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特許7601537減摩性塗膜を形成する水性塗膜形成性組成物、それを用いるエアバッグ
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  • 特許-減摩性塗膜を形成する水性塗膜形成性組成物、それを用いるエアバッグ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】減摩性塗膜を形成する水性塗膜形成性組成物、それを用いるエアバッグ
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/06 20060101AFI20241210BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20241210BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20241210BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20241210BHJP
   C09D 183/08 20060101ALI20241210BHJP
   D06M 15/643 20060101ALI20241210BHJP
   B60R 21/235 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C09D183/06
C09D5/02
C09D7/61
C09D7/65
C09D183/08
D06M15/643
B60R21/235
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021528191
(86)(22)【出願日】2020-06-12
(86)【国際出願番号】 JP2020023277
(87)【国際公開番号】W WO2020255894
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2019115215
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】719000328
【氏名又は名称】ダウ・東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野副 次雄
(72)【発明者】
【氏名】兒島 和彦
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-516522(JP,A)
【文献】国際公開第2012/002571(WO,A1)
【文献】特開2010-235931(JP,A)
【文献】国際公開第2020/255895(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D1/00-10/00;101/00-201/00
B60R21/235
D06M11/77;11/79:15/53;15/643
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)タルクである固形潤滑剤、
(B)(b1)ポリアクリル酸ナトリウムおよび(b2)ベントナイトを予混合してなり、(b1)成分が、(B)成分全体の0.1~40質量%の範囲である増粘剤、
および
(C)(c1)イオン性乳化剤、(c2)ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合型ノニオン乳化剤、および(c3)25℃における粘度が、100,000mPa・s~20,000,000mPa・sの範囲であり、ケイ素原子に結合した水酸基または加水分解性基を1分子中に少なくとも2個有するポリオルガノシロキサンを含有し、(c3)成分 100質量部に対して、さらに、(c4)コロイダルシリカ(固形分換算)20~100質量部を含み、そのエマルジョン粒子の平均一次粒子径が50~600nmの範囲である水中油型シリコーンエマルジョンの形態であるシリコーン系バインダー
を含有し、水分の除去により、
乾燥皮膜全体を100質量%とした場合、
40~80質量%の前記(A)固形潤滑剤、
0.50~10質量%の前記(B)増粘剤、
10~49.5質量%の前記(C)シリコーン系バインダー(固形分)を含み、かつ、
当該乾燥皮膜中に、0.60~0.97質量%の前記(c2)ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合型ノニオン乳化剤を含み、
基材表面の摩擦および/またはブロッキングを低減する減摩性の乾燥塗膜を形成する、水性塗膜形成性組成物。
【請求項2】
分を含めた組成物全体の5~40質量%が(A)成分である、請求項1に記載の水性塗膜形成性組成物。
【請求項3】
(c3)成分が、(c3)成分の前駆体である(c3a)ケイ素原子に結合した水酸基または加水分解性基を1分子中に少なくとも2個有するポリオルガノシロキサンおよび(c3b)ケイ素原子に結合したアミノキシ基を1分子中に平均で2個有するアミノキシ基含有有機ケイ素化合物を前記の(c1)成分、および、前記の(c2)成分の存在下で乳化重合させてなるポリオリガノシロキサンである、請求項に記載の水性塗膜形成性組成物。
【請求項4】
シリコーンゴム表面に摩擦またはブロッキングを低減する減摩性の乾燥塗膜を形成する目的で使用される、請求項1~のいずれか1項に記載の水性塗膜形成性組成物。
【請求項5】
エアバッグ用またはエアバッグへと形成される被覆ファブリック用のコーティング剤である、請求項1~のいずれか1項に記載の水性塗膜形成性組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の水性塗膜形成性組成物を、シリコーンゴム表面を備えた基材上に基材表面の摩擦またはブロッキングを低減する減摩性の乾燥塗膜を形成するための使用。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の水性塗膜形成性組成物から水分を除去してなる、基材表面の摩擦またはブロッキングを低減する減摩性の乾燥塗膜を有する基材。
【請求項8】
前記の乾燥塗膜が、シリコーンゴム表面に上塗りされた構造を有する、請求項に記載の基材。
【請求項9】
前記基材が、エアバッグ、又は、その後エアバッグへと形成される被覆ファブリックである、請求項または請求項に記載の基材。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の水性塗膜形成性組成物から水分を除去してなる乾燥塗膜により、基材上のシリコーンゴム表面が被覆された構造を有する、エアバッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンゴム表面に塗布した場合、低い塗布量かつ厚さ30μm以下の薄膜状に塗布した場合であっても、はじきや塗工不良を生じることなく、均一性に優れた塗膜を形成することができ、基材の表面に塗布して水分を除去することで、該表面の基材表面の摩擦および/またはブロッキングを低減する減摩性の乾燥塗膜を形成する水性塗膜形成性組成物に関する。特には、シリコーンゴム(以下、「シリコーンエラストマー」と表現する場合がある)の下地塗りによって被覆されたエアバッグ及びエアバッグ用ファブリックのシリコーンゴム表面に上塗りとして塗布するのに適切な水性塗膜形成性組成物、それを用いる基材の表面処理方法および前記の減摩性の乾燥塗膜を備える基材、特にエアバッグに関する。
【背景技術】
【0002】
エアバッグは、概して、合成繊維、例えば、ナイロン-6,6若しくはポリエステル等のポリアミド製の織物又は編物から作製され、その面の少なくとも一方はエラストマーの層によって被覆されている。エアバッグは、充分な機械的強度を提供するべく、被覆された後に縫合された平らなファブリック片から作製されるか、又は、一体的に織られた、継ぎ目を有する1つの片に織られていてもよい。縫合されたエアバッグは一般的には、エアバッグ内部において、被覆されたファブリック表面と組み合わせられる。1つの片に織られたエアバッグは、エアバッグの外側が被覆される。エアバッグ又はエアバッグファブリックを被覆するのに好ましいエラストマーは、硬化オルガノポリシロキサン組成物であるシリコーンエラストマー、特には、ヒドロシリル化により、即ち、1つのポリ有機シロキサンのアルケニル基と、ポリオルガノシロキサン又はシラン等の別のケイ素含有材料のSi-H基との反応により硬化されるシリコーンゴム塗膜である。
【0003】
ここで、シリコーンゴム(シリコーンエラストマー)を使用して被覆したエアバッグは、多くの公開された特許及び出願、例えば、特許文献1~7に記載されている。
【0004】
エラストマーの下地塗りがエアバッグ上の唯一の塗膜である場合、この下地塗りの表面特性は、ブロッキング(特に、高い周辺温度での保管中の及び自動車におけるエアバッグの密な充填の間のエラストマー被覆表面の互いの貼り付き)並びにエアバッグが膨張したときの非常に高いストレスにつながり、これは、膨張の間に裂けることによって又はファブリックからエラストマーの下地塗りが剥離することによってバッグの欠陥をもたらすであろう。エラストマーで被覆したファブリックがロールで保管される場合、エラストマー表面間のブロッキングは、エアバッグの製造中の問題でもある。更には、シリコーンエラストマー塗膜等のエラストマーの多くが、硬化時に高い表面摩擦を有する。
【0005】
特許文献8および9は、少なくとも2つの別々の層を含んだエアバッグ塗膜について記載する。エアバッグ表面と接した第1の層(下地塗り)は、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリアミド、ブチルゴム、水素化ニトリルゴム又はエチレンビニルアセテートコポリマーから作製された非シリコーン組成物を含む。第2の層(上塗り)は、シリコーン材料である。
【0006】
