(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】シランカップリング剤で処理された複合銅部材
(51)【国際特許分類】
C23C 28/00 20060101AFI20241210BHJP
B32B 15/20 20060101ALI20241210BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20241210BHJP
C25D 7/06 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C23C28/00 C
B32B15/20
B32B15/08 J
C25D7/06 A
(21)【出願番号】P 2021567457
(86)(22)【出願日】2020-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2020047772
(87)【国際公開番号】W WO2021132191
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2019236800
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】小鍛冶 快允
(72)【発明者】
【氏名】小畠 直貴
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 牧子
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/099094(WO,A1)
【文献】特開平08-309918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 28/00
B32B 15/20
B32B 15/08
C25D 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅部材の少なくとも一部の表面に針状の銅酸化物を含む層を有し、前記銅酸化物を含む層の上にニッケルの層を有し、さらに前記ニッケル層が形成された表面上にシランカップリング剤層を有する複合銅部材であって、前記シランカップリング剤層の付着量が7μg/dm
2以上900μg/dm
2以下(銅部材単位面積あたりのSi換算重量)であ
り、
前記シランカップリング剤層が形成された表面のRz(JIS B 0601:2001(国際基準ISO4287-1997準拠)に定められた方法により算出したもの)が0.2μm以上1.5μm以下であり、
前記ニッケル層の厚みが0.5mg/dm
2
以上10.0mg/dm
2
以下(銅部材単位面積あたりのニッケル重量)である複合銅部材。
【請求項2】
銅部材の少なくとも一部の表面に針状の銅酸化物を含む層を有し、前記銅酸化物を含む層の上にニッケルの層を有し、さらに前記ニッケル層が形成された表面上にシランカップリング剤層を有する複合銅部材であって、前記シランカップリング剤層の付着量が7μg/dm
2
以上900μg/dm
2
以下(銅部材単位面積あたりのSi換算重量)であり、
前記シランカップリング剤層が形成された表面のBET表面積比(BET法により算出された、シランカップリング剤層が形成された表面の表面積/シランカップリング剤層が形成された銅部材の平面視野面積)が、3以上20以下であり、
前記ニッケル層の厚みが0.5mg/dm
2
以上10.0mg/dm
2
以下(銅部材単位面積あたりのニッケル重量)である複合銅部材。
【請求項3】
銅部材の少なくとも一部の表面に針状の銅酸化物を含む層を有し、前記銅酸化物を含む層の上にニッケルの層を有し、さらに前記ニッケル層が形成された表面上にシランカップリング剤層を有する複合銅部材であって、前記シランカップリング剤層の付着量が7μg/dm
2
以上900μg/dm
2
以下(銅部材単位面積あたりのSi換算重量)であり、
複合銅部材のシランカップリング剤層に対して、特定条件で樹脂基材を熱圧着させた後、90°方向に50mm/minの速度で樹脂基材から複合銅部材を剥離した際のピール強度が0.4kgf/cm以上である複合銅部材。
【請求項4】
前記シランカップリング剤層が形成された表面のBET表面積比(BET法により算出された、シランカップリング剤層が形成された表面の表面積/シランカップリング剤層が形成された銅部材の平面視野面積)が、3以上20以下である、
請求項1又は3に記載の複合銅部材。
【請求項5】
前記ニッケル層の厚みが0.5mg/dm
2以上25mg/dm
2以下(銅部材単位面積あたりのニッケル重量)である、
請求項3又は4に記載の複合銅部材。
【請求項6】
前記シランカップリング剤層が形成された表面のRa
(JIS B 0601:2001(国際基準ISO4287-1997準拠)に定められた方法により算出したもの)が0.02μm以上0.17μm以下である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の複合銅部材。
【請求項7】
前記シランカップリング剤層が形成された表面のRz
(JIS B 0601:2001(国際基準ISO4287-1997準拠)に定められた方法により算出したもの)が0.2μm以上1.5μm以下である、
請求項2~6のいずれか一項に記載の複合銅部材。
【請求項8】
前記シランカップリング剤層が形成された表面の、BET表面積比/Rz
(JIS B 0601:2001(国際基準ISO4287-1997準拠)に定められた方法により算出したもの)の値が4μm
-1以上である、
請求項1~7のいずれか一項に記載の複合銅部材。
【請求項9】
前記シランカップリング剤が、以下の式:
Y―Si(OR)
3
(Yは
ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基、3-メルカプトプロピル基、3-アミノプロピル基、3-メルカプトプロピル基、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、3-メタクリロキシプロピル基、3-イソシアネートプロピル基、3-ウレイドプロピル基及び3-アクリロキシプロピル基からなる群から選択され;
-ORはアルコキシ基である)で表される化合物を含む、
請求項1~8のいずれか一項に記載の複合銅部材。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の複合銅部材の、前記シランカップリング剤層の上に、樹脂基材が積層された積層体。
【請求項11】
請求項
10に記載の積層体を含む、プリント配線板。
【請求項12】
前記銅部材が銅箔である、
請求項1~9のいずれか一項に記載の複合銅部材。
【請求項13】
請求項
12に記載の複合銅部材を含む、負極集電体。
【請求項14】
シランカップリング剤で処理された複合銅部材の製造方法であって、
酸化処理により、銅部材の少なくとも一部の表面に、厚さが平均400nm以下で、
