(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】無線通信システム、無線通信方法、集中制御装置、および無線通信用プログラム
(51)【国際特許分類】
H04L 27/34 20060101AFI20241210BHJP
【FI】
H04L27/34
(21)【出願番号】P 2023544936
(86)(22)【出願日】2021-09-03
(86)【国際出願番号】 JP2021032441
(87)【国際公開番号】W WO2023032154
(87)【国際公開日】2023-03-09
【審査請求日】2024-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福園 隼人
(72)【発明者】
【氏名】栗山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 正文
(72)【発明者】
【氏名】宮城 利文
【審査官】北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-130071(JP,A)
【文献】特開昭59-112748(JP,A)
【文献】特開2016-174194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 27/00-27/38
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シングルキャリア多値変調方式を用いて無線通信を行う複数の基地局と端末局とを含む無線通信システムであって、
前記基地局は、
送信電力が可変の送信信号増幅器を備え、
前記送信信号増幅器の入出力特性に関する仕様を前記端末局に提供する処理と、
データ送信に用いている送信電力を前記端末局に提供する処理と、を実行するように構成されており、
前記端末局は、
前記送信電力と前記仕様とに基づいて、信号点のコンスタレーションを推定する信号点推定処理と、
受信信号の、コンスタレーション座標上の座標点を検知する処理と、
通信相手でない基地局から受ける干渉電力を検知する処理と、
前記座標点に、前記干渉電力の影響を反映させた受信点を計算する処理と、
前記受信点について、前記信号点との尤度を計算する処理と、
前記尤度の計算結果に基づいて前記受信信号が意図するシンボルを特定する処理と、を実行するように構成されている無線通信システム。
【請求項2】
前記複数の基地局の夫々に送信電力を指令する集中制御装置を更に含み、
前記端末局は、
受信信号の誤り率を計算する処理と、
前記誤り率を前記基地局に提供する処理と、を更に実行するように構成されており、
前記集中制御装置は、
前記複数の基地局
の夫々について設定される送信電力の
組み合わせを変更する処理と、
前記基地局を介して、前記
組み合わせの夫々に対応する前記誤り率を収集する誤り率収集処理と、
収集した前記誤り率に基づいて、前記複数の基地局の夫々に与える送信電力の指令を決定する指令決定処理と、を実行するように構成されている請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記誤り率収集処理は、前記集中制御装置の配下に属する前記基地局が関わる全ての通信についての誤り率を収集する処理を含み、
前記指令決定処理は、
前記誤り率が既定の要求を満たしているか否かを判別する処理と、
前記誤り率の全てが前記既定の要求を満たす送信電力の
組み合わせを探索する処理と、
当該探索の結果得られた
組み合わせに従って、前記複数の基地局に送信電力を指令する処理と、を含む請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記誤り率収集処理は、前記複数の基地局で取り得る送信電力の
組み合わせの全てについて前記誤り率を収集し、
前記指令決定処理は、
前記誤り率の全てが前記既定の要求を満たす送信電力の
組み合わせのうち、既定の規則に従って最適な
組み合わせを選択する処理と、
当該最適な
組み合わせに従って、前記複数の基地局に送信電力を指令する処理と、を更に含む請求項3に記載の無線通信システム。
【請求項5】
シングルキャリア多値変調方式を用いて無線通信を行う複数の基地局と端末局とを用いる無線通信方法であって、
前記基地局は、送信電力が可変の送信信号増幅器を備え、
前記送信信号増幅器の入出力特性に関する仕様を前記基地局から前記端末局に提供するステップと、
前記基地局がデータ送信に用いている送信電力を前記端末局に提供するステップと、
前記端末局が、前記送信電力と前記仕様とに基づいて、信号点のコンスタレーションを推定する信号点推定ステップと、
前記端末局が、受信信号のコンスタレーション座標上の座標点を検知するステップと、
前記端末局が、通信相手でない基地局から受ける干渉電力を検知するステップと、
前記端末局が、前記座標点に、前記干渉電力の影響を反映させた受信点を計算するステップと、
前記端末局が、前記受信点について、前記信号点との尤度を計算するステップと、
前記端末局が、前記尤度の計算結果に基づいて前記受信信号が意図するシンボルを特定するステップと、
を含む無線通信方法。
【請求項6】
集中制御装置が、前記複数の基地局の夫々に送信電力を指令するステップと、
前記端末局
が、受信信号の誤り率を計算するステップと、
前記集中制御装置が、前記複数の基地局
の夫々について設定される送信電力の
組み合わせを変更するステップと、
前記集中制御装置が、前記
組み合わせの夫々に対応する前記誤り率を収集するステップと、
前記集中制御装置が、収集した前記誤り率に基づいて、前記複数の基地局の夫々に与える送信電力の指令を決定するステップと、
