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特許7601427エアロゲルブランケットの製造方法およびそれにより製造されたエアロゲルブランケット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】エアロゲルブランケットの製造方法およびそれにより製造されたエアロゲルブランケット
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/16 20060101AFI20241210BHJP
   F16L 59/04 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C01B33/16
F16L59/04
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022571857
(86)(22)【出願日】2021-10-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-23
(86)【国際出願番号】 KR2021013539
(87)【国際公開番号】W WO2022080721
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】10-2020-0133466
(32)【優先日】2020-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・フン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ミ・リ・キム
(72)【発明者】
【氏名】セ・ウォン・ベク
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108793943(CN,A)
【文献】特開2012-144428(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163354(WO,A1)
【文献】特表平10-504792(JP,A)
【文献】国際公開第2017/159438(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/16
F16L 59/04
D06M 11/79
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)シリカゾルおよびナトリウム系塩基触媒を混合し、pHが9.0~11.0である触媒化されたシリカゾルを得るステップと、
2)ブランケット用基材に前記触媒化されたシリカゾルを含浸させてゲル化し、湿潤ゲル-繊維複合体を得るステップと、
3)前記湿潤ゲル-繊維複合体に表面改質剤および塩素系酸誘導水溶液を含む酸性表面改質溶液を投入して疎水化するステップと、
4)前記疎水化された湿潤ゲル-繊維複合体を乾燥させるステップと、
を含み、
前記塩素系酸誘導水溶液は、水溶液中の酸のモル数が前記ナトリウム系塩基触媒のナトリウムイオンのモル数に対して1当量~10当量となるように投入される、エアロゲルブランケットの製造方法。
【請求項2】
前記ナトリウム系塩基触媒は、水酸化ナトリウムおよびケイ酸ナトリウムのうちいずれか1つ以上を含む水溶液である、請求項1に記載のエアロゲルブランケットの製造方法。
【請求項3】
前記シリカゾルは、シリカ前駆体および有機溶媒を含む、請求項1又は2に記載のエアロゲルブランケットの製造方法。
【請求項4】
前記ステップ2)において、前記触媒化されたシリカゾルは、ブランケット用基材の体積を基準として80体積%~120体積%となる量で使用される、請求項1~3のいずれか一項に記載のエアロゲルブランケットの製造方法。
【請求項5】
前記塩素系酸誘導水溶液は、塩酸、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、およびメチルトリクロロシランからなる群から選択された1以上を含む水溶液である、請求項1~のいずれか一項に記載のエアロゲルブランケットの製造方法。
【請求項6】
前記表面改質剤は、有機シラン化合物が有機溶媒に10体積%~50体積%に希釈されたものである、請求項1~のいずれか一項に記載のエアロゲルブランケットの製造方法。
【請求項7】
前記有機シラン化合物は、トリメチルクロロシラン(Trimethylchlorosilane、TMCS)、ヘキサメチルジシラザン(hexamethyldisilazane、HMDS)、メチルトリメトキシシラン(methyltrimethoxysilane、MTMS)、トリメチルエトキシシラン(trimethylethoxysilane、TMES)、エチルトリエトキシシラン(ethyltriethoxysilane、ETES)、およびフェニルトリエトキシシラン(phenyltriethoxysilane、PTES)からなる群から選択された1以上である、請求項に記載のエアロゲルブランケットの製造方法。
【請求項8】
ステップ2)以後、熟成するステップをさらに含む、請求項1~のいずれか一項に記載のエアロゲルブランケットの製造方法。
【請求項9】
前記熟成は、40℃~80℃の温度で6時間以上行われる、請求項に記載のエアロゲルブランケットの製造方法。
【請求項10】
ステップ3)以後、エタノールまたは酸水溶液を用いて洗浄するステップをさらに含む、請求項1~のいずれか一項に記載のエアロゲルブランケットの製造方法。
【請求項11】
前記ステップ4)の乾燥は、1±0.3atmの圧力および70℃~200℃の温度での常圧乾燥工程により行われる、請求項1~10のいずれか一項に記載のエアロゲルブランケットの製造方法。
【請求項12】
前記ブランケット用基材は、多孔質基材である、請求項1~11のいずれか一項に記載のエアロゲルブランケットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年10月15日付けの韓国特許出願2020-0133466に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、非毒性の塩基触媒を用いてゲル化させ、酸条件下で表面改質工程を行うステップを含むエアロゲルブランケット(aerogel blanket)の製造方法、および前記製造方法により製造されたエアロゲルブランケットに関する。
【背景技術】
【0003】
エアロゲル(aerogel)は、90~99.9%程度の気孔率と1~100nm範囲の気孔大きさを有する超多孔性の高比表面積(≧500m/g)物質であって、優れた超軽量/超断熱/超低誘電などの特性を有する材料である。そのため、エアロゲル素材に関する開発研究はいうまでもなく、透明断熱材および環境に優しい高温型断熱材、高集積素子用の極低誘電薄膜、触媒および触媒担体、スーパーキャパシタ用電極、海水淡水化用の電極材料としての応用研究も活発に行われている。
