(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】電気化学デバイス用電解液、可塑性組成物、用途及び製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20241210BHJP
H01G 11/58 20130101ALI20241210BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20241210BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20241210BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241210BHJP
H01M 6/14 20060101ALI20241210BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241210BHJP
H01M 10/056 20100101ALI20241210BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20241210BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20241210BHJP
H01M 10/054 20100101ALN20241210BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01G11/58
H01M4/13
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M6/14 Z
H01M10/052
H01M10/056
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M10/054
(21)【出願番号】P 2022503710
(86)(22)【出願日】2021-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2021007174
(87)【国際公開番号】W WO2021172456
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2020034185
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米丸 裕之
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/179682(WO,A1)
【文献】特開2017-126500(JP,A)
【文献】特開2017-188299(JP,A)
【文献】特開2002-359000(JP,A)
【文献】特開2015-026589(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00-4/62
H01M 6/14
H01G 11/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1~3価の金属イオンであるカチオン(C)と、
アニオン(A)と、
分子量1000以下の化合物である溶媒(SO)と、
質量平均分子量が1万超の、溶解性の重合体(P)とを含む、電気化学デバイス用の電解液であって、
前記カチオン(C)1モルに対する前記溶媒(SO)の含有割合が0.5~4モルであり、
前記重合体(P)の含有割合が0.5質量%以上である、電解液。
【請求項2】
粘度が500cP以上である、請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
前記アニオン(A)が、ホウ素原子、フッ素原子、リン原子、又はこれらの2以上を含むアニオンである、請求項1又は2に記載の電解液。
【請求項4】
前記アニオン(A)が、(B(R
X)
n1-F)
-、(P(R
X)
n2-F)
-、(B(R
X)
n3)
-、及びこれらの混合物からなる群より選択されるアニオンを含み、
R
Xは、複数存在する場合は互いに同一であっても異なっていてもよい、一価の基又は二価の基であり、
前記一価の基は、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又は一価の有機エーテル基であり、
前記二価の基は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、二価の有機エーテル基又はオキソ基であり、
前記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、一価の有機エーテル基、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、及び二価の有機エーテル基は、ハロゲン原子で置換されていてもよく、オキソ基で置換されていてもよく、鎖の一部にヘテロ原子が介在していてもよく、
n1は、R
Xが全て一価である場合は3であり、R
Xのうち一つが二価であり他が一価である場合は2であり、
n2は、R
Xが全て一価である場合は5であり、R
Xのうち一つが二価であり他が一価である場合は4であり、R
Xのうち二つが二価であり他が一価である場合は3であり、
n3は、R
Xが全て一価である場合は4であり、R
Xのうち一つが二価であり他が一価である場合は3であり、R
Xのうち二つが二価である場合は2である、
請求項3に記載の電解液。
【請求項5】
前記アニオン(A)が、PF
6
-、BF
4
-、ジフルオロ(オキサラト)ボレートイオン、ビスオキサレートボレートイオン、及びこれらの混合物からなる群より選択されるアニオンを含む、請求項4に記載の電解液。
【請求項6】
前記溶媒(SO)が、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリプロピル、亜リン酸トリブチル、リン酸トリフェニル、亜リン酸トリフェニル、含ホスファゼン化合物、これらの化合物の炭化水素鎖の一部において置換基を有する置換化合物、及びこれらの混合物からなる群より選択される難燃性の溶媒を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の電解液。
【請求項7】
前記重合体(P)が共重合体である、請求項1~6のいずれか1項に記載の電解液。
【請求項8】
前記カチオン(C)が、2価又は3価の金属イオンを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の電解液。
【請求項9】
前記重合体(P)の質量平均分子量が10万以上である、請求項1~8のいずれか1項に記載の電解液。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の電解液の製造方法であって、
前記溶媒(SO)に、前記カチオン(C)及び前記アニオン(A)を含む1種又は2種類以上の材料、及び前記重合体(P)を溶解する工程を含む、製造方法。
【請求項11】
前記アニオン(A)は、第1のアニオン(A1)及び第2のアニオン(A2)を含み、
前記第1のアニオン(A1)は、前記アニオン(A)中の、最も含有モル割合が大きいアニオンであり、
前記第2のアニオン(A2)は、前記アニオン(A)中の、前記第1のアニオンに次いで含有モル割合が大きいアニオンであり、
前記溶媒(SO)に、前記第2のアニオン(A2)を含む塩を添加する工程、及びその後に、第1のアニオン(A1)を含む塩を添加する工程を含む、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記溶媒(SO)に対して前記カチオン(C)及び前記アニオン(A)を含む塩を溶解させた後に、前記溶媒(SO)を留去することを含む、請求項10又は11に記載の製造方法。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか1項に記載の電解液と固形物を含み、可塑性を有する、電気化学デバイス用の可塑性組成物。
【請求項14】
前記固形物は活物質を含む、請求項13に記載の可塑性組成物。
【請求項15】
前記固形物は無機固体電解質(SE)を含む、請求項13に記載の可塑性組成物。
【請求項16】
前記固形物は繊維状物質を含む、請求項13~15のいずれか1項に記載の可塑性組成物。
【請求項17】
前記繊維状物質は100nm以下の平均繊維径を有する、請求項16に記載の可塑性組成物。
【請求項18】
前記繊維状物質はポリテトラフルオロエチレン繊維、セルロースナノファイバ、カーボンナノチューブ、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項16又は17に記載の可塑性組成物。
【請求項19】
前記繊維状物質は単層カーボンナノチューブである、請求項16~18のいずれか1項に記載の可塑性組成物。
【請求項20】
前記固形物が、粒子状固形物と繊維状物質とを含み、前記繊維状物質が、前記粒子状固形物の粒子間を橋掛けした状態で存在する、請求項13~19のいずれか1項に記載の可塑性組成物。
【請求項21】
請求項13~20のいずれか1項に記載の可塑性組成物を含む電気化学デバイス用電極シート。
【請求項22】
請求項13~20のいずれか1項に記載の可塑性組成物を含む電気化学デバイス用絶縁層。
【請求項23】
請求項13~20のいずれか1項に記載の可塑性組成物を、電極シートの形状に成形することを含む、電気化学デバイス用電極シートの製造方法。
【請求項24】
請求項13~20のいずれか1項に記載の可塑性組成物を、絶縁層の形状に成形することを含む、電気化学デバイス用絶縁層の製造方法。
【請求項25】
請求項21に記載の電気化学デバイス用電極シート、請求項22に記載の電気化学デバイス用絶縁層、又はこれらの両方を備える、電気化学デバイス。
【請求項26】
