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特許7601398てんかん治療用又は自閉症スペクトラム障害治療用外用剤
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  • 特許-てんかん治療用又は自閉症スペクトラム障害治療用外用剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】てんかん治療用又は自閉症スペクトラム障害治療用外用剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/436 20060101AFI20241210BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20241210BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20241210BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20241210BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20241210BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
A61K31/436
A61K47/10
A61K9/06
A61P25/00
A61P25/08
A61P25/22
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021552347
(86)(22)【出願日】2020-10-07
(86)【国際出願番号】 JP2020037986
(87)【国際公開番号】W WO2021075328
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2023-10-02
(31)【優先権主張番号】P 2019189091
(32)【優先日】2019-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100163544
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 緑
(72)【発明者】
【氏名】金田 眞理
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/105521(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/152519(WO,A1)
【文献】特表2011-526889(JP,A)
【文献】FRENCH, J. A. et al.,"Adjunctive everolimus therapy for treatment-resistant focal-onset seizures associated with tuberous sclerosis (EXIST-3): a phase 3, randomised, double-blind, placebo-controlled study",Lancet,2016年,Vol.388,p.2153-2163
【文献】KRUEGER, D. A. et al.,"Everolimus Treatment of Refractory Epilepsy in Tuberous Sclerosis Complex",ANNALS of Neurology,2013年,Vol.74, No.5,p.679-687
【文献】CARDAMONE, M. et al.,"Mammalian Target of Rapamycin Inhibitors for Intractable Epilepsy and Subependymal Giant Cell Astrocytomas in Tuberous Sclerosis Complex",THE JOURNAL OF PEDIATRICS,2014年,Vol.164, No.5,p.1195-1200
【文献】SATO, A. et al.,"Rapamycin reverses impaired social interaction in mouse models of tuberous sclerosis complex",NATURE COMMUNICATIONS,2012年,3: 1292,p.1-9
【文献】ISHII, R. et al.,"Everolimus improves behavioral deficits in a patient with autism associated with tuberous sclerosis: a case report",Neuropsychiatric Electrophysiology,2015年,1: 6,p.1-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
47/00-47/69
9/00-9/72
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロリムス、エベロリムス、テムシロリムス、リダフォロリムス及びゾタロリムスからなる群より選択される少なくとも1つを有効成分として含有するゲル剤であり、てんかん、自閉症スペクトラム障害又は不安障害治療用外用剤。
【請求項2】
頭部投与用である、請求項に記載の外用剤。
【請求項3】
エタノールを含有する、請求項1又は2に記載の外用剤。
【請求項4】
てんかん治療用である、請求項1~3のいずれか1に記載の外用剤。
【請求項5】
前記てんかんが、結節性硬化症に伴うてんかんである、請求項に記載の外用剤。
【請求項6】
閉症スペクトラム障害治療用である、請求項1~3のいずれか1に記載の外用剤。
【請求項7】
前記自閉症スペクトラム障害が自閉症である、請求項6に記載の外用剤。
【請求項8】
前記自閉症スペクトラム障害が自閉症スペクトラム障害における対人相互関係の構築障害及び/又は固執やこだわりである、請求項6に記載の外用剤。
【請求項9】
前記自閉症スペクトラム障害が結節性硬化症に伴う自閉症スペクトラム障害である、請求項6に記載の外用剤。
【請求項10】
安障害治療用である、請求項1~3のいずれか1に記載の外用剤。
【請求項11】
前記不安障害が全般的不安障害である、請求項10に記載の外用剤。
【請求項12】
