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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 11/36 20060101AFI20241210BHJP
   F03G 7/06 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
G05B11/36 507F
G05B11/36 505A
G05B11/36 501Z
F03G7/06 E
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020095107
(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公開番号】P2021189807
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-02-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小路 智也
(72)【発明者】
【氏名】今塩屋 竜太
(72)【発明者】
【氏名】軽部 貴繁
(72)【発明者】
【氏名】笠松 新
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/069574(WO,A1)
【文献】特開2019-028339(JP,A)
【文献】特開2006-166556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 11/36
F03G 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータの可動部に接続された形状記憶合金を変形させることで前記アクチュエータの駆動を制御する制御装置であって、
前記アクチュエータの目標変位に応じた目標信号を設定する目標信号設定部と、
予め定められた補償情報に基づいて補償信号を出力する補償演算部と、
位置センサを用いて前記可動部の位置を検出する位置検出部と、
前記位置センサからの出力を取得して、前記位置センサの出力変化に応じて、前記可動部の現在変位情報に応じた変位信号を出力する変位信号出力部と、
前記目標信号、前記変位信号および前記補償信号に応じた操作信号を出力する制御部と、
前記操作信号に応じた駆動信号を前記アクチュエータに出力する駆動信号出力部と
を備え、
前記補償情報は、前記アクチュエータの姿勢情報を含み、
前記補償演算部は、前記姿勢情報に応じた前記形状記憶合金の長さまたは張力の変化を補償するための前記補償信号を出力する
制御装置。
【請求項2】
前記姿勢情報は、重力加速度情報に基づいて算出される
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記駆動信号は、前記形状記憶合金の温度を変態温度領域に設定するためのバイアス信号を含み、
前記駆動信号出力部は、前記操作信号に応じて前記バイアス信号を基準に前記駆動信号を増減する
請求項1または2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記駆動信号出力部は、前記駆動信号の加熱方向と放熱方向とで異なる補償量で補償された前記駆動信号を出力する
請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
複数の前記形状記憶合金を備え、
前記駆動信号出力部は、前記複数の形状記憶合金に応じた複数のチャネルを有し、前記姿勢情報に応じて、前記複数の形状記憶合金のそれぞれに異なる補償量で補償された前記駆動信号を出力する
請求項3または4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記複数の形状記憶合金は、前記可動部にプッシュプル配置で接続され、
前記駆動信号出力部は、前記複数の形状記憶合金のうち第1の形状記憶合金と、前記第1の形状記憶合金と対となる第2の形状記憶合金とに異なる補償量で補償された前記駆動信号を出力する
請求項5に記載の制御装置。
【請求項7】
前記位置センサは、前記制御装置の内部に設けられる
請求項1から6のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項8】
アクチュエータの可動部に接続された形状記憶合金を変形させることで前記アクチュエータの駆動を制御する制御方法であって、
前記アクチュエータの目標変位に応じた目標信号を設定する段階と、
前記アクチュエータの姿勢情報を含む予め定められた補償情報に基づいて、前記姿勢情報に応じた前記形状記憶合金の長さまたは張力の変化を補償するための補償信号を出力する段階と、
位置センサを用いて前記可動部の位置を検出する段階と、
前記位置センサからの出力を取得して、前記位置センサの出力変化に応じて、前記可動部の現在変位情報に応じた変位信号を出力する段階と、
前記目標信号、前記変位信号および前記補償信号に応じた操作信号を出力する段階と、
前記操作信号に基づいて前記アクチュエータに駆動信号を出力する段階と
を備え
制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、形状記憶合金の変形により駆動するアクチュエータの制御装置に関し、バイアス電流を与えることにより、応答性を改善することが知られている(例えば、特許文献1)。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1] 特許第4857550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
