(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】エコノマイザ及びボイラ
(51)【国際特許分類】
F22D 1/02 20060101AFI20241210BHJP
F22B 37/02 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
F22D1/02
F22B37/02 Z
(21)【出願番号】P 2023127187
(22)【出願日】2023-08-03
【審査請求日】2024-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】内田 和義
(72)【発明者】
【氏名】森 信太郎
【審査官】豊島 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-057860(JP,A)
【文献】特開平09-264695(JP,A)
【文献】特許第6506865(JP,B1)
【文献】国際公開第2023/276319(WO,A1)
【文献】特開2013-108643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F22D 1/00 - 11/06
F22B 37/02
F28B 1/00 - 11/00
F28F 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガスが流通する排ガス流通部に給水加熱用の伝熱管が配置されているエコノマイザにおいて、
伝熱管表面に凝縮水が生成する潜熱回収部に滴状凝縮促進剤を供給する滴状凝縮促進剤供給手段を備え
、
前記滴状凝縮促進剤が、サルコシン化合物および長鎖脂肪族アミンの少なくとも一種を含むことを特徴とするエコノマイザ。
【請求項2】
前記滴状凝縮促進剤供給手段は、伝熱管表面の温度が前記滴状凝縮促進剤の熱分解温度以下の領域に滴状凝縮促進剤を供給するように配置されている請求項1のエコノマイザ。
【請求項3】
前記滴状凝縮促進剤供給手段は、前記排ガスを生成させるボイラの燃料使用量によって滴状凝縮促進剤供給量を制御する供給量制御手段を有する請求項1のエコノマイザ。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれかのエコノマイザを備えたボイラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラ等の排ガスによってボイラ給水等を加熱するエコノマイザに係り、特に排ガス中の水蒸気の凝縮熱(潜熱)によっても給水を加熱するタイプのエコノマイザに関する。また、本発明は、このエコノマイザを備えたボイラに関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラ等の排ガスによって給水を加熱するエコノマイザとして、排ガスの顕熱によって給水を加熱し、さらに潜熱(凝縮熱)によって給水を加熱するものがある(特許文献1,2)。
【0003】
特許文献1には、顕熱回収用の乾式エコノマイザと、潜熱回収用の凝縮エコノマイザとの間に排ガス温度を変化させる手段を設けることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、伝熱管としてフィンチューブを用い、上流側のフィンチューブで顕熱を回収し、下流側のフィンチューブで潜熱を回収するエコノマイザにおいて、下流側のフィンチューブのフィンの間隔を大きくして凝縮水を落下させ易くすることが記載されている。
【0005】
蒸気を飽和状態より低い温度の固体壁に接触させて液化凝縮する方法には、凝縮液が壁面上に連続して液膜を形成する膜状凝縮と、凝縮液が壁面上を濡らさず多数の液滴となる滴状凝縮とがある。膜状凝縮に比べて滴状凝縮はその熱伝熱率が数倍から数十倍高いことから、蒸気を凝縮させる際に滴状凝縮剤が用いられることがある(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-57860号公報
【文献】特開2013-108643号公報
【文献】特許第6506865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エコノマイザに導入される排ガスに滴状凝縮促進剤を添加すると、温度条件によっては、排ガスの熱により滴状凝縮促進剤の多くが分解してしまい、エコノマイザの潜熱回収部における熱回収効率が向上しにくい場合がある。
【0008】
本発明は、エコノマイザの潜熱回収部における熱回収効率を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のエコノマイザは、排ガスが流通する排ガス流通部に給水加熱用の伝熱管が配置されているエコノマイザにおいて、伝熱管表面に凝縮水が生成する潜熱回収部に滴状凝縮促進剤を供給する滴状凝縮促進剤供給手段を備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様では、前記滴状凝縮促進剤供給手段は、伝熱管表面の温度が前記滴状凝縮促進剤の熱分解温度以下の領域に滴状凝縮促進剤を供給するように配置されている。