針状の銅酸化物層を形成する第一の工程と、
前記銅酸化物層の上に、電解めっき処理により
、厚みが0.5mg/dm
2
以上10.0mg/dm
2
以下(銅部材単位面積あたりのニッケル重量)であるニッケル層を形成する第二の工程と、
前記ニッケル層が形成された表面に、7μg/dm
2以上900μg/dm
2以下(銅部材単位面積あたりのSi換算重量)のシランカップリング剤をコートする第三の工程を含む、
製造方法。
【請求項15】
シランカップリング剤で処理された複合銅部材の製造方法であって、
酸化処理により、銅部材の少なくとも一部の表面に、厚さが平均400nm以下で、針状の銅酸化物層を形成する第一の工程と、
前記銅酸化物層の上に、電解めっき処理によりニッケル層を形成する第二の工程と、
前記ニッケル層が形成された表面に、7μg/dm
2
以上900μg/dm
2
以下(銅部材単位面積あたりのSi換算重量)のシランカップリング剤をコートする第三の工程を含み、
複合銅部材のシランカップリング剤で処理された面に対して、特定条件で樹脂基材を熱圧着させた後、90°方向に50mm/minの速度で樹脂基材から複合銅部材を剥離した際のピール強度が0.4kgf/cm以上である、
製造方法。
【請求項16】
第一の工程後の前記銅酸化物層が形成された表面のRa
(JIS B 0601:2001(国際基準ISO4287-1997準拠)に定められた方法により算出したもの)が0.035以上0.15以下である、
請求項14又は15に記載の製造方法。
【請求項17】
第一の工程後の前記銅酸化物層が形成された表面のRz
(JIS B 0601:2001(国際基準ISO4287-1997準拠)に定められた方法により算出したもの)が0.25以上1.450以下である、
請求項14~16のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項18】
第二の工程における電解めっき処理の電流密度が5A/dm
2以下であることを特徴とする
請求項14~17のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項19】
前記ニッケル層の厚みが0.5mg/dm
2以上25mg/dm
2以下(銅部材単位面積あたりのニッケル重量)である、
請求項15~18のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項20】
前記シランカップリング剤が、以下の式:
X―Si(OR)
3
(Xは
ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基、3-メルカプトプロピル基、3-アミノプロピル基、3-メルカプトプロピル基、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、ビニル基、3-メタクリロキシプロピル基、3-イソシアネートプロピル基、3-ウレイドプロピル基及び3-アクリロキシプロピル基からなる群から選択され;
-ORはアルコキシ基である)で表される化合物を含む、
請求項14~19のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項21】
第三の工程後のシランカップリング剤がコートされた表面のRa
(JIS B 0601:2001(国際基準ISO4287-1997準拠)に定められた方法により算出したもの)が0.02μm以上0.17μm以下である、
請求項14~20のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項22】
第三の工程後のシランカップリング剤がコートされた表面のRz
(JIS B 0601:2001(国際基準ISO4287-1997準拠)に定められた方法により算出したもの)が0.2μm以上1.5μm以下である、
請求項14~21のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項23】
第三の工程後のシランカップリング剤がコートされた表面のBET表面積比が、3以上20以下である、
請求項14~22のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項24】
第三の工程後のシランカップリング剤がコートされた表面の、BET表面積比/Rz
(JIS B 0601:2001(国際基準ISO4287-1997準拠)に定められた方法により算出したもの)の値が4μm
-1以上である、
請求項14~23のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項25】
請求項14~24のいずれか一項に記載の製造方法で作製されたシランカップリング剤で処理された銅部材に、樹脂基材を熱圧着する工程を含む、積層体の製造方法。
【請求項26】
前記銅部材が銅箔である、
請求項14~24のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項27】
請求項
26に記載の製造方法で作製されたシランカップリング剤で処理された複合銅部材に、導電性活物質を塗布し担持させる工程を含む、二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシランカップリング剤で処理された複合銅部材に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板に使用される銅箔は、樹脂基材との密着性が要求される。この密着性を向上させるため、エッチングなどで銅箔の表面を粗面化処理し、いわゆるアンカー効果による機械的接着力を上げる方法が用いられてきた。一方、プリント配線板の高密度化や高周波帯域での伝送損失の観点から、銅箔表面の平坦化が要求されるようになってきた。それらの相反する要求を満たすため、酸化工程と還元工程を行うなどの銅表面処理方法が開発されている(国際公開2014/126193号公報)。この方法では、銅箔をプリコンディショニングし、酸化剤を含有する薬液に浸漬することで銅箔表面を酸化させて酸化銅の凹凸を形成した後、還元剤を含有する薬液に浸漬し、酸化銅を還元することで、表面の凹凸を調整して表面の粗さを整える。その他にも、酸化・還元を利用した銅箔の処理における密着性の改善方法として、酸化工程において表面活性分子を添加する方法(特表2013-534054号公報)や、還元工程の後にアミノチアゾール系化合物等を用いて銅箔の表面に保護皮膜を形成する方法(特開平8-97559号公報)が開発されている。
【0003】
さらに、銅箔と絶縁性樹脂基材の密着性を増すため、化学的接着力を増すためのシランカップリング剤処理なども行われていた。
シランカップリング剤は、以下の化学構造式:
X-Si(OR)3
(X:ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基などの反応性有機官能基であり、樹脂基材中の有機樹脂と化学結合する;
