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特許7600983電極用成形材料、電極、その製造方法およびリサイクル方法、並びに、電気化学デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】電極用成形材料、電極、その製造方法およびリサイクル方法、並びに、電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20241210BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20241210BHJP
   H01G 11/38 20130101ALI20241210BHJP
   H01G 11/70 20130101ALI20241210BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20241210BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20241210BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20241210BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241210BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241210BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20241210BHJP
   H01M 4/02 20060101ALN20241210BHJP
   H01M 4/13 20100101ALN20241210BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
H01G11/06
H01G11/38
H01G11/70
H01G11/86
H01M4/139
H01M4/38 Z
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M10/054
H01M4/02 Z
H01M4/13
【請求項の数】 30
(21)【出願番号】P 2021512132
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2020014665
(87)【国際公開番号】W WO2020203997
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2019068353
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】米丸 裕之
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/043379(WO,A1)
【文献】特開2000-058078(JP,A)
【文献】国際公開第2013/128936(WO,A1)
【文献】特開2011-060558(JP,A)
【文献】国際公開第2015/151144(WO,A1)
【文献】特開2010-086788(JP,A)
【文献】特開2018-073723(JP,A)
【文献】特開2006-216373(JP,A)
【文献】特開2011-210413(JP,A)
【文献】特開2014-107166(JP,A)
【文献】国際公開第2010/035827(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/017365(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/04
H01G 11/06
H01G 11/38
H01G 11/70
H01G 11/86
H01M 4/139
H01M 4/62
H01M 4/02
H01M 4/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の活物質(A)と、粘性電解質組成物とからなる電極用成形材料であって、
前記粘性電解質組成物は、少なくとも1種のイオン性物質(S)と、少なくとも1種のポリマー(P)および分子量が10000未満の低分子有機化合物(O)を含有する有機組成物(P-O)とを含み、
前記有機組成物(P-O)中の前記ポリマー(P)の含有割合が50質量%以下であり、
前記低分子有機化合物(O)は、揮発率がN-メチルピロリドンの揮発率未満の化合物を2種類以上含み、揮発率がN-メチルピロリドンの揮発率以上の化合物の割合が20質量%以下である、電極用成形材料。
【請求項2】
導電性フィラーを更に含む、請求項1に記載の電極用成形材料。
【請求項3】
前記活物質(A)の含有割合が50体積%以上である、請求項1または2に記載の電極用成形材料。
【請求項4】
前記活物質(A)の含有割合が60体積%以上である、請求項1~3の何れかに記載の電極用成形材料。
【請求項5】
前記活物質(A)がナノサイズである、請求項1~4の何れかに記載の電極用成形材料。
【請求項6】
繊維径がナノサイズの繊維成分を更に含む、請求項1~5の何れかに記載の電極用成形材料。
【請求項7】
前記有機組成物(P-O)は、温度5℃の大気圧下において液体である化合物の含有割合が0質量%以上20質量%以下である、請求項1~6の何れかに記載の電極用成形材料。
【請求項8】
前記粘性電解質組成物は、温度35℃におけるイオン伝導度が1.0×10-4S/cm以上である、請求項1~7の何れかに記載の電極用成形材料。
【請求項9】
前記粘性電解質組成物は、温度-20℃におけるイオン伝導度が1.0×10-4S/cm以上である、請求項1~8の何れかに記載の電極用成形材料。
【請求項10】
請求項1~9の何れかに記載の電極用成形材料を用いて形成した部分を有する電極の製造方法であって、
前記電極用成形材料を用いて前記部分を形成する工程を含む、電極の製造方法
【請求項11】
前記部分の気孔率が20体積%以下である、請求項10に記載の電極の製造方法
【請求項12】
請求項1~9の何れかに記載の電極用成形材料をシート状に成膜する工程を含む、請求項10または11に記載の電極の製造方法
【請求項13】
請求項1~9の何れかに記載の電極用成形材料を集電体に貼り付ける工程を含む、請求項10または11に記載の電極の製造方法
【請求項14】
前記集電体が、前記電極用成形材料が貼り付けられる部位に貫通孔を有する、請求項13に記載の電極の製造方法
【請求項15】
前記集電体が、前記電極用成形材料が接する表面に導電性コートを有する、請求項13または14に記載の電極の製造方法
【請求項16】
前記電極用成形材料架橋または重合する工程を含む、請求項10~15の何れかに記載の電極の製造方法
【請求項17】
請求項1~9の何れかに記載の電極用成形材料からなる複数本のストランドを押し潰してシート状に成形する工程を含む、電極の製造方法。
【請求項18】
請求項1~9の何れかに記載の電極用成形材料を賦形した後に集電体に貼り付ける工程を含む、電極の製造方法。
【請求項19】
請求項1~9の何れかに記載の電極用成形材料を集電体の両面に貼り付ける工程を含む、電極の製造方法。
【請求項20】
請求項1~9の何れかに記載の電極用成形材料を曲率半径が100mm以下の曲面で押し潰す工程を含む、電極の製造方法。
【請求項21】
請求項1~9の何れかに記載の電極用成形材料を削り取って厚みおよび/または形状を調整する工程を含む、電極の製造方法。
【請求項22】
請求項1~9の何れかに記載の電極用成形材料の厚みを粗調整した後に曲率半径が0.5mm以上の曲面で微調整する工程を含む、電極の製造方法。
【請求項23】
前記電極用成形材料の厚みを測定し、電極用成形材料の目付量をフィードバック制御する工程を含む、請求項17~22の何れかに記載の電極の製造方法。
【請求項24】
集電体から電極用成形材料を剥離する工程を含む、請求項13~15の何れかに記載の電極のリサイクル方法。
【請求項25】
請求項10~16の何れかに記載の電極の製造方法を用いて電極を製造する工程を含む、電気化学デバイスの製造方法
【請求項26】
前記電極の対極が、アルカリ金属、アルカリ土類金属および金属アルミニウムから選ばれる少なくとも一つよりなる、請求項25に記載の電気化学デバイスの製造方法
【請求項27】
前記電極の対極およびセパレータの少なくとも一方が、水分捕捉能を有する無機フィラーを含む、請求項25または26に記載の電気化学デバイスの製造方法
【請求項28】
前記電極の対極およびセパレータの少なくとも一方が、水分捕捉能を有するイオン性物質を含む、請求項25~27の何れかに記載の電気化学デバイスの製造方法
【請求項29】
電極用成形材料からなる複数本のストランドを押し潰してシート状に成形する工程を含み、
前記電極用成形材料は、少なくとも1種の活物質(A)と、粘性電解質組成物とからなり、
前記粘性電解質組成物は、少なくとも1種のイオン性物質(S)と、少なくとも1種のポリマー(P)および分子量が10000未満の低分子有機化合物(O)を含有する有機組成物(P-O)とを含み、
前記有機組成物(P-O)中の前記ポリマー(P)の含有割合が50質量%以下であり、
前記低分子有機化合物(O)は、揮発率がN-メチルピロリドンの揮発率以上の化合物の割合が0質量%以上20質量%以下である、電極の製造方法。
【請求項30】
電極用成形材料を用いて形成した部分を有する電極を備える電気化学デバイスの製造方法であって
前記電極用成形材料を用いて前記部分を形成する工程を含み、
前記電極用成形材料は、少なくとも1種の活物質(A)と、粘性電解質組成物とからなり、
前記粘性電解質組成物は、少なくとも1種のイオン性物質(S)と、少なくとも1種のポリマー(P)および分子量が10000未満の低分子有機化合物(O)を含有する有機組成物(P-O)とを含み、
前記有機組成物(P-O)中の前記ポリマー(P)の含有割合が50質量%以下であり、
前記低分子有機化合物(O)は、揮発率がN-メチルピロリドンの揮発率以上の化合物の割合が0質量%以上20質量%以下であり、
前記電極の対極およびセパレータの少なくとも一方が、水分捕捉能を有するイオン性物質を含む、電気化学デバイスの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極用成形材料、電極、電極の製造方法、電極のリサイクル方法および電気化学デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム一次電池等の一次電池;リチウムイオン二次電池、リチウム金属二次電池、ナトリウムイオン二次電池、カリウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池、アルミニウム二次電池等の非水系二次電池;色素増感型太陽電池等の太陽電池;電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等のキャパシタ;エレクトロクロミック表示デバイス;電気化学発光素子;電気二重層トランジスタ;電気化学アクチュエータなどの電気化学デバイスでは、活物質を含む電極が使用されている。
【0003】
そして、例えば特許文献1では、スクリュー押出機を使用し、ポリエチレンオキサイドなどのイオン伝導性ポリマー電解質材料と、酸化バナジウムなどのカソード活物質と、カーボンおよびグラファイト粒子などの導電フィラーと、リチウム塩と、可塑剤とを混合して金属箔上に押出すことにより、金属箔上に正極フィルムを設けてなるアルカリ金属ポリマーバッテリー用正極を製造している。
【0004】
また、例えば特許文献2では、ポリエチレンオキサイドと、カーボンと、LiV38と、エチレンカーボネートと、プロピレンカーボネートと、PVdF-HFPコポリマー(ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体)と、アクリロニトリルとを含む粘性溶液をアルミニウム箔に塗布し、その後、アクリロニトリルを蒸発させることにより、アルミニウム箔上に電極フィルムを設けてなるリチウムバッテリー用正極を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2005-519442号公報
【文献】特表2006-522441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の技術には、正極フィルムの原料が混合し難く、活物質の含有割合を向上させ難いという点において問題があった。
【0007】
また、特許文献2に記載の技術には、電極フィルムを形成する際にアクリロニトリル等の揮発性溶剤を多量に揮発させるため、臭気等の問題が発生し得ると共に、電極を複数製造した際に揮発性溶剤の揮発の経過を完全に一致させることが困難であり、安定した性能を有する電極を安定的に製造し難いという点において問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、調製が容易で活物質の含有割合を向上させ易く、且つ、臭気や安定性の問題が生じ難い電極用成形材料を提供することを目的とする。
