(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】スフィンゴシン-1-リン酸受容体アゴニストの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/454 20060101AFI20241210BHJP
A61K 31/4439 20060101ALI20241210BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20241210BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
A61K31/454
A61K31/4439
A61P17/00
A61P37/08
(21)【出願番号】P 2023519550
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 KR2021013097
(87)【国際公開番号】W WO2022065939
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】10-2020-0125583
(32)【優先日】2020-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】キ・チャン・キム
(72)【発明者】
【氏名】テ・フン・キム
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-513126(JP,A)
【文献】国際公開第2013/094761(WO,A1)
【文献】Thomas Herzinger et al.,Sphingosine-1-Phosphate Signaling and the Skin,Am J Clin Dermatol,2007年,8,329-336,DOI:10.2165/00128071-200708060-00002
【文献】Mayurkumar Tamakuwala et al.,Fingolimod hydrochloride gel shows promising therapeutic effects in a mouse model of atopic dermatitis,Journal of Pharmacy and Pharmacology,2016年,68,1268-1277,DOI: 10.1111/jphp.12588
【文献】Takumi Tsuji et al.,Therapeutic approach to mite-induced intractable dermatitis using novel immunomodulator FTY720 ointment (fingolimod) in NC/Nga mice,Allergology International,2016年,65,172-179,DOI:10.1016/j.alit.2015.10.009
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 17/00-17/18
A61P 37/00-37/08
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量の下記式(1)
【化1】
[式中、Xは、炭素又は窒素であり;
R1は、水素又はアルキルであり;
R2は、水素、アルキル、ハロゲン、CN、CF
3又はCOCF
3であり;
R3及びR4は、それぞれ独立して、水素、アルキル、ハロゲン、ハロアルキル又はアルコキシアルキルであり;
R5は、水素、アルキル又はハロゲンであり;
R6は、
【化2】
(ここで、R7は、水素又はアルキルであり、m及びnは、それぞれ独立して、0、1、2又は3である。)である。]で示される化合物又はその薬学的に許容される塩を含む、アトピー性皮膚炎の予防又は治療のための薬剤。
【請求項2】
Xは、CH又はNであり;
R1は、水素又はC
1-C
5アルキルであり;
R2は、水素、C
1-C
5アルキル、ハロゲン、CN、CF
3又はCOCF
3であり;
R3及びR4は、それぞれ独立して、水素、C
1-C
5アルキル、ハロゲン、ハロ-C
1-C
5アルキル又はC
1-C
5アルコキシ-C
1-C
5アルキルであり;
R5は、水素、C
1-C
5アルキル又はハロゲンであり;
R6は、
【化3】
(ここで、R7は、水素又はC
1-C
5アルキルであり、m及びnは、それぞれ独立して、0、1、2又は3である。)である、請求項1に記載のアトピー性皮膚炎の予防又は治療のための薬剤。
【請求項3】
