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特許7601216解析方法、解析装置、計測方法、計測装置、露光方法、および露光装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】解析方法、解析装置、計測方法、計測装置、露光方法、および露光装置
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20241210BHJP
   G03F 9/00 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
G03F7/20 521
G03F7/20 501
G03F9/00 H
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2023516441
(86)(22)【出願日】2022-04-08
(86)【国際出願番号】 JP2022017371
(87)【国際公開番号】W WO2022224845
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2021073425
(32)【優先日】2021-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】杉本 彩子
(72)【発明者】
【氏名】飯田 隆吾
(72)【発明者】
【氏名】若本 信二
【審査官】後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-506741(JP,A)
【文献】特表2017-524960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20
G03F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された複数の被計測部の計測された位置情報である計測位置情報を用意すること、
第1種ベッセル関数を用いて表された基準関数に比例係数を乗じた少なくとも1つの関数の和である参照関数を前記計測位置情報に対してフィッティングして、少なくとも1つの前記比例係数の適値を算出すること、
を備え
前記基準関数は、前記基板の基準位置から前記被計測部までの距離に対する第1種ベッセル関数と、前記基準位置から前記被計測部への偏角に基づく三角関数との積で表される、解析方法。
【請求項2】
請求項に記載の解析方法において、
前記基準関数に含まれる前記第1種ベッセル関数は、前記基板の周縁に配置された前記被計測部の基準位置情報に対して極値を取る関数である、解析方法。
【請求項3】
基板上に形成された複数の被計測部の計測された位置情報である計測位置情報を用意すること、
第1種ベッセル関数を用いて表された基準関数に比例係数を乗じた少なくとも1つの関数の和である参照関数を前記計測位置情報に対してフィッティングして、少なくとも1つの前記比例係数の適値を算出すること、
を備え、
前記基準関数は、前記基板の基準位置から前記被計測部までの距離に対する第1種ベッセル関数を用いて表され、
前記第1種ベッセル関数は、前記基板の周縁に配置された前記被計測部の基準位置情報に対して極値を取る関数である、解析方法。
【請求項4】
請求項3に記載の解析方法において、
前記基準関数は、前記第1種ベッセル関数と、前記基準位置から前記被計測部への偏角に基づく三角関数との積を用いて表される、解析方法。
【請求項5】
請求項2または3に記載の解析方法において、
前記基準関数として、前記基準位置から前記被計測部までの距離rに定数μを乗じた値を引数とするm次の第1種ベッセル関数Jm(μr)(mは自然数)と、前記基準位置から前記被計測部への偏角θのm倍の角度を引数とするcos関数およびcos関数からなる2次
元のベクトルと、の積として、それぞれ以下の2つの式のいずれかにより示される2つの関数を含む、解析方法。
【数1】
【数2】
【請求項6】
請求項に記載の解析方法において、
前記mは2であり、
前記定数μは、距離rが0から増加する際に前記基板の周縁に対応する距離rにおいて、2次の第1種ベッセル関数J2(μr)が1個目の0でない極値を取るように設定されている、解析方法。
【請求項7】
請求項に記載の解析方法において、
前記mは2であり、
前記定数μは、距離rが0から増加する際に前記基板の周縁に対応する距離rにおいて、2次の第1種ベッセル関数J2(μr)が2個目の0でない極値を取るように設定されている、解析方法。
【請求項8】
請求項2または3に記載の解析方法において、
前記基準関数として、前記基準位置から前記被計測部までの距離rに定数μ1を乗じた値を引数とする1次の第1種ベッセル関数J1(μ1r)、および前記基準位置から前記被計測部までの距離rに定数μ2を乗じた値を引数とする1次の第1種ベッセル関数J1(μ2r)に、前記基準位置から前記被計測部への偏角θを引数とするcos関数およびcos関数からなる2次元のベクトルをそれぞれ乗じた2つの関数であって、それぞれ以下の2つの式のいずれかにより示される2つの関数を含み、
前記定数μ1は、距離rが0から増加する際に前記基板の周縁に対応する距離rにおいて、1次の第1種ベッセル関数J1(μ1r)が2個目の0でない極値を取るように設定され、
前記定数μ2は、距離rが0から増加する際に前記基板の周縁に対応する距離rにおいて、1次の第1種ベッセル関数J1(μ2r)が3個目の0でない極値を取るように設定されている、解析方法。
【数3】
【数4】
【請求項9】
請求項2または3に記載の解析方法において、
前記基準関数として、前記基準位置から前記被計測部までの距離rに定数μを乗じた値を引数とする2次の第1種ベッセル関数J2(μr)と、前記基準位置から前記被計測部への偏角θの2倍の角度を引数とするcos関数およびcos関数からなる2次元のベクトルと、の積として、それぞれ以下の2つの式のいずれかにより示される2つの関数を含み、
前記定数μは、距離rが0から増加する際に前記基板の周縁に対応する距離rにおいて、2次の第1種ベッセル関数J2(μr)が1個目の0でない極値を取るように設定されている、解析方法。
【数5】
【数6】
【請求項10】
請求項2または3に記載の解析方法において、
前記基準関数に含まれる前記第1種ベッセル関数は、前記基板の周縁に配置された前記被計測部の前記基準位置情報に対して0となる関数である、解析方法。
【請求項11】
請求項1または3に記載の解析方法において、
前記参照関数は、前記基板の面内において相互に直交する2以上の前記第1種ベッセル関数により表される2以上の前記基準関数を含む、解析方法。
【請求項12】
請求項1または3に記載の解析方法において、
前記計測位置情報として、複数の前記被計測部の計測された位置情報から、前記基板の並進ずれ、回転および一様な伸縮に伴う位置ずれ量を除去した位置情報である残留位置情報を用いる、解析方法。
【請求項13】
基板上に形成された複数の被計測部の計測された位置情報である計測位置情報を入力する入力部と、
位置計測部が計測した前記被計測部の計測位置情報を解析する解析部と、
算出した前記比例係数の適値を少なくとも含む解析結果を外部の装置に出力する出力部と、を備え、
前記解析部は、請求項1または3に記載の解析方法により、少なくとも1つの前記比例係数の適値を算出する解析装置。
【請求項14】
基板上に形成された複数の被計測部の位置を計測して、前記被計測部の計測位置情報を得ること、
請求項1に記載の解析方法により、少なくとも1つの前記比例係数の適値を算出すること、
を備える、計測方法。
【請求項15】
基板上に形成された被計測部の位置を計測する位置計測部と、
前記位置計測部が計測した前記被計測部の計測位置情報を解析する解析部と、を備え、
前記解析部は、請求項1または3に記載の解析方法により、
少なくとも1つの前記比例係数の適値を算出する、計測装置。
【請求項16】
請求項1に記載の計測装置において、
算出した前記比例係数の適値を少なくとも含む解析結果を当該計測装置とは異なる外部の装置に出力する出力部を備える、計測装置。
【請求項17】
請求項1に記載の計測装置において、
