(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】磁界発生装置及び回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/2783 20220101AFI20241210BHJP
H02K 16/02 20060101ALI20241210BHJP
H02K 21/14 20060101ALI20241210BHJP
H02K 21/22 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
H02K1/2783
H02K16/02
H02K21/14 M
H02K21/22 M
(21)【出願番号】P 2021547004
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(86)【国際出願番号】 JP2020035609
(87)【国際公開番号】W WO2021054472
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-03-16
【審判番号】
【審判請求日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2019171621
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501241645
【氏名又は名称】学校法人 工学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森下 明平
【合議体】
【審判長】恩田 春香
【審判官】緑川 隆
【審判官】柴垣 俊男
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-354721(JP,A)
【文献】特開2009-201343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/2783
H02K16/02
H02K21/14
H02K21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3以上の整数の何れか一つを分割数nとして、電気角1周期を前記分割数nで除した角度ずつ着磁方向が順に変更されて複数の永久磁石が周方向に配列された界磁部と、
非磁性の材料が用いられ、内周面に前記永久磁石の各々の外周面が当接される円環状の外周壁、及び前記外周壁の周方向において各々が該外周壁の内面から径方向の内側に突設され、隣接する互いの間の各々に前記永久磁石が嵌入される複数の隔壁を有する保持部材と、
を含む磁界発生装置
であって、
前記隔壁の厚さ寸法dは、前記永久磁石の着磁方向に沿う断面において予め基準として設定した配列方向に沿う一辺の長さ寸法lm、及び前記分割数nに応じて設定されており、
前記隔壁の厚さ寸法dは、
0<d≦lm×1/(n+1)×1.5
を満たす
磁界発生装置。
【請求項2】
3以上の整数の何れか一つを分割数nとして、電気角1周期を前記分割数nで除した角度ずつ着磁方向が順に変更されて複数の永久磁石が周方向に配列された界磁部と、
非磁性の材料が用いられ、内周面に前記永久磁石の各々の外周面が当接される円環状の外周壁、及び前記外周壁の周方向において各々が該外周壁の内面から径方向の内側に突設され、隣接する互いの間の各々に前記永久磁石が嵌入される複数の隔壁を有する保持部材と、
を含む磁界発生装置であって、
前記隔壁の厚さ寸法dは、前記永久磁石の着磁方向に沿う断面において予め基準として設定した配列方向に沿う一辺の長さ寸法lm、及び前記分割数nに応じて設定されており、
前記隔壁の厚さ寸法dは、
d=lm/(n+1)
を満たす
磁界発生装置。
【請求項3】
前記保持部材は、外周面に前記永久磁石の各々の内周面が当接されると共に、外周面に前記隔壁の各々の径方向内側端が連結された内周壁を含む請求項1
又は請求項2に記載の磁界発生装置。
【請求項4】
前記界磁部の前記永久磁石の各々に対向される円環状に形成され前記界磁部に対して相対回転可能に設けられ、前記界磁部の磁力により該界磁部との間で磁場を形成する強磁性体と、
を含む請求項1から請求項
3の何れか1項に記載の磁界発生装置。
【請求項5】
前記界磁部が、前記複数の永久磁石が周方向に配列された第1界磁部、及び前記第1界磁部の径方向外側に配置され、前記複数の永久磁石が周方向に配列されて前記第1界磁部と一体に回転可能とされた第2界磁部を含み、
前記保持部材が、前記第1界磁部の前記複数の永久磁石の各々を保持する第1保持部材、及び前記第2界磁部の前記複数の永久磁石の各々を保持する第2保持部材を含む
請求項1から請求項
3の何れか1項に記載の磁界発生装置。
【請求項6】
3以上の整数の何れか一つを分割数nとして、電気角1周期を前記分割数nで除した角度ずつ着磁方向が順に変更されて複数の永久磁石が周方向に配列された界磁部と、
非磁性の材料が用いられ、内周面に前記永久磁石の各々の外周面が当接される円環状の外周壁、及び前記外周壁の周方向において各々が該外周壁の内面から径方向の内側に突設され、隣接する互いの間の各々に前記永久磁石が嵌入される複数の隔壁を有する保持部材と、
前記永久磁石の各々が前記保持部材に保持された前記界磁部に対して相対回転可能に配置された電機子と、
を含む回転電機
であって、
前記隔壁の厚さ寸法dは、前記永久磁石の着磁方向に沿う断面において予め基準として設定した配列方向に沿う一辺の長さ寸法lm、及び前記分割数nに応じて設定されており、
前記隔壁の厚さ寸法dは、
0<d≦lm×1/(n+1)×1.5
を満たす
回転電機。
【請求項7】
3以上の整数の何れか一つを分割数nとして、電気角1周期を前記分割数nで除した角度ずつ着磁方向が順に変更されて複数の永久磁石が周方向に配列された界磁部と、
非磁性の材料が用いられ、内周面に前記永久磁石の各々の外周面が当接される円環状の外周壁、及び前記外周壁の周方向において各々が該外周壁の内面から径方向の内側に突設され、隣接する互いの間の各々に前記永久磁石が嵌入される複数の隔壁を有する保持部材と、
前記永久磁石の各々が前記保持部材に保持された前記界磁部に対して相対回転可能に配置された電機子と、
を含む回転電機であって、
前記隔壁の厚さ寸法dは、前記永久磁石の着磁方向に沿う断面において予め基準として設定した配列方向に沿う一辺の長さ寸法lm、及び前記分割数nに応じて設定されており、
前記隔壁の厚さ寸法dは、
d=lm/(n+1)
を満たす
回転電機。
【請求項8】
前記界磁部の前記永久磁石の各々に対向される円環状に形成され前記界磁部に対して相対回転可能に設けられ、前記界磁部側の面に前記電機子の三相のコイルが周方向に配列された強磁性体と、
を含む請求項
6又は請求項7に記載の回転電機。
【請求項9】
前記界磁部が、前記複数の永久磁石が周方向に配列された第1界磁部、及び前記第1界磁部の径方向外側に配置され、前記複数の永久磁石が周方向に配列されて前記第1界磁部と一体に回転可能とされた第2界磁部を含み、
前記保持部材が、前記第1界磁部の前記複数の永久磁石の各々を保持する第1保持部材、及び前記第2界磁部の前記複数の永久磁石の各々を保持する第2保持部材を含み、
前記電機子が、前記第1界磁部と前記第2界磁部との間において三相のコイルが周方向に配列されている
請求項
6又は請求項7に記載の回転電機。
【請求項10】
前記保持部材は、外周面に前記永久磁石の各々の内周面が当接されると共に、外周面に前記隔壁の各々の径方向内側端が連結された内周壁を含む請求項
6から請求項
9の何れか1項に記載の回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の技術は、磁界発生装置及び回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機や発電機などにおいては、永久磁石のN極とS極とが交互に配列された界磁(N-S配列界磁)が用いられている。界磁では、配列された永久磁石の一側(径方向の内側又は外側)の磁場が用いられるが、N-S配列界磁では、配列された永久磁石の両側に磁場が生じ、磁場(永久磁石による磁気エネルギー)が有効活用されていない。
【0003】