を含む請求項5に記載の無線通信方法。
【請求項7】
シングルキャリア多値変調方式を用いて無線通信を行う複数の基地局と端末局とを含む無線通信システムを制御する集中制御装置であって、
前記基地局は、送信電力が可変の送信信号増幅器を備え、前記送信信号増幅器の入出力特性に関する仕様を前記端末局に提供する処理と、データ送信に用いている送信電力を前記端末局に提供する処理と、を実行するように構成されており、
前記端末局は、前記送信電力と前記仕様とに基づいて、信号点のコンスタレーションを推定する処理と、受信信号の、コンスタレーション座標上の座標点を検知する処理と、通信相手でない基地局から受ける干渉電力を検知する処理と、前記座標点に、前記干渉電力の影響を反映させた受信点を計算する処理と、前記受信点について、前記信号点との尤度を計算する処理と、前記尤度の計算結果に基づいて前記受信信号が意図するシンボルを特定する処理と、受信信号の誤り率を計算する処理と、を実行するように構成されており、
前記複数の基地局
の夫々について設定される送信電力の
組み合わせを変更する処理と、
前記
組み合わせの夫々に対応する前記誤り率を収集する処理と、
収集した前記誤り率の全てが既定の要求を満たすように、前記複数の基地局の夫々に与える送信電力の指令を決定する処理と、を実行するように構成されている集中制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の集中制御装置を実現するための無線通信用プログラムであって、
前記集中制御装置が備える演算処理ユニットに、
前記複数の基地局
の夫々について設定される送信電力の
組み合わせを変更する処理と、
前記
組み合わせの夫々に対応する前記誤り率を収集する処理と、
収集した前記誤り率の全てが既定の要求を満たすように、前記複数の基地局の夫々に与える送信電力の指令を決定する処理と、
を実行させるプログラムを含む無線通信用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、無線通信システム、無線通信方法、集中制御装置、および無線通信用プログラムに係り、特に、シングルキャリア多値変調方式を用いる無線通信システム、無線通信方法、集中制御装置、および無線通信用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
下記の非特許文献1には、シングルキャリア多値変調方式を用いる無線通信システムに関する技術が開示されている。シングルキャリア多値変調方式を用いる無線通信では、送信電力を上げるほどSNR(Signal to Noise Ratio)を高めることができる。
【0003】
一方で、送信信号の増幅器は、入力電力が小さい領域では線形な入出力特性を示すが、その電力が大きい領域では、非線形な特性を示すのが一般的である。このため、無線通信においては、送信電力が上がるほど、送信信号に歪みが生じ易くなる。
【0004】
上記の非特許文献1は、このような歪みの影響を回避するために、送信電力を、増幅器の線形領域に収める技術を開示している。この場合、送信信号に歪みが重畳しないため、受信装置において正しく信号を処理することができ、データの誤送信を有効に防ぐことができる。
【0005】
また、送信電力の増大に伴う歪みの問題を回避する技術としては、下記の特許文献1に開示される技術が知られている。変調方式として、例えば、APSK(Amplitude and Phase-Shift Keying)の手法を用いる場合、入力電力が大きい領域では、AM/PM特性の変化に伴って送信信号に位相のずれが生ずる。特許文献1は、そのような位相のずれに対処する技術を開示している。
【0006】
図1は、特許文献1に開示される技術の概要を説明するための図を示す。より具体的には、
図1は、32APSKに対応するコンスタレーションを示す。32APSKでは、送信信号の振幅と位相を変化させることにより、図中に〇または●で示す32のシンボルが定義される。より詳細には、第一内周10に四個、第二内周12に十二個、そして最外周14に十六個のシンボルが定義される。
【0007】
特許文献1は、第一内周10、第二内周12、および最外周14のそれぞれに、一つ以上のパイロット信号16を配置することを開示している。パイロット信号16の位置は、送信装置と受信装置で共有されている。このため、受信装置は、現実に受信したパイロット信号16の位置と、予め共有している位置とのずれに基づいて、夫々の同心円に生じている位相のずれを検知することができる。
【0008】
そして、例えば第一内周10に属する信号を受信した場合は、その信号に、第一内周10に生じている位相ずれを反映させる。他の同心円に属する信号を受信した場合も、同様にして位相ずれを補正する。このような手法によれば、送信電力の大きな領域で、受信信号に位相ずれが生じても、そのずれを適正に補正して、データの誤送信を防ぐことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】High-Speed Satellite Mobile Communications: Technologies and Challenges, MOHAMED IBNKAHLA, QUAZI MEHBUBAR RAHMAN, AHMED IYANDA SULYMAN, HISHAM ABDULHUSSEIN AL-ASADY, JUN YUAN, AND AHMED SAFWAT, p312-339, PROCEEDINGS OF THE IEEE, VOL. 92, NO. 2, 2004年2月
