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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】半導体光デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/22 20060101AFI20241210BHJP
   H01S 5/323 20060101ALI20241210BHJP
   H01S 5/343 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
H01S5/22
H01S5/323
H01S5/343
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023525303
(86)(22)【出願日】2021-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2021021325
(87)【国際公開番号】W WO2022254682
(87)【国際公開日】2022-12-08
【審査請求日】2023-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】鶴谷 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】松尾 慎治
(72)【発明者】
【氏名】藤井 拓郎
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-041562(JP,A)
【文献】特開2011-091164(JP,A)
【文献】特開2011-134870(JP,A)
【文献】特開2003-069153(JP,A)
【文献】国際公開第2005/093919(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0369700(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に形成された下部クラッド層と、
前記下部クラッド層の上に形成された第1導電型のIII-V族化合物半導体からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の上に形成されたIII-V族化合物半導体からなる活性層と、
前記活性層の上に形成されたIII-V族化合物半導体からなる第2半導体層と、
前記第2半導体層の上面に形成された回折格子からなる共振器と、
前記活性層の形成領域の上方に形成され、前記活性層の延在方向に延在するメサ形状とされた第2導電型のIII-V族化合物半導体からなる第3半導体層と、
前記第3半導体層の両側面を覆って前記第2半導体層の上に形成された上部クラッド層と、
前記第1半導体層に電気的に接続する第1電極と、
前記第3半導体層に電気的に接続する第2電極と
を備え、
前記第3半導体層のメサ幅は、前記活性層の幅より小さくされ
前記第1半導体層および前記第3半導体層は、InPから構成され、
前記第2半導体層は、InGaAsPから構成されていることを特徴とする半導体光デバイス。
【請求項2】
基板の上に形成された下部クラッド層と、
前記下部クラッド層の上に形成された第1導電型のIII-V族化合物半導体からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の上に形成されたIII-V族化合物半導体からなる活性層と、
前記活性層の上に形成されたIII-V族化合物半導体からなる第2半導体層と、
前記第2半導体層の上面に形成された回折格子からなる共振器と、
前記活性層の形成領域の上方に形成され、前記活性層の延在方向に延在するメサ形状とされた第2導電型のIII-V族化合物半導体からなる第3半導体層と、
前記第3半導体層の両側面を覆って前記第2半導体層の上に形成された上部クラッド層と、
前記第1半導体層に電気的に接続する第1電極と、
前記第3半導体層に電気的に接続する第2電極と
を備え、
前記第3半導体層のメサ幅は、前記活性層の幅より小さくされ、
前記活性層の側面に形成された、光が散乱するまたは放射する構造をさらに備えることを特徴とする半導体光デバイス。
【請求項3】
請求項1または2記載の半導体光デバイスにおいて、
前記活性層によるメサの両側面に接して前記第1半導体層の上に形成された非導電性または低導電性のIII-V族化合物半導体からなる第4半導体層および第5半導体層をさらに備える
ことを特徴とする半導体光デバイス。
【請求項4】
請求項3記載の半導体光デバイスにおいて、
前記第4半導体層および前記第5半導体層は、InPから構成されていることを特徴とする半導体光デバイス。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の半導体光デバイスにおいて、
前記第2電極は、コンタクト層を介して前記第3半導体層の上に形成されていることを特徴とする半導体光デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜構造特有の強い光閉じ込めと、縦方向からの効率的な電流注入の両立を可能とする構造として、薄膜構造の活性領域上部に細いメサ幅(典型的には400nm以下)の電流注入用メサを有する、縦型薄膜構造が提案されている。なお、薄膜構造とは、例えば、厚さ250~500nm程度のIII-V族半導体薄膜が、SiO2や空気などの低屈折率な絶縁材料によって取り囲まれた構造である。
【0003】
通常の薄膜構造では、埋め込み活性領域の左右に、例えばInPからなるn型の半導体層とp型の半導体層を備え、これらの双方から活性領域にキャリアが注入される横型が広く採用されている(非特許文献1~3参照)。活性領域としては、例えばInGaAsP,InGaAlAsなどからなる多重量子井戸構造が用いられている。
【0004】
一方、前述した縦型薄膜構造によれば、活性領域上部の電流注入用の第1メサを、例えば400nm程度以下の細い幅にすることで、活性領域断面での光のモードが第1メサに吸収されることを防ぎ、縦方向からの電流注入を可能としつつも、横型と比較して遜色のない高い光閉じ込めを得ることができる。以下では便宜上、活性領域断面をxy平面にとり、横方向をx方向、縦方向をy方向と定義する。この定義においては、薄膜構造中を伝搬する光の光軸方向はz方向となる。
【0005】
このような活性領域への電流注入可能な薄膜構造の代表的な応用例は、非特許文献1~3でも実現されているような、活性領域断面に表面回折格子を有する半導体レーザダイオード(LD)である。これらのLDでは、活性領域中を伝搬する光のモードを、ブラッグ反射によってz方向に閉じ込めて共振器を形成することを目的として回折格子が形成される。特に典型的な構造は、非特許文献1の分布帰還型(DFB)レーザや非特許文献2の分布反射型(DR)レーザであり、これらは安定的なシングルモード発振が得られる構造として広く用いられている。
【0006】
ここで、横型薄膜構造においては、活性領域が形成される半導体薄膜の上部に第1メサが存在しないため、例えばInPなどからなる薄膜の上面をエッチングすることで、活性領域への強い光閉じ込めを維持しながら、表面回折格子を形成することができる。この構造では、薄膜構造付近での光閉じ込めが強く、また表面回折格子の凸部分(例えばInP)と凹部分(例えばSiO2や空気)の屈折率差が大きい。このため、横型薄膜構造では、典型的には、20~30nm程度の比較的浅い掘り込みによって、数百cm-1~1000cm-1に達するような高い結合定数κの回折格子を得ることができる(非特許文献3参照)。強い光閉じ込めと高い結合定数を両立することは、非特許文献3でも示されているように、消費電力の小さな短共振器レーザを実現する上で特に重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】S. Matsuo, T. Fujii, K. Hasebe, K. Takeda, T. Sato, and T. Kakitsuka , "Directly modulated buried heterostructure DFB laser on SiO2/Si substrate fabricated by regrowth of InP using bonded active layer", OPTICS EXPRESS, vol. 22, no.10, pp. 12139-12147, 2014.
