(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】情報処理システム、電波伝搬シミュレーション方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04W 16/18 20090101AFI20241210BHJP
H04W 24/06 20090101ALI20241210BHJP
【FI】
H04W16/18 110
H04W24/06
(21)【出願番号】P 2023512528
(86)(22)【出願日】2021-04-05
(86)【国際出願番号】 JP2021014539
(87)【国際公開番号】W WO2022215138
(87)【国際公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004381
【氏名又は名称】弁理士法人ITOH
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124844
【氏名又は名称】石原 隆治
(72)【発明者】
【氏名】猪又 稔
(72)【発明者】
【氏名】山田 渉
(72)【発明者】
【氏名】久野 伸晃
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 元晴
【審査官】横田 有光
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-270875(JP,A)
【文献】特開2010-074729(JP,A)
【文献】山脇敦 ほか,2次元-3次元ハイブリッドレイトレース法を用いた屋内伝搬シミュレータ構築,2003年電子情報通信学会総合大会講演論文集,社団法人電子情報通信学会,2003年,B-1-30
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象エリアを所定のサイズの複数のメッシュに分割し、前記複数のメッシュの各々の高さ情報で前記対象エリアの環境を表すメッシュデータを取得する取得部と、
前記メッシュデータに基づいて、電波を送信する送信点から前記電波を受信する受信点までの2次元のレイトレースを求める第1のレイトレース部と、
前記メッシュデータと、前記送信点、及び前記受信点の高さ情報とに基づいて、前記2次元のレイトレースに対応する3次元のレイトレースを求める第2のレイトレース部と、
前記第2のレイトレース部が求めた1つ以上の前記3次元のレイトレースを用いて、前記受信点における前記電波の強度を算出する電波強度算出部と、
を有する、情報処理システム。
【請求項2】
前記メッシュデータは、GPUで読込可能なデータ形式を有し、
前記取得部は、前記メッシュデータをGPUで読み込む、請求項1に記載の情報処理システム。
【請求項3】
前記対象エリアを前記所定のサイズの複数のメッシュに分割する分割部と、
前記対象エリアにある物体の位置及び形状を表す環境データを用いて、前記複数のメッシュの各々の高さ情報を抽出する抽出部と、
前記複数のメッシュの各々の前記高さ情報を表す前記メッシュデータを作成する作成部と、
を有する、請求項1又は2に記載の情報処理システム。
【請求項4】
前記メッシュデータは、建物内にある構造物、及び天井を除く前記建物の内側を複数の平面で表し、
前記第1のレイトレース部は、前記メッシュデータに基づいて、前記建物内で電波を送信する前記送信点から前記建物内で前記電波を受信する前記受信点までの2次元のレイトレースを求め、
前記第2のレイトレース部は、
前記送信点、及び前記受信点の高さ情報と、前記メッシュデータとに基づいて、前記2次元のレイトレースに対応する3次元のレイトレースを求め、
前記建物のデータに基づいて、前記3次元のレイトレースに前記建物の天井面からの反射レイ、及び回折レイを追加する、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の情報処理システム。
【請求項5】
前記第1のレイトレース部は、構造物を介して前記送信点から前記受信点に至る経路を、前記送信点又は前記受信点から見通しがある構造物を介して前記送信点から前記受信点に至る経路に限定して、前記2次元のレイトレースを求める、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の情報処理システム。
【請求項6】
前記第2のレイトレース部は、前記3次元のレイトレースにおいて、反射又は回折レイを求めるときに、レイローンチングの出射角を制約して、前記反射又は回折レイを求める、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の情報処理システム。
【請求項7】
前記第2のレイトレース部は、前記3次元のレイトレースにおいて、回折レイを求めるときに、前記送信点と前記受信点との間の経路に見通しがない場合、前記送信点と前記受信点との間にある構造物を金属平板に置き換えて前記回折レイを求める、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の情報処理システム。
【請求項8】
前記第2のレイトレース部は、前記送信点と前記受信点との間に複数の構造物がある場合、Bullington モデルを用いて、前記複数の構造物を回折する前記回折レイを求める、請求項7に記載の情報処理システム。
【請求項9】
情報処理システムが、
対象エリアを所定のサイズの複数のメッシュに分割し、前記複数のメッシュの各々の高さ情報で前記対象エリアの環境を表すメッシュデータを取得する取得処理と、
前記メッシュデータに基づいて、電波を送信する送信点から前記電波を受信する受信点までの2次元のレイトレースを求める第1のレイトレース処理と、
前記メッシュデータと、前記送信点、及び前記受信点の高さ情報とに基づいて、前記2次元のレイトレースに対応する3次元のレイトレースを求める第2のレイトレース処理と、
前記第2のレイトレース処理で求めた1つ以上の前記3次元のレイトレースを用いて、前記受信点における前記電波の強度を算出する電波強度算出処理と、
を実行する、電波伝搬シミュレーション方法。
【請求項10】
情報処理システムに、
対象エリアを所定のサイズの複数のメッシュに分割し、前記複数のメッシュの各々の高さ情報で前記対象エリアの環境を表すメッシュデータを取得する取得処理と、
前記メッシュデータに基づいて、電波を送信する送信点から前記電波を受信する受信点までの2次元のレイトレースを求める第1のレイトレース処理と、
前記メッシュデータと、前記送信点、及び前記受信点の高さ情報とに基づいて、前記2次元のレイトレースに対応する3次元のレイトレースを求める第2のレイトレース処理と、