形状記憶合金を用いたアクチュエータにおける重力加速度による変位変動に応じて、アクチュエータの駆動を制御する制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様においては、アクチュエータの可動部に接続された形状記憶合金を変形させることでアクチュエータの駆動を制御する制御装置であって、アクチュエータの目標変位に応じた目標信号を設定する目標信号設定部と、予め定められた補償情報に基づいて補償信号を出力する補償演算部と、目標信号および補償信号に応じた操作信号を生成する制御部と、操作信号に応じた駆動信号をアクチュエータに出力する駆動信号出力部とを備え、補償情報は、アクチュエータの姿勢情報を含む制御装置を提供する。
【0005】
本発明の第2の態様においては、アクチュエータの可動部に接続された形状記憶合金を変形させることでアクチュエータの駆動を制御する制御方法であって、アクチュエータの目標変位に応じた目標信号を設定する段階と、予め定められた補償情報に基づいて補償信号を出力する段階と、目標信号および補償信号に基づいて、操作信号を出力する段階と、操作信号に基づいてアクチュエータに駆動信号を出力する段階とを備え、補償情報は、アクチュエータの姿勢情報を含む制御方法を提供する。
【0006】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】制御装置100の構成の一例を示す。
図1B】制御装置100の動作フローチャートの一例を示す。
図2A】バイアス式であるアクチュエータ200の構成の一例を示す。
図2B】プッシュプル式であるアクチュエータ200の構成の一例を示す。
図2C】プッシュプル式であるアクチュエータ200の構成の一例を示す。
図2D】バイアス式であるアクチュエータ200の構成の一例を示す。
図2E】プッシュプル式であるアクチュエータ200の構成の一例を示す。
図2F】プッシュプル式であるアクチュエータ200の構成の一例を示す。
図2G】プッシュプル式であるアクチュエータ200の構成の一例を示す。
図3A】制御装置100の構成の一例を示す。
図3B】制御装置100の構成の一例を示す。
図4】形状記憶合金220の変形特性を説明するための図である。
図5A】ヒステリシスに応じた特性変動を補償する制御装置100の構成の一例を示す。
図5B】形状記憶合金220のヒステリシスの一例を示す。
図5C】第1振幅振動による形状記憶合金220の変形特性を示す。
図5D】第2振幅振動による形状記憶合金220の変形特性を示す。
図5E】ヒステリシス補償部60の動作を説明するための図である。
図6A】駆動電流Idの設定方法の一例を説明するための図である。
図6B】駆動電流Idの設定方法の一例を説明するための図である。
図6C】駆動電流Idの設定方法の一例を説明するための図である。
図7A】他軸変位に応じた特性変動を補償する制御装置100の構成の一例を示す。
図7B】変位点Edが駆動方向および他軸方向に変位する形状記憶合金220の一例を示す。
図8】温度に応じた特性変動を補償する制御装置100の構成の一例を示す。
図9】アクチュエータ200の姿勢に応じた特性変動を補償する制御装置100の構成の一例を示す。
図10A】駆動信号Sdrの補償量を決定する方法を説明するための図である。
図10B】補償量の決定方法の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0009】
図1Aは、制御装置100の構成の一例を示す。制御装置100は、目標信号設定部10と、補償演算部20と、変位信号出力部30と、制御部40と、駆動信号出力部50と、バイアス信号生成部52とを備える。本例の制御装置100は、アクチュエータ200の可動部210に接続された形状記憶合金220を変形させることでアクチュエータ200の駆動を制御する。可動部210および形状記憶合金220については後述する。
【0010】
目標信号設定部10は、アクチュエータ200の目標変位情報に応じた目標信号Sgを設定する。目標信号Sgは、目標変位情報によって示される目標変位にアクチュエータ200を駆動させるための信号である。目標信号設定部10は、複数の目標信号Sgを設定してよい。例えば、アクチュエータ200が複数の形状記憶合金220を備える場合、複数の形状記憶合金220のそれぞれに目標信号Sgを設定してよい。例えば、駆動方向を複数備える場合、駆動方向のそれぞれに目標信号Sgを設定してよい。
【0011】
補償演算部20は、予め定められた補償情報Icに基づいて補償信号Scを出力する。補償信号Scは、形状記憶合金220の特性変動を補償するための補償量を含む。例えば、形状記憶合金220の特性変動とは、アクチュエータ200の動作状態、動作環境および動作履歴等に応じて、形状記憶合金220の駆動信号Sdrに対する変形特性が変動することを指す。制御装置100は、補償信号Scに応じて、増減された駆動信号Sdrをアクチュエータ200に出力する。
【0012】
補償情報Icは、形状記憶合金220の特性変動を補償するために必要な情報を含む。例えば、補償情報Icは、形状記憶合金220のヒステリシス情報のような形状記憶合金220の変形特性に関する情報を含む。一例において、ヒステリシス情報は、形状記憶合金220の伸縮に関する履歴情報を含む。また、補償情報Icは、可動部210の変位情報、温度情報または姿勢情報等を含んでよい。補償情報Icの具体例については、後述する。
【0013】
駆動信号Sdrは、形状記憶合金220に予め定められた駆動電流Idまたは駆動電圧Vdを与えるための信号である。駆動信号Sdrは、形状記憶合金220の温度を変態温度領域に設定するためのバイアス信号Sbを含む。変態温度領域については、後述する。例えば、駆動信号Sdrに応じて駆動電流Idを供給する場合、駆動信号出力部50は、バイアス信号Sbとしてバイアス電流Ibを形状記憶合金220に供給する。
【0014】
