(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】電気化学素子機能層用複合粒子、電気化学素子機能層用バインダー組成物、電極合材層用導電材ペースト、電極合材層用スラリー、電気化学素子用電極、および電気化学素子
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20241210BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20241210BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20241210BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20241210BHJP
H01G 11/38 20130101ALI20241210BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/13
H01G11/06
H01G11/38
(21)【出願番号】P 2021509137
(86)(22)【出願日】2020-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2020011818
(87)【国際公開番号】W WO2020196114
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2019059181
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】召田 麻貴
(72)【発明者】
【氏名】園部 健矢
(72)【発明者】
【氏名】一色 康博
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/155345(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/021891(WO,A1)
【文献】特開2018-129121(JP,A)
【文献】国際公開第2014/119315(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108134044(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メラミン化合物を含むコア粒子と、
前記コア粒子の外表面の少なくとも一部を覆い、そして、ニトリル基、カルボン酸基、ヒドロキシル基、スルホン酸基、アルデヒド基、およびアミド基からなる群から選択される少なくとも一つを有するシェル重合体と、
を含み、前記コア粒子が前記シェル重合体で被覆されたコアシェル構造を有する、電気化学素子機能層用複合粒子。
【請求項2】
前記シェル重合体が、前記コア粒子と前記シェル重合体の合計中に占める割合は、前記コア粒子と前記シェル重合体の合計を100質量%として、0.1質量%以上50.0質量%以下である、請求項1に記載の電気化学素子機能層用複合粒子。
【請求項3】
前記シェル重合体は、電解液膨潤度が100質量%以上600質量%以下である、請求項1
または2に記載の電気化学素子機能層用複合粒子。
【請求項4】
熱分解開始温度が120℃以上500℃以下である、請求項1
~3の何れかに記載の電気化学素子機能層用複合粒子。
【請求項5】
請求項1~
4の何れかに記載の電気化学素子機能層用複合粒子と、溶媒とを含む、電気化学素子機能層用バインダー組成物。
【請求項6】
更に機能層用結着材を含む、請求項
5に記載の電気化学素子機能層用バインダー組成物。
【請求項7】
前記機能層用結着材は、カルボン酸基、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、エポキシ基、オキサゾリン基、イソシアネート基、スルホン酸基、エステル基、およびアミド基からなる群から選択される少なくとも一つを有する重合体である、請求項
6に記載の電気化学素子機能層用バインダー組成物。
【請求項8】
請求項
5~
7の何れかに記載の電気化学素子機能層用バインダー組成物と、導電材とを含む、電極合材層用導電材ペースト。
【請求項9】
請求項
8に記載の電極合材層用導電材ペーストと、電極活物質粒子とを含む、電極合材層用スラリー。
【請求項10】
電極合材層を集電体上に備える電気化学素子用電極であって、前記電極合材層が、請求項
9に記載の電極合材層用スラリーの乾燥物である、電気化学素子用電極。
【請求項11】
請求項
10に記載の電気化学素子用電極を備える、電気化学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子機能層用複合粒子、電気化学素子機能層用バインダー組成物、電極合材層用導電材ペースト、電極合材層用スラリー、電気化学素子用電極、および電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、およびリチウムイオンキャパシタなどの電気化学素子は、小型で軽量、且つ、エネルギー密度が高く、更に繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。そして電気化学素子は、一般に、複数の電極、および、これら電極を隔離して内部短絡を防止するセパレータなどの素子部材を備えている。
【0003】
電気化学素子の素子部材としては、接着性を付与し得る結着材を含み、任意に、素子部材に所望の機能を発揮させるために配合されている粒子(以下、「機能性粒子」という。)を含んでなる機能層を備える部材が使用されている。
具体的に、電気化学素子のセパレータとしては、セパレータ基材の上に、結着材を含む接着層や、結着材と機能性粒子としての非導電性粒子とを含む多孔膜層を備えるセパレータが使用されている。また、電気化学素子の電極としては、集電体の上に、結着材と機能性粒子としての電極活物質粒子とを含む電極合材層を備える電極や、集電体上に電極合材層を備える電極基材の上に、さらに上述の接着層や多孔膜層を備える電極が使用されている。
【0004】
そして、電気化学素子の内部短絡を防止して安全性を確保すべく、素子部材としてのセパレータを改良する試みがなされている。例えば、特許文献1では、所定の複数のセパレータ層を有する電気化学素子用セパレータを用いることで、電気化学素子の安全性を高めることができるとの報告がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで近年、電気化学素子には、その用途の多様化等により、電極間の短絡に起因する異常発熱や発火などの熱暴走を抑制して、より高度な安全性を確保する新たな技術が求められていた。
上記要求に対し、本発明者は、電気化学素子の素子部材を構成する機能層中に、高温により分解して不燃性ガス(窒素、二酸化炭素、一酸化炭素、アンモニア、水蒸気等)を発生する有機化合物を含有させる手法を検討した。このような有機化合物を機能層中に含有させることで、電極間の短絡により電気化学素子内部が異常に高温となった場合であっても、不燃性ガスが発生して熱暴走を抑制することが可能となる。
その上で、本発明者は、上記有機化合物と結着材をそれぞれ溶媒中に分散および/または溶解してなるスラリーを基材上に塗布し、塗膜を乾燥することで機能層の形成を試みた。しかしながら、このようにして得られた機能層を有する素子部材は、電気化学素子に十分な安全性を付与し得る一方で、当該素子部材を備える電気化学素子は、高温で長時間保存した際に容量が低下する(即ち、高温保存特性に劣る)場合があるといった問題があることが明らかになった。
【0007】
そこで、本発明は、機能層の接着性と電気化学素子の安全性を十分に確保する一方で、電気化学素子に優れた高温保存特性を発揮させ得る、電気化学素子に関する新たな技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、高温により分解して不燃性ガスを発生する有機化合物として、メラミン化合物に着目した。そして、メラミン化合物を含む粒子について、その外表面の一部又は全部を所定の重合体で被覆してなる複合粒子を用いて機能層を形成することにより、接着性に優れる機能層が得られ、且つ当該機能層を備える素子部材によれば、電気化学素子の安全性を十分に確保しつつ高温保存特性を向上させうることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学素子機能層用複合粒子は、メラミン化合物を含むコア粒子と、前記コア粒子の外表面の少なくとも一部を覆い、そして、ニトリル基、カルボン酸基、ヒドロキシル基、スルホン酸基、アルデヒド基、およびアミド基からなる群から選択される少なくとも一つを有するシェル重合体と、を備えることを特徴とする。このように、メラミン化合物を含むコア粒子の外表面が、上述した官能基の少なくとも何れかを有するシェル重合体で被覆されたコアシェル構造を有する複合粒子を用いれば、接着性に優れる機能層を形成することができ、また、当該機能層を備える素子部材を用いれば、安全性が十分に確保され、且つ高温保存特性に優れる電気化学素子を製造することができる。
【0010】
ここで、本発明の電気化学素子機能層用複合粒子において、前記シェル重合体は、電解液膨潤度が100質量%以上600質量%以下であることが好ましい。なお、「電解液膨潤度」は、60℃の測定用電解液中に72時間浸漬した際の膨潤度である。ここで、測定用電解液は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート=3/7の質量比で混合してなる混合液に、更にビニレンカーボネート2体積%を添加して得られる混合溶媒に対して、LiPF6を1.0mol/リットルの濃度で溶かした溶液である。シェル重合体を上述した所定の測定用電解液中に60℃で72時間浸漬した際の膨潤度が上述した範囲内であれば、電気化学素子の高温保存特性を更に向上させることができる。
なお、本発明において、「電解液膨潤度」の測定方法としては、より詳細には、本明細書の実施例に記載の測定方法を用いることができる。
【0011】
そして、本発明の電気化学素子機能層用複合粒子は、熱分解開始温度が120℃以上500℃以下であることが好ましい。複合粒子の熱分解開始温度が上述した範囲内であれば、機能層の接着性を更に向上させつつ、電気化学素子の安全性を一層良好に確保することができる。
なお、本発明において、「熱分解開始温度」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0012】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学素子機能層用バインダー組成物は、上述した本発明の非水系二次電池機能層用複合粒子の何れかと、溶媒とを含むことを特徴とする。上述した複合粒子の何れかと溶媒とを含むバインダー組成物を用いれば、接着性に優れる機能層を形成することができ、また、当該機能層を備える素子部材を用いれば、安全性が十分に確保され、且つ高温保存特性に優れる電気化学素子を製造することができる。
【0013】
ここで、本発明の電気化学素子機能層用バインダー組成物は、更に機能層用結着材を含むことが好ましい。機能層用結着材を更に含むバインダー組成物を用いれば、機能層の接着性を更に向上させることができる。
【0014】
そして、本発明の電気化学素子機能層用バインダー組成物において、前記機能層用結着材は、カルボン酸基、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、エポキシ基、オキサゾリン基、イソシアネート基、スルホン酸基、エステル基、およびアミド基からなる群から選択される少なくとも一つを有する重合体であることが好ましい。機能層用結着材として、上述した官能基の少なくとも何れかを有する重合体を用いれば、機能層の接着性をより一層向上させることができる。
【0015】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電極合材層用導電材ペーストは、上述した本発明の電気化学素子機能層用バインダー組成物の何れかと、導電材とを含むことを特徴とする。上述したバインダー組成物の何れかと導電材とを含む導電材ペーストを用いれば、接着性に優れる電極合材層を形成することができ、また、当該電極合材層を備える電極を用いれば、安全性が十分に確保され、且つ高温保存特性に優れる電気化学素子を製造することができる。
【0016】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電極合材層用スラリーは、上述した本発明の電極合材層用導電材ペーストと、電極活物質粒子とを含むことを特徴とする。上述した導電材ペーストと電極活物質粒子とを含むスラリーを用いれば、接着性に優れる電極合材層を形成することができ、また、当該電極合材層を備える電極を用いれば、安全性が十分に確保され、且つ高温保存特性に優れる電気化学素子を製造することができる。
【0017】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学素子用電極は、電極合材層を集電体上に備える電気化学素子用電極であって、前記電極合材層が、上述した本発明の電極合材層用スラリーの乾燥物であることを特徴とする。上述した電極合材層用スラリーの乾燥物からなる電極合材層は、集電体に強固に密着し得り、当該電極合材層を備える電極を用いれば、安全性が十分に確保され、且つ高温保存特性に優れる電気化学素子を製造することができる。