前記第2のレイトレース処理で求めた1つ以上の前記3次元のレイトレースを用いて、前記受信点における前記電波の強度を算出する電波強度算出処理と、
を実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理システム、電波伝搬シミュレーション方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信システムのエリア評価等に用いられる電波伝搬シミュレーションを行う方法として、レイトレース(又はレイトレーシング)がある。レイトレースでは、送信点から送信した電波(レイ)が、途中にある構造物で反射、又は回折して受信点に到達する様子を各レイの軌跡として追跡(トレース)し、受信点に到達した全てのレイの電力を加算することにより、受信点における電波の強度を推定する。
【0003】
また、レイトレースを用いて、無線基地局と端末局との間の伝播伝搬特性のシミュレーションを行い、シミュレーション結果に基づいて、電磁干渉を低減する屋内無線通信システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術では、例えば、屋内等の構造物が多く存在する環境でレイトレースを行う場合、レイが受信点に到達するまでに数多くの構造物で反射、又は回折を繰り返すため、計算量が増大するという問題がある。
【0006】
また、電波伝搬シミュレーションに用いる環境データには様々なフォーマットがあり、従来の技術では、環境データの読み込みに時間を要し、電波伝搬シミュレーションの高速化の妨げとなっていた。
【0007】
本発明の実施形態は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、電波伝搬シミュレーションにおける計算量の増大を抑制し、電波伝搬シミュレーションを高速化する情報処理システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の実施形態に係る情報処理システムは、対象エリアを所定のサイズの複数のメッシュに分割し、前記複数のメッシュの各々の高さ情報で前記対象エリアの環境を表すメッシュデータを取得する取得部と、前記メッシュデータに基づいて、電波を送信する送信点から前記電波を受信する受信点までの2次元のレイトレースを求める第1のレイトレース部と、前記メッシュデータと、前記送信点、及び前記受信点の高さ情報とに基づいて、前記2次元のレイトレースに対応する3次元のレイトレースを求める第2のレイトレース部と、前記第2のレイトレース部が求めた1つ以上の前記3次元のレイトレースを用いて、前記受信点における前記電波の強度を算出する電波強度算出部と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
電波伝搬シミュレーションにおける計算量の増大を抑制し、電波伝搬シミュレーションを高速化する情報処理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る情報処理システムの構成例を示す図である。
【
図2A】本実施形態に係るデータ処理の概要について説明するための図(1)である。
【
図2B】本実施形態に係るデータ処理の概要について説明するための図(2)である。
【
図4】実施例1に係るデータ処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】実施例1に係るデータ処理の別の一例を示すフローチャートである。
【
図6】実施例1に係るレイトレース処理の例を示すフローチャートである。
【
図7】実施例1に係る3次元のレイトレースについて説明するための図である。
【
図8】実施例2に係る回折レイの算出処理の例を示すフローチャートである。
【
図9A】実施例2に係る見通し判定の例について説明するための図(1)である。
【
図9B】実施例2に係る見通し判定の例について説明するための図(2)である。
【
図9C】実施例2に係る見通し判定の例について説明するための図(3)である。
【
図9D】実施例2に係る見通し判定の例について説明するための図(4)である。
【
図10A】実施例2に係る見通しが無い場合の処理について説明するための図(1)である。
【
図10B】実施例2に係る見通しが無い場合の処理について説明するための図(2)である。
【
図11】実施例2に係る複数の構造物がある場合の処理について説明するための図である。
【
図12】実施例3に係るレイトレース処理の例を示すフローチャートである。
【
図13】コンピュータのハードウェア構成の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(本実施形態)を説明する。以下で説明する実施形態は一例に過ぎず、本発明が適用される実施形態は、以下の実施形態に限られるわけではない。
【0012】
<システム構成>
図1は、本実施形態に係る情報処理システムの構成例を示す図である。情報処理システム1は、例えば、情報処理システム1が備えるコンピュータが所定のプログラムを実行することにより、データ処理部10、記憶部20、シミュレーション部30、及びインタフェース部40等を実現している。なお、上記の各機能構成は、物理マシン(コンピュータ)に限られず、例えば、クラウド上の仮想マシンが実行するプログラムにより実現されるものであっても良い。また、上記の各機能構成は、別々の物理マシン、又は仮想マシンに分散して配置されていても良い。
【0013】
記憶部20は、電波伝搬シミュレーションの対象となる対象エリアの環境データ22を予め記憶している。環境データ22には、例えば、CAD(Computer Aided Design)データ101、建物データ102、及び点群データ103等が含まれ得る。
【0014】
CADデータ101は、例えば、対象エリア内にある物体(構造物、建物等)の各面の幅、高さ、形状、及び位置等を示すデータと、各面における電波の反射率、透過率等の情報とを含む3次元のCADデータである。CADデータ101は、例えば、オペレータ等が、3次元CAD等にデータを入力したものであっても良いし、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術で作成した3次元の環境地図データ等を、CADデータに変換したもの等であっても良い。
【0015】
建物データ102は、対象エリア内にある建物の各面の幅、高さ、形状、及び位置等を示すデータと、各面における電波の反射率等の情報とを含むデータベース(建物データベース)である。本実施形態では、建物データ102には、建物の内側の壁、床、天井、及び柱等の各面の情報が含まれる。点群データ103は、例えば、LIDAR等を用いて取得した、対象エリア内にある物体の各点までの距離等を表す3次元の点群データである。或いは、点群データ103は、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術を用いて、3次元の点群情報に基づいて作成した3次元の環境地図データ等であっても良い。
