(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】ヒータ、ガラス物品の製造装置、およびガラス物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H05B 3/44 20060101AFI20241210BHJP
H05B 3/14 20060101ALI20241210BHJP
H05B 3/64 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
H05B3/44
H05B3/14 F
H05B3/64
(21)【出願番号】P 2021565550
(86)(22)【出願日】2020-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2020046305
(87)【国際公開番号】W WO2021125088
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2019230939
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】前原 輝敬
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 章文
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】秋田 幸仁
(72)【発明者】
【氏名】榎本 高志
(72)【発明者】
【氏名】土井 洋二
(72)【発明者】
【氏名】ポウリ ロジャー
(72)【発明者】
【氏名】キーン ローレンス
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-193130(JP,A)
【文献】特開2017-030987(JP,A)
【文献】実開昭62-160294(JP,U)
【文献】特表2007-529087(JP,A)
【文献】特開平07-324878(JP,A)
【文献】特開平06-260267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/44
H05B 3/14
H05B 3/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒータであって、
給電により熱線を放射する、導電性の発熱部材と、
前記発熱部材を収容する金属製の筒状部材と、
を有し、
前記発熱部材は、カーボンを80質量%以上含む材料で構成され、
長手方向および/または該長手方向に対して垂直な方向に配置された少なくとも一つのスリットを有し、
前記筒状部材は、白金、ロジウム、タングステン、イリジウム、およびモリブデンから選ばれる1種以上を含む材料で構成され、
前記発熱部材と前記筒状部材の間に絶縁性の材料が配置されていない、ヒータ。
【請求項2】
さらに、前記筒状部材の内部から導出され、前記発熱部材と電気的に接続されたリード線を有し、
前記発熱部材と前記リード線の間には、導電性の耐熱材料が設置される、請求項1に記載のヒータ。
【請求項3】
前記導電性の耐熱材料の周囲には、絶縁部材が配置されている、請求項2に記載のヒータ。
【請求項4】
ガラス物品の製造装置であって、
ガラス原料を溶融させ、溶融ガラスを形成する溶融部と、
前記溶融ガラスから、成形されたガラスを形成する成形部と、
を有し、
さらに、任意で、前記溶融部と前記成形部を接続する搬送部を有し、
前記溶融部から前記成形部までの間(ただし成形部は除く)の少なくともいずれかには、ヒータが設置され、
前記ヒータは、
給電により熱線を放射する、導電性の発熱部材と、
前記発熱部材を収容する金属製の筒状部材と、
を有し、
前記発熱部材は、カーボンを80質量%以上含む材料で構成され、
長手方向および/または該長手方向に対して垂直な方向に配置された少なくとも一つのスリットを有し、
前記筒状部材は、白金、ロジウム、タングステン、イリジウム、およびモリブデンから選ばれる1種以上を含む材料で構成され、
前記発熱部材と前記筒状部材の間に絶縁性の材料が配置されていない、製造装置。
【請求項5】
前記ヒータが、前記溶融部および前記搬送部のいずれか一方または両方に設置される、請求項4に記載の製造装置。
【請求項6】
ガラス物品の製造方法であって、
ガラス原料を溶解し、溶融ガラスを形成する溶融工程と、
前記溶融ガラスを成形してガラス物品を形成する成形工程と、
を有し、
前記溶融工程から前記成形工程までの間の過程(ただし、前記成形工程は除く)において、前記溶融ガラスはヒータと接触し、
前記ヒータは、
給電により熱線を放射する、導電性の発熱部材と、
前記発熱部材を収容する金属製の筒状部材と、
を有し、
前記発熱部材は、カーボンを80質量%以上含む材料で構成され、
長手方向および/または該長手方向に対して垂直な方向に配置された少なくとも一つのスリットを有し、
前記筒状部材は、白金、ロジウム、タングステン、イリジウム、およびモリブデンから選ばれる1種以上を含む材料で構成され、
前記発熱部材と前記筒状部材の間に絶縁性の材料が配置されていない、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒータ、ガラス物品の製造装置、およびガラス物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アルミニウムなどの金属を溶融させる溶融炉において、熱源としてヒータが使用されている。
【0003】
例えば、引用文献1には、セラミック保護管内にコイル状の発熱体および絶縁用粉末材料を導入することにより構成されたヒータが記載されている。また、引用文献2には、金属製のシース内にコイル状抵抗体および耐熱材料を導入することにより構成されたヒータが記載されている。さらに、引用文献3には、白金製の環状管に通電することにより、溶融ガラスに熱を供給する電気装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-124477号公報
【文献】米国特許第4319127号明細書
【文献】特公昭59-19893号公報
【文献】特表2007-529087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~2に記載されている従来のヒータは、主にアルミニウムなどの溶湯に浸漬して使用することを想定して設計されており、ヒータを1200℃以上の高温に加熱して使用することは難しい。特許文献4には、支持セラミックスディスクに支持された棒状加熱要素がセラミックスパイプ内に収容されたヒータが開示されている。しかしこのヒータも1200℃以上の高温に加熱して使用することは難しい。特許文献3には溶融ガラスに浸漬して使用することを想定したヒータが記載されているが、ヒータに大電流を通電する必要があり、その結果、大がかりな給電装置が必要になるという問題が生じる。代表的な電圧-電流として、5~6V、5000Aであると記載されている。従って、1000A以上の大電流を通電するような大がかりな給電装置を必要とすることなく、より高い温度まで加熱することが可能なヒータに対しては、今もなお要望がある。