-ORはメトキシ基、エトキシ基、ジアルコキシ基、トリアルコキシ基などのアルコキシ基であり、加水分解して、シラノール基(SiOH)を生成し、銅箔などの無機材と結合する)
で表される。
【0004】
粗面化処理された銅箔の場合、その粗面化の仕方により最適なシランカップリング剤の量が違うことが知られている。
特許文献4には、シランカップリング剤は0.15~20.0mg/m2(Si換算)で付着していることが好ましく、0.15mg/m2未満の場合には、基材樹脂と表面処置銅箔との密着性を向上させることができない旨、記載されている。しかしながら、特許文献5には、シランカップリング剤は0.03~3.00mg/m2(Si換算)で付着していることが好ましいことが記載され、特許文献6には、粗化処理面に存在するシランカップリング剤の量がSi換算で0.05mg/m2以上1.5mg/m2未満であることが好ましいと記載されている。
シランカップリング剤の最適付着量は付着する表面の粗さだけでなく、銅箔表面に積層された金属の種類にも依存する。たとえば、国際公開2006/134868号公報には、スズめっき層とシランカップリング剤層の定着効率が優れている旨記載され、スズめっき層の上にシランカップリング剤を付着させているのに対して、特許6248231号公報では、銅粒子の電析により粗化処理を行った面(すなわち純銅)、又はその上にニッケル、亜鉛、クロムなどを電解めっきした面にシランカップリング剤を付着させており、国際公開2017/099094号公報では、モリブデン粒子の電析により粗化処理を行った面に、ニッケルめっきを施した後、シランカップリング剤処理を行っている。
【0005】
本願発明者らも、酸化処理した銅箔に電解めっきによりニッケルをめっきした、複合銅箔を開発していたが、その表面粗さも組成も、従来の銅箔とは異なっており、最適なシランカップリング剤の付着量は不明であった(国際公開2019/093494号公報)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、シランカップリング剤で処理された複合銅箔を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは鋭意研究の結果、酸化処理により針状の銅酸化物を析出させ、粗面化した銅部材に、電解めっきを行いその粗面化した表面にニッケルの層を形成し、ニッケル層が形成された面をシランカップリング剤でコートすることより、樹脂基材に対して、機械的接着力だけでなく化学的接着力のすぐれた複合銅部材を作製することに成功した。
【0008】
本発明は以下の態様を含む:
[1] 銅部材の少なくとも一部の表面に針状の銅酸化物を含む層を有し、前記銅酸化物を含む層の上にニッケルの層を有し、さらに前記ニッケル層が形成された表面上にシランカップリング剤層を有する複合銅部材であって、前記シランカップリング剤層の付着量が7μg/dm2以上900μg/dm2以下(銅部材単位面積あたりのSi換算重量)である複合銅部材。
[2] 前記シランカップリング剤層が形成された表面のBET表面積比(BET法により算出された、シランカップリング剤層が形成された表面の表面積/シランカップリング剤層が形成された銅部材の平面視野面積)が、3以上20以下である、[1]に記載の複合銅部材。
[3] 前記ニッケル層の厚みが0.5mg/dm2以上25mg/dm2以下(銅部材単位面積あたりのニッケル重量)である、[1]又は[2]に記載の複合銅部材。
[4] 前記シランカップリング剤層が形成された表面のRaが0.02μm以上0.17μm以下である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の複合銅部材。
[5] 前記シランカップリング剤層が形成された表面のRzが0.2μm以上1.5μm以下である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の複合銅部材。
[6] 前記シランカップリング剤層が形成された表面の、BET表面積比/Rzの値が4μm-1以上である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の複合銅部材。
[7] 前記シランカップリング剤が、以下の式:
Y―Si(OR)3
(Yは
ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基、3-メルカプトプロピル基、3-アミノプロピル基、3-メルカプトプロピル基、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、3-メタクリロキシプロピル基、3-イソシアネートプロピル基、3-ウレイドプロピル基及び3-アクリロキシプロピル基からなる群から選択され;
-ORはアルコキシ基である)で表される化合物を含む、[1]~[6]のいずれか一項に記載の複合銅部材。
[8] [1]~[7]のいずれか一項に記載の複合銅部材の、前記シランカップリング剤層の上に、樹脂基材が積層された積層体。
[9] [8]に記載の積層体を含む、プリント配線板。
[10] 前記銅部材が銅箔である、[1]~[7]のいずれか一項に記載の複合銅部材。
[11] [10]に記載の複合銅部材を含む、負極集電体。
【0009】
[12] シランカップリング剤で処理された複合銅部材の製造方法であって、
酸化処理により、銅部材の少なくとも一部の表面に、厚さが平均400nm以下で、微細凹凸形状を有する銅酸化物層を形成する第一の工程と、
前記銅酸化物層の上に、電解めっき処理によりニッケル層を形成する第二の工程と、
前記ニッケル層が形成された表面に、7μg/dm2以上900μg/dm2以下(銅部材単位面積あたりのSi換算重量)のシランカップリング剤をコートする第三の工程を含む、
製造方法。
[13] 第一の工程後の前記銅酸化物層が形成された表面のRaが0.035以上0.15以下である、[12]に記載の製造方法。
[14] 第一の工程後の前記銅酸化物層が形成された表面のRzが0.25以上1.45以下である、[12]又は[13]に記載の製造方法。
[15] 第二の工程における電解めっき処理の電流密度が5A/dm2以下であることを特徴とする[12]~[14]のいずれか一項に記載の製造方法。
[16] 前記ニッケル層の厚みが0.5mg/dm2以上25mg/dm2以下(銅部材単位面積あたりのニッケル重量)である、[12]~[15]のいずれか一項に記載の製造方法。
[17] 前記シランカップリング剤が、以下の式:
X―Si(OR)3
(Xは
ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基、3-メルカプトプロピル基、3-アミノプロピル基、3-メルカプトプロピル基、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、ビニル基、3-メタクリロキシプロピル基、3-イソシアネートプロピル基、3-ウレイドプロピル基及び3-アクリロキシプロピル基からなる群から選択され;