また、本発明は、当該電極用成形材料を用いた電極および電気化学デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、所定の粘性電解質組成物を含む電極用成形材料が、調製が容易で活物質の含有割合を向上させ易く、且つ、臭気や安定性の問題が生じ難いことを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電極用成形材料は、少なくとも1種の活物質(A)と、粘性電解質組成物とからなる電極用成形材料であって、前記粘性電解質組成物は、少なくとも1種のイオン性物質(S)と、少なくとも1種のポリマー(P)および分子量が10000未満の低分子有機化合物(O)を含有する有機組成物(P-O)とを含み、前記有機組成物(P-O)中の前記ポリマー(P)の含有割合が50質量%以下であり、前記低分子有機化合物(O)は、揮発率がN-メチルピロリドンの揮発率以上の化合物の割合が0質量%以上20質量%以下であることを特徴とする。このように、低分子有機化合物(O)を含み、且つ、ポリマー(P)の含有割合が50質量%以下である有機組成物(P-O)を含む粘性電解質組成物を使用すれば、調製が容易で活物質の含有割合を向上させ易い電極用成形材料が得られる。また、低分子有機化合物(O)中の揮発率がN-メチルピロリドンの揮発率以上の化合物の割合が20質量%以下であれば、製造時に臭気や安定性の問題が生じるのを抑制することができる。
なお、本発明において、「揮発率」は、温度18℃において、参考例に記載の方法により測定することができる。
【0011】
ここで、本発明の電極用成形材料は、導電性フィラーを更に含むことが好ましい。導電性フィラーを含有していれば、導電性に優れる電極を形成することができる。
【0012】
また、本発明の電極用成形材料は、前記低分子有機化合物(O)は、揮発率がN-メチルピロリドンの揮発率未満の化合物を2種類以上含むことが好ましい。低分子有機化合物(O)として揮発率がN-メチルピロリドンの揮発率未満の化合物を2種類以上含有させれば、イオン性物質が溶解し易くなる。
【0013】
更に、本発明の電極用成形材料は、前記活物質(A)の含有割合が50体積%以上であることが好ましく、60体積%以上であることがより好ましい。活物質(A)の含有割合が上記下限値以上であれば、高容量な電気化学デバイスを作製することができる
【0014】
また、本発明の電極用成形材料は、前記活物質(A)がナノサイズであることが好ましい。活物質(A)がナノサイズであれば、強度に優れる電極を形成することができるとともに、電気化学反応を良好に進行させることができる。
【0015】
更に、本発明の電極用成形材料は、繊維径がナノサイズの繊維成分を更に含むことが好ましい。繊維径がナノサイズの繊維成分を含有させれば、電極用成形材料を用いて形成した電極の強度を高めることができる。
【0016】
また、本発明の電極用成形材料は、前記有機組成物(P-O)が、温度5℃の大気圧下において液体である化合物の含有割合が0質量%以上20質量%以下であることが好ましい。温度5℃の大気圧下において液体である化合物の含有割合が上記範囲内の有機組成物(P-O)を使用すれば、燃焼し難い電極用成形材料を得ることができる。
【0017】
そして、本発明の電極用成形材料は、前記粘性電解質組成物が、温度35℃におけるイオン伝導度が1.0×10-4S/cm以上であることが好ましい。
また、前記粘性電解質組成物は、温度-20℃におけるイオン伝導度が1.0×10-4S/cm以上であることが好ましい。
粘性電解質組成物のイオン伝導度が上記下限値以上であれば、電気化学デバイスにおいて電気化学反応を良好に進行させることができる。
なお、本発明において、「イオン伝導度」は、交流法にて測定したイオン伝導度を指し、測定温度±1℃に制御した恒温槽中で、サンプルを2枚のステンレス製の平行極板に挟んで10~100mVの範囲の交流を印可して得られたナイキストプロットの円弧直径から算出される体積固有抵抗を逆数にすることにより求めることができる。
【0018】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電極は、上述した電極用成形材料の何れかを用いて形成した部分を有することを特徴とする。上述した電極用成形材料を用いれば、臭気や安定性の問題が生じるのを抑制しつつ、活物質の含有割合が高い電極を得ることができる。
【0019】
ここで、本発明の電極は、前記部分の気孔率が20体積%以下であることが好ましい。電極用成形材料を用いて形成した部分の気孔率が20体積%以下であれば、電気化学反応を良好に進行させることができる。
なお、本発明において、「気孔率」は、温度25℃において、実際の比重が理論比重からずれている割合(={(理論比重-実際の比重)/理論比重}×100%)を算出して求めることができる。
【0020】
また、本発明の電極は、上述した電極用成形材料の何れかをシート状に成膜してなるものであることが好ましい。本発明の電極は、物理的な親和力のみで接合を維持するので、集電体などの被着体の形状に追随しやすいシート形状であると、被着体との密着を維持しやすい。
【0021】
更に、本発明の電極は、上述した電極用成形材料を集電体に貼り付けてなるものであることが好ましい。
【0022】
ここで、本発明の電極は、前記集電体が、前記電極用成形材料が貼り付けられる部位に貫通孔を有することが好ましい。集電体が貫通孔を有していれば、電極のイオン伝導性を向上させることができると共に、貫通孔が存在する位置で電極用成形材料を良好に貼り合わせることができる。また、集電体が貫通孔を有していれば、プレドープを容易に行うことが可能となる。
【0023】
また、本発明の電極は、前記集電体が、前記電極用成形材料が接する表面に導電性コートを有することが好ましい。集電体が導電性コートを有していれば、電極の導電性を高めることができると共に、表面の凹凸により電極用成形材料との密着性を高めることができる。
【0024】
更に、本発明の電極は、前記電極用成形材料が架橋または重合されていることが好ましい。電極用成形材料が架橋または重合されていれば、強度の高い電極を得ることができる。
【0025】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電極の製造方法は、上述した電極用成形材料の何れかからなる複数本のストランドを押し潰してシート状に成形する工程を含むことが好ましい。電極用成形材料からなる複数本のストランドを押し潰せば、より少ない押圧で電極用成形材料からなるシートを容易に得ることができるとともに、シートをより薄くしやすい。
【0026】
更に、本発明の電極の製造方法は、上述した電極用成形材料の何れかを賦形した後に集電体に貼り付ける工程を含むことが好ましい。電極用成形材料を賦形した後に集電体に貼り付ければ、電極用成形材料からなる部分の形状を容易に所望の形状とすることができる。
【0027】
また、本発明の電極の製造方法は、上述した電極用成形材料の何れかを集電体の両面に貼り付ける工程を含むことが好ましい。
【0028】
更に、本発明の電極の製造方法は、上述した電極用成形材料の何れかを曲率半径が100mm以下の曲面で押し潰す工程を含むことが好ましい。曲率半径が100mm以下の曲面で押し潰せば、電極用成形材料からなる部分の厚みを容易に調整することができる。
【0029】
また、本発明の電極の製造方法は、上述した電極用成形材料の何れかを削り取って厚みおよび/または形状を調整する工程を含むことが好ましい。電極用成形材料を削り取れば、電極用成形材料からなる部分を容易に所望の厚みおよび/または形状とすることができる。
【0030】
更に、本発明の電極の製造方法は、上述した電極用成形材料の何れかの厚みを粗調整した後に曲率半径が0.5mm以上の曲面で微調整する工程を含むことが好ましい。電極用成形材料からなる部分の厚みについて、粗調整した後に曲率半径が0.5mm以上の曲面で微調整すれば、高精度で制御することができる。
【0031】
そして、本発明の電極の製造方法は、前記電極用成形材料の厚みを測定し、電極用成形材料の目付量をフィードバック制御する工程を含むことが好ましい。電極用成形材料の厚みを測定して目付量をフィードバック制御すれば、目付量を容易に制御することができる。なお、上述した電極用成形材料は、揮発率がN-メチルピロリドンの揮発率以上の化合物の割合が0質量%以上20質量%以下であるので、厚みから目付量を容易に把握することができる。
【0032】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電極のリサイクル方法は、集電体から電極用成形材料を剥離する工程を含むことを特徴とする。このように、集電体上に電極用成形材料からなる部分を設けてなる電極から電極用成形材料を剥離すれば、電極を容易に再利用することができる。
【0033】
更に、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学デバイスは、上述した電極の何れかを備えることを特徴とする。上述した電極を備えていれば、良好な電気化学特性を発揮し得る。
【0034】
ここで、本発明の電気化学デバイスは、前記電極の対極が、アルカリ金属、アルカリ土類金属および金属アルミニウムから選ばれる少なくとも一つよりなることが好ましい。アルカリ金属、アルカリ土類金属および金属アルミニウムから選ばれる少なくとも一つよりなる対極を用いれば、電極に由来して持ち込まれた水分を良好に捕捉することができる。
【0035】
また、本発明の電気化学デバイスは、前記電極の対極およびセパレータの少なくとも一方が、水分捕捉能を有する無機フィラーを含むことが好ましい。水分捕捉能を有する無機フィラーを含有していれば、電極に由来して持ち込まれた水分を良好に捕捉することができる。
【0036】
更に、本発明の電気化学デバイスは、前記電極の対極およびセパレータの少なくとも一方が、水分捕捉能を有するイオン性物質を含むことが好ましい。水分捕捉能を有するイオン性物質を含有していれば、電極に由来して持ち込まれた水分を良好に捕捉することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、調製が容易で活物質の含有割合を向上させ易く、且つ、臭気や安定性の問題が生じ難い電極用成形材料を提供することができる。
また、本発明によれば、当該電極用成形材料を用いた電極および電気化学デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の電極用成形材料は、特に限定されることなく、例えば、リチウム一次電池等の一次電池;リチウムイオン二次電池、リチウム金属二次電池、ナトリウムイオン二次電池、カリウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池、アルミニウム二次電池等の非水系二次電池;色素増感型太陽電池等の太陽電池;電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等のキャパシタ;エレクトロクロミック表示デバイス;電気化学発光素子;電気二重層トランジスタ;電気化学アクチュエータなどの電気化学デバイスの電極を形成する際に用いることができる。
また、本発明の電極は、本発明の電極用成形材料を用いたものであり、特に限定されることなく、本発明の電極の製造方法を用いて製造することができる。更に、本発明の電極は、本発明の電極のリサイクル方法を用いてリサイクルすることができる。
そして、本発明の電気化学デバイスは、本発明の電極を備えるものである。
なお、上述した電気化学デバイスは、非水系二次電池であることが好ましく、リチウムイオン二次電池であることがより好ましい。
【0039】
(電極用成形材料)
本発明の電極用成形材料は、少なくとも1種の活物質(A)と、粘性電解質組成物とからなる。また、粘性電解質組成物は、少なくとも1種のイオン性物質(S)と、少なくとも1種のポリマー(P)および分子量が10000未満の低分子有機化合物(O)を含有する有機組成物(P-O)とを含む。そして、電極用成形材料は、任意に、導電性フィラー、固体電解質、繊維成分および添加剤からなる群より選択される少なくとも1種を更に含有し得る。
【0040】
<活物質(A)>
活物質(A)としては、特に限定されることなく、電気化学デバイスの種類に応じた任意の活物質を用いることができる。電極用成形材料に含まれる活物質(A)は、1種の活物質のみで構成されていてもよいし、2種以上の活物質の混合物であってもよい。
【0041】
中でも、活物質(A)としては、ナノサイズ(最大径が1μm未満)の活物質を用いることが好ましく、体積平均粒子径が100nm以上900nm以下の活物質を用いることがより好ましい。ナノサイズの活物質を使用すれば、粘性電解質組成物との接触界面積が大きくなることから、強度に優れる電極を形成することができるとともに、電気化学反応を良好に進行させ得る電極を形成することができる。
なお、本発明において、活物質の体積平均粒子径は、JIS K8825に準拠して測定することができる。
【0042】
そして、電極用成形材料中の活物質(A)の含有割合は、50体積%以上であることが好ましく、60体積%以上であることがより好ましい。活物質(A)の含有割合が上記下限値以上であれば、高容量な電気化学デバイスを作製可能な電極を形成することができる。
【0043】
<粘性電解質組成物>
粘性電解質組成物は、粘性を有する組成物であり、少なくとも1種のイオン性物質(S)と、少なくとも1種のポリマー(P)および分子量が10000未満の低分子有機化合物(O)を含有する有機組成物(P-O)とを含む。そして、粘性電解質組成物は、有機組成物(P-O)中のポリマー(P)の含有割合が50質量%以下であり、低分子有機化合物(O)中の揮発率がN-メチルピロリドンの揮発率以上の化合物の割合が0質量%以上20質量%以下であることを必要とする。