変位信号出力部30は、可動部210の現在変位情報に基づく変位信号Sdを出力する。変位信号Sdは、可動部210の予め定められた基準位置からの変位に関する情報を含む。現在変位情報は、可動部210の現在位置の座標等の情報を含む。一例において、変位信号出力部30は、現在変位情報として、可動部210の位置を検出するための位置センサからの出力を取得して、位置センサの出力変化に応じた変位信号Sdを制御部40に出力する。別の例において、位置センサが位置検出部230として制御装置100の外部に設けられてもよい。位置検出部230については後述する。
【0015】
現在変位情報は、形状記憶合金220の抵抗変化に応じた情報であってもよい。この場合、変位信号出力部30は、形状記憶合金220の抵抗変化に応じた変位信号Sdを制御部40に出力する。変位信号Sdは、形状記憶合金220の抵抗変化から、形状記憶合金220の長さを取得することによって算出される。本例の制御装置100では、形状記憶合金220の特性変動を補償して制御することにより、可動部210の位置精度と応答性を向上できる。
【0016】
制御部40は、操作信号Smを出力して、アクチュエータ200に供給する駆動信号Sdrを制御する。本例の制御部40は、目標信号Sg、変位信号Sdおよび補償信号Scに応じた操作信号Smを出力する。即ち、本例の制御部40は、アクチュエータ200からの変位信号Sdによってフィードバック制御しているので、クローズドループ制御回路として機能する。操作信号Smは、形状記憶合金220の操作量を示す信号である。
【0017】
駆動信号出力部50は、駆動信号Sdrに応じて形状記憶合金220を変形させることにより、アクチュエータ200を駆動させる。駆動信号出力部50は、操作信号Sm、補償信号Scおよびバイアス信号Sbに応じた駆動信号Sdrをアクチュエータ200に出力する。例えば、駆動信号出力部50は、操作信号Smに応じてバイアス信号Sbを基準に駆動信号Sdrを増減する。アクチュエータ200が複数の形状記憶合金220を有する場合、駆動信号出力部50は、それぞれの形状記憶合金220に駆動信号Sdrを出力してよい。他の例において、駆動信号出力部50は、供給するバイアス信号Sbをそれぞれの形状記憶合金220で変更してもよい。
【0018】
バイアス信号生成部52は、バイアス信号Sbを生成する。バイアス信号生成部52は、アクチュエータ200が複数の形状記憶合金220を有する場合であっても、複数の形状記憶合金220に対して同一のバイアス信号Sbを生成してよい。この場合、制御装置100は、複数の形状記憶合金220毎に異なる補償量で補償する。例えば、バイアス信号生成部52は、形状記憶合金220の応答性が向上するように、バイアス信号Sbを設定する。なお、バイアス信号生成部52は、複数の形状記憶合金220に対して異なるバイアス信号Sbを生成してもよい。
【0019】
なお、本例の制御装置100は、変位信号出力部30を用いて、制御対象の現在位置情報をフィードバックして、目標位置との差分をゼロに収束させるように制御するクローズドループ制御を用いている。但し、制御装置100は、変位信号出力部30を用いずに、目標位置情報に応じた操作量で制御対象を制御するオープンループ制御を用いてもよい。オープンループ制御の場合、制御部40は、目標信号Sgおよび補償信号Scに基づいて操作信号Smを出力する。
【0020】
図1Bは、制御装置100の動作フローチャートの一例を示す。ステップS10において、アクチュエータ200の目標変位情報に基づく目標信号Sgを設定する。ステップS12において、予め定められた補償情報Icに基づいて補償信号Scを出力する。ステップS14において、現在変位情報に基づいて変位信号Sdを出力する。なお、ステップS10~ステップS14の順序は本例に限られず、入れ替えられてもよい。
【0021】
ステップS16において、操作信号Smを出力する。ステップS18において、操作信号Smに基づいてアクチュエータ200に駆動信号Sdrを出力する。なお、ステップS10~ステップS18は繰り返し実行されてもよい。
【0022】
図2A図2Gは、アクチュエータ200の構成の概要を示す。本例のアクチュエータ200は、形状記憶合金(SMA:SHAPE MEMORY ALLOY)の変形により駆動するSMAアクチュエータである。アクチュエータ200は、可動部210および形状記憶合金220を備える。アクチュエータ200は、バイアス部材225をさらに備えてよい。即ち、アクチュエータ200は、形状記憶合金220が発生する推力によって可動部210を動作させる。
【0023】
可動部210は、形状記憶合金220の推力によって位置が変位する。例えば、可動部210は、撮像装置に設けられ、撮像装置に入射する光を屈折させるレンズである。可動部210は、予め定められた駆動方向に変位する。例えば、アクチュエータ200が撮像装置に搭載される場合、可動部210が変位することにより、オートフォーカス機能または手振れ補正機能を実現する。
【0024】
形状記憶合金220は、可動部210と連結されている。形状記憶合金220は、ワイヤ形状を有し、加熱または放熱により変形する。形状記憶合金220の加熱および放熱は、形状記憶合金220に流れる電流または形状記憶合金220に印加される電圧を制御することにより実現される。一例において、形状記憶合金220は、加熱によって収縮して、放熱によって伸長する。例えば、形状記憶合金220は、NiTiで形成され、結晶構造がマルテンサイト相(M)とオーステナイト相(A)との間で変化することによって収縮または伸長する。
【0025】
バイアス部材225は、可動部210と連結され、形状記憶合金220の収縮および伸長に応じて、可動部210の位置を変化させる。例えば、バイアス部材225は、収縮または伸長した場合に形状記憶合金220が可動部210に対して発生する推力方向に可動部210を変位させる。
【0026】
なお、本例では、アクチュエータ200を駆動することにより、撮像装置に設けられた可動部210を調整する場合について説明した。しかしながら、アクチュエータ200は、形状記憶合金220により駆動が制御されるものであれば、他の用途に適用されてよい。