【0016】
なお、記憶部20は、例えば、情報処理システム1の外部のストレージサーバ、又はクラウドサービス等であっても良い。
【0017】
(データ処理部)
データ処理部10は、例えば、CADデータ101、建物データ102、又は点群データ103等の環境データ22を用いて、シミュレーション部30が電波伝搬シミュレーションを行う所定のエリアのメッシュデータを作成する。データ処理部10は、例えば、分割部11、抽出部12、及び作成部13等を有している。
【0018】
分割部11は、例えば、電波伝搬シミュレーションの対象となる対象エリアを複数のメッシュに分割する。例えば、分割部11は、
図2Aに示すように、対象エリア200を所定のサイズの複数のメッシュ201に分割する。一例として、分割部11は、緯度及び経度に基づき地域を網の目(メッシュ)の区域に分割した地域メッシュに基づいて、対象エリアを複数のメッシュ201に分割する。
【0019】
図3は、総務省統計局のホームページ(https://www.stat.go.jp/data/mesh/m_tuite.html)に掲載されている地域メッシュの区分方法を示している。分割部11は、一例として、
図3の地域メッシュの区分方法に従って、対象エリア200を複数のメッシュ201に分割する。なお、
図3に示す地域メッシュの区分方法では、4分の1地域メッシュまでしか規定されていないが、分割部11は、所定のサイズに応じて
図3の地域メッシュの区分方法を、例えば、8分の1地域メッシュ、16分の1地域メッシュ、・・・等のように拡張しても良い。
【0020】
別の一例として、分割部11は、例えば、シミュレーション部30が屋内の電波伝搬シミュレーションを行うとき等、緯度及び経度情報が必要ない場合、CADデータ101の相対座標等に基づいて、対象エリア200を複数のメッシュ201に分割しても良い。
【0021】
ここで、
図1に戻り、データ処理部10の機能構成の説明を続ける。抽出部12は、環境データ22から、例えば、
図2Aに示すような複数のメッシュ201の各々の高さ情報を抽出する。例えば、抽出部12は、CADデータ101を解析して、メッシュ201内に高さ3mの構造物がある場合、当該メッシュ201の高さ情報を3mとする。なお、抽出部12は、メッシュ201の高さ情報が得られない場合、例えば、建物データ102、等の他の環境データ22を解析して、当該メッシュ201の高さ情報を抽出しても良い。また、抽出部12は、環境データ22を解析して、メッシュ201の高さ情報が得られない場合、当該メッシュ201の高さ情報を0とする。
【0022】
作成部13は、抽出部12が抽出した各メッシュの211の高さ情報を用いて、例えば、
図2Bに示すようなメッシュデータ21を作成する。
図2Bに示すメッシュデータ21において、x、y方向は、各メッシュ201の位置(例えば、緯度、経度、又は行、列等)に対応しており、各データの値は、各メッシュ201の高さ情報を示している。従って、例えば、メッシュデータ21において、高さ情報が「3」のエリア202には、例えば、高さが3mの構造物があり、高さ情報が「6」のエリア203には、例えば、高さが6mの構造物があることを示している。また、高さ情報が「0」のエリアには、例えば、構造物がないことを示している。
【0023】
これにより、データ処理部10は、記憶部20に記憶されている環境データ22のうち、対象エリア内にある物体(構造物、建物等)の各面の幅、高さ、形状、及び位置等を示すデータを、
図2Bに示すような、2次元のメッシュデータ21に変換することができる。また、このメッシュデータ21は、画像データの形式を有しているため、GPU(Graphicss Processing Unit)を用いて、高速に読込、及び処理が可能であるという特徴を有している。
【0024】
また、メッシュデータ21は再利用が可能なので、シミュレーション部30が、対象エリアで、2回目以降の電波伝搬シミュレーションを行う場合、データ処理部10は、メッシュデータ21の作成処理を省略することができる。
【0025】
(シミュレーション部)
シミュレーション部30は、データ処理部10が作成したメッシュデータ21を、記憶部20等から読み出して、対象エリアの電波伝搬シミュレーションを行う。ここでは、シミュレーション部30が、レイトレースにより、対象エリアの電波伝搬シミュレーションを行うものとして、以下の説明を行う。レイトレースでは、送信点から送信した電波(レイ)が、途中にある構造物で反射、回折、又は透過して受信点に到達する様子を各レイの軌跡として追跡(トレース)し、受信点に到達した全てのレイの電力を加算して、受信点における電波の強度を推定する。
【0026】
ただし、従来の技術では、例えば、屋内等の構造物が多く存在する環境でレイトレースを行う場合、レイが受信点に到達するまでに数多くの構造物で反射、回折、又は透過を繰り返すため、計算量が増大し、処理速度が遅くなってしまうという問題がある。
【0027】
そこで、本実施形態に係るシミュレーション部30は、上記の問題点を解決するために、例えば、取得部31、単位ベクトル算出部32、第1のレイトレース部33、第2のレイトレース部34、及び電波強度算出部35等を有している。
【0028】
取得部31は、例えば、記憶部20等から、レイトレースを行う対象エリアのメッシュデータ21を取得する。好ましくは、取得部31は、コンピュータが備えるGPUを用いて、記憶部20からメッシュデータ21を高速に読み出す。
【0029】
単位ベクトル算出部32は、取得部31が取得したメッシュデータ21を用いて、天井面を除く各平面の単位ベクトル、及びエッジの単位ベクトルを算出する。例えば、メッシュデータ21は、建物内にある構造物、及び天井を除く建物の内側(例えば、壁、床、柱等)を平面で表している。単位ベクトル算出部32は、これらの各平面の単位ベクトル、及び平面と平面が交差してできるエッジの単位ベクトルを算出する。なお、単位ベクトル算出部32の機能は、例えば、第1のレイトレース部33等に含まれていても良い。
【0030】
第1のレイトレース部33は、メッシュデータ21に基づいて、電波を送信する送信点から電波を受信する受信点までの2次元のレイトレースを求める。例えば、第1のレイトレース部33は、送信点から水平方向に2次元レイを出射して、受信点までの2次元レイをトレースする。
【0031】
