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特許7601861測定セル及び当該測定セルを用いた遠心沈降式の粒径分布測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】測定セル及び当該測定セルを用いた遠心沈降式の粒径分布測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/04 20060101AFI20241210BHJP
   G01N 15/0205 20240101ALI20241210BHJP
   G01N 21/07 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
G01N15/04 A
G01N15/0205
G01N21/07
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022518076
(86)(22)【出願日】2021-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2021016741
(87)【国際公開番号】W WO2021221044
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2023-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2020079762
(32)【優先日】2020-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】山口 哲司
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-115140(JP,U)
【文献】特開2005-043158(JP,A)
【文献】米国特許第04226531(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/00-15/1492
G01N 21/03-21/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心沈降式の粒径分布測定装置のラインスタート法に用いられる測定セルであって、
一端に開口部が形成され、密度勾配が形成された溶液である密度勾配溶液を収容するセル本体と、
前記セル本体の開口部を塞ぐとともに、内部に試料液を保持する内部流路が形成されたセルキャップとを備え、
遠心力が加わることにより前記試料液が前記内部流路から前記密度勾配溶液に導入される、測定セル。
【請求項2】
前記内部流路は、一端部に試料導入口が形成されており、他端部に試料導出口が形成されたものであり、
前記セル本体に前記セルキャップが取り付けられた状態で、前記試料導入口は前記セル本体の外部に位置しており、前記試料導出口は前記セル本体の内部に位置している、請求項1に記載の測定セル。
【請求項3】
前記内部流路は、前記試料導入口から導入された前記試料液を保持する液溜め部と、当該液溜め部に連通するとともに前記試料導出口に連通する主流路部とを備え、
遠心力が加わることにより前記液溜まり部に保持された前記試料液が前記主流路部に流れ、前記主流路部を経て前記密度勾配溶液に導入される、請求項2に記載の測定セル。
【請求項4】
前記主流路部は、前記液溜め部に連通する小径流路部と、当該小径流路部の下流側に設けられ、前記試料導出口に連通する大径流路部とを有する、請求項3記載の測定セル。
【請求項5】
前記内部流路は、前記試料導入口及び前記液溜め部を連通する導入流路部をさらに備え、
前記導入流路部は、前記測定セルの回転軸方向に沿って設けられ、
前記主流路部は、前記測定セルに加わる遠心力方向に沿って設けられている、請求項3又は4に記載の測定セル。
【請求項6】
前記主流路部は、前記液溜め部の上部に接続されており、
前記液溜め部は、前記主流路部が接続されている側に、前記主流路部に向かって上り勾配の傾斜面を有している、請求項3乃至5の何れか一項に記載の測定セル。
【請求項7】
前記液溜め部は、底部に向かって先細りする円錐形状又は部分円錐形状をなすものである、請求項6に記載の測定セル。
【請求項8】
前記セル本体に前記セルキャップが取り付けられた状態で、前記セルキャップと前記密度勾配溶液との間に空間が形成されている、請求項1乃至7の何れか一項に記載の測定セル。
【請求項9】