バイポーラ型である、請求項25に記載の電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学デバイス用電解液、可塑性組成物、電気化学デバイス用電極シート、電気化学デバイス用絶縁層、これらの製造方法、及び電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学デバイスの構成要素として用いる電解液に関し、従来最適だと思われていた塩濃度に比べて極端に高い塩濃度を有する、所謂高濃度電解液が知られている。高濃度電解液は、従来の希薄な電解液に比べて、耐電圧性の向上、燃焼性の低下、輸率の向上等といった効果を有するものとしうる可能性が報告されている(特許文献1及び非特許文献1)。したがって、このような電解液を電気化学デバイスに適用した場合、デバイスの長寿命化、難燃焼化、高電位化といった効果が得られることが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Electrochemistry, 82(12),1085-1090(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高濃度電解液は、その塩濃度の極端な高さゆえ、塩析を生じ易く、かつ、一旦塩析により生じた塩の結晶が再溶解されにくい。電気化学デバイス中の電解液において、そのような塩析が発生し、再溶解されず結晶の存在が維持された場合、電解液性能の低下、塩の結晶によるデバイスの破損等の問題が生じうる。特に、デバイスの輸送中や保管中においては、一時的に常用の温度よりはるかに低い温度環境にさらされ得る。また、電気化学デバイスの製造に先立って電解液中でそのような塩析が発生すると、濃度の変動、流動性の低下等が発生し、製造の妨げとなる。
【0006】
また、高濃度電解液は、従来の希薄な電解液に比べて高粘度である。従って、電気化学デバイスの製造にあたって、従来の電解液と同様に、デバイスの筐体内の空隙に注入するといった操作が困難である。
【0007】
したがって、本発明の目的は、耐電圧性の向上、燃焼性の低下、輸率の向上等といった、高濃度電解液の有利な効果を享受しつつ、塩析の発生が抑制された、電気化学デバイス用電解液、そのような電解液を容易に利用可能な態様とした、電気化学デバイスを構成するための材料、並びに、それらの製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明のさらなる目的は、デバイスの長寿命化、難燃焼化、高電位化といった効果を得ることができ、且つ容易に製造可能な電気化学デバイス用電極シート、電気化学デバイス用絶縁層、それらの製造方法、及び電気化学デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討した結果、高濃度電解液に、さらに、特定の重合体を添加することにより、塩析を抑制することができることを見出した。
【0010】
そのような重合体を含む高濃度電解液は、さらに高い粘度を有することになるが、それに対する解決策として、本発明者はさらに、そのような高濃度電解液を、活物質等の固形物と混合し可塑性組成物とすることを着想した。即ち、電極等のデバイスの構成要素の製造にあたっては、かかる可塑性組成物を、所望の構成要素の形状に成形することにより、容易な製造を行うことが可能となる。これらの知見に基づき、本発明者は、本願発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0011】
〔1〕 1~3価の金属イオンであるカチオン(C)と、
アニオン(A)と、
分子量1000以下の化合物である溶媒(SO)と、
質量平均分子量が1万超の、溶解性の重合体(P)とを含む、電気化学デバイス用の電解液であって、
前記カチオン(C)1モルに対する前記溶媒(SO)の含有割合が0.5~4モルであり、
前記重合体(P)の含有割合が0.5質量%以上である、電解液。
〔2〕 粘度が500cP以上である、〔1〕に記載の電解液。
〔3〕 前記アニオン(A)が、ホウ素原子、フッ素原子、リン原子、又はこれらの2以上を含むアニオンである、〔1〕又は〔2〕に記載の電解液。
〔4〕 前記アニオン(A)が、(B(RX)n1-F)-、(P(RX)n2-F)-、(B(RX)n3)-、及びこれらの混合物からなる群より選択されるアニオンを含み、
RXは、複数存在する場合は互いに同一であっても異なっていてもよい、一価の基又は二価の基であり、
前記一価の基は、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又は一価の有機エーテル基であり、
前記二価の基は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、二価の有機エーテル基又はオキソ基であり、
前記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、一価の有機エーテル基、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、及び二価の有機エーテル基は、ハロゲン原子で置換されていてもよく、オキソ基で置換されていてもよく、鎖の一部にヘテロ原子が介在していてもよく、
n1は、RXが全て一価である場合は3であり、RXのうち一つが二価であり他が一価である場合は2であり、
n2は、RXが全て一価である場合は5であり、RXのうち一つが二価であり他が一価である場合は4であり、RXのうち二つが二価であり他が一価である場合は3であり、
n3は、RXが全て一価である場合は4であり、RXのうち一つが二価であり他が一価である場合は3であり、RXのうち二つが二価である場合は2である、
〔3〕に記載の電解液。
〔5〕 前記アニオン(A)が、PF6
-、BF4
-、ジフルオロ(オキサラト)ボレートイオン、ビスオキサレートボレートイオン、及びこれらの混合物からなる群より選択されるアニオンを含む、〔4〕に記載の電解液。
〔6〕 前記溶媒(SO)が、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリプロピル、亜リン酸トリブチル、リン酸トリフェニル、亜リン酸トリフェニル、含ホスファゼン化合物、これらの化合物の炭化水素鎖の一部において置換基を有する置換化合物、及びこれらの混合物からなる群より選択される難燃性の溶媒を含む、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の電解液。
〔7〕 前記重合体(P)が共重合体である、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の電解液。
〔8〕 前記カチオン(C)が、2価又は3価の金属イオンを含む、〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の電解液。
〔9〕前記重合体(P)の質量平均分子量が10万以上である、〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載の電解液。
〔10〕 〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載の電解液の製造方法であって、
前記溶媒(SO)に、前記カチオン(C)及び前記アニオン(A)を含む1種又は2種類以上の材料、及び前記重合体(P)を溶解する工程を含む、製造方法。
〔11〕 前記アニオン(A)は、第1のアニオン(A1)及び第2のアニオン(A2)を含み、
前記第1のアニオン(A1)は、前記アニオン(A)中の、最も含有モル割合が大きいアニオンであり、
前記第2のアニオン(A2)は、前記アニオン(A)中の、前記第1のアニオンに次いで含有モル割合が大きいアニオンであり、
前記溶媒(SO)に、前記第2のアニオン(A2)を含む塩を添加する工程、及びその後に、第1のアニオン(A1)を含む塩を添加する工程を含む、〔10〕に記載の製造方法。
〔12〕 前記溶媒(SO)に対して前記カチオン(C)及び前記アニオン(A)を含む塩を溶解させた後に、前記溶媒(SO)を留去することを含む、〔10〕又は〔11〕に記載の製造方法。
〔13〕 〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載の電解液と固形物を含み、可塑性を有する、電気化学デバイス用の可塑性組成物。
〔14〕 前記固形物は活物質を含む、〔13〕に記載の可塑性組成物。
〔15〕 前記固形物は無機固体電解質(SE)を含む、〔13〕に記載の可塑性組成物。
〔16〕 前記固形物は繊維状物質を含む、〔13〕~〔15〕のいずれか1項に記載の可塑性組成物。
〔17〕 前記繊維状物質は100nm以下の平均繊維径を有する、〔16〕に記載の可塑性組成物。
〔18〕 前記繊維状物質はポリテトラフルオロエチレン繊維、セルロースナノファイバ、カーボンナノチューブ、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される、〔16〕又は〔17〕に記載の可塑性組成物。
〔19〕 前記繊維状物質は単層カーボンナノチューブである、〔16〕~〔18〕のいずれか1項に記載の可塑性組成物。
〔20〕 前記固形物が、粒子状固形物と繊維状物質とを含み、前記繊維状物質が、前記粒子状固形物の粒子間を橋掛けした状態で存在する、〔13〕~〔19〕のいずれか1項に記載の可塑性組成物。
〔21〕 〔13〕~〔20〕のいずれか1項に記載の可塑性組成物を含む電気化学デバイス用電極シート。
〔22〕 〔13〕~〔20〕のいずれか1項に記載の可塑性組成物を含む電気化学デバイス用絶縁層。
〔23〕 〔13〕~〔20〕のいずれか1項に記載の可塑性組成物を、電極シートの形状に成形することを含む、電気化学デバイス用電極シートの製造方法。
〔24〕 〔13〕~〔20〕のいずれか1項に記載の可塑性組成物を、絶縁層の形状に成形することを含む、電気化学デバイス用絶縁層の製造方法。
〔25〕 〔21〕に記載の電気化学デバイス用電極シート、〔22〕に記載の電気化学デバイス用絶縁層、又はこれらの両方を備える、電気化学デバイス。
〔26〕 バイポーラ型である、〔25〕に記載の電気化学デバイス。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐電圧性の向上、燃焼性の低下、輸率の向上等といった、高濃度電解液の有利な効果を享受しつつ、塩析の発生が抑制された、電気化学デバイス用電解液、そのような電解液を容易に利用可能な態様とした、電気化学デバイスを構成するための可塑性組成物、並びに、それらの製造方法が提供される。
