(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】調味料成形体及び食品
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20241210BHJP
【FI】
A23L27/00 D
(21)【出願番号】P 2020062779
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003753
【氏名又は名称】弁理士法人シエル国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100173646
【氏名又は名称】大森 桂子
(72)【発明者】
【氏名】岡部 弘美
(72)【発明者】
【氏名】勝川 雅裕
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-279755(JP,A)
【文献】特開2014-226133(JP,A)
【文献】国際公開第2018/105604(WO,A1)
【文献】特開2013-138661(JP,A)
【文献】特開2006-238742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分を含む含水性の成形体であって、
液体調味料と、
寒天と、
不溶性食物繊維と
を少なくとも含有し、
含水率が2.7~22質量%であり、
乾燥固形分中の前記不溶性食物繊維量が2.0~37質量%
であり、
水溶性デキストリンを含有しない調味料成形体。
【請求項2】
水分を含む含水性の成形体であって、
液体調味料と、
寒天と、
不溶性食物繊維と、
水溶性デキストリンと
を含有し、
含水率が2.7~22質量%であり、
乾燥固形分中の前記不溶性食物繊維量が2.0~37質量%であり、
前記不溶性食物繊維と前記水溶性デキストリンの合計量が、乾燥固形分全質量あたり、2.6~40質量%であ
る調味料成形体。
【請求項3】
前記不溶性食物繊維がおからである請求項1又は2に記載の調味料成形体。
【請求項4】
更に、加工澱粉を含有する請求項1~3のいずれか1項に記載の調味料成形体。
【請求項5】
前記加工澱粉が、リン酸架橋澱粉である請求項4に記載の調味料成形体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の調味料成形体を用いた食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体調味料を用いて形成された含水性の調味料成形体、この調味料成形体を用いた食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、醤油や塩などの調味料を含むシート状の成形体が提案されている。特許文献1には、醤油層とプルラン層からなる醤油フィルムが開示されている。この醤油フィルムは、湿ったプルランフィルムに粉末状の醤油を振りかけるか、又は乾燥したプルランフィルムに醤油ペーストを塗布した後、加熱されたロールで加圧する方法で製造されている。また、特許文献2には、醤油などの調味料成分とプルランなどの水溶性の賦形剤を含有する調味料層に、紙やプラスチックシートなどの剥離層を積層した調味料シートが開示されている。これらのシート状成形体は、水やスープに溶解させることを前提にしているため、主に水溶性の原料が使用されている。
【0003】
一方、水などに溶解させず、そのまま食することを前提とした調味料成形体も提案されている。例えば、特許文献3には、ゲル化剤と、食物繊維と、調味料とを含み、含有水分が30~50%である携帯用又は保存用のシート状食品が開示されている。また、本発明者は、液体調味料と、寒天と、澱粉類及び増粘多糖類のいずれか一方又は両方を含有し、含水率、塩分量、寒天と、澱粉類量及び増粘多糖類量を特定の範囲にすることで、液体調味料本来の風味を有し、取り扱い性に優れ、そのままの状態で食することが可能な調味料成形体を提案している(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭60-19478号公報
【文献】特開2013-66433号公報
【文献】特開昭63-279755号公報