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、非特許文献1の技術は、増幅器の非線形領域の活用を放棄することで歪みの問題を解決している。つまり、この技術では、増幅器に、本来の能力を十分に発揮させることができず、過剰な設備投資をすることなく大きな電力を用いたいという本質的な要求に反する事態が生ずる。
【0012】
また、送信装置および受信装置は稠密環境に置かれることがある。このような環境下では、受信装置に、通信相手の送信装置からの信号に加えて、他セルからの干渉電力が到達することがある。そして、他セルからの干渉電力が及ぶ環境下では、その影響により受信装置においてデータの誤認が生じ易くなる。上述した非特許文献1の技術は、このような干渉電力に起因する課題に、何らの解決も提供することはできない。
【0013】
特許文献1の技術では、送信装置は、受信装置に向けて、少なくとも、コンスタレーションを構成する同心円の数と同数のパイロット信号を送信する必要がある。そして、無線信号の通信路の環境は常に一定ではない。このため、そのパイロット信号は、頻繁に、好ましくはデータ通信のフロー毎に、実行する必要がある。
【0014】
特許文献1に記載の技術は、更に、変調方式として、例えばQAM(Quadrature Amplitude Modulation)が用いられると、更に多数のパイロット信号を送信する必要に迫られる。即ち、特許文献1に記載されているように、変調方式がAPSKであれば、同心円上に並ぶ複数のシンボルを、共通する一つの位相ずれで補正することができる。従って、同心円上に並ぶ複数のシンボルに対して、必要なパイロット信号の数は一つになる。
【0015】
これに対して、QAMの場合は、コンスタレーションにおけるシンボルの並びが格子状になる。例えば、4×4=16、或いは8×8=64のシンボルが、コンスタレーション上で格子状に並ぶ。この場合、幾つかのシンボルで一つのパイロット信号が共用できるとしても、全てのシンボルを適正に補正するためには、多数のパイロット信号を準備することが必要になる。
【0016】
通信のフロー毎に多数のパイロット信号を授受することになれば、必然的にデータレートは低下する。この点、特許文献1に記載の技術は、増幅器の能力に見合った大きな電力の使用を可能にするものではあるが、データレートの面では、未だ改善の余地を残すものであった。
【0017】
更に、特許文献1に記載の技術も、稠密な環境下で生ずる他セルからの干渉電力に起因する上記の課題には、何らの解決も提供することができない。
【0018】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、増幅器の非線形領域を活用しつつ、稠密環境においても、データの誤送信を生じさせず、かつ、高いデータレートを確保する無線通信システムを提供することを第1の目的とする。
【0019】
また、本開示は、増幅器の非線形領域を活用しつつ、稠密環境においても、データの誤送信を生じさせず、かつ、高いデータレートを確保する無線通信方法を提供することを第2の目的とする。
【0020】
また、本開示は、送信装置が備える増幅器に非線形領域を活用させつつ、稠密環境に置かれた複数の送信装置に対して、所望の通信品質を満たす送信電力を指示することのできる集中制御装置を提供することを第3の目的とする。
【0021】
また、本開示は、送信装置が備える増幅器に非線形領域を活用させつつ、稠密環境に置かれた複数の送信装置に対して、所望の通信品質を満たす送信電力を指示することのできる集中制御装置を実現するための無線通信用プログラムを提供することを第4の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
第1の態様は、上記の目的を達成するため、シングルキャリア多値変調方式を用いて無線通信を行う複数の基地局と端末局とを含む無線通信システムであって、
前記基地局は、
送信電力が可変の送信信号増幅器を備え、
前記送信信号増幅器の入出力特性に関する仕様を前記端末局に提供する処理と、
データ送信に用いている送信電力を前記端末局に提供する処理と、を実行するように構成されており、
前記端末局は、
前記送信電力と前記仕様とに基づいて、信号点のコンスタレーションを推定する信号点推定処理と、
受信信号の、コンスタレーション座標上の座標点を検知する処理と、
通信相手でない基地局から受ける干渉電力を検知する処理と、
前記座標点に、前記干渉電力の影響を反映させた受信点を計算する処理と、
前記受信点について、前記信号点との尤度を計算する処理と、
前記尤度の計算結果に基づいて前記受信信号が意図するシンボルを特定する処理と、を実行するように構成されていることが望ましい。
【0023】
また、第2の態様は、シングルキャリア多値変調方式を用いて無線通信を行う複数の基地局と端末局とを用いる無線通信方法であって、
前記基地局は、送信電力が可変の送信信号増幅器を備え、
前記送信信号増幅器の入出力特性に関する仕様を前記基地局から前記端末局に提供するステップと、
前記基地局がデータ送信に用いている送信電力を前記端末局に提供するステップと、
前記端末局が、前記送信電力と前記仕様とに基づいて、信号点のコンスタレーションを推定する信号点推定ステップと、
前記端末局が、受信信号のコンスタレーション座標上の座標点を検知するステップと、
前記端末局が、通信相手でない基地局から受ける干渉電力を検知するステップと、
前記端末局が、前記座標点に、前記干渉電力の影響を反映させた受信点を計算するステップと、
前記端末局が、前記受信点について、前記信号点との尤度を計算するステップと、
前記端末局が、前記尤度の計算結果に基づいて前記受信信号が意図するシンボルを特定するステップと、
