と、m-キシレンヘキサフロライド188g、及びペンタメチルシクロペンタシロキサン451g(1.50モル)を投入し、攪拌しながら90℃まで加熱した。ここに白金/1,3-ジビニル-テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液0.442g(Pt単体として1.1×10-6モルを含有)を投入し、内温を90℃以上に維持したまま4時間攪拌を継続した。1H-NMRで原料のアリル基が消失したのを確認した後、溶剤と過剰のペンタメチルシクロペンタシロキサンを減圧留去した。その後活性炭処理を行い、下記式で示される無色透明の液状化合物(d)199gを得た。
【化48】
Rf”:-CF2O(CF2O)p2(CF2CF2O)q2CF2
(q2/p2=1.3、p2+q2≒16、19F-NMRより算出した数平均分子量≒2,400)
【0103】
乾燥空気雰囲気下で、上記で得られた化合物(d)10.0g(Si-H基量3.3×10-2モル)に対して、アリルオキシエチルメタクリレート8.7g(5.11×10-2モル)、m-キシレンヘキサフロライド10.0g、及び塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液2.0×10-2g(Pt単体として0.6×10-7モルを含有)を混合し、80℃で4時間攪拌した。1H-NMR及びIRでSi-H基が消失したのを確認した後、溶剤と過剰のアリルオキシエチルメタクリレートを減圧溜去し、活性炭処理を行い、下記式で示される無色透明の含フッ素アクリル化合物(A-4)11.6gを得た。
【化49】
Rf”:-CF2O(CF2O)p2(CF2CF2O)q2CF2
(q2/p2=1.3、p2+q2≒16)
【0104】
[合成例5]含フッ素アクリル化合物(A-5)の合成
還流装置と攪拌装置を備えた100mL四つ口フラスコに、下記式
【化50】
で表される化合物(e)10.0g(Si-H基量8.65×10-3モル)、アリルオキシエチルメタクリレート2.2g(1.30×10-2モル)、m-キシレンヘキサフロライド10.0gを仕込み、窒素雰囲気下で90℃まで加熱攪拌した。ここに、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液2.0×10-2g(Pt単体として0.6×10-7モルを含有)を投入し、80℃で4時間攪拌した。1H-NMR及びIRでSi-H基が消失したのを確認した後、溶剤と過剰のアリルオキシエチルメタクリレートを減圧溜去し、活性炭処理を行い、下記式で示される半透明白色高粘稠液体の含フッ素アクリル化合物(A-5)8.9gを得た。
【化51】
【0105】
[合成例6]含フッ素アクリル化合物(A-6)の合成
還流装置と攪拌装置を備えた100mL四つ口フラスコに、下記式
【化52】
で表される化合物(f)10.0g(Si-H基量8.88×10-3モル)、アリルオキシエチルメタクリレート2.3g(1.33×10-2モル)、m-キシレンヘキサフロライド10.0gを仕込み、窒素雰囲気下で90℃まで加熱攪拌した。ここに、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液2.0×10-2g(Pt単体として0.6×10-7モルを含有)を投入し、80℃で4時間攪拌した。1H-NMR及びIRでSi-H基が消失したのを確認した後、溶剤と過剰のアリルオキシエチルメタクリレートを減圧溜去し、活性炭処理を行い、下記式で示される半透明白色高粘稠液体の含フッ素アクリル化合物(A-6)8.9gを得た。
【化53】
【0106】
なお、上記合成例1~6で得られた含フッ素アクリル化合物(A-1)~(A-6)に揮発性有機化合物は含まれていない。
【0107】
上記合成例1~6で得られた含フッ素アクリル化合物(A-1)~(A-6)と以下のアクリル化合物(B-1)~(B-3)を用いて、下記含フッ素アクリル組成物(F-1)~(F-6)を調製した。
(B-1)イソブチルアクリレート
(B-2)テトラヒドロフルフリルアクリレート
(B-3)1,6-ヘキサンジオールジアクリレート
【0108】
含フッ素アクリル組成物(F-1):
