(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】光学フィルタ
(51)【国際特許分類】
G02B 5/28 20060101AFI20241210BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20241210BHJP
G03B 11/00 20210101ALI20241210BHJP
【FI】
G02B5/28
G02B5/22
G03B11/00
(21)【出願番号】P 2024544236
(86)(22)【出願日】2023-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2023030936
(87)【国際公開番号】W WO2024048507
(87)【国際公開日】2024-03-07
【審査請求日】2024-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2022138361
(32)【優先日】2022-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩野 和彦
(72)【発明者】
【氏名】島田 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】折田 雄一朗
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 清和
(72)【発明者】
【氏名】坂上 貴尋
(72)【発明者】
【氏名】長田 崇
(72)【発明者】
【氏名】上條 克司
【審査官】横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/034386(WO,A1)
【文献】特開2020-109496(JP,A)
【文献】国際公開第2019/189039(WO,A1)
【文献】特開2020-122970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/28
G02B 5/22
G03B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1誘電体多層膜と、樹脂膜と、リン酸ガラスと、第2誘電体多層膜とをこの順に備える光学フィルタであって、
前記樹脂膜は、樹脂と、前記樹脂中で690~800nmに最大吸収波長を有する色素とを含み、
前記第1誘電体多層膜および前記第2誘電体多層膜は、屈折率の異なる複数の層を含み、
前記第2誘電体多層膜は、屈折率が1.8以上2.5以下、QWOTが1.1以上3.5以下を満たすH
2層を少なくとも1つ含み、
前記H
2層のうち、前記リン酸ガラスに最も近い層を第1のH
2層としたとき、
前記第1のH
2層と前記リン酸ガラスの間に、QWOTが1.2以上1.8以下を満たす単層またはQWOTの合計が1.2以上1.8以下を満たす複数の層からなる第1のM
2層を含み、
前記光学フィルタが下記分光特性(i-1)~(i-4)を全て満たす光学フィルタ。
(i-1)入射角0度での分光透過率曲線において、波長450~550nmの平均透過率T
450-550(0deg)AVEが85%以上
(i-2)入射角50度での分光透過率曲線において、波長450~550nmの平均透過率T
450-550(50deg)AVEが85%以上
(i-3)入射角0度での分光透過率曲線において、波長750~1000nmの平均透過率T
750-1000(0deg)AVEが2.5%以下
(i-4)入射角50度での分光透過率曲線において、波長750~1000nmの平均透過率T
750-1000(50deg)AVEが2.5%以下
【請求項2】
第1誘電体多層膜と、樹脂膜と、リン酸ガラスと、第2誘電体多層膜とをこの順に備える光学フィルタであって、
前記樹脂膜は、樹脂と、前記樹脂中で690~800nmに最大吸収波長を有する色素とを含み、
前記第1誘電体多層膜および前記第2誘電体多層膜は、屈折率の異なる複数の層を含み、
前記第1誘電体多層膜が、屈折率が1.8以上2.5以下、QWOTが1.1以上3.5以下を満たすH
1層を少なくとも1つ含み、
前記H
1層のうち、前記樹脂膜に最も近い層を第1のH
1層としたとき、
前記第1のH
1層と前記樹脂膜の間に、QWOTが1.2以上1.8以下を満たす単層またはQWOTの合計が1.2以上1.8以下を満たす複数の層からなる第1のM
1層を含み、
前記光学フィルタが下記分光特性(i-1)~(i-4)を全て満たす光学フィルタ。
(i-1)入射角0度での分光透過率曲線において、波長450~550nmの平均透過率T
450-550(0deg)AVEが85%以上
(i-2)入射角50度での分光透過率曲線において、波長450~550nmの平均透過率T
450-550(50deg)AVEが85%以上
(i-3)入射角0度での分光透過率曲線において、波長750~1000nmの平均透過率T
750-1000(0deg)AVEが2.5%以下
(i-4)入射角50度での分光透過率曲線において、波長750~1000nmの平均透過率T
750-1000(50deg)AVEが2.5%以下
【請求項3】
下記分光特性(i-5)~(i-8)をさらに満たす、請求項1に記載の光学フィルタ。
(i-5)前記第2誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角5度での分光反射率曲線における、波長750~1000nmの平均反射率R2
750-1000(5deg)AVEが3%以下
(i-6)前記第2誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角5度での分光反射率曲線における、波長450~600nmの平均反射率R2
450-600(5deg)AVEが3%以下
(i-7)前記第2誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角50度での分光反射率曲線における、波長750~1000nmの平均反射率R2
750-1000(50deg)AVEが5%以下
(i-8)前記第2誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角50度での分光反射率曲線における、波長450~600nmの平均反射率R2
450-600(50deg)AVEが5%以下
【請求項4】
下記分光特性(i-9)~(i-12)をさらに満たす、請求項1または2に記載の光学フィルタ。
(i-9)入射角0度での分光透過率曲線において、波長1000~1200nmの平均透過率T
1000-1200(0deg)AVEが7%以下
(i-10)入射角50度での分光透過率曲線において、波長1000~1200nmの平均透過率T
1000-1200(50deg)AVEが7%以下
(i-11)入射角0度での分光透過率曲線において、透過率が30%となる波長IR30
(0deg)が、波長630~680nmにある
(i-12)入射角50度での分光透過率曲線において、透過率が30%となる波長IR30
(50deg)が、波長630~680nmにある
【請求項5】
前記第1誘電体多層膜が、屈折率が1.8以上2.5以下、QWOTが1.1以上3.5以下を満たすH
1層を少なくとも1つ含み、
前記H
1層のうち、前記樹脂膜に最も近い層を第1のH
1層としたとき、
前記第1のH
1層と前記樹脂膜の間に、QWOTが1.2以上1.8以下を満たす単層またはQWOTの合計が1.2以上1.8以下を満たす複数の層からなる第1のM
1層を含むことを特徴とする、請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項6】
前記第2誘電体多層膜は、屈折率が1.8以上2.5以下、QWOTが1.1以上3.5以下を満たすH
2層を少なくとも1つ含み、
前記H
2層のうち、前記リン酸ガラスに最も近い層を第1のH
2層としたとき、
前記第1のH
2層と前記リン酸ガラスの間に、QWOTが1.2以上1.8以下を満たす単層またはQWOTの合計が1.2以上1.8以下を満たす複数の層からなる第1のM
2層を含むことを特徴とする、請求項2に記載の光学フィルタ。
【請求項7】
下記分光特性(i-13)~(i-16)をさらに満たす、請求項2に記載の光学フィルタ。
(i-13)前記第1誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角5度での分光反射率曲線における、波長750~1000nmの平均反射率R1
750-1000(5deg)AVEが3%以下
(i-14)前記第1誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角5度での分光反射率曲線における、波長450~600nmの平均反射率R1
450-600(5deg)AVEが3%以下
(i-15)前記第1誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角50度での分光反射率曲線における、波長750~1000nmの平均反射率R1
750-1000(50deg)AVEが5%以下
(i-16)前記第1誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角50度での分光反射率曲線における、波長450~600nmの平均反射率R1
450-600(50deg)AVEが5%以下
【請求項8】
下記分光特性(i-17)~(i-20)をさらに満たす、請求項1または2に記載の光学フィルタ。
(i-17)前記平均透過率T
450-550(0deg)AVEと、前記平均透過率T
450-550(50deg)AVEの差の絶対値が3.5%以下
(i-18)前記平均透過率T
750-1000(0deg)AVEと、前記平均透過率T
750-1000(50deg)AVEの差の絶対値が1.5%以下
(i-19)入射角0度での分光透過率曲線において、波長1000~1200nmの平均透過率T
1000-1200(0deg)AVEと、入射角50度での分光透過率曲線において、波長1000~1200nmの平均透過率T
1000-1200(50deg)AVEの差の絶対値が1.5%以下
(i-20)入射角0度での分光透過率曲線において、透過率が30%となる波長IR30
(0deg)と、入射角50度での分光透過率曲線において、透過率が30%となる波長IR30
(50deg)の差の絶対値が15nm以下
【請求項9】
下記分光特性(i-21)をさらに満たす、請求項1に記載の光学フィルタ。
(i-21)前記第2誘電体多層膜側を入射方向としたとき、波長750~1000nmの範囲において、以下に定義される吸収損失量の平均が95%以上
(吸収損失量)[%]=100-(入射角5度における透過率)―(入射角5度における反射率)
【請求項10】
下記分光特性(i-22)をさらに満たす、請求項1に記載の光学フィルタ。
(i-22)前記第2誘電体多層膜側を入射方向としたとき、波長750~1000nmの範囲において、以下に定義される吸収損失量の最小値が90%以上
(吸収損失量)[%]=100-(入射角5度における透過率)―(入射角5度における反射率)
【請求項11】
下記分光特性(i-23)をさらに満たす、請求項1に記載の光学フィルタ。
(i-23)前記第2誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角5度での分光反射率曲線において、波長750nmから波長1000nmに向かって、1nmの間隔で各波長の反射率R2
n(5deg)(n:任意の整数)を読み取った際に、前記反射率R2
n(5deg)が、1%以下となるnが200個以上ある
【請求項12】
下記分光特性(i-24)をさらに満たす、請求項2に記載の光学フィルタ。
(i-24)前記第1誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角5度での分光反射率曲線において、波長750nmから波長1000nmに向かって、1nmの間隔で各波長の反射率R1
n(5deg)(n:任意の整数)を読み取った際に、前記反射率R1
n(5deg)が、1%以下となるnが150個以上ある
【請求項13】
前記第2誘電体多層膜が前記H
2層を2つ以上含み、
前記H
2層のうち、前記リン酸ガラスに2番目に近い層を第2のH
2層としたとき、
前記第1のH
2層と前記第2のH
2層の間に、QWOTが1.2以上2.1以下を満たす単層またはQWOTの合計が1.2以上2.1以下を満たす複数の層からなる第2のM
2層を含む、請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項14】
前記第2誘電体多層膜が、前記第1のH
2層と前記第2のM
2層の間に、QWOTが1.2以上2.1以下を満たす単層またはQWOTの合計が1.2以上2.1以下を満たす複数の層からなる第3のM
2層を含む、請求項13に記載の光学フィルタ。