-ORはアルコキシ基である)で表される化合物を含む、[12]~[16]のいずれか一項に記載の製造方法。
[18] 第三の工程後のシランカップリング剤がコートされた表面のRaが0.02μm以上0.17μm以下である、[12]~[17]のいずれか一項に記載の製造方法。
[19] 第三の工程後のシランカップリング剤がコートされた表面のRzが0.2μm以上1.5μm以下である、[12]~[18]のいずれか一項に記載の製造方法。
[20] 第三の工程後のシランカップリング剤がコートされた表面のBET表面積比が、3以上20以下である、[12]~[19]のいずれか一項に記載の製造方法。
[21] 第三の工程後のシランカップリング剤がコートされた表面の、BET表面積比/Rzの値が4μm-1以上である、[12]~[20]のいずれか一項に記載の製造方法。
[22] [12]~[21]のいずれか一項に記載の製造方法で作製されたシランカップリング剤で処理された銅部材に、樹脂基材を熱圧着する工程を含む、積層体の製造方法。
[23] 前記銅部材が銅箔である、[12]~[21]のいずれか一項に記載の製造方法。
[24] [23]に記載の製造方法で作製されたシランカップリング剤で処理された複合銅部材に、導電性活物質を塗布し担持させる工程を含む、二次電池の製造方法。
==関連文献とのクロスリファレンス==
本出願は、2019年12月26日付で出願した日本国特許出願2019-236800に基づく優先権を主張するものであり、当該基礎出願を引用することにより、本明細書に含めるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察による実施例1と比較例10の断面画像(倍率50000倍)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、添付図面を用いて詳細に説明するが、必ずしもこれに限定するわけではない。なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0012】
==シランカップリング剤で処理された複合銅部材の製造方法==
本発明の一実施態様は、シランカップリング剤で処理された複合銅部材の製造方法であって、酸化処理により、銅箔表面に針状の銅酸化物を析出させ、微細凹凸形状を有する銅酸化物層を形成する第一の工程と、銅酸化物層の上に、電解めっき処理によりニッケル層を形成する第二の工程と、ニッケル層が形成された表面に、シランカップリング剤をコートする第三の工程を含む製造方法である。
銅部材とは、構造の一部となる、Cuを主成分として含む材料のことであり、電解銅箔や圧延銅箔およびキャリア付き銅箔等の銅箔、銅線、銅板、銅製リードフレーム、銅粉などが含まれるがこれらに限定されない。電解めっきできるものが好ましい。
銅箔には、銅を主成分とした、電解銅箔、圧延銅箔、キャリア付きの銅箔等の銅箔が含まれ、その厚みは0.1μm以上100μm以下である。特に、0.5μm以上50μm以下が好ましい。
銅板は、銅が主成分であり、その厚みが100μm超で板状のものを指す。特に、限定しないが、1mm以上、2mm以上又は10mm以上が好ましく、10cm以下、5cm以下又は2.5cm以下が好ましい。
銅部材は、Cu純度が、95質量%以上、99質量%以上、又は99.9質量%以上の純銅からなる銅箔が好ましく、タフピッチ銅、脱酸銅、無酸素銅で形成されていることがより好ましく、含有酸素量が0.001質量%~0.0005質量%の無酸素銅で形成されていることがさらに好ましい。
【0013】
第一の工程において、銅箔を酸化処理することにより、針状の銅酸化物を析出させ、微細凹凸形状を有する銅酸化物層を形成する。形成方法は特に限定されないが、酸化剤を用いて形成してもよく、加熱処理や陽極酸化によって形成してもよい。この酸化工程以前に、エッチングなどの粗面化処理工程は必要ないが、行ってもよい。脱脂洗浄または酸化工程への酸の持ち込みを防止するためのアルカリ処理は行ってもよい。アルカリ処理の方法は特に限定されないが、好ましくは0.1~10g/L、より好ましくは1~2g/Lのアルカリ水溶液、例えば水酸化ナトリウム水溶液で、30~50℃、0.5~2分間程度処理すればよい。
【0014】
酸化剤は特に限定されず、例えば、次亜塩素酸塩(たとえば、ナトリウム塩やカリウム塩)、亜塩素酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩等を含むアルカリ性の水溶液を用いることができる。酸化剤には、各種添加剤(たとえば、リン酸三ナトリウム十二水和物のようなリン酸塩)や表面活性分子を添加して銅酸化物の析出を調整してもよい。
表面活性分子としては、ポルフィリン、ポルフィリン大員環、拡張ポルフィリン、環縮小ポルフィリン、直鎖ポルフィリンポリマー、ポルフィリンサンドイッチ配位錯体、ポルフィリン配列、シラン、テトラオルガノ‐シラン、アミノエチル‐アミノプロピル‐トリメトキシシラン、3‐アミノプロピル)トリメトキシシラン、1‐[3‐(トリメトキシシリル)プロピル]ウレア、(3‐アミノプロピル)トリエトキシシラン、(3‐グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(3‐クロロプロピル)トリメトキシシラン、(3‐グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン、ジメチルジクロロシラン、3‐(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート、エチルトリアセトキシシラン、トリエトキシ(イソブチル)シラン、トリエトキシ(オクチル)シラン、トリス(2‐メトキシエトキシ)(ビニル)シラン、クロロトリメチルシラン、メチルトリクロロシラン、四塩化ケイ素、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、クロロトリエトキシシラン、エチレン‐トリメトキシシラン、アミン、糖などを例示できる。
酸化処理液の一例として、亜塩素酸ナトリウムを30g/L以上~250g/L以下含み、水酸化カリウムを8g/L以上~40g/L以下含み、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランを0.5g/L以上~2g/L以下含む水溶液を用いることができる。
【0015】
酸化反応条件は特に限定されないが、酸化剤の液温は40~95℃であることが好ましく、45~80℃であることがより好ましい。反応時間は0.5~30分であることが好ましく、1~10分であることがより好ましい。
【0016】
第一の工程において、酸化処理によって形成された酸化物層を溶解剤で溶解して、酸化物層表面の凹凸部を調整してもよい。
【0017】