【0013】
本発明によれば、さらに、デバイスの長寿命化、難燃焼化、高電位化といった効果を得ることができ、且つ容易に製造可能な電気化学デバイス用電極シート、電気化学デバイス用絶縁層、それらの製造方法、及び電気化学デバイスが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0015】
〔1.電解液〕
本発明の電解液は、特定のカチオン(C)と、アニオン(A)と、特定の溶媒(SO)と、特定の重合体(P)とを含む、電気化学デバイス用の電解液である。
【0016】
〔1.1.カチオン(C)〕
カチオン(C)は、1~3価の金属イオンである。即ち、カチオン(C)は、1種類以上の1価の金属イオン、1種類以上の2価の金属イオン、1種類以上の3価の金属イオン、又はこれらの組み合わせとしうる。電解液中においてカチオン(C)は、アニオン(A)と電離平衡を保ち存在しうる。カチオン(C)は、アニオン(A)と塩を構成しうるが、通常、電解液の製造から、それを用いた電気化学デバイスの製造までにおける温度及び圧力条件下において、溶媒(SO)中に、少なくともその一部が、塩析せず溶解した状態を保ちうる化合物である。より具体的には、常温常圧、例えば25℃1気圧で、溶媒(SO)中に、少なくとも1質量%が溶解した状態を保ちうる化合物としうる。カチオン(C)の例としては、電気化学デバイス用の電解液に使用しうる、既知の各種の塩に含まれるカチオンが挙げられる。
【0017】
カチオン(C)は、好ましくは、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アルミニウムイオン、及びこれらの組み合わせからなる群より選択されるイオンである。
アルカリ金属イオンの例としては、Li+、Na+、K+、Cs+が挙げられる。アルカリ土類金属イオンの例としては、Mg2+、Ca2+が挙げられる。中でも、電解液により構成される電気化学デバイスが二次電池である場合、Li+、Mg2+及びこれらの組み合わせが好ましく、Li+、及びLi+とMg2+との組み合わせがより好ましい。
【0018】
本発明の電解液は、カチオン(C)以外のカチオンを含みうる。但しその場合も、電解液全体において、カチオン(C)の割合は、2.5mol/L以上であることが、電解液としての効果を発現する上で好ましい。カチオン(C)の割合の上限は、特に限定されないが、例えば10mol/L以下としうる。
【0019】
カチオン(C)は、2価又は3価の金属イオンを含むものとしうる。電気化学デバイスの設計上、カチオン(C)を1価の金属イオンのみで構成するより、2価又は3価の金属イオンを含むほうが好ましい場合がある。しかしながら、2価及び3価の金属イオンは塩析を起こしやすい。ここで、電解液として本発明の構成を採用することにより、かかる2価及び3価の金属イオンの効果を享受しながら、塩析を抑制することが可能となる。具体的な例として、カチオン(C)としてLi+とMg2+とを組み合わせて用いた場合、Li+の析出を抑制させサイクル特性を向上させたり、電極の強度を高めたりすることができる場合がある。
【0020】
〔1.2.アニオン(A)〕
本発明の電解液は、アニオン(A)を含みうる。アニオン(A)は、カチオン(C)及びその他の任意成分としてのカチオンに対するカウンターアニオンとして、系内に投入されたアニオンを含みうる。
【0021】
アニオン(A)の例としては、電気化学デバイス用の電解液に使用しうる、既知の各種の塩に含まれるアニオンが挙げられる。より具体的な例としては、ホウ素原子、フッ素原子、リン原子、又はこれらの2以上を含む、各種のアニオンが挙げられる。
【0022】
アニオン(A)に含まれるアニオンの好ましい例としては、(B(RX)n1-F)-、(P(RX)n2-F)-、(B(RX)n3)-、及びこれらの混合物からなる群より選択されるアニオンが挙げられる。アニオン(A)としてこれらのアニオンを採用した場合、集電箔の腐食を軽減しうるという効果が得られる。
【0023】
RXは、複数存在する場合は互いに同一であっても異なっていてもよい、一価の基又は二価の基である。前記一価の基は、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又は一価の有機エーテル基であり、前記二価の基は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、二価の有機エーテル基又はオキソ基である。前記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、一価の有機エーテル基、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、及び二価の有機エーテル基は、ハロゲン原子で置換されていてもよく、オキソ基で置換されていてもよく、鎖の一部にヘテロ原子が介在していてもよい。n1は、RXが全て一価である場合は3であり、RXのうち一つが二価であり他が一価である場合は2であり、n2は、RXが全て一価である場合は5であり、RXのうち一つが二価であり他が一価である場合は4であり、RXのうち二つが二価であり他が一価である場合は3であり、n3は、RXが全て一価である場合は4であり、RXのうち一つが二価であり他が一価である場合は3であり、RXのうち二つが二価である場合は2である。
【0024】
RXが一価の基である場合、その好ましい例としては、フッ素原子、-CF3、-C2F5、-CNが挙げられる。
【0025】
RXが二価の基である場合、その好ましい例としては、オキソ基(=O)、-O-CO-CO-O-、-O-CO-CH2-CO-O-が挙げられる。RXが二価の基である場合、その二価の結合手がいずれも、ホウ素原子又はリン原子に結合した構造としうる。
【0026】
(B(RX)n1-F)-、(P(RX)n2-F)-、及び(B(RX)n3)-のより具体的な例としては、PF6
-(RXがいずれもF、n2=5)、BF4
-(RXがいずれもF、n3=4)、ジフルオロ(オキサラト)ボレートイオン(DFOB、RXのうち2つは-F、1つは-O-CO-CO-O-、n3=3)、ビスオキサレートボレートイオン(RXのうち2つが-O-CO-CO-O-、n3=2)、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0027】
アニオン(A)が複数のカチオンを含む場合、アニオン(A)中の、最も含有モル割合が大きいアニオンを第1のアニオン(A1)、第1のアニオン(A1)に次いで含有モル割合が大きいアニオンを第2のアニオン(A2)、第2のアニオン(A2)に次いで含有モル割合が大きいアニオンを第3のアニオン(A3)、・・・という。この場合、第1のアニオン(A1)としては、イオン伝導度に寄与し、高いイオン伝導度を有するアニオンを選択することが好ましい。そのような効果を奏しうる具体的なアニオンの例としては、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン(FSI)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン(TFSI)、BF4
-、ジフルオロ(オキサラト)ボレートイオン、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0028】
一方、第2のアニオン(A2)は、第1のアニオン(A1)と組み合わせて追加的な効果を奏する目的で添加しうる。かかる効果の例としては、集電体の腐食抑制、及び活物質表面の被覆による安定化が挙げられる。そのような効果を奏しうるアニオンの例としては、BFx系、PFx系、ジフルオロ(オキサラト)ボレートイオン、ビスオキサレートボレートイオン、及びこれらの混合物が挙げられる。ここでBFx系とは、一個のアニオンが、ホウ素原子1個と、1~4個のフッ素原子との組み合わせを含む各種のアニオンのうちの1種又は2種以上の混合物をいい、PFx系とは、一個のアニオンが、リン原子1個と、1~6個のフッ素原子との組み合わせを含む各種のアニオンのうちの1種又は2種以上の混合物をいう。
【0029】
本発明の電解液におけるアニオン(A)の割合は、特に限定されず、例えばカチオン(C)及びその他の任意成分としてのカチオンに対する等量としうる。
【0030】
〔1.3.溶媒(SO)〕
溶媒(SO)は、分子量1000以下の化合物である。溶媒(SO)の分子量の下限は、特に限定されないが、例えば40以上としうる。
【0031】
溶媒(SO)は、水、ヘテロ元素含有有機化合物(O)、又はこれらの混合物としうる。ヘテロ元素含有有機化合物(O)は、好ましくはイオン基を有しない化合物としうる。即ち、ヘテロ元素含有有機化合物(O)は、イオン基を有する化合物以外の化合物としうる。ここでイオン基を有する化合物とは、カチオン又はアニオンであり、分子内に複数のイオン基を持つ化合物、及び正負の電荷をもつベタインをも包含する。
【0032】
溶媒(SO)の例としては、電気化学デバイス用の電解液に溶媒として使用しうるものとして既知の各種の化合物を用いうる。それらの中から、所望の用途に応じた性能を有する1種以上の化合物を適宜選択し、必要に応じて組み合わせて使用しうる。例えば、電解液のイオン伝導度を高めたい場合は、沸点の低い有機溶媒、又は沸点の低い有機溶媒を高い比率で含む混合溶媒を、溶媒(SO)として用いうる。そのような沸点の低い有機溶媒の例としては、ジメチルカーボネート、モノグライム、ギ酸メチル、酢酸メチル、メチルアルコール、アセトニトリル(AN)、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0033】
