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特許7601085シリカガラス、シリカガラスを用いた高周波デバイス、およびシリカガラスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】シリカガラス、シリカガラスを用いた高周波デバイス、およびシリカガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 20/00 20060101AFI20241210BHJP
   C03C 3/06 20060101ALI20241210BHJP
   C03B 8/04 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C03B20/00 G
C03B20/00 E
C03B20/00 J
C03C3/06
C03B8/04 R
C03B8/04 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022503353
(86)(22)【出願日】2021-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2021006492
(87)【国際公開番号】W WO2021172232
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2020034258
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 寿弥
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-203839(JP,A)
【文献】特開平10-029836(JP,A)
【文献】国際公開第2019/093182(WO,A1)
【文献】特開2017-228846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 20/00
C03C 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気泡数が1×10~1×1015個/cmであり、密度が0.5~1.95g/cmであり、20GHz~110GHzの周波数領域における誘電正接が1.0×10 -5 ~5.0×10 -4 であるシリカガラス。
【請求項2】
前記密度が0.7~1.8g/cmである、請求項1に記載のシリカガラス。
【請求項3】
前記気泡を1×10~1×1013個/cm含有する、請求項1又は2に記載のシリカガラス。
【請求項4】
前記気泡に含まれるガスの90質量%以上がHe,Ne,Ar,Kr,Xe,N又はこれらの混合ガスである、請求項1~3のいずれか1項に記載のシリカガラス。
【請求項5】
ガラス表面に形成された開口部の長径の平均値が30μm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のシリカガラス。
【請求項6】
ガラス表面に形成された開口部の長径の平均値が10μm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のシリカガラス。
【請求項7】
OH基の含有量が100質量ppm以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のシリカガラス。
【請求項8】
Li,Na,Mg,Al,K,Ca,Cr,Mn,Fe,Ni,Cu,Ti,Co及びZnの各金属不純物の含有量がそれぞれ0.5質量ppm以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載のシリカガラス。
【請求項9】
20GHz~110GHzの周波数領域における比誘電率が1.3~3.5である、請求項1~8のいずれか1項に記載のシリカガラス。
【請求項10】
20GHz~110GHzの周波数領域における比誘電率が1.5~3.5である、請求項1~8のいずれか1項に記載のシリカガラス。
【請求項11】
ガラス表面の二乗平均平方根高さが1μm以下である、請求項1~1のいずれか1項に記載のシリカガラス。
【請求項12】
請求項1~1のいずれか1項に記載のシリカガラスを用いた高周波デバイス。
【請求項13】