【請求項15】
前記第
1誘電体多層膜が前記H
1層を2つ以上含み、
前記H
1層のうち、前記樹脂膜に2番目に近い層を第2の
H
1
層としたとき、
前記第1のH
1層と前記第2のH
1層の間に、QWOTが1.2以上2.1以下を満たす単層またはQWOTの合計が1.2以上2.1以下を満たす複数の層からなる第2のM
1層を含む、請求項
2に記載の光学フィルタ。
【請求項16】
前記第1誘電体多層膜が、前記第1のH
1層と前記第2のM
1層の間に、QWOTが1.2以上2.1以下を満たす単層またはQWOTの合計が1.2以上2.1以下を満たす複数の層からなる第3のM
1層を含む、請求項
15に記載の光学フィルタ。
【請求項17】
前記リン酸ガラスが、下記分光特性(ii-1)~(ii-5)を全て満たす、請求項1または2に記載の光学フィルタ。
(ii-1)波長450nmにおける内部透過率T
450が92%以上
(ii-2)波長450~600nmの平均内部透過率T
450-600AVEが90%以上
(ii-3)内部透過率が50%となる波長IR50が、波長625~650nmの範囲にある
(ii-4)波長750~1000nmの平均内部透過率T
750-1000AVEが2.5%以下
(ii-5)波長1000~1200nmの平均内部透過率T
1000-1200AVEが7%以下
【請求項18】
前記樹脂膜が、下記分光特性(iii-1)~(iii-3)を全て満たす、請求項1または2に記載の光学フィルタ。
(iii-1)波長450nmにおける内部透過率T
450が85%以上
(iii-2)波長450~600nmの平均内部透過率T
450-600AVEが90%以上
(iii-3)内部透過率が50%となる波長IR50が、波長660~700nmの範囲にある
【請求項19】
前記リン酸ガラスが、酸化物基準の質量百分率表示で、
P
2O
5 40~80%
Al
2O
3 0.5~20%
ΣR
2O(ただし、R
2Oは、Li
2O、Na
2O、K
2O、Rb
2O、及びCs
2Oから選ばれる1つ以上の成分、ΣR
2Oは、R
2Oの合計量) 0.5~20%
ΣR’O(ただし、R’OはCaO、MgO、BaO、SrO、及びZnOから選ばれる1つ以上の成分、ΣR’Oは、R’Oの合計量) 0~40%
CuO 0.5~40%
を含む組成を有する、請求項1または2に記載の光学フィルタ。
【請求項20】
前記樹脂膜の厚さが10μm以下である、請求項1または2に記載の光学フィルタ。
【請求項21】
請求項1または2に記載の光学フィルタを備える撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光を透過し、近赤外光を遮断する光学フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
固体撮像素子を用いた撮像装置には、色調を良好に再現し鮮明な画像を得るため、可視域の光(以下「可視光」ともいう)を透過し、近赤外波長領域の光(以下「近赤外光」ともいう)を遮断する光学フィルタが用いられる。
【0003】
このような光学フィルタは、例えば、透明基板の片面または両面に、屈折率が異なる誘電体薄膜を交互に積層し(誘電体多層膜)、光の干渉を利用して遮蔽したい光を反射する反射型のフィルタ等、様々な方式が挙げられる。
【0004】
特許文献1および2には、誘電体多層膜と、色素を含む吸収層とを有する光学フィルタが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2014/002864号
【文献】国際公開第2018/043564号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
誘電体多層膜を有する光学フィルタは、光の入射角度により誘電体多層膜の光学膜厚が変化するために、入射角による分光透過率曲線、分光反射率曲線の変化が問題である。例えば、多層膜の積層数に応じて各層界面の反射光に起因する干渉により可視光領域の透過率の激しい変化、いわゆるリップルが生じ、光の入射角度が大きいほど強く発生しやすい。これにより、高入射角度で可視光領域の光の取り込み量が変化し、画像再現性が低下する問題が生じる。特に、近年のカメラモジュール低背化に伴い高入射角条件での使用が想定されるため、入射角の影響を受けにくい光学フィルタが求められている。
【0007】
また、誘電体多層膜の反射を利用した従来の光学フィルタでは、反射光がレンズ面で再反射して入射したり、センサー面で反射した光が誘電体多層膜面で再反射して入射することにより、本来想定される光路外に光が発生する現象、いわゆる迷光が生じることがある。このようなフィルタを使用すると、固体撮像素子においてフレアやゴーストが生じたり、画質低下が生じるおそれがある。特に、近年のカメラモジュールの高画質化に伴い、迷光が生じにくい光学フィルタが求められている。
【0008】
本発明は、可視光領域のリップルと迷光が抑制され、可視光領域の透過性と近赤外光領域の遮蔽性に優れた光学フィルタの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の構成を有する光学フィルタを提供する。
[1]第1誘電体多層膜と、樹脂膜と、リン酸ガラスと、第2誘電体多層膜とをこの順に備える光学フィルタであって、
前記樹脂膜は、樹脂と、前記樹脂中で690~800nmに最大吸収波長を有する色素とを含み、
前記第1誘電体多層膜および前記第2誘電体多層膜は、屈折率の異なる複数の層を含み、
前記第2誘電体多層膜は、屈折率が1.8以上2.5以下、QWOTが1.1以上3.5以下を満たすH2層を少なくとも1つ含み、
前記H2層のうち、前記リン酸ガラスに最も近い層を第1のH2層としたとき、
前記第1のH2層と前記リン酸ガラスの間に、QWOTが1.2以上1.8以下を満たす単層またはQWOTの合計が1.2以上1.8以下を満たす複数の層からなる第1のM2層を含み、
前記光学フィルタが下記分光特性(i-1)~(i-4)を全て満たす光学フィルタ。
(i-1)入射角0度での分光透過率曲線において、波長450~550nmの平均透過率T450-550(0deg)AVEが85%以上
(i-2)入射角50度での分光透過率曲線において、波長450~550nmの平均透過率T450-550(50deg)AVEが85%以上
(i-3)入射角0度での分光透過率曲線において、波長750~1000nmの平均透過率T750-1000(0deg)AVEが2.5%以下
(i-4)入射角50度での分光透過率曲線において、波長750~1000nmの平均透過率T750-1000(50deg)AVEが2.5%以下
[2]第1誘電体多層膜と、樹脂膜と、リン酸ガラスと、第2誘電体多層膜とをこの順に備える光学フィルタであって、
前記樹脂膜は、樹脂と、前記樹脂中で690~800nmに最大吸収波長を有する色素とを含み、
前記第1誘電体多層膜および前記第2誘電体多層膜は、屈折率の異なる複数の層を含み、
前記第1誘電体多層膜が、屈折率が1.8以上2.5以下、QWOTが1.1以上3.5以下を満たすH1層を少なくとも1つ含み、
前記H1層のうち、前記樹脂膜に最も近い層を第1のH1層としたとき、
前記第1のH1層と前記樹脂膜の間に、QWOTが1.2以上1.8以下を満たす単層またはQWOTの合計が1.2以上1.8以下を満たす複数の層からなる第1のM1層を含み、
前記光学フィルタが下記分光特性(i-1)~(i-4)を全て満たす光学フィルタ。
(i-1)入射角0度での分光透過率曲線において、波長450~550nmの平均透過率T450-550(0deg)AVEが85%以上
(i-2)入射角50度での分光透過率曲線において、波長450~550nmの平均透過率T450-550(50deg)AVEが85%以上
(i-3)入射角0度での分光透過率曲線において、波長750~1000nmの平均透過率T750-1000(0deg)AVEが2.5%以下
(i-4)入射角50度での分光透過率曲線において、波長750~1000nmの平均透過率T750-1000(50deg)AVEが2.5%以下
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、可視光領域のリップルと迷光が抑制され、可視光領域の透過性と近赤外光領域の遮蔽性に優れた光学フィルタが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、一実施形態の光学フィルタの一例を概略的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、例2-1の光学フィルタの構成を示す断面模式図である。
【
図3】
図3は、例2-2の光学フィルタの構成を示す断面模式図である。
【
図4】
図4は、例2-3の光学フィルタの構成を示す断面模式図である。
【
図5】
図5は、ガラスの分光透過率曲線を示す図である。
【
図6】
図6は、例2-1の光学フィルタの分光透過率曲線を示す図である。
【
図7】
図7は、例2-1の光学フィルタの分光反射率曲線を示す図である。
【
図8】
図8は、例2-4の光学フィルタの分光透過率曲線を示す図である。
【
図9】
図9は、例2-4の光学フィルタの分光反射率曲線を示す図である。
【
図10】
図10は、例2-5の光学フィルタの分光透過率曲線を示す図である。
【
図11】
図11は、例2-5の光学フィルタの分光反射率曲線を示す図である。
【
図12】
図12は、例2-6の光学フィルタの分光透過率曲線を示す図である。
【
図13】
図13は、例2-6の光学フィルタの分光反射率曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本明細書において、近赤外線吸収色素を「NIR色素」、紫外線吸収色素を「UV色素」と略記することもある。
本明細書において、式(I)で示される化合物を化合物(I)という。他の式で表される化合物も同様である。化合物(I)からなる色素を色素(I)ともいい、他の色素についても同様である。
【0013】
本明細書において、内部透過率とは、{実測透過率(入射角0度)/(100-反射率(入射角5度))}×100の式で示される、実測透過率から界面反射の影響を引いて得られる透過率である。
本明細書において、基材の透過率、色素が樹脂に含有される場合を含む樹脂膜の透過率の分光は、「透過率」と記載されている場合も全て「内部透過率」である。一方、色素をジクロロメタン等の溶媒に溶解して測定される透過率、誘電体多層膜の透過率、誘電体多層膜を有する光学フィルタの透過率は、実測透過率である。
【0014】
本明細書において、特定の波長域について、透過率が例えば90%以上とは、その全波長領域において透過率が90%を下回らない、すなわちその波長領域において最小透過率が90%以上であることをいう。同様に、特定の波長域について、透過率が例えば1%以下とは、その全波長領域において透過率が1%を超えない、すなわちその波長領域において最大透過率が1%以下であることをいう。内部透過率においても同様である。特定の波長域における平均透過率および平均内部透過率は、該波長域の1nm毎の透過率および内部透過率の相加平均である。
分光特性は、紫外可視分光光度計を用いて測定できる。
本明細書において、数値範囲を表す「~」では、上下限を含む。
【0015】
<光学フィルタ>
図1は本発明の一実施形態の光学フィルタ(以下、「本フィルタ」ともいう)を示す断面図である。本フィルタ1Bは、第1誘電体多層膜20Bと、樹脂膜12と、リン酸ガラス11と、第2誘電体多層膜20Aとをこの順に備える。ここで、樹脂膜は、樹脂と、樹脂中で690~800nmに最大吸収波長を有する色素とを含む。
【0016】
本発明において、第1誘電体多層膜および第2誘電体多層膜の少なくとも一方は、後述するように高入射角であっても反射特性が小さいため、迷光が抑制される。また、光学フィルタの遮光性はリン酸ガラスの吸収特性によって実質的に担保される。吸収特性は光の入射角による影響を受けないため、可視光領域のリップルを抑制しつつ光学フィルタ全体として可視光領域の優れた透過性と近赤外光領域の優れた遮蔽性を実現できる。
【0017】
<光学フィルタの特性>
本発明の光学フィルタは、下記分光特性(i-1)~(i-4)を全て満たす。
(i-1)入射角0度での分光透過率曲線において、波長450~550nmの平均透過率T450-550(0deg)AVEが85%以上
(i-2)入射角50度での分光透過率曲線において、波長450~550nmの平均透過率T450-550(50deg)AVEが85%以上
(i-3)入射角0度での分光透過率曲線において、波長750~1000nmの平均透過率T750-1000(0deg)AVEが2.5%以下
(i-4)入射角50度での分光透過率曲線において、波長750~1000nmの平均透過率T750-1000(50deg)AVEが2.5%以下
【0018】