【文献】S. Yamaoka et al., "Directly modulated membrane lasers with 108 GHz bandwidth on a high-thermal-conductivity silicon carbide substrate", Nature Photonics, vol. 15 pp. 28-35, 2021.
【文献】E. Kanno et al., "Twin-mirror membrane distributed-reflector lasers using 20-μm-long active region on Si substrates", OPTICS EXPRESS, vol. 26, no. 2, pp. 1268-1277, 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方で、縦型薄膜構造においては、第1メサが存在するため、横型薄膜構造のそれと同一の表面回折格子を形成することはできない。このため、縦型薄膜構造においては、半導体薄膜下方のアンダークラッド(例えばSiO2)に埋め込まれた導波路(例えばSi導波路)のモードを半導体薄膜側のモードと結合させ、埋め込み導波路側に回折格子を形成する、などの技術が提案されている。
【0009】
しかしながら、この構造の場合、回折格子の形成場所が活性領域から遠く離れているため、高い結合定数を得るためには、埋め込み導波路側に光が強く局在化したような断面モード(薄膜側のモードと埋め込み導波路側のモードが結合することで新たに形成されるスーパーモード)を用いる必要があり、活性領域への強い光閉じ込めを得ることができない。このように、従来の縦型薄膜構造においては、横型構造では可能であった強い光閉じ込めと高い結合定数の両立が困難であった。
【0010】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、縦型薄膜構造の半導体光デバイスで、強い光閉じ込めと高い結合定数とが両立できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る半導体光デバイスは、基板の上に形成された下部クラッド層と、下部クラッド層の上に形成された第1導電型のIII-V族化合物半導体からなる第1半導体層と、第1半導体層の上に形成されたIII-V族化合物半導体からなる活性層と、活性層の上に形成されたIII-V族化合物半導体からなる第2半導体層と、第2半導体層の上面に形成された回折格子からなる共振器と、活性層の形成領域の上方に形成され、活性層の延在方向に延在するメサ形状とされた第2導電型のIII-V族化合物半導体からなる第3半導体層と、第3半導体層の両側面を覆って第2半導体層の上に形成された上部クラッド層と、第1半導体層に電気的に接続する第1電極と、第3半導体層に電気的に接続する第2電極とを備え、第3半導体層のメサ幅は、活性層の幅より小さくされている。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、活性層の上下方向に電流が印加される縦型薄膜構造の半導体光デバイスにおいて、活性層と第3半導体層との間に、これらとは異なる屈折率の第2半導体層を設け、第2半導体層に回折格子を形成したので、縦型薄膜構造の半導体光デバイスで、強い光閉じ込めと高い結合定数とが両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る半導体光デバイスの構成を示す断面図である。
図2図2は、図1に示した半導体光デバイスの構造の各種特性を計算するために仮定した構造を示す構成図である。
図3図3は、図2の(a)に示した構造を用いて計算したTEn0モード(n=0,1,2)の強度分布を示す分布図である。
図4図4は、図2の(a)の構造を用いて計算した、各モードの等価屈折率(a)、回折格子のブラッグ波長(b)、活性層104(MQW領域全体)への光閉じ込め係数(c)を示す特性図である。
図5図5は、図2の(a),図2の(b)各々における等価屈折率neq,1,neq,2を用いて求めた回折格子の結合定数κを示す特性図である。
図6図6は、本発明の実施の形態に係る他の半導体光デバイスの構成を示す断面図である。
図7図7は、図6に示した半導体光デバイスの構造の各種特性を計算するために仮定した構造を示す構成図である。
図8図8は、図7の(a)の構造を用いて計算した各モードの強度分布を示す分布図である。
図9図9は、図7の(a)の構造を用いて計算した各モードの等価屈折率 neq(a)、回折格子のブラッグ波長λB(b)、活性層104(MQW領域全体)への光閉じ込め係数ΓMQW(c)を示す特性図である。
図10図10は、図7の(a),図7の(b)各々における等価屈折率neq,1,neq,2を用いて求めた回折格子の結合定数κを示す特性図である。
図11図11は、本発明の実施の形態に係る他の半導体光デバイスの構成を示す断面図である。
図12図12は、図11に示した半導体光デバイスの構造の各種特性を計算するために仮定した構造を示す構成図である。
図13図13は、図12の構造を用いて、第3半導体層107のメサ幅を200nmの1水準、活性層104aのメサ幅を800nm,2.0μm,4.0μmの3水準として計算した各モードの強度分布である。
図14図14は、図12の構造を用いて計算した各モードの等価屈折率を示す特性図である。
図15図15は、図12の構造を用いて計算した各モードの回折格子のブラッグ波長を示す特性図である。
図16図16は、図12の構造を用いて計算した各モードの活性層104(MQW領域全体)への光閉じ込め係数を示す特性図である。
図17図17は、図12の構造を用いて求めた回折格子の結合定数κを示す特性図である。
図18図18は、本発明の実施の形態に係る他の半導体光デバイスの構成を示す断面図である。
図19図19は、図18に示した半導体光デバイスの構造の各種特性を計算するために仮定した構造を示す構成図である。