前記不安障害が結節性硬化症に伴う不安障害である、請求項10に記載の外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、てんかんの治療、自閉症スペクトラム障害の治療、及び不安障害の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者等は、シロリムス(ラパマイシン)を含む外用剤を使用することにより結節性硬化症に伴う皮膚病変の治療が可能であることを見出し医薬品として開発した(特許文献1)。
【0003】
てんかんは脳内の神経細胞の過剰な電気的興奮に伴って、意識障害やけいれん等を発作的に起こす慢性的な脳の病気である。シロリムス又はエベロリムスの経口投与がてんかんに有効である可能性が報告されている(非特許文献1~3)が、抗てんかん薬は継続して投与する必要があることより、より安全な薬剤が求められる。また、良好なアドヒアランスを保ち、継続するためには投与が容易であることも求められる。
【0004】
自閉症スペクトラム障害は、「広汎性発達障害」とほぼ同じ概念を指すものであり、自閉症、アスペルガー症候群等が含まれる。マウスの腹腔内投与の実験によりシロリムスが自閉症を回復させる可能性が示唆されている(非特許文献4)。また、本発明者等はエベロリムスの内服で自閉症が改善されることを報告した(非特許文献5)。自閉症スペクトラム障害の薬も継続して投与する必要があることより、より安全な薬剤が求められる。また、良好なアドヒアランスを保ち、継続するためには投与が容易であることも求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2012/105521号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】French JA, et al., Lancet 2016 Oct 29;388(10056):2153-2163
【文献】Krueger DA, et al., Ann Neurol 2013;74:679-87
【文献】Cardamone M, et al., J Pediatr 2014; 164:1195-200
【文献】Sato A, et al., Nature Communications 2012; 3:1292
【文献】Ishii R, et al., Neuropsychiatric Electrophysiology 2015 1:6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安全性が高く投与が容易なてんかんを治療するための外用剤、自閉症スペクトラム障害を治療するための外用剤、及び/又は不安障害を治療するための外用剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、シロリムス又はシロリムス誘導体を外用することにより、てんかん、自閉症スペクトラム障害、及び/又は不安障害を治療することができることを見出し、本発明を完成するにいたった。すなわち本発明は以下の態様を含有する。
1.シロリムス及びシロリムス誘導体からなる群より選択される少なくとも1つを有効成分として含有するてんかん治療用外用剤。
2.前記シロリムス誘導体が、エベロリムス、テムシロリムス、リダフォロリムス及びゾタロリムスからなる群から選択される少なくとも1つである、前項1に記載の外用剤。
3.前記てんかんが、結節性硬化症に伴うてんかんである、前項1又は2に記載の外用剤。
4.頭部投与用である、前項1~3のいずれか1に記載の外用剤。
5.低級アルコールを含有する、請求項1~4のいずれか1に記載の外用剤。
6.シロリムス及びシロリムス誘導体からなる群より選択される少なくとも1つを有効成分として含有する自閉症スペクトラム障害治療用外用剤。
7.前記自閉症スペクトラム障害が自閉症である、前項6に記載の外用剤。
8.前記自閉症スペクトラム障害が自閉症スペクトラム障害における対人相互関係の構築障害、及び/又は固執やこだわりである、前項6に記載の外用剤。
9.前記自閉症スペクトラム障害が結節性硬化症に伴う自閉症スペクトラム障害である、前項6に記載の外用剤。
10.シロリムス及びシロリムス誘導体からなる群より選択される少なくとも1つを有効成分として含有する不安障害治療用外用剤。
11.前記不安障害が全般的不安障害である、前項10に記載の外用剤。
12.前記不安障害が結節性硬化症に伴う不安障害である、前項10に記載の外用剤。
13.シロリムス及びシロリムス誘導体からなる群より選択される少なくとも1つを外用することを含むてんかんを治療する方法。
14.頭部に外用する前項13の方法。
15.シロリムス及びシロリムス誘導体からなる群より選択される少なくとも1つを外用することを含む自閉症スペクトラム障害を治療する方法。
16.シロリムス及びシロリムス誘導体からなる群より選択される少なくとも1つを外用することを含む不安障害を治療する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の外用剤は、経皮又は経粘膜投与によりてんかんの症状を治療する効果を奏する。本発明の外用剤は、てんかん発作を抑制し発作の回数を減らすことができる。
【0010】
本発明の外用剤は、経皮又は経粘膜投与により自閉症スペクトラム障害を治療する効果を奏する。
【0011】
本発明の外用剤は、経皮又は経粘膜投与により不安障害を治療する効果を奏する。
【0012】
本発明の外用剤は、血中濃度を上昇させずに効果を奏することより他の臓器や器官への影響が少なく副作用が軽減された安全な薬剤である。また、皮膚や粘膜に塗布や貼付する方法は、簡易な投与方法であり長期継続投与に適した製剤である。また、経口投与が難しい患者や子供への投与を可能にする。経口困難な症状が発現している時、例えばてんかん発作時にも投与を可能にする製剤である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、シロリムスゲル又はプラセボを剃毛した額に塗布したマウスの写真である。
図2図2は、モデルマウスとコントロールマウス(正常マウス)に0.2重量%シロリムスゲル又はプラセボ(基剤のみ)を1日1回其々5mg(シロリムスとして10μg)塗布し、てんかん発作の回数を7日間計測した結果を示すグラフである(各群n=4)。Homoは結節性硬化症のモデルマウスであり、Ctはコントロールマウス(正常マウス)を示す。** P<0.01,*** P<0.001