特許文献9は、少なくとも2つの別々の異なる層を含んだエアバッグ塗膜組成物について記載する。エアバッグ表面と接した第1の層(下地塗り)は、シリコーンエラストマーを含む。第2の層(上塗り)は、好ましくは、シリコーン樹脂である。
【0007】
特許文献10は、シリコーンエラストマーで被覆した布地のための減摩性シリコーンニスについて記載する。ニスは、架橋を許容する触媒の存在下、互いに反応する2つのシリコーンを含む架橋性シリコーン組成物、及び、粉末(コ)ポリアミドを含んだ粒子状成分を含んでいる。
【0008】
また、本件出願人は、特許文献11において、エラストマー等の下地塗りによって被覆されたエアバッグ等に上塗りとして塗布するのに適した、固形潤滑剤と粘土鉱物等の増粘剤、バインダー樹脂を含み、摩擦等を低減する減摩性の塗膜を形成する水性塗膜組成物を提案しており、シリコーンエラストマーにより被覆されたエアバッグ/エアバッグ用ファブリック等に摩擦および/またはブロッキングを低減する減摩性の塗膜を形成することができる。
【0009】
しかしながら、これらの文献には、特定の乳化剤の組み合わせを含み、特に高重合度のポリオルガノシロキサンを含む水中油型シリコーンエマルジョンからなるシリコーンバインダーを用いる減摩性の塗膜を形成する水性塗膜組成物について、なんら記載も示唆もなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許第5789084号公報
【文献】米国特許第5877256号公報
【文献】米国特許第6709752号公報
【文献】米国特許第6425600号公報
【文献】米国特許第6511754号公報
【文献】国際公開第08/020605号パンフレット
【文献】国際公開第08/020635号パンフレット
【文献】米国特許第6177365号公報
【文献】米国特許第6177366号公報
【文献】米国特許第7198854号公報
【文献】特開2013-516522号公報(日本国特許第5844742号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一方、本件出願人は、上記の特許文献11における水性塗膜組成物について新たな課題を見出した。減摩性の塗膜を必要とするエアバッグ等において、近年、軽量化の観点から基材表面の機能性塗膜/コーティング層について、低い塗布重量、特に30μm以下の薄膜状に塗布することが求められている。しかしながら、特許文献11等に記載の水性塗膜組成物(上塗り層用のコーティング剤)を、シリコーンゴム表面に薄く塗布しようとした場合、塗膜のはじきを生じ、基材上のシリコーンゴム表面を均一に被覆することができない場合がある。
【0012】
本発明は、上記新たな課題を解決すべくなされたものであり、厚さ30μm以下の膜厚でシリコーンゴム表面に塗布した場合であっても、はじきや塗工不良を生じることなく、シリコーンゴム表面を均一に被覆することができ、該表面の基材表面の摩擦および/またはブロッキングを低減する減摩性の乾燥塗膜を形成する水性塗膜形成性組成物を提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明は、当該水性塗膜形成性組成物の用途、特に、シリコーンゴム表面を備えた基材上に基材表面の摩擦またはブロッキングを低減する減摩性の乾燥塗膜を形成する目的で使用すること、当該乾燥塗膜を備えた基材、特にエアバッグ、又は、その後エアバッグへと形成される被覆ファブリックを提供することを目的とする。さらに、当該水性塗膜形成性組成物を用いることを特徴とする表面処理方法、および当該表面処理方法を備える、エアバッグ、又は、その後エアバッグへと形成される被覆ファブリックの製造方法を提供することを目的とする。
【0014】
一方、本発明者らは、上記用途について、新たな課題を見出した。即ち、本発明者らは、特にエアバッグのベースコーティング材としてシリコーンゴム系ベースコーティング材を使用した場合、当該ベースコーティング材上に付加反応型シリコーンゴム系トップコートを使用すると、高温かつ長時間の耐熱老化試験によって、トップコートの成分とベースコートの成分が反応しベースコート表面が固化しクラックを発生しやすくなるという新たな課題を見出した。当該課題は、既存の付加反応型シリコーンゴム系トップコートでは解決が困難であり、本発明は、シリコーン系トップコートの利点を有し、かつ、ベースコートの変質を引き起こず、高温かつ長時間経過後であっても、性能が安定したエアバッグ用コート布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決すべく、鋭意検討の結果、本発明者らは、シリコーン系バインダーとして、(c1)イオン性乳化剤および(c2)ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合型ノニオン乳化剤を含有する水中油型シリコーンエマルジョン、特に、上記の乳化剤の組み合わせおよび乾燥皮膜中の(c2)成分の量について最適化し、高重合度のケイ素原子に結合した水酸基または加水分解性基を1分子中に少なくとも2個有するポリオルガノシロキサンを含む水中油型シリコーンエマルジョンを使用することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水性塗膜形成性組成物は、厚さ30μm以下の膜厚でシリコーンゴム表面に塗布した場合であっても、はじきや塗工不良を生じることなく、シリコーンゴム表面を均一に被覆することができ、該表面の基材表面の摩擦および/またはブロッキングを低減する減摩性の乾燥塗膜を形成することができる。これにより、少ない塗布重量であっても、シリコーンゴム表面を備えた基材上に、均一な減摩性の乾燥塗膜を形成することができ、当該乾燥塗膜を備えた基材、特にエアバッグ、又は、その後エアバッグへと形成される被覆ファブリックを提供することができる。
【0017】
また、本発明の水性塗膜組成物は、ベースコーティング材としてシリコーンゴムを用いた場合であっても、当該ベースコーティング材と反応する成分を含まないため、高温かつ長時間経過後であってもベースコートの変質を引き起こさない。このため、本発明に係る水性塗膜組成物の使用により、長期的に性能が安定したエアバッグ用コート布を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】参照/比較例/実施例について、水性塗膜形成性組成物をシリコーン系ベースコート材と組み合わせた場合の引張試験後の3号ダンベルの破断箇所付近の写真である。図1において、左写真(未処理、参照実験)、中央写真(比較評価例)、右写真(実施例)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の水性塗膜形成性組成物について、詳細に説明する。本発明の水性塗膜形成性組成物は、(A)固形潤滑剤、
(B)(b1)水溶性有機ポリマーおよび(b2)粘土鉱物を含む増粘剤、および
(C)(c1)イオン性乳化剤および(c2)ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合型ノニオン乳化剤を含有する水中油型シリコーンエマルジョンの形態であるシリコーン系バインダー
を含有し、好適には、さらに、難燃剤等の添加剤を含んでよい。
【0020】
当該水性塗膜形成性組成物は、水分の除去により、乾燥皮膜全体を100質量%とした場合、40~80質量%の前記(A)固形潤滑剤、0.50~10質量%の前記(B)増粘剤、0.60~5質量%の前記(c2)ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合型ノニオン乳化剤、および5~49.5質量%の前記(C)シリコーン系バインダー(固形分)を含み、基材表面の摩擦および/またはブロッキングを低減する減摩性の乾燥塗膜を形成することができる。
【0021】
以下、本発明の水性塗膜形成性組成物に関する粘度は、20mm直径の2°テーパーコーンを具えたウェルズ-ブルックフィールドコーン/プレート粘度計(Wells-Brookfield Cone/Plate Viscometer)を使用し、1s-1のせん断率で、25℃で測定された値である(ASTM D4287)。
特に示さない限り、本明細書に記載する、増粘剤の水性分散液全てについて示した粘度は、上記と同じ手法で測定されたものである。
【0022】
[(A)固形潤滑剤]
固形潤滑剤は、本発明にかかる水性塗膜形成性組成物を用いて得た乾燥塗膜に、摩擦および/またはブロッキングを低減する減摩性を付与する成分であり、好ましくは、層状ケイ酸塩としても既知のフィロシリケートを含む。本発明において固形潤滑剤としての使用に適したフィロシリケートの例としては、マイカ、タルク、例えば、タルク微小球、カオリナイト、スメクタイト、セリサイト及びクロライトが挙げられる。固形潤滑剤は、更に又は代わりに、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフルオロポリマー、ポリオレフィンワックス等の固形炭化水素ワックスを含んでいてもよい。特に好適な固形潤滑剤は、(A1)マイカ、タルク、カオリナイト、セリサイトおよびクロライトから選ばれる1種類以上の固形潤滑剤である。
【0023】
(A)固形潤滑剤は、好ましくは、乾燥皮膜を形成する前の、水等を含む水性塗膜組成物の少なくとも1重量%、或いは、少なくとも3重量%、例えば、水性塗膜組成物の5又は10重量%から最大で40重量%存在してもよい。すなわち、(A)成分の含有量は、水分を含めた水性塗膜組成物全体の5~40質量%の範囲であってよく、10~35質量%、15~30質量%の範囲であることが特に好ましい。
【0024】
本組成物から水分を除去して得られる乾燥塗膜の減摩性を実現する見地から、(A)固形潤滑剤の含有量は、乾燥皮膜全体を100質量%とした場合、40~80質量%の範囲であり、45~80質量%の範囲であることが好ましく、50~80質量%の範囲であることがより好ましい。
【0025】
[(B)増粘剤]
