(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】多層麺及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/109 20160101AFI20241210BHJP
【FI】
A23L7/109 B
A23L7/109 C
(21)【出願番号】P 2020153613
(22)【出願日】2020-09-14
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100215670
【氏名又は名称】山崎 直毅
(72)【発明者】
【氏名】川口 康平
(72)【発明者】
【氏名】矢嶋 幹数
(72)【発明者】
【氏名】飯田 順子
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-287489(JP,A)
【文献】特開2016-059357(JP,A)
【文献】特開2006-288202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/109
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
麺の表面を形成する外層と、前記外層に隣接する内層とを含む、澱粉質原料を含む多層麺であって、
前記内層が、n-3系脂肪酸を
構成脂肪酸として含む油脂
(A)を、前記内層における澱粉質原料100質量部に対して、1.0~6.5質量部の範囲で含み、
前記外層が、n-3系列脂肪酸を構成脂肪酸として含む油脂(B)を、前記外層における澱粉質原料100質量部に対して、0~6.5質量部の範囲で含み、
前記内層における澱粉質原料100質量部に対する油脂(A)の構成脂肪酸として含まれるn-3系脂肪酸の含有量が、前記外層における澱粉質原料100質量部に対する油脂(B)の構成脂肪酸として含まれるn-3系脂肪酸の含有量よりも0.47質量部以上高いことを特徴とする、多層麺。
【請求項2】
前記外層における澱粉質原料100質量部に対する
、油脂
(B)の
構成脂肪酸として含まれるn-3系脂肪酸の含有量
が、0~4.5質量部の範囲である、請求項1
に記載の多層麺。
【請求項3】
前記内層における澱粉質原料100質量部に対する
、油脂
(A)の
構成脂肪酸として含まれるn-3系脂肪酸の含有量が
0.522質量部以上であ
る、請求項1
又は2に記載の多層麺。
【請求項4】
n-3系脂肪酸が、α-リノレン酸である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の多層麺。
【請求項5】
n-3系脂肪酸を構成脂肪酸として含む油脂が、アマニ油及び/又はエゴマ油
を含む、請求項1~
4のいずれか1項に記載の多層麺。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層麺及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦粉を主原料として製造された麺類は、いずれも特徴的な粘りと弾力性を有することが知られている。このような特徴は、小麦粉中に豊富に含まれるタンパク質であるグリアジンとグルテニンとが水と接触し、衝撃(混捏、押出し等)を与えることによってグルテンの網目構造が展開し、それによって形成されるグルテンネットワーク(グルテン組織とも称される)に由来する。例えば、麺類の一種であるうどんについて、日本国内ではいわゆる「コシが強い」うどんが好まれる傾向にあり、この「コシの強さ」は、麺の製造過程において生地中に架橋度が高く自在にグルテンネットワークが広がっているほど強くなる。
【0003】