を含むことが望ましい。
【0024】
また、第3の態様は、シングルキャリア多値変調方式を用いて無線通信を行う複数の基地局と端末局とを含む無線通信システムを制御する集中制御装置であって、
前記基地局は、送信電力が可変の送信信号増幅器を備え、前記送信信号増幅器の入出力特性に関する仕様を前記端末局に提供する処理と、データ送信に用いている送信電力を前記端末局に提供する処理と、を実行するように構成されており、
前記端末局は、前記送信電力と前記仕様とに基づいて、信号点のコンスタレーションを推定する処理と、受信信号の、コンスタレーション座標上の座標点を検知する処理と、通信相手でない基地局から受ける干渉電力を検知する処理と、前記座標点に、前記干渉電力の影響を反映させた受信点を計算する処理と、前記受信点について、前記信号点との尤度を計算する処理と、前記尤度の計算結果に基づいて前記受信信号が意図するシンボルを特定する処理と、受信信号の誤り率を計算する処理と、を実行するように構成されており、
前記複数の基地局に対する送信電力のパターンを変更する処理と、
前記パターンの夫々に対応する前記誤り率を収集する処理と、
収集した前記誤り率の全てが既定の要求を満たすように、前記複数の基地局の夫々に与える送信電力の指令を決定する処理と、を実行するように構成されていることが望ましい。
【0025】
また、第4の態様は、第3の態様に記載の集中制御装置を実現するための無線通信用プログラムであって、
前記集中制御装置が備える演算処理ユニットに、
前記複数の基地局に対する送信電力のパターンを変更する処理と、
前記パターンの夫々に対応する前記誤り率を収集する処理と、
収集した前記誤り率の全てが既定の要求を満たすように、前記複数の基地局の夫々に与える送信電力の指令を決定する処理と、
を実行させるプログラムを含むことが望ましい。
【発明の効果】
【0026】
第1乃至第4の態様によれば、増幅器の非線形領域を活用しつつ、稠密環境においても、データの誤送信を生じさせず、かつ、高いデータレートを確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】特許文献1に開示される技術の概要を説明するための図である。
【
図2】本開示の実施の形態1の無線通信システムの全体構成を説明するための図である。
【
図3】本開示の実施の形態1における基地局と対比される比較対象の基地局の構成を説明するための図である。
【
図4】基地局に内蔵される増幅器の入出力特性を示す図である。
【
図5】送信電力の増大に伴ってコンスタレーションに歪みが生ずる様子を示す図である。
【
図6】他セルからの干渉電力が受信点の精度に与える影響を模式的に表した図である。
【
図7】本開示の実施の形態1における基地局の構成を説明するためのブロック図である。
【
図8】本開示の実施の形態1における端末局の構成を説明するためのブロック図である。
【
図9】本開示の実施の形態1における端末局が受信点について尤度を計算する手法を説明するための図である。
【
図10】本開示の実施の形態1における端末局が他セルからの干渉電力を尤度に反映させる手法を説明するための図である。
【
図11】本開示の実施の形態1における集中制御装置が、基地局の送信電力を制御するために実行する処理の流れの一例を説明するためのフローチャートである。
【
図12】本開示の実施の形態1における集中制御装置が、基地局の送信電力を制御するために実行する処理の流れの変形例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
実施の形態1.
[実施の形態1の全体構成]
図2は、本開示の実施の形態1の無線通信システムの全体構成を示す。
図2に示すように、本実施形態の無線通信システムは、基地局20-1~20-3を備えている。以下、それらを区別する必要がない場合は、符号の添え字を省略して「基地局20」と称す。
【0029】
図2には、基地局20の夫々と通信状態にある端末局22-1~22-3が示されている。これらについても、互いに区別する必要がない場合は、符号の添え字を省略して「端末局22」と称す。
【0030】
図2は、より具体的には、端末局22-1が、三台の基地局20の通信エリアの境界付近に位置している様子を表している。
図2に示す状況において、端末局22-1は、図中に実線の矢印で示すように、基地局20-1と通信を確立している。また、端末局22-1には、図中に破線の矢印で示すように、他セルからの干渉電力が到達している。
【0031】
本実施形態の無線通信システムは、また、集中制御装置24を備えている。集中制御装置24は、
図2に示す三台の基地局20を配下に収めており、それら夫々に送信電力を指令することができる。また、集中制御装置24は、基地局20を介して、端末局22から、ビット誤り率(BER)、或いはシンボル誤り率(SER)等の情報を受け取ることができる。以下、便宜上、本実施形態で取り扱う誤り率はBERとするが、本開示はこれに限定されるものではなく、BERに代えて、或いはBERと共にSERを取り扱うこととしてもよい。
【0032】
[実施の形態1が着目する第一の課題]
図3は、本実施形態における基地局20と対比される比較対象の基地局26の構成を説明するためのブロック図である。比較例の基地局26は、情報ビット生成部28を備えている。情報ビット生成部28は、端末局22に伝送したい情報ビットを生成する。情報ビット生成部28は、誤り訂正符号化機能、或いはインターリーブ機能を備えていてもよい。
【0033】
情報ビット生成部28で生成された情報ビットは、データ信号変調部30に提供される。データ信号変調部30は、提供された情報ビットをデータ信号に変調する。変調方式としては、例えば直交振幅変調 (QAM)、或いはAPSKなど、シングルキャリア多値変調方式に用い得るものが考えられる。