【0006】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、大がかりな給電装置を必要とせずに、1200℃以上に昇温することが可能なヒータを提供することを目的とする。また、本発明では、そのようなヒータを備えるガラス物品の製造装置、およびそのようなヒータを用いたガラス物品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、ヒータであって、
給電により熱線を放射する、導電性の発熱部材と、
前記発熱部材を収容する金属製の筒状部材と、
を有し、
前記発熱部材は、カーボンを80質量%以上含む材料で構成され、
前記筒状部材は、白金、ロジウム、タングステン、イリジウム、およびモリブデンから選ばれる1種以上を含む材料で構成され、
前記発熱部材と前記筒状部材の間に絶縁性の材料が配置されていない、ヒータが提供される。
【0008】
また、本発明では、ガラス物品の製造装置であって、
ガラス原料を溶融させ、溶融ガラスを形成する溶融部と、
前記溶融ガラスから、成形されたガラスを形成する成形部と、
を有し、
さらに、任意で、前記溶融部と前記成形部を接続する搬送部を有し、
前記溶融部から前記成形部までの間(ただし成形部は除く)の少なくともいずれかには、ヒータが設置され、
前記ヒータは、
給電により熱線を放射する、導電性の発熱部材と、
前記発熱部材を収容する金属製の筒状部材と、
を有し、
前記発熱部材は、カーボンを80質量%以上含む材料で構成され、
前記筒状部材は、白金、ロジウム、タングステン、イリジウム、およびモリブデンから選ばれる1種以上を含む材料で構成され、
前記発熱部材と前記筒状部材の間に絶縁性の材料が配置されていない、製造装置が提供される。
【0009】
さらに、本発明では、ガラス物品の製造方法であって、
ガラス原料を溶解し、溶融ガラスを形成する溶融工程と、
前記溶融ガラスを成形してガラス物品を形成する成形工程と、
を有し、
前記溶融工程から前記成形工程までの間の過程(ただし、前記成形工程は除く)において、前記溶融ガラスはヒータと接触し、
前記ヒータは、
給電により熱線を放射する、導電性の発熱部材と、
前記発熱部材を収容する金属製の筒状部材と、
を有し、
前記発熱部材は、カーボンを80質量%以上含む材料で構成され、
前記筒状部材は、白金、ロジウム、タングステン、イリジウム、およびモリブデンから選ばれる1種以上を含む材料で構成され、
前記発熱部材と前記筒状部材の間に絶縁性の材料が配置されていない、製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、大がかりな給電装置を必要とせずに、1200℃以上に昇温することが可能なヒータを提供することができる。また、本発明では、そのようなヒータを備えるガラス物品の製造装置、およびそのようなヒータを用いたガラス物品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態によるヒータの中心軸に沿った断面の一例を模式的に示した図である。
【
図2】
図1に示したヒータに適用される発熱部材の一例を模式的に示した斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態による別のヒータの中心軸に沿った断面の一例を模式的に示した図である。
【
図4】
図3に示したヒータに適用される発熱部材の一例を模式的に示した斜視図である。
【
図5】本発明の一実施形態によるさらに別のヒータの中心軸に沿った断面の一例を模式的に示した図である。
【
図6】
図5に示したヒータに適用される発熱部材の一例を模式的に示した斜視図である。
【
図7】本発明の一実施形態によるガラス物品の製造装置の構成の一例を概略的に示した断面図である。
【
図8】本発明の一実施形態によるガラス物品の製造方法の一例を概略的に示したフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0013】
本発明の一実施形態では、ヒータであって、
給電により熱線を放射する、導電性の発熱部材と、
前記発熱部材を収容する金属製の筒状部材と、
を有し、
前記発熱部材は、カーボンを80質量%以上含む材料で構成され、
前記筒状部材は、白金、ロジウム、タングステン、イリジウム、およびモリブデンから選ばれる1種以上を含む材料で構成され、
前記発熱部材と前記筒状部材の間に絶縁性の材料が配置されていない、ヒータが提供される。
【0014】
前述のように、従来のヒータでは、1200℃以上の高温での使用に関して課題がある。
【0015】
本願発明者らは、このような問題に対処するため、鋭意ヒータの研究を重ねてきた。その結果、本願発明者らは、従来のような、ヒータ内の発熱体からの熱を、外界(被加熱対象)と接する筒状部材(外管)に熱伝導により伝える方式に変えて、輻射方式で筒状部材を加熱することにより、筒状部材をより高温に加熱できることを見出した。
【0016】
ここで、輻射方式で筒状部材を加熱する場合、発熱部材と筒状部材の間には、気体以外の物質を存在させないことが有効であると考えられる。ただし、その場合、特に高温でのヒータの使用中に(すなわち使用部材が高温になると)、発熱部材が変形し、該発熱部材と筒状部材とが相互に接触する問題が生じ得る。筒状部材が金属で構成されている場合、そのような接触が生じると、供給電流が抵抗のより低い筒状部材の方に流れてしまい、発熱部材の温度が上昇しなくなってしまう。
【0017】
また、この問題に対処するため、発熱部材と筒状部材の間に、絶縁性の材料を設置することが考えられる。しかしながら、発熱部材と筒状部材の間に絶縁性の材料を設けると、該絶縁性の材料によって発熱部材からの熱線が遮断されてしまい、輻射方式で筒状部材を加熱すること自体、難しくなってしまう。
【0018】
これに対して、本発明の一実施形態によるヒータでは、発熱部材は、カーボン(C)を80%以上含む材料(以下、係る材料を「カーボン(C)を主体とする材料」とも称する)で構成される。
【0019】
このような発熱部材は、高温使用環境下においても優れた剛性を示す。従って、本発明の一実施形態によるヒータでは、高温使用環境下でも発熱部材の変形量を有意に抑制できる。また、その結果、発熱部材と筒状部材の間に絶縁性の材料を配置しなくても、発熱部材と筒状部材が相互に接触するという問題を有意に抑制することができる。
【0020】
発熱部材は、例えば、グラファイトまたは炭素繊維強化炭素複合材料(Carbon Fiber Reinforced Carbon Composite:CCコンポジット)で構成されても良い。
【0021】
このような特徴により、本発明の一実施形態によるヒータでは、発熱部材から放射される熱線を、有効に筒状部材に放射させることが可能となる。また、ヒータが高温になっても、発熱部材と筒状部材の間の接触を有意に回避することができる。
【0022】