算出した前記比例係数の適値を少なくとも含む解析結果を表示する表示部を備える、計測装置。
【請求項18】
請求項1に記載の計測装置において、
前記表示部は、前記比例係数の適値を適用した前記参照関数によるフィッティング結果をベクトル図として表示する、計測装置。
【請求項19】
請求項1に記載の計測方法により、前記基板上の複数の前記被計測部の位置を計測して、前記被計測部の計測位置情報を取得するとともに、少なくとも1つの前記比例係数の適値を算出すること、
取得した前記計測位置情報、および少なくとも1つの前記比例係数の前記適値に基づいて、前記基板上に複数の前記被計測部に対して所定の位置関係で形成されている第1パターンの位置を推定すること、
推定した前記第1パターンの位置に基づいて、前記基板上に第2パターンを露光すること、
を備える、露光方法。
【請求項20】
基板上に形成された被計測部の位置を計測する位置計測部と、
前記基板上に所望のパターンを露光する露光光学系と、を備え、
請求項19に記載の露光方法を行う、露光装置。
【請求項21】
被計測部が形成された基板を載置して移動するステージと、
前記基板を搬送し前記ステージに載置する基板搬送装置と、を備えて前記基板上に所望のパターンを露光する露光装置において、
請求項1に記載の計測方法により得られた計測結果に基づいて、前記基板搬送装置の動作を規定する装置定数を定める、露光装置。
【請求項22】
請求項21に記載の露光装置において、前記装置定数は、前記基板を前記ステージに載置する際の前記基板の移動速度、前記基板と前記ステージとの相対的な傾斜、または前記基板を前記ステージに保持するための保持力発生のタイミング、のいずれか一つを含む、
露光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解析方法、解析装置、計測方法、計測装置、露光方法、および露光装置に関する。
本願は、2021年4月23日に出願された日本国特願2021-073425号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路等の製造に用いるリソグラフィ技術においては、基板上に形成されている既存パターンに対し、別のパターンを重ね合わせて形成する。リソグラフィの工程において、基板には、基板内の位置に比例した一様な伸縮である線形な変形のみでなく、基板内の位置に比例しない非線形な変形が生じる場合がある。基板の非線形な変形を表現する方法として、例えば特許文献1に開示されている方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/189001号
【発明の概要】
【0004】
第1の態様によると、解析方法は、基板上に形成された複数の被計測部の計測された位置情報である計測位置情報を用意すること、第1種ベッセル関数を用いて表された基準関数に比例係数を乗じた少なくとも1つの関数の和である参照関数を前記計測位置情報に対してフィッティングして、少なくとも1つの前記比例係数の適値を算出すること、を備え、前記基準関数は、前記基板の基準位置から前記被計測部までの距離に対する第1種ベッセル関数と、前記基準位置から前記被計測部への偏角に基づく三角関数との積で表される
第2の態様によると、解析方法は、基板上に形成された複数の被計測部の計測された位置情報である計測位置情報を用意すること、第1種ベッセル関数を用いて表された基準関数に比例係数を乗じた少なくとも1つの関数の和である参照関数を前記計測位置情報に対してフィッティングして、少なくとも1つの前記比例係数の適値を算出すること、を備え、前記基準関数は、前記基板の基準位置から前記被計測部までの距離に対する第1種ベッセル関数を用いて表され、前記第1種ベッセル関数は、前記基板周縁に配置された前記被計測部の基準位置情報に対して極値を取る関数である。
の態様によると、解析装置は、基板上に形成された複数の被計測部の計測された位置情報である計測位置情報を入力する入力部と、前記位置計測部が計測した前記被計測部の計測位置情報を解析する解析部と、算出した前記比例係数の適値を少なくとも含む解析結果を外部の装置に出力する出力部と、を備え、前記解析部は、上述の解析方法により、少なくとも1つの前記比例係数の適値を算出する。
の態様によると、計測方法は、基板上に形成された複数の被計測部の位置を計測して、前記被計測部の計測位置情報を得ること、上述の解析方法により少なくとも1つの前記比例係数の適値を算出すること、を備える。
の態様によると、計測装置は、基板上に形成された被計測部の位置を計測する位置計測部と、前記位置計測部が計測した前記被計測部の計測位置情報を解析する解析部と、を備え、前記解析部は、上述の解析方法により、少なくとも1つの前記比例係数の適値を算出する。
の態様によると、露光方法は、上述の計測方法により、第1パターンが前記被計測部に対して所定の位置関係で形成されている前記基板上の複数の前記被計測部の位置を計測して、前記被計測部の計測位置情報を取得するとともに、少なくとも1つの前記比例係数の適値を算出すること、取得した前記計測位置情報、および少なくとも1つの前記比例係数の前記適値に基づいて、前記基板上の前記第1パターンの位置を推定すること、推定した前記第1パターンの位置に基づいて、前記基板上に第2パターンを露光すること、を備える。
の態様によると、露光装置は、基板上に形成された被計測部の位置を計測する位置計測部と、前記基板上に所望のパターンを露光する露光光学系と、を備え、上述の露光方法を行う。
の態様によると、露光装置は、被計測部が形成された基板を載置して移動するステージと、前記基板を搬送し前記ステージに載置する基板搬送装置と、を備えて前記基板上に所望のパターンを露光する露光装置において、上述の計測方法により得られた計測結果に基づいて、前記基板搬送装置の動作を規定する装置定数を定める。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】実施形態の計測装置および露光装置の構成を概略的に示す図。
図2A】基板の一例を示す図。
図2B】基板の一例を示す図。
図3A】基準関数に含まれる第1種ベッセル関数の例を示す図。
図3B】基準関数に含まれる第1種ベッセル関数の例を示す図。
図4】いくつかの基準関数の概略値を示す図である。
図5】基準関数を用いて表した、基板のXY面内方向の仮想的な変形量の一例を示す図。
図6A】基準関数に含まれる第1種ベッセル関数の他の例を示す図。
図6B】基準関数に含まれる第1種ベッセル関数の他の例を示す図。
図7】ベクトル図の一例を示す図。
図8】実施形態の解析装置の構成を概略的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0006】
(実施形態の計測装置および露光装置)
図1は、実施形態の計測装置1および露光装置2の構成を概略的に示す図である。露光装置2は、図1に一点鎖線で囲って示した実施形態の計測装置1を含んでいる。
なお、実施形態の計測装置1は、図1に示したように露光装置2の構成の一部であっても良く、露光装置2とは別の独立した装置であっても良い。以下では、計測装置1は、露光装置2の構成の一部を構成しているものとして説明する。
【0007】
図1および以降の各図に矢印で示したX方向、Y方向およびZ方向はそれぞれ直交する方向であるとともに、X方向、Y方向およびZ方向のそれぞれは各図において同一の方向を示している。
以下では、各矢印の示す方向を、それぞれ+X方向、+Y方向および+Z方向と呼ぶ。
また、X方向の位置をX位置、Y方向の位置をY位置と呼ぶ。
【0008】
露光装置2は、基板WFの表面に対し所定のパターンを露光転写する装置である。露光装置2は、計測装置1に加えて、図1に二点鎖線で囲って示した露光光学系20、基板WFを載置するステージ30、基板WFに露光するパターンの原版であるマスク25を載置するマスクステージ24等を備えている。なお、図1には、X方向の位置関係が相互に入れ替わる2つのステージ30を示しているが、ステージ30は1つであっても良い。
【0009】
露光光学系20は、照明光学系21および投影光学系22を含む。照明光学系21はマスク25に照明光を照射し、投影光学系22はマスク25を透過して明暗パターンが付与された露光光を基板WFに露光する。なお、マスク25は透過型のマスクに限られるわけではなく、反射型のマスクであっても良い。