分光特性(i-1)~(i-4)を全て満たす本フィルタは、特性(i-1)に示すように、可視光領域の高い透過性と、特性(i-3)に示すように、近赤外光領域の高い遮蔽性を有する。さらに特性(i-2)および(i-4)に示すように、高入射角において分光特性の変化が小さく、可視光領域でのリップルが抑制される。
【0019】
分光特性(i-1)および(i-2)を満たすことは、高入射角においても450~550nmの可視光領域の透過性に優れることを意味する。
平均透過率T450-550(0deg)AVEは好ましくは88%以上、より好ましくは91%以上である。
平均透過率T450-550(50deg)AVEは好ましくは87%以上、より好ましくは89%以上である
【0020】
分光特性(i-3)および(i-4)を満たすことは、高入射角においても750~1000nmの近赤外光領域の透過性に優れることを意味する。
平均透過率T750-1000(0deg)AVEは好ましくは1.5%以下、より好ましくは1%以下である。
平均透過率T750-1000(50deg)AVEは好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下である
【0021】
本発明の光学フィルタは、下記分光特性(i-5)~(i-8)をさらに満たすことが好ましい。
(i-5)第2誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角5度での分光反射率曲線における、波長750~1000nmの平均反射率R2750-1000(5deg)AVEが3%以下
(i-6)第2誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角5度での分光反射率曲線における、波長450~600nmの平均反射率R2450-600(5deg)AVEが3%以下
(i-7)第2誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角50度での分光反射率曲線における、波長750~1000nmの平均反射率R2750-1000(50deg)AVEが5%以下
(i-8)第2誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角50度での分光反射率曲線における、波長450~600nmの平均反射率R2450-600(50deg)AVEが5%以下
【0022】
分光特性(i-5)および(i-6)は、第2誘電体多層膜側の反射特性を規定しており、分光特性(i-7)および(i-8)は、高入射角における第2誘電体多層膜側の反射特性を規定している。
高入射角においても可視光領域および近赤外光領域の反射率が小さいことで、迷光の原因となる第2誘電体多層膜面での反射が抑制できる。
平均反射率R2750-1000(5deg)AVEはより好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1%以下である。
平均反射率R2450-600(5deg)AVEはより好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1%以下である。
平均反射率R2750-1000(50deg)AVEはより好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下である。
平均反射率R2450-600(50deg)AVEはより好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下である。
【0023】
本発明の光学フィルタは、下記分光特性(i-9)~(i-12)をさらに満たすことが好ましい。
(i-9)入射角0度での分光透過率曲線において、波長1000~1200nmの平均透過率T1000-1200(0deg)AVEが7%以下
(i-10)入射角50度での分光透過率曲線において、波長1000~1200nmの平均透過率T1000-1200(50deg)AVEが7%以下
(i-11)入射角0度での分光透過率曲線において、透過率が30%となる波長IR30(0deg)が、波長630~680nmにある
(i-12)入射角50度での分光透過率曲線において、透過率が30%となる波長IR30(50deg)が、波長630~680nmにある
【0024】
分光特性(i-9)および(i-10)を満たすことは、高入射角においても1000~1200nmの近赤外光領域の遮光性に優れることを意味する。
平均透過率T1000-1200(0deg)AVEは、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下である。
平均透過率T1000-1200(50deg)AVEは、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下である。
【0025】
分光特性(i-11)および(i-12)を満たすことは、高入射角においても近赤外光領域の光を遮光して効率的に可視透過光を取り込めることを意味する。
波長IR30(0deg)は、より好ましくは640~675nm、さらに好ましくは640~670nmの範囲にある。
波長IR30(50deg)は、より好ましくは640~675nm、さらに好ましくは640~670nmの範囲にある。
【0026】
本発明の光学フィルタは、下記分光特性(i-13)~(i-16)をさらに満たすことが好ましい。
(i-13)第1誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角5度での分光反射率曲線における、波長750~1000nmの平均反射率R1750-1000(5deg)AVEが3%以下
(i-14)第1誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角5度での分光反射率曲線における、波長450~600nmの平均反射率R1450-600(5deg)AVEが3%以下
(i-15)第1誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角50度での分光反射率曲線における、波長750~1000nmの平均反射率R1750-1000(50deg)AVEが5%以下
(i-16)第1誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角50度での分光反射率曲線における、波長450~600nmの平均反射率R1450-600(50deg)AVEが5%以下
【0027】
分光特性(i-13)および(i-14)は、第1誘電体多層膜側の反射特性を規定しており、分光特性(i-15)および(i-16)は、高入射角における第1誘電体多層膜側の反射特性を規定している。
高入射角においても反射率が小さいことで、迷光の原因となる誘電体多層膜面での反射が抑制できる。
平均反射率R1750-1000(5deg)AVEは、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1%以下である。
平均反射率R1450-600(5deg)AVEは、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1%以下である。
平均反射率R1750-1000(50deg)AVEは、より好ましくは3.5%以下、さらに好ましくは2%以下である。
平均反射率R1450-600(50deg)AVEは、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3.5%以下である。
【0028】
本発明の光学フィルタは、下記分光特性(i-17)~(i-20)をさらに満たすことが好ましい。
(i-17)平均透過率T450-550(0deg)AVEと、平均透過率T450-550(50deg)AVEの差の絶対値が3.5%以下
(i-18)平均透過率T750-1000(0deg)AVEと、平均透過率T750-1000(50deg)AVEの差の絶対値が1.5%以下
(i-19)平均透過率T1000-1200(0deg)AVEと、平均透過率T1000-1200(50deg)AVEの差の絶対値が1.5%以下
(i-20)波長IR30(0deg)と、波長IR30(50deg)の差の絶対値が15nm以下
【0029】
分光特性(i-17)~(i-19)を満たすことは、高入射角においても450~600nmの可視光領域および750~1200nmの近赤外光領域の透過率が変化しにくい、すなわちリップルが抑制されていることを意味する。
分光特性(i-17)における絶対値は、より好ましくは3.2%以下、さらに好ましくは3%以下である。
分光特性(i-18)における絶対値は、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。
分光特性(i-19)における絶対値は、より好ましくは1.3%以下、さらに好ましくは1.2%以下である。
【0030】
分光特性(i-20)を満たすことは、高入射角においても630~680nmの領域の分光透過率曲線がシフトしにくいことを意味する。
分光特性(i-20)における絶対値は、より好ましくは10nm以下、さらに好ましくは8nm以下である。
【0031】
本発明の光学フィルタは、下記分光特性(i-21)をさらに満たすことが好ましい。
(i-21)第2誘電体多層膜側を入射方向としたとき、波長750~1000nmの範囲において、以下に定義される吸収損失量の平均が95%以上
(吸収損失量)[%]=100-(入射角5度における透過率)-(入射角5度における反射率)
【0032】
分光特性(i-21)を満たすことは、可視光領域の透過性と近赤外光領域の遮蔽性が両立していることを意味する。
吸収損失量の平均は、96%以上がより好ましく、97%以上がさらに好ましい。
【0033】
本発明の光学フィルタは、下記分光特性(i-22)をさらに満たすことが好ましい。
(i-22)第2誘電体多層膜側を入射方向としたとき、波長750~1000nmの範囲において、吸収損失量の最小値が90%以上
【0034】
分光特性(i-22)を満たすことは、可視光領域の透過性と近赤外光領域の遮蔽性が両立していることを意味する。
吸収損失量の最小値は、92%以上がより好ましく、94%以上がさらに好ましい。
【0035】
本発明の光学フィルタは、下記分光特性(i-23)をさらに満たすことが好ましい。
(i-23)第2誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角5度での分光反射率曲線において、波長750nmから波長1000nmに向かって、1nmの間隔で各波長の反射率R2n(5deg)(n:任意の整数)を読み取った際に、反射率R2n(5deg)が、1%以下となるnが200個以上ある
【0036】
分光特性(i-23)は、第2誘電体多層膜側の反射特性を規定しており、反射率が小さいことで、迷光の原因となる誘電体多層膜面での反射が抑制できることを意味する。
反射率R2n(5deg)が1%以下となるnは、より好ましくは220個以上、さらに好ましくは230個以上である。
【0037】
本発明の光学フィルタは、下記分光特性(i-24)をさらに満たすことが好ましい。
(i-24)第1誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角5度での分光反射率曲線において、波長750nmから波長1000nmに向かって、1nmの間隔で各波長の反射率R1n(5deg)(n:任意の整数)を読み取った際に、反射率R1n(5deg)が、1%以下となるnが150個以上ある
【0038】
分光特性(i-24)は、第1誘電体多層膜側の反射特性を規定しており、反射率が小さいことで、迷光の原因となる誘電体多層膜面での反射が抑制できることを意味する。
反射率R1n(5deg)が1%以下となるnは、より好ましくは180個以上、さらに好ましくは200個以上である。
【0039】
本発明の光学フィルタは、下記分光特性(i-25)~(i-28)をさらに満たすことが好ましい。
(i-25)入射角0度での分光透過率曲線において、波長450~550nmの最小透過率T450-550(0deg)MINが83%以上
(i-26)入射角0度での分光透過率曲線において、波長450~550nmの最大透過率T450-550(0deg)MAXが90%以上
(i-27)入射角0度での分光透過率曲線において、波長750~1000nmの最大透過率T750-1000(0deg)MAXが1.2%以下
(i-28)入射角0度での分光透過率曲線において、波長1000~1200nmの最大透過率T1000-1200(0deg)MAXが7%以下
【0040】
特性(i-25)および特性(i-26)を満たすことにより、可視光の透過性に優れることを意味し、特性(i-27)および特性(i-28)を満たすことにより、近赤外領域の遮蔽性に優れることを意味する。
【0041】
最小透過率T450-550(0deg)MINはより好ましくは85%以上、さらに好ましくは87%以上である。
