(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】スラリ、研磨方法及び半導体部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20241210BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20241210BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20241210BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20241210BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
H01L21/304 622X
H01L21/78 Q
B24B37/00 H
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
(21)【出願番号】P 2022553800
(86)(22)【出願日】2021-09-15
(86)【国際出願番号】 JP2021033950
(87)【国際公開番号】W WO2022070923
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/037171
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100160897
【氏名又は名称】古下 智也
(72)【発明者】
【氏名】久保田 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】岩野 友洋
(72)【発明者】
【氏名】古川 暁之
(72)【発明者】
【氏名】影澤 幸一
(72)【発明者】
【氏名】植田 敦子
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/182061(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/006553(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
H01L 21/301
B24B 37/00
C09K 3/14
C09G 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、化合物Xと、水と、を含有し、
前記砥粒がセリウム酸化物を含み、
前記化合物Xのハンセン溶解度パラメータの水素結合項dHが15.0MPa
1/2以上である、スラリ
(但し、砥粒と、ヒドロキシ酸と、水酸基及びアミド基からなる群より選ばれる少なくとも一種を有する高分子化合物と、液状媒体と、を含有し、前記砥粒のゼータ電位が正であり、前記高分子化合物の重量平均分子量が3000以上である、研磨液を除く)。
【請求項2】
砥粒と、化合物Xと、水と、を含有するスラリであって、
前記砥粒がセリウム酸化物を含み、
前記化合物Xのハンセン溶解度パラメータの水素結合項dHが15.0MPa
1/2
以上であり、
前記スラリにおける前記砥粒の含有量を5.0質量%に調整して得られる分散液において、下記式により算出されるパラメータYが0.120g/m
2
以上である、スラリ。
Y = {(前記分散液のNMR緩和時間の逆数)/(前記分散液から前記砥粒を除いた状態のNMR緩和時間の逆数)-1}/前記砥粒の総表面積S
【請求項3】
前記砥粒がコロイド状である、請求項1
又は2に記載のスラリ。
【請求項4】
前記セリウム酸化物の含有量が、スラリに含まれる砥粒全体を基準として99質量%以上である、請求項1
~3のいずれか一項に記載のスラリ。
【請求項5】
前記化合物Xがヒドロキシイソ酪酸を含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載のスラリ。
【請求項6】
前記化合物Xが2,2-ビス(ヒドロキシメチル)酪酸を含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載のスラリ。
【請求項7】
前記化合物Xが2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸を含む、請求項1~
6のいずれか一項に記載のスラリ。
【請求項8】
前記化合物Xの含有量が、スラリの全質量を基準として0.50質量%以下である、請求項1~
7のいずれか一項に記載のスラリ。
【請求項9】
pHが3.0~6.0である、請求項1~
8のいずれか一項に記載のスラリ。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか一項に記載のスラリを用いて被研磨面を研磨する、研磨方法。
【請求項11】
前記被研磨面が酸化ケイ素を含む、請求項
10に記載の研磨方法。
【請求項12】
請求項
10又は
11に記載の研磨方法により研磨された被研磨面を有する部材を個片化することにより半導体部品を得る、半導体部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スラリ、研磨方法、半導体部品の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体素子の製造工程では、高密度化・微細化のための加工技術の重要性がますます高まっている。加工技術の一つであるCMP(ケミカル・メカニカル・ポリッシング:化学機械研磨)技術は、半導体素子の製造工程において、シャロートレンチ分離(シャロー・トレンチ・アイソレーション:STI)の形成、プリメタル絶縁材料又は層間絶縁材料の平坦化、プラグ又は埋め込み金属配線の形成等に必須の技術となっている。CMP研磨液としては、セリウム酸化物を含む砥粒を含有するCMP研磨液が知られている(例えば、下記特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-106994号公報
【文献】特開平08-022970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
セリウム酸化物を含む砥粒を含有するCMP研磨液を用いて、酸化ケイ素を含む部材を研磨して早期に除去することが求められる場合がある。このようなCMP研磨液として用いられるスラリに対しては、酸化ケイ素の研磨速度を向上させることが求められる。
【0005】
