(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】放熱基板の製造方法及び複合基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/373 20060101AFI20241211BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20241211BHJP
C22C 26/00 20060101ALI20241211BHJP
C22C 1/05 20230101ALI20241211BHJP
B22F 3/14 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
H01L23/36 M
H05K7/20 D
C22C26/00 Z
C22C1/05 P
B22F3/14 101B
(21)【出願番号】P 2021009002
(22)【出願日】2021-01-22
【審査請求日】2023-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2020015339
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020071264
(32)【優先日】2020-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【氏名又は名称】梶谷 美道
(74)【代理人】
【識別番号】100125922
【氏名又は名称】三宅 章子
(74)【代理人】
【識別番号】100184985
【氏名又は名称】田中 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【氏名又は名称】村瀬 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100218981
【氏名又は名称】武田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】山田 正一
(72)【発明者】
【氏名】木原 虎
(72)【発明者】
【氏名】市川 将嗣
【審査官】ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-214363(JP,A)
【文献】国際公開第2016/035796(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/056637(WO,A1)
【文献】特開2000-225549(JP,A)
【文献】特開2008-248324(JP,A)
【文献】米国特許第06001304(US,A)
【文献】国際公開第2011/072961(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/153506(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/373
H05K 7/20
C22C 26/00
C22C 1/05
B22F 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンドと金属を含む複合材料を準備する工程と、
前記複合材料の表面を薄肉化処理して、前記複合材料に加工面を形成する工程と、
パルス通電焼結により、前記複合材料に50MPa未満の圧力を印加した状態で前記複合材料を加熱する工程と、を含む、放熱基板の製造方法。
【請求項2】
前記パルス通電焼結は、前記複合材料の前記加工面上に金属の粉末または金属板を接触させた状態で行われ、前記加工面に接合された金属層を形成する、請求項1に記載の放熱基板の製造方法。
【請求項3】
前記金属層の厚さは、50μm以上500μm以下である、請求項2に記載の放熱基板の製造方法。
【請求項4】
前記パルス通電焼結は、前記複合材料の前記加工面上に金属の粉末または金属板を接触させずに行う、請求項1に記載の放熱基板の製造方法。
【請求項5】
前記複合材料を準備する工程は、
ダイヤモンド粒子と銅粉末粒子との混合粉末を準備する工程と、
パルス通電焼結により、前記混合粉末に5MPa以上100MPa以下の圧力を印加した状態で500℃以上800℃未満の温度に保持して、前記混合粉末から前記複合材料を生成する工程と、を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の放熱基板の製造方法。
【請求項6】
前記混合粉末における銅以外の金属の添加量は、質量比率で1%以下である、請求項5に記載の放熱基板の製造方法。
【請求項7】
前記混合粉末における前記銅粉末粒子の質量比率は60%以上85%以下であり、
前記混合粉末における前記ダイヤモンド粒子の質量比率は15%以上40%以下である、請求項5または6に記載の放熱基板の製造方法。
【請求項8】
前記混合粉末における前記ダイヤモンド粒子の平均粒径は、200μm以上400μm以下である、請求項5から7のいずれか1項に記載の放熱基板の製造方法。
【請求項9】
前記混合粉末における前記ダイヤモンド粒子は、平均粒径が200μm以上400μm以下の粒子と、平均粒径が40μm以上80μm以下の粒子とを含む、請求項5から8のいずれか1項に記載の放熱基板の製造方法。
【請求項10】
前記複合材料を生成する工程における圧力は5MPa以上50MPa以下である、請求項5から9のいずれか1項に記載の放熱基板の製造方法。
【請求項11】
前記複合材料を生成する工程は、第1の圧力と、前記第1の圧力よりも高い第2の圧力とを繰り返し印加するとともに前記温度に保持して行う、請求項10に記載の放熱基板の製造方法。
【請求項12】
前記銅粉末粒子の平均粒径は、3μm以上10μm以下である、請求項5から11のいずれか1項に記載の放熱基板の製造方法。
【請求項13】
薄肉化処理が施されたダイヤモンドと金属を含む複合材料を準備する工程と、
パルス通電焼結により、前記複合材料に50MPa未満の圧力を印加した状態で前記複合材料を加熱する工程と、を含む、複合基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ダイヤモンド粒子および金属を含む放熱基板の製造方法及び複合基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体発光素子の光出力が増加するに伴って、半導体素子の放熱が重要な課題になっている。半導体素子の放熱は、半導体発光素子だけではなく、高速で演算処理を実行する半導体集積回路素子、マイクロ波の発振を行うモノリシックマイクロ波集積回路素子などでも重要な課題のひとつである。
【0003】
このように動作時に発熱する半導体素子からの放熱を行うため、半導体素子の熱を散逸させる放熱基板などの放熱部材の開発が進められている。放熱部材には、高い熱伝導率を有することが求められる。放熱基板の有望な材料として、ダイヤモンドと金属を含む複合材料の開発が進められている。この複合材料は、金属に比べて熱伝導率の高いダイヤモンドの粒子が銅(Cu)などの金属中に分散した構造を有している。
【0004】