このように、低分子有機化合物(O)を含有させ、且つ、有機組成物(P-O)中のポリマー(P)の含有割合を50質量%以下とすれば、活物質(A)と粘性電解質組成物とを混合し易くなる。従って、調製が容易で活物質の含有割合を向上させ易い電極用成形材料が得られる。また、低分子有機化合物(O)中の揮発率がN-メチルピロリドンの揮発率以上の化合物の割合を20質量%以下とすれば、調製を容易にしつつ、製造時に臭気や安定性の問題が生じるのを抑制することができる。
【0044】
[イオン性物質(S)]
ここで、イオン性物質としては、電気化学デバイスにおける電気化学反応に利用されるイオンの種類に応じた任意のイオン性物質を用いることができる。
なお、イオン性物質(S)は、有機組成物(P-O)と相溶する物質であることが好ましい。相溶することによりイオン伝導性を良好に発現することができる。
【0045】
そして、イオン性物質(S)は、水分に対して強い物質であることが好ましく、イオン性物質としては、特に限定されることなく、例えば、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(オキサレート)ボレートアニオン、ジフルオロオキサレートボレートアニオン、ClO4 -、NO3 -、BF4 -、I-、I3 -などをアニオンとする塩が好ましく、ビス(オキサレート)ボレートアニオン、ジフルオロオキサレートボレートアニオンをアニオンとする塩がより好ましい。
具体的には、電気化学デバイスがリチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシタ等の場合には、イオン性物質としては、上述したアニオンのリチウム塩を用いることができる。また、電気化学デバイスがマグネシウム二次電池等の場合には、イオン性物質としては、上述したアニオンのマグネシウム塩を用いることができる。
中でも、電極の強度を高める観点からは、多価のカチオンを含むことが好ましい。多価のカチオンを含んでいれば、ポリマー(P)との間に疑似架橋を生成させ得る。
これらのイオン性物質は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
なお、粘性電解質組成物中のイオン性物質(S)の濃度は、例えば、0.01mol/L以上2.5mol/L未満とすることができる。
ここで、イオン性物質(S)としては、LiPF6は雰囲気中の水分と反応してフッ酸を発生し、製造装置を腐食したり、電気化学デバイスの性能を損ねたりする場合があるので、含量は少ない方が好ましく、電極用成形材料中における、LiPF6の含有割合は、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。
【0047】
[有機組成物(P-O)]
有機組成物(P-O)は、少なくとも1種のポリマー(P)を50質量%以下の割合で含み、更に、分子量が10000未満の低分子有機化合物(O)を含有する。
【0048】
〔ポリマー(P)〕
ポリマー(P)としては、特に限定されることなく、例えば、ポリエーテル系重合体、アクリル系重合体、ポリアクリロニトリル系重合体、ポリアクリルアミド系重合体、ポリオキサゾリン系重合体、脂肪族ポリカーボネート系重合体などのポリマーを用いることができる。具体的には、ポリマー(P)としては、ポリエチレンオキサイド、エチレンオキサイド共重合体、側鎖エチレンオキサイド重合体、ヒドリンゴム、ポリトリメチレンエーテル、ポリテトラメチレンエーテル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、ポリオキサゾリン、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)、側鎖オキサゾリン共重合体、ポリアクリロニトリル、ニトリルゴム、アクリル酸エステル共重合体、ポリメタクリル酸メチル、スチレン・アクリレート共重合体、アクリルゴム、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリエチレンカーボネートが挙げられる。これらのポリマーは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、ポリマー(P)は、JIS K7252に準拠して測定した重量平均分子量が10000以上であることが好ましく、10万以上3000万以下であることが好ましい。また、ポリマー(P)には、電気化学デバイス内で重合されてポリマーとなるものは含まれない。
【0049】
中でも、ポリマー(P)としては、イオン性物質(S)と低分子有機化合物(O)との混合物に対して溶解するポリマーが好ましい。具体的には、ポリマー(P)としては、イオン性物質(S)と低分子有機化合物(O)とを粘性電解質組成物と同じ比率で含む液状混合物に添加した際に、当該液状混合物の粘度を上昇させるポリマーが好ましい。なお、イオン性物質(S)と低分子有機化合物(O)との混合物が室温で固体の場合には、液状混合物は、混合物を加温して調製することができる。
【0050】
また、ポリマー(P)は、粘性電解質組成物中で良好に溶解させる観点から、高分子成分は、ゲル分が少ないことが好ましい。ゲル分はポリマー(P)のうちの20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましい。ポリマー(P)のゲル含有量は、プロピレンカーボネートに対してポリマーを5質量%の比率で添加して、100℃で12時間掛けて攪拌溶解させて、不溶分を100℃でメンブレンフィルタで濾別し、真空乾燥してプロピレンカーボネートを除去し、残渣重量を測ることにより知ることができる。
【0051】
そして、有機組成物(P-O)中におけるポリマー(P)の含有割合は、50質量%以下であることが必要であり、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、30質量%以下であることが好ましい。ポリマー(P)の含有割合が50質量%以下であれば、得られる電極用成形材料中の活物質(A)の割合を例えば70質量%以上と高くした場合であっても、活物質(A)と粘性電解質組成物とを良好に混合することができる。また、ポリマー(P)の含有割合を上記上限値以下とすれば、粘性電解質組成物のイオン伝導度が低下するのを抑制することができる。更に、また、ポリマー(P)の含有割合を上記下限値以上とすれば、電極用成形材料を用いた電極の形成を容易にすることができる。
【0052】
〔分子量が10000未満の低分子有機化合物(O)〕
分子量が10000未満の低分子有機化合物(O)は、揮発率がN-メチルピロリドンの揮発率未満の化合物(以下、「低揮発率化合物」と称することがある。)を80質量%以上含み、任意に、揮発率がN-メチルピロリドンの揮発率以上の化合物(以下、「高揮発率化合物」と称することがある。)を0質量%以上20質量%以下の割合で含む。
低分子有機化合物(O)中で高揮発率化合物が占める割合が20質量%以下であれば、電極の形成中に揮発する成分を低減し、臭気や安定性の問題が生じるのを抑制することができる。
【0053】
ここで、有機組成物(P-O)中における低分子有機化合物(O)の含有割合は、通常、50質量%以上であり、70質量%以上であることが好ましく、99質量%以下であることが好ましく、97質量%以下であることがより好ましい。低分子有機化合物(O)の含有割合を上記下限値以上とすれば、電極用成形材料の調製が容易になると共に、粘性電解質組成物のイオン伝導度が低下するのを抑制することができる。また、低分子有機化合物(O)の含有割合を上記上限値以下とすれば、電極用成形材料を用いた電極の形成を容易にすることができる。
【0054】
-低揮発率化合物-
ここで、低揮発率化合物としては、特に限定されることなく、例えば、リン酸トリスエチルヘキシル、アジポニトリル、1,3-プロパンスルトン、グルタル酸無水物、コハク酸無水物、スクシノニトリル、リン酸トリブチル、テトラグライム、ジグリコール酸無水物、スルホラン、エチルメチルスルホン、ジメチルスルホン、リン酸トリスブトキシエチル、スルホレン、ジエチルスルホン、硫酸エチレン(1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド)、ビニルエチレンカーボネート、エチレンカーボネート、N-メチルオキサゾリドン、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、トリグライム、リン酸トリエチル、シトラコン酸無水物、メチルカーバメートおよびジメチルイミダゾリジノンなどが挙げられる。中でも、電極の形成中に揮発する成分を更に低減する観点から、リン酸トリスエチルヘキシル、アジポニトリル、1,3-プロパンスルトン、グルタル酸無水物、コハク酸無水物、スクシノニトリル、リン酸トリブチル、テトラグライム、ジグリコール酸無水物、スルホラン、エチルメチルスルホン、ジメチルスルホン、リン酸トリスブトキシエチル、スルホレン、ジエチルスルホン、硫酸エチレン(1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド)、ビニルエチレンカーボネート、エチレンカーボネート、N-メチルオキサゾリドン、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネートおよびトリグライムなどの揮発率がリン酸トリエチルよりも高い有機化合物が好ましく、リン酸トリスエチルヘキシル、アジポニトリル、1,3-プロパンスルトン、グルタル酸無水物、コハク酸無水物、スクシノニトリル、リン酸トリブチル、テトラグライム、ジグリコール酸無水物、スルホラン、エチルメチルスルホン、ジメチルスルホン、リン酸トリスブトキシエチル、スルホレン、ジエチルスルホン、硫酸エチレン(1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド)、ビニルエチレンカーボネート、エチレンカーボネートおよびN-メチルオキサゾリドンなどの揮発率がプロピレンカーボネートよりも高い有機化合物がより好ましい。
上述した有機化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、電極の形成中に揮発する成分を低減しつつイオン性物質の溶解性を向上させる観点からは、低揮発率化合物としては、上述した有機化合物を2種類以上併用することが好ましく、3種類以上併用することがより好ましい。
そして、低分子有機化合物(O)中で低揮発率化合物が占める割合は、80質量%以上であれば特に限定されないが、90質量%以上であることが好ましい。
【0055】
-高揮発率化合物-
また、高揮発率化合物としては、特に限定されることなく、例えば、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、シュウ酸ジメチル、ビニレンカーボネート、ジメチルスルホキシド、リン酸トリメチル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、酢酸エチル、プロピオン酸エチルおよびプロピオン酸プロピルなどが挙げられる。中でも、電極形成中の揮発量を低減する観点から、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、シュウ酸ジメチル、ビニレンカーボネート、ジメチルスルホキシドおよびリン酸トリメチルなどの揮発率がリン酸トリメチル以上の有機化合物が好ましい。
上述した有機化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0056】
そして、低分子有機化合物(O)中で高揮発率化合物が占める割合は、0質量%以上20質量%以下であれば特に限定されないが、10質量%以下であることが好ましい。
【0057】
なお、低分子有機化合物(O)は、温度5℃の大気圧下において液体である化合物の含有割合が0質量%以上20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。温度5℃の大気圧下において液体である化合物の含有割合が上記上限値以下であれば、燃焼し難い電極用成形材料を得ることができると共に、揮散した化合物が周囲に液体として付着して機械故障等を招くのを抑制することができる。
【0058】
ここで、温度5℃の大気圧下において液体である化合物としては、特に限定されることなく、例えば、リン酸トリスエチルヘキシル、アジポニトリル、1,3-プロパンスルトン、リン酸トリブチル、テトラグライム、リン酸トリスブトキシエチル、ビニルエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、トリグライム、リン酸トリエチル、シトラコン酸無水物、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、リン酸トリメチル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、酢酸エチル、プロピオン酸エチルおよびプロピオン酸プロピルなどが挙げられる。
【0059】
[粘性電解質組成物の性状]
そして、粘性電解質組成物は、特に限定されることなく、以下の性状を有していることが好ましい。
【0060】
〔粘度〕
粘性電解質組成物は、含まれている成分が相溶していることが好ましく、温度35℃の大気圧下において液状であることがより好ましい。そして、粘性電解質組成物の温度25℃における粘度は、好ましくは10mPa・s以上であり、より好ましくは20mPa・sであり、更に好ましくは50mPa・s以上である。