コシの強さ等の麺類の特性を改善するために、従来から麺類用生地を製造する際に油脂を使用することが知られている(特許文献1~5)。特許文献1には、乳化剤と被膜形成剤を用いて油脂をO/W型に乳化し、噴霧乾燥して得られる粉末油脂を麺の原料粉に加え、麺を製造することを特徴とする麺の製造法が開示されており、茹でたうどんの外観及びコシが良好で、たれに浸した際の伸びが起こりにくいことが記載されている。特許文献2には、油脂を含浸させた脱脂卵黄粉末を含有させることを特徴とする麺類組成物が開示されており、ほぐれ性、食味及び食感が良好な麺類が得られることが記載されている。特許文献3には、主原料粉と、副原料として、食塩、かんすい、食用油脂、アルコール、乳酸ナトリウム、及び水と、を含む生中華麺であって、前記生中華麺の水分活性が0.85以上0.90未満であることを特徴とする、茹でこぼしが不要な生中華麺が開示されている。特許文献4には、特定の脂肪酸残基を有するトリグリセリドを含有する粉末状の油脂組成物を含有する、麺類用粉末油脂組成物が開示されており、製造時間が短縮され、つやと弾力があり、滑らかでのどごしがよい食感を有する麺類が得られることが記載されている。特許文献5には、乾燥卵白及び油脂加工澱粉を含有する、麺用乾燥卵白組成物が開示されており、簡便に弾力と粘りが優れた麺類を作ることができることが記載されている。
【0004】
一方で、麺類を茹で直後に喫食すると、茹で麺内部の適切な弾力(硬さ)と茹で麺表面付近の適切な柔らかさを兼ね備えた食感差と、茹で麺表面のつるみ(滑らかさ)とを感じることができるものの、これらの食感は茹で後の時間経過に伴って劣化することが知られている。このような問題を解決するために、例えば、特許文献6には、澱粉類と主体とする原材料を用いて得られる外層と、小麦粉を主体としこれにタンパク質を添加した原材料を用いて得られる内層からなる三層麺であって、外層/内層/外層=1.5~2.5/1/1.5~2.5の範囲であり、外層に用いる原材料が、タピオカ澱粉を50~85質量%およびα化澱粉を5~15質量%含有することを特徴とする三層麺が開示されており、茹で調理後経時しても、茹で直後の食感を保持することが記載されている。特許文献7には、トランスグルタミナーゼを添加した麺生地を内層とし、トランスグルタミナーゼを添加しないか又は内層より添加量を減じた麺生地を外層として積層して複合麺帯とし、これを切り出すことを特徴とする多層麺の製造法が開示されており、レトルト処理又は酸性下の加熱殺菌による麺の食感の劣化を改善できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平1-320961号公報
【文献】特開2001-321102号公報
【文献】特開2017-29079号公報
【文献】特開2017-127249号公報
【文献】特開2018-38370号公報
【文献】特開2008-29273号公報
【文献】特開平6-225717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、多層麺の内層と外層とで原料配合に差を設けることによって麺類の経時による食感を改善することが試みられているものの、経時による麺類の食感及び麺表面のつるみに関して、更なる改良が求められていた。
【0007】
本発明の目的は、茹でた後に保存しても、茹で立てのような麺内外の食感差及び麺表面のつるみを有する多層麺及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、外層と内層とを含む多層麺において、油脂由来のn-3系脂肪酸の内層における含有率を外層よりも高くすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]麺の表面を形成する外層と、前記外層に隣接する内層とを含む、澱粉質原料を含む多層麺であって、
前記内層がn-3系脂肪酸を含む油脂を含み、
前記油脂由来のn-3系脂肪酸の前記内層における含有率が、前記油脂由来のn-3系脂肪酸の前記外層における含有率よりも高いことを特徴とする、多層麺。
[2]n-3系脂肪酸を含む油脂が、n-3系脂肪酸を構成脂肪酸として含む油脂からなり、又は、n-3系脂肪酸を構成脂肪酸として含む油脂とn-3系脂肪酸を構成脂肪酸として含まない油脂との混合油脂である、[1]に記載の多層麺。
[3]外層が、n-3系脂肪酸を含む油脂を含む、[1]または[2]に記載の多層麺。
[4]内層における澱粉質原料100質量部に対する油脂由来のn-3系脂肪酸の含有量と、外層における澱粉質原料100質量部に対する油脂由来のn-3系脂肪酸の含有量との差が0.04質量部以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の多層麺。
[5]内層における澱粉質原料100質量部に対する油脂由来のn-3系脂肪酸の含有量が0.04質量部以上であり、かつ、内層における澱粉質原料100質量部に対するn-3系脂肪酸を含む油脂の含有量が0.08~6.5質量部である、[1]~[4]のいずれかに記載の多層麺。
[6]n-3系脂肪酸が、α-リノレン酸である、[1]~[5]のいずれかに記載の多層麺。
[7]n-3系脂肪酸を含む油脂が、アマニ油及び/又はエゴマ油を含む、[1]~[6]のいずれかに記載の多層麺。
[8]油脂由来のn-3系脂肪酸の含有率が異なる生地を少なくとも2種類用意し、
少なくとも2種類の生地のうち、油脂由来のn-3系脂肪酸の含有率が最も低い生地1を用いて麺の表面を形成する外層を作製し、油脂由来のn-3系脂肪酸含有率が生地1より高い生地2を、前記外層に隣接する内層として積層する工程を含むことを特徴とする、多層麺の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、茹でた後に保存しても、茹で立てのような麺内外の食感差及び麺表面のつるみを有する多層麺及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0012】
〔多層麺〕
本発明の多層麺は、麺の表面を形成する外層と、前記外層に隣接する内層とを含む。前記内層は、麺の表面を形成する2つの前記外層の間に位置している。本発明において、「多層麺」とは、製麺原料から複数の麺用生地を調製し、得られた麺用生地を複合して製麺して得られる、複数の層を有する麺を意味する。本発明の多層麺は、麺の厚み(積層)方向において、外層-内層-外層からなる三層麺であってもよく、外層-内層1-内層2-内層1-外層からなる五層麺であってもよく、同様にして七層麺であってもよい。本発明の多層麺は、麺の表面を形成する外層と、前記外層に隣接する内層とを含んでいればどのような形態であってもよく、例えば、外層及び内層が層状に積層された形態のものであってもよく、内層の全方向が外層で覆われた形態のものであってもよい。本発明の多層麺は、外層及び内層が層状に積層された形態のものであることが好ましい。
【0013】
〔澱粉質原料〕
本発明の多層麺の各層の生地は、澱粉質原料を含む。本発明において「澱粉質原料」とは、麺類の粉原料のうち澱粉を含むものの総称であり、小麦粉(強力系小麦粉、中力系小麦粉、薄力系小麦粉、デュラム小麦のセモリナ、デュラム小麦粉等)、ライ麦粉、ライ小麦粉、大麦粉、米粉、トウモロコシ粉、そば粉、大豆粉、モロコシ粉等の穀粉類;小麦澱粉、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、緑豆澱粉、サゴ澱粉等の澱粉類;前記澱粉類にα化、アセチル化、エーテル化、架橋、酵素反応等の変性処理を単独又は組み合わせて得られる加工澱粉類等を例として挙げることができる。
【0014】
なお、多層麺がグルテン形成能を有さない穀粉、澱粉類及び加工澱粉類を含む場合、別途、活性グルテンあるいはグルテンを主成分とする小麦蛋白を添加してもよい。もっとも、多層麺が小麦粉を主に含む場合であっても、食感改良の目的で活性グルテンあるいは小麦蛋白を添加することができる。
【0015】
〔n-3系脂肪酸を含む油脂〕
本発明の多層麺は、外層に隣接する内層がn-3系脂肪酸を含む油脂を含む。外層にはn-3系脂肪酸を含む油脂は含まれていても含まれていなくてもよい。本発明において「n-3系脂肪酸」とは、炭素数16以上の炭素からなる鎖式炭素骨格を持つ脂肪酸であって、炭素鎖のメチル末端から数えて3番目の炭素-炭素結合に初めて二重結合が現れる多価不飽和脂肪酸をいう。このようなn-3系脂肪酸として、α-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサトリエン酸、エイコサテトラエン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ヘンエイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)等が挙げられる。上記n-3系脂肪酸は、α-リノレン酸であることが好ましい。
【0016】
本発明において「油脂」とは、3価アルコールであるグリセリンの各水酸基に脂肪酸がエステル結合したものであり、通常はトリグリセリド(別称トリアシルグリセロール)の形態をとる化合物の総称である。ただし、植物や動物組織等の天然油脂原料から抽油又は製油した食用油脂には、微量成分としてリン脂質、遊離脂肪酸、モノグリセリドやジグリセリド等のトリグリセリド水解物、トコフェロール等の不けん化物、クロロフィルやカロテノイド等の色素類等が含まれていることは広く知られており、本発明における「油脂」は、これら微量成分が含まれることを許容する。