本開示の一側面は、酸化ケイ素の研磨速度を向上させることが可能なスラリを提供することを目的とする。本開示の他の一側面は、当該スラリを用いた研磨方法を提供することを目的とする。本開示の他の一側面は、当該研磨方法を用いた半導体部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面は、砥粒と、化合物Xと、水と、を含有し、前記砥粒がセリウム酸化物を含み、前記化合物Xのハンセン溶解度パラメータの水素結合項dHが15.0MPa1/2以上である、スラリを提供する。
【0007】
本開示の他の一側面は、上述のスラリを用いて被研磨面を研磨する、研磨方法を提供する。
【0008】
このようなスラリ及び研磨方法によれば、酸化ケイ素の研磨速度を向上させることができる。
【0009】
本開示の他の一側面は、上述の研磨方法により研磨された被研磨面を有する部材を個片化することにより半導体部品を得る、半導体部品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一側面によれば、酸化ケイ素の研磨速度を向上させることが可能なスラリを提供することができる。本開示の他の一側面によれば、当該スラリを用いた研磨方法を提供することができる。本開示の他の一側面によれば、当該研磨方法を用いた半導体部品の製造方法を提供することができる。本開示の他の一側面によれば、酸化ケイ素の研磨へのスラリの応用を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について説明する。但し、本開示は下記実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。数値範囲の「A以上」とは、A、及び、Aを超える範囲を意味する。数値範囲の「A以下」とは、A、及び、A未満の範囲を意味する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。ヒドロキシ基(水酸基)は、カルボキシ基に含まれるOH基を包含しない。後述するハンセン溶解度パラメータの水素結合項dH、分散項dD及び分極項dPは、単位MPa1/2を有し、以下において単位MPa1/2の表示を適宜省略する。
【0013】
本実施形態に係るスラリは、砥粒と、化合物Xと、水と、を含有し、砥粒がセリウム酸化物を含み、化合物Xのハンセン溶解度パラメータの水素結合項dHが15.0MPa1/2以上である。本実施形態に係るスラリは、研磨用スラリ(例えばCMP研磨液)として用いることができる。
【0014】
本実施形態に係るスラリによれば、酸化ケイ素の研磨速度を向上させることが可能であり、4600Å/min以上の酸化ケイ素の研磨速度を得ることができる。また、本実施形態に係るスラリによれば、TEOS(テトラエトキシシラン)由来の酸化ケイ素(TEOSを用いて得られる酸化ケイ素。例えばTEOS膜の酸化ケイ素)の研磨速度を向上させることができる。酸化ケイ素の研磨速度が向上する要因は必ずしも明らかではないが、本発明者は、下記のとおりであると推測している。すなわち、化合物Xのハンセン溶解度パラメータの水素結合項dHが大きいことにより、水素結合を介して化合物Xが、セリウム酸化物を含む砥粒、及び、酸化ケイ素(例えばTEOS由来の酸化ケイ素)のそれぞれに作用しやすい。そのため、砥粒と酸化ケイ素との脱水縮合反応が進みやすいことから、酸化ケイ素の研磨速度が向上する。但し、要因は当該内容に限定されない。本実施形態によれば、ハンセン溶解度パラメータの水素結合項dHに基づき酸化ケイ素の研磨速度を調整する、研磨速度の調整方法を提供することができる。
【0015】
本実施形態に係るスラリは、セリウム酸化物を含む砥粒を含有する。本明細書において「砥粒」とは、複数の粒子の集合を意味するが、便宜的に、砥粒を構成する一の粒子を砥粒と呼ぶことがある。砥粒は、一種又は複数種の粒子を含んでよい。セリウム酸化物以外の砥粒の構成材料としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、ゲルマニア、炭化ケイ素等の無機物;ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリ塩化ビニル等の有機物などが挙げられる。
【0016】
砥粒におけるセリウム酸化物の含有量は、酸化ケイ素の研磨速度を向上させやすい観点から、砥粒全体(スラリに含まれる砥粒全体、又は、砥粒を構成する一の粒子の全体)を基準として、95質量%超、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、又は、99.9質量%以上であってよい。砥粒は、実質的にセリウム酸化物からなる態様(実質的に砥粒の100質量%がセリウム酸化物である態様)であってもよい。
【0017】
砥粒は、コロイド状であってよく、例えば、コロイダルセリアを含んでよい。コロイド状の砥粒を含有するスラリは、砥粒の懸濁液であり、砥粒を形成するセリウム酸化物が水中に分散した状態を有する。コロイド状の砥粒は、例えば、液相法で得ることが可能であり、液相法由来の砥粒である。液相法としては、コロイド法、水熱合成法、ゾル-ゲル法、中和分解法、加水分解法、化学沈殿法、共沈法、アトマイジング法、逆ミセル法、エマルジョン法等が挙げられる。砥粒は、結晶粒界を有してよく、結晶粒界を有さなくてもよい。
【0018】
コロイド状の砥粒としては、陽電子寿命τ1~τ4のうち、τ2が0.3650ns以下である砥粒を用いることができる。ここで、「陽電子寿命」とは、22Naから放出される陽電子が電子と対消滅するまでの時間であり、サブナノメートル~ナノメートルオーダーの格子欠陥、自由体積等、超微細空隙のプローブとして利用できる。つまり、陽電子寿命が短いほど、粒子の緻密性が高いことを示す。
【0019】
陽電子寿命の測定には、東洋精鋼株式会社製のPAS Type L-IIを用いることができる。砥粒を室温(25℃)で24時間真空乾燥させて得られた粉体を粉体測定用ボックスに入れた後、陽電子線源部にセットし、積算回数100万カウントになるまで測定する。装置付属ソフトであるIPALMを用いて、寿命ヒストグラムを2成分に分離して解析する。22Naから放出された陽電子のうち、一部はカプトン、接着剤等の陽電子線源自身で消滅し、その成分が測定結果に混じるため、カプトンの割合を30%と仮定して解析する。得られた陽電子寿命τ1~τ4のうち、τ1及びτ2はサンプル由来の陽電子寿命に相当し、τ3はカプトン由来の陽電子寿命に相当し、τ4は接着剤由来の陽電子寿命に相当する。また、τ1は、単空孔のような小さい空隙に対応し、τ2は、複数の空隙がクラスタリングしているような空隙に対応する。
【0020】