【0004】
エアロゲルの最も大きい長所は、従来の発泡スチロールなどの有機断熱材よりも低い0.300W/m・K以下の熱伝導率を示すスーパー断熱性(super-insulation)を有することと、有機断熱材の致命的な弱点である火災への脆弱性および火災時の有害ガスの発生を解決可能であるということである。
【0005】
一般的に、エアロゲルは、前駆体物質からヒドロゲルを製造し、ヒドロゲル内部の液体成分を微細構造を破壊することなく除去して製造される。代表的なエアロゲルの形態、粉末、顆粒、モノリスの3つに分けることができ、一般的には粉末状に製造される。
【0006】
前記粉末の場合、繊維と複合化してエアロゲルブランケット(blanket)またはエアロゲルシート(sheet)などのような形態への製品化が可能であり、ブランケットまたはシートの場合、柔軟性を有しているため、任意の大きさや形態に曲げたり、折り畳んだり切ったりすることができる。そこで、LNG船の断熱パネル、工業用断熱材と宇宙服、交通および車両、電力生産用断熱材などのような工業用への応用だけでなく、ジャケットや運動靴類などのような生活用品にも適用可能である。また、アパートのような住宅での屋根や底だけでなく、防火ドアにエアロゲルを用いる場合に、火災の予防に大きい効果がある。
【0007】
具体的に、本明細書におけるエアロゲルブランケットは、繊維などのようなブランケット用基材にエアロゲルが含浸された物質を指す概念であり、前記エアロゲルブランケットの製造方法は、ゲルキャスティング(Gel casting)方法と、エアロゲルパウダーや顆粒を製造した後、バインダーを用いてブランケット用基材に沈積させる方法に分けられる。
【0008】
ゲルキャスティング方法により製造された製品は、物性が良いため、現在までの使用量の大半を占めており、現在商用化された技術としては、ロールツーロール(roll-to-roll)技法を用いたゲルキャスティング方法が知られている。この際に行われるゲル化で用いられる触媒としては一般的にアンモニアが用いられるが、アンモニアの場合、ゲル構造の崩れを効果的に防止できるなど、エアロゲルの物性に優れるため広く用いられている。
【0009】
しかしながら、アンモニア触媒の場合、弱塩基成分であるため、工程でのゲルタイムの確保と物性の確保のために多い量を用いなければならず、毒性ガス成分により工程安定性が低下し、最終製品にも一部残留して問題となっている。そこで、工程上の安定性および製品の環境への優しさのために、工程全体的に毒性物質を除去しながらも、同等もしくは同等以上のレベルに物性が確保できる工程および製品の開発が必要な実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】KR10-2012-0070948A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような従来の問題を解決するためになされたものであって、ゲルキャスティング方法によりエアロゲルブランケットを製造するにおいて、ゲル化工程において非毒性のナトリウム系塩基触媒を用いてゾルを触媒化してゲル化を行い、表面改質工程を酸性条件下で行うことで、常圧乾燥を行っても収縮によるゲル構造の崩れがないため、超臨界乾燥に比べて費用節減効果を期待することができ、毒性を有する触媒を非毒性物質に代替して安全性も確保することができ、酸性条件の表面改質によりゲル構造の崩れを抑制することで十分な熱伝導度および疎水化度の改善も可能なエアロゲルブランケットの製造方法を提供する。
【0012】
本発明が解決しようとする他の課題は、前記エアロゲルブランケットの製造方法により製造された高断熱エアロゲルブランケットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記のような課題を解決するためのものであって、1)シリカゾルおよびナトリウム系塩基触媒を混合し、触媒化されたシリカゾルを得るステップと、2)ブランケット用基材に前記触媒化されたシリカゾルを含浸させてゲル化し、湿潤ゲル-繊維複合体を得るステップと、3)前記湿潤ゲル-繊維複合体に表面改質剤および塩素系酸誘導水溶液を含む酸性表面改質溶液を投入して疎水化するステップと、4)前記疎水化された湿潤ゲル-繊維複合体を乾燥させるステップと、を含む、エアロゲルブランケットの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法は、ゲル化工程において非毒性のナトリウム系塩基触媒を用いてゾルを触媒化してゲル化を行い、表面改質工程を酸性条件下で行うことで、常圧乾燥を行っても収縮によるゲル構造の崩れがないため、超臨界乾燥に比べて費用節減効果を期待することができ、毒性を有する触媒を非毒性物質に代替して安全性も確保することができ、酸性条件の表面改質によりゲル構造の崩れを抑制することで十分な熱伝導度および疎水化度の改善も可能であることに利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明が容易に理解されるように、本発明をより詳細に説明する。この際、本明細書および請求の範囲で用いられている用語や単語は、通常的もしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念で解釈すべきである。
【0016】
1.エアロゲルブランケットの製造方法
本発明の一実施形態に係るエアロゲルブランケットの製造方法は、1)シリカゾルおよびナトリウム系塩基触媒を混合し、触媒化されたシリカゾルを得るステップと、2)ブランケット用基材に前記触媒化されたシリカゾルを含浸させてゲル化し、湿潤ゲル-繊維複合体を得るステップと、3)前記湿潤ゲル-繊維複合体に表面改質剤および塩素系酸誘導水溶液を含む酸性表面改質溶液を投入して疎水化するステップと、4)前記疎水化された湿潤ゲル-繊維複合体を乾燥させるステップと、を含むことを特徴とする。
【0017】
前記製造方法は、既存のゲルキャスティング方法で用いられてきた毒性のゲル化触媒を代替しようとするものであって、触媒を代替することで発生する問題を解決しようとしたものであり、具体的に、毒性のアンモニア系触媒を非毒性のナトリウム系塩基触媒に代替し、アンモニア触媒の使用時に実現可能な熱伝導度および疎水化度を達成するために、酸性条件で表面改質工程を行うことを特徴とする。
【0018】
より詳細には、前記毒性のアンモニア系触媒は、弱塩基であることから、ゲルタイムと物性を確保するために多い量の使用が必要であるが、工程中にpHが相対的に低く、溶媒が蒸発しても乾燥時に収縮によるゲル構造の崩れ問題はなかった。しかし、非毒性のナトリウム系塩基触媒の場合は、強塩基であることから、工程中にpHを高くし、乾燥時にゲル構造の崩れ問題があった。これを解決するために、表面改質工程を酸性化して前記強塩基であるナトリウム系塩基触媒を中和させることで、塩の生成によりpHを低くしてゲル構造の崩れを防止することで、非毒性触媒を用いるにもかからわず、熱伝導度および疎水化度の高いエアロゲルブランケットを製造することができる。