特許文献1には、ダイヤモンド粒子がCu中に分散した複合材料の例が開示されている。特許文献2には、ダイヤモンド粒子を金属層で被覆してからCu粉末と焼結して複合材料を作製する方法が開示されている。特許文献3には、ダイヤモンド粒子がCu中に分散した複合材料にメッキ金属層を形成した放熱基板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2019-502251号公報
【文献】特開2008-248324号公報
【文献】国際公開第2016/056637号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、製造工程中の薄肉化処理によって低下した熱伝導率を高めることが可能な放熱基板の製造方法及び複合基板の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の放熱基板の製造方法は、一態様において、ダイヤモンドと金属を含む複合材料を準備する工程と、前記複合材料の表面を薄肉化処理して、前記複合材料に加工面を形成する工程と、パルス通電焼結により、前記複合材料に50MPa未満の圧力を印加した状態で前記複合材料を加熱する工程とを含む。
【0008】
本開示の複合基板の製造方法は、一態様において、薄肉化処理が施されたダイヤモンドと金属を含む複合材料を準備する工程と、パルス通電焼結により、前記複合材料に50MPa未満の圧力を印加した状態で前記複合材料を加熱する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示の実施形態によれば、製造工程中の薄肉化処理によって低下した熱伝導率を、パルス通電焼結によって高めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、ダイヤモンドおよびCuなどの材料について、線膨張係数および熱伝導率をプロットしたグラフである。
【
図2】
図2は、ダイヤモンド粒子10の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図3A】
図3Aは、本開示の実施形態による放熱基板の製造方法における主な工程を示すフローチャートである。
【
図3B】
図3Bは、本開示の実施形態におけるCu-ダイヤモンド複合材料の製造方法における主な工程を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、本開示の実施形態における混合粉末に含まれるダイヤモンド粒子の例を示す写真である。
【
図5】
図5は、本開示の実施形態におけるパルス通電焼結法に用いられる焼結装置の構成例を示す模式図である。
【
図6】
図6は、パルス通電焼結工程の開始から終了までの間の時間の経過と、混合粉末の温度および圧力の関係の例を模式的に示す図である。
【
図7A】
図7Aは、パルス通電焼結工程の開始から終了までの間の時間の経過と、混合粉末の温度および圧力の関係の他の例を模式的に示す図である。
【
図7B】
図7Bは、パルス通電焼結工程の開始から終了までの間の時間の経過と、混合粉末の温度および圧力の関係の他の例を模式的に示す図である。
【
図8】
図8は、本開示の実施形態により製造された複合材料の外形を模式的に示す斜視図である。
【
図9】
図9は、本開示の実施形態により製造された複合材料の一部を拡大して模式的に示す断面図である。
【
図10】
図10は、本開示の実施形態において薄肉化処理が施された複合材料の一部を拡大して模式的に示す断面図である。
【
図11】
図11は、本開示の実施形態において薄肉化処理およびパルス通電焼結が順次施された複合材料の一部を拡大して模式的に示す断面図である。
【
図12】
図12は、本開示の実施形態において金属層が形成された複合材料の一部を拡大して模式的に示す断面図である。
【
図13】
図13は、実験例における複合材料の一部について、その断面の顕微鏡写真を示す図である。
【
図14】
図14は、他の実験例における複合材料の一部について、その断面の顕微鏡写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の実施形態を説明する前に、本発明者が見出した知見およびその技術背景を説明する。
【0012】
図1は、ダイヤモンドおよびCuなどの材料について、線膨張係数および熱伝導率をプロットしたグラフである。グラフの横軸は線膨張係数、縦軸が熱伝導率である。線膨張係数は単位長さあたりの線膨張率であり、単位は[10
-6/K]である。熱伝導率の単位は、[W/mK (ワット毎メートル毎ケルビン)]である。
【0013】
単結晶のダイヤモンドは、物質中で最も高いレベルの熱伝導率を有し、理想的には2000[W/mK]を超える極めて高い値を示す。多結晶ダイヤモンド粒子の熱伝導率は、例えば900~1800[W/mK]程度である。CVD法などによって作製されるダイヤモンド粒子の熱伝導率は、例えば900~1800[W/mK]程度である。
【0014】
図2は、ダイヤモンド粒子10の一例を模式的に示す斜視図である。
図2の例におけるダイヤモンド粒子10は、例えば、六角形および四角形の面(ファセット)を表面に有する多面体の形状を有している。実際のダイヤモンド粒子では、表面に他の多角形の面が表れていたり、一部が欠損していたりしており、より複雑で多様な形状を有し得る。個々のダイヤモンド粒子の熱伝導率は、表面または内部に存在する結晶欠陥または不純物などの存在に応じて異なる値を有し得る。
【0015】
一方、金属であるCuの熱伝導率は、約400[W/mK]程度であり、Agの熱伝導率は約420[W/mK]程度である。このため、Cuなどの金属中にダイヤモンド粒子を分散させた複合材料の熱伝導率は、金属の熱伝導率とダイヤモンド粒子の熱伝導率との間の中間的な値を示す。複合材料に含まれるダイヤモンド粒子の体積比率が高いほど、複合材料の熱伝導率の理論値は増加する。しかし、実際には複合材料の熱伝導率は、ダイヤモンドの体積比率だけでは単純には決まらず、Cuとダイヤモンド粒子との界面の状態も影響していると考えられる。Cuとダイヤモンドとの界面は製造工程中にダイヤモンド粒子に生じ得る欠陥・損傷などによって変動し得る。
【0016】
半導体素子が放熱基板に接合されて使用される場合、半導体素子側の放熱基板と接触する部材と放熱基板との間に存在する線膨張係数の差が大きいと、剥がれなどの問題が生じ得る。このため、放熱基板に使用される複合材料の線膨張係数は、接合対象である部材の線膨張係数に近いことが望ましい。
【0017】
ダイヤモンド粒子およびCuを含む複合材料は、Cuよりも熱伝導率が高く、かつ、半導体の線膨張係数に近い優れた特性を有している。なお、金属をマトリクスとする複合材料は、メタル・マトリクス・コンポジット(MMC)と呼ばれることがある。このため、ダイヤモンド粒子がCu中に分散した複合材料を、本明細書では、「Cu-ダイヤモンドMMC」と称する場合がある。また、単に「Cuダイヤモンド複合材料」または「複合材料」と称する場合がある。なお、MMCのマトリクスとなる金属はCuだけに限られず、Ag,Alなども取り得る。
【0018】
放熱基板を半導体素子に接合する場合、必要に応じて厚さは調節可能であることが好ましい。ところが、本発明者がCu‐ダイヤモンドMMCに対して研磨加工を行ったところ、研磨加工されたCu‐ダイヤモンドMMCの熱伝導率は研磨加工される前のCu‐ダイヤモンドMMCの熱伝導率よりも低くなっていた。研磨加工を行うことで、Cu‐ダイヤモンドMMC中のダイヤモンドとCuとの密着性が低下するために熱伝導率が低下したものと考えられる。
【0019】