一方、永久磁石配列の界磁には、例えば、磁極(着磁方向)の方向を90°ずつ回転させて順に複数の永久磁石を配列するハルバッハ配列界磁がある。このハルバッハ配列界磁では、配列された永久磁石の他側よりも一側に強い磁場を生じさせることができ、永久磁石が発生する磁場を有効利用できる。
【0004】
特開2009-201343号公報や特開2010-154688号公報等には、互いの磁場が強め合うように2組のハルバッハ磁石配列を対向配置することで、永久磁石が発生する磁場をより有効利用できる界磁(デュアルハルバッハ配列界磁)が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電動機に用いるハルバッハ配列界磁では、多数の永久磁石が互いに接するように(隙間なく)周方向に配列される。また、互いに隣接する永久磁石の着磁方向の角度は、0°(着磁方向が同じ方向)や180°(着磁方向が反対方向)ではなく、分割数に応じた角度(例えば、90°、72°、45°など)となる。このため、ハルバッハ配列界磁では、互いに隣接する永久磁石の間において思わぬ方向に強い反発力や吸着力が生じるため、永久磁石の組み付けに時間や熟練を要することになり、作業性の向上が望まれている。
【0006】
本開示は上記事実に鑑みてなされたものであり、組み付け作業性を向上できる磁界発生装置及び回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための第1の態様の磁界発生装置は、3以上の整数の何れか一つを分割数nとして、電気角1周期を前記分割数nで除した角度ずつ着磁方向が順に変更されて複数の永久磁石が周方向に配列された界磁部と、非磁性の材料が用いられ、内周面に前記永久磁石の各々の外周面が当接される円環状の外周壁、及び前記外周壁の周方向において各々が該外周壁の内面から径方向の内側に突設され、隣接する互いの間の各々に前記永久磁石が嵌入される複数の隔壁を有する保持部材と、を含む。
【0008】
第1の態様の磁界発生装置では、3以上の整数の何れか一つを分割数nとして、電気角1周期を分割数nで除した角度ずつ着磁方向が順に変更されて複数の永久磁石が周方向に配列されて界磁部が形成されている。また、界磁部には、非磁性体や合成樹脂などの非磁性の材料が用いられた保持部材が設けられており、界磁部では、保持部材によって複数の永久磁石の各々が保持されている。
【0009】
ここで、保持部材は、内周面に永久磁石の各々の外周面が当接される円環状の外周壁の周方向において、各々が該外周壁の内面から径方向の内側に突設され、隣接する互いの間の各々に永久磁石が嵌入される複数の隔壁を有している。これにより、永久磁石は、周方向に離接する隔壁の間に嵌入配置されることで、保持部材に保持されて界磁部に組み付けられるので、界磁部への永久磁石の組付け性を向上できる。
【0010】
第2の態様の磁界発生装置は、第1の態様において、前記保持部材は、外周面に前記永久磁石の各々の内周面が当接されると共に、外周面に前記隔壁の各々の径方向内側端が連結された内周壁を含む。
【0011】
第2の態様の磁界発生装置では、保持部材に内周壁が設けられており、内周壁と外周壁との間に永久磁石の各々が配置される。このため、保持部材への永久磁石の組み付けがより容易なり、界磁部の組付け性をより向上できて、界磁部の生産性を向上できる。
【0012】
第3の態様の磁界発生装置は、第1又は第2の態様において、前記隔壁の厚さ寸法dが、前記永久磁石の着磁方向に沿う断面において予め基準として設定した配列方向に沿う一辺の長さ寸法lm、及び前記分割数nに応じて設定されている。この際、長さ寸法lmの基準とする永久磁石には、直線状に配列された永久磁石が適用される。
【0013】
第4の態様の磁界発生装置は、第3の態様において、前記隔壁の厚さ寸法dが、0<d≦lm×1/(n+1)×1.5を満たす。また、第5の態様の磁界発生装置は、第3又は第4の態様において、前記隔壁の厚さ寸法dが、d=lm/(n+1)を満たす。
【0014】
第6の態様の磁界発生装置は、第1から第5の何れか1の態様において、前記界磁部の前記永久磁石の各々に対向される円環状に形成され前記界磁部に対して相対回転可能に設けられ、前記界磁部の磁力により該界磁部との間で磁場を形成する強磁性体と、を含む。
【0015】
第6の態様の磁界発生装置では、界磁部に対応して強磁性体が相対回転可能に配置されている。これにより、界磁部の永久磁石と強磁性体との間で効果的な磁場を形成できる。
【0016】
第7の態様の磁界発生装置は、第1から第5の何れか1の態様において、前記界磁部が、前記複数の永久磁石が周方向に配列された第1界磁部、及び前記第1界磁部の径方向外側に配置され、前記複数の永久磁石が周方向に配列されて前記第1界磁部と一体に回転可能とされた第2界磁部を含み、前記保持部材が、前記第1界磁部の前記複数の永久磁石の各々を保持する第1保持部材、及び前記第2界磁部の前記複数の永久磁石の各々を保持する第2保持部材を含む。
【0017】
第7の態様の磁界発生装置では、第1界磁部と第2界磁部とが対で設けられており、第1界磁部及び第2界磁部は、各々第1保持部材及び第2保持部材を備えている。これにより、第1界磁部及び第2界磁部を対で配置する際、第1界磁部及び第2界磁部の各々への永久磁石の組み付けが容易となって、生産性を向上できる。
【0018】
第8の態様の回転電機は、3以上の整数の何れか一つを分割数nとして、電気角1周期を前記分割数nで除した角度ずつ着磁方向が順に変更されて複数の永久磁石が周方向に配列された界磁部と、非磁性の材料が用いられ、内周面に前記永久磁石の各々の外周面が当接される円環状の外周壁、及び前記外周壁の周方向において各々が該外周壁の内面から径方向の内側に突設され、隣接する互いの間の各々に前記永久磁石が嵌入される複数の隔壁を有する保持部材と、前記永久磁石の各々が前記保持部材に保持された前記界磁部に対して相対回転可能に配置された電機子と、を含む。
【0019】
第8の態様の回転電機では、界磁部と電機子とが相対回転される。界磁部には、3以上の整数の何れか一つを分割数nとして、電気角1周期を分割数nで除した角度ずつ着磁方向が順に変更されて複数の永久磁石が周方向に配列されている。また、界磁部には、保持部材が設けられ、保持部材によって複数の永久磁石の各々が保持されている。
【0020】
ここで、保持部材には、非磁性の材料が用いられている。また、保持部材は、円環状の内周面に永久磁石の各々の外周面が当接される円環状の外周壁、及び外周壁の周方向において該外周壁の内周面から径方向の内側に突設され、隣接する互いの間の各々に永久磁石が嵌入される複数の隔壁を有している。これにより、外周壁の周方向に離接する隔壁の間に永久磁石を嵌入配置することで、保持部材に永久磁石を組み付けることができ、界磁部への永久磁石の組み付けが容易となるので、界磁部の組付け性を向上できる。
【0021】
第9の態様の回転電機は、第8の態様において、前記界磁部の前記永久磁石の各々に対向される円環状に形成され前記界磁部に対して相対回転可能に設けられ、前記界磁部側の面に前記電機子の三相のコイルが周方向に配列された強磁性体と、を含む。
【0022】
第10の態様の回転電機は、第8の態様において、前記界磁部が、前記複数の永久磁石が周方向に配列された第1界磁部、及び前記第1界磁部の径方向外側に配置され、前記複数の永久磁石が周方向に配列されて前記第1界磁部と一体に回転可能とされた第2界磁部を含み、前記保持部材が、前記第1界磁部の前記複数の永久磁石の各々を保持する第1保持部材、及び前記第2界磁部の前記複数の永久磁石の各々を保持する第2保持部材を含み、前記電機子が、前記第1界磁部と前記第2界磁部との間において三相のコイルが周方向に配列されている。
【0023】
第11の態様の回転電機は、第8から第10の何れか1の態様において、前記保持部材は、外周面に前記永久磁石の各々の内周面が当接されると共に、外周面に前記隔壁の各々の径方向内側端が連結された内周壁を含む。
【0024】
第12の態様の回転電機は、第8から第11の何れか1の態様において、前記隔壁の厚さ寸法dが、前記永久磁石の着磁方向に沿う断面において予め基準として設定した配列方向に沿う一辺の長さ寸法lm、及び前記分割数nに応じて設定されている。この際、長さ寸法lmの基準とする永久磁石には、直線状に配列された永久磁石が適用される。
【0025】