なお、本発明において、「粘度」とは、温度25℃においてEMS粘度計(京都電子工業製、EMS-1000S)を用いて密閉条件で有機組成物が揮散せず、空気中の水分が混入しないようにモーター回転数1000rpmで測定した粘度を指す。なお、この測定方法で測定した粘度は、基本的には、JIS Z8803に準拠して測定した値と同じ値となる。そして、粘性電解液組成物の粘度は、粘性電解液組成物の組成を変更することにより調整することができる。具体的には、例えば、高粘度の化合物を配合したり、イオン性物質の濃度を高くしたりすることで、粘性電解液組成物の粘度を高めることができる。
また、固体である化合物を混合して液状となる組成を知りたい場合は、組成物の配合に使用する化合物全てを等量ずつ混合し、それらの化合物のうちの最も融点の高い化合物の融点以上にまで全体を加熱して融解させ、その後液体として使用したい温度まで冷却して、全体が液状のままならばそのまま使用でき、一部が固体となった場合は上澄みの組成をガスクロマトグラフや液体クロマトグラフにて定量すれば、液状を呈する組成を知ることができる。
【0061】
〔イオン伝導度〕
更に、粘性電解質組成物は、温度35℃におけるイオン伝導度が1.0×10-4S/cm以上であることが好ましい。また、粘性電解質組成物は、温度-20℃におけるイオン伝導度が1.0×10-4S/cm以上であることが好ましい。粘性電解質組成物のイオン伝導度が上記下限値以上であれば、電極用成形材料を用いて形成した電極を備える電気化学デバイスにおいて電気化学反応を良好に進行させることができる。
【0062】
<導電性フィラー>
任意成分である導電性フィラーとしては、特に限定されることなく、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック、グラファイト、グラフェンなどの電気化学デバイスの分野において使用し得る任意の導電性フィラー、特には粒子状の導電性フィラーを用いることができる。導電性フィラーを含有させれば、導電性に優れる電極を形成することができる。
そして、電極用成形材料中の導電性フィラーの含有割合は、粘性電解質組成物100質量部当たり、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、100質量部以下であることが好ましく、70質量部以下であることがより好ましい。導電性フィラーの含有割合が上記下限値以上であれば、電極の導電性を十分に高めることができる。また、導電性フィラーの含有割合が上記上限値以下であれば、混合し難くなって電極用成形材料が調製し難くなるのを抑制することができる。
【0063】
<固体電解質>
安全性向上を期待する観点から、電極用成形材料はイオン伝導性の無機固体電解質(SE)を含んでいてもよい。無機固体電解質(SE)は不揮発性であり、多くの場合、不燃性であるか、もしくは低燃焼性であることから、電極用成形材料に対して高い比率で配合されるほど電気化学デバイスの安全性が高くなる。無機固体電解質(SE)は、粒子状や繊維状であってよい。イオン性物質(S)と、有機組成物(P-O)と、無機固体電解質(SE)との合計の体積当たりの好ましい無機固体電解質(SE)の配合割合は、好ましくは10体積%以上、より好ましくは30体積%以上、さらに好ましくは50体積%以上、特に好ましくは70体積%以上である。無機固体電解質(SE)の粒子径は、活物質(A)よりも小さい粒子径である方が電極中の活物質の体積分率を高める観点からは好ましい。
【0064】
無機固体電解質(SE)は、例えばイオン伝導性セラミックであってもよく、無機固体電解質としては、例えば、Li-P-S系伝導体(例えば、Li7311)、Li-Ge-P-S系伝導体(例えば、Li10GeP212)、Li-Si-P-S-Cl系伝導体(例えば、Li9.54Si1.741.4411.7Cl0.3)、Li-La-Zr-O系伝導体(例えば、Li7La3Zr212)、Li-Al-Ge-P-O系伝導体(例えば、Li1.5Al0.5Ge1.5312)、Li-La-Zr-O系伝導体(例えば、Li7La3Zr212)、Li-La-Zr-Ta-O系伝導体(例えば、Li6.75La3Zr1.75Ta0.2512)、Li-La-Ta-O系伝導体(例えば、LiLa0.51TaO2.94)、Li-Al-Si-P-Ti-O系伝導体(例えば、Li2Al2SiP2TiO13)、Li-Ti-Al-Si-P-O系伝導体(例えば、Li1.4Ti1.6Al0.4312)、及びLi-Ba-Cl-O系伝導体(例えば、Li2.99Ba0.0051+xCl1-2x)などのリチウムイオン伝導体;β-アルミナ、Na-Ba-Cl-O系伝導体(例えば、Na2.99Ba0.0051+xCl1-2x)などのナトリウムイオン伝導体;Rb-Cu-I-C系伝導体(例えば、RbCu41.75l3.25)などの銅イオン伝導体;Ag-I-W-O系伝導体(例えば、Ag64WO4)などの銀イオン伝導体;等が挙げられる。
【0065】
<繊維成分>
任意成分である繊維成分としては、特に限定されることなく、繊維径がナノサイズ(最大径が1μm未満)の繊維成分を用いることが好ましく、平均繊維径が0.4nm以上500nm以下の繊維成分を用いることがより好ましい。繊維径がナノサイズの繊維成分を配合すれば、電極用成形材料に含まれている成分の纏まりを助け、強度に優れる電極を形成することができる。なお、繊維径は走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡などの顕微鏡を用いて計測することができる。配合前の繊維径がナノサイズであってもよいし、電極用成形材料として混錬されたのちにナノサイズとなっていてもよいが、活物質(A)の粒子間にナノサイズの径の橋掛けができていることが重要である。顕微鏡で本発明の電極を観察した際に、100μm四方の視野中に10本以上の橋掛けがあることが好ましく、20本以上の橋掛けがあることがより好ましい。揮発性の有機化合物が存在して観察に不適であれば、乾燥を行ってから観察を行うことが好ましい。
【0066】
ここで、繊維径がナノサイズの繊維成分としては、特に限定されることなく、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、セルロースナノファイバー、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)ナノファイバー、PVdF(ポリフッ化ビニリデン)ナノファイバー、ポリアクリロニトリルナノファイバーなどが挙げられる。また、静電紡糸法(エレクトロスピニング法)を用いれば、任意の高分子のナノファイバーを調製して利用できる。中でも、繊維径がナノサイズの繊維成分としては、カーボンナノチューブと、PTFEナノファイバーと、静電紡糸した高分子のナノファイバーが繊維の微細性の面から好ましい。
そして、繊維成分の配合量は、特に限定されることなく、例えば、活物質(A)100質量部当たり、8質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることが更に好ましい。繊維成分の含有量が上記上限値以下であれば、電極密度が低下するのを抑制することができる。
【0067】
<添加剤>
任意成分である添加剤としては、特に限定されることなく、例えば電極保護剤や難燃剤などの電気化学デバイスの分野において使用し得る任意の添加剤を用いることができる。
なお、添加剤としては、揮発率が低いものを用いることが好ましく、揮発率がリン酸ントリエチルの揮発率未満の化合物を用いることがより好ましく、揮発率がポリカーボネートの揮発率未満の化合物を用いることが更に好ましい。
【0068】
[電極保護剤]
電極保護剤としては、特に限定されることなく、電気化学デバイスの分野において使用し得る任意の電極保護剤を用いることができる。
具体的には、負極保護剤としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキサイド、1,3-プロパンスルトン、ブタンスルトン、ビニルエチレンカーボネート、ジアリルカーボネートなどが挙げられる。
【0069】
[難燃剤]
また、難燃剤としては、炭素数が24以下のリン酸エステル類、炭素数が24以下の亜リン酸エステル類、ホスファゼン類などを用いることができる。中でも、難燃剤としては、リン酸エステル類を用いることが好ましい。
【0070】
更に、添加剤としては、ウィスカ、赤燐、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、アンチモン、シクロホスファゼンオリゴマー、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタン酸バリウム、メラミン、メラミンシアヌレート、炭酸アンモニウム、塩化アンモニウム、重曹、オキシビスベンジルヒドラジドなども使用し得る。
そして、電極用成形材料中の各添加剤の含有割合は、特に限定されるものではないが、通常、5質量%以下である。
【0071】
<電極用成形材料の物性>
そして、電極用成形材料は、粘土状または粉末状であることが好ましく、粘土状であることがより好ましい。
また、電極用成形材料は、気孔率が、20体積%以下であるか、或いは、圧縮により20体積%以下になるものであることが好ましい。上述した気孔率を有する電極用成形材料を使用すれば、高密度な電極を形成することができる。
【0072】
<電極用成形材料の調製>
電極用成形材料は、特に限定されることなく、上述した成分を任意の順序で混合して調製することができる。中でも、調製の容易さの観点から、電極用成形材料は、予め有機化合物を混合した後に、無機化合物を添加して混合することが好ましい。また、イオン性物質(S)と、有機組成物(P-O)との混合物が液状である場合には、イオン性物質(S)および有機組成物(P-O)は、液状混合物としてから電極用成形材料の調製に用いることが好ましい。
なお、調製した電極用成形材料は、直ぐに使用しない場合、密閉容器に保管するか、或いは、含まれている成分の揮散を防止する保護フィルムを貼り付けて保管することが好ましい。
【0073】
(電極)
本発明の電極は、本発明の電極用成形材料を用いて形成した部分を含むものである。即ち、本発明の電極は、電極用成形材料のみで構成されていてもよいし、集電体などの表面に電極用成形材料を用いて形成した部分を有するものであってもよい。このように、本発明の電極用成形材料を用いれば、臭気や安定性の問題が生じるのを抑制しつつ、活物質の含有割合が高い電極を得ることができる。
なお、本発明の電極では、電極用成形材料を用いて形成した部分が複数積層されていてもよい。そして、積層される複数の電極用成形材料は、互いに組成が異なっていてもよい。ここで、電極用成形材料を用いて形成した部分を集電体に積層する場合は、集電体に近い方から遠い方へと順次、電極用成形材料中における粘性電解質組成物の比率が上がるようにすると、電極厚みを厚くしても電気化学デバイスの出力が低下しにくくなる。
【0074】
具体的には、本発明の電極は、例えば、本発明の電極用成形材料をシート状などの任意の形状に成膜したものであってもよいし、集電体に電極用成形材料を貼り付けてなるものであってもよい。ここで、電極は均等な厚みでもよいし、厚みが傾斜していてもよい。厚みが傾斜した電極は、例えば、クリアランスが両端で異なるロールでニップすることなどで製造することができる。
なお、本発明の電極は、物理的な親和力のみで接合を維持するので、集電体などの被着体の形状に追随しやすいシート形状であると、被着体との密着を維持しやすい。
【0075】
ここで、電極用成形材料を集電体に貼り付ける場合、貼り付けられる電極用成形材料の形状は、任意の形状とすることができる。また、電極用成形材料は、集電体の片面のみに貼り付けられていてもよいし、集電体の両面に貼り付けられていてもよい。更に、電極用成形材料の外側に、厚みを規制することや外部と電極用成形材料とを隔離することを目的として枠体を設けてもよい。枠体は絶縁性であることが望ましく、例えば高分子材料などで形成することができる。形成の方法は、既に形状のできている枠体部品を配置してもよいし、溶融した樹脂をディスペンサーで供給してその場で形成してもよいし、インクジェットプリントで形成してもよい。
【0076】
更に、集電体は、電極用成形材料が貼り付けられる部位に貫通孔を有することが好ましい。電極用成形材料が貼り付けられる部位に貫通孔を有していれば、貫通孔内まで電極用成形材料を充填し、電極用成形材料を良好に貼り付けることができる。また、集電体が貫通孔を有していれば、例えば活物質(A)として初期不可逆容量を有する活物質を用いた場合などに、垂直プレドープ法を用いてプレドープを容易に行うことができる。更には、貫通孔を有することにより、電気化学デバイス内部における活物質の比率を高めることができ、エネルギー密度を向上させることができる。貫通孔を有する集電体としては、パンチングメタル、エクスパンドメタル、メッシュ、カーボン不織布などが挙げられる。
なお、集電体が貫通孔を有さない場合であっても、電極用成形材料を用いて形成した部分にリチウム金属などのドープ源を直に接触させることで、ドープを行うことは可能である。具体的には、集電体にドープ源を貼り付けておくか、電極用成形材料を用いて形成した部分にドープ源を接触させればよい。
【0077】
また、集電体は、電極用成形材料が接する表面に導電性コートを有することが好ましい。電極用成形材料が接する表面に導電性コートを有していれば、電極の導電性を高めることができると共に、表面の凹凸により電極用成形材料との密着性を高めることができる。なお、導電性コートとしては、特に限定されることなく、電気化学デバイスの分野において使用し得る任意の導電性コートを用いることができる。