また、本発明者は、このようにして作製されたCu-ダイヤモンド複合材料に研磨加工を行って損傷を与えた後、低温・低圧のパルス通電焼結を行うと、研磨加工後に低下していた熱伝導率を上昇させ得ることを見出した。研磨工程では、Cu-ダイヤモンド複合材料の表面が削られる。このため、複合材料の表面付近に存在するダイヤモンド粒子の全体または一部は、周辺のCuともに、複合材料から削られたり、脱落したりする。研磨加工によってダイヤモンド粒子がCu-ダイヤモンド複合材料から外れることを「脱粒」と呼ぶ。このような脱粒が生じると、Cu-ダイヤモンド複合材料の表面の平滑性が損なわれる。こうして、研磨加工によって複合材料の表面に形成された加工面、すなわち研磨面は平滑ではなく、ダイヤモンド粒子のサイズと同レベルのサイズを有する凹凸が加工面には存在し得る。また、このような研磨工程により、複合材料に残ったダイヤモンド粒子に対して研磨中に加わった応力により、Cuとダイヤモンド粒子との界面にも隙間が生じる可能性がある。この結果、研磨工程後の複合材料の熱伝導率は、研磨工程前の複合材料の熱伝導率よりも低くなる。しかし、研磨加工したあとの複合材料に対して、後述するパルス通電焼結を行うと、熱伝導率が上昇することがわかった。これは、ダイヤモンド粒子とCu界面の隙間が修復されることなどが原因と考えられる。以下、このような研磨工程後に行うパルス通電焼結を、複合材料の作製方法の一例であるパルス通電焼結から区別して「再パルス通電焼結」と呼ぶことがある。
【0020】
本開示の放熱基板の製造方法は、上記の新しい知見に基づいて完成した。以下、本開示における放熱基板の製造方法の実施形態を説明する。なお、放熱基板は、本開示の複合基板の一例である。
【0021】
<実施形態>
図3Aは、本開示の実施形態による放熱基板の製造方法における主な工程を示すフローチャートである。
図3Aに示されるように、本実施形態における放熱基板の製造方法は、ダイヤモンドと銅を含む複合材料を準備する工程S100と、複合材料の表面を薄肉化処理して、複合材料に加工面を形成する工程S200と、パルス通電焼結により、複合材料に50MPa未満の圧力を印加した状態で複合材料を加熱する工程S300と、を含む。
【0022】
以下、複合材料に用いる金属がCuの場合を説明する。なお、Cu以外の金属としては、例えば、Alや銀Agを用いることができる。金属の熱伝導率は200[W/mK]以上が好ましい。Alの熱伝導率は約240[W/mK]であり、Agの熱伝導率は約420[W/mK]であるため、ダイヤモンドとの複合材料を形成したとしても、高い熱伝導率を維持することができる。
【0023】
まず、本実施形態における複合材料を準備する工程S100を説明する。
図3Bは、本実施形態による複合材料を準備する工程S100の具体例を示すフローチャートである。上述のように、複合材料の熱伝導率が低下する原因は、研磨加工によるものと考えられる。よって、本開示の実施形態による効果は、準備する複合材料の製法には依存しない。すなわち、本実施形態では、公知の方法により製造された様々な複合材料を用いることができるし、例えば、市販されている複合材料を用いてもよい。複合材料を製造する方法としては、例えば、焼結法、溶融法等が挙げられる。複合材料の製造方法として好ましい方法はパルス通電焼結法である。この方法であれば、後述するように従来と比べて比較的低温の条件で複合材料を得ることができる。
【0024】
以下、
図3Bを用いてパルス通電焼結法による複合材料の製造方法を説明する。
図3Bに示されるように、この工程S100は、ダイヤモンド粒子とCu粉末粒子との混合粉末を準備する工程S10と、パルス通電焼結法により、混合粉末に圧力を印加した状態で500℃以上800℃未満の温度に保持して、混合粉末からダイヤモンドとCuを含む複合材料を生成する工程S20とを含む。この「温度」は、例えば放射温度計または熱電対などの温度測定装置によって直接または間接的に測定される「温度」である。本開示における「温度」は、後述する
図5に示されるようなSPS装置のダイ30における温度の測定値である。なお、後述する焼結ピーク温度Tsとは、放射温度計または熱電対で測定されるダイ30の温度の内、所定の圧力で合計1分以上保持される温度を意味するものとする。例えば、
図6の場合、焼結工程において、最も高い温度で保持されている温度を焼結ピーク温度Tsと呼び、昇温および降温の途中で過渡的に変化する温度から区別する。
【0025】
図4は、工程S10の混合粉末に含まれるダイヤモンド粒子の例を示す写真である。ある実施形態において、ダイヤモンド粒子の平均粒径は、40μm以上500μm以下である。ダイヤモンド粒子の粒径分布は、ピークが単数の単峰型である必要はなく、ピークは複数であってもよい。ダイヤモンド粒子の平均粒径を40μm以上とすることにより、Cu‐ダイヤモンドMMCを安価に製造しながら、熱伝導率を高めることができる。ダイヤモンド粒子の平均粒径を500μm以下とすることにより、ダイヤモンド粒子そのものの製造コストを低減できる。また、ダイヤモンド粒子の粒径分布は200μm以上400μm以下であることが好ましい。この範囲であれば、熱伝導率をさらに向上させることができる。ある実施形態において、混合粉末におけるダイヤモンド粒子は、平均粒径が200μm以上400μm以下の粒子と、平均粒径が40μm以上80μm以下の粒子とを含んでいてもよい。本明細書では、平均粒径が200μm以上400μm以下の粒子を「大粒子」、平均粒径が40μm以上80μm以下の粒子を「小粒子」と呼ぶ。平均粒径が相対的に小さい粒子は平均粒径が相対的に大きな粒子どうしがつくる隙間を埋めるように配置することできるので、熱伝導率がCuよりも高いダイヤモンドの充填量を増やすことができる。これにより、Cu‐ダイヤモンドMMCの熱伝導率をさらに向上させることができる。このような粒径分布に双峰性がある混合粉末を本明細書では、「バイモーダル混合粉末」と呼ぶ。バイモーダル混合粉末では、平均粒径が200μm以上400μm以下の粒子がダイヤモンド粒子全体に占める割合は、質量比率で50%以上であることが好ましい。平均粒径が大きい粒子が多いほど、ダイヤモンド粒子の総表面積が減少し、ダイヤモンド粒子とCuとの界面における熱抵抗の寄与が小さくなるからである。
【0026】
Cu粉末粒子の平均粒径は、例えば、3μm以上10μm以下である。Cu粉末には、粉砕などによって生じ得る粒径1μm以下のCu微粉が含まれていてもよい。Cu粉末粒子は、不可避的な不純物を含有していてもよい。ただし、酸素、窒素などの不純物は、熱伝導率の低下を招くため、可能な限り除去されていることが望ましい。Cu粉末粒子における不純物の含有量は、2質量%以下が好ましい。このようなCu粉末粒子は公知の製法によって製造されるものを使用してもよい。また、市販されているCu粉末粒子を使用してもよい。
【0027】
なお、本開示における「平均粒径」とは、レーザ回折式粒度分布測定装置によって測定される粒度分布における「メディアン径」を意味する。
【0028】
本開示の実施形態では、濡れ性を高めるためにCu粉末粒子以外の金属を意図的に添加してない。従来、Cuとダイヤモンドとは濡れ性が悪いため、添加金属によって濡れ性を改善することが必要であると考えられていたが、本開示の実施形態では、そのような添加金属は不要である。Cu粉末粒子以外の金属を意図的に添加しないことで、焼結阻害を低減することができる。ある実施形態において、混合粉末におけるCu以外の金属の添加量は、質量比率で1%以下である。