従って、本発明の一実施形態によるヒータでは、比較的容易に、筒状部材を1200℃以上の高温に加熱することができる。
【0023】
また、本発明の一実施形態によるヒータでは、発熱部材を各種形状で構成することにより、発熱部材の抵抗値を所望の値に高めることができる。従って、本発明の一実施形態によるヒータでは、従来のような低電圧、高電流の大がかりな給電装置の代わりに、高電圧、低電流の給電装置を使用することが可能となり、被加熱対象を加熱する装置システム全体をコンパクトにすることができる。
【0024】
(本発明の一実施形態によるヒータ)
次に、図面を参照して、本発明の一実施形態によるヒータの一構成例について説明する。
【0025】
図1には、本発明の一実施形態によるヒータの構造の一例を模式的に示す。
図1には、本発明の一実施形態によるヒータの中心軸に沿った断面が示されている。ただし、後述する発熱部材120については、電流の流れを理解しやすくするため、断面図ではなく、模式的な展開図が示されている。
【0026】
図1に示すように、本発明の一実施形態によるヒータ(以下、「第1のヒータ」と称する)100は、第1のヒータ端部102Aから第2のヒータ端部102Bまで直線状に延伸する、略棒状の形態を有する。
【0027】
第1のヒータ端部102Aは、第1の蓋部材170Aによって閉止され、第2のヒータ端部102Bは、第2の蓋部材170Bによって閉止される。従って、第1のヒータ100の内部には、外界と遮断された内部空間110が形成される。
【0028】
内部空間110は、該内部空間110に収容される部材が酸化することを抑制するため、非酸化性ガス雰囲気にされる。例えば、内部空間110には、アルゴンのような不活性ガスが充填されても良い。
【0029】
第1のヒータ100は、発熱部材120および筒状部材130を有する。
【0030】
発熱部材120は、内部空間110に収容される。一方、筒状部材130は、前述の第1の蓋部材170Aおよび第2の蓋部材170Bとともに、第1のヒータ100の内部空間110を区画する部材であり、筒状部材130により、内部空間110に収容された各部材が保護される。筒状部材130は、白金、ロジウム、タングステン、イリジウム、およびモリブデンから選ばれる1種以上を含む材料で構成される。
【0031】
発熱部材120は、通電によって発熱する発熱体として機能する。発熱部材120は、カーボン(C)を主体とする材料で構成される。発熱部材120の一方の端部は、第1のリード線180Aと電気的に接続されている。また発熱部材120の他方の端部は、第2のリード線180Bと電気的に接続されている。
【0032】
発熱部材120は、筒状部材130と接触しないよう、第1のリード線180Aおよび第2のリード線180Bに保持される。
【0033】
第1のリード線180Aは、第1の蓋部材170Aに設けられた第1の開口172Aから、内部空間110の外部に導出される。同様に、第2のリード線180Bは、第2の蓋部材170Bに設けられた第2の開口172Bから、内部空間110の外部に導出される。第1のリード線180Aが第1の蓋部材170Aと接触することを防止するため、第1の蓋部材170Aの第1の開口172Aには、第1の絶縁部材175Aが装着されている。同様に、第2のリード線180Bが第2の蓋部材170Bと接触することを防止するため、第2の蓋部材170Bの第2の開口172Bには、第2の絶縁部材175Bが装着されている。
【0034】
なお、カーボンを主体とする材料は、電気伝導率が比較的高い。よって、発熱部材120の電気抵抗を高めるため、発熱部材120は、単なる棒状ではなく、例えば、
図1に示すような周期的もしくは非周期的なスリットを有する筒状の形状を有しても良い。周期的スリットは、発熱部材120の長手方向に配置されても良く、または周方向に配置されても良い。あるいは、発熱部材120は、スパイラル状等であっても良い。
【0035】
次に、このような構成を有する第1のヒータ100の動作について説明する。
【0036】
第1のヒータ100を使用する際には、被加熱対象の中、またはその近傍に、第1のヒータ100が設置される。また、給電装置(図示されていない)を用いて、第1のリード線180Aおよび第2のリード線180Bに電流が供給される。
【0037】
電流の供給により、第1のリード線180Aおよび第2のリード線180Bに接続された発熱部材120が抵抗加熱される。また、これにより、発熱部材120から、熱線が放射される。
【0038】
発熱部材120から放射された熱線は、筒状部材130に照射される。これにより、筒状部材130の温度が上昇する。また、この温度上昇により、筒状部材130の外表面と接する被加熱対象が加熱される。
【0039】
このようにして、第1のヒータ100を用いて被加熱対象を加熱することができる。
【0040】
第1のヒータ100では、発熱部材120が、カーボン(C)を主体とする材料で構成される。このため、高温になっても、発熱部材120は変形し難く、発熱部材120と筒状部材130の間の電気的な接触を有意に防止することができる。
【0041】
また、第1のヒータ100では、輻射方式で、発熱部材120から生じる熱線を、筒状部材130に有効に照射することができる。その結果、筒状部材130での収熱効率が高まり、被加熱対象をより高温に加熱することができる。例えば、第1のヒータ100では、筒状部材130を1200℃以上、例えば1400℃以上、または1500℃以上まで、安定的に昇温することができる。
【0042】
また、第1のヒータ100では、発熱部材120への通電の際に、大がかりな装置を使用する必要がなく、被加熱対象を加熱するための装置システムをコンパクトにすることが可能となる。
【0043】
(第1のヒータ100の構成部材)
次に、本発明の一実施形態によるヒータに含まれる各構成部材について、より詳しく説明する。なお、ここでは、明確化のため、第1のヒータ100を例に、各構成部材について説明する。従って、各部材を参照する際には、
図1に示した参照符号を使用する。
【0044】
(第1のヒータ100)
第1のヒータ100の形状は、特に限られない。第1のヒータ100は、例えば、略円柱状または略角柱状の形態を有しても良い。また、第1のヒータ100の長手方向(中心軸の方向)に垂直な断面は、略円形、略楕円形、略三角形、略四角形(台形を含む)、またはその他の多角形であっても良い。
【0045】
以下の説明では、一例として、第1のヒータ100の断面は、略円形であると仮定する。
【0046】
また、説明の明確化のため、
図1に示すように、第1のヒータ100を、便宜上、長手方向に沿った3つの部位、すなわち第1の部位104、第2の部位105、および第3の部位106に分割する。
【0047】
このうち、第1の部位104は、第1のヒータ100の第1のヒータ端部102Aの先端を距離0(ゼロ)としたとき、0点から第2のヒータ端部102Bに向かって所定の距離(X1)だけ移動した位置までの区域を表す。
【0048】