【0034】
データ信号変調部30で生成されたデータ信号は、デジタルアナログ変換部32に提供される。デジタルアナログ変換部32は、デジタル変調されているデータ信号を、アナログの送信信号に変換する。
【0035】
デジタルアナログ変換部32において生成された送信信号は、送信信号増幅器34に提供される。送信信号増幅器34は、送信信号を増幅してアンテナ36に提供する。そして、送信信号は、アンテナ36から端末局22に向けて、無線信号の形態で送信される。
【0036】
図4は、送信信号増幅器34の入出力特性を示す。
図4に示すように、送信信号増幅器34の出力電力(縦軸)は、入力電力(横軸)がP
Bより小さい領域では、入力電力に比例する。そして、入力電力がP
Bを超える領域では、その比例関係が崩れる。以下、両者が比例関係となる領域を「線形領域」と称し、両者の比例関係が崩れる領域を「非線形領域」と称す。
【0037】
図5は、送信電力の増大に伴って、8×8=64QAMのコンスタレーションに歪みが生ずる様子を示す。64QAMの変調方式では、互いに独立な二つの搬送波の振幅を変更、調整することにより、格子状に並ぶ六十四のシンボルが定義される。以下、それら六十四のシンボルの夫々が定義されているコンスタレーション座標上の点を「信号点」と称す。また、現実に送信されるデータ信号夫々のコンスタレーション座標上の点を「受信点」と称す。
【0038】
送信信号増幅器34の線形領域では、
図5の左側(送信電力P
1)に示すように、受信点が、歪みの無いコンスタレーションを形成する。一方、送信信号増幅器34の非線形領域では、
図5の右側(送信電力P
N)に示すように、受信点のコンスタレーションには歪みが重畳する。
【0039】
端末局22は、送信信号に含まれる受信点の夫々について、近隣に存在する信号点との尤度計算を行い、その結果に基づいて、受信点の夫々を六十四のシンボルの何れかとして認識する。尚、尤度の計算は、例えば、下記文献に記載されているような手法で実行することができる。
【0040】
On the Optimality of Bit Detection of Certain Digital Modulations, Marvin K. Simon and Ramesh Annavajjala, p299-307, IEEE TRANSACTIONS ON COMMUNICATIONS, VOL. 53, NO. 2, FEBRUARY 2005
【0041】
端末局22が、歪みの無いコンスタレーションを構成する信号点を用いて上記の尤度計算を行うとすれば、線形領域で生成された受信点は、正しく認識することができる。しかしながら、非線形領域で生成された受信点は、コンスタレーション上の本来の位置からずれているため、正しく認識することができない。このため、送信信号増幅器34が、非線形領域を用いると、端末局22においてデータが誤認される事態が生じ得る。
【0042】
比較例の基地局26において、送信電力を、送信信号増幅器34の線形領域に制限すれば、受信点のコンスタレーションに歪が生ずるのを防ぐことができる。従って、このような制限をかければ、端末局22でのデータの誤認は防ぐことができる。しかし、その場合、送信信号増幅器34の増幅能力を十分に活用できないという事態が生ずる。
【0043】
そこで、本実施形態では、送信信号増幅器34が用いる送信電力と、コンスタレーションに生ずる歪みとの関係を予め把握しておき、通信の開始時に、その関係を基地局20と端末局22とで共有させることとした。例えば、送信信号増幅器34の仕様を通信の開始時に共有させておき、通信中は、基地局20から端末局22に送信電力を伝えた上で、端末局22において、送信電力に対応するコンスタレーションを再生させて尤度を計算させることとした。このような手法によれば、非線形領域においてコンスタレーションに歪が生じても、その歪みに起因するデータの誤認を有効に抑制することができる。
【0044】
[実施の形態1が着目する第二の課題]
次に、本実施形態が着目する第二の課題について説明する。
図6は、他セルからの干渉電力が受信点の精度に与える影響を模式的に表した図である。
図6は、具体的には、端末局22が再生した歪みを伴うコンスタレーションと、端末局22が受信した信号の受信点38とを重ねて表している。受信点38の尤度は、その近隣に位置する幾つかの信号点40について、両者間のユークリッド距離に基づいて計算される。そして、最も大きな尤度が計算された信号点40が、その受信点38の意図する信号であると認識される。このため、データを正しく認識するためには、受信点38の位置がぼやけていないことが望ましい。
【0045】
上記の通り、
図2に示す状況では、端末局22-1に、通信相手の基地局20-1からの信号に加えて、他の基地局20-2,20-3からの干渉電力が到達している。このような状況下では、基地局20-1から端末局22-1に到達する信号の振幅や位相には、干渉電力に起因する変動が生ずる。
図6に示す受信点38は、そのような変動の影響により、本来の位置がぼやけてしまっている様子を示している。
【0046】
図6において、受信点38を示す図形の濃淡は、受信点を構成する信号の振幅と位相の確率分布を模擬している。受信点38がこのような状態にある場合に、尤度計算のために、ある時刻における座標を受信点38の座標として特定すれば、その座標には誤差が伴う。そして、その座標に基づいて尤度計算が行われれば、最寄りの信号点40が誤認され、データ誤認が生じ得る。
【0047】