【0018】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学素子は、上述した本発明の電気化学素子用電極を備えることを特徴とする。上述した電極を備える電気化学素子は、安全性が十分に確保され、且つ高温保存特性に優れる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、機能層の接着性と電気化学素子の安全性を十分に確保する一方で、電気化学素子に優れた高温保存特性を発揮させ得る電気化学素子機能層用複合粒子および電気化学素子機能層用バインダー組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、電極合材層の接着性と電気化学素子の安全性を十分に確保する一方で、電気化学素子に優れた高温保存特性を発揮させ得る電極合材層用導電材ペーストおよび電極合材層用スラリーを提供することができる。
そして、本発明によれば、電気化学素子の安全性を十分に確保する一方で、電気化学素子に優れた高温保存特性を発揮させ得る電気化学素子用電極を提供することができる。
更に、本発明によれば、安全性が十分に確保され、且つ高温保存特性に優れる電気化学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の複合粒子の一例の構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の電気化学素子機能層用複合粒子は、電気化学素子の機能層(電極合材層、多孔膜層、接着層など)の製造用途に用いられるものであり、例えば、本発明の電気化学素子機能層用バインダー組成物の調製に用いることができる。
また、本発明の電気化学素子機能層用バインダー組成物は、例えば、本発明の電極合材層用導電材ペーストを調製する際に用いることができる。
そして、本発明の電極合材層用導電材ペーストは、本発明の電極合材層用スラリーを調製する際に用いることができる。
更に、本発明の電気化学素子用電極は、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、およびリチウムイオンキャパシタなどの電気化学素子の電極として使用し得るものであり、本発明の電極合材層用スラリーを用いて形成された電極合材層を有するものである。
加えて、本発明の電気化学素子は、本発明の電気化学素子用電極を備えるものである。
【0022】
(電気化学素子機能層用複合粒子)
本発明の複合粒子は、コア粒子と、コア粒子に(物理的および/または化学的に)接着することで当該コア粒子の外表面の少なくとも一部を被覆するシェル重合体とを備える。ここで、本発明の複合粒子において、コア粒子はメラミン化合物を含み、シェル重合体は、ニトリル基、カルボン酸基、ヒドロキシル基、スルホン酸基、アルデヒド基、およびアミド基(以下、これらの官能基を纏めて「シェル官能基」と称する場合がある。)からなる群から選択される少なくとも一つの官能基を有する。
【0023】
そして、本発明の複合粒子は、メラミン化合物を含むコア粒子が、上述したシェル官能基を有するシェル重合体により被覆されてなるコアシェル構造を有するため、本発明の複合粒子によれば、接着性に優れる機能層、および、安全性が十分に確保されると共に高温保存特性にも優れる電気化学素子を製造することができる。
【0024】
ここで、本発明の複合粒子を用いることで上述した効果が奏される理由は明らかではないが、以下の通りであると推察される。
まず、コア粒子に含まれるメラミン化合物の結着能と、シェル重合体に含まれるシェル官能基の結着能に因り、本発明の複合粒子を用いて機能層を形成することで、得られる機能層に優れた接着性を発揮させることが出来る。また、コア粒子に含まれるメラミン化合物は、機能層の接着性向上に寄与するのみならず、電気化学素子内部が異常な高温となった際に分解して不燃性ガスを発生しうる。そのため、本発明の複合粒子を用いて形成される機能層を備える電気化学素子は、電極間の短絡により電気化学素子内部が異常な高温となった場合であっても、メラミン化合物から不燃性ガスが発生して熱暴走を抑制することが可能となる。一方で、コア粒子に含まれるメラミン化合物は、電解液と接触することで、意図せず化学反応を起こす性質がある。これに対し、本発明の複合粒子では、メラミン化合物を含むコア粒子外表面の少なくとも一部がシェル重合体により覆われているため、本発明の複合粒子を用いて機能層を形成した場合に、メラミン化合物と電解液の接触が抑制される。そのため、電気化学素子内部でのメラミン化合物と電解液の間に起こりうる化学反応を抑え、電気化学素子の高温保存特性を十分に確保することができる。
なお、本発明の複合粒子は、機能層として特に電極合材層の調製に用いることが好ましい。電極合材層中にメラミン化合物を含む複合粒子が配置されることにより、導電材、および熱的に不安定であり、可燃性物質である酸素を放出することがある電極活物質粒子に対してメラミン化合物が近傍で作用することができる。そのため、電極構造の破壊および導電パスの切断が迅速に行うことが可能となり、電気化学素子の高度な安全性をより一層良好に確保することができるからである。
【0025】
<コアシェル構造>
ここで、本発明の複合粒子は、コア部とシェル部を備える、上述したコアシェル構造を有する。このコアシェル構造において、シェル部であるシェル重合体は、コア部であるコア粒子の外表面を全体的に覆っていてもよいし、部分的に覆っていてもよい。
【0026】
シェル重合体がコア粒子の外表面を全体的に覆う場合の複合粒子について、その断面構造の一例を
図1に示す。
図1において、複合粒子100は、コア部としてのコア粒子110と、シェル部としてのシェル重合体120を備えるコアシェル構造を有する。ここで、コア粒子110は、この複合粒子100においてシェル重合体120よりも内側に存在する。また、シェル重合体120は、コア粒子110の外表面110Sを覆っており、通常は複合粒子100において最も外側に存在する。そして、
図1において、シェル重合体120は、コア粒子110の外表面110Sの全体を覆っている。
【0027】
<コア粒子>
本発明の複合粒子のコア部を形成するコア粒子は、少なくともメラミン化合物を含み、メラミン化合物以外の成分(その他の化合物)を含んでいてもよい。即ち、コア粒子は、メラミン化合物のみからなる粒子であってもよいし、メラミン化合物とその他の化合物からなる粒子であってもよい。
【0028】
<<メラミン化合物>>
メラミン化合物としては、メラミンおよびメラミンの誘導体、並びにそれらの塩が挙げられる。そして、メラミンおよびメラミンの誘導体としては、例えば以下の式(I)で表される化合物が挙げられる。
【0029】
【0030】
式(I)中、各Aは、それぞれ独立して、ヒドロキシル基または-NR1R2(R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、炭化水素基、またはヒドロキシル基含有炭化水素基を表す。また、式(I)中にR1が複数存在する場合は、複数存在するR1は同一であっても異なっていてもよく、R2が複数存在する場合は、複数存在するR2は同一であっても異なっていてもよい。)を表す。
【0031】
ここで、R1およびR2の炭化水素基およびヒドロキシル基含有炭化水素基は、炭素数が2以上の場合、炭素原子と炭素原子の間に1つまたは2つ以上の酸素原子(-О-)が介在してもよい(但し、2つ以上の酸素原子が介在する場合、それらは互いに隣接しないものとする)。そして、R1およびR2の炭化水素基およびヒドロキシル基含有炭化水素基の炭素原子数は、特に限定されないが、1以上5以下であることが好ましい。
【0032】
また、メラミンおよびメラミンの誘導体の塩としては、特に限定されないが、硫酸塩、シアヌル酸塩、ポリリン酸塩などが挙げられる。
【0033】
そして、メラミン化合物としては、機能層の接着性を更に向上させる観点から、メラミン、アンメリン、およびアンメリド、並びにこれらのシアヌル酸との塩が好ましく、メラミンおよびメラミンのシアヌル酸塩(メラミンシアヌレート)がより好ましい。
なお、メラミン化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0034】
ここで、メラミン化合物がコア粒子中に占める割合は、電気化学素子の安全性を一層良好に確保しつつ機能層の接着性を更に向上させる観点から、コア粒子の質量(換言すると、メラミン化合物とその他の化合物の質量の合計)を100質量%として、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、95質量%以上であることが特に好ましく、100質量%である(即ち、コア粒子がメラミン化合物のみからなる)ことが最も好ましい。
【0035】
<<その他の化合物>>
コア粒子が任意に含み得るその他の化合物としては、本発明の効果を著しく妨げるものでなければ特に限定されない。例えば、コア粒子は、メラミン化合物以外の、高温により分解して不燃性ガスを発生する有機化合物を含んでいてもよい。このような有機化合物としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、p-トルエンスルホニルヒドラジド、5-メチル-lH-ベンゾトリアゾール、オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド、トリヒドラジントリアジン、アゾジカルボンアミド、ヒドラゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、p-トルエンスルホニルセミカルバジド、p,p’-オキシビズベンゼンスルホニルセミカルバジドが挙げられる。なお、その他の化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0036】
<<複合粒子中に占めるコア粒子の割合>>
複合粒子において、コア粒子が、コア粒子とシェル重合体の合計中に占める割合は、コア粒子とシェル重合体の合計を100質量%として、50.0質量%以上であることが好ましく、60.0質量%以上であることがより好ましく、70.0質量%以上であることが更に好ましく、80.0質量%以上であることが特に好ましく、99.9質量%以下であることが好ましく、95.0質量%以下であることがより好ましく、90.0質量%以下であることが更に好ましい。コア粒子とシェル重合体の合計中に占めるコア粒子の割合が50.0質量%以上であれば、電気化学素子の安全性を一層良好に確保することができ、99.9質量%以下であれば、電気化学素子の高温保存特性を更に向上させることができる。
【0037】
<シェル重合体>
シェル重合体は、上述したコア粒子の外表面に接着することでコア粒子と物理的又は化学的に結合し、コア粒子の外表面の少なくとも一部を被覆しうる重合体である。そして、シェル重合体は、コア粒子と一体となって微粒子である複合粒子を形成する。
【0038】
<<シェル重合体の官能基>>
シェル重合体は、ニトリル基、カルボン酸基、ヒドロキシル基、スルホン酸基、アルデヒド基、およびアミド基からなる群から選択される少なくとも一つのシェル官能基を有することが必要である。これらシェル官能基を有する重合体は、機能層に接着性を付与し得るのみならず、メラミン化合物を含む上述のコア粒子との親和性が良好であるため、コア粒子に接着してその外表面を良好に被覆することができる。なお、シェル重合体は、シェル官能基を1種類有していてもよく、2種類以上有していてもよい。そして、コア粒子との親和性を一層十分に確保して電気化学素子の高温保存特性を更に向上させる観点から、シェル官能基としては、ニトリル基、カルボン酸基、ヒドロキシル基が好ましく、ニトリル基、カルボン酸基がより好ましい。また、機能層の接着性を更に向上させる観点からは、シェル官能基としては、スルホン酸基がより好ましい。
なお、シェル官能基は、塩(ナトリウム塩など)の形態をとっていてもよい。
【0039】
ここで、シェル重合体に上述したシェル官能基を導入する方法は特に限定されない。例えば、上述したシェル官能基を有する単量体(シェル官能基含有単量体)を用いて重合体を調製し、シェル官能基含有単量体単位を含む重合体を得てもよいし、任意の重合体を変性することにより、上述したシェル官能基が導入された重合体を得てもよいが、前者が好ましい。すなわち、シェル重合体は、電気化学素子の高温保存特性を更に向上させる観点から、ニトリル基含有単量体単位、カルボン酸基含有単量体単位、ヒドロキシル基含有単量体単位、スルホン酸基含有単量体単位、アルデヒド基含有単量体単位、およびアミド基含有単量体単位の少なくともいずれかを含むことが好ましく、ニトリル基含有単量体単位、カルボン酸基含有単量体単位、およびヒドロキシル基含有単量体単位の少なくともいずれかを含むことがより好ましく、ニトリル基含有単量体単位、カルボン酸基含有単量体単位の少なくともいずれかを含むことが更に好ましい。
また、シェル重合体は、機能層の接着性を更に向上させる観点から、スルホン酸基含有単量体単位を含むことが好ましい。
なお、本発明において、重合体が「単量体単位を含む」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の繰り返し単位が含まれている」ことを意味する。
【0040】
[ニトリル基含有単量体単位]
ニトリル基含有単量体単位を形成し得るニトリル基含有単量体としては、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体が挙げられる。具体的には、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β-エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル;α-クロロアクリロニトリル、α-ブロモアクリロニトリルなどのα-ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリルなどのα-アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。なお、ニトリル基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0041】
[カルボン酸基含有単量体単位]
