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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】複合粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 251/02 20060101AFI20241210BHJP
   C08B 15/00 20060101ALI20241210BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20241210BHJP
   C08B 15/04 20060101ALN20241210BHJP
【FI】
C08F251/02
C08B15/00
C08F2/44 C
C08B15/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021529995
(86)(22)【出願日】2020-06-26
(86)【国際出願番号】 JP2020025219
(87)【国際公開番号】W WO2021002290
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2023-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2019122831
(32)【優先日】2019-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 奈緒
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 秀次
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-000935(JP,A)
【文献】特開2019-038949(JP,A)
【文献】特開2019-006872(JP,A)
【文献】特許第5923370(JP,B2)
【文献】特開2017-179095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
C08F
C08J
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機オニウム化合物/アミンを含む溶媒中で、アニオン性を有するセルロース原料を解繊して、有機オニウムカチオン/アンモニウムイオンが結合した、短軸径において数平均短軸径が1nm以上1000nm以下である微細化セルロースを含む微細化セルロース分散液を得る第一工程と、
前記微細化セルロース分散液を連続層とし、前記連続層中に液体状の重合性モノマーおよび/またはポリマーを含むコア粒子前駆体を油滴として分散させたO/Wエマルションにおいて前記コア粒子前駆体をエマルションとして安定化させる第二工程と、
前記コア粒子前駆体を固体化させてコア粒子とし、前記コア粒子と不可分に結合した前記微細化セルロースが前記コア粒子を被覆した複合粒子を得る第三工程と、
を備え、
前記アニオン性を有する前記微細化セルロースにおけるアニオン性官能基の含有量がセルロース1gあたり0.1mol以上5.0mol以下であり、前記有機オニウムカチオン/アンモニウムイオンの結合量は、前記アニオン性官能基に対して0.8当量以上2当量以下である、
複合粒子の製造方法。
【請求項2】
前記有機オニウムカチオンは、窒素、リン、水素、硫黄から選ばれる少なくとも1種類の原子を含む、
請求項1に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項3】
前記有機オニウムカチオンが第4級アンモニウムイオンである、
請求項1に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項4】
前記アミンが第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンのいずれかである、請求項1に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項5】
前記コア粒子は、重合性官能基を有する少なくとも1種類以上のモノマーが重合されたポリマーを含む、
請求項1に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項6】
前記コア粒子に含まれるポリマーが熱可塑性ポリマーである、
請求項1に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項7】
前記コア粒子が生分解性材料を含有する、
請求項1に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項8】
前記第三工程の後に、前記微細化セルロースと結合した前記有機オニウムカチオン/アンモニウムイオンを除去する第四工程をさらに備える、
請求項1に記載の複合粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細化セルロースとコア粒子から成る複合粒子の製造方法に関する。
本願は、2019年7月1日に出願された特願2019-122831号に基づいて優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、木材中のセルロース繊維を、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーになるまで微細化し、新規な機能性材料として利用しようとする試みが活発に行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、木材セルロースに対しブレンダーやグラインダーによる機械処理を繰り返すことで、微細化セルロース繊維、すなわちセルロースナノファイバー(以下、「CNF」とも称する。)が得られることが開示されている。この方法で得られるCNFは、短軸径が10~50nm、長軸径が1μm~10mmであると記載されている。このCNFは、鋼鉄の1/5の軽さで5倍以上の強さを誇り、250m/g以上の膨大な比表面積を有することから、樹脂強化用フィラーや吸着剤としての利用が期待されている。
【0004】
CNFの製造において、木材中のセルロース繊維を微細化しやすいように予め化学処理したのち、家庭用ミキサー程度の低エネルギー機械処理により微細化する試みが活発に行われている。上記化学処理の方法は特に限定されないが、セルロース繊維にイオン性官能基を導入して微細化しやすくする方法が好ましい。セルロース繊維にイオン性官能基が導入されることによってセルロースミクロフィブリル構造間に浸透圧効果で溶媒が浸入しやすくなり、セルロース原料の微細化に要するエネルギーを大幅に減少することができる。
【0005】
上記イオン性官能基の導入方法は特に限定されないが、例えば非特許文献1には、リン酸エステル化処理を用いて、セルロースの微細繊維表面を選択的にリン酸エステル化処理する方法が開示されている。特許文献2には、高濃度アルカリ水溶液中でセルロースをモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムと反応させることによりカルボキシメチル化することが開示されている。オートクレーブ中でガス化したマレイン酸やフタル酸等の無水カルボン酸系化合物とセルロースとを直接反応させてカルボキシ基を導入してもよい。
【0006】
また、比較的安定なN-オキシル化合物である2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシラジカル(TEMPO)を触媒として用い、セルロースの微細繊維表面を選択的に酸化する方法も報告されている(例えば、特許文献3参照。)。TEMPOを触媒として用いる酸化反応(TEMPO酸化反応)は、水系、常温、常圧で進行する環境調和型の化学改質が可能であり、木材中のセルロースに適用した場合、結晶内部には反応が進行せず、結晶表面のセルロース分子鎖が持つアルコール性1級炭素のみを選択的にカルボキシ基へと変換することができる。
【0007】
TEMPO酸化によって選択的に結晶表面に導入されたカルボキシ基同士の電離に伴う浸透圧効果により、溶媒中で一本一本のセルロースミクロフィブリル単位に分散させた、セルロースシングルナノファイバー(以下CSNFとも称する)が得られる。CSNFは表面のカルボキシ基に由来した高い分散安定性を示す。木材からTEMPO酸化反応によって得られる木材由来のCSNFは、短軸径が3nm前後、長軸径が数十nm~数μmに及ぶ高アスペクト比を有する構造体であり、その水分散液および成形体は高い透明性を有することが報告されている。
特許文献4には、CSNF分散液を塗布乾燥して得られる積層膜がガスバリア性を有することが記載されている。
【0008】
特許文献5には、カチオン性を有する微細化セルロースの対イオンとして有機オニウムカチオンを配する表面改質により、有機溶媒中で高度に微細化セルロースが分散した分散液が得られることが記載されている。
【0009】
微細化セルロースを用いた塗工用組成物の例として、例えば特許文献6には、TEMPO酸化CNFを含む水性塗液が記載されている。この水性塗液は良好な塗工性を有し、アンカー層上にコーティングすることによりバリア性を有する積層体を得られることが記載されている。
特許文献7には、セルロースナノファイバーのアスペクト比の高い繊維同士の絡み合いや増粘特性、カルボキシ基に由来する電荷の影響によりカーボン微粒子を分散安定化させたTEMPO酸化CNFを含む塗液が開示されている。
【0010】
一方、CNFの実用化に向けては、得られるCNF分散液の固形分濃度が0.1~5%程度と低くなってしまうことが課題である。例えば、微細化セルロース分散液を輸送しようとした場合、大量の溶媒とともに輸送するため輸送費がかさみ、事業性に大きく影響する。また、樹脂強化用の添加剤として用いる際にも、固形分濃度が低いことによる添加効率の悪さや、溶媒である水が樹脂と馴染まない場合には複合化が困難となるといった点が問題である。さらに、含水状態で流通させる場合、腐敗の恐れもあるため、冷蔵保管や防腐処理などの対策が必要となり、コスト増加の原因となる。
【0011】
しかしながら、単純に熱乾燥などで微細化セルロース分散液の溶媒を除去してしまうと、微細化セルロース同士が凝集・角質化し、あるいは膜化してしまい、添加剤として使用した際に期待する機能が安定して発現しない場合がある。さらにCNFの固形分濃度が低いため、乾燥による溶媒除去工程自体に多大なエネルギーがかかってしまうことも事業性へのハードルとなる。