珪素化合物を火炎加水分解して生成したSiO微粒子を堆積させてシリカガラス多孔質体を得る工程と、前記シリカガラス多孔質体を真空雰囲気下にて1000~1300℃で加熱し脱水処理を行う工程と、前記脱水処理した前記シリカガラス多孔質体を不活性ガス雰囲気下にて前記脱水処理時の加熱温度より高温で加熱焼成しシリカガラス緻密体を得る工程と、前記シリカガラス緻密体を減圧条件下にて加熱し発泡処理を行う工程と、を有する、シリカガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカガラス、シリカガラスを用いた高周波デバイス、およびシリカガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、マイクロ波やミリ波等の高周波帯におけるパッシブな電子デバイスには、アンテナ、フィルタ、分波器、ダイプレサ、コンデンサ、インダクタ等の高周波デバイスが用いられている。これらの高周波デバイスは一般に、樹脂基板、セラミックス基板、ガラス基板等の誘電体基板を備えている。
【0003】
最近では、通信容量の大容量化及び通信速度の高速化を図るために、信号周波数の更なる高周波化が進められている。高周波デバイスにおいて、信号周波数が大きくなるほど、誘電体基板の伝送損失が増大し、信号が劣化することが知られている。これを抑制するためには、誘電体基板の比誘電率又は誘電正接を低下させることが望まれる。
【0004】
一方で、比誘電率が小さいほど、誘電体基板を大型化する必要があることが知られている。従って、誘電体基板としては、誘電正接が小さく、且つ目的に応じて比誘電率を低下できるものが望ましい。
【0005】
特許文献1のアンテナ装置は、誘電体基板を備えている。誘電体基板は低誘電正接であることが好ましく、その材料としてシリカガラスが挙げられている。
【0006】
シリカガラスの密度と比誘電率は、略比例の関係にあることが知られている。密度が低下すると、比誘電率は低下する。シリカガラスの密度を制御する方法として、ガラス内の気泡を利用する方法がある。例えば、特許文献2に記載の製造方法は、一般にVAD(Vapor-phase Axial Deposition)法と呼ばれ、シリカガラス微粒子(スート)を堆積させシリカガラス多孔質体を得る工程と、前記シリカガラス多孔質体を加熱焼成する工程とを有する。加熱焼成時の圧力、温度、処理時間等の条件を最適に組み合わせることで、焼成後に残存する気泡の径及び個数を制御し、得られるシリカガラスの密度を制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特開2017-228846号公報
【文献】国際公開第2008/069194号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献2に記載の製造方法では、制御できる密度の範囲に限りがあった。具体的には、密度が2.0g/cmもしくは2.16g/cmであるシリカガラスのみが得られていた。2.0g/cmより小さい密度を有するシリカガラスを得ることは困難であり、従って、目的に応じた比誘電率を有するシリカガラスを得ることができなかった。
本発明の一態様は、所望の密度を有するシリカガラスを得る技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るシリカガラスは、気泡数が1×10~1×1015個/cmであり、密度が0.5~1.95g/cmであることを特徴とする。
本発明の一態様に係るシリカガラスの製造方法は、珪素化合物を火炎加水分解して生成したSiO微粒子を堆積させてシリカガラス多孔質体を得る工程と、前記シリカガラス多孔質体を不活性ガス雰囲気下にて加熱焼成しシリカガラス緻密体を得る工程と、前記シリカガラス緻密体を減圧条件下で加熱し発泡処理を行う工程と、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シリカガラスに含まれる気泡の個数及び径を制御し、もって密度を制御することで、所望の比誘電率を有するシリカガラスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、一実施形態に係るシリカガラスを示す断面図である。
図2図2は、一実施形態に係るシリカガラスを製造する際に形成される、シリカガラス多孔質体の一部を示す断面図である。
図3図3は、一実施形態に係るシリカガラスを製造する際に形成される、シリカガラス緻密体を示す断面図である。
図4図4は、例1のシリカガラスの光学顕微鏡画像である。
図5図5は、例4のシリカガラスの光学顕微鏡画像である。
図6図6は、例1~10に係るシリカガラスに含まれる気泡数と、開口部の平均長径との関係を示す図である。