【0019】
また、前記製造方法は、ナトリウム系塩基触媒の使用時、乾燥時に収縮現象が激しく現れるため、常圧乾燥工程の適用が不可能であり、超臨界乾燥により収縮が起こらないように精密な制御が必要であったが、表面改質工程の酸性化によりゲル構造の収縮を制御できることになり、常圧乾燥工程の適用が可能である。
【0020】
さらに、ナトリウム系塩基触媒は、強塩基であることから、少ない量を用いても十分なゲル化を誘導することができ、表面改質工程が酸性化され、表面改質時に強塩基である触媒と塩の生成による中和反応が誘導され、これにより、表面改質効率が向上する付随的な効果も期待することができる。
【0021】
以下、前記本発明のエアロゲルブランケットの製造方法を各ステップ別に詳細に説明することにする。
ステップ1:触媒化工程
本発明の一実施形態に係る前記ステップ1)は、シリカゾルおよびナトリウム系塩基触媒を混合し、触媒化されたシリカゾルを得るステップである。
【0022】
本発明において、前記触媒化されたシリカゾルは、シリカゾルとナトリウム系塩基触媒を混合して製造してもよく、塩基触媒は、シリカゾルのpHを増加させ、ステップ2)におけるゲル化を促進する役割をする。
【0023】
本発明の一実施形態に係るシリカゾルは、シリカ前駆体および有機溶媒を含むものであって、それを混合して製造してもよい。前記ステップ1)で触媒化されたシリカゾルは、シリカゾルと塩基触媒を混合して製造してもよく、ここで、前記シリカゾルは、シリカ前駆体と有機溶媒を混合して製造してもよく、追加的に水をさらに含んでもよく、含水された有機溶媒を用いてもよい。また、前記シリカ前駆体は、ゲル化を容易にするために低いpHにて加水分解を行ってもよく、この際、pHを低くするために酸触媒を用いてもよい。
【0024】
上記のシリカゾルの製造に使用可能なシリカ前駆体は、シリコン含有アルコキシド化合物であってもよく、具体的には、テトラメチルオルトシリケート(tetramethyl orthosilicate;TMOS)、テトラエチルオルトシリケート(tetraethyl orthosilicate;TEOS)、メチルトリエチルオルトシリケート(methyl triethyl orthosilicate)、ジメチルジエチルオルトシリケート(dimethyl diethyl orthosilicate)、テトラプロピルオルトシリケート(tetrapropyl orthosilicate)、テトライソプロピルオルトシリケート(tetraisopropyl orthosilicate)、テトラブチルオルトシリケート(tetrabutyl orthosilicate)、テトラセカンダリーブチルオルトシリケート(tetra secondary butyl orthosilicate)、テトラターシャリーブチルオルトシリケート(tetra tertiary butyl orthosilicate)、テトラヘキシルオルトシリケート(tetrahexyl orthosilicate)、テトラシクロヘキシルオルトシリケート(tetracyclohexyl orthosilicate)、テトラドデシルオルトシリケート(tetradodecyl orthosilicate)などのようなテトラアルキルシリケートであってもよい。中でも、より具体的に、本発明の一実施形態に係る前記シリカ前駆体は、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)であってもよい。
【0025】
また、本発明の一実施形態に係るシリカゾルにおいて、さらに含まれてもよい酸触媒は、pHを3以下となるようにする酸触媒であれば制限されずに使用可能であり、一例として、塩酸、硝酸、または硫酸を用いてもよい。この際、酸触媒は、ゾルのpHが3以下となるようにする量で添加してもよく、水溶媒に溶解させた水溶液状態で添加してもよい。
【0026】
本発明の一実施形態に係るシリカ前駆体は、前記シリカ前駆体が上記の酸触媒と予備反応により加水分解された状態であってもよく、例えば、テトラメチルオルトシリケート(tetramethyl orthosilicate;TMOS)、テトラエチルオルトシリケート(tetraethyl orthosilicate;TEOS)、メチルトリエチルオルトシリケート(methyl triethyl orthosilicate)、ジメチルジエチルオルトシリケート(dimethyl diethyl orthosilicate)、テトラプロピルオルトシリケート(tetrapropyl orthosilicate)、テトライソプロピルオルトシリケート(tetraisopropyl orthosilicate)、テトラブチルオルトシリケート(tetrabutyl orthosilicate)、テトラセカンダリーブチルオルトシリケート(tetra secondary butyl orthosilicate)、テトラターシャリーブチルオルトシリケート(tetra tertiary butyl orthosilicate)、テトラヘキシルオルトシリケート(tetrahexyl orthosilicate)、テトラシクロヘキシルオルトシリケート(tetracyclohexyl orthosilicate)、テトラドデシルオルトシリケート(tetradodecyl orthosilicate)などのようなテトラアルキルシリケートが酸触媒と反応して前加水分解された状態のものを直ちに適用してもよい。
【0027】
前記シリカ前駆体は、シリカゾル中に含まれるシリカ(SiO)の含量が3重量%~30重量%となるようにする量で用いられてもよい。前記シリカの含量が3重量%未満であると、最終的に製造されるブランケットでのシリカエアロゲルの含量が過度に低いため、目的とするレベルの断熱効果が期待できない問題が発生し得、30重量%超過である場合には、過度なシリカエアロゲルの形成により、ブランケットの機械的物性、特に柔軟性が低下する恐れがある。
【0028】
また、本発明のシリカゾルの製造に使用可能な有機溶媒は、シリカ前駆体および水との相溶性に優れるものであれば制限されずに使用可能であり、具体的には、極性有機溶媒を用いてもよく、より具体的には、アルコールを用いてもよい。ここで、アルコールは、具体的に、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのような1価アルコール;またはグリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、およびソルビトールなどのような多価アルコールであってもよく、これらのいずれか1つまたは2つ以上の混合物が用いられてもよい。中でも、水および今後製造されるエアロゲルとの混和性を考慮すると、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのような炭素数1~6の1価アルコールであってもよい。