【0010】
ステージ30は、リニアモーター等の駆動機構を備え、ガイド33上をX方向およびY方向に移動可能であるとともに、Z方向に微小距離(例えば数ミリメートル程度)移動可能である。ステージ30の位置は、投影光学系22と所定の位置関係を保って設けられているエンコーダーヘッド23により、ステージ30に設けられたエンコーダ板32の位置として計測され、信号S2aとして出力される。
【0011】
マスクステージ24は、リニアモーター等の駆動機構を備え、マスクガイド27上をY方向に移動可能であるとともに、X方向およびZ方向に微小距離(例えば数ミリメートル程度)移動可能である。マスクステージ24の位置は、投影光学系22と所定の位置関係を保って設けられているエンコーダーヘッド28により、マスクステージ24に設けられたエンコーダ板26の位置として計測され、信号S4として出力される。
【0012】
露光装置2は、一例として、投影光学系22に対して基板WFを載置するステージ30、およびマスク25を載置するマスクステージ24をY方向に相対的に走査しつつ基板WFへの露光を行う走査型の露光装置である。
ただし、露光装置2は、投影光学系22に対して基板WFを載置するステージ30、およびマスク25を載置するマスクステージ24を静止させた状態で露光を行うステップアンドリピート型の露光装置であっても良い。
【0013】
ステージ30およびマスクステージ24の位置を計測する手段は、上述したエンコーダーシステムに限られるものではなく、レーザ干渉計や磁気スケールを用いるものであっても良い。
ステージ30は、基板WFが載置される部分に、基板チャック部31を有している。基板チャック部31は、いわゆる真空チャック、または静電チャックにより基板WFを吸着させる。
【0014】
露光装置2により露光される基板WFは、半導体等の電子材料を含み、その表面(+Z側の面)の近傍には、以前の露光工程で形成された既存パターンが存在しており、基板WFの表面には不図示の感光材料が形成されている。
【0015】
図2Aは、基板WFの一例を示す図であり、基板WFを+Z方向から見た図を示している。基板WF上には、不図示の既存パターンの一部として、既存パターンに対して所定の位置関係となる位置に、位置計測用のアライメントマーク等の所定の被計測部MPが複数形成されている。被計測部MPは、位置の計測のために設けられている専用のパターンに限られるわけではなく、基板WF上に形成する電子回路を構成する回路パターンの一部であっても良い。
【0016】
図2Aに示した原点Oは、一例として円形の基板WFの重心等の中心点であり、X軸は、原点Oを通りX方向に延びる軸、Y軸は、原点Oを通りY方向に延びる軸を表している。また、原点Oから1つの被計測部MPまでの距離はrであり、原点Oを基準としての+X方向から1つの被計測部MPまでの偏角をθとしている。
【0017】
なお、図2Aにおいては、複数の被計測部MPのX方向の間隔、およびY方向の間隔が、すべて等しいものとしているが、複数の被計測部MPのX方向の間隔、およびY方向の間隔は、いずれも不等間隔であっても良い。また、複数の被計測部MPは、必ずしもX方向およびY方向に平行な格子配列の格子点に配置されている必要は無く、基板WF上のランダムな位置に配置されていても良い。
【0018】
それぞれの被計測部MPの位置は、以前の露光工程で露光転写された被計測部MPを含むパターンの設計データにより概ね既知である。ただし、被計測部MPを形成した露光工程以降に基板WFに加えられた加工プロセスにより基板WFがXY面内方向で変形しているため、被計測部MPの実際の正確な位置は不明である。
【0019】
図2Bは、一例として、図2Aに破線円で囲って示した基板WFの任意の小領域ARにおける被計測部MP(MP1~MP4)の位置を拡大して示した図である。それぞれの被計測部MP(MP1~MP4)は、基板WFの変形により、上述した設計データにより求まる基準位置MD1~MD4に対して、基板WFの面内方向にそれぞれ、~DV4で表される位置だけずれた位置に配置されている。逆に言えば、基準位置MD1~MD4に対する被計測部MP(MP1~MP4)の位置ずれ量、すなわち変位ベクトルDV1~DV4が、基板WFのXY面内方向の変形量を表している。
【0020】
なお、図2Bに示されていない他の被計測部MPについても同様に、基板WFの変形により、基準位置MD1~MD4に対して、基板WFの面内方向にそれぞれ変位ベクトルDVで表される位置だけずれた位置に配置されているものとする。
変位ベクトルDVのX成分、およびY成分を、それぞれΔX、ΔYとする。j番目(jは任意自然数)の被計測部MPの変位ベクトルDVjは、DVj=(ΔXj、ΔYj)である。
【0021】
被計測部MP(MP1~MP4)が実際に配置されている位置は、後述する位置計測部10により計測される位置であるので、以下では、被計測部MPの計測位置MM(MM1~MM4)と呼ぶ。それぞれの被計測部MP(MP1~MP4)の計測位置MM(MM1~MM4)は、基準位置MD(MD1~MD4)に変位ベクトルDV(DV1~DV4)を加えた位置である。逆に言えば、それぞれの被計測部MP1~MP4の変位ベクトルDV1~DV4は、計測位置MM1~MM4と基準位置MD1~MD4との位置の差である。
【0022】
基準位置MDおよび計測位置MMは、一例として、原点Oを中心(0,0)とするXY座標値により表される。ここで、基準位置MDのXY座標(デカルト座標)での位置(X、Y)と、基準位置MDの極座標での位置(r,θ)、すなわち上述した原点Oから被計測部MPの基準位置MDまでの距離rおよび偏角θとの関係は、式(1)から式(4)で表される。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【0023】
複数の被計測部MPの基準位置MDを、以下では、総称して、または個々に、基準位置情報IRPと呼ぶ。
複数の被計測部MPの変位ベクトルDVを、以下では、総称して、または個々に、計測位置情報IMPと呼ぶ。
【0024】
再び図1を参照して、露光装置2に含まれている計測装置1および基板搬送装置40について説明する。
計測装置1は、基板WF上に形成されている被計測部MPの位置を計測する、点線で囲って示した位置計測部10と、制御部15とを備えている。ここで、後述する位置算出部13は、位置計測部10と制御部15との両方に含まれているものとする。制御部15は、さらに後述する解析部16、表示部17、出力部18を備えている。
【0025】
位置計測部10は、基板WF上の被計測部MP(図2A参照)を検出するマーク検出部11と、マーク検出部11が被計測部MPを検出した際のステージ30の位置を計測するエンコーダーヘッド12と、位置算出部13とを有している。
【0026】
マーク検出部11は一例として、撮像式の光学顕微鏡であり、マーク検出部11内の基準指標と、基板WF上の被計測部MPとのX方向およびY方向の相対的な位置ずれ量を計測し、計測結果を信号S1として出力する。マーク検出部11は、基板WF上にレーザ光等による照射パターンを照射し、その戻り光の強度変化に基づいて被計測部MPの位置を計測するものであっても良い。
【0027】
エンコーダーヘッド12は、上述したエンコーダーヘッド23と同様に、ステージ30の位置をステージ30に設けられたエンコーダ板32の位置として計測し、ステージ30の位置を信号S2として出力する。なお、エンコーダーヘッド12の代わりに、レーザ干渉計や磁気スケールを用いる位置計測システムを用いても良い。
【0028】
制御部15は、エンコーダーヘッド12からの信号S2、またはエンコーダーヘッド23からの信号S2aに基づいてステージ30に信号S3を送り、ステージ30の位置を制御する。制御部15は、エンコーダーヘッド28からの信号S4に基づいてマスクステージ24に信号S5を送り、マスクステージ24の位置を制御する。
【0029】