前記セル本体及び前記セルキャップには、前記セル本体に対して前記セルキャップの取り付け向きを規制する規制機構が設けられている、請求項1乃至8の何れか一項に記載の、測定セル。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか一項に記載の測定セルと、
前記測定セルに対して密度勾配の小さい方から大きい方に向かって遠心力が加わるように回転させるセル回転機構とを備える、遠心沈降式の粒径分布測定装置。
【請求項11】
前記セル回転機構は、前記測定セルが取り付けられるセル保持体を有しており、
前記測定セルは、前記セル保持体に対して着脱可能に構成されており、
前記測定セル及び前記セル保持体には、前記セル保持体に対して前記測定セルの取り付け向きを規制する規制機構が設けられている、請求項10に記載の遠心沈降式の粒径分布測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心沈降式の粒径分布測定装置に関し、特に遠心沈降式の粒径分布測定装置のラインスタート法に用いる測定セルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の遠心沈降式の粒径分布測定装置としては、非特許文献1に示すように、密度勾配溶液が収容されたセルに試料懸濁液を供給し、試料懸濁液中の粒子を密度勾配溶液中で遠心沈降させるラインスタート法を用いたものがある。
【0003】
具体的にこの粒径分布測定装置は、中空のディスク状のセルが用いられており、一定の回転数で回転されているセルに密度勾配溶液を収容するとともに、回転中心部から試料懸濁液を注入するように構成されている。
【0004】
しかしながら、回転しているセルに対して外部から試料懸濁液を注入する構成であることから、試料懸濁液を注入するタイミングにばらつきが生じやすく、また、セル内の密度勾配溶液に到達するまでの時間のばらつきも大きくなってしまい、測定精度が悪くなってしまう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】スティフン・フィッツパトリック(Stephen T. Fitzpatrick)、“頻度別遠心沈降法による粒度分布測定:利点と欠点、現状、将来展望”[2018年5月30日検索]、インターネット(URL:https://www.nihon-rufuto.com/myadmin/rufuto_catalog/wp-content/uploads/2017/06/CPS-Polymer-News.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は上記問題点を解決すべくなされたものであり、ラインスタート法による粒径分布測定を行う粒径分布測定装置において測定精度を向上させることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る測定セルは、遠心沈降式の粒径分布測定装置のラインスタート法に用いられる測定セルであって、一端に開口部が形成され、密度勾配が形成された溶液である密度勾配溶液を収容するセル本体と、前記セル本体の開口部を塞ぐとともに、内部に試料液を保持する内部流路が形成されたセルキャップとを備え、遠心力が加わることにより前記試料液が前記内部流路から前記密度勾配溶液に導入されることを特徴とする。
【0008】
このようなものであれば、セルキャップに形成した内部流路が試料液を保持し、遠心力が加わることにより試料液が内部流路から密度勾配溶液に導入されるので、測定セルに遠心力を加えたタイミング又は測定セルを所定の回転数で回転させたタイミングをラインスタート法の測定開始タイミングとすることができ、測定精度を向上させることができる。また、セルキャップに試料液を保持させているので、試料液と密度勾配溶液までの距離を小さくすることができ、試料液が密度勾配溶液に到達するまでの時間のばらつきも小さくでき、これによっても測定精度を向上させることができる。
【0009】
ここで、測定セルが装置本体に対して着脱可能に構成されている場合には、着脱を容易にするために測定セルを小型化することが考えられる。
この場合、外部から試料液を導入する構成では、試料液が測定セルに到達するまでの時間が長くなってしまい、測定誤差の要因となる。また、外部から回転している測定セルに導入するための導入機構が複雑になってしまう。
一方で、本発明では、測定セルのセルキャップに試料液を保持させているので、測定セルを装置本体に対して着脱可能にすることによる上記の問題点を好適に解決することができる。
【0010】