図20図20は、第3半導体層107幅を200nmに固定し、活性層104a(第2半導体層105)のメサ幅を0.8μmとした場合の回折格子の結合定数κを示す特性図である。
図21図21は、第3半導体層107幅を200nmに固定し、活性層104a(第2半導体層105)のメサ幅を2.0μmとした場合の回折格子の結合定数κを示す特性図である。
図22図22は、第3半導体層107幅を200nmに固定し、活性層104a(第2半導体層105)のメサ幅を4.0μmとした場合の回折格子の結合定数κを示す特性図である。
図23図23は、本発明の実施の形態に係る他の半導体光デバイスの構成を示す断面図である。
図24図24は、本発明の実施の形態に係る半導体光デバイスの構成を示す断面図である。
図25図25は、図2および図7の埋め込み構造のパラメータを用いて、回折格子の掘り深さを20nmとして計算した、基底モードの閾値材料利得、および高次モードとの利得損失マージンを示す特性図である。
図26図26は、図2および図7の埋め込み構造のパラメータを用いて、回折格子の掘り深さを30nmとして計算した、基底モードの閾値材料利得、および高次モードとの利得損失マージンを示す特性図である。
図27図27は、図12図19のMQW構造の活性層104によるリッジ構造のパラメータを用いて、活性層104のメサ幅を0.8μmとし、回折格子の掘り深さを20nmとして計算した基底モードの、閾値材料利得および高次モードとの利得損失マージンを示す特性図である。
図28図28は、図12図19のMQW構造の活性層104によるリッジ構造のパラメータを用いて、活性層104のメサ幅を0.8μmとし、回折格子の掘り深さを30nmとして計算した基底モードの、閾値材料利得および高次モードとの利得損失マージンを示す特性図である。
図29図29は、図12図19のMQW構造の活性層104によるリッジ構造のパラメータを用いて、活性層104のメサ幅を2.0μmとし、回折格子の掘り深さを20nmとして計算した基底モードの、閾値材料利得および高次モードとの利得損失マージンを示す特性図である。
図30図30は、図12図19のMQW構造の活性層104によるリッジ構造のパラメータを用いて、活性層104のメサ幅を2.0μmとし、回折格子の掘り深さを30nmとして計算した基底モードの、閾値材料利得および高次モードとの利得損失マージンを示す特性図である。
図31図31は、図12図19のMQW構造の活性層104によるリッジ構造のパラメータを用いて、活性層104のメサ幅を4.0μmとし、回折格子の掘り深さを20nmとして計算した基底モードの、閾値材料利得および高次モードとの利得損失マージンを示す特性図である。
図32図32は、図12図19のMQW構造の活性層104によるリッジ構造のパラメータを用いて、活性層104のメサ幅を4.0μmとし、回折格子の掘り深さを30nmとして計算した基底モードの、閾値材料利得および高次モードとの利得損失マージンを示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態に係る半導体光デバイスについて図1を参照して説明する。この半導体光デバイスは、まず、基板101の上に形成された下部クラッド層102と、下部クラッド層102の上に形成された第1導電型のIII-V族化合物半導体からなる第1半導体層103と、第1半導体層103の上に形成されたIII-V族化合物半導体からなる活性層104とを備える。
【0015】
また、この半導体光デバイスは、活性層104の上に形成されたIII-V族化合物半導体からなる第2半導体層105と、第2半導体層105の上面に形成された回折格子からなる共振器106と、活性層104の形成領域の上方に形成され、活性層104の延在方向に延在するメサ形状とされた第2導電型のIII-V族化合物半導体からなる第3半導体層107とを備える。第3半導体層107のメサ幅は、活性層104の幅より小さくされている。
【0016】
共振器106は、第2半導体層105の上面を、微細加工することで形成された凹凸のパターンからなる回折格子から構成されている。第2半導体層105と第3半導体層107とを、各々異なる屈折率とすることで、第2半導体層105の上面の凹凸のパターンは、凸の部分が第2半導体層105からなり、凹の部分が第3半導体層107からなる回折格子となる。この例では、第2半導体層105の上には、後述する上部クラッド層108も形成されており、この領域では、第2半導体層105の上面の凹凸のパターンは、凸の部分が第2半導体層105からなり、凹の部分が上部クラッド層108からなる回折格子となる。
【0017】
また、この半導体光デバイスは、第3半導体層107の両側面を覆って第2半導体層105の上に形成された上部クラッド層108と、第1半導体層103に電気的に接続する第1電極131と、第3半導体層107に電気的に接続する第2電極132とを備える。例えば、第1電極131は、活性層104などのメサが形成されていない領域の第1半導体層103の上に接して形成されている。また、例えば、第2電極132は、上部クラッド層108の上に形成されて、第3半導体層107に電気的に接続する。
【0018】
また、実施の形態に係る半導体光デバイスは、活性層104によるメサの両側面に接して第1半導体層103の上に形成された、非導電性または低導電性のIII-V族化合物半導体からなる第4半導体層121および第5半導体層122をさらに備える。また、活性層104、第4半導体層121および第5半導体層122の上には、第4半導体層121および第5半導体層122と同じIII-V族化合物半導体からなる第6半導体層109が形成されている。また、この半導体光デバイスでは、第2電極132が、コンタクト層110を介して第3半導体層107の上に接続(形成)されている。
【0019】