図3図3は、モデルマウスとコントロールマウス(正常マウス)にシロリムス(3mg/kg/day)または生理食塩水を1日1回、7日間腹腔内投与した結果を示すグラフである(各群n=6)。Homoは結節性硬化症のモデルマウスであり、Ctはコントロールマウス(正常マウス)を示す。 P<0.05,** P<0.01
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は以下に説明した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲において種々の変更が可能である。異なる実施形態や実施例に、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0015】
本発明に係るてんかん治療用外用剤、自閉症スペクトラム障害治療用外用剤及び不安障害治療用外用剤は、シロリムス及びシロリムス誘導体からなる群より選択される少なくとも1つを有効成分として含有する。
【0016】
前記シロリムス誘導体は、特に限定されないが、例えばエベロリムス、テムシロリムス、リダフォロリムス及びゾタロリムスを挙げることができる。これらは、シロリムスの基本骨格とほぼ同じ基本骨格を有しており、シロリムスと同等の生理活性を有することが知られている。したがって、これらのシロリムス誘導体も、シロリムスと同様に、本発明の一実施形態に係る有効成分として用いることができる。
【0017】
シロリムスは、結節性硬化症に伴う皮膚病変等の外用治療薬としてすでに用いられており、臨床における安全性や吸収性が確認されている。よって、より好ましい有効成分としては、シロリムスである。
【0018】
本発明に係るてんかん治療用外用剤、自閉症スペクトラム障害治療用外用剤及び不安障害治療用外用剤は、当該疾患の患者に発症する様々な症状の治療に用いることができる。
【0019】
本明細書において「治療」には、例えば、以下の概念を含む。
(1)疾患に係る1つ以上の症状の発症を予防する。又は発症リスクを低減する。
(2)疾患に係る1つ以上の症状の再発を予防する、又は再発リスクを低減する。
(3)疾患に係る1つ以上の症状を緩和もしくは改善させ、又は症状を消失させる。
(4)疾患に係る1つ以上の症状の増悪を抑制、又は進行を抑制する。
(5)疾患に係る1つ以上の症状の増悪の進行速度を低減する。
【0020】
てんかんは、突然意識を失って反応がなくなる等のてんかん発作をくりかえし起こす病気であり、てんかん発作の症状は、脳のどの領域で電気信号の乱れや興奮が起こるかにより多彩である。本発明のてんかん治療用外用剤は、てんかん発作を抑制することができる。本発明の治療対象のてんかん発作には限定がなく、すべてのてんかん発作を含む。好ましくは、限局性皮質異形成タイプ2(focal cortical dysplasia type II) におけるてんかん発作である。また、結節性硬化症に伴うてんかん発作の抑制に好適な効果を奏する。
【0021】
本発明における自閉症スペクトラム障害は広汎性発達障害とほぼ同じである。本発明における自閉症スペクトラム障害には、自閉症、アスペルガー症候群、そのほかの広汎性発達障害等が含まれる。 自閉症スペクトラム障害は、相互的な対人関係の障害、コミュニケーションの障害、興味や行動の偏り(固執やこだわり等)の3つの症状(特徴)がある。本発明の外用剤は、好適には自閉症治療用である。また、本発明の外用剤は、好適には結節性硬化症に伴う自閉症スペクトラム障害治療用である。さらに好適には、本発明の外用剤は、結節性硬化症に伴う自閉症治療用である。また、本発明の外用剤は、自閉症スペクトラム障害における対人相互関係の構築障害、社会性の低下、コミュニケーションの障害、興味や行動の偏り、固執やこだわり 、繰り返し行動、及び/又は、感覚異常の改善のために好適に用いられることができる。本発明の外用剤は、好適には自閉症スペクトラム障害における対人相互関係の構築障害の治療用及び/又は固執やこだわりの治療用である。さらに好適には本発明の外用剤は、結節性硬化症に伴う対人相互関係の構築障害治療用及び/又は固執やこだわりの治療用である。
【0022】
本発明における不安障害には、全般性不安障害、一般的身体疾患による不安障害等が含まれる。本発明の外用剤は、好適には、全般性不安障害治療用又は一般的身体疾患に伴う不安障害治療用である。好適には、結節性硬化症に伴う不安障害の治療に用いることができる。
【0023】
本発明のてんかん治療用外用剤及び自閉症スペクトラム障害治療用外用剤は、頭部投与用外用剤であることが好ましい。本発明の外用剤の投与部位は頭部が好ましい。頭部には、顔面、頭頂部、後頭部、側頭部、鼻腔、口腔等が含まれるが、好適な投与部位としては顔面が挙げられる。顔面に塗布又は貼付する投与方法が好適である。好適には、本発明の外用剤は顔面投与用外用剤である。
【0024】
本発明の外用剤は、ヒト及び非ヒト哺乳動物に対して用いることができる。非ヒト哺乳動物としては、例えば、ヒトを除く哺乳類が挙げられる。ヒトを除く哺乳類としては、例えば、ウシ、イノシシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ等の偶蹄類、ウマ等の奇蹄類、マウス、ラット、ハムスター、リス等のげっ歯類、ウサギ等のウサギ目、イヌ、ネコ、フェレット等の食肉類等が挙げられる。また、これらの非ヒト動物としては、好適には、家畜又はコンパニオンアニマル(愛玩動物)であり得る。
【0025】
本発明の外用剤の投与経路は、経皮、経粘膜等である。したがって、本発明の外用剤は、ゲル剤、軟膏剤、クリーム剤、貼付剤、点鼻薬、坐剤、パップ剤、リニメント剤、ローション剤、吸入剤、及び噴霧剤等であり得る。ゲル剤は、軟膏剤等と比較して、皮膚組織に有効成分が吸収され易く、より好ましい剤形であるといえる。
【0026】
本発明の外用剤は外用で効果的にてんかん、自閉症スペクトラム障害、及び/又は、不安障害を治療できる。血中濃度をほとんど上昇させずに治療効果を奏することより他の臓器や器官への影響は少なく副作用が軽減された安全な製剤である。
【0027】
本発明の外用剤に含有される有効成分の量は、特に限定されない。有効成分の血液中への移行を抑えて全身性の副作用を抑え、かつ、治療効果を得るという観点から、以下の濃度が好適である。
【0028】
前記有効成分の濃度の下限は、外用剤の総重量を基準として、0.01重量%以上、0.02重量%以上、0.03重量%以上、0.04重量%以上、0.05重量%以上、0.06重量%以上、0.07重量%以上、0.08重量%以上、0.09重量%以上、0.1重量%以上であり得る。
【0029】