図7図7は、例1~12に係るシリカガラスを製造する際の脱水処理時間と、得られたシリカガラスのOH基濃度との関係を示す図である。
図8図8は、例1、3、11および13に係るシリカガラスの比誘電率の周波数依存性を示す図である。
図9図9は、例1~13に係るシリカガラスの密度と比誘電率との関係を示す図である。
図10図10は、例1、3、11および13に係るシリカガラスの誘電正接の周波数依存性を示す図である。
図11図11は、例1~12に係るシリカガラスのOH基濃度と誘電正接との関係を示す図である。
図12図12は、例1~10に係るシリカガラスの開口部の平均長径と二乗平均平方根高さとの関係を示す図である。
図13図13は、例1のシリカガラスの気泡に含まれるガスの質量パーセント濃度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、明細書中、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。前記下限値及び前記上限値は、四捨五入の範囲を含む。
【0013】
図1に示すように、本発明の実施形態に係るシリカガラス1は、シリカガラス部11と、シリカガラス部11に均一に分散した気泡12と、シリカガラス1の表面に開口部13を有する凹部14とを含む。
シリカガラス1の密度の下限値は、0.5g/cm、好ましくは0.7g/cm、より好ましくは1.0g/cmである。密度が0.5g/cm以上であることで、シリカガラス1の強度が十分に得られる。一方で、密度の上限値は、1.95g/cm、好ましくは1.8g/cm、より好ましくは1.65g/cm、さらに好ましくは1.6g/cmである。密度が1.95g/cm以下であることで、比誘電率が高くなり過ぎず、高周波デバイスに用いる誘電体基板として適する。
シリカガラス部11は、透明であり、その密度は約2.2g/cmである。
【0014】
気泡12の個数(以下、気泡数ともいう。)の下限値は、1×10個/cm、好ましくは3×10個/cmである。一方、気泡数の上限値は1×1015個/cm、好ましくは1×1014個/cm、さらに好ましくは1×1013個/cmである。気泡12の好ましい個数の範囲は、後述する開口部13の大きさと関係するが、気泡数が1×10個/cm以上であれば、開口部13の径を大きくせずともシリカガラス1の密度が高くなりすぎず適切な範囲となる。例えば、シリカガラス1を高周波デバイス用途のために加工し、得られた基板の表面に金属配線層を形成する際に、配線幅よりも開口部13の径が大きいために、設計通りに基板配線層が形成できず、デバイスの動作不良の要因となる恐れがあるが、気泡数が1×10個/cm以上であればかかる恐れがない。一方で、気泡数が1×1015個/cm以下であれば、気泡が小さすぎて消滅してしまう恐れがない。
気泡12に含まれるガスの90質量%以上は、He,Ne,Ar,Kr,Xe,N又はこれらの混合ガスである。
【0015】
開口部13は、略楕円形である。開口部13の径の大きさは、気泡数と関係する。開口部13の径が大きいときは、気泡数を多くすることができないが、開口部13の径が小さいときは、気泡数を多くすることができる。上述したが、開口部13の径が大きすぎると、例えば、金属配線層を形成するのに不利となる。近年、高周波デバイス向けの金属配線層の配線幅の微細化が進んでおり、その幅は、少なくとも好ましくは30μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下、特に好ましくは1μm以下であることが望ましいとされている。従って、開口部の長径の平均値は、好ましくは30μm以下、より好ましくは10μm以下であり、さらに好ましくは5μm以下、特に好ましくは1μm以下であることが求められる。
【0016】
シリカガラス1は、OH基の含有量が好ましくは100ppm以下であり、より好ましくは50ppm以下である。OH基の含有量が小さいほど、誘電正接が低減される(参考文献:日本国特開平7-330357号公報)。なお、明細書中、ppmは質量百万分率を、ppbは質量十億分率を表す。
【0017】
シリカガラス1は、Li,Na,Mg,Al,K,Ca,Cr,Mn,Fe,Ni,Cu,Ti,CoおよびZnの各金属不純物の含有量がそれぞれ0.5質量ppm以下である。
金属不純物の含有量が小さいほど、シリカガラス1を高周波デバイス用途のために加工するプロセスにおいて、金属汚染の発生を抑制することができ、歩留まりが向上する。
【0018】