基板搬送装置40は、一例として、ロードガイド41およびロードガイド41に沿って移動するロードアーム42を有している。基板搬送装置40は、制御部15からの信号S6により制御され、トラックシステム等の外部の装置から基板WFを受け取り、基板WFをステージ30上の基板チャック部31に載置する。なお、基板チャック部31は、基板WFの受け渡し動作を行う部材であるため、ステージ30の一部を構成しているとともに、基板搬送装置40にも含まれているものとする。
【0030】
基板WFがステージ30上に載置されると、制御部15は、複数の被計測部MPの基準位置情報IRPに基づいてステージ30に信号S3を送り、ステージ30を、基板WF上の複数の被計測部MPのそれぞれがマーク検出部11と対向する位置に順次移動させる。マーク検出部11が複数の被計測部MPのそれぞれと対向した状態で、制御部15はマーク検出部11からの信号S1およびエンコーダーヘッド12からの信号S2を受信する。
【0031】
制御部15に含まれ、かつ位置計測部10の一部である位置算出部13は、これらの信号に基づいて、基板WF上の複数の被計測部MPのそれぞれの計測位置MM、または変位ベクトルDVを算出する。上述したとおり、被計測部MPの計測位置MMは、被計測部MPの基準位置MDに変位ベクトルDVを加えた位置である。逆に言えば、被計測部MPの計測位置MMと基準位置MDとの差が変位ベクトルDVである。
【0032】
解析部16は、位置計測部10が計測した複数の被計測部MPの計測位置情報IMP、すなわち複数の被計測部MPの変位ベクトルDVを解析し、計測位置情報IMPにフィッティングする参照関数を決定する。すなわち、複数の被計測部MPを含む基板WFのXY面内方向の変形量を表す参照関数を決定する。そして、解析部16は、決定した参照関数に基づいて、基板WF上に形成されている既存パターンの位置を推定する。
【0033】
解析部16は、参照関数の決定に際し、第1種ベッセル関数を用いて表された基準関数に比例係数を乗じた少なくとも1つの関数の和である参照関数を予め用意しておく。そして、参照関数が複数の被計測部MPの計測位置情報IMPに対してフィッティングするように、比例係数の値の適値を決定する。基準関数としては、基板WF上に形成された複数の被計測部MPの基準位置MPである基準位置情報IRPに対する第1種ベッセル関数で表される関数を使用する。なお、基準関数、参照関数、および参照関数の決定方法、すなわち比例係数の決定方法の詳細については後述する。
【0034】
制御部15は、解析部16が決定した比例係数の適値、およびその他の解析結果を、出力部18からネットワーク回線NWを経由して、計測装置1とは異なる外部の装置に出力させても良い。
制御部15は、解析部16が決定した比例係数の適値、およびその他の解析結果を、表示部17に表示させても良い。
なお、計測装置1または露光装置2は、出力部18および表示部17の少なくとも一方を備えていなくても良い。
【0035】
基板WF上の複数の被計測部MPの計測位置MM、または変位ベクトルDVの計測が終了すると、制御部15は、基板WFが載置されているステージ30に信号S3を送り、ステージ30を投影光学系22と対向する位置に移動させる。そして、露光装置2は、解析部16が推定した基板WF上の既存パターンの位置に基づいてステージ30の位置を移動させ、すなわち既存パターンの位置に整合させて、マスク25に形成されているパターンを基板WF上に露光する。
【0036】
基板WF上の既存パターンを第1パターンと呼ぶこともでき、マスク25に形成されており基板WFに新たに露光されるパターンを第2パターンと呼ぶこともできる。
第1パターンは、基板WF上の異なる位置に複数形成されていても良く、この場合には、複数のそれぞれの第1パターンに整合させて、基板WF上の異なる位置に第2パターンを複数露光する。
【0037】
なお、図1に示した計測装置1においては、計測装置1の制御部15が露光装置2の制御も行うものとしているが、制御部15は計測装置1の制御のみを行ない、露光装置2を制御する制御部は、制御部15とは別に設けられていても良い。
【0038】
(実施形態の計測方法)
実施形態の解析方法は、基板WF上に形成された複数の被計測部MPの計測された位置情報である計測位置情報IMPに対して、後述する参照関数をフィッティングさせることにより、計測位置情報IMPの特徴を解析するものである。参照関数として、第1種ベッセル関数を用いて表された基準関数に比例係数を乗じた少なくとも1つの関数の和を使用する。
【0039】
参照関数の計測位置情報IMPへのフィッティングにより決定された上記の比例係数の適値は、複数の被計測部MPの基準位置MD(基準位置情報IRP)からの変位量のうちの、所定の変形モードに対応する基板WFの変形量を表している。
以下、実施形態の解析方法の具体的な例について説明する。
【0040】
実施形態の解析方法においては、参照関数を構成する基準関数として、第1種ベッセル関数J(μr)を用いた関数を使用する。ここで、mは、第1種ベッセル関数の次数を表す添え字であり、rは、図2Aに示したとおり、基板WFの原点O(中心)から被計測部MPまでの距離である。ただし、数学的な扱いを容易にするために、以下では、rは実際の距離ではなく、円形の基板WFの外周において1となるように規格化した値として扱う。一例として、被計測部MPが基板WFの原点Oと基板WFの外周上の任意の1点との中間点にあれば、その被計測部MPのrは、0.5である。
また、μは後述する定数である。
【0041】
基準関数は、例えば、次の式(5)または式(5)により表される関数である。
【数5】
【数6】
ここで、θは、図2Aに示したとおり、原点Oを基準としての+X方向から被計測部MPまでの偏角であり、θに第1種ベッセル関数Jの次数mが乗算された値が、式(5)に含まれるcos関数、または式(6)に含まれるsin関数の引数である。換言すれば、基準関数は、一例として、第1種ベッセル関数と、基準位置(原点O)から被計測部MPへの偏角θに基づく三角関数との積を用いて表される。
上述した定数μは、式(5)および式(6)においては、第1種ベッセル関数Jの次数m、および任意の自然数kを添え字として付加した定数μmkとして表している。
【0042】
図3A図3Bは、基準関数に含まれる第1種ベッセル関数Jmkr)の例を示す図である。図3Aは、添え字mおよびkにより定まる定数μmkの値のいくつかの例を示す数表である。図3Aに示した定数μmkの値は、rを引数とする第1種m次のベッセル関数J(r)において、rが0から増加する際にJ(r)がk番目の0以外の極値(極大値または極小値)を取るrの値である。従って、式(5)および式(6)に含まれるJmkr)は、r=1において極値をとる関数となる。
【0043】
図3Aの数表においては、mについては0から7まで、kについては1からmの値に応じた所定の値までの範囲の、定数μmkの値を示している。ただし、定数μmkのmの値は8以上であっても良く、kの値も1以上の任意の値であって良い。定数μmkの値は、mおよびkを決定すれば、第1種m次のベッセル関数J(r)から容易に算出することができる。
なお、m=0においては、k=1の極値、すなわち1番目の極値をとるrの値は0であり、式(5)および式(6)での使用に適していない。そこで、図3Aの数表では、m=0、k=1の欄には横線を引き、この欄の数値は不適であることを示している。
【0044】
なお、図3Aでは、定数μmkの値を有効数字6桁以上で表示しているが、定数μmkの値は、必ずしも有効数字6桁以上の精度で図3Aに示した値と一致している必要はない。使用状況、すなわち解析に要求される精度によっては、例えば有効数字2桁で一致していれば十分な場合もあり、例えば有効数字3桁で一致していれば十分な場合もある。
【0045】
図3Bは、添え字mおよびkにより定まる第1種ベッセル関数Jmkr)のいくつかを、rが0から1までの範囲でグラフとして表した図である。曲線C02は、m=0、k=2の関数J02r)を示す。同様に、曲線C11は関数J11r)を、曲線C12は関数J12r)を、曲線C21は関数J21r)を、曲線C22は関数J22r)を、曲線C31は関数J31r)を、曲線C32は関数J32
r)を、それぞれ示す。
【0046】
上述したように、図3Bに示した各関数は、r=1において極値(極大値または極小値)を取る。k=1に対応する関数Jm1r)に相当する曲線C11、C21,C31においては、rの増加に伴ってr=1において最初の0以外の極値を取る。k=2に対応する関数Jm2r)に相当する曲線C12、C22,C32においては、rの増加に伴ってr=1において2つめの0以外の極値を取る。