【0029】
また、ダイヤモンド粒子とCu粉末粒子との密着性を高めるなどの目的で、上述のように個々のダイヤモンド粒子を銅などの金属層によって被覆する可能性があるが、本開示の実施形態では、ダイヤモンド粒子を金属層によって被覆しない。これは、予めダイヤモンド粒子をCuなどの金属層によって被覆しないことにより、予めダイヤモンド粒子をCuなどの金属層によって被覆する場合と比べて焼結活性を高めることができるからである。予めダイヤモンド粒子をCuなどの金属層で被覆すると、焼結活性が低下し、金属を添加する場合と同様に高温での焼成が必要となる。
【0030】
本実施形態において、混合粉末におけるCu粉末粒子の質量比率は、例えば、60%以上85%以下が好ましく、混合粉末におけるダイヤモンド粒子の質量比率は、例えば、15%以上40%以下が好ましい。言い換えると、Cu粉末粒子とダイヤモンド粒子との質量比率は、60:40から85:15の範囲内で選択され、例えば80:20である。ダイヤモンド粒子の質量比率が増加するほど、複合材料の熱伝導率は増加する。Cu粉末粒子の質量比を60%以上85%以下とすることで、ダイヤモンドの周囲に充分な量の銅が配置され、Cu‐ダイヤモンドMMC内に、熱伝導を阻害する隙間が生じにくくなる。言い換えると、Cu粉末粒子の質量比が上記範囲であれば、Cuがダイヤモンドの周囲に十分配置できるだけの体積をもつことができるので、ダイヤモンド粒子間の隙間を効果的に埋めやすい。また、Cuの量が多すぎると、Cuの熱伝導率がダイヤモンドの熱伝導率よりも低いので、Cu‐ダイヤモンドMMCの熱伝導率が低下し得るが、上記範囲であれば、高い熱伝導率を有するCu‐ダイヤモンドMMCを製造することができる。また、後述するように、本発明者の実験によると、ダイヤモンド粒子の質量比率が同一でも、バイモーダル混合粉末の方が高い熱伝導率を実現しやすい。
【0031】
工程S20におけるパルス通電焼結法は、例えば
図5に示されるような焼結装置100を用いて実行され得る。パルス通電焼結法は、放電プラズマ焼結法(スパーク・プラズマ・シンタリング:SPS)法と称されることもある。このため、
図5の焼結装置100は、「SPS装置」と呼ばれる場合がある。
図5の焼結装置100は、キャビティ20を形成する貫通孔を有するダイ30と、ダイ30の貫通孔に沿って相対的に上下動し得る上パンチ40と下パンチ50とを備えている。この例における焼結装置100は、縦一軸加圧下で自己発熱を利用した焼結を行うことができる。上パンチ40は第1の電極51に電気的に接続され、下パンチ50は第2の電極52に電気的に接続されている。第1の電極51および第2の電極52は、電源ユニット60に電気的に接続されている。
【0032】
ダイ30は、耐熱性に優れた材料、例えばグラファイトから形成され得る。上パンチ40および下パンチ50は、導電性および耐熱性を有する材料、例えばグラファイトから形成され得る。なお、熱伝導率測定においては、試料が平坦であるほど信頼性の高い熱拡散率を測定することができる。したがって、製造する焼結体の平坦性を確保することが難しい場合は、上パンチ40と試料の間および下パンチ50と試料の間に硬質な材料を挿入し、平坦な面を有する焼結体を得ることが好ましい。硬質な材料は、超硬合金が好ましく、例えば、炭化タングステン(WC)や炭化チタン(TiC)である。また、上パンチ40および下パンチ50の材料を該材料に変更してもよい。キャビティ20は、ダイ30の貫通孔の内壁面と、上パンチ40の下端面と、下パンチ50の上端面によって規定される空間である。キャビティ20の内部には、上述した混合粉末が装填される。上パンチ40および下パンチ50の少なくとも一方が上下方向に移動することにより、上パンチ40と下パンチ50との間隔が減少してキャビティ20内の混合粉末に圧力が印加される。上パンチ40および下パンチ50は、例えば、不図示の油圧装置によって駆動される。キャビティ20内の混合粉末に印加される圧力は、例えば5MPa以上100MPa以下の範囲で任意に調整され得る。
【0033】
パルス通電焼結法では、焼結装置100によって混合粉末に圧力を印加しながら、上パンチ40と下パンチ50との間でパルス通電を行う。パルス通電は、第1の電極51と第2の電極52との間に電源ユニット60から直流のパルス電流を繰り返して流すことによって行われる。上パンチ40および下パンチ50によって加圧された混合粉末中において、Cu粉末粒子どうしが接触しているため、混合粉末中に局所的な電流パスが幾つも形成され、電流が流れる。このようなパルス通電により、ジュール熱が発生し、混合粉末の温度は所定の焼結温度まで上昇する。
【0034】
図6は、パルス通電焼結工程の開始から終了までの間の時間の経過に伴って、混合粉末の温度および圧力が変化する様子の例を模式的に示す図である。温度は一点鎖線で示され、圧力は実線で示されている。横軸が時間、左側の縦軸が温度、右側の縦軸が圧力を示している。上パンチ40および/または下パンチ50の移動により、圧力は、例えば数秒で焼結時圧力Psに達し、焼結時圧力Psが例えば、60~1800秒の間、維持される。パルス通電の開始により、混合粉末の温度は例えば10~150[℃/分]またはそれ以上のレートで上昇する。所定の焼結ピーク温度Tsに達した後、パルス通電の電圧印加条件を調整することにより、焼結ピーク温度Tsが目標温度の±5℃以内に維持される。焼結温度の制御は、
図5のダイ30に取り付けられた温度測定装置による測定のフィードバックで実行され得る。
【0035】
所定の焼結時間が経過して混合粉末から複合材料が作製された後、パルス通電を停止し、降温を開始する。また、上パンチ40および/または下パンチ50の移動により、複合材料に対する圧力の印加を停止する。複合材料の温度が十分に低下し、例えば50℃以下になった後、複合材料はダイ30から取り出される。
【0036】
図6では、時間の経過に伴って温度および圧力が直線的に上昇、維持されるように示されているが、これは説明をわかりやすくするためである。現実の温度および圧力の推移は、僅かなオーバーシュート、曲線的な変化、小さな振動などを含み得る。
【0037】
本実施形態において、焼結温度を維持する際の電圧は1.0V以上、3.0V以下の範囲で調整し、パルス電流は400A以上800A以下の範囲で調整する。パルス電流のデューティー比は例えば、10~80%であり、パルス幅は例えば、1から500ミリ秒である。所定の焼結ピーク温度Tsで所定の時間保持したあとは、パルス通電は停止される。なお、これらの値は混合粉末の重量や焼結温度、パンチの材料など種々の条件によって変動するものであり、上記範囲に限定されず、適宜変更可能なものである。
【0038】
焼結温度を例えば600℃に設定した場合、室温から焼結温度に達するまでの時間は、例えば、数分から20分程度である。キャビティ20は、不図示の減圧チャンバ内に位置している。減圧チャンバ内の雰囲気圧力は、例えば100Pa以下である。こうして、パルス通電による焼結工程中に粉末粒子が酸化したり窒化したりすることが防止され得る。
【0039】
本開示に係る実施形態における焼結ピーク温度Tsは、前述のように、500℃以上800℃未満である。この範囲であれば、優れた熱伝導率を有するCu‐ダイヤモンドMMCを製造することができる。また、好ましい焼結ピーク温度Tsは500℃以上750℃以下である。さらに好ましくは、550℃以上700℃以下である。特に好ましくは600℃以上700℃以下である。上記範囲であれば、さらに優れた熱伝導率を有するCu‐ダイヤモンドMMCを得ることができる。焼結時間の範囲は、焼結ピーク温度Tsにも依存し、例えば1分以上30分以下の範囲にある。焼結ピーク温度Tsが例えば550℃以上650℃以下の場合、焼結時間は5分以上20分以下、例えば10分程度であり得る。
【0040】
上記の焼結ピーク温度Tsで混合粉末に印加する圧力は、一定の圧力で保持する場合、5MPa以上100MPa以下である。印加する圧力を5MPa以上100MPa以下とすることで、優れた熱伝導率を有するCu‐ダイヤモンドMMCを製造することができる。好ましくい圧力範囲は10MPa以上90MPaである。より好ましい圧力範囲は20MPa以上90MPa以下である。さらに好ましくは25MPa以上75MPa以下である。特に好ましくは25MPa以上50MPa以下である。これらの圧力範囲であれば優れた熱伝導率を有するCu‐ダイヤモンドMMCを製造することができる。上記したように、焼結ピーク温度Tsにおいて一定の圧力を印加することを本明細書では「連続加圧」と呼ぶ。
【0041】
なお、これまでは連続加圧する場合について説明したが、上記圧力は常に一定である必要はない。焼結の進行に応じて印加圧力を段階的または連続的に上昇させたり、降下させたりしてもよい。また、パルス通電を行いながら、第1の圧力と、第1の圧力よりも高い第2の圧力とを混合粉末に対して繰り返し印加してもよい。このような加圧の形態を「サイクル加圧」と呼ぶことにする。上記サイクル加圧において、第1の圧力と、第1の圧力よりも高い第2の圧力とを繰り返し印加することで、高い熱伝導率を有するCu‐ダイヤモンドMMCを製造することができる。これは、例えば次に説明するようなメカニズムによるものと考えられる。
【0042】
第1の圧力と第2の圧力にはその絶対値に差がある。これらの圧力を繰り返し印加する場合、第2の圧力を印加したあとに第1の圧力を印加する工程が存在する。このとき、相対的に高い圧力から相対的に低い圧力を印加することになるので、第1の圧力が印加されているときのダイヤモンド粒子は第2の圧力が印加されているときと比べて、ダイ内での自由度が増す。これにより、ダイヤモンド粒子の配置またはCuとダイヤモンド粒子との界面の状態が熱伝導にとってより有利になり得ると考えられる。また、Cu表面に存在し、熱伝導を阻害する酸素を除去している可能性もある。その結果、サイクル加圧によって製造されるCu‐ダイヤモンドMMCは第1の圧力のみを印加する場合と比べて熱拡散率が向上し、熱伝導率が高くなると考えられる。
【0043】
上記ダイヤモンド粒子とCu粉末粒子との混合物に印加する圧力は、第2の圧力は第1の圧力よりも大きいという条件の下で、5MPa以上100MPa以下の範囲において第1の圧力と第2の圧力をそれぞれ設定することができる。第1の圧力は5MPa以上60MPa以下であり、第2の圧力は20MPa以上100MPa以下としてよい。好ましくは、第1の圧力が5MPa以上20MPa未満であり、第2の圧力が20MPa以上40MPa以下である。第1の圧力と第2の圧力とをそれぞれ上記範囲とすることで、熱伝導率をさらに向上させることができる。
【0044】
図7Aは、焼結中における「サイクル加圧」の例を示す図である。この例では、焼結時間の間、第1の圧力P1と、第1の圧力P1よりも高い第2の圧力P2とを混合粉末に対して繰り返し印加している。一例として、第1の圧力P1を10MPa、第2の圧力P2を40MPaとする場合、第1の圧力P1を10秒間印加した後、第2の圧力P2を20秒間印加する動作を1サイクルとして、例えば10~50サイクルの圧力印加を焼結工程中に繰り返すことができる。後述するように、焼結時間の間に圧力を変動させることにより、得られる複合材料が緻密化して相対密度が高くなる。このことは、複合材料の熱伝導率を高めることに寄与する。
【0045】
図7Bは、焼結中における「サイクル加圧」の別の例を示す図である。
図7Bに示すように、昇温の段階から第1の圧力と、第1の圧力よりも高い第2の圧力とを混合粉末に対して繰り返し印加してもよい。また、この第1の圧力と第2の圧力とを、焼結ピーク温度Tsの保持時間の間においても繰り返し印加することができる。
【0046】
図8は、本実施形態により製造される複合材料80の外形の例を模式的に示す斜視図である。この例において、複合材料80は厚さがT[mm]、半径がR[mm]の円板形状を有している。厚さTは、例えば0.2mm以上20.0mm以下である。また、半径Rは、例えば3mm以上200mm以下である。焼結直後における複合材料80の形状は、円板形状に限られず、直方体または他の多面体の形状を有していてもよいし、表面にストライプ溝または規則的な凹凸パターンを有する形状を有していてもよい。焼結直後における複合材料80の上面視における形状は、
図5のキャビティ20と垂直な軸方向断面の形状によって規定される。例えば、
図5のダイ30が角柱形状の貫通孔を有し、上パンチ40の下端面および下パンチ50の上端面が平坦な矩形の面である場合、焼結装置100から取り出される複合材料80は、上面視が矩形である薄板形状を有し得る。複合材料80は、焼結装置100から取り出された後、任意の厚さを得るために薄肉化処理を行う。薄肉化処理は切削、研磨などの研磨加工、およびレーザ加工を含む。1個の複合材料80から複数の放熱部材を個片化することも可能である。
【0047】
図9は、こうして製造された複合材料80の断面の一部を拡大して示す模式図である。
図9は、光学顕微鏡による断面観察に基づいている。
図9に示される複合材料80は、金属マトリクスであるCu70と、Cu70中に分散した多数のダイヤモンド粒子10とを含有している。Cu70は、混合粉末に含まれていたCu粉末粒子がパルス通電によって焼結して一体化した金属体である。複合材料80に含まれる個々のダイヤモンド粒子10は、混合粉末に含まれていたダイヤモンド粒子である。パルス通電焼結の工程中にダイヤモンド粒子10の一部が欠けたりすることは生じ得るが、複数のダイヤモンド粒子が結合して新たな1個の粒子に粒成長することはない。
【0048】
上記の複合材料の製造方法によれば、先行技術1および2に比べて低い温度、かつ、低い圧力でCu-ダイヤモンド複合材料を作製することにより、複合材料の熱伝導率を、例えば、460[W/mK]以上の値にすることができる。また、500[W/mK]以上の熱伝導率を有する複合材料を得ることもできる。さらには600[W/mK]、好ましくは690~710[W/mK]またはそれ以上の値にすることが可能である。これは、焼結温度を従来必要と考えられた値よりも低くし、かつ圧力を低くすることにより、高温高圧焼結時に生じていたダイヤモンド粒子またはCu/ダイヤモンド界面における熱伝導性の劣化を抑制または回避することができたためと考えられる。
【0049】
上記複合材料の製造方法によれば、パルス通電焼結後にCu-ダイヤモンドMMCを室温に冷やすまでの温度差は先行技術1および2と比べて小さい。実施形態1において線膨張係数差に依存した銅とダイヤモンドそれぞれ伸縮の量は、先行技術1および2と比べて小さくなる。すなわち、銅とダイヤモンドとが線膨張係数差により剥離しにくくなるので、熱伝導率の低下を低減することができる。
【0050】
再び
図3Aを参照して、工程S200を説明する。この工程S200では、Cu-ダイヤモンド複合材料を薄肉化処理する。薄肉化処理は研磨加工およびレーザ加工を含む。研磨加工は粗研磨、精研磨、固定砥粒方式(研削)、遊離砥粒方式(研磨)など、さまざまな研磨方法によって行われ得る。