増粘剤は、本発明にかかる水性塗膜形成性組成物を増粘させ、その塗工性、作業性および保存安定性を改善する成分であり、乾燥皮膜を構成する固形成分としても機能する。本発明にかかる増粘剤は、(b1)水溶性有機ポリマーおよび(b2)粘土鉱物から選ばれる1種類以上を含むものであり、これらが予混合されてなる増粘剤が特に好ましい。
【0026】
(B)増粘剤の増粘性能は特に制限されるものではないが、本発明の技術的効果の見地から、増粘剤の2重量%水性分散液の粘度が25℃で少なくとも1000mPa・sであるような増粘性を有することが好ましい。
【0027】
(b1)水溶性有機ポリマーは、(b2)粘土鉱物と混合することで、これを変性することができる成分であり、粘土鉱物と共に親水性複合物の形態を形成する。なお、本発明においては、(b1)水溶性有機ポリマーまたは(b2)粘土鉱物から選ばれる1種類のみを用いてもよいが、両者を混合して用いてもよく、かつ、好ましい。
【0028】
具体的には、(b1)成分として、高分子多糖類や水溶性アクリル樹脂などの水溶性有機ポリマーが例示できる。特に、カルボキシレート基を含んだ水溶性有機ポリマーの使用が好適であり、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム又はポリメタクリル酸ナトリウム等のカルボキシル含有付加重合体であるポリアクリル酸類が好適に例示される。
【0029】
(b2)粘土鉱物は天然または合成であってよく、ベントナイト、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト、ソーコナイト、バイデライトおよびノントロナイト等の天然または合成のスメクタイトクレー;ケイ酸アルミニウムマグネシウムが例示され、好ましくは、ベントナイトやモンモリロナイトなどのスメクタイトクレーである。このような、スメクタイトクレーとしては、例えば、水熱合成品であるスメクトンSA(クニミネ工業株式会社製)、天然精製品であるベンゲル(株式会社ホージュン製)が入手可能である。なお、これらの粘土鉱物は、特許文献11にも開示されているとおり、合成スメクタイトクレーであってよく、合成スメクタイトクレーは、概して、天然スメクタイトクレーよりも小さな粒径を有し、例えば、合成スメクタイトクレーの平均粒径は、天然スメクタイトの平均粒径のわずか5又は10%である。合成スメクタイトクレーはかかる小さな粒径を有するので、天然のものに比べて、より少量の添加量であっても、粘性の高い水性ゲル組成物を作製することができる。
【0030】
本発明の水性塗膜形成性組成物を塗布してなる基材(例えば、エアバック用布帛や建築材料)に対して、耐熱性および難燃性を付与する場合、これらのスメクタイトクレー等の粘土鉱物のpHは、pH5.0~9.0の範囲内であることが好ましい。
【0031】
(b2)粘土鉱物、例えば、ベントナイト又はモンモリロナイトは、(b1)水溶性有機ポリマーと予混合することによって変性されてもよい。例えば、粘土鉱物と水溶性有機ポリマーとを水中で均一に混合し、その後、混合物を、例えば、スプレー乾燥によって乾燥してもよい。得られた乾燥混合物は、必要に応じて、所望の粒径まで粉砕することができ、該粒径は、1~20μmの範囲であってもよい。かかる混合物中の水溶性ポリマーの含有率は、例えば、0.1重量%~40重量%の範囲であってもよい。
【0032】
また、任意で、(b2)粘土鉱物は、アルキルアルコキシシランを使用した処理によって変性されてもよい。例えば、アルキルアルコキシシランは、純正液体シラン又は有機溶媒中の溶液として、粘土鉱物に適用することができる。
【0033】
(B)増粘剤は、例えば、乾燥皮膜を形成する前の、水等を含む塗膜組成物の0.1又は0.2重量%から5又は10重量%存在してもよい。0.5~3%の増粘剤を含んだ水性塗膜組成物が特に好ましい。
【0034】
水を含む本組成物を、シリコーンゴム表面に薄く塗布しようとした場合の均一塗布性および作業性の見地から、(B)増粘剤の含有量は、乾燥皮膜全体を100質量%とした場合、0.50~10質量%の範囲であり、2~10質量%の範囲であることが好ましく、3~9質量%の範囲であることがより好ましい。(B)増粘剤の含有量が前記下限未満では、後述する(c2)成分の量が本発明の範囲内であっても、均一塗布性が不十分となったり、はじきを生じる場合がある。一方、(B)増粘剤の含有量が前記上限を超えると、水を含む組成物の粘度が過度に高くなり、作業性が悪化したり、乾燥皮膜の耐久性が低下したりする場合がある。
【0035】
[(C)成分]
本発明は、(C)成分として、(c1)イオン性乳化剤および(c2)ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合型ノニオン乳化剤を含有する水中油型シリコーンエマルジョンの形態であるシリコーン系バインダーを含有することを特徴の一つとする。水性塗膜組成物は、エアバッグファブリック等の基材への(A)固形潤滑剤の密着性を増強すべく、バインダーを必要とする。適切なバインダーは、硬化してエラストマー生成物となる適切なシリコーン系エマルションであるが、本発明者らは、上記の乳化剤の組み合わせを採用し、好適には、その使用量について最適化し、高重合度のケイ素原子に結合した水酸基または加水分解性基を1分子中に少なくとも2個有するポリオルガノシロキサンを含む水中油型シリコーンエマルジョンをバインダーにすることで、厚さ30μm以下の膜厚でシリコーンゴム表面に塗布した場合であっても、はじきや塗工不良を生じることなく、シリコーンゴム表面を均一に被覆できることを見出した。
【0036】
[乳化剤:(c1)および(c2)成分]
(C)成分である水中油型シリコーンエマルジョンは、(c1)イオン性乳化剤および(c2)ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合型ノニオン乳化剤を含有する。これらの乳化剤を併用することで、(C)成分の主剤であるポリオルガノシロキサンおよび任意で含まれるアルコキシシラン等を分散媒である水中に小粒子径で安定に乳化することができ、特に、ポリオルガノシロキサンを乳化重合により形成させる場合に、乳化重合反応を安定して進行させ、安定性の高い乳化重合反応物である、水中油型シリコーンエマルジョンを与えることができる。また、本発明にかかる水性塗膜形成性組成物全体として、これらの乳化剤の組み合わせを含むバインダーを用いることで、当該組成物を薄膜状にシリコーンゴム表面に対して均一塗布が可能であり、少ない塗布重量であっても、シリコーンゴム表面を備えた基材上に、均一な減摩性の乾燥塗膜を形成することができる。
【0037】
ここで、(c2)ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合型ノニオン乳化剤は、(C)成分の乳化剤だけでなく、本発明の水性塗膜形成性組成物を、特にシリコーンゴム表面に薄く塗布しようとした場合、塗膜のはじきを抑制し、基材上のシリコーンゴム表面を均一に被覆するために必要不可欠な成分であり、当該(c2)成分の含有量が不十分である場合、上記の技術的効果を十分に達成できない場合がある。また、(c2)成分は、(C)成分の乳化剤とは別に、本発明の水性塗膜形成性組成物に添加してもよく、かつ、好ましい。
【0038】
(c1)成分であるイオン性乳化剤として、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤および両性界面活性剤を使用できる。イオン性乳化剤としては、このような界面活性剤の一種を単独で用いてもよく、種類の異なる界面活性剤を2種類以上併用してもよい。
【0039】
アニオン系界面活性剤として、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルナフチルスルホン酸塩、不飽和脂肪族スルホン酸塩、水酸化脂肪族スルホン酸塩が例示される。
【0040】
カチオン系界面活性剤として、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライドなどのアルキルトリメチルアンモニウム塩;ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジヘキサデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライドなどのジアルキルジメチルアンモニウム塩などの第4級アンモニウム型塩の界面活性剤が例示される。
【0041】
両性界面活性剤として、アルキルベタイン、アルキルイミダゾリンが例示される。
【0042】
(c2)成分は、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合型ノニオン乳化剤は、通常、下記一般式(1)または一般式(2)で表される化合物である。
HO(CH2CH2O)a(CH(CH3)CH2O)b(CH2CH2O)CH (1)
HO(CH(CH3)CH2O)d(CH2CH2O)e(CH(CH3)CH2O)fH (2)
一般式(1)、(2)において、a、b、c、d、e及びfは、エチレンオキシドないしプロピレンオキシドの平均付加モル数であり、それぞれ独立して、1~350の数である。(c2)成分の重量平均分子量は、1,000~18,000が好ましく、より好ましくは1,500~10,000である。(c2)成分が固体状である場合は、水溶液にして使用することも可能である。
【0043】
(c2)成分である化合物は、より具体的には、(株)ADEKA製の「プルロニック(登録商標)L」シリーズ、「プルロニック(登録商標)P」シリーズ、「プルロニック(登録商標)F」シリーズ、「プルロニック(登録商標)TR」シリーズ;花王(株)製のエマルゲンPP-290;日本乳化剤(株)製のニューコール3240が例示され、これらは市場において入手可能である。
【0044】
(c1)成分のイオン性乳化剤の配合量は、(C)成分の主剤であるポリオルガノシロキサン100質量部に対して1~100質量部の範囲であり、1~50質量部の範囲であることが好ましく、1~20質量部の範囲であることがより好ましい。