第2のレイトレース部34は、メッシュデータ21と、送信点、及び受信点の高さ情報とに基づいて、第1のレイトレース部33が求めた2次元のレイトレースに対応する3次元のレイトレースを求める。例えば、第2のレイトレース部34は、送信点、及び受信点の高さ情報(アンテナ高)と、構造物の高さ情報とに基づいて、第1のレイトレース部33が求めた2次元のレイトレースを、3次元のレイトレースに変換する。
【0032】
好ましくは、第2のレイトレース部34は、3次元のレイトレースを求めるときに、例えば、フェルマーの定理に基づいて、レイローンチの出射角を制約して、反射レイ、又は回折レイを求める。
【0033】
また、第2のレイトレース部34は、送信点と受信点との間に見通しがない場合、送信点と受信点との間にある構造物を、例えば、金属平板に置き換えて、当該金属平板をスクリーン回折する回折レイを求める。
【0034】
好ましくは、第2のレイトレース部34は、送信点と受信点との間に複数の構造物がある場合、例えば、ITU―R勧告(ITU-R Recommendation P.526 "Propagation by diffraction")で勧告されているBullington modelを適用して、複数の構造物を回折する回折レイを求める。
【0035】
また、第2のレイトレース部34は、例えば、建物データ102を用いて、メッシュデータ21に基づいて求めた3次元のレイトレースに、建物の天井面からの反射レイ、回折レイを追加する。
【0036】
電波強度算出部35は、第2のレイトレース部34が求めた1つ以上の3次元のレイトレースを用いて、受信点における電波の強度を算出する。例えば、電波強度算出部35は、第2のレイトレース部34が求めた1つ以上の3次元のレイトレースの反射係数、及び回折係数を計算し、各レイの電界強度を加算して、総電界強度を算出する。
【0037】
このように、シミュレーション部30は、取得部31が、環境データであるメッシュデータ21を、GPUを用いて記憶部20から高速に取得することができる。
【0038】
また、シミュレーション部30は、第1のレイトレース部33が、送信点から受信点までの2次元のレイトレースを求め、第2のレイトレース部34が、2次元のレイトレースに対応する3次元のレイトレースを求める。一般的に、受信点における電波の強度をレイトレースで推定する場合、電波の強度に寄与するレイは僅かであり、従来の技術では、大部分のレイが棄却されていた。一方、本実施形態に係る情報処理システム1は、主要なレイを探索することで、精度を劣化させずにレイトレースを高速化することができる。
【0039】
さらに、シミュレーション部30は、2次元のレイトレースに対応する3次元のレイトレースを求める際に、レイローンチングの出射角を制約して、反射レイ、又は回折レイを求める。これにより、情報処理システム1は、探索するレイの数を削減し、レイトレースをさらに高速化することができる。
【0040】
さらにまた、シミュレーション部30は、送信点と受信点との間にある複数の構造物を回折する回折レイを求める際に、Bullington modelを適用して複数の構造物を回折する回折レイを求める。Bullington modelは、他の方法より単純で計算速度が速いため、情報処理システム1は、レイトレースをさらに高速化することができる。
【0041】
インタフェース部40は、他のシステムから、情報処理システム1が提供する様々な機能を利用するためのAPI(Application Programming Interface)、又はユーザが、当該機能を利用するためのUI(User Interface)等を提供する。例えば、ユーザ(又は他のシステム)は、インタフェース部40を利用して、データ処理部10によるメッシュデータ21の作成、又は電波伝搬シミュレーションの実行等を要求することができる。また、ユーザ(又は他のシステム)は、インタフェース部40を利用して、電波伝搬シミュレーションに必要なパラメータ(例えば、送信点の位置、受信点の位置、周波数、送信出力等)の設定、又は記憶部20への環境データ22の登録等を行うことができる。
【0042】
上記の構成により、本実施形態によれば、電波伝搬シミュレーションにおける計算量の増大を抑制し、電波伝搬シミュレーションを高速化する情報処理システム1を提供することができる。
【0043】
<処理の流れ>
続いて、本実施形態に係る伝搬環境データの処理方法の処理の流れについて説明する。
【0044】
[実施例1]
(データ処理1)
図4は、実施例1に係るデータ処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、データ処理部10が、環境データ22を用いて、メッシュデータ21を作成するデータ処理の一例を示している。
【0045】
ステップS401において、データ処理部10の分割部11は、例えば、
図3に示すような地域メッシュ、又は拡張した地域メッシュ(例えば、8分の1地域メッシュ、16分の1地域メッシュ、・・・等)から、所定のサイズ以下となる地域メッシュを選定する。ここで、所定のサイズは、例えば、シミュレーション部30を介して、ユーザ、又は他のシステム等から設定されるものであっても良いし、データ処理部10に予め設定されているものであっても良い。
【0046】
ステップS402において、分割部11は、処理対象となる対象エリアを地域メッシュのサイズの複数のメッシュに分割する。例えば、分割部11は、
図2Aに示すように、対象エリア200を、ステップS401で選定した地域メッシュのサイズの複数のメッシュ201に分割する。
【0047】
ステップS403において、データ処理部10の抽出部12は、例えば、記憶部20から、対象エリアの環境データ22を取得する。なお、環境データ22が、緯度、経度ではなく、相対座標を用いている場合、環境データ22のいずれかの点の緯度、経度情報を予め取得しておき、例えば、環境データ22内に記憶しておく。これにより、データ処理部10は、環境データ22の相対座標と、緯度、経度とを対応付けることができる。
【0048】
ステップS404において、データ処理部10は、複数のメッシュ201の各々に対して、ステップS405~S408の処理を実行する。
【0049】
ステップS405において、データ処理部10の抽出部12は、複数のメッシュ201のうち、処理対象となるメッシュ201の高さ情報を、環境データ22から抽出する。なお、環境データ22が、例えば、CADデータ101、建物データ102、及び点群データ103等のように複数ある場合、各データの優先度を予め定めておくと良い。この場合、抽出部12は、優先度のより高いデータから高さ情報の取得を試行し、最初に取得できた高さ情報を抽出しても良い。
【0050】