【0051】
本開示における「研磨」は、ダイヤモンドのように硬度の高い砥粒によって複合材料80の表面を削り取る「研削」を含む意味を有する。一般に、「研削」は、加工対象である工作物の表面部分を砥粒によって削り取ることを意味し、研削によって現れた表面、すなわち加工面は、必ずしも平滑であるとは限られない。一方、「研磨」は、加工対象である工作物の表面を砥粒によって削り取り、かつ、平滑な表面を形成することを意味する。Cu-ダイヤモンド複合材料では、ダイヤモンドを含んでいるため、研磨加工を行っても、理想的に平滑な表面は形成されないこともある。砥粒との衝突または摩擦により、複合材料の表面からダイヤモンド粒子が欠落するため、研磨加工後も、複合材料の加工面には、ダイヤモンド粒子のサイズ程度の凹凸が残り得る。このため、本開示においては、研磨と研削とを区別せず、「研磨工程」は、研磨および/または研削を行う工程を広く意味するものとする。
【0052】
図10は、複合材料80の加工面80Pの近傍を模式的に示す断面図である。薄肉化処理によって削り取られた部分に参照符号「80X」が付されている。
図10の例において、加工面80Pには、ダイヤモンド粒子10のサイズ程度の凹凸が存在している。複合材料80の厚さは、この複合材料を搭載するパッケージのサイズに依存する。よって、薄肉化処理は、複合材料が所望の厚さになるまで行う。例えば、薄肉化処理前における複合材料80の厚さが1mmのとき、薄肉化処理後の複合材料80の厚さは、100μm以上800μm以下であり得る。このような研磨工程は、パルス通電焼結直後における複合材料80の厚さを、最終的に必要な放熱部材の厚さよりも十分に大きくすることを可能にする。発明者の実験によると、作製すべき複合材料80が薄すぎると、焼結工程途中にパルス通電焼結によって発生する熱の分布が不均一化するなどして、複合材料80の特性ばらつきが増加することがわかった。このため、薄肉化処理によって厚さを目標値に合わせることを前提として、その目標値よりも厚い複合材料80を形成すれば、特性のばらつきを抑制または低減することが可能になる。
【0053】
しかしながら、本発明者の更なる検討によると、薄肉化処理後の複合材料80の熱伝導率は、研磨工程前の熱導電率の例えば80%程度に低下し得ることがわかった。これは、複合材料80の相対密度および熱拡散率が低下することに起因する。その理由は、例えば研磨加工を行う場合、複合材料80の一部が削り取られるとき、応力が発生し、ダイヤモンド粒子10とCu70との界面における熱抵抗が増加するためと考えられる。また、研磨加工時の振動によって、複合材料内部のダイヤモンドとCuとの密着性が低下することも一因であると考えられる。相対密度の低下は、複合材料80の内部に複数の空隙が発生したことを意味する。また、レーザ加工を行う場合、複合材料には局所的に熱が与えられ、複合材料の温度が上昇する。これにより、ダイヤモンド粒子10とCu70は線膨張係数差により複合材料内部のダイヤモンドとCuとの密着性が低下し得る。このような薄肉化処理によって生じ得る熱伝導率低下の原因を、以下、複合材料の「欠陥」または「損傷(ダメージ)」と称することにする。なお、上述のような薄肉化処理に起因する熱伝導率の低下は、複合材料のマトリクスがCu以外の金属であっても起こり得る。
【0054】
本実施形態では、
図3Aに示すように、薄肉化処理を行う工程S200の後、再パルス通電焼結による欠陥回復の工程S300を実行する。この工程S300では、薄肉化処理によって生じた欠陥または損傷の程度を緩和したり、元の状態に回復したりすることが可能になる。その結果、薄肉化処理によって低下した熱伝導率を上昇させることができる。言い換えると、再パルス通電焼結により、複合材料80の熱拡散率を、再パルス通電焼結を行う前の熱拡散率よりも高くすることができる。再パルス通電焼結は、複合材料に50MPa未満の圧力を印加した状態で行うことができる。50MPa未満の圧力で再パルス通電焼結を行うことで、複合材料が再度緻密に焼結されるので、薄肉化処理により低下した熱伝導率が効果的に向上し得る。
【0055】
ある実施形態において、再パルス通電焼結は、低温低圧の条件で実行される。具体的には、例えば
図5に示されるような焼結装置100において、上パンチ40と下パンチ50との間に形成されたキャビティ20内に薄肉化処理後の複合材料80を装填する。焼結装置100としては、パルス通電焼結を行うことが可能な焼結装置を用いる。Cuとダイヤモンドとの混合粉末をパルス通電焼結することにより複合材料80を得る場合は、複合材料80を作製するときに使用した焼結装置と同一または同型の焼結装置を好適に使用すればよい。再パルス通電焼結により、複合材料80に例えば5MPa以上50MPa以下の圧力を印加した状態で例えば500℃以上800℃未満の温度に保持する。印加する圧力は、好ましくは5MPa以上40MPa以下である。保持する時間は、保持温度にもよるが、例えば60秒以上1800秒以下である。圧力の印加は、前述した「サイクル加圧」でもよい。薄肉化処理によって低下した熱伝導率を高めるためのパルス通電焼結の方法は、上記条件の下、例えば、
図6および
図7Aならびに
図7Bを参照しながら説明した連続加圧およびサイクル加圧を含み得る。
【0056】
図11は、薄肉化処理された複合材料80の再パルス通電焼結後の状態を模式的に示す断面図である。再パルス通電焼結の結果、薄肉化処理によって生じた欠陥または損傷の程度が緩和され、元の状態に回復し得る。これは、再パルス通電焼結工程における温度および圧力のもとで、複合材料80の相対密度が高まり、ダイヤモンド粒子とCuとの界面における熱抵抗が低下したり、放熱経路が短くなって熱拡散率が高まったりしたためと考えられる。
【0057】
また、再パルス通電焼結を行うと、複合材料の熱拡散率が、再パルス通電焼結を行う前の熱拡散率よりも高くなることがわかった。ここで、熱伝導率と熱拡散率との間には、以下の関係がある。
熱伝導率[W/m・K]=熱拡散率[m2/秒]×比熱[J/K・kg]×密度[kg/m3]
【0058】
後述する実験の結果によると、薄肉化処理によって減少した相対密度および熱伝導率が再パルス通電焼結によっていずれも増加する。また、例えば後述する実施例1によれば、再パルス通電焼結によって相対密度が増加する割合よりも熱伝導率が増加する割合の方が大きかった。このことは、再パルス通電焼結が、薄肉化処理によって低下した複合材料80の熱拡散率そのものを増加させることを意味している。言い換えると、再パルス通電焼結は、薄肉化処理後の複合材料の相対密度を増加させるだけではなく、薄肉化処理によって生じた欠陥・損傷を回復することに寄与していると考えられる。
【0059】
再パルス通電焼結は、複合材料80の加工面80P上に金属の粉末または金属板を接触させた状態で行われてもよい。これらの金属の例は、Cu、Al、CuW、CuMoなどである。熱伝導率および取り扱いの容易性の観点からはCuを用いることが好ましい。また、複合材料80との間で熱膨張の差を小さくする観点からはCuWを用いることが好ましい。Cuの粉末またはCu板は、複合材料80のCuと接合して一体化されやすい。再パルス通電焼結により、金属の粉末は、複合材料80の加工面80Pに結合した金属層を形成することができる。また、複合材料80の加工面80P上に接触させた金属板も、再パルス通電焼結により、複合材料80の加工面80Pに結合した金属層を形成することができる。「金属板」は、その厚さが十分に薄い場合、自立的な剛性を有している必要はない。そのように薄い金属板を、金属の薄膜または箔(フォイル)と呼んでもよい。