カルボン酸基含有単量体単位を形成し得るカルボン酸基含有単量体としては、モノカルボン酸およびその誘導体や、ジカルボン酸およびその酸無水物並びにそれらの誘導体などが挙げられる。
モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。
モノカルボン酸誘導体としては、2-エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α-アセトキシアクリル酸、β-trans-アリールオキシアクリル酸、α-クロロ-β-E-メトキシアクリル酸などが挙げられる。
ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。
ジカルボン酸誘導体としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸や、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキルなどのマレイン酸モノエステルが挙げられる。
ジカルボン酸の酸無水物としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。
また、カルボン酸基含有単量体としては、加水分解によりカルボン酸基を生成する酸無水物も使用できる。中でも、カルボン酸基含有単量体としては、アクリル酸およびメタクリル酸が好ましい。なお、カルボン酸基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0042】
[ヒドロキシル基含有単量体単位]
ヒドロキシル基含有単量体単位を形成し得るヒドロキシル基含有単量体としては、(メタ)アリルアルコール、3-ブテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オールなどのエチレン性不飽和アルコール;アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、マレイン酸ジ-2-ヒドロキシエチル、マレイン酸ジ-4-ヒドロキシブチル、イタコン酸ジ-2-ヒドロキシプロピルなどのエチレン性不飽和カルボン酸のアルカノールエステル類;一般式:CH2=CRa-COO-(CqH2qO)p-H(式中、pは2~9の整数、qは2~4の整数、Raは水素原子またはメチル基を表す)で表されるポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル類;2-ヒドロキシエチル-2’-(メタ)アクリロイルオキシフタレート、2-ヒドロキシエチル-2’-(メタ)アクリロイルオキシサクシネートなどのジカルボン酸のジヒドロキシエステルのモノ(メタ)アクリル酸エステル類;2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、2-ヒドロキシプロピルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;(メタ)アリル-2-ヒドロキシエチルエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル-3-ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル-3-ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル-4-ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル-6-ヒドロキシヘキシルエーテルなどのアルキレングリコールのモノ(メタ)アリルエーテル類;ジエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アリルエーテルなどのポリオキシアルキレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル類;グリセリンモノ(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリル-2-クロロ-3-ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシ-3-クロロプロピルエーテルなどの、(ポリ)アルキレングリコールのハロゲンおよびヒドロキシ置換体のモノ(メタ)アリルエーテル;オイゲノール、イソオイゲノールなどの多価フェノールのモノ(メタ)アリルエーテルおよびそのハロゲン置換体;(メタ)アリル-2-ヒドロキシエチルチオエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシプロピルチオエーテルなどのアルキレングリコールの(メタ)アリルチオエーテル類;N-ヒドロキシメチルアクリルアミド(N-メチロールアクリルアミド)、N-ヒドロキシメチルメタクリルアミド、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド、N-ヒドロキシエチルメタクリルアミドなどのヒドロキシル基を有するアミド類などが挙げられる。なお、ヒドロキシル基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
なお、本発明において、「(メタ)アリル」とは、アリルおよび/またはメタリルを意味し、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよび/またはメタクリロイルを意味する。
【0043】
[スルホン酸基含有単量体単位]
スルホン酸基含有単量体単位を形成し得るスルホン酸基含有単量体としては、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸-2-スルホン酸エチル、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。なお、スルホン酸基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0044】
[アルデヒド基含有単量体単位]
アルデヒド基含有単量体単位を形成し得るアルデヒド基含有単量体としては、アクロレイン等が挙げられる。なお、アルデヒド基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0045】
[アミド基含有単量体単位]
アミド基含有単量体単位を形成し得るアミド基含有単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、ビニルピロリドンなどが挙げられる。なお、アミド基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0046】
ここで、シェル重合体に含有される全繰り返し単位の量を100質量%とした場合の、シェル重合体中のシェル官能基含有単量体単位の含有割合は、電気化学素子の高温保存特性を更に向上させる観点から、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、70質量%以上であることが特に好ましい。なお、シェル重合体中のシェル官能基含有単量体単位の含有割合の上限は特に限定されず、100質量%以下とすることができ、99質量%以下とすることができる。
【0047】
[その他の繰り返し単位]
シェル重合体は、上述したシェル官能基含有単量体単位以外の繰り返し単位(その他の繰り返し単位)を含んでいてもよい。このようなその他の繰り返し単位としては、特に限定されないが、例えば、スチレン単位などの芳香族ビニル単量体単位、n-ブチルアクリレート単位などの(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、1,3-ブタジエン単位などの脂肪族共役ジエン単量体単位、および、脂肪族共役ジエン単量体単位を水素化して得られる脂肪族共役ジエン単量体水素化物単位などが挙げられる。
なお、シェル重合体は、その他の繰り返し単位を1種類含んでいてもよく、2種類以上含んでいてもよい。
【0048】
<<シェル重合体の調製方法>>
本発明において、シェル重合体の調製方法は特に限定されない。シェル重合体は、例えば、1種類又は2種類以上の単量体を含む単量体組成物を水系溶媒中で重合し、任意に水素化や変性を行うことにより製造される。なお、単量体組成物中の各単量体の含有割合は、重合体中の所望の単量体単位(繰り返し単位)の含有割合に準じて定めることができる。
なお、重合様式は、特に制限なく、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。また、重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合、各種縮合重合、付加重合などいずれの反応も用いることができる。そして、重合に際しては、必要に応じて既知の乳化剤や重合開始剤を使用することができる。また、水素化および変性は、既知の方法により行うことができる。
【0049】
<<シェル重合体の種類>>
そして、シェル重合体としては、電気化学素子の高温保存特性を更に向上させる観点から、例えば、ポリアクリロニトリル(アクリロニトリル単位を50質量%超含む重合体)、ポリビニルピロリドン(ビニルピロリドン単位を50質量%超含む重合体)、アクリル酸-アクリルアミド共重合体(アクリル酸単位とアクリルアミド単位を合計で50質量%超含む重合体)、アクリル酸-3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸共重合体(アクリル酸単位と3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸単位を合計で50質量%超含む重合体)が好ましく、ポリアクリロニトリル、アクリル酸-アクリルアミド共重合体、アクリル酸-3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸共重合体がより好ましい。
【0050】
<<電解液膨潤度>>
ここで、シェル重合体は、電解液膨潤度が、100質量%以上であることが好ましく、600質量%以下であることが好ましく、500質量%以下であることがより好ましく、400質量%以下であることが更に好ましく、300質量%以下であることが特に好ましい。電解液膨潤度が上述した範囲内であれば、電解液中でのシェル重合体の膨潤が抑制されることでコア粒子中のメラミン化合物と電解液の間の化学反応が抑えられるため、電気化学素子の高温保存特性を更に向上させることができる。
なお、シェル重合体の電解液膨潤度は、例えば、シェル重合体の調製に用いる単量体の種類および/または比率を変更することにより調整することができる。
【0051】
<<複合粒子中に占めるシェル重合体の割合>>
複合粒子において、シェル重合体が、コア粒子とシェル重合体の合計中に占める割合は、コア粒子とシェル重合体の合計を100質量%として、0.1質量%以上であることが好ましく、5.0質量%以上であることがより好ましく、8.5質量%以上であることが更に好ましく、50.0質量%以下であることが好ましく、40.0質量%以下であることがより好ましく、30.0質量%以下であることが更に好ましく、20.0質量%以下であることが特に好ましい。コア粒子とシェル重合体の合計中に占めるシェル重合体の割合が0.1質量%以上であれば、電気化学素子の高温保存特性を更に向上させることができ、50.0質量%以下であれば、電気化学素子の安全性を一層良好に確保することができる。
【0052】
<複合粒子の調製方法>
コア粒子がシェル重合体で被覆された構造を有する複合粒子を調製する方法は、コア部を形成する材料(コア材料)と、シェル部を形成する材料(シェル材料)とを造粒して、所定のコアシェル構造を形成可能であれば特に限定されないが、流動層造粒法、噴霧造粒法、凝固剤析出法、pH析出法、乾式混合法などが挙げられる。
そして、複合粒子を調製する方法としては、噴霧造粒法、乾式混合法が好ましい。
【0053】
<<噴霧造粒法>>
噴霧造粒法では、コア材料と、シェル材料と、水などの水系媒体とを含むスラリー組成物を噴霧乾燥して、所定のコアシェル構造を有する微粒子を得ることができる。具体的な手順としては、コア材料と、シェル材料と、水系媒体とを混合してスラリー組成物を用意し、このスラリー組成物を噴霧して乾燥させることにより、複合粒子を造粒する。
【0054】
ここで、コア材料、シェル材料および水系媒体を混合する手段としては、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサーなどの混合機が挙げられる。また、混合は、通常、室温~80℃の範囲で、10分~数時間行う。なお、上述の混合により得られるスラリー組成物の固形分濃度は、特に限定されないが、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、特に好ましくは10質量%以上であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、特に好ましくは30質量%以下である。
【0055】
上述の混合により得られたスラリー組成物を、噴霧乾燥機を用いて噴霧することにより、噴霧されたスラリー組成物の液滴を乾燥塔内部で乾燥する。これにより、液滴に含まれるコア材料の外表面にシェル材料が結合し、コア粒子の少なくとも一部の外表面がシェル重合体により覆われてなる複合粒子を得ることができる。なお、噴霧されるスラリー組成物の温度は、通常は室温であるが、加温して室温より高い温度としてもよい。また、噴霧乾燥時の熱風温度は、通常80~250℃、好ましくは100~200℃である。
【0056】
<<乾式混合法>>
乾式混合法では、コア材料と、シェル材料とを混合時の固形分濃度が80質量%以上で混合して、所定のコアシェル構造を有する微粒子を得ることができる。