ステップS405において、データ処理部10の作成部13は、環境データ22に、処理対象となるメッシュ201の高さ情報があるか否かを判断する。例えば、作成部13は、抽出部12が、環境データ22から高さ情報を取得できた場合、高さ情報があると判断する。一方、作成部13は、抽出部12が、環境データ22から高さ情報を取得できない場合、高さ情報がないと判断する。高さ情報がある場合、作成部13は、処理をステップS407に移行させる。一方、高さ情報がない場合、作成部13は、処理をステップS408に移行させる。
【0051】
ステップS407に移行すると、作成部13は、処理対象となるメッシュ201のメッシュデータに、抽出部12が抽出した高さ情報を入力する。一方、ステップS408に移行すると、作成部13は、処理対象となるメッシュ201のメッシュデータに、0を入力する。
【0052】
データ処理部10は、複数のメッシュ201の各々に対して、上記のステップS405~S408の処理を実行することにより、例えば、
図2Bに示すようなメッシュデータ21を作成することができる。
【0053】
(データ処理2)
図5は、実施例2に係るデータ処理の例を示すフローチャートである。この処理は、データ処理部10が、環境データ22を用いて、メッシュデータ21を作成するデータ処理の別の一例を示している。
【0054】
図4で説明した処理では、データ処理部10が、対象エリアを、例えば、
図3に示すような地域メッシュに分割する場合の例について説明した。ただし、これに限られず、データ処理部10は、例えば、環境データ22(例えば、CADデータ101等)の相対座標等に基づいて、対象エリアを所定のサイズの複数のメッシュに分割しても良い。
【0055】
例えば、建物内等の屋内の電波伝搬シミュレーションを行う場合、緯度、経度情報は必要ない場合が多い。また、屋内の構造物は、例えば、建物の壁面、又は柱等に沿って配置されていることが多いため、環境データ22の相対座標に基づいて、対象エリアを所定のサイズに分割した方が良い場合もある。
【0056】
ここでは、データ処理部10は、例えば、環境データ22の相対座標等に基づいて、対象エリアを所定のサイズの複数のメッシュに分割する場合の処理の例について説明する。なお、
図5に示す処理のうち、ステップS404~S408の処理は、
図4で説明した処理と同様なので、ここでは、
図4で説明した処理との相違点を中心に説明を行う。
【0057】
ステップS501において、データ処理部10の分割部11は、例えば、記憶部20から、対象エリアの環境データ22を取得する。例えば、建物内のあるフロアで電波伝搬シミュレーションを行う場合、分割部11は、当該フロアの環境データ22を取得する。
【0058】
ステップS502において、分割部11は、対象エリアを所定のサイズの複数のメッシュに分割する。例えば、分割部11は、取得した環境データ22(例えば、CADデータ101)の相対座標に基づいて、
図2Aに示すように、対象エリア200を、所定のサイズの複数のメッシュ201に分割する。
【0059】
ステップS404において、データ処理部10は、複数のメッシュ201の各々に対して、ステップS405~S408の処理を実行する。これにより、データ処理部10は、例えば、
図2(B)に示すようなメッシュデータ21を作成することができる。
【0060】
(レイトレース処理)
図6は、実施例1に係るレイトレース処理の例を示すフローチャートである。なお、ここでは、屋内環境でレイトレースを行う場合の処理の例について説明する。また、レイトレースのアルゴリズムとして、一般的にイメージング法(Imaging method)と、レイローンチ法(Ray-launching method)が知られているが、ここではレイローンチ法による処理の例について説明する。レイローンチ法では、送信点から一定の角度ごとにレイを出射して、それぞれの出射レイに対して、壁面、又は壁面のエッジとの交差判定を行いながら幾何学的に軌跡を追跡することにより、受信点に到達するレイを求める。
【0061】
ステップS601において、データ処理部10は、例えば、
図4、又は
図5で説明したデータ処理により、環境データ22からメッシュデータ21を作成する。なお、データ処理部10は、既にメッシュデータ21を作成済である場合、ステップS601の処理を省略できる。また、データ処理部10は、ステップS601の処理を、別のタイミング(例えば、夜間のバッチ処理等)で予め実行しておくものであっても良い。
【0062】
ステップS602において、取得部31は、記憶部20等から、レイトレースを行う対象エリアのメッシュデータ21を、GPUを用いて読み込む。
【0063】
ステップS603において、単位ベクトル算出部32は、取得部31が取得したメッシュデータ21を用いて、レイトレースを行う対象エリアにおける、天井面を除く各平面の単位ベクトル、及びエッジの単位ベクトルを算出する。
【0064】
ステップS604において、第1のレイトレース部33は、メッシュデータ21に基づいて、電波を送信する送信点から電波を受信する受信点までの2次元のレイトレースを求める。例えば、第1のレイトレース部33は、送信点から水平方向に2次元レイを出射して、最大透過回数NT、最大反射回数NR、及び最大回折回数NDの範囲内で、受信点まで到達する2次元レイをトレースする。これにより、例えば、天井、及び床面の反射を考慮しない2次元のレイトレースが得られる。
【0065】
なお、最大透過回数NT、最大反射回数NR、及び最大回折回数NDは、例えば、インタフェース部40等を利用して、レイトレースを開始する前に設定可能であっても良い。また、第1のレイトレース部33は、最大反射回数NR、及び最大回折回数NDの設定値が設定されていない場合、デフォルト値(例えば、NT=1、NR=1、ND=1等)を用いて、2次元のレイトレースを求めても良い。
【0066】
ステップS605において、第2のレイトレース部34は、ステップS604で、第1のレイトレース部33が求めた2次元のレイトレースを、3次元のレイトレースに変換する。
【0067】
図7は、実施例1に係る3次元のレイトレースについて説明するための図である。
図7において、破線の矢印は、第1のレイトレース部33が求めた2次元のレイトレース711の一例を示している。2次元のレイトレース711は、送信点から出射した2次元のレイが、構造物703bのエッジで回折した後に、構造物703aの平面で反射して、受信点に到達する2次元のレイトレースである。
【0068】
第1のレイトレース部33が求める2次元のレイトレースには、これ以外にも、送信点から受信点に直接到達する2次元のレイトレース、及び他の構造物や建物の壁等で反射、回折、又は透過して受信点に到達する2次元のレイトレース等も含まれる。ここでは、説明用の一例として、反射回数1回、回折回数1回の2次元のレイトレース311を示している。