【0047】
図4は、式(5)または式(6)により表される基準関数のうち、いくつかの添え字mおよびkで表される基準関数の概略値を示す図である。基準関数C11cは、m=1、k=1のJ11r)×cos(1θ)を表し、基準関数C11sは、m=1、k=1のJ11r)×sin(1θ)を表す。基準関数C21cは、m=2、k=1のJ21r)×cos(2θ)を表し、基準関数C21sは、m=2、k=1のJ21r)×sin(2θ)を表す。
【0048】
基準関数C31cは、m=3、k=1のJ31r)×cos(3θ)を表し、基準関数
C31sは、m=3、k=1のJ31r)×sin(3θ)を表す。基準関数C22cは
、m=2、k=2のJ22r)×cos(2θ)を表し、基準関数C22sは、m=2、
k=2のJ22r)×sin(2θ)を表す。
【0049】
図4では、原点Oを中心としてr=1を半径とする円の内部において、各基準関数(C11c~C22c、C11s~C22s)の値が、正の所定値より大きい領域には「+」を付し、負の所定値より小さい領域には「-」を付して示している。「+」も「-」も付されていない領域は、基準関数の値が負の所定値より大きく、正の所定値より小さい、すなわちゼロに近い領域である。
【0050】
図4に一例を示したとおり、式(5)および式(6)により与えられる基準関数は、その添え字mおよびkの値を適当に選択することにより、その値が半径1の円内で所定の種々の形状で増減する関数となる。従って、これらの基準関数(C11c~C22c、C11s~C22s等)の1つにより、または基準関数のいくつかを組合せることにより、例えば円形の基板WFのXY面内方向の仮想的な変形を表現することができる。
【0051】
以下では、基準関数により表された基板WFの被計測部MPの仮想的な変形量を表すベクトルを仮想変位ベクトルIVと呼び、仮想変位ベクトルIVのX成分、およびY成分を、それぞれΔx、Δyとする。j番目(jは任意自然数)の被計測部MPの仮想変位ベクトルIVjは、IVj=(Δxj、Δxj)である。
仮想変位ベクトルIVjのX成分Δxj、およびY成分Δyjは、基準関数を用いて以下
の式(7)、式(8)により表される。
【0052】
【数7】
【数8】
ここで、α1mk、α2mk、α3mk、およびα4mkは、添え字m、kの値によってそれぞれ異なる比例係数である。以下では、比例係数α1mk、α2mk、α3mk、および
α4mkを、総称して、または個々に、単に比例係数αとも呼ぶ。
また、rjは、原点Oからj番目の被計測部MPjまでの距離であり、θjは、原点Oか
らj番目の被計測部MPjまでの偏角である。
【0053】
上述したとおり、本明細書では、式(7)および式(8)に示した如き、第1種ベッセル関数Jmkr)を用いて表された基準関数に比例係数αを乗じて得られた少なくとも1つの関数の和を参照関数と呼ぶ。なお、基準関数が1つである場合には、その基準関数自体が参照関数となる。
【0054】
図5は、一例として、基準関数C21cを用いてX方向の変形量を表し、基準関数C21sを用いてY方向の変形量を表した、円形の基板WFのXY面内方向の仮想的な変形量を示す図である。すなわち、図5に示した例においては、IVj=(Δxj、Δxj)は、
以下の式(9)および式(10)により表される。
【数9】
【数10】
【0055】
なお、Δxj、Δxjを仮想変位ベクトルIVj(Δxj、Δxj)としてベクトルで表現
し、式(9)および式(10)を、式(11)のように1つに纏めて表すこともできる。
【数11】
【0056】
比例係数αの値を適当な値(適値)に設定することにより、参照関数を用いて、基板WFの被計測部MPの実際の変形量(変位ベクトルDV)を、近似的に表現することができる。比例係数αの値は、例えば、最小二乗法により決定しても良い。すなわち、基板WFのN個の被計測部MPjにおいて、式(9)および式(10)、または式(11)のΔxj、Δyjを、式(12)および式(13)にそれぞれ代入して求まるExおよびEyの値が
最小となるように、比例係数αの適値を設定しても良い。
【数12】
【数13】
ここで、ΔXj、およびΔYjは、上述したとおり、j番目の被計測部MPの変位ベクトルDVjのX成分、およびY成分である。
【0057】
あるいは、その他の公知の方法を用いて比例係数αの適値を設定しても良い。
適当な比例係数αを設定することにより、計測位置情報IMP、すなわち複数の被計測部MPの計測された位置情報である変位ベクトルDV(ΔX,ΔY)に対して、式(7)および式(8)に示した参照関数をフィッティングさせることができる。
【0058】
1つの基準関数に対応して設定された比例係数αの値は、その基準関数で表される変形のモードが、計測位置情報IMPにどの程度含まれているかを表す指標である。従って、それぞれの基準関数に対応する比例係数αの算出することにより、基板WFの変形に含まれる各種の変形モードの量を解析することができる。
【0059】
なお、式(7)および式(8)で表された参照関数は、上述した式(11)のように、Δxj、Δxjを仮想変位ベクトルIVj(Δxj、Δxj)としてベクトルで表現し、以下
の、式(15)のように記述することもできる。
【数15】
式(15)において、β1mk、β2mk、β3mk、およびβ4mkは、式(7)式および(8)のα1mk、α2mk、α3mk、およびα4mkと同様に、添え字m、kの値によってそれぞれ異なる比例係数である。以下では、比例係数β1mk、β2mk、β3mk
およびβ4mkを総称して、または個々に、単に比例係数βとも呼ぶ。
なお、式(15)において、m=0の場合には、cos(mθ)は常に1となり、sin(mθ)は常に0となる。このため、比例係数β10kと比例係数β30kとは同符号で重複したものとなり、比例係数β20kと比例係数β40kとは逆符号で重複したものとなってしまう。従って、m=0の場合には、比例係数β20kおよび比例係数β30kを、0として扱うと良い。
【0060】
なお、式(15)のように記載した場合においても、参照関数は、第1種ベッセル関数を用いて表された基準関数に比例係数を乗じた少なくとも1つの関数の和であることに変わりはない。
【0061】
式(15)の比例係数βの値を適当な値に設定することにより、式(15)で表される1つ以上の参照関数を含む関数を用いて、基板WFの被計測部MPの実際の変形量(変位ベクトルDV)を、近似的に表現することができる。比例係数のβ値は、上述した比例係数のα値と同様に、例えば上述した最小二乗法により決定しても良い。
【0062】
なお、式(7)および式(8)、または式(15)で表される参照関数の比例係数α、βの設定に際しては、所定の値の添え字m、kに対応する比例係数α、βの値は0であるものとして、決定しても良い。換言すれば、比例係数α、βの決定に際しては、添え字m、kの組合せの全てに対応する基準関数に対して、それに対応する比例係数α、βを算出する必要はない。極論すれば、式(9)~式(11)に示したように、添え字m、kの1つの組合せからなる1つの参照関数のみに対して、それに対応する比例係数α、βの値を決定しても良い。
【0063】
以下、式(15)で表された参照関数に含まれる基準関数のうち、実際の基板WFの変形を解析する際に重要であるいくつかの基準関数とそれに対応する比例係数を例示する。基板WFの解析に際し、以下に例示する基準関数のうちの少なくとも1つについては、それに対応する比例係数βの値を決定すると良い。
【0064】
1つめの例は、添え字がm=2、k=1であって、式(15)の比例係数β1mkに対
応する基準関数と、比例係数β2mkに対応する基準関数との、2つの基準関数である。
式(15)との対応を判別し易くするために、これらの基準関数に、対応する比例係数β121または比例係数β221をそれぞれ乗じたものを、それぞれ式(16)、式(17)に示す。
【0065】
【数16】
【数17】
このうち、式(16)で表される基板WFの変形は、上述した図5に示した変形である。
【0066】
2つめの例は、添え字がm=2、k=2であって、式(15)の比例係数β1mkに対