上記のような有機溶媒は、最終的に製造されるエアロゲルの含量を考慮して適切な含量で用いられてもよい。
【0029】
本発明の一実施形態に係るシリカゾルは、シリカ前駆体と水が1:4~1:1のモル比で含まれてもよい。また、シリカ前駆体と有機溶媒が1:2~1:9の重量比で含まれてもよく、好ましくは1:4~1:6の重量比で含まれてもよい。シリカ前駆体が水および有機溶媒と前記モル比または重量比を満たす場合、エアロゲルの生産収率がさらに高くなることができるため、断熱性能の面で改善効果があり、具体的に、シリカゾル中のシリカ前駆体の密度が50kg/m~100kg/mとなるように、好ましくは50kg/m~80kg/mとなるように、より好ましくは60kg/m~80kg/mとなるように、前記範囲内で割合を調節してもよい。
【0030】
本発明の一実施形態によると、前記ナトリウム系塩基触媒は、無機塩基であってもよい。具体的に、水酸化ナトリウム(NaOH)またはケイ酸ナトリウム(Sodium silicate)であってもよく、一般的に強塩基と呼ばれるナトリウムを含む無機塩基であってもよい。
【0031】
一般的に用いられてきたアンモニア(NH)、水酸化アンモニウム(NHOH;アンモニア水)、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAH)、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、メチルアミン、エチルアミン、イソプロピルアミン、モノイソプロピルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、コリン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、2-アミノエタノール、2-(エチルアミノ)エタノール、2-(メチルアミノ)エタノール、N-メチルジエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、ニトリロトリエタノール、2-(2-アミノエトキシ)エタノール、1-アミノ-2-プロパノール、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジブタノールアミン、またはピリジンなどのアミンまたはアンモニアを含む物質の場合、工程中にアンモニアを発生させて毒性ガスが排出されるという問題があり、安全性に深刻な問題を起こし得、作業者への影響と、製品に含まれる場合に製品使用者への影響が益々問題として台頭しており、このようなアミンまたはアンモニア系の触媒の代替が求められている。
【0032】
本発明においては、上記のようなナトリウム系塩基触媒として非毒性の強塩基を用いることで、既存の触媒に比べて、少ない使用量でもゲル化が可能であり、ゲル化効率を向上させることができ、工程中に毒性物質が除去されるという長所があり、ゲルタイムが減って生産性が増大することができる。
【0033】
前記ナトリウム系塩基触媒は、ゾルのpHが9.0~11.0となるようにする量で含まれてもよい。前記触媒化されたシリカゾルのpHが前記範囲である場合、後述するステップ2)のゲル化効率の増大およびゲルタイムの縮小により生産性が増加することができ、毒性物質が工程中に無くなるという長所がある。また、前記ナトリウム系塩基触媒は、固相として投入時には析出される恐れがあるため、水溶媒または前記有機溶媒により希釈された溶液相として添加されることが好ましい。
【0034】
この際、前記ナトリウム系塩基触媒および有機溶媒、具体的にアルコールの希釈割合は、体積を基準として1:4~1:100であってもよい。また、前記ナトリウム系塩基触媒は、触媒化されたシリカゾルの体積を基準とした際に、ナトリウムイオンの濃度が1mmol/L~100mmol/Lであってもよく、好ましくは5mmol/L~50mmol/Lであってもよく、希釈程度は、強塩基の反応性を考慮した際に必要な適正レベルが適用されてもよく、ナトリウムイオンの濃度は、触媒として反応を促進できる程度のものとして、前記範囲内で適用されることが好ましい。
【0035】
一方、前記ナトリウム系塩基触媒は、濃度が10%~50%の水溶液であってもよく、好ましくは20%~40%の水溶液であってもよい。
本発明の一実施形態によると、前記触媒化されたシリカゾルは、必要に応じて添加剤をさらに添加してもよく、この際、添加剤は、エアロゲルを製造する際に添加可能な公知の添加剤はいずれも適用されてもよく、例えば、不透明化剤、難燃剤などの添加剤を用いてもよい。
【0036】
ステップ2:含浸およびゲル化工程
本発明の一実施形態に係るステップ2)は、湿潤ゲル-繊維複合体(湿潤ゲルブランケット)を製造するためのものであって、触媒化されたシリカゾルをブランケット用基材に含浸させ、含浸されたブランケット用基材内で触媒化されたシリカゾルをゲル化させるステップである。
【0037】
前記ステップ2)は、ブランケット用基材に触媒化されたシリカゾルを含浸させるものであって、前記ステップ1)で製造された触媒化されたシリカゾルおよびブランケット用基材を反応容器に投入することを介してブランケット用基材に触媒化されたゾルを含浸させる含浸槽を活用するか、コンベヤーベルト上でブランケット用基材が移動しつつ、移動するブランケット用基材に触媒化されたシリカゾルが噴霧されるロールツーロール技法を活用するか、またはこの2つの方法を組み合わせた方法を活用するなどの多様な方法を適用してもよい。
【0038】
本発明で用いられる用語「含浸」は、ブランケット用基材に流動性のある触媒化されたゾルを投入することでなされるものであって、ブランケット用基材内部の気孔に触媒化されたゾルが浸透することを示してもよい。
【0039】
本発明の一実施形態に係る前記ステップ2)は、反応容器にブランケット用基材と触媒化されたシリカゾルを投入するのであれば、その投入順は特に制限されない。具体的に、前記ステップ2)は、反応容器にブランケット用基材の投入後に触媒化されたシリカゾルを投入する方法、反応容器に触媒化されたシリカゾルの投入後にブランケット用基材を投入する方法、および反応容器に触媒化されたシリカゾルを投入しつつブランケット用基材を投入する方法のうちいずれか1つの方法で投入されてもよい。
【0040】
また他の例として、前記ステップ2)は、ブランケット用基材がコンベヤーベルト上で移動する過程でシリカゾルを噴霧することでブランケット用基材に含浸させる方法、または含浸槽とロールツーロール方法を組み合わせる方法などが適用され、ブランケット用基材に触媒化されたシリカゾルが含浸されてゲル化されてもよい。
【0041】
また、本発明の一実施形態に係るブランケット用基材は、エアロゲルブランケットの断熱性を改善するという面で、具体的には、多孔質(porous)基材であってもよい。多孔質のブランケット用基材を用いると、触媒化されたゾルが基材の内部に浸透しやすいため、ブランケット用基材の内部で均一にエアロゲルを形成することにより、製造されたエアロゲルブランケットが優れた断熱性を有することができる。