【0045】
(c2)成分の配合量は、(C)成分の主剤であるポリオルガノシロキサン100質量部に対して0.1~50質量部の範囲であり、1~20質量部の範囲であることが好ましい。なお、
【0046】
(c1)成分と(c2)成分の配合量の合計は、好適には、(C)成分の主剤であるポリオルガノシロキサンおよび任意で含まれるアルコキシシラン等の合計量の1~30質量%であることが好ましく、2~20質量%であることがより好ましい。また、(c1)成分の配合量と(c2)成分の配合量の比率は、3:1 ~100:1の範囲であることが好ましい。なお、(c2)成分は、(c1)成分と併用して(C)成分の主剤であるポリオルガノシロキサン又はその前駆体成分、およびその他のアルコキシシラン等の任意成分を乳化した場合、各成分単独に比べて、得られるエマルジョン粒子の粒子径を小さくすることができ、水中油型シリコーンエマルジョンの安定性を改善することができる。
【0047】
(C)成分である水中油型シリコーンエマルジョンは、上記の(c1)および(c2)成分の乳化剤を用いて、環状シロキサン、分子鎖両末端水酸基封鎖ジオルガノポリシロキサン、オルガノアルコキシシラン等を水中に乳化分散した後、必要に応じて、酸,アルカリ性物質等の触媒を添加して重合反応を行うことも可能であり、また、上記の乳化剤を用いて、ケイ素原子に結合した水酸基、アルコキシ基およびアルコキシアルコキシ基からなる群から選択される基を1分子中に少なくとも2個有するポリオルガノシロキサンと、ケイ素原子に結合したアミノキシ基を1分子中に平均で2個有するアミノキシ基含有有機ケイ素化合物を水中に乳化分散した後、重合反応を行うことも可能であり、特に、高粘度のポリオルガノシロキサンを含む安定な乳化物を得ることができる点で好適である。
【0048】
[(C)成分中のポリオルガノシロキサン]
(C)成分である水中油型シリコーンエマルジョンは、ポリオルガノシロキサンが上記の(c1)および(c2)成分の存在下、水中に乳化された構造を有するものであるが、シリコーン系バインダーとしての機能の見地から、当該ポリオルガノシロキサンは、ケイ素原子に結合した水酸基、アルコキシ基およびアルコキシアルコキシ基からなる群から選択される基を1分子中に少なくとも2個有するポリオルガノシロキサンであり、特に(c3)25℃における粘度が、100,000mPa・s~20,000,000mPa・sの範囲であり、ケイ素原子に結合した水酸基または加水分解性基を1分子中に少なくとも2個有するポリオルガノシロキサンであることが好ましい。
【0049】
ポリオルガノシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、樹枝状、網目状の何れであってもよいが、直鎖状または一部分岐を有する直鎖状であることが好ましい。水酸基、アルコキシ基およびアルコキシアルコキシ基からなる群から選択される基は分子鎖末端に存在してもよく、分子鎖側鎖に存在してもよく、その両方に存在してもよい。アルコキシ基としては、メトキシ基,エトキシ基,n-プロポキシ基,イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、t-ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基などの炭素原子数1~10のアルコキシ基であることが好ましく、アルコキシアルコキシ基としては、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基、エトキシメトキシ基、メトキシプロポキシ基などの炭素原子数2~10アルコキシアルコキシ基であることが好ましい。
【0050】
水酸基、アルコキシ基およびアルコキシアルコキシ基からなる群から選択される基以外のケイ素原子に結合する有機基としては、非置換一価炭化水素基または置換一価炭化水素基が例示される。非置換一価炭化水素基は、乳化補助作用の点で炭素原子数1~10のものが好ましく、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数2~10のアルケニル基であることが好ましく、特には、メチル基またはフェニル基であることが好ましい。
【0051】
置換一価炭化水素基として、前記の非置換一価炭化水素基、特には炭素原子数1~10のアルキル基またはフェニル基の水素原子の一部又は全部が、フッ素、塩素などのハロゲン原子;エポキシ官能基;メタクリル官能基;アクリル官能基;アミノ官能基;含硫黄官能基;アルコキシ基;ヒドロキシカルボニル基;アルコキシカルボニル基などの置換基で置換された基が例示される。
【0052】
本発明の水中油型シリコーンエマルジョンから水分を除去して得られる硬化皮膜の強度や基材に対する密着性、および、硬化皮膜の表面粘着性(タック)の低減および摩擦低減性の見地から、ポリオルガノシロキサンの25℃における粘度は、100,000mPa・s~20,000,000mPa・sの範囲であることが好ましく、300,000mPa・s~10,000,000mPa・sの範囲であることがより好ましく、500,000mPa・s~5,000,000mPa・sの範囲であることがさらに好ましく、750,000mPa・s~3,500,000mPa・sの範囲であることが最も好ましい。ポリオルガノシロキサンの粘度が前記の下限未満であると、水中油型シリコーンエマルジョンから水分を除去して得られる硬化皮膜の強度および基材への密着性が不十分となる場合があり、また、硬化皮膜の表面粘着性が生じ、(A)固形潤滑剤を含む乾燥塗膜について、その平滑面が実現できない場合がある。他方、ポリオルガノシロキサンの粘度が前記の上限を超えるものについては、乳化が困難である。
【0053】
このようなポリオルガノシロキサンは、好適には、分子鎖両末端水酸基封鎖ジオルガノポリシロキサンであることが好ましく、一般式:HO(R SiO)Hで示されるポリオルガノシロキサンが例示される。なお、式中、Rは前記の水酸基または加水分解性基以外のケイ素原子に結合する非置換または置換の一価炭化水素基と同様である。mは2以上の整数であり、25℃における粘度が上記の粘度範囲、100,000mPa・sから20,000,000mPa・sとなる数であることが好ましい。
【0054】
このようなポリオルガノシロキサンの製造方法について特に制限されるものではなく、平衡重合法等の公知の製法により得たポリオルガノポリシロキサンを、後述する(c1)成分等の乳化剤により水中に乳化したものであってもよいが、製造時の取り扱い作業性、および、乳化分散時の粒子径や安定性の点から、ポリオルガノシロキサンの前駆体であるより低重合度のオルガノポリシロキサンを用いて、乳化重合により得られたオルガノポリシロキサンが好適に使用可能である。
【0055】
特に好適には、ポリオルガノシロキサンの前駆体である(c3a)ケイ素原子に結合した水酸基または加水分解性基を1分子中に少なくとも2個有するポリオルガノシロキサンおよび(c3b)ケイ素原子に結合したアミノキシ基を1分子中に平均で2個有するアミノキシ基含有有機ケイ素化合物を前記の(c1)成分および(c2)成分の存在下で乳化重合させてなるポリオルガノシロキサンである。
【0056】
前駆体である(c3a)ケイ素原子に結合した水酸基または加水分解性基を1分子中に少なくとも2個有するポリオルガノシロキサンは、上記のポリオルガノシロキサンを構成する原料成分であり、より低粘度、かつ、分子鎖の両末端にケイ素原子に結合した水酸基または加水分解性基を有する鎖状のポリオルガノシロキサンであることが好ましい。より具体的には、(c3a)成分は、25℃における粘度が、100,000mPa・s以下、好ましくは50~50,000mPa・sの範囲にある分子鎖両末端水酸基封鎖ジオルガノポリシロキサン、最も好適には、HO(R SiO)Hで示されるポリオルガノシロキサンであって、nは25℃における(a)成分の粘度が上記の粘度範囲、好適には、50~50,000mPa・sの範囲となる数であることが好ましい。式中、Rは前記の水酸基または加水分解性基以外のケイ素原子に結合する非置換または置換の一価炭化水素基と同様であり、特には、メチル基またはフェニル基であることが好ましい。
【0057】
(c3b)ケイ素原子に結合したアミノキシ基を1分子中に平均で2個有するアミノキシ基含有有機ケイ素化合物は、(c3a)成分同士を反応・架橋させることで、粘着感の無い良好な表面硬さとゴム状の弾性を有する硬化皮膜の形成を促進するための成分である。
【0058】
(c3b)成分は、1分子中に平均して2個のケイ素原子に結合したアミノキシ基を含有し、アミノキシ基は分子鎖側鎖のみに平均で2個存在してもよく、分子鎖両末端のみに存在してもよく、分子鎖末端と分子鎖側鎖の両方に平均で1個ずつ存在してもよい。(c3b)成分中のアミノキシ基が1分子中に平均して3個以上であると、乳化の際に乳化装置内部や乳化前のプレ混合工程で混合物のゲル化が起こりやすく、製造装置にゲル物が付着する場合があること、また、得られる硬化皮膜の伸びが劣る場合がある。
【0059】
このようなアミノキシ基含有有機ケイ素化合物としては、分子鎖両末端アミノキシ基封鎖ポリジオルガノシロキサン、分子鎖片末端アミノキシ基封鎖ジオルガノシロキサン・オルガノアミノキシシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリオルガノシリル基封鎖ジオルガノシロキサン・オルガノアミノキシシロキサン共重合体、環状ジオルガノシロキサン・オルガノアミノキシシロキサン共重合体、ジアミノキシジオルガノシランが例示される。中でも、分子鎖両末端アミノキシ基封鎖ポリジオルガノシロキサンが好ましい。(c3b)成分の配合量は、(c3a)成分100質量部に対して0.1~100質量部であり、0.5~50質量部であることが好ましく、1~20質量部であることがより好ましい。
【0060】
(c3b)成分は、好ましくは、一般式:
SiO(RSiO)(R SiO)SiR