【0027】
図2Aは、バイアス式であるアクチュエータ200の構成の一例を示す。本例のアクチュエータ200は、可動部210と、1本の形状記憶合金220と、1つのバイアス部材225とを備える。形状記憶合金220は、予め定められた駆動方向(例えば、Y軸方向)に延伸して設けられ、形状記憶合金220の推力が、バイアス部材225のばね推力と釣り合うように設けられている。形状記憶合金220の推力とは、駆動信号Sdrに応じて形状記憶合金220に発生する推力である。可動部210は、形状記憶合金220の推力およびばね推力によって、予め定められた駆動方向(例えば、Y軸方向)に変位する。
【0028】
例えば、制御装置100は、形状記憶合金220の通電を開始すると、形状記憶合金220を収縮させて、バイアス部材225の伸びる方向に可動部210を変位させる。一方、制御装置100は、形状記憶合金220の通電を終了すると、形状記憶合金220を伸長させて、バイアス部材225の縮む方向に可動部210を変位させる。
【0029】
形状記憶合金220の一方の端点が固定点Efであり、他方の端点が変位点Edである。固定点Efは、可動部210の変位によらず、予め定められた位置に固定されている。変位点Edは、可動部210と連結された点であり、可動部210の変位に応じて移動する。なお、バイアス部材225も同様に、バイアス部材225の一方の端点が固定点Efであり、他方の端点が変位点Edである。バイアス部材225は、変位点Edにおいて、可動部210と連結されている。
【0030】
図2Bは、プッシュプル式であるアクチュエータ200の構成の一例を示す。複数の形状記憶合金220が可動部210にプッシュプル配置で接続されている。プッシュプル式のアクチュエータ200では、複数の形状記憶合金220の推力をバランスさせて動作する。本例のアクチュエータ200は、可動部210と、2本の形状記憶合金220とを備える。複数の形状記憶合金220は、変位点Edにおいて、可動部210とそれぞれ連結されている。
【0031】
形状記憶合金220aおよび形状記憶合金220bは、予め定められた駆動方向(例えば、Y軸方向)に延伸して設けられ、形状記憶合金220の推力が互いに釣り合うように設けられている。可動部210は、2本の形状記憶合金220によってバランスさせて、予め定められた駆動方向(例えば、Y軸方向)に変位する。
【0032】
形状記憶合金220aは、形状記憶合金220bと対となって設けられている。駆動信号出力部50は、形状記憶合金220aと形状記憶合金220bとに異なる補償量で補償された駆動信号Sdrを出力してよい。例えば、形状記憶合金220aおよび形状記憶合金220bは、ヒステリシスまたはアクチュエータ200の姿勢等に応じた補償量で特性変動が補償されてよい。
【0033】
図2Cは、プッシュプル式であるアクチュエータ200の構成の一例を示す。本例のアクチュエータ200は、可動部210と、2本の形状記憶合金220と、2つのバイアス部材225を備える。形状記憶合金220およびバイアス部材225は、変位点Edにおいて、可動部210とそれぞれ連結されている。形状記憶合金220aおよびバイアス部材225aは、予め定められた駆動方向(例えば、Y軸方向)において、形状記憶合金220bおよびバイアス部材225bと推力が互いに釣り合うように設けられている。
【0034】
図2Dは、バイアス式であるアクチュエータ200の構成の一例を示す。本例のアクチュエータ200は、可動部210と、2本の形状記憶合金220と、2つのバイアス部材225を備える。形状記憶合金220およびバイアス部材225は、変位点Edにおいて、可動部210とそれぞれ連結されている。形状記憶合金220aおよびバイアス部材225aは、Y軸方向において、形状記憶合金220の推力とばね推力が釣り合うように設けられている。同様に、形状記憶合金220bおよびバイアス部材225bは、X軸方向において、形状記憶合金220の推力とばね推力が釣り合うように設けられている。本例のアクチュエータ200は、可動部210を2軸方向に変位させることができる。
【0035】
図2Eは、プッシュプル式であるアクチュエータ200の構成の一例を示す。本例のアクチュエータ200は、可動部210と、4本の形状記憶合金220a~形状記憶合金220dとを備える。4本の形状記憶合金220a~形状記憶合金220dは、変位点Edにおいて、可動部210とそれぞれ連結されている。
【0036】
形状記憶合金220aおよび形状記憶合金220bは、予め定められた駆動方向(例えば、Y軸方向)に延伸して設けられ、形状記憶合金220の推力が互いに釣り合うように設けられている。同様に、形状記憶合金220cおよび形状記憶合金220dは、予め定められた駆動方向(例えば、X軸方向)に延伸して設けられ、形状記憶合金220の推力が互いに釣り合うように設けられている。本例のアクチュエータ200は、可動部210を2軸方向に変位させることができる。
【0037】
図2Fは、プッシュプル式であるアクチュエータ200の構成の一例を示す。本例のアクチュエータ200は、可動部210と、4本の形状記憶合金220a~形状記憶合金220dとを備える。4本の形状記憶合金220a~形状記憶合金220dは、変位点Edにおいて、可動部210とそれぞれ連結されている。4本の形状記憶合金220a~形状記憶合金220dは、可動部210の駆動方向(例えば、X軸方向およびY軸方向)に対して斜めに延伸して設けられている。
【0038】
図2Gは、プッシュプル式であるアクチュエータ200の構成の一例を示す。本例のアクチュエータ200は、可動部210と、4本の形状記憶合金220と、4つのバイアス部材225を備える。4本の形状記憶合金220および4つのバイアス部材225は、変位点Edにおいて、可動部210とそれぞれ連結されている。
【0039】