【文献】特許第6434194号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1,2に記載の調味料シートは、水に溶解して使用するものであり、液体調味料を用いた含水性調味料成形体ではない。一方、特許文献3,4は水分を含む含水性の調味料成形体であるが、重ねて保管した場合に成形体同士が結着しやすいという問題がある。結着(ブロッキング)を防止する方法としては、例えば糖類などの粉原料や水不溶成分含有シートで成形体の表面を被覆する方法があるが、この方法は製造工程が煩雑となり、また、得られる可食性成形体の食感や風味への影響が懸念される。
【0006】
そこで、本発明は、柔軟性で、かつ、ブロッキング(結着)抑制性能に優れた含水性の調味料成形体及び食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る調味料成形体は、水分を含む含水性の成形体であり、液体調味料と、寒天と、不溶性食物繊維とを少なくとも含有し、含水率が2.7~22質量%であり、乾燥固形分中の前記不溶性食物繊維量が2.0~37質量%であり、水溶性デキストリンを含有しない。
また、本発明に係る他の調味料成形体は、水分を含む含水性の成形体であって、液体調味料と、寒天と、不溶性食物繊維と、水溶性デキストリンとを含有し、含水率が2.7~22質量%であり、乾燥固形分中の前記不溶性食物繊維量が2.0~37質量%であり、前記不溶性食物繊維と前記水溶性デキストリンの合計量が、乾燥固形分全質量あたり、2.6~40質量%である。
前記不溶性食物繊維としては、例えばおからを用いることができる。
また、本発明の調味料成形体は、更に、加工澱粉を含有していてもよい。
前記加工澱粉としては、例えばリン酸架橋澱粉を用いることができる。
【0008】
本発明に係る食品は、前述した調味料成形体を用いたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、液体調味料を含有する含水性の調味料成形体において、柔軟性を維持しつつ、ブロッキング抑制性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】A、Bは本実施形態の調味料成形体の形状例を模式的に示す図である。
【
図2】本実施形態の調味料成形体の製造工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0012】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態に係る調味料成形体について説明する。本実施形態の調味料成形体は、液体調味料を用いて形成された含水性の成形体であり、液体調味料と、寒天と、不溶性食物繊維とを少なくとも含有し、更に水溶性デキストリンや加工澱粉が配合される場合もある。
【0013】
本実施形態の調味料成形体の含水率は例えば2.7~22.0質量%であり、不溶性食物繊維量は乾燥固形分全質量あたり2.0~37質量%である。また、水溶性デキストリンが配合されている場合は、不溶性食物繊維と水溶性デキストリンの合計量が乾燥固形分全質量あたり2.6~40質量%であることが好ましい。
【0014】
[液体調味料]
液体調味料は、本実施形態の調味料成形体の主要成分であり、例えば、醤油、小麦発酵調味液、アミノ酸液、みりん、液体だし、各種つゆ類、ぽんず、ウスターソースや中濃ソースなどのソース類、ケチャップ、オイスターソースなどの中華調味料、魚醤など、液体状の種々の調味料を用いることができる。これらの液体調味料は、単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、液体調味料には、本発明の効果を損なわない範囲で、粉末状や顆粒状の調味料が添加されていてもよい。
【0015】
本実施形態の調味料成形体には、各種液体調味料の中でも、特に醤油及びダシが好ましい。本実施形態において、単に「醤油」や「ダシ」と記載した場合は、液体状の醤油及び液体状のダシを指し、特に断りのない限り以下の説明においても同様である。醤油は、穀物原料のものであればその種類は特に限定されず、生醤油又は火入れ醤油いずれでもよく、例えば溜醤油、濃口醤油、淡口醤油、白醤油、再仕込み醤油及び減塩醤油などを用いることができ、2種以上の醤油を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