本工程で用いる溶解剤は特に限定されないが、キレート剤、特に生分解性キレート剤であることが好ましく、エチレンジアミン四酢酸、ジエタノールグリシン、L-グルタミン酸二酢酸・四ナトリウム、エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸、3-ヒドロキシ-2、2’-イミノジコハク酸ナトリウム、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム、アスパラギン酸ジ酢酸4ナトリウム、N-(2-ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸ジナトリウム、グルコン酸ナトリウムなどが例示できる。
【0018】
溶解剤のpHは特に限定されないが、アルカリ性であることが好ましく、pH8~10.5であることがより好ましく、pH9.0~10.5であることがさらに好ましく、pH9.8~10.2であることがさらに好ましい。
【0019】
また、第1の工程において、銅部材に形成された酸化銅層を、還元剤を含有する薬液(還元用薬液)を用いて還元し、凸部の数や高さを調整してもよい。
【0020】
還元剤としては、DMAB(ジメチルアミンボラン)、ジボラン、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン等を用いることができる。また、還元用薬液は、還元剤、アルカリ性化合物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)、及び溶媒(純水等)を含む液体である。
【0021】
第一工程において、銅酸化物層の厚さを平均400nm以下にする。好ましくは平均200nm以下にし、より好ましくは平均160nm以下、或いは平均90nm以下にする。さらに銅酸化物層の厚さは、好ましくは平均20nm以上にし、より好ましくは平均30nm以上にし、さらに好ましくは平均40nm以上にする。なお、銅酸化物層の厚さが400nm以下である領域の割合は特に限定されないが、50%以上が400nm以下であることが好ましく、70%以上が400nm以下であることがより好ましく、90%以上が400nm以下であることがさらに好ましく、95%以上が400nm以下であることがさらに好ましく、ほぼ100%が400nm以下であることがさらに好ましい。
銅酸化物層の厚さの割合は、例えば、10×10cmの面積中の10測定点における連続電気化学還元法(SERA)により算出することができる。
【0022】
銅酸化物層の算術平均粗さ(Ra)は0.035μm以上が好ましく、0.038μm以上がより好ましく、また、0.20μm以下であることが好ましく、0.060μm以下であることがより好ましい。
銅酸化物層の最大高さ粗さ(Rz)は0.2μm以上が好ましく、0.25μm以上がより好ましく、また、1.45μm以下であることが好ましく、0.50μm以下であることがより好ましい。
算術平均粗さ(Ra)とは基準長さlにおいて、以下の式で表される輪郭曲線(y=Z(x))におけるZ(x)(すなわち山の高さと谷の深さ)の絶対値の平均を表す。
【数1】
最大高さ粗さ(Rz)とは基準長さlにおいて、輪郭曲線(y=Z(x))の山高さZpの最大値と谷深さZvの最大値の和を表す。
表面粗さRa、RzはJIS B 0601:2001(国際基準ISO4287-1997準拠)に定められた方法により算出できる。
【0023】
第二の工程において、第一の工程で形成された銅酸化物層に対し、電解めっき処理をし、ニッケル層を形成する。ニッケル層は電解めっきにより形成される。ニッケル層におけるニッケルの含有率は、90%重量%以上、95%重量%以上、98%重量%以上、99%重量%以上、又は99.9%重量%以上が好ましい。
電解めっきで形成されるニッケル層の平均の厚みは、ニッケル層が形成される銅箔の単位面積(片面めっきの場合は銅箔の平面視面積、両面めっきの場合は銅箔の平面視面積×2)あたりのニッケルの重量として表した場合、0.5mg/dm2、1.0mg/dm2、1.5mg/dm2、2.0mg/dm2、3.0mg/dm2、4.0mg/dm2、5.0mg/dm2、6.0mg/dm2、又は7.0mg/dm2以上であることが好ましく、25.0mg/dm2、20.0mg/dm2、15.0mg/dm2、10.0mg/dm2、9.0mg/dm2、又は9.0mg/dm2以下であること好ましい。
銅箔の平面視面積は、所定の範囲においてその範囲の表面がフラットであるとした場合の表面積と等しく、展開面積比(sdr)(ISO25178)」における定義領域に対応する。
ニッケル層の平均の厚みは、ニッケル層を形成するニッケルを、酸性溶液で溶解し、ICP分析によってニッケルの量を測定し、その測定量を、ニッケル層が形成された銅箔の単位面積で除して算出できる。あるいは、ニッケル層を有する銅箔そのものを溶解し、ニッケル層を形成するニッケルの量のみを検出測定することにより、算出できる。
【0024】
電解めっきは、酸化物層の酸化物を一部還元するのにも電荷が必要であるため、ニッケルめっきを銅箔に施す場合、その厚さを好ましい範囲に収めるためには電解めっき処理する銅箔の面積あたり、15C/dm2以上~90C/dm2以下の電荷を与えることが好ましい。
また、電流密度は5A/dm2以下が好ましい。電流密度が高すぎると、凸部にめっきが集中するなど、均一めっきが困難である。なお、銅酸化物層の酸化物を一部還元するまでと、めっきを被覆中の電流を変えてもよい。また、被覆する金属により所定の厚さになるよう適宜調整する。
めっきイオンの供給剤として、例えば、硫酸ニッケル、スルファミン酸ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケルなどが用いることができる。
pH緩衝剤や光沢剤などを含むその他添加剤として、例えば、ほう酸、酢酸ニッケル、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸アンモニウム、ギ酸カリウム、リンゴ酸、リンゴ酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、塩化アンモニウム、シアン化ナトリウム、酒石酸カリウムナトリウム、チオシアン酸カリウム、硫酸、塩酸、塩化カリウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、チオシアンナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、臭酸カリウム、ピロリン酸カリウム、エチレンジアミン、硫酸ニッケルアンモニウム、チオ硫酸ナトリウム、ケイフッ酸、ケイフッ化ナトリウム、硫酸ストロンチウム、クレゾールスルホン酸、β-ナフトール、サッカリン、1,3,6-ナフタレントリスルホン酸、ナフタレン(ジ、トリ)、スルホン酸ナトリウム、スルホンアミド、スルフィン酸などが使用される。