前記有効成分の濃度の上限は、外用剤の総重量を基準として、2.0重量%以下、1.5重量%以下、1.0重量%以下、0.9重量%以下、0.8重量%以下、0.7重量%以下、0.6重量%以下、0.5重量%以下、0.4重量%以下、0.3重量%以下、0.25重量%以下、0.2重量%以下であり得る。
【0030】
前記有効成分の濃度は、例えば、外用剤の総重量を基準として、0.01~2.0重量%が好ましく、0.03~1.0重量%がより好ましく、0.04~0.8重量%がより好ましく0.05~0.4重量%がより好ましい。
【0031】
生体における単位表面積あたりの、シロリムス又はシロリムス誘導体の1日あたりの投与量は特に限定されない。
【0032】
例えば、前記投与量の下限は、1日あたり0.0001mg/cm以上、0.0002mg/cm以上、0.0005mg/cm以上、0.001mg/cm以上、0.002mg/cm以上、0.003mg/cm以上であり得る。
【0033】
例えば、前記投与量の上限は、1日あたり2mg/cm以下、1mg/cm以下、0.5mg/cm以下、0.05mg/cm以下、0.04mg/cm以下、0.03mg/cm以下であり得る。
【0034】
前記投与量は、例えば、0.0001~2mg/cm、好ましくは0.0002~1mg/cm、より好ましくは0.0005~0.5mg/cm、より好ましくは0.001~0.05mg/cmである。上述した量のシロリムス又はシロリムス誘導体を、塗布等により1日に1回投与、又は複数回に分けて投与すればよい。換言すれば、本発明の外用剤は、上述した投与量を実現できるものであることが好ましい。
【0035】
外用剤の調製方法は、周知の方法に従って調製し得る。例えば、シロリムス又はシロリムス誘導体を含有している溶液をゲル化することにより、ゲル剤を調製し得る。軟膏基剤とシロリムス又はシロリムス誘導体とを混合することにより、軟膏剤を調製し得る。以下に、ゲル剤、軟膏剤及びクリーム剤について具体的に説明する。
【0036】
(A)ゲル剤
【0037】
シロリムス又はシロリムス誘導体を含有している溶液をゲル化する場合には、当該溶液を、ゲル化剤を用いてゲル化すればよい。ゲル化剤として、例えば、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、水酸化アルミニウム、ベントナイト等が挙げられる。
【0038】
カルボキシビニルポリマーの具体的な構成は、特に限定されず、カーボポール(登録商標)、ハイビスワコー(登録商標)、アクペック(登録商標)等を用いることができる。外用剤として塗布した場合の質感の良さの観点から、これらの中では、カーボポール(登録商標)934P NF又はカーボポール(登録商標)980が好ましい。
【0039】
例えば、カーボポール(登録商標)934P NF又はカーボポール(登録商標)980を用いる場合、まず、シロリムス又はシロリムス誘導体を含有している溶液にカーボポール(登録商標)934P NF又はカーボポール(登録商標)980を添加する。さらに、pH調整剤(例えばトリエタノールアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン)を添加することによって、前記溶液のpHを中性に調整する。これによって、前記溶液のゲル化を誘導できる。
【0040】
本発明の一実施形態に係るゲル剤は、好適にはアルコールを含有する。アルコールを含有することにより、ゲル剤に含まれる有効成分を効率よく皮膚組織に吸収させることができる。好ましいアルコールは低級アルコールであり、より好ましくは炭素数2-4のアルコールである。さらに好ましいアルコールの例としては、エタノール及びイソプロパノールを挙げることができる。有効成分をより効率よく安全に皮膚組織に吸収させるという観点から、エタノールが特に好ましい。
【0041】
前記アルコールの量は、特に限定されず、シロリムス又はシロリムス誘導体を十分に溶解することができる量であればよい。例えば、前記アルコールの重量はシロリムス又はシロリムス誘導体の重量の100~300倍であり得るし、120~250倍でもあり得る。外用剤の総重量を基準とした場合は、アルコール量は20重量%以上が好ましい。より好ましくは、30重量%以上、さらに好ましくは40重量%以上が好ましい。アルコール量が60重量%以下ならば、製剤からアルコールが過度に蒸発することがなく、安定した有効成分濃度の製剤を保存(保管)する事ができる。よって、アルコール量は、より好ましくは、50重量%前後(45~55%)である。
【0042】
有効成分が十分に溶解するアルコール量を含有することにより、有効成分をより効率よく皮膚組織に吸収させることができる。50重量%以下である限りは、アルコールの量が多いほど有効成分が十分に溶解するため、より効率よく皮膚組織に吸収させることができる。
【0043】
ゲル剤に含まれるゲル化剤の量は、特に限定されず、シロリムス又はシロリムス誘導体を含有している溶液がゲル化するために十分な量であればよい。ゲル剤に含まれるゲル化剤の量は、例えば、ゲル剤の総重量を基準として、1.0重量%以上であり得る。より具体的には、ゲル剤の総重量を基準として、1.1~20重量%、1.2~15重量%、1.3~10重量%、1.4~5重量%、又は、1.5~2.5重量%であり得る。
【0044】
ゲル剤に含まれるpH調整剤(中和剤)の量は、特に限定されず、溶媒及びゲル化剤の量に応じて適宜設定し得る。ゲル剤に含まれるpH調整剤の量は、例えば、ゲル剤の総重量を基準として、0.3~5.0重量%、0.4~2.5重量%、又は、0.5~1.0重量%であり得る。
【0045】
例えば、ゲル化を誘導する成分として、ゲル化剤(カーボポール(登録商標)934P NF又はカーボポール(登録商標)980等)と、pH調整剤(トリエタノールアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン等)とを用いる場合、ゲル化剤の量は、外用剤の総重量を基準として、例えば1.6重量%であり、pH調整剤の量は、外用剤の総重量を基準として、例えば0.4重量%、0.6重量%又は0.8重量%であり得る。もちろん、本発明は前記の比率に限定されない。
【0046】
ゲル剤には、上述した有効成分、溶媒(アルコール)、ゲル化剤及びpH調整剤(中和剤)以外の他の成分が含まれていてもよい。前記他の成分としては、例えば、水溶性高分子、水、及びシロリムス又はシロリムス誘導体以外の薬効成分が挙げられる。
【0047】