本実施形態では、このようなデータ誤認が生じないように、受信点38の位置に干渉電力に起因する誤差を等しく重畳させたうえで、隣接する全ての信号点との尤度を夫々計算させることとした。これにより、特定の信号点に関する尤度だけが、誤って大きく、或いは小さくなることがなく、端末局22におけるデータの誤認が有効に回避される。
【0048】
[実施の形態1の特徴]
【0049】
図7は、本実施形態における基地局20の構成を説明するためのブロック図である。尚、
図7において、比較例の基地局26が備える要素(
図3参照)と同一の要素については、共通する符号を付してその説明を省略または簡略する。
【0050】
本実施形態における基地局20は、
図7の上段に示す送信部を備えている。ここでは、比較例の基地局26における情報ビット生成部28が、情報ビット生成部42に置き換えられている。本実施形態が備える情報ビット生成部42は、基地局20と端末局22との通信が開始される段階で、基地局20の仕様に関する情報ビットを生成する。具体的には、基地局20が用いる変調方式と、送信信号増幅器34の入出力特性(
図4参照)とを情報ビット化する。
【0051】
このようにして生成された情報ビットは、基地局20と端末局22との通信が開始される段階で基地局20から端末局22に送信される。このため、本実施形態では、両者の通信が開始される時点で、基地局20が用いる変調方式と、送信信号増幅器34の入出力特性とが、両者間で共有される。
【0052】
本実施形態における基地局20は、送信信号増幅器34の前段に送信電力制御部44を備えている。送信電力制御部44は、所望の通信品質が得られるように送信電力を制御する。
【0053】
送信電力制御部44は、自ら実行した情報処理の結果に基づいて送信電力を制御することができる。また、送信電力制御部44は、集中制御装置24から送信電力に関する指令を受けることがあり、その場合は、受け取った指令に従って送信電力を制御する。送信電力制御部44の制御指令は、送信信号増幅器34に提供されると共に、送信電力情報通知部46に提供される。
【0054】
送信電力情報通知部46は、送信電力の指令値を情報ビット生成部42に提供する。そして、情報ビット生成部42は、現状の送信電力に関するビット情報を生成して、その情報を送信データに含める。これにより、本実施形態の基地局20からは、送信電力制御部44が設定した送信電力で、その送信電力の情報を含む送信信号が、端末局22に向けて送信される。
【0055】
基地局20は、
図7の下段に示す受信部を備えている。この受信部は、アンテナ36から受信信号の供給を受ける受信信号増幅部48を備えている。受信信号増幅部48は、受信した信号を適切なゲインで増幅してアナログデジタル変換部50に提供する。
【0056】
アナログデジタル変換部50は、アナログ形式の受信信号をデジタル信号に復調するためのブロックである。アナログデジタル変換部50でデジタル化された信号は、データ信号等化部52に提供される。
【0057】
データ信号等化部52は、通信路応答の振幅および位相の情報を逆算して送信信号の推定値を得るブロックである。基地局20と端末局22との間では、データ信号に先立ってトレーニング信号が授受される。トレーニング信号の内容は、基地局20と端末局22との間で予め共有されている。このため、基地局20は、現実に受信したトレーニング信号に基づいて、通信路に起因する影響を検知することができる。データ信号等化部52は、具体的には、端末局22から受信したデータ信号に、そのトレーニングの結果を反映させることにより、通信路に起因する影響を相殺したデータ信号を生成する。
【0058】
データ信号等化部52が生成したデータ信号は、尤度算出部54に提供される。尤度算出部54は、データ信号が示している受信点について、自らが記憶しているコンスタレーション上の信号点に関する尤度を計算する。そして、最も高い尤度が得られた信号点を、今回の受信点が意図するシンボルとして認識する。
【0059】
尤度算出部54でシンボル化された信号は、情報ビット検出部56に提供される。情報ビット検出部56は、シンボル化された信号から、受信ビットを検出する。また、情報ビット検出部56は、情報ビット生成部42に合わせて、必要に応じて、誤り訂正復号機能や、インターリーブ機能を備えていてもよい。
【0060】
図8は、本実施形態における端末局22の構成を説明するためのブロック図である。端末局22は、多くの部分において、実質的に基地局20が備える要素と同様に機能する要素を備えている。
【0061】
具体的には、端末局22の送信部は、送信電力制御部64が集中制御装置24の指令を受けないことを除いて、基地局20の送信部と実質的に同様に機能するための構成を有している。また、端末局22の受信部は、他セル干渉推定部78、尤度算出部80、および情報ビット検出部82を除いて、基地局20の受信部と実質的に同様に機能するための構成を有している。
【0062】
他セル干渉推定部78は、通信相手の基地局20を除く、他の基地局20から受信する干渉信号の大きさを検出する。検出された干渉信号の情報は、尤度算出部80に提供されると共に、基地局20にフィードバックするために情報ビット生成部58に提供される。
【0063】
尤度算出部80は、基地局20の送信電力と、他セルからの干渉電力とに基づいて、受信点に関する尤度を算出する。尤度算出部80は、具体的には、先ず、通信の開始時に取得した基地局20の仕様情報と、データ信号と共に受信した現在の送信電力とに基づいて、受信信号のコンスタレーションを特定する(
図5参照)。
【0064】