【0017】
本発明において「n-3系脂肪酸を含む油脂」は、n-3系脂肪酸を構成脂肪酸として含む油脂からなっていてもよく、n-3系脂肪酸を構成脂肪酸として含む油脂とn-3系脂肪酸を構成脂肪酸として含まない油脂との混合油脂であってもよい。n-3系脂肪酸を構成脂肪酸として含む油脂とは、グリセリン1分子に対して1~3分子のn-3系脂肪酸がエステル結合しているトリグリセリド(1分子のグリセリンに対して1分子のn-3系脂肪酸と2分子のn-3系脂肪酸以外の脂肪酸とがエステル結合しているもの、1分子のグリセリンに対して2分子のn-3系脂肪酸と1分子のn-3系脂肪酸以外の脂肪酸とがエステル結合しているもの、1分子のグリセリンに対して3分子のn-3系脂肪酸がエステル結合しているもの)を意味する。また、n-3系脂肪酸を構成脂肪酸として含まない油脂とは、1分子のグリセリン分子に対して3分子のn-3系脂肪酸以外の脂肪酸がエステル結合しているトリグリセリド(n-3系脂肪酸がエステル結合していない)を意味する。
【0018】
n-3系脂肪酸を構成脂肪酸として含む油脂としては、エゴマ油(58.0質量%)、アマニ油(57.0質量%)、ナタネ油(7.50質量%)、ダイズ油(6.10質量%)、オリーブ油(0.60質量%)、ゴマ油(0.31質量%)、コーン油(0.76質量%)、パーム油(0.19質量%)等が挙げられる(注:括弧内は日本食品標準成分表2015年版(七訂)追補2018年によるn-3系脂肪酸の含有率であり、n-3系脂肪酸はいずれもα-リノレン酸である)。また、n-3系脂肪酸を構成脂肪酸として含まない油脂としては、パーム核油、ヤシ油等が挙げられる。
なお油脂の脂肪酸組成は公知の方法で分析することができ、そのような分析法として基準油脂分析試験法(日本油化学会2013年版)が知られている。
【0019】
上記油脂は、天然由来の油脂及び合成油脂のいずれも使用することができるが、天然由来の油脂であることが好ましい。天然由来の油脂は、植物性、動物性、魚介性等の油糧原料から公知の方法により得ることができ、例えばアマニ油であれば、コールドプレス(低温圧搾法)により得ることができる。合成油脂は、例えば特開2017-127249号公報等に記載されている公知の合成法やエステル交換法等により得ることができる。
上記n-3系脂肪酸を含む油脂は、アマニ油及び/又はエゴマ油を含むことが好ましく、アマニ油及び/又はエゴマ油からなることがより好ましい。
【0020】
本発明では、外層に隣接する内層が、n-3系脂肪酸を含む油脂を含み、上記油脂由来のn-3系脂肪酸の上記内層における含有率が、上記油脂由来のn-3系脂肪酸の上記外層におけるn-3系脂肪酸の含有率よりも高い。すなわち、外層に隣接する内層における澱粉質原料100質量部に対する油脂由来のn-3系脂肪酸の含有量(質量部)が、外層における澱粉質原料100質量部に対する油脂由来のn-3系脂肪酸の含有量よりも多い(但し、外層はn-3系脂肪酸を含む油脂を含まなくてもよい)。なお本発明において「油脂由来のn-3系脂肪酸」とは、油脂を構成する(グリセリンと結合している)n-3系脂肪酸を意味し、遊離n-3系脂肪酸を意味しない。油脂由来のn-3系脂肪酸の含有率をこのように調整することで、茹でた後に保存しても、茹で立てのような麺内外の食感差及び麺表面のつるみを有する多層麺が得られる。本発明の茹で立て感の効果が奏されるメカニズムは定かではないが、n-3系脂肪酸はその分子内に不飽和結合を複数有しており、その不飽和結合が何らかの作用によりグルテンの収斂に寄与しており、その結果として麺に弾力を付与していると考えられる。
なお、上記油脂は、各層を形成するための生地由来の澱粉質原料に対して外割で加えられるものである。本発明において「n-3系脂肪酸の含有率」とは、各層を形成するための生地における澱粉質原料の質量を100としたときの、外割で加えられる油脂を構成するn-3系脂肪酸の質量割合(=油脂を構成するn-3系脂肪酸の質量÷澱粉質原料の質量×100[%])を意味する。すなわち、上記「含有率」は、ベーカーズ%である。
【0021】