セルキャップをセル本体に取り付けた状態で、試料液をセルキャップの内部流路に保持できるようにするためには、前記内部流路は、一端部に試料導入口が形成されており、他端部に試料導出口が形成されたものであり、前記セル本体に前記セルキャップが取り付けられた状態で、前記試料導入口は前記セル本体の外部に位置しており、前記試料導出口は前記セル本体の内部に位置していることが望ましい。
【0011】
内部流路の具体的な実施の態様としては、前記内部流路は、前記試料導入口から導入された前記試料液を保持する液溜め部と、当該液溜め部に連通するとともに前記試料導出口に連通する主流路部とを備え、遠心力が加わることにより前記液溜まり部に保持された前記試料液が前記主流路部に流れ、前記主流路部を経て前記密度勾配溶液に導入されることが望ましい。ここで、液溜め部は、試料液の容量に合わせて、その内容積が設定されている。
このように内部流路に液溜め部を設けることで、内部流路において所定量の試料液が保持される位置が一定になり、粒径分布測定の再現性を向上させることができる。
【0012】
主流路部が単一径の場合には、試料液が塊となって密度勾配溶液に導入され、ストリーミング現象によって、粒径分布を精度良く測定できないなどの問題が生じる恐れがある。
この問題を好適に解決するためには、前記主流路部は、前記液溜め部に接続された小径流路部と、当該小径流路部の下流側に設けられ、前記試料導出口に連通する大径流路部とを有することが望ましい。
この構成であれば、大径流路部において小径流路部からの試料液が広がり、試料導出口から密度勾配溶液に導入されることになる。これにより、ストリーミング現象が起きないようにでき、測定精度を向上させることができる。
【0013】
内部流路の具体的な実施の態様としては、前記内部流路は、前記試料導入口及び前記液溜め部を連通する導入流路部をさらに備え、前記導入流路部は、前記測定セルの回転軸方向に沿って設けられ、前記主流路部は、前記測定セルに加わる遠心力方向に沿って設けられていることが望ましい。ここで、主流路部が遠心力方向に沿って設けられているので、試料液が主流路部を素早く流れるようにできる。
【0014】
測定セルの回転前において液溜め部に確実に試料液を保持するとともに、回転時に液溜め部から主流路部に試料液を流れやすくするためには、前記主流路部は、前記液溜め部の上部に接続されており、前記液溜め部は、前記主流路部が接続されている側に、前記主流路部に向かって上り勾配の傾斜面を有していることが望ましい。
【0015】
セルキャップ内に液溜め部を加工しやすくするためには、前記液溜め部は、底部に向かって先細りする円錐形状又は部分円錐形状をなすものであることが望ましい。
この構成であれば、セルキャップに液溜め部を形成する際には、セルキャップにドリルを用いて穴加工すればよい。
【0016】
内部流路の試料導出口が密度勾配溶液に接している場合には、試料導出口近傍に働く表面張力によって、密度勾配溶液に導入された試料液の広がり(分散)が妨げられてしまう恐れがある。
この問題を好適に解決するためには、前記セル本体に前記セルキャップが取り付けられた状態で、前記セルキャップと前記密度勾配溶液との間に空間が形成されていることが望ましい。
この構成であれば、密度勾配溶液に導入された試料液を確実に広げることができ、測定精度を向上させることができる。
【0017】
前記セル本体及び前記セルキャップには、前記セル本体に対して前記セルキャップの取り付け向きを規制する規制機構が設けられていることが望ましい。
この構成であれば、セル本体に対してセルキャップを誤った向きで取り付けることを防止することができる。
【0018】
また、本発明に係る遠心沈降式の粒径分布測定装置は、上述した測定セルと、前記測定セルに対して密度勾配の小さい方から大きい方に向かって遠心力が加わるように回転させるセル回転機構とを備えることを特徴とする。
【0019】
前記セル回転機構が、前記セルが取り付けられるセル保持体を有する構成が考えられる。この構成の場合、前記測定セルは、前記セル保持体に対して着脱可能に構成されることが望ましい。
この構成であれば、装置本体から取り外される部品がセルのみとなり、その取り外し作業を簡単にすることができ、また、その後の洗浄作業も簡単にすることができる。その他、前記セルは、前記セル保持体を装置本体から着脱可能に構成することによって、装置本体から着脱可能に構成しても良い。
【0020】
そして、前記測定セル及び前記セル保持体には、前記セル保持体に対して前記測定セルの取り付け向きを規制する規制機構が設けられていることが望ましい。
この構成であれば、セル保持体に対して測定セルを誤った向きで取り付けることを防止することができる。
【0021】