また、第2の部位105は、距離X1の時点から、第2のヒータ端部102Bに向かって所定の距離(X2)だけ移動した位置まで区域を表す。従って、第2の部位105の長さは、X2-X1である。
【0049】
また、第3の部位106は、距離X
2の時点から第2のヒータ端部102Bまでの区域を表す。従って、第3の部位106の長さは、L-X
2である。ここで、Lは、第1のヒータ100の全長(正確には、第1の蓋部材170Aの外表面から第2の蓋部材170Bの外表面。
図1参照)である。
【0050】
ここで、第2の部位105は、第1のヒータ100の使用中に、最も温度が上昇する部分を含む。通常の場合、第1のヒータ100は、第2の部位105の略中央、すなわち、0点からL/2(=X1+(X2-X1)/2=X1/2+X2/2)の位置で、最高温度に達する。
【0051】
これに対して、第1の部位104および第3の部位106は、第1のヒータ100の使用の際に、あまり温度が上昇しない部分を含む。すなわち、通常の場合、第1のヒータ100の使用中に、第1の部位104の温度は、X1の位置で最高となり、0点位置まで徐々に低下する傾向を示す。第3の部位106においても、同様の温度変化傾向が生じる。
【0052】
第1のヒータ100において、第1の部位104の長さ(X1)、第2の部位105の長さ(X2-X1)、および第3の部位106の長さ(L-X2)は、第1のヒータ100の全長Lおよび仕様等によって変化する。
【0053】
なお、本願では、便宜上、発熱部材120と第1のリード線180Aの接続部分辺りを、第1の部位104と第2の部位105の境界と定め、発熱部材120と第2のリード線180Bの接続部分辺りを、第2の部位105と第3の部位106の境界と定めている。しかしながら、係る区分けは、単なる一例であり、各部位の境界は、他の基準で定めても良いことに留意する必要がある。
【0054】
(第1のヒータ100を構成する各部材)
次に、第1のヒータ100を構成する各部材について、詳しく説明する。
【0055】
(内部空間110、第1の蓋部材170Aおよび第2の蓋部材170B)
各種部材が収容される内部空間110は、低い酸素分圧を有することが好ましい。
【0056】
このため、内部空間110には、還元性ガスおよび/または不活性ガスのような非酸化性のガスが充填されても良い。還元性ガスとしては水素が使用でき、不活性ガスとしてはアルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、ラドン、および窒素などが使用できる。
【0057】
これに加えて、またはこれとは別に、内部空間110は、第1のヒータ100の使用状態において、略大気圧となるように調節されても良い。
【0058】
そのような非酸化性環境および/または使用時の大気圧環境を実現するため、第1の蓋部材170Aおよび第2の蓋部材170Bの少なくとも一方には、内部空間110と連通された1または2以上のポートが提供されても良い。これらのポートを介して、内部空間110に気体を充填したり、内部空間110から気体を排気したりすることができる。
【0059】
第1の蓋部材170Aおよび第2の蓋部材170Bは、内部空間110の環境を適正に維持することができる限り、その構成は特に限られない。従って、ここでは、第1の蓋部材170Aおよび第2の蓋部材170Bに関する説明を省略する。
【0060】
(発熱部材120、第1のリード線180A、および第2のリード線180B)
発熱部材120は、カーボン(C)を主体とする材料で構成される。
【0061】
発熱部材120は、例えば、グラファイトまたは炭素繊維強化炭素複合材料で構成されても良い。
【0062】
ここで、発熱部材120は、カーボン(C)を主体とする材料で構成される限り、必ずしも全長にわたって、同一の材料および/または同一の形状で構成される必要はないことに留意する必要がある。
【0063】
すなわち、発熱部材120は、全長に沿って、複数の材料および/または複数の形状を有しても良い。例えば、発熱部材120は、第1の区画では第1の材料を有し、第2の区画では第2の材料を有し、…第nの区画では、第nの材料を有するように構成されても良い。ここで、nは、2以上の整数である。
【0064】
あるいは、発熱部材120は、第1の区画では第1の形態を有し、第2の区画では第2の形態を有し、…第nの区画では、第nの形態を有するように構成されても良い。ここで、nは、2以上の整数である。発熱部材120がこのような複数の区画を有する場合、全長にわたって、意図的に温度変化を発生させることが可能になる。例えば、第1の区画において、第2の区画よりも抵抗が高い材料を使用した場合、発熱部材120に通電される電流値が同じ場合であっても、第1の区画の温度を第2の区画よりも高めることができる。同様に、第1の区画において、第2の区画よりも単位長さ当たりの抵抗値が高くなる形態を採用した場合、第1の区画の温度を第2の区画よりも高めることができる。発熱部材120は、第1のヒータ100の使用の際、温度が1500℃以上、または1600℃以上となり得る。
【0065】
発熱部材120の形態は、特に限られない。発熱部材120は、例えば、前述のように、周期的もしくは非周期的なスリットを有する筒状、またはスパイラル状などであっても良い。あるいは、発熱部材120は、これらの組み合わせを有してもよい。
【0066】
発熱部材120がスリットを有する場合、係るスリットは、発熱部材120の長手方向、または周方向に配置されても良い。
【0067】
図2には、発熱部材120の形態の一例を模式的に示す。
【0068】
図2に示すように、この発熱部材120は、複数のスリットを有する筒状の形態を有する。いくつかのスリットは、軸方向に沿って形成され、別のスリットは、周方向に沿って形成されている。
【0069】
なお、
図2に示した発熱部材120を展開すると、前述の
図1に模式的に示したような形態となる。
【0070】
発熱部材120は、室温における第1のリード線180Aと第2のリード線180Bとの間の電気抵抗が、0.01Ω以上であることが好ましく、0.1Ω以上であるとより好ましい。1000℃以上の温度域における第1のリード線180Aと第2のリード線180Bとの間の電気抵抗は、0.01Ω以上であると好ましく、0.1Ω以上であるとより好ましく、0.5Ω以上であるとより好ましく、1.0Ω以上であるとさらに好ましい。
【0071】
なお、
図1に示した例では、発熱部材120は、両端が、それぞれ、第1のリード線180Aおよび第2のリード線180Bと接合されている。しかしながら、これは必ずしも必要な構成ではなく、第1のリード線180Aおよび第2のリード線180Bは省略されても良い。例えば、発熱部材120の両端が、直接、第1のヒータ100の外部に導出されても良い。
【0072】
一方、第1のリード線180Aおよび第2のリード線180B自身は、発熱部材120よりも抵抗率の低い部材(例えば銅)とすることが好ましい。この場合、第1のヒータ端部102Aおよび第2のヒータ端部102Bの温度上昇を抑制することができる。
【0073】
発熱部材120の各寸法は、第1のヒータ100の仕様によって変化する。あえて一例を述べると、発熱部材120が筒状の場合、筒の外径は、10mm~200mmの範囲であっても良い。