【0069】
第2のレイトレース部34は、例えば、
図7に示した2次元のレイトレース711に、送信点701の高さh1、受信点702の高さh2、及び構造物703a、703bの高さ等を加えて、2次元のレイトレース711に対応する3次元のレイトレース712を求める。
【0070】
例えば、第2のレイトレース部34は、構造物703a等の平面と交差した3次元のレイを反射方向に再出射させる。このとき、第2のレイトレース部34は、フェルマーの定理に基づいて、次の式(1)を満たす単位方向ベクトルrR^の反射レイを残し、例えば、他の反射レイを除外する。
【0071】
【数1】
なお、単位方向ベクトルr
R^の記号は、
図4に示すように、文字列「r
R」のうえにハット記号(又はサーカムフレックス)を付加したものであるが、明細書の本文では、文字列にハット記号を付加できないため、「r
R^」と表記する。他の「r
in^」、「n^」、及び式(2)の「l^」、「r
D^」等についても同様である。
【0072】
式(1)において、rin^は、レイの入射方向を示す単位方向ベクトルであり、n^は、レイが交差した平面の単位ベクトル(法線ベクトル)を示す。このように、反射レイを出射する方向に制約を設けることにより、情報処理システム1は、3次元レイの計算量を削減することができる。
【0073】
また、第2のレイトレース部34は、構造物703aのエッジと交差した3次元のレイを、回折方向に再出射させる。このとき、第2のレイトレース部34は、フェルマーの定理に基づいて、次の式(2)を満たす単位方向ベクトルrD^の回折レイを残し、例えば、他の回折レイを除外する。
【0074】
【数2】
式(2)において、l^は、レイが交差したエッジの単位ベクトルであり、r
in^は、レイの入射方向を示す単位方向ベクトルを示す。このように、回折レイを出射する方向に制約を設けることにより、情報処理システム1は、3次元レイの計算量を削減することができる。
【0075】
なお、第2のレイトレース部34は、
図7に示した2次元のレイトレース711に、送信点701の高さh1、及び受信点702の高さh2を加えたことに伴い、例えば、床面による反射レイ、回折レイ等も求める。
【0076】
ステップS606において、第2のレイトレース部34は、ステップS605で求めた3次元のレイトレースに、天井面からの反射レイ、回折レイを追加する。例えば、第2のレイトレース部34は、建物データ102(又はCADデータ101)等を参照して、建物の天井を表す平面を特定し、送信点701から、天井面で反射、又は回折して受信点702に届くレイを求める。
【0077】
ステップS607において、電波強度算出部35は、第2のレイトレース部34が求めた全ての3次元のレイトレースを用いて、受信点における電波の強度(例えば、電界強度)を算出する。例えば、電波強度算出部35は、環境データ22から、構造物、及び建物内部の各面における電波の反射率、透過率等の情報を取得し、探索された全てのレイの反射係数、回折係数、及び透過係数を計算し、全てのレイの電界強度を加算して、総電界強度を算出する。なお、ステップS612の処理は、従来のレイトレースの手法を適用することができる。
【0078】
以上、実施例1によれば、電波伝搬シミュレーションにおける計算量の増大を抑制し、電波伝搬シミュレーションを高速化する情報処理システム1を提供することができる。
【0079】
[実施例2]
実施例2では、
図6のステップS604において、2次元のレイトレースを3次元のレイトレースに変換するときに、第2のレイトレース部34が実行する回折レイの算出処理の例について説明する。
【0080】
図8は、実施例2に係る回折レイの算出処理の例を示すフローチャートである。
【0081】
ステップS801において、第2のレイトレース部34は、対象となるレイが回折レイであるか否かを判断し、回折レイである場合、ステップS802以降の処理を実行する。
【0082】
ステップS802において、第2のレイトレース部34は、送信点と受信点との間に見通しがあるか否かを判定する。例えば、第2のレイトレース部34は、送信点から出射した電波(レイ)が、受信点に直接届く場合、送信点と受信点との間に見通しがあると判定する。
【0083】
図9A~
図9Dは、実施例1に係る見通し判定の例について説明するための図である。第2のレイトレース部34は、
図6のステップS604で求めた水平面における2次元のレイトレースにおいて、例えば、
図9Aに示すように、送信点701と受信点702との間の経路901上に、構造物902があるか否かを判断する。ここで、送信点701と受信点702との間の経路901上に、構造物902がない場合、第2のレイトレース部34は、送信点701と受信点702との間に見通しがあると判定する。
【0084】
一方、送信点701と受信点702との間の経路901上に、構造物902がある場合、第2のレイトレース部34は、例えば、
図9B、
図9Cに示すように、送信点701と受信点702とを通る垂直面で、見通し判定を行う。例えば、
図9Bに示すように、送信点701と受信点702との間の経路901上に構造物902がある場合、第2のレイトレース部34は、送信点701と受信点702との間に見通しがないと判定する。一方、
図9Cに示すように、送信点701と受信点702との間の経路901上に構造物902がない場合、第2のレイトレース部34は、送信点701と受信点702との間に見通しがあると判定する。なお、この場合、第2のレイトレース部34は、3次元のレイトレースを求めるときに、床面による反射レイに代えて
図9Dに示すように、構造物902の上面による反射レイ903を求める。
【0085】
なお、上記の説明では、第2のレイトレース部34が上記の見通し判定を行なうものとして説明したが、これに限られず、例えば、シミュレーション部30は、上記の見通し判定を行う見通し判定部を有していても良い。
【0086】
ここで、
図8に戻り、フローチャートの説明を続ける。ステップS802において、送信点と受信点との間に見通しがある場合、第2のレイトレース部34は、処理をステップS803に移行させる。一方、送信点と受信点との間に見通しがない場合、第2のレイトレース部34は、処理をステップS804に移行させる。
【0087】
ステップS803に移行すると、第2のレイトレース部34は、例えば、
図7で説明したように、構造物等のエッジを回折する回折レイを算出する。
【0088】
一方、ステップS804に移行すると、第2のレイトレース部34は、送信点と受信点との間にある構造物を金属平板に置き換える。
【0089】