【0042】
本発明の一実施形態により使用可能なブランケット用基材は、フィルム、シート、網、繊維、発泡体、不織布体、またはこれらの2層以上の積層体であってもよい。また、用途に応じて、その表面に表面粗さが形成されるかパターン化されてもよい。より具体的には、前記ブランケット用基材は、ブランケット用基材内にエアロゲルの挿入が容易な空間または孔隙を含むことで断熱性能をさらに向上できる繊維であってもよい。また、前記ブランケット用基材は、低い熱伝導度を有することが好ましい。
【0043】
具体的に、前記ブランケット用基材は、ポリアミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリアラミド、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはこれらの共重合体など)、セルロース、カーボン、綿、毛、麻、不織布、ガラス繊維、またはセラミックウールなどであってもよく、より具体的に、本発明において、前記ブランケット用基材は、ガラス繊維(glass felt、glass fiber)であってもよい。
【0044】
前記ステップ1)において、触媒化されたシルラカゾルを投入する際に、ブランケット用基材と触媒化されたシリカゾルの結合を良くするために、ブランケット用基材を軽く押して十分に含浸されるようにしてもよい。その後、一定の圧力でブランケット用基材を一定厚さに加圧して余剰のゾルを除去して乾燥時間を減らしてもよい。
【0045】
本発明の一実施形態によると、ブランケット用基材の体積を基準として、触媒化されたシリカゾルを80体積%~120体積%、好ましくは90体積%~110体積%となる割合の量で投入してもよい。また、好ましくは、前記ブランケット用基材および触媒化されたシリカゾルの投入量は、上記の反応容器に対して投入量を満たす条件下で上記の相互間の投入割合を満たしてもよい。触媒化されたシリカゾルがブランケット用基材の体積に対して投入割合(投入量)を満たす場合、触媒化されたシリカゾルがブランケット用基材にさらに均一に含浸されることで、製造されるエアロゲルブランケットがさらに均一な物性を有することができ、触媒化されたシリカゾルがブランケット用基材に全て含浸できるため、原材料の損失を防ぎ、触媒化されたシリカゾルが単独でゲル化する問題を防止することができる。
【0046】
本発明の一実施形態によると、前記触媒化されたシリカゾルがブランケット用基材に含浸されることでゲル化が起こり、これにより、湿潤ゲル-繊維複合体が得られる。前記ゲル化(gelation)とは、触媒化されたシリカゾルから網状構造を形成させることであってもよく、前記網状構造(network structure)は、原子配列が1種もしくはそれ以上の種類になっている或る特定の多角形が連なった平面網状の構造、または特定の多面体の頂点、角、面などを共有して3次元骨格構造を形成している構造を示してもよい。
【0047】
本発明の一実施形態によると、前記ゲル化は、ブランケット用基材に触媒化されたシリカゾルを含浸させた後、0.5時間~2.0時間放置することでゲル化を誘導することができ、ゲル化は、20℃~50℃の温度範囲内で行われてもよく、好ましくは常温で行われてもよい。
【0048】
本発明の一実施形態によると、前記ステップ1)の完了以後に前記ステップ2)を開始し、前記ステップ1)および前記ステップ2)を順次行ってもよい。
本発明の他の一実施形態によると、前記ステップ1)の完了以前に前記ステップ2)を開始して行ってもよく、このように前記ステップ1)の完了以前にステップ2)を行う場合には、ゲル化が完了するまで、具体的にはゲル化が完了する前まで、触媒化されたゾルを反応容器に全部投入してもよい。
【0049】
付加工程:熟成工程
本発明の一実施形態に係る製造方法は、前記湿潤ゲル-繊維複合体を適当な温度で放置し、化学的変化が完全になされるようにするための工程として熟成ステップを追加的に行ってもよく、熟成ステップは、前記形成された網状構造をさらに堅固に形成させることができるため、本発明のエアロゲルブランケットの機械的安定性を強化させることができる。
【0050】
前記熟成ステップは、最適の気孔構造の強化のために適切な温度範囲で行われなければならず、本発明の熟成ステップは、30℃~70℃の温度で3時間~50時間放置させて行ってもよい。熟成温度が前記温度範囲である場合、適正レベルの熟成により生産性を確保することができ、有機溶媒の蒸発による損失を防止することができる。また、前記範囲の熟成時間は、熱伝導度および疎水化度を満たすことができる範囲として、好ましくは6時間~48時間、より好ましくは18時間~48時間であってもよい。
【0051】
前記熟成ステップにおいては、追加の触媒を投入しなくてもよい。熟成工程において追加の塩基性触媒を投入する場合には、湿潤ゲル-繊維複合体のpHが過度に高くなり得る。これにより、乾燥工程において収縮によるゲル構造の崩れが深化する問題が発生し得、繊維自体が損傷する可能性も排除できない。また、追加的に酸触媒を投入する場合には、熟成過程で湿潤ゲル-繊維複合体中の中和反応が起こり得る。これにより、疎水化基が置換されなければならないシラノール基が失われ、表面改質効率が低下する恐れがある。そこで、熟成ステップにおける追加触媒の投入はしないことが好ましい。
【0052】
また、本発明の一実施形態によると、前記熟成ステップは、ゲル化が完了したシリカ湿潤ゲル-繊維複合体を回収した後に別の反応容器で行われてもよく、またはゲル化が行われた反応容器の内部で行われてもよく、工程の効率および装置の簡素化の面で、好ましくは、ゲル化が行われた上記の反応容器で熟成ステップが行われてもよい。
【0053】
ステップ3:表面改質工程
本発明の一実施形態によると、ステップ3)は、前記ステップ2)で製造された湿潤ゲル-繊維複合体に表面改質剤および塩素系酸誘導水溶液を含む酸性表面改質溶液を投入して疎水化するステップである。
【0054】
エアロゲルの表面に存在する親水性官能基を疎水性官能基に置換する場合、疎水性官能基間の反発力により、エアロゲルの乾燥時、溶媒の表面張力による気孔の収縮を最小化することができる。乾燥されたエアロゲルは、乾燥直後には低い熱伝導率を維持するが、エアロゲルの表面に存在するヒドロキシ官能基、例えば、前記エアロゲルがシリカエアロゲルである場合、シリカの表面に存在する親水性のシラノール基(Si-OH)が空気中の水を吸収することで熱伝導率が次第に高くなるという短所がある。したがって、低い熱伝導率を維持するためには、エアロゲル表面を疎水性に改質する必要がある。
【0055】
したがって、本発明の一実施形態に係る前記表面改質は、極性溶媒および有機シラン化合物を含む表面改質剤により行われてもよい。