形状記憶合金220aおよびバイアス部材225aは、Y軸方向において、形状記憶合金220bおよびバイアス部材225bと推力が互いに釣り合うように設けられている。同様に、形状記憶合金220cおよびバイアス部材225cは、X軸方向において、形状記憶合金220dおよびバイアス部材225dと推力が互いに釣り合うように設けられている。
【0040】
図3Aは、制御装置100の構成の一例を示す。本例の制御装置100は、駆動信号出力部50が複数のチャネルを有する点で図1Aの制御装置100と相違する。
【0041】
駆動信号出力部50は、複数のチャネルを有し、それぞれ駆動信号Sdrを出力する。これにより、アクチュエータ200が複数の形状記憶合金220を備える場合に、それぞれの形状記憶合金220に対して、異なる駆動信号Sdrを出力することができる。例えば、駆動信号出力部50は、形状記憶合金220の本数に応じた複数のチャネルを有し、形状記憶合金220のそれぞれの変形特性に応じた駆動信号Sdrを出力する。例えば、複数の形状記憶合金220のそれぞれが異なる変形特性を示す場合に、駆動信号出力部50は、バイアス信号Sbを基準に、変形特性に応じてそれぞれ適当な操作量で増減させる。アクチュエータ200が意図しない方向に駆動してしまうのを防ぐことができる。
【0042】
本例の制御装置100は、駆動信号出力部50が複数のチャネルを備えるので、図2B図2Gで示したようにアクチュエータ200が複数の形状記憶合金220を備える場合であっても、それぞれの変形特性に応じた駆動信号Sdrを出力することができる。
【0043】
図3Bは、制御装置100の構成の一例を示す。本例の制御装置100は、2軸方向に可動部210を可動させる場合について説明する。本例では、図3Aと相違する点について特に説明する。
【0044】
制御装置100は、目標信号設定部10と、補償演算部20と、変位信号出力部30と、制御部40と、駆動信号出力部50と、バイアス信号生成部52とをそれぞれ複数備えている。本例の制御装置100は、第1軸(例えば、X軸)および第2軸(例えば、Y軸)に対応して各構成を2つずつ備えている。
【0045】
目標信号設定部10aは、第1軸方向の目標変位に対応する目標変位情報に応じた目標信号Sgを設定する。一方、目標信号設定部10bは、第2軸方向の目標変位に対応する目標変位情報に応じた目標信号Sgを設定する。
【0046】
また、変位信号出力部30aは、第1軸方向の現在変位に対応する形状記憶合金220の現在変位情報を取得する。一方、変位信号出力部30bは、第2軸方向の現在変位に対応する形状記憶合金220の現在変位情報を取得する。
【0047】
これにより、制御装置100は、第1軸方向に可動部210を可動させるための形状記憶合金220と、第2軸方向に可動部210を可動させるための形状記憶合金220とに対して、それぞれ異なる目標信号Sg、変位信号Sd、補償信号Scおよびバイアス信号Sbに基づいて、駆動信号Sdrを出力することができる。
【0048】
図4は、形状記憶合金220の変形特性を説明するための図である。形状記憶合金220は、マルテンサイト相およびオーステナイト相と、これらの間の変態温度領域とを有する。形状記憶合金220は、変態開始温度以下の温度(即ち、マルテンサイト相)において、外力を受けて塑性変形した場合であっても、逆変態終了温度以上の温度で加熱されると記憶された形状に復元する特性を有する。
【0049】
例えば、形状記憶合金220は、変態温度領域において、加熱によって収縮して、放熱によって伸長する。形状記憶合金220の温度が変態温度領域に収まるようにバイアス信号Sbを設定することにより、加熱および放熱に対する形状記憶合金220の応答性が改善する。応答性とは、形状記憶合金220に駆動信号Sdrを供給してから、可動部210の変位が開始するまでの速さを指す。制御装置100は、変態温度領域の中でも優れた応答性を示す温度に設定してよい。形状記憶合金220の張り過ぎまたは緩みを無くすことで、可動部210の応答性を良好に制御できる。
【0050】
図5Aは、ヒステリシスに応じた特性変動を補償する制御装置100の構成の一例を示す。本例の制御装置100は、ヒステリシス補償部60を備える。補償情報Icは、形状記憶合金220のヒステリシス情報を含む。
【0051】
ヒステリシス補償部60は、形状記憶合金220のヒステリシスを補償するための補償信号Scを出力する。ヒステリシス補償部60は、補償演算部20と、更新部64と、記憶部62とを備える。なお、ヒステリシス補償部60は、制御装置100の外部に設けられてよい。
【0052】
記憶部62は、操作信号Smあるいは駆動信号Sdrの直近の最大値および最小値をヒステリシス情報として記憶する。例えば、記憶部62は、操作信号Smまたは駆動信号Sdrをヒステリシス情報として記憶する。
【0053】
更新部64は、記憶部62が操作信号Smあるいは駆動信号Sdrの直近の最大値および最小値を記憶するように記憶部62に対して、更新指示信号Suを出力する。例えば、更新部64は、制御装置100が出力した駆動信号Sdrを取得して、駆動信号Sdrの変化に応じて記憶部62の更新のタイミングを判断する。
【0054】
本例の制御装置100は、補償情報Icとしてヒステリシス情報を取得して、形状記憶合金220の特性変動を補償する。形状記憶合金220のヒステリシスによる変形特性の変動影響を低減して、可動部210の位置精度および応答性を向上できる。
【0055】
図5Bは、形状記憶合金220のヒステリシスの一例を示す。縦軸は形状記憶合金220の長さを示し、横軸は駆動信号Sdrを示す。実線は、駆動信号Sdrが大きくなるように掃引して、形状記憶合金220を加熱する場合を示す。破線は、駆動信号Sdrが小さくなるように掃引して、形状記憶合金220を放熱する場合を示す。
【0056】
形状記憶合金220がヒステリシスを有しており、駆動信号Sdrの加熱方向と放熱方向とで異なる変形特性を示している。例えば、点A~点Cは、駆動信号Sdrの放熱方向から加熱方向に転じる点である。点D~点Fは、駆動信号Sdrの加熱方向から放熱方向に転じる点である。