前記式(1)の化合物が、下記式(2)
【化4】
で示される1-[1-クロロ-6-(3-クロロ-1-イソプロピル-1H-インダゾール-5-イルメトキシ)-3,4-ジヒドロ-ナフタレン-2-イルメチル]-ピペリジン-4-カルボン酸である、請求項1に記載のアトピー性皮膚炎の予防又は治療のための薬剤。
【請求項4】
前記薬学的に許容される塩が、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、酒石酸、ギ酸、クエン酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、グルコン酸、安息香酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸及びナフタレンスルホン酸からなる群から選ばれる、請求項1に記載のアトピー性皮膚炎の予防又は治療のための薬剤。
【請求項5】
治療有効量の下記式(1)
【化5】
[式中、Xは、炭素又は窒素であり;
R1は、水素又はアルキルであり;
R2は、水素、アルキル、ハロゲン、CN、CF
3又はCOCF
3であり;
R3及びR4は、それぞれ独立して、水素、アルキル、ハロゲン、ハロアルキル又はアルコキシアルキルであり;
R5は、水素、アルキル又はハロゲンであり;
R6は、
【化6】
(ここで、R7は 水素又はアルキルであり
、m及びnは、それぞれ独立して、0、1、2又は3である。)である。]で示される化合物又はその薬学的に許容される塩を含み、さらに薬学的に許容される担体を含む、アトピー性皮膚炎の予防又は治療のための医薬組成物。
【請求項6】
Xは、CH又はNであり;
R1は、水素又はC
1-C
5アルキルであり;
R2は、水素、C
1-C
5アルキル、ハロゲン、CN、CF
3又はCOCF
3であり;
R3及びR4は、それぞれ独立して、水素、C
1-C
5アルキル、ハロゲン、ハロ-C
1-C
5アルキル又はC
1-C
5アルコキシ-C1-C5アルキルであり;
R5は、水素、C
1-C
5アルキル又はハロゲンであり;
R6は、
【化7】
(ここで、R7は、水素又はC
1-C
5アルキルであり、m及びnは、それぞれ独立して、0、1、2又は3である。)である、請求項5に記載のアトピー性皮膚炎の予防又は治療のための医薬組成物。
【請求項7】
前記式(1)の化合物が、下記式(2)
【化8】
で示される1-[1-クロロ-6-(3-クロロ-1-イソプロピル-1H-インダゾール-5-イルメトキシ)-3,4-ジヒドロ-ナフタレン-2-イルメチル]-ピペリジン-4-カルボン酸である、請求項5に記載のアトピー性皮膚炎の予防又は治療のための医薬組成物。
【請求項8】
前記薬学的に許容される塩が、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、酒石酸、ギ酸、クエン酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、グルコン酸、安息香酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸及びナフタレンスルホン酸からなる群から選ばれる、請求項5に記載のアトピー性皮膚炎の予防又は治療のための医薬組成物。
【請求項9】
治療有効量の下記式(1)
【化9】
[式中、Xは、炭素又は窒素であり;
R1は、水素又はアルキルであり;
R2は、水素、アルキル、ハロゲン、CN、CF
3又はCOCF
3であり;
R3及びR4は、それぞれ独立して、水素、アルキル、ハロゲン、ハロアルキル又はアルコキシアルキルであり;
R5は、水素、アルキル又はハロゲンであり;
R6は、
【化10】
(ここで、R7は、水素又はアルキルであり、m及びnは、それぞれ独立して、0、1、2又は3である。)である。]で示される化合物又はその薬学的に許容される塩
を含む、アトピー性皮膚炎の予防又は治療方法
で使用するための組成物。
【請求項10】
アトピー性皮膚炎の予防又は治療のための医薬を製造するための、下記式(1)
【化11】
[式中、Xは、炭素又は窒素であり;
R1は、水素又はアルキルであり;
R2は、水素、アルキル、ハロゲン、CN、CF
3又はCOCF
3であり;
R3及びR4は、それぞれ独立して、水素、アルキル、ハロゲン、ハロアルキル又はアルコキシアルキルであり;
R5は、水素、アルキル又はハロゲンであり;
R6は、
【化12】
(ここで、R7は、水素又はアルキルであり、m及びnは、それぞれ独立して、0、1、2又は3である。)である。]で示される化合物又はその薬学的に許容される塩の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アトピー性皮膚炎の予防又は治療するための下記式(1)