コロイド状の砥粒としては、透過型電子顕微鏡(TEM)の電子線回折において規則的な回折スポットが観察される砥粒を用いることができる。例えば、砥粒としてコロイダルセリアを用いる際には、セリア(111)面に対して垂直に電子線を当てたときに得られる回折スポットにおいて、隣接する2つの回折スポットA1及びA2と、当該回折スポットA1及びA2に隣接する回折スポットBとが観察される場合、回折スポット間の距離R(回折スポットA1と回折スポットBとの距離、及び、回折スポットA2と回折スポットBとの距離)が1.6~2.2Åであると共に、回折スポットBを中心として回折スポットA1及びA2が形成する角度αの最小値が58~62°である回折スポットBを有する砥粒が50%以上を占めてよい。
【0021】
砥粒の観察、並びに、回折スポット間の距離R及び角度αの測定には、日本電子株式会社製のJEM-2100Fを用いることができる。砥粒を付着させたTEMグリットを加速電圧200kV、電子線波長2.508pm、カメラ長30cmの条件で、砥粒一粒に対して電子線回折を行い、距離R及び角度αの測定を行うことができる。距離R及び角度αは、砥粒一粒に対して少なくとも3点以上測定し、その平均値を採用することができる。測定は、TEM観察にて任意の倍率の下、1視野内100個以上確認された砥粒すべてに対して行い、上述の条件を満たす砥粒の割合を算出することができる。
【0022】
砥粒の平均粒径は、下記の範囲であってよい。砥粒の平均粒径は、自然沈降、粉砕処理、分散、ろ過等により調整可能であり、例えば、スラリの構成成分を混合した後に粒径調整を施してよい。
【0023】
砥粒の平均粒径D50は、酸化ケイ素の研磨速度を向上させやすい観点から、1nm以上、3nm以上、5nm以上、10nm以上、30nm以上、50nm以上、80nm以上、100nm以上、100nm超、120nm以上、130nm以上、又は、140nm以上であってよい。砥粒の平均粒径D50は、酸化ケイ素の研磨速度を向上させやすい観点から、500nm以下、300nm以下、200nm以下、180nm以下、160nm以下、155nm以下、152nm以下、150nm以下、又は、147nm以下であってよい。これらの観点から、砥粒の平均粒径D50は、1~500nmであってよい。砥粒の平均粒径D50は、142nm以上、143nm以上、144nm以上、145nm以上、又は、147nm以上であってよい。砥粒の平均粒径D50は、145nm以下、144nm以下、143nm以下、142nm以下、又は、140nm以下であってよい。砥粒の平均粒径D50は、体積基準の累積分布の50%粒径を意味し、例えばレーザー回折式粒度分布計により測定できる。
【0024】
砥粒の体積平均粒径MVは、酸化ケイ素の研磨速度を向上させやすい観点から、1nm以上、3nm以上、5nm以上、10nm以上、30nm以上、50nm以上、80nm以上、100nm以上、100nm超、120nm以上、130nm以上、140nm以上、145nm以上、又は、147nm以上であってよい。砥粒の体積平均粒径MVは、酸化ケイ素の研磨速度を向上させやすい観点から、500nm以下、300nm以下、200nm以下、180nm以下、160nm以下、155nm以下、又は、152nm以下であってよい。これらの観点から、砥粒の体積平均粒径MVは、1~500nmであってよい。砥粒の体積平均粒径MVは、150nm以上、又は、152nm以上であってよい。砥粒の体積平均粒径MVは、150nm以下、又は、147nm以下であってよい。砥粒の体積平均粒径MVは、例えばレーザー回折式粒度分布計により測定できる。
【0025】
砥粒の含有量は、酸化ケイ素の研磨速度を向上させやすい観点から、スラリの全質量を基準として下記の範囲であってよい。砥粒の含有量は、0.01質量%以上、0.03質量%以上、0.05質量%以上、0.08質量%以上、0.10質量%以上、0.20質量%以上、又は、0.25質量%以上であってよい。砥粒の含有量は、10質量%以下、5.0質量%以下、3.0質量%以下、1.0質量%以下、1.0質量%未満、0.80質量%以下、0.50質量%以下、0.50質量%未満、0.40質量%以下、0.30質量%以下、又は、0.25質量%以下であってよい。これらの観点から、砥粒の含有量は、0.01~10質量%であってよい。
【0026】
本実施形態に係るスラリは、酸化ケイ素の研磨速度を向上させる観点から、ハンセン溶解度パラメータの水素結合項dH(単位:MPa1/2)が15.0以上である化合物Xを含有する。
【0027】
化合物Xの炭素数は、酸化ケイ素の研磨速度を向上させやすい観点から、3以上、又は、4以上であってよい。化合物Xの炭素数は、酸化ケイ素の研磨速度を向上させやすい観点から、100以下、80以下、60以下、50以下、45以下、40以下、35以下、30以下、25以下、20以下、10以下、8以下、7以下、6以下、5以下、又は、4以下であってよい。これらの観点から、化合物Xの炭素数は、3~100であってよい。化合物Xの炭素数は、5以上、又は、6以上であってよい。化合物Xの炭素数は、3以下であってよい。
【0028】
ハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、物質の分散状態を構成する3種のエネルギー項(単位:MPa1/2)である水素結合項dH(δH)、分散項dD(δD)及び分極項dP(双極子項、δP)により構成される3次元空間の座標として表現される値である。化合物のハンセン溶解度パラメータは、例えば、実用ハンセン溶解度パラメータ(HSPiP:Hansen Solubility Parameters in Practice)プログラム(ver. 5.3.02)を用いて、化合物の構造に基づき算出できる。
【0029】
水素結合項dHは、酸化ケイ素の研磨速度を調整する観点から、下記の範囲であってよい。水素結合項dHは、15.5以上、16.0以上、16.5以上、17.0以上、17.5以上、18.0以上、18.5以上、19.0以上、19.1以上、19.3以上、又は、19.4以上であってよい。水素結合項dHは、50.0以下、40.0以下、30.0以下、25.0以下、24.0以下、23.8以下、23.7以下、23.5以下、23.0以下、22.5以下、22.0以下、21.5以下、21.0以下、20.5以下、20.0以下、又は、19.5以下であってよい。これらの観点から、水素結合項dHは、15.0~50.0であってよい。水素結合項dHは、19.5以上、20.0以上、20.5以上、21.0以上、21.5以上、22.0以上、22.5以上、23.0以上、23.5以上、23.7以上、23.8以上、又は、24.0以上であってよい。水素結合項dHは、19.4以下、19.3以下、19.1以下、19.0以下、又は、18.5以下であってよい。水素結合項dHは、例えば、化合物Xにおける水素結合を形成する官能基(ヒドロキシ基、カルボキシ基等)が多いほど増加する傾向がある。