基地局20が用いる変調方式と、送信信号増幅器34の入出力特性は、端末局22にとって既知情報である。そして、それらの情報が既知であれば、現実に用いられている送信電力が判れば、歪みを伴うものを含めて、受信信号のコンスタレーションは再現することができる。この処理を終えると、尤度算出部80は、次に、選択したコンスタレーションを用いて、トレーニング結果が反映された受信点38について尤度計算を行う。
【0065】
図9は、本実施形態における尤度計算の概要を説明するための図である。
図9の左側は、送信電力がP
1である場合の尤度計算の概要を示している。この場合、受信信号のコンスタレーションは、信号点40の夫々が正しく格子状に並ぶ歪みのないものとなる。尤度算出部54は、そのコンスタレーションを参照して、受信点38の近隣に位置する信号点40の幾つかについて、両者間のユークリッド距離に対する正規分布を使用して尤度を計算する。そして、最も大きな尤度が得られた信号点40を、その受信点38に対応するシンボルとして採用する。
【0066】
図9の右側は、送信電力がP
Nである場合の尤度計算の概要を示している。この場合、受信信号のコンスタレーションは、信号点40の夫々に、送信信号増幅器34の非線形性に起因するずれを含むものとなる。尤度算出部54は、そのずれを伴うコンスタレーションを参照して、上記と同様の手法で受信点38についての尤度を計算する。そして、その結果に基づいて、受信点38が意味するシンボルを特定する。
【0067】
図10は、他セルからの干渉電力の影響を尤度に反映させる手法を説明するための図である。以下、一例として、16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)で用いられる歪のないコンスタレーションの信号点について尤度を計算する場合を説明する。
【0068】
本実施形態において、端末局22の尤度算出部80は、受信点をz=si+n+Iの形式で定義する。ここで、siは受信信号が表す座標点、nは付加雑音、Iは他セルからの干渉電力を表す因子である。座標点siに対して付加雑音nと共に干渉電力Iの因子が足し合わされるため、干渉電力Iが考慮されない場合に比して、全ての信号点について、受信点zからのユークリッド距離が広がる。
【0069】
このため、干渉電力の影響が小さい場合は、受信点zの周囲に位置する全ての信号点について、比較的大きな尤度が得られる。そして、それらの中から最大の尤度を示す信号点がシンボルとして認識される。この場合、干渉電力に起因するデータの誤認は生じにくい。
【0070】
干渉電力の影響が大きい場合は、受信点zの周囲に位置する全ての信号点について、比較的小さな尤度が得られる。そして、それらの中から最大の尤度を示す信号点がシンボルとして認識される。この場合も、尤度が一律に低下するため、干渉電力に起因するデータの誤認は生じにくくなる。
【0071】
以上説明した通り、本実施形態の無線通信システムによれば、基地局20に、送信信号増幅器34の非線形領域を使用させて、大電力の送信信号を送信させることができる。また、通信の開始時に、送信信号増幅器34の仕様を端末局22に受け渡しておくことで、その後の大きな情報提供を必要とせずに、端末局22において、非線形領域に対応する歪んだコンスタレーションを再現させることができる。そして、そのコンスタレーションを用いて尤度計算を実行させることで、非線形領域を使用した送信信号についても、データが誤認されるのを防ぐことができる。更に、他セルからの干渉電力Iの因子を付加雑音nに加えて尤度を計算するため、干渉電力の影響で、特定の信号点の尤度だけが大きく、または小さくなってしまうのを防ぐことができる。このため、本実施形態の無線通信システムによれば、送信信号増幅器34の非線形領域を活用しつつ、稠密環境においても、データの誤送信を生じさせず、かつ、高いデータレートを確保することができる。
【0072】
本実施形態において、端末局22の情報ビット検出部82は、基地局20の情報ビット検出部56と同様の機能を有すると共に、信号の誤り率BER(Bit Error Rate)に関する情報をビット化する機能を有している。そして、BERの情報は、送信部の情報ビット生成部58に提供される。
【0073】
端末局22の情報ビット生成部58は、BERの情報を、通信相手の基地局20に提供するべく、その情報を送信信号に含めるようにビット生成の処理を行う。これにより、本実施形態では、端末局22のから基地局20に対して、基地局20が現在使用している送信電力により実現されているBERの情報が提供される。
【0074】
基地局20に提供されたBERの情報は、集中制御装置24に提供される。そして、集中制御装置24は、そのBER情報に基づいて、配下の基地局20が関わる通信の全体最適が実現されるように、各基地局20の送信電力を制御する。
【0075】
[集中制御装置による制御]
本実施形態において、集中制御装置24は、演算処理ユニットと、メモリ装置を備えている。メモリ装置には、演算処理ユニットで実行させるべきプログラムが記録されている。このプログラムは、ダウンロードにより集中制御装置24にインストールすることができる。また、このプログラムは、そのプログラムを記録した記録媒体を介して集中制御装置24にインストールしてもよい。
【0076】
図11は、集中制御装置24が、上記のプログラムに従って実行する処理の一例を説明するためのフローチャートである。
図11に示すルーチンは、集中制御装置24の配下に属する基地局20の何れかで通信が行われている間、所定の間隔で繰り返し起動されるものとする。
【0077】
図11に示すルーチンでは、先ず、配下の基地局20の夫々についての送信電力が設定される(ステップ100)。ここでは、一例として、集中制御装置24の配下に三台の基地局20が存在し、夫々の基地局20が、送信電力を四段階に切り替える機能を有しているものとする。本ステップ100では、予め定めておいたルールに従って、初期設定の送信電力パターンが設定される。