【0057】
このように、アクチュエータ200の駆動状態に応じて、形状記憶合金220を制御するために必要な駆動信号Sdrの大きさが異なる。駆動信号出力部50は、駆動信号Sdrの加熱方向と放熱方向とで異なる補償量で補償された駆動信号Sdrを出力してよい。
【0058】
図5Cは、第1振幅振動による形状記憶合金220の変形特性を示す。縦軸は形状記憶合金220の長さを示し、横軸は駆動信号Sdrを示す。本例では、制御装置100は、第1振幅でMAX側からMIN側まで形状記憶合金220を伸縮させた場合の周波数応答および過渡応答に基づいて、必要な駆動信号Sdrを決定する。第1振幅は、後述する第2振幅と異なる大きさの振幅である。
【0059】
図5Dは、第2振幅振動による形状記憶合金220の変形特性を示す。縦軸は形状記憶合金220の長さを示し、横軸は駆動信号Sdrを示す。本例では、制御装置100は、第2振幅で形状記憶合金220を伸縮させた場合の周波数応答および過渡応答に基づいて、必要な駆動信号Sdrを決定する。本例の第2振幅は、第1振幅よりも大きな振幅である。
【0060】
このように、形状記憶合金220のヒステリシスの大きさは、形状記憶合金220の目標値によっても異なる。例えば、形状記憶合金220のヒステリシスに応じて、形状記憶合金220の長さが基準値となるのに必要な駆動信号Sdrが変化する。そのため、形状記憶合金220のヒステリシスに応じて、必要な補償量の大きさも異なる。一例において、第1振幅振動および第2振幅振動のそれぞれの応答特性が同等となるようにヒステリシス補償量が決定される。これにより、形状記憶合金220の振幅の大きさによる影響を低減できる。
【0061】
例えば、制御装置100は、図5Bにおいて、駆動信号Sdrが加熱方向に掃引されている場合であっても、直前に放熱方向から加熱方向に折り返した点の位置によっても補償量を変化させてよい。図5Bにおいて、駆動信号Sdrが加熱方向に掃引されている場合に必要な補償量は、折り返す駆動信号Sdrの大きさ(例えば、点A~点C等)によっても変化する。同様に、図5Bにおいて、駆動信号Sdrが放熱方向に掃引されている場合に必要な補償量は、折り返す駆動信号Sdrの大きさ(例えば、点D~点F等)によっても変化する。
【0062】
図5Eは、ヒステリシス補償部60の動作を説明するための図である。縦軸は操作信号Smによる操作量を示し、横軸は任意の時刻tを示す。
【0063】
本例のヒステリシス情報は、形状記憶合金220の駆動信号Sdrの履歴情報である。履歴情報は、駆動信号Sdrの掃引方向の折り返しに関する折り返し情報を含む。折り返し情報は、駆動信号Sdrが加熱方向から放熱方向に転じる際の駆動信号SdrであるMAX側の折り返し情報を含む。また、折り返し情報は、駆動信号Sdrによる放熱方向から加熱方向に転じる際の駆動信号SdrであるMIN側の折り返し情報を含む。なお、履歴情報は、駆動信号Sdrに限らず、操作信号Smまたは変位信号Sdに基づく情報であってもよい。
【0064】
MAX側の折り返し情報は、第1折り返し情報の一例である。MAX側の折り返し点は、図5Bの点D~点Fに対応する。MIN側の折り返し情報は、第2折り返し情報の一例である。MIN側の折り返し点は、図5Bの点A~点Cに対応する。
【0065】
時刻t1は、加熱方向から放熱方向に折り返すタイミングを示す。時刻t1において、更新部64は、記憶部62が記憶していた、加熱方向から放熱方向に転じる際の駆動信号Sdrに関する折り返し情報(即ち、MAX側の折り返し情報)をリセットする。時刻t1~時刻t3において、記憶部62は、時刻t1における駆動信号SdrをMAX側ピークホールド値として記憶する。
【0066】
時刻t2は、放熱方向から加熱方向に折り返すタイミングを示す。時刻t2において、更新部64は、記憶部62が記憶していた、放熱方向から加熱方向に転じる際の駆動信号Sdrに関する折り返し情報(即ち、MIN側の折り返し情報)をリセットする。時刻t2~時刻t4において、記憶部62は、時刻t2における駆動信号SdrをMIN側ピークホールド値として記憶する。
【0067】
このように、記憶部62は、直前のMAX側の折り返し情報またはMIN側の折り返し情報を記憶しておく。ヒステリシス補償部60は、MAX側ピークホールド値およびMIN側ピークホールド値を更新しながら、形状記憶合金220のヒステリシスを補償する。
【0068】
本例の制御装置100は、形状記憶合金220の特性変動を補償して制御することにより、形状記憶合金220のワイヤ張力を適切に維持することができる。これにより、形状記憶合金220の張り過ぎおよび緩みを回避できる。また、本例の制御装置100は、最新の履歴情報に基づいて、動的に形状記憶合金220の補償量を変更することができる。
【0069】
また、本例の制御装置100は、形状記憶合金220のワイヤ張力を適切に維持して形状記憶合金220の張り過ぎおよび緩みを無くすことにより、可動部210の応答性を向上できる。可動部210の応答性を向上することにより、形状記憶合金220の加熱時間を短縮できる。ワイヤ張力を適切に維持することにより、過剰なワイヤ張力を回避して形状記憶合金220の破壊を抑制できる。したがって、アクチュエータ200の信頼性および応答性を向上できる。
【0070】
図6Aは、駆動電流Idの設定方法の一例を説明するための図である。本例のアクチュエータ200は、可動部210と、形状記憶合金220aと、形状記憶合金220bと、位置検出部230とを備える。形状記憶合金220aおよび形状記憶合金220bは、それぞれ形状記憶合金Aと形状記憶合金Bとに対応する。
【0071】
位置検出部230は、可動部210の位置を検出する位置センサとして機能する。例えば、位置検出部230は、位置センサ(例えば、ホール素子)を用いて可動部210の位置を検出する。また、位置検出部230は、形状記憶合金220の抵抗値から形状記憶合金220の長さを算出して、間接的に可動部210の位置を検出してよい。