【0078】
そして、電極用成形材料を用いて形成した部分は、気孔率が20体積%以下であることが好ましく、15体積%以下であることがより好ましい。電極用成形材料を用いて形成した部分の気孔率が上記上限値以下であれば、電気化学デバイスにおいて電気化学反応を良好に進行させることができる。
【0079】
また、電極用成形材料を用いて形成した部分は、電極用成形材料が架橋または重合されていることが好ましい。電極用成形材料が架橋または重合されていれば、強度の高い電極を得ることができるからである。
なお、電極用成形材料を架橋または重合させる方法としては、特に限定されることなく、加熱や、紫外線または電子線の照射などの既知の方法を用いることができる。
【0080】
(電極の製造方法)
本発明の電極の製造方法は、上述した本発明の電極を製造する際に用いることができる。
【0081】
なお、本発明の電極の製造方法では、特に限定されることなく、開放雰囲気下において電極用成形材料を成形して電極を製造することができる。ここで、「開放雰囲気」とは、気流が存在する雰囲気や真空引きされている雰囲気など、電極用成形材料が接する雰囲気が電極用成形材料からの蒸気によって飽和にならない雰囲気を指す。
なお、電極の製造は、水分の付着を防止する観点から、製造雰囲気の露点以上で行うことが好ましい。また、同様の理由により、電極の製造では、水を冷媒体(または熱媒体)として用いる加工機を使用しないことが好ましい。
【0082】
また、本発明の電極の製造方法では、揮発率がN-メチルピロリドンの揮発率以上の化合物の割合が低い電極用成形材料を用いているので、多量の溶媒を含むスラリーを用いた電極の製造とは異なり、電極用成形材料を乾燥させる乾燥工程を行わずに、電極を製造することができる。
【0083】
そして、電極用成形材料のみで構成されている電極を製造する場合には、特に限定されることなく、電極用成形材料を例えばシート状などの所望の形状に成形した後、任意に架橋または重合させて、電極を製造することができる。
なお、電極用成形材料をシート状に成形する場合、特に限定されることなく、電極用成形材料からなるシートを容易に得るとともに、シートをより薄くしやすくする観点から、電極用成形材料からなる複数本のストランドを押し潰してシート状に成形することが好ましい。ここで、ストランドの断面形状は、円、楕円、三角、四角、その他の多角形などであってよい。電極に気孔を生じさせない観点からは、星型など窪みがある形状でないものの方が好ましい。
【0084】
また、集電体の表面に電極用成形材料を貼り付けてなる電極を製造する場合には、特に限定されることなく、電極用成形材料を所望の形状に賦形した後に集電体の片面または両面に貼り付けることにより、電極を製造することができる。電極用成形材料を賦形した後に貼り付ければ、集電体上に設けられた電極用成形材料からなる部分の形状を容易に所望の形状とすることができる。例えば、金属ロールの上に連続的にシート状の電極用成形材料を形成し、この後この金属ロール上で流れ方向と垂直に断続的に電極用成形材料を切り欠くことで、連続体でない分割された電極用成形材料を集電体へ転写することもできる。ここで、集電体に貼り付けてから賦形を行う場合や、貼り付けと賦形とを同時に行う場合には、集電体を変形させたり傷つけたりしないように、かける力や作業の内容を制限することが好ましい。
なお、集電体の両面に電極用成形材料を貼り付ける場合、電極用成形材料は集電体の両面に略同時に貼り付けられることが好ましく、同時に貼り付けられることがより好ましい。
【0085】
ここで、上述したようにして電極を製造する場合、電極用成形材料の形状および/または厚みを調整する工程を含むことが好ましい。
【0086】
そして、電極用成形材料の形状は、例えば電極用成形材料を削り取ることにより容易に調整することができる。
また、電極用成形材料の厚みは、例えば、ロール等を用いて電極用成形材料を押し潰すことにより、或いは、電極用成形材料を削り取ることにより、容易に調整することができる。
【0087】
ここで、電極用成形材料を押し潰すことにより厚みを調整する場合、厚みを容易に調整する観点からは、曲率半径が100mm以下の曲面で電極用成形材料を押し潰すことが好ましい。なお、押し潰す際は、クリアランスを一定に制御しながら押し潰すと均一な厚みの電極が得やすい。また、曲率半径100mm以下の曲面はロール形状であることが好ましく、回転していることがさらに好ましい。回転は電極用成形材料に対して同速度であってもよいし、順方向あるいは逆方向に速度差を持っていてもよい。速度差をつけることで、電極用成形材料がどちらの側に張り付くかを制御することができる。速度の異なる物体に挟まれたとき、多くの場合で、速度の速いものの方に電極用成形材料は張り付きやすい。押し潰す工程は1段であるよりも2段以上の多段にして少しずつ厚みを薄くしていく方が、電極用成形材料にかかるストレスが軽減されるので好ましい。
また、電極用成形材料の厚み精度を例えば±5%以内の高精度に制御する場合には、厚みを粗調整した後に曲率半径が0.5mm以上の曲面で微調整することが好ましい。曲率半径が0.5mm以上の曲面で電極用成形材料を撫でることで電極の厚み精度を向上させることができる。この際、移動しているのは曲面であってもよいし、電極用成形材料であってもよいし、それらの両方でもよい。押圧を一定にして撫でることが好ましく、押圧は電極の平均厚みを1%以上変化させない程度の強さであることが好ましい。
【0088】
なお、電極用成形材料を押し潰す際にロールを使用する場合、ロールの表面は非粘着性であることが好ましく、セラミック、フッ素系ポリマーまたはシリコーン系ポリマー、金属からなることがより好ましい。ロール表面を梨地にするなど、表面粗さを上げるように処理してもよい。表面を荒らす処理はサンドブラストなどで行うことができる。荒らしすぎると電極用成形材料が孔(凹部)に埋まってしまう恐れがあるので、粗さの高低差は小さいことが好ましく、表面の算術平均粗さ(Ra)は、10μm以下が好ましく、5μm以下がさらに好ましく、2μm以下がより好ましい。また、孔の長径は、短いことが好ましい。表面の要素の平均長さ(Rsm)は、500μm以下が好ましく、300μm以下がさらに好ましく、200μm以下がより好ましい。また、ロールの表面には製造する電極の厚み制御のために厚さ一定のテープが貼られていてもよい。更に、ロールの表面に模様をつけて当該模様を電極用成形材料に転写してもよい。また、電極用成形材料からの成分の揮散を抑制する観点から、ロールは小径であることが好ましい。更に、ロールへの貼り付きを防止する観点からは、ロールと接触する電極用成形材料の表面は、例えば賦形や切り欠き等の手法を用いて波型にしたり、凹凸をつけたりすることが好ましい。波型や凹凸の高低差は電極用成形材料の最厚部の厚みの1~95%が好ましい。賦形は、混錬機の出口ダイスの形状を波型にすること等により実施することができる。また、電極用成形材料の表面に上記のような形状を付与することにより電極用成形材料が潰れやすくなるので厚み制御がし易くなる。
【0089】
そして、本発明の電極の製造方法では、電極用成形材料の厚みを測定して電極用成形材料の目付量をフィードバック制御することが好ましい。電極用成形材料は、揮発率がN-メチルピロリドンの揮発率以上の化合物の割合が0質量%以上20質量%以下であり、厚みから目付量を容易に把握することができるところ、厚みを測定して目付量をフィードバック制御すれば、目付量を容易に制御することができる。なお、厚みの測定は、接触式膜厚計やレーザ式膜厚計を用いて容易に行うことができる。
【0090】
なお、本発明の製造方法に従い製造した電極は、製造後なるべく早く電気化学デバイスに組み込むことが好ましく、電極は、好ましくは20日以内、より好ましくは10日以内、さらに好ましくは5日以内に組み込まれる。
【0091】
(電極のリサイクル方法)
本発明の電極のリサイクル方法は、集電体に電極用成形材料を貼り付けてなる本発明の電極をリサイクルする方法であり、集電体から電極用成形材料を剥離する工程を含む。このように、集電体上に電極用成形材料からなる部分を設けてなる電極から電極用成形材料を剥離すれば、剥離した電極用成形材料および集電体を容易に再利用することができる。本発明の電極では、電極用成形材料が集電体と化学的な結合を有しないために、集電体から簡易に剥離することができる。例えば、剥離冶具として端部が鋭利なヘラを集電体との界面に挿入し、そのまま移動させることによって活物質残渣を残すことなく集電体から電極用成形材料を剥離することができる。剥離冶具の材質は剥離冶具が接触する集電体や装置よりも低い硬度の材料であることが好ましい。また、導電性の微粉を生じない材質であることが好ましい。両者を満たすものとしては、プラスチックやゴム、木材、紙などが挙げられるが、これに限られるものではない。剥離したい場所と剥離したくない場所を規制するために、剥離の前に予備的に電極に切り込みを入れておくことも好適な実施態様である。切り込み冶具の材質は、切り込み冶具が接触する集電体や装置よりも低い硬度の材料であることが好ましいが、切り込み冶具が集電体や装置に直に接触しないようにクリアランスを制御してもよい。リサイクルの対象となる電極は、デバイス製造途中のものに限らず、デバイスが廃棄・解体されて生じた電極であってもよい。本発明の電極のうち架橋操作がなされていないものについては、さらに粘性電解質組成物が溶解しうる有機溶剤に投入し、電解質組成物を溶解させることによって、容易に活物質を分離することもできる。分離した活物質は再度デバイスの製造に利用することができる。分離した粘性電解質組成物を構成する成分については、蒸留、再結晶などの精製によって再利用することができる。集電体は、粘性電解質組成物残渣が溶解しうる有機溶剤で洗浄してからリサイクルすることもできる。
【0092】
(電気化学デバイス)
本発明の電気化学デバイスは、本発明の電極を備えるものであり、良好な電気化学特性を発揮し得る。具体的には、本発明の電気化学デバイスは、通常、正極および負極と、電解液とを備え、任意にセパレータを更に有している。そして、本発明の電気化学デバイスは、正極および負極の少なくとも一方が本発明の電極であることを必要とする。
【0093】
中でも、本発明の電気化学デバイスは、正極および負極の一方が本発明の電極であり、本発明の電極の対極が、アルカリ金属、アルカリ土類金属および金属アルミニウムから選ばれる少なくとも一つよりなることが好ましい。開放雰囲気下で製造可能な本発明の電極は従来の電極よりも水分を多く含んでしまう虞があるところ、上述した対極を使用すれば、電極に由来して持ち込まれた水分を良好に捕捉することができる。
【0094】
また、本発明の電気化学デバイスは、対極およびセパレータの少なくとも一方が、水分捕捉能を有する無機フィラーおよび/または水分捕捉能を有するイオン性物質を含むことが好ましい。対極やセパレータが水分捕捉能を有する無機フィラーおよび/または水分捕捉能を有するイオン性物質を含んでいれば、電極に由来して持ち込まれた水分を良好に捕捉することができる。
【0095】
ここで、セパレータとしては、特に限定されることなく、電気化学デバイスの分野において使用し得る任意のセパレータを用いることができる。また、電解液としては、特に限定されることなく、電極用成形材料が含有する粘性電解質組成物と同じ組成物を用いることが好ましい。そして、水分捕捉能を有する無機フィラーとしては、特に限定されることなく、例えば、シリカ、アルミナ、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水素化マグネシウム、水素化リチウム、水素化カルシウムまたは五酸化リンの粒子などを用いることができる。また、水分捕捉能を有するイオン性物質としては、特に限定されることなく、例えば、ビス(オキサレート)ボレート塩、ジフルオロオキサレートボレート塩などを用いることができる。
【実施例
【0096】
まず、下記の参考例1を実施し、各化合物の揮発率を評価した。
【0097】
(参考例1)
室温18℃、露点-40℃以下に管理したドライルーム内で、直径5cmのアルミ皿に表1に示す有機化合物を1gずつ計り取り、蓋などはせずに、風速0.5m/分に制御したドラフト内に置いた。12時間後に重量を計り、揮発率(=(減少した質量/初期質量)×100%)を評価した。
結果を表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
(実施例1)
低揮発率化合物としてのエチレンカーボネート5gおよびジメチルスルホン2gと、負極保護剤としての1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド1gと、ポリマーとしての分子量100万のエチレンオキサイド-アリルグリシジルエーテルのランダム共重合体(エチレンオキサイド:アリルグリシジルエーテル(モル比)=90:10)1gと、イオン性物質としてのLiBF41gとを秤り取り、室温で混合して均一な粘性電解質組成物とした。この操作は開放で行ったが、密閉容器内で行っても良い。得られた粘性電解質組成物のイオン伝導度は5.6×10-3S/cmであった。
粘性電解質組成物10gと、負極活物質としてのグラファイト(日本カーボン社製、604A)40gとを開放型の乳鉢で混練して、均一な粘土状の電極用成形材料を得た。
この電極用成形材料は、支持体無しでも薄層化が可能であり、厚みを200μmにした場合、その形状を維持したままで6mm角程度の小片としてピンセットでつまみ上げることができた。
この電極用成形材料はまとまる性質があるために、乳鉢から全量をきれいに移動させることができ、乳鉢にほとんど材料は残留しなかった。