実施の形態に係る半導体光デバイスは、回折格子による共振器106を用いたいわゆる分布帰還型(Distributed Feedback:DFB)の半導体レーザである。回折格子は、活性層104の共振方向(導波方向)に沿って分布する構成となっている。
【0020】
基板101は、例えば、シリコンから構成することができる。下部クラッド層102は、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、シリコンカーバイド、ダイヤモンドなどの活性層104を構成する半導体より低屈折率な材料から構成することができる。第1半導体層103は、例えば、n型のInPから構成することができる。この場合、第1導電型は、n型であり、第2導電型は、p型である。
【0021】
活性層104は、例えば、各が組成の異なるInGaAlAs、InGaAs、InGaAsPなどからなる井戸層と障壁層とによる多重量子井戸構造(MQW)とすることができる。また、活性層104は、バルクのInGaAlAs、InGaAs、InGaAsPなどの化合物半導体から構成することもできる。第6半導体層109は、例えば、p型のInPから構成することができる。この場合、第2導電型はp型となる。また、第2半導体層105は、p型のInGaAsPから構成することができる。
【0022】
第3半導体層107は、例えば、p型のInPから構成することができる。また、第3半導体層107は、例えば、n型のInPから構成することができる。第4半導体層121および第5半導体層122は、例えば、i型のInP(i-InP)から構成することができる。また、第4半導体層121および第5半導体層122は、Feをドープすることなどにより高抵抗とされた半絶縁性のInP(SI-InP)から構成することもできる。
【0023】
上部クラッド層108は、例えば、酸化シリコン、窒化シリコンなどの活性層104を構成する半導体より低屈折率な材料から構成することができる。また、上部クラッド層108は、ベンゾシクロブテン(BCB)などの樹脂から構成することもできる。また、上部クラッド層108は、空気とすることもできる。上部クラッド層108は、基板101から見て、上部クラッド層として機能する。実施の形態に係る半導体光デバイスは、活性層104をコアとした光導波路の構造となっている。
【0024】
第2半導体層105は、上下の層とは異なる屈折率のIII-V族化合物半導体から構成することが重要である。また、下層を構成するIII-V族化合物半導体に対してほぼ格子整合してエピタキシャル成長可能なIII-V族化合物半導体から構成することが好ましい。
【0025】
本発明は、いわゆる縦型薄膜構造の半導体光デバイス(レーザダイオード)において、強い光閉じ込めと高い結合定数を両立する構造とすることを目的としている。またこれに加えて、特に、活性層104の断面が、シングルモード条件を満たさず複数の横モードが発振し得る場合において、高次モードの発振を抑制して基底モードのみを安定的にシングルモード発振させるような構造の提供を目的とする。
【0026】
上述した実施の形態に係る半導体光デバイスの構造の各種特性を計算するために仮定した具体的な構造例を図2に示す。なお、以下ではyz断面で見たときの回折格子の形状として矩形を仮定する。
【0027】
図2の(a)は、共振器106とする矩形回折格子における凸部分でのxy断面、図2の(b)は、凹部分でのxy断面である。図2からわかるように、共振器106を構成する回折格子では、第3半導体層107の第1メサの部分では、第2半導体層105が凸に、第3半導体層107が凹になる。一方、第1メサのx方向外側では、第2半導体層105が凸に、上部クラッド層108が凹になる。
【0028】
一般に、InGaAsPなどのIII-V族混晶は、InPなどよりも高い屈折率を有しており、これらの材料により回折格子を構成することが、本発明の特徴である高い結合定数に寄与している。以下に示す計算では、いずれの構造においても、動作波長(レーザの発振波長)として1310nm(通信用光源の発振波長として典型的な値)を仮定し、第2半導体層105を、バンドギャップ波長が1200nmでInPに格子整合したInGaAsPから構成し、第3半導体層107をInPから構成している。
【0029】
バンドギャップ波長が動作波長よりも十分に短いことから、第2半導体層105では、バンド間遷移による光の発生や吸収は起こらない。InGaAsPの材料屈折率は約3.407と計算され、InPの材料屈折率は各々約3.185と計算され、有意な屈折率差を有している。
【0030】
また、第3半導体層107の側方では、第3半導体層107の上に形成された回折格子の凹部分が、上部クラッド層108による低屈折率材料となるため、さらに大きな屈折率差が得られ、これも、回折格子における高い結合定数に大きく寄与する。なお、この例における1310nmという波長の仮定は、具体例の計算のための便宜的なものであり、本発明の適用波長域はこれに限定されない。例えば、同じく通信用波長帯として典型的な1550nm帯においても本発明は同様に適用可能である。
【0031】
図3は、図2の(a)に示した構造(回折格子凸部分)を用いて計算したTEn0モード(n=0,1,2)の強度分布である。TE00モードが発振させるべき基底モードであり、nが1以上のモードが発振を抑制すべき高次モードである。また、第3半導体層107のメサ幅W1として、活性層104(薄膜構造)中への強い光閉じ込めを得る上での典型的な値である100nm、200nm、300nm,400nmの4水準を並べて示している。
【0032】
MQWからなる活性層104のメサ幅が800nmと比較的狭くなっていることから、高次モードの活性層104への光閉じ込めが抑えられていることがわかる。
【0033】
図4は、図2の(a)の構造を用いて計算した、各モードの等価屈折率(a)、回折格子のブラッグ波長(b)、活性層104(MQW領域全体)への光閉じ込め係数(c)を示している。横軸は、第3半導体層107のメサ幅である。ここで、図4の(b)のブラッグ波長は、以下の式から求めたものである。