【0072】
操作量Sm0は、可動部210の基準位置における操作量である。本例の基準位置は、形状記憶合金220aと形状記憶合金220bの長さが等しい位置である。
【0073】
ワイヤ長L0は、可動部210が基準位置に位置する場合の、形状記憶合金220の長さである。本例の形状記憶合金220aおよび形状記憶合金220bは、予め定められたバイアス電流Ibが供給されることにより、ワイヤ長L0に設定されている。
【0074】
図6Bは、駆動電流Idの設定方法の一例を説明するための図である。本例では、形状記憶合金220aに供給する駆動電流Idを大きくして、形状記憶合金220bに供給する駆動電流Idを小さくすることにより、操作量をSm0より大きくしている。形状記憶合金220aのワイヤ長は、基準のワイヤ長L0よりも短くなり、形状記憶合金220bのワイヤ長は、基準のワイヤ長L0よりも長くなっている。
【0075】
図6Cは、駆動電流Idの設定方法の一例を説明するための図である。ヒステリシスによって、形状記憶合金220aと形状記憶合金220bとで駆動電流Idに対するワイヤ長の変形特性が変化しているので、同一のワイヤ長に設定するために必要な駆動電流Idが異なる。
【0076】
形状記憶合金220aでは、基準位置に対応する操作量Sm0およびワイヤ長L0に設定するための駆動電流Idが図6Aの場合よりも小さくなる。一方、形状記憶合金220bでは、基準位置に対応する操作量Sm0およびワイヤ長L0に設定するための駆動電流Idが図6Aの場合よりも大きくなる。本例の制御装置100は、ヒステリシスを補償することにより、可動部210を基準位置に設定して、形状記憶合金220のワイヤ張力を適切に維持することができる。
【0077】
図7Aは、他軸変位に応じた特性変動を補償する制御装置100の構成の一例を示す。本例の制御装置100は、補償演算部20に他軸変位補償部70を備える。本例の制御装置100は、可動部210が少なくとも2つの軸方向に変位可能なアクチュエータ200の駆動を制御する。例えば、可動部210は予め定められた駆動方向と、駆動方向とは異なる軸方向のうち少なくとも1つの軸方向である他軸方向に変位する。
【0078】
他軸変位補償部70は、現在変位情報に応じて、可動部210の、他軸の変位による自軸の変位への干渉を補償するための補償情報Icを出力する。他軸変位補償部70に入力される現在変位情報は、変位信号出力部30に入力される現在変位情報と同一であってよい。現在変位情報として他軸の目標信号Sgを用いても良い。現在変位情報および他軸の目標信号Sgは、補償演算部20に入力される補償情報Icの一例である。本例の他軸変位補償部70は、他軸方向における変位に関する変位情報を補償情報Icとして補償演算部20に出力する。補償演算部20は、他軸方向の変位に基づく形状記憶合金220の特性変動を補償するための補償信号Scを生成する。
【0079】
図7Bは、変位点Edが駆動方向および他軸方向に変位する形状記憶合金220の一例を示す。形状記憶合金220aの変位点Edは、形状記憶合金220bの変位点Edと連結されている。本例の変位点Edは、駆動方向(即ち、Y軸方向)および他軸方向(即ち、X軸方向)に変位する。本例では、変位点EdがM地点に位置する場合と、変位点EdがN地点に位置する場合とが示されている。M地点とN地点とでは、駆動方向の座標が同一であるが、他軸方向の座標が異なる。そのため、駆動方向の位置が同じであっても、形状記憶合金220の長さが異なる場合がある。
【0080】
変位点EdがM地点に位置する場合、形状記憶合金220aおよび形状記憶合金220bの長さをそれぞれLaとLbとする。変位点EdがM地点に位置する場合、形状記憶合金220aと形状記憶合金220bの長さが等しくLa=Lbとなる。この場合、形状記憶合金220aのワイヤ張力と形状記憶合金220bのワイヤ張力とが等しくなる。
【0081】
一方、変位点EdがN地点に位置する場合、形状記憶合金220aおよび形状記憶合金220bの長さがそれぞれLa'とLb'となる。変位点EdがN地点に位置する場合、形状記憶合金220aの方が形状記憶合金220bよりも短くなりLa'<Lb'となる。この場合、形状記憶合金220aが形状記憶合金220bよりも緩みやすくなる。このように、変位点Edの位置と形状記憶合金220aおよび形状記憶合金220bの長さの関係とが他軸方向の変位によっても変化する。
【0082】
例えば、制御装置100は、変位点EdがN地点に位置する場合、形状記憶合金220aと形状記憶合金220bとで異なる駆動信号Sdrを出力することによって、形状記憶合金220の他軸の変位による自軸の変位への干渉を補償する。本例の制御装置100は、他軸方向における変位に関する変位情報を含む補償情報Icに基づいて、形状記憶合金220に与える駆動信号Sdrを補償する。これにより、他軸方向における変位の影響を抑制することができる。
【0083】
図8は、温度に応じた特性変動を補償する制御装置100の構成の一例を示す。本例の制御装置100は、補償演算部20に温度補償部80を備える。
【0084】
温度補償部80は、任意の温度センサから温度情報を取得する。温度情報は、補償演算部20に入力される補償情報Icの一例である。例えば、温度補償部80は、温度情報としてアクチュエータ200の環境温度を取得する。温度補償部80は、温度に応じた形状記憶合金220の特性変動を補償するために、温度情報を含む補償情報Icを補償演算部20に出力する。温度補償部80および温度センサは、制御装置100の外部に設けられてよい。この場合、補償演算部20は、制御装置100の外部から補償情報Icを取得する。
【0085】