少なくとも1種の溶媒は、室温1気圧で固体であり、且つカチオン(C)及びアニオン(A)と混合することにより液状を呈する化合物(SO-S)から選ばれることが好ましい。製造プロセス中での過加熱や電気化学デバイスの故障による発熱等により、溶媒が蒸発して周囲に拡散するような事態が生じた場合でも室温付近で固体となる性質を有している化合物は、固体として凝縮でき、周囲に広く漏洩しないので安全性が高い。ここで室温とは25℃付近の範囲、より具体的には25℃を指し、より高い温度でも固体であることが好ましい。化合物の好ましい融点は5℃以上、より好ましくは25℃以上、さらに好ましくは40℃以上である。融点の上限は、特に限定されないが、例えば200℃以下としうる。化合物(SO-S)が溶媒(SO)全体に占める割合は、50mol%以上であることが好ましく、60mol%であることがさらに好ましく、70mol%以上であることがさらに好ましく、100mol%でもよい。化合物(SO-S)の例としては、エチレンカーボネート(EC)、N-メチルオキサゾリドン、N,N-ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン(SL)、ジメチルスルホン、マロノニトリル、スクシノニトリル、及びシュウ酸ジメチルが挙げられる。化合物(SO-S)は、室温で固体であっても塩と混ぜることによって溶解し、液状を呈し電解液を構成しうる。
【0034】
電解液の燃焼性を低減したい場合は、沸点の高い有機溶媒及び/又は水、又は沸点の高い有機溶媒及び/又は水を高い比率で含む混合溶媒を、溶媒(SO)として用いうる。そのような沸点の高い有機溶媒の沸点は、好ましくは130℃以上、より好ましくは160℃以上、さらにより好ましくは200℃以上としうる。沸点の上限は、特に限定されないが、例えば350℃以下としうる。沸点の高い有機溶媒の具体例としては、γ-ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート(EC)、N-メチルオキサゾリドン、N,N-ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホン(DMS)、スルホラン(SL)、ジメチルスルホン、マロノニトリル、スクシノニトリル、マロン酸ジメチル、シュウ酸ジメチル、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0035】
沸点の高い有機溶媒に加えて、又はそれに代えて、難燃性の溶媒を用いてもよい。難燃性の溶媒の例としては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリプロピル、亜リン酸トリブチル、リン酸トリフェニル、亜リン酸トリフェニル、及び含ホスファゼン化合物が挙げられる。難燃性の溶媒のさらなる例としては、前記各種の化合物の炭化水素鎖の一部において置換基を有する置換化合物が挙げられる。さらには、前記化合物及び置換化合物の2以上の混合物も用いうる。置換基の例としては、フッ素原子、塩素原子及び臭素原子等のハロゲン原子が挙げられる。難燃剤がリン酸エステル又は亜リン酸エステルである場合は、アルキル基はハロゲン置換されている方が難燃化効果は高いため好ましい。含ホスファゼン化合物の具体例としては、モノエトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、ジエトキシテトラフルオロシクロトリホスファゼン、及びモノフェノキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンが挙げられる。溶媒(SO)が難燃性の溶媒を含む場合、溶媒(SO)全体に対する難燃性溶媒の含有割合は、0.5~20質量%としうる。
【0036】
好ましい例において、溶媒(SO)が環状カーボネートを含む。特に、電気化学デバイスの負極材料が黒鉛系材料である場合は、電解液が溶媒(SO)として環状カーボネートを含むことにより、負極の初回充電時の不可逆容量が小さくなるという効果が得られる。環状カーボネートの具体的としては、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、及びそれらを構造に有する化合物が好ましい。
【0037】
また、電気化学デバイスが、リチウムイオン二次電池等の二次電池である場合における、好ましい溶媒(SO)の例としては、アセトニトリル、エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート、スルホラン、ジメチルスルホン、ガンマブチロラクトン、フルオロエチレンカーボネート、スクシノニトリル、N-メチルオキサゾリドン、N,N-ジメチルオキサゾリジノン、リン酸トリメチル、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0038】
本発明の電解液は、溶媒(SO)以外に、分子量1000超10万未満の液体の化合物を含みうる。但しその場合も、電解液全体において、カチオン(C)の割合は、2.5mol/L以上であることが好ましい。
【0039】
本発明の電解液においては、カチオン(C)に対する溶媒(SO)の含有割合が、特定の範囲内である。即ち、カチオン(C)1モルに対する溶媒(SO)の含有割合は、0.5モル以上、好ましくは1モル以上、より好ましくは1.5モル以上であり、一方4モル以下、好ましくは3.5モル以下、より好ましくは3.0モル以下である。カチオン(C)に対する溶媒(SO)の含有割合を、前記下限以上の大きい値とすることにより、イオン電導度を高めることができ、電気化学デバイスの性能を容易に向上させることができる。カチオン(C)に対する溶媒(SO)の含有割合を、前記上限以下の小さい値とすることにより、電解液の揮発性、難燃焼性、及び耐酸化性を良好なものとすることができる。
【0040】
〔1.4.重合体(P)〕
重合体(P)、溶解性の重合体である。ここでいう重合体(P)の溶解性とは、電解液の製造から、それを用いた電気化学デバイスの製造における温度及び圧力条件下において、電解液中に溶解した状態を保つことをいう。より具体的には、常温常圧、例えば25℃1気圧で、重合体(P)を溶媒(SO)に添加し溶液とした場合、かかる溶液中に、少なくとも重合体(P)1質量%が溶解した状態を保ちうる場合、かかる重合体を、溶解性の重合体としうる。
【0041】
重合体(P)は、その質量平均分子量が1万超、好ましくは10万以上、より好ましくは20万以上、さらにより好ましくは30万以上、それよりさらにより好ましくは40万以上である。一方質量平均分子量の上限は、好ましくは1000万以下、より好ましくは300万以下としうる。質量平均分子量を前記下限以上とすることにより、電解液において、少ない添加量で電解液の粘度を大きく高めることができ、塩析を有効に抑制することができる。質量平均分子量を前記上限以下とすることにより、電解液の液体状態を容易に保つことができる。重合体(P)の分子量は、例えばJIS K7252に準拠して測定しうる。
【0042】
重合体(P)の例としては、ポリエーテル系重合体、アクリル系重合体、ポリアクリロニトリル系重合体、ポリオキサゾリン系重合体、脂肪族ポリカーボネート系重合体、及びこれらの混合物が挙げられる。より具体的な例としては、ポリエチレンオキサイド、エチレンオキサイド共重合体、側鎖エチレンオキサイド重合体、ヒドリンゴム、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、ポリ2-エチル-2-オキサゾリン、ポリ2-メチル-2-オキサゾリン、ポリオキサゾリジノン、側鎖オキサゾリン共重合体、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリロニトリル、ニトリルゴム、アクリル酸エステル共重合体、ポリメタクリル酸メチル、スチレン・アクリレート共重合体、及びアクリルゴムが挙げられる。これらのポリマーは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
重合体(P)は、好ましくは主鎖にヘテロ元素を有するものである。ヘテロ元素を有する主鎖構造としては、-O-、-N-、が挙げられる。主鎖にヘテロ元素を有する重合体は、溶媒(SO)との親和性が高く、したがって電解液の製造において溶媒(SO)への溶解を低い温度及び少ない動力で達成しうる傾向があり、また高い濃度で重合体(P)を溶解することもできるため好ましい。好ましい重合体の例としては、例えば、エチレンオキサイド系重合体、オキサゾリン系重合体、が挙げられる。
重合体(P)は、さらに好ましくは共重合体である。共重合体は、単独重合体に比べて、結晶性が低い傾向があり、したがって電解液の製造において溶媒(SO)への溶解をより容易に行いうる傾向があり、重合体(P)自体が電解液中で結晶化し析出する可能性もより低いため特に好ましい。好ましい共重合体の例としては、例えば、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体等のポリエーテル系の共重合体、及び(2-エチル-2-オキサゾリン)-(2-メチル-2-オキサゾリン)共重合体等のオキサゾリン系の共重合体が挙げられる。
【0044】
本発明の電解液における、重合体(P)の含有割合は、0.5質量%以上、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上であり、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。含有割合を前記下限以上とすることにより、高い塩析抑制効果を得ることができる。含有割合を前記上限以下とすることにより、イオン伝導度の大きな低下を抑制することができ、且つ、電解液の液体状態を容易に保つことができる。
【0045】
〔1.5.電解液の性状〕
本発明の電解液は、その粘度が好ましくは500cP以上、より好ましくは700cP以上であり、一方好ましくは1000万cP以下、より好ましくは100万cP以下である。25℃における電解液の粘度が前記下限以上であることにより、高い塩析抑制効果を得ることができる。特に、塩析の結果析出物が生じた場合であっても、その寸法を小さいものとすることができる。特定の理論に拘束されるものではないが、このような効果は、粘度が高い溶液中では塩析の過程において溶質の移動が妨げられ、その結果大きな塊を形成せずに析出するからであるものと考えられる。また、電解液の粘度が前記下限以上であると電極からの電解液の染み出しが抑制されて、電気化学デバイスの動作安定性や液漏れの抑止に効果的である。しかしながら粘度が700cPを超えてくると多孔性電極への注液に要する時間はかなり長くなるため、注液工程を実施しない電極製法を選択してもよい。一方、電解液の粘度が前記上限以下であることにより、電解液の流動状態を容易に保つことができる。電解液は流動性を失って、ゲル化した状態となっていても本発明の電解液としうるが、ゲル化することによりイオン伝導度は低下するので、電解液の外観がどのようであるかに関わらず、25℃における電解液のイオン伝導度が10-4S/cm以上であることが好ましい。かかるイオン伝導度の上限は、特に限定されないが、例えば10-1S/cm以下としうる。