【0034】
【数1】
【0035】
これはすなわち、基底モードのブラッグ波長が1310nmになるようなピッチで回折格子を形成する、ということを想定している。高次モードの発振を抑える上では、各モード間でのブラッグ波長の離調が大きいことが望ましい。図4の(c)より、やはり基底モードの光閉じ込めが高次モードよりも明らかに大きくなっていることがわかる。このこともまた、後述するように、高次モードの発振を抑える上で重要である。
【0036】
図5は、図2の(a),図2の(b)各々における等価屈折率neq,1,neq,2を用いて求めた回折格子の結合定数である。計算にあたっては、デューティ比(凸部分と凹部分のz方向の長さの比率)1:1の矩形回折格子の結合定数を与える以下の式を用いた。
【0037】
【数2】
【0038】
図5の横軸は、回折格子の掘り込み深さ(凸部分と凹部分の高さの差分)である。図5の(a)より、例えば、第3半導体層107のメサ幅が200nmの場合、回折格子の掘り込み深さ(凹部の深さ)20nm,30nmで、各々約600cm-1,900cm-1程度の結合定数が基底モードにおいて得られていることがわかる。その上で、既に図4の(c)に示したように活性層104への光閉じ込め係数は、0.4を超える大きな値となっており、強い光閉じ込めと高い結合定数が両立されていることがわかる。
【0039】
一方で、図5の(b),図5の(c)より、高次モードにおいてはさらに大きな結合定数が得られていることがわかる。高次モードの発振を抑制する上では、基底モードのみが大きな結合定数を有するようにすることが望ましい。本発明では、これを達成するための構造として、図7に示すような構造を提案する。この半導体光デバイスは、図1を用いて説明した半導体光デバイスの構造における第2半導体層105の幅を、活性層104の幅と同程度とした第2半導体層105aとし、この部分にのみ回折格子を形成して共振器106aとした構造である。
【0040】
本構造を採用する副次的な効果として、第3半導体層107から活性層104へのキャリア注入において電流狭窄が起こり、より効率的に電流注入が行えるという利点が得られる。図7の(a),図7の(b)は、図6を用いて説明した半導体光デバイスの各種特性を計算するために仮定した具体的な構造例であり、第2半導体層105aの幅が活性層104幅に等しい、という点以外は、図2(a),図2(b)と同一の構造である。
【0041】
図8は、図7の(a)の構造を用いて計算した各モードの強度分布である。また、図9は、図7の(a)の構造を用いて計算した各モードの等価屈折率 neq(a)、回折格子のブラッグ波長λB(b)、活性層104(MQW領域全体)への光閉じ込め係数ΓMQW(c)である。図9の(c)より、依然として基底モードが高次モードよりも有意に大きな光閉じ込め係数を有していることがわかる。
【0042】
図10は、図5と同様に、図7の(a),図7の(b)各々における等価屈折率neq,1,neq,2を用いて求めた回折格子の結合定数κである。図10の(a)より、例えば第3半導体層107のメサ幅が200nmの場合、回折格子の掘り込み深さ20nm,30nmで各々約500cm-1,800cm-1程度の結合定数が基底モードにおいて得られていることがわかる。これは、図5の(a)と比較するとやや低くなってはいるが、掘り込み深さ20nm~30nmの回折格子の結合定数としては依然として高い値である。
【0043】
一方で、図10の(b),図10の(c)より、高次モードの結合定数は、図5の(b),図5の(c)から大きく低下しており、結果として、基底モードのそれよりも有意に低い値となっていることがわかる。従って、図6を用いて説明した半導体光デバイスとすることで、基底モードの結合定数は、図1を用いて説明した半導体光デバイスのそれと同程度の高い水準に保ちつつ、高次モードの結合定数のみを効果的に低減することができる。
【0044】
ここまでは、ベースとなる縦型薄膜構造として、活性層104がInPなどのパッシブな、第4半導体層121、第5半導体層122、および第6半導体層109の中に埋め込まれた構造を仮定してきたが、これ以外の縦型薄膜構造として、図11に示すような構造も考えられる。この半導体光デバイスは、活性層104がパッシブ半導体中に埋め込まれておらず、第2半導体層105および活性層104aによってメサ形状が形成された構造である。
【0045】
図1図6を用いて説明した半導体光デバイスのような埋め込み構造と比較したとき、図11に示す半導体光デバイスの構造を用いる利点として、以下のことが挙げられる。
【0046】
[利点1]
活性層104aを埋め込むための結晶再成長工程が不要であり、作製がより簡便である。
[利点2]
パラレルな電流リークパスとして振る舞い得るパッシブな半導体層が存在せず、効率的な電流注入が可能である。
【0047】
図11に例示する半導体光デバイスの各種特性を計算するために仮定した具体的な構造例を図12に示す。なお、図12で示している構造は、回折格子の凸部分におけるxy断面構造であり、回折格子の凹部分においては、図2の(b)などと同様に、第2半導体層105の上面を掘り込む(すなわち、回折格子の幅が、活性層104a,第2半導体層105のメサ幅に等しい)とする。
【0048】
図13は、図12の構造において、第3半導体層107のメサ幅を200nmの1水準、活性層104aのメサ幅を800nm,2.0μm,4.0μmの3水準として計算した各モードの強度分布である。これらの強度分布からもわかるように、活性層104aをリッジ構造とした半導体光デバイスでは、活性層104a、第2半導体層105の側面が低屈折率な上部クラッド層108と接しているため、x方向においても強い光閉じ込めが起こり、基底モードだけでなく高次モードも活性層104aの中に強く閉じ込められる。
【0049】