【0030】
化合物Xの分散項dDは、酸化ケイ素の研磨速度を向上させやすい観点から、22.0以下、21.5以下、21.0以下、20.5以下、20.0以下、19.5以下、19.0以下、18.5以下、18.0以下、18.0未満、17.9以下、17.8以下、17.7以下、17.6以下、17.5以下、17.3以下、17.2以下、17.0以下、17.0未満、又は、16.9以下であってよい。化合物Xの分散項dDは、酸化ケイ素の研磨速度を向上させやすい観点から、10.0以上、10.0超、12.0以上、12.0超、14.0以上、14.0超、15.0以上、15.0超、15.5以上、16.0以上、16.0超、16.1以上、16.3以上、16.5以上、又は、16.8以上であってよい。これらの観点から、化合物Xの分散項dDは、10.0~22.0であってよい。化合物Xの分散項dDは、16.9以上、17.0以上、17.0超、17.2以上、17.3以上、17.5以上、17.6以上、17.7以上、17.8以上、17.9以上、18.0以上、18.0超、18.5以上、19.0以上、19.5以上、20.0以上、又は、20.5以上であってよい。分散項dDは、例えば、化合物Xにおける極性基(ヒドロキシ基、カルボキシ基等)が多いほど減少する傾向がある。
【0031】
分極項dPは、酸化ケイ素の研磨速度を調整する観点から、下記の範囲であってよい。分極項dPは、0.1以上、0.5以上、1.0以上、3.0以上、5.0以上、7.0以上、9.0以上、9.2以上、9.4以上、9.5以上、9.7以上、10.0以上、10.1以上、10.2以上、10.3以上、10.5以上、11.0以上、12.0以上、15.0以上、又は、20.0以上であってよい。分極項dPは、30.0以下、20.0以下、15.0以下、12.0以下、11.0以下、10.5以下、10.3以下、10.2以下、10.1以下、10.0以下、9.7以下、9.5以下、又は、9.4以下であってよい。これらの観点から、分極項dPは、0.1~30.0であってよい。
【0032】
化合物Xの分子量は、酸化ケイ素の研磨速度を調整する観点から、下記の範囲であってよい。化合物Xの分子量は、50以上、80以上、100以上、105以上、110以上、120以上、121以上、125以上、130以上、140以上、150以上、200以上、300以上、500以上、700以上、800以上、1000以上、又は、1100以上であってよい。化合物Xの分子量は、3000以下、2000以下、1500以下、1200以下、1100以下、1000以下、800以下、700以下、500以下、300以下、200以下、150以下、140以下、130以下、125以下、121以下、120以下、110以下、又は、105以下であってよい。これらの観点から、化合物Xの分子量は、50~3000であってよい。
【0033】
化合物Xは、酸化ケイ素の研磨速度を向上させやすい観点から、ヒドロキシ基、カルボキシ基、カルボン酸塩基、アミノ基、チオール基及びウレイド基からなる群より選ばれる少なくとも一種を有してよい。化合物Xは、ヒドロキシ基、カルボキシ基、カルボン酸塩基、アミノ基、チオール基及びウレイド基からなる群より選ばれる少なくとも一種を有していなくてよい。
【0034】
化合物Xがヒドロキシ基を有する場合、化合物Xにおけるヒドロキシ基の数は、1以上であり、酸化ケイ素の研磨速度を向上させやすい観点から、30以下、25以下、20以下、15以下、12以下、10以下、8以下、5以下、3以下、又は、2以下であってよい。これらの観点から、ヒドロキシ基の数は、1~30であってよい。ヒドロキシ基の数は、2以上、又は、3以上であってよい。
【0035】
化合物Xが、カルボキシ基及びカルボン酸塩基からなる群より選ばれる少なくとも一種を有する場合、化合物Xにおけるカルボキシ基及びカルボン酸塩基の合計は、下記の範囲であってよい。カルボキシ基及びカルボン酸塩基の合計は、酸化ケイ素の研磨速度を向上させやすい観点から、1以上であってよい。カルボキシ基及びカルボン酸塩基の合計は、酸化ケイ素の研磨速度を向上させやすい観点から、5以下、4以下、3以下、又は、2以下であってよい。これらの観点から、カルボキシ基及びカルボン酸塩基の合計は、1~5であってよい。
【0036】
化合物Xは、酸化ケイ素の研磨速度を向上させやすい観点から、ヒドロキシアルキル基を有してよく、ヒドロキシメチル基を有してよい。化合物Xにおけるヒドロキシアルキル基の数は、酸化ケイ素の研磨速度を向上させやすい観点から、1、2又は3であってよい。化合物Xは、酸化ケイ素の研磨速度を向上させやすい観点から、分岐状の炭素鎖を有してよく、第4級炭素原子を有してよい。
【0037】
化合物Xとしては、飽和カルボン酸、ウレイド化合物(ウレイド基を有する化合物。飽和カルボン酸に該当する化合物を除く)、チオール化合物(チオール基を有する化合物。飽和カルボン酸又はウレイド化合物に該当する化合物を除く)、ポリオール(飽和カルボン酸、ウレイド化合物又はチオール化合物に該当する化合物を除く)等が挙げられる。飽和カルボン酸としては、ヒドロキシイソ酪酸(2-ヒドロキシイソ酪酸等)、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)酪酸、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸等が挙げられる。ウレイド化合物としては、アラントイン等が挙げられる。チオール化合物としては、システイン(例えばL-システイン)、チオグリセロール(例えばα-チオグリセロール)等が挙げられる。ポリオールとしては、トリメチロールエタン等が挙げられる。
【0038】
化合物Xは、酸化ケイ素の研磨速度を向上させやすい観点から、ヒドロキシイソ酪酸、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)酪酸、アラントイン、システイン、チオグリセロール、及び、トリメチロールエタンからなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよい。化合物Xは、酸化ケイ素の研磨速度を向上させやすい観点から、ヒドロキシイソ酪酸を含む態様、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)酪酸を含む態様、又は、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸を含む態様であってよい。