また、本発明に係る測定セルは、遠心沈降式の粒径分布測定装置に用いられる測定セルであって、分散媒を収容する収容空間と、前記収容空間に連通するとともに内部に試料液を保持する内部流路とを有し、遠心力が加わることにより前記試料液が前記内部流路から前記分散媒に導入されることを特徴とする。
この測定セルであれば、収容空間に連通する内部流路が試料液を保持し、遠心力が加わることにより試料液が内部流路から分散媒に導入されるので、試料液と分散媒までの距離を小さくすることができ、試料液が分散媒に到達するまでの時間のばらつきも小さくでき、これによっても測定精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上に述べた本発明によれば、ラインスタート法による粒径分布測定を行う粒径分布測定装置において測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る一実施形態の遠心沈降式の粒径分布測定装置の構成を模式的に示す図である。
図2】同実施形態のセルが取り付けられたセル保持体の平面図である。
図3】同実施形態の測定セルにおいてセル本体からセルキャップを取り外した状態を模式的に示す断面図である。
図4】同実施形態の測定セルにおいてセル本体にセルキャップを取り付けた状態を模式的に示す断面図である。
図5】同実施形態のセルキャップの構成を示す平面図、正面図及びA-A線断面図である。
図6】同実施形態の(1)試料準備の段階、(2)回転開始前の状態を示す断面図である。
図7】同実施形態の回転開始後の試料液が密度勾配溶液に到達するまでの状態を示す断面図である。
図8】他の実施形態のセルキャップの構成を示す平面図及びA-A線断面図である。
【符号の説明】
【0024】
100・・・遠心沈降式の粒径分布測定装置
2 ・・・測定セル
3 ・・・セル回転機構
31 ・・・セル保持体
SS ・・・試料液
DGS・・・密度勾配溶液
21H・・・開口部
21 ・・・セル本体
R ・・・内部流路
22 ・・・セルキャップ
2A ・・・試料導入口
2B ・・・試料導出口
R1 ・・・液溜め部
R2 ・・・主流路部
R2a・・・小径流路部
R2b・・・大径流路部
R3 ・・・導入流路部
R1x・・・傾斜面
S1 ・・・空間
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態に係る遠心沈降式の粒径分布測定装置について、図面を参照しながら説明する。
【0026】
<1.粒径分布測定装置の装置構成>
本実施形態の遠心沈降式の粒径分布測定装置100は、ラインスタート法により粒径分布測定を行うものであり、図1に示すように、密度勾配溶液WDGS及び試料液WSSを収容する測定セル2と、当該測定セル2を回転させるセル回転機構3と、当該セル回転機構3による測定セル2の回転通過領域を挟んで設けられた光照射部4及び光検出部5とを備えている。なお、本実施形態の試料液WSSは、粒子が分散された試料懸濁液である。
【0027】
測定セル2は、例えば概略直方体形状をなす中空の角形セルである。この測定セル2には、密度勾配が形成された溶液である密度勾配溶液WDGSが収容される。この密度勾配溶液WDGSは、例えば、濃度の異なる複数のショ糖溶液を用いて形成されており、測定セル2の底側に行くに従って徐々に密度が大きくなるように多層状に収容されている。本実施形態では、参照セル6も設けられており、当該参照セル6には水が収容されている。
【0028】
セル回転機構3は、測定セル2に対して密度勾配の小さい方から大きい方に向かって遠心力が加わるように回転させるものである。
【0029】
具体的にセル回転機構3は、測定セル2及び参照セル6が着脱可能に取り付けられるセル保持体31と、当該セル保持体31を回転させる回転部32とを有している。
【0030】
セル保持体31は、図2に示すように、例えば円盤形状をなすものであり、その回転中心を挟むように測定セル2及び参照セル6が取り付けられる。ここで、測定セル2は、密度勾配の方向がセル保持体31の径方向に沿うように取り付けられる。また、セル保持体31には、セル形状に対応した取り付け凹部31aが形成されており、当該取り付け凹部31aにセル2、6を嵌め入れることによって取り付けられる。さらに、測定セル2及び参照セル6と取り付け凹部31aとの間には、ガイド機構(不図示)が設けられている。当該ガイド機構は、取り付け凹部31a又はセル2、6の一方に設けられたガイドレールと、他方に設けられたガイド溝とから構成される。セル2、6に設けられるガイドレール又はガイド溝は、セル2、6に一体に設けられたものであってもよいし、セル2、6に装着される部材に設けられたものであっても良い。なお、このガイド機構は、セル保持体31に対して測定セル2又は参照セル6の取り付け向きを規制する規制機構としても機能する。