【化1】
(式中、X、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、本明細書で定義したものと同義である。)で示される化合物又はその薬学的に許容される塩の使用に関るものである。
【背景技術】
【0002】
スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)は、セラミドが出発物質である細胞内セラミド経路を介して生成される。セラミドは、2つの経路を介して生成されており、最初の経路はデノボ生合成経路である。また、セラミドは、細胞内で細胞膜構成物質であるスフィンゴミエリンが分解(degradation)されることによっても生成される。各組織でのS1Pレベルは、2つの生合成スフィンゴシンキナーゼ(SphKs)と2つの生分解S1Pホスファターゼ(S1Pリアーゼ及びリゾリン脂質ホスファターゼ)によって調節される。スフィンゴシンキナーゼによるスフィンゴシンのリン酸化を介して生成されるS1Pは、細胞の増殖、細胞骨格の組織化及び移動(cytoskeletal organization and migration)、付着-(adherence-)及びタイトジャンクションアセンブリ(tight junction assembly)、形態発生(morphogenesis)などの様々な細胞反応を媒介することが知られている。S1Pは、血漿中に高濃度(100~1000nM)のアルブミンを含む血漿タンパク質と結合された形態で存在する反面、組織内に低レベルの濃度で存在している。
【0003】
S1Pは、G-タンパク質共役受容体であるS1P受容体に結合し、様々な生物学的機能を示す。S1P受容体のサブ-タイプとしては、現在までにS1P1~S1P5の5種類が知られており、それぞれ内皮分化遺伝子(EDG)受容体1、5、3、6及び8と名付けられている。S1P受容体は、白血球の再循環(leukocyte recirculation)、神経細胞の増殖(neural cell proliferation)、形態変形(morphological changes)、移動(migration)、内皮機能(endothelial function)、血圧機能調節(vasoregulation)及び心血管の発生(cardiovascular development)など、様々な生物学的機能に関与していることが知られている。
【0004】
近年、これら受容体を介したS1Pシグナル伝達過程が、炎症反応と修復(repair)プロセスなど、多発性硬化症と関連する一連の反応において重要な役割を果たしていることが多くの研究によって明らかにされており、非選択的S1P1アゴニストは、多発性硬化症の治療剤として実際に承認された。S1P受容体は、多発性硬化症の誘発に関連する多くの細胞で広く発現している。特に、S1P1受容体は免疫体系において重要な役割を果たしている。S1P1受容体は、主にT細胞及びB細胞などのリンパ球(lymphocyte)の表面で発現し、S1Pと反応してリンパ球の再循環に関与する。正常な状態では、S1P濃度は、リンパ組織よりも体液の方が高いため、リンパ球はS1P濃度の差によってリンパ組織から離れ、遠心性リンパ液に沿って循環する。しかし、S1P1アゴニストによって、リンパ球のS1P1受容体が下方調節(down-regulation)されると、リンパ組織からのリンパ球の離脱(egress)が起こらず、中枢神経系(CNS)で炎症と組織損傷を引き起こす自己攻撃性リンパ球の浸潤が減少する。その結果、多発性硬化症に対する治療効果が得られる。非選択的S1P1 アゴニストであるフィンゴリモドは、多発性硬化症の治療のための経口剤として承認された。S1P1受容体に結合して活性化すると、逆説的に受容体がリンパ球表面から内在化(internalization)又は分解(degradation)され、機能的なS1P1拮抗作用として作用することになる。
【0005】
このようなS1P受容体に関して、特許文献1(WO 2014/129796号(公開日:2014年8月28日)は、S1P受容体アゴニストとして効果的な化合物を開示している。
【0006】
一方、アトピー性皮膚炎は、慢性的再発性皮膚湿疹疾患であり、これまで原因は明確に解明されていなかったが、外部抗原の作用により免疫関連因子が過剰反応することが報告された。アトピー性皮膚炎に使用される薬は、主に免疫抑制剤、局所ステロイド製剤、抗ヒスタミン剤などである。しかし、これらの薬剤の使用による副作用やアトピー性皮膚炎の改善に限界があった。その結果、アトピー性皮膚炎をより効果的に予防又は治療できる新薬が持続的に必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、アトピー性皮膚炎の予防又は治療するための下記式(1)