また、ダシも、特に限定されるものではなく、例えば鰹節、宗田節、鮪節、鯖節、鰯節などの魚節類の粉砕物や削り節、又は、鰯、鯖、鯵、エビなどを干して乾燥させた煮干し類の粉砕物などを、熱水、エタノ-ルなどの有機溶媒、又は、熱水とエタノ-ルなどの混合溶媒を用いて抽出したダシ類が好ましく用いられ、特に熱水で抽出して得られたダシが好ましい。ダシを抽出する熱水の量は、適宜設定することができるが、例えば魚節類の場合、質量比で、魚節類:熱水=1:1~100とすることが好ましく、より好ましくは魚節類:熱水=1:1~40である。熱水量をこの範囲にして抽出することで、濃厚なダシが得られる。また、ダシには、必要に応じてコンブやワカメなどの海藻類から抽出したもの、しいたけなどの茸類から抽出したものなどを使用することができ、複数種のダシを組み合わせて使用することもできる。
【0017】
本実施形態の調味料成形に用いられる醤油の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば本醸造方式、新式醸造方式、アミノ酸液混合方式及び酵素処理液混合方式などにより製造されたものを用いることができる。また、醤油の原料に穀類以外のものが含まれていてもよい。穀物以外の原料としては、例えば「しょうゆの日本農林規格」(農林水産省告示第1218号)に記載されている食塩、砂糖類、アルコール、焼酎、清酒、米発酵調味料、醸造酢、みりん、みりん風調味料、増粘安定剤、酸味料、アミノ酸、核酸、有機酸、無機塩、甘味料、着色料、保存料、製造用剤、日持向上剤及びpH調整剤などが挙げられる。
【0018】
[寒天]
寒天は、テングサやオゴノリなど紅藻類から抽出される多糖類であり、本実施形態の調味料成形体の形状を維持するための成分である。なお、大豆タンパクなどのタンパク質でも成形体を形成することは可能であるが、タンパク質の風味により醤油の風味が変化したり、口溶けが悪くなったりする。これに対して、寒天は、調味料の風味に影響することがなく、成形体の形状を保持したまま食した場合の口溶けや歯切れがよい。本実施形態の調味料成形体に用いる寒天の種類は、特に限定されるものではなく、粉末状、フレーク状、固形状、棒状及び糸状など、各種形態のものを使用することができる。
【0019】
[不溶性食物繊維]
不溶性食物繊維を添加すると、成形体同士の結着(ブロッキング)が抑制されると共に、剥離紙や剥離フィルムからの剥離性を向上させることができる。ただし、調味料成形体中の不溶性食物繊維量が、乾燥固形分全質量あたり2.0質量%未満の場合、剥離性が低下し、ブロッキング抑制効果が十分に得られない。一方、調味料成形体中の不溶性食物繊維量が、乾燥固形分全質量あたり37質量%を超えると、柔軟性が低下する。よって、本実施形態の調味料成形体における不溶性食物繊維量は、乾燥固形分全質量あたり2.0~37質量%とする。
【0020】
本実施形態の調味料成形体に配合される不溶性食物繊維は、特に限定されるものではなく、大豆やインゲン豆などの豆類、小麦ふすまなどの穀類やその外皮、コーヒー種子などの種類、しょうがや大根などの野菜、リンゴやオレンジなどの果物、ナッツ類に含まれるセルロース、ヘミセルロース、リグニン、蟹などの甲殻類に含まれるキチンやキトサン、リンゴ、ココア、ピーナッツに含まれる不溶性ペクチン、しいたけやエノキなどのキノコ類に含まれるグルカンなど使用することができる。
【0021】
これらの不溶性食物繊維の中でも特に、調味料の香味を損なうことなく、調味料形成体の剥離性を高められることから、おからが好ましい。おからを使用する場合、調味料成形体にしたときのざらつきなどをなくし食感を向上させる観点から、粒子が細かいものを用いることが好ましく、具体的には、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いた粒子径解析-レーザ回折・散乱法(ISO13320、ISO9276、JISZ8825:2013)により測定した粒子径(メディアン径)が500μm以下のおからが好ましく、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは100μm以下である。
【0022】
[水溶性デキストリン]
水溶性デキストリンは、調味料成形体を柔軟にすると共に、不溶性食物繊維由来の風味を抑制する効果があり、必要に応じて添加される。ただし、調味料成形体に含まれる水溶性デキストリンと不溶性食物繊維の合計量が、乾燥固形分全質量あたり2.6質量%未満の場合、前述した効果が十分に得られないことがある。また、水溶性デキストリンと不溶性食物繊維の合計量が、乾燥固形分全質量あたり40質量%を超えると、柔軟性が低下する。よって、水溶性デキストリンを添加する場合は、調味料成形体に含まれる水溶性デキストリンと不溶性食物繊維の合計量が、乾燥固形分全質量あたり2.6~40質量%になるようにする。