【0031】
そして、測定セル2及び参照セル6は、セル保持体31に対して着脱可能に構成されている。これらセル2、6がセル保持体31に対して着脱可能とされることによって、セル2、6は、装置本体に対して着脱可能となる。なお、セル2、6を装置本体から取り外す際には、開閉蓋13は開けられた状態である。
【0032】
また、セル保持体31の上面には、測定セル2及び参照セル6が回転中に不意に外れないようにするためのカバー体33が設けられている(図1参照)。
【0033】
測定セル2のセル保持体31への取り付け方としては、密度の大きい方が径方向外側となるように取り付けられる。これにより、セル保持体31が回転することによって、測定セル2に対して密度勾配の小さい方から大きい方に向かって遠心力が加わることになる。
【0034】
回転部32は、図1に示すように、セル保持体31の下面における中心部に接続された回転軸321と、当該回転軸321を回転させるモータ322とを有している。当該モータ322は、制御部10によってその回転数が制御される。なお、回転軸321は、セル保持体31に一体形成されたものであってもよいし、別体に形成されたものであっても良い。また、回転軸321は、1つの部材から構成されるものであってもよいし、複数の部材を接続して構成されたものであっても良い。
【0035】
上記のセル保持体31は、粒径分布測定装置100の内部に形成された収容空間100Sに収容されている。当該収容空間100Sを形成する下壁11には、回転部32の回転軸321が貫通している。なお、収容空間100Sを形成する上壁12は、測定セル2を着脱する際に開閉される開閉蓋13により形成されている。
【0036】
光照射部4は、図1に示すように、セル2、6の回転通過領域(セル保持体31)の下方に設けられている。本実施形態の光照射部4は、収容空間100Sの下壁11よりも下側に設けられており、当該下壁11に形成された透光窓11Wを介してセル2、6に向かって光を照射する。具体的に光照射部4は、例えばLEDなどの光源41と、当該光源41から出射された光を集光する集光レンズ42とを有している。光照射部4により射出された光は、セル保持体31に形成された光通過孔31hを通って測定セル2又は参照セル6に照射される。
【0037】
光検出部5は、図1に示すように、セル2、6の回転通過領域(セル保持体31)の上方に設けられている。本実施形態の光検出部5は、収容空間100Sの上壁12よりも上側に設けられており、当該上壁12に形成された透光窓12Wを介してセル2、6を透過した光を検出する。具体的に光検出部5は、光検出器51と、当該光検出器51により検出される光を集光する集光レンズ52とを有している。光検出部5により検出される光は、セル2、6を透過してカバー体33に形成された光通過孔33hを通り、集光レンズ52により集光される。
【0038】
光検出器51により得られた光強度信号は、粒径分布演算部15により取得されて、粒径分布演算部15によって粒径分布データが算出される。ここで、粒径分布演算部は、前記光強度信号とともに制御部10から取得した回転開始信号を用いて粒径分布データを算出する。当該粒径分布データは、図示しない表示部によってディスプレイ上に表示される。
【0039】
<2.測定セル2の具体的構成>
本実施形態の測定セル2は、上述したように、遠心沈降式の粒径分布測定装置100のラインスタート法に用いられるものである。
【0040】
具体的に測定セル2は、図3及び図4に示すように、一端に開口部21Hが形成され、密度勾配溶液WDGSを収容するセル本体21と、セル本体21の開口部21Hを塞ぐとともに、内部に試料液WSSを保持する内部流路Rが形成されたセルキャップ22とを備えており、遠心力が加わることにより試料液WSSが内部流路Rから密度勾配溶液WDGSに導入されるように構成されている。
【0041】
セル本体21は、例えばアルミニウムなどの金属製のものであり、互いに対向する対向壁21a、21bに光を透過するための透光窓W1、W2が設けられている。なお、対向壁21a、21bは、遠心力方向に直交する方向において対向している。セル本体21を金属製とすることによって、遠心力に耐える強度にすることができるとともに、耐薬品性に優れたものにできる。
【0042】