【0012】
このように、CNFを分散液の状態で取り扱うこと自体が事業性への課題となっており、CNFを容易に取り扱うことができる新たな態様を提供することが強く望まれている。
【0013】
CNFを容易に取り扱うことができる新たな態様として、特許文献8には、セルロース繊維により構成される被覆層と、被覆層に覆われたポリマーとを含む複合粒子が記載されている。この複合粒子において、セルロース繊維とポリマーとは一体化しているため、ろ過により簡単に分離でき、粉体として流通できる。粉体の再分散性も良好である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2010-216021号公報
【文献】国際公開第2014/088072号
【文献】特開2008-001728号公報
【文献】国際公開第2013/042654号
【文献】特開2015-101694号公報
【文献】特許第5928339号公報
【文献】特許第6020454号公報
【文献】特開2019-38949号公報
【非特許文献】
【0015】
【文献】Noguchi Y, Homma I, Matsubara Y. Complete nanofibrillation of cellulose prepared by phosphorylation. Cellulose. 2017;24:1295.10.1007/s10570-017-1191-3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特許文献8に記載の複合粒子は、上述したようにCNFの特性を発揮する材料として優れているものの、適用できるポリマーの種類に限りがある点で改善の余地がある。
適用できない樹脂材料で複合粒子を形成する場合、収率が著しく低下する、得られる粒子の粒径分布のバラつきが大きくなる、粒子の表面に存在するCNFの量が少ないために材料としてCNF特性を十分発揮しない等の様々な問題が生じる。
【0017】
上記事情を踏まえ、本発明は、取り扱い性に優れ、汎用性も高いセルロース繊維の複合粒子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第一の態様は、少なくとも1種類のポリマーを含むコア粒子と、アニオン性官能基を有し、コア粒子と不可分に結合してコア粒子の表面上に配置された微細化セルロースとを備える複合粒子である。
この複合粒子においては、微細化セルロースの少なくとも一部に有機オニウムカチオンまたはアミンが結合している。
【0019】
本発明の第二の態様は、複合粒子の製造方法である。
この製造方法は、有機オニウム化合物またはアミンを含む溶媒中で、アニオン性を有するセルロース原料を解繊して、有機オニウムカチオンまたはアミンが結合した微細化セルロースを含む微細化セルロース分散液を得る第一工程と、微細化セルロース分散液中において液体状のコア粒子前駆体をエマルションとして安定化させる第二工程と、コア粒子前駆体を固体化させてコア粒子とし、コア粒子と不可分に結合した微細化セルロースがコア粒子を被覆した複合粒子を得る第三工程とを備える。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、取り扱い性に優れ、汎用性も高いセルロース繊維の複合粒子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る複合粒子の模式図である。
図2】同複合粒子の製造方法の一過程を示す図である。
図3】同複合粒子の製造方法の一過程を示す図である。
図4】同複合粒子の実施例に係る微細化セルロース分散液におけるFT-IR測定結果を示すグラフである。
図5】実施例に係る複合粒子の走査電子顕微鏡像である。
図6】実施例に係る複合粒子の走査電子顕微鏡像である。
図7】比較例に係る複合粒子の走査電子顕微鏡像である。
図8】比較例に係る複合粒子の走査電子顕微鏡像である。
図9】実施例に係る複合粒子の粒度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について、図面を用いて説明する。ただし、以下に説明する各図において相互に対応する部分には同一符号を付し、重複部分においては後述での説明を適宜省略する。また、本実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、各部の材質、形状、構造、配置、寸法等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0023】
<複合粒子5>
まず、本発明の第一実施形態に係る微細化セルロース/コア粒子の複合粒子5について説明する。尚、コア粒子3の一態様は樹脂であり、ポリマーとも称する。
図1に、複合粒子5の模式図を示す。複合粒子5は、コア粒子3と、コア粒子3の表面上に位置する微細化セルロース1とを備える。複合粒子5において、微細化セルロース1は微細化セルロース層10を形成しており、かつコア粒子3と結合して不可分の状態にある。
微細化セルロース1の少なくとも一部には、有機オニウムカチオンまたはアミン7aがカウンターカチオンとして結合している。また、有機オニウム化合物がイオン化した状態を、有機オニウムイオンまたは有機オニウムカチオンと記載する。また、ここで言うアミンとは、一部またはすべてがイオン化しアンモニウムイオンを含むものとする。なお、これ以降、有機オニウム化合物またはアミン、または有機オニウムカチオンまたはアンモニウムイオンのいずれかを、それぞれ「有機オニウム化合物/アミン」、「有機オニウムカチオン(または、有機オニウムイオン)/アンモニウムイオン」とも記載することとする。
【0024】
複合粒子5は、微細化セルロース1を用いたO/W型ピッカリングエマルションと、エマルションの油滴(油相、油粒子、分散相)の液体状のコア粒子前駆体2(以下、単に「液滴」とも称する。)を固体化することで得られる。
【0025】
コア粒子前駆体2の固体化は、様々な方法で行える。例えば、コア粒子前駆体2として重合性官能基を有するモノマー(以下、「重合性モノマー」とも称する。)を用いて、重合過程で粒子形成を行う重合造粒法(乳化重合法、懸濁重合法、シード重合法、放射線重合法等)、微小液滴化したポリマー溶液から粒子形成を行う分散造粒法(スプレードライ法、液中硬化法、溶媒蒸発法、相分離法、溶媒分散冷却法等)が挙げられる。
本実施形態において、「コア粒子前駆体の固体化」とは、(1)重合性モノマー液滴を重合すること、(2)ポリマー液滴を固体化すること、(3)重合性モノマー液滴およびポリマー液滴を固体化することのすべてを含む概念である。
【0026】
連続相の親水性溶媒に分散したコア粒子前駆体2の界面に微細化セルロース1が吸着することによって、O/W型ピッカリングエマルションが安定化する。安定化状態を維持したままエマルション内部のコア粒子前駆体2を固体化することによって、エマルションを鋳型とした複合粒子5を作製できる。ここで、「エマルションの安定化状態」とは、長時間(例えば12時間)静置してもエマルションの液滴サイズが変化しない状態を意味する。エマルションが不安定であると、一部の液滴同士が時間経過とともに合一することで、液滴の粒度分布が初期に比べて大きい方へ推移したり、粒度分布にばらつきが生じたり、場合によっては油相と水相の分離が生じる。その結果、得られる複合粒子が不均一となる。
【0027】
液滴の界面に微細化セルロース1が吸着してO/W型ピッカリングエマルションが安定化するメカニズムについては、吸着による界面エネルギーの低下による作用が関係していると考えられている。微細化されサブミクロンオーダーとなった固体粒子である微細化セルロース1は、物理的な力により液滴の界面に吸着され、水相に対してセルロースの障壁を形成する。一度吸着し界面を形成すると、脱着にはより大きなエネルギーが必要になるため、エマルション構造は安定化する。
さらに、微細化セルロース1は両親媒性があり、疎水性を有する液滴に対して微細化セルロース1の疎水性側が吸着し、親水性である微細化セルロース1の分散溶媒側に親水性を向けることにより、液滴界面の安定化が向上するといった作用も推察されている。この界面における吸着力は、固体粒子の油相と水相への親和性の高さ、つまり微細化セルロース1のコア粒子前駆体に対する親和性と微細化セルロース1の分散溶媒に対する親和性との両方に依存する。
【0028】
本実施形態では、微細化セルロース1の一部に疎水性を付与することにより、液滴に対する微細化セルロース1の親和性を高め、吸着力を向上させている。疎水性を付与する方法としては、疎水性付与の効果が高くプロセスコストにおいて有利である点から、アニオン性官能基を有する微細化セルロース1に対して有機オニウム化合物/アミン7を用いて対イオンを有機オニウムイオン/アンモニウムイオン7aとする方法が好ましい。
一部が疎水化された微細化セルロース1を使用して複合粒子5を作製することにより、エマルションの安定性が向上する。その結果、適用できるコア粒子前駆体の材料の種類が大幅に増え、用途等に応じた要求仕様に対応可能な多様な複合粒子5を作製できる。
【0029】
本実施形態において、コア粒子3と微細化セルロース1との結合状態を示す「不可分」とは、複合粒子5を含む分散液を遠心分離処理して上澄みを除去し、さらに溶媒を加えて再分散することで複合粒子5を精製・洗浄する操作、あるいはメンブレンフィルターを用いたろ過洗浄によって繰り返し溶媒による洗浄する操作を繰り返した後であっても、微細化セルロース1とコア粒子3とが分離せず、微細化セルロース1によるコア粒子3の被覆状態が保たれることを意味する。
微細化セルロース1によるコア粒子3の被覆状態は、走査型電子顕微鏡(SEM)による複合粒子5の表面観察により確認することができる。微細化セルロース1とコア粒子3とが不可分に結合する詳細なメカニズムについては明らかになっていないが、複合粒子5は、微細化セルロース1によって安定化されたO/W型エマルションを鋳型として作製されるため、エマルション内部の液滴に微細化セルロース1が接触した状態で液滴の固体化が進むと、微細化セルロース1の一部が液滴に位置したまま固定化されて、最終的にコア粒子3と微細化セルロース1とが不可分に結合すると考えられる。
O/W型エマルションは、水中油滴型(Oil-in-Water)とも言われ、水を連続相とし、その中に油が油滴(油粒子)として分散しているものである。
【0030】