シリカガラス1は、20GHz~110GHzに周波数領域における比誘電率が好ましくは1.3~3.5であり、より好ましくは1.5~3.5である。比誘電率がこの範囲内であれば、例えばシリカガラス1を高周波デバイス用のフィルタに用いた場合に、デバイスを十分に小型化しつつ、広い動作帯域幅を確保することができる。
【0019】
上記の比誘電率を有するシリカガラス1は、半導体製造用のプラズマエッチング装置に用いられる部材としても好適に使用することができる。例えば、プラズマ処理チャンバー内に用いる部材として使用した場合、低比誘電率であるために電気的なひずみが低減されるので、不要なプラズマの発生を最小限に抑えることができる。このとき、使用時の温度は50~200℃、圧力は150Pa以下が想定され、比誘電率は、100kHz~200MHzの周波数領域において、1.3~3.5であることが好ましい。
【0020】
シリカガラス1は、20GHz~110GHzの周波数領域における誘電正接が好ましくは1.0×10-5~5.0×10-4である。このように誘電正接が十分に小さければ、例えばシリカガラス1を高周波デバイス用の誘電体基板として用いた場合に、伝送損失に伴う信号の劣化を抑制することができる。
【0021】
光学研磨を施したシリカガラス1は、ガラス表面の二乗平均平方根高さが好ましくは1μm以下である。このように二乗平均平方根高さが十分に小さければ、例えば光学研磨を施したシリカガラス1を、高周波デバイス用途のために表面に導体層を形成した場合に、表皮電流に起因する伝送損失の増大を抑制することができる。伝送損失をさらに抑制するために、光学研磨を施したシリカガラス1の表面を、ファイアポリッシュやCOレーザー等の方法により平滑化加工処理を行ってもよい。なお、明細書中、光学研磨は、研磨剤を含むスラリーを用いて行う研磨を意味する。研磨剤としては、酸化セリウム粒子、酸化シリコン粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化チタン粒子、ダイヤモンド粒子、炭化ケイ素粒子等が使われる。
【0022】
次に、本発明の実施形態に係るシリカガラスの製造方法について説明する。本発明では、シリカガラスの合成方法としてVAD法を用いているが、本発明の効果を奏する限りにおいて製造方法は適宜変更しても構わない。
【0023】
(1)合成原料の選定
シリカガラスの合成原料は、ガス化可能な原料であれば特に制限されないが、代表的にはSiCl,SiHCl,SiHCl,SiCHClなどの珪素塩化物、SiF,SiHF,SiHなどのフッ化物といったハロゲン化珪素化合物、又はRnSi(OR)4-n(ここにRは炭素数1~4のアルキル基、nは0~3の整数)で示されるアルコキシシランや(CHSi-O-Si(CHなどのハロゲンを含まない珪素化合物が挙げられる。
【0024】
(2)シリカガラス多孔質体の形成
上記合成原料を、好ましくは1000~1500℃の温度にて火炎加水分解してSiO微粒子を合成し、回転する基材上に堆積させることにより、図2に示すようなシリカガラス多孔質体2が形成される。シリカガラス多孔質体2は、SiO微粒子の一次粒子21が融着して形成された多孔質体であり、外部に通ずる気孔22を多く有する。
【0025】
(3)脱水処理
シリカガラス多孔質体2を、真空雰囲気下にて高温で加熱し、脱水処理を行うことが好ましい。脱水処理は必須ではないが、後述するように、この工程によって後に得られるシリカガラス1のOH基濃度が低下し、誘電正接が小さくなるので、行った方が好ましい。
脱水処理時の加熱温度は、好ましくは1000~1300℃である。1000℃以上であれば、脱水反応が十分に進行し、1300℃以下であれば、脱水反応の進行より早く多孔質体の緻密化が進行してしまうおそれがない。
脱水処理時間は、上記加熱温度にて、240時間以内保持すればよい。処理時間が長いほどOH基濃度は低下するが、長すぎると生産効率が悪化する。
【0026】
(4)加熱焼成
脱水処理を施したシリカガラス多孔質体2を、不活性ガス雰囲気下で加圧し、高温にて加熱焼成すると、外部に通ずる気孔22が完全に閉ざされたシリカガラス緻密体が得られる。
加熱焼成時、上記不活性ガスがシリカガラスに溶解する。不活性ガスは、代表的にはHe,Ne,Ar,Kr,Xe,N又はこれらの混合ガスであり、詳細は後述するが、Arが好ましい。シリカガラスにおける不活性ガスの溶解度は、雰囲気中の不活性ガスの分圧が高いほど、又は、シリカガラスの温度が低いほど、上昇する傾向を持つことが知られている。
焼成時の加圧範囲は、好ましくは0.01~200MPaである。圧力が0.01MPa以上であれば、不活性ガスが十分に溶解し、圧力が200MPa以下であれば、不活性ガスが過剰に溶解するおそれがない。後述するが、不活性ガスの溶解量は、続く発泡処理における発泡度合いに影響する。