前記極性溶媒としては、メタノール、エタノール、またはイソプロピルアルコールなどが用いられてもよく、前記有機シラン化合物としては、トリメチルクロロシラン(Trimethylchlorosilane、TMCS)、ヘキサメチルジシラザン(hexamethyldisilazane、HMDS)、メチルトリメトキシシラン(methyltrimethoxysilane、MTMS)、トリメチルエトキシシラン(trimethylethoxysilane、TMES)、エチルトリエトキシシラン(ethyltriethoxysilane、ETES)、またはフェニルトリエトキシシラン(phenyltriethoxysilane、PTES)などが用いられてもよく、好ましくは、トリメチルエトキシシランまたはヘキサメチルジシラザンが用いられてもよい。
【0056】
前記表面改質は、極性溶媒の場合、湿潤ゲルに対して0.5~10.0の体積比で、有機シラン化合物の場合、湿潤ゲルに対して0.1~10.0の体積比で混合されることが好ましく、有機シラン化合物および極性溶媒を含む表面改質剤の場合、湿潤ゲルに対して0.5~10.0の体積比であってもよい。有機シラン化合物の湿潤ゲルに対する体積比が0.1未満である際には、反応時間が過度に長くなり、表面改質効率が低下し得、有機シラン化合物の体積比が10.0超過である際には、原価上昇の問題があり、未反応の表面改質剤が乾燥時に収縮を誘発し得る。
【0057】
このような体積比で有機シラン化合物と極性溶媒が混合されてもよく、混合された状態の表面改質剤は、有機シラン化合物が表面改質剤の総体積に対して10体積%~60体積%で含まれてもよい。表面改質剤中の有機シラン化合物の含量は、疎水化度および熱伝導度に影響を与えることができ、高含量であるほど改善されることができるが、60体積%を超過する場合には、追加の表面改質効率の増加はなく、廃有機シラン化合物の量だけ増加するため、前記範囲内で量を適宜調節する必要がある。また、前述した効果を期待するとともに、酸水溶液の投入量に応じて最終的なエアロゲルブランケットの表面改質効率、すなわち、疎水化度の偏差を最小化するためには、好ましくは15体積%~50体積%であってもよく、より好ましくは20体積%~50体積%であってもよく、さらに好ましくは25体積%~50体積%であってもよい。
【0058】
また、本発明の一実施形態によると、前記酸性表面改質溶液は、表面改質剤の他に、塩素系酸誘導水溶液を追加的に含む。塩素系酸誘導水溶液は、酸が水溶液状態に希釈されてもよく、10重量%~50重量%の濃度に希釈されてもよく、好ましくは20重量%~40重量%であってもよい。前記酸性表面改質溶液は、前記極性溶媒で希釈された有機シラン化合物である表面改質剤と水溶液相の希釈された塩素系酸の混合物であり、前記酸性表面改質溶液中の酸のモル数は、前記ステップ1)のナトリウム系塩基触媒を基準に決定されてもよい。
【0059】
具体的に、前記酸性表面改質溶液中の酸のモル数は、当量比でナトリウム系塩基触媒のナトリウムイオンのモル数に対して0.5当量~15当量であってもよく、好ましくは1当量~10当量であってもよい。酸のモル数が前記範囲を満たす場合には、pHを極酸性レベルにして表面改質反応の条件が酸性条件になるようにすることができ、これにより、中性ないし塩基性条件で発生するゲル構造の崩れを防止することができ、表面改質反応を促進できる媒介体の機能を行うことができる。この際、pHは0.2~3.5の範囲であってもよく、好ましくは0.3~3.0であってもよく、より好ましくは0.5~2.5であってもよい。
【0060】
より具体的に、表面改質剤としてトリメチルエトキシシラン(TMES)を用いる場合を例に挙げると、前記酸水溶液を表面改質溶液に含む場合、TMESがシリカゲル表面の(Si3+)(3OH)の反応サイトと反応して表面改質が行われるが、これと競争的にTMESが水と反応してヘキサジメチルシロキサン(HMDSO)とエタノールを形成し、ヘキサジメチルシロキサンは非常に安定した構造であることから、シリカゲル表面と表面改質反応を起こせないことにより、表面改質効率が低下し、これにより、乾燥工程において収縮によるゲル構造の崩れが発生し得る。しかし、塩素系酸誘導水溶液を投入する場合、例えば、塩酸水溶液を投入する場合には、TMESと水の反応に対して競争優位にTMESと塩酸の反応が起こることができ、TMESと塩酸の反応により、トリメチルクロロシラン(TMCS)を形成することができる。このTMCSは、TMESと同様に表面改質反応を行うことができる表面改質剤の機能をする有機シラン化合物であることから、表面改質効率が極大化されることができる。すなわち、表面改質効率を悪化させるHMDSOおよびエタノールの形成を抑制するとともに、表面改質剤を生成する反応を行うことになるため、投入していない場合に比べて表面改質効率が極大化されることができる。このようなメカニズムは、前述したように酸の塩基触媒に対する当量比に応じて活性化度が異なり得、前述した範囲を満たすように酸性表面改質溶液に酸を投入する場合に、その効果を極大化することができる。
【0061】
前記塩素系酸誘導水溶液は、具体的に、塩素系酸が含まれたものであるか、または塩素系酸を水溶液相にて発生できるものを意味し得る。例えば、塩素系酸誘導水溶液は、塩酸、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、またはメチルトリクロロシランなどが含まれた水溶液であってもよい。塩素系酸ではなく、窒素系酸または硫黄系酸が用いられる場合には、上記のようなメカニズムによりTMCSを形成することができないため、表面改質効率が低下し得、これにより、低い疎水化度が示し得る。
【0062】
本発明の一実施形態に係る製造方法において、前記ステップ3)の表面改質工程は、10時間~50時間行ってもよく、好ましくは15時間~50時間、より好ましくは18時間~48時間、さらに好ましくは24時間~48時間行ってもよい。上記のような表面改質工程を行う時間は、適切な疎水化度を得るためのものであって、最終的なエアロゲルブランケットの熱伝導度および疎水化度を一定レベル以上に実現するためには、上記の範囲内で行うことが好ましい。
【0063】
前記表面改質ステップは、ゲル化または熟成が完了したシリカ湿潤ゲル-繊維複合体を回収した後に別の反応容器で行われてもよく、またはゲル化または熟成が行われた反応容器の内部で行われてもよく、工程の効率および装置の簡素化の面で、好ましくは、ゲル化または熟成が行われた上記の反応容器で熟成および表面改質ステップが行われてもよい。
上記の表面改質ステップを行った以後には、疎水性の湿潤ゲル-繊維複合体を得ることができる。
【0064】
付加工程:洗浄工程
本発明の一実施形態に係る製造方法は、表面改質ステップを行った以後、乾燥ステップを行う前に洗浄するステップをさらに行ってもよい。前記洗浄は、反応中に発生した不純物(ナトリウムイオン、未反応物、副産物、塩など)を除去し、高純度の疎水性のシリカエアロゲルを得るためのものであってもよい。