ここで、本態様の回転電機は、第9の態様を引用する第12の態様において、前記強磁性体の前記界磁部側の周方向の長さ寸法Lf、及び前記界磁部の磁極数Pについて、前記長さ寸法lmは、Lf=lm×n×Pの関係を満たすことを含む。
【0026】
また、本態様の回転電機は、第10の態様を引用する第12の態様において、前記第1界磁部と前記第2界磁部との間のギャップ中心Gcの周方向の長さ寸法Lg、前記界磁部の磁極数Pについて、前記長さ寸法lmは、Lg=lm×n×Pの関係を満たすことを含む。
【0027】
第13の態様の回転電機は、第12の態様において、前記隔壁の厚さ寸法dが、0<d≦lm×1/(n+1)×1.5を満たす。また、第14の態様の回転電機は、第12又は第13の態様において、前記隔壁の厚さ寸法dが、d=lm/(n+1)を満たす。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように本開示の磁界発生装置及び回転電機によれば、3以上の整数の何れか一つを分割数nとして、電気角1周期を分割数nで除した角度ずつ着磁方向が順に変更されて複数の永久磁石が周方向に配列される界磁部において、複数の永久磁石の組み付けを容易にできるので、装置の生産性を向上できる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本実施形態に係る電動機の主要部を示す概略図である。
【
図3A】2つのハルバッハ磁石配列が対向された磁界発生部において一方のハルバッハ磁石配列を強磁性体に置き換えた磁界発生部を示す概略構成図である。
【
図3B】2つのハルバッハ磁石配列が対向された磁界発生部を示す概略構成図である。
【
図4A】
図3Aを変形した磁界発生部を示す概略構成図である。
【
図4B】
図3Bを変形した磁界発生部を示す概略構成図である。
【
図5】本実施形態に係る界磁ホルダを示す斜視図である。
【
図6】本実施形態に係る界磁部の主要部を示す斜視図である。
【
図7A】n=4における永久磁石の間隔寸法に対する体積比の変化及び基本波の振幅の変化を示す線図である。
【
図7B】n=4における基本波成分に対する第5次高調波成分の振幅比の永久磁石の間隔寸法に対する変化を示す線図である。
【
図8A】n=8における永久磁石の間隔寸法に対する体積比の変化及び基本波の振幅の変化を示す線図である。
【
図8B】n=8における基本波成分に対する第5次高調波成分の振幅比の永久磁石の間隔寸法に対する変化を示す線図である。
【
図9】変形例に係る電動機の主要部を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について詳細に説明する。
図1には、本実施形態に係る回転電機としての三相交流電動機(以下、電動機という)10の主要部の概略構成が軸方向視の平面図にて示されている。
【0031】
図1に示すように、電動機10は、回転子としての外形略円柱状のロータ12と、固定子としての略円環状(略円筒状でもよい)のステータ14とを備えている。電動機10は、ロータ12の中心軸線とステータ14の中心軸心とが重ねられ、ステータ14の内部にロータ12が相対回転可能に収容されている。
【0032】
ロータ12の外周部には、円環状(円筒状でもよい)の界磁部16が設けられている。また、ステータ14には、強磁性体としての円環状(円筒状でもよい)の外筒部18、及び電機子20が設けられており、外筒部18には、内周面に電機子20が周方向に配置されている。これにより、電動機10は、ロータ12の界磁部16の径方向外側に電機子20が対向され、電機子20が一体で界磁部16に対して相対回転可能とされている。
【0033】
電動機10では、界磁部16の外周部に複数の永久磁石22が周方向に配列されており、電動機10には、ロータ12の界磁部16とステータ14の外筒部18とにより磁界発生装置としての磁界発生部24が構成されている。磁界発生部24は、界磁部16と外筒部18との間に磁場(磁界)を形成している。
【0034】
電動機10の電機子20には、複数のコイルとしてU相のコイル20U、V相のコイル20V及びW相のコイル20Wが設けられている。コイル20U、20V、20W(コイル20U~20W)の各々には、巻き線としてリッツ線が用いられている。また、コイル20U~20Wの各々は、空芯コイルとされており、コイル20U~20Wは、各々集中巻きされて形成されている。
【0035】
電機子20は、三相分のコイル20U、20V、20Wが一組とされ、複数組のコイル20U~20Wが外筒部18の内周面に周方向に沿って所定の順序で配置されている。電動機10では、一例として、6組のコイル20U~20Wが用いられており、電動機10は、スロット数Sが18とされている。電動機10では、6組のコイル20U~20Wが相毎に直列接続され、例えば、外筒部18の周方向にコイル20U、20V、20W、20U、20V、20W、・・・の順で配列されている。なお、電動機10では、コイル20U~20W及びコイル20U~20Wに対して逆巻きとされたコイル20U’、20V’、20W’が用いられてもよい。この場合、電動機10では、コイル20U’、20U、20U’、20V’、20V、20V’、20W’、20W、20W’、20U’、20U、・・・の順に外筒部18の周方向に配列される。
【0036】
電動機10では、コイル20U、20V、20Wに、各々電気角1周期の範囲で互いの位相が120°ずらされた所定周波数の三相(U相、V相及びW相)の交流電力が供給される。これにより、電動機10は、電機子20(複数組のコイル20U~20Wの各々)に供給される三相交流電力の周波数に応じた回転数でロータ12が回転されて、出力軸12Aがロータ12と一体に回転駆動される。
【0037】
ここで、電動機10において磁界発生部24を形成するロータ12の界磁部16及びステータ14の外筒部18を説明する。
【0038】
磁界発生部24の界磁部16には、ハルバッハ磁石配列が適用されている。
図2には、ハルバッハ磁石配列が適用されたシングルハルバッハ配列界磁(以下、ハルバッハ配列界磁という)26の概略が平面図にて示されている。また、
図3A及び
図3Bには、各々ハルバッハ磁石配列が適用された磁界発生部28A、28Bの概略が平面図にて示されている。
【0039】
なお、図面では、永久磁石22において、N極側が符号Nにより示され、S極側が符号Sにより示されている。また、以下の説明では、永久磁石22の着磁方向がS極側からN極側に向かう矢印(実線による矢印)にて示され、磁力線がN極側からS極側(永久磁石22内ではS極側からN極側)に向かう破線矢印にて示している。また、図面では、永久磁石22の配列方向の一方向が矢印xにて示され、ハルバッハ磁石配列においてトルク発生に寄与する磁力線の方向が矢印yにて示されている。
【0040】
図2に示すように、ハルバッハ磁石配列には、着磁方向に沿う断面が略矩形状(略方形状、立体的には略直方体状)の永久磁石22が用いられる。また、ハルバッハ磁石配列では、分割数n及び分割数nに基づいた角度θ(図示省略)が設定され、着磁方向が所定の角度θずつ変更されて分割数nに応じたn個の永久磁石22が所定方向(矢印x方向)に順に配列されている。これにより、シングルハルバッハ配列界磁26(以下では、単にハルバッハ配列界磁26という)が形成される。なお、角度θは、隣接する2つの永久磁石22の着磁方向の間の角度としている(図示省略)。
【0041】
ハルバッハ磁石配列では、分割数nとして3以上の整数が適用され、角度θは、電気角1周期(2π=360°)を分割数n(3以上の整数)で分割した角度が適用される。ハルバッハ配列界磁26では、一例として、分割数n=4とし、角度θ=90°(θ=360°/4=90°)としている。
【0042】
このハルバッハ配列界磁26では、着磁方向が90°ずつ変更された永久磁石22A、22B、22C、22Dが順に配列されており(永久磁石22A~22Dの配列が繰り返されており)、永久磁石22Aの両側の永久磁石22B、22Dの着磁方向が永久磁石22A側に向けられている。これにより、ハルバッハ配列界磁26では、配列方向と交差する方向の一側(永久磁石22Aの着磁方向側)の磁場が強くされ、他側(永久磁石22Aの着磁方向とは反対側)の磁場の強さが抑制されている。
【0043】
図3Bに示すように、磁界発生部28Bは、ハルバッハ配列界磁26(26A、26B)が対で配置されたデュアルハルバッハ配列界磁とされており、磁界発生部28Bでは、2組のハルバッハ配列界磁26A、26Bが所定の間隔(ギャップ長2G)だけ隔てて対向されている。