【0060】
図12は、こうして形成された金属層82を有する複合材料80の一部を模式的に示す断面図である。再パルス通電焼結によって形成された金属層82と下地の複合材料80との間では一体焼結が実現している。特に金属層82がCuから形成されている場合には、複合材料80を構成するCuと連続している。このような一体焼結によれば、複合材料80の加工面80P上に物理的または化学的な方法によって金属を接合させる場合、あるいは、接合材を介して金属層を複合材料80に接合させる場合に比べて、複合材料80と金属層82とを、より強固に結合することが可能になる。
【0061】
金属層82の表面は、再パルス通電焼結の工程中、例えば
図5に示される焼結装置100において、上パンチ40の下端面に押圧される。このときの圧力は、前述したように、例えば5MPa以上50MPa以下であり、温度は例えば500℃以上800℃未満である。このため、軟化した金属は加工面80Pに強く結合することが可能である。また、この時の圧力は5MPa以上40MP以下であることが好ましい。
【0062】
金属層82の熱伝導率は、せいぜい400[W/mK]程度であるため、金属層82が厚すぎると、複合材料80と金属層82が一体焼結された放熱基板の熱伝導率が低下する。このため、金属層82の厚さは、例えば50μm以上500μm以上が好ましい。
【0063】
複合材料80の加工面上に金属の粉末を接触させた状態でパルス通電焼結を行い、金属層82を形成する場合、複合材料80に対する金属層82の密着性を高めることが容易である。
【0064】
また、複合材料80の加工面上に金属板を接触させた状態で再パルス通電焼結を行い、金属層82を形成する場合は、所定の厚さを有する金属板を用いることができるので、金属層82の厚さを目標値に近づけやすい利点がある。また、金属板を用いる場合は金属板の熱伝導率を材料である金属の熱伝導率に近づけた状態に維持できる。よって、複合材料80を所定の厚さ以上にすることで、複合材料80と金属層82とが一体焼結されている放熱基板の熱伝導率を向上させやすい。
【0065】
こうして形成された金属層82は、ダイヤモンド粒子10を実質的に含まないため、複合材料80の加工面80Pに比べて平滑な表面を形成し得る。平滑な表面は、半導体発光素子などの発熱源と放熱部材とが熱的に接触する場合において、実効的な接触面積を拡大して熱抵抗を下げることに寄与する。また、金属層82が複合材料80の表面に位置することにより、メッキなどが容易になる効果もある。
【0066】
こうして得られた金属層82を有する複合材料80の個片化を行うことにより、複合材料80から複数個の放熱基板を得ることができる。また、個片化を行わず1個の放熱基板として用いてもよい。
【0067】
また、再パルス通電焼結は、複合材料80の加工面80P上に金属の粉末または金属板を接触させずに行うことができる。この場合、複合材料にはダイヤモンドよりも熱伝導率が低い材料が付加されない。よって、再パルス通電焼結後の放熱基板の熱伝導率が向上し、元の複合材料の熱伝導率に近づけることができる。
【0068】
<実施例1>
まず、Cu‐ダイヤモンドMMC複合材料を準備した。複合材料は以下の方法で得た。平均粒径が5μmのCu粉末粒子と平均粒径が250μmのダイヤモンド粒子とを混合し、混合粉末を得た。混合粉末の総重量は6.24グラムであった。この混合粉末全体に対して、Cu粉末粒子は60質量パーセントであり、平均粒径が250μmのダイヤモンド粒子は20質量パーセントであり、平均粒径が60μmのダイヤモンド粒子は20質量パーセントであった。次にSPSシンテックス社製の焼結装置(型番SPS-515S)を用いて、厚さが3mmのCu‐ダイヤモンドMMCを作製した。焼結ピーク温度Tsは670℃であり、印加圧力は36MPaであった。焼結ピーク温度Tsの保持時間は、10分であった。また、焼結開始時の真空度は10Paであった。複合材料のサイズは、直径20mm×厚さ2.731mmであった。複合材料を得た後、密度および熱拡散率を測定した。上記複合材料の作製条件を表1に示す。
【0069】
次に準備した複合材料に研磨加工を行い、複合材料に加工面を形成した。この研磨加工により、厚さが0.184mm減少した。加工面を形成した後、密度および熱拡散率を測定した。
【0070】
次に加工面を形成した複合材料に、上記焼結装置を用いてパルス通電焼結を行い、放熱基板を得た。このパルス通電焼結では、複合材料の前記加工面上にCu粉末およびCu板を接触させずに複合材料単体で行った。焼結ピーク温度Tsは660℃であり、印加圧力は36MPaであった。焼結ピーク温度Tsの保持時間は10分であった。焼結開始時の真空度は10Paであった。このパルス通電焼結により、複合材料の厚さが0.122mm減少した。放熱基板を得た後、密度および熱拡散率を測定した。
【0071】
なお、実施例1および後述の各実施例では、焼結ピーク温度Tsを維持している間の電流値は350A以上700A以下の範囲にあった。印加電圧のパルス幅は3.3ミリ秒であった。
【0072】
<実施例2>
下記点以外は実施例1と同じ方法により、放熱基板を得た。
【0073】
複合材料を準備するにあたり、Cu粉末粒子とダイヤモンド粒子との混合比率を変更した。混合粉末全体に対して、Cu粉末粒子は65質量パーセントとし、平均粒径が250μmのダイヤモンド粒子は20質量パーセントとし、平均粒径が60μmのダイヤモンド粒子は15質量パーセントとした。焼結ピーク温度Tsは660℃としてパルス通電焼結を行った。上記複合材料の作製条件を表1に示す。
【0074】
複合材料に研磨加工を行い、加工面を形成した後、加工面上にCu板を接触させた状態で再パルス通電焼結を行い、放熱基板を得た。再パルス通電焼結の条件は、複合材料を準備する際の焼結条件と同様である。
【0075】
<実施例3>
下記点以外は実施例2と同じ方法により、放熱基板を得た。
【0076】
複合材料を準備するにあたり、第1の圧力を10MPaとし、第2の圧力を36MPaとしてこれらを繰り返し印加した。印加した圧力の保持時間は第1の圧力が15秒、第2の圧力が20秒、圧力の切り替え時間の合計を50秒とし、1サイクルの合計時間を85秒とした。繰り返したサイクル数は25回であった。焼結ピーク温度Tsの保持時間は20分であった。上記複合材料の作製条件を表1に示す。
【0077】
複合材料に研磨加工を行い、加工面を形成した後、加工面上にCu粉末粒子を接触させた状態でパルス通電焼結を行い、放熱基板を得た。パルス通電焼結の条件は、複合材料を準備する際の焼結条件と同様である。
【0078】
【0079】
<熱伝導率>