【0065】
前記洗浄は、エタノール、またはエタノールおよび酸水溶液を用いた洗浄であってもよい。表面改質工程においては、ゲル化で用いられたナトリウム系塩基触媒と酸性表面改質溶液の中和反応により塩を生成することができ、塩の生成によりナトリウムイオンを容易に除去することができ、このような中和反応による洗浄を酸水溶液により行う場合には、表面改質ステップで行われた中和反応により塩の生成を誘導して不純物を除去する効果をさらに極大化することができ、この場合、疎水化度はさらに向上することができる。
【0066】
前記酸水溶液としては、表面改質工程において酸性表面改質溶液に含まれる酸水溶液と同様のものを用いてもよく、前記洗浄は、数回繰り返してもよいが、過度に多い回数を繰り返す場合、疎水化基が離脱する可能性があることを考慮して適切に制御する必要がある。
【0067】
ステップ4:乾燥工程
本発明の一実施形態により、ステップ3)を行った疎水化された疎水性の湿潤ゲル-繊維複合体は、乾燥するステップを行って疎水性のエアロゲルブランケットを製造する。
【0068】
本発明の一実施形態に係る前記乾燥ステップは、熟成されたゲルの気孔構造をそのまま維持しつつ溶媒を除去する工程により行われてもよく、前記乾燥ステップは、超臨界乾燥または常圧乾燥工程によってもよい。
【0069】
前記超臨界乾燥工程は、超臨界二酸化炭素を用いて行われてもよい。二酸化炭素(CO)は、常温および常圧では気体状態であるが、臨界点(supercritical point)と呼ばれる一定の温度および高圧の限界を越えると、蒸発過程が起こらないため、気体と液体の区別がつかない臨界状態となり、この臨界状態にある二酸化炭素を超臨界二酸化炭素という。
【0070】
超臨界二酸化炭素は、分子の密度は液体に近いが、粘性度は低いため気体に近い性質を有し、拡散が速く熱伝導性が高いため、乾燥効率が高く、乾燥工程時間を短縮させることができる。
【0071】
具体的に、前記超臨界乾燥工程は、超臨界乾燥反応器内に熟成された湿潤ゲルブランケットを入れた後、液体状態のCOを充填し、湿潤ゲル内部のアルコール溶媒をCOに置換する溶媒置換工程を行う。その後、一定の昇温速度、具体的には0.1℃/min~1.0℃/minの速度で、40℃~70℃に昇温させた後、二酸化炭素が超臨界状態となる圧力以上の圧力、具体的には100bar~150barの圧力を維持し、二酸化炭素の超臨界状態で一定時間、具体的には20分~1時間維持する。一般的に、二酸化炭素は、31℃の温度、73.8barの圧力にて超臨界状態となる。二酸化炭素が超臨界状態となる一定温度および一定圧力で2時間~12時間、より具体的には2時間~6時間維持した後、徐々に圧力を除去して超臨界乾燥工程を完了し、エアロゲルブランケットを製造することができる。
【0072】
また、常圧乾燥工程の場合、70℃~200℃の温度および常圧(1±0.3atm)下で熱風乾燥、IR drying、オーブン乾燥などの通常の方法により行われてもよい。
【0073】
本発明の一実施形態によると、前記製造方法は、常圧乾燥を行うことが好ましい。超臨界乾燥を行ってもよいが、超臨界乾燥の場合、高圧設備が必要であり、様々な工程条件の制御が難しいため、製品単価の上昇に大きい影響を及ぼすが、ゲル構造の崩れなしに溶媒を除去できる効率的な方法であるという点で適用されてきた。しかし、本発明の製造方法を適用する場合には、超臨界乾燥を適用せず、常圧乾燥を適用しても、ゲル構造の崩れを防止することができるため、高圧設備を必要とする超臨界乾燥工程を行わなくてもよいという長所があり、常圧乾燥だけでも超臨界乾燥に相応する効果を出すことができる。
【0074】
上記のような乾燥工程の結果として、ナノ大きさの気孔を有する多孔性エアロゲルを含むブランケットを製造することができる。特に、本発明の一実施形態に係るシリカエアロゲルは、高い疎水化度とともに、優れた物性的特性、特に低いタップ密度および高い気孔率を有しており、それを含むシリカエアロゲル含有ブランケットは、低い熱伝導度とともに優れた機械的柔軟性を有する。
【0075】
また、前記乾燥工程の前または後に、厚さの調節およびブランケットの内部組織と表面形状を均一にするための圧着工程、用途に応じて、適切な形態またはモルホロジを有するようにするための成形工程、または別の機能層を積層する積層工程などがさらに行われてもよい。
【0076】
前述したような製造方法によりエアロゲルブランケットを製造する場合、溶媒置換工程による不純物の除去および揮発しやすい溶媒に交換するなどの工程を行わなくてもよいため、工程の単純化が容易であり、付加工程である洗浄工程も行わなくても、十分に優れたレベルの物性が実現されたエアロゲルブランケットを提供することができるため、工程単純化のための工程設計における自由度を十分に確保することができる。
【0077】
3.エアロゲルブランケット
本発明は、均一な熱伝導度および疎水化度を有し、特に疎水化度に優れたエアロゲルブランケットを提供する。具体的に、前記エアロゲルブランケットは、短期疎水化度が4.0%以下であってもよく、長期疎水化度が26.0%以下であってもよく、好ましくは、短期疎水化度が3.5%以下であってもよく、長期疎水化度が25.4%であってもよく、より好ましくは、短期疎水化度は2.5%、長期疎水化度は22.0%であってもよく、さらに好ましくは、短期疎水化度は2.0%以下、長期疎水化度は20.0%以下であってもよい。また、長期疎水化度に対する短期疎水化度の比(短期疎水化度/長期疎水化度)が百分率で15.0%以下、好ましくは13.0%以下、より好ましくは12.0%以下であってもよく、さらに好ましくは10.0%以下であってもよい。ここで、短期疎水化度および長期疎水化度は、次のような測定方法により導出する。
【0078】
ASTM C1511に準じて、21±2℃の蒸留水の上に25.4cm×25.4cm大きさの試験片を浮かべ、試験片の上に6.4mmメッシュのスクリーンを載せ、水面の下127mmまで沈める。15分(短期)および96時間(長期)後にスクリーンを除去し、試験片が浮び上がると、クランプで試験片を取り出す。次いで、エアロゲル試験片を取り出した後、ASTM C1763に準じて表面の水気を2秒間ワイパー(Wiper)に吸収させる。この過程で含浸前と、含浸後の表面水を除去した後の重さを測定し、重さ増加率を計算するが、3個の試験片の平均値を短期および長期疎水化度に定義する。
【0079】
本発明の一実施形態に係るエアロゲルブランケットは、前述した製造方法により製造されることで、疎水化度が優れたレベル、すなわち、水分の含浸率が非常に低く、この水分の含浸率は、水分に長期間露出する場合にも増加するレベルが低いため、優れた疎水化度を有することができ、さらには、熱伝導度にも優れることができる。
【0080】
本発明のエアロゲルブランケットは、各種の産業用設備の配管や工業用炉のような保温保冷用プラント施設はいうまでもなく、航空機、船舶、自動車、建築構造物などの断熱材、保温材、または不燃材として有用に使用することができる。