焼成時の加熱温度は、好ましくは1200~1700℃であり、脱水処理時の加熱温度より高温であることが好ましい。加熱温度が1200℃以上であれば、焼成が十分に進行し、1700℃以下であれば、ガラス成分の揮発が生じるおそれがない。
焼成時間は、上記圧力及び加熱温度にて、好ましくは10~100時間保持すればよく、20~60時間保持することがより好ましい。処理時間が10時間以上であれば、焼成及び不活性ガスの溶解が十分に進行し、100時間以下であれば、生産効率が良好である。
【0027】
(5)発泡処理
続いて、上記シリカガラス緻密体を、好ましくは0.01Mpa未満の圧力まで減圧し、高温で加熱することで、シリカガラス中に溶解していた不活性ガスが発泡し、又は、シリカガラス緻密体内の気泡が熱膨張し、均一に分散した気泡12を有するシリカガラス1が得られる。
発泡のメカニズムを説明する。先にも述べたが、シリカガラスにおける不活性ガスの溶解度は、雰囲気中の不活性ガスの分圧が高いほど、又は、シリカガラスの温度が低いほど、上昇する傾向を持つことが知られている。従って、発泡処理において、加熱焼成時より低圧又は高温の条件で加熱すれば、加熱焼成時の溶解量と発泡処理時の溶解量との差分が過飽和状態となり、シリカガラス緻密体内で不活性ガスの発泡が生じる。
上述した不活性ガスの種類のうち、Arは、比較的安価であり、且つ、溶解度の温度依存性が大きく、発泡度合いの制御が容易となるので好ましい。
発泡処理時の加熱温度は、好ましくは1300~1800℃であり、加熱焼成時の加熱温度より高温であることが好ましい。加熱温度が1300℃以上であれば、十分な発泡又は熱膨張が得られ、1800℃以下であれば、過剰な発泡又は熱膨張により、硝材が破裂する恐れがない。
発泡処理時間は、上記圧力及び加熱温度にて、好ましくは1分~10時間保持すればよい。処理時間が1分以上であれば、十分な発泡又は熱膨張が得られ、10時間以下であれば、過剰な発泡又は熱膨張により、硝材が破裂する恐れがない。
上記加熱焼成時及び上記発泡処理時の圧力、加熱温度及び処理時間を組み合わせ、過飽和状態となって発泡する不活性ガスの発泡度合い、及び、気泡の熱膨張度合いを変化させることで、シリカガラス1に含まれる気泡12の個数及び径を制御し、もって密度を制御することができる。
【実施例
【0028】
次に、主に表1、表2及び図3図13を参照して、実験データについて説明する。
各例に係るシリカガラス1、透明シリカガラス及びシリカガラス緻密体3の各物性値は、以下に示す方法にて測定した。
なお、例1~10は実施例であり、例11~16は比較例である。
【0029】
(密度)
密度は、約20gのガラスサンプルに対し、島津製作所製の分子天秤(商品名:AP224W)を用いて、アルキメデス法により算出した。
【0030】
(開口部の平均長径)
シリカガラス1の切断面を光学研磨し、切断面の光学顕微鏡画像(270μm×340μm)を取得した後、光学顕微鏡画像の四隅の125μm×160μm区画を抜粋し、当該区画に含まれる開口部13の長径の平均値をそれぞれ求め、4つの平均値をさらに平均したものを開口部の平均長径とした。なお、当該区画の枠線上にあった開口部13は、長径が明らかに計測できないものを除外し、また、複数の開口部が合一して形成された開口部13は、当該複数の開口部が合一して形成された開口部13の輪郭線からそれぞれの開口部の形状を推測して長径の計測を行った。
【0031】
(気泡数)
気泡数は、シリカガラス1に含まれる気泡12が全て同一の球形であり、球形の直径が上記開口部の平均長径と等しいと仮定して、下記式(1)より算出した。
【0032】
【数1】
【0033】
上記式(1)中、ρはシリカガラス1の密度(単位:g/cm)であり、dは開口部の平均長径(単位:cm)であり、気泡数の単位は個/cmである。
【0034】
(比誘電率及び誘電正接)
比誘電率及び誘電正接は、50mm×40mm×0.3mmのガラスサンプルに対し、JIS-R1641(2007年)に記載されている方法に従い、空洞共振器及びベクトルネットワークアナライザを用いて測定した。
【0035】
(二乗平均平方根高さ)
二乗平均平方根高さは、適当な大きさにしたガラスサンプルの切断面を光学研磨し、JIS-B0601(2013年)に記載されている方法に従い測定した。
【0036】
(気泡に含まれるガスの組成)
気泡12に含まれるガスの組成は、真空チャンバー内にて、適当なガラスサンプルを粉砕し、気泡12内のガスを収集した後、質量分析計を用いて測定した。
【0037】
(金属不純物の含有量)
金属不純物の含有量は、適当な大きさにしたガラスサンプルに対し、ICP-MS(Inductively Coupled Plasma-Mass Spectrometer)法により測定した。
【0038】
(OH基濃度)
OH基濃度は、適当な厚みを有するガラスサンプルに対し、赤外分光高度計を用いてIRスペクトルを取得し、OH基に起因する吸収ピークを定量化して算出した(参考文献:J.P.Williams;Y.S.Su;W.R.Strzegowski;B.L.Butler;H.L.Hoover;V.O.Altemose,Direct determination of water in glass,Ceramic.Bulletin.,Vol.55,No.5,pp524,1976)。
各例に係るシリカガラス1、透明シリカガラス及びシリカガラス緻密体3は、以下に示す方法にて製造した。
【0039】
(例1~例10)
SiClを火炎加水分解して合成したSiO微粒子を、回転する基材上に堆積させてシリカガラス多孔質体2を得た。これを加熱炉内に配し、真空排気した後、1250℃まで昇温し、最終的に得られるシリカガラス1のOH基濃度が表1に示す値となるように適宜処理時間を調整して、脱水処理を行った。続いて、Arガスを充填し加圧した後、所定温度まで昇温し、加熱焼成を行った。これを大気圧に戻し、室温まで自然冷却した。このとき得られたシリカガラス緻密体は、気泡を僅かに含む不透明シリカガラスであった。続いて、真空排気を行った後、所定温度まで昇温し、発泡処理を行った。これを大気圧に戻し、室温まで自然冷却した後、取り出した。得られたシリカガラス1は、均一に分散した気泡12を含んでいた。なお、表1に示す密度、気泡数及び開口部の平均長径となるように、当該加熱焼成時の圧力、加熱温度及び処理時間、並びに、当該発泡処理時の加熱温度及び処理時間を組み合わせた。
【0040】
(例11~例12)
SiClを火炎加水分解して合成したSiO微粒子を、回転する基材上に堆積させてシリカガラス多孔質体2を得た。これを加熱炉内に配し、真空排気した後、1250℃まで昇温し、表1に示すOH基濃度となるように適宜処理時間を調整して、脱水処理を行った。続いて、1350℃まで昇温し、24時間保持して、加熱焼成を行った。これを大気圧に戻し、室温まで自然冷却した後、取り出した。得られたシリカガラス緻密体は、気泡を略含まない透明シリカガラスであった。
【0041】
(例13)
直接法によって製造された透明シリカガラスである。
【0042】
(例14)
SiClを火炎加水分解して合成したSiO微粒子を、回転する基材上に堆積させてシリカガラス多孔質体2を得た。これを加熱炉内に配し、真空排気した後、1350℃まで昇温し、2時間保持して、加熱焼成を行った。これを大気圧に戻し、室温まで自然冷却した後、取り出した。このとき、処理時間が十分でないので、外部に通ずる気孔22が完全には閉ざされず、図3に示すような、外部に通ずる気孔31を有するシリカガラス緻密体3が得られた。
【0043】
(例15)
脱水処理時に1320℃まで昇温したこと以外は、例14と同様の方法でシリカガラス緻密体3を製造した。
【0044】
(例16)
脱水処理時に昇温後5時間保持したこと以外は、例15と同様の方法でシリカガラス緻密体3を製造した。
【0045】
図4に、例1に係るシリカガラス1の切断面を光学研磨し撮影した、光学顕微鏡画像を示す。測定の結果、開口部の平均長径は4.1μm、気泡数は3.15×10個/cmであった。径の小さい気泡12が、シリカガラス1内において均一に分散していることがわかる。
【0046】
図5に、例4に係るシリカガラス1の切断面を光学研磨し撮影した、光学顕微鏡画像を示す。測定の結果、開口部の平均長径は、21.1μm、気泡数は3.70×10個/cmであった。例1と比べて、気泡12の径が大きく、且つ径にばらつきが見られるが、全体としては均一に分散していることがわかる。径にばらつきが見られるのは、径が比較的大きい故に、発泡処理時に、気泡12同士が合一しやすくなったためであると考えられる。
【0047】
図6に、例1~例10に係るシリカガラス1に含まれる気泡数と、開口部の平均長径との関係を示す。図6から明らかなように、気泡数が多いほど、開口部の平均長径は小さくなることが分かる。
【0048】
図7に、例1~12に係るシリカガラス1又は透明シリカガラスの、脱水処理時間とOH基濃度との関係を示す。図7から明らかなように、処理時間が長いほど、OH基濃度は低下し0ppmに緩やかに漸近していくことが分かる。