【0039】
化合物Xの含有量は、スラリの全質量を基準として下記の範囲であってよい。化合物Xの含有量は、酸化ケイ素の研磨速度を向上させやすい観点から、0.0010質量%以上、0.0030質量%以上、0.0050質量%以上、0.0070質量%以上、0.010質量%以上、0.015質量%以上、0.020質量%以上、又は、0.025質量%以上であってよい。化合物Xの含有量は、酸化ケイ素の研磨速度を向上させやすい観点から、10質量%以下、5.0質量%以下、1.0質量%以下、1.0質量%未満、0.70質量%以下、0.50質量%以下、0.50質量%未満、0.40質量%以下、0.40質量%未満、0.30質量%以下、0.20質量%以下、0.10質量%以下、0.10質量%未満、0.070質量%以下、0.050質量%以下、0.050質量%未満、0.030質量%以下、又は、0.025質量%以下であってよい。これらの観点から、化合物Xの含有量は、0.0010~10質量%であってよい。化合物Xの含有量は、窒化ケイ素に対する酸化ケイ素の研磨速度比が向上しやすい観点から、0.030質量%以上、0.050質量%以上、0.050質量%超、0.070質量%以上、又は、0.10質量%以上であってよい。
【0040】
化合物Xの含有量は、砥粒100質量部に対して下記の範囲であってよい。化合物Xの含有量は、酸化ケイ素の研磨速度を向上させやすい観点から、0.1質量部以上、0.5質量部以上、1質量部以上、1質量部超、3質量部以上、5質量部以上、7質量部以上、又は、10質量部以上であってよい。化合物Xの含有量は、酸化ケイ素の研磨速度を向上させやすい観点から、200質量部以下、150質量部以下、100質量部以下、70質量部以下、50質量部以下、40質量部以下、40質量部未満、30質量部以下、20質量部以下、又は、10質量部以下であってよい。これらの観点から、化合物Xの含有量は、0.1~200質量部であってよい。化合物Xの含有量は、窒化ケイ素に対する酸化ケイ素の研磨速度比が向上しやすい観点から、10質量部超、20質量部以上、30質量部以上、又は、40質量部以上であってよい。
【0041】
本実施形態に係るスラリは、水を含有する。水は、スラリから他の構成成分を除いた残部として含有されていればよい。水の含有量は、スラリの全質量を基準として下記の範囲であってよい。水の含有量は、90.000質量%以上、93.000質量%以上、95.000質量%以上、97.000質量%以上、99.000質量%以上、99.200質量%以上、99.400質量%以上、99.500質量%以上、99.600質量%以上、又は、99.700質量%以上であってよい。水の含有量は、100質量%未満、99.900質量%以下、99.800質量%以下、又は、99.700質量%以下であってよい。これらの観点から、水の含有量は、90.000質量%以上100質量%未満であってよい。
【0042】
本実施形態に係るスラリは、アミド構造及びカルボキシル基を有する化合物を含有してよく、アミド構造及びカルボキシル基を有する化合物を含有しなくてよい(アミド構造及びカルボキシル基を有する化合物の含有量は、スラリの全質量を基準として実質的に0質量%であってよい)。アミド構造及びカルボキシル基を有する化合物としては、カルバミン酸、オキサミド酸、マロンアミド酸、スクシンアミド酸、グルタルアミド酸、アジプアミド酸、マレアミド酸、フマルアミド酸、フタルアミド酸、イソフタルアミド酸、テレフタルアミド酸、アスパラギン、グルタミン等が挙げられる。アミド構造及びカルボキシル基を有する化合物の含有量は、スラリの全質量を基準として0.01質量%未満であってよい。
【0043】
本実施形態に係るスラリは、キレート剤を含有してよく、キレート剤を含有しなくてよい(キレート剤の含有量は、スラリの全質量を基準として実質的に0質量%であってよい)。キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸、1,3-プロパンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、2-ヒドロキシプロパン-1,3-ジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン-N,N,N’,N’-四酢酸、(S,S)-エチレンジアミン二琥珀酸、L-アスパラギン酸-N,N-二酢酸、ジカルボキシメチルグルタミン酸等が挙げられる。キレート剤の含有量は、スラリの全質量を基準として0.02質量%未満又は0.01質量%未満であってよい。
【0044】
本実施形態に係るスラリは、アルキルアミンを含有してよく、アルキルアミンを含有しなくてよい(アルキルアミンの含有量は、スラリの全質量を基準として実質的に0質量%であってよい)。アルキルアミンの含有量は、スラリの全質量を基準として0.001質量%未満であってよい。
【0045】
本実施形態に係るスラリは、モノカルボン酸を含有してよく、モノカルボン酸を含有しなくてよい(モノカルボン酸の含有量は、スラリの全質量を基準として実質的に0質量%であってよい)。モノカルボン酸の含有量は、スラリの全質量を基準として0.003質量%未満又は0.001質量%未満であってよい。
【0046】
本実施形態に係るスラリは、ノニオン性ポリマを含有してよく、ノニオン性ポリマを含有しなくてよい(ノニオン性ポリマの含有量は、スラリの全質量を基準として実質的に0質量%であってよい)。ノニオン性ポリマとしてはポリグリセリン等が挙げられる。ノニオン性ポリマの含有量は、スラリの全質量を基準として0.0002質量%未満又は0.0001質量%未満であってよい。
【0047】
本実施形態に係るスラリは、ヨウ素を含有してよく、ヨウ素を含有しなくてよい(ヨウ素の含有量は、スラリの全質量を基準として実質的に0質量%であってよい)。ヨウ素の含有量は、スラリの全質量を基準として0.1質量%未満であってよい。
【0048】
本実施形態に係るスラリは、タンパク質を含有してよく、タンパク質を含有しなくてよい(タンパク質の含有量は、スラリの全質量を基準として実質的に0質量%であってよい)。タンパク質の含有量は、スラリの全質量を基準として0.0001質量%未満であってよい。
【0049】
本実施形態に係るスラリは、ポリアミドを含有してよく、ポリアミドを含有しなくてよい(ポリアミドの含有量は、スラリの全質量を基準として実質的に0質量%であってよい)。ポリアミドの含有量は、スラリの全質量を基準として0.0001質量%未満であってよい。