で示される。上式中、Rは前記と同じであり、中でも炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数2~10のアルケニル基であることが好ましく、特には、メチル基またはフェニル基であることが好ましい。Rはアミノキシ基である。nが0のときRはアミノキシ基であり;nが1のときRのうち一個はアミノキシ基であり、残余のRは炭素原子数1~10の非置換一価炭化水素基、炭素原子数1~10ハロゲン置換一価炭化水素基、水酸基、炭素原子数1~10アルコキシ基および炭素原子数2~10アルコキシアルコキシ基からなる群から選ばれる基であり;nが2のときRは炭素原子数1~10の非置換一価炭化水素基、炭素原子数1~10ハロゲン置換一価炭化水素基、水酸基、炭素原子数1~10アルコキシ基および炭素原子数2~10アルコキシアルコキシ基からなる群から選ばれる基である。
【0061】
非置換一価炭化水素としては、前記と同様の基が例示され、メチル基またはフェニル基であることが好ましい。ハロゲン置換一価炭化水素基としては前記の非置換一価炭化水素基の水素原子の一部または全部が、ハロゲン原子で置換された基であり、クロロメチル基,3,3,3-トリフルオロプロピル基,3,3,4,4,5,5,5-ヘプタフルオロペンチル,ジフルオロモノクロルプロピル基等のハロゲン置換アルキル基であることが好ましい。アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基としては前記と同様の基が例示される。
【0062】
アミノキシ基としては、-ON(R4)2および下記式で表される基から選択される基が例示される。
【化1】
式中Rは炭素原子数1~5の直鎖状または分岐状のアルキル基である。式中Rは炭素原子数2~15の二価の炭化水素基または3~17個の炭素原子と1~3個の窒素原子または1~2個の酸素原子からなる分子鎖主鎖を有する二価の有機基であり、-(CH22-, -(CH25-, -(CH26-, -(CH27-, -(CH22-O-(CH22-, -(CH=CH)-(CH=CH)-, -(CH=N)-(CH=CH)-, -(C6H4)-(CH22-が例示される。中でも-(CH26-, -(CH22-O-(CH22-,であることが好ましい。中でも炭素原子数1~5のアルキル基が窒素原子に結合したジアルキルアミノキシ基であることが好ましく、好ましいアミノキシ基としては、例えば、ジメチルアミノキシ基,ジエチルアミノキシ基,ジプルピルアミノキシ基,ジブチルアミノキシ基、ジヘプチルアミノキシ基,エチルメチルアミノキシ基、プロピルメチルアミノキシ基、プロピルエチルアミノキシ基、ブチルメチルアミノキシ基、ブチルエチルアミノキシ基、ブチルプロピルアミノキシ基、ヘプチルメチルアミノキシ基、ヘプチルエチルアミノキシ基、ヘプチルプロピルアミノキシ基、ヘプチルブチルアミノキシ基が例示され、ジエチルアミノキシ基であることが好ましい。
【0063】
また、上式中、nは0、1または2であり、0または2であることが好ましく、0であることがより好ましい。nが0の場合、上式中Rは、アミノキシ基であり、nが1の場合、上式中Rのうち少なくとも1方は、アミノキシ基である。中でも、上式中nが0でRがアミノキシ基であることが入手の容易さの点から好ましい。
【0064】
式中、pは0以上の整数であり、pの上限は特に限定されないが、乳化のしやすさから、pは0~1000の範囲の整数であることが好ましく、2~200の範囲の整数であることがより好ましく、4~140の範囲の整数であることが最も好ましい。。
【0065】
このようなアミノキシ基含有有機ケイ素化合物としては、下記式で表されるアミノキシ基含有有機ケイ素化合物が例示される。なお、式中Meはメチル基を、Etはエチル基をPrはプロピル基を示す。
(Et2NO)Me2SiOSiMe2(ONEt2)
(Et2NO)Me2SiO(Me2SiO)12SiMe2(ONEt2)
(Et2NO)Me2SiO(Me2SiO)40SiMe2(ONEt2)
(Et2NO)Me2SiO(Me2SiO)80SiMe2(ONEt2)
Me2Si(ONEt2)2
Me3SiO(MeSi(ONEt2)O)2SiMe3
Me3SiO(Me2SiO)4(MeSi(ONEt2)O)2SiMe3
Me3SiO(Me2SiO)15(MeSi(ONEt2)O)2SiMe3
Me3SiO(Me2SiO)3(MeSi(ONEt2)O)7SiMe3
【0066】
なお、水中油型シリコーンエマルジョン中に(c3b)成分が残存している場合、シリコーン系バインダー中のポリオルガノシロキサンと、任意で配合されるコロイダルシリカ成分との反応・架橋に寄与する成分であり、粘着感の無い良好な表面硬さとゴム状の弾性を有する硬化皮膜を形成可能である。
【0067】
[(C)成分中のコロイダルシリカ]
本発明の(C)成分は、さらに、(c4)コロイダルシリカを含むことができ、かつ、好ましい。コロイダルシリカは、シリコーン系バインダーに基づく硬化皮膜の強度や基材に対する密着性を向上させるための成分であり、本発明の(C)成分である水中油型エマルジョンにおいて、固形分換算で、(A)成分に対して比較的大量のコロイダルシリカを含むことで、表面粘着性(タック)が少なく、基材表面に滑らかで摩擦低減性に優れる硬化皮膜を形成可能な成分である。
【0068】
コロイダルシリカは、5~40質量%のシリカ粒子を水中にコロイド状に分散した水性分散体として入手可能であり、多くのシラノール基を表面に有し、粒子径は一般的に約1nm~1μmである。このようなコロイダルシリカとしては、ナトリウムイオンまたはアンモニウムイオンにより安定化された塩基性の水性分散体であることが好ましい。塩基性水性分散体としてのコロイダルシリカのpHは7.0以上であることが好ましく、9.0を超えることがより好ましい。コロイダルシリカのシリカ微粒子の形状は特に限定されず、球状であることが一般的であるが、細長い形状のものやパールネックレス状のものを使用してもよい。
【0069】
本発明において、(C)成分中の(c4)コロイダルシリカの配合量は、好適には、(c3)25℃における粘度が、100,000mPa・s~20,000,000mPa・sの範囲であり、ケイ素原子に結合した水酸基または加水分解性基を1分子中に少なくとも2個有するポリオルガノシロキサン100質量部に対して、その固形分換算で、5~120質量部の範囲であることが必要であり、好ましくは、10~110質量部の範囲であり、20~100質量部の範囲であることが特に好ましい。
【0070】
ここでコロイダルシリカの固形分とは、不揮発性のシリカ粒子分であり、特にコロイダルシリカの配合量が前記範囲内であると、本発明の水中油型シリコーンエマルジョン組成物から水を除去してなり、主としてポリオルガノシロキサンまたはその架橋反応物からなる硬化皮膜表面に良好な平滑性を付与することができる。一方、コロイダルシリカの配合量が少なすぎたり、多すぎたりすると、硬化皮膜表面に粘着性(タック)やクラックを生じる場合がある。
【0071】
(c4)コロイダルシリカは、(C)成分中のポリオルガノシロキサンが乳化重合で得られる場合、重合中に添加することも可能であり、重合後に添加することも可能である。具体的には、ポリオルガノシロキサンを含む乳化物に、水を含むコロイダルシリカ粒子の水性分散体を添加してもよく、(c3)成分であるポリオルガノシロキサンの前駆体である前記の(c3a)成分等を含む乳化物中にコロイダルシリカ粒子の水性分散体を添加して乳化重合反応を進めてもよい。
【0072】
このようなコロイダルシリカとしては、日産化学工業(株)製のスノーテックス20,スノーテックス30等;旭電化工業(株)製のアデライトAT-20等;クラリアントジャパン(株)製のクレボゾール30R9等;デュポン社製のルドックス(商標)HS-40等;触媒化成工業(株)製のカタロイドS-20L等;日本化学工業(株)製のシリカドール-20等が例示される。
【0073】
(C)成分は水中油型エマルジョンであり、水を含む。水の配合量は、安定な水性エマルジョン状態を保つのに十分な量であればよく、配合量は特に限定されないが、通常、前記のコロイダルシリカの水分散体および独立した水に由来する水の量は、(C)成分である組成物全体の5~95質量%の範囲であることが一般的である。コロイダルシリカの水分散体中の水分を除く場合、好適には、水の配合量は、(c3)25℃における粘度が、100,000mPa・s~20,000,000mPa・sの範囲であり、ケイ素原子に結合した水酸基または加水分解性基を1分子中に少なくとも2個有するポリオルガノシロキサン100質量部に対して0~500質量部、好ましくは10~200質量部の範囲である。
【0074】
(C)成分である水中油型シリコーンエマルジョン組成物は、硬化被膜の強度や密着性の向上の点から、さらに、(c5)一般式:R aSiX4-aで示されるアルコキシシランもしくはアルコキシアルコキシシラン、または前記アルコキシシランもしくはアルコキシアルコキシシランの部分加水分解縮合物を含有することが好ましい。式中Rは前記と同様であり、メチル基またはフェニル基であることが好ましい。Xは炭素原子数1~10のアルコキシ基または炭素原子数2~10のアルコキシアルコキシ基であり、前記と同様の基が例示される。aは0,1または2であるが、0か1が好ましい。特に、(c5)成分は、テトラアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシラン、テトラアルコキシアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシアルコキシシランであることが好ましい。
【0075】
(c5)成分は、前記オルガノアルコキシシラン、オルガノアルコキシアルコキシシラン、テトラアルコキシシランもしくはテトラアルコキシアルコキシシランの部分加水分解縮合物であってもよい。
【0076】