実施例1から実施例3のそれぞれに対して熱伝導率を求めた。熱伝導率は比熱と密度と熱拡散率の積として求めることができる。比熱はダイヤモンドとCuの比熱の文献値を、混合した質量比で重みづけすることで得た。密度はアルキメデス法によって測定した。熱拡散率はネッチジャパン社製の測定装置(型番LFA-447)を用い、キセノンランプを用いたフラッシュ法により得た。測定温度は25℃であった。実施例1における複合材料の厚さは2.731mmであり、研磨加工後の厚さは2.547mmであり、パルス通電焼結後の厚さは2.425mmであった。実施例2における複合材料の厚さは2.636mmであり、研磨加工後の厚さは2.492mmであった。パルス通電焼結後の放熱基板の厚さは2.560mmであった。実施例3における複合材料の厚さは2.636mmであり、研磨加工後の厚さは2.445mmであった。パルス通電焼結後の放熱基板の厚さは2.510mmであった。研磨前、研磨後、および再パルス通電焼結後における「相対密度」を表2に示し、「熱拡散率」を表3に示し、「熱伝導率」を表4に示す。なお、表2における「相対密度」とは、複合材料の真比重に対する実際の密度の相対比を表す。実施例2および実施例3の場合、再パルス通電焼結後の真密度は、複合材料とCu粉末粒子もしくはCu板とを焼結した放熱基板の密度であるため、再パルス通電焼結が密度に及ぼした影響がわかりにくくなる。よって、「複合材料準備後」と「加工面形成後」と「再パルス通電焼結後」とのそれぞれにおいて相対密度の推移を求めた。
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
表2および表3からわかるように、いずれの実施例でも、研磨工程によって相対密度および熱拡散率が低下した。しかし、加工面形成後に再パルス通電焼結を行った実施例1から実施例3にかかる放熱基板の相対密度はいずれも研磨加工後の相対密度よりも高かった。また、同様に、熱伝導率も、研磨加工後よりも再パルス通電焼結後の熱伝導率の方が高かった。
【0084】
なお、実施例2および実施例3では、表面に厚さが0.2mm程度の金属層が存在する。この金属層は複合材料の研磨加工面上にCu粉末粒子またはCu板を接触させた状態でパルス通電焼結を行うことにより形成したものであり、ダイヤモンド粒子を含まないCuの層である。一方、実施例1では、放熱基板の表面領域にもダイヤモンド粒子が存在する。このため、Cu層が一体焼結された実施例2、実施例3における放熱基板では、表3に示されるように、パルス通電焼結後の熱拡散率が増加していないよう見える。しかしながら、実施例1における熱伝導率の大幅な改善および実施例2,実施例3ではダイヤモンドよりも熱拡散率の小さなCuの層が存在を考慮すると、複合材料80そのものの熱拡散率は、いずれの実施例でもパルス通電焼結によって増加していると結論づけられる。
【0085】
次に、ダイヤモンドとCuを含む複合材料を準備する工程の一例を示す。
【0086】
<実験例1>
平均粒径が5μmのCu粉末粒子と平均粒径が250μmのダイヤモンド粒子とを混合し、混合粉末を得た。混合粉末の総重量は6.24グラムであった。この混合粉末全体に対して、Cu粉末粒子は80質量パーセントであり、ダイヤモンド粒子は20質量パーセントであった。次にSPSシンテックス社製の焼結装置(型番SPS-515S)を用いて、厚さが3mmのCu‐ダイヤモンドMMCを作製した。焼結ピーク温度Tsは500℃であり、印加圧力は36MPaであった。焼結ピーク温度Tsの保持時間は、10分であった。また、焼結開始時の真空度は10Paであった。作製条件および見積もった熱伝導率を表5に示す。
【0087】
<実験例2から実験例6>
実験例2から実験例6は下記表5に示すように、実験例1に対して焼結温度のみ、または焼結ピーク温度Tsと印加圧力の両方を変化させ、Cu‐ダイヤモンドMMCを得た。また、実験例5ではダイヤモンド粒子をバイモーダル混合粉末とした。Cu‐ダイヤモンドMMC全体に対して、平均粒径が60μmのダイヤモンド粒子は10質量パーセントであり、平均粒径が250μmのダイヤモンド粒子は20質量パーセントであった。
【0088】
<実験例7>
以下の点以外は実験例1と同じ方法で複合材料を得た。焼結温度を640℃、第1の圧力を10MPaとし、第2の圧力を36MPaとしてこれらを繰り返し印加した。印加した圧力の保持時間は第1の圧力が15秒、第2の圧力が20秒、圧力の切り替え時間の合計を50秒とし、1サイクルの合計時間を85秒とした。繰り返したサイクル数は25回であった。また、焼結ピーク温度Tsの保持時間は20分であった。
【0089】
<実験例8および実験例9>
表5に示すように各条件変化させることで、それぞれCu‐ダイヤモンドMMCを得た。
【0090】
複合材料を準備する工程において、ダイヤモンド粒子と銅粉末粒子との混合粉末を準備し、パルス通電焼結により、該混合粉末に5MPa以上100MPa以下の圧力を印加した状態で500℃以上800℃未満の温度に保持して、該混合粉末から複合材料を生成した実験例1から実験例9は、Cu単体と比べて高い熱伝導率を有する複合材料であった。これらの実験例1から実験例9における複合材料は上記実施例1から実施例3における複合材料として利用できるものである。
【0091】
【0092】
図13は、表5の実験例3と同様にして製造された複合材料の一部について、その断面の光学顕微鏡写真を示す図である。
図14は、表5の実験例7と同様にして製造された複合材料の一部について、その断面の光学顕微鏡写真を示す図である。それぞれの写真において、相対的に明度の高い領域がCuの部分であり、相対的に明度の低い領域がダイヤモンド粒子である。
図14の複合材料では、平均粒径が250μmの相対的に大きなダイヤモンド粒子の隙間に、平均粒径が60μmの相対的に小さなダイヤモンド粒子が位置している。
図13の複合材料に比べると、
図14の複合材料では、ダイヤモンド粒子の個数が増え、また、表面の合計面積も増大している。このことは、Cuとダイヤモンドとの界面の面積が増加することを意味している。この界面の面積が増加すると、ダイヤモンドとCuとの密着性が悪いために熱抵抗が増加して熱伝導率が低下する可能性がある。しかしながら、本実験例では、そのような現象は観察されなかった。
【0093】
図13および
図14からわかるように、実験例における複合材料は緻密である。
【0094】
<応用例>
本開示における実施形態で製造された放熱基板を備える発光装置の構成例を説明する。
【0095】
図15は、発光ダイオード(LED)22と、LED22を支持する放熱基板24とを備える発光装置200の構成例を模式的に示す斜視図である。放熱基板24は、上記の実施形態における製造方法で作製された。放熱基板24の上面には、例えばAlNなどの絶縁層26が形成されている。絶縁層26上には、p側配線28pおよびn側配線28nが形成され、それぞれ、LED22のp側電極およびn側電極に電気的に接続されている。放熱基板24の下面は、不図示のヒートシンクまたは冷却装置に熱的に接触している。動作にLED22で発生した熱は、絶縁層26によって面内方向に拡がった後、放熱基板24を介して速やか外部に散逸していく。
【0096】
なお、上記の発光装置200、300の構成例は、本開示の実施形態による複合材料を放熱部材として利用する半導体装置の例であり、この複合材料はさまざまな用途に使用され得る。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本開示による放熱基板の製造方法は、さまざまな放熱基板として利用可能な複合基板を提供する。放熱基板の例は、半導体発光素子、半導体集積回路素子、モノリシックマイクロ波集積回路素子などの素子に熱的に接触するパッケージ基体、サブマウント、ヒートスプレッダ、パッケージ、およびヒートシンクを含む。
【符号の説明】
【0098】
10・・・ダイヤモンド粒子、20・・・キャビティ、30・・・ダイ、40・・・上パンチ、50・・・下パンチ、60・・・電源ユニット、100・・・焼結装置