特に、電気化学デバイスの電極や絶縁層の製造時においては電解液に流動性があることが必須であり、加工の温度を上げることで、上記粘度の範囲に制御を行ってもよい。
本発明における粘度とは、EMS粘度計(京都電子工業製、EMS-1000S)を用いて密閉条件で電解液の組成が変化せず、空気中の水分が混入しないようにして、回転数1000rpmで測定した粘度を指す。なお、この測定方法で測定した粘度は、基本的には、JIS Z8803に準拠して測定した値と同じ値となる。電解液の粘度が高すぎることにより使用温度における測定が困難であれば温度までを上げて測定すれば、25℃における粘度はそれ以上であることが分かる。また、高い温度において何点かの測定を行い、使用温度に対して外挿して求めることもできる。それでも測定が困難な場合は、高粘度に対応した別の粘度計を用いて、本装置で計測した粘度とのずれを確認した上で使用してもよい。
【0046】
〔2.電解液の製造方法〕
本発明の電解液は、どのような製造方法で製造してもよいが、通常は、溶媒(SO)に、カチオン(C)及びアニオン(A)を含む1種又は2種類以上の材料、及び重合体(P)を溶解する工程を含む製造方法により製造しうる。以下においてこれを本発明の電解液の製造方法として説明する。
【0047】
カチオン(C)及びアニオン(A)を含む材料としては、これらが対となった塩を使用することが、操作の容易さ等の点から好ましい。かかる塩の例としては、上に述べたカチオン(C)の具体例のいずれか1以上と、上に述べたアニオン(A)の具体例のいずれか1以上とが対になった塩が挙げられる。塩の添加量は、得られる電解液の溶媒(SO)とカチオン(C)の相対比が所望の値となるよう調整しうる。製造に用いる塩としては、通常、結晶状態となったものを用いる。結晶の粒径は小さいほうが、溶解を促進させる観点から好ましい。具体的には、結晶の寸法は、好ましくは5mm以下、より好ましくは1mm以下、さらにより好ましくは500μm以下としうる。ここでいう結晶の寸法は、結晶を様々な角度から観察し、最も長い方向における長さを採用しうる。結晶の寸法の下限は、特に限定されないが、例えば0.5μm以上としうる。
【0048】
溶媒(SO)に溶質(塩、重合体(P)等)を溶解する順序は特に限定されず、容易な溶解が達成される任意の順序としうる。特に、アニオン(A)が、上に述べた第1のアニオン(A1)(即ち最も含有モル割合が大きいアニオン)及び第2のアニオン(A2)(即ち次に含有モル割合が大きいアニオン)を含む場合、先に第2のアニオン(A2)を含む塩を添加し、その後に第1のアニオン(A1)を含む塩を添加することが、容易な溶解を達成しやすいため好ましい。
【0049】
溶媒(SO)への溶質の溶解を促進する観点から、一旦希薄な溶液を作製し、それから溶媒の一部を留去し、濃度を濃縮する操作を行ってもよい。即ち、塩及び重合体(P)が、溶媒(SO)中に高濃度に溶解するために要する時間が長く、一方低濃度に溶解するために要する時間が短く、且つ溶媒の留去が容易である場合は、一旦希薄な溶液を作製し、それから溶媒の一部を留去し、濃度を濃縮する操作を行うことにより、電解液の製造に要する時間を短縮することが可能である。一旦作製する希薄な溶液における溶質の濃度は、例えば電解液における所望の濃度の1/20~1/2の濃度、より好ましくは1/15~1/5の濃度としうる。
【0050】
〔3.可塑性組成物〕
本発明の可塑性組成物は、前記本発明の電解液と固形物を含み、可塑性を有する、電気化学デバイス用の可塑性組成物である。固形物とは、電気化学デバイスの使用時における温度及び圧力条件下において、可塑性組成物中で固形の状態を保ちうる物体である。より具体的には、常温常圧、例えば25℃1気圧で、可塑性組成物中で固形の状態を保ちうる物体としうる。可塑性組成物は、それ全体としては、可塑性を有する固体であるが、実態は固形物と、液体である電解液との混合物であるため、分離回収が可能である。
可塑性組成物は、1種類のみの固形物を含んでいてもよく、複数種類の固形物を含んでいてもよい。可塑性組成物は、かかる固形物と、固形物と混ぜ合わせない状態では液体である電解液とを含むことにより、全体としてそれ自体が可塑性を有する固体となる。
【0051】
固形物は、具体的には、活物質、及び/又は無機固体電解質(SE)を含みうる。
活物質は、電気化学デバイスにおいて正極又は負極の電極活物質として機能しうる物質である。活物質の具体例としては、コバルト酸リチウム等のリチウム酸化物、黒鉛、活性炭、グラフェン、ケイ素及びその酸化物、スズ及びその酸化物、硫黄、有機金属錯体、MOF(Metal-Organic-Framework)、並びにプルシアンブルー類縁体等が挙げられる。
【0052】
活物質は、粒子状の形状であることが好ましく、体積平均粒子径が30μm以下であることがより好ましく、20μm以下の形状であることがさらにより好ましい。かかる粒子径の下限は、特に限定されないが、例えば0.05μm以上としうる。電極強度を高める観点からは、ナノサイズの活物質を使用することが好ましく、可塑性組成物の他の成分との接触界面積が大きくなり、得られる電極の強度を高めることができ、且つ電極の電気化学反応を進行させる能力を高めることができる。活物質及びその他の粒子の体積平均粒子径は、JIS K8825に準拠して測定しうる。
【0053】
無機固体電解質(SE)は、電気化学デバイスにおける絶縁層、即ち正極と負極とを分離する層において、絶縁層のイオン伝導性を高めるための構成要素として機能しうる物質である。無機固体電解質(SE)は、多くの場合、不燃性であるか、もしくは低燃焼性であることから、電解液に対して高い比率で配合されるほど電気化学デバイスの安全性が高くなる。電解液と無機固体電解質(SE)の合計の体積当たりの好ましい無機固体電解質(SE)の配合割合は、好ましくは10vol%以上、より好ましくは30vol%以上、さらにより好ましくは50vol%以上、特に好ましくは70vol%以上である。電解液と無機固体電解質(SE)の合計の体積当たりの好ましい無機固体電解質(SE)の配合割合の上限は、特に限定されないが、例えば99vol%以下としうる。
無機固体電解質(SE)の具体例としては、リチウムイオン伝導性の金属酸化物系の無機固体電解質(SE)、及びナトリウムイオン伝導性の無機固体電解質(SE)が挙げられる。リチウムイオン伝導性の金属酸化物系の無機固体電解質(SE)の例としては、LAGP(Li1.5Al0.5Ge1.5P3O12)、LLZ(Li7La3Zr2O12)、LLZTO(Li6.75La3Zr1.75Ta0.25O12)、LLT(LiLa0.51TaO2.94)、LASTP(Li2Al2SiP2TiO13)、LTAP(Li1.4Ti1.6Al0.4P3O12)、及びLi2.99Ba0.005O1+xCl1-2xが挙げられる。ナトリウムイオン伝導性の無機固体電解質(SE)の例としては、β―アルミナ、Na2.99Ba0.005O1+xCl1-2x、リチウムイオン伝導性の硫化物系の無機固体電解質(SE)として、LPS(Li7P3S11)、LGPS(Li10GeP2S12)、及びLi9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3が挙げられる。無機固体電解質(SE)は、通常これらの組成を有する結晶状態の固体の粒子である。無機固体電解質(SE)のさらなる例としては、上記の組成にさらに少量の他の元素を加えた結晶、及び上記の組成を若干変更した類縁体が挙げられる。
無機固体電解質(SE)の粒内イオン伝導度は、10-5S/cm以上であることが好ましく、10-4S/cm以上であることがより好ましく、さらに好ましくは10-3S/cm以上であることが好ましく、10-2S/cm以上であることが最も好ましい。無機固体電解質(SE)の粒内イオン伝導度の上限は、特に限定されないが、例えば100S/cm以下としうる。
無機固体電解質(SE)は、粒子状の形状であることが好ましく、体積平均粒子径が20μm以下であることがより好ましく、10μm以下の形状であることがさらにより好ましい。無機固体電解質(SE)の体積平均粒子径の下限は、特に限定されないが、例えば0.01μm以上としうる。無機固体電解質(SE)は、電極シートを構成するための可塑性組成物の成分とすることもできる。この場合、無機固体電解質(SE)を電解液中に懸濁した状態とし、かかる懸濁物を他の成分と混合する操作により可塑性組成物を製造することにより、可塑性組成物の成分として添加しうる。無機固体電解質(SE)が電極シートに使用される場合は、無機固体電解質(SE)の粒子径は、活物質よりも小さいことが好ましい。
【0054】
可塑性組成物は、さらに、繊維状物質を含みうる。繊維状物質は、可塑性における固形物の一部を構成しうる。また、繊維状物質は、活物質又は無機固体電解質(SE)の機能を兼ねるものであってもよい。可塑性組成物が繊維状物質を含むことにより、可塑性組成物の粘度を所望の範囲に調整したり、可塑性組成物に追加的な機能を付与したりすることができる。
【0055】
繊維状物質の例としては、ポリテトラフルオロエチレン繊維、セルロースナノファイバ、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、及びこれらの組み合わせが挙げられる。カーボンナノチューブは、特に、単層カーボンナノチューブであることが好ましい。
【0056】