(c5)成分は、硬化皮膜の強度および基材密着性の改善の見地から、好適には、前記の(c3)成分の100質量部に対し、0.1~50質量部配合することが好ましく、1~15質量部配合することがさらに好ましい。(c5)成分の配合量が、(c3)成分100質量部に対して0.1質量部未満であると生成した水性シリコーンエマルジョン組成物から水分を除去してなる硬化皮膜の強度の向上が十分でない場合があり、50質量部を超えると副生するアルコール量が増加し、環境や人体に悪影響を与えることや、硬化皮膜の形成性が経時で変化する場合があるために好ましくない。
【0077】
(C)成分である水中油型シリコーンエマルジョン組成物は、(c6)アミン化合物をpH調整剤として配合することが好ましい。アミン化合物としては、ジエチルアミンが好ましい。これらの(c6)成分は、水分除去時に、後述する硬化触媒としても機能するため、各成分の縮合反応を促進し、特に、錫等の重金属フリーの硬化反応性を実現することが可能である。
【0078】
pH調整剤としての(c6)成分の配合量は、好ましくは(C)成分全体の0.01~5質量%の範囲であり、より好ましくは0.1~2質量%の範囲である。
【0079】
[その他の任意成分]
(C)成分である水中油型シリコーンエマルジョン組成物には、必要に応じて他の成分、例えば、顔料、消泡剤,浸透剤,帯電防止剤,無機粉体,防腐剤,防錆剤,ビス(トリメトキシシリルプロピル)-ジスルフィドなどの(c5)成分以外のシランカップリング剤,(c6)成分以外のpH調整剤,緩衝剤,紫外線吸収剤、硬化触媒、水溶性樹脂、有機樹脂エマルジョン、顔料、染料などを適宜配合することができる。
【0080】
(C)成分である水中油型シリコーンエマルジョン組成物中のシリコーンエマルジョン粒子の平均粒子径(平均一次粒子径)は、貯蔵安定性や硬化皮膜の形成性、および水希釈時の安定性の点から、50~600nmの範囲であってよく、300nm以下であることが好ましく、250nm以下であることが特に好ましい。エマルジョン粒子の平均粒子径は、動的光散乱法などにより測定できる。
【0081】
[乾燥皮膜中の(c2)ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合型ノニオン乳化剤の配合量]
前記の通り、(c2)成分は、(C)成分であるシリコーン系バインダーの乳化剤としての機能だけでなく、水性塗膜形成性組成物に一定量以上含むことで、本発明にかかる水性塗膜形成性組成物を、特に、厚さ30μm以下の膜厚でシリコーンゴム表面に塗布した場合に、はじきや塗工不良を抑制し、シリコーンゴム表面を均一に被覆する効果を付与することができる。具体的には、(c2)成分の含有量は、乾燥皮膜全体を100質量%とした場合、0.6~5質量%の範囲であり、0.6~4質量%の範囲であることが好ましく、0.6~3.5質量%の範囲であることがより好ましい。(c2)成分の含有量が前記下限未満では、水性塗膜形成性組成物をシリコーンゴム表面に薄く塗布した場合、はじきや塗工不良が発生する場合がある。なお、当該効果は(c2)成分の配合量に依存するため、仮に不足分が存在する場合、(c2)成分以外のノニオン乳化剤を添加しても上記の技術的効果を達成できない場合がある。
【0082】
(c2)成分は、上記の範囲を満たすように、(C)成分中の乳化剤量として調整してもよく、(C)成分とは別に本発明の水性塗膜形成性組成物に添加してもよい。特に、(C)成分と別に(c2)成分を本発明の組成物に配合する調製方法を採用することで、(C)成分の安定性を損なうことなく、所望の(c2)成分の含有量を実現できる利点がある。
【0083】
[乾燥皮膜中のシリコーン系バインダーの配合量]
(C)水中油型シリコーンエマルジョンの形態であるシリコーン系バインダーの含有量は、所望により選択可能であるが、乾燥皮膜全体を100質量%とした場合、5~49.5質量%の範囲であり、10~45質量%の範囲であることが特に好ましい。(C)成分の量が前記上限を超えると、特に(A)成分および(B)成分の配合量が相対的に少なくなるため、基材表面の摩擦および/またはブロッキングを低減する減摩性の乾燥塗膜を形成するという本発明の目的が達成できなくなる場合がある。一方、(C)成分の量が少なすぎると、バインダーの量が不十分となり、(c2)成分の含有量が上記範囲を満たしていても、特に、厚さ30μm以下の膜厚でシリコーンゴム表面に塗布した場合に、はじきや塗工不良の原因となり、シリコーンゴム表面を均一に被覆できなくなる場合がある。
【0084】
[硬化触媒]
本発明の水性塗膜形成性組成物またはそのバインダーである(C)成分は、硬化触媒を含んでもよい。本発明において、硬化触媒の配合は任意であるが、本発明の組成物の成分を縮合反応により素早く架橋硬化させるために配合するができ、具体的にはジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、オクテン酸錫、ジブチル錫ジオクテート、ラウリン酸錫、ジオクチル錫ジバーサテート、ジオクチル錫ジアセテート、ジブチル錫ビスオレイルマレート等の有機錫化合物;テトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネート、ジブトキシビス(エチルアセトアセテート)チタン等の有機チタン化合物;その他、塩酸、硫酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等の酸性化合物;アンモニア、水酸化ナトリウム等のアルカリ性化合物;n-ヘキシルアミン、グアニジン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン(DBU)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)等のアミン系化合物;ジルコニウムテトラプロピレート、ジルコニウムテトラブチレート等の有機ジルコニウムエステル;ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート、ジルコニウムブトキシアセチルアセトネートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート等の有機ジルコニウムキレート;ジルコニウムビス(2-エチルヘキサノエート)オキサイド、ジルコニウムアセチルアセトネート(2-エチルヘキサノエート)オキサイド等のオキソジルコニウム化合物等のジルコニウム系縮合助触媒;アルミニウムトリエチレート、アルミニウムトリイソプロピレート、アルミニウムトリ(sec-ブチレート)等のアルミニウムアルコレート;ジイソプロポキシアルミニウム(エチルアセトアセテート)アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)等のアルミニウムキレート化合物;ヒドロキシアルミニウムビス(2-エチルヘキサノエート)等のアルミニウムアシロキシ化合物等のアルミニウム系縮合助触媒;ステアリン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、酢酸亜鉛、オクチル酸鉄等の有機酸金属塩などの縮合反応触媒を挙げることができる。なお、これらの硬化触媒は水溶性である場合を除き、予め界面活性剤を用いて水中に乳化分散したエマルジョンの形態にしておくことが望ましい。また、(C)成分において使用可能な(c6)アミン化合物は硬化触媒としても機能する成分であり、これらを使用することで、スズ(錫)等の金属を含有する硬化触媒を含まない組成も設計可能であり、環境影響の低減の見地から、好ましい。
【0085】
本発明の水性塗膜形成性組成物における縮合反応触媒の使用量は特に限定されず、縮合反応促進の目的が達成される範囲で任意の量であることができる。ただし、縮合反応触媒の使用は任意であり、本組成物において使用しなくてもよい。なお、縮合反応触媒を含む組成物は、その内容が引用によって本明細書に組み込まれる米国特許第4221688号明細書に記載される。また、バインダーは、シロキサン系ポリマー及び適切な自己触媒型架橋剤、界面活性剤及び水から作製されてもよい。このタイプの組成物は、例えば、その内容が引用によって本明細書に組み込まれる米国特許第5994459号明細書に記載される。
【0086】
[難燃剤]
本発明の水性塗膜形成性組成物は、エアバッグコーティングに好適に使用されるものであるので、さらに、難燃剤を含んでもよい。例えば、本発明にかかる組成物は、基材表面の摩擦および/またはブロッキングを低減する減摩性の乾燥塗膜を形成するためエアバッグコーティングに適するが、エアバッグは、その性質上、着火しにくく、燃焼を支援しないことが重要であり、エアバッグは、エアバッグに適用され得る厳しい可燃性試験を通過するために、一般的に難燃剤の添加が必要である。本発明の上塗りがシリコーンゴムを被覆したエアバッグ上に塗布される場合には、一般的に可燃性に問題はないが、難燃剤を含まない上塗りが有機樹脂を被覆したエアバッグに塗布される場合には、米国連邦自動車安全規格試験(US Federal Motor Vehicles Safety StandardsTest)FMVSS#302(これ以降は、「FMVSS#302」と称する)等の可燃性試験を通過しないことがある場合があり、難燃剤の添加が実用上重要である。
【0087】
特に、本発明にかかる組成物はエアバッグ、又は、その後エアバッグへと形成される被覆ファブリックの上塗りに用いるコーティング剤に適し、難燃剤の効果は当該上塗り中に存在する場合に、最も効果的であることが多い。好ましい難燃剤の例は、好ましくは表面処理されていないアルミニウムトリヒドレートである。また、難燃剤としては、水酸化マグネシウム等の他の金属水酸化物、フェライト酸化物及び酸化チタン等の金属酸化物、炭酸亜鉛等の炭酸塩、及び、カーボンブラックが挙げられる。これらの難燃性成分の含有量は、組成物全体に対して、2~40質量%、好ましくは5~25質量%の範囲であってよく、難燃剤として少なくとも一部がアルミニウムトリヒドレートである成分を選択してよく、かつ、好ましい。
【0088】
[その他の任意成分]