例えば、多層麺が三層麺である場合、油脂由来のn-3系脂肪酸の内層における含有率が、油脂由来のn-3系脂肪酸の外層における含有率よりも高い。また他の例として、多層麺が五層麺である場合、油脂由来のn-3系脂肪酸の外層に隣接する内層1における含有率が油脂由来のn-3系脂肪酸の外層における含有率よりも高い。外層に隣接する2つの内層1の間に位置する内層2における油脂由来のn-3系脂肪酸の含有率は特に限定されないが、油脂由来のn-3系脂肪酸の内層1における含有率と同等であるか、油脂由来のn-3系脂肪酸の内層1における含有率よりも高いことが好ましい。本発明においては、麺の内部方向に進むにつれて油脂由来のn-3系脂肪酸の含有率が大きくなるような勾配とすることが好ましい。
【0022】
なお本発明において「茹で立て感が良好」とは、茹でた直後の麺内部が適度に弾力を有していて硬く、一方で麺外部は適度に柔らかく、麺の内外で明らかな食感差があることをいう。
また、本発明において「つるみを有する」とは、茹で立てのような麺表面の自然な滑らかさを有することをいう。
【0023】
上記内層における澱粉質原料100質量部に対する油脂由来のn-3系脂肪酸の含有量と、上記外層における澱粉質原料100質量部に対する油脂由来のn-3系脂肪酸の含有量との差は、0.04質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることが更に好ましい。含有量の差が0.04質量部以上であると、茹で立てのような麺内外の食感差を有する多層麺が得られやすくなる。
【0024】
上記内層における澱粉質原料100質量部に対する油脂由来のn-3系脂肪酸の含有量は、0.04質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることが更に好ましい。上記含有量が0.04質量部以上であると、茹で立てのような麺内外の食感差を有する多層麺が得られやすくなる。
【0025】
上記内層における澱粉質原料100質量部に対するn-3系脂肪酸を含む油脂の含有量は、0.08~6.5質量部であることが好ましく、0.1~6.0質量部であることがより好ましく、1.0~5.5質量部であることが更に好ましく、2.0~5.0質量部であることが特に好ましい。n-3系脂肪酸を含む油脂としてアマニ油プレミアムリッチ(商品名、日本製粉株式会社、α-リノレン酸含有率:69.6質量%)を使用する場合には、上記内層における澱粉質原料100質量部に対するn-3系脂肪酸を含む油脂の含有量は、4.52質量部以下であることが好ましい。内層におけるn-3系脂肪酸を含む油脂の含有量が上記範囲内であると、茹で立てのような麺内外の食感差及び麺表面のつるみを有する多層麺が得られやすくなり、また生地の作業性が向上する。
【0026】
上記外層は、麺表面のつるみを有する多層麺を得る観点からは、n-3系脂肪酸を含む油脂を含むことが好ましい。上記外層における澱粉質原料100質量部に対するn-3系脂肪酸を含む油脂の含有量は、特に限定されないが、0~6.5質量部であることが好ましく、0.1~6.0質量部であることがより好ましく、1.0~5.5質量部であることが更に好ましく、2.0~5.0質量部であることが特に好ましい。
【0027】
上記外層における澱粉質原料100質量部に対する油脂由来のn-3系脂肪酸の含有量は、0~4.5質量部であることが好ましく、0~4.15質量部であることがより好ましく、0~3.8質量部であることが更に好ましく、0~3.45質量部であることが特に好ましい。上記含有量が上記範囲内にあると、茹で立てのような麺内外の食感差及び麺表面のつるみを有する多層麺が得られやすくなる。
【0028】
〔その他の成分〕
本発明の多層麺の各層の生地は、澱粉質原料及びn-3系脂肪酸を含む油脂以外にも、通常製麺原料として使用されるその他の成分を特に制限なく使用することができる。そのような成分として、難消化性澱粉、難消化性デキストリン、小麦ふすま等の繊維質;全卵、卵白粉、卵黄粉等の卵及び卵加工品;豆蛋白、乳蛋白等の蛋白類;ショ糖脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤;ペクチン、キサンタンガム、グアーガム、カラギーナン、アルギン酸塩、アルギン酸エステル、セルロース誘導体等の増粘剤;トランスグルタミナーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ等の酵素製剤;酢酸、アスコルビン酸等のpH調整剤;糖類;無機塩類;保存料;着色料;香料;ビタミン類;栄養強化剤等が挙げられる。