また、透光窓W1、W2は、セル本体21の対向壁21a、21bに形成された貫通孔にガラス製の窓部材211を設けることにより構成されている。窓部材211がガラス製のため耐薬品性に優れている。なお、窓部材211は、シール部材212及び固定部材213を介して対向壁21a、21bに形成された貫通孔に液密に固定されている。ここで、透光窓W1、W2のうち、光入射側の透光窓W1よりも光射出側の透光窓W2のサイズを大きくしている。これにより、セル回転機構3による回転ずれ(回転軸のぶれ)が生じても、光射出側の透光窓W2から光が射出されるようにしている。
【0043】
セルキャップ22は、例えば樹脂製のものであり、図3図4及び図5に示すように、セル本体21の開口部21Hに挿し込まれることにより当該開口部21Hを塞ぐものである。ここで、セルキャップ22は、セル本体21の開口部21Hに挿し込まれる挿入部22aと、セル本体21の外部に位置する後端部22bとを有する。
【0044】
セルキャップ22に形成された内部流路Rは、一端部に試料導入口2Aが形成されており、他端部に試料導出口2Bが形成されている。そして、セル本体21にセルキャップ22が取り付けられた状態で、試料導入口2Aはセル本体21の外部に位置しており、試料導出口2Bはセル本体21の内部に位置している。具体的には、試料導入口2Aは、後端部22bの上面に設けられており、試料導出口2Bは、挿入部22aの先端面22xに設けられている。この構成により、セルキャップ22をセル本体21に取り付けた状態において、試料導入口2Aから内部流路Rに試料液WSSを導入することができる。
【0045】
内部流路Rは、試料導入口2Aから導入された試料液WSSを保持する液溜め部R1と、当該液溜め部R1に連通するとともに試料導出口2Bに連通する主流路部R2とを備えている。そして、遠心力が加わることにより液溜まり部R1に保持された試料液WSSが主流路部R2に流れ、主流路部R2を経て密度勾配溶液WDGSに導入される。
【0046】
ここで、内部流路Rは、試料導入口2A及び液溜め部R1を連通する導入流路部R3をさらに備えており、導入流路部R3は、測定セル2の回転軸方向(図3及び図4において、紙面上下方向)に沿って設けられ、主流路部R2は、測定セル2に加わる遠心力方向((回転径方向、図3及び図4において、紙面左から右方向)に沿って設けられている。つまり、本実施形態では、導入流路部R3と主流路部R2とは互いに直交している。なお、導入流路部R3は、主流路部R2に対して傾いて形成されていても良い。
【0047】
また、主流路部R2は、液溜め部R2に連通する上流側の流路である小径流路部R2aと、当該小径流路部R2aの下流側に設けられ、試料導出口2Bに連通する大径流路部R2bとを有している。小径流路部R2aは、同一径を有する直線状の流路であり、大径流路部R2bは、小径流路部R2aの直径よりも大きい直径の同一径を有する直線状の流路である。また、小径流路部R2aと大径流路部R2bとは同軸上に設けられている。
【0048】
液溜め部R1は、導入流路部R3の先端部(下端部)に形成されており、所定量(例えば10μL)の試料液WSSを一時的に貯留可能なものである。ここでは、液溜め部R1は、導入流路部R3に接続されることによって、上方に開放した空間となる。この液溜め部R1には、試料導入口2Aから導入流路部R3に導入された試料液WSSの略全てを貯留する。
【0049】
また、液溜め部R1と主流路部R2との位置関係については、主流路部R2が液溜め部R1の上部に接続されるように構成されている。つまり、主流路部R2は、導入流路部R3に接続されることにより液溜め部R1に連通している。
【0050】
ここで、液溜め部R1は、主流路部R2が接続されている側(径方向外側)に、主流路部R2に向かって上り勾配の傾斜面R1xを有している。これにより、液溜め部R1に貯留された試料液WSSが遠心力を受けることにより主流路部R2に流出しやすくしている。本実施形態の液溜め部R1は、底部に向かって先細りする円錐形状又は部分円錐形状をなすものとすることにより、前記傾斜面R1xを有する構成としている。
【0051】
さらに、本実施形態では、セル本体21にセルキャップ22が取り付けられた状態で、セルキャップ22と密度勾配溶液WDGSとの間に空間S1が形成されるように構成されている。セルキャップ22の先端面22xとセル本体21に収容された密度勾配溶液WDGSの水面との間に空間S1が形成される。ここで、セル本体21に収容された密度勾配溶液WDGSは、その表面張力によって水面形状が維持されており、測定セル2を横に傾けても、密度勾配溶液WDGSがセルキャップ22側に流れず、セルキャップ22の先端面22xと密度勾配溶液WDGSの水面との間の空間S1が維持される。
【0052】