【0044】
具体的には、磁界発生部28Bは、ハルバッハ配列界磁26A、26Bにおいて互いに磁場の強い側が対向されて形成されている。この際、磁界発生部28Bでは、ハルバッハ配列界磁26A、26Bの一方(例えば、ハルバッハ配列界磁26A)の永久磁石22Aに、他方(例えば、ハルバッハ配列界磁26B)において着磁方向が同様となる永久磁石22Cが対向されている。
【0045】
すなわち、ハルバッハ配列界磁26A、26Bは、永久磁石22A同士(永久磁石22C同士でもよい)を着磁方向が同様の向きとした状態で、かつハルバッハ配列界磁26Bにおいて永久磁石22Aの両側の永久磁石22Bと永久磁石22Dとを入れ替えた状態とも言える。これにより、磁界発生部28Bでは、対で配置されるハルバッハ配列界磁26A、26Bの間に、一つのハルバッハ配列界磁26を用いた場合に比して強い磁場が形成される。
【0046】
一方、電界(静電気の分野)においては、鏡像法(電気映像法)が知られている。図示は省略するが、鏡像法においては、所定の距離(間隔寸法)2gを隔てて対向された正負の点電荷+q、-qの間の電気力線が、点電荷+q、-qの中間位置である距離gの位置を対称面とした面対称(二次元的には、線対称)となる。この状態で、点電荷+q、-qの一方(例えば、点電荷-q)を導体(完全導体)に置き換えて、導体の点電荷+q側の面を距離gの位置(点電荷+q、-qの中間位置)に配置する。これにより、鏡像法では、点電荷+qと導体との間の電気力線が、点電荷+q、-qの中間位置(対称面の位置)と点電荷+qとの間の電気力線と同様になる。
【0047】
この鏡像法は、導体に変えて強磁性材料(強磁性体)を用いることで、磁界(磁場)においても同様に成り立つ。ここから、
図3Aに示すように、磁界発生部28Aでは、磁界発生部28Bのハルバッハ配列界磁26Bに変えて強磁性材料を用いた強磁性体30が配置されている。強磁性体30は、ハルバッハ配列界磁26A側の表面が磁界発生部28Bにおけるハルバッハ配列界磁26A、26Bの中間位置となるギャップ中心Gcの位置に配置されている。
【0048】
このため、磁界発生部28Aでは、磁界発生部28Bにおけるハルバッハ配列界磁26A、26B間の間隔寸法であるギャップ長2Gに対し、ハルバッハ配列界磁26Aと強磁性体30との間隔寸法がギャップ長Gとされている。これにより、磁界発生部28Aでは、ハルバッハ配列界磁26Aと強磁性体30との間の磁束分布が、磁界発生部28A(デュアルハルバッハ配列界磁)におけるギャップ中心Gcとハルバッハ配列界磁26Aとの間における磁束部分と同様とされる。本実施形態に係る電動機10及び磁界発生部24では、磁界発生部28A、28Bにおける永久磁石22の配列が基準とされている。
【0049】
一方、デュアルハルバッハ磁石配列においては、所定の条件を満たすように永久磁石22の各々を変形して磁界発生部28A、28Bを円環状に形成することで、デュアルハルバッハ磁石配列による効果と同様の効果が得られる。
【0050】
図1に示すように、電動機10の磁界発生部24では、k組(組数k)の永久磁石22A~22Dが用いられ、永久磁石22A~22Dが周方向に順に配列されたハルバッハ磁石配列により界磁部16が形成されている。電動機10では、一例として界磁部16に組数kが8(8組、k=8)の永久磁石22A~22Dが用いられている。
【0051】
図4A及び
図4Bの各々には、永久磁石22を円環状に配列した磁界発生部(界磁)が軸方向視の平面図にて示されている。なお、
図4Aには、一組のハルバッハ磁石配列が用いられた磁界発生部28Aに対応する磁界発生部32Aが示され、
図4Bには、二組のハルバッハ磁石配列(デュアルハルバッハ磁石配列)が用いられた磁界発生部28Bに対応する磁界発生部32Bが示されている。また、以下では、説明を簡略化するために、変形された永久磁石に変形前の永久磁石22と同様の符号を付している。
【0052】
ハルバッハ磁石配列では、分割数nに応じたn個の永久磁石22が一組とされており、ハルバッハ磁石配列は、n個の永久磁石22の配列がN極/S極の2極に対応し、磁極数Pが2極に相当している。これにより、電動機10には、界磁部16に8組の永久磁石22A~22Dにより一周分の総数Mが32(M=n×k=32個)の永久磁石22が用いられ、電動機10は、磁極数Pが16極とされている。
【0053】
図2、
図3A及び
図3Bに示すように、ハルバッハ配列界磁26(26A、26B)における極ピッチτは、着磁方向が反転する範囲(180°変化する範囲)の配列方向に沿う長さとされている。永久磁石22を緊密に接触させながら配列した状態において、極ピッチτは、分割数nと永久磁石22の配列方向に沿う一辺の長さ(長さ寸法)lmからτ=(n×lm)/2となる。磁界発生部28Bでは、ギャップ中心Gcにおいて最大の鎖交磁束数が得られるギャップ長2Gが、極ピッチτの0.5倍から2.0倍の範囲(0.5τ≦2G≦2.0τ)とされている。なお、永久磁石22の長さ寸法lmは、予め基準として設定された長さ寸法とされており、永久磁石22の長さ寸法lmは、ハルバッハ配列界磁26(26A、26B)において永久磁石22が磁場を形成する電機子20側の長さが適用されている。
【0054】
ここから、磁界発生部28Aにおいてハルバッハ配列界磁26Aの外周面(永久磁石22の外周面)と強磁性体30の表面との間隔であるギャップ長Gは、極ピッチτの0.25倍から1.0倍の範囲(0.25τ≦G≦1.0τ)とされている。また、分割数nに対するギャップ長Gは、永久磁石22の長さ寸法lmの(0.25×n×lm×1/2)倍から(1.0×n×lm×1/2)倍の範囲に含まれる(すなわち、(0.125×n×lm)≦G≦(0.5×n×lm))。これにより、分割数n=4の場合、ギャップ長Gは、永久磁石22の長さ寸法lmの0.5から2.0倍の範囲に含まれる((0.5×lm)≦G≦(2.0×lm))。
【0055】
磁界発生部28Bにおいて、ハルバッハ配列界磁26A、26Bの各々が分割数nとされたk組の永久磁石22が配列される場合、ギャップ中心Gcの配列方向に沿った長さ寸法は、k×n×lm=2×k×τとなる。
【0056】
図4Bに示す磁界発生部32Bは、磁界発生部28Bにおけるハルバッハ配列界磁26A、26Bを所定の条件を満たすように変形されて、ハルバッハ配列界磁34A、34Bが形成されている。磁界発生部32Bは、ギャップ中心Gcが基準円とされて、ハルバッハ配列界磁34A、34Bがギャップ中心Gcを挟んで配置されており、磁界発生部32Bでは、ギャップ36を挟んでハルバッハ配列界磁34A、34Bが対向されている。また、ハルバッハ配列界磁34A、34Bは、ハルバッハ配列界磁26A、26Bにおける永久磁石22の各々が基準とされ、該永久磁石22の各々が扇形環状(部分環状)に変形されて、周方向に配列されて形成されている。
【0057】
ここで、磁界発生部32Bと磁界発生部28Bとは、ギャップ中心Gcの長さ(円周)が同様にされている。また、磁界発生部32Bでは、ハルバッハ配列界磁34A、34Bの間の間隔(ギャップ長)が磁界発生部28Bにおけるギャップ長2Gと同様にされており、ハルバッハ配列界磁34A、34Bの各々とギャップ中心Gcとの間隔は、ギャップ長Gとされている。
【0058】
さらに、磁界発生部32Bでは、径方向断面における断面積について、ギャップ36中におけるギャップ中心Gcとハルバッハ配列界磁34Bとの間の断面積に対するギャップ中心Gcとハルバッハ配列界磁34Aとの間の断面積の比が、ハルバッハ配列界磁34Bの断面積に対するハルバッハ配列界磁34Aの断面積の比と同様にされている。
【0059】
すなわち、磁界発生部32Bの径方向断面において、ギャップ中心Gcとハルバッハ配列界磁34Bとの間の断面積を面積S1、ギャップ中心Gcとハルバッハ配列界磁34Aとの間の断面積を面積S2、ハルバッハ配列界磁34Bの断面積を面積S3、及びハルバッハ配列界磁34Aの断面積を面積S4とする。磁界発生部32Bでは、S2:S1=S4:S3の関係を満たす(S1/S2=S3/S4)。
【0060】
また、磁界発生部32Bは、所定の角度φ(°)の範囲(例えば、一組の永久磁石22A~22Dの範囲、