ここで、コア材料と、シェル材料とを乾式混合する方法としては、容器自体が振とうおよび/または回転することで内容物を混合される、ロッキングミキサー、タンブラーミキサー等を用いた容器撹拌法;容器内に対し水平、または垂直の回転軸に撹拌のための羽根、回転盤、またはスクリュー等が取り付けられた混合機である、水平円筒型混合機、V型混合機、リボン型混合機、円錐型スクリュー混合機、高速流動型混合機、回転円盤型混合機および高速回転羽根混合機等を用いた機械式撹拌法;圧縮気体による旋回気流を利用する、流動層の中で粉体を混合する気流撹拌法;等が挙げられる。また、これらの機構は単独あるいは併用して用いられた混合機を使用することもできる。また、乾式混合を行った後に、乳鉢等により凝集をほぐす程度に解砕を行ってもよい。
【0057】
<複合粒子の性状>
複合粒子は、熱分解開始温度が、120℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることが更に好ましく、260℃以上であることが特に好ましく、500℃以下であることが好ましく、400℃以下であることがより好ましく、350℃以下であることが更に好ましい。複合粒子の熱分解開始温度が120℃以上であれば、複合粒子(特にはコア粒子)が異常な高温時以外に熱分解するのを抑制し、機能層の接着性を十分に向上させることができる。一方、複合粒子の熱分解開始温度が500℃以下であれば、電気化学素子の安全性を一層良好に確保することができる。
なお、複合粒子の熱分解開始温度は、例えば、コア粒子中のメラミン化合物、および任意に含まれるその他の化合物の種類および/または比率を変更することで、調整することができる。また、コア粒子(またはシェル重合体)が、コア粒子とシェル重合体の合計中に占める割合を変更することでも、調整することができる。
【0058】
そして、複合粒子は、水分含有量が、3.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることが更に好ましく、0.1質量%以下であることが特に好ましく、0質量%(検出限界以下)であることが最も好ましい。
なお、複合粒子の水分含有量は、カールフィッシャー法により測定することができる。
また、上述した通り、複合粒子において、シェル重合体はコア粒子の外表面全体を被覆していてもよく、一部を被覆していてもよいが、複合粒子の外表面にシェル重合体が存在する割合(複合粒子の外表面全体の面積に対する、当該外表面においてシェル重合体が存在する箇所の面積の割合。「被覆率」とも言う。)は、電気化学素子に高温保存特性を十分に確保する観点から、複合粒子の外表面全体の面積を100%として、50%以上100%以下であることが好ましく、70%以上100%以下であることがより好ましい。
なお、本発明において、複合粒子の「被覆率」は、粒子の集合体としての複合粒子を走査型電子顕微鏡により観察し、任意に選択した10個の粒子の平均値として算出することができる。
加えて、複合粒子の体積平均粒子径D50は、0.01μm以上であることが好ましく、0.10μm以上であることがより好ましく、5.00μm以下であることが好ましく、2.50μm以下であることがより好ましい。
なお、本発明において、「体積平均粒子径D50」とは、レーザー回折法で測定された粒度分布(体積基準)において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径を指す。
【0059】
(電気化学素子機能層用バインダー組成物)
本発明のバインダー組成物は、上述した本発明の複合粒子が、溶媒中に分散してなる組成物である。また、本発明のバインダー組成物は、任意に、機能層用結着材や、その他の成分を含むことができる。そして、本発明のバインダー組成物を用いれば、接着性に優れる機能層を形成することができ、また、当該機能層を備える素子部材を用いれば、安全性が十分に確保され、且つ高温保存特性に優れる電気化学素子を製造することができる。
なお、本発明の電気化学素子機能層用バインダー組成物、並びに後述する本発明の電極合材層用導電材ペーストおよび本発明の電極合材層用スラリー(以下、これらを纏めて「バインダー組成物等」と称する場合がある。)内において、複合粒子は、コア粒子の外表面の少なくとも一部がシェル重合体により覆われたコアシェル構造を維持する。しかしながら、本発明のバインダー組成物等中では、シェル重合体の一部がコア粒子から脱離し、複合粒子とは別個に、溶媒中に分散および/または溶解した状態で存在していてもよい。
【0060】
<溶媒>
バインダー組成物の溶媒としては、水、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、アセトニトリル、N-メチルピロリドン、アセチルピリジン、シクロペンタノン、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルホルムアミド、メチルエチルケトン、フルフラール、エチレンジアミンなどを用いることができる。これらの中でも、取扱い易さ、安全性、合成の容易さなどの観点から、有機溶媒としてはN-メチルピロリドン(NMP)が最も好ましい。
なお、溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0061】
<機能層用結着材>
バインダー組成物は、機能層用結着材を更に含むことができる。複合粒子に加え、機能層用結着材を含むバインダー組成物を用いて機能層を形成すれば、得られる機能層の接着性を更に向上させることができる。なお、本発明において、機能層用結着材には、メラミン化合物を含まれないものとする。
【0062】
<<機能層用結着材の官能基>>
そして、機能層用結着材は、機能層の接着性を更に向上させる観点から、カルボン酸基、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、エポキシ基、オキサゾリン基、イソシアネート基、スルホン酸基、エステル基、およびアミド基(以下、これらの官能基を纏めて「結着材官能基」と称する場合がある。)からなる群より選択される少なくとも一つを有する重合体であることが好ましい。機能層用結着材を構成する重合体は、これらの結着材官能基を1種類有していてもよく、2種類以上有していてもよい。そして、機能層の接着性をより一層向上させる観点から、結着材官能基としては、カルボン酸基、ヒドロキシル基、およびニトリル基が好ましく、カルボン酸基およびニトリル基がより好ましい。
【0063】
ここで、機能層用結着材に上述した結着材官能基を導入する方法は特に限定されない。例えば、上述した結着材官能基を有する単量体(結着材官能基含有単量体)を用いて重合体を調製し、結着材官能基含有単量体単位を含む重合体を得てもよいし、任意の重合体を変性することにより、上述した結着材官能基が導入された重合体を得てもよいが、前者が好ましい。すなわち、機能層用結着材は、カルボン酸基含有単量体単位、ヒドロキシル基含有単量体単位、ニトリル基含有単量体単位、アミノ基含有単量体単位、エポキシ基含有単量体単位、オキサゾリン基含有単量体単位、イソシアネート基含有単量体単位、スルホン酸基含有単量体単位、エステル基含有単量体単位、およびアミド基含有単量体単位の少なくともいずれかを含むことが好ましく、カルボン酸基含有単量体単位、ヒドロキシル基含有単量体単位、およびニトリル基含有単量体単位の少なくともいずれかを含むことがより好ましく、カルボン酸基含有単量体単位およびニトリル基含有単量体単位の少なくともいずれかを含むことが更に好ましい。
【0064】
[カルボン酸基含有単量体単位]
カルボン酸基含有単量体単位を形成し得るカルボン酸基含有単量体としては、「電気化学素子機能層用複合粒子」の項で上述したものと同様のものが挙げられる。なお、カルボン酸基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0065】
[ヒドロキシル基含有単量体単位]
ヒドロキシル基含有単量体単位を形成し得るヒドロキシル基含有単量体としては、「電気化学素子機能層用複合粒子」の項で上述したものと同様のものが挙げられる。なお、ヒドロキシル基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0066】
[ニトリル基含有単量体単位]
ニトリル基含有単量体単位を形成し得るニトリル基含有単量体としては、「電気化学素子機能層用複合粒子」の項で上述したものと同様のものが挙げられる。なお、ニトリル基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0067】
[アミノ基含有単量体単位]
アミノ基含有単量体単位を形成し得るアミノ基含有単量体としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アミノエチルビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテルなどが挙げられる。なお、アミノ基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味する。
【0068】
[エポキシ基含有単量体単位]
エポキシ基含有単量体単位を形成し得るエポキシ基含有単量体としては、炭素-炭素二重結合およびエポキシ基を含有する単量体が挙げられる。
ここで、炭素-炭素二重結合およびエポキシ基を含有する単量体としては、例えば、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブテニルグリシジルエーテル、o-アリルフェニルグリシジルエーテルなどの不飽和グリシジルエーテル;ブタジエンモノエポキシド、クロロプレンモノエポキシド、4,5-エポキシ-2-ペンテン、3,4-エポキシ-1-ビニルシクロヘキセン、1,2-エポキシ-5,9-シクロドデカジエンなどのジエンまたはポリエンのモノエポキシド;3,4-エポキシ-1-ブテン、1,2-エポキシ-5-ヘキセン、1,2-エポキシ-9-デセンなどのアルケニルエポキシド;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルクロトネート、グリシジル-4-ヘプテノエート、グリシジルソルベート、グリシジルリノレート、グリシジル-4-メチル-3-ペンテノエート、3-シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステル、4-メチル-3-シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステルなどの、不飽和カルボン酸のグリシジルエステル類;が挙げられる。なお、エポキシ基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0069】
[オキサゾリン基含有単量体単位]
オキサゾリン基含有単量体単位を形成し得るオキサゾリン基含有単量体としては、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリンなどが挙げられる。なお、オキサゾリン基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0070】
[イソシアネート基含有単量体単位]
イソシアネート基含有単量体単位を形成しうるイソシアネート基含有単量体としては、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートなどが挙げられる。なお、イソシアネート基含有単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0071】
[スルホン酸基含有単量体単位]
スルホン酸基含有単量体単位を形成し得るスルホン酸基含有単量体としては、「電気化学素子機能層用複合粒子」の項で上述したものと同様のものが挙げられる。なお、スルホン酸基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0072】
[エステル基含有単量体単位]
エステル基含有単量体単位を形成し得るエステル基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単量体を用いることができる。(メタ)アクリル酸エステル単量体の例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレートおよびt-ブチルアクリレートなどのブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートなどのオクチルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n-テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル;並びにメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレートおよびt-ブチルメタクリレートなどのブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレートなどのオクチルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n-テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。なお、エステル基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
また、本発明において、ある単量体が、エステル基以外の結着材官能基(またはシェル官能基)を有する場合、その単量体は、エステル基含有単量体には含まれないものとする。
【0073】
[アミド基含有単量体単位]
アミド基含有単量体単位を形成し得るアミド基含有単量体としては、「電気化学素子機能層用複合粒子」の項で上述したものと同様のものが挙げられる。なお、アミド基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0074】