最大透過率T450-550(0deg)MAXはより好ましくは92%以上、さらに好ましくは94%以上である。
最大透過率T750-1000(0deg)MAXはより好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.9%以下である。
最大透過率T1000-1200(0deg)MAXはより好ましくは5%以下、さらに好ましくは4%以下である。
【0042】
<第2誘電体多層膜>
本フィルタにおいて、第2誘電体多層膜は、高入射角であっても可視光領域および近赤外光領域における反射が抑制されていることが好ましい。本発明では、第2誘電体多層膜が、可視光領域および近赤外光領域における反射を抑制するため、可視光領域のリップル発生が低減され、かつ、高入射角の光に対して分光特性が変化しにくいことで迷光が抑制された光学フィルタが得られる。
【0043】
第2誘電体多層膜は、屈折率の異なる複数の層を含み、これらの層が交互に積層された多層膜である。より具体的には、低屈折率の誘電体層(低屈折率層)、中屈折率の誘電体層(中屈折率層)、高屈折率の誘電体層(高屈折率層)が挙げられ、これらのうち2以上の誘電体層が交互に積層された多層膜である。
【0044】
高屈折率層は、好ましくは、波長500nmの屈折率が1.6以上である、より好ましくは2.2~2.5である。高屈折率層の材料としては、例えばTa2O5、TiO2、TiO、Ti2O3、Nb2O5が挙げられる。その他市販品としてキヤノンオプトロン社製、OS50(Ti3O5)、OS10(Ti4O7)、OA500(Ta2O5、とZrO2の混合物)、OA600(Ta2O5、とTiO2の混合物)などが挙げられる。これらのうち、成膜性、屈折率等における再現性、安定性等の点から、TiO2が好ましい。
【0045】
中屈折率層は、好ましくは、波長500nmにおける屈折率が1.6以上2.2未満である。中屈折率層の材料としては、例えばZrO2、Nb2O5、Al2O3、HfO2や、キヤノンオプトロン社が販売しているOM-4、OM-6(Al2O3とZrO2との混合物)、OA-100、Merck社が販売しているH4、M2(アルミナランタニア)等が挙げられる。これらのうち、成膜性、屈折率等における再現性、安定性等の点から、Al2O3系の化合物やAl2O3とZrO2との混合物が好ましい。
【0046】
低屈折率層は、好ましくは、波長500nmにおける屈折率が1.6未満であり、より好ましくは1.38~1.5である。低屈折率層の材料としては、例えばSiO2、SiOxNy、MgF2等が挙げられる。その他市販品としてキヤノンオプトロン社製、S4F、S5F(SiO2とAl2O3の混合物)が挙げられる。これらのうち、成膜性における再現性、安定性、経済性等の点から、SiO2が好ましい。
【0047】
(第2誘電体多層膜の構成)
図2は後述する例2-1で作製した光学フィルタの構成を示す断面模式図である。例2-1では、第2誘電体多層膜20Aは高屈折率層としてTiO
2(500nmにおける屈折率:2.467)、低屈折率層としてSiO
2(500nmにおける屈折率:1.483)を交互に積層した積層構造とした。しかし本実施形態においてはこの構成に限らず、上記の材料を任意に選択できる。
【0048】
第2誘電体多層膜は、
図2に示すように、500nmにおける屈折率が1.8以上2.5以下、かつQWOT(Quarter Wave Optical Thickness)が1.1以上3.5以下を満たすH
2層を少なくとも1つ含む。H
2層の屈折率は、好ましくは1.9以上2.5以下、より好ましくは2.0以上2.5以下、さらに好ましくは2.1以上2.5以下である。
【0049】
ここで、QWOTは、以下の式によって求められる。
QWOT=(物理膜厚/中心波長)×4×屈折率
なお、物理膜厚の単位は[nm]であり、中心波長は500nmであり、屈折率は波長500nmにおける屈折率である。
【0050】
第2誘電体多層膜は、
図2に示すように、リン酸ガラスに最も近いH
2層を第1のH
2層としたときに、第1のH
2層とリン酸ガラスとの間に、各層のQWOTの合計が1.2以上1.8以下を満たす、連続した複数の層からなる第1のM
2層を含む。
なお、
図2に示す例では、リン酸ガラスに最も近い層を第1層として、第1層から第4層までの4層によって第1のM
2層が構成されているが、各層のQWOTの合計が1.2以上1.8以下であれば、第1のM
2層は何層で構成されていてもよい。すなわち、第1のM
2層は、QWOTが1.2以上1.8以下を満たす単層であってもよい。ただし、第1のM
2層は、生産性を向上する観点から、6層以下で構成されていることが好ましく、3層以下であることがより好ましい。
【0051】
本発明者らは、第2誘電体多層膜が上記の構成を有することで、第1のM2層が中間屈折率層として機能し、分光波形が滑らかになるため、可視光領域から近赤外光領域にわたる広い波長領域で反射が抑制され、さらに反射特性の入射角依存性が抑制され、迷光が抑制できることを見出した。
【0052】
より具体的には、第2誘電体多層膜が上記の構成を有することで、下記特性が得られる。
(i-5)第2誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角5度での分光反射率曲線における、波長750~1000nmの平均反射率R2750-1000(5deg)AVEが3%以下
(i-6)第2誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角5度での分光反射率曲線における、波長450~600nmの平均反射率R2450-600(5deg)AVEが3%以下
(i-7)第2誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角50度での分光反射率曲線における、波長750~1000nmの平均反射率R2750-1000(50deg)AVEが5%以下
(i-8)第2誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角50度での分光反射率曲線における、波長450~600nmの平均反射率R2450-600(50deg)AVEが5%以下
【0053】
本実施形態において、第1のM
2層は、第1のH
2層とリン酸ガラスとの間に、任意の位置に配置し得る。具体的には、
図2において、リン酸ガラスと第1のH
2層の間に含まれるすべての層(第1層~第4層)によって第1のM
2層が構成されているが、リン酸ガラスに最も近い層(第1層)から3つ目の層(第3層)までを第1のM
2層(この場合、第1層~第3層のQWOTの合計は1.423)とし、第1のH
2層に最も近い層であるSiO
2(第4層)を任意の層としてもよい。
【0054】
また、第1のH2層とリン酸ガラスとの間に、QWOTが1.2以上1.8以下を満たす単層またはQWOTの合計が1.2以上1.8以下を満たす連続した複数の層が複数ある場合においては、該当する単層または連続した複数の層のうちの任意の1つを、第1のM2層とし、その他の層を任意の層とする。
【0055】
上記のように本実施形態においては、第1のH2層とリン酸ガラスとの間に第1のM2層が含まれていれば、本発明の効果を妨げない範囲で、第1のH2層とリン酸ガラスとの間に任意の層が含まれていてもよい。任意の層は、例えば、リン酸ガラスと第1のM2層との間や、第1のM2層と第1のH2層との間に含まれていてもよい。ただし、反射を抑制する観点から、第1のH2層とリン酸ガラスの間には、任意の層は存在しないことが最も好ましい。すなわち、第1のH2層と第1のM2層とリン酸ガラスが連続して形成されていることが好ましい。
【0056】
任意の層の材料としては、上述の高屈折率層、中屈折率層および低屈折率層が挙げられる。
【0057】
さらに、第2誘電体多層膜は、
図3に示すようにH
2層を2つ以上含む構成であってもよい。この時、
図3に示すように、リン酸ガラスに2番目に近い層を第2のH
2層としたとき、第1のH
2層と第2のH
2層との間に、各層のQWOTの合計が1.2以上2.1以下を満たす、連続した複数の層からなる第2のM
2層を含むことが好ましい。第1のH
2層と第2のH
2層との間に、第2のM
2層を含むことで、第2のM
2層が中間屈折率層として機能し、分光波形が滑らかになるため、可視光領域から近赤外光領域にわたる広い波長領域で反射がさらに抑制される。
【0058】
なお、
図3に示す例においては、第2のM
2層は第6層から第8層までの3層によって構成されているが、各層のQWOTの合計が1.2以上2.1以下であれば、第2のM
2層は何層で構成されていてもよい。すなわち、第2のM
2層は、QWOTが1.2以上2.1以下を満たす単層であってもよい。ただし、第2のM
2層は、生産性向上の観点から、6層以下で構成されていることが好ましく、3層以下であることがより好ましい。
【0059】
さらに、本実施形態においては、
図4に示すように、第1のH
2層と第2のH
2層との間に、QWOTが1.2以上2.1以下を満たす単層またはQWOTの合計が1.2以上2.1以下を満たす連続した複数の層を2つ含むことが好ましい。この時、
図4に示すように、該当する単層または連続した複数の層のうち、第2のH
2層に最も近い層を第2のM
2層とし、第2のH
2層に2番目に近い層を第3のM
2層とする。すなわち、第2誘電体多層膜は、上記第2のM
2層に加え、第1のH
2層と第2のM
2層の間に、QWOTが1.2以上2.1以下を満たす単層またはQWOTの合計が1.2以上2.1以下を満たす複数の層からなる第3のM
2層を含むことが好ましい。
【0060】
第2誘電体多層膜が、このような構成を有することで、第3のM2層が中間屈折率層として機能し、分光波形が滑らかになるため、可視光領域から近赤外光領域にわたる広い波長領域で反射がさらに抑制される。
【0061】
第2のM2層および第3のM2層は、上述の通り第2のH2層に近い層が第2のM2層であれば、任意の位置に配置し得る。
【0062】
なお、
図4に示す例では、第1のH
2層と第2のH
2層との間に、QWOTが1.2以上2.1以下を満たす単層またはQWOTの合計が1.2以上2.1以下を満たす連続した複数の層が2つ(第2のM
2層および第3のM
2層)存在するが、該当する単層または連続する複数の層が、3つ以上含まれていてもよい。
【0063】
また、第1のH2層と第2のH2層との間には、本発明の効果を妨げない範囲で、第2のM2層および第3のM2層のほかに任意の層が含まれていてもよい。任意の層としては、上記と同様のものが挙げられる。ただし、生産性向上の観点から、任意の層は存在しないことが好ましい。すなわち、第2のH2層と第2のM2層と第3のM2層と第1のH2層が連続して形成されていることが最も好ましい。
また、第3のM2層を有しない場合であっても、任意の層は存在せず、第2のH2層と第2のM2層と第1のH2層が連続して形成されていることが好ましい。
【0064】
また、反射をさらに抑制する観点から、第2誘電体多層膜における第1のH2層および第2のH2層のQWOTはそれぞれ異なっていることが好ましい。また、同様の観点から、第1のM2層、第2のM2層および第3のM2層を構成する単層のQWOTまたは、連続する複数の層のQWOTの合計の値はそれぞれ異なっていることが好ましい。
【0065】
なお、第2誘電体多層膜における誘電体層の合計積層数は、10~30層が好ましく、10~20層がより好ましい。合計積層数が上記範囲内であると、1層あたりの膜厚の増加を防止できる。
【0066】
また、第2誘電体多層膜の全体の膜厚は、0.5~2.0μmが好ましく、0.5~1.0μmがより好ましい。第2誘電体多層膜の膜厚が上記範囲内であると、1層あたりの膜厚の増加を防止できる。
【0067】
第2誘電体多層膜および後述する第1誘電体多層膜の形成は、例えば、CVD法、スパッタリング法、真空蒸着法等の真空成膜プロセスや、スプレー法、ディップ法等の湿式成膜プロセス等を使用できる。
【0068】
<第1誘電体多層膜>
本フィルタにおいて、第1誘電体多層膜は、可視光領域および近赤外光領域における反射を抑制することが好ましい。第1誘電体多層膜が、可視光領域および近赤外光領域における反射を抑制することで、可視光領域のリップル発生が低減され、さらに、高入射角の光に対して分光特性が変化しにくいことで、迷光が抑制された光学フィルタが得られる。
【0069】
第1誘電体多層膜は、屈折率の異なる複数の層を含み、これらの層が交互に積層された多層膜である。より具体的には、低屈折率の誘電体層(低屈折率層)、中屈折率の誘電体層(中屈折率層)、高屈折率の誘電体層(高屈折率層)が挙げられ、これらのうち2以上の誘電体層が交互に積層された多層膜である。
【0070】
高屈折率層、中屈折率層および低屈折率層の屈折率及び材料は、第2誘電体多層膜と同様のものが挙げられる。
【0071】
(第1誘電体多層膜の構成)
本実施形態において、第1誘電体多層膜は、