図14図15図16は、各々、図12の構造を用いて計算した各モードの等価屈折率、回折格子のブラッグ波長、活性層104(MQW領域全体)への光閉じ込め係数である。
【0050】
いずれの図においても、第3半導体層107のメサ幅として100nm、200nm、300nm、400nmの4水準を仮定し、また横軸に、活性層104aのメサ幅をとった。図14図15より、活性層104のメサ幅が広くなるにつれて、高次モードの等価屈折率が基底モードのそれに近しくなっていき、ブラッグ波長の離調が小さくなっていくことがわかる。例えば、第3半導体層107のメサ幅200nm、活性層104のメサ幅2.0μmの場合、基底モードとTE10モードのブラッグ波長の離調は、30nm程度となっている。これは活性層104にMQWを用いる場合の離調としては十分に大きな値とは言えず(すなわち、いずれのブラッグ波長においても同程度の利得が得られる可能性があり)、光閉じ込めや結合定数で有意な差を稼げない場合、マルチモード発振の可能性が生じてしまう。
【0051】
図16より、例えば、第3半導体層107のメサ幅200nmの場合、基底モードにおいて0.5を超える非常に高い光閉じ込め係数が得られていることがわかる。しかしながら、この条件においては、同時に、活性層104aのメサ幅がある程度以上広い場合には、高次モードがさらに強い光閉じ込めを有していることがわかる。
【0052】
図17は、図12の構造を用いて図5などと同様に計算した結合定数の値である。第3半導体層107のメサ幅は200nmに固定した上で、活性層104aのメサ幅として800nm,2.0μm,4.0μmの3水準を仮定し、横軸に回折格子の堀深さをとった。いずれの活性層104aのメサ幅においても、掘り込み深さ20nm,30nmで各々約700cm-1以上,約1100cm-1以上の非常に高い結合定数が基底モードにおいて得られている。しかしながら、このとき同時に高次モードの結合定数も同程度の非常に高い値になっている。
【0053】
従って、図11の構造においては、基底モードにおいて強い光閉じ込めと高い結合定数が得られるが、同時に、高次モードも同程度の光閉じ込めおよび結合定数を有してしまう。その上で、上述のように特に活性層104aのメサ幅が広い場合には、モード間でのブラッグ波長の離調が小さくなるため、安定的にシングルモード発振を得ることが困難となり得る。このようなマルチモード性を解決するための構造として、本発明では図18のような構造を提案する。
【0054】
図18に示す半導体光デバイスは、図11の構造において、回折格子を掘る(形成する)領域を、第2半導体層105のメサ幅の全域とせず、第2半導体層105のメサ幅の方向の中心付近の適当な幅の領域のみに限定して形成した構造である。この回折格子の幅は、活性層104a(第2半導体層105)のメサ幅に対する比率によって表すことができる。活性層104a(第2半導体層105)のメサ幅が2.0μmの場合、回折格子の形成幅1.5μmは、回折格子占有率75%に対応する。
【0055】
本構造の結合定数を計算するために仮定した具体的な構造例を図19に示す。回折格子占有率として25%,50%,75%,100%を仮定した。なお、図19からも明らかなように回折格子占有率100%は、図11の構造に等しい。第3半導体層107幅を200nmに固定し、活性層104a(第2半導体層105)のメサ幅を0.8μm,2.0μm,4.0μmとした場合の結合定数を、各々図20図21図22に示す。いずれの場合においても、回折格子占有率が小さくなるにつれて全体的に結合定数が低下しているが、特に回折格子占有率50%の場合においては、基底モードの結合定数低下は限定的な一方で、高次モードの結合定数は大きく低下していることがわかる。
【0056】
回折格子占有率50%における基底モードの結合定数は、活性層104a(第2半導体層105)のメサ幅0.8μmの場合、掘り込み深さ20nm,30nmで各々約500cm-1,800cm-1弱程度となる。また、回折格子占有率50%における基底モードの結合定数は、活性層104a(第2半導体層105)のメサ幅2.0μmの場合、掘り込み深さ20nm,30nmで各々約650cm-1,1000cm-1程度となる。また、回折格子占有率50%における基底モードの結合定数は、活性層104a(第2半導体層105)のメサ幅4.0μmの場合、掘り込み深さ20nm,30nmで各々約650cm-1,800cm-1程度となっている。
【0057】
これらの値は、回折格子占有率100%の場合よりは低いが、依然として高い値である。一方で、この条件における高次モードの結合定数は、基底モードのそれよりも約100cm-1~数百cm-1程度小さくなっており、本構造によって高次モードの結合定数のみを効果的に低減できていることがわかる。なお、ここでは、回折格子占有率として25%,50%,75%,100%という4水準のみを仮定しているが、言うまでもなく本発明の適用範囲はこれらの値のみには限定されず、所望の基底モード結合定数およびモード間結合定数差が得られる範囲において、任意の値として良い。
【0058】
また、高次モードの発振を抑制するための他の構成として、図23に示すように、メサ形状としている活性層104a(第2半導体層105)側面に、光が散乱するまたは放射する構造111,112をさらに備える構成とすることが考えられる。構造111,112は、例えば、ランダムに荒れた凹凸形状、高次の側壁回折格子、などとすることができる。図13からもわかるように、リッジ構造とした活性層104aにおける基底モードは、活性層104aによるメサの中心付近に局在化する一方で、高次モードは、活性層104aによるメサの側面付近との重なりが大きい。従って、メサ形状としている活性層104aの側面に、構造111,112を備えることで、高次モードの伝搬損失のみを選択的に増大させ、その発振を抑制することができる。
【0059】