(A-1) 20質量部
(B-1) 80質量部
【0109】
含フッ素アクリル組成物(F-2):
(A-2) 20質量部
(B-3) 80質量部
【0110】
含フッ素アクリル組成物(F-3):
(A-3) 20質量部
(B-1) 80質量部
【0111】
含フッ素アクリル組成物(F-4):
(A-4) 20質量部
(B-3) 80質量部
【0112】
含フッ素アクリル組成物(F-5):
(A-5) 20質量部
(B-2) 80質量部
【0113】
含フッ素アクリル組成物(F-6):
(A-6) 20質量部
(B-2) 80質量部
【0114】
[実施例1~6、比較例1、2]
含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物の調製
調製した含フッ素アクリル組成物(F-1)~(F-6)、又は含フッ素アクリル化合物(A-1)、(A-2)を用いて、各々、下記表1に示す割合で配合した含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物を調製した。
【0115】
【表1】
【0116】
A-9550:ジペンタエリスリトールペンタ/ヘキサアクリレート(新中村化学(株)製)
A-TMM-3:ペンタエリスリトールトリアクリレート(新中村化学(株)製)
IBA:イソブチルアクリレート
THF-A:テトラヒドロフルフリルアクリレート
HDDA:1,6-ヘキサンジオールジアクリレート
O-1173:2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン(Omnirad-1173、BASFジャパン(株)製)
【0117】
塗工と硬化膜の作製
実施例及び比較例の各含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物を、ポリカーボネート基板上にスピンコートで塗工した。塗工後、室温(25℃)で10分レベリングした後、コンベヤ式メタルハライドUV照射装置(パナソニック電工(株)製)を使用し、窒素雰囲気中で、積算照射量1,600mJ/cm2の紫外線を塗工面に照射して組成物を硬化させ、厚さ約9μmの硬化膜を得た。
【0118】
上記で得られた硬化膜の外観(透明性)を目視にて測定すると共に、下記に示す方法により防汚性の評価として水接触角測定、及び耐マジックインク性の評価、耐摩耗性の評価として摩耗試験後水接触角測定を行った。これらの結果を表2に示す。
【0119】
防汚性の評価
[水接触角測定]
上記にて作製した硬化膜について、接触角計Drop Master(協和界面科学(株)製)を用いて、硬化膜の水に対する接触角を測定した(液滴:2μl、温度:25℃、湿度(RH):40%)。
【0120】
[耐マジックインク性(マジックはじき性)の評価]
上記にて作製した硬化膜について、マジックペン(寺西化学工業(株)製 マジックインキ大型)で直線を描き、インクをはじくものを○、はじかないものを×とした。
【0121】
耐摩耗性の評価
[摩耗試験後水接触角の測定]
硬化膜表面を、ラビングテスター(新東科学(株)製)を用いて摩耗試験を行い、試験後の水接触角を測定した。N=8の測定値の平均値を求めた。
試験条件を下記に示す。
消しゴム:RUBBER STICK(Minoan社製)
移動距離(片道):40mm
移動速度:3,200mm/分
荷重:500g/6mm2φ
摩耗回数:1,000回
【0122】
【表2】
【0123】
撥水・撥油性及び防汚性付与剤として分子構造中にウレタン結合を含有しない含フッ素アクリル化合物(A-1)~(A-6)、及び1分子中に(メタ)アクリル基を1~2個含むアクリル化合物(B)を特定割合で配合することにより調製した含フッ素アクリル組成物(F-1)~(F-6)を用いた実施例1~6は、優れた防汚性を示し、かつ、高い耐摩耗性が確認された。一方、分子構造中にウレタン結合を含有しない含フッ素アクリル化合物(A-1)又は(A-2)を1分子中に(メタ)アクリル基を1~2個含むアクリル化合物(B)と混合せずに直接添加した比較例1、比較例2は、硬化膜外観が白濁し、かつ低い防汚性が示された。