ニッケルめっきにおいて、その浴組成は、例えば、硫酸ニッケル(100g/L以上~350g/L以下)、スルファミン酸ニッケル(100g/L以上~600g/L以下)、塩化ニッケル(0g/L以上~300g/L以下)及びこれらの混合物を含むものが好ましいが、添加剤としてクエン酸ナトリウム(0g/L以上~100g/L以下)やホウ酸(0g/L以上~60g/L以下)が含まれていてもよい。
【0025】
第三の工程として、電解めっき処理後の表面に、シランカップリング剤処理を行う。用いるシランカップリング剤としては、加水分解性基が2又は3のものが好ましく、加水分解性基として、メトキシ基又はエトキシ基のものが好ましい。
特に限定しないが、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどを用いることが出来る。
シランカップリン剤処理はシランカップリング剤を水又は有機溶媒に分散させた溶液を、塗布又は吹き付け、吸着させることにより行うことができる。シランカップリング剤を水又は有機溶媒に分散させた溶液は特に限定しないが、重量%で0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%又は9%以上が好ましく、20%、15%又は10%以下が好ましい。
吸着後、乾燥させることによりシランカップリン剤処理は完了する。乾燥させる温度と時間は、溶媒である水又は有機溶媒が完全に蒸発すれば特に限定しないが、70度で1分以上乾燥させるのが好ましく、100度で1分以上乾燥させるのがさらに好ましく、110度で1分以上乾燥させることがより好ましい。
【0026】
カップリング剤処理後のカップリング剤層の形成された表面の算術平均粗さ(Ra)は0.01μm、0.02μm、0.03μm又は0.04μm以上が好ましく、0.20μm、0.15μm、0.10μm又は0.060μm以下であることがより好ましい。
カップリング剤処理後のカップリング剤層の形成された表面の最大高さ粗さ(Rz)は0.2μm、0.3μm又は0.4μm以上が好ましく、1,5μm、1.4μm、1.3μm、1.2μm、1.1μm、1.0μm、0.50μm、0.40μm又は0.30μm以下であることが好ましい。
また、酸化処理後のRaとカップリング剤処理後のRaの比(酸化処理後のRa/カップリング剤処理後のRa)である表される表面粗さの変化は0.7以上~1.3以下が好ましく、酸化処理後のRzとカップリング剤処理後のRzの比(酸化処理後のRz/カップリング剤処理後のRz)は0.8以上~1.2以下が好ましい。カップリング剤層は極めて薄いため、この比の値が1に近いほど、電解めっきで形成されたニッケル層の厚さの均一性と一様性を示している。
【0027】
第一から第三の工程を行うことにより、銅箔の少なくとも一部の表面に針状の銅酸化物を含む層を有し、前記銅酸化物を含む層の上にニッケル層が積層され、さらに前記ニッケル層が積層された表面にシランカップリング剤層を有する複合銅箔が製造できる。
【0028】
==シランカップリング剤層を有する複合銅部材==
本発明の一実施態様は、銅部材の少なくとも一部の表面に針状の銅酸化物を含む層を有し、前記銅酸化物を含む層の上にニッケル層が積層され、さらに前記ニッケル層が積層された表面にシランカップリング剤層を有する複合銅部材である。
【0029】
シランカップリング剤層の付着量は、シランカップリング剤層が形成された表面の、銅箔の単位面積(片面処理の場合は銅箔の平面視面積、両面処理の場合は銅箔の平面視面積×2)あたりのSi原子の重量として表した場合、5μg/dm2、6μg/dm2、7μg/dm2、8μg/dm2、9μg/dm2、10μg/dm2、15μg/dm2、20μg/dm2、30μg/dm2、40μg/dm2、50μg/dm2又は60μg/dm2以上であることが好ましく、900μg/dm2、700μg/dm2、500μg/dm2、400μg/dm2、300μg/dm2、200g/dm2、100μg/dm2、70μg/dm2、60μg/dm2、又は50μg/dm2以下であること好ましい。
シランカップリング剤層の付着量は、その表面にシランカップリング剤層が形成されたニッケル層ごと、酸性溶液で溶解し、ICP分析によってSi原子の量を測定し、その測定量を銅箔の単位面積で除して算出できる。あるいは、シランカップリング剤層を有する複合銅箔そのものを溶解し、シランカップリング剤層を形成するSi原子の量のみを検出測定することにより、算出できる。
【0030】
表面積の算出方法は、BET法が好ましいが、これに限定したものではなく、例えば、3次元画像解析などの画像処理によって算出することも可能である。銅箔の2次元観察画像を連続的に観察し、それらの観察画像を3次元に再構築する。観察には、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、コンフォーカル顕微鏡などを用いてよい。SEMを用いる場合には、FIB(集束イオンビーム)を用いて加工し、加工した全銅箔の断面観察を行い、観察画像を集積する。TEMを用いる場合には、連続的に傾斜させた銅箔に電子線を照射し、各角度における連続傾斜像(質量密度分布の2次元投影像)を取り込む。連続傾斜像の位置合わせ後、フーリエ変換、逆フーリエ変換することにより3次元画像を構築する。
【0031】
BET比表面積とは、窒素(N2)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、一酸化炭素(CO)などの気体分子を固体粒子に吸着させ、吸着した気体分子の量から固体粒子の比表面積を測定する気体吸着法(BET法)により算出される固体粒子質量あたりの表面積の総和を指す。
BET比表面積の測定方法としては、クリプトンガス吸着BET多点法や窒素吸着1点法などが挙げられる。特に微細な表面積を測定する際はクリプトンガスが飽和蒸気圧の関係で好ましい。
複合銅箔の全表面積は、(BET比表面積)×(用いた銅箔の質量)で算出することができる。
【0032】
BET表面積比は、(BET法により算出された、シランカップリング剤層が形成された表面の表面積)/(シランカップリング剤層が形成された銅箔の平面視野面積)で表すことができる。
本発明に用いる銅箔においては、銅箔側面部分の表面積は無視できるので、BET表面積比は、
(1)両面処理した銅箔の場合
(2)片面処理した銅箔の場合
で算出することができる。
【0033】
銅板などのように厚みが100μm以上の場合は、側面部分の表面積が無視できない。
厚みが100μm以上の際のBET表面積比は、
(1)両面処理した銅板の場合
(2)片面処理した銅板の場合
で算出することができる。
シランカップリング剤層が形成された表面のBET表面積比は、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上又は10以上が好ましく、20以下、15以下、14以下、13以下、12以下又は11以下が好ましい。
【0034】