図4Bに二点鎖線で示す範囲)における径方向断面について、ギャップ中心Gcとハルバッハ配列界磁34Bとの間の断面積を面積Sgo、ギャップ中心Gcとハルバッハ配列界磁34Aとの間の断面積を面積Sgi、ハルバッハ配列界磁34Bの断面積を面積Smo、及びハルバッハ配列界磁34Aの断面積を面積Smiとする。磁界発生部32Bでは、Sgi:Sgo=Smi:Smoの関係を満たす(Smi/Smo=Sgi/Sgo。また、Smo/Smi=Sgo/Sgiも満たす)。
【0061】
このようにして形成される磁界発生部32Bでは、ハルバッハ配列界磁34Aの内径、ハルバッハ配列界磁34Aの外径(ギャップ36の内径)、ギャップ中心Gcの半径、ハルバッハ配列界磁34Bの内径(ギャップ36の外径)及びハルバッハ配列界磁34Bの外径を、各々Rh、Ri、Rco、Rg、Roとする。この場合、Ri=(Rco-G)、Rg=(Rco+G)等の関係を有する。
【0062】
この際、面積Sgo、Sgi、Smo、Smiの各々は、例えば、以下の各式で表される。
Sgo=(Rg2-Rco2)×π×φ/360
Sgi=(Rco2-Ri2)×π×φ/360
Smo=(Ro2-Rg2)×π×φ/360
Smi=(Ri2-Rh2)×π×φ/360
【0063】
さらに、ハルバッハ配列界磁34A、34Bでは、ハルバッハ配列界磁26A、26Bと同様に、永久磁石22の着磁方向に沿う断面が略矩形状(略正方形状)に近似する扇形環状(部分環状)とされる。磁界発生部32Bでは、これらの条件を満たすように基準とされた永久磁石22の各々が変形されて配列されることで、磁界発生部28Bと同様のデュアルハルバッハ磁石配列による効果を有する。
【0064】
上記した変形の方法に従えば、永久磁石22の配列方向に沿う長さ寸法lmは、界磁(界磁部16)と電機子(電機子20)の種類(組み合わせ)によって以下のように示される。
【0065】
デュアルハルバッハ磁石配列が適用された磁界発生部28Bでは、永久磁石22が互いに密着している場合、1組分の永久磁石22に対応するギャップ中心Gc長さ寸法が、2×τ=n×lmとなる。また、磁界発生部28A、28Bでは、永久磁石22の長さ寸法lmは、lm=2×τ×1/nで表される(τ=n×lm/2)。この際、永久磁石22の長さ寸法lmは、ハルバッハ配列界磁26A、26Bにおける永久磁石22(変形前の永久磁石22)の長さ寸法と同様となっている。
【0066】
一方、デュアルハルバッハ磁石配列が適用された磁界発生部32Bでは、1組の永久磁石22の範囲(角度φの範囲)におけるギャップ中心Gcの周方向の長さ寸法Lcが、Lc=2×π×Rco×φ/360となる。ここで、ギャップ中心Gcにおける極ピッチをτとおくと、Lc=2×τとなり、ギャップ中心Gcにおける永久磁石22の配列方向に沿う長さに相当する寸法を長さ寸法lmとすると、Lc=n×lmとなる。したがって、磁界発生部32Bでは、ギャップ中心Gcにおいて、長さ寸法lm=Lc/nが対応される。また、磁界発生部32Bにおいてギャップ中心Gcの全周の長さ寸法をLgとすると、長さ寸法Lg、磁極数P、分割数n及び長さ寸法lmの間では、Lg=lm×n×Pの関係を満たす。
【0067】
また、磁界発生部32Bのハルバッハ配列界磁34Bでは、ギャップ36側の面の周方向の長さ寸法Loは、Lo=2×π×Rg×φ/360となる。ハルバッハ配列界磁34Bでは、ギャップ36側の面における極ピッチをτとおくと、Lo=2×τとなる。永久磁石22が互いに密着している場合、ハルバッハ配列界磁34Bのギャップ36側(磁場側)における永久磁石22の配列方向(周方向)に沿う長さ寸法lm’とすると、Lo=n×lm’となる。したがって、ハルバッハ配列界磁34Bのギャップ36側の永久磁石22は、長さ寸法lm’=Lo/nが対応される。
【0068】
さらに、磁界発生部32Bのハルバッハ配列界磁34Aでは、ギャップ36側(磁場側)の面の周方向の長さ寸法Liは、Li=2×π×Ri×φ/360となる。ハルバッハ配列界磁34Aでは、ギャップ36側の面における極ピッチをτとおくと、Li=2×τとなる。永久磁石22が互いに密着している場合、ハルバッハ配列界磁34Aのギャップ36側における永久磁石22の配列方向に沿う長さ寸法lm”とすると、Li=n×lm”となる。したがって、ハルバッハ配列界磁34Aのギャップ36側の永久磁石22は、長さ寸法lm”=Li/nが対応される。
【0069】
ここで、
図4Aに示す磁界発生部32Aでは、磁界発生部32Bにおけるハルバッハ配列界磁34Bを強磁性体30Aに置き換えている。強磁性体30Aは、内径がギャップ中心Gcの半径と同様にされた円環状に形成されており、強磁性体30Aは、内周(内周面)がギャップ中心Gcの位置とされている。これにより、磁界発生部32Aは、磁界発生部28Aを円環状に変形したのと同様とされて、磁界発生部32Aは、磁界発生部28Aと同様にデュアルハルバッハ磁石配列による効果を有している。
【0070】
また、磁界発生部32Aのハルバッハ配列界磁34Aでは、強磁性体30Aのギャップ36側の面の周方向の長さ寸法は、長さ寸法Lcと同様となる。このため、磁界発生部32Aにおいて、強磁性体30Aのギャップ36側の全周の長さ寸法をLfとすると、長さ寸法Lf、磁極数P、分割数n及び長さ寸法lmの間では、Lf=lm×n×Pの関係を満たす。
【0071】
また、磁界発生部32Aは、ハルバッハ配列界磁34Aのギャップ36側の面の周方向の長さ寸法Li=2×τとなる。永久磁石22が互いに密着している場合、ハルバッハ配列界磁34Aのギャップ36側における永久磁石22は、配列方向に沿う長さ寸法lm”=Li/nが対応される。さらに、極ピッチτは、1組の永久磁石22(22A~22D)において、着磁方向が反転する範囲(180°変化する範囲)とされているので、永久磁石22の間に隙間がある場合には、極ピッチτは、この隙間を含めた範囲ともいえる。
【0072】
さらに、磁界発生部32Aにおいて、ギャップ長Gは、極ピッチτの0.25倍から1.0倍の範囲(0.25τ≦G≦1.0τ)を満たし、分割数nに対するギャップ長Gは、永久磁石22の配列方向に沿う長さ寸法lmの(0.125×n×lm)倍から(0.5×n×lm)倍の範囲に含まれるという関係を有する((0.125×n×lm)≦G≦(0.5×n×lm))。
【0073】
図1に示すように、電動機10の磁界発生部24には、磁界発生部32Aと同様の構成が適用されている。磁界発生部24の界磁部16には、永久磁石22が円環状に配列されたハルバッハ配列界磁34Aが適用され、界磁部16を囲うステータ14の外筒部18に強磁性材料が用いられている(外筒部18が強磁性体30Aに対応)。これにより、電動機10では、界磁部16と外筒部18との間の磁束分布が、磁界発生部32Bのハルバッハ配列界磁34Aとギャップ中心Gcとの間における磁束部分と同様とされている。
【0074】
このような磁界発生部24では、外筒部18の径方向に沿う寸法としての厚さ寸法lyに任意の寸法を適用できる。外筒部18の厚さ寸法lyを小さくすることで、電動機10の外径寸法が大きくなるのを抑制できて、電動機10の出力密度の向上を図ることができる。この際、電動機10では、外筒部18に生じる磁気飽和によりトルクリップルが発生し易くなる。しかし、界磁部16では、ハルバッハ配列界磁26Aが適用されていることで、トルクリップルを抑制できるというハルバッハ磁石配列による効果として得られる。
【0075】
また、外筒部18の厚さ寸法lyを大きくすることで、電動機10の外径寸法が大きくなるのを抑制するのが難しくなるが、外筒部18に磁気飽和が生じるのを抑制でき、トルクリップルを効果的に抑制できる。
【0076】
ここから、外筒部18の厚さ寸法lyとしては、外筒部18に磁束飽和が生じる最も大きい寸法(外筒部18に磁束飽和が生じない最も小さい寸法でもよい)が好ましい。これにより、電動機10の外径寸法が大きくなるのを抑制し出力密度の向上を図りながら、トルクリップルを効果的に抑制できる。
【0077】
ところで、電動機10のロータ12には、保持部材としての界磁ホルダ40が設けられている。
図5には、界磁ホルダ40の概略構成が斜視図にて示され、
図6には、界磁部16の主要部が斜視図にて示されている。
【0078】