【0074】
(筒状部材130)
筒状部材130は、白金、ロジウム、タングステン、イリジウム、およびモリブデンから選ばれる1種以上を含む材料で構成される。
【0075】
ここで、筒状部材130は、必ずしも単一の材料で構成される必要はなく、筒状部材130は、2種類以上の材料を組み合わせて構成されても良い。
【0076】
また、筒状部材130の第1の部位104および/または第3の部位106の全部または一部に、耐酸化性のコーティング層134を設置しても良い。そのような構成は、特に、筒状部材130がモリブデンまたはイリジウムのような金属で構成される場合、好ましい。
【0077】
一般に、モリブデンは約500℃以上、イリジウムは約900℃以上の温度域において、耐酸化性が大きく低下する。このため、第1のヒータ100の使用環境によっては、筒状部材130の第1の部位104および/または第3の部位106のうち、大気に晒される箇所では、大気酸化が進行する可能性がある。
【0078】
しかしながら、コーティング層134を設置した場合、そのような大気酸化を抑制することができる。
【0079】
なお、筒状部材130のうち第2の部位105に対応する箇所は、第1のヒータ100の使用中、大気以外の被加熱対象と接触するため、大気酸化のおそれは少ない。このため、この領域に、コーティング層134を設置する必要は少ない。
【0080】
コーティング層134は、例えば、MCrAlYなどの耐熱合金(MはNi、Co、Feから選ばれる少なくとも一つの金属)、MoSi2などのケイ化物、白金、ガラス、またはセラミックスなどであっても良い。
【0081】
筒状部材130の2つの先端は、それぞれ、第1の蓋部材170Aおよび第2の蓋部材170Bとフランジ接続されるような形状、例えば、
図1に示すようなツバ部139Aおよび139Bを有することが好ましい。これらのツバ部139A、139Bを、それぞれ、第1の蓋部材170Aおよび第2の蓋部材170Bとフランジ接続することにより、内部空間110を適正に密閉することができる。
【0082】
ツバ部139A(および139B)と蓋部材170A(および170B)との間には、耐熱ゴムからなるOリングまたは金属性ガスケットを設置しても良い。
【0083】
筒状部材130の厚さは、例えば、0.3mm~10mmの範囲であっても良い。
【0084】
また、筒状部材130と発熱部材の間の隙間の最大値(最大距離)は、例えば、0.5mm~15mmの範囲であり、1mm~10mmの範囲であることが好ましく、1mm~5mmの範囲であることがさらに好ましい。
【0085】
(第1の絶縁部材175A、第2の絶縁部材175B)
第1の絶縁部材175Aは、絶縁材料で構成される。また、第1の絶縁部材175Aには、第1の蓋部材170Aの開口172Aと、第1のリード線180Aとの間の隙間を適正に封止する、シール機能も必要である。
【0086】
そのようなシール機能を有する絶縁部材は、当業者には良く知られている。
【0087】
第2の絶縁部材175Bについても、同様のことが言える。
【0088】
なお、
図1に示した第1の絶縁部材175Aおよび第2の絶縁部材175Bの構成は、単なる一例に過ぎない。第1のリード線180Aおよび第2のリード線180Bを、適正に外部に取り出すことができる限り、これらの構成が特に限られないことは当業者には明らかである。
【0089】
(本発明の一実施形態による別のヒータ)
次に、
図3を参照して、本発明の一実施形態による別のヒータの一構成例について説明する。
【0090】
図3には、本発明の一実施形態による別のヒータ(以下、「第2のヒータ」と称する)の構造の一例を模式的に示す。
【0091】
図3に示すように、第2のヒータ200は、前述の第1のヒータ100と同様の構成を有する。従って、
図3において、第1のヒータ100と同様の部材には、
図1で使用した参照符号に100を加えた参照符号が付されている。
【0092】
ただし、第2のヒータ200においては、第1のリード線280Aを発熱部材220と直接接合する代わりに、両者の間に導電性の耐熱材料290Aが介在されている。同様に、第2のリード線280Bを発熱部材220と直接接合する代わりに、両者の間に導電性の耐熱材料290Bが介在されている。
【0093】
第1のリード線280Aおよび第2のリード線280Bにおいて、発熱部材220との接合部分およびその近傍では、温度が高くなる傾向にある。しかしながら、発熱部材220と第1のリード線280Aとの間に導電性の耐熱材料290Aを介在させることにより、第1のリード線280Aの温度上昇を有意に抑制することができる。また、発熱部材220と第2のリード線280Bとの間に導電性の耐熱材料290Bを介在させることにより、第2のリード線280Bの温度上昇を有意に抑制することができる。
【0094】
発熱部材220は、筒状部材230と接触しないように、第1のリード線280Aと接続された導電性の耐熱材料290Aおよび、第2のリード線280Bに接続された導電性の耐熱材料290Bによって保持される。
【0095】
前述のように、発熱部材220は、カーボン(C)を主体とする材料で構成されている。このため、第2のヒータ200の使用中に発熱部材220が高温になっても、発熱部材220は変形し難く、発熱部材220と筒状部材230の間の電気的な接触を有意に防止することができる。
【0096】
一方、導電性の耐熱材料290Aおよび290Bは、必ずしもカーボン(C)を主体とする材料で構成されるとは限られない。
【0097】
従って、第2のヒータ200の使用中に導電性の耐熱材料290Aおよび290Bが高温になると、導電性の耐熱材料290Aおよび290Bが変形する可能性がある。
【0098】
この問題を回避するため、第2のヒータ200において、導電性の耐熱材料290Aと筒状部材230との間に、電気絶縁性の絶縁部材を介在させても良い。これにより、導電性の耐熱材料290Aと筒状部材230との間の電気的接触を確実に抑制することができる。同様に、導電性の耐熱材料290Bと筒状部材230との間に、電気絶縁性の絶縁部材を介在させても良い。
【0099】
そのような電気絶縁性の絶縁部材は、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化セリウム、酸化ベリリウム、ケイ酸ジルコニウム(ジルコン)、二酸化ケイ素、ムライト、または窒化アルミニウムで構成されても良い。あるいは、電気絶縁性の絶縁部材は、サファイア(単結晶酸化アルミニウム)、透明多結晶酸化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、酸化イットリウム、スピネル、酸化ジルコニウム、イットリウムアルミニウムガーネット、または酸化マグネシウムで構成されても良い。あるいは、電気絶縁性の絶縁部材は、石英ガラスまたはホウケイ酸ガラスで構成されても良い。
【0100】
なお、第2のヒータ200では、発熱部材220の形態が、