前記水溶性高分子としては、例えばポリエチレングリコール、デンプン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、及び、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0048】
ゲル剤に含まれる前記他の成分の量は、特に限定されないが、例えば、ゲル剤の総重量を基準として、50重量%以下、40重量%以下、30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下であり得る。
【0049】
当該ゲル剤を、毎日、又は、2~3日に1回塗布すればよい。毎日塗布が好ましい。毎日塗布する場合は、1日に1~3回の塗布が好ましく、さらに好ましくは1日に2~3回の塗布である。
【0050】
また、年齢、投与部位、皮膚の厚さ等により、好適な製剤中の濃度及び投与回数を調整することが好ましい。例えば、小さい子供の薄い皮膚や腋下等には、0.05~0.2重量%の濃度のゲル剤を1日に1~3回塗布できる。また、掌、足の裏等には、0.2~0.8重量%のゲル剤を1日に1~2回塗布できる。
【0051】
以下にゲル剤のさらに具体的な組成の一例を示すが、本発明は当該組成に限定されない。なお、下記構成であれば、より少ない量のシロリムス又はシロリムス誘導体によって所望の効果を得られるので、生体への悪影響を軽減できる。
【0052】
ゲル剤は、シロリムス又はシロリムス誘導体の他に、ゲル化剤(カーボポール(登録商標)934P NF、カーボポール(登録商標)980等)、水、アルコール(例えばエタノール又はイソプロパノール等であり、好ましくはエタノールである)、及び、中和剤(トリスヒドロキシメチルアミノメタン、トリエタノールアミン等)を含み得る。 このとき、シロリムス又はシロリムス誘導体、ゲル化剤、水、アルコール、及び中和剤の重量の比は例えば以下であり得る。
シロリムス又はシロリムス誘導体:ゲル化剤:水:アルコール:中和剤=(0.5~2):16:490:(450~500):6であり得る。 前記比は、(0.5~2):16:490:(480~490):6であり得るし、2:16:490:486:6でもあり得る。
【0053】
(B)軟膏剤
【0054】
軟膏剤の基剤としては、例えばロウ類(例えばサラシミツロウ、ラノリン、カルナバロウ、鯨ロウ等の天然ロウ、モンタンロウ等の鉱物ロウ、合成ロウ等)、パラフィン類(例えば流動パラフィン、固形パラフィン等)、ワセリン(例えば白色ワセリン、黄色ワセリン等)等が挙げられる。
【0055】
基剤の量は特に限定されないが、例えば、軟膏剤の総重量を基準として、10重量%以上であり得るし、20重量%以上でもあり得るし、30重量%以上でもあり得るし、40重量%以上でもあり得るし、50重量%以上でもあり得るし、60重量%以上でもあり得るし、70重量%以上でもあり得るし、80重量%以上でもあり得るし、90重量%以上でもあり得る。
【0056】
軟膏剤には、シロリムス又はシロリムス誘導体以外の他の成分が含まれ得る。当該他の成分及び含量としては、例えば、上述したゲル剤に記載の成分及び含量が挙げられる。
【0057】
軟膏剤は、シロリムス又はシロリムス誘導体の他に、炭酸プロピレン、固形パラフィン及び白色ワセリンを含み得る。また、軟膏剤は、炭酸プロピレン、固形パラフィン及び白色ワセリンに加えて、さらに流動パラフィンをも含み得る。また、軟膏剤は、炭酸プロピレン、固形パラフィン、白色ワセリン及び流動パラフィンに加えて、さらにサラシミツロウをも含み得る。
【0058】
このとき、シロリムス又はシロリムス誘導体、炭酸プロピレン、固形パラフィン、白色ワセリン、流動パラフィン及びサラシミツロウの重量の比は、シロリムス又はシロリムス誘導体:炭酸プロピレン:固形パラフィン:白色ワセリン:流動パラフィン:サラシミツロウ=(0.3~10):(50~59.4):(30~45):(895):(0~10):(0~5)であり得る。ただし、前記比において、有効成分、炭酸プロピレン、固形パラフィン及び流動パラフィンの合計は、105となる。
【0059】
さらに具体的には、前記比は、下記の比率1、比率2、比率3であり得る。
【0060】
(比率1)シロリムス又はシロリムス誘導体:炭酸プロピレン:固形パラフィン:白色ワセリン:流動パラフィン:サラシミツロウ=2:58:30:895:10:5
【0061】
(比率2)シロリムス又はシロリムス誘導体:炭酸プロピレン:固形パラフィン:白色ワセリン:流動パラフィン:サラシミツロウ=2:58:45:895:0:0
【0062】
(比率3)シロリムス又はシロリムス誘導体:炭酸プロピレン:固形パラフィン:白色ワセリン:流動パラフィン:サラシミツロウ=2:58:35:895:10:0
【0063】
上述した比率1と比率2とを比較した場合、比率1にて作製された外用剤の方が、比率2にて作製された外用剤よりも、透明度が高いとともに、外用剤の表面に存在する水の量を少なくすることができる。
【0064】
上述した比率1と比率3とを比較した場合、比率1にて作製された外用剤の方が、比率3にて作製された外用剤よりも、滑らかであるとともに、外用剤の表面に存在する水の量を少なくすることができる。
【0065】
当該軟膏剤を、毎日、又は、2~3日に1回塗布すればよい。毎日塗布が好ましい。毎日塗布する場合は、1日に1~3回の塗布が好ましく、さらに好ましくは1日に2~3回の塗布である。
【0066】
また、年齢、投与部位、皮膚の厚さ等により、好適な製剤中の濃度及び投与回数を調整することが好ましい。例えば小さい子供の薄い皮膚や腋下等には、0.05~0.2%の濃度の軟膏剤を1日に1~3回塗布できる。また、掌、足の裏等には、0.2~0.8%の軟膏剤を1日に1~2回塗布できる。
【0067】
軟膏剤は、周知の方法に従って製造し得る。以下に、製造方法の一例を説明する。
【0068】
例えば、ホモミキサー(例えば、プライミクス株式会社製)や万能ミキサー(例えば株式会社ダルトン製)を用いて調製することができる。基剤が室温において固体である場合、基剤を液体になるまで加熱し、液体状の基剤と、有効成分が溶解した溶液とを混合すればよい。より具体的には、室温において固体である各種成分(例えば、ロウ類、パラフィン類、ワセリン等)を融点以上(例えば70℃)に加熱して溶解し、当該溶解物へ、有効成分が溶解した溶液を添加し、撹拌する。その後、撹拌しながらこの混合物を室温付近にまで(例えば40℃)冷却し、軟膏剤を製造することができる。
【0069】