界磁ホルダ40には、非磁性の材料(磁性を持たない材料)が用いられている。界磁ホルダ40に適用する非磁性の材料としては、常磁性体であってもよく、反磁性体であってもよく、各種の樹脂材料(合成樹脂)であってもよく、界磁ホルダ40には、アルミニウム、各種の遷移金属、各種の合成樹脂を適用できる。本実施形態では、高い強度や強靭性が得られることに加え、軽量化が可能となるという観点から、界磁ホルダ40に炭素強化繊維プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)を用いている。
【0079】
図5に示すように、界磁ホルダ40は、各々が所定厚さの略円筒状に形成された内周壁としての内壁42、及び外周壁としての外壁44を備えている。界磁ホルダ40では、内壁42の外径が外壁44の内径よりも小さくされており、界磁ホルダ40は、内壁42の中心軸線と外壁44の中心軸線とが重ねられて、外壁44内に内壁42が同軸に配置されている。なお、本実施形態では、界磁ホルダ40の軸線方向に沿う寸法が永久磁石22の着磁方向と交差する方向の寸法と同様とされている。
【0080】
また、界磁ホルダ40では、内壁42の外周面と外壁44の内周面との間隔が前記変形された永久磁石22の径方向寸法と同様とされている。これにより、界磁ホルダ40は、全体として略円筒状に形成され、界磁ホルダ40は、内壁42の内周面がロータ12の出力軸12Aに固着(接着)されて、ロータ12に一体回転可能に配置されている。
【0081】
図1、
図5及び
図6に示すように、界磁ホルダ40には、内壁42と外壁44との間に隔壁としての複数のスペーサ46が設けられており、界磁ホルダ40は、樹脂の一体成型により内壁42、外壁44及びスペーサ46が形成されている。スペーサ46は、各々が界磁ホルダ40の径方向に沿っており、スペーサ46は、界磁ホルダ40の周方向に所定間隔で配列されている。
【0082】
界磁ホルダ40では、各スペーサ46が互いに隣接する永久磁石22の間となる位置の各々に設けられており、各スペーサ46の配置間隔は、永久磁石22の周方向に沿った長さと略同様にされている。例えば、各スペーサ46の外壁44側の周方向に沿う間隔寸法は、界磁部16における永久磁石22の外周面の周方向の寸法と同様とされている。また、各スペーサ46の内壁42側の周方向に沿う間隔寸法は、界磁部16における永久磁石22の内周面の周方向の長さ寸法と同様とされている。
【0083】
これにより、界磁ホルダ40には、32個(k×n個)のスペーサ46が形成されており、界磁ホルダ40には、互いに隣接するスペーサ46の間に、永久磁石22を嵌入されるソケット48が永久磁石22の数だけ形成されている。ソケット48は、各々界磁ホルダ40の軸線方向と交差する方向(径方向)の開口断面形状が永久磁石22の着磁方向に沿う断面形状と同様とされており、ソケット48の各々は、開口断面形状が界磁ホルダ40に装着される永久磁石22の着磁方向に沿う断面形状と同様とされている。
【0084】
電動機10のロータ12では、界磁ホルダ40のソケット48の各々に永久磁石22が嵌入されて、嵌入された永久磁石の周面が界磁ホルダ40の内壁42の外周面、外壁44の内周面、及び各スペーサ46の内面(ソケット48の内面)に接着等により接合されている。
【0085】
一方、ハルバッハ磁石配列においては、永久磁石22の間隔が磁場に影響する。磁界発生部24では、界磁ホルダ40におけるスペーサ46の周方向に沿う寸法である厚さ寸法dが界磁部16により形成する磁場に影響する。
【0086】
ここで、界磁ホルダ40では、装着される永久磁石22の配列方向に沿う長さ寸法lm(mm)及び分割数nに応じ、スペーサ46の厚さ寸法d(mm)が設定されている。界磁ホルダ40のスペーサ46の厚さ寸法dは、永久磁石22の配列方向に沿う長さ寸法lm及び分割数nから(1)式を満たすように設定されている。
0<d≦lm×1/(n+1)×1.5 ・・・(1)
なお、lm×1/(n+1)×1.5=lm×1.5/(n+1)である。また、非磁性の材料により形成されている界磁ホルダ40は、磁界発生部24において永久磁石22の外側となる外壁44が面積S2に含まれ、永久磁石22の間のスペーサ46が面積S4に含まれる。
【0087】
このように構成されている電動機10では、ロータ12の界磁部16とステータ14の外筒部18とにより磁界発生部24が形成されており、この磁界発生部24中に電機子20(コイル20U~20W)が配置されている。このため、電動機10は、所定電圧の三相交流電力がコイル20U~20Wの各々に供給されることで、ロータ12が回転されて出力軸12Aが回転駆動される。また、電動機10の出力軸12Aは、コイル20U~20Wの各々に供給される三相交流電力の周波数に応じた回転数で回転駆動される。
【0088】
電動機10の磁界発生部24では、界磁部16が外筒部18によって囲われ、界磁部16の永久磁石22の各々に外筒部18が対向されており、界磁部16では、複数の永久磁石22によりハルバッハ配列界磁34Aが形成されている。また、磁界発生部24では、界磁部16に対してデュアルハルバッハ磁石配列におけるハルバッハ配列界磁34A、34Bのギャップ中心Gcに対応する位置に外筒部18が配置されており、外筒部18には、強磁性材料(強磁性体)が用いられている。このため、磁界発生部24では、界磁部16と外筒部18との間にデュアルハルバッハ磁石配列が適用されたのと同様の磁場(近似した磁場)が形成されている。
【0089】
このため、電動機10では、デュアルハルバッハ磁石配列においてトルクリップルを抑制できるという効果が適正に再現されている。これにより、電動機10では、一つのハルバッハ配列界磁34Aを用いて、ハルバッハ配列界磁34A、34Bを用いたデュアルハルバッハ配列界磁と同様の効果が得られるので、電動機10では、トルクリップルの発生が抑制される。
【0090】
また、電動機10では、界磁部16の径方向外側に配置している外筒部18が固定されるので、外筒部18に筐体の機能を持たせることができる。このため、電動機10は、小型化及び部品数の削減が可能になり、低コスト化と共に、出力密度の向上が図られる。しかも、電動機10では、ハルバッハ磁石配列が用いられるので、デュアルハルバッハ磁石配列を適用した場合に比して、永久磁石22の数を削減できて、より軽量化及び低コスト化を図ることができて、効果的に出力密度の向上を図ることができる。
【0091】
一般に、径方向断面が相似形状であり、かつ軸方向長さが同様の電動機の間では、出力(回転角速度×トルク)を相似比率の3乗に比例して大きくできる。電動機10では、デュアルハルバッハ磁石配列が適用された場合に比して径方向の大きさに余裕ができるので、電動機10では、出力を大きくできる可能性がある。このため、電動機10では、デュアルハルバッハ磁石配列が適用された場合に比して、大きな出力密度(出力/体積比)を得ることが期待できる。
【0092】
また、電動機10では、コイル20U~20Wが空芯コイルとされており、コイル20U~20Wには、リッツ線が用いられている。電動機10では、コイル20U~20Wが空芯コイルとされることで、逆起電力の発生が抑制され、インバータ制御を行う場合のインバータ回路におけるスイッチング素子の発熱を抑制できる。また、コイル20U~20Wの巻き線にリッツ線が用いられることで、インダクタンスを小さくできて発熱及びコイル20U~20Wの各々に生じる逆起電力を効果的に抑制できる。これにより、電動機10では、定格回転数を高くできて高回転化できる。
【0093】
さらに、電動機10では、電機子20(コイル20U~20W)が配置される外筒部18が回転しないので、冷却フィンや冷却パイプなどの冷却手段を用いて外筒部18を冷却でき、外筒部18と共に外筒部18の内側の電機子20も冷却できる。これにより、電動機10は、発熱を効果的に抑制できるので、短時間に大きなトルクを出力することも可能になる。
【0094】
次に、磁界発生部24の界磁部16における永久磁石22の組み付けを説明する。
磁界発生部24の界磁部16には、複数の永久磁石22が周方向に配列されており、永久磁石22は、隣接する永久磁石22の着磁方向が角度θずつ変更されている。
【0095】
ここで、磁界発生部24の界磁部16には、界磁ホルダ40が用いられており、界磁ホルダ40には、内壁42と外壁44との間に複数のスペーサ46が設けられて各々に永久磁石22が嵌入される複数のソケット48が形成されている。ソケット48は、界磁部16に用いる永久磁石22の数だけ形成されており、ソケット48は、界磁ホルダ40の周方向に配列されている。このため、複数の永久磁石22は、界磁ホルダ40のソケット48の各々に着磁方向が所定の角度θずつ変更されるように順に嵌入されることで、界磁部16に組み付けられる。