繊維状物質の繊維径は、ナノサイズ(最大径が1μm未満)であることが好ましい。繊維状物質の平均繊維径は、好ましくは0.4nm以上であり、また好ましくは500nm以下、より好ましくは100nm以下である。可塑性組成物がナノサイズの繊維成分を含むことにより、可塑性組成物の纏まりが向上し、強度に優れる成形物を得ることができる。繊維径は走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡などの顕微鏡を用いて計測し、算術平均を求めうる。繊維状物質として、ポリテトラフルオロエチレン繊維を用いる場合、可塑性組成物の製造の工程においてこのような繊維形状に成形することが可能である。具体的には、可塑性組成物の製造の工程において、粒子状のポリテトラフルオロエチレンを系内に添加し、さらに混練等により剪断力を加えることにより、系内においてその形状をナノサイズの繊維に変形させうる。
【0057】
繊維状物質の繊維長は、繊維状物質以外の固形物の体積平均粒径以上の繊維長を有することが好ましい。また、可塑性組成物を成形して層状の形状を有する部材(電極又は絶縁層等)を形成する場合、繊維状物質の繊維長は、かかる部材の平均厚みの半分以上であることがより好ましく、平均厚み以上であることがさらに好ましく、部材の厚み以上であってもよい。
【0058】
好ましい態様において、固形物は、粒子状固形物と繊維状物質とを含み、可塑性組成物において、繊維状物質は、粒子状固形物の粒子間を橋掛けした状態で存在する。より具体的には、顕微鏡で本発明の電極を観察した際に、100μm四方の視野中に10本以上の橋掛けがあることが好ましく、20本以上の橋掛けがあることがより好ましい。揮発性の有機化合物が存在して観察に不適であれば、乾燥を行ってから観察を行うことが好ましい。かかる橋掛け構造を有することにより、可塑性組成物の纏まりがさらに向上し、さらに強度に優れる成形物を得ることができる。
【0059】
〔4.電極及び絶縁層、並びにそれらの製造方法〕
本発明の電気化学デバイス用電極シート、及び本発明の電気化学デバイス用絶縁層は、前記本発明の可塑性組成物を含む。また、本発明の電気化学デバイス用電極シートの製造方法は、前記本発明の可塑性組成物を電極シートの形状に成形することを含み、本発明の電気化学デバイス用絶縁層の製造方法は、前記本発明の可塑性組成物を絶縁層の形状に成形することを含む。
【0060】
電極シートは、適切な層状の集電体と重ね合わせることにより、電極を構成しうる。集電体としては、銅箔、アルミニウム箔、ステンレス箔等の、金属の箔体を用いうる。
【0061】
電極シート及び絶縁層の形状は、特に限定されず所望の形状としうる。小型で高性能の電気化学デバイスを得る観点からは、電極シート及び絶縁層は、薄い層状の形状であることが好ましい。層状の形状である場合、その厚みは、5~200μmであることが好ましい。厚みを前記下限以上とすることにより、容易に自立性を得ることができる。厚みを前記上限以下とすることにより、小型で高性能の電気化学デバイスを容易に形成することができる。
【0062】
本発明の電気化学デバイス用電極シート、及び本発明の電気化学デバイス用絶縁層は、好ましくは自立性を有する。ここで自立性とは、基材フィルム等の支持体により支持されていない状態であっても、破れずにその形状を保ちうることをいい、具体的には、層状の形状を有する電極シート又は絶縁層を矩形の形状に切り出したサンプルを調製し、当該サンプルの辺をピンセットでつまんだ状態で持ち上げることができる程度に、その形状を保持しうることが好ましい。より具体的には、好ましくは1cm角の矩形の形状サンプル、より好ましくは2cm角の矩形の形状のサンプルにおいて、そのような形状の保持が可能であることが好ましい。かかる自立性を有することにより、電気化学デバイスの製造を容易に行うことができ、且つ得られる電気化学デバイスの耐久性を高めることができる。
【0063】
〔5.電気化学デバイス〕
本発明の電気化学デバイスは、前記本発明の電気化学デバイス用電極シート、前記本発明の電気化学デバイス用絶縁層、又はこれらの両方を備える。電極シートは、前述のもの等の適切な層状の集電体と重ね合わせ、電極を構成した状態として、電気化学デバイス中に設けうる。また、絶縁層は、電気化学デバイス中に、複数の電極(例えば正極及び負極)の間に設けうる。
【0064】
本発明の電気化学デバイスの例としては、リチウム一次電池等の一次電池;リチウムイオン二次電池、リチウム金属二次電池、ナトリウムイオン二次電池、カリウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池、アルミニウム二次電池等の非水系二次電池;空気電池;色素増感型太陽電池等の太陽電池;電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等のキャパシタ;エレクトロクロミック表示デバイス;電気化学発光素子;電気二重層トランジスタ;及び電気化学アクチュエータが挙げられる。
【0065】
好ましい例において、本発明の電気化学デバイスは、電池であり、具体的にはリチウムイオン二次電池としうる。より具体的には、アルミ箔等の正極集電体、正極シート、セパレータ、負極シート、及び銅箔等の負極集電体をこの順に重ね合わせ、電池単位を構成する複層物とし、これを適当な外装中に挿入し、さらに必要に応じて電解液を注入し、外装の開口を封止することにより、電池を製造しうる。ここで、正極シート、負極シート及びセパレータのいずれか一以上として、本発明の電極シート又は絶縁層を採用し、且つこれらを構成する電解液及び活物質としてリチウムイオン二次電池の電解液及び活物質に適したものを使用することにより、リチウムイオン二次電池を構成しうる。また、外装内に電解液を注入する場合、当該電解液として本発明の電解液を使用してもよい。
【0066】
電気化学デバイスの製造においては、電極シート及び/又は絶縁層を重ね合わせた後の工程で、これらを構成する重合体(P)に対し架橋反応等の反応を進行させる工程を行ってもよい。より具体的には、外装の開口を封止した後で、外装の外から、何らかのエネルギーを印加することで、重合体(P)の架橋反応を進行させうる。かかるエネルギーの印加の例としては、加熱、並びに可視光線、電子線、放射線等のエネルギー線の照射が挙げられる。これらのうち、外装を透過した印加が可能なものを適宜選択しうる。また、かかる架橋反応を達成するため、電解液は、かかるエネルギーの印加に応答して重合体(P)の架橋反応を進行させる重合開始剤等の成分を含んでいてもよい。
【0067】
好ましい例において、本発明の電気化学デバイスは、バイポーラ型のデバイスであり、具体的にはバイポーラ型の電池としうる。バイポーラ型のデバイスは、バイポーラ構造の電極を備えるデバイスである。バイポーラ構造の電極とは、集電体の一方の面に正極材、他方の面に負極剤を設けた電極である。バイポーラ電極を複数重ねた構造を形成することにより、一つのデバイス内で、複数のデバイス単位が直列に重なった構造を得うる。例えば、バイポーラ型の電池では、一つの電池パックの中に、複数の電池単位が直列に重なった構造としうる。かかるバイポーラ型のデバイスでは、デバイス単位間の電解液の液絡を防止することが大きな課題となるところ、電極及び/又は絶縁層として本発明の電極及び/又は絶縁層を採用することにより、かかる液絡の防止を容易に達成できる。
【0068】
バイポーラ型の電池のより具体例としては、電極複層物として、アルミ箔等の正極集電体、正極シート、絶縁層シート、負極シート、ステンレス箔等の中間の箔体、正極シート、絶縁層シート、負極シート、及び銅箔等の負極集電体を、この順に重ね合わせたものを備える電池が挙げられる。この例は、2つの電池単位が直列に重なった構造をとる例であるが、「ステンレス箔等の中間の箔体、正極シート、絶縁層シート、負極シート」の組み合わせをさらに1以上設け、3つ以上の電池単位が直列に重なった構造をとることもできる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0070】
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り質量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、室温及び常圧の条件において行った。
【0071】
実施例及び比較例で使用した物質に関する略語の意味は、下記の通りである。
LiFSI:リチウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(Li+ (N(SO2F)2)-)
LiTFSI:リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Li+ (N(SO2CF3)2)-)
LiBF4:ホウフッ化リチウム
LiDFOB:リチウム ジフルオロ(オキサラト)ボレート(Li+ B(RX)3)-、RXのうち2つは-F、1つは-O-CO-CO-O-)
Mg(TFSI)2:マグネシウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Mg2+ ((N(SO2CF3)2)-)2)
AN:アセトニトリル
EMC:エチルメチルカーボネート
EC:エチレンカーボネート
SL:スルホラン
DMS:ジメチルスルホン
GBL:ガンマブチロラクトン
FEC:フルオロエチレンカーボネート
DMC:ジメチルカーボネート
DEC:ジエチルカーボネート
TMP:リン酸トリメチル
PTFE:ポリテトラフルオロエチレン
重合体(P-A):エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体 質量平均分子量:20万
重合体(P-B):エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体 質量平均分子量:50万
重合体(P-C):エチレンオキサイド重合体 質量平均分子量:100万
重合体(P-D):ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン) 質量平均分子量:50万
重合体(P-E):ポリメチルメタクリレート 質量平均分子量:10万
重合体(P-F):ポリ(2-エチル-2-オキサゾリジノン) 質量平均分子量:2.5万
【0072】
〔製造例1~14〕
(P1-1.混合液の調製)