別の方法として、基剤を全て70℃~80℃で溶解し、自転公転ミキサー(株式会社シンキー製)を用い、攪拌モードで、800rpmにて30分間、次いで1000rpmにて5分間、次いで2000rpmにて1分間(15℃)攪拌する。その後、前記基剤に、有効成分を溶解した溶液を加え、更に1000rpmにて1分間、次いで2000rpmにて1分間(冷却なし)で攪拌することで、有効成分を含む非常に微細な粒子が分散した、より良質な軟膏剤を調製することができる。
【0070】
上述した他の成分を軟膏剤に含有させる場合、有効成分と他の成分とを所望の溶媒に溶解させた溶液を調製し、当該溶液に基剤を添加し、添加以後の工程は上述した方法にしたがって軟膏剤を調製すればよい。
【0071】
(C)クリーム剤
【0072】
クリーム剤はシロリムス又はシロリムス誘導体を含有する溶液とクリーム剤の基剤を混合することにより調製し得る。シロリムス又はシロリムス誘導体を溶解させる溶液としては、アルコールやエチレングリコールエーテル等が挙げられる。本発明におけるクリーム剤はシロリムス又はシロリムス誘導体の血中移行が少ないクリーム剤が好ましく、好適にはエチレングリコールエーテルを含有する。好ましいジエチレングリコールエーテルとしては、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルが挙げられる。ジエチレングリコールモノアルキルエーテルのアルキル基としては、好ましくはC~Cのアルキル基が挙げられる。好ましくは、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、およびこれらの混合物である。さらに好ましくは、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、及びこれらの混合物であり、最も好ましくは、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(2-(2-エトキシエトキシ)エタノール、TRANSCUTOL(登録商標)P)である。
【0073】
シロリムス又はシロリムス誘導体は、ジエチレングリコールエーテルに可溶性である。シロリムスは、ジエチレングリコールモノエチルエーテルに良く溶解し、2.02W/V%まで溶解可能である。
【0074】
シロリムス又はシロリムス誘導体は、ジエチレングリコールエーテルに溶解されてから製剤化することができる。ジエチレングリコールエーテルを用いた製剤はシロリムス又はシロリムス誘導体の皮膚浸透が補助され、皮膚組織内にそれら有効成分を保持することができる。ジエチレングリコールモノエチルエーテルを用いた製剤は、有効成分の皮膚浸透の補助力、皮膚組織内の保持力に特に優れている。
【0075】
クリーム剤に含まれるジエチレングリコールエーテルの量は、シロリムス又はシロリムス誘導体を製剤中で溶解できている量であればよい。外用剤の総重量を基準とすると、例えば、1~40重量%が好ましく、2~30重量%がより好ましく、5~25重量%がより好ましく、10~20%がより好ましい。
【0076】
クリーム剤の基剤には、油性成分、水性成分および界面活性剤が含まれる。さらにその他の添加剤を含んでいてもよい。
【0077】
前記油性成分としては、例えば、炭化水素類、脂肪酸エステル類、ロウ類、高級脂肪酸および高級アルコールが挙げられる。好ましくは、炭化水素類および高級アルコールである。
【0078】
前記炭化水素類としては、例えば、白色ワセリン、流動パラフィンが挙げられる。好ましくは白色ワセリンである。前記高級アルコールとしては、例えば、ステアリルアルコール、セタノール、ミリスチルアルコール、ラウリルアルコール、オレイルアルコールが挙げられる。好ましくは、ステアリルアルコールである。前記脂肪酸エステル類としては、例えば、ミリスチン酸イソプロピルが挙げられる。前記ロウ類としては、例えば、ミツロウ、ラノリンが挙げられる。前記高級脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸が挙げられる。
【0079】
前記油性成分の含量は、外用剤の総重量を基準として例えば、20~60%が好ましく、30~50%がさらに好ましい。
【0080】
クリーム剤に含まれる水性成分としては、例えば、水、多価アルコールおよび低級アルコールが挙げられる。好ましくは、水および多価アルコールである。
【0081】
前記多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコールが挙げられる。好ましくは、プロピレングリコールである。前記低級アルコールとしては、例えば、エタノール、イソプロパノールが挙げられる。
【0082】
クリーム剤に含まれる水を含む水性成分の含量は、外用剤の総重量を基準として例えば、20~60%が好ましく、30~50%がさらに好ましい。
【0083】
前記界面活性剤(乳化剤)は特に限定されるものではなく、当業者に周知の界面活性剤(乳化剤)を用いることができる。好ましい界面活性剤(乳化剤)として、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、モノステアリン酸グリセリンを挙げることができる。前記界面活性剤の含量は、外用剤の総重量を基準として例えば、1~10%が好ましく、2~8%がさらに好ましい。
【0084】
その他の添加剤としては、保存剤、抗酸化剤、pH調整剤等を挙げることができる。また、シロリムス又はシロリムス誘導体とは異なる薬効成分を含有してもよい。
【0085】
クリーム剤の好ましい組成は、外用剤の総重量を基準として例えば以下のような組成が挙げられる。シロリムス又はシロリムス誘導体0.01~2.0重量%、ジエチレングリコールエーテル1~40重量%、炭化水素類5~40重量%、高級アルコール5~30重量%、多価アルコール1~30重量%、水10~50重量%
【0086】
クリーム剤のより好ましい組成は、外用剤の総重量を基準として例えば以下のような組成が挙げられる。シロリムス又はシロリムス誘導体0.04~0.8重量%、ジエチレングリコールエーテル2~30重量%、炭化水素類10~30重量%、高級アルコール10~25重量%、多価アルコール3~20重量%、水20~40重量%
【0087】
クリーム剤の投与は、例えば、毎日、又は、2~3日に1回患部に塗布する。毎日の塗布が好ましく、1日に1~3回の塗布が好ましく、1日に2~3回の塗布がさらに好ましい。
【0088】
また、年齢、投与部位、皮膚の厚さ等により、外用剤中の有効成分の濃度および投与回数を調整することが好ましい。例えば小さい子供の薄い皮膚や腋下等には、0.05~0.2%の濃度の外用剤を1日に1~3回塗布する態様が挙げられる。また、掌、足の裏等には、0.2~0.8%の外用剤を1日に1~2回塗布する態様が挙げられる。