図1に示した第1のヒータ100における発熱部材120とは異なっている。しかしながら、これは必ずしも必須ではない。例えば、第2のヒータ200における発熱部材220として、
図2に示したような発熱部材120も使用できる。
【0101】
図4には、発熱部材220の形態の一例を模式的に示す。
【0102】
図4に示すように、この発熱部材220は、複数のスリットを有する筒状の形態を有する。いくつかのスリットは、軸方向に沿って形成され、別のスリットは、周方向に沿って形成されている。
【0103】
なお、
図4に示した発熱部材220を展開すると、前述の
図3に模式的に示したような形態となる。
【0104】
(第2のヒータ200の構成部材)
第2のヒータ200に含まれる大部分の構成部材の仕様等については、前述の説明が参照できる。そこで、ここでは、第2のヒータ200に含まれる導電性の耐熱材料290Aおよび290Bの特徴について、詳しく説明する。
【0105】
(導電性の耐熱材料290Aおよび290B)
導電性の耐熱材料290Aおよび290Bは、例えば、発熱部材220よりも抵抗が低い、グラファイトまたは炭素繊維強化炭素複合材料などのカーボン(C)を主体とする材料で構成されても良い。
【0106】
あるいは、導電性の耐熱材料290Aおよび290Bは、例えば、白金、ロジウム、タングステン、イリジウム、モリブデン、およびこれらの合金などで構成されても良い。または、導電性の耐熱材料290Aおよび290Bは、ステンレス鋼およびニッケル基合金などで構成されても良い。
【0107】
導電性の耐熱材料290Aおよび290Bの形状は、ロッド状、パイプ状、または板状であっても良く、放熱性を高めるためにフィン形状を有しても良い。
【0108】
ここで、導電性の耐熱材料290Aおよび290Bは、必ずしも全長にわたって、同一の材料および/または同一の形状で構成される必要はないことに留意する必要がある。
【0109】
すなわち、導電性の耐熱材料290Aおよび290Bは、全長に沿って、複数の材料および/または複数の形状を有しても良い。
【0110】
(本発明の一実施形態によるさらに別のヒータ)
次に、
図5を参照して、本発明の一実施形態によるさらに別のヒータの一構成例について説明する。
【0111】
図5には、本発明の一実施形態によるさらに別のヒータ(以下、「第3のヒータ」と称する)の構造の一例を模式的に示す。
【0112】
図5に示すように、第3のヒータ300は、前述の第1のヒータ100と同様の構成を有する。従って、
図5において、第1のヒータ100と同様の部材には、
図1で使用した参照符号に200を加えた参照符号が付されている。
【0113】
ただし、第3のヒータ300においては、主として、第2のヒータ端部302Bの構造が、第1のヒータ100における第2のヒータ端部102Bの構造とは異なっている。
【0114】
すなわち、第3のヒータ300では、筒状部材330として、一端が閉じた金属管が用いられる。その結果、第3のヒータ300では、第1のヒータ100における第2のヒータ端部102Bに設けられた部材、具体的には、第2の蓋部材170Bおよび第2の絶縁部材175Bなどが省略される。
【0115】
ただし、第3のヒータ300では、第2のリード線380Bを第1のヒータ端部302Aの側から外部に取り出す必要がある。
【0116】
そのため、発熱部材320は、両方の端部が同じ側に誘導されるように構成される。
【0117】
例えば、発熱部材320がスパイラル形状の場合、一方の端部がスパイラルの内部を通り、別の端部と同じ側まで誘導されても良い。あるいは、発熱部材320は、両端部が同じ側に誘導されるよう、二重らせん形状で構成されても良い。
【0118】
図6には、発熱部材320の形態の一例を模式的に示す。
【0119】
図6に示すように、この発熱部材320は、複数のスリットを有する筒状の形態を有する。いくつかのスリットは、軸方向に沿って形成され、別のスリットは、周方向に沿って形成されている。
【0120】
なお、
図6に示した発熱部材320を展開すると、前述の
図5に模式的に示したような形態となる。
【0121】
さらに、第3のヒータ300の第1のヒータ端部302Aには、蓋部材370が使用される。
【0122】
この蓋部材370には、第1のリード線380Aを外部に取り出すための第1の開口372Aと、第2のリード線380Bを外部に取り出すための第2の開口372Bとが設けられる。なお、蓋部材370の第1の開口372Aには、第1の絶縁部材375Aが挿入され、第1のリード線380Aは、第1の絶縁部材375A内を貫通して、外部まで導出される。また、第2の開口372Bには、第2の絶縁部材375Bが挿入され、第2のリード線380Bは、第2の絶縁部材375B内を貫通して、外部まで導出される。
【0123】
このような第3のヒータ300においても、前述のような効果が得られることは明らかであろう。すなわち、第3のヒータ300においても、輻射方式で、発熱部材320から生じる熱線を、筒状部材330に有効に照射することができる。その結果、筒状部材330での収熱効率が高まり、筒状部材330をより高温に加熱することができる。
【0124】
また、発熱部材320への通電の際に、大がかりな装置を使用する必要がなく、被加熱対象を加熱するための装置システムをコンパクトにすることが可能となる。
【0125】
図5に示したような、一端にリード線がまとめられたヒータでは、第2のヒータ端部を被加熱対象と接触させることができる。従って、そのようなヒータは、例えば、材料を溶融させる溶解炉中に単純浸漬されるタイプの熱源としても利用することができる。また、溶融炉の一方の炉壁から対向する他方の炉壁まで貫通挿入されるタイプの熱源として利用することもできる。
【0126】
一方、リード線が両ヒータ端部に突出する前述の第1のヒータ100および第2のヒータ200のような構成は、溶融炉の一方の炉壁から対向する他方の炉壁まで貫通挿入されるタイプの熱源として利用することができる。
【0127】
以上、第1のヒータ100~第3のヒータ300を参照して、本発明の一実施形態によるヒータの構成および特徴について説明した。しかしながら、これは単なる一例に過ぎず、当業者には、上記記載を参照することにより、各種ヒータの構成が想定され得ることに留意する必要がある。
【0128】
例えば、
図5に示した第3のヒータ300において、
図3に示した導電性の耐熱材料290A、290Bを使用しても良い。また、
図5に示した第3のヒータ300において、そのような導電性の耐熱材料と筒状部材330との間に、電気絶縁性の絶縁部材が配置されても良い。その他にも、本発明の一実施形態によるヒータとして、各種形態が想定され得る。
【0129】
(本発明の一実施形態によるガラス物品の製造装置)
次に、
図7を参照して、本発明の一実施形態によるガラス物品の製造装置の構成について説明する。
【0130】
図7には、本発明の一実施形態によるガラス物品の製造装置(以下、「第1の製造装置」と称する)500の構成の一例を概略的に示す。
【0131】
図7に示すように、第1の製造装置500は、溶融部510、搬送部520、成形部530、接続部540、および徐冷部550を有する。