応する基準関数と、比例係数β2mkに対応する基準関数との、2つの基準関数である。
式(15)との対応を判別し易くするために、これらの基準関数に、対応する比例係数β122またはβ222をそれぞれ乗じたものを、それぞれ式(18)、式(18)に示す。
【0067】
【数18】
【数19】
【0068】
3つめの例は、添え字がm=1、k=2であって、式(15)の比例係数β1mkに対
応する基準関数と、添え字がm=1、k=3であって、式(15)の比例係数β1mk
対応する基準関数との、2つの基準関数である。式(15)との対応を判別し易くするために、これらの基準関数に対応する比例係数β112、または比例係数β113をそれぞれ乗じたものを、それぞれ式(20)、式(21)に示す。
【0069】
【数20】
【数21】
【0070】
4つめの例は、添え字がm=2、k=1であって、式(15)の比例係数β3mkに対
応する基準関数と、比例係数β4mkに対応する基準関数との、2つの基準関数である。
式(15)との対応を判別し易くするために、これらの基準関数に、対応する比例係数β321、および比例係数β421を乗じたものを、それぞれ式(22)、式(23)に示す。
【0071】
【数22】
【数23】
【0072】
なお、比例係数α、βを設定する複数の基準関数(C21c、C21s等)は、原点Oを中心とするr≦1の円内で相互に直交する関数となるように選定しても良い。例えば、基準関数C21cと基準関数C21sとは、原点Oを中心とするr≦1の円内においてその積を積分した値が0となるので、直交している。
【0073】
また、比例係数α、βを設定する複数の基準関数にそれぞれ含まれる複数の第1種ベッセル関数Jmkr)のうち、添え字mおよびkが異なるものの少なくとも一部、あるいは全ては、原点Oを中心とするr≦1の円内で相互に直交するものであっても良い。換言すれば、参照関数は、基板WFの面内(r≦1)において相互に直交する2以上の第1種ベッセル関数により表される2以上の基準関数を含むものであっても良い。
なお、2つの第1種ベッセル関数Jmkr)が直交するとは、2つの第1種ベッセル関数Jmkr)の積を、原点Oを中心とするr≦1の円内で積分した値が0となることをいう。言い換えれば、2つの第1種ベッセル関数Jmkr)の原点Oを中心とするr≦1の円内で積分することによる内積が0となることをいう。
【0074】
なお、比例係数α、βの適値の決定において、複数の被計測部MPの計測された位置情報(変位ベクトルDV)から、基板WFの並進ずれ、回転、および一様な伸縮に伴う位置ずれ量を除去した位置情報である残留位置情報を、計測位置情報IMPとして用いても良い。
【0075】
ここで、基板WFの並進ずれ、回転、および一様な伸縮に伴う位置ずれ量の算出は、式(24)から式(26)に示した一般的な数式を用いて算出することができる。
【数24】
【数25】
【数26】
【0076】
ここで、式(24)の中の、aは基板WFのX方向の一様な伸縮、dはY方向の一様な伸縮、bおよびcは基板WFの回転、eは基板WFのX方向の並進ずれ、yはX方向の並進ずれを表すパラメータである。また、Xj、Yjは、それぞれj番目の被計測部MPの基準位置MDのX位置、およびY位置であり、Nは、被計測部MPの個数である。そして、εxjおよびεyjは、パラメータa~fにより定まる基板WFの並進ずれ、回転、および一様な伸縮に伴うj番目の被計測部MPjの基準位置MDからのX位置のずれ量、および
Y位置のずれ量を表す。
【0077】
式(24)により表されるεxjおよびεyjを、それぞれ式(25)および式(26)に代入し、最小二乗法等を用いて、例えばLxおよびLyの値が最小になるようにパラメータa~fの値を決定する。そして、決定されたパラメータa~fの値を式(22)に代入して、N個の被計測部MPについてそれぞれεxjおよびεyjを算出する。
j番目の被計測部MPjの計測された変位ベクトルDVj(ΔXj,ΔYj)から、基板WFの並進ずれ、回転、および一様な伸縮に伴う位置ずれ量(εxj,εyj)を除去した位置情報である残留位置情報は、(ΔXj-εxj,ΔYj-εyj)として算出される。
【0078】
上述したように、解析を行う対象である計測位置情報IMPとして、複数の被計測部MPの計測された位置情報(変位ベクトルDV)に代えて、この残留位置情報(ΔXj-ε
xj,ΔYj-εyj)を用いて解析を行っても良い。
【0079】
(解析方法の変形例)
以下、解析方法の変形例について説明する。ただし、解析方法の変形例は、ほとんどの構成が上述した実施形態の解析方法と共通しているため、以下では相違点について説明を行う。実施形態の解析方法においては、基準関数を構成する第1種ベッセル関数は、いずれもr=1において極値を有するものとした。これに対して、変形例の解析方法においては、基準関数を構成する第1種ベッセル関数は、いずれもr=1において0を取る点が異なっている。
【0080】
変形例の解析方法においては、参照関数を構成する基準関数として、第1種ベッセル関数Jmkr)を用いた関数を使用する。ここでλmkは、実施形態の解析方法におけるμmkと同様に第1種ベッセル関数Jの次数m、および任意の自然数kを添え字として付加した定数である。
変形例の解析方法で使用する基準関数は、例えば、次の式(27)または式(28)により表される関数である。
【数27】
【数28】
【0081】
図6A図6Bは、基準関数に含まれる第1種ベッセル関数Jmkr)の例を示す図である。図6Aは、添え字mおよびkにより定まる定数λmkの値のいくつかの例を示す数表である。図6Aに示した定数λmkの値は、rを引数とする第1種m次のベッセル関数J(r)において、rが0から増加する際(r=0は含まない)にJ(r)がk番目に0を取るrの値である。従って、式(27)および式(28)に含まれるJmk
r)は、r=1において0をとる関数となる。
【0082】
図6Aの数表においては、mについては0から7まで、kについては1からmの値に応じた所定の値までの範囲の、定数λmkの値を示している。ただし、定数λmkのmの値は8以上であっても良く、kの値も1以上の任意の値であって良い。定数λmkの値は、mおよびkを決定すれば、第1種m次のベッセル関数J(r)から容易に算出することができる。
【0083】
図6Bは、添え字mおよびkにより定まる第1種ベッセル関数Jmkr)のいくつかを、rが0から1までの範囲でグラフとして表した図である。曲線B01は、m=0、k=1の関数J01r)を示す。同様に、曲線B11は関数J11r)を、曲線B12は関数J12r)を、曲線B21は関数J21r)を、曲線B22は関数J22r)を、曲線B31は関数J31r)を、曲線B32は関数J32
r)を、それぞれ示す。
【0084】
上述したように、図6Bに示した各関数は、r=1において0を取る。k=1に対応する関数Jm1r)に相当する曲線B11、B21,B31においては、rの増加に伴って(r=0を除いて)r=1において最初に0を取る。k=2に対応する関数J
m2r)に相当する曲線B12、B22,B32においては、rの増加に伴って(r=0
を除いて)r=1において2回目の0を取る。
【0085】
変形例の解析方法においては、参照関数として、上述した式(7)および式(8)、または式(15)について、それに含まれる比例係数μmkを比例係数λmkに置き換えた式を用いればよい。そして、上述した実施形態の解析方法と同様に、例えば最小二乗法を用いることで、比例係数α、βの適値を決定すれば良い。
【0086】
変形例の解析方法では、参照関数を構成する基準関数が、r=1において、すなわち基板WFの外周において0である。換言すれば、基準関数に含まれる第一種ベッセル関数が基板WFの周縁に配置された被計測部MPの基準位置情報IRPに対して0を取る関数である。このため、基板WFの外周近傍での変形の影響、すなわち基板WFの外周近傍に配置されている被計測部MPの変位ベクトルDVの影響をあまり受けずに、比例係数α、βの値を決定することができる。
【0087】