複合粒子5は、微細化セルロース1によって安定化されたO/W型エマルションを鋳型として作製されるため、O/W型エマルションに由来した真球に近い形状となることが一つの特徴である。典型的な複合粒子5においては、真球状のコア粒子3の表面に微細化セルロース1からなる微細化セルロース層10が比較的均一な厚みで形成される。
微細化セルロース層10の平均厚みは、複合粒子5を包埋樹脂で固定したものをミクロトームで切削してSEM観察を行い、画像中の複合粒子5の断面像における微細化セルロース層10の厚みを画像上で100箇所ランダムに測定し、その算術平均値を算出することで得られる。
微細化セルロース層10の厚みが均一であることも複合粒子5の一つの特徴である。微細化セルロース層10の厚みの値の変動係数(上述した100箇所からランダム抽出した30箇所の標準偏差)は0.5以下となることが好ましく、0.4以下となることがより好ましい。
【0031】
本実施形態における微細化セルロース1は特に限定されないが、結晶表面にアニオン性官能基を有しており、当該アニオン性官能基の含有量が、セルロース1g当たり0.1mmol以上5.0mmol以下であることが好ましい。
【0032】
さらに、微細化セルロース1は、ミクロフィブリル構造由来の繊維形状であることが好ましい。具体的には、微細化セルロース1は繊維状であって、数平均短軸径が1nm以上1000nm以下、数平均長軸径が50nm以上であり、かつ数平均長軸径が数平均短軸径の5倍以上であることが好ましい。また、微細化セルロース1の結晶構造は、セルロースI型であることが好ましい。
【0033】
<複合粒子5の製造方法>
本実施形態の複合粒子5の製造方法について説明する。本実施形態に係る複合粒子の製造方法は、有機オニウム化合物/アミン7を含む溶媒中で、アニオン性を有するセルロース原料6を解繊して微細化セルロース分散液を得る工程(第1工程)と、微細化セルロース分散液中において液体状のコア粒子前駆体2をエマルションとして安定化させる工程(第2工程)と、コア粒子前駆体2を固体化させて微細化セルロース1により被覆された複合粒子を得る工程(第3工程)と、を備えている。
【0034】
上記製造方法により得られた複合粒子5は分散体として得られる。分散体から溶媒を除去すると、取り扱い性の良い複合粒子5の乾燥固形物が得られる。溶媒の除去方法は特に限定されず、例えば遠心分離法やろ過法によって溶媒を除去する方法や、オーブン等で溶媒を気化させて除去する方法を例示できる。この際、得られる複合粒子5の乾燥固形物は膜状や凝集体状にはならず、きめ細やかな粉体である。この理由は定かではないが、複合粒子5を含む分散液の場合、微細化セルロース1が表面に固定化された略真球状の複合粒子であるため、溶媒を除去しても微細化セルロース1同士が凝集することなく、隣り合う複合粒子間で点接触するのみであることが一因と考えられる。複合粒子5は凝集を生じないため、乾燥粉体として得られた複合粒子5を溶媒に再分散することも容易であり、再分散後も表面に結合された微細化セルロース1に由来した分散安定性を示す。
【0035】
複合粒子5の乾燥粉体は溶媒をほとんど含まず、さらに溶媒に再分散可能であることを特長とする乾燥固形物であり、具体的には固形分率を80%以上とすることができ、さらに90%以上とすることができ、さらに95%以上とすることができる。
複合粒子5の分散体は、溶媒をほぼ除去することが容易であるため、輸送費の削減、腐敗防止、添加率向上、樹脂との混練効率向上、といった観点から好ましい効果を得る。なお、乾燥処理により固形分率を80%以上にした場合でも、微細化セルロース1は吸湿しやすいため、空気中の水分を吸着して固形分率が経時的に低下し、保管中に80%以下となる可能性がある。しかしながら、複合粒子5は乾燥粉体として容易に得られ、さらに再分散させ得ることが特長である本発明の技術思想を考慮すると、複合粒子5を含む乾燥粉体の固形分率を80%以上とする工程を経て得られた乾燥固形物であれば、本発明の技術的範囲に含まれると言うべきである。
以下、製造方法の各工程について詳細に説明する。
【0036】
(第1工程)
本実施形態における第一工程を図2に示す。
第一工程は、有機オニウム化合物/アミン7を含む溶媒中で、アニオン性を有するセルロース原料6を解繊して微細化セルロース分散液を得る工程である。
まず、図2に示すように、各種アニオン性を有するセルロース原料6と有機オニウム化合物/アミン7とを混合する。これにより、有機オニウム化合物/アミン7に含まれる有機オニウムカチオン/アンモニウムイオン7aがセルロース原料6と結合し、セルロース原料6の一部に疎水性が付与される。
【0037】
アニオン性を有するセルロース原料6は、金属イオンを始めとしたカチオン性物質を対イオンとした塩を形成していてもよいが、カチオン物質を含有しない場合、副生成物の生成を抑制でき、疎水化の効果に優れるため、カチオン性物質を含まないのが好ましい。
セルロース原料6におけるカチオン性物質の含有量は様々な分析方法で調べることができる。例えば、電子線マイクロアナライザーを用いたEPMA法や、蛍光X線分析法による元素分析等を簡易的な方法として例示できる。アニオン性を有するセルロース原料6からカチオン性物質を除去する方法としては、セルロース原料6を酸性下で繰り返し洗浄した後に純水で水洗を繰り返す精製方法を例示できる。
【0038】
有機アンモニウム化合物/アミン7の結合量としては、セルロース原料6に含まれるアニオン性官能基に対して0.8当量以上2当量以下であることが好ましい。特に、結合量が1当量以上1.8当量以下であると、有機オニウム化合物/アミン7を多量に添加する必要がなく、より好ましい。有機オニウム化合物/アミン7の結合量が0.8当量未満でもセルロース原料6をある程度分散させることは可能だが、分散処理に長時間・高エネルギーを要し、得られる繊維の繊維径が大きくなり均質性が低下する。一方、2当量を超えると、有機オニウム化合物/アミン7の過剰添加によりセルロース原料6の分解や分散媒への親和性低下が生じる場合があり、好ましくない。
有機オニウム化合物/アミン7の種類は、1種類でもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。特に、有機オニウムまたはアミンを構成する水酸基または炭化水素基の構造が異なるものを混合して用いてもよい。或いは、炭化水素基が直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0039】
次に、有機オニウム化合物/アミン7が結合したセルロース原料6を溶媒中に分散し、疎水性が付与されたセルロース原料6の懸濁液を調製する。溶媒としては水が好適であり、水を50%以上含むことが好ましい。溶媒における水の割合が50%以下になると、後述する第2工程において、液状のコア粒子前駆体のエマルションの安定が阻害される。
分散液におけるセルロース原料6の割合は、0.1%以上10%未満が好ましい。0.1%未満であると、溶媒過多となり生産性を損なうため好ましくない。10%以上になると、セルロース原料6の解繊に伴い懸濁液が急激に増粘し、均一な解繊処理が困難となるため好ましくない。
【0040】
懸濁液のpHは4以上12以下が好ましい。特に、懸濁液をpH7以上12以下のアルカリ性とすると、セルロース原料6のアニオン性官能基がイオン化する。これにより、浸透圧効果でセルロース原料6に溶媒が浸入しやすくなり、セルロース原料6の微細化が進行しやすくなる。pH4未満の場合は、機械的分散処理によりセルロース原料6を分散させることができるが、有機オニウム化合物/アミン7の添加量が過小な場合と同様の現象が発生し、分散液における微細化セルロース1の均質性が低下する。一方、pH12を超えると、分散処理中にアニオン性を有するセルロース原料6に、ピーリング反応やアルカリ加水分解による低分子量化が生じたり、末端アルデヒドや二重結合形成によって分散液の黄変が促進されたりするため、好ましくない。
【0041】
本実施形態における有機オニウム化合物は、構造式(1)に示すカチオン構造を有する。
【0042】
【化1】
【0043】
構造式(1)中において、Mは窒素原子、リン原子、水素原子、硫黄原子のいずれかであり、R1、R2、R3、およびR4は、水素原子、炭化水素基、ヘテロ原子を含む炭化水素基のいずれかである。
例えば、Mが窒素原子であり、R1、R2、R3及びR4がいずれも水素原子の場合、有機オニウム化合物はアンモニアである。R1、R2、R3、R4のうち3つが水素原子の場合は第1級アミン、2つの場合は第2級アミン、1つの場合は第3級アミン、0個の場合は第4級アミンとなり、いずれも本実施形態における有機オニウム化合物である。へテロ原子を含む炭化水素基としては、アルキル基、アルキレン基、オキシアルキレン基、アラルキル基、アリール基、芳香族基等を例示できる。R1、R2、R3、およびR4が環を形成していてもよい。
【0044】
有機オニウム化合物のカチオン構造の対イオンは特に限定されないが、金属イオンの混入に伴う悪影響や分散媒への分散性などを考慮すると、水酸化物イオンが対イオンであることが好ましい。
第一工程では、有機オニウム化合物に加えて、アルカリ金属やアルカリ土類金属等の金属塩を含む無機アルカリが添加されてもよい。
【0045】
本実施形態における第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンは、それぞれ下記構造式(2)、(3)、(4)に示す構造を有する。なお、これらがイオン化しアンモニウムイオンとなった際の構造は、それぞれ(2)’、(3)’、(4)’となる。
【0046】
【化2】
【0047】
上記構造式中において、R1~R6は、炭化水素基、ヘテロ原子を含む炭化水素基のいずれかである。
【0048】
第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、n-オクチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、へキシルアミン、2-エチルへキシルアミン、ジヘキシルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、トリへキシルアミン、ジオクチルアミン、ドデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンなどを例示することができる。
【0049】
アニオン性を有するセルロース原料6と有機オニウム化合物/アミン7を用いて得られた懸濁液は、金属イオンを対イオンとする無機アルカリを用いた場合よりも低エネルギー、短時間で分散処理を行うことができ、かつ最終的に得られる分散液の均質性も高い。これは、有機オニウム化合物/アミン7を用いた方が、セルロース原料6が有するアニオン性部位の対イオンのイオン径が大きいため、分散媒中で微細化セルロース繊維同士をより引き離す効果が大きいためと考えられる。さらに、分散液として有機オニウム化合物/アミン7を含むと、無機アルカリと比べて分散液の粘度とチキソ性を低下させることができ、分散処理のしやすさとその後のハンドリングにおいて有利になる。さらに、有機オニウム化合物/アミン7とイオン結合により相互作用した微細化セルロース1は、有機オニウムイオン/アンモニウムイオン7aに基づく立体斥力または疎水化作用によって親水性が低下する。これにより後述の第二工程において液状のコア粒子前駆体2のエマルション液滴への親和性が高まり、液滴の安定性が向上する。
【0050】
続いて、懸濁液に物理的解繊処理を施して、セルロース原料6を微細化する。物理的解繊処理の方法としては特に限定されないが、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ボールミル、ロールミル、カッターミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、グラインダー、ジューサーミキサー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ナノジナイザー、水中対向衝突などの機械的処理を例示できる。物理的解繊処理を行うことで、懸濁液中のセルロース原料6が微細化され、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーになるまで微細化された微細化セルロース1の分散液を得ることができる。物理的解繊処理の時間や回数を変えることにより、分散液に含まれる微細化セルロース1の数平均短軸径および数平均長軸径を調整できる。
【0051】
以上により、図2に示す微細化セルロース1の分散液4が得られる。微細化セルロース1は、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーになるまで微細化されている。
微細化セルロース1は、ミクロフィブリル構造由来の繊維形状であるため、本実施形態の製造方法に用いる微細化セルロース1としては、以下に示す範囲にある繊維形状のものが好ましい。すなわち、繊維状の微細化セルロース1は、短軸径において数平均短軸径が1nm以上1000nm以下であればよく、好ましくは2nm以上500nm以下であればよい。ここで、数平均短軸径が1nm未満では高結晶性の剛直な微細化セルロース繊維構造をとることができず、エマルションの安定化と、エマルションを鋳型とした重合反応とを実施することができない。一方、数平均短軸径が1000nmを超えると、エマルションを安定化させるにはサイズが大きくなり過ぎるため、得られる複合粒子5のサイズや形状を制御することが困難となる。
微細化セルロース1の数平均長軸径に特に制限はないが、好ましくは数平均短軸径の5倍以上であればよい。数平均長軸径が数平均短軸径の5倍未満であると、複合粒子5のサイズや形状を十分に制御することができないために好ましくない。
微細化セルロース1の数平均短軸径は、透過型電子顕微鏡観察および原子間力顕微鏡観察により100本の繊維の短軸径(最小径)を測定し、その平均値として求められる。微細化セルロース1の数平均長軸径は、透過型電子顕微鏡観察および原子間力顕微鏡観察により100本の繊維の長軸径(最大径)を測定し、その平均値として求められる。
分散液4においては、微細化セルロース1に有機オニウム化合物/アミン7が結合しており、良好な分散を示す。分散液4は、続く工程において、そのまま、または希釈、濃縮等を行って、O/W型エマルションの安定化剤として用いることができる。
【0052】
微細化セルロース1を構成するセルロースの種類や結晶構造も特に限定されない。具体的には、セルロースI型結晶からなる原料として、例えば、木材系天然セルロースに加えて、コットンリンター、竹、麻、バガス、ケナフ、バクテリアセルロース、ホヤセルロース、バロニアセルロースといった非木材系天然セルロースを用いることができる。さらには、セルロースII型結晶からなるレーヨン繊維、キュプラ繊維に代表される再生セルロースも用いることができる。材料調達の容易さから、木材系天然セルロースを原料とすることが好ましい。木材系天然セルロースとしては、特に限定されず、針葉樹パルプや広葉樹パルプ、古紙パルプ、など、一般的にセルロースナノファイバーの製造に用いられるものを用いることができる。精製および微細化のしやすさから、針葉樹パルプが好ましい。
さらにセルロース原料6は化学改質されていることが好ましい。より具体的には、セルロース原料6の結晶表面にアニオン性官能基が導入されていることが好ましい。セルロース原料6の結晶表面にアニオン性官能基が導入されていることによって浸透圧効果でセルロース結晶間に溶媒が浸入しやすくなり、セルロース原料6の微細化が進行しやすくなるためである。
【0053】
セルロースの結晶表面に導入されるアニオン性官能基の種類や導入方法は特に限定されないが、カルボキシ基やリン酸基が好ましい。セルロース結晶表面への選択的な導入のしやすさから、カルボキシ基が好ましい。
【0054】
セルロースの結晶表面にカルボキシ基を導入する方法は、特に限定されない。具体的には、例えば、高濃度アルカリ水溶液中でセルロースをモノクロロ酢酸またはモノクロロ酢酸ナトリウムと反応させることによりカルボキシメチル化を行ってもよい。また、オートクレーブ中でガス化したマレイン酸やフタル酸等の無水カルボン酸系化合物とセルロースを直接反応させてカルボキシ基を導入してもよい。さらには、水系の比較的温和な条件で、可能な限り構造を保ちながら、アルコール性一級炭素の酸化に対する選択性が高い、TEMPOをはじめとするN-オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いた手法を用いてもよい。カルボキシ基導入部位の選択性および環境負荷低減のためにはN-オキシル化合物を用いた酸化がより好ましい。
【0055】
ここで、N-オキシル化合物としては、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシラジカル)、2,2,6,6-テトラメチル-4-ヒドロキシピペリジン-1-オキシル、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-エトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-アセトアミド-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、等が挙げられる。そのなかでも、反応性が高いTEMPOが好ましい。N-オキシル化合物の使用量は、触媒としての量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して0.01~5.0質量%程度である。
【0056】
N-オキシル化合物を用いた酸化方法としては、例えば木材系天然セルロースを水中に分散させ、N-オキシル化合物の共存下で酸化処理する方法が挙げられる。このとき、N-オキシル化合物とともに、共酸化剤を併用することが好ましい。この場合、反応系内において、N-オキシル化合物が順次共酸化剤により酸化されてオキソアンモニウム塩が生成し、上記オキソアンモニウム塩によりセルロースが酸化される。この酸化処理によれば、温和な条件でも酸化反応が円滑に進行し、カルボキシ基の導入効率が向上する。酸化処理を温和な条件で行うと、セルロースの結晶構造を維持しやすい。
【0057】
共酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸、またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物など、酸化反応を推進することが可能であれば、いずれの酸化剤も用いることができる。入手の容易さや反応性から、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。上記共酸化剤の使用量は、酸化反応を促進することができる量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して1~200質量%程度である。
【0058】
また、N-オキシル化合物および共酸化剤とともに、臭化物およびヨウ化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物をさらに併用してもよい。これにより、酸化反応を円滑に進行させることができ、カルボキシ基の導入効率を改善することができる。このような化合物としては、臭化ナトリウムまたは臭化リチウムが好ましく、コストや安定性から、臭化ナトリウムがより好ましい。化合物の使用量は、酸化反応を促進することができる量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して1~50質量%程度である。
【0059】
酸化反応の反応温度は、4~80℃が好ましく、10~70℃がより好ましい。4℃未満であると、試薬の反応性が低下し反応時間が長くなってしまう。80℃を超えると副反応が促進して試料が低分子化して高結晶性の剛直な微細化セルロース繊維構造が崩壊し、O/W型エマルションの安定化剤として用いることができない。
【0060】
また、酸化処理の反応時間は、反応温度、所望のカルボキシ基量等を考慮して適宜設定でき、特に限定されないが、通常、10分~5時間程度である。
【0061】
酸化反応時の反応系のpHは特に限定されないが、9~11が好ましい。pHが9以上であると反応を効率良く進めることができる。pHが11を超えると副反応が進行し、試料の分解が促進されてしまうおそれがある。また、酸化処理においては、酸化が進行するにつれて、カルボキシ基が生成することにより系内のpHが低下してしまうため、酸化処理中、反応系のpHを9~11に保つことが好ましい。反応系のpHを9~11に保つ方法としては、pHの低下に応じてアルカリ水溶液を添加する方法が挙げられる。
【0062】
アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液などの有機オニウム化合物の水溶液などが挙げられる。コストなどの面から水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