【0081】
実施例
以下、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施することができるように本発明の実施例について詳しく説明する。ただし、本発明は、種々の異なる形態で実現されてもよく、ここで説明する実施例に限定されるものではない。
【0082】
実施例1
反応器に前加水分解されたTEOS(シリカ含量=20.1重量%、HTEOS)およびエタノール(含水率8重量%)を混合するが、目標密度が70kg/mとなるように混合し、シリカゾルを製造した。これに、濃度33%の水酸化ナトリウム(NaOH)をナトリウム系塩基触媒として投入するが、前記シリカゾルの体積に対してナトリウムイオンのモル濃度が10mmol/Lとなるように投入し、触媒化されたシリカゾルを製造した。前記触媒化されたシリカゾルが入った反応器にブランケット用基材としてガラス繊維(Glass fiber繊維マット、10mm)を入れ、シリカゾルをブランケット用基材に含浸させ、密閉状態で1時間放置しゲル化させて湿潤ゲル-繊維複合体を得た後、温度を60℃に昇温させた後、24時間放置して熟成を行った。
【0083】
その後、エタノール(含水率8重量%)にトリメチルエトキシシランが40体積%となるように希釈した溶液を湿潤ゲル-繊維複合体と同一の体積比となるように準備し、これに、酸性表面改質溶液中の塩酸がナトリウム系塩基触媒のナトリウムイオンのモル濃度を基準として5当量となるように50mmol/Lの塩酸水溶液を投入し、酸性表面改質溶液を製造した。これを反応器に投入し、60℃で24時間疎水化を行った。
最後に、150℃および常圧の条件で1時間オーブン乾燥し、シリカエアロゲルブランケットを製造した。
【0084】
実施例2~14および比較例1~9
前記実施例1において、下記表1に記載した条件に変更したことを除いては、実施例1と同様の方法でシリカエアロゲルブランケットを製造した。
【0085】
【表1】
【0086】
1)SS:ケイ酸ナトリウム(Sodium silicate)
2)アンモニア投入量:35mmol/L
【0087】
実験例
1)常温熱伝導度(mW/mK)および厚さ(mm)
各実施例および比較例で製造されたエアロゲルブランケットにおいて、30cm×30cm大きさを有するサンプルを各ブランケット当たりに5個ずつ準備し、サンプルに対してNETZSCH社のHFM 436 Lambda装置を用いて、常温(23±5℃)熱伝導度を測定した。この際、5個のサンプルは、各実施例および比較例で製造されたエアロゲルブランケットロールの最内側から最外側まで50cmの一定間隔で裁断して得た。5個のサンプルの熱伝導度をそれぞれ測定した。
【0088】
前記熱伝導度は、前記装置にて熱流束トランスデューサ(heat flux transducer)が高温プレート(hot plate)と低温プレート(cold plate)との間に位置したサンプルの熱流量(heat flow)を測定し、これにより熱伝導度値を知っている基準物質から較正係数(calibration factor、N)を得ることができ、このN値とサンプルの熱流量測定値から熱伝導度の計算値を得ることができる。この過程でサンプルの厚さも共に測定値として導出される。
【0089】
2)短期水分含浸率(wt%)
各実施例および比較例で製造されたシリカエアロゲルブランケットの水分含浸率を測定した。
【0090】
具体的に、ASTM C1511に準じて、21±2℃の蒸留水の上に25.4cm×25.4cm大きさの試験片を浮かべ、試験片の上に6.4mmメッシュのスクリーンを載せ、水面の下127mmまで沈める。15分後にスクリーンを除去し、試験片が浮び上がると、クランプで試験片を取って垂直に60±5秒間ぶら下げておく。その後、含浸前後の重さをそれぞれ測定するが、サンプル当たりに3個の試験片に対して前記過程を繰り返して重さ増加率の平均値を確認し、表面水を除去していない場合の水分含浸率として示した。
【0091】
また、ASTM C1763に準じて、エアロゲル試験片を取り出し、表面の水気を2秒間ワイパー(Wiper)に吸収させた後の重さを測定するが、3個の試験片に対して含浸前と、含浸後の表面水を除去した後の重さに対する重さ増加率の平均値を、表面水を除去した場合の水分含浸率として示した。水分含浸率が低いほど、エアロゲルブランケットの疎水化度が高いことを意味する。
【0092】
3)長期水分含浸率(wt%)
各実施例および比較例で製造されたシリカエアロゲルブランケットの水分含浸率を測定した。
【0093】
具体的に、ASTM C1511に準じて、21±2℃の蒸留水の上に25.4cm×25.4cm大きさの試験片を浮かべ、試験片の上に6.4mmメッシュのスクリーンを載せ、水面の下127mmまで沈める。96時間後にスクリーンを除去し、試験片が浮び上がると、クランプで試験片を取って垂直に60±5秒間ぶら下げておく。その後、含浸前後の重さをそれぞれ測定するが、サンプル当たりに3個の試験片に対して前記過程を繰り返して重さ増加率の平均値を確認し、表面水を除去していない場合の水分含浸率として示した。
【0094】
また、ASTM C1763に準じて、エアロゲル試験片を取り出し、表面の水気を2秒間ワイパー(Wiper)に吸収させた後の重さを測定するが、3個の試験片に対して含浸前と、含浸後の表面水を除去した後の重さを測定して重さ増加率の平均値を、表面水を除去した場合の水分含浸率として示した。水分含浸率が低いほど、エアロゲルブランケットの疎水化度が高いことを意味する。
【0095】
【表2】
【0096】
前記表2を参照すると、実施例1~14の場合、熱伝導度が低く、短期および長期水分含浸率が低いため、断熱材として優れた効果を実現したことが確認される。これに対し、比較例1~4の場合は、塩酸を用いない場合であって、表面改質剤の濃度を変化させても、熱伝導度が高いため、断熱材の性能として適切ではないことが確認される。疎水化度も短期および長期のいずれも劣悪なレベルであり、特に水分がエアロゲルブランケットの内部深くに浸透しており、表面水を除去してもその差が大きくないため、含浸された水分を除去するのも容易ではないことを確認することができる。また、比較例5および6の場合、既存のようにアンモニア触媒を用いた場合であって、熱伝導度や短期疎水化度は実施例と類似レベルであると見られるが、長期疎水化度は劣悪であり、表面ではなく内部に水分が多量含浸されており、水分が容易に除去されにくい特性を有することを確認することができる。
【0097】
さらに、比較例7および8は、酸性表面改質溶液に塩酸の代わりに硝酸を用いた場合であって、硝酸の使用時には、アンモニアの塩基触媒を用いようが、水酸化ナトリウムの塩基触媒を用いようが、物性に影響を与えないことが確認される。これにより、水酸化ナトリウムと酸性表面改質溶液の塩酸のシナジー効果があることを確認することができる。