一方、上述した実施形態の解析方法では、参照関数を構成する基準関数に含まれる第一種ベッセル関数が、r=1において、すなわち基板WFの外周において極値を取る。換言すれば、基準関数に含まれる第一種ベッセル関数が基板WFの周縁に配置された被計測部MPの基準位置情報IRPに対して極値を取る関数である。このため、基板WFの外周においては、rの変動に対する基準関数の値の変動が小さい。これにより、基板WFの外周近傍に配置されている被計測部MPの変位ベクトルDVの局所的な変動の影響をあまり受けずに、比例係数α、βの値を決定することができる。
【0088】
なお、参照関数を構成する第1種ベッセル関数J(κr)は、必ずしもr=1において、極値または0を取る関数でなくても良い。すなわち、比例係数κは、上述したμmk、またはλmk以外の値であっても良い。
【0089】
上述した実施形態の解析方法または変形例の解析方法のいずれにおいても、参照関数として第1種ベッセル関数のみを使用するのではなく、他の参照関数と組み合わせてもよい。例えば、ツェルニケ多項式を基準関数として用いた参照関数と併用してもよい。この場合、低次成分はツェルニケ多項式を基準関数とした参照関数を用いてフィッティングを行い、高次成分は第1種ベッセル関数を基準関数とした参照関数を用いてフィッティングを行うことができる。
【0090】
(実施形態の計測方法)
以下、実施形態の計測方法について説明する。実施形態の計測方法は、基板WF上に形成された複数の被計測部MPの位置を計測して、被計測部MPの計測位置情報IMP、すなわち複数の被計測部MPの変位ベクトルDVを得る。そして、上述した解析方法により、式(7)および式(8)、または式(15)に示した参照関数に含まれる比例係数α、βの適値を算出するものである。
【0091】
被計測部MPの位置を計測する方法については、上述した実施形態の計測装置および露光装置の説明において説明しているため、ここでは再度の説明は省略する。また、参照関数および比例係数α、βの適値の算出方法についても、上述した実施形態および変形例の解析方法の説明において説明しているため、ここでは再度の説明は省略する。
【0092】
(実施形態の露光方法)
以下、図7を参照して、実施形態の露光方法について説明する。図7は、その外縁を破線の四角形で示した第1パターンA1が複数形成されている基板WFを示す図である。第1パターンA1の破線で示した外縁の内側には、不図示の微細パターンが複数形成されている。基板WF上には、第1パターンA1に対して所定の位置関係となる位置に、複数の被計測部MPが形成されている。
【0093】
実施形態の露光方法は、上述した実施形態の計測方法により、基板WF上の複数の被計測部MPの位置を計測して、被計測部MPの計測位置情報IMPを取得するとともに、上述した参照関数の中の少なくとも1つの比例係数α、βの適値を算出する。そして、取得した計測位置情報IMP、および少なくとも1つの比例係数の適値に基づいて、基板WF上に複数の被計測部MPに対して所定の位置関係で形成されている第1パターンA1の位置を推定する。
【0094】
第1パターンA1の位置は、比例係数α、βの適値を代入した参照関数と、第1パターンA1の設計上の位置データ(AX,AY)に基づいて推定する。すなわち、式(7)および式(8)、または式(15)に示した参照関数の比例係数α、βに適値を代入する。この参照関数のrjおよびθjに、j番目の第1パターンA1jの極座標における設計上の
位置(Arj,Aθj)の値をそれぞれ入力することで、その設計上の位置からのX方向の位置ずれ量Δxj、およびY方向の位置ずれ量Δyjが算出(推定)される。
【0095】
従って、j番目の第1パターンA1jのXY座標における推定位置は、j番目の第1パ
ターンA1jのXY座標における設計上の位置(AXj,AYj)に上述したΔxjおよびΔyjを加えた、推定位置(AXj+Δxj,AYj+Δyj)である。
そして、推定した第1パターンA1の推定位置に基づいて、基板WF上に、第1パターンA1に位置整合するように不図示の第2パターンを露光する。
【0096】
なお、式(24)等を用いて、基板WFの並進ずれ、回転、および一様な伸縮に伴う位置ずれ量を除去した後に、比例係数α、βの適値の決定を行った場合には、上述した第1パターンA1の推定位置(AXj+Δxj,AYj+Δyj)に対して、補正が必要である。
【0097】
この補正は、上記のように決定されたパラメータa~fの値が代入された式(24)にj番目の第1パターンA1jのXY座標における設計上の位置(AXj,AYj)を代入し
てεxjおよびεyjを算出する。そして、このεxjおよびεyjを、上述した第1パターンA1推定位置に加算すればよい。すなわち、補正後の第1パターンA1の推定位置は、推定位置(AXj+Δxj+εxj,AYj+Δyj+εyj)となる。
【0098】
実施形態の露光方法は、一例として、上述した実施形態の露光装置2を用いて行うことができる。一例として、実施形態の露光方法において基板WFに露光される第2パターンは、マスク25に形成されたパターン原版を、投影光学系22を介して基板WFに露光するものである。
【0099】
(実施形態の計測装置および露光装置についての追加説明)
実施形態の計測装置1および露光装置2についての追加事項を説明する。
制御部15は、比例係数α、βの適値を適用(代入)した参照関数による、計測位置情報IMPのフィッティング結果をベクトル図として表示させても良い。ここでベクトル図とは、図7に示したように、基板WF上の複数の被計測部MPの変形量を、それぞれの被計測部MPの基準位置MDを基準(始点)とするベクトルで表示した図である。このとき、ベクトルを表すスケールは、被計測部MPの位置を表すスケールに比べて、大きく拡大されたものであっても良い。
【0100】
表示部17に表示されるベクトル図は、フィッティングされた参照関数により算出されるそれぞれの被計測部MPの仮想の変形量を表すベクトル図であっても良い。あるいは、それぞれの被計測部MPの実際の変形量(変位ベクトルDV)と、フィッティングされた参照関数により算出されるそれぞれの被計測部MPの仮想の変形量との差分を表すベクトル図であっても良い。
【0101】
なお、制御部15は、ネットワーク回線NWを経由して、解析を行った基板WFの処理の履歴に関する情報を取得し、その履歴に関する情報と、解析部16が行った解析結果との関連を解析するようにしてもよい。例えば、基板WFが計測装置1に搬入される前に使用された、計測装置1とは異なる外部の処理装置(エッチング装置、蒸着装置、CMP(Chemical Mechanical Planarization)など)の処理パラメータと、解析部16が決定した比例係数の適値との相関を取り、当該処理装置にフィードバックして処理パラメータを変更、最適化してもよい。処理パラメータとしては、例えば、処理装置でのプロセス処理において基板WFに加える温度や、CMPにおける研磨速度などを変更、最適化してよい。このような相関性の解析とフィードバックは、必ずしも制御部15や解析部16が行う必要はなく、計測装置1や外部の処理装置と別に設けられたホストコンピュータが実行してもよい。
【0102】
更に、解析部16が決定した比例係数の適値を継続的にモニターしておき、あらかじめ設定した閾値を外れた場合には警告を発してもよい。警告によって外部の処理装置の異常を検出することができる。例えば、エッチング装置の電極の劣化(寿命)を推定することができる。また、閾値を外れた基板WFの履歴にフラグを付したりしてもよい。
【0103】
(実施形態の露光装置についての追加説明)
実施形態の露光装置2についての追加事項を説明する。
実施形態の露光装置2は、上述した実施形態の計測方法により得られた計測結果(比例係数α、β)に基づいて、基板搬送装置40(ロードガイド41、ロードアーム42、基板チャック部31)の動作状態を決定する。基板搬送装置40の動作状態とは、例えば、基板WFをステージ30上の基板チャック部31に載置する際の基板WFの基板チャック部31に対する移動速度、または基板WFと基板チャック部31との相対的な傾斜である。
【0104】
基板搬送装置40の動作状態は、基板WFを基板チャック部31に保持するための保持力の発生のタイミングであっても良い。保持力の発生のタイミングの変更は、基板チャック部31の概ね全面に渡って保持力を発生させるタイミングを基板WFの載置のタイミングに対して変更するものであっても良い。あるいは、基板チャック部31の所定の部分の保持力の発生のタイミングを他の部分の保持力の発生のタイミングに対して前後させるものであっても良い。