ステップS805において、第2のレイトレース部34は、送信点と受信点との間に複数の構造物があるか否かを判断し、複数の構造物がない場合、処理をステップS806に移行させる。一方、送信点と受信点との間に複数の構造物がある場合、第2のレイトレース部34は、処理をステップS807に移行させる。
【0090】
ステップS806に移行すると、第2のレイトレース部34は、送信点と受信点との間にある構造物と置き換えた金属平板をスクリーン回折する回折レイを算出する。
【0091】
一方、ステップS807に移行すると、第2のレイトレース部34は、Bullington modelを用いて、送信点と受信点との間にある複数の構造物を解析する回折レイを算出する。
【0092】
図10A、
図10Bは、実施例2に係る見通しが無い場合の処理について説明するための図である。
図10Aに示すように、送信点701と受信点702との間に1つの構造物1001がある場合、第2のレイトレース部34は、構造物1001を
図10Bに示すように金属平板1002に置き換える。また、第2のレイトレース部34は、金属平板1002の上、及び左右のスクリーン回折波を計算して、回折レイを求める。
【0093】
図11は、実施例2に係る複数の構造物がある場合の処理の例について説明するための図である。送信点701と受信点702との間に複数の構造物がある場合、第2のレイトレース部34は、
図11に示すように、複数の構造物を、複数の金属平板1002a、1002b、1002cに置き換える。また、第2のレイトレース部34は、Bullington modelを適用して、複数の金属平板1002a、1002b、1002cを回折する回折レイを求める。
【0094】
例えば、第2のレイトレース部34は、送信点701と金属平板1002cの上端とを通る送信側見通し限界線1101と、受信点702と金属平板1002aの上端とを通る受信側見通し限界線1102との交点である仮想遮断点1103を求める。また、第2のレイトレース部34は、仮想遮断点1103における仮想ナイフエッジ(バリントンエッジ)を回折する回折波を計算して、回折レイを求める。この方法により、第2のレイトレース部34は、より少ない計算量で、複数の構造物を回折する回折レイを求めることができる。
【0095】
上記の処理により、第2のレイトレース部34は、送信点と受信点との間に見通しがない場合における回折レイの算出を高速化することができる。
【0096】
[実施例3]
図12は、実施例3に係るレイトレース処理の例を示すフローチャートである。なお、
図12に示す処理のうち、ステップS1201以外の処理は、
図6で説明した実施例1に係るレイトレース処理と同様なので、ここでは、実施例1に係る処理との相違点を中心に説明する。
【0097】
図6のステップS604では、第1のレイトレース部33は、最大透過回数N
T、最大反射回数N
R、及び最大回折回数N
Dの範囲内で、送信点から受信点まで到達する2次元のレイトレースを求めていた。
【0098】
一方、
図12のステップS1201において、第1のレイトレース部33は、建物内にある構造物を介して送信点から受信点に至る経路を、送信点又は受信点から見通しがある構造物を介して送信点から受信点に至る経路に限定して、2次元のレイトレースを求める。
【0099】
例えば、第1のレイトレース部33は、建物内にある構造物のうち、送信点から見通しがある構造物(以下、Tx見通し構造物と呼ぶ)と、受信点から見通しがある構造物(以下、Rx見通し構造物と呼ぶ)を特定する。具体的な一例として、第1のレイトレース部33は、環境データ22に、LIDARで取得した3次元の点群データ103がある場合、当該点群データ103を用いて、Tx見通し構造物、及びRx見通し構造物を特定しても良い。また、別の一例として、第1のレイトレース部33は、メッシュデータ21、又は環境データ22に含まれる3次元CADデータ等を解析して、Tx見通し構造物、及びRx見通し構造物を特定しても良い。
【0100】
また、第1のレイトレース部33は、建物内にある構造物を介して送信点から受信点に至る経路を、例えば、次の3つの経路に限定して、2次元のレイトレースを求める。
1) 送信点からTx見通し構造物を介して受信点に至る経路。
2) 送信点からTx見通し構造物とRx見通し構造物を介して受信点に至る経路。
3) 送信点からRx見通し構造物を介して受信点に至る経路。
【0101】
これにより、第1のレイトレース部33は、受信点における電波の強度の推定に寄与する主要なレイを、より少ない計算量で、より高速に求めることができる。
【0102】
なお、上記の3つの経路は一例であり、様々な変形、又は応用が可能である。例えば、Tx見通し構造物、及びRx見通し構造物には、建物データ102に含まれる建物の壁、又は柱等が含まれていても良い。
【0103】
以上、実施例3によれば、屋内等の構造物が多く存在する環境でレイトレースを行う際の計算量の増大を、さらに抑制する情報処理システムを提供することができる。
【0104】
なお、上記の各実施例では、屋内でレイトレースを行う場合の例について説明したが、本実施形態に係るレイトレース方法は、例えば、床を大地に置き換えて、構造物が多く存在する屋外でレイトレースを行う際にも適用することができる。
【0105】
<ハードウェア構成例>
本実施形態に係る情報処理システム1は、例えば、コンピュータに、本実施形態で説明する処理内容を記述したプログラムを実行させることにより実現することができる。
【0106】
上記プログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体(可搬メモリ等)に記録して、保存したり、配布したりすることが可能である。また、上記プログラムをインターネットや電子メール等、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0107】
図13は、コンピュータのハードウェア構成の例を示す図である。
図13のコンピュータ1300は、それぞれバスBで相互に接続されているドライブ装置1301、補助記憶装置1303、メモリ装置1304、CPU1305、インタフェース装置1306、表示装置1307、入力装置1308、出力装置1309、及びGPU1310等を有する。
【0108】
コンピュータ1300での処理を実現するプログラムは、例えば、CD-ROM又はメモリカード等の記録媒体1302によって提供される。プログラムを記憶した記録媒体1302がドライブ装置1301にセットされると、プログラムが記録媒体1302からドライブ装置1301を介して補助記憶装置1303にインストールされる。但し、プログラムのインストールは必ずしも記録媒体1302より行う必要はなく、ネットワークを介して他のコンピュータよりダウンロードするようにしても良い。補助記憶装置1303は、インストールされたプログラムを格納すると共に、必要なファイルやデータ等を格納する。