ここで、機能層用結着材に含有される全繰り返し単位の量を100質量%とした場合の、機能層用結着材中の結着材官能基含有単量体単位の含有割合は、機能層の接着性を更に向上させる観点から、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、70質量%以上であることが特に好ましい。なお、機能層用結着材中の結着材官能基含有単量体単位の含有割合の上限は特に限定されず、100質量%以下とすることができる。
【0075】
[その他の繰り返し単位]
機能層用結着材は、上述した結着材官能基含有単量体単位以外の繰り返し単位(その他の繰り返し単位)を含んでいてもよい。このようなその他の繰り返し単位としては、特に限定されず、「電気化学素子機能層用複合粒子」の項で列挙した繰り返し単位のうち、結着材官能基含有単量体単位に該当しないものが挙げられる。なお、機能層用結着材は、その他の繰り返し単位を1種類含んでいてもよく、2種類以上含んでいてもよい。
【0076】
<<機能層用結着材の調製方法>>
本発明において、機能層用結着材の調製方法は特に限定されない。機能層用結着材は、例えば、1種類又は2種類以上の単量体を含む単量体組成物を水系溶媒中で重合し、任意に水素化や変性を行うことにより製造される。なお、単量体組成物中の各単量体の含有割合は、重合体中の所望の単量体単位(繰り返し単位)の含有割合に準じて定めることができる。
なお、重合様式は、特に制限なく、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。また、重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合、各種縮合重合、付加重合などいずれの反応も用いることができる。そして、重合に際しては、必要に応じて既知の乳化剤や重合開始剤を使用することができる。また、水素化および変性は、既知の方法により行うことができる。
【0077】
<<機能層用結着材の種類>>
そして、機能層用結着材としては、機能層の接着性を更に向上させる観点から、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリブチルアセタール(ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等)、ポリビニルピロリドンなどが好ましく用いることができ、ポリビニルピロリドン、ポリアクリロニトリルがより好ましく、ポリアクリロニトリルが更に好ましい。
なお、機能層用結着材としては、上述した結着材官能基を有しない既知の結着材(ポリフッ化ビニリデンなど)を用いることもできる。
【0078】
<<機能層用結着材の配合量>>
本発明のバインダー組成物は、上述した複合粒子100質量部当たり、機能層用結着材(特には、上述した結着材官能基を有する機能層用結着材)を30質量部以上含むことが好ましく、40質量部以上含むことがより好ましく、50質量部以上含むことが更に好ましく、2000質量部以下含むことが好ましく、400質量部以下含むことがより好ましく、250質量部以下含むことが更に好ましい。バインダー組成物の調製に際し、複合粒子100質量部あたり30質量部以上の機能層用結着材を配合することで、機能層の接着性を更に向上させつつ電気化学素子の高温保存特性を一層向上させることができ、2000質量部以下の機能層用結着材を配合することで、良好な安全性が十分に確保された電気化学素子を得ることができる。
【0079】
<その他の成分>
更に、本発明のバインダー組成物は、上述した成分の他に、架橋剤、補強材、酸化防止剤、分散剤、レオロジー調製剤、電解液の分解を抑制する機能を有する電解液添加剤などの既知の成分を含有していてもよい。また、その他の成分として、1種類を含有していてもよく、2種類以上を任意の割合で含有していてもよい。
【0080】
<バインダー組成物の調製方法>
本発明のバインダー組成物は、複合粒子および溶媒、並びに必要に応じて用いられる機能層用結着材およびその他の成分を混合して調製することができる。具体的には、バインダー組成物は、複合粒子、並びに必要に応じて用いられる機能層用結着材およびその他の成分を、溶媒中に溶解および/または分散させることにより調製することができる。ここで、バインダー組成物の調製に際して、機能層用結着材は、溶媒中に溶解した状態で複合粒子と混合することが好ましい。バインダー組成物を得るにあたり、混合方法には特に制限は無く、例えば、ディスパー、ミル、ニーダーなどの一般的な混合装置を用いることができる。
また、バインダー組成物の調製は、後述する電極合材層用導電材ペーストの調製と同時に行ってもよい。
【0081】
(電極合材層用導電材ペースト)
本発明の導電材ペーストは、上述した本発明のバインダー組成物と、導電材を含む組成物である。即ち、本発明の導電材ペーストは、上記複合粒子と、上記溶媒と、導電材とを含み、任意に、上記機能層用結着材および上記その他の成分を含み得る。なお、本発明の導電材ペーストは、通常、電極活物質粒子を含まない。
そして、本発明の導電材ペーストを用いれば、接着性に優れる電極合材層を形成することができ、また、当該電極合材層を備える電極を用いれば、安全性が十分に確保され、且つ高温保存特性に優れる電気化学素子を製造することができる。
【0082】
<導電材>
導電材は、電気化学素子において、電気化学素子用電極が有する電極合材層の導電性を高めるためのものである。ここで、導電材としては、特に限定されることなく、導電性炭素材料、および、各種金属のファイバー、箔、又は粒子などを用いることができる。そして、導電性炭素材料としては、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラックなど)、単層または多層カーボンナノチューブ(多層カーボンナノチューブにはカップスタック型が含まれる)、カーボンナノホーン、気相成長炭素繊維、ポリマー繊維を焼成後に破砕して得られるミルドカーボン繊維、単層または多層グラフェン、ポリマー繊維からなる不織布を焼成して得られるカーボン不織布シートなどが挙げられる。
なお、導電材は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0083】
そして、導電材は、比表面積が30m2/g以上であることが好ましく、40m2/g以上であることがより好ましく、2,000m2/g以下であることが好ましく、1,500m2/g以下であることがより好ましく、1,000m2/g以下であることが更に好ましく、500m2/g以下であることが特に好ましい。導電材の比表面積が30m2/g以上であることで、導電材の含有量が少量である場合にも、導電性に優れた電極合材層を形成することができる。一方、導電材の比表面積が2,000m2/g以下であることで、導電材の分散性を高めることができる。
なお、本発明において、導電材の比表面積は、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指し、ASTM D3037-81に準拠して測定することができる。
【0084】
また、本発明の導電材ペーストは、複合粒子100質量部当たり、導電材を10質量部以上含むことが好ましく、20質量部以上含むことがより好ましく、30質量部以上含むことが更に好ましく、2000質量部以下含むことが好ましく、400質量部以下含むことがより好ましく、350質量部以下含むことが更に好ましい。導電材ペーストの調製に際し、複合粒子100質量部あたり10質量部以上2000質量部以下の導電材を配合することで、導電材ペースト中で導電材を良好に分散させることができる。そして、当該導電材ペーストを用いれば、電気化学素子の安全性を十分に確保しつつ、当該電気化学素子に優れた素子特性(レート特性など)を発揮させる電極合材層を形成することができる。
【0085】
<導電材ペーストの調製方法>
本発明の導電材ペーストは、バインダー組成物と、導電材を混合して調製することができる。導電材ペーストを得るにあたり、混合方法には特に制限は無く、例えば、ディスパー、ミル、ニーダーなどの一般的な混合装置を用いることができる。
なお、導電材ペーストの固形分濃度は、3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましく、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが更に好ましい。
【0086】
(電極合材層用スラリー)
本発明の電極合材層用スラリーは、上述した導電材ペーストと、電極活物質粒子とを含む組成物である。即ち、本発明の電極合材層用スラリーは、電極活物質粒子と、上記複合粒子と、上記溶媒と、上記導電材とを含み、任意に、上記機能層用結着材および上記その他の成分を含み得る。
そして、本発明の電極合材層用スラリーを用いれば、接着性に優れる電極合材層を形成することができ、また、当該電極合材層を備える電極を用いれば、安全性が十分に確保され、且つ高温保存特性に優れる電気化学素子を製造することができる。
【0087】
<電極活物質粒子>
電極活物質粒子は、電気化学素子の電極において電子の受け渡しをする物質からなる粒子である。そして、例えば電気化学素子がリチウムイオン二次電池の場合には、電極活物質としては、通常は、リチウムを吸蔵および放出し得る物質を用いる。
【0088】
なお、以下では、一例として電極合材層用スラリーがリチウムイオン二次電池電極の、電極合材層用スラリーである場合について説明するが、本発明は下記の一例に限定されるものではない。
【0089】
<<正極活物質粒子>>
正極活物質粒子を形成する正極活物質としては、特に限定されることなく、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO2)、Co-Ni-Mnのリチウム含有複合酸化物、Ni-Mn-Alのリチウム含有複合酸化物、Ni-Co-Alのリチウム含有複合酸化物、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、オリビン型リン酸マンガンリチウム(LiMnPO4)、Li1+xMn2-xO4(0<X<2)で表されるリチウム過剰のスピネル化合物、Li[Ni0.17Li0.2Co0.07Mn0.56]O2、LiNi0.5Mn1.5O4等が挙げられる。
なお、正極活物質粒子の粒子径は、特に限定されることなく、従来使用されている正極活物質粒子と同様とすることができる。
【0090】
<<負極活物質粒子>>
また、負極活物質粒子を形成する負極活物質としては、特に限定されることなく、炭素系負極活物質、金属系負極活物質、およびこれらを組み合わせた負極活物質などが挙げられる。
なお、負極活物質粒子の粒子径は、特に限定されることなく、従来使用されている負極活物質粒子と同様とすることができる。
【0091】
[炭素系負極活物質]
ここで、炭素系負極活物質とは、リチウムを挿入(「ドープ」ともいう。)可能な、炭素を主骨格とする活物質をいい、炭素系負極活物質としては、例えば炭素質材料と黒鉛質材料とが挙げられる。
【0092】
―炭素質材料―
そして、炭素質材料としては、例えば、易黒鉛性炭素や、ガラス状炭素に代表される非晶質構造に近い構造を持つ難黒鉛性炭素などが挙げられる。
ここで、易黒鉛性炭素としては、例えば、石油または石炭から得られるタールピッチを原料とした炭素材料が挙げられる。具体例を挙げると、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、熱分解気相成長炭素繊維などが挙げられる。
また、難黒鉛性炭素としては、例えば、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、擬等方性炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)、ハードカーボンなどが挙げられる。
【0093】
―黒鉛質材料―
更に、黒鉛質材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。
ここで、人造黒鉛としては、例えば、易黒鉛性炭素を含んだ炭素を主に2800℃以上で熱処理した人造黒鉛、MCMBを2000℃以上で熱処理した黒鉛化MCMB、メソフェーズピッチ系炭素繊維を2000℃以上で熱処理した黒鉛化メソフェーズピッチ系炭素繊維などが挙げられる。なお、本発明においては、炭素系負極活物質として、その表面の少なくとも一部が非晶質炭素で被覆された天然黒鉛(非晶質コート天然黒鉛)を用いてもよい。
【0094】
[金属系負極活物質]
また、金属系負極活物質とは、金属を含む活物質であり、通常は、リチウムの挿入または合金化が可能な元素を構造に含み、リチウムが挿入または合金化された場合の単位質量当たりの理論電流容量が500mAh/g以上である活物質をいう。金属系活物質としては、例えば、リチウム金属、リチウム合金を形成し得る単体金属(例えば、Ag、Al、Ba、Bi、Cu、Ga、Ge、In、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Sr、Zn、Tiなど)およびその合金、並びに、それらの酸化物、硫化物、窒化物、ケイ化物、炭化物、燐化物などが用いられる。これらの中でも、金属系負極活物質としては、ケイ素を含む活物質(シリコン系負極活物質)が好ましい。シリコン系負極活物質を用いることにより、リチウムイオン二次電池を高容量化することができるからである。
【0095】
―シリコン系負極活物質―
シリコン系負極活物質としては、例えば、ケイ素(Si)、ケイ素を含む合金、SiO、SiOx、Si含有材料を導電性カーボンで被覆または複合化してなるSi含有材料と導電性カーボンとの複合化物などが挙げられる。
【0096】