【0050】
本実施形態に係るスラリは、オリゴ糖を含有してよく、オリゴ糖を含有しなくてよい(オリゴ糖の含有量は、スラリの全質量を基準として実質的に0質量%であってよい)。オリゴ糖の含有量は、スラリの全質量を基準として0.1質量%未満であってよい。
【0051】
本実施形態に係るスラリは、デンプンを含有してよく、デンプンを含有しなくてよい(デンプンの含有量は、スラリの全質量を基準として実質的に0質量%であってよい)。デンプンの含有量は、スラリの全質量を基準として0.01質量%未満又は0.001質量%未満であってよい。
【0052】
本実施形態に係るスラリは、シクロデキストリンを含有しなくてよい(シクロデキストリンの含有量は、スラリの全質量を基準として実質的に0質量%であってよい)。シクロデキストリンの含有量は、スラリの全質量を基準として0.01質量%未満又は0.001質量%未満であってよい。
【0053】
本実施形態に係るスラリは、ヒドロキシ酸(例えば、1個のカルボキシ基と1~3個のヒドロキシ基とを有するヒドロキシ酸)を含有しなくてよい(ヒドロキシ酸の含有量は、スラリの全質量を基準として実質的に0質量%であってよい)。ヒドロキシ酸(例えば、1個のカルボキシ基と1~3個のヒドロキシ基とを有するヒドロキシ酸)の含有量は、スラリの全質量を基準として0.01質量%未満であってよい。
【0054】
本実施形態に係るスラリは、ポリオールを含有しなくてよく、ポリエーテルポリオールを含有しなくてよい(ポリオールの含有量、又は、ポリエーテルポリオールの含有量は、スラリの全質量を基準として実質的に0質量%であってよい)。ポリオールの含有量、又は、ポリエーテルポリオールの含有量は、スラリの全質量を基準として、0.1質量%以下、0.05質量%未満、又は、0.01質量%以下であってよい。
【0055】
本実施形態に係るスラリは、カチオン性化合物を含有してよく、カチオン性化合物を含有しなくてよい(カチオン性化合物の含有量は、スラリの全質量を基準として実質的に0質量%であってよい)。カチオン性化合物とは、分子内に陽イオン基を有する化合物である。陽イオン基としては、アミノ基(アンモニア、第一級アミン又は第二級アミンから水素原子を除去した官能基)、アンモニウム基(第一級、第二級、第三級又は第四級アンモニウム基)、イミノ基、シアノ基等が挙げられる。カチオン性化合物としては、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド、トリメチル-2-メタクリロイルオキシエチルアンモニウムクロリド、3-(メタクリロイルアミノ)プロピルトリメチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。カチオン性化合物は、重量平均分子量1000未満のカチオン性化合物であってよく、本実施形態に係るスラリは、重量平均分子量1000未満のカチオン性化合物を含有しなくてよい。カチオン性化合物の含有量は、スラリの全質量を基準として0.0001質量%未満であってよい。
【0056】
本実施形態に係るスラリは、ヒドロキシ酸、ポリオール(ヒドロキシ酸に該当する化合物を除く)、及び、重量平均分子量1000未満のカチオン性化合物(ヒドロキシ酸又はポリオールに該当する化合物を除く)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有しなくてよい(ヒドロキシ酸、ポリオール、及び、重量平均分子量1000未満のカチオン性化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の含有量は、スラリの全質量を基準として実質的に0質量%であってよい)。
【0057】
本実施形態に係るスラリは、重量平均分子量1000以上の化合物を含有しなくてよく、重量平均分子量3000以上の化合物を含有しなくてよい(重量平均分子量1000以上の化合物の含有量、又は、重量平均分子量3000以上の化合物の含有量は、スラリの全質量を基準として実質的に0質量%であってよい)。重量平均分子量1000以上の化合物の含有量、又は、重量平均分子量3000以上の化合物の含有量は、スラリの全質量を基準として、0.1質量%以下、0.1質量%未満、0.01質量%以下、0.01質量%未満、又は、0.001質量%以下であってよい。
【0058】
本実施形態に係るスラリは、ヒドロキシ基及びアミド基からなる群より選ばれる少なくとも一種を有する化合物(例えば、重量平均分子量3000以上の化合物)を含有しなくてよい(当該化合物の含有量は、スラリの全質量を基準として実質的に0質量%であってよい)。ヒドロキシ基及びアミド基からなる群より選ばれる少なくとも一種を有する化合物(例えば、重量平均分子量3000以上の化合物)の含有量は、スラリの全質量を基準として、0.1質量%以下、0.1質量%未満、0.01質量%以下、0.01質量%未満、又は、0.001質量%以下であってよい。本実施形態に係るスラリは、ヒドロキシ基及びアミド基からなる群より選ばれる少なくとも一種を有する化合物(例えば、重量平均分子量3000以上の化合物)を含有せず、化合物Xの含有量が、スラリの全質量を基準として上述の各範囲(例えば0.30質量%以下)である態様であってよい。
【0059】
本実施形態に係るスラリのpHは、酸化ケイ素の研磨速度を調整する観点から、下記の範囲であってよい。スラリのpHは、1.0以上、2.0以上、2.0超、2.7超、2.8以上、3.0以上、3.0超、3.3以上、3.4以上、3.5以上、3.7以上、4.0以上、4.0超、4.5以上、4.6以上、4.8以上、5.0以上、5.0超、5.5以上、又は、5.6以上であってよい。スラリのpHは、12以下、10以下、8.0以下、7.0以下、7.0未満、6.5以下、6.0以下、6.0未満、5.6以下、5.5以下、5.0以下、5.0未満、4.8以下、4.6以下、4.5以下、4.0以下、4.0未満、3.7以下、3.5以下、又は、3.4以下であってよい。これらの観点から、スラリのpHは、1.0~12、2.0~7.0、又は、3.0~6.0であってよい。
【0060】
本実施形態に係るスラリのpHは、pHメータ(例えば、東亜ディーケーケー株式会社製の型番:PHL-40)で測定できる。例えば、フタル酸塩pH緩衝液(pH:4.01)及び中性リン酸塩pH緩衝液(pH:6.86)を標準緩衝液として用いてpHメータを2点校正した後、pHメータの電極をスラリに入れ、2分以上経過して安定した後の値を測定する。このとき、標準緩衝液及びスラリの液温は共に25℃とする。
【0061】