【0029】
〔多層麺の製造方法〕
本発明の多層麺に使用するn-3系脂肪酸を構成脂肪酸として含む油脂を含む生地は、n-3系脂肪酸を構成脂肪酸として含む油脂を生地に添加する以外は、公知の方法により得ることができる。例えば、麺類製造用の澱粉質原料と任意に他の粉体原料とをミキサーに投入し、粉体混合しつつn-3系脂肪酸を含む油脂を少量ずつ添加して麺類用ミックス粉とし、得られた麺類用ミックス粉を水分とともに混捏して麺類用生地とすることができる。また、麺類製造用の澱粉質原料と任意に他の粉体原料とを水分とともに混捏し、更にn-3系脂肪酸を含む油脂を添加して混捏し、麺類用生地とすることもできる。添加するn-3系脂肪酸を含む油脂は、常温で固体であっても液体であってもよい。油脂が常温で液体状の場合にはそのまま添加してよく、常温で固体状の場合は加熱して液体状とするか、小片状に粉砕して添加してもよく、あるいは凍結した後に粉砕して添加してもよい。
また、n-3系脂肪酸を含む油脂は、油脂単独で添加することもできるが、担体に付着させた油脂あるいは乳化させた油脂を粉末化した、いわゆる「粉末油脂」として添加することもできる。n-3系脂肪酸を含む粉末油脂は、公知の粉末油脂の製造方法により得ることができ、例えば、穀粉や澱粉(未加工澱粉、加工澱粉等)、タンパク質等にn-3系脂肪酸を含む油脂を加えて均質になるように混合して担持させ、任意に加熱処理等をした後に粉末化する方法、水分及び乳化剤とともに混合してO/W型あるいはW/O型乳化物を調製し、前記乳化物をスプレードライ等により乾燥粉末化するか、凍結乾燥の後に粉砕して粉末化する方法により得ることができる。このようにして得られたn-3系脂肪酸を含む粉末油脂は、澱粉質原料及び任意に他の粉体原料とともに混合して容易に麺類用ミックス粉とすることができ、また、澱粉質原料及び任意に他の粉体原料を水とともに混捏して得られる生地に添加して更に混捏して麺類用生地とすることもできる。
【0030】
本発明の多層麺は、n-3系脂肪酸を構成脂肪酸として含む油脂を使用する以外は、定法の方法に従って通常の多層麺と同様にして、麺の表面を形成する外層に隣接するように内層を積層させることによって製造することができる。具体的には、油脂由来のn-3系脂肪酸の含有率が異なる生地を少なくとも2種類用意し、少なくとも2種類の生地のうち、油脂由来のn-3系脂肪酸の含有率が最も低い生地1を用いて麺の表面を形成する外層を作製し、油脂由来のn-3系脂肪酸含有率が生地1より高い生地2を、前記外層に隣接する内層として積層する。
【0031】
以下に本発明の多層麺の製造方法の一例を示す。
まず、外層用製麺原料に加水し、混捏して外層用の粗生地を得た後、該粗生地を圧延又は複合圧延ないし押出成形して外層用麺帯を得る。同様にして内層用製麺原料を用いて内層用麺帯を得る。この時、油脂由来のn-3系脂肪酸の内層用麺帯における含有率が、油脂由来のn-3系脂肪酸の外層用麺帯における含有率よりも高い。得られた外層用麺帯が最外層となるように内層用麺帯と外層用麺帯とを重層して複合し、圧延、成形及び切断工程を経ることで三層麺を得ることができる。
また、内層用生地を複数種類用意して油脂由来のn-3系脂肪酸の外層用麺帯における含有率よりも高い油脂由来のn-3系脂肪酸の含有率を有する内層用麺帯1と、油脂由来の任意のn-3系脂肪酸含有率の生地2とを用意し(好ましくは、油脂由来のn-3系脂肪酸の内層用麺帯2における含有率は、油脂由来のn-3系脂肪酸の内層用麺帯1における含有率と同等であるか、油脂由来のn-3系脂肪酸の内層用麺帯1における含有率よりも高い)、麺の表面から外層用麺帯、内層用麺帯1、内層用麺帯2の順になるように積層して、五層麺を得ることもできる。
同様の手順によって、油脂由来のn-3系脂肪酸の外層用麺帯における含有率よりも高い油脂由来のn-3系脂肪酸含有率を有する内層用麺帯1と、油脂由来の任意のn-3系脂肪酸含有率の生地2及び3とを用意し、麺の表面から外層用麺帯、内層用麺帯1、内層用麺帯2、内層用麺帯3の順になるように積層して、七層麺を得ることもできる。