【0011】
本発明の一態様では、前記滴状凝縮促進剤供給手段は、前記排ガスを生成させるボイラの燃料使用量によって滴状凝縮促進剤供給量を制御する供給量制御手段を有する。
【0012】
本発明の一態様では、前記滴状凝縮促進剤が、サルコシン化合物および長鎖脂肪族アミンの少なくとも一種を含む。
【0013】
本発明のボイラは、かかる本発明のエコノマイザを備えたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のエコノマイザでは、エコノマイザの潜熱回収部に滴状凝縮促進剤を添加することにより、潜熱回収部において水蒸気の滴状凝縮が促進され、潜熱回収部における熱回収効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態に係るエコノマイザの断面図である。
【
図2】別の実施の形態に係るエコノマイザの断面図である。
【
図3】
図2のエコノマイザの伝熱管の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0017】
図1は、ボイラの排ガス煙道に設置されたエコノマイザの模式的な断面図である。このエコノマイザは、ハウジング1内に金属製の伝熱管2を配設したものである。ボイラの燃焼排ガスは、ハウジング1の一端側の流入口1aからハウジング1内に流入し、伝熱管2と接触して降温した後、ハウジング1の他端側の流出口1bから流出する。
【0018】
伝熱管2へは、排ガス流れ方向下流側(流出口1b側)からボイラ給水が導入され、排ガス流れ方向上流側から加熱された給水が取り出される。
【0019】
伝熱管2の該ガス流れ方向上流側が顕熱回収部であり、ガス流れ方向下流側が潜熱回収部である。この潜熱回収部は、伝熱管2の表面温度(以下、伝熱管メタル温度ということがある。)が100℃以下の領域であり、この領域に、薬剤として滴状凝縮促進剤を供給するように薬注ノズル3が設けられている。この薬注ノズル3から滴状凝縮促進剤を供給することにより、潜熱回収部での熱回収効率が向上する。
【0020】
図2は、別の実施の形態に係るエコノマイザの断面図、
図3は、その伝熱管の斜視図である。
【0021】
ボイラの排ガス煙道に設置されたハウジング5内に伝熱管6が設置されている。伝熱管6は、
図3の通り、管状の伝熱管本体6aと、該伝熱管本体6aの外周面から放射方向に広がるように設けられた円板状のフィン6bとを有したフィンチューブよりなる。
【0022】
排ガスは、ハウジング5の排ガス流入口5aからハウジング5内に流入し、伝熱管6と接触して降温した後、流出口5bから流出する。
【0023】
伝熱管6は、伝熱管本体6aの管軸方向が、流入口5aと流出口5bとを結ぶ方向と直交方向となるように多段かつ多列に配置されている。
【0024】
この実施の形態においても、ガス流れ方向下流側の潜熱回収部に滴状凝縮促進剤を供給するように薬注ノズル7が設置されている。
【0025】
この薬注ノズル7から滴状凝縮促進剤が潜熱回収部に供給されることにより、潜熱回収部での熱回収効率が向上する。
【0026】
滴状凝縮促進剤の熱分解温度が100℃よりも低い場合には、潜熱回収部のうちでも、伝熱管2のメタル温度が当該熱分解温度以下となる領域に滴状凝縮促進剤を供給するように薬注ノズル3,7が設けられることが好ましい。逆に、滴状凝縮促進剤の熱分解温度が100℃よりも高いときには、潜熱回収部よりも上流側の顕熱回収部に滴状凝縮促進剤を供給するように薬注ノズル3,7が設置されてもよい。
【0027】
また、薬注ノズルは、設置位置を異ならせて複数個設置されてもよい。この場合、ボイラの運転状況や滴状凝縮促進剤の熱分解温度に応じて、薬注に使用する薬注ノズルを切り替えてもよい。
【0028】
本発明では、凝縮水のpHが酸性側でも伝熱管表面(金属面)に滴状凝縮促進剤が吸着するように、温度毎の分配率(滴状凝縮促進剤の気相中濃度/水相中濃度)と金属毎の吸着特性、並びに温度毎の分解特性を事前に検討した滴状凝縮促進剤を排ガス中に添加するようにしてもよい。例えば、下表のように最適な滴状凝縮促進剤を選定して、潜熱回収促進効果が最大となるものを選定する。適用燃料は下表の他、アンモニアを一部用いるアンモニア混焼であってもよい。
【0029】
一般的な小型ボイラでは、例えば、エコノマイザ入口の排ガス温度は200~300℃であり、潜熱回収部の温度域を経て、エコノマイザ出口の排ガス温度はボイラ給水の温度程度まで低下する。その場合、200~300℃であっても極端に分解しない滴状凝縮促進剤を伝熱管表面の材質に応じて選択することが好ましく、例えば、滴状凝縮促進剤はサルコシン化合物および長鎖脂肪族アミンの少なくとも一種が好ましい。
【0030】