【0096】
一方、互いに隣接する永久磁石22の間には、吸着力及び反発力が作用している。また、永久磁石22の着磁方向が所定の角度θずつずらされていると共に、隣接する永久磁石22が極めて接近している。このため、永久磁石22を順に周方向に配列しようとすると、隣接する永久磁石22の間では、永久磁石22を回転させる方向に大きな吸着力及び反発力が作用することがある。
【0097】
界磁部16に用いる複数の永久磁石22は、着磁方向に沿う断面形状が同様とされており、界磁ホルダ40には、永久磁石22の数だけソケット48が形成されている。このため、界磁ホルダ40では、一つのソケット48に嵌入する永久磁石22の着磁方向が定まることで、全てのソケット48に嵌入される永久磁石22の着磁方向が定まる。また、ソケット48の各々では、内壁42、外壁44及びスペーサ46により永久磁石22の移動が規制されている。さらに、永久磁石22の間に作用する吸着力や反発力は、互いの距離が離れるにしたがって弱くなる。
【0098】
ここから、界磁ホルダ40では、1個以上の間隔を空けて(一つ又は所定数空けて)ソケット48に永久磁石22を嵌め込むことで、永久磁石22の組み付けが容易になる。例えば、
図6に示すように、界磁ホルダ40では、永久磁石22A、22C、・・・の順で各々を対応するソケット48に嵌め込み、その後、永久磁石22A、22C、・・・の間の空いているソケット48に永久磁石22B、22D、・・・を順に嵌め込む。これにより、永久磁石22の間に大きな吸着力や反発力が作用しても、複数の永久磁石22を周方向に配列して組み付けるのが容易になる。
【0099】
また、界磁ホルダ40では、ソケット48に嵌め込まれた永久磁石22の移動を内壁42、外壁44及びスペーサ46によって制限できる。このため、界磁ホルダ40では、既にソケット48に嵌め込まれた永久磁石22が、新たにソケット48に嵌め込まれる永久磁石22の磁力の影響を受けて移動するのを規制できる。これにより、界磁ホルダ40では、永久磁石22の組み付けを効果的に補助できる。
【0100】
したがって、界磁ホルダ40は、複数の永久磁石22を互いに近接させて配置する場合でも、複数の永久磁石22の各々の組み付けを容易にでき、複数の永久磁石22を周方向に配列する界磁部16の組み立てを容易にできる。
【0101】
さらに、界磁ホルダ40には、炭素強化繊維プラスチック(CFRP)が用いられている。このため、界磁ホルダ40は、永久磁石22を組み付ける際、互いに隣接する永久磁石22の間に吸着力及び反発力が作用しても、内壁42、外壁44及びスペーサ46に変形(ソケット48の歪み)が生じることがない。これにより、界磁ホルダ40は、複数の永久磁石22を一定位置に保持できる。
【0102】
また、界磁ホルダ40のソケット48に嵌め込まれた永久磁石22は、界磁ホルダ40のソケット48の内周面(内壁42、外壁44及びスペーサ46の各面)に接着されるなどして固着される。これにより、永久磁石22は、界磁ホルダ40を介してロータ12に確実に固着される。
【0103】
また、電動機10では、ロータ12が回転することで、界磁部16の永久磁石22に遠心力が作用する。このため、電動機10の回転数が上昇することで、永久磁石22に作用する遠心力が大きくなる。この際、界磁ホルダ40には、径方向の外側に外壁44が形成されており、界磁ホルダ40では、外壁44が複数のスペーサ46により内壁42に連結されている。このため、界磁ホルダ40では、ロータ12が回転することで永久磁石22に大きな遠心力が作用しても、外壁44が永久磁石22の径方向外側への移動を効果的に制限できて、永久磁石22を適切に保持できる。これにより、電動機10では、界磁ホルダ40が設けられることで、安定した高速回転が可能になる。しかも、界磁ホルダ40には、強度及び強靭性の高い炭素強化繊維プラスチックが用いられるので、永久磁石22が遠心力によりずれるのを確実に制限できて、電動機10の安定した高速回転を維持できる。
【0104】
一方、ハルバッハ磁石配列においては、互いに隣接する永久磁石22の間隔が永久磁石22(界磁部16)によって形成する磁場に大きく影響する。電動機10では、界磁ホルダ40のスペーサ46により互いに隣接する永久磁石22の間隔が僅かに開けられ、互いに隣接する永久磁石22の間隔が定まっている。また、界磁ホルダ40では、基準とする長さ寸法lmに対してスペーサ46の厚さ寸法dが、0<d≦(lm×1/(n+1))×1.5の範囲とされており、互いに隣接する永久磁石22の間の間隔寸法wは、0<w≦lm×1/(n+1)×1.5とされている。
【0105】
一般にハルバッハ磁石配列においては、配列された永久磁石22に対して所定距離だけ離れた位置における磁束密度は、互いに隣接する永久磁石22の間隔(間隔寸法w)に影響し、互いに隣接する永久磁石22の間隔が広がると、漏れ磁束が生じて磁束密度が低下する。この磁束密度の低下は、電動機10の出力トルクの低下を生じさせる。
【0106】
ここで、ハルバッハ磁石配列では、永久磁石22に対する所定位置における磁束密度分布の空間高調波成分が、角度θ=360°/n(nは分割数)、かつ隣接する永久磁石22の間隔寸法wが永久磁石22の配列方向に沿う長さ寸法lmの1/(n+1)(w=lm×1/(n+1))において凡そゼロとなる。例えば、分割数n=4においては、間隔寸法w=lm/5で、永久磁石22の所定位置における磁束密度分布の高調波成分が凡そゼロとなる。
【0107】
図7Aには、永久磁石22の着磁方向の角度θ=90°(分割数n=4における角度θ)の場合における永久磁石22の間隔寸法wに応じたデュアルハルバッハ磁石配列のギャップ中心Gcにおける空間磁束密度分布の基本波成分の振幅の比率(%)、及び永久磁石22の体積の比率(%)が示されている。また、
図7Bには、角度θ=90°の場合のギャップ中心Gcにおける永久磁石22の間隔寸法wに応じた空間磁束密度分布の基本波成分に対する第5次((n+1)次)高調波成分の振幅比(振幅比率%)が示されている。
【0108】
なお、空間磁束密度分布の基本波成分の振幅及び体積の比率は、間隔寸法w=0を基準とし、間隔寸法w=0における基本波成分の振幅に対する比率及び体積の比率としており、間隔寸法wが大きくなるにしたがって永久磁石22の体積が減少するものとしている。また、
図7A及び
図7Bでは、電機子20側における永久磁石22の配列方向に沿う基準としての長さ寸法(径方向に沿う長さ寸法)lmを10mm、ギャップ長2Gを長さ寸法lmの1.5倍(2G=15mm)としている。
【0109】
図7Aに示すように、永久磁石22の間隔寸法wに対して、永久磁石22の体積の比率(体積割合)及び基本波の振幅が略比例し、永久磁石22の間隔寸法wが大きくなるにしたがい、永久磁石22の体積の比率及び基本波成分の振幅の比率が減少する。
【0110】
デュアルハルバッハ磁石配列では、角度θ=90°において磁場中(ギャップ中)に(n+1)次の高調波成分が発生することが知られている。
図7Bに示すように、間隔寸法wが2mm(=lm×1/(n+1))のときに、基本波成分の振幅に対する第5次高調波成分の振幅の比率(振幅比)が最小(略ゼロ)となっている。ここから、第5次高調波成分は、分割数n=4、及び間隔寸法w=2(mm)において消えるとみなすことができる。
【0111】
間隔寸法w=2(mm)は、分割数n=4における永久磁石22の長さ寸法lm(mm)に対して1/5(1/(n+1)に相当)となっている。また、
図7Aに示すように、間隔寸法w=2mmにおいては、基本波の振幅が約20%減少している。
【0112】
また、
図7Bに示すように、永久磁石22の間隔寸法wが3mmまでの範囲(0<w≦3)では、第5次高調波成分が間隔寸法w=0における第5次高調波成分と同様の比率となっており、基本波成分に対する第5次高調波成分の増加は見られない。
【0113】
図8Aには、永久磁石22の着磁方向の角度θ=45°(分割数n=8に対する角度θ)の場合における永久磁石22の間隔寸法wに対するデュアルハルバッハ磁石配列のギャップ中心における空間磁束密度分布の基本波振幅の比率(%)、及び永久磁石22の体積の比率(%)が示されている。また、