なお、本発明の電極合材層用スラリー中における電極活物質粒子と複合粒子の配合量比は、特に限定されない。例えば、電極合材層用スラリーは、電極活物質粒子100質量部当たり、複合粒子を、0.1質量部以上含むことが好ましく、0.5質量部以上含むことがより好ましく、20質量部以下含むことが好ましく、4質量部以下含むことがより好ましい。電極合材層用スラリーの調製に際し、電極活物質粒子100質量部当たり複合粒子が0.1質量部以上となる量で導電材ペーストを配合すれば、電気化学素子の安全性を一層良好に確保することができ、電極活物質粒子100質量部当たり複合粒子が20質量部以下となる量で導電材ペーストを配合すれば、電気化学素子の素子特性(例えば、レート特性)を十分に確保することができる。
【0097】
<電極合材層用スラリーの調製方法>
本発明の電極合材層用スラリーは、上述した導電材ペーストと、電極活物質粒子とを混合して調製することができる。混合には、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどの混合機などの既知混合機を用いることができる。
【0098】
(電気化学素子用電極)
本発明の電気化学素子用電極は、集電体と、集電体上に形成された電極合材層とを備え、電極合材層は、本発明の電極合材層用スラリーの乾燥物である。なお、本発明の電気化学素子用電極は、任意に、電極合材層以外の他の層(例えば、接着層や多孔膜層)を備えていてもよい。そして、本発明の電気化学素子用電極は、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、およびリチウムイオンキャパシタなどの電気化学素子の電極として使用することができる。
そして、本発明の電極を用いれば、安全性が十分に確保され、且つ高温保存特性に優れる電気化学素子を製造することができる。
【0099】
<集電体>
そして、電気化学素子用電極が備える集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料であれば、特に限定されるものではなく、電気化学素子の種類に応じて選択すればよい。そして、電気化学素子用電極がリチウムイオン二次電池用電極である場合には、集電体を構成する材料としては、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などが挙げられる。中でも、負極に用いる集電体としては銅箔が特に好ましい。また、正極に用いる集電体を構成する材料としては、アルミニウム箔が特に好ましい。
なお、これらの材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0100】
<電極合材層>
そして、本発明の電極合材層用スラリーを用いて形成される電極合材層は、電極合材層用スラリーの乾燥物である。
ここで、電極合材層中に含まれている各成分は、本発明の電極合材層用スラリー中に含まれていたものであり、それら各成分の好適な存在比は、本発明の電極合材層用スラリー中の各成分の好適な存在比と同じである。
【0101】
<電気化学素子用電極の製造方法>
ここで、電気化学素子用電極の製造方法は、特に限定されることなく、例えば、電極合材層用スラリーを集電体の少なくとも一方の面に塗布する工程(塗布工程)と、集電体の少なくとも一方の面に塗布された電極合材層用スラリーを乾燥して集電体上に電極合材層を形成する工程(乾燥工程)を経て製造される。
【0102】
<<塗布工程>>
電極合材層用スラリーを集電体上に塗布する方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。具体的には、塗布方法としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などを用いることができる。なお、塗布後乾燥前の集電体上のスラリー膜の厚みは、乾燥して得られる電極合材層の厚みに応じて適宜に設定し得る。
【0103】
<<乾燥工程>>
集電体上の電極合材層用スラリーを乾燥する方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。このように集電体上の電極合材層用スラリーを乾燥することで、集電体上に電極合材層を形成し、集電体と電極合材層とを備える電気化学素子用電極を得ることができる。
【0104】
なお、乾燥工程の後、金型プレスまたはロールプレスなどを用い、電極合材層に加圧処理を施してもよい。加圧処理により、電極合材層と集電体との密着性を向上させることができる。
【0105】
(電気化学素子)
そして、本発明の電気化学素子は、上述した電気化学素子用電極を備えることを特徴とする。本発明の電気化学素子は、特に限定されることなく、例えば、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、およびリチウムイオンキャパシタであり、好ましくはリチウムイオン二次電池である。本発明の電気化学素子は、本発明の電極を備えているので、熱暴走が抑制され、高度な安全性を保持しており、また、高温保存特性にも優れる。
【0106】
ここで、以下では、一例として電気化学素子がリチウムイオン二次電池である場合について説明するが、本発明は下記の一例に限定されるものではない。本発明の電気化学素子としてのリチウムイオン二次電池は、通常、電極(正極および負極)、電解液、並びにセパレータを備え、正極および負極の少なくとも一方に本発明の電気化学素子用電極を使用する。
【0107】
<電極>
ここで、本発明の電気化学素子としてのリチウムイオン二次電池に使用し得る、上述した本発明の電気化学素子用電極以外の電極としては、特に限定されることなく、既知の電極を用いることができる。具体的には、上述した電気化学素子用電極以外の電極としては、既知の製造方法を用いて集電体上に電極合材層を形成してなる電極を用いることができる。
【0108】
<電解液>
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。支持電解質としては、例えば、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C4F9SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(CF3SO2)2NLi、(C2F5SO2)NLiなどが挙げられる。なかでも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF6、LiClO4、CF3SO3Liが好ましく、LiPF6が特に好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0109】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(EMC)等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いのでカーボネート類を用いることが好ましく、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの混合物を用いることが更に好ましい。
なお、電解液中の電解質の濃度は適宜調整することができ、例えば0.5~15質量%することが好ましく、2~13質量%とすることがより好ましく、5~10質量%とすることが更に好ましい。また、電解液には、既知の添加剤、例えばビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、エチルメチルスルホンなどを添加してもよい。
【0110】
<セパレータ>
セパレータとしては、特に限定されることなく、例えば特開2012-204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、リチウムイオン二次電池内の電極活物質粒子の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)の樹脂からなる微多孔膜が好ましい。更に、セパレータとしては、セパレータ基材の片面または両面に機能層(多孔膜層または接着層)が設けられた、機能層付きセパレータを用いてもよい。
【0111】
本発明において、機能層付きセパレータの機能層の形成には、既知の結着材や非導電性粒子(例えば、アルミナ等の非導電性無機粒子)を用いることができる。
また、本発明において、機能層付きセパレータの機能層の形成に、上述した本発明の複合粒子を含むバインダー組成物を用いることもできる。
【0112】
<リチウムイオン二次電池の製造方法>
本発明に従うリチウムイオン二次電池は、例えば、正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造することができる。二次電池の内部の圧力上昇、過充放電等の発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。二次電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例】
【0113】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
また、複数種類の単量体を共重合して製造される重合体において、ある単量体を重合して形成される単量体単位の前記重合体における割合は、別に断らない限り、通常は、その重合体の重合に用いる全単量体に占める当該ある単量体の比率(仕込み比)と一致する。
そして、実施例および比較例において、シェル重合体の電解液膨潤度、複合粒子の熱分解開始温度、正極合材層(機能層)の接着性、リチウムイオン二次電池(電気化学素子)の安全性および高温保存特性は、それぞれ以下の方法を使用して測定または評価した。
【0114】
<電解液膨潤度>
シェル重合体の水分散液を、ポリテトラフルオロエチレン製シート上に塗布し、温度80~120℃の環境下で3~8時間乾燥させて、厚み500μm±50μmのキャストフィルムを得た。このキャストフィルムを裁断して約1gを精秤した。得られたフィルム片の質量をW0とする。このフィルム片を、温度60℃の環境下で、測定用電解液に72時間浸漬し、膨潤させた。なお、測定用電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を、EC/DEC=3/7の質量比で混合してなる混合液に、更に添加剤としてビニレンカーボネート2体積%を添加して得られる混合溶媒に対して、LiPF6を1.0mol/リットルの濃度で溶かした溶液を用いた。その後、フィルム片を引き上げ、表面の電解液を軽く拭いた後、質量を測定した。膨潤後のフィルム片の質量をW1とし、以下の計算式を用いて電解液膨潤度を算出した。
電解液膨潤度(質量%)={(W1-W0)/W0}×100
なお、後述する表1および2においては、電解液膨潤度は、以下A~Dのランクで表記した。
A:電解液膨潤度が100質量%以上300質量%以下
B:電解液膨潤度が300質量%超400質量%以下
C:電解液膨潤度が400質量%超500質量%以下
D:電解液膨潤度が500質量%超
<熱分解開始温度>
熱重量分析装置(Rigaku製、製品名「TG8110」)を用いた熱重量分析において、大気雰囲気下、25℃から500℃まで昇温速度20℃/分で昇温させながら質量を測定し、測定される質量が測定開始時(25℃)質量の95%となった温度(すなわち、5%質量減少温度)を、複合粒子の熱分解開始温度とした。
<接着性>
実施例および比較例で作製したリチウムイオン二次電池用正極を、長さ100mm、幅10mmの長方形に切り出して試験片とし、正極合材層を有する面を下にして、試験片の正極合材層側の表面をセロハンテープ(JIS Z1522に準拠するもの)を介して試験台(SUS製基板)に貼り付けた。その後、集電体の一端を垂直方向に引張り速度50mm/分で引っ張って剥がしたときの応力(N/m)を測定した(なお、セロハンテープは試験台に固定されている)。
上記と同様の測定を3回行い、その平均値を求めてこれを正極ピール強度とし、以下の基準により評価した。
正極ピール強度の値が大きいほど、正極合材層が接着性に優れ、集電体と強固に密着していることを示す。
<<評価基準>>
SA:正極ピール強度が35N/m以上
A:正極ピール強度が30N/m以上35N/m未満
B:正極ピール強度が25N/m以上30N/m未満
C:正極ピール強度が20N/m以上25N/m未満
D:正極ピール強度が20N/m未満
<安全性>
リチウムイオン二次電池の安全性を、以下の内部短絡試験により評価した。
後述のようにして得られた多孔膜層付きセパレータ(基材=ポリプロピレン、多孔膜層厚み4μm、1cm四方の穴をあけたもの)を、実施例および比較例にて作製したリチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池用負極ではさみ(それぞれタブ付き)、該部材をアルミパウチで封止してセルを作製した。該セルの多孔膜層付きセパレータの穴開き部分に対して、直径8mm円筒(SUS)にて10Nの力をかけて強制内部短絡部分を作製した。該セルの正極タブおよび負極タブに対して、直流安定化電源(菊水電子工業社製、製品名「PWR1201L」)を用いて10Vを印加し、その際の電流、電圧をモニターした。電流、電圧から抵抗を算出し、電圧10Vを印加した直後から抵抗が100倍となった時点の時間(抵抗100倍時間)を計測した。そして、以下の基準により評価した。
<<評価基準>>
A:抵抗100倍時間が5秒間未満
B:抵抗100倍時間が5秒間以上10秒間未満
C:抵抗100倍時間が10秒間以上15秒間未満
D:抵抗100倍時間が15秒間以上
<<多孔膜層付きセパレータの作製>>
セパレータ基材として、単層のポリプロピレン製セパレータ(セルガード製、商品名「#2500」)を準備した。