本実施形態に係るスラリにおける砥粒の含有量を5.0質量%に調整して得られる分散液(砥粒の分散液)において与えられるパラメータとして、下記式により算出されるパラメータY(Rsp/S。単位:g/m2)に基づき、窒化ケイ素に対する酸化ケイ素の研磨速度比(酸化ケイ素の研磨速度/窒化ケイ素の研磨速度)を調整することができる。窒化ケイ素に対する酸化ケイ素の研磨速度比が向上すると、窒化ケイ素に対して酸化ケイ素を選択的に研磨(除去)する用途において好適である。パラメータYは、25℃における値である。本実施形態に係るスラリにおける砥粒の含有量は、スラリを希釈又は濃縮することにより調整できる。例えば、砥粒の含有量5.0質量%の分散液Aを2倍に希釈(分散液Aと同等量の純水と混合)した後に加熱(例えば40℃で14時間の加熱)し、さらに、純水を混合して砥粒の含有量を5.0質量%に調整することにより調製された分散液Bについて、分散液A及び分散液Bは同等のパラメータYを与え得る。分散液における砥粒の含有量に対する他の添加剤(砥粒及び水以外の成分。例えば化合物X)の含有量の比率はスラリと同様である。本実施形態に係るスラリにおける砥粒の含有量が5.0質量%である場合、当該スラリを分散液として用いることができる。砥粒の含有量は、例えば、ICP発光分光分析により確認できる。
Y = Rsp/砥粒の総表面積S = {(分散液のNMR緩和時間の逆数)/(分散液から砥粒を除いた状態のNMR緩和時間の逆数)-1}/砥粒の総表面積S
【0062】
Rspは、溶媒(水分子)に対する砥粒の表面の親和性(親水性)の指標である。Rspを砥粒の総表面積Sで除することにより、砥粒の総表面積に起因する影響を排除して砥粒の表面の親水性を評価できる。Rspは、例えば、砥粒の含有量に対する添加剤(砥粒及び水以外の成分。例えば化合物X)の含有量の比率が増加するほど増加する傾向がある。Rspは、充分な測定精度を確保する観点から、粒子の含有量が充分量(例えば1.2質量%以上)である状態で測定することが推奨されている。
【0063】
NMR緩和時間は、パルスNMR測定により得ることが可能であり、単位msを有する。パルスNMR測定は、水素原子核(1H核)の横緩和時間を測定する手法であり、日本ルフト株式会社製のパルスNMR粒子界面特性評価装置(商品名:Acron Area)を用いて行うことができる。緩和時間は、Carr Purcell Meiboom Gill法(CPMG法)により得ることができる。測定温度は25℃である。
【0064】
「分散液から砥粒を除いた状態のNMR緩和時間」は、分散液において砥粒を除いた組成を有する液を調製して測定できる。また、分散液を遠心加速度4700Gで30分間遠心分離することにより砥粒を除くことが可能であり、当該遠心分離により得られる上澄み液を「分散液から砥粒を除いた状態のNMR緩和時間」の測定に用いることもできる。砥粒の総表面積Sの単位はm2/gであり、砥粒の総表面積SとしてはBET表面積を用いることができる。
【0065】
本実施形態に係るスラリにおける砥粒の含有量を5.0質量%に調整して得られる分散液において、上述の式により算出されるパラメータYは、窒化ケイ素に対する酸化ケイ素の研磨速度比が向上しやすい観点から、0.120g/m2以上、0.125g/m2以上、0.130g/m2以上、0.135g/m2以上、0.140g/m2以上、又は、0.145g/m2以上であってよい。窒化ケイ素に対する酸化ケイ素の研磨速度比が向上する要因は必ずしも明らかではないが、本発明者は、下記のとおりであると推測している。すなわち、窒化ケイ素は酸化ケイ素(例えばTEOS由来の酸化ケイ素)と比較して疎水性を有する。この場合、パラメータYが大きく親水性の高い分散液を与えるスラリにおいては、砥粒が酸化ケイ素と比較して窒化ケイ素に作用しにくいと共に、砥粒が窒化ケイ素と比較して酸化ケイ素に作用しやすいことから、窒化ケイ素に対する酸化ケイ素の研磨速度比が向上する。但し、要因は当該内容に限定されない。
【0066】
パラメータYは、窒化ケイ素に対する酸化ケイ素の研磨速度比が向上しやすい観点から、0.200g/m2以下、0.190g/m2以下、0.180g/m2以下、0.170g/m2以下、0.160g/m2以下、0.155g/m2以下、又は、0.150g/m2以下であってよい。これらの観点から、パラメータYは、0.120~0.200g/m2であってよい。パラメータYは、0.150g/m2以上、0.155g/m2以上、0.160g/m2以上、0.170g/m2以上、又は、0.180g/m2以上であってよい。
【0067】
本実施形態に係る研磨方法は、本実施形態に係るスラリを用いて被研磨面を研磨する。本実施形態に係る研磨方法によれば、酸化ケイ素の研磨速度を向上させることができる。被研磨面は、酸化ケイ素を含んでよく、TEOS由来の酸化ケイ素を含んでよい。被研磨面を有する被研磨材料は、単一の材料であってよく、複数の材料であってよい。被研磨材料は、膜状(被研磨膜)であってよく、酸化ケイ素膜であってよく、TEOS膜であってよい。
【0068】
本実施形態に係る部品の製造方法は、本実施形態に係る研磨方法により研磨された被研磨面を有する部材(被研磨部材;基体)を個片化する個片化工程を備える。個片化工程は、例えば、本実施形態に係る研磨方法により研磨された被研磨面を有するウエハ(例えば半導体ウエハ)をダイシングしてチップ(例えば半導体チップ)を得る工程であってよい。本実施形態に係る部品の製造方法の一態様として、本実施形態に係る半導体部品の製造方法は、本実施形態に係る研磨方法により研磨された被研磨面を有する部材(被研磨部材)を個片化することにより半導体部品(例えば、半導体チップ)を得る工程を備える。本実施形態に係る部品の製造方法は、個片化工程の前に、本実施形態に係る研磨方法により被研磨部材の被研磨面を研磨する研磨工程を備えてよい。本実施形態に係る部品は、本実施形態に係る部品の製造方法により得られる部品であり、半導体部品であってよく、チップ(例えば半導体チップ)等であってよい。
【0069】
本実施形態に係る接合体の製造方法は、本実施形態に係る研磨方法により研磨された被研磨部材の接合面、又は、本実施形態に係る部品の製造方法により得られた部品の接合面(例えば、本実施形態に係る半導体部品の製造方法により得られた半導体部品の接合面)と、被接合体の接合面と、を接合する接合工程を備える。被研磨部材の接合面、又は、部品の接合面は、本実施形態に係る研磨方法により研磨された被研磨面であってよい。被研磨部材又は部品と接合される被接合体は、本実施形態に係る研磨方法により研磨された被研磨部材、又は、本実施形態に係る部品の製造方法により得られた部品であってよく、これらの被研磨部材及び部品とは異なる被接合体であってもよい。接合工程では、被研磨部材又は部品の接合面が金属部を有すると共に被接合体の接合面が金属部を有する場合、金属部同士を接触させてよい。金属部は、銅を含んでよい。本実施形態に係る接合体は、本実施形態に係る接合体の製造方法により得られる接合体である。