本発明の水性塗膜形成性組成物には、必要に応じて他の成分、例えば、顔料、消泡剤、浸透剤、染料、帯電防止剤、界面活性剤、防腐剤、接着促進剤、防錆剤、pH調整剤,緩衝剤,紫外線吸収剤、硬化触媒、水溶性樹脂、及び/又は消臭剤、例えば、ゼオライト及び/又は活性炭等を任意に含んでいてもよい。
【0089】
[組成物の全体粘度および粘度測定方法]
本発明の水性塗膜形成性組成物は、均一塗布性および作業性の見地から、その粘度が1000mPa・s以上であることが好ましい。粘度は、20mm直径の2°テーパーコーンを具えたウェルズ-ブルックフィールドコーン/プレート粘度計(Wells-Brookfield Cone/Plate Viscometer)を使用し、1s-1のせん断率で、25℃で測定される(ASTM D4287)。特に示さない限り、本明細書に記載する粘度は、上記と同じ手法で測定されたものである。
【0090】
[塗布方法および塗布対象]
本発明の水性塗膜形成性組成物は、種々の技術によって基材に塗布されてよい。異なる物質は、異なるコーティング方法を必要としてもよい。例えば、コーティングは上塗りとして、ローラ塗布、カーテンコーティング、スプレー、又はナイフオーバーローラによって、被覆されたエアバッグ又は被覆されたエアバッグファブリックに塗布されてもよい。ローラ塗布は、少ない塗膜重量で均一に被覆する効果的な方法として好ましいことが多い。ファブリックに転写される塗膜組成物の量は、ローラへの圧力及び/又はグラビア中のエッチング表面の深さの関数である。上塗りは、好ましくは、含水重量基準で10g/m2から最高で100g/m2の塗布量で塗布される。乾燥後の1g/m2以上の塗膜重量が、必要な低い摩擦係数をもたらし、且つ、ブロッキングを防ぐことができる。
【0091】
本発明にかかる水性塗膜形成性組成物中の水性希釈剤(水と、水と混合した任意の共溶媒)の量は、コーティングに必要な粘度及び必要な塗膜重量に応じて制御されてもよい。通常、塗膜組成物は、1.5~50重量%の固形物含有率を有し、98.5~50%の水性希釈剤を含んでいる。
【0092】
本発明の水性塗膜形成性組成物は、一般的には、低減した摩擦及び/又は低減したブロッキングが必要とされる場合に、任意の基材に塗布することができる。エアバッグ上に上塗りとして塗布される場合に、又は、航空機及び熱気球の緊急シュート等の他の同様の用途に、塗膜組成物はとりわけ効果的であるが、キーパッド、型形成、ワイヤのコーティング等の他の用途、及び、シリコーン成型プロセス等の成型プロセスにおけるハンドリングの改善にも使用することができる。
【0093】
本発明の水性塗膜形成性組成物が、被覆されたエアバッグ又は被覆されたエアバッグファブリックに上塗りとして塗布される場合、下地塗りは、公知のシリコーンゴム系または有機樹脂系の硬化物のいずれであってもよく、特に限定されない。エアバッグコーティングの見地から、下地塗りは、オルガノポリシロキサン組成物であることが特に好ましく、オルガノポリシロキサン組成物は、好ましくは、脂肪族不飽和炭化水素又はヒドロカルボノキシ(hydrocarbonoxy)置換基を有するオルガノポリシロキサンと、ケイ素が結合した少なくとも3つの水素原子を有する有機ケイ素架橋剤と、脂肪族不飽和炭化水素又はヒドロカルボノキシ置換基とSi-H基との反応を促進することのできる触媒と、補強性充填材とを含んでいる。かかる下地塗りは硬化によりシリコーンゴム層を形成するため、高い柔軟性を有し、エアバッグを密封するのに効果的であるが、高い摩擦係数を有する。
【0094】
本発明の水性塗膜形成性組成物は、シリコーンゴム表面に塗布した場合、低い塗布量かつ厚さ30g/m2以下の薄膜状に塗布した場合であっても、はじきや塗工不良を生じることなく、均一性に優れた塗膜を形成することができるという利点を有するため、上記のシリコーンゴムを下地塗りとする基材に対し、優れた難燃性を維持しつつ、その表面に摩擦および/またはブロッキングを低減する減摩性の乾燥塗膜を少量の塗布のみで形成できるという利点を有する。このため、本発明の水性塗膜形成性組成物およびそれによる表面処理により、軽量かつ難燃性および減摩性に優れたエアバッグ、又は、その後エアバッグへと形成される被覆ファブリックを得ることができる。
【0095】
さらに、本発明の水性塗膜形成性組成物は、上記のシリコーンゴムを下地塗りとする基材について、利点を有する。すなわち、本発明の水性塗膜組成物は、ベースコーティング材としてシリコーンゴムを用いた場合であっても、当該ベースコーティング材と反応する成分を含まないため、高温かつ長時間(例えば、107℃―408時間等の過酷な耐熱条件)経過後であってもベースコートの変質を引き起こさない。このため、本発明に係る水性塗膜組成物の使用により、長期的に性能が安定したエアバッグ用コート布を提供することができる。
【0096】
下地塗りが硬化性である場合、上塗りを塗布する前に硬化されることが一般的であるが、代替の方法では、摩擦及び/又はブロッキングを低減するために、本発明の水性塗膜形成性組成物を未硬化の下地塗りに塗布し、下地塗り組成物と、摩擦及び/又はブロッキングを低減するための塗膜組成物との組み合わせを熱硬化してもよい。
【0097】
摩擦及び/又はブロッキングを低減するための塗膜が、硬化した下地塗りに塗布される場合、摩擦及び/又はブロッキングを低減するための塗膜は、周辺温度で硬化することができるか、或いは、高温、例えば50~200℃、特には100~150℃の範囲でより迅速に硬化することができる。高温で硬化する可能な方法の1つは、摩擦及び/又はブロッキングを低減する塗膜組成物を、加熱した基材、例えば、下地塗りを熱硬化した直後の被覆されたエアバッグ又はエアバッグファブリックに塗布することを含む。
【0098】
本発明の塗膜は、塗布される基材上に低摩擦表面をもたらす。高い摩擦係数を有する塗膜上に塗布される場合、本発明の塗膜は、被覆されたエアバッグ表面の摩擦を低減し、ひいては、車両の使用時に移動に供される場合、エアバッグの圧力保持を低減させる可能性のあるエアバッグの磨耗を低減する。
【0099】
本発明の塗膜は、被覆されたファブリック表面のブロッキング、即ち、保管中又は車両のエアバッグコンパートメント中での密なパッキングの間に被覆表面同士が張り付くことも防ぐ。かかるブロッキングは、エアバッグが膨張する場合に、非常に高い応力を生じ、引裂によって又はファブリックからのシリコーンの下地塗りの剥離によって、バッグの欠陥を生じ得る。
【0100】
本発明は、以下の実施例によって説明され、実施例中の部及び割合は、特に示さない限り、重量によるものである。
【実施例
【0101】
これらの実施例および比較例は、ベントナイト及びポリアクリル酸ナトリウムを含んだ変性粘土鉱物の増粘剤MCT1を使用し、当該増粘剤は、ポリアクリル酸ナトリウムの水溶液にベントナイトを均一に混合し、混合物を乾燥し、その後、粉砕することによって形成した。MCT1は、炭酸ナトリウムとポリアクリレートとの混合物を、約15%の含有率で含む。MCT1の1.5%水溶液は、20,000mPa・sの粘度を有し、該粘度は、直径20mmの2°テーパーコーンを備えたウェルズ-ブルックフィールドコーン/プレート粘度計を使用して、1s-1のせん断率で25℃において測定した(ASTM D4287)。
【0102】
以下、本発明を実施例と比較例によって詳しく説明する。実施例中、粘度は25℃における測定値であり、配合量を表す部は質量部を意味し、含有量を表す%は質量%を意味する。式中Meはメチル基を、Etはエチル基を示す。また、乾燥皮膜全体を100質量%とした場合の、本発明の各成分の乾燥皮膜中の含有量を、表中に明示した。
【0103】
評価用のシリコーンゴム塗布ナイロンファブリックは、織り密度46×46本のナイロンファブリックの上に、硬さ(JISタイプA)10度のシリコーンゴム(DOW社製、付加反応型エアバッグ用コーティング材LCF3760A&B)をナイフコートによって100g/m2で塗布されたものを使用した。
【0104】
[硬化皮膜の評価および塗布性の評価]
各実験例の水中油型シリコーンエマルジョン組成物(塗膜形成性組成物)を、シリコーンゴム塗布ナイロンエアバッグファブリックの被覆表面に、バーコーターによって塗布し、ウエット重量で30g/m2または15g/m2なるように塗布して、塗布性を評価した。さらに、各々の塗布量について、140℃で熱硬化し、以下の項目について、評価を行った。 塗布量は、バーコーターの番手を変えることで調節した。
・粘度:TA Instruments社製のレオメーターAR500を用い測定した。
・均一性:目視により評価した。
・ブロッキング試験:50×50mmの大きさに裁断した2枚のコート布を用意し、それらの塗膜面同士を合わせ重ねた上に直径75mmの円柱状で重さが1.0kgの鉄製の重石を乗せ、150℃のオーブン内に24時間放置した。オーブンから取り出し後、一枚の端部を固定し、もう一方の端部をプッシュプルゲージで引っ張り、50g以内の力で剥がれれば合格とした。
【0105】
[シリコーン系ベースコート材と組み合わせた物性評価]
ゴム物性:硬さ(JISタイプA)10度のシリコーンゴムを金型と温度150℃のプレスにて5分間硬化させることで、厚み1mmのゴムシートを作製した。その片面に、トップコート剤を塗布重量が12g/m2となるように塗布し150℃オーブンにて30秒間加熱し硬化させた。その後、107℃オーブンで408時間の耐熱老化試験を実施した。
耐熱老化試験から取り出し、室温で1日放置した後に、硬さ、JIS3号ダンベルによる引張試験を実施した。
【0106】
[実施例1]
(a)粘度2,400mPa・sの分子鎖両末端ヒドロキシジメチルシロキシ基封鎖ポリジメチルシロキサン92.5部、(b)式(1): Et2NO(Me2SiO)7NEt2 で示されるアミノキシ基含有ポリシロキサン7.5部を、(C2)あらかじめ混合し均一にしたポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体型ノニオン系乳化剤(アデカ製 製品名プルロニック(登録商標)F108)3.75部、(C1)アルカンスルホン酸ナトリウムの40%水溶液12.5部の分散液と均一に混合し、乳化機で乳化を行った。(D)水86部、(B-1)コロイダルシリカ(日産化学製 商品名スノーテックス30、有効成分30%、pH10、表面がナトリウムで安定化されているコロイダルシリカ)44.0部、(G)ジエチルアミン1.25部を得られた乳化物に投入し、均一に混合した。さらに、(F)メチルトリエトキシシラン2.5部を加えて均一に混合し、2週間室温で静置し、水中油型シリコーンエマルジョンベースを調製した。