形状記憶合金220の温度は、環境温度と通電による加放熱とに依存して決まる。従って、環境温度が高くなるほど形状記憶合金220が収縮しやすくなり、環境温度が低くなるほど形状記憶合金220が伸長しやすくなる。例えば、補償演算部20は、アクチュエータ200の環境温度が予め定められた基準温度よりも大きい場合、駆動信号Sdrの大きさを基準値よりも小さくする。一方、補償演算部20は、アクチュエータ200の環境温度が予め定められた基準温度よりも小さい場合、駆動信号Sdrの大きさを基準値よりも大きくしてよい。なお、補償情報Icが温度情報に加えてヒステリシス情報も含む場合、補償演算部20は、温度情報に応じて、ヒステリシス情報を補償してよい。
【0086】
図9は、アクチュエータ200の姿勢に応じた特性変動を補償する制御装置100の構成の一例を示す。本例の制御装置100は、補償演算部20に姿勢補償部90を備える。
【0087】
姿勢補償部90は、アクチュエータ200の姿勢情報を取得する。姿勢情報は、補償演算部20に入力される補償情報の一例である。姿勢補償部90は、加速度センサの重力加速度情報から姿勢情報を取得してもよい。形状記憶合金220は、アクチュエータ200の姿勢によって長さおよびワイヤ張力が変化する場合がある。本例の姿勢補償部90は、アクチュエータ200の姿勢が形状記憶合金220に与える変形特性の変化を補償するために、姿勢情報を含む補償情報Icを補償演算部20に出力する。
【0088】
姿勢情報は、アクチュエータ200に設けられた加速度センサ等のセンサによって取得されてよい。一例において、姿勢情報は、センサが取得した磁束密度の変化に応じた情報を含む。
【0089】
本例の制御装置100は、図3Aおよび図3Bの実施例のように、駆動信号出力部50において複数のチャネルを備えてもよい。この場合、駆動信号出力部50は、複数の形状記憶合金220に応じた複数のチャネルを有し、姿勢情報に応じて、複数の形状記憶合金220のそれぞれに異なる補償量で補償された駆動信号Sdrを出力する。これにより、制御装置100は、アクチュエータ200の姿勢に応じた特性変動を、複数の形状記憶合金220毎に補償することができる。
【0090】
なお、本例の制御装置100は、他の実施例と適宜組み合わせて用いられてよい。制御装置100は、ヒステリシス補償部60、他軸変位補償部70、温度補償部80および姿勢補償部90の少なくとも1つを備えてよい。即ち、制御装置100は、ヒステリシスに応じた特性変動、他軸変位に応じた特性変動、温度に応じた特性変動または姿勢情報に応じた特性変動の少なくとも1つを補償する。
【0091】
図10Aは、駆動信号Sdrの補償量を決定する方法を説明するための図である。同図は、駆動信号Sdrの補償量と位置制御誤差との関係、および駆動信号Sdrの補償量と追従性との関係を示す。駆動信号Sdrの補償量とは、バイアス信号Sbを基準として駆動信号Sdrを増減するための補償量である。駆動信号Sdrの補償量は、位置制御誤差の許容誤差の範囲内であって、追従性が高くなるように設定される。
【0092】
図10Bは、補償量の決定方法の一例を示す。本例では、形状記憶合金220の特性変動を補償するための補償量を決定する方法を説明する。
【0093】
ステップS100において、補償量を予め定められた最小値に設定する。補償量の最小値は、任意に設定されてよい。ステップS102において、位置制御誤差を測定する。
【0094】
ステップS104において、位置制御誤差が許容範囲内であるか否かを判断する。位置制御誤差が許容範囲内である場合、ステップS106に進み、位置制御誤差が許容範囲内でない場合、ステップS112に進む。
【0095】
ステップS106において、過渡応答特性を測定する。そして、ステップS108において、過渡応答特性の測定結果に基づいて、形状記憶合金220の追従性が改善しているか否かを判断する。形状記憶合金220の追従性が改善している場合、ステップS110に進み、追従性が改善した補償量を暫定の補償量として記憶する。形状記憶合金220の追従性が改善していない場合、ステップS112に進む。
【0096】
ステップS112において、補償量が予め定められた最大値未満であるか否かを判断する。補償量が最大値未満の場合、ステップS114に進む。補償量が最大値未満でない場合、ステップS116に進む。ステップS114において、補償量が最大値未満である場合、補償量を増加させて、ステップS102に戻る。ステップS116において、ステップS110で記憶した暫定の値を補償量として設定して調整を終了する。なお、ステップS110で記憶した暫定の値がない場合は、補償量の予め定められた最小値に設定してもよい。本例の補償量の決定方法により、補償量の予め定められた範囲内において、位置制御誤差の許容範囲内で、追従性が向上する補償量を決定することができる。
【0097】
また、本例の補償量の決定方法は、補償対象となる項目ごとに実行されてよい。即ち、制御装置100は、ヒステリシスに応じた特性変動、他軸変位に応じた特性変動、姿勢情報に応じた特性変動および温度に応じた特性変動の補償量をそれぞれ決定する。例えば、制御装置100は、本例のフローチャートに従い、ヒステリシスに応じた特性変動、他軸変位に応じた特性変動、姿勢情報に応じた特性変動および温度に応じた特性変動の順に補償量を決定する。
【0098】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0099】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0100】
10・・・目標信号設定部、20・・・補償演算部、30・・・変位信号出力部、40・・・制御部、50・・・駆動信号出力部、52・・・バイアス信号生成部、60・・・ヒステリシス補償部、62・・・記憶部、64・・・更新部、70・・・他軸変位補償部、80・・・温度補償部、90・・・姿勢補償部、100・・・制御装置、200・・・アクチュエータ、210・・・可動部、220・・・形状記憶合金、225・・・バイアス部材、230・・・位置検出部
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図8
図9
図10A
図10B