【化2】
(式中、X、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、本明細書で定義したものと同義である)で示される化合物又はその薬学的に許容される塩の使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、治療有効量の下記式(1)
【化3】
[式中、Xは、炭素又は窒素であり;
R1は、水素又はアルキルであり;
R2は、水素、アルキル、ハロゲン、CN、CF
3又はCOCF
3であり;
R3及びR4は、それぞれ独立して、水素、アルキル、ハロゲン、ハロアルキル又はアルコキシアルキルであり;
R5は、水素、アルキル又はハロゲンであり;
R6は、
【化4】
(ここで、R7は、水素又はアルキルであり、m及びnは、それぞれ独立して0、1、2又は3である。)である。]で示される化合物又はその薬学的に許容される塩を含む、アトピー性皮膚炎の予防又は治療のための薬剤を提供する。
【0010】
また、本発明は、治療有効量の前記式(1)の化合物又はその薬学的に許容される塩を、薬学的に許容される担体と共に含む、アトピー性皮膚炎の予防又は治療のための医薬組成物を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、治療有効量の前記式(1)の化合物又はその薬学的に許容される塩を、それを必要とする対象に投与することを含む、アトピー性皮膚炎を予防又は治療する方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、アトピー性皮膚炎を予防又は治療するための前記式(1)の化合物又はその薬学的に許容される塩の使用を提供する。
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の一側面によれば、治療有効量の前記式(1)の化合物又はその薬学的に許容される塩を含む、アトピー性皮膚炎の予防又は治療のための薬剤が提供される。
【0015】
本発明の別の側面によれば、治療有効量の前記式(1)の化合物又はその薬学的に許容される塩を含み、さらに薬学的に許容される担体を含む、アトピー性皮膚炎の予防又は治療のための医薬組成物が提供される。
【0016】
前記式(1)の化合物の製造方法は、国際公開番号WO2014/129796A1号に詳細に記載されており、前記文献は参照により本明細書に組み込まれる。
【0017】
本発明による一実施形態では、前記式(1)において、
Xは、CH又はNであり;
R1は、水素又はC
1-C
5アルキルであり;
R2は、水素、C1-C5アルキル、ハロゲン、CN、CF
3又はCOCF
3であり;
R3及びR4は、それぞれ独立して、水素、C
1-C
5アルキル、ハロゲン、ハロ-C
1-C
5アルキル又はC
1-C
5アルコキシ-C
1-C
5アルキルであり;
R5は、水素、C1-C5アルキル又はハロゲンであり;
R6は、
【化5】
(ここで、R7は、水素又はC
1-C
5アルキルであり、m及びnは、それぞれ独立して、0、1、2又は3である。)である。
【0018】
本発明による別の実施形態で、前記式(1)の化合物は、下記式(2)
【化6】
で示される1-[1-クロロ-6-(3-クロロ-1-イソプロピル-1H-インダゾール-5-イルメトキシ)-3,4-ジヒドロ-ナフタレン-2-イルメチル]-ピペリジン-4-カルボン酸である。
【0019】
本発明による別の実施形態において、前記薬学的に許容される塩は、例えば薬学的に許容されるアニオンを含有する無毒性酸付加塩を形成する酸、例えば塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸などの無機酸、酒石酸、ギ酸、クエン酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、グルコン酸、安息香酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸などの有機カルボン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸又はナフタレンスルホン酸などのスルホン酸などによって形成された酸付加塩が含まれるが、これらに限定されない。
【0020】