【0063】
N-オキシル化合物による酸化反応は、反応系にアルコールを添加することにより停止させることができる。このとき、反応系のpHは上記の範囲内に保つことが好ましい。 添加するアルコールとしては、反応をすばやく終了させるためメタノール、エタノール、プロパノールなどの低分子量のアルコールが好ましく、反応により生成される副産物の安全性などから、エタノールが特に好ましい。
【0064】
酸化処理後の反応液は、そのまま微細化工程に供してもよいが、N-オキシル化合物等の触媒、不純物等を除去するために、反応液に含まれる酸化セルロースを回収し、洗浄液で洗浄することが好ましい。酸化セルロースの回収は、ガラスフィルターや20μm孔径のナイロンメッシュを用いたろ過等の公知の方法により実施できる。酸化セルロースの洗浄に用いる洗浄液としては純水が好ましい。
【0065】
得られたTEMPO酸化セルロースに対し解繊処理を行うと、3nmの均一な繊維幅を有するセルロースシングルナノファイバー(CSNF)が得られる。CSNFを複合粒子5の微細化セルロース1の原料として用いると、その均一な構造に由来して、得られるO/W型エマルションの粒径も均一になりやすい。
【0066】
以上のように、本実施形態で用いられるCSNFは、セルロース原料を酸化する工程と、微細化して分散液化する工程と、によって得ることができる。また、CSNFに導入するカルボキシ基の含有量としては、0.1mmol/g以上5.0mmol/g以下が好ましく、0.5mmol/g以上2.0mmol/g以下がより好ましい。ここで、カルボキシ基量が0.1mmol/g未満であると、セルロースミクロフィブリル間に浸透圧効果による溶媒進入作用が働かないため、セルロースを微細化して均一に分散させることは難しい。また、5.0mmol/gを超えると化学処理に伴う副反応によりセルロースミクロフィブリルが低分子化するため、高結晶性の剛直な微細化セルロース繊維構造をとることができず、O/W型エマルションの安定化剤として用いることができない。
【0067】
分散液4は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、セルロースおよびpH調整に用いた成分以外の他の成分を含有してもよい。他の成分としては、特に限定されず、複合粒子5の用途等に応じて、公知の添加剤のなかから適宜選択できる。具体的には、アルコキシシラン等の有機金属化合物またはその加水分解物、無機層状化合物、無機針状鉱物、消泡剤、無機系粒子、有機系粒子、潤滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、架橋剤、磁性体、医薬品、農薬、香料、接着剤、酵素、顔料、染料、消臭剤、金属、金属酸化物、無機酸化物等が挙げられる。
【0068】
(第二工程)
第二工程は、第一工程で得られた微細化セルロース1の分散液4中において液体状のコア粒子前駆体2の表面を微細化セルロース1で被覆して、エマルションとして安定化させる工程である。
【0069】
具体的には、第一工程で得られた分散液4に液体状のコア粒子前駆体2を添加し、コア粒子前駆体2を分散液4中に液滴として分散させ、液滴の表面を微細化セルロース1によって被覆し、図3左側に示すように、微細化セルロース層10によって安定化されたO/W型エマルションを作製する工程である。
【0070】
O/W型エマルションを作製する方法としては特に限定されないが、一般的な乳化処理、例えば各種ホモジナイザー処理や機械攪拌処理を用いることができ、具体的には高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、万能ホモジナイザー、ボールミル、ロールミル、カッターミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、グラインダー、ジューサーミキサー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ナノジナイザー、水中対向衝突、ペイントシェイカーなどの機械的処理が挙げられる。また、複数の機械的処理を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
例えば超音波ホモジナイザーを用いる場合、第一工程にて得られた微細化セルロース分散液に対し重合性モノマーを添加して混合溶媒とし、混合溶媒に超音波ホモジナイザーの先端を挿入して超音波処理を実施する。超音波ホモジナイザーの処理条件としては特に限定されないが、例えば周波数は20kHz以上が一般的であり、出力は10W/cm以上が一般的である。処理時間についても特に限定されないが、通常10秒から1時間程度である。
【0072】
上記超音波処理により、分散液4中にコア粒子前駆体2の液滴が分散してエマルション化が進行し、さらに液滴と分散液4との液/液界面に選択的に微細化セルロース1が吸着することで、液滴が微細化セルロース1で被覆されO/W型エマルションとして安定した構造を形成する。このように、液/液界面に固体物が吸着して安定化したエマルションは、学術的には「ピッカリングエマルション」と呼称されている。前述のように微細化セルロース繊維によってピッカリングエマルションが形成されるメカニズムは定かではないが、セルロースはその分子構造において水酸基に由来する親水性サイトと炭化水素基に由来する疎水性サイトとを有することから両親媒性を示すため、両親媒性に由来して疎水性モノマーと親水性溶媒の液/液界面に吸着すると考えられる。
【0073】
O/W型エマルション構造は、光学顕微鏡観察により確認できる。O/W型エマルションの粒径サイズは特に限定されないが、通常0.1μm~1000μm程度である。
【0074】
O/W型エマルション構造において、液滴の表層に形成された微細化セルロース層10の厚みは特に限定されないが、通常3nm~1000nm程度である。微細化セルロース層10の厚みは、例えばクライオTEMを用いて計測することができる。
【0075】
第二工程で用いることができる液体状のコア粒子前駆体2の材質としては、水と相溶せず、かつ、(1)重合性官能基を有するモノマー(重合性モノマー)であり、重合反応により固体のポリマーを形成できるもの、(2)熱可塑性ポリマーであり加熱により液体状に溶融し、相転移して室温下において固体となるもの、および(3)非硬化性ポリマーであり溶剤により液体状に溶解し、溶剤除去により室温下において固体となるもの、のいずれかであれば特に限定されない。
【0076】
(1)について、重合性モノマーは少なくとも一つの重合性官能基を有する。重合性官能基を一つ有する重合性モノマーは単官能モノマーとも称する。また、重合性官能基を二つ以上有する重合性モノマーは多官能モノマーとも称する。重合性モノマーの種類としては特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル系モノマー、ビニル系モノマーなどが挙げられる。また、エポキシ基やオキセタン構造などの環状エーテル構造を有する重合性モノマー(例えばε-カプロラクトン等)を用いることも可能である。
なお、「(メタ)アクリレート」の表記は、「アクリレート」と「メタクリレート」との両方を含むことを意味する。
【0077】
単官能の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン、N-ビニルピロリドン、テトラヒドロフルフリールアクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、リン酸(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性リン酸(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、ノニルフェノール(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシプロピルフタレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルテトラヒドロハイドロゲンフタレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2-アダマンタンおよびアダマンタンジオールから誘導される1価のモノ(メタ)アクリレートを有するアダマンチルアクリレートなどのアダマンタン誘導体モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0078】
2官能の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコ-ルジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0079】
3官能以上の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3官能の(メタ)アクリレート化合物や、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレート等の3官能以上の多官能(メタ)アクリレート化合物や、これら(メタ)アクリレートの一部をアルキル基やε-カプロラクトンで置換した多官能(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
【0080】
単官能のビニル系モノマーとしては例えば、ビニルエーテル系、ビニルエステル系、芳香族ビニル系、特にスチレンおよびスチレン系モノマーなど、常温で水と相溶しない液体が好ましい。
単官能ビニル系モノマーのうち(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタフルオロデシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
また、単官能芳香族ビニル系モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、エチルスチレン、イソプロペニルトルエン、イソブチルトルエン、tert-ブチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルビフェニル、1,1-ジフェニルエチレンなどが挙げられる。
【0081】
多官能のビニル系モノマーとしてはジビニルベンゼンなどの不飽和結合を有する多官能基が挙げられる。常温で水と相溶しない液体が好ましい。