得られた電極用成形材料を全て、水平なテーブルの上で直径30mmの金属性のハンドローラで厚み50μmのシート状に延ばし、更に集電体としての厚み25μmの銅箔に貼り付けてリチウムイオン電池用負極を製造した。
なお、集電体に貼り付けた電極用成形材料は、最初は厚みにムラがあったが、繰り返しハンドローラを掛けるうちに±2%以内の厚みムラに抑えることができた。
作業時間はおよそ1時間であり、得られた負極の重量は集電体を含めずに50.0gであり、製造プロセスにおける材料の逸失はほとんどないものと考えられた。また、作製した負極の比重を計測したところ、製造に使用した材料ごとの比重から計算した値(理論値)とほぼ一致し、電極用成形材料からなる部分は気孔がほとんど無いと考えられた。
なお、得られた負極の密度を、活物質の体積割合と共に表2に示す。
【0100】
(実施例2)
低揮発率化合物としてのエチレンカーボネート6gおよびジメチルスルホン2gと、ポリマーとしての分子量100万のエチレンオキサイド-プロプレンオキサイドのランダム共重合体(エチレンオキサイド:プロプレンオキサイド(モル比)=90:10)1gと、イオン性物質としてのLiBF41gとを秤り取り、室温で混合して均一な粘性電解質組成物とした。得られた粘性電解質組成物のイオン伝導度は5.0×10-3S/cmであった。
粘性電解質組成物10gと、正極活物質としてのコバルト酸リチウム(日本化学工業社製、セルシードC)25gと、導電性フィラーとしてのアセチレンブラック5gとを開放型の乳鉢で混練して、均一な粘土状の電極用成形材料を得た。
この電極用成形材料は、支持体無しでも薄層化が可能であり、厚みを200μmにした場合、その形状を維持したままで6mm角程度の小片としてピンセットでつまみ上げることができた。
この電極用成形材料はまとまる性質があるために、乳鉢から全量をきれいに移動させることができ、乳鉢にほとんど材料は残留しなかった。
得られた電極用成形材料を全て、水平なテーブルの上で直径30mmの金属性のハンドローラで厚み50μmのシート状に延ばし、更に集電体としての厚み25μmのアルミニウム箔に貼り付けてリチウムイオン電池用正極を製造した。
なお、集電体に貼り付けた電極用成形材料は、最初は厚みにムラがあったが、繰り返しハンドローラを掛けるうちに±2%以内の厚みムラに抑えることができた。
作業時間はおよそ1時間であり、得られた正極の重量は集電体を含めずに40.0gであり、製造プロセスにおける材料の逸失はほとんどないものと考えられた。また、作製した正極の比重を計測したところ、製造に使用した材料ごとの比重から計算した値(理論値)とほぼ一致し、電極用成形材料からなる部分は気孔がほとんど無いと考えられた。
なお、得られた正極の密度を、活物質の体積割合と共に表2に示す。
【0101】
【表2】
【0102】
(実施例3)
実施例1で作成した負極、実施例1で作成した粘性電解質組成物を含侵したセパレータ(ポリポア製、セルガード2325)、実施例2で作成した正極を順に重ね合わせ、アルミラミネート外装中に挿入し、1分間真空で脱気したのちに端部を熱でシールしてリチウムイオン電池を製造した。真空シールの前後で重量減少は認められなかった。製造後すぐにこの電池を25℃、0.1Cレートで充放電したところ、良好に動作することを確認した。初期不可逆容量は既存のリチウムイオン電池と同等の15%であり、10サイクル経過後の放電容量は初期の99%と高かった。
【0103】
(比較例1)
プラネタリーミキサーに、活物質としてコバルト酸リチウム(日本化学工業社製、セルシードC)100部、導電性フィラーとしてアセチレンブラック3部を仕込み、固形分濃度が90%となるようにN-メチルピロリドンを添加して、20分撹拌、混合した。その後、ポリフッ化ビニリデンを固形分基準で1部加え、固形分濃度82%で90分間混練した後、さらにN-メチルピロリドンを加え、スラリー粘度を調整した。このスラリーを用いて、リチウムイオン電池の電極の一般的な製造方法に従い正極を製造した。なお、スラリーは、ミキサーの壁や配管内に残り、清掃に多大な手間を要した。容器に余っていたスラリーはもう使用できないのでもったいないが廃棄した。
そして、電極を所定の密度に潰し、厚みムラを減らすために、高圧のロールプレスを行った。
出来上がった電極は、中央部に比べて端部で目付が大きい電極となった。これはスラリー塗工時に端部が必ず盛り上がってしまう挙動に由来している。
また、電極の乾燥のためにオーブンで乾燥するなどの手間とエネルギーが多くかかった。
この電極で電池を作り、注液を行った。電解液は直接電池の容器内に導入し、なるべく容器の開口部が小さくなるようにし、容器内と周辺はアルゴン雰囲気とした。注液後すぐに充放電を開始したところ、初期不可逆容量が25%と大きく、放電容量は10サイクルで初期の80%にまで急速に低下した。
電池の製造後すぐに充放電を開始したため、電解液が十分に電池内部に浸透していなかったものと思われる。
【0104】
(比較例2)
ポリマー(P)を含まない製造方法として、特表2017-534164号公報の実施例1で開示された方法で電極および電池を製造した。なお、本発明の方法とは異なり、半固体材料がミキサーの壁や配管、装置のいたるところに残り、清掃に多大な手間を要した。
電極を所定の密度に潰すための高圧のプレスは不要であったが、高い密度を得ようと活物質の混合比率を上げると材料がまとまらなくなり、高い活物質密度を得ることはできなかった。
また、電極の乾燥は不要であったが、電解液成分であるGBLの揮発が激しいために作業は難しく、また作業者が蒸気を吸ってむせ返ることがあった。
電極の厚みを測る際に、膜厚計のプローブ(5mmφ)を当てたところ、電極が柔らかすぎて窪んでしまったため正確な膜厚を測ることはできなかった。これは製品の生産管理上大きな問題である。
また、電極の余分な部分を除去する作業を試みたが、除去はできるものの残存物があり、きれいに除去できなかった。このような残存物は電池のショートを招く危険がある。
この電極で電池を作り、すぐに充放電を開始したところ、動作することを確認した。
【0105】
(比較例3)
低分子有機化合物を含まない製造方法として、特許第4593114号に開示された方法でリチウムイオン電池の正極を製造した。本発明の方法とは異なり、室温では材料が固すぎて加工できず、120℃程度に加温する必要があった。また、高温でせん断を受けたためにポリマーの分子量低下が見られた。
電極を所定の密度に潰すための高圧のプレスは不要であったが、高い密度を得ようと活物質の混合比率を上げると混練が不可能となり、高い活物質密度を得ることはできなかった。
また、室温まで冷めた電極の厚みを測ったところ±10%程度の厚みムラがあったが、室温まで冷めてしまった電極をプレスしても変形させることはできず、厚みムラを改善することはできなかった。
この電極で電池を作り、電池を60℃の恒温槽に入れて5時間後に充放電を開始したところ、動作することを確認した。
【0106】
(実施例4)
混練部とベント部を有し、シート形状に排出可能なTダイを出口とする二軸押出機(L/D=30)へ、それぞれ質量比で、エチレンカーボネートを5、ジメチルスルホンを2、分子量100万のエチレンオキサイド-プロプレンオキサイド共重合体を1、繊維成分としてのPTFEを1、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを1、コバルト酸リチウムを100、アセチレンブラックを3となるように、スクリュー式定量フィーダー計7台を用いて供給し、室温25℃で2軸混練およびシート化を行った。ダイ出口のクリアランスは100μmとし、12m/分の速度で移動する離型性を有するPETフィルムで両側から挟みながら直径200mmのクロームメッキを施した鉄製のロールで0.7MPaのエアー圧でニップして、厚み100μm、厚み精度±3%のシート形状の正極フィルムを連続的に得た。この製造プロセス中の品温は、押出し機入口においては室温と同じ25℃であり、密閉された混練部では混練による摩擦熱によって温度上昇があり50℃であり、出口においては室温と同じ25℃であった。材料からの揮散物は完全に0ではないので、作業者の健康の観点から局所排気設備を適宜設置し、稼働させた。得られた正極フィルムをさらに直径300mmの曲率の曲面を有する鏡面仕上げのSUS板で撫でて膜厚精度を±1%へ向上させた。得られた電極は中心部と端部で厚みの差や密度の差のない良好な電極であった。また、この電極は少なくとも5cm角でもピンセットでつまむことができた。繊維成分を含むため強度が高いと考えられる。
【0107】
(実施例5)
2軸押し出し機のバレル部に温度20℃のシリコーンオイルを冷媒として流した以外は実施例4と同じようにして、正極フィルムを得た。この製造プロセス中の品温は、押出し機入口においては室温と同じ25℃であり、密閉された混練部では混練による摩擦熱によって温度上昇したが30℃に抑えられ、出口においては室温と同じ25℃であった。
温度上昇が少ないことを確認した後で、ベント部から真空ポンプで脱揮を行ったが、問題なく製造することができた。
【0108】
(実施例6)
実施例4の二軸押出機のダイを直径1mmの円柱状に排出可能なものに変更し、これを8mmの間隔で10本を並べて配置した。それぞれ質量比でエチレンカーボネートを5、ジメチルスルホンを2、分子量100万のエチレンオキサイド-プロプレンオキサイド共重合体を1、繊維成分としてのPTFEを1、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを1、コバルト酸リチウムを100、アセチレンブラックを3となるようにスクリュー式定量フィーダーを用いて供給し、室温25℃で2軸混練および直径1mmの円柱状での10本の排出を行い、30m/分で移動する厚み25μmのアルミ箔上ヘ連続的に供給した。酸化クロム処理したSUS製の直径100mmのニップロールで挟んで電極用成形材料を薄層化した後に、シリコーン処理した30mmのロールでニップして、厚み精度の向上を行い、電極用成形材料からなる部分の厚みが98μm、膜厚精度が±1%であるシート形状の正極を得た。この製造プロセス中の品温は、押出し機入口においては室温と同じ25℃であり、密閉された混練部では混練による摩擦熱によって温度上昇があり50℃であり、出口においては室温と同じ25℃であった。
【0109】
(実施例7)
実施例6の2軸押し出し機を2台平行に並べて、集電箔の両面に同時に負極を形成する製造を試みた。電極用成形材料は、質量比でエチレンカーボネートを5、ジメチルスルホンを2、分子量100万のエチレンオキサイド-プロプレンオキサイド共重合体を1、繊維成分としてのPTFEを0.5、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを1、負極活物質としてのグラファイトを50となるように計量して投入し、周速50m/分で回転する直径300mmの梨地処理したSUS製ロール(Ra=0.82μm、Rsm=112μm)の上に供給し、さらにこのロールに対して直径30mmの小径のロールを100μmのクリアランスで当てて、直径300mmのロールとは逆方向に回転させて電極用成形材料の薄膜化を行えるようにした。この装置を、50m/分で移動する厚み25μmの銅箔の両側へ左右対称に配置して、300mmのロール同士で銅箔がニップされるように構成した。電極用成形材料は大径ロールから少しも脱落することなく集電箔へ両面同時に転写され、銅箔の両面に電極用成形材料からなる部分を有する負極を製造することができた。この負極を用いた電池は良好に動作した。また、小径ロールを越えた後の電極用成形材料の端部付近にプラスチック製のヘラを配置して、端部の電極用成形材料を鋭利に除去する機構を設置すると、電極用成形材料からなる部分の端部の直線性が向上し、負極の幅精度が良くなり、また裏表の電極用成形材料からなる部分の位置精度が向上した。既存技術である塗工法ではこのような電極製造は不可能である。
【0110】
(実施例8)
貫通孔を有する集電箔(孔径500μm、開口率30%)を用いた以外は、実施例7と同じようにして負極を製造した。製造した負極を切断したところ、貫通孔にもきれいに電極用成形材料が充填されており、また両側の電極用成形材料が合体していることが確認された。これにより、孔の分だけエネルギー密度が増し、両側の電極用成形材料が合体したことにより電極用成形材料が集電体から脱落しにくい負極が製造できた。
【0111】
(実施例9)
実施例7で用いた電極用成形材料を、直径30mmのクロムメッキを施した鉄製ロールを2本有する開放系のオープンロールで混練した。ロール間隙を1mmまで徐々に狭くしながら、全体が均一に混ざるまで、材料を切り返しつつ混練したところ、品温は最大で40℃まで上昇した。最後に、ロール間隙を100μmに調整し、電極用成形材料をロールからはがし取って、厚み100μmの負極シートを得た。この負極シートを厚み25μmの銅箔に貼り付けて負極とした。この負極を用いた電池は良好に動作した。
【0112】
(実施例10)
実施例2で得られた厚み50μmのシート形状の正極の表面を、フライス盤で削り取ることにより、厚み40μmの正極を得ることができた。
【0113】
(実施例11)
実施例1で製作した負極を集電体ごと直径1mmの円柱に半周巻きつけて、元に戻したところ、特別な変化は認められなかった。これを100回繰り返したが、やはり特別な変化は認められなかった。
【0114】
(比較例4)
比較例1で製作した負極を集電体ごと直径1mmの円柱に半周巻きつけて、元に戻したところ、電極用成形材料からなる部分に亀裂が入っていた。これをもう1度繰り返したところ、電極用成形材料からなる部分の一部が集電体から脱落したため試験を終了した。