本発明による別の実施形態では、個々の対象の「治療有効量」は、前記した薬理学的効果、すなわち前記治療効果を達成するのに十分な量を意味する。化合物の量は、対象の状態及び重症度、投与方式、及び治療対象の年齢に応じて変化し得るが、当業者はその知識に基づいて決定することができる。
【0021】
本発明による別の実施形態において、前記式(1)の化合物の治療有効投与量は、例えば、通常、投与の頻度と強度に応じて1日当たり約0.1~500mgの範囲である。成人に筋肉内又は静脈内投与の典型的な1日量は、分割単位用量で投与することができる1日当たり約0.1~300mgの範囲である。一部の患者は、より高い1日用量を必要とすることがある。
【0022】
本発明において、「医薬組成物」とは、本発明の有効成分に加えて、担体、希釈剤、賦形剤などの他の成分を含んでいてもよい。したがって、前記医薬組成物は、必要に応じて、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、又はそれらの組み合わせを含むことができる。医薬組成物は、体内への活性化合物の投与を容易にする。化合物を投与するための様々な方法には、経口、注射、エアロゾル、非経口及び局所投与などが含まれるが、これらに限定されない。
【0023】
本明細書において、「担体(carrier)」とは、細胞又は組織への化合物の投入を容易にする化合物を意味する。例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)は、生きている細胞又は組織への多くの有機化合物の投入を容易にする従来の担体である。
【0024】
本明細書において、「希釈剤」とは、生物学的に活性形態を安定化するだけでなく、化合物を溶解する溶媒に希釈される化合物を意味する。当該分野では、緩衝液に溶解した塩が希釈剤として使用される。従来使用されている緩衝液は、体液中の塩の形態を模倣したリン酸緩衝生理食塩水である。緩衝溶液は低濃度で溶液のpHを制御できるため、緩衝希釈剤は化合物の生物学的活性をほとんど変更しない。
【0025】
本明細書において、「薬学的に許容される」とは、化合物の生物学的活性と物性を損なわない性質を意味する。
【0026】
本発明の化合物は、様々な薬学的に投与される剤形として製剤化することができる。本発明による医薬組成物を製造する場合、有効成分、具体的には、式(1)の化合物又はその薬学的に許容される塩は、製造される剤形を考慮して選択された薬学的に許容される担体と混合される。例えば、本発明による医薬組成物は、必要に応じて、注射剤、経口剤などに製剤化することができる。
【0027】
本発明の化合物は、公知の医薬用担体と賦形剤を用いて常法により製剤化し、単位用量形態又は多用量容器に充填することができる。製剤の形態は油性又は水性溶媒中の溶液、懸濁液又はエマルジョンであってもよく、従来の分散剤、懸濁剤又は安定化剤を含む。また、化合物は、例えば、使用前に滅菌された発熱物質が除去された水に溶解される乾燥粉末の形態であってもよい。本発明の化合物は、ココアバター又は他のグリセリドなどの従来の座薬基剤を使用することにより、坐剤に製剤化することもできる。経口投与のための固体形態には、カプセル剤、錠剤、丸剤、粉末及び顆粒が含まれる。特にカプセル剤と錠剤が好ましい。錠剤及び丸剤は、好ましくは腸溶性コーティングされている。固体形態は、本発明の化合物をショ糖、乳糖、デンプンなどの一つ以上の不活性希釈剤及びステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、崩壊剤、結合剤などから選択される少なくとも1つの担体と混合することによって製造することができる。また、経皮剤形として、例えば、ローション、軟膏、ゲル、クリーム、パッチ又はスプレーとして剤形化することができる。
【0028】
本明細書において、「予防」とは、疾患にかかる可能性を低減又は排除することを指す。
【0029】
本明細書において、「治療」とは、疾患の症状を示す対象における疾患の進行を抑止、遅延又は改善することを意味するために使用される。
【発明の効果】
【0030】
本発明による医薬又は医薬組成物は、アトピー性皮膚炎を効果的に予防又は治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】アトピー性皮膚炎動物モデルの誘導過程を示した概略図である。
【
図2】アトピー性皮膚炎動物モデルに試験物質を投与した後の耳の厚さの減少を測定した結果である。
【
図3】アトピー性皮膚炎動物モデルに試験物質を投与した後の耳の重量の減少を測定した結果である。
【
図4】アトピー性皮膚炎動物モデルに試験物質を投与した後の血中IgE値の低下を測定した結果である。