非導電性粒子としてのアルミナフィラー(日本軽金属社製、「LS256」)100部に対して、結着材としてアクリル系重合体を固形分相当で6.0部、増粘剤としてカルボン酸基が導入されたアクリルアミド重合体(荒川化学社製、「ポリストロン(登録商標)117」)を固形分相当で1.5部、ポリエチレングリコール型界面活性剤(サンノプコ社製、「サンノプコ(登録商標)SNウェット366」)を固形分相当で0.2部を混合し、多孔膜層用組成物を調製した。
上述したセパレータ基材の片面に、上述のようにして得られた多孔膜層用組成物を、ワイヤーバーを用いて塗布し、60℃で10分乾燥させた。これにより、多孔膜層の厚みが4μmの多孔膜層付きセパレータを得た。
<高温保存特性>
リチウムイオン二次電池を、電解液注液後、温度25℃で5時間静置した。次に、温度25℃、0.2Cの定電流法にて、セル電圧3.65Vまで充電し、その後、温度60℃で12時間エージング処理を行った。そして、温度25℃、0.2Cの定電流法にて、セル電圧3.00Vまで放電した。その後、0.2Cの定電流法にて、CC-CV充電(上限セル電圧4.20V)を行い、0.2Cの定電流法にて3.00VまでCC放電した。この0.2Cにおける充放電を3回繰り返し実施した。そして、最後の充放電時に得られた放電容量をX1とした。
その後、セル電圧を4.20Vまで25℃にて充電し、そのまま温度60℃の環境下にて、2週間放置した。その後、25℃にて、0.2Cの定電流法にてセル電圧3.00Vまで放電した。該放電容量をX2とした。
該放電容量X1および放電容量X2を用いて、ΔC=(X2/X1)×100(%)で示される容量維持率を求め、以下の基準により評価した。この容量維持率ΔCの値が大きいほど、高温保存特性に優れていることを示す。
<<評価基準>>
A:ΔCが85%以上
B:ΔCが83%以上85%未満
C:ΔCが80%以上83%未満
D:ΔCが80%未満
【0115】
(実施例1)
<コア材料の準備>
コア粒子を形成するコア材料として、メラミンシアヌレートを準備した。
<シェル重合体(重合体A)の調製>
メカニカルスターラーおよびコンデンサを装着した反応器Aに、窒素雰囲気下、イオン交換水85部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2部を入れた後、撹拌しながら55℃に加熱し、過硫酸カリウム0.3部を5.0%水溶液として反応器Aに添加した。次いで、メカニカルスターラーを装着した別の容器Bに、窒素雰囲気下、ニトリル基含有単量体としてアクリロニトリル94.0部、アミド基含有単量体としてアクリルアミド1.0部、カルボン酸基含有単量体としてアクリル酸2.0部、および(メタ)アクリル酸エステル単量体単位としてn-ブチルアクリレート3.0部、並びに、ドデシルベンゼンンスルホン酸ナトリウム0.6部、t-ドデシルメルカプタン0.035部、ポリオキシエチレンラウリルエーテル0.4部、およびイオン交換水80部を添加し、これを撹拌乳化させて単量体混合液を調製した。そして、この単量体混合液を撹拌乳化させた状態にて、5時間かけて一定の速度で反応器Aに添加し、重合転化率が95%になるまで反応させ、ポリアクリロニトリルであるシェル重合体(シェル材料)の水分散液を得た。このシェル重合体の電解液膨潤度を測定した。結果を表1に示す。
<複合粒子の調製>
上記で得られたシェル重合体の水分散液の固形分濃度を調整し、固形分濃度が28%の水分散液とした。
ホモミキサーに、コア材料としての上記メラミンシアヌレートを80部、固形分濃度調整後の上記シェル重合体の水分散液を固形分相当で20部加え、イオン交換水で全固形分濃度が20%となるように調製して撹拌混合し、スラリー組成物を得た。
得られたスラリー組成物を、スプレー乾燥機(大川原化工機社製、製品名「OC-16」)に供給し、回転円盤方式のアトマイザー(直径65mm)を用いて回転数25000rpm、熱風温度150℃、粒子回収出口温度90℃の条件で噴霧乾燥し、複合粒子を得た。この複合粒子を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、コア粒子の外表面全体がシェル重合体に覆われていることを確認した。また、複合粒子の熱分解開始温度を測定した。結果を表1に示す。
<機能層用結着材の調製>
「シェル重合体の調製」と同様にして、ポリアクリロニトリル(重合体A)である機能層用結着材の水分散液を得た。得られた機能層用結着材(重合体A)の水分散液に、NMPを適量添加して混合物を得た。その後、90℃にて減圧蒸留を実施して混合物から水および過剰なNMPを除去し、機能層用結着材(重合体A)のNMP溶液(固形分濃度:8%)を得た。
<導電材ペーストの調製>
露点-40℃のドライルーム内にて、導電材としてのアセチレンブラック(BET比表面積:68m2/g)100部と、上述のようにして得られた複合粒子40部と、機能層用結着材を固形分相当で40部と、溶媒として適量のNMPとを、ディスパーにて撹拌(3000rpm、60分)し、その後、直径0.3mmのジルコニアビーズを用いたビーズミルを使用し、周速8m/秒にて1時間混合することにより、導電材ペーストを調製した。なお、導電材ペーストの固形分濃度は15.0質量%であった。またこの操作により、バインダー組成物と導電材ペーストを同時に調製した。
<正極合材層用スラリーの調製>
プラネタリーミキサーに、正極活物質粒子としてのCo-Ni-Mnのリチウム複合酸化物系の活物質NMC532(LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2)100部、上記で調製した導電材ペーストを固形分相当で3.75部、結着材官能基を有しない既知の結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)(クレハ化学製、商品名「L#7208」)を固形分相当で2.0部混合し、さらに、NMPを徐々に加えて、温度25±3℃、回転数60rpmにて撹拌混合して、B型粘度計、60rpm(ローターM4)にて、25±3℃、粘度を3,600mPa・sとして、正極合材層用スラリーを得た。
<正極の製造>
上記に従って得られた正極合材層用スラリーを、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔の上に、塗布量が20±0.5mg/cm2となるように塗布した。
更に、200mm/分の速度で、温度90℃のオーブン内を2分間、さらに温度120℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより、アルミニウム箔上の正極合材層用スラリーを乾燥させ、集電体上に正極合材層が形成された正極原反を得た。
その後、作製した正極原反の正極合材層側を温度25±3℃の環境下、線圧14t(トン)の条件でロールプレスし、正極合材層密度が3.20g/cm3の正極を得た。得られた正極について、正極合材層の接着性を評価した。更に、得られた正極と後述の負極を用いて、リチウムイオン二次電池の安全性を評価した。結果を表1に示す。
【0116】
<負極の製造>
撹拌機付き5MPa耐圧容器に、芳香族ビニル単量体としてのスチレン63部、脂肪族共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン34部、カルボン酸基含有単量体としてのイタコン酸2部、ヒドロキシル基含有単量体としてのアクリル酸-2-ヒドロキシエチル1部、分子量調整剤としてのt-ドデシルメルカプタン0.3部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム5部、溶媒としてのイオン交換水150部、および、重合開始剤としての過硫酸カリウム1部を投入し、十分に撹拌した後、温度55℃に加温して重合を開始した。単量体消費量が95.0%になった時点で冷却し、反応を停止した。こうして得られた重合体を含んだ水分散体に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pHを8に調整した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。さらにその後、温度30℃以下まで冷却することにより、負極用バインダーを含む水分散液(負極用バインダー組成物)を得た。
プラネタリーミキサーに、負極活物質粒子としての人造黒鉛(理論容量:360mAh/g)48.75部、天然黒鉛(理論容量:360mAh/g)48.75部と、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースを固形分相当で1部とを投入した。さらに、イオン交換水にて固形分濃度が60%となるように希釈し、その後、回転速度45rpmで60分間混練した。その後、上述で得られた負極用バインダー組成物を固形分相当で1.5部投入し、回転速度40rpmで40分間混練した。そして、粘度が3000±500mPa・s(B型粘度計、25℃、60rpmで測定)となるようにイオン交換水を加えることにより、負極用スラリー組成物を調製した。
上記負極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ15μmの銅箔の表面に、塗付量が11±0.5mg/cm2となるように塗布した。その後、負極用スラリー組成物が塗布された銅箔を、400mm/分の速度で、温度80℃のオーブン内を2分間、さらに温度110℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより、銅箔上の負極用スラリー組成物を乾燥させ、集電体上に負極合材層が形成された負極原反を得た。
その後、作製した負極原反の負極合材層側を温度25±3℃の環境下、線圧11t(トン)の条件でロールプレスし、負極合材層密度が1.60g/cm3の負極を得た。
【0117】
<セパレータの準備>
単層のポリプロピレン製セパレータ(セルガード製、商品名「#2500」)を準備した。
【0118】
<リチウムイオン二次電池の作製>
上記の正極および負極、並びに、セパレータを用いて、単層ラミネートセル(初期設計放電容量30mAh相当)を作製し、アルミ包材内に配置した。その後、電解液として濃度1.0MのLiPF6溶液(溶媒:エチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)=3/7(質量比)の混合溶媒、添加剤:ビニレンカーボネート2体積%(溶媒比)含有)を充填した。さらに、アルミ包材の開口を密封するために、温度150℃のヒートシールをしてアルミ包材を閉口し、リチウムイオン二次電池を製造した。得られたリチウムイオン二次電池について、高温保存特性を評価した。結果を表1に示す。
【0119】
(実施例2)
複合粒子の調製に際し、以下のようにして調製したシェル重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして、複合粒子、機能層用結着材(重合体A)、導電材ペースト、正極合材層用スラリー、正極、負極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を準備して、各種評価を行った。結果を表1に示す。
<シェル重合体(重合体B)の調製>
撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水240部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル20部、芳香族ビニル単量体としてのスチレン10部、カルボン酸基含有単量体としてのメタクリル酸5部をこの順で入れ、ボトル内部を窒素置換した。その後、脂肪族共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン65部を圧入し、過硫酸アンモニウム0.25部を添加して、反応温度40℃で重合反応させた。そして、アクリロニトリル単位、スチレン単位、メタクリル酸単位、および1,3-ブタジエン単位を含む重合体を得た。重合転化率は85%、ヨウ素価は280mg/100mgであった。
得られた重合体に対して水を用いて全固形分濃度を12%に調整した400mL(全固形分48g)の溶液を、容積1Lの撹拌機付きオートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流して溶液中の溶存酸素を除去した後、水素添加反応用触媒としての酢酸パラジウム75mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加したイオン交換水180mLに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応(第一段階の水素添加反応)を行った。このとき、重合体のヨウ素価は45mg/100mgであった。
次いで、オートクレーブを大気圧にまで戻し、更に水素添加反応用触媒として、酢酸パラジウム25mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加した水60mLに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応(第二段階の水素添加反応)を行い、アクリロニトリル単位、スチレン単位、メタクリル酸単位、および1,3-ブタジエン水素化物単位を含むシェル重合体(シェル材料)の水分散液を得た。
【0120】
(実施例3)
複合粒子の調製に際し、シェル重合体としてポリビニルピロリドン(和光純薬製、特級試薬、製品名「ポリビニルピロリドンK30」、重合体C)を用いた以外は、実施例1と同様にして、複合粒子、機能層用結着材(重合体A)、導電材ペースト、正極合材層用スラリー、正極、負極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を準備して、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0121】
(実施例4)