【0132】
溶融部510は、ガラス原料G1を溶解し、溶融ガラスG2を形成する区域である。
【0133】
溶融部510は、溶解室511aを区画する溶解炉511を有する。なお、図には示されていないが、溶解室511aの上部には、1または2以上のバーナーが設置されても良い。
【0134】
搬送部520は、溶融部510で形成された溶融ガラスG2を成形部530に搬送する区域である。
【0135】
成形部530は、搬送部520から搬送された溶融ガラスG2を、帯板状のガラスリボンG3に成形する区域である。
【0136】
成形部530は、成形炉531を有する。成形炉531は、内部に溶融ガラスG2を成形するための成形室531aを備える。また、成形炉531は、フロートバス535と、該フロートバス535の上方に配設された天井537とを有する。天井537には、複数の天井ヒータ539が設置される。
【0137】
フロートバス535には、溶融金属Mが収容されている。溶融金属Mは、例えば溶融スズなどである。ただし、溶融スズの他に、溶融スズ合金なども使用可能である。
【0138】
溶融金属Mの酸化を抑止するため、成形室531aは、還元性ガスで満たされる。還元性ガスは、例えば水素ガスと窒素ガスとの混合ガスで構成される。
【0139】
フロートバス535では、溶融金属Mの上に供給された溶融ガラスG2が、溶融金属Mの液面を利用して、帯板状のガラスリボンG3に成形される。
【0140】
ガラスリボンG3は、フロートバス535の上流から下流に流動しながら徐々に固化され、フロートバス535の下流において溶融金属Mから引き上げられる。
【0141】
天井ヒータ539は、ガラスリボンG3の流動方向に沿って間隔を空けて設けられ、これによりガラスリボンG3の流動方向における温度分布が調整される。また、天井ヒータ539は、ガラスリボンG3の幅方向においても間隔を空けて設けられており、これにより、ガラスリボンG3の幅方向における温度分布が調整される。
【0142】
接続部540は、成形部530と徐冷部550とを接続する区域である。接続部540は、接続炉541、中間ヒータ542、およびリフトアウトロール543を有する。
【0143】
接続炉541は、内部に、ガラスリボンG3が搬送される接続室541aを有し、該接続室541aに、複数の中間ヒータ542が設置される。
【0144】
中間ヒータ542は、ガラスリボンG3の流動方向に沿って間隔を空けて設けられ、これにより、ガラスリボンG3の搬送方向における温度分布が調整される。また、中間ヒータ542は、ガラスリボンG3の幅方向に分割され、ガラスリボンG3の幅方向おける温度分布が調整されても良い。
【0145】
リフトアウトロール543は、モータなどによって回転駆動され、成形部530で形成されたガラスリボンG3を引き上げ、徐冷部550の方に搬送する役割を有する。
【0146】
徐冷部550は、接続部540から搬送されたガラスリボンG3を徐冷する区域である。
【0147】
徐冷部550は、徐冷炉551を有し、該徐冷炉551は、ガラスリボンG3を徐冷する徐冷室551aを形成する。徐冷室551aには、複数の徐冷ヒータ552と、複数の徐冷ロール553とが配置される。徐冷室551aは、徐冷炉551の入口から徐冷炉551の出口に向かって、温度が徐々に低下するように構成される。
【0148】
徐冷ヒータ552は、ガラスリボンG3の搬送方向に沿って間隔を空けて設けられ、これにより、ガラスリボンG3の搬送方向における温度分布が調整される。徐冷ヒータ552は、ガラスリボンG3の幅方向に分割され、ガラスリボンG3の幅方向おける温度分布が調整されても良い。
【0149】
徐冷ロール553は、モータなどによって回転駆動され、徐冷炉551の入口から徐冷炉551の出口に向かってガラスリボンG3を搬送する。徐冷ロール553は、ガラスリボンG3の搬送方向に沿って、間隔を空けて設けられる。
【0150】
ここで、第1の製造装置500において、溶融部510には、本発明の一実施形態によるヒータが設置される。
【0151】
例えば、
図7に示した例では、溶解炉511に、本発明の一実施形態によるヒータ580が設置されている。なお、
図7には、ヒータ580が簡略化して示されており、リード線等は描かれていない。
【0152】
ヒータ580は、溶解炉511を貫通するようにして、水平に配置される。ヒータ580は、例えば、
図1および
図3に示したような、第1および第2のヒータ100、200であっても良い。
【0153】
あるいは、ヒータ580は、
図5に示したような、第3のヒータ300であっても良い。この場合、ヒータ580は、一端が溶融ガラスG2中に露出するように、溶融炉の下部の床からまたは溶融炉の上から、縦向きに挿入して設置されても良く、溶融炉の一方の炉壁から水平に挿入して設置されても良い。
【0154】
なお、
図7では明確ではないが、通常の場合、ヒータ580は、複数設置される。例えば、複数のヒータ580は、溶解炉511の同一の高さレベルに、間隔を空けて設置されても良い。これに加えて、またはこれとは別に、溶解炉511の異なる高さレベルに、複数のヒータ580が設置されても良い。次に、このような構成を有する第1の製造装置500の動作について説明する。
【0155】
まず、溶融部510にガラス原料G1が提供される。ガラス原料G1は、溶解炉511の溶解室511aに供給される。
【0156】
ガラス原料G1は、ヒータ580からの熱により溶解し、溶融ガラスG2が形成される。
【0157】
ここで、ヒータ580には、本発明の一実施形態によるヒータが使用されている。このため、溶融部510には、大がかりな給電装置を設ける必要がなく、溶融部をコンパクトにすることができる。また、ヒータ580により、例えば、ガラス原料G1を溶融し、溶融ガラスG2を1500℃を超える高温に加熱することができる。
【0158】
次に、溶融部510の溶融ガラスG2が、搬送部520を介して成形部530に供給される。
【0159】
成形部530に供給された溶融ガラスG2は、溶融金属M上を連続的に移動する。その結果、溶融ガラスG2から、帯板状のガラスリボンG3が成形される。なお、ガラスリボンG3は、フロートバス535の上流から下流に流動しながら、徐々に固化される。
【0160】
次に、ガラスリボンG3は、接続部540を介して、徐冷部550に供給される。
【0161】
徐冷部550は、徐冷室551aの上流から下流に向かって、温度が徐々に低下するように構成されている。このため、ガラスリボンG3は、徐冷室551a内での搬送中に温度が徐々に低下する。
【0162】
その後、ガラスリボンG3の温度が所定の温度まで低下すると、ガラスリボンG3は、切断機で所定のサイズに切断される。
【0163】
これにより、ガラス物品が製造される。
【0164】
以上、第1の製造装置500を例に、本発明の一実施形態によるガラス物品の製造装置の構成および動作について説明した。
【0165】
しかしながら、これらは単なる一例であって、本発明の一実施形態によるガラス物品の製造装置は、本発明の一実施形態によるヒータを備える限り、その他の構成を有しても良い。