図2に示すように、500nmにおける屈折率が1.8以上2.5以下、QWOTが1.1以上3.5以下を満たすH
1層を少なくとも1つ含む。H
1層の屈折率は、好ましくは1.9以上2.5以下、より好ましくは2.0以上2.5以下、さらに好ましくは2.1以上2.5以下である。
【0072】
第1誘電体多層膜が、
図2に示すように、樹脂膜に最も近いH
1層を第1のH
1層としたとき、第1のH
1層と樹脂膜の間に、各層のQWOTの合計が1.2以上1.8以下を満たす、連続した複数の層からなる第1のM
1層を含むことが好ましい。
【0073】
すなわち、第2誘電体多層膜が第1のH2層と第1のM2層を含む構成であることと同様に、第1誘電体多層膜においても、第1のH1層と第1のM1層を含むことが好ましい。第1誘電体多層膜が上記の構成を有することで、第1のM1層が中間屈折率層として機能し、分光波形が滑らかになるため、光学フィルタの樹脂面からの入射において、可視光領域から赤外光領域にわたる広い波長領域で反射がより抑制される。
【0074】
より具体的には、第1誘電体多層膜が上記の構成を有することで、下記の特性が得られる。
(i-13)第1誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角5度での分光反射率曲線における、波長750~1000nmの平均反射率R1750-1000(5deg)AVEが3%以下
(i-14)第1誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角5度での分光反射率曲線における、波長450~600nmの平均反射率R1450-600(5deg)AVEが3%以下
(i-15)第1誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角50度での分光反射率曲線における、波長750~1000nmの平均反射率R1750-1000(50deg)AVEが5%以下
(i-16)第1誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角50度での分光反射率曲線における、波長450~600nmの平均反射率R1450-600(50deg)AVEが5%以下
【0075】
なお、第1のM
1層は、第1のH
1層と樹脂膜の間の任意の位置に配置し得る。具体的には、
図2において、樹脂膜と第1のH
1層の間に含まれるすべての層(第1層~第4層)によって第1のM
1層が構成されているが、樹脂膜に最も近い層(第1層)から3つ目の層(第3層)までを第1のM
1層(この場合、第1層~第3層のQWOTの合計は1.423)とし、第1のH
1層に最も近い層であるSiO
2(第4層)を任意の層としてもよい。
【0076】
また、第1のH1層と樹脂膜との間に、QWOTが1.2以上1.8以下を満たす単層またはQWOTの合計が1.2以上1.8以下を満たす連続した複数の層が複数ある場合においては、該当する単層または連続した複数の層のうちの任意の1つを、第1のM1層とし、その他の層を任意の層とする。
【0077】
このように、第1のH1層と樹脂層との間に、本発明の効果を妨げない範囲で、任意の層が含まれていてもよい。例えば、任意の層は、樹脂層と第1のM1層との間や、第1のM1層と第1のH1層との間に含まれていてもよい。任意の層としては、上記と同様のものが挙げられる。
【0078】
さらに、
図3に示すように、第1誘電体多層膜は、H
1層を2つ以上含む構成であってもよい。この時、樹脂膜に2番目に近い層を第2のH
1層としたとき、第1のH
1層と第2のH
1層の間には、QWOTの合計が1.2以上2.1以下を満たす、連続した複数の層からなる第2のM
1層を含むことが好ましい。第1のH
2層と第2のH
2層との間に、第2のM
1層を有することで、第2のM
1層が中間屈折率層として機能し、分光波形が滑らかになるため、光学フィルタの樹脂面からの入射において、反射がさらに抑制される。
【0079】
なお、第2のM1層は、各層のQWOTの合計が1.2以上2.1以下であれば、何層で構成されていてもよい。すなわち、第2のM1層は、QWOTが1.2以上2.1以下を満たす単層であってもよい。ただし、第2のM1層は、生産性を向上する観点から、6層以下で構成されていることが好ましく、3層以下であることがより好ましい。
【0080】
さらに、本実施形態においては、
図4に示すように、第1のH
1層と第2のH
1層との間に、QWOTが1.2以上2.1以下を満たす単層またはQWOTの合計が1.2以上2.1以下を満たす連続した複数の層を2つ含むことが好ましい。この時、該当する単層または連続した複数の層のうち、第2のH
1層に最も近い層を第2のM
1層とし、第2のH
1層に2番目に近い層を第3のM
1層とする。すなわち、第1誘電体多層膜は、上記第2のM
1層に加え、第1のH
1層と第2のM
1層の間に、QWOTが1.2以上2.1以下を満たす単層またはQWOTの合計が1.2以上2.1以下を満たす複数の層からなる第3のM
1層を含むことが好ましい。
【0081】
第1誘電体多層膜が、このような構成を有することで、第3のM1層が中間屈折率層として機能し、分光波形が滑らかになるため、可視光領域から近赤外光領域にわたる広い波長領域で反射がさらに抑制される。
【0082】
第2のM1層および第3のM1層は、上述の通り第2のH1層に近い層が第2のM1層であれば、任意の位置に配置し得る。
【0083】
なお、
図4に示す例では、第1のH
1層と第2のH
1層との間に、QWOTが1.2以上2.1以下を満たす単層またはQWOTの合計が1.2以上2.1以下を満たす連続した複数の層が2つ(第2のM
1層および第3のM
1層)存在するが、該当する単層または複数の層が、3つ以上含まれていてもよい。
【0084】
また、第1のH1層と第2のH1層との間には、本発明の効果を妨げない範囲で、第2のM1層および第3のM1層のほかに任意の層が含まれていてもよい。任意の層としては、上記と同様のものが挙げられる。ただし、生産性向上の観点から、任意の層は存在しないことが好ましい。すなわち、第2のH1層と第2のM1層と第3のM1層と第1のH1層が連続して形成されていることが最も好ましい。
また、第3のM1層を有しない場合であっても、任意の層は存在せず、第2のH1層と第2のM1層と第1のH1層が連続して形成されていることが好ましい。
【0085】
また、反射をさらに抑制する観点から、第1誘電体多層膜における第1のH1層および第2のH1層のQWOTはそれぞれ異なっていることが好ましい。また、同様の観点から、第1のM1層、第2のM1層および第3のM1層を構成する単層のQWOTまたは、連続する複数の層のQWOTの合計の値は、それぞれ異なっていることが好ましい。
【0086】
なお、第1誘電体多層膜における誘電体層の合計積層数は、10~30層が好ましく、10~20層がより好ましい。合計積層数が上記範囲内であると、1層あたりの膜厚の増加を防止できる。
【0087】
また、第1誘電体多層膜の全体の膜厚は、0.5~2.0μmが好ましく、0.5~1.0μmがより好ましい。第1誘電体多層膜の膜厚が上記範囲内であると、1層あたりの膜厚の増加を防止できる。
【0088】
<リン酸ガラス>
リン酸ガラスは、下記分光特性(ii-1)~(ii-3)を全て満たすことが好ましい。
(ii-1)波長450nmにおける内部透過率T450が92%以上
(ii-2)波長450~600nmの平均内部透過率T450-600AVEが90%以上
(ii-3)内部透過率が50%となる波長IR50が、波長625~650nmの範囲にある
(ii-4)波長750~1000nmの平均内部透過率T750-1000AVEが2.5%以下
(ii-5)波長1000~1200nmの平均内部透過率T1000-1200AVEが7%以下
【0089】
分光特性(ii-1)を満たすことで、青色光領域における透過性に優れ、分光特性(ii-2)を満たすことで、450~600nmの可視光領域の透過性に優ることを意味する。
内部透過率T450は、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上である。
平均内部透過率T450-600AVEは、より好ましくは94%以上、さらに好ましくは95%以上である。
【0090】
分光特性(ii-3)を満たすことで、近赤外光領域の光を遮光して効率的に可視透過光を取り込めることを意味する。
波長IR50は、より好ましくは625~645nm、さらに好ましくは625~640nmの範囲にある。
【0091】
分光特性(ii-4)を満たすことで、750~1000nmの近赤外光領域の遮光性に優れることを意味する。
T750-1000AVEは、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1.2%以下である。
【0092】
分光特性(ii-5)を満たすことで、1000~1200nmの近赤外光領域の遮光性に優れることを意味する。平均内部透過率T1000-1200AVEは、より好ましくは6.8%以下、さらに好ましくは6.5%以下である。
【0093】
本発明において、リン酸ガラスは、上記特性(ii-3)に示すように、近赤外光の吸収が625~650nmの領域から始まり、上記特性(ii-4)に示すように、750nm以降は高い遮光性を示すことが好ましい。これにより、上述した誘電体多層膜の遮光性を補うことができる基材が得られる。
【0094】
本発明において、リン酸ガラスは、酸化物基準の質量百分率表示でP2O5を40%以上含むガラスを意味する。また、リン酸ガラスは、銅イオンを含むことが好ましい。波長900nm付近の光を吸収する銅イオンを含むことで700~1200nmの近赤外光を遮断できる。なお、リン酸ガラスには、ガラスの骨格の一部がSiO2で構成されるケイリン酸ガラスも含まれる。
【0095】
例えば、リン酸ガラスとして以下のガラスを構成する成分を含有することが好ましい。なお、下記のガラス構成成分の各含有割合は、酸化物基準の質量百分率表示である。
P2O5 40~80%
Al2O3 0.5~20%
ΣR2O(ただし、R2Oは、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、及びCs2Oから選ばれる1つ以上の成分、ΣR2Oは、R2Oの合計量) 0.5~20%
ΣR’O(ただし、R’OはCaO、MgO、BaO、SrO、及びZnOから選ばれる1つ以上の成分、ΣR’Oは、R’Oの合計量) 0~40%
CuO 0.5~40%
【0096】
P2O5は、ガラスを形成する主成分であり、近赤外線カット性を高めるための成分である。P2O5の含有量が40%以上であれば、その効果が十分得られ、80%以下であれば、ガラスが不安定になる、耐候性が低下する等の問題が生じにくい。そのため、好ましくは40~80%であり、より好ましくは45~78%であり、さらに好ましくは50~77%であり、さらに一層好ましくは55~76%であり、最も好ましくは60~75%である。
【0097】
Al2O3は、ガラスを形成する主成分であり、ガラスの強度を高める、ガラスの耐候性を高めるなどのための成分である。Al2O3の含有量が0.5%以上であれば、その効果が十分得られ、20%以下であれば、ガラスが不安定になる、近赤外線カット性が低下する等の問題が生じにくい。そのため、好ましくは0.5~20%であり、より好ましくは1.0~20%であり、さらに好ましくは2.0~18%であり、さらに一層好ましくは3.0~17%であり、特に好ましくは4.0~16%であり、最も好ましくは5.0~15.5%である。
【0098】
R2O(ただし、R2Oは、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、及びCs2Oから選ばれる1つ以上の成分)は、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための成分である。R2Oの合計量(ΣR2O)が0.5%以上であれば、その効果が十分得られ、20%以下であれば、ガラスが不安定になりにくいため好ましい。そのため、好ましくは0.5~20%であり、より好ましくは1.0~19%であり、さらに好ましくは1.5~18%であり、さらに一層好ましくは2.0~17%であり、特に好ましくは2.5~16%であり、最も好ましくは3.0~15.5%である。
【0099】
Li2Oは、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための成分である。Li2Oの含有量は0~15%が好ましい。Li2Oの含有量が15%以下であれば、ガラスが不安定になる、近赤外性カット性が低下する等の問題が生じにくいため好ましい。より好ましくは0~8%であり、さらに好ましくは0~7%であり、さらに一層好ましくは0~6%であり、最も好ましくは0~5%である。
【0100】