表1に示す、カチオン(C)及びアニオン(A)を含む塩と、溶媒(SO)とを混合し、混合液を得た。混合の割合は、表1及び表2に示すモル数の比率の通りとした。混合に際して、室温では溶解速度が遅い場合は適宜加温を行った。
【0073】
(P1-2.析出物の有無の判定)
(P1-1)で得られた混合液を、15℃にて3日間放置した後、目視で観察し、析出物の有無を判定した。析出「有」と判定した場合、さらに析出物の形状とその寸法を記録した。析出物の寸法としては、析出物を様々な角度から観察し、最も長い方向における長さを採用した。結果を表3に示す。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
製造例12及び製造例13以外の全ての例において、析出が見られた。析出物の形状は、角張った形状及び針状の形状であり、寸法が概ね1mm以上であった。したがって、これらの混合液を電気化学デバイス内で使用した場合、析出物の発生がデバイスの機能に悪影響を与えるものと考えられる。製造例14は製造例12におけるカチオンと製造例13におけるカチオンが混在した例である。製造例12及び製造例13では析出が見られなかったにも拘わらず、製造例14では析出が見られたことから、複数種類のカチオンが混在している場合には析出が発生し易くなることが分かる。
【0078】
(P1-3.加温による再溶解)
(P1-2)での判定の後の、製造例1~11及び製造例14の、析出物を含む電解液を、さらに60℃で60分間加温した。どの例においても、全ての析出物を再溶解させることはできなかった。析出サイズが大きいためであると考えられる。
【0079】
〔実施例1-1~1-22〕
製造例1~14の(P1-1)で調製した混合液のそれぞれに、表4に示す重合体(P-A)~(P-F)(表中では単に「A」~「F」と略記する)のそれぞれを添加して溶解させ、電解液を調製した。使用した混合液の種類、重合体の種類、及び重合体の添加の割合(質量%;電解液100質量%中の重合体(P)の百分率)は、表1に示す通りとした。それぞれの実施例において、溶解の工程として、
工程(i):電解液温度を25℃に保ち、電解液に重合体を添加し静置する。
工程(ii):電解液温度を60℃に保ち、電解液に重合体を添加し撹拌する。
の2通りの工程を試みた。
【0080】
重合体(P-A)を用いた場合及び重合体(P-B)を用いた場合は、工程(i)ではいずれの実施例でも、24時間の静置により均一な溶液が得られた。一方工程(ii)ではいずれの実施例でも、30分間の撹拌で均一な溶液が得られた。さらに、得られた電解液の粘度を測定した。粘度は、EMS粘度計(京都電子工業製、EMS-1000S)を用いて密閉条件で電解液の組成が変化せず、空気中の水分が混入しないようにして、回転数1000rpmで測定した。
【0081】
重合体(P-C)を用いた場合は、工程(i)ではいずれの実施例でも、24時間の静置では透明な不溶解分が残存したため、さらに150時間静置したところ、均一な溶液が得られた。一方工程(ii)ではいずれの実施例でも、3時間の撹拌で均一な溶液が得られた。
【0082】
重合体(P-E)を用いた場合は、工程(i)では24時間の静置では殆ど溶解が進行せず、さらに150時間静置しても溶解が進行しなかったため、工程(i)による電解液の調製は行わなかった。一方工程(ii)では、20時間の撹拌で均一な溶液が得られた。
【0083】
重合体(P-D)を用いた場合、及び重合体(P-F)を用いた場合は、工程(i)では24時間の静置では殆ど溶解が進行せず、さらに150時間静置しても溶解が進行しなかったため、工程(i)による電解液の調製は行わなかった。一方工程(ii)では、3時間の撹拌で均一な溶液が得られた。
【0084】
得られたそれぞれの電解液を、15℃にて3日間放置した後、目視で観察し、析出物の有無を判定した。結果を表4に示す。また、電解液の粘度の測定結果を表5に示す。
【0085】
【0086】
【0087】
表5中、※は、粘度が高すぎて試料を粘度測定機へ導入できず、測定ができなかったことを示す。従って、これらの例においては、室温で測定が可能であった実施例1-13よりも高い粘度であったと考えられる。
測定温度が25℃より高いものは、25℃において流動性が低く、測定が困難であったため、より高い温度で測定したものである。
【0088】
実施例において析出物の有無に関し「あり」と判定された例は、いずれも、ごく微小な析出物が観察されるのみであった。これらの電解液を電気化学デバイスに使用した場合において、そのような微小な析出物が電気化学デバイスに与える悪影響は少ないものと判断された。析出物が観察された電解液を60℃に加温したところ、全ての例において、10分以内に析出物を再び溶解させることができた。
【0089】
〔実施例2:リチウムイオン二次電池〕
(2-1.正極)
プラネタリーミキサーに、活物質としてコバルト酸リチウム(日本化学工業社製、製品名「セルシードC」)100質量部、導電性フィラーとしてアセチレンブラック3質量部を仕込み、固形分濃度が90質量%となるようにN-メチルピロリドンを添加して、20分間撹拌して混合した。その後、ポリフッ化ビニリデンを固形分基準で1質量部加え、固形分濃度82質量%で90分間混練した後、さらにN-メチルピロリドンを加え、粘度を調整し、スラリーを得た。このスラリーを用いて、リチウムイオン電池の電極の一般的な製造方法に従い正極(目付:10mg/cm2、密度3.3g/cm3)を製造した。
【0090】
(2-2.リチウムイオン二次電池)
(2-1)で得た正極と、セパレータとしての厚み100μmのPTFEメンブレンフィルター(メルク社製、製品名「オムニポアJMWP04700」)と、負極としての厚み100μmのリチウム金属箔とをこの順に重ね合わせて、リチウムイオン二次電池用の電極複層物を構成した。
【0091】
LiFSIと、DMCとを、LiFSI:DMC=1:3の比率(モル比)となるよう混合し、混合液を得た。この混合液に、重合体(P-B)を、濃度が0.5質量%となるように添加し、溶解させ、電解液を得た。電池用のアルミラミネート外装材中に、電極複層物を挿入し、電解液を注液し、外装の開口を閉じて内容物を密閉し、リチウム二次電池を得た。
【0092】
得られた二次電池を、25℃の環境下にて0.2Cの速度で充放電試験したところ4.2-3.0Vの電圧範囲において、140mAh/gの放電容量を示し、充放電の繰り返しが可能であった。
【0093】
〔実施例3-1:難燃性の評価〕
(3-1-1.難燃剤含有の電解液の調製)
LiTFSIと、DMSと、難燃剤としてのTMPとを、LiTFSI:DMS:TMP=1:2.4:0.6の比率(モル比)となるよう混合し、混合液を得た。この混合液に、重合体(P-A)を、濃度が10質量%となるように添加し、溶解させ、電解液を得た。この電解液中のリン酸トリメチルの割合は、15.4質量%であった。この電解液は、実施例1-9の電解液のDMSの一部をTMPに置き換えたものに相当する。
【0094】
(3-1-2.難燃性の評価)
(3-1-1)で得た電解液100mgを直径2cmのステンレス製の皿に入れ、バーナーの炎を当て、着火の状態を観察することにより燃焼性を評価した。その結果、バーナーの炎を当てても着火が起こらなかった。
【0095】
〔実施例3-2:難燃性の評価〕
実施例1-9の電解液(LiTFSI:DMS=1:3、重合体(P-A)10質量%)について、実施例3-1の(3-1-2)と同じ燃焼性の評価を行った。炎を4秒間当て続けることにより着火した。しかし、着火から2秒後に自然に消火した。消火後に再び炎を当てたところ、再び着火したが、1回目と同様に着火から2秒後に自然に消化した。このことから、この電解液は着火はするものの、全量が燃えてしまうことは無く、自己消火性を示すことが分かった。
【0096】
〔比較例1〕
リチウムイオン電池で標準的に使用される、1MのLiPF6電解液(溶媒:EC及びDEC、質量比50:50混合物)に対して、TMPを30質量%濃度となるように添加し、難燃性の電解液を得た。この電解液について、実施例3-1の(3-1-2)と同じ燃焼性の評価を行った。炎を当てた直後に、瞬時に着火し、皿中の液体が確認できなくなるまで燃焼が続いた。燃焼終了後、再度炎を当てたが着火は起こらなかったので、全ての電解液が燃焼したと判断した。このことから、この電解液は実施例3-1~3-2の電解液より高い燃焼性を有していると評価された。
【0097】
〔実施例4:可塑性組成物を用いた、リチウムイオン二次電池〕
(4-1.電解液)
LiFSIと、ECとを、LiFSI:EC=1:2の比率(モル比)となるよう混合し、混合液を得た。この混合液に、重合体(P-B)を、濃度が5質量%となるように添加し、溶解させ、電解液を得た。
【0098】
(4-2.可塑性組成物;正極シート)
(4-1)で得た電解液10質量部、繊維状物質としてのPTFE(三井デュポンフロロケミカル社製粉末状PTFE 6-J、平均粒径470μm、かさ密度470g/l)、以下において同じ)1質量部、コバルト酸リチウム100質量部、及びアセチレンブラック3質量部を量り取り、乳鉢でよく混錬したところ、ひとまとまりの粘土状の可塑性組成物が得られた。この可塑性組成物を薄く延ばして厚み100μm、厚み精度±3%の正極シートを得た。このシートは6cm角の矩形の形状であっても、ピンセットでつまむことができ、高い自立性を有していた。走査型電子顕微鏡で確認したところ、添加したPTFEが数nm程度のナノ繊維となってコバルト酸リチウム及びアセチレンブラックの粒子を橋掛けしている構造が確認された。
【0099】
(4-3.リチウムイオン二次電池)
厚さ25μmのアルミ箔と、(4-2)で得た正極シートと、(4-1)の電解液を含浸したセパレータ(ポリポア製、製品名「セルガード2325」)と、負極としての厚み100μmのLi金属箔と、厚み25μmの銅箔とをこの順に重ね合わせて、リチウムイオン二次電池用の電極複層物を得た。電極複層物を、電池用のアルミラミネート外装中に挿入し、1分間真空で脱気した後に、真空脱気状態を維持したまま外装の開口を熱でシールすることにより、内容物を真空シールし、リチウムイオン二次電池を製造した。真空シールの前後で重量減少は認められなかった。製造後直ちに、この電池を25℃の環境下にて0.1Cレートで充放電したところ、4.2-3.0Vの電圧範囲において、140mAh/gの放電容量を示し、充放電の繰り返しが可能であった。この電池の充放電を繰り返して容量の変化を測定したところ、200サイクルまで充放電を繰り返した時点で、初期の90%の容量を維持していた。