複合粒子の調製に際し、以下のようにして調製したシェル重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして、複合粒子、機能層用結着材(重合体A)、導電材ペースト、正極合材層用スラリー、正極、負極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を準備して、各種評価を行った。結果を表1に示す。
<シェル重合体(重合体D)の調製>
セプタム付き1Lフラスコに、イオン交換水720部を投入して、温度40℃に加熱し、流量100mL/分の窒素ガスでフラスコ内を置換した。次に、イオン交換水10部と、カルボン酸基含有単量体としてのアクリル酸30部と、アミド基含有単量体としてのアクリルアミド70部とを混合して、シリンジでフラスコ内に注入した。その後、重合開始剤としての過硫酸カリウムの2.5%水溶液8部をシリンジでフラスコ内に追加した。さらに、その15分後に、重合促進剤としてのテトラメチルエチレンジアミンの2.0%水溶液22部をシリンジで追加した。4時間後、重合開始剤としての過硫酸カリウムの2.5%水溶液4部をフラスコ内に追加し、さらに重合促進剤としてのテトラメチルエチレンジアミンの2.0%水溶液11部を追加して、温度を60℃に昇温し、重合反応を進めた。3時間後、フラスコを空気中に開放して重合反応を停止させ、生成物を温度80℃で脱臭し、残留単量体を除去した。その後、水酸化リチウムの10%水溶液を用いて生成物のpHを8に調整し、アクリル酸-アクリルアミド共重合体であるシェル重合体(シェル材料)の水分散液を得た。
【0122】
(実施例5)
複合粒子の調製に際し、メラミンシアヌレートの量を97部に変更し、シェル重合体の固形分相当量を3部に変更した以外は、実施例1と同様にして、複合粒子、機能層用結着材(重合体A)、導電材ペースト、正極合材層用スラリー、正極、負極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を準備して、各種評価を行った。結果を表1に示す。
なお、複合粒子を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、コア粒子の外表面の一部がシェル重合体に覆われていることを確認した。
【0123】
(実施例6)
複合粒子の調製に際し、メラミンシアヌレートに代えてアンメリンを用いた以外は、実施例1と同様にして、複合粒子、機能層用結着材(重合体A)、導電材ペースト、正極合材層用スラリー、正極、負極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を準備して、各種評価を行った。結果を表1に示す。
なお、複合粒子を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、コア粒子の外表面の一部がシェル重合体に覆われていることを確認した。
【0124】
(実施例7)
以下のように導電材ペーストを調製した以外は、実施例1と同様にして、複合粒子、機能層用結着材(重合体A)、正極合材層用スラリー、正極、負極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を準備して、各種評価を行った。結果を表1に示す。
<導電材ペーストの調製>
露点-40℃のドライルーム内にて、導電材としてのアセチレンブラック(BET比表面積:68m2/g)100部と、実施例1と同様にして得られた複合粒子60部と、実施例1と同様にして得られた機能層用結着材(重合体A)を固形分相当で20部と、有機溶媒としてNMPとを添加し、ディスパーにて撹拌(3000rpm、60分)し、その後、直径0.3mmのジルコニアビーズを用いたビーズミルを使用し、周速8m/秒にて1時間混合することにより、導電材ペーストを調製した。なお、導電材ペーストの固形分濃度は15.0質量%であった。
【0125】
(実施例8)
導電材ペーストの調製に際し、ポリアクリロニトリル(重合体A)である機能層用結着材に代えてポリビニルピロリドン(和光純薬製、特級試薬、製品名「ポリビニルピロリドンK30」、重合体C)を用いた以外は、実施例1と同様にして、複合粒子、導電材ペースト、正極合材層用スラリー、正極、負極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を準備して、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0126】
(実施例9)
複合粒子の調製に際し、以下のようにして調製したシェル重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして、複合粒子、機能層用結着材(重合体A)、導電材ペースト、正極合材層用スラリー、正極、負極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を準備して、各種評価を行った。結果を表2に示す。
<シェル重合体(重合体E)の調製>
バドル翼(SUS316製バドル型回転翼)撹拌機、還流冷却管、4つの滴下装置を備えた内容積500mlのガラス製セパラブルフラスコに、脱イオン水76gを仕込み、沸点還流温度まで昇温した。次いで、撹拌下、アクリル酸ナトリウムの37%水溶液159.28gとアクリル酸の80%水溶液6.76gとの混合液166.04g、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウムの40%水溶液81.9g、過硫酸ナトリウムの10%水溶液26.6g、および過酸化水素の2%水溶液44.5gを、それぞれ別々に、アクリル酸ナトリウム水溶液とアクリル酸水溶液との混合液は140分、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウム水溶液は120分、過硫酸ナトリウム水溶液は160分、過酸化水素水溶液は140分かけて、滴下した。滴下終了後、30分間にわたって沸点還流温度を維持して重合を完結させ、淡黄色透明な水溶性の共重合体(アクリル酸-スルホン酸共重合体、シェル材料)の水溶液を得た。
【0127】
(実施例10)
以下のようにして複合粒子を調製した以外は、実施例9と同様にして、シェル重合体(重合体E)、機能層用結着材(重合体A)、導電材ペースト、正極合材層用スラリー、正極、負極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を準備して、各種評価を行った。結果を表2に示す。
<複合粒子の調製>
シェル重合体(重合体E)の水溶液の固形分濃度を調整し、固形分濃度が50%の水溶液とした。
乾式混合機(日本コークス工業製、FMミキサー)に、コア材料としてのメラミンシアヌレート80部を供給し、周速40m/秒で撹拌した。メラミンシアヌレートを撹拌しながら、乾式混合機中に上記重合体Eの水溶液20部(固形分相当)を30分かけて噴霧により供給し、複合粒子を得た。この複合粒子を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、コア粒子の外表面全体がシェル重合体に覆われていることを確認した。
【0128】
(実施例11)
以下のようにして複合粒子を調製した以外は、実施例9と同様にして、シェル重合体(重合体E)、機能層用結着材(重合体A)、導電材ペースト、正極合材層用スラリー、正極、負極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を準備して、各種評価を行った。結果を表2に示す。
<複合粒子の調製>
シェル重合体(重合体E)の水溶液の固形分濃度を調整し、固形分濃度が50%の水溶液とした。
流動層造粒機(ホソカワミクロン社製、アグロマスタ(登録商標))にコア材料としてのメラミンシアヌレート80部を供給し、80℃の気流中で流動させた。メラミンシアヌレートを流動させながら、流動層造粒機中に上記重合体Eの水溶液20部(固形分相当)を30分かけて噴霧により供給し、複合粒子を得た。この複合粒子を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、コア粒子の外表面全体がシェル重合体に覆われていることを確認した。
【0129】
(比較例1)
シェル重合体および複合粒子を調製せず、以下のように導電材ペーストを調製した以外は、実施例1と同様にして、機能層用結着材(重合体A)、正極合材層用スラリー、正極、負極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を準備して、各種評価を行った。結果を表2に示す。
<導電材ペーストの調製>
露点-40℃のドライルーム内にて、導電材としてのアセチレンブラック(BET比表面積:68m2/g)100部と、メラミンシアヌレート40部と、実施例1と同様にして得られた機能層用結着材(重合体A)を固形分相当で40部と、有機溶媒としてNMPとを添加し、ディスパーにて撹拌(3000rpm、60分)し、その後、直径0.3mmのジルコニアビーズを用いたビーズミルを使用し、周速8m/秒にて1時間混合することにより、導電材ペーストを調製した。なお、導電材ペーストの固形分濃度は15.0質量%であった。
【0130】
(比較例2)
シェル重合体および複合粒子を調製せず、以下のように導電材ペーストおよび正極合材層用スラリーを調製した以外は、実施例1と同様にして、機能層用結着材(重合体A)、正極、負極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を準備して、各種評価を行った。結果を表2に示す。
<導電材ペーストの調製>
比較例1と同様にして調製した。
<正極合材層用スラリーの調製>
プラネタリーミキサーに、正極活物質粒子としてのCo-Ni-Mnのリチウム複合酸化物系の活物質NMC532(LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2)100部、上記で調製した導電材ペーストを固形分相当で3.75部、結着材官能基を有しない既知の結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)(クレハ化学製、商品名「L#7208」)を固形分相当で2.0部および重合体Aを固形分相当で0.2部混合し、さらに、NMPを徐々に加えて、温度25±3℃、回転数60rpmにて撹拌混合して、B型粘度計、60rpm(ローターM4)にて、25±3℃、粘度を3,600mPa・sとして、正極合材層用スラリーを得た。
【0131】
(比較例3~4)
複合粒子の調製に際し、メラミンシアヌレートに代えてそれぞれ、アゾビスイソブチロニトリル(比較例3)、アゾジカルボンアミド(比較例4)を用いた以外は、実施例1と同様にして、複合粒子、導電材ペースト、正極合材層用スラリー、正極、負極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を準備して、各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0132】
なお、以下の表1および2中、
「MC」は、メラミンシアヌレートを示し、
「AM」は、アンメリンを示し、
「AIBN」は、アゾビスイソブチロニトリルを示し、
「ADCA」は、アゾジカルボンアミドを示し、
「重合体A」は、ポリアクリロニトリルを示し、
「重合体B」は、アクリロニトリル単位、スチレン単位、メタクリル酸単位、および1,3-ブタジエン水素化物単位を含む重合体を示し、
「重合体C」は、ポリビニルピロリドンを示し、
「重合体D」は、アクリル酸-アクリルアミド共重合体を示し、
「重合体E」は、アクリル酸-スルホン酸共重合体を示し、
「PVDF」は、ポリフッ化ビニリデンを示す。
【0133】
【0134】
【0135】
表1および2より、メラミン化合物を含むコア粒子が、シェル官能基を有する重合体に被覆されてなる複合粒子を用いて正極合材層を作製した実施例1~11では、得られる正極合材層が接着性に優れ、また、安全性が十分に確保され且つ高温保存特性にも優れるリチウムイオン二次電池を作製できていることが分かる。
一方、表2より、複合粒子化せずにメラミン化合物を用いて正極合材層を作製した比較例1~2では、リチウムイオン二次電池の高温保存特性が低下することが分かる。この結果は、メラミン化合物と機能層用結着材を、導電材ペーストや正極合材層用スラリー調製の際に混合しても、導電材ペーストや正極合材層用スラリーの中では複合粒子が形成されていないことを裏付けている。
また、表2より、メラミン化合物を含まないがアゾビスイソブチロニトリルを含むコア粒子が、シェル官能基を有する重合体に被覆されてなる複合粒子を用いて正極合材層を作製した比較例3では、リチウムイオン二次電池の安全性が低下することが分かる。
更に、表2より、メラミン化合物を含まないがアゾジカルボンアミドを含むコア粒子が、シェル官能基を有する重合体に被覆されてなる複合粒子を用いて正極合材層を作製した比較例4では、正極合材層の接着性が低下することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明によれば、機能層の接着性と電気化学素子の安全性を十分に確保する一方で、電気化学素子に優れた高温保存特性を発揮させ得る電気化学素子機能層用複合粒子および電気化学素子機能層用バインダー組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、電極合材層の接着性と電気化学素子の安全性を十分に確保する一方で、電気化学素子に優れた高温保存特性を発揮させ得る電極合材層用導電材ペーストおよび電極合材層用スラリーを提供することができる。
そして、本発明によれば、電気化学素子の安全性を十分に確保する一方で、電気化学素子に優れた高温保存特性を発揮させ得る電気化学素子用電極を提供することができる。
更に、本発明によれば、安全性が十分に確保され、且つ高温保存特性に優れる電気化学素子を提供することができる。
【符号の説明】
【0137】
100 複合粒子
110 コア粒子
110S コア粒子の外表面
120 シェル重合体