【0049】
図8に、例1、3、11および13に係るシリカガラス1又は透明シリカガラスの、比誘電率の周波数依存性を示す。図8から明らかなように、周波数が20~110GHzの範囲において、比誘電率は略一定の値を示すことが分かる。
【0050】
図9に、表1の各例に係るシリカガラス1及び透明シリカガラスの、密度と比誘電率との関係を示す。図9から明らかなように、例1~10に係るシリカガラス1の密度と比誘電率とは、略比例の関係にあることがわかる。一方、例1~13に係る透明シリカガラスは、気泡を略含まないため、密度が2.2g/cmで一定であり、比誘電率も略一定の値となった。従って、本発明に係るシリカガラス1の製造方法により、密度を制御することで、所望の比誘電率を有するシリカガラス1を得ることができることが分かる。
【0051】
なお、図9において、比誘電率は、代表として周波数35GHzの時の値としたが、図8より、20~110GHzの範囲の何れの周波数に対しても上記略比例の関係が得られることは明らかである。
【0052】
図10に、例1、3、11および13に係るシリカガラス1又は透明シリカガラスの、誘電正接の周波数依存性を示す。図10から明らかなように、周波数が増加すると、誘電正接も増加することが分かる。また、OH基濃度が比較的高い例13に係るシリカガラスは、周波数の増加に伴う誘電正接の増加率が、他の例より明らかに大きい。従って、脱水処理によるOH基濃度の低減は、幅広い周波数領域で低誘電正接を維持できるという点でも有利である。
【0053】
図11に、例1~12に係るシリカガラス1及び透明シリカガラスの、OH基濃度と誘電正接との関係を示す。図11より、OH基濃度が増加すると、誘電正接も増加する傾向が見られた。
なお、図11において、誘電正接は、代表として周波数35GHzの時の値としたが、図10より、20~110GHzの範囲の何れの周波数に対しても同様の傾向が得られることは明らかである。
【0054】
図12に、例1~10に係るシリカガラス1の、開口部の平均長径と二乗平均平方根高さとの関係を示す。図12より、開口部の長径が増加すると、二乗平均平方根高さも増加する傾向が見られた。これは、開口部の平均長径が大きいほど、ガラス表面の凹凸が顕著になるためである。
【0055】
図13に、例1に係るシリカガラス1の、気泡に含まれるガスの質量パーセント濃度を示す。図13より、気泡に含まれるガスの99.5質量%は、ArとNの混合ガスであった。
【0056】
表2に、例1及び11に係るシリカガラス1又は透明シリカガラスの、金属不純物の含有量を示す。表2から明らかなように、各金属不純物の含有量はそれぞれppbオーダーであり、極めて少ないことが分かる。
【0057】
例14~16に係るシリカガラス緻密体3の、周波数35GHzにおける誘電正接を測定した結果、それぞれ1.1×10-3、2.5×10-3、1.9×10-3であった。表1と比較すると明らかなように、シリカガラス緻密体3の誘電正接は、シリカガラス1の誘電正接より大幅に大きい値を示した。これは、外部に通ずる気孔31を有するため、雰囲気中の水を容易に吸着し、OH基濃度が増加してしまうためである。従って、例えばシリカガラス緻密体3を高周波デバイス用の誘電体基板として用いた場合、伝送損失が大きいため、信号が劣化してしまうことが予想される。
【0058】
以上、本発明に係るシリカガラス、シリカガラスを用いた高周波デバイス、およびシリカガラスの製造方法について説明したが、本発明は上記実施形態等に限定されない。特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更、修正、置換、付加、削除、及び組み合わせが可能である。それらについても当然に本発明の技術的範囲に属する。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2020年2月28日出願の日本特許出願(特願2020-034258)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0062】
1 シリカガラス
11 シリカガラス部
12 気泡
13 開口部
14 凹部
2 シリカガラス多孔質体
21 SiO微粒子の一次粒子
22 外部に通ずる気孔
3 シリカガラス緻密体
31 外部に通ずる気孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
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図13