その他、図5に示すように、セルキャップ22には、その重量を小さくするために肉抜き部221が形成されている。ここでは、セルキャップ22の挿入部22aにおいて、中央部に形成された内部流路Rを挟んだ左右両側に肉抜き部221が形成されている。本実施形態の肉抜き部221は、貫通孔である。この肉抜き部221は、セルキャップ22の取付方向に沿って所定範囲に亘って形成された長孔である。
【0053】
また、セルキャップ22には、セル本体21に取り付ける際に空気を抜くための空気抜き部222が形成されている。この空気抜き部222は、セルキャップ22の先端面22xに開口するとともに肉抜き部221の貫通孔に連通する連通路である。セルキャップ22をセル本体21に取り付ける際にセル本体21内の空気が、空気抜き部222を通じて肉抜き部221である貫通孔から外部に排出される。
【0054】
さらに、セルキャップ22の左右両側面には、セル本体21に取り付けた際に、セル本体21の左右内側面との密着性を確保するための突起部223が形成されている。ここで、突起部223が形成された側面の内側には、肉抜き部221が形成されているので、突起部223が形成された側面部が内側に弾性変形して、突起部223がセル本体21の左右内側面に弾性的に密着する。
【0055】
加えて、セル本体21及びセルキャップ22には、セル本体21に対してセルキャップ22の取り付け向きを規制する規制機構が設けられている。具体的には、規制機構は、セル本体21の開口部の形状と、セルキャップ22の開口部21Hに挿し込まれる挿入部22aの形状とにより構成されている。例えば、セル本体21の開口部21Hの形状の4つのアール部のうち少なくとも1つを異ならせ、セルキャップ部22の挿入部22aの4つのアール部22R1、22R2もそれらに合わせて形成する(図5の正面図参照)。これにより、セル本体21に対してセルキャップ22の差し込み可能な向きが1つに定まるようにできる。
【0056】
次に、上記の測定セル2を用いたラインスタート法について簡単に説明する。
測定セル2に試料液WSSを導入する場合には、図6(1)に示すように、セル本体21にセルキャップ22を取り付けた状態で、試料導入口2Aから試料液WSSを導入する。導入後において試料液WSSは、導入流路部R3を通じて液溜め部R1に保持される(図6(2)参照)。
【0057】
また、導入後において試料導入口2Aは、蓋体23により閉塞しても良い。この蓋体23により試料導入口2Aを閉塞することによって、試料液WSSの蒸発を防ぐとともに、内部流路Rに空気溜まりができて密度勾配溶液WDGSが内部流路R側に漏れ出ることを防ぐことができる。
【0058】
その後、測定セル2を回転させると、試料液WSSは遠心力を受けて、図7(1)に示すように、液溜め部R1から主流路部R2の小径流路部R2aに向けて移動する。そして、測定セル2を回転させると同時に粒径分布測定が開始される。本実施形態では、測定セル2の回転開始タイミングが、粒径分布測定の開始タイミングとなる。ここで、試料液WSSは、導入流路部R3を通じて液溜め部R1に保持されるので、測定セル2の回転中心から離れた位置にあり、回転により遠心力を受けやすく、主流路R2に流れやすくなる。なお、回転中心から試料液を導入する装置構成では、導入直後に遠心力を受けにくく、密度勾配溶液に導入される前のばらつきが大きくなってしまう。
【0059】
そして、図7(2)に示すように、小径流路部R2aから大径流路部R2bに流れて、大径流路部R2bで試料液WSSが広がり、図7(3)に示すように、試料導出口2Bから密度勾配溶液WDGSに導入されることになる。これにより、ストリーミング現象が起きないようにできる。さらに、試料導出口2Bと密度勾配溶液WDGSとの間に空間S1が形成されているので、密度勾配溶液WDGSに導入された試料液WSSを確実に広げることができ、測定精度を向上させることができる。
【0060】
<本実施形態の効果>
本実施形態の遠心沈降式の粒径分布測定装置100によれば、セルキャップ22に形成した内部流路Rが試料液WSSを保持し、遠心力が加わることにより試料液WSSが内部流路Rから密度勾配溶液WDGSに導入されるので、測定セル2に遠心力を加えたタイミング又は測定セル2を所定の回転数で回転させたタイミングをラインスタート法の測定開始タイミングとすることができ、測定精度を向上させることができる。また、セルキャップ22に試料液WSSを保持させているので、試料液WSSと密度勾配溶液WDGSまでの距離を小さくすることができ、試料液WSSが密度勾配溶液WDGSに到達するまでの時間のばらつきも小さくでき、これによっても測定精度を向上させることができる。さらに、装置本体に対して着脱可能に構成された測定セル2に試料液WSSを保持させているので、回転している測定セル2に外部から試料液WSSを導入するための導入機構を不要にすることができる。