シランカップリング剤層が形成された表面の、BET表面積比/Rzの値は、4μm-1以上、5μm-1以上、10μm-1以上、15μm-1以上又は20μm-1以上が好ましく、35μm-1以下、30μm-1以下又は25μm-1以下が好ましい。
【0035】
==シランカップリング剤層を有する複合銅部材の利用方法==
本発明に係るシランカップリング剤で処理された複合銅部材は、プリント配線板に使用される銅箔やLIB負極集電体用の銅箔などとして用いることができる。
例えば、本発明に係るシランカップリング剤で処理された複合銅箔を樹脂基材と層状に接着させることによって積層板を作製し、プリント配線板を製造するのに用いることができる。樹脂基材に含まれる樹脂の種類は特に限定されないが、熱可塑性樹脂であっても、熱硬化性樹脂であってもよく、ポリフェニレンエーテル(PPE)、エポキシ、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、液晶ポリマー(LCP)、トリフェニルフォサイト(TPPI)、フッ素樹脂、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリシクロオレフィン、ビスマレイミド樹脂、低誘電率ポリイミド、シアネート樹脂、或いはこれらの混合樹脂であることが好ましい。樹脂基材はさらに無機フィラーやガラス繊維を含んでいてもよい。
また、例えば本発明に係るシランカップリング剤で処理された複合銅箔を用いて負極集電体を作製すると、銅箔と負極材料の密着性が向上し、容量劣化の小さい良好なリチウムイオン電池を得ることができる。リチウムイオン電池用の負極集電体は公知の方法に従って製造することができる。例えば、カーボン系活物質を含有する負極材料を調製し、溶剤もしくは水に分散させて活物質スラリーとする。この活物質スラリーを本発明に係るシランカップリング剤で処理された複合銅箔に塗布した後、溶剤や水を蒸発させるため乾燥させる。その後、プレスし、再度乾燥した後に所望の形になるよう負極集電体を成形する。なお、負極材料には、カーボン系活物質よりも理論容量の大きいシリコンやシリコン化合物、ゲルマニウム、スズ、鉛などを含んでもよい。また、電解質として有機溶媒にリチウム塩を溶解させた有機電解液だけでなく、ポリエチレンオキシドやポリフッ化ビニリデンなどからなるポリマーを用いたものであってもよい。本発明に係るシランカップリング剤で処理された複合銅箔は、リチウムイオン電池だけでなく、リチウムイオンポリマー電池にも適用できる。
【実施例】
【0036】
<1.複合銅箔の製造>
実施例1~27並びに比較例1~9は、銅箔としてDR-WS(古河電工株式会社製、厚さ:18μm)を用いた。比較例10として、すでに片面のみ粗化処理され、めっきが施されたFV-WS(古河電工株式会社製、厚さ:18μm)を用いた。実施例16は、DR-WSのシャイニー面(光沢面。反対面と比較したときに平坦である面。)のみ酸化処理及び電解めっき処理をした。
【0037】
(1)前処理
[アルカリ脱脂処理]
銅箔を、液温50℃、40g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に1分間浸漬した後、水洗を行った。
[酸洗浄処理]
アルカリ脱脂処理を行った銅箔を、液温25℃、10重量%の硫酸水溶液に2分間浸漬した後、水洗を行った。
[プレディップ処理]
酸洗浄処理を行った銅箔を、液温40℃、水酸化ナトリウム(NaOH)1.2g/Lのプレディップ用薬液に1分間浸漬した。
【0038】
(2)酸化処理
アルカリ処理を行った銅箔を、実施例1~15、17~27及び比較例1~7及び9は各々表1に記載の酸化処理用水溶液に所定の条件で含浸させることにより、両面に対して酸化処理を行った。実施例16は、表1に記載の酸化処理用水溶液の液面に銅箔を浮かせて処理することにより、片面に対してのみ酸化処理を行った。
これらの処理後、銅箔を水洗した。
【0039】
(3)めっき処理
実施例1~15、17~27及び比較例1~9はニッケルめっき用電解液(硫酸ニッケル230g/l;ホウ酸25g/l)を用いて、表1に記載の条件でニッケルめっきを両面に施した。実施例16は、表1に記載の条件で、めっきしたい面の方のみにアノード電極を配置することにより、片面に対してのみめっき処理を行った。
【0040】
(4)カップリング処理
実施例1~4、6~27及び比較例3~9は表1に記載のシランカップリング剤溶液を片面に塗布し、バーコーターで余分なシランカップチング剤を取り除いた後、70度で1分間処理した。実施例5及び比較例1、2は、表1に記載のシランカップリング剤溶液に浸漬させた後、110度で1分間、両面を処理した。シランカップリング剤(3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(KBE-903);3-アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM-903);3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(KBM-803);2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(KBM-303);ビニルトリメトキシシラン(KBM-1003)3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-502);3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(KBE-9007N);3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン(KBE-585);3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-5103))は信越シリコーン社から購入した。
【0041】
実施例及び比較例について、各々同じ条件で複数の試験片を作製した。なお、比較例10は市販品であるため、(1)~(4)の処理を行わずにそのまま試験片とした。
走査型電子顕微鏡(SEM)観察による実施例1と比較例10の断面画像(倍率50000倍)を
図1に示す。実施例1においては、針状(結)晶銅酸化物に起因するほぼ同じ太さの、結晶性のニッケルめっきが施された針状の凸部(矢印)が確認できるのに対して、比較例10の銅粒子の電析による大きさの異なるこぶ状の凸部(矢印)が確認できた。かかる針状の凸部はニッケルめっき層が厚すぎると(たとえば比較例5)観察できない。
【0042】
【0043】
<2.ニッケル及びシランカップリング剤の付着量の算出>
ニッケル及びシランカップリング剤の付着量は、12%硝酸に銅箔を溶解させ、得た液をICP発光分析装置5100 SVDV ICP-OES(アジレント・テクノロジー社製)を用いてNi及びSiの濃度を測定し、用いた銅箔の単位面積(片面処理の場合は銅箔の平面視面積、両面処理の場合は銅箔の平面視面積×2)あたりのNiの量及びSiの量として算出した。
【0044】
<3.BET比表面積の測定>
各試験片のBET比表面積(銅箔1gあたりの実際の全表面積)は、マイクロメリティクス社製多検体高性能比表面積測定装置3FLEXを使用して、クリプトンガス吸着BET多点法により測定した。測定前に、前処理として100℃で2時間の減圧乾燥を行った。
測定に使用する試験片は、元銅箔3.83gあたり、30mm×7mm×110枚に切り出して、測定装置内に導入した。
結果を表2に示す。
【0045】
<4.BET表面積比の算出>
用いた元銅箔の1gあたりの平面視面積と上記で測定されたBET比表面積を用いて、以下の計算式により算出した。
(1)第二の工程まで両面処理した銅箔の場合(実施例1~15、17~27及び比較例1~9)
(2)第二の工程まで片面処置した銅箔(実施例16)及び比較例10の場合
結果を表2に示す。
【0046】
<5.Ra及びRzの算出>
カップリング剤処理後の銅箔の処理面(両面処理した場合は、元箔の粗度がより小さい面)を、共焦点走査電子顕微鏡 OPTELICS H1200(レーザーテック株式会社製)を用いて銅箔の表面形状を測定し、JIS B 0601:2001(国際基準ISO4287-1997準拠)に定められた方法によりRa及びRzを算出した。測定条件として、スキャン幅は100μm、スキャンタイプはエリアとし、Light sourceはBlue、カットオフ値は1/5とした。オブジェクトレンズはx100、コンタクトレンズはx14、デジタルズームはx1、Zピッチは10nmの設定とし、3箇所のデータを取得し、Ra、Rzは3箇所の平均値とした。
結果を表2に示す。
【0047】
<6.ピール強度の測定>
各試験片の処理面(両面処理した場合は、元箔の粗度がより小さい面)に以下の条件で各樹脂基材を熱圧着させた。
MEGTRON7(パナソニック社製、厚み100μm)の場合、真空プレス機を用いて110℃になるまで加熱しながら0.49MPaで圧着しその後210℃の下、2.94MPaで120分保持することにより熱圧着した。
べクスターCT-Zフィルム(LCP)(クラレ社製、厚み50μm)の場合、真空プレス機を用いて260℃になるまで0MPaで加熱し、260℃到達後15分保持し、その後300℃になるまで加熱しながら4MPaで圧着する。その後300℃で10分保持することにより、熱圧着した。
PIXEO FRS(PI)(カネカ社製、厚み12.5μm)の場合、真空プレス機を用いて350℃の下、5MPaで20分保持することにより、熱圧着した。
回路配線板は10mm幅のテープでマスキングしてエッチングすることで作製した。その後、90°方向に50mm/minの速度で樹脂から銅箔を剥離した際の剥離強度を測定した。
【0048】
剥離強度の評価基準は、
MEGTRON7を用いた場合、
◎:0.6kgf/cm以上
○:0.5~0.6kgf/cm
△:0.4~0.5kgf/cm
×:0.4kgf/cm未満
とし;
ベクスターCT-Zフィルム(LCP)を用いた場合、
◎:0.5kgf/cm以上
○:0.4~0.5kgf/cm
△:0.3~0.4kgf/cm
×:0.3kgf/cm未満
とし;
PIXEO FRS(PI)を用いた場合、
◎:0.6kgf/cm以上
○:0.5~0.6kgf/cm
△:0.4~0.5kgf/cm
×:0.4kgf/cm未満
とした。
結果を表2に示す。実施例ではいずれも良好な剥離強度を示した。
【0049】
<8.高周波特性の測定>
100μm厚のMEGTRON7に各試験片を熱圧着して、長さ200mmのマイクロストリップラインを作製した。回路幅は230μm、特性インピーダンスは50Ωとした。この伝送路にネットワーク・アナライザを用いて40GHzまでの高周波信号を伝送し、伝送損失を測定した。
伝送損失の評価基準は、40GHz時点で
◎:-9.5dB以上
○:-9.5dB未満から-10dB以上
×:-10dB未満
とした。
結果を表2に示す。実施例ではいずれも良好な結果を示した。
【0050】
<8.エッチング性の測定>
MEGTRON7に各試験片を熱圧着して作製した銅張積層板を10cm×10cmサイズに切り出し、銅箔パターンをエッチングにより形成した。その後、IPC試験規格TM-650の2.5.17に基づき、最大レンジ1014Ωの抵抗計を用いて、樹脂基材上の抵抗を測定し、最大レンジ以上になるか(◎)、ならないか(×)でエッチング性を確認した。エッチングの際に、金属の残渣が樹脂基材表面に残留している場合は、導通が取れる。最大レンジ以上になるということは、導通が取れず、エッチングが良好であることを示す。
結果を表2に示す。実施例ではいずれも良好な結果を示した。
【0051】
第三の工程でシランカップリング剤層が形成される。比較例1、2、4のようにシランカップリング剤の付着量が少ない又はない場合は、密着性を得るために十分なシランカップリング剤が付着しておらず、密着性が確保できない。また、比較例3のようにシランカップリング剤の付着量が過剰すぎる場合は、シランカップリング剤層での破壊によって密着性が確保できなかった。これに対して、適切な量のシランカップリング剤を付着した実施例では、いずれの樹脂基材に対しても良好な密着性を示した。
第二の工程でニッケル層が形成される。比較例5~6は過剰なニッケルが付与されており、第一の工程で形成した微細凹凸形状が埋もれてしまい、アンカー効果が得られずに密着性が確保できなかった。高周波特性においても、過剰なニッケル付与による透磁率が影響して実施例に劣る。エッチング性においても、比較例6は過剰なニッケル付与によって、エッチングしきれずに樹脂表面にニッケルが残留した。比較例9はニッケルの付着量が不足しており保護層としての効果が十分得られておらず密着性が確保できなかった。これに対して、適切な量のニッケルが付着した実施例では、良好な特性を示した。
第一の工程で酸化処理により、微細凹凸形状を有する銅酸化物層が形成される。比較例7は第一の工程で過剰な凹凸形状を形成したため、その後の第二の工程でニッケルにより十分な保護層が形成できずに密着性が得られなかった。また、粗度が大きくなりすぎて高周波特性やエッチング特性にも悪い影響を及ぼした。比較例8は第一の工程を行っていないため、微細凹凸形状が形成されずにアンカー効果が低く十分な密着性が確保できなかった。これに対して、適切な微細凹凸形状を有する実施例では、良好な特性を示した。
【0052】
以上のように、本発明では、低粗度且つ表面積が大きいため、単位面積当たりのシランカップリング剤付着量が多くなることが特徴である。これによって比較例10のような従来の粗化粒子を有する銅箔と比較し、優れた高周波特性及び密着性を得ることが可能になった。
【0053】
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によって、新規な複合銅部材、並びにそれを用いた積層体及び電子部品、高周波伝送用の複合銅箔、並びにそれを用いた高周波伝送用積層体及び高周波伝送用電子部品を提供することができるようになった。