Na2Oは、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための成分である。Na2Oの含有量は0~15%が好ましい。Na2Oの含有量が15%以下であれば、ガラスが不安定になりにくいため好ましい。より好ましくは0.5~14%であり、さらに好ましくは1~13%であり、さらに一層好ましくは2~13%であり、最も好ましくは3~13%である。
【0101】
K2Oは、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、などの効果がある成分である。K2Oの含有量としては、0~20%が好ましい。K2Oの含有量が20%以下であれば、ガラスが不安定になりにくいため好ましい。より好ましくは0.5~19%であり、さらに好ましくは1~18%であり、さらに一層好ましくは2~17%であり、最も好ましくは3~16%である。
【0102】
Rb2Oは、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、などの効果がある成分である。Rb2Oの含有量としては、0~15%が好ましい。Rb2Oの含有量が15%以下であれば、ガラスが不安定になりにくいため好ましい。より好ましくは0.5~14%であり、さらに好ましくは1~13%であり、さらに一層好ましくは2~13%であり、最も好ましくは3~13%である。
【0103】
Cs2Oは、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、などの効果がある成分である。Cs2Oの含有量としては、0~15%が好ましい。Cs2Oの含有量が15%以下であれば、ガラスが不安定になりにくいため好ましい。より好ましくは0.5~14%であり、さらに好ましくは1~13%であり、さらに一層好ましくは2~13%であり、最も好ましくは3~13%である。
【0104】
また、上記R2Oで示すアルカリ金属成分は、各成分を二種類以上同時に添加することでガラス中において混合アルカリ効果が生じ、R+イオンの移動度が減少する。それによりガラスが水と接触した際に、水分子中のH+イオンとガラス中のR+イオンのイオン交換によって生じる水和反応を阻害し、ガラスの耐候性が向上する。そのため、本実施形態のリン酸ガラスは、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、及びCs2Oから選ばれる2つ以上の成分を含むのが好ましい。この場合、R2O(ただし、R2Oは、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、及びCs2O)の合計量(ΣR2O)としては、7%超18%以下が好ましい。R2Oの合計量が7%超であれば、その効果が十分得られ、18%以下であればガラスが不安定になる、近赤外線カット性が低下する、ガラスの強度が低下する等の問題が生じにくいため好ましい。そのため、ΣR2Oは好ましくは7%超18%以下であり、より好ましくは7.5~17%であり、さらに好ましくは8~16%であり、さらに一層好ましくは8.5%~15%であり、最も好ましくは9~14%である。
【0105】
R’O(ただし、R’OはCaO、MgO、BaO、SrO、及びZnOから選ばれる1つ以上の成分)は、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させる、ガラスの強度を高めるなどのための成分である。R’Oの合計量(ΣR’O)は0~40%が好ましい。R’Oの合計量が40%以下であれば、ガラスが不安定になる、近赤外線カット性が低下する、ガラスの強度が低下する等の問題が生じにくいため好ましい。より好ましくは0~35%であり、さらに好ましくは0~30%である。さらに一層好ましくは0~25%であり、特に好ましくは0~20%であり、最も好ましくは0~15%である。
【0106】
CaOは、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させる、ガラスの強度を高めるなどのための成分である。CaOの含有量としては0~10%が好ましい。CaOの含有量が10%以下であれば、ガラスが不安定となる、近赤外線カット性が低下する等の問題が生じにくいため好ましい。より好ましくは0~8%であり、さらに好ましくは0~6%であり、さらに一層好ましくは0~5%であり、最も好ましくは0~4%である。
【0107】
MgOは、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させる、ガラスの強度を高めるなどのための成分である。MgOの含有量としては0~15%が好ましい。MgOの含有量が15%以下であれば、ガラスが不安定になる、近赤外線カット性が低下する等の問題が生じにくいため好ましい。より好ましくは0~13%であり、さらに好ましくは0~10%であり、さらに一層好ましくは0~9%であり、最も好ましくは0~8%である。
【0108】
BaOは、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための成分である。BaOの含有量としては0~40%が好ましい。BaOの含有量が40%以下であれば、ガラスが不安定となる、近赤外線カット性が低下する等の問題が生じにくいため好ましい。より好ましくは0~30%であり、さらに好ましくは0~20%であり、さらに一層好ましくは0~10%であり、最も好ましくは0~5%である。
【0109】
SrOは、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための成分である。SrOの含有量としては0~10%が好ましい。SrOの含有量が10%以下であれば、ガラスが不安定となる、近赤外線カット性が低下する等の問題が生じにくいため好ましい。より好ましくは0~8%であり、さらに好ましくは0~7%であり、最も好ましくは0~6%である。
【0110】
ZnOは、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、などの効果がある。ZnOの含有量は0~15%が好ましい。ZnOの含有量が15%以下であれば、ガラスが不安定になる、ガラスの溶解性が悪化する、近赤外線カット性が低下する等の問題が生じにくいため好ましい。より好ましくは0~13%であり、さらに好ましくは0~10%であり、さらに一層好ましくは0~9%であり、最も好ましくは0~8%である。
【0111】
CuOは、近赤外線カット性を高めるための成分である。CuOの含有量としては0.5~40%が好ましい。CuOの含有量が0.5%以上であれば、その効果が十分に得られ、また40%以下であれば、ガラスに失透異物が発生する、可視領域の光の透過率が低下するなどの問題が生じにくいため好ましい。より好ましくは1.0~35%であり、さらに好ましくは1.5~30%であり、さらに一層好ましくは2.0~25%であり、最も好ましくは2.5~20%である。
【0112】
本実施形態に係るリン酸ガラスにおいて、Fは耐候性を上げるために10%以下の範囲で含有してもよい。Fの含有量が10%以下であれば近赤外線カット性が低下する、ガラスに失透異物が発生するなどの問題が生じにくいため好ましい。より好ましくは9%以下であり、さらに好ましくは8%以下であり、さらに一層好ましくは7%以下であり、特に好ましくは6%以下であり、最も好ましくは5%以下である。
【0113】
B2O3は、ガラスを安定化させるために10%以下の範囲で含有してもよい。B2O3の含有量が10%以下であれば、ガラスの耐候性が悪化する、近赤外線カット性が低下する等の問題が生じにくいため好ましい。より好ましくは9%以下であり、さらに好ましくは8%以下であり、さらに一層好ましくは7%以下であり、特に好ましくは6%以下であり、最も好ましくは5%以下である。
【0114】
本実施形態において、SiO2、GeO2、ZrO2、SnO2、TiO2、CeO2、MoO3、WO3、Y2O3、La2O3、Gd2O3、Yb2O3、Nb2O5は、リン酸ガラスの耐候性を上げるために5%以下の範囲で含有してもよい。これら成分の含有量が5%以下であれば、ガラスに失透異物が発生する、近赤外線カット性が低下する等の問題が生じにくいため好ましい。好ましくは4%以下であり、より好ましくは3%以下であり、さらに好ましくは2%以下であり、さらに一層好ましくは1%以下である。
【0115】
Fe2O3、Cr2O3、Bi2O3、NiO、V2O5、MnO2およびCoOは、いずれもリン酸ガラス中に存在することで、可視領域の光の透過率を低下させる成分である。よって、これらの成分は、実質的にガラス中に含有しないことが好ましい。
なお、本発明において、特定の成分を実質的に含有しないとは、意図して添加しないという意味であり、原料等から不可避的に混入し、所期の特性に影響を与えない程度の含有を排除するものではない。
【0116】
リン酸ガラスの厚さは、カメラモジュール低背化の観点から、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.3mm以下であり、素子強度維持の観点から、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.15mm以上である。
【0117】
リン酸ガラスは、例えば次のようにして作製できる。
まず、上記組成範囲になるように原料を秤量、混合する(混合工程)。この原料混合物を白金ルツボに収容し、電気炉内において700~1400℃の温度で加熱溶解する(溶解工程)。十分に撹拌・清澄した後、金型内に鋳込み、切断・研磨して所定の肉厚の平板状に成形する(成形工程)。
【0118】
上記製造方法の溶解工程において、ガラス溶解中のガラスの最も高い温度を1400℃以下にすることが好ましい。ガラス溶解中のガラスの最も高い温度が上記温度超であれば、透過率特性が悪化するおそれがある。上記温度は、より好ましくは1350℃以下、さらに好ましくは1300℃以下、より一層好ましくは1250℃以下である。
また、上記溶解工程における温度は低くなりすぎると、溶解中に失透が発生する、溶け落ちに時間がかかるなどの問題が生じるおそれがあるため、好ましくは700℃以上、より好ましくは800℃以上である。
【0119】
<樹脂膜>
本発明の光学フィルタにおける樹脂膜は、樹脂と、樹脂中で690~800nmに最大吸収波長を有する近赤外線吸収色素とを含む。ここで、樹脂とは、樹脂膜を構成する樹脂を指す。
【0120】
樹脂膜は下記分光特性(iii-1)~(iii-3)を全て満たすことが好ましい。
(iii-1)波長450nmにおける内部透過率T450が85%以上
(iii-2)波長450~600nmの平均内部透過率T450-600AVEが90%以上
(iii-3)内部透過率が50%となる波長IR50が、波長660~700nmの範囲にある
【0121】
分光特性(iii-1)を満たすことで、青色光領域における透過性に優れることを意味する。
内部透過率T450は、より好ましくは87%以上、さらに好ましくは90%以上である。
【0122】
分光特性(iii-2)を満たすことで、450~600nmの可視光領域の透過性に優れることを意味する。
平均内部透過率T450-600AVEは、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%である。
【0123】
分光特性(iii-3)を満たすことで、上述のリン酸ガラスと組み合わせて使用した際に、630~680nmの範囲において、分光特性の入射角依存性が抑制された光学フィルタを得ることできる。
波長IR50は、より好ましくは660~690nm、さらに好ましくは665~685nmの範囲にある。
【0124】
本発明における樹脂膜は、690~800nmに最大吸収波長を有する色素を含むことで、リン酸ガラスでは遮光性がやや弱い700nm付近の近赤外光領域を、色素の吸収特性によって遮光できる。
【0125】
近赤外線吸収色素としては、たとえば、シアニン色素、フタロシアニン色素、スクアリリウム色素、ナフタロシアニン色素、およびジイモニウム色素からなる群より選ばれる少なくとも一種が挙げられ、単独もしくは複数を混合して用いることができる。中でも、本発明の効果が発揮されやすい観点から、スクアリリウム色素、シアニン色素が好ましい。
【0126】
樹脂膜における近赤外線吸収色素の含有量は、樹脂100質量部に対し好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは0.1~20質量部である。なお、2種以上の化合物を組み合わせる場合、上記含有量は各化合物の総和である。
【0127】
樹脂膜は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の色素、例えば紫外光吸収色素を含有してもよい。
紫外光吸収色素としては、オキサゾール色素、メロシアニン色素、シアニン色素、ナフタルイミド色素、オキサジアゾール色素、オキサジン色素、オキサゾリジン色素、ナフタル酸色素、スチリル色素、アントラセン色素、環状カルボニル色素、トリアゾール色素等が挙げられる。この中でも、メロシアニン色素が特に好ましい。また、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0128】