ガス焚ボイラでは、一般に燃料の硫黄含有量が少ないため、凝縮水の酸性度は低い。従って、硫酸腐食防止の観点から、ステンレス鋼に加えて炭素鋼が伝熱管の凝縮水生成領域(潜熱回収部)以外で使われる場合もある。また、凝縮水生成領域は、給水温度の変動により変化することもある。従って、伝熱管に炭素鋼が使用される場合、滴状凝縮促進剤としては、弱酸性条件下で炭素鋼に吸着しやすいオレイルプロピレンジアミンを使用することが好ましい。さらに、ステンレス鋼への凝縮水生成にも対応するためにオレイルプロピレンジアミンに加えてサルコシン化合物を併用することがより好ましい。この場合、アルカリ剤を併用せずに経済的に適用できるが、凝縮水の水質に応じて、アルカリ剤を添加してもよい。アルカリ剤は、揮発性アミン、NH3、NaOH、リン酸塩等であってよい。揮発性アミンは、例えば、凝縮水に溶けやすい揮発性が低いアミンであるエタノールアミンであってよい。
【0031】
重油焚ボイラでは、燃料中の硫黄分により硫酸が生成するので、凝縮水の酸性度は高くなりやすく、伝熱管の材料としては、例えば、耐食性があるステンレス鋼(SUS316L)が使用される。ステンレス鋼が使用される場合、滴状凝縮促進剤としてはサルコシン化合物が好ましい。酸性度が燃料性状により高くなる場合やサルコシン化合物以外の滴状凝縮促進剤を使用する場合は上記アルカリ剤を併用して最適なpH範囲に調整してよい。
【0032】
火炎温度が高い水素ボイラでは、大気中の窒素からサーマルノックスが生成され、これが酸化されて硝酸が高濃度生成するため、凝縮水の酸性度が高い。従って、伝熱管の材料としては、例えば、耐食性があるステンレス鋼が使用される。この場合、滴状凝縮促進剤としてはサルコシン化合物が好ましい。凝縮水のpHが極端に低い場合は吸着特性に変化を生じるため、例えば、上記アルカリ剤を併用することで、使用する滴状凝縮促進剤に最適なpH範囲に凝縮水を維持することが好ましい。
【0033】
上記のいずれのボイラにおいても、上記アルカリ剤は、滴状凝縮促進剤と共に添加しても別に添加してもよく、アルカリ剤を含むボイラブロー水を噴霧することにより添加してもよい。
【0034】
【0035】
なお、伝熱管の表面に撥水加工が施されていてもよい。撥水加工は、例えば、フッ素樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やシリコンなど撥水性の高い材料を伝熱管の表面にコーティング加工して樹脂層を形成することや、伝熱管表面にハスの葉を模倣した凹凸構造を持たせる物理的な加工などであってよい。
【0036】
本発明で用いる滴状凝縮促進剤としては、サルコシン化合物および長鎖脂肪族アミンの少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0037】
サルコシン化合物としては、N-オレオイルサルコシン、N-ラウロイルサルコシン、N-ステアロイルサルコシン、N-ココイルサルコシンなどが好ましい。
【0038】
長鎖脂肪族アミンとしては、オクタデシルアミン、オレイルアミン、オレイルプロピレンジアミンなどが好ましい。
【0039】
滴状凝縮促進剤の添加量は、潜熱回収部の伝熱管表面において滴状凝縮の促進効果が得られる程度であればよく、滴状凝縮促進剤の種類によっても異なるが、通常、排ガス中に生成する凝縮水量に対して0.01~10mg/kg、特に0.1~1mg/kg程度とすることが好ましい。なお、この滴状凝縮促進剤の添加量をボイラの燃料使用量に応じて(例えば比例させて)調整してもよい。
【0040】
滴状凝縮促進剤は間欠添加でも連続添加でもよいが、連続添加とすることが好ましい。
【0041】
滴状凝縮促進剤は、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の溶媒に溶解又は分散させて薬注ノズル3,7に供給してもよい。例えば、滴状凝縮促進剤の溶液をタンク内に貯留させておき、この滴状凝縮促進剤溶液をポンプで薬注ノズル3又は7に供給する。薬注ノズルによる均一な供給のために、ノズル先端にスプレーチップを設置してもよい。オリフィス型のスプレーチップを設置した場合は、滴状凝縮促進剤溶液の送液圧力と流量をスプレーチップに適した範囲に調整するために、別途、滴状凝縮促進剤溶液を希釈してエコノマイザに供給してもよい。滴状凝縮促進剤溶液を、ろ過したボイラブロー水やエコノマイザ凝縮水で希釈し、加圧するなどして、噴霧に適した状態としてよい。なお、前述の通り、このポンプの送液量をボイラの燃料使用量に応じて制御してもよい。
【0042】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は上記以外の形態とされてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1,5 ハウジング
2,6 伝熱管
3,7 薬注ノズル
【要約】
【課題】エコノマイザの潜熱回収部における熱回収効率を向上させる。
【解決手段】排ガスが流通するハウジング1内に給水加熱用の伝熱管2が配置されているエコノマイザにおいて、伝熱管表面に凝縮水が生成する潜熱回収部に滴状凝縮促進剤を供給するノズル3を備えたエコノマイザ。ノズル3は、伝熱管表面の温度が前記滴状凝縮促進剤の熱分解温度以下の領域に滴状凝縮促進剤を供給するように配置されている。滴状凝縮促進剤は、サルコシン化合物および長鎖脂肪族アミンの少なくとも一種を含む。
【選択図】
図1