例えば多官能性ビニル系モノマーとしては、具体的には、(1)ジビニルベンゼン、1,2,4-トリビニルベンゼン、1,3,5-トリビニルベンゼン等のジビニル類、(2)エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3-プロピレングリコールジメタクリレート、1,4-ブチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサメチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、2,2-ビス(4-メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジメタクリレート類、(3)トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリエチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート類、(4)エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,3-ジプロピレングリコールジアクリレート、1,4-ジブチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキシレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2-ビス(4-アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジアクリレート類、(5)トリメチロールプロパントリアクリレート、トリエチロールエタントリアクリレート等のトリアクリレート類、(6)テトラメチロールメタンテトラアクリレート等のテトラアクリレート類、(7)その他に、例えばテトラメチレンビス(エチルフマレート)、ヘキサメチレンビス(アクリルアミド)、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートが挙げられる。
例えば官能性スチレン系モノマーとしては、具体的には、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、ジビニルキシレン、ジビニルビフェニル、ビス(ビニルフェニル)メタン、ビス(ビニルフェニル)エタン、ビス(ビニルフェニル)プロパン、ビス(ビニルフェニル)ブタン等が挙げられる。
【0082】
近年、環境への配慮から、使用後に自然界の微生物によって分解され、最終的には水と二酸化炭素になることができる生分解性を有する粉体が強く望まれている。
生分解性材料を本実施形態のコア粒子3に用いることができる。生分解性材料としては、生分解性を有し、水に溶解しないものであれば特に制限はなく、具体的には、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロースアセテート誘導体、キチン、キトサン等の多糖類、ポリ乳酸、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリ乳酸類;ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等の二塩基酸ポリエステル類、ポリカプロラクトン、カプロラクトンとヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリカプロラクトン類、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシブチレートとヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリヒドロキシブチレート類、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ酪酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体等の脂肪族ポリエステル類、ポリアミノ酸類、ポリエステルポリカーボネート類、ロジン等の天然樹脂等を例示できる。これらの化合物は単独で、または2種以上を併用して用いることができる。
【0083】
これらの他にも重合性の官能基を少なくとも1つ以上有するポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等を使用することができ、特にその材料は限定されない。
上述した各種重合性モノマーは、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
上記(2)について、熱可塑性ポリマーとしては、融点が40℃以上80℃以下であることが好ましい。融点が40℃より低いと、室温において固体として形状を維持することが困難となり、使用環境が極端に制限されるため好ましくない。一方、融点が80℃を超えると、微細化セルロース分散液中において溶融状態を維持することが製造工程上困難となるため好ましくない。より好ましくは、融点が45℃以上75℃以下である。また、融点以上でのメルトフローレート(MFR)が10以上であることが好ましい。MFRが10未満の場合、前述の乳化処理において多大な乳化エネルギーを要するため好ましくない。
【0085】
上記(3)について、非硬化性ポリマーとしては、水を除く溶剤に溶解し、液体状を有するものである。ここで、非硬化性ポリマーを溶解させる溶剤としては、20℃における水溶解度が水1Lに対して20g以上2000g以下であることが好ましい。20g未満である場合、溶剤を含む液滴と微細化セルロース1の親和性が低く、微細化セルロース1によるエマルション安定化効果が低下する。一方、2000gより大きい場合、微細化セルロース分散液中での溶剤の拡散速度が早いために液滴が形状を維持できない。その結果、微細化セルロース1による液滴被覆効果が損なわれる。
【0086】
熱可塑性ポリマーおよび非硬化性ポリマーは、本実施形態の機能が損なわれない限りにおいてその材料は限定されない。例えば、上述した各種単官能モノマーや、エポキシ基やオキセタン構造などの環状エーテル構造を有する重合性モノマーを出発物質とした重合体、あるいは、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等を使用できる。
【0087】
第二工程における分散液4と液体状のコア粒子前駆体2との重量比については特に限定されないが、100質量部の分散液4に対し、コア粒子前駆体2が1質量部以上50質量部以下であることが好ましい。コア粒子前駆体2が1質量部以下となると複合粒子5の収量が低下するため好ましくなく、50質量部を超えると液滴を微細化セルロース1で均一に被覆することが困難となり好ましくない。
【0088】
液体状のコア粒子前駆体2として重合性モノマーを用いる場合は、予め重合開始剤が含まれていてもよい。一般的な重合開始剤として、有機過酸化物やアゾ重合開始剤などのラジカル開始剤等を例示できる。
【0089】
有機過酸化物としては、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシカーボネート、パーオキシエステル等を例示できる。
【0090】
アゾ重合開始剤としては、ADVN,AIBN等を例示できる。
例えば2,2-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(AMBN)、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(ADVN)、1,1-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)(ACHN)、ジメチル-2,2-アゾビスイソブチレート(MAIB)、4,4-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)(ACVA)、1,1-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)、2,2-アゾビス(2-メチルブチルアミド)、2,2-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス(2-メチルアミジノプロパン)二塩酸塩、2,2-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2-シアノ-2-プロピルアゾホルムアミド、2,2-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)等である。
【0091】
第二工程において予め重合開始剤が含まれた状態の重合性モノマーを用いれば、O/W型エマルションを形成した際にエマルションの液滴中に重合開始剤が含まれるため、後述する第三工程においてエマルションの液滴内部のモノマーを重合させる重合反応が進行しやすくなる。
【0092】
第二工程における重合性モノマーと重合開始剤との重量比については特に限定されないが、通常、重合性モノマー100質量部に対し、重合開始剤が0.1質量部以上であることが好ましい。重合開始剤が0.1質量部未満となると重合反応が充分に進行せずに複合粒子5の収量が低下するため好ましくない。
【0093】
また、重合性モノマーには予め重合開始剤以外の他の機能性成分が含まれていてもよい。具体例として、磁性体、医薬品、農薬、香料、接着剤、酵素、顔料、染料、消臭剤、金属、金属酸化物、無機酸化物、等を例示できる。重合性モノマーに予め重合開始剤以外の他の機能性成分が含まれている場合、製造された複合粒子5のコア粒子内部に機能性成分を含有させることができ、用途に応じた機能発現が可能となる。
【0094】
(第三工程)
第三工程は、コア粒子前駆体2を含む液滴を固体化させ、図3に示すように、コア粒子3が微細化セルロース層10で被覆された複合粒子5を得る工程である。
【0095】
液滴を固体化する具体的方法は、液滴の材質に応じて変化する。重合性モノマーを用いる場合、重合する方法については特に限定されず、用いた重合性モノマーの種類および重合開始剤の種類によって適宜決定できる。重合法の一例として懸濁重合法が挙げられる。
【0096】
具体的な懸濁重合の方法についても特に限定されず、公知の方法を用いて実施することができる。
例えば、第二工程で得られたO/W型エマルションを攪拌しながら加熱することにより、液滴を固体化できる。攪拌の方法も特に限定されず、公知の方法を用いることができ、具体的にはディスパーや攪拌子を用いることができる。