樹脂としては、透明樹脂であれば制限されず、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エン・チオール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリパラフェニレン樹脂、ポリアリーレンエーテルフォスフィンオキシド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、およびポリスチレン樹脂等から選ばれる1種以上の透明樹脂が用いられる。これらの樹脂は1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
樹脂膜の分光特性やガラス転移点(Tg)、密着性の観点から、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂から選ばれる1種以上の樹脂が好ましい。
【0129】
複数の色素を用いる場合、これらは同一の樹脂膜に含まれてもよく、また、それぞれ別の樹脂膜に含まれてもよい。
【0130】
樹脂膜は、色素と、樹脂または樹脂の原料成分と、必要に応じて配合される各成分とを、溶媒に溶解または分散させて塗工液を調製し、これを支持体に塗工し乾燥させ、さらに必要に応じて硬化させて形成できる。この際の支持体は、本フィルタに用いられるリン酸ガラスでもよいし、樹脂膜を形成する際にのみ使用する剥離性の支持体でもよい。また、溶媒は、安定に分散できる分散媒または溶解できる溶媒であればよい。
【0131】
また、塗工液は、微小な泡によるボイド、異物等の付着による凹み、乾燥工程でのはじき等の改善のため界面活性剤を含んでもよい。さらに、塗工液の塗工には、例えば、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、またはスピンコート法等を使用できる。上記塗工液を支持体上に塗工後、乾燥させることにより樹脂膜が形成される。また、塗工液が透明樹脂の原料成分を含有する場合、さらに熱硬化、光硬化等の硬化処理を行う。
【0132】
また、樹脂膜は、押出成形によりフィルム状に製造可能でもある。得られたフィルム状樹脂膜をリン酸ガラスに積層し熱圧着等により一体化させることにより基材を製造できる。
【0133】
樹脂膜は、光学フィルタの中に1層有してもよく、2層以上有してもよい。2層以上有する場合、各層は同じ構成であっても異なってもよい。
【0134】
樹脂膜の厚さは、塗工後の基板内の面内膜厚分布、外観品質の観点から10μm以下が好ましく、より好ましくは5μm以下であり、また、適切な色素濃度で所望の分光特性を発現する観点から好ましくは0.5μm以上である。なお、光学フィルタが樹脂膜を2層以上有する場合は、各樹脂膜の総厚が上記範囲内であることが好ましい。
【0135】
<その他>
本フィルタは、他の構成要素として、例えば、特定の波長域の光の透過と吸収を制御する無機微粒子等による吸収を与える構成要素(層)などを備えてもよい。無機微粒子の具体例としては、ITO(Indium Tin Oxides)、ATO(Antimony-doped Tin Oxides)、タングステン酸セシウム、ホウ化ランタン等が挙げられる。ITO微粒子、タングステン酸セシウム微粒子は、可視光の透過率が高く、かつ1200nmを超える赤外波長領域の広範囲に光吸収性を有するため、かかる赤外光の遮蔽性を必要とする場合に使用できる。
【0136】
以上に記載した通り、本明細書には下記の光学フィルタ等が開示されている。
[1] 第1誘電体多層膜と、樹脂膜と、リン酸ガラスと、第2誘電体多層膜とをこの順に備える光学フィルタであって、
前記樹脂膜は、樹脂と、前記樹脂中で690~800nmに最大吸収波長を有する色素とを含み、
前記第1誘電体多層膜および前記第2誘電体多層膜は、屈折率の異なる複数の層を含み、
前記第2誘電体多層膜は、屈折率が1.8以上2.5以下、QWOTが1.1以上3.5以下を満たすH2層を少なくとも1つ含み、
前記H2層のうち、前記リン酸ガラスに最も近い層を第1のH2層としたとき、
前記第1のH2層と前記リン酸ガラスの間に、QWOTが1.2以上1.8以下を満たす単層またはQWOTの合計が1.2以上1.8以下を満たす複数の層からなる第1のM2層を含み、
前記光学フィルタが下記分光特性(i-1)~(i-4)を全て満たす光学フィルタ。
(i-1)入射角0度での分光透過率曲線において、波長450~550nmの平均透過率T450-550(0deg)AVEが85%以上
(i-2)入射角50度での分光透過率曲線において、波長450~550nmの平均透過率T450-550(50deg)AVEが85%以上
(i-3)入射角0度での分光透過率曲線において、波長750~1000nmの平均透過率T750-1000(0deg)AVEが2.5%以下
(i-4)入射角50度での分光透過率曲線において、波長750~1000nmの平均透過率T750-1000(50deg)AVEが2.5%以下
[2] 第1誘電体多層膜と、樹脂膜と、リン酸ガラスと、第2誘電体多層膜とをこの順に備える光学フィルタであって、
前記樹脂膜は、樹脂と、前記樹脂中で690~800nmに最大吸収波長を有する色素とを含み、
前記第1誘電体多層膜および前記第2誘電体多層膜は、屈折率の異なる複数の層を含み、
前記第1誘電体多層膜が、屈折率が1.8以上2.5以下、QWOTが1.1以上3.5以下を満たすH1層を少なくとも1つ含み、
前記H1層のうち、前記樹脂膜に最も近い層を第1のH1層としたとき、
前記第1のH1層と前記樹脂膜の間に、QWOTが1.2以上1.8以下を満たす単層またはQWOTの合計が1.2以上1.8以下を満たす複数の層からなる第1のM1層を含み、
前記光学フィルタが下記分光特性(i-1)~(i-4)を全て満たす光学フィルタ。
(i-1)入射角0度での分光透過率曲線において、波長450~550nmの平均透過率T450-550(0deg)AVEが85%以上
(i-2)入射角50度での分光透過率曲線において、波長450~550nmの平均透過率T450-550(50deg)AVEが85%以上
(i-3)入射角0度での分光透過率曲線において、波長750~1000nmの平均透過率T750-1000(0deg)AVEが2.5%以下
(i-4)入射角50度での分光透過率曲線において、波長750~1000nmの平均透過率T750-1000(50deg)AVEが2.5%以下
[3] 下記分光特性(i-5)~(i-8)をさらに満たす、[1]に記載の光学フィルタ。
(i-5)前記第2誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角5度での分光反射率曲線における、波長750~1000nmの平均反射率R2750-1000(5deg)AVEが3%以下
(i-6)前記第2誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角5度での分光反射率曲線における、波長450~600nmの平均反射率R2450-600(5deg)AVEが3%以下
(i-7)前記第2誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角50度での分光反射率曲線における、波長750~1000nmの平均反射率R2750-1000(50deg)AVEが5%以下
(i-8)前記第2誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角50度での分光反射率曲線における、波長450~600nmの平均反射率R2450-600(50deg)AVEが5%以下
[4] 下記分光特性(i-9)~(i-12)をさらに満たす、[1]~[3]のいずれか1つに記載の光学フィルタ。
(i-9)入射角0度での分光透過率曲線において、波長1000~1200nmの平均透過率T1000-1200(0deg)AVEが7%以下
(i-10)入射角50度での分光透過率曲線において、波長1000~1200nmの平均透過率T1000-1200(50deg)AVEが7%以下
(i-11)入射角0度での分光透過率曲線において、透過率が30%となる波長IR30(0deg)が、波長630~680nmにある
(i-12)入射角50度での分光透過率曲線において、透過率が30%となる波長IR30(50deg)が、波長630~680nmにある
[5] 前記第1誘電体多層膜が、屈折率が1.8以上2.5以下、QWOTが1.1以上3.5以下を満たすH1層を少なくとも1つ含み、
前記H1層のうち、前記樹脂膜に最も近い層を第1のH1層としたとき、
前記第1のH1層と前記樹脂膜の間に、QWOTが1.2以上1.8以下を満たす単層またはQWOTの合計が1.2以上1.8以下を満たす複数の層からなる第1のM1層を含むことを特徴とする、[1]、[3]、[4]のいずれか1つに記載の光学フィルタ。
[6] 前記第2誘電体多層膜は、屈折率が1.8以上2.5以下、QWOTが1.1以上3.5以下を満たすH2層を少なくとも1つ含み、
前記H2層のうち、前記リン酸ガラスに最も近い層を第1のH2層としたとき、
前記第1のH2層と前記リン酸ガラスの間に、QWOTが1.2以上1.8以下を満たす単層またはQWOTの合計が1.2以上1.8以下を満たす複数の層からなる第1のM2層を含むことを特徴とする、[2]に記載の光学フィルタ。
[7] 下記分光特性(i-13)~(i-16)をさらに満たす、[5]に記載の光学フィルタ。
(i-13)前記第1誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角5度での分光反射率曲線における、波長750~1000nmの平均反射率R1750-1000(5deg)AVEが3%以下
(i-14)前記第1誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角5度での分光反射率曲線における、波長450~600nmの平均反射率R1450-600(5deg)AVEが3%以下
(i-15)前記第1誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角50度での分光反射率曲線における、波長750~1000nmの平均反射率R1750-1000(50deg)AVEが5%以下
(i-16)前記第1誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角50度での分光反射率曲線における、波長450~600nmの平均反射率R1450-600(50deg)AVEが5%以下
[8] 下記分光特性(i-17)~(i-20)をさらに満たす、[1]~[7]のいずれか1つに記載の光学フィルタ。
(i-17)前記平均透過率T450-550(0deg)AVEと、前記平均透過率T450-550(50deg)AVEの差の絶対値が3.5%以下
(i-18)前記平均透過率T750-1000(0deg)AVEと、前記平均透過率T750-1000(50deg)AVEの差の絶対値が1.5%以下
(i-19)入射角0度での分光透過率曲線において、波長1000~1200nmの平均透過率T1000-1200(0deg)AVEと、入射角50度での分光透過率曲線において、波長1000~1200nmの平均透過率T1000-1200(50deg)AVEの差の絶対値が1.5%以下
(i-20)入射角0度での分光透過率曲線において、透過率が30%となる波長IR30(0deg)と、入射角50度での分光透過率曲線において、透過率が30%となる波長IR30(50deg)の差の絶対値が15nm以下
[9] 下記分光特性(i-21)をさらに満たす、[1]~[8]のいずれか1つに記載の光学フィルタ。
(i-21)前記第2誘電体多層膜側を入射方向としたとき、波長750~1000nmの範囲において、以下に定義される吸収損失量の平均が95%以上
(吸収損失量)[%]=100-(入射角5度における透過率)―(入射角5度における反射率)
[10] 下記分光特性(i-22)をさらに満たす、[1]~[9]のいずれか1つに記載の光学フィルタ。
(i-22)前記第2誘電体多層膜側を入射方向としたとき、波長750~1000nmの範囲において、以下に定義される吸収損失量の最小値が90%以上(吸収損失量)[%]=100-(入射角5度における透過率)―(入射角5度における反射率)
[11] 下記分光特性(i-23)をさらに満たす、[1]~[10]のいずれか1つに記載の光学フィルタ。
(i-23)前記第2誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角5度での分光反射率曲線において、波長750nmから波長1000nmに向かって、1nmの間隔で各波長の反射率R2n(5deg)(n:任意の整数)を読み取った際に、前記反射率R2n(5deg)が、1%以下となるnが200個以上ある