【0023】
本実施形態の調味料成形体に用いる水溶性デキストリンは、食品への添加が認められているもので、所定の形状に調味料成形体が成形できる程度に調味料組成物に流動性や粘性を付与できるものであればよい。例えば、コーンスターチ、タピオカデンプンや馬鈴薯デンプンを原料とし、デンプンを化学的あるいは酵素的な方法により低分子化した粉あめ、マルトデキストリン、デキストリンなどを使用することができる。
【0024】
[加工澱粉]
加工澱粉は、ブロッキング抑制や剥離性向上の効果を高めることから、必要に応じて添加される。本実施形態の調味料成形体に配合される加工澱粉は、特に限定されるものではなく、リン酸架橋澱粉、アジピン酸架橋澱粉、アセチル化澱粉、酢酸澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酸化澱粉、レジスタントスターチなどを使用することができるが、調味料組成物の粘度安定性の観点から、粘度の強い糊状になりにくい特性を持つリン酸架橋澱粉が好ましい。
【0025】
[その他の成分]
本実施形態の調味料成形体には、前述した各成分に加えて、本発明の効果に影響を与えない範囲で、塩分調整用の食塩や水分調整用の水が添加されていてもよい。また、糖類、香辛料、酸味料及び粉末エキスなどの液体以外の調味料、ごま、わさび、椎茸、鰹節、海苔、昆布、梅干し、スルメなどの薬味を添加することもできる。ただし、薬味を添加する際は、小片状や粉末状のものを用いることが好ましい。更に、本実施形態の調味料成形体は、つゆ類、たれ類及びドレッシングなどの各種調味料組成物に用いられる副原料や添加剤を含有していてもよい。
【0026】
本実施形態の調味料成形体には、ゴマ油やオリーブオイルなどの油脂が、例えば乳化した状態で含まれていてもよい。これにより、脂特有の香味を有する調味料成形体が得られる。なお、油脂は、調味料に直接添加して乳化させてもよいが、乳化剤と共に添加してもよい。更に、本実施形態の調味料成形体には、着色のために着色料や天然色素などが添加されていてもよい。
【0027】
[含水率:2.7~22質量%]
調味料成形体に含まれる水分としては、醤油などの原料由来の水や製造時に調整のために添加された水などがある。調味料成形体の含水率が2.7質量%未満の場合、配合組成によっては、柔軟性がなくなったり、食感が悪くなったりすることがある。一方、含水率が22質量%を超えると、配合組成によっては、液体成分の浸みだしやブロッキングが発生しやすくなる。よって、本実施形態の調味料成形体では、含水率を2.7~22質量%とすることが好ましく、より好ましくは2.9~17.3質量%である。これにより、配合組成にかかわらずブロッキングを抑制しつつ良好な柔軟性を得ることができる。
【0028】
調味料成形体の含水率は、水の添加量や製造時の乾燥条件を変更することで調整することができる。なお、調味料成形体の含水率は、常圧加熱乾燥法、減圧加熱乾燥法及びカールフィッシャー法などにより測定することができる。
【0029】
[塩分量:乾燥固形分全質量の23質量%以下]
調味料成形体に含まれる塩分としては、醤油やダシなどの液体調味料に含まれる食塩の他に、製造時に調整のために添加された食塩などが挙げられる。調味料成形体中の塩分量は、風味や柔軟性に影響する。例えば、液体調味料が醤油、ダシ又はその両方であった場合、製造時の乾燥時間が長くなる上、塩味が強くなりすぎて風味が損なわれるため、乾燥固形分中の塩分量は23質量%以下とすることが好ましい。なお、調味料成形体の塩分量は、液体調味料の種類を変更したり、別途食塩を添加したりすることで調整可能であり、電位差滴定法やモール法などにより測定することができる。
【0030】
[形状・厚さ]
図1A,Bは本実施形態の調味料成形体の形状例を模式的に示す図である。本実施形態の調味料成形体の形状としては、例えば
図1Aに示す調味料成形体1のようなシート状、
図1Bに示す調味料成形体2のようなカップ状などが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、用途や目的に応じて適宜選択することができる。また、調味料成形体の厚さも、特に限定されるものではないが、製造容易性の観点から、5mm以下とすることが好ましい。
【0031】
[製造方法]
次に、本実施形態の調味料成形体の製造方法について説明する。
図2は本実施形態の調味料成形体の製造工程を示すフローチャートである。
図2に示すように、本実施形態の調味料成形体を製造する場合は、先ず、液体調味料に、寒天及び不溶性食物繊維を添加すると共に、必要に応じて水溶性デキストリン、加工澱粉、水及び塩などを添加し、各成分を加熱溶解させて調味料組成物を調製する(ステップS1)。
【0032】
次に、ステップS1で調整した調味料組成物を、型に流し込むか又は剥離フィルム上に塗布し、通風乾燥機などを用いて乾燥させて、所定形状の調味料成形体を得る(ステップS2)。ステップS2における成形及び乾燥方法は、型や剥離フィルムを用いる方法に限定されるものではなく、調味料組成物の状態や成形体の形状などに応じて、適宜選択することができる。例えば、調味料組成物を乾燥させながらロールなどで圧延する方法、ベルト上に塗布して乾燥させる方法などを適用することもできる。
【0033】
なお、ステップS2で用いた型や剥離フィルムなどは、乾燥後すぐに取り除いてもよいが、そのままの状態で保管してもよい。本実施形態の調味料成形体は、ブロッキングが発生しにくいため、型や剥離フィルムから外し、複数枚重ね合わせて保存することも可能である。
【0034】
[使用方法]
本実施形態の調味料成形体は、味付けとして食材の上に載せたり、食材に挟み込んだり又は食材を挟んだりするだけでなく、海苔のように食材に巻いたり、ライスペーパーのように食材を包んだり、容器代わりに食材を入れたりすることができる。また、本実施形態の調味料成形体は、裁断したり、各種形状に切り出し又は変形したりして使用してもよい。
【0035】
そして、本実施形態の調味料成形体は、例えばおにぎり、寿司、パン、サンドイッチ、ハンバーガー、カナッペ、麺類、サラダ、春巻き、煮物・炒め物・揚げ物へのトッピングの他、現在液体調味料を使用している各種食品に用いることができる。また、塩分量を調整したり、出汁や薬味などを添加したりすると、例えば酒のつまみとして、調味料成形体単独で食することもできる。更に、本実施形態の調味料成形体は、従来の液体調味料と同様に調理の際の味付けに用いることもできる。
【0036】
以上詳述したように、本実施形態の調味料成形体は、寒天と共に、特定量の不溶性食物繊維を配合しているため、柔軟性を維持しつつ、調味料成形体同士を結着しにくくすることができる。その結果、液体調味料本来の風味を維持しつつ、柔軟性で、かつ、ブロッキング(結着)抑制性能に優れた液体調味料含有調味料成形体を実現することができる。
【0037】
更に、本実施形態の調味料成形体は、液体成分が漏出しにくいだけでなく、一定量の水分を含んでいるため、吸湿しにくく、形態保持性に優れている。また、本実施形態の調味料成形体は、柔軟性があるため、加工も容易であり、調味料としてだけでなく、そのまま食せる味付き容器や、料理の盛りつけ時に使用する飾りなど、様々な用途に使用することができる。これらに加えて、本実施形態の調味料成形体は、べたつきがないため、歯や口腔内に付着しにくく、また、食感に優れ、歯切れや口溶けも良好であるため、そのままの状態で食することに適したものである。
【0038】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る調味料成形体について説明する。本実施形態の調味料成形体は、液体調味料を用いて形成された含水性の成形体であり、液体調味料と、寒天と、加工澱粉及び水溶性デキストリンを含有する。そして、本実施形態の調味料成形体の含水率は例えば2.7~22質量%であり、加工澱粉量は乾燥固形分全質量あたり5.6~32質量%であり、水溶性デキストリン量は乾燥固形分全質量あたり0.9~11質量%である。
【0039】
なお、本実施形態の調味料成形体は、不溶性食物繊維に代えて、加工澱粉と水溶性デキストリンを添加する以外は、前述した第1の実施形態と同様であるため、共通する構成についての説明は省略する。
【0040】
[加工澱粉・水溶性デキストリン]
加工澱粉を水溶性デキストリンと共に添加すると、成形体同士の結着(ブロッキング)が抑制されると共に、剥離紙や剥離フィルムからの剥離性を向上させることができる。ただし、調味料成形体中の加工澱粉量が乾燥固形分全質量あたり5.6質量%未満か、水溶性デキストリン量が乾燥固形分全質量あたり0.90質量%未満の場合、剥離性が低下し、フィルムからの剥離性及びブロッキング抑制効果が十分に得られない。