【0107】
乳化重合により得られるオルガノポリシロキサン(A)の反応後の粘度は、下記の手順で測定した。(a)粘度2,400mPa・sの分子鎖両末端ヒドロキシジメチルシロキシ基封鎖ポリジメチルシロキサン92.5部、(b)式(1): Et2NO(Me2SiO)7NEt2 で示されるアミノキシ基含有ポリシロキサン7.5部を、(C2)あらかじめ混合し均一にしたポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体型ノニオン系乳化剤(アデカ製 製品名プルロニック(登録商標)F108)7.5部と(C1)アルカンスルホン酸ナトリウムの40%水溶液12.5部の分散液と均一に混合し、乳化機で乳化を行った。1週間静置した後、調製したエマルション10gにイソプロピルアルコール10gを攪拌しながら、添加し、析出したジメチルシロキサンのみを105℃で3時間乾燥したものをBrookfield型の粘度計により測定した。25℃における粘度は、1,800,000mPasであった。
【0108】
得られた水中油型シリコーンエマルジョンベース100部に(B-2)コロイダルシリカ 73.54部と、追加乳化剤成分(c2)製品名プルロニック(登録商標)F108 0.5部を均一に混合し、シリコーンエマルジョンNo.1を得た。
【0109】
(E)1.5%のアニオン系ポリマー複合精製ベントナイト(製品名:ベンゲルW100U:ホージュン株式会社)水溶液73部とタルク粉末15部を混合した分散物に、上記で得られたシリコーンエマルジョン(No.1)12部を均一に混合し、本発明の水中油型シリコーンエマルジョン組成物(=塗膜組成物)を得た。
【0110】
得られた水中油型シリコーンエマルジョンを25℃で放置したところ6ヶ月後でも分離などは認められず分散状態は安定であった。また、前記の方法で評価した場合、硬化皮膜を形成することができる。評価結果を表1に示す。
【0111】
[実施例/比較評価用トップコート剤にかかるシリコーン系ベースコート材との組み合わせにおける物性評価]
実施例1にかかる水中油型シリコーンエマルジョンを前記の方法でトップコート剤に使用し、シリコーン系ベースコート材と組み合わせた場合に、シリコーンゴムの物性に与える影響を確認した。他方、実施例1にかかる水中油型シリコーンエマルジョンに代えて、付加反応型シリコーンゴム系のトップコート剤(製品名DC3715BASE/CURING AGENT、DOW社製)を用い、前記の方法でシリコーン系ベースコート材と組み合わせた場合に、シリコーンゴムの物性に与える影響を比較した。参照実験として、前記の方法でトップコート剤を塗布してない、未処理の厚み1mmのゴムシートを作成した。
【0112】
その評価結果を表2および図1に示す。ここで、図1は、107℃オーブンで408時間の耐熱老化試験後の試料写真であり、左写真(未処理、参照実験)、中央写真(比較評価例)、右写真(実施例1)である。
【0113】
[実施例2]
追加乳化剤成分 製品名プルロニック(登録商標)F108の量を1.5部に変更した以外は、実施例1と同様の手順で、シリコーンエマルジョン(No.2)、および塗膜組成物を調整し、実施例1と同様の手順で評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0114】
[比較例1]
追加乳化剤成分を添加しない以外は、実施例1と同様の手順で、シリコーンエマルジョン(No.3)、および塗膜組成物を調整し、実施例1と同様の手順で評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0115】
[比較例2]
追加乳化剤成分を、C10ゲルべアルコールエトキシレートを主成分とするノニオン系乳化剤(BASF製 製品名LUTENSOL(登録商標) XP30) 1.0部に変更した以外は、実施例1と同様の手順で、シリコーンエマルジョン(No.4)、および塗膜組成物を調整し、実施例1と同様の手順で評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0116】
[比較例3]
追加乳化剤成分を、粘度調整剤(ローム アンド ハース株式会社製、プライマルASE60) 1.0部に変更した以外は、実施例1と同様の手順で、シリコーンエマルジョン(No.5)、および塗膜組成物を調整し、実施例1と同様の手順で評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0117】
【表1】

*(C2)成分以外のノニオン系乳化剤を追加した系
**粘度調整剤を追加した系
【表2】

【0118】
[総括]
実施例1および実施例2の水性塗膜形成性組成物(=塗膜組成物)は、本発明の構成を満たすものであり、塗工可能な粘度であり、かつ、塗布量30g/m2塗布であっても、より薄い塗布量15g/m2塗布であっても、シリコーンゴム上に均一塗布が可能であり、薄く、軽量性と均一性に優れ、塗膜間のブロッキングを生じない乾燥塗膜を形成可能であった。
【0119】
これに対し、比較例1~3においては、(c2)成分の量が不十分であり、塗布量30g/m2塗布時に、実施例に比較してはじきが生じやすく、特に、薄い塗布量15g/m2塗布においては、シリコーンゴム上ではじきを生じた結果、十分な均一性を有する塗膜を形成できないものである。このことから、比較例1および比較例2のいずれの組成物も、特に、シリコーンゴム上に薄く塗布し、機能性に優れた塗膜を得ることが困難であった。また、(c2)成分に代えて粘度調整剤を添加した場合、塗布量30g/m2塗布時であっても、シリコーンゴム上に均一に塗布することはできないものであった。
【0120】
シリコーンゴム系のベースコート材に及ぼす影響について評価した結果、表2に示す通り、現在使用されている付加反応型シリコーンゴム系のトップコート剤(比較評価例)では、未処理のシリコーンゴム系の伸びが1060%であるのに対し、同伸びが790%と小さくなった。他方、実施例1の水性塗膜形成性組成物(=塗膜組成物)をトップコート剤に用いた場合、伸びの低下は見られなかった。さらに、引張試験後のダンベルの破断箇所近辺を観察した結果、左写真(未処理、参照実験)および右写真(実施例1)と異なり、付加反応型シリコーンゴム系のトップコート剤を処理したゴム中央写真(比較評価例)のみ、表面に細かなクラックが発生していた。これは、付加反応型シリコーンゴム系のトップコート剤が含む架橋剤成分が、シリコーン系ベースコートの表面を反応によって固化させたものと推察される。他方、本発明実施例1のトップコート剤においては、シリコーン系ベースコート材との反応が起こらず、ベースコート材の劣化を引き起こさないため、未処理のものと同様、クラックの発生が見られないものと推察される。
【0121】
[袋織織物(シリコーンゴムからなるベースコートを備える基布バッグ)を用いる評価試験例]
470デシテックスの経糸密度46本/インチ、緯糸密度46本/インチのナイロン(登録商標)66製であって、5リットルの容積の袋状の内部空間を中央部に有し且つこの内部空間が気体吹き込み口を備えている袋織織物の両面に、硬さ(JISタイプA)10度の付加反応により硬化するシリコーンゴムを塗布重量60g/m2となるように塗布し、180℃で2分間加熱して硬化させたシリコーンゴム被覆袋織織物を製造する(参照実験)。なお、当該シリコーンゴム被覆袋織織物は、シリコーンゴムからなるベースコートを備える基布バッグに該当する。
【0122】
上記同様にシリコーンゴム被覆袋織織物を製造した後で、その上にトップコート剤を塗布重量が12g/m2となるように塗布し150℃オーブンにて30秒間加熱し硬化させシリコーンゴム被覆袋織織物を製造する。その後、107℃オーブンで408時間の耐熱老化試験を実施し室温で1日放置した後に、この袋織織物の内部空間に気体吹き込み口から125kPaの圧力の気体を吹き込んで内部空間の圧力を70kPaとした。直ちに気体吹き込み口を閉じ、内部空間の圧力の低下速度を計測する。
【0123】
現在使用されている付加反応型シリコーンゴム系のトップコート剤では、未処理のシリコーンゴム系のみ塗布したバッグより、圧力の低下速度が著しく大きくなるが、実施例1の水性塗膜形成性組成物(=塗膜組成物)をトップコート剤として処理したものでは、参照実験としてシリコーンゴム系のみ塗布したバッグと同等の内部空間の圧力の低下速度であり、付加反応により硬化するシリコーンゴムからなるベースコートを備えた基布について、変質やクラックに起因する信頼性の低下の問題を起こさない。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の水性塗膜形成性組成物は、基材に塗布あるいは含浸した後、水分を除去するとゴム状の弾性を有し、該表面の基材表面の摩擦および/またはブロッキングを低減する減摩性の乾燥塗膜を形成するので、水系塗料やインク、感熱紙やインクジェット用紙などに使用されるペーパーコーティング剤、金型やゴム用の離型剤、自動車ウェザーストリップ、ガスケット、ゴムホースなどに使用される樹脂コーティング剤、衣料やエアバッグに使用される繊維処理剤、剥離剤、化粧品、建築材料などとして有用である。
さらに、本発明の水性塗膜形成組成物をシリコーンゴムで表面処理されたエアバッグに用いる場合、ベースコートとの反応を起こさないことから、高温で長期に渡って放置されるような環境でもシリコーンベースコートの柔軟性を保持することが可能となり、そのような環境でも長期に渡ってエアバッグの性能を維持できるようになる。
図1