【0070】
本実施形態に係る電子デバイスは、本実施形態に係る研磨方法により研磨された被研磨面を有する部材(被研磨部材)、本実施形態に係る部品、及び、本実施形態に係る接合体からなる群より選ばれる少なくとも一種を備える。
【実施例】
【0071】
以下、本開示を実施例に基づいて具体的に説明するが、本開示はこれに限定されるものではない。
【0072】
<スラリの調製>
(実施例1~7及び比較例1~8)
コロイダルセリア粒子を含有する液(Solvay社製、商品名:Zenus(登録商標) HC60、粒子の含有量:30質量%)に表1の添加剤を加えた。その後、水を加えた後に粒径調整を施すことにより、コロイダルセリア粒子(砥粒)5.0質量%、及び、添加剤を含有するスラリAを得た。スラリAにおける添加剤の含有量は、実施例1において2.0質量%であり、実施例2~7及び比較例1~8において0.50質量%であった。
【0073】
添加剤としては下記の化合物を用いた。
実施例1及び2:トリメチロールエタン(dH=24.0、dD=17.9、dP=10.1)
実施例3:2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸(dH=23.6、dD=17.7、dP=10.2)
実施例4:α-チオグリセロール(dH=22.0、dD=18.6、dP=11.1)
実施例5:2,2-ビス(ヒドロキシメチル)酪酸(dH=21.4、dD=17.3、dP=9.4)
実施例6:2-ヒドロキシイソ酪酸(dH=19.4、dD=16.9、dP=9.2)
実施例7:アラントイン(dH=19.1、dD=20.8、dP=24.4)
比較例1:4-アミノ安息香酸(dH=14.6)
比較例2:3-ヒドロキシピリジン(dH=13.7)
比較例3:4-ヒドロキシピリジン(dH=13.7)
比較例4:酢酸(dH=13.6)
比較例5:ニコチンアミド(dH=12.8)
比較例6:2-ピリジンエタノール(dH=12.7)
比較例7:アセトアニリド(dH=8.5)
比較例8:2-アセチルピリジン(dH=6.3)
【0074】
各添加剤におけるハンセン溶解度パラメータの上述の水素結合項dH、分散項dD及び分極項dPは、実用ハンセン溶解度パラメータ(HSPiP:Hansen Solubility Parameters in Practice)プログラム(ver. 5.3.02)によって算出した。
【0075】
(比較例9)
コロイダルセリア粒子を含有する液(Solvay社製、商品名:Zenus(登録商標) HC60、粒子の含有量:30質量%)に水を加えた後に粒径調整を施すことにより、コロイダルセリア粒子(砥粒)5.0質量%を含有するスラリAを得た。
【0076】
<研磨液の調製>
上述のスラリAに水を加えることにより、コロイダルセリア粒子(砥粒)0.25質量%を含有するスラリB(研磨液)を調製した。実施例1~7及び比較例1~8のスラリBは、表1の添加剤を更に含有しており、添加剤の含有量は、スラリBの全質量を基準として、実施例1において0.10質量%であり、実施例2~7及び比較例1~8において0.025質量%であった。
【0077】
<pHの測定>
pHメータ(東亜ディーケーケー株式会社製の型番:PHL-40)を用いてスラリBのpHを測定した。フタル酸塩pH緩衝液(pH:4.01)及び中性リン酸塩pH緩衝液(pH:6.86)を標準緩衝液として用いてpHメータを2点校正した後、pHメータの電極をスラリBに入れ、2分以上経過して安定した後の値を測定した。測定結果を表1に示す。
【0078】
<平均粒径の測定>
マイクロトラック・ベル株式会社製の「Microtrac MT3300EXII」を用いて、スラリBにおけるコロイダルセリア粒子の平均粒径D50及び体積平均粒径MVを求めた。測定結果を表1に示す。
【0079】
<パラメータYの測定>
実施例のスラリA(砥粒の含有量:5.0質量%)を遠心加速度4700Gで30分間遠心分離して砥粒を沈降させた後、上澄みを除去した。続いて、室温(25℃)で24時間真空乾燥を行うことにより砥粒粉を得た後、砥粒粉に対して100℃で1時間真空乾燥を行った。その後、BET比表面積測定装置(株式会社アントンパール製、商品名:autosorb iQ)を用いて、窒素ガスを吸着媒体として使用したガス吸着法にて測定を行った。多点BET法にて解析を行うことにより砥粒の総表面積Sを得た。
【0080】
次に、スラリA(砥粒の含有量:5.0質量%)を測定サンプルAとして準備した。また、表1の添加剤に水を加えることにより測定サンプルBを準備した。測定サンプルBにおける添加剤の含有量は、実施例1において2.0質量%であり、実施例2~7において0.50質量%であった。測定サンプルBは、測定サンプルAから砥粒を除いた状態の組成を有していた。次に、これらの測定サンプルA及びBについて、パルスNMR方式粒子界面特性評価装置(日本ルフト株式会社製、商品名:Acron Area)を用いてNMR緩和時間(25℃)を測定した。そして、下記式に基づきRspを算出した後、砥粒の総表面積SでRspを除することによりパラメータY(Rsp/S)を得た。結果を表1に示す。
Y = Rsp/砥粒の総表面積S = {(測定サンプルAのNMR緩和時間の逆数)/(測定サンプルBのNMR緩和時間の逆数)-1}/砥粒の総表面積S
【0081】
<研磨評価>
研磨装置(APPLIED MATERIALS社製、商品名:Mirra3400)において、吸着パッドを貼り付けた基体取り付け用のホルダーに、φ200mmシリコンウエハ上に形成された被研磨膜(酸化ケイ素膜(TEOS膜)又は窒化ケイ素膜(SiN膜))を有する基体をセットした。多孔質ウレタン樹脂製パッドを貼り付けた定盤上に、被研磨膜がパッドに対向するようにホルダーを載せた。上述の各スラリBを供給量200mL/minでパッド上に供給しながら、研磨荷重20kPaで基体をパッドに押し当てた。このとき、定盤を78min-1、ホルダーを98min-1で1分間回転させて研磨を行った。研磨後の基体を純水でよく洗浄した後に乾燥させた。光干渉式膜厚測定装置を用いて被研磨膜の研磨前後の膜厚変化を測定して研磨速度(TEOS RR及びSiN RR。単位:Å/min)を求めた。また、窒化ケイ素に対する酸化ケイ素の研磨速度比(TEOS RR/SiN RR)を算出した。結果を表1に示す。
【0082】