【0089】
クリーム剤は、周知の方法に従って製造しうる。例えば、基剤の原料を順にすべて70℃~80℃で溶解混合し、乳化した後、混合しながら冷却したものに有効成分の溶解液を混和することで有効成分を含む良質なクリーム剤を調整することができる。尚、乳化、混合には自転公転ミキサー(株式会社シンキー製)を用いると効率がよい。
【0090】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0091】
〔製造例:シロリムス含有ゲル剤の調製〕
【0092】
様々な濃度のシロリムスを含有するゲル剤を調製した。具体的な方法としては、シロリムスをエタノールに添加して溶解した後、さらに注射用水を添加及び混合して混合溶液を調製した。前記混合溶液にカーボポール(登録商標)934P NFを添加及び混合して、均一な懸濁液を調製した。前記懸濁液に中和剤であるトリスヒドロキシメチルアミノメタンを添加及び混合して、ゲル剤を調製した。
【0093】
なお、前記ゲル1gにおけるシロリムス以外の成分は、カーボポール(登録商標)934P NF16mg、水490mg、エタノール480~490mg、及び、トリスヒドロキシメチルアミノメタン6mgであった。
【0094】
より具体的には、以下の製造例1~5の組成により、ゲル剤を調製した。
【0095】
製造例1:0.4重量%のシロリムスを含有するゲル(全量100g)
シロリムス 0.4g
エタノール 48.4g
注射用水 49g
カーボポール(登録商標)934P NF 1.6g
トリスヒドロキシメチルアミノメタン 0.6g
【0096】
製造例2:0.8重量%のシロリムスを含有するゲル(全量100g)
シロリムス 0.8g
エタノール 48g
注射用水 49g
カーボポール(登録商標)934P NF 1.6g
トリスヒドロキシメチルアミノメタン 0.6g
【0097】
製造例3:0.2重量%のシロリムスを含有するゲル(全量100g)
シロリムス 0.2g
エタノール 48.6g
注射用水 49g
カーボポール(登録商標)934P NF 1.6g
トリスヒドロキシメチルアミノメタン 0.6g
【0098】
製造例4~5:製造例1~3と同様に0.05%のシロリムスを含有するゲル(製造例4)、0.1%のシロリムスを含有するゲル(製造例5)を製造した。
【0099】
〔製造例:シロリムス含有クリーム剤の調製〕
【0100】
製造例6:0.2重量%のシロリムスを含有するクリーム剤(全量100g)
シロリムス粉末は、Fujian Kerui Pharmaceutical Co., Ltdより入手した。シロリムス粉末をジエチレングリコールモノエチルエーテル(TRANSCUTOL(登録商標)P)に添加して溶解した後、予め混合し調製した基剤(水中油型(O/W)乳剤)と混合しクリーム剤を得た。具体的な組成を下記に示す。
シロリムス 0.2g
ジエチレングリコールモノエチルエーテル 10g
親水クリーム 89.8g
白色ワセリン 22.45g
ステアリルアルコール 17.96g:
プロピレングリコール 10.78g
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60 3.59g
モノステアリン酸グリセリン 0.90g
パラ安息香酸メチル 0.09g
パラ安息香酸プロピル 0.09g
精製水 33.94g
【0101】
[症例]
【0102】
症例1
9歳 女性(結節性硬化症、難治性てんかんを有する)
てんかん発作は8~10回/月の頻度でおこっていた。顔面の血管線維腫に対して、1日2回製造例3で調製した0.2重量%シロリムスゲルの外用を開始したところ、外用開始からてんかん発作が減り、3ヶ月の外用期間中は発作が3度ほどしかおこらなかった。その後外用を中止したところ、発作はほぼもとの頻度に戻っていた。再度1日2回ラパリムスゲル(登録商標)0.2%(0.2重量%シロリムスを含有するゲル剤)の外用を開始したところ、外用開始2ヶ月は発作が一度もおこらなかった。その後外用を中止したところ、発作はほぼもとの頻度に戻っていた。6ヶ月後に再度ラパリムス(登録商標)ゲル0.2%外用を開始したところ、発作は月に4回程度で落ち着いている。最初の外用時にシロリムスの血中濃度を測定した(AP13200 LC-MS/MSシステム・シエックス、測定限界は1.0ng/ml)ところ、測定限界値以下であった。なお、シロリムスゲルの外用量は2ヶ月に10g程で、1日のシロリムスゲルの使用量は約0.17g(シロリムスとして0.3mg)であった。なお、ラパリムスゲル(登録商標)0.2%は本発明者がノーベルファーマ株式会社と共同で開発したシロリムス含有ゲル剤であり、ゲル中に0.2%シロリムスを含有し、添加剤としてカルボキシビニルポリマー、エタノール、トリエタノールアミンを含有する。
【0103】
症例2
13歳 男性(結節性硬化症、自閉症、発達障害、難治性てんかんを有する)
顔面に1回0.1gまでのラパリムス(登録商標)ゲル0.2%を1日2回外用を開始したところ、ほぼ毎日おこっていたてんかん発作の頻度が、半分程に減った。また、固執傾向が改善された。
【0104】
症例3
28歳 男性 (結節性硬化症、発達障害あり)
発達障害が著明(自閉傾向あり)であるが、顔面に1回0.15gまでのラパリムス(登録商標)ゲル0.2%を1日2回外用を開始したところ、外用をはじめてから落ち着いてにこやかになり、他人に対する攻撃性が減少した。また独語も減った。
【0105】
症例4
24歳 女性(結節性硬化症、発達障害、てんかん、統合失調症)
顔面に1回0.15g程のラパリムス(登録商標)ゲル0.2%を1日2回外用してから、てんかん発作の回数が減った。また、今まで様々な内服薬を使用してもなくならなかった幻聴、幻覚が消失した。イライラ感が減って、おとなしくにこやかになり、明るくなってコンタクトがとりやすくなった。更に今まで閉じこもりがちであったが、1人で外出するようになった。
【0106】
症例5
11 歳 男性 (結節性硬化症、発達障害)
発達障害が顕著で自閉症の症状が強かったが、外用を始めてから、固執傾向が改善され、繰り返し行動も改善された。
【0107】
[モデルマウスにおける薬理試験]
【0108】
試験例1 てんかん発作の回数
モデルマウスとコントロールマウス