【0115】
(実施例12)
実施例1で製作した負極の電極用成形材料からなる部分の一部をプラスチック製のヘラで剥離したところ、銅箔から電極用成形材料を綺麗にはがし取ることができた。またはがし取った電極用成形材料を再度混練し、はがし取った場所に置き、上からローラで延ばすことにより、再び同じように負極を成形することができた。また、再生された負極は、はがし取った場所がどこだったのか目視で判断することはできないほど、よくなじんでいた。
【0116】
(実施例13)
実施例7で製作した正極の電極用成形材料からなる部分の全部をプラスチック製のヘラで剥離し、剥離片を2軸混練機に投入し正極を製造したところ、再び同じように正極を成形することができた。また、再生された正極を用いた電池は元ものもと全く変わらない性能を有していた。
【0117】
(参考例2)
リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド1g、エチレンカーボネート8g、およびエチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体1gからなる粘性電解質組成物をホットプレート上に厚み1mmになるように薄く延ばし、その1cm上方にガラス板を配置して、粘性電解質組成物に含まれている成分の揮散の程度を評価した。ホットプレート温度は20℃から10℃刻みで130℃まで上昇させた。105℃からかすかにガラスが曇るようになり、125℃からガラスの曇りが顕著に見られるようになった。これは粘性電解質組成物からエチレンカーボネートが揮発して凝縮したものと考えられる。付着物は固体であり、粘性電解質組成物料の上方以外の部分に付着したり、付着したものが移動することは無かった。
【0118】
(参考例3)
エチレンカーボネートをプロピレンカーボネートに変えた以外は参考例2と同じように粘性電解質組成物を作成し、粘性電解質組成物に含まれている成分の揮散の程度を評価した。105℃からかすかにガラスが曇るようになり、125℃からガラスの曇りが顕著に見られるようになった。これは粘性電解質組成物からプロピレンカーボネートが揮発して凝縮したものと考えられる。付着物は液状でありガラスを伝って周囲にやや移動する挙動であった。液体であるため、参考例2の固体のエチレンカーボネートの場合よりもやや視認しづらかった。プロピレンカーボネートがほとんど揮発するまで実験を継続した場合は、部分的にしずくとなって垂れる現象も確認された。少量であれば問題にならないが、生産において液状の凝縮物が多量に出ると機器に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0119】
(実施例14)
ジメチルスルホンをスクシノニトリルに変えた以外は実施例1と同じようにして、負極を製造した。
作業時間はおよそ1時間であり、得られた負極の重量は集電体を含めずに40.0gであり、製造プロセスにおける材料の逸失はほとんどないものと考えられた。
【0120】
(実施例15)
ジメチルスルホンをプロピレンカーボネートに変えた以外は実施例1と同じようにして、負極を製造した。
作業時間はおよそ1時間であり、得られた負極の重量は集電体を含めずに39.9gであり、製造プロセスにおいてややプロピレンカーボネートが逸失したものと考えられた。
【0121】
(実施例16)
混練作業を行う場所をアクリル板で簡易に覆って、ドライルーム内の気流が当たらないようにした以外は実施例15と同じように作業したところ、得られた負極の重量は集電体を含めずに40.0gであり、製造プロセスにおける材料の逸失はほとんどないものと考えられた。
【0122】
(実施例17)
プロピレンカーボネートをリン酸トリエチルに変えた以外は実施例16と同じようにして、負極を製造した。
作業時間はおよそ1時間であり、得られた負極の重量は集電体を含めずに39.9gであり、製造プロセスにおいて材料の逸失はあったが、その量は少ないものと考えられた。
【0123】
(比較例5)
低揮発率化合物としてのエチレンカーボネート2gと、高揮発率化合物としてのγ-ブチロラクトン5gと、負極保護剤としての1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド1gと、ポリマーとしての分子量100万のエチレンオキサイド-プロプレンオキサイド共重合体1gと、イオン性物質としてのLiBF41gとを秤り取り、室温で混合して均一な粘性電解質組成物とした。
そして、実施例1と同じ操作でリチウムイオン電池負極を製造した。
作業時はγ-ブチロラクトンの臭気が漂っていた。
作業時間はおよそ1時間であり、得られた負極の重量は集電体を含めずに38.9gであり、重量減少の大半はγ-ブチロラクトンが製造プロセスにおいて揮発したものであると判断した。
【0124】
(実施例18)
低揮発率化合物としてのエチレンカーボネートを6gと、高揮発率化合物としてのγ-ブチロラクトンを1gと、負極保護剤としての1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド1gと、ポリマーとしての分子量100万のエチレンオキサイド-プロプレンオキサイド共重合体1gと、イオン性物質としてのLiBF41gとを秤り取り、室温5℃に制御したドライルームで混合して均一な粘性電解質組成物とした。
そして、実施例1と同じ操作だが、手早く作業し、リチウムイオン電池負極を製造した。
作業時はγ-ブチロラクトンの臭気が漂っていたがかすかであった。
作業時間はおよそ30分であり、得られた負極の重量は集電体を含めずに39.9gであり、比較例5に比べて重量減少は大幅に減っていた。
【0125】
(比較例6)
ジメチルスルホンをジメチルカーボネートに変えた以外は実施例1と同じ操作でリチウムイオン電池用負極を製造した。
作業時はジメチルカーボネートの臭気がきつく漂っていた。
作業時間はおよそ1時間であり、得られた負極の重量は集電体を含めずに38.0gであり、添加したジメチルカーボネートの全量が製造プロセスにおいて揮発したものと判断した。
【0126】
(実施例19)
ドライルームではない湿度5%(露点:-13℃)の環境下で作業した以外は実施例3と同様にして、リチウムイオン電池を製造した。
すぐに充放電したところ、動作することを確認したが、4.2-3.0Vの電圧範囲で0.1Cで10サイクルさせた後の放電容量維持率は50%と小さかった。
【0127】
(実施例20)
ドライルームではない湿度5%(露点:-13℃)の環境下で作業した以外は実施例2と同様にして、正極を製造した。
この正極を露点-40℃のドライルームに移し、すぐに、水分捕捉能を有する負極としての厚み200μmのリチウム箔、セパレータ、本実施例の正極を順に重ね合わせ、アルミラミネート外装中に挿入し、1分間真空で脱気したのちに端部を熱でシールしてリチウムイオン電池を製造した。すぐに充放電したところ、動作することを確認し、4.2-3.0Vの電圧範囲で0.1Cで10サイクルさせた後の放電容量維持率は90%と改善が見られた。
【0128】
(実施例21)
実施例20で製造した正極の乾燥を目的として、製造した正極をドライルームに移動し、乾燥気流が穏やかに当たる場所を選んで一晩放置した。放置後の正極の重量は39.8gであり、重量減少は軽微であった。
続いて、水分捕捉能を有する負極としての厚み200μmのリチウム箔、セパレータ、本実施例の正極を順に貼り重ね、アルミラミネート外装中に挿入し、1分間真空で脱気したのちに端部を熱でシールしてリチウムイオン電池を製造した。すぐに充放電したところ、動作することを確認し、4.2-3.0Vの電圧範囲で0.1Cで10サイクルさせた後の放電容量維持率は95%と改善が見られた。
【0129】
(実施例22)
イオン性物質として水分捕捉性を有するリチウムビス(オキサレート)ボレートを2%添加した以外は実施例3と同様にして、リチウムイオン電池を製造した。すぐに充放電したところ、動作することを確認し、4.2-3.0Vの電圧範囲で0.1Cで10サイクルさせた後の放電容量維持率は99.5%と改善が見られた。これはビス(オキサレート)ボレートイオンのオキサレートボレート構造が水分と反応して水を捕捉する能力を有することに起因していると考えらえれ、類縁のジフルオロオキサレートボレート塩にも同様の効果が期待できる。
【0130】
(実施例23)
実施例4で製造した離型性を有するPETフィルムで挟んだ正極を、打ち抜き型でドーナツ状(外径5cm、内径4cm)に打ち抜き、集電体としてのアルミ箔をこのドーナツより内外に1mm大きいサイズに打ち抜いて張り合わせ、正極を製造した。セパレータを正極集電体より更に内外に2mm大きいサイズに打ち抜いて張り合わせ、負極としてドーナツ状のLi金属を配して電池を構成した。さらにドーナツ状に打ち抜いたアルミラミネートで外装を施し、外径7cm、内径2cmのドーナツ状であるリチウムイオン電池を得た。同様にして、8の字型、星型、S字型などのリチウムイオン電池も製造することができた。打ち抜きによって生じた端材は、そのまま混練工程に戻すことにより新しい電極のための材料とすることができる。このような形状のデバイス製造は従来技術においては著しく困難であり、もし作ったとしても材料の無駄が大きく著しく不採算である。
【0131】
(実施例24)
幅10cmのアルミ箔の中央部に幅6cmで1μm厚の導電性カーボンを塗工した箔を集電体として用いて、実施例6と同じように正極を製造した。プラスチックヘラで電極用成形材料を端から剥離させ、ピンセットで引き揚げたところ、導電性カーボンコートとの境界まではスムースに剥離し、電極用成形材料は境界線に沿ってきれいに破断した。その後、カーボンコート上の電極用成形材料をプラスチックヘラで改めて剥離したところ、やや強めの力を要したがきれいに剥離することができた。カーボンコートを施すことにより、電極用成形材料と集電体との接着が向上することが分かった。また、このような処理により、電極用成形材料を乗せたい部分と載せたくない部分の規制が可能であることが分かった。
【0132】
(実施例25)
コバルト酸リチウム25gを平均粒径10μmのシリコン10gに変えた以外は、実施例2と同じようにして負極を製造した。得られた負極は実施例2と同じように、支持体無しでも薄層化が可能であり、厚みを200μmにした場合、その形状を維持したままで少なくとも6mm角程度の小片としてピンセットでつまみ上げることができた。
【0133】
(実施例26)
平均粒径10μmのシリコン10gを平均粒径100nmのシリコン10gに変えた以外は、実施例25と同じようにして負極を製造した。得られた負極は実施例25と同じように、支持体無しでも薄層化が可能であり、厚みを200μmにした場合、その形状を維持したままで少なくとも20mm角程度の小片としてピンセットでつまみ上げることができ、実施例25よりも強度が向上していることが分かった。これは小粒径化により、表面が増え粘性電解質組成物との接着界面が増加したことによると考えられる。
【0134】
(実施例27)
スクシノニトリル5g、ジメチルスルホン2g、コハク酸無水物1g、分子量50万のエチレンオキサイド-エピクロロヒドリン-アリルグリシジルエーテルのランダム共重合体1g、LiBF41gを秤り取り、室温で混合して均一な粘性電解質組成物とした。この粘性電解質組成物のイオン伝導度は2.2×10-3S/cmであった。この粘性電解質組成物は実施例1や2と同じように電極用成形材料を構成することができ、電極に加工することができた。
【0135】
(実施例28)
エチレンカーボネート6g、ジメチルスルホン2g、分子量10万のブレンマー(登録商標)PME-400(側鎖に9連鎖のエチレンオキサイド連鎖を有するメトキシポリエチレングリコール-メタクリレート)単独重合体1g、LiBF41gを秤り取り、室温で混合して均一な粘性電解質組成物とした。この粘性電解質組成物のイオン伝導度は5.2×10-3S/cmであった。この粘性電解質組成物は実施例1や2と同じように電極用成形材料を構成することができ、電極に加工することができた。
【0136】
(実施例29)
アクリル酸エチルとアクリル酸ブチルの1対1共重合体である分子量40万のアクリルゴム1g、エチレンカーボネート4g、スクシノニトリル4g、LiPF61gを秤り取り、室温で混合して均一な粘性電解質組成物とした。この粘性電解質組成物のイオン伝導度は6.0×10-3S/cmであった。この粘性電解質組成物は実施例1や2と同じように電極用成形材料を構成することができ、電極に加工することができた。
【0137】
(実施例30)
アクリル酸エチルとアクリル酸ブチルの1対1共重合体である分子量40万のアクリルゴム1g、エチレンカーボネート4g、スクシノニトリル2g、ジメチルスルホン1g、マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド3gを秤り取り、室温で混合して均一な粘性電解質組成物とした。この粘性電解質組成物のイオン伝導度は3.6×10-3S/cmであった。この粘性電解質組成物は、実施例1や2と同じように電極用成形材料を構成することができ、電極に加工することができた。
【0138】
(実施例31)
エチレンカーボネート2g、ジメチルスルホン2g、ジグリコール酸無水物2g、スルホレン2g、分子量100万のポリエチレングリコール(aldrich製)1g、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド1gを秤り取り、室温で混合して均一な粘性電解質組成物とした。この粘性電解質組成物のイオン伝導度は2.1×10-3S/cmであった。この粘性電解質組成物は実施例1や2と同じように電極用成形材料を構成することができ、電極に加工することができた。