【0041】
一方、調味料成形体中の加工澱粉量が乾燥固形分全質量あたり32質量%を超えるか、又は水溶性デキストリン量が乾燥固形分全質量あたり11質量%を超えると、柔軟性が低下する。よって、本実施形態の調味料成形体においては、加工澱粉量を乾燥固形分全質量あたり5.6~32質量%とし、水溶性デキストリン量を乾燥固形分全質量あたり0.9~11質量%とする。
【0042】
本実施形態の調味料成形体に配合される加工澱粉は、特に限定されるものではなく、リン酸架橋澱粉、アジピン酸架橋澱粉、アセチル化澱粉、酢酸澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酸化澱粉、レジスタントスターチなどを使用することができるが、調味料組成物の粘度安定性の観点から、粘度の強い糊状になりにくい特性を持つリン酸架橋澱粉が好ましい。
【0043】
本実施形態の調味料成形体は、寒天と共に、特定量の加工澱粉及び水溶性デキストリンを配合しているため、柔軟性を維持しつつ、調味料成形体同士を結着しにくくすることができる。その結果、液体調味料本来の風味を維持しつつ、柔軟性で、かつ、ブロッキング(結着)抑制性能に優れた液体調味料含有調味料成形体を実現することができる。なお、本実施形態の調味料成形体における上記以外の構成及び効果は、前述した第1の実施形態と同様である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。
【0045】
(第1実施例)
第1実施例では、前述した第1の実施形態の調味料成形体と、本発明の範囲から外れる比較例の調味料成形体を作製し、柔軟性やブロッキング抑制効果について評価した。
【0046】
<調味料組成物の調整>
本実施例では、先ず、下記表1に示す成分組成のだし醤油に、寒天(伊那食品工業株式会社製 カリコリカン)、不溶性食物繊維(キッコーマンソイフーズ株式会社製 おからパウダー)、水溶性デキストリン(松谷化学工業株式会社製 TK-16)などを添加し、下記表2~4に示す配合の調味料組成物を調整した。
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
<試料の作製>
次に、上記表2~4に示す組成の調味料組成物を用いて、以下に示す方法で液体調味料を含有するシート状の調味料成形体を作製した。先ず、液体調味料(だししょうゆ)に必要に応じて水を加えたものに、寒天や不溶性食物繊維、水溶性デキストリンなどを添加し撹拌した後、容器を湯煎にかけて液温が85℃になるまで加熱しながら撹拌し、原料を溶解させた。
【0052】
その後、湯煎から容器を取り出し、調製した調味料組成物を、剥離フィルム上に400~500μmの厚さになるよう塗布した。これを、通風乾燥機を用いて、80℃の温度条件下で、約20分間乾燥させた後、剥離フィルムをはがして、シート状の調味料成形体を得た。
【0053】
<評価>
前述した方法で作製した実施例及び比較例の各調味料成形体について、「柔軟性」及び「剥離性(ブロッキング抑制効果)」を評価した。
【0054】
(1)乾燥固形分中の各成分の割合
乾燥固形分に含まれる寒天、不溶性食物繊維、水溶性デキストリン及び塩分の割合は、表1~4に示す各原料の配合量から算出した。具体的には、寒天、不溶性食物繊維及び水溶性デキストリンについては、実施例及び比較例の各シート状成形体の作製に用いたものの乾燥質量を計算により求め、それを別途算出したその他の成分(液体調味料など)も含む乾燥固形分量で除して求めた。また、塩分については、醤油、塩、その他の調味料に含まれる塩分量を計算により求め、それを別途算出したその他の成分(寒天、澱粉類、増粘多糖類など)も含む乾燥固形分量で除して求めた。
【0055】
(2)含水率
実施例及び比較例の各シート状成形体から1~2g程度の試料を切り出し、それを減圧下にて、60℃の温度条件で3時間加熱して、加熱前後の質量変化量を測定した。そして、この質量変化量を水分量として、各シート状成形体の含水率を算出した。
【0056】
(3)柔軟性
柔軟性は、実施例及び比較例の各シート状成形体から縦3cm、横1cmの大きさの試料を切り出し、その試料の両端を手で持って折り曲げたときの状態で評価した。具体的には、V字状に折り曲げることができたものを○(良)、U字状に折り曲げることはできたが、V字状に(折り目を付けるように)折り曲げると割れたものを△(可)、折り曲げることができずに割れたものを×(不可)とした。