結節性硬化症のモデルマウス(C57BL/6J,Tsc2flox/floxMitf::Cre)は本発明者等が作製したモデルマウスであり、メラノサイト特異的なMitfプロモーター依存的にCreリコンビナーゼを発現し、Tsc2のexon3-5を除いた、コンディショナルノックアウトマウスである(J Invest Dermatol. 2018; 138(3): 669-78)。このモデルマウスは、てんかん、行動異常及び白斑を呈する結節性硬化症のモデルマウスであり、てんかんのモデルマウスとしても使用可能である(PLoS One. 2020; 15(1))。コントロールとして、C57BL/6J,Tsc2+/floxMitf::Creのマウスを用いた。該コントロールマウスはてんかん等の異常を呈することなくC57BL/6Jと区別できないことから、以下、正常マウスという。
【0109】
麻酔下で両群のマウスの額の中央部を剃毛した。製造例3で調製した0.2重量%シロリムスゲル又はプラセボ(基剤のみ)を剃毛した額に1日1回其々5mg(シロリムスとして10μg)塗布した(図1)。シロリムスゲル又はプラセボが塗布されたマウスについて、てんかん発作の回数を7日間計測した。てんかん発作の回数は1日あたり3回のハンドリング により調べた。ハンドリングは、マウスを別の空ケージに移し2分間、腹腔内注射をするときのように保定をする、しっぽをつかんで逆さにするなどの処理であり、発作を起こした場合は発作回数1とした。処理前に発作を起こした場合も発作回数1とした。結果を表1に示す。シロリムスゲルの塗布により発作の回数が減少した。
【0110】
【表1】
【0111】
試験例2 オープンフィールド試験
試験例1と同様にシロリムスゲル又はプラセボが塗布されたマウスについて、塗布開始から8日目(Day8)にオープンフィールド試験を行った。円形のオープンフィールド(直径50cm)の中に、マウスを入れ、15分間、中央区域とその他の区域の滞在時間、移動速度、移動距離を測定した。中央区域は中央の直径30cmの区域とした。結果を表2に示す。Border/Centerは中央区域外滞在累積時間と中央区域滞在累積時間の比であり、中央区域外(フィールドの端の区域: Border)に滞在する時間の割合を示し、この値が高いと不安傾向が強いことを示す。試験結果より、シロリムスゲル塗布により、不安感が弱くなり、移動速度及び移動距離も抑制されたことが示された。
【0112】
【表2】
【0113】
試験例3 シロリムスの血中濃度
【0114】
ヘアレスマウス(HRマウス、8週齢、雄)の背部18cm(6×3cm)に製造例4で調製した0.05%シロリムスゲル、 製造例3で調製した0.2%シロリムスゲル、製造例1で調製した0.4%のシロリムスゲルを125mg塗布して2時間後に採血し血中濃度を測定した(AP13200 LC-MS/MSシステム・シエックス、測定限界は0.1ng/ml)。各マウスの血中濃度を表3に示す。大量のシロリムスゲルを塗布したにもかかわらず、血中濃度はほとんど上昇していなかった。
【0115】
【表3】
【0116】
試験例4 てんかん発作の回数(外用)
試験例1と同様にモデルマウスと正常マウスに0.2重量%シロリムスゲル又はプラセボ(基剤のみ)を1日1回其々5mg(シロリムスとして10μg)塗布した。シロリムスゲル又はプラセボが塗布されたマウスについて、てんかん発作の回数を試験例1と同様の方法で7日間計測した(各群n=4)。7日間の発作の回数を図2に示す。シロリムスの塗布により発作の回数が減少した。
【0117】
試験例5 てんかん発作の回数(腹腔内投与)
試験例1と同様のモデルマウスと正常マウスにシロリムス(3mg/kg/day)またはプラセボ(生理食塩水)を1日1回、7日間腹腔内投与した。1日あたり5回、2分間マウスを観察して発作の回数を測定した(各群n=6)。結果を図3に示す。シロリムスの腹腔内投与により発作の回数が減少した。シロリムスを腹腔内投与した群の7日間の発作の回数は約5回であり、0.2重量%シロリムスゲルを額に1日1回5mg(シロリムスとして10μg)投与した場合の発作の回数とほぼ同等であった。
【0118】
試験例6 7日間連続投与後の血中濃度
マウス(C57BL/6J、体重20g)にシロリムス(3mg/kg/day)又はプラセボ(生理食塩水)を1日1回、7日間腹腔内投与した。7日目の投与の24時間後に各マウスから採血し血中のシロリムス濃度を測定した。結果を表4に示す。
【0119】
【表4】
【0120】
ICRマウス(体重約37g)を入手した(日本エスエルシ―)。製造例3で調製した0.2重量%シロリムスゲル又はプラセボ(基剤のみ)を剃毛した額に1日1回其々5mg(シロリムスとして10μg)塗布した。7日目の投与の24時間後に各マウスから採血し、血中のシロリムス濃度を測定した。結果を表5に示す。
【0121】
【表5】
【0122】
血中濃度の測定は試験例3と同様の方法により行った。皮膚への外用による血中濃度は腹腔内投与による全身投与の血中濃度と比較すると平均値で26分の1であった。発作の抑制効果はほぼ同一であるが、外用により血中濃度が低くに抑えられていることが明らかになった。全身投与によるてんかん発作を抑制する作用メカニズムと外用によるてんかん発作抑制メカニズムは異なる可能性がある。
【0123】
試験例7 3週間連続投与
6週齢~8週齢の試験例1と同様のモデルマウスと正常マウスを使用して、製造例3で調製した0.2重量%シロリムスゲルおよびプラセボ(基剤のみ)を試験例1と同じ方法により3週間塗布した。投与期間中の各週における1日当たりの平均発作回数を表6に示す。発作回数の測定方法は試験例1と同様に行った。0.2重量%シロリムスゲル処理群では、1週目の4日目頃からにてんかん発作数が減少し、2週目および3週目では、1週間の発作数の平均が1以下(1日あたり0.143)になった。
【0124】
【表6】
【0125】
試験例8 外用停止による発作の再発
試験例1と同様のモデルマウス(7週齢、体重21.55g)と正常マウスを使用して、0.2重量%シロリムスゲルを試験例1と同じ方法により4日間(Day1~4)塗布した。5日目(Day5)から塗布を停止し発作の再発を観察した。発作の測定方法は試験例1と同様に行った。18日目(Day18)に再発し1回の発作が観察された。Day18以降毎日発作が観察された。Day1及びDay4からDay22までの発作の回数を表6に示す。
【0126】
【表7】
【0127】
以上の結果より、本発明の外用剤は、血中濃度をほとんど上昇させることなくてんかん、自閉症スペクトラム障害及び不安障害に治療効果を発揮することが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明の外用剤は、今後の医療に大いに貢献するものである。
図1
図2
図3