以下では、本発明の構造が特徴とする1.活性層104への強い光閉じ込め、2.回折格子の高い結合定数、3.シングルモード発振性、による効果を確認するために、具体的な実施例の一つとして、本発明を図24に示すようなλ/4シフト型のDFBレーザに適用した際の発振閾値を計算する。図24は、導波方向に平行な断面を示している。このDFBレーザは、共振器106を構成する回折格子の途中(中心)に、λ/4シフト部113を備える。
【0060】
この半導体光デバイスをz軸に沿って見たとき、活性層104の端面は適当なパッシブ導波路141,142と光学的に結合しており、この結合箇所での光の反射はないものと仮定する。なお、パッシブ導波路141,142においては電流注入用の第3半導体層107は必要でないため、図示したように第3半導体層107を適当な長さでテーパ化して終端する構造が考えられる。
【0061】
以上のようにDFB共振器外部からの反射がない理想的な状況下では、そのレーザ発振条件は以下で与えられる。
【0062】
【数3】
【0063】
ここでrL、rRは、各々、共振器106の中心のλ/4シフト部113からその左右を見込んだときのブラッグ反射による光の振幅反射率、Γは活性層104において光にゲインを与える部分(MQWの場合、各量子井戸の井戸層)の光閉じ込め係数、gはその(MQWの場合、各量子井戸の井戸層)材料利得、αiは内部損失である。
【0064】
本計算では、厚さ100nmの活性層104の中に量子井戸が6層存在する(6-QW)としてΓを求めた。また、αiは、典型的な値である10cm-1とした。式(4)~(6)からわかるように、λ/4シフト型のDFBレーザでは、回折格子のブラッグ波長λ=λBにおいて共振条件が満たされ、通常、軸方向についてはその共振モードが安定的にシングルモード発振する。本計算でもλ=λBとし、その共振モードでの発振を仮定している。
【0065】
式(4)は、共振条件と同時に利得と損失の釣り合いも表しており、これを満たす材料利得をg=gthと表して閾値材料利得と呼ぶ。利用する材料系にもよるが、例えばInGaAlAsやInGaAsPからなるMQWの場合、典型的には、gthが例えば500cm-1程度であれば十分に低い閾値で発振するとされている。従って以下では、gth=500cm-1を低発振閾値の目安とする。
【0066】
一方、シングルモード発振性の目安としては、以下の式で与えられる利得損失マージンがよく用いられる。
【0067】
【数4】
【0068】
ここで添え字の「main」,「side」は、各々発振するメインモード、それに付随するサイドモードを意味する。また式(9)は、共振器106のミラー損失を表す。利得損失マージンが大きいほど、メインモードでのシングルモード発振性が良好になっていくことが知られている。典型的には、利得損失マージンが例えば100cm-1もあればサイドモード抑圧比にして50dBを超えるような非常に良好なシングルモード性が得られると言われている。材料利得gは実際には各モードの共振波長(ブラッグ波長)に依存するが、ここでは光閉じ込め係数の差分による効果のみを考慮するために、gは共通的にメインモードが発振したときの閾値材料利得の値gth TR00になる、と仮定する。従って基底モード(TE00)と高次モード(TEn0)との間でのシングルモード性を議論する場合には、以下の式で示すものとなる。
【0069】
【数5】
【0070】
以下では、式(10)で与えられるTE00モード-TEn0モード(n=1,2)間の利得損失マージンを評価している。また、以下では全ての構造において第3半導体層107幅を200nmに固定している。
【0071】
まず、図2および図7の埋め込み構造のパラメータを用いて計算した基底モードの閾値材料利得、および高次モードとの利得損失マージンを図25図26に示す。横軸は、共振器長Lcavとなっており、実線が基底モードの閾値材料利得(左側の縦軸)、破線および点線が高次モードとの利得損失マージン(右側の縦軸)である。図25は、回折格子の掘り深さが20nmの場合、図26は30nmの場合である。いずれの図でも(a)が図2の構造に、(b)が図7の構造に対応する。
【0072】
まず、基底モードの閾値材料利得について見ると、いずれの場合においても、およそ40μm強から60μm強の短い共振器長において500cm-1の低い閾値材料利得が得られていることがわかる。このような低閾値で発振する短共振器レーザが実現可能であるのは、強い光閉じ込めおよび高い結合定数が得られているからにほかならない。一方、利得損失マージンについては、gth=500cm-1となる共振器長において、いずれの場合でも正の値が得られている。特に(b)では100cm-1以上のマージンが容易に得られることがわかる。(a)では(b)ほど大きなマージンは得られていないが、図中にも値を示したようにこれらの埋め込み構造においては高次モードとのブラッグ波長の離調が50nm以上の大きな値となっているため、(a)でも十分に良好なシングルモード性が得られると期待される。
【0073】
次に、図12図19のMQW構造の活性層104によるリッジ構造のパラメータを用いて同様に計算した基底モードの、閾値材料利得および高次モードとの利得損失マージンを図27図32に示す。図27図28では、活性層104、第2半導体層105のメサ幅が0.8μmである。図29,30では、活性層104、第2半導体層105のメサ幅が2.0μmである。図31,32では、活性層104、第2半導体層105のメサ幅が4.0μmである。また図27図29図31では回折格子の掘り深さが20nm、図28図30図32では回折格子の掘り深さが30nmである。
【0074】
まず図27図28(活性層104、第2半導体層105のメサ幅が0.8μm)を見ると、特に(b)の回折格子占有率50%の場合において、低い発振閾値と大きな利得損失マージンがバランス良く得られることがわかる。(b)でgth=500cm-1となる共振器長は、およそ50μm弱から60μm強の短い値であり、やはり低消費電力な短共振器レーザが実現可能である。
【0075】