【0139】
(比較例7)
エチレンカーボネート4.5g、プロピレンカーボネート4.5g、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(aldrich製)1g、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド3gを秤り取り、100℃に加熱して混合し、均一な電解質組成物とした。この電解質組成物を室温まで冷ましたところ、ゲル化し、粘性を有さない組成物となってしまった。これは、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体が室温でミクロに析出し非相溶になってしまったためと考えられる。実施例1と同様にグラファイトを加え、加工のためにこれを乳鉢で混練したが、ぼろぼろに崩れてしまい加工できなかった。
【0140】
(実施例32)
ダイ出口のクリアランスを、200μm、500μm、1mm、1cmとした以外は実施例5と同様にして正極を製造した。それぞれ200μm、500μm、1mm、1cmの厚みを有する正極が得られ、いずれも厚み精度1%以内で製造でき、電極密度も計算値とよく一致したため、気孔の無い密な電極であると考えられる。
【0141】
(実施例33)
ダイ出口の口径を300μm、本数を20本、間隔を4mmとした以外は実施例6と同様にして正極を製造した。平均厚み32μmの正極が製造でき、厚み精度は3%であった。電極密度も計算値とよく一致したため、気孔の無い密な電極であると考えられる。
【0142】
(実施例34)
実施例1の負極に、Li金属箔を貼り付けてアルミラミネート包材中に真空でシールした。これを60℃のオーブン中で2時間ほど保管し、その後室温で放置しておいたところ、負極の色が黒色から金色へと変化した。これは、負極グラファイトがLi金属によってドープされたことを示しており、容易に電極のプレドープが可能であることが分かった。また、ドープ後も残っていた余剰のLi金属は負極から容易に剥離することができた。このプレドープされた電極と別途本発明に沿って製造したチタン酸リチウムを活物質とする電極を組み合わせ、実施例3に準じて電池を製造したところ、繰り返しの充放電が可能であった。なお、このプレドープされた負極の取扱いは、電池製造を含めアルゴングローブボックス内で実施した。
【0143】
(実験例1)
実施例2の電極用成形材料に40gのジメチルカーボネートを加えて、スラリー状とした。これをインクとしてインクジェットプリンタを用いて、1cm×1cmのアルミ箔上に直径約100μmのドットを1mmほどの間隙を開けて多数形成した。この後、ジメチルカーボネートを揮発させてドーム形状の正極ドットを形成した。さらに、20cmの曲率半径を有するステンレス製のヘラで表面を撫でてドット上部を平らにすることで、正極とした。この正極上に、1.2cm×1.2cmに切ったセパレータをのせ、1cm×1cmのリチウム箔を乗せて、リチウム金属2次電池を形成した。すぐに充放電したところ、良好に動作することを確認した。
【0144】
(実施例35)
実施例1,2で得られた正極および負極用の粘土状の電極用成形材料を、アルゴンで置換したアルミラミネートジップ袋にそれぞれ入れヒートシールを施し25℃で保存した。1年後に袋から取り出したところ、いずれも外観上の変化は認められなかったため、実施例1~3に従ってリチウムイオン電池を製造し、充放電を行ったところ、実施例3と変わらない結果が得られた。本発明の電極用成形材料は優れた保存性を有していることが分かった。
【0145】
(実施例36)
実施例1の負極と実施例2の正極の間にセルガード2325(ポリポア製)を挟み、アルミラミネートで包んだ構成のリチウムイオン電池を製造した。この時点でセルガードは湿潤していない。実施例3の電池は、製造した時点で電池が動作する状態となるために、セパレータの電気絶縁抵抗を測定することができなかったが、本実施例の方法では絶縁抵抗を測定することができた。絶縁抵抗を測定後に、電解液として1MのLiPF6とエチレンカーボネート/ジメチルカーボネート(50:50)を注入してヒートシールした。翌日に電池を充放電したところ動作することを確認した。この場合の正負極のいずれかは塗布法で作った電極でもよい。
【0146】
(実施例37)
実施例2の正極と、セルガード2325(ポリポア製)と、金属Li負極とを組み合わせてアルミラミネートで包んだ構成のリチウムイオン電池を製造した。この電池も絶縁抵抗を測定することができた。絶縁抵抗を測定後に、電解液ではなく溶媒としてのジメチルカーボネートを注入してヒートシールした。翌日に電池を充放電したところ動作することを確認した。注入した溶媒は塩を含まないが、注入後に正極からリチウム塩が移行して、セパレータ部にもリチウムイオンが供給され動作が可能になったものと考えられる。この場合の負極は塗布法で作った電極でもよい。塩を含まない溶媒を注入するので、粘度が低く液回りに有利である。
【0147】
(実施例38)
透明フィルム状のUV架橋剤としての2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(和光純薬工業製)を1%含有させUV照射して架橋した、分子量100万のエチレンオキサイド-アリルグリシジルエーテルのランダム共重合体(エチレンオキサイド:アリルグリシジルエーテル(モル比)=90:10)からなるセパレータと、実施例2の正極と金属Li負極を組み合わせてアルミラミネートで包んだ構成のリチウムイオン電池を製造した。この電池も絶縁抵抗を測定することができた。絶縁抵抗を測定後、25℃で5日保管してから電池を充放電したところ動作することを確認した。
【0148】
(実施例39)
実施例1の粘性電解質組成物に熱架橋剤としてのジクミルパーオキサイドを50mg加え、電極を160℃で20分間加熱した以外は同様にして、ポリマーが架橋された20mm角の負極を製造した。この負極は銅箔のような支持体が無くても、フィルムとしての形状を保ち、ピンセットでつまみ上げることができ、ハンドリング性が良好であった。電極の加熱時は電極の両面を銅箔で挟んで低分子有機化合物の揮散を抑えた。ただし、一度架橋してしまった電極はプロセスの上流に戻してリサイクルすることはもはやできない。
【0149】
(実施例40)
実施例1、2と同じようにして電極用成形材料を製造した後になるべく細かくほぐすようにしてから集電体上へ材料を移動した。
これをハンドローラで掛ける力を加減しながら慎重に伸ばし、厚みと厚み精度を制御して、実施例1、2よりも気孔率の高い気孔率10体積%の正極および負極を製造した。
作業中における材料の逸失は実施例1、2同様に認められなかった。
これらを用いて実施例3と同様に電池を作成したところ、電極とセパレータを貼り合わせた時点で、電極からかすかに気泡が生じるのを確認した。セパレータから供給された粘性電解質組成物が電極の気孔中の空気を追い出したものと考えられる。気泡の発生は5秒以内に収まったので、生じた気泡を電極外に押し出して、電池を完成させた。初期不可逆容量は16%であり、10サイクル経過後の放電容量は初期の99%であった。
【0150】
(実施例41)
実施例40と同じようにして気孔率15体積%の正極および負極を製造した。
作業中における材料の逸失は実施例40同様に認められなかった。
これらを用いて実施例3と同様に電池を作成したところ、電極とセパレータを貼り合わせた時点で、実施例40と同様に電極から気泡が生じるのを確認した。気泡の発生は10秒以内に収まったので、生じた気泡を電極外に押し出して、電池を完成させた。初期不可逆容量は17%であり、10サイクル経過後の放電容量は初期の99%であった。
【0151】
(実施例42)
実施例40と同じようにして気孔率20体積%の正極および負極を製造した。
作業中における材料の逸失は実施例40同様に認められなかった。
これらを用いて実施例3と同様に電池を作成したところ、電極とセパレータを貼り合わせた時点で、実施例40と同様に電極から気泡が生じるのを確認した。気泡の発生は30秒以内に収まったので、生じた気泡を電極外に押し出して、電池を完成させた。初期不可逆容量は20%であり、10サイクル経過後の放電容量は初期の95%であった。
このような性能の低下は、電極中の気孔が増えることによりイオン伝導や電子伝導が阻害されて電池内部の抵抗が上がったことに因ると考えられる。
【0152】
(実施例43)
導電性を有する、繊維径がナノサイズの繊維成分としてのカーボンナノチューブ(CNT)(ゼオンナノテクノロジー社製、ZEONANO SG101、平均直径:4nm、平均長さ:400μm、BET比表面積:1150m2/g)を5mg、エチレンカーボネートを50mg、ジメチルスルホンを100mg、分子量100万のエチレンオキサイド-プロプレンオキサイド共重合体を10mg、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを10mg、コバルト酸リチウムを1g、を開放型の乳鉢で混練して、均一な粘土状の電極用成形材料を得た。
この電極用成形材料は、支持体無しでも薄層化が可能であり、厚み200μmのシートにした場合、その形状を維持したままで少なくとも3cm角程度の小片としてピンセットでつまみ上げることができた。繊維成分を含むため強度が高いと考えられる。また、シート厚みよりも長い繊維を有するにもかかわらず、シートから繊維がはみ出している様子は確認されなかった。
【0153】
(実施例44)
エチレンカーボネート4gと、プロピレンカーボネート4gと、ポリマーとしての分子量100万のエチレンオキサイド-プロプレンオキサイドのランダム共重合体(エチレンオキサイド:プロプレンオキサイド(モル比)=90:10)1gと、イオン性物質としてのヘキサフルオロリン酸リチウム1gとを秤り取り、室温で混合して均一な粘性電解質組成物とした。
粘性電解質組成物1gと、正極活物質としてのコバルト酸リチウム(日本化学工業社製、セルシードC、平均粒径20μm)8gと、導電性フィラーとしてのアセチレンブラック0.5gと、繊維成分としてのPTFEを0.08gと、を開放型の乳鉢で混練して、均一な粘土状の電極用成形材料を得た。さらに、粘性電解質組成物を0.8gに減らし、無機固体電解質としてLi2O-Al23-SiO2-P25-TiO2(オハラ社製イオン伝導性ガラス、平均粒径1μm、比重2.8g/cm3)0.5gを追加したものも別途作成し、2種類の電極用成形材料を得た。イオン性物質(S)と、有機組成物(P-O)と、無機固体電解質(SE)との合計の体積当たりに対しての無機固体電解質(SE)の配合割合は23体積%となった。
いずれの電極用成形材料も支持体無しで薄層化が可能であった。厚みを200μmにした場合、固体電解質を添加した電極用成形材料はその形状を維持したままで6cm角程度の小片としてピンセットでつまみ上げることができた。
2種類の電極用成形材料を用いて、実施例2および3の操作と同様にして、厚み80μmの正極を作成し、リチウムイオン電池を構成した。製造後すぐにこの電池を25℃、0.2Cレートで充放電したところ、いずれも正極重量当たりで143mAh/gの放電容量が得られた。無機固体電解質を用いて、有機電解質を減らしても電気化学デバイスの性能は損なわれることはなく、燃焼性の有機化合物が減少することにより、製造プロセス及び電気化学デバイスの安全性を高めることができた。
【0154】
(実施例45)
エチレンカーボネート4gと、プロピレンカーボネート4gと、ポリマーとしての分子量50万のポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)(シグマアルドリッチ社)1gと、イオン性物質としてのLiBF41gとを秤り取り、室温で混合して均一な粘性電解質組成物とした。
粘性電解質組成物1gと、無機固体電解質としてLi2O-Al23-SiO2-P25-TiO2(オハラ社製イオン伝導性ガラス、平均粒径1μm、比重2.8g/cm3)5gと、繊維成分としてのPTFEを0.25gと、を開放型の乳鉢で混練して、粘性電解質組成物と、無機固体電解質とを含む複合電解質組成物を得た。複合電解質組成物は粘土状であり、まとまる性質があり、シート状にも成形できるものであった。ここへさらに、正極活物質としてのコバルト酸リチウム(日本化学工業社製、セルシードC、平均粒径20μm)25gと、導電性フィラーとしてのアセチレンブラック0.75gと、を追加して混練して、均一な粘土状の電極用成形材料を得た。イオン性物質(S)と、有機組成物(P-O)と、無機固体電解質(SE)との合計の体積当たりに対しての無機固体電解質(SE)の配合割合は72体積%となった。
この電極用成形材料は支持体無しで薄層化が可能であった。厚みを200μmにした場合、固体電解質を添加した電極用成形材料はその形状を維持したままで7cm角程度の小片としてピンセットでつまみ上げることができた。
実施例2および3の操作と同様にして、厚み60μmの正極を作成し、リチウムイオン電池を構成した。製造後すぐにこの電池を25℃、0.05Cレートで充放電したところ、正極重量当たりで143mAh/gの放電容量が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明によれば、調製が容易で活物質の含有割合を向上させ易く、且つ、臭気や安定性の問題が生じ難い電極用成形材料を提供することができる。
また、本発明によれば、当該電極用成形材料を用いた電極および電気化学デバイスを提供することができる。