【0166】
例えば、第1の製造装置500では、本発明の一実施形態によるヒータは、溶融部510に設置される。
【0167】
しかしながら、これとは別に、またはこれに加えて、本発明の一実施形態によるヒータは、搬送部520に設けられても良い。
【0168】
また、第1の製造装置500において、溶融部510と搬送部520の間には、溶融ガラスG2に含まれる泡を脱泡する清澄炉、および/または溶融ガラスG2を均質化する撹拌炉など、追加の部材を含む区域が設けられても良い。そして、本発明の一実施形態によるヒータは、そのような清澄炉および/または撹拌炉に設けられても良い。
【0169】
さらに、第1の製造装置500において、搬送部520および接続部540の少なくとも一つは、省略されても良い。この場合、溶融部510で形成された溶融ガラスG2は、直接、成形部530に排出され、および/または成形部530で成形されたガラスリボンG3は、直接、徐冷部550に搬送されても良い。
【0170】
当業者には、この他にも各種変更が想定される。
【0171】
(本発明の一実施形態によるガラス物品の製造方法)
次に、
図8を参照して、本発明の一実施形態によるガラス物品を製造する方法について説明する。
【0172】
図8に示すように、本発明の一実施形態によるガラス物品を製造する方法(以下、「第1の製造方法」と称する)は、
ガラス原料を溶融し、溶融ガラスを形成する溶融工程(工程S110)と、
前記溶融ガラスを成形する成形工程(工程S120)と、
成形されたガラスを徐冷する徐冷工程(工程S130)と、
を有する。
【0173】
ただし、徐冷工程は、第1の製造方法において、必ずしも必要な工程ではなく、省略されても良い。
【0174】
以下、各工程について説明する。
【0175】
(工程S110)
まず、ガラス原料が溶解炉に供給され、ここでガラス原料が溶融される。
【0176】
溶解炉は、前述の第1の製造装置500における溶解炉511のような構成であっても良い。
【0177】
溶解炉には、本発明の一実施形態によるヒータが設置されても良い。この場合、ガラス原料は、本発明の一実施形態によるヒータにより加熱され、溶融ガラスとなる。
【0178】
ガラス原料は、特に限られない。ただし、溶解炉に本発明の一実施形態によるヒータを設置した場合、ガラス原料を溶融して得られた溶融ガラスを、例えば1500℃を超えるような高温に加熱することができることに留意する必要がある。すなわち、第1の製造方法では、高融点のガラス原料を使用することも可能である。
【0179】
溶解炉内で溶融した溶融ガラスは、成形炉に搬送される。
【0180】
搬送の際には、溶融ガラスを溶解炉から搬送部に排出させ、該搬送部から溶融ガラスを成形炉に供給しても良い。また、溶解炉と搬送部の間に、例えば清澄炉のような、別の装置(以下、「追加装置」と称する)を設けても良い。あるいは、溶融ガラスを溶解炉から直接、成形炉に供給しても良い。
【0181】
溶融ガラスが成形炉に提供される前に、搬送部に搬送される場合、搬送部には、本発明の一実施形態によるヒータが設置されても良い。また、溶融ガラスが成形炉に提供される前に、追加装置に供給される場合、追加装置に、本発明の一実施形態によるヒータが設置されても良い。
【0182】
すなわち、本発明の一実施形態によるヒータは、溶融炉から搬送部までのいずれの位置に設置されても良い。
【0183】
(工程S120)
次に、成形炉に搬送された溶融ガラスが成形される。
【0184】
成形の方法は、特に限られない。例えば、溶融ガラスは、フロート法、ダウンドロー法、ロールアウト法、またはフュージョン法のような、従来の成形方法により成形されても良い。
【0185】
このうちフロート法で溶融ガラスを成形する場合、前述の
図7に示したような第1の製造装置500の成形部530が使用されても良い。例えば、溶融ガラスを成形炉のフロートバス上に供給し、溶融ガラスを上流から下流に搬送させることにより、ガラスリボンを形成しても良い。
【0186】
(工程S130)
その後、必要な場合、成形されたガラスが室温まで徐冷される。また、必要な場合、成形されたガラスが、所定の形状に切断される。
【0187】
以上の工程により、成形されたガラス物品を製造することができる。
【0188】
なお、第1の製造方法では、溶融工程(工程S110)から成形工程(工程S120)までの間(成形工程自身は含まない)のいかなる過程で、本発明の一実施形態によるヒータが使用されても良い。
【0189】
第1の製造方法では、溶融ガラスの加熱に、本発明の一実施形態によるヒータが使用される。従って、第1の製造方法では、溶融ガラスの温度が、例えば1500℃を超えるような高温であっても、溶融ガラスを安定に加熱することができる。
【0190】
本願は、2019年12月20日に出願した日本国特許出願第2019-230939号に基づく優先権を主張するものであり、同日本国出願の全内容を本願に参照により援用する。
【符号の説明】
【0191】
100 第1のヒータ
102A 第1のヒータ端部
102B 第2のヒータ端部
104 第1の部位
105 第2の部位
106 第3の部位
110 内部空間
120 発熱部材
130 筒状部材
134 コーティング層
139A、139B ツバ部
170A 第1の蓋部材
170B 第2の蓋部材
172A 第1の開口
172B 第2の開口
175A 第1の絶縁部材
175B 第2の絶縁部材
180A 第1のリード線
180B 第2のリード線
200 第2のヒータ
202A 第1のヒータ端部
202B 第2のヒータ端部
204 第1の部位
205 第2の部位
206 第3の部位
210 内部空間
220 発熱部材
230 筒状部材
234 コーティング層
239A、239B ツバ部
270A 第1の蓋部材
270B 第2の蓋部材
272A 第1の開口
272B 第2の開口
275A 第1の絶縁部材
275B 第2の絶縁部材
280A 第1のリード線
280B 第2のリード線
290A 導電性の耐熱材料
290B 導電性の耐熱材料
300 第3のヒータ
302A 第1のヒータ端部
302B 第2のヒータ端部
304 第1の部位
305 第2の部位
306 第3の部位
310 内部空間
320 発熱部材
330 筒状部材
334 コーティング層
339 ツバ部
370 蓋部材
372A 第1の開口
372B 第2の開口
375A 第1の絶縁部材
375B 第2の絶縁部材
380A 第1のリード線
380B 第2のリード線
500 第1の製造装置
510 溶融部
511 溶解炉
511a 溶解室
520 搬送部
530 成形部
531 成形炉
531a 成形室
535 フロートバス
537 天井
539 天井ヒータ
540 接続部
541 接続炉
541a 接続室
542 中間ヒータ
543 リフトアウトロール
550 徐冷部
551 徐冷炉
551a 徐冷室
552 徐冷ヒータ
553 複数の徐冷ロール
580 ヒータ
G1 ガラス原料
G2 溶融ガラス
G3 ガラスリボン
M 溶融金属