【0100】
〔比較例2:従来技術の電解液のイオン伝導度〕
(C2-1.従来技術の電解液の調製)
LiFSIと、GBLとを、LiFSI:GBL=1:2の比率(モル比)となるよう混合し、従来技術の電解液を得た。
【0101】
(C2-2.イオン伝導度の測定)
(C2-1)で得た電解液のイオン伝導度を測定した。測定は、25℃において、測定は交流インピーダンス法にて1M~0.1Hzの周波数範囲で行った。その結果、イオン伝導度は1.28×10-3S/cmであった。
【0102】
〔実施例5:本発明の電解液のイオン伝導度〕
比較例2の(C2-1)で調製した従来技術の電解液に、重合体(P-A)を、濃度が5質量%となるよう添加し、溶解させ、本発明の電解液を調製した。この電解液のイオン伝導度を比較例2の(C2-2)と同じ測定方法にて測定した。その結果、イオン伝導度は1.70×10-3S/cmであり、重合体を添加していないものよりも高い値であった。
【0103】
〔比較例3:無機固体電解質粉末のみの圧縮物のイオン伝導度〕
無機固体電解質としてのLTAP(オハラ社製イオン伝導性ガラス Li2O-Al2O3-SiO2-P2O5-TiO2)粉末(体積平均粒径1μm、密度2.8g/cm3)200mgを直径10mmの円柱状の測定セルに導入し、上下から、1対のSUSの電極で10MPaの圧力で加圧した。この加圧状態を維持し、25℃におけるイオン伝導度を測定した。測定は交流インピーダンス法にて1M~0.1Hzの周波数範囲で行った。その結果、イオン伝導度は3.54×10-5S/cmであった。
【0104】
この固体電解質は粉砕されていない結晶体の状態で、1.5×10-3S/cm以上のイオン伝導度を有する一方、かかる粉末圧縮物のイオン伝導度は、10MPaという高い圧力にて加圧した状態であったにも拘わらず、前記の通り低い値であった。このことは、このように加圧された状態においてもなお、粉末同士の接触が不完全であることによるものと考えられる。
【0105】
〔実施例6:無機固体電解質粉末を含む絶縁層のイオン伝導度〕
実施例5で得た本発明の電解液100mgと、繊維状物質としてのPTFE繊維10mgとを量り取り、加えて、比較例3で使用したものと同じ無機固体電解質を、組成物全体における無機固体電解質の体積分率が70体積%となるように量り取り、これらをよく混錬したところ、ひとまとまりの粘土状の可塑性組成物が得られた。この可塑性組成物は自立性と可塑性を有していた。この可塑性組成物を厚み200μmのシート状に成形し、直径12mmの円盤状に打ち抜き、2枚の円盤状のSUS板で挟み、0.01MPaの圧力で加圧した。この加圧状態を維持し、25℃におけるイオン伝導度を測定した。測定は、交流インピーダンス法にて1M~0.1Hzの周波数範囲で行った。その結果、イオン伝導度は2.29×10-3S/cmであり、実施例5の電解液についてのイオン伝導度測定結果より高い値であった。このことから、この系におけるイオン伝導の主体は固体電解質であると考えられ、電解液は固体電解質の界面接触性の改良剤として働いたと考えられる。
【0106】
〔実施例7:繊維状物質を含む電極及び絶縁層を備えるリチウムイオン二次電池〕
(7-1.電解液)
LiFSIと、SLとを、LiFSI:SL=1:2の比率(モル比)となるよう混合し、混合液を得た。この混合液に、重合体(P-B)を、濃度が5質量%となるように添加し、溶解させ、電解液を得た。
【0107】
(7-2.可塑性組成物;正極シート)
(7-1)で得た電解液10質量部、導電材と繊維状物質とを兼ねる成分としてのカーボンナノチューブ(ゼオンナノテクノロジー社製、製品名「ZEONANO SG101」、算術平均直径:4nm、算術平均長さ:400μm、BET比表面積:1150m2/g、以下において同じ)1質量部、及びコバルト酸リチウム100質量部を量り取り、乳鉢で混錬したところ、ひとまとまりの粘土状の可塑性組成物が得られた。この可塑性組成物を薄く延ばして厚み80μm、厚み精度±3%、密度3.9g/cm3の正極シートを得た。このシートは4cm角の矩形の形状であっても、ピンセットでつまむことができ、高い自立性を有していた。
【0108】
(7-3.可塑性組成物;負極シート)
(7-1)で得た電解液10質量部、導電材と繊維状物質とを兼ねる成分としてのカーボンナノチューブ0.4質量部、及び負極活物質としてのグラファイト(日本カーボン社製604A)40質量部を量り取り、乳鉢で混錬したところ、ひとまとまりの粘土状の可塑性組成物が得られた。この可塑性組成物を薄く延ばして厚み80μm、厚み精度±3%の負極シートを得た。このシートは4cm角の矩形の形状であっても、ピンセットでつまむことができ、高い自立性を有していた。
【0109】
(7-4.可塑性組成物;絶縁層)
(7-1)で得た電解液10質量部、繊維状物質としてのPTFE繊維0.1質量部、及び体積平均粒径5μmのアルミナ5質量部を量り取り、乳鉢で混錬したところ、ひとまとまりの粘土状の可塑性組成物が得られた。この可塑性組成物を薄く延ばして厚み50μm、厚み精度±3%の絶縁層シートを得た。このシートは4cm角の矩形の形状であっても、ピンセットでつまむことができ、高い自立性を有していた。
【0110】
(7-5.リチウムイオン二次電池)
厚さ25μmのアルミ箔と、(7-2)で得た正極シートと、(7-4)で得た絶縁層シートと、(7-3)で得た負極シートと、厚さ25μmの銅箔とをこの順に重ね合わせて、リチウムイオン二次電池用の電極複層物を得た。電極複層物を、電池用のアルミラミネート外装中に挿入し、1分間真空で脱気した後に、真空脱気状態を維持したまま外装の開口を熱でシールすることにより、内容物を真空シールし、リチウムイオン二次電池を製造した。真空シールの前後で重量減少は認められなかった。製造後直ちに、この電池を25℃の環境下にて0.1Cレートで充放電したところ、4.2-3.0Vの電圧範囲において、正極重量に対して140mAh/gの放電容量を示し、充放電の繰り返しが可能であった。
【0111】
〔実施例8:電解液の揮発に伴う状態の変化の評価〕
LiFSIと、DMCとを、LiFSI:DMC=1:1の比率(モル比)となるよう混合し、従来技術の電解液を得た。さらに、従来技術の電解液に、重合体(P-B)を5質量%となるよう添加し、溶解させ、本発明の電解液を得た。
【0112】
従来技術の電解液及び本発明の電解液のそれぞれを、1gガラス皿に量り取り、温度18℃、露点-40℃以下のドライルームのドラフト内に放置した。放置開始から24時間後に、それらの状態を観察したところ、どちらの電解液においても重量減少が確認され、電解液中の40%のアセトニトリルが揮発したものと考えられた。この時点において、従来技術の電解液においては結晶の生成が確認されたが、本発明の電解液においては確認されなかった。本発明の電解液に対してはさらに試験を延長して、放置開始から48時間後に再び状態を観察したところ、依然塩の析出は確認されなかった。このことから、本発明の電解液は、電気化学デバイスの長期使用での溶媒の減少があっても塩の析出が起きにくいことが分かった。
【0113】
〔実施例9:バイポーラ構造の電気化学デバイス〕
厚さ25μmのアルミ箔、正極シート、絶縁層シート、負極シート、厚さ20μmのステンレス箔、正極シート、絶縁層シート、負極シート、及び厚さ25μmの銅箔を、この順に重ね合わせて、バイポーラ電池用の電極複層物を得た。正極シート、絶縁層シート、及び負極シートとしては、実施例7の(7-2)で得た正極シート、実施例7の(7-4)で得た絶縁層シート、及び実施例7の(7-3)で得た負極シートを用いた。製造したバイポーラ電池は2つのセルが同一の外装内で直列になった構成を有しており、電解液の流動性が低いので内部で電解液が液絡することがなく、8.4から6Vまでの電圧範囲で充放電することができた。
【0114】
〔実施例10:第2の塩を先に溶解させる、電解液の製造〕
第1のアニオンを含む第1の塩としてのLiFSI、及び第2のアニオンを含む第2の塩としてのLiDFOBを用意した。
第2の塩0.5mmоl(193.8mg)をエチレンカーボネート20mmоl(1.761g)に添加して、50℃で攪拌して完全に溶解させた。続いて、ここへ第1の塩9.5mmol(1.871g)を添加して攪拌したところ、第1の塩が1時間で完全に溶解し、混合液が得られた。この混合液にさらに、重合体(P-B)を、濃度が5重量%となるよう添加し、溶解させ、本発明の電解液を得ることができた。
【0115】
一方、第1の塩9.5mmol(1.871g)をエチレンカーボネート20mmоl(1.761g)に添加して、50℃で攪拌して完全に溶解させた。続いて、ここへ第2の塩0.5mmоl(193.8mg)を添加して撹拌したが溶解しなかったため、温度を70℃まで上昇させてさらに撹拌を行った。70℃での撹拌を12時間行ったが、依然として完全な溶解状態は得られなかった。
【0116】
〔実施例11:溶媒の留去の工程を含む電解液の製造〕
実施例1-2と同じ組成の電解液を、成分を一度に混合することにより調製した。即ち、LiFSIを187.1g(1mol)と、アセトニトリル41.1g(1mol)と、重合体(P-B)4.66gとを、ガラス製のフラスコに量り取り、室温で撹拌したところ、全ての成分を完全に溶解させるのに約3時間を要した。
【0117】
一方、アセトニトリルの量を10倍にして、LiFSIを187.1g(1mol)と、アセトニトリル411g(10mol)と、重合体(P-B)4.66gとをガラス製のフラスコに量り取り、室温で撹拌しせたところ、約15分に、全ての成分が完全に溶解した溶液を得た。この溶液を90℃のオイルバスで加熱して、アセトニトリルを留去する操作を行ったところ、30分間経過後に、9mol分アセトニトリルを留去することができ、その結果本発明の電解液を得ることができた。溶解と留去にかかった時間は合わせて45分であり、より短い時間で、本発明の電解液の製造を行うことができた。