【0105】
これらの動作状態は、露光装置2の制御部15等に記憶されている装置定数の値を変更することにより、変更される。従って、露光装置2は、実施形態の計測方法により得られた計測結果(比例係数α、β)に基づいて、基板搬送装置40の動作を規定する装置定数を定める、ということができる。
【0106】
これらの装置定数を変更することにより、基板チャック部31に対して基板WFが吸着される状態を変更することができ、吸着による基板WFの変形の状態を変更することができる。上述したように、この装置定数は、基板WFをステージ30に載置する際の基板WFの移動速度、基板WFとステージ30との相対的な傾斜、または基板WFをステージ30に保持するための保持力発生のタイミングを決定する装置定数のいずれか一つを含む。
【0107】
なお、装置定数の変更は、基板WFをステージ30(基板チャック部31)に吸着した状態で、実施形態の計測方法により比例係数α、βを決定した後に、基板WFを基板チャック部31から除去し、再度基板WFを基板チャック部31に吸着する前に行っても良い。
【0108】
所定枚数の基板WFからなる1ロットの基板を露光する際には、最初の1枚目の基板WFにおいて上述のように決定された装置定数を用いて、2枚目以降の基板WFを露光しても良い。
【0109】
(解析装置の実施形態)
上述した露光装置2または計測装置2に含まれている解析部15は、露光装置2または計測装置2とは別の解析装置に組み込まれていても良い。
図8は、実施形態の解析装置3の構成を概略的に示す図である。解析装置3は、上述した解析部16、表示部17、出力部18、および位置算出部13に加えて、入力部19を備えている。
なお、露光装置2または計測装置2とは別に構成されている解析装置3においては、上述した位置算出部13または表示部17の少なくとも一方は含まなくても良い。
【0110】
解析装置3は、基板WF上に形成された複数の被計測部の計測された位置情報である計測位置情報IMPが入力部19から入力され、解析部16が算出した適値を出力部18から露光装置、計測装置、あるいは表示装置などの外部装置に出力する。入力部19への計測位置情報IMPの入力はネットワーク回線NWを経由して行なっても良く、外部装置との間に設けた専用の信号線を経由して行なっても良い。出力部18から外部装置への出力も、ネットワーク回線NWを経由して行なっても良く、外部装置との間に設けた専用の信号線を経由して行なっても良い。
入力部19と出力部18は入出力部として一体で構成されていても良い。
解析装置3は、解析結果としての適値だけではなく、上述した各種のベクトル図に対応するデータや、その他の処理結果も、併せて出力しても良い。
【0111】
(実施形態および変形例の解析方法の効果)
(1)実施形態または変形例の解析方法は、基板WF上に形成された複数の被計測部MPの計測された位置情報である計測位置情報IMPを用意すること、第1種ベッセル関数を用いて表された基準関数に比例係数を乗じた少なくとも1つの関数の和である参照関数を計測位置情報IMPに対してフィッティングして、少なくとも1つの比例係数の適値を算出すること、を備えている。
この構成により、基板WFの変形を基準関数に対応する変形成分に容易に分離することができ、基準関数に対応する変形モードでの変形量を解析することができる。
【0112】
(実施形態の解析装置の効果)
(2)実施形態の解析装置3は、基板WF上に形成された複数の被計測部の計測された位置情報である計測位置情報IMPを入力する入力部19と、位置計測部が計測した被計測部MPの計測位置情報IMPを解析する解析部16と、算出した比例係数の適値を少なくとも含む解析結果を外部の装置に出力する出力部18と、を備えている。そして、解析部16は、上述した実施形態または変形例の解析方法により、少なくとも1つの比例係数の適値を算出する。
この構成により、基板WFの変形を基準関数に対応する変形成分に容易に分離することができ、基準関数に対応する変形モードでの変形量を解析することができる。
【0113】
(実施形態の計測方法の効果)
(3)実施形態の計測方法は、基板WF上に形成された複数の被計測部MPの位置を計測して、被計測部MPの計測位置情報IMPを得ること、実施形態または変形例の解析方法により、第1種ベッセル関数を用いて表された基準関数に比例係数を乗じた少なくとも1つの関数の和である参照関数における、少なくとも1つの比例係数の適値を算出すること、を備えている。
この構成により、基板WFの変形を、基準関数に対応するそれぞれの変形成分毎に計測することができる。
【0114】
(実施形態の計測装置の効果)
(4)実施形態の計測装置1は、基板WF上に形成された被計測部MPの位置を計測する位置計測部10と、位置計測部10が計測した被計測部MPの計測位置情報IMPを解析する解析部16とを備え、解析部16は、実施形態または変形例の解析方法により、第1種ベッセル関数を用いて表された基準関数に比例係数を乗じた少なくとも1つの関数の和である参照関数における、少なくとも1つの比例係数の適値を算出する。
この構成により、基板WFの変形を、基準関数に対応するそれぞれの変形成分毎に計測することができる。
【0115】
(実施形態の露光方法の効果)
(5)実施形態の露光方法は、実施形態の計測方法により、基板WF上の複数の前記被計測部MPの位置を計測して、被計測部の計測位置情報IMPを取得するとともに、第1種ベッセル関数を用いて表された基準関数に比例係数を乗じた少なくとも1つの関数の和である参照関数における、少なくとも1つの比例係数の適値を算出する。そして、取得した計測位置情報IMP、および少なくとも1つの比例係数の適値に基づいて、基板WF上に複数の被計測部MPに対して所定の位置関係で形成されている第1パターンA1の位置を推定し、推定した前記第1パターンの位置に基づいて、基板WF上に第2パターンを露光する。
この構成により、変形した基板WFの上に形成されている第1パターンA1に対して、位置を整合させて第2パターンを露光することができる。
【0116】
(実施形態の露光装置の効果)
(6)実施形態の露光装置2は、1つの観点からは、基板WF上に形成された被計測部MPの位置を計測する位置計測部10と、基板WF上に所望のパターンを露光する露光光学系20と、を備え、実施形態の露光方法を行う。
この構成により、変形した基板WFの上に被計測部MPと所定の位置関係で形成されている第1パターンA1に対して、位置を整合させて第2パターンを露光することができる。
(7)実施形態の露光装置2は、他の1つの観点からは、被計測部MPが形成された基板WFを載置して移動するステージ30と、基板WFを搬送しステージ30に載置する基板搬送装置40とを備えて基板WF上に所望のパターンを露光する露光装置2において、実施形態の計測方法により得られた計測結果に基づいて、基板搬送装置40の動作を規定する装置定数を定める。
この構成により、基板WFの変形を低減させた状態で、基板WFをステージ30に載置することができ、基板WFの上に形成されている第1パターンA1に対して、位置をより整合させて第2パターンを露光することができる。
【0117】
本発明は以上の内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。本実施形態は、上記した態様の全て又は一部を組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0118】
1:計測装置、2:露光装置、3:解析装置、10:位置計測部、11:マーク検出部、12:エンコーダーヘッド、13:位置算出部、15:制御部、16:解析部、17:表示部、18:出力部、20:露光光学系、21:照明光学系、22:投影光学系、23:エンコーダーヘッド、24:マスクステージ、25:マスク、40:基板搬送装置、WF:基板、MP:被計測部、MM:計測位置、MD:基準位置、DV:変位ベクトル、IRP:基準位置情報、IMP:計測位置情報
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8