【0109】
メモリ装置1304は、プログラムの起動指示があった場合に、補助記憶装置1303からプログラムを読み出して格納する。CPU1305は、メモリ装置1304に格納されたプログラムに従って、本実施形態で説明した各部に係る機能を実現する。インタフェース装置1306は、ネットワークに接続するためのインタフェースとして用いられる。表示装置1307はプログラムによるGUI等を表示する。入力装置1308はキーボード及びマウス、ボタン、又はタッチパネル等で構成され、様々な操作指示を入力させるために用いられる。出力装置1309は演算結果を出力する。なお、情報処理システム1において、表示装置1307、入力装置1308のいずれか又は両方を備えないこととしても良い。GPU1310は、主に画像処理(特に3Dグラフィックス処理)に関連する様々な処理を、CPU1305より高速に実行するプロセッサである。
【0110】
<実施形態の効果>
本実施形態に係る技術によれば、電波伝搬シミュレーションにおける計算量の増大を抑制し、電波伝搬シミュレーションを高速化する情報処理システムを提供することができる。
【0111】
<実施形態のまとめ>
本明細書には、少なくとも下記各項の情報処理システム、伝搬環境シミュレーション方法、及びプログラムが開示されている。
(第1項)
対象エリアを所定のサイズの複数のメッシュに分割し、前記複数のメッシュの各々の高さ情報で前記対象エリアの環境を表すメッシュデータを取得する取得部と、
前記メッシュデータに基づいて、電波を送信する送信点から前記電波を受信する受信点までの2次元のレイトレースを求める第1のレイトレース部と、
前記メッシュデータと、前記送信点、及び前記受信点の高さ情報とに基づいて、前記2次元のレイトレースに対応する3次元のレイトレースを求める第2のレイトレース部と、
前記第2のレイトレース部が求めた1つ以上の前記3次元のレイトレースを用いて、前記受信点における前記電波の強度を算出する電波強度算出部と、
を有する、情報処理システム。
(第2項)
前記メッシュデータは、GPUで読込可能なデータ形式を有し、
前記取得部は、前記メッシュデータをGPUで読み込む、第1項に記載の情報処理システム。
(第3項)
前記対象エリアを前記所定のサイズの複数のメッシュに分割する分割部と、
前記対象エリアにある物体の位置及び形状を表す環境データを用いて、前記複数のメッシュの各々の高さ情報を抽出する抽出部と、
前記複数のメッシュの各々の前記高さ情報を表す前記メッシュデータを作成する作成部と、
を有する、第1項又は第2項に記載の情報処理システム。
(第4項)
前記メッシュデータは、建物内にある構造物、及び天井を除く前記建物の内側を複数の平面で表し、
前記第1のレイトレース部は、前記メッシュデータに基づいて、前記建物内で電波を送信する前記送信点から前記建物内で前記電波を受信する前記受信点までの2次元のレイトレースを求め、
前記第2のレイトレース部は、
前記送信点、及び前記受信点の高さ情報と、前記メッシュデータとに基づいて、前記2次元のレイトレースに対応する3次元のレイトレースを求め、
前記建物のデータに基づいて、前記3次元のレイトレースに前記建物の天井面からの反射レイ、及び回折レイを追加する、
第1項乃至第3項のいずれか一項に記載の情報処理システム。
(第5項)
前記第1のレイトレース部は、構造物を介して前記送信点から前記受信点に至る経路を、前記送信点又は前記受信点から見通しがある構造物を介して前記送信点から前記受信点に至る経路に限定して、前記2次元のレイトレースを求める、第1項乃至第4項のいずれか一項に記載の情報処理システム。
(第6項)
前記第2のレイトレース部は、前記3次元のレイトレースにおいて、反射又は回折レイを求めるときに、レイローンチングの出射角を制約して、前記反射又は回折レイを求める、第1項乃至第5項のいずれか一項に記載の情報処理システム。
(第7項)
前記第2のレイトレース部は、前記3次元のレイトレースにおいて、回折レイを求めるときに、前記送信点と前記受信点との間の経路に見通しがない場合、前記送信点と前記受信点との間にある構造物を金属平板に置き換えて前記回折レイを求める、第1項乃至第6項のいずれか一項に記載の情報処理システム。
(第8項)
前記第2のレイトレース部は、前記送信点と前記受信点との間に複数の構造物がある場合、Bullington モデルを用いて、前記複数の構造物を回折する前記回折レイを求める、第7項に記載の情報処理システム。
(第9項)
情報処理システムが、
対象エリアを所定のサイズの複数のメッシュに分割し、前記複数のメッシュの各々の高さ情報で前記対象エリアの環境を表すメッシュデータを取得する取得処理と、
前記メッシュデータに基づいて、電波を送信する送信点から前記電波を受信する受信点までの2次元のレイトレースを求める第1のレイトレース処理と、
前記メッシュデータと、前記送信点、及び前記受信点の高さ情報とに基づいて、前記2次元のレイトレースに対応する3次元のレイトレースを求める第2のレイトレース処理と、
前記第2のレイトレース処理で求めた1つ以上の前記3次元のレイトレースを用いて、前記受信点における前記電波の強度を算出する電波強度算出処理と、
を実行する、電波伝搬シミュレーション方法。
(第10項)
情報処理システムに、
対象エリアを所定のサイズの複数のメッシュに分割し、前記複数のメッシュの各々の高さ情報で前記対象エリアの環境を表すメッシュデータを取得する取得処理と、
前記メッシュデータに基づいて、電波を送信する送信点から前記電波を受信する受信点までの2次元のレイトレースを求める第1のレイトレース処理と、
前記メッシュデータと、前記送信点、及び前記受信点の高さ情報とに基づいて、前記2次元のレイトレースに対応する3次元のレイトレースを求める第2のレイトレース処理と、
前記第2のレイトレース処理で求めた1つ以上の前記3次元のレイトレースを用いて、前記受信点における前記電波の強度を算出する電波強度算出処理と、
を実行させる、プログラム。
【0112】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0113】
1 情報処理システム
10 データ処理部
11 分割部
12 抽出部
13 作成部
21 メッシュデータ
31 取得部
33 第1のレイトレース部
34 第2のレイトレース部
35 電波強度算出部
22 環境データ
30 シミュレーション部
101 CADデータ
102 建物データ
103 点群データ
1301 ドライブ装置
1302 記録媒体
1303 補助記憶装置
1304 メモリ装置
1305 CPU
1306 インタフェース装置
1307 表示装置
1308 入力装置
1309 出力装置
1310 GPU