1枚の外層用麺帯と1枚の内層用麺帯の厚さの比率は、特に限定されないが、内層用麺帯の厚さに対する外層用麺帯の厚さの比を1.0:0.5~3.0としてもよい。
【0032】
また、本発明の多層麺は、棒状、線状又は柱状に成形した内層用生地を、それらの長手方向側面が露出しないように外層用生地をシート状に成形した麺帯で被覆し、圧延、成形、切断工程を経て多層麺とすることもできる。この時、油脂由来のn-3系脂肪酸の外層用生地に隣接する内層用生地における含有率は、油脂由来のn-3系脂肪酸の外層用生地における含有率よりも高い。この場合も、1枚の外層用生地と1枚の内層用生地の厚さの比率は、特に限定されず、内層用生地の厚さに対する外層用生地の厚さの比を1.0:0.5~3.0としてもよい。
【0033】
更に、本発明の多層麺は、包餡機のような吐出口が二重ノズルになっている装置を用い、内側ノズルから内層用生地を、外側ノズルから外層用生地を同時に押し出して、麺線又は麺線用生地を得た後、任意に成型し、切断工程を経て多層麺とすることもできる。この時、油脂由来のn-3系脂肪酸の外層用生地に隣接する内層用生地における含有率は、油脂由来のn-3系脂肪酸の外層用生地における含有率よりも高い。この場合も、1枚の外層用生地と1枚の内層用生地の厚さの比率は、特に限定されず、内層用生地の厚さに対する外層用生地の厚さの比を1.0:0.5~3.0としてもよい。
【0034】
本発明の多層麺は、公知の麺類であればいずれの麺類であってもよく、例えば、中華麺、うどん、冷や麦、素麺、パスタ類等の小麦粉を主原料とする麺類;蕎麦、米粉麺等の小麦粉以外の穀粉を主原料とする麺類等が挙げられる。本発明の多層麺は、生麺、LL(ロングライフ)麺、茹で麺、チルド麺、冷凍麺等に利用することができる。本発明の多層麺は、小麦粉を主原料とするチルド麺類であることが好ましい。
【0035】
上記多層麺の厚みは、麺類の種類に応じて適宜調節することができる。上記厚みは特に限定されないが、0.5~3.0mmであることが好ましく、0.7~2.5mmであることがより好ましい。また、麺類の形状や長さも特に限定されない。例えば、麺類の長さは、10~350mmであることが好ましい。本発明の多層麺の内層に対する外層の厚さ(1層分)は、1:0.5~3.0であることが好ましく、1:0.7~2.0であることがより好ましい。上記多層麺の内層に対する外層の厚さは、多層麺を製造する際に使用する外層用麺帯(生地)及び内層用麺帯(生地)の厚さを同程度に設定することで、上記の範囲に容易に調節することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
〔製造例1:アマニ油を含む麺帯の製造〕
小麦粉100質量部、塩3質量部、水35質量部をミキサーに投入し、常圧下で高速3分間混合し、2質量部のアマニ油(日本製粉株式会社製、脂質100質量%、α-リノレン含有量52.2質量%)を徐々に滴下しつつ更に低速10分間混合してそぼろ状生地を得た。得られたそぼろ状生地を加圧し生地を得た後、ビニール袋に入れて密封し、24℃で30分間水和熟成させた。生地を圧延ロールで延ばして厚さ10mmの麺帯を得た後、圧延方向に沿って2枚の麺帯を重ねて複合圧延し、厚さ8mmの麺帯を得た。得られた麺帯をビニール袋に入れて密封し、24℃で30分間水和熟成させた後、圧延ロールで段階的に麺帯を薄くし、最終的に厚さ5mmの麺帯を得た。
【0038】
〔生地の評価〕
生地の製造に使用した油脂の種類及び量を下記表1に記載の通りにした以外は製造例1と同様にして麺帯を得た。得られた麺帯を製造する際の生地の作業性を、下記評価基準表1に従って評価した。なお、油脂を添加せずに製造した麺帯(試料番号1)のそぼろの状態及び生地の伸展性の評価を各々3点とした。結果を表1に示す。表中、*は、添加した油脂に由来するα-リノレン酸(ALAと略記)の量を表し、オリーブ油のα-リノレン酸含有量は日本食品標準成分表2015年版(七訂)追補2018年に基づいていることを示し、**は、添加したアマニ油がアマニ油プレミアムリッチ(商品名、日本製粉株式会社、α-リノレン酸含有率:69.6質量%)であることを示す。
【0039】
【0040】
【0041】