一方で、モード間でのブラッグ波長の離調を考えると、図中にも示したように、活性層104、第2半導体層105のメサ幅が0.8μmと比較的狭いため、これによって100nm以上に非常に大きな離調が得られており、Γおよびκの差分に由来する利得損失マージンは必ずしも必要ではないと考えられる。この場合、さらなる短共振器化のために、(d)の回折格子占有率100%を採用することができる。(d)を採用した場合には、gth=500cm-1となる共振器長は、およそ40μm弱から50μmにまで短尺化される。
【0076】
次に、図29図30(活性層104、第2半導体層105のメサ幅が2.0μm)および図31図32(活性層104、第2半導体層105のメサ幅が4.0μm)では、ブラッグ波長の離調は各々約30nm、約10nm程度の比較的小さな値に留まっており、安定的なシングルモード発振のためには十分な利得損失マージンが必要と考えられる。これらのように、活性層104、第2半導体層105のメサ幅が比較的広い場合であっても、やはり(b)の回折格子占有率50%の場合において、低い発振閾値と大きな利得損失マージンがバランス良く得られることがわかる。
【0077】
一方、(d)の回折格子占有率100%では利得損失マージンが負の値となってしまっている。これはすなわち、高次モードの方が発振しやすいことを意味しており、基底モードでの安定的なシングルモード発振を得ることは困難である。このことからも、本発明が提案する図18の回折格子構造の効果が理解できる。
【0078】
(b)の場合においてgth=500cm-1となる共振器長は、活性層104、第2半導体層105のメサ幅2.0μmではおよそ40μm弱から50μm強、活性層104、第2半導体層105のメサ幅4.0μmではおよそ40μm強から50μm強となっており、やはり低発振閾値な短共振器レーザが実現可能であることがわかる。さらにそのときの利得損失マージンはいずれの場合でも十分に大きく、良好なシングルモード性が併せて得られることがわかる。
【0079】
なお、この説明では、典型的な実施例として図24に示したようなλ/4シフト型のDFBレーザを想定したが、本発明のベースとなる構造は、活性層104のxy断面における回折格子構造であるから、z軸方向まで含めたデバイス構造の適用対象はここで示した実施例に限定されず、活性層104に回折格子を有するようなデバイス構造一般に適用可能である。
【0080】
他の典型的な実施例としては以下のようなものも挙げられる。
【0081】
1.DRレーザ構造:活性層104にはシフトのない均一な回折格子を一様に形成して均一DFB構造とし、その上でリア側のパッシブ導波路に分布ブラッグ反射器(DBR)を形成することで、シングルモード発振およびフロント側のみからの光出力を可能とした構造。
【0082】
2.2セクションDFBレーザ構造:ブラッグ波長および長さの異なる2つのDFBセクションを連結することで、シングルモード発振およびフロント側とリア側での非対称な光取り出し(フロント側からより多くの光を出力させる)を可能とした構造。
【0083】
3.アポダイズドDFBレーザ構造:DFB領域における回折格子のピッチ、結合定数、等価屈折率などをz軸に沿って連続的に変化させることで、発振モード強度分布のz軸方向の偏りが小さいモードギャップ型の共振器を形成し、λ/4シフト型DFBレーザ構造で顕著な空間的ホールバーニングの影響を低減した構造。ピッチの連続的な変化は、回折格子の描画パターンによって直接的に制御可能である。結合定数の連続的な変化は、例えば回折格子の凹凸のデューティ比を変化させることで制御可能である。等価屈折率の連続的な変化は、例えば第3半導体層107の幅や活性層104の幅、第2半導体層105のメサの幅がz軸方向に沿って連続的に変化するような構造を作製することで制御可能である。
【0084】
上述した実施の形態における特徴について以下に示す。
【0085】
1.活性層104の上方に、InGaAsPなどの混晶半導体による第2半導体層105を配置することで、InPなどの第3半導体層107を構成する半導体との間での屈折率差を稼いでいる点。これによって、縦型薄膜構造でありながらも、活性層104の近傍における回折格子形成が可能となり、強い光閉じ込めと高い結合定数を両立することができる。
【0086】
2.断面構造、回折格子形状の適切な設計によってm高次モードの発振を効果的に抑制し、安定的にシングルモード発振が得られる構造を提案している点。従来、薄膜構造における表面回折格子の形成は、薄膜上面をx方向について全域掘り落としたような構造が標準的であり、高次モードの発振抑制は導波モードのカットオフによって担保されてきた。上述した実施の形態では、基底モードとの重なりのみが大きくなるような局所的な回折格子構造を新たに提案することで、カットオフ条件が満たされていないマルチモードの断面構造であっても優れたシングルモード発振性が得られるようにしている。これは、x方向の光閉じ込めが強くマルチモード性が強いMQWリッジ構造の活性層104にとって特に重要なポイントである。
【0087】
以上に説明したように、本発明によれば、活性層の上下方向に電流が印加される縦型薄膜構造の半導体光デバイスにおいて、活性層と第3半導体層との間に、これらとは異なる屈折率の第2半導体層を設け、第2半導体層に回折格子を形成したので、縦型薄膜構造の半導体光デバイスで、強い光閉じ込めと高い結合定数とが両立できるようになる。
【0088】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0089】
101…基板、102…下部クラッド層、103…第1半導体層、104…活性層、105…第2半導体層、106…共振器、107…第3半導体層、108…上部クラッド層、109…第6半導体層、110…コンタクト層、121…第4半導体層、122…第5半導体層、131…第1電極、132…第2電極。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32