【0078】
上記ステップ100の処理が終わると、設定された送信電力は、配下の基地局20の全ての指令される。その結果、集中制御装置24が設定した送信電力による通信が、配下の基地局20において開始される。
【0079】
通信が開始されると、配下の基地局20には、通信相手の端末局22からBERの情報が提供される。集中制御装置24は、基地局20を介してそのBERの情報を収集する(ステップ102)。
【0080】
次に、収集したBERが、予め設定されている要求条件をクリアしているか否かが判別される(ステップ104)。例えば、配下の基地局20が関わる全ての通信について、誤り率BERが、要求閾値以下であるかが判別される。その結果、BERが要求閾値以下であると判別された場合は、現在の送信電力パターンが適切であると判断できる。この場合、その送信電力を維持して今回のルーチンが終了される。
【0081】
一方、上記ステップ104でBERが要求をクリアしていないと判別された場合は、現在の送信電力パターンが全体最適を実現していないと判断できる。この場合、次に、送信電力の全ての組み合わせについて、探索が終了しているか否かが判別される(ステップ106)。基地局20が三台、送信電力が四段階であれば、43=64通りの組み合わせについて探索が終了しているか否かが判別される。
【0082】
その結果、全ての組み合わせが探索済みであると判別された場合は、今回のルーチンを終了させて、改めてステップ100以降の処理が開始される。一方、全探索が終了していないと判別された場合は、予め定められているルールに従って送信電力のパターンが変更される(ステップ108)。以後、ステップ104でBERクリアの判定が得られるまで、送信電力のパターンを変えて、ステップ102以降の処理が繰り返される。
【0083】
一台の基地局20の送信電力が上がれば、その基地局20については、SNRが改善される一方コンスタレーションの歪が大きくなる。加えて、その基地局20に起因する干渉電力が大きくなる。他方、一台の基地局20の送信電力が下がれば、その基地局20に関するSNRが悪化する反面、コンスタレーションの歪と、その基地局20に起因する干渉電力は小さくなる。これにより、一台の基地局20の送信電力の増減は、当該基地局20に関わる通信および他の基地局20に関わる通信の品質にメリットとデメリットを与える。そして、本実施形態では、様々な送信電力パターンでの試行を繰り返すことにより、全体最適を実現する送信電力のパターンを探し出すことができる。
【0084】
[実施の形態1の変形例]
ところで、上記の
図11に示すルーチンでは、BERが所望の要求をクリアする送信電力パターンが見つかった時点で、パターン探索を終了することとしている。しかしながら、本開示はこれに限定されるものではない。例えば、BERの要求をクリアする条件が見つかった後も探索を続けて、最適な送信電力パターンを探し出すこととしてもよい。
【0085】
図12は、上記の変形例の動作を実現するために集中制御装置24に実行させる処理の流れを説明するためのフローチャートである。尚、
図12において、
図11に示すステップと同様の処理を実行するステップについては、共通する符号を付してその説明を書略または簡略する。
【0086】
図12に示すルーチンでは、ステップ102に続いてステップ106の処理が実行される。そして、ステップ106で探索終了が判定されるまで、送信電力のパターンを変えて(ステップ108)、BERの取得が繰り返される(ステップ102)。
【0087】
全ての組み合わせについて探索が終わり、ステップ106の判別が肯定されると、次に、最適な送信電力パターンが選択される(ステップ110)。ここでは、具体的には、ステップ102を繰り返すことで蓄積したBERの結果から、全ての通信が要求をクリアしており、かつ、BERの合計が最小になる組み合わせが選択される。そして、選択された送信電力パターンが、基地局20の夫々に指令されると、今回のルーチンが終了される。
【0088】
以上の処理によれば、集中制御装置24の配下で実行される全ての通信が要求を満たし、かつ、無線通信システムの全体に最も良好な通信品質を提供する送信電力パターンを探し出すことができる。このため、上記の変形例によれば、実施の形態1の場合に比して、更に高いデータレートを確保することができる。
【0089】
尚、上述した実施の形態1では、無線通信の開始時に基地局20が端末局22に対して送信信号増幅器34の仕様を提供することとしている。しかしながら、本開示はこれに限定されるものでない。例えば、基地局20に、上記仕様を提供した端末局22を記憶させ、かつ、上記仕様の提供を受けた端末局22には、その情報を記憶させておくこととしてもよい。そして、両者間の二度目以降の通信については、上記仕様の授受を省略してもよい。
【0090】
また、上述した実施の形態1では、基地局20が端末局22に、送信信号増幅器34の仕様と共に、無線通信に用いる変調方式の情報を提供することとしている。しかしながら、本開示はこれに限定されるものではない。例えば、基地局20と端末局22の通信に用いる変調方式が予め決定されている場合には、変調方式の情報提供は省略することができる。
【符号の説明】
【0091】
20、20-1~20-3 基地局
22、22-1~22-3 端末局
24 集中制御装置
34、68 送信信号増幅器
42、58 情報ビット生成部
44、64 送信電力制御部
46、66 送信電力情報通知部
54、80 尤度算出部
78 他セル干渉推定部
82 情報ビット検出部