[12] 下記分光特性(i-24)をさらに満たす、[5]~[11]のいずれか1つに記載の光学フィルタ。
(i-24)前記第1誘電体多層膜側を入射方向としたとき、入射角5度での分光反射率曲線において、波長750nmから波長1000nmに向かって、1nmの間隔で各波長の反射率R1n(5deg)(n:任意の整数)を読み取った際に、前記反射率R1n(5deg)が、1%以下となるnが150個以上ある
[13] 前記第2誘電体多層膜が前記H2層を2つ以上含み、
前記H2層のうち、前記リン酸ガラスに2番目に近い層を第2のH2層としたとき、
前記第1のH2層と前記第2のH2層の間に、QWOTが1.2以上2.1以下を満たす単層またはQWOTの合計が1.2以上2.1以下を満たす複数の層からなる第2のM2層を含む、[1]、[3]~[5]、[7]~[12]のいずれか1つに記載の光学フィルタ。
[14] 前記第2誘電体多層膜が、前記第1のH2層と前記第2のM2層の間に、QWOTが1.2以上2.1以下を満たす単層またはQWOTの合計が1.2以上2.1以下を満たす複数の層からなる第3のM2層を含む、[13]に記載の光学フィルタ。
[15] 前記リン酸ガラスが、下記分光特性(ii-1)~(ii-5)を全て満たす、[1]~[14]のいずれか1つに記載の光学フィルタ。
(ii-1)波長450nmにおける内部透過率T450が92%以上
(ii-2)波長450~600nmの平均内部透過率T450-600AVEが90%以上
(ii-3)内部透過率が50%となる波長IR50が、波長625~650nmの範囲にある
(ii-4)波長750~1000nmの平均内部透過率T750-1000AVEが2.5%以下
(ii-5)波長1000~1200nmの平均内部透過率T1000-1200AVEが7%以下
[16] 前記樹脂膜が、下記分光特性(iii-1)~(iii-3)を全て満たす、[1]~[15]のいずれか1つに記載の光学フィルタ。
(iii-1)波長450nmにおける内部透過率T450が85%以上
(iii-2)波長450~600nmの平均内部透過率T450-600AVEが90%以上
(iii-3)内部透過率が50%となる波長IR50が、波長660~700nmの範囲にある
[17] 前記リン酸ガラスが、酸化物基準の質量百分率表示で、
P2O5 40~80%
Al2O3 0.5~20%
ΣR2O(ただし、R2Oは、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、及びCs2Oから選ばれる1つ以上の成分、ΣR2Oは、R2Oの合計量) 0.5~20%
ΣR’O(ただし、R’OはCaO、MgO、BaO、SrO、及びZnOから選ばれる1つ以上の成分、ΣR’Oは、R’Oの合計量) 0~40%
CuO 0.5~40%
を含む組成を有する、[1]~[16]のいずれか1つに記載の光学フィルタ。
[18] 前記樹脂膜の厚さが10μm以下である、[1]~[17]のいずれか1つに記載の光学フィルタ。
【実施例】
【0137】
次に本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。
各分光特性の測定には、紫外可視分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ社製、UH-4150型)を用いた。
なお、入射角度が特に明記されていない場合の分光特性は入射角0°(光学フィルタ主面に対し垂直方向)で測定した値である。
【0138】
各例で用いた色素は下記のとおりである。
化合物1(スクアリリウム化合物):国際公開第2017/135359号に基づき合成した。
化合物2(メロシアニン化合物):独国特許公報第10109243号明細書に基づき合成した。
化合物3(シアニン化合物):Dyes and Pigments、73、344-352(2007)に記載の方法に基づき合成した。
化合物4(スクアリリウム化合物):日本国特開2017-110209号公報に記載の方法に基づき合成した。
【0139】
【0140】
<色素の樹脂中の分光特性>
ポリイミド樹脂(三菱ガス化学社製「C3G30G」(商品名)、屈折率1.59)をγ-ブチロラクトン(GBL):シクロヘキサノン=1:1(質量比)に溶解して、樹脂濃度8.5質量%のポリイミド樹脂溶液を調製した。
上記各化合物1~4の各色素をそれぞれ樹脂100質量部に対して7.5質量部の濃度で前記樹脂溶液に添加し、50℃、2時間撹拌・溶解することで塗工液を得た。得られた塗工液をアルカリガラス(SCHOTT社製、D263ガラス、厚み0.2mm)にスピンコート法により塗布し、およそ膜厚が1.0μmになるように塗工膜をそれぞれ形成した。
得られた塗工膜について、紫外可視分光光度計を用いて350~1200nmの波長範囲における分光透過率曲線を測定した。
上記各化合物1~4の、ポリイミド樹脂中の分光特性を下記表に示す。なお、下記表に示す分光特性については、空気界面とガラス界面での反射の影響を回避するため、内部透過率で評価した。
【0141】
【0142】
<例1-1~1-2:樹脂膜の分光特性>
化合物1~4のいずれかの色素を、上記化合物の分光特性を算出した際と同様に調製したポリイミド樹脂溶液(三菱ガス化学社製、C3G30G)に、下記表に記載の濃度でそれぞれ混合し、50℃、2時間撹拌・溶解することで樹脂液を得た。得られた樹脂液をアルカリガラス(SCHOTT社製、D263ガラス、厚み0.2mm)にスピンコート法により塗布し、膜厚1.0μmの樹脂膜を形成した。
得られた樹脂膜について、紫外可視分光光度計を用いて350~1200nmの波長範囲における分光透過率曲線を測定した。
得られた分光特性を下記表に示す。なお、下記表に示す分光特性については、空気界面とガラス界面での反射の影響を回避するため、内部透過率で評価した。
なお、例1-1~1-2は参考例である。
【0143】
【0144】
<ガラスの分光特性>
リン酸ガラスとして、リン酸ガラス1およびリン酸ガラス2を下記手順により準備した。
下記表に示す組成(酸化物基準の質量%)となるよう原料を秤量・混合し、内容積約400ccのルツボ内に入れて、大気雰囲気下で2時間溶融した。その後、清澄、撹拌し、およそ300℃~500℃に予熱した縦100mm×横80mm×高さ20mmの長方形のモールドに鋳込み後、約1℃/分で徐冷して、縦40mm×横30mm、厚さを表4に示す値の板状とし、両面を光学研磨することで板状のガラスを得た。
また、フツリン酸ガラス1およびフツリン酸ガラス2として、AGC社製、NF50Tを準備した。フツリン酸ガラス1およびフツリン酸ガラス2の厚みは、それぞれ表4に示す通りである。
【0145】
【0146】
各ガラスについて、紫外可視分光光度計を用いて350~1200nmの波長範囲における分光透過率曲線を測定した。
得られた分光特性結果を下記表に示す。なお、下記表に示す分光特性については、空気界面とガラス界面での反射の影響を回避するため、内部透過率で評価した。得られた結果を下記表に示す。
また、オートマチックヘイズメータ(東京電色社製、型番:TC-HIIIDPK)を用いて、JIS K 7136に基づき各ガラスのヘイズを求めた。
また、リン酸ガラス1とフツリン酸ガラス1の分光透過率曲線を
図5に示す。
【0147】
【0148】
上記結果から、特定のガラス組成を有するリン酸ガラス1およびリン酸ガラス2は、フツリン酸ガラス1およびフツリン酸ガラス2と比較して、可視光領域の透過率が高く近赤外光領域の遮光性が高いことがわかった。さらに、特定のガラス組成を有するリン酸ガラス1およびリン酸ガラス2ガラスはヘイズが低かった。
一方で、フツリン酸ガラス1およびフツリン酸ガラス2は、可視透過率は高く保てるが、赤外遮光性に劣った。また、遮光性を高めるため、ガラスの板厚を大きくした結果、波長IR50が短波長側により、所望の分光特性を満たさなかった。
【0149】
<例2-1~例2~8:光学フィルタの構成>
[例2-1]
上記のリン酸ガラス1(厚み:0.28mm)の一方の主面上に、各層について下記表に示す膜材料および膜厚(nm)となるように、蒸着により第1層から順に成膜し、合計8層の第2誘電体多層膜を成膜した。以下、表5の構成からなる誘電体多層膜を「誘電体多層膜1」とする。
【0150】
【0151】
リン酸ガラス1の主面に、例1-1と同様の方法で樹脂膜を形成した。次いで、樹脂膜の表面に、第1誘電体多層膜として、蒸着により誘電体多層膜1を製膜し、例2-1の光学フィルタを得た。例2-1の光学フィルタの構成を表10および
図2に示す。
なお、誘電体多層膜1を第2誘電体多層膜に形成する場合、表5中のH層/M層の欄は、H
2層/M
2層として考え、第1誘電体多層膜に形成する場合は、H
1層/M
1層として考える。以下の表についても同様である。
【0152】
[例2-2]
第1誘電体多層膜および第2誘電体多層膜として、下記表に示す構成の誘電体多層膜を成膜したこと以外、例2-1と同様に光学フィルタを作製した。以下、表6に示す構成の誘電体多層膜を「誘電体多層膜2」とする。例2-2の光学フィルタの構成を表10および
図3に示す。
【0153】
【0154】
[例2-3]
第1誘電体多層膜および第2誘電体多層膜として、下記表に示す構成の誘電体多層膜を成膜したこと以外、例2-1と同様に光学フィルタを作製した。以下、表7に示す構成の誘電体多層膜を「誘電体多層膜3」とする。例2-3の光学フィルタの構成を表10および
図4に示す。
【0155】
【0156】
[例2-4]
第1誘電体多層膜として、下記表に示す構成の誘電体多層膜を成膜したこと以外、例2-1と同様に光学フィルタを作製した。以下、表8に示す構成の誘電体多層膜を「誘電体多層膜4」とする。例2-4の光学フィルタの構成を表10に示す。
【0157】
【0158】
[例2-5]
第2誘電体多層膜として誘電体多層膜4を成膜したこと以外、例2-4と同様に光学フィルタを作製した。例2-5の光学フィルタの構成を表11に示す。
【0159】
[例2-6]
リン酸ガラスとしてフツリン酸ガラス1を用い、樹脂膜として例1-2の樹脂膜を形成し、第2誘電体多層膜として下記表に示す構成の誘電体多層膜を成膜したこと以外、例2-4と同様に光学フィルタを作製した。以下、表9に示す構成の誘電体多層膜を「誘電体多層膜5」とする。例2-6の光学フィルタの構成を表11に示す。
【0160】
【0161】
[例2-7]
第1誘電体多層膜として誘電体多層膜1を成膜したこと以外は、例2-6と同様に光学フィルタを作製した。例2-7の光学フィルタの構成を表11に示す。
【0162】
[例2-8]
リン酸ガラスとしてフツリン酸ガラスを用いたこと以外、例2-1と同様に光学フィルタを作製した。例2-8の光学フィルタの構成を表11に示す。
【0163】
<例2-1~例2-8:光学フィルタの分光特性>
上記の例2-1~例2-8の光学フィルタについて、紫外可視分光光度計を用いて350~1200nmの波長範囲における入射角0度および50度での分光透過率曲線、入射角5度および50度での分光反射率曲線を測定した。なお、分光反射率曲線の測定において、第2誘電体多層膜側を入射方向とする場合を「前方面」、第1誘電体多層膜側を入射方向とする場合を「後方面」と示す。
得られた分光特性のデータから、下記表に示す各特性を算出した。
また、例2-1、例2-4、例2-5、例2-6の光学フィルタの分光透過率曲線(入射角0度および50度)および、第2誘電体多層膜側を入射方向としたときの反射率曲線(入射角5度および50度)を
図6~13に示す。
なお、例2-1~2-4は実施例であり、例2-5~2-8は比較例である。
【0164】
【0165】
【0166】
上記結果より、実施例である例2-1~例2-4の光学フィルタは、比較例である例2-5~例2-8と比較して、可視光領域の高い透過性と近赤外光領域の高い遮蔽性を有し、かつ、高入射角でも可視光透過率の変化が小さいことからリップル発生が抑制され、また、いずれの入射面においても反射率が小さいことから迷光発生も抑制されたフィルタであることが分かる。
一方、比較例である例2-5の光学フィルタは、いずれの入射面においても反射特性が大きかった。
また、比較例である例2-6の光学フィルタは、いずれの入射面においても反射特性が大きく、近赤外光領域の遮光性も劣り、さらに吸収損失量が大きかった。
また、比較例である例2-7の光学フィルタは、ガラス面入射において反射特性が大きく、近赤外光領域の遮光性も劣り、さらに吸収損失量が大きかった。
また、比較例である例2-8の光学フィルタは、近赤外光領域の遮光性が劣った。
【0167】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2022年8月31日出願の日本特許出願(特願2022-138361)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0168】
1B 光学フィルタ
11 リン酸ガラス
12 樹脂膜
20A 第2誘電体多層膜
20B 第1誘電体多層膜