攪拌せずに加熱処理のみで固体化できる場合もある。加熱時の温度条件については重合性モノマーの種類および重合開始剤の種類によって適宜決定でき、例えば20℃以上150℃以下でもよい。20℃未満であると重合の反応速度が低下する場合があり、150℃を超えると微細化セルロース1が変性する場合がある。
重合反応に供する時間は重合性モノマーの種類および重合開始剤の種類によって適宜でき、例えば1時間~24時間程度でもよい。
重合反応は、電磁波の一種である紫外線照射処理によって実施してもよい。また、電磁波以外にも電子線などの粒子線を用いてもよい。
【0097】
熱可塑性ポリマーを用いる場合、溶融したポリマーを相転移させることにより固体化させる。相転移の方法としては、冷却が典型的である。このとき、冷却速度を制御することにより熱可塑性ポリマーの結晶化度を制御することができる。冷却の具体的方法として、水あるいは氷水に拡散させる方法や、液体窒素等の冷媒に接触させる方法、放冷する方法等を例示できる。
【0098】
非硬化性ポリマーを用いる場合、溶剤を除去することにより固体化させる。溶剤を除去する方法としては特に限定されず、加熱する方法や減圧する方法、電磁波を照射する方法、およびこれらの組み合わせを例示できる。
【0099】
第三工程が終了すると、ポリマーを主成分とするコア粒子3が微細化セルロース1によって被覆された略真球状の複合粒子5が得られる。得られた直後の複合粒子5においては、表在する微細化セルロース1の少なくとも一部に有機オニウムカチオン/アンモニウムイオン7aが結合している。また、複合粒子5の粒径は比較的揃っており、均一度が高い。
【0100】
第三工程終了後間もない分散液は、複合粒子5と、多量の水と、コア粒子3と一体化せずに遊離している微細化セルロース1とが混在した状態となっている。
この分散液から複合粒子5のみを取り出す際の回収・精製方法としては、遠心分離による洗浄や、ろ過洗浄等を例示できる。遠心分離による洗浄方法としては公知の方法を用いることができる。例えば、遠心分離で分散液中の複合粒子5を沈降させてから上澄みを除去し、水・メタノール混合溶媒に再分散する操作を繰り返し、最終的に遠心分離によって得られた沈降物から残留溶媒を除去することで複合粒子5を回収できる。ろ過洗浄についても公知の方法を用いることができる。例えば、孔径0.1μmのPTFEメンブレンフィルターを用いて水とメタノールで吸引ろ過を繰り返し、最終的にメンブレンフィルター上に残留したペーストから残留溶媒を除去することで複合粒子5を回収できる。
いずれの場合も、残留溶媒の除去方法は特に限定されず、風乾やオーブンで熱乾燥にて実施することが可能である。複合粒子5を含む乾燥固形物は膜状や凝集体状にはならず、きめ細やかな粉体として得られる。
【0101】
(第四工程)
第四工程は、生成された複合粒子5から有機オニウムカチオン/アンモニウムイオン7aを取り除く工程である。第四工程は、必要に応じて第三工程の後に行われるものであり、複合粒子5の用途等に鑑みて不要であれば省略されてもよい。
【0102】
上述したように、製造直後の複合粒子5においては、微細化セルロース1の一部が対イオンとして有機オニウムカチオン/アンモニウムイオン7aを有する。複合粒子5の用途等に関連して、有機オニウムカチオン/アンモニウムイオン7aの存在が好ましくない場合や、有機オニウムカチオン/アンモニウムイオン7aとは異なるカチオン性物質をイオン結合として微細化セルロース1に結合したい場合、第四工程を行って有機オニウムカチオン/アンモニウムイオン7aを除去してもよい。
【0103】
有機オニウムカチオン/アンモニウムイオン7aを取り除く方法としては、イオン交換が挙げられる。酸性化合物を含む水溶液中に有機オニウムカチオン/アンモニウムイオン7aを有する複合粒子5を分散させ、さらに純水で洗浄することで有機オニウムカチオン/アンモニウムイオン7aを除去できる。有機オニウムカチオン/アンモニウムイオン7aを除去した後に所望のカチオン性化合物を添加し、微細化セルロース1のアニオン性官能基に有機オニウムカチオン/アンモニウムイオン7aと異なるカチオン性物質をイオン結合により結合させても構わない。
【0104】
以上説明したように、本実施形態に係る複合粒子5は、表面に微細化セルロース層10として存在する微細化セルロース1に由来した、高い生体親和性と、良好な分散安定性を有する。
【0105】
また、有機オニウムカチオン/アンモニウムイオン7aが結合した微細化セルロース1を用いて形成されるため、広範な種類の樹脂でコア粒子3を形成でき、多種多様な用途に対応可能な複合粒子を得られる。例えば、従来製造が困難であった熱可塑性を有する複合粒子も簡便に製造できる。
【0106】
さらに、有機オニウムカチオン/アンモニウムイオン7aにより微細化セルロース1が疎水性を獲得することで、両親媒性となる。その結果複合粒子5の収率が著しく向上するとともに、粒径分布も均一化し、材料としても優れたものとなる。
【0107】
複合粒子5の乾燥固形物は、微細化セルロース1の材料特性を発揮するものでありながら、きめ細やかな粉体として得られ、粒子同士の凝集がないため、再び溶媒に分散することも容易である。微細化セルロース1とコア粒子3とは不可分に結合しているため、再分散後も微細化セルロース1の特性に由来した安定した分散を示す。
【0108】
本実施形態に係る複合粒子5の製造方法は、微細化セルロース1の特性を発揮する粒子を、乾燥状態で流通可能な状態で簡便に取得できる。したがって、環境への負荷が低く、輸送費の削減、腐敗リスクの低減、添加剤としての添加効率の向上、疎水性樹脂への混練効率向上といった効果も期待できる。
【0109】
本発明の実施例について、実施例を用いてさらに説明する。本発明の技術的範囲は、実施例の具体的内容について何ら制限されない。
以降の説明において、「%」は、特にことわりない限り、質量%を意味する。
【0110】
<実施例1>
(第1工程:微細化セルロース分散液を得る工程)
(木材セルロースのTEMPO酸化)
針葉樹クラフトパルプ70gを蒸留水3500gに懸濁し、蒸留水350gにTEMPOを0.7g、臭化ナトリウムを7g溶解させた溶液を加え、20℃まで冷却した。ここに2mol/L、密度1.15g/mLの次亜塩素酸ナトリウム水溶液450gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。系内の温度は常に20℃に保ち、反応中は0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加することでpHを10に保ち続けた。セルロースの重量に対して水酸化ナトリウムの添加量の合計が3.50mmol/gに達した時点で、約100mLのエタノールを添加し反応を停止させた。その後、ガラスフィルターを用いて蒸留水によるろ過洗浄を繰り返し、酸化パルプを得た。得られた酸化パルプをpH2に調整した塩化水素水溶液に加え、脱水した後水洗いして1回目の酸処理を行った。続いてpH3に調整した塩化水素水溶液に加え、脱水した後水洗いして2回目の酸処理を行った。その後水洗、脱水を繰り返し、精製した酸化パルプを得た。
【0111】
(酸化パルプのIR測定)
TEMPO酸化反応後、蒸留水による水洗を実施した後の酸化パルプ(酸処理前)、及びその後塩化水素水溶液により酸処理した後に水洗を実施した酸化パルプ(酸処理後)について、スライドガラスに挟み込み70℃で3時間乾燥し、ATR法によるFT-IR測定(日本分光社製、FT/IR-6300)を実施した。結果を図4に示す。
酸処理後の酸化パルプには、COOH基に由来する1720cm-1付近のピークが認められる一方、酸処理前に認められたCOOに由来する1600cm-1付近のピークが消失している。以上より、酸処理により酸化パルプのCOO基(Na型)が完全にCOOH基(H型)に置換されていることが確認された。
【0112】
(酸化パルプのカルボキシ基量測定)
TEMPO酸化後の酸化パルプを固形分重量で0.1g量りとり、1%濃度で水に分散させ、塩酸を加えてpHを2.5とした。その後0.5M水酸化ナトリウム水溶液を用いた電導度滴定法により、カルボキシ基量(mmol/g)を求めたところ、1.6mmol/gであった。
【0113】
(対イオン置換による有機オニウムカチオン導入)
酸化パルプに水を加えて固形分濃度5%の懸濁液を調製し、アルカリ種として有機オニウム化合物である水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAH)を酸化パルプのカルボキシ基に対して1.0当量加えた。スターラーを用いて1時間撹拌し、対イオン置換により有機オニウムカチオンが導入された酸化パルプを得た。
【0114】
(対イオン置換酸化パルプの解繊処理)
上記方法により得た対イオン置換酸化パルプを蒸留水に分散させ、ジューサーミキサーで30分間微細化処理した。必要に応じて、遠心脱泡器による脱泡を行った。これにより、濃度1%の微細化セルロース(TEMPO酸化CNF、CSNF)分散液を得た。得られた分散液は高い透明性とチキソトロピック性を示した。
【0115】
(第2工程:O/W型エマルションを作製する工程)
コア粒子前駆体として、重合性モノマーである単官能性アクリレート、イソボルニルアクリレート(以下、「IB-XA」とも称する。)10gを用い、重合開始剤である2、2-アゾビス-2、4-ジメチルバレロニトリル(以下、「ADVN」とも称する。)を1g溶解させた。IB-XA/ADVN混合溶液全量を、濃度1%の微細化セルロース分散液40gに対し添加した。IB-XA/ADVN混合溶液と分散液とは、それぞれ透明性の高い状態で2相に分離した。
【0116】
次に、2相分離した状態の混合液における上相の液面から超音波ホモジナイザーのシャフトを挿入し、周波数24kHz、出力400Wの条件で、超音波ホモジナイザー処理を3分間行った。超音波ホモジナイザー処理後の混合液は、白濁した乳化液の状態となった。混合液一滴をスライドグラスに滴下し、カバーガラスで封入して光学顕微鏡で観察したところ、1~数μm程度のIB-XAのエマルション液滴が多数観察され、O/W型エマルションとして分散安定化している様子が確認された。
【0117】
(第3工程:コア粒子前駆体の固体化により微細化セルロースで被覆された複合粒子を得る工程)
O/W型エマルション分散液を、ウォーターバスを用いて70℃の湯浴中に供し、攪拌子で攪拌しながら8時間処理し、重合反応を実施した。8時間処理後に上記分散液を室温まで冷却し、液滴を固体化して、分散液中に複合粒子を生成した。重合反応の前後で分散液の外観に変化はなかった。