図8Bには、角度θ=45°の場合のギャップ中心Gcにおける永久磁石22の間隔寸法wの変化に応じた空間磁束密度分布の基本波成分に対する第9次((n+1)次)高調波成分の振幅比(振幅比率%)が示されている。
【0114】
図8Aに示すように、角度θ=45°の場合においても、永久磁石22の間隔寸法wに対して、永久磁石22の体積の比率、及び基本波振幅の比率がほぼ比例し、永久磁石22の間隔寸法wが大きくなるにしたがい、永久磁石22の体積の比率及び基本波振幅の比率が減少する。
【0115】
また、
図8Bに示すように、角度θ=45°においては、間隔寸法wが凡そ1mm(lm×1/9に相当)のときに、振幅比が最小(略ゼロ)となっており、この間隔寸法w≒1(mm)において第9次高調波成分が略消えているとみなすことができる。
【0116】
また、第9次高調波成分が消えるとみなせる間隔寸法wにおいては、基本波の振幅が約10%減少している(
図8A参照)。この基本波の振幅の比率が、間隔寸法w=0における比率と同様となるのは、間隔寸法w=1.7(mm)(w=lm×1/9×1.5に相当)となっている。したがって、間隔寸法wが、0≦w≦1.7の範囲では、基本波に対する第9次高調波成分の増加は見られないとみなせる。この間隔寸法wの範囲は、角度θ=45°(分割数n=8)において、永久磁石22の配列方向に沿う長さ寸法lmの1/9(=1/(n+1)までの範囲となる。
【0117】
したがって、ハルバッハ磁石配列における永久磁石22の間隔寸法wは、0≦w≦lm×1/(n+1)×1.5であることが好ましい。これにより、ハルバッハ磁石配列(シングルハルバッハ磁石配列及びデュアルハルバッハ磁石配列)において、互いに隣接する永久磁石22の間隔寸法wを、0≦w≦lm×1/(n+1)×1.5の範囲(但し、nは分割数、lmは永久磁石22の電機子20側における配列方向に沿う長さ寸法)とすることで、互いに隣接する永久磁石22の間隔寸法wに起因する高調波成分の増加を抑制できる。また、間隔寸法w=lm×1/(n+1)とすることで、高調波成分を効果的に抑制できる。
【0118】
また、界磁ホルダ40に設けられるスペーサ46の厚さ寸法dは、lm×1/(n+1)×1.5(mm)以下の寸法(0<d≦lm×1/(n+1)×1.5)であれば、スペーサ46を設けることによる高調波成分の増加を抑制できる。特に、界磁ホルダ40は、スペーサ46の厚さ寸法d=lm×1/(n+1)とすることで、高調波成分を効果的に抑制できる。このため、界磁ホルダ40は、スペーサ46の厚さ寸法dが、上記範囲でかつ所望の強度が得られる寸法及び材質で形成されればよい。
【0119】
したがって、界磁ホルダ40は、上記条件を満たす厚さ寸法dで形成されればよい。また、界磁ホルダ40は、デュアルハルバッハ磁石配列における径方向断面の断面積について、ギャップ中心Gcと径方向外側のハルバッハ磁石配列の間の断面積に対するギャップ中心Gcと径方向内側のハルバッハ磁石配列との間の断面積の比が、径方向外側のハルバッハ磁石配列の断面積に対する径方向内側のハルバッハ磁石配列の断面積の比と同様になるように形成されればよい。この際、界磁ホルダ40は、界磁部16に対応する径方向内側のハルバッハ磁石配列における面積S4にスペーサ46が含まれるように形成されればよく、界磁ホルダ40は、スペーサ46の厚さ寸法dが極ピッチτ及び永久磁石22の配列方向に沿う長さ寸法lmを含めて設定されればよい。
【0120】
なお、以上説明した本実施形態では、内壁42、外壁44及び永久磁石22の数に応じたスペーサ46を備える界磁ホルダ40を例に説明した。しかしながら、保持部材は、少なくとも外周壁及び隔壁を備えればよく、内周壁は省略されてもよい。この場合、保持部材の内周壁として、例えば回転子の出力軸となる回転軸などを適用し、回転軸に保持部材を取り付けた状態で、保持部材の隔壁の間に永久磁石を嵌め込んで永久磁石を取り付けるようにしてもよい。
【0121】
また、保持部材は、永久磁石の組み付け時に内周壁を用いるが、組み付け後には、内周壁が取り外される構成であってもよい。さらに、保持部材は、外周壁と隔壁、又は外周壁と内周壁と隔壁とにより永久磁石の移動を規制できればよく、外周壁、内周壁及び隔壁は格子状等の一部に開口部が形成された形状であってもよい。
【0122】
また、本実施形態では、磁界発生部32Bにおいて、外側のハルバッハ配列界磁34Aを強磁性体30Aに置き換えたが、磁界発生部は、径方向内側のハルバッハ配列界磁を強磁性体に置き換えた構成であってもよい。
【0123】
一方、本実施形態では、電動機10の磁界発生部24に磁界発生部32Aを適用したが、磁界発生部24には、磁界発生部32Bが適用されてもよい。すなわち、回転電機には、デュアルハルバッハ磁石配列が適用されてもよい。
図9には、変形例に係る電動機50の概略構成が平面図にて示されている。
【0124】
図9に示すように、電動機50の磁界発生部52では、ハルバッハ配列界磁26Aが適用された第1界磁部としての界磁部54A、及びハルバッハ配列界磁26Bが適用された第2界磁部としての界磁部54Bが用いられている。界磁部54A、54Bは、各々略円環状とされ、ギャップ長2Gの間隔が開けられて界磁部54B内に界磁部54Aが同軸的に配置されて一体回転可能にされている。また、電動機50には、界磁部54Aと界磁部54Bとの間に電機子20が配置されており、電機子20は、界磁部54A、54Bに対して相対回転可能とされている。
【0125】
これにより、電動機50では、電機子20のコイル20U~20Wに三相交流電力が供給されることで、電機子20に対して界磁部54A、54Bが一体に相対回転されて、出力軸12Aが回転駆動される。
【0126】
ここで、界磁部54A及び界磁部54Bには、各々に第1保持部材としての界磁ホルダ56及び第2保持部材としての界磁ホルダ58が用いられており、界磁ホルダ56、58は、各々基本的構造が界磁ホルダ40と同様にされている。すなわち、界磁ホルダ56は、界磁ホルダ40と同様にされている。また、界磁ホルダ58には、内壁42に対応する内壁42A、外壁44に対応する外壁44Aが設けられ、内壁42Aと外壁44Aとの間にスペーサ46が配置され、ソケット48に対応するソケット48Aが形成されている。
【0127】
このように構成された電動機50では、界磁ホルダ56、58が用いられることで、界磁部54A、54Bの各々において、永久磁石22(22A~22D)の各々の位置を規制できて永久磁石22の組み付けが容易になる。これにより、電動機50においても、電動機10と同様に製造が容易になる。
【0128】
なお、以上説明した本実施形態及び変形例では、主に分割数n=4を例に説明したが、分割数nには、3以上の整数の何れかを適用できる。また、三相交流電力によって駆動される電動機では、トルクリップルをより精度より抑制する観点から、分割数nとしては、n=3・k+2(ただし、kは正の整数)とすることがより好ましい。これにより、三相交流電力を用いる電源にトルクリップルが生じるのを効果的に抑制できる。
【0129】
また、本実施形態及び変形例では、電動機10、50を例に説明した。しかしながら、回転電機は、回転されることで三相交流電力を発生する発電機であってもよい。回転電機として発電機を適用することで、発電機の出力密度を向上できる。
【0130】
さらに、本実施形態及び変形例では、電動機10、50を例に説明した。しかしながら、回転電機は、車両において力行モードでは駆動源として動作し、減速モード(回生モード)では回生用発電機として動作するように用いることもできる。この場合、力行モードと回生モードの切換りにおいて電流の向きが逆転しても、電機子に蓄積される磁気エネルギーを抑制(小さく)できる。このため、回転電機では、電流切換り時に発生する誘導電圧を低くできるので、回転電機を駆動するための駆動回路を回転電機が損傷させてしまうのを抑制できる。しかも、回転電機は、車両においてレスポンスの良好な運転特性を提供できる。
【0131】
日本国特許出願2019-171621の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願及びその技術規格には、個々の文献、特許出願及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記載された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。