表1の結果から、試料番号1~4では、油脂(アマニ油)の添加量に依存してそぼろの状態及び生地の伸展性が良好になった。α-リノレン酸含有率が試料番号4で使用したアマニ油よりも高いアマニ油プレミアムリッチを使用した試料番号5では、試料番号4とほぼ同等の結果となった。試料番号6及び7では、油脂の添加量が多く生地にべたつきが生じ、生地が緩くなったために、生地のまとまり及び伸展性が低下した。よって、本発明の多層麺の製造に際して、作業性の観点からは、澱粉質原料100質量部に対するn-3系脂肪酸を含む油脂の含有量を6.5質量部以下として麺帯用生地を製造することが好ましい。
【0042】
〔製造例2:n-3系脂肪酸を構成脂肪酸として含む油脂を含む三層麺の製造〕
生地の製造に使用した油脂の種類及び量を下記表2及び3に記載の通りにした以外は製造例1と同様にして内層用麺帯及び外層用麺帯を得た。外層用麺帯、内層用麺帯、外層用麺帯の順に積層して1枚の内層用麺帯を2枚の外層用麺帯で挟み込み、ロール圧延機に通して3枚の麺帯を複合させ、厚さが薄くなるように順次圧延し、最終厚さ2.5mmの三層麺帯を得た。番手10の切刃に通し、長さ250mm毎に切断して三層生麺を得た。
【0043】
〔多層麺の評価〕
製造例2で得られた三層生麺を、三層生麺の約15倍の質量の茹で水で15分間茹で、水冷した後水切りした。得られた茹で麺200gを樹脂製容器に盛り付け、蓋をして密封し、庫内温度8℃の冷蔵庫で保管した。24時間保管した後、冷麺用たれ100mLをかけて麺をほぐし、10名の熟練パネラーにより下記評価基準表2に従って試食評価に供した。
なお、評価に際して、標準的な三層麺(油脂を添加せず製造例1に従って得た外層用麺帯と、20質量部の小麦粉をエーテル化タピオカ澱粉(松谷化学工業株式会社製、「さくら」)に置換して油脂を添加せずに製造例1に従って得た内層用麺帯とを用い、製造例2に従って得た三層麺)を茹で、水冷して水切りした後直後の「茹で立て感」及び「つるみ」をそれぞれ5点とし、庫内温度8℃の冷蔵庫で24時間保管後の「茹で立て感」及び「つるみ」をそれぞれ3点とした。結果を表2及び3に示す。表中、*1は、添加した油脂に由来するα-リノレン酸(ALAと略記)の量を表し、*2は、コーン油、オリーブ油、パーム油のα-リノレン酸量は日本食品標準成分表2015年版(七訂)追補2018年に基づいていることを表す。
【0044】
【0045】
【0046】
表2より、油脂由来のn-3系脂肪酸の内層における含有率が外層よりも高い(A-Bが正の値である)実施例1~7では、いずれも良好な茹で立て感と麺表面のつるみを両立することができた。実施例1~4では、内層用麺帯における油脂の添加量(n-3系脂肪酸の含有量)が増加するに伴って、麺内部の弾力(硬さ)が強くなり、麺表面付近と麺内部との食感差が大きくなったために、特に良好な茹で立て感が得られた。実施例5では、アマニ油の添加量が多くなったために実施例4よりも麺内部の弾力がやや弱くなったが、実施例1よりも良好な茹で立て感であった。外層にもアマニ油を添加した実施例6及び7では、麺表面のつるみが良好となる一方、油脂由来のn-3系脂肪酸の含有率の内外差が小さくなるために、茹で立て感は実施例2及び4よりもやや小さくなった。内層にアマニ油を含まず、外層にアマニ油を含む比較例1では、麺表面付近よりも麺内部の方が柔らかくなり、良好な茹で立て感は得られなかった。
【0047】
【0048】
表3より、油脂由来のn-3系脂肪酸(α-リノレン酸)の内層における含有率が外層よりも高い(A-Bが正の値である)実施例8~15では、いずれも良好な茹で立て感と麺表面のつるみを両立することができた。α-リノレン酸の含有率が実施例14及び15よりも高い実施例8の麺は、内層の油脂量であっても麺内部の弾力(硬さ)がより良好であり、茹で立て感がより良好であった。内層と外層の油脂量を同等にした実施例9~11では、内層におけるα-リノレン酸(アマニ油の添加量)の増加に伴って麺内部の弾力が強くなって茹で立て感が良好になった。実施例10の内層に使用したオリーブ油に替えてコーン油及びパーム油を使用した実施例12及び13では、茹で立て感及びつるみが共に実施例10と同等であった。なお、外層にn-3系脂肪酸を含む油脂を添加した実施例9~13では、外層に油脂を含まない実施例8、14~15よりもつるみが良好になった。
一方、油脂由来のα-リノレン酸由来の内層における含有率が、油脂由来のα-リノレン酸の外層における含有率よりも低い比較例2では、麺表面付近よりも麺内部の方が柔らかくなり、良好な茹で立て感は得られなかった。