得られた分散液を遠心分離(75000g、5分間)して複合粒子を含む沈降物を得た。デカンテーションにより上澄みを除去して沈降物を回収し、さらに孔径0.1μmのPTFEメンブレンフィルターを用いて、純水とメタノールで繰り返し洗浄した。こうして精製・回収された複合粒子を1%濃度で純水に再分散させ、粒度分布計(NANOTRAC UPA-EX150、日機装株式会社製)を用いて粒径を測定したところ平均粒径(メジアン値)は2.5μmであった。複合粒子を風乾し、室温25度にて真空乾燥処理を24時間実施したところ、きめ細やかな乾燥粉体となり、凝集や膜状化を生じなかった。
【0118】
(SEMによる複合粒子の形状観察)
上記乾燥粉体のSEM像を図5および図6に示す。図5の倍率は100倍、図6の倍率は、左上の領域で2000倍、その他の領域で50000倍である。第二工程および第三工程において、O/W型エマルション液滴を鋳型として重合反応を実施したことにより、エマルション液滴の形状に由来した真球状の複合粒子5が多数得られ、径の均一度も高いことが図5からわかる。
図6より、複合粒子の表面は幅数nm程度の微細化セルロース1によってまんべんなく被覆されていることがわかる。図6は、繰り返しろ過洗浄した後の像であることから、本発明の複合粒子5において、コア粒子3と微細化セルロース1とは結合しており、不可分の状態にあることが示された。
(複合粒子の粒度分布)
上記乾燥粉体の粒度分布をベックマン・コールター社製の粒度分布計LS-13320により測定した結果を図9に示す。粒度分布は2.5μmを中央値として1~10μmの範囲にほぼ収まっており、SEM像と良好な一致を示した。
【0119】
<実施例2~4>
TBAHに代えて以下の有機オニウム化合物を使用した点を除き、実施例1と同様の手順で実施例2~4の複合粒子を作製した。
実施例2 水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)
実施例3 ジメチルベンジルアミン(DMBA)
実施例4 ジメチルステアリルアミン(DMSA)
【0120】
<実施例5>
IB-XAに代えて、単官能性メタクリレートであるイソボニルメタクリレート(IB-X)をコア粒子前駆体とした点を除き、実施例1と同様の手順で実施例5の複合粒子を作製した。
【0121】
<実施例6>
IB-XAに代えて、単官能性ビニルモノマーであるp-メチルスチレン(p-MeSt)をコア粒子前駆体とした点を除き、実施例1と同様の手順で実施例6の複合粒子を作製した。
【0122】
<実施例7>
TEMPO酸化CNFに代えて、特許文献2に記載されたカルボキシメチル化(以下、「CM化」とも称する。)処理を行って得られたCM化CNFを用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で実施例7の複合粒子を作製した。CM化CNFは高い透明性を示す。
【0123】
<実施例8>
コア粒子前駆体として、ポリカプロラクトン(PCL、分子量10,000)を使用した。第二工程において、PCLの20%MEK溶液を微細化セルロース分散液に添加した。この分散液を75℃に加熱して超音波ホモジナイザー処理を行い、O/W型エマルションとした後、氷水で冷却して液滴を固体化した。
それ以外は、実施例1と同様の条件で実施例7の複合粒子を作製した。
【0124】
<実施例9>
TBAHに代えてDMBAを使用した点を除き、実施例8と同様の手順で実施例9の複合粒子を作製した。
【0125】
<実施例10>
TBAHの添加量を酸化パルプのカルボキシ基に対して0.8当量とした点を除き、実施例1と同様の手順で実施例10の複合粒子を作製した。
【0126】
<実施例11>
TBAHの添加量を酸化パルプのカルボキシ基に対して1.8当量とした点を除き、実施例1と同様の手順で実施例11の複合粒子を作製した。
【0127】
<実施例12>
第一工程において、酸処理を1回のみとした点を除き、実施例1と同様の手順で実施例12の複合粒子を作製した。
実施例12において、FT-IR測定により求めた酸化パルプのCOOH基への置換度は、0.7であった。置換度はCH伸縮基に由来する2870cm-1のピーク強度を基準として1720cm-1のピーク強度比(I1720/I2870)を求め、図5におけるI1720/I2870を1としたときの比として定義する。
【0128】
<実施例13、14>
有機オニウム化合物TBAHに代えて以下のアミンを使用した点を除き、実施例1と同様の手順で実施例13~14の複合粒子を作製した。
実施例13 ステアリルアミン
実施例14 トリへキシルアミン
【0129】
<比較例1>
TEMPO酸化処理しない未処理パルプを用いた点を除き、実施例1と同様の手順で比較例1の複合粒子を作製した。
【0130】
<比較例2>
TBAHに代えて有機オニウム化合物でない水酸化ナトリウムを使用した点を除き、実施例1と同様の手順で比較例2の複合粒子を作製した。
【0131】
<比較例3>
TBAHに代えて有機オニウム化合物でない水酸化ナトリウムを使用した点を除き、実施例5と同様の手順で比較例3の複合粒子を作製した。
【0132】
<比較例4>
TBAHに代えて有機オニウム化合物でない水酸化ナトリウムを使用した点を除き、実施例6と同様の手順で比較例4の複合粒子を作製した。
【0133】
<比較例5>
TBAHに代えて有機オニウム化合物でない水酸化ナトリウムを使用した点を除き、実施例7と同様の手順で比較例5の複合粒子を作製した。
【0134】
<比較例6>
TBAHに代えて有機オニウム化合物でない水酸化ナトリウムを使用した点を除き、実施例8と同様の手順で比較例6の複合粒子を作製した。
【0135】
(第4工程:複合粒子5から有機オニウムカチオンを取り除く工程)
実施例1に係る複合粒子5の乾燥粉体を、固形分濃度1%となるようにpH2.5の塩化水素水溶液に加え、超音波洗浄機で5分間処理し、さらにスターラーにて30分間撹拌した。これにより、目視にて凝集のない懸濁液を得た。この懸濁液を、遠心分離(25000g、10分間)およびデカンテーションにより濃縮し、続いてpH4の塩化水素水溶液に加えて5分間スターラー撹拌してから、遠心分離およびデカンテーションでさらに濃縮した。その後純水で洗浄と濃縮を5回繰り返した。精製、回収した複合粒子を風乾し、さらに室温25度にて真空乾燥処理を24時間実施することで乾燥粉体を得た。得られた乾燥粉体をXPS解析したところ、TBAHに由来する窒素元は検出されず、有機オニウムカチオンが除去されたことを確認した。乾燥粉体を再び純水に加え、超音波処理したところ、良好な再分散を示した。
すべての実施例において上記処理を行い、有機オニウムカチオンの除去および良好な再分散を確認した。比較例については、第4工程を行わなかった。
【0136】
表1に、実施例および比較例の内容をまとめて示す。
【0137】
【表1】
【0138】
表2に、実施例および比較例の評価結果を示す。評価項目および基準は以下の通りである。
・複合粒子の収率(%)
取得された複合粒子の重量(g)/製造に用いたコア粒子前駆体の樹脂重量(g)×100として算出した。
・複合粒子の平均粒径(メジアン値):レーザー回折式粒度分布計(ベックマン・コールター社製、LS-13320)を用いて求めた。粗大化した樹脂の塊が存在する場合は、これを除去して測定した。
・各工程の実行可否
(第一工程)
○(実行可):分散液に対し、分光光度計で測定した透過率(光路長1cm、波長600nm)が70%以上
×(実行不可):分散液に対し、分光光度計で測定した透過率(光路長1cm、波長600nm)が70%未満
分散液の透過率が低いことは、セルロースが微細化していないことを示している。
(第二工程)
○(実行可):24時間静置後においてO/W型エマルションの全光線透過率に変化を認めない。
×(実行不可):24時間静置後においてO/W型エマルションの全光線透過率が大きく変化する。または分離を認める。
エマルションの全光線透過率の変化は、エマルションの分離や合一などの不安定化により生じる。
(第三工程)
○(実行可):球状の複合粒子が多数得られている
×(実行不可):粒子が球状でない、または複合粒子が凝集した粗大な塊を認める
エマルションの安定性が高い場合、重合後もエマルションの液滴の形状が維持される。一方で、重合前や重合中にエマルションが不安定化すると、分離や合一により異形の樹脂や粗大化した樹脂が生じる。
【0139】
【表2】
【0140】
表2に示すように、各実施例では、微細化セルロース分散液中でコア粒子前駆体が安定性して液滴化し、良好に高収率で、粒子径が小さく均一な複合粒子が形成された。これは、有機オニウム化合物由来の有機オニウムカチオンにより、親水性のCNFの一部が疎水化され、コア粒子前駆体への吸着力が向上したことよると考えられる。
いずれの比較例においても、第一工程から第三工程のすべてを良好に行うことはできなかった。その結果、複合粒子の収率も低く、粒子径の均一度も低かった。
【0141】
図7および図8に、比較例1に係る複合粒子の乾燥粉体をSEMで観察した写真を示す。比較例1では、粗大化した複合粒子が存在し、粒度分布が均一でないことが図7からわかる。粗大化した複合粒子においては、図8に示すようにコア粒子の表面の多くが露出しており、微細化セルロースはわずかしか結合していなかった。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明に係る複合粒子は、添加剤としての添加効率、樹脂との混練効率が向上し、また輸送効率向上や腐敗防止の観点からコスト削減にも寄与するなど、産業実施の観点から好ましい効果が得られる。本複合粒子は、粒子表面の微細化セルロースおよびコア粒子を構成するポリマーの特性を活かすことによって、色材、吸着剤、化粧顔料、徐放材、消臭剤、抗菌性医療用部材、パーソナルケア用品向け抗菌性物品、包装材料、色素増感太陽電池、光電変換材料、光熱変換材料、遮熱材料、光学フィルター、ラマン増強素子、画像表示素子、磁性粉、触媒担持体、ドラッグデリバリーシステム、などに適用することができる。
【符号の説明】
【0143】
1 微細化セルロース
2 コア粒子前駆体(液滴)
3 コア粒子
5 複合粒子
6 セルロース原料
7 有機オニウム化合物/アミン
7a 有機オニウムカチオン/アンモニウムイオン
10 微細化セルロース層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9