【0057】
(4)剥離性
剥離性は、剥離フィルムを剥がした実施例及び比較例の各シート状調味料成形体を、それぞれ2枚ずつ重ねてアルミニウム製の袋に入れて密封し、内部温度が45℃に設定・維持されたインキュベーター内で10日間保管した。10日間経過後、袋から調味料成形体を取り出し、株式会社山電製 クリープメータ(RHEONER RE33005C)により、引張剥離試験用プランジャーの上側に一方の調味料成形体の端部を、下側に他方の調味料成形体の端部をそれぞれ挟み、1mm/秒の速度で引張剥離試験を行い、最大荷重を測定した。
【0058】
その結果、準備段階で剥離フィルムを容易に剥がすことができ、かつ、引張試験の最大荷重が0Nであったものを○(良)、準備段階で剥離フィルムを容易に剥がすことができ、かつ、引張試験の最大荷重が0を超え0.98N以下であったものを△(可)、準備段階で剥離フィルムを剥がすことができない(試験実施不可)、引張試験の最大荷重が0.98Nを超えた又は引張試験途中でシートが裂けたものを×(不可)とした。
【0059】
(5)総合評価
総合評価は、柔軟性及び剥離性のいずれも○であったものを◎(優)、○と△であったものを○(良)、いずれも△であったものを△(可)、いずれか又は両方とも×であったものを×(不可)とした。
【0060】
以上の結果を、下記表5~7にまとめて示す。
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
上記表5に示すように、No.A-1の試料は、乾燥固形分中の不溶性食物繊維量が2.0質量%未満であるため、柔軟性及び剥離性のいずれも劣っていた。一方、No.A-10の試料は、乾燥固形分中の不溶性食物繊維量が37質量%を超えているため、剥離性は良好であったが、柔軟性が低下した。No.A-9の試料も、乾燥固形分中の不溶性食物繊維及び水溶性デキストリンの合計量が40質量%を超えているため、剥離性は良好であったが、柔軟性が低下した。これに対して、本発明の範囲内で作製したNo.A-2~A-8、B-1~B-10、C-1~C-6の試料は、柔軟性及び剥離性共に良好であった。
【0065】
(第2実施例)
第2実施例では、前述した第2の実施形態の調味料成形体と、本発明の範囲から外れる比較例の調味料成形体を作製し、柔軟性及び剥離性(ブロッキング抑制効果)を評価した。
【0066】
具体的には、上記表1に示す組成のだし醤油に、寒天(伊那食品工業株式会社製 カリコリカン)、加工澱粉(松谷化学工業株式会社製 タピオカ由来リン酸架橋澱粉 パインベークCC)、水溶性デキストリン(松谷化学工業株式会社製 TK-16)などを添加し、下記表8,9に示す配合の調味料組成物を調整した。そして、前述した第1実施例と同様の方法及び条件で評価用試料を作製した。
【0067】
【0068】
【0069】
前述した方法で作製した試料を、第1実施例と同様の方法及び条件で評価した。その結果を、下記表10,11に示す。
【0070】
【0071】
【0072】
上記表10に示すように、No.D-1,D-2の試料は、乾燥固形分中の加工澱粉量が5.6質量%未満であり、かつ水溶性デキストリンの量も0.9質量%未満であるため、剥離性が劣っていた。また、上記表10,11に示すように、乾燥固形分中の加工澱粉量が5.6質量%未満であり、水溶性デキストリンの量も10.5質量%を超えているNo.D-13の試料や、水溶性デキストリン量は本発明の範囲内であるが、加工澱粉量が乾燥固形分全質量あたり5.6質量%未満であるNo.E-5の試料も、剥離性が劣っていた。更に、水溶性デキストリンを添加せず、加工澱粉のみを添加したNo.D-9及びE-1の試料は剥離フィルムの剥離性が劣っていた。
【0073】
一方、No.D-8の試料は、乾燥固形分中の加工澱粉量が32質量%を超えているため、柔軟性が低下し、剥離性も劣っていた。また、加工澱粉量は本発明の範囲内であるが、水溶性デキストリン量が乾燥固形分全質量あたり11質量%を超えているNo.E-4,D-10の試料は、柔軟性は良好であったが、剥離性が劣っていた。
【0074】
これに対して、本発明の範囲内で作製したNo.D-3~D-7,D-11,D-12,D-14,E-2,E-3,E-6,E-7の試料は、柔軟性及び剥離性共に良好であった。以上の結果から、本発明によれば、柔軟性で、かつ、ブロッキング(結着)抑制性能に優れた調味料成形体を実現できることが確認された。
【符号の説明】
【0075】
1、2 調味料成形体