【
図5】アトピー性皮膚炎動物モデルに試験物質を投与した後の上皮厚の減少を測定した結果である。
【
図6】アトピー性皮膚炎動物モデルに試験物質を投与した後の肥満細胞の蓄積の減少を測定した結果である。
【
図7】アトピー性皮膚炎の動物モデルにおける対照物質であるエトラシモドと比較して測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本願発明を実施例により詳細に説明する。しかしながら、本発明の保護範囲はこれらの例に限定されないことを理解すべきである。
【0033】
製造例:1-[1-クロロ-6-(3-クロロ-1-イソプロピル-1H-インダゾール-5-イルメトキシ)-3,4-ジヒドロ-ナフタレン-2-イルメチル]-ピペリジン-4-カルボン酸の合成
1-[1-クロロ-6-(3-クロロ-1-イソプロピル-1H-インダゾール-5-イルメトキシ)-3,4-ジヒドロ-ナフタレン-2-イルメチル]-ピペリジン-4-カルボン酸(以下、「試験化合物」という)を国際公開番号WO2014/129796 A1号の実施例153に記載された方法に従って製造した。
【0034】
実施例1:アトピー性皮膚炎動物モデルの誘導
アトピー性皮膚炎動物モデルは、オキサゾロン(oxazolone)を使用してマウス(Balb/c)で誘導した。オキサゾロンの初回感作日を0にとし、7目から1日1回、経口又は経皮投与した。オキサゾロン適用日と薬物投与日が重なった場合、オキサゾロン適用後約6時間後に薬物を投与した。
【0035】
すべてのマウスについて、オキサゾロンの最初の適用の1日前に腹部毛を取り除いた。次に、1%または0.2%オキサゾロンを 4:1 比のアセトン/コーン油を使用して製造し、表1及び
図1に示すように、剃毛したマウスの腹部と両耳に対する減作及び誘導を同じ用量及びスケジュールで行った。
【0036】
【0037】
実施例2:経口投与物質の調製
試験物質(試験化合物及び陽性対照としてのデキサメタゾン)は、0.5%メチルセルロースを使用して以下の表2に示すように各投与量ついて調製した。試験化合物の場合は、HCl塩の形態を考慮して調製した。試験物質を0.5%メチルセルロースに溶解し、超音波処理した。完全に溶解しない場合は懸濁状態で投与した。
【0038】
実施例3:経皮(局所)投与物質の調製
試験物質は0.1%(w/v)濃度で溶液(PEG400:100%エタノール=1:1)に溶解して調製した。10mgの試験物質にPEG400 5mLを加え、超音波処理した。ある程度溶解したら、100%エタノール5mL を加え、超音波処理して完全に溶解させた。また、ビヒクル及び試験物質を毎日新しく調製して使用した。
【0039】
【0040】
実施例4:測定結果
試験物質投与後14日目及び21日目に耳の厚さの減少を測定し、その結果を表3及び
図2に示した。試験物質投与後21日目に、剖検後に耳の重量の減少を測定し、その結果を表3及び
図3に示した。試験物質投与後21日目に、IgEの血中濃度の低下を測定し、その結果を表3及び
図4に示した。また、試験物質投与後21日目に耳組織の上皮の厚さの減少及び肥満細胞の蓄積を測定し、その結果を表3、
図5及び
図6に示した。
【0041】
【0042】
表3及び
図2~6から分かるように、試験化合物は、オキサゾロン誘導アトピー性皮膚炎動物モデルにおいて、デキサメタゾン(陽性対照)と比較して用量依存的に優れた効果を示したことがわかる。このような結果から、本発明の化合物はアトピー性皮膚炎の予防又は治療薬として使用できることが確認された。
【0043】
実施例5:比較実験
別のS1P受容体アゴニストであるエトラシモド(2-[(3R)-7-[[4-シクロペンチル-3-(トリフルオロメチル)フェニル]メトキシ]-1,2,3,4-テトラヒドロシクロペンタ[b]インドール-3-イル]酢酸)との比較のために、耳の厚さの減少、耳の重量の減少、IgEの血中濃度、耳組織の上皮厚さの減少及び肥満細胞蓄積を実施例4と同様の方法で測定し、その結果を表4及び
図7に示した。
【0044】
【0045】
表4及び
図7から分かるように、試験化合物は、対照物質であるエトラシモドと比較して、低用量でも同等又は優れた効果を示したことが分かった。このような結果から、全身露出による副作用は、より良い効能を得るために同じ量を投与するか、特定のレベルの効能を達成するために低用量を投与することによって最小限に抑えることができると期待できた。また、S1P受容体アゴニストにより徐脈(brachycardia)を誘発するGIRKs(Gタンパク質共役内向き整流カリウムチャネル)との親和性が低いことから、副作用の有意性を期待することができる。