【0061】
また、本実施形態では、内部流路Rに液溜め部R1を設けているので、内部流路Rにおいて所定量の試料液WSSが保持される位置を一定にすることができ、粒径分布測定の再現性を向上させることができる。
【0062】
さらに、主流路部R2は、液溜め部R1の上部に接続され、液溜め部R1は、主流路部R2が接続されている側に、主流路部R2に向かって上り勾配の傾斜面R1xを有するので、測定セル2の回転前において液溜め部R1に確実に試料液WSSを保持するとともに、回転時に液溜め部R1から主流路部R2に試料液WSSを流れやすくすることができる。
【0063】
ここで、液溜め部R1が底部に向かって先細りする円錐形状又は部分円錐形状をなすものとすることで、セルキャップ22内に液溜め部R1を加工しやすくすることができる。
【0064】
さらに、セル本体21にセルキャップ22が取り付けられた状態で、セルキャップ22と密度勾配溶液WDGSとの間に空間S1が形成されているので、密度勾配溶液WDGSがセルキャップ22に接触することで生じるストリーミング現象を緩和し、密度勾配溶液WDGSに導入された試料液WSSを確実に広げることができ、測定精度を向上させることができる。
【0065】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0066】
例えば、前記実施形態では、ラインスタート法による粒径分布測定を行うものであったが、ラインスタート法だけでなく、一様沈降法による粒径分布測定もできるように構成することができる。このとき、測定セル2には、媒体中に粒子を分散した試料分散液が収容される。なお、一様沈降法においても、試料分散液を収容した測定セルの回転開始タイミングが測定開始タイミングとなる。
【0067】
この場合、測定セルの構成としては、分散媒を収容する収容空間と、収容空間に連通するとともに内部に試料液を保持する内部流路とを有し、遠心力が加わることにより試料液が内部流路から分散媒に導入されるものである。具体的に測定セルは、一端に開口部が形成され、分散媒を収容するセル本体と、当該セル本体の開口部を塞ぐとともに、内部に試料液を保持する内部流路が形成されたセルキャップとを備え、遠心力が加わることにより前記試料液が前記内部流路から前記分散媒に導入される構成とすることが考えられる。なお、セル本体及びセルキャップは、前記実施形態の構成と同様にすることができる。この測定セルであれば、収容空間に連通する内部流路が試料液を保持し、遠心力が加わることにより試料液が内部流路から分散媒に導入されるので、試料液と分散媒までの距離を小さくすることができ、試料液が分散媒に到達するまでの時間のばらつきも小さくでき、これによっても測定精度を向上させることができる。
【0068】
また、前記実施形態の液溜め部R1は、底部に向かって先細りする円錐形状又は部分円錐形状をなすものであったが、その他、種々の形状にすることができる。例えば液溜め部R1は、部分球形状をなすものであっても良いし、多角柱形状をなすもの等であっても良い。この場合であっても、主流路部R2に向かって上り勾配の傾斜面R1xを有することが望ましい。
【0069】
さらに、前記実施形態の測定セルは、外径形状が直方体形状である角形セルであったが、その他の形状をなすものであっても良い。
【0070】
また他の実施形態の測定セル2は、セル本体21とセルキャップ22との隙間を毛細管現象により染み出てきた密度勾配溶液WDGSが外に漏れ出ないようにすべく、図8に示すように、セルキャップ22の挿入部22aの側面に凹部(具体的には溝)Gが形成されていてもよい。この凹部Gは、挿入部22aの側面に軸周りに周回するよう環状に形成されるのが好ましい。このような凹部Gを挿入部22aの側面に形成し、本体21との間の隙間を大きくすることにより、密度勾配溶液WDGSの毛細管現象による染み出しを止めることができる。
【0071】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や組み合わせを行っても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、ラインスタート法による粒径分布測定を行う粒径分布測定装置において測定精度を向上させることができる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8