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特許7602149半導体光電極および半導体光電極の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】半導体光電極および半導体光電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/087 20210101AFI20241211BHJP
   B01J 27/24 20060101ALI20241211BHJP
   B01J 35/39 20240101ALI20241211BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20241211BHJP
   C25B 1/55 20210101ALI20241211BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20241211BHJP
   C25B 9/50 20210101ALI20241211BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20241211BHJP
   C25B 11/067 20210101ALI20241211BHJP
【FI】
C25B11/087
B01J27/24 Z
B01J35/39
C25B1/04
C25B1/55
C25B9/00 A
C25B9/50
C25B11/052
C25B11/067
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022567916
(86)(22)【出願日】2020-12-08
(86)【国際出願番号】 JP2020045598
(87)【国際公開番号】W WO2022123644
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】渦巻 裕也
(72)【発明者】
【氏名】小松 武志
(72)【発明者】
【氏名】鴻野 晃洋
(72)【発明者】
【氏名】里 紗弓
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/185062(WO,A1)
【文献】特開2018-090863(JP,A)
【文献】特開2007-239048(JP,A)
【文献】国際公開第2019/230343(WO,A1)
【文献】特開2020-138139(JP,A)
【文献】特開2017-031508(JP,A)
【文献】特開2017-155332(JP,A)
【文献】国際公開第2014/174824(WO,A1)
【文献】特開2019-039048(JP,A)
【文献】特開2015-227503(JP,A)
【文献】特開2015-24358(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
B01J 35/39
B01J 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光照射により触媒機能を発揮して酸化還元反応を生じる半導体光電極であって、
導電性または絶縁性の基板と、
前記基板の表面上に配置された半導体薄膜と、
前記半導体薄膜の表面上に配置された触媒層と、
前記触媒層の表面上に凹凸パターンで配置された光透過層と、
前記基板の裏面および前記基板と前記半導体薄膜の側面を覆うように配置された保護層を有し、
前記触媒層は、Ni、Co、Cu、W、Ta、Pd、Ru、Fe、Zn、Nbのうち1種類以上の金属あるいは金属からなる酸化物である
半導体光電極。
【請求項2】
光照射により触媒機能を発揮して酸化還元反応を生じる半導体光電極であって、
導電性または絶縁性の基板と、
前記基板の表面上に配置された半導体薄膜と、
前記半導体薄膜の表面上に配置された触媒層と、
前記触媒層の表面上に凹凸パターンで配置された光透過層と、
前記基板の裏面および前記基板と前記半導体薄膜の側面を覆うように配置された保護層と、
前記半導体薄膜と前記触媒層との間に配置された第2の半導体薄膜を有する
半導体光電極。
【請求項3】
請求項1または2に記載の半導体光電極であって、
前記半導体薄膜はn型半導体である
半導体光電極。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の半導体光電極であって、
前記凹凸パターンは格子状パターンである
半導体光電極。
【請求項5】
光照射により触媒機能を発揮して酸化還元反応を生じる半導体光電極の製造方法であって、
導電性または絶縁性の基板の表面上に半導体薄膜を形成する工程と、
前記半導体薄膜の表面上に触媒層を形成する工程と、
前記半導体薄膜と前記触媒層を熱処理する工程と、
前記触媒層の表面上に凹凸パターンの光透過層を形成する工程と、
前記基板の裏面および前記基板と前記半導体薄膜の側面を覆うように保護層を形成する工程を有する
半導体光電極の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の半導体光電極の製造方法であって、
前記半導体薄膜を形成する工程の後に、前記半導体薄膜の表面上に第2の半導体薄膜を形成する工程を有し、
前記触媒層を形成する工程は、前記第2の半導体薄膜の表面上に前記触媒層を形成する
半導体光電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体光電極および半導体光電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒を用いた水の分解反応は、水の酸化反応とプロトンの還元反応からなる。
【0003】
酸化反応:2H2O+4h+→O2+4H+
還元反応:4H++4e-→2H2
【0004】
n型の光触媒材料に光を照射した場合、光触媒中で電子と正孔が生成分離する。正孔は光触媒材料の表面に移動し、プロトンの還元反応に寄与する。一方、電子は還元電極に移動し、プロトンの還元反応に寄与する。理想的には、このような酸化還元反応が進行し、水分解反応が生じる。
【0005】
従来の水の分解装置は、プロトン交換膜を介して繋がっている酸化槽と還元槽を有し、酸化槽に水溶液と酸化電極を入れ、還元槽に水溶液と還元電極を入れる。酸化槽で生成したプロトンがプロトン交換膜を介して還元槽へ拡散する。酸化電極と還元電極とは導線で電気的に接続されており、酸化電極から還元電極へ電子が移動する。光源から酸化電極を構成する材料が吸収可能な波長の光を照射して水分解反応を生じさせる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】S. Yotsuhashi, et al., “CO2Conversion with Light and Water by GaN Photoelectrode”, Japanese Journal of Applied Physics 51 (2012) 02BP07
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
酸化電極として、例えば、サファイア基板上に成長した窒化ガリウム薄膜を用いた場合、水溶液中で窒化ガリウム薄膜に光を照射すると、窒化ガリウム表面では酸素が生成される。酸素が生成する過程は、主に、(1)反応場への水の吸着、(2)0-H結合の乖離、(3)吸着酸素の結合、(4)反応場からの酸素の離脱からなる。反応効率の促進には(1)から(4)の各工程の反応速度を向上する必要がある。酸素生成反応を促進するために、半導体表面上に触媒材料として例えばNiOを形成するが、触媒材料の多くは(4)の工程の促進への寄与は少ない。最終的に生成した酸素が表面から離脱せずに反応場を覆ってしまい、触媒形成による効率向上を阻害してしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、光照射により酸化還元反応を生じる半導体光電極の光エネルギー変換効率を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様の半導体光電極は、光照射により触媒機能を発揮して酸化還元反応を生じる半導体光電極であって、導電性または絶縁性の基板と、前記基板の表面上に配置された半導体薄膜と、前記半導体薄膜の表面上に配置された触媒層と、前記触媒層の表面上に凹凸パターンで配置された光透過層と、前記基板の裏面および前記基板と前記半導体薄膜の側面を覆うように配置された保護層を有し、前記触媒層は、Ni、Co、Cu、W、Ta、Pd、Ru、Fe、Zn、Nbのうち1種類以上の金属あるいは金属からなる酸化物である
本発明の一態様の半導体光電極は、光照射により触媒機能を発揮して酸化還元反応を生じる半導体光電極であって、導電性または絶縁性の基板と、前記基板の表面上に配置された半導体薄膜と、前記半導体薄膜の表面上に配置された触媒層と、前記触媒層の表面上に凹凸パターンで配置された光透過層と、前記基板の裏面および前記基板と前記半導体薄膜の側面を覆うように配置された保護層と、前記半導体薄膜と前記触媒層との間に配置された第2の半導体薄膜を有する。
【0010】
本発明の一態様の半導体光電極の製造方法は、光照射により触媒機能を発揮して酸化還元反応を生じる半導体光電極の製造方法であって、導電性または絶縁性の基板の表面上に半導体薄膜を形成する工程と、前記半導体薄膜の表面上に触媒層を形成する工程と、前記半導体薄膜と前記触媒層を熱処理する工程と、前記触媒層の表面上に凹凸パターンの光透過層を形成する工程と、前記基板の裏面および前記基板と前記半導体薄膜の側面を覆うように保護層を形成する工程を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光照射により酸化還元反応を生じる半導体光電極の光エネルギー変換効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本実施形態の半導体光電極の構成の一例を示す断面図である。
図2図2は、光透過層の形状の一例を示す上面図である。
図3図3は、図1の半導体光電極の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図4図4は、本実施形態の半導体光電極の別の構成の一例を示す断面図である。
図5図5は、図4の半導体光電極の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図6図6は、比較対象例の半導体光電極の構成の一例を示す断面図である。
図7図7は、比較対象例の半導体光電極の構成の一例を示す断面図である。
図8図8は、比較対象例の半導体光電極の構成の一例を示す断面図である。
図9図9は、比較対象例の半導体光電極の構成の一例を示す断面図である。
図10図10は、酸化還元反応試験を行う装置の一例を示す図である。
図11A図11Aは、平坦面でガスが発生する様子を示す図である。
図11B図11Bは、凹凸面でガスが発生して離脱する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は以下で説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において変更を加えても構わない。
【0014】
[半導体光電極の構成]
図1は、本実施形態の半導体光電極1の構成の一例を示す断面図である。半導体光電極1は、水溶液中にて、光照射することにより触媒機能を発揮して酸化還元反応を生じる。同図に示す半導体光電極1は、絶縁性または導電性の基板11、基板11の表面上に配置された半導体薄膜12、半導体薄膜12の表面上に配置された触媒層14、触媒層14の表面上に格子状に配置された光透過層15、および基板11の裏面並びに基板11と半導体薄膜12の側面を覆うように形成された保護層16を備える。
【0015】
基板11は、例えば、サファイア基板、GaN基板、ガラス基板、Si基板などの絶縁性または導電性の基板を用いることができる。
【0016】
半導体薄膜12は、光照射により対象とする物質の反応を起こさせる光触媒機能を有する。半導体薄膜12は、例えば、窒化ガリウム(GaN)、酸化チタン(TiO)、酸化タングステン(WO)、酸化ガリウム(Ga)等の金属酸化物、もしくは窒化タンタル(Ta)、硫化カドミウム(CdS)等の化合物半導体を用いることができる。
【0017】
触媒層14は、半導体薄膜12に対して助触媒機能を有する材料を用いる。触媒層14は、例えば、Ni、Co、Cu、W、Ta、Pd、Ru、Fe、Zn、Nbのうち1種類以上の金属あるいは金属からなる酸化物を用いることができる。触媒層14の膜厚は、1nmから10nm、特に、光を十分に透過できる1nmから3nmが望ましい。触媒層14は、半導体薄膜12の表面露出部を全て被覆してもよいし、一部のみを被覆してもよい。
【0018】
光透過層15は、触媒層14の表面上に配置された凹凸構造物である。本実施例では、図2に示すように、光透過層15を5μm角でピッチを10μmとした格子状とした。生成ガスの典型的な気泡サイズを鑑みて脱離効果を得るためには、ピッチを20μm以下(格子の間隔は10μm以下)とすることが好ましい。光透過層15の膜厚は、光の透過を阻害せず、かつ、連続した膜を形成する範囲(5-50nm)が好ましい。光透過層15の膜厚が5nm以下では、層の緻密性および均一性が不十分となり、水溶液と半導体薄膜12が接触することで半導体薄膜12が劣化する。一方で、光透過層15の膜厚が50nm以上では、下層の半導体が吸収する波長の光を十分に透過しない。光透過層15の凹凸構造物の形状は格子に限らず、凹部の幅および深さが生成ガスの気泡の離脱効果を得られるものであればよい。
【0019】
光透過層15は、例えば、SiOを用いることができる。光透過層15は、下層の半導体が吸収する波長の光を透過する材料であればよい。
【0020】
保護層16は、基板11と半導体薄膜12の水溶液との接触による劣化を防ぐためのものである。保護層16には、例えばエポキシ樹脂など、水溶液、基板11、および半導体薄膜12と反応しない絶縁材料を用いる。
【0021】
次に、図3を参照し、図1の半導体光電極1の製造方法について説明する。
【0022】
ステップS1にて、基板11上に半導体薄膜12を成長させる。
【0023】
ステップS2にて、半導体薄膜12の表面上に触媒層14を形成する。半導体薄膜12の表面全体を覆うように触媒層13を形成してもよいし、半導体薄膜12の表面の一部のみを覆うように触媒層13を形成してもよい。
【0024】
ステップS3にて、基板11上に半導体薄膜12と触媒層13を形成した試料を熱処理する。熱処理は、ホットプレート上で実施してもよいし、電気炉中で熱処理してもよい。
【0025】
ステップS4にて、光透過層15が所定の形状パターンとなるように、マスクを用いて、光透過層15を真空蒸着する。
【0026】
ステップS5にて、基板11の裏面と側面および半導体薄膜12の側面を覆うように保護層16を形成する。
【0027】
次に、図4を参照し、本実施形態の半導体光電極1の別の構成について説明する。
【0028】
図4に示す半導体光電極1は、絶縁性または導電性の基板11、基板11の表面上に配置された半導体薄膜12、半導体薄膜12の表面上に配置された第2の半導体薄膜13、第2の半導体薄膜13の表面上に配置された触媒層14、触媒層14の表面上に格子状に配置された光透過層15、および基板11の裏面並びに基板11と半導体薄膜12,13の側面を覆うように形成された保護層16を備える。第1の実施形態の半導体光電極1とは、半導体薄膜12と触媒層14の間に第2の半導体薄膜13を配置した点で相違する。
【0029】
第2の半導体薄膜13は、例えば、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)等の化合物半導体を用いることができる。
【0030】
次に、図5を参照し、図1の半導体光電極1の製造方法について説明する。
【0031】
ステップS1にて、基板11上に半導体薄膜12を成長させ、ステップS1-2にて、半導体薄膜12上に第2の半導体薄膜13を成長させる。
【0032】
以下、図2のステップS2からステップS5の工程と同様に、触媒層14、光透過層15、および保護層16を形成する。
【0033】
[半導体光電極の実施例]
半導体光電極の構成、基板の材料、および第2の半導体薄膜の材料を変えた実施例1-6の半導体光電極を作製し、後述の酸化還元反応試験を行った。以下、実施例1-6の半導体光電極について説明する。
【0034】
<実施例1>
実施例1の半導体光電極は、図1で示した構成の半導体光電極である。サファイア基板を用いた。
【0035】
ステップS1にて、サファイア基板上に、n-GaN薄膜を有機金属気相成長法(MOCVD)によりエピタキシャル成長させて、光吸収層(光を吸収し、電子と正孔を生成する層)としての半導体薄膜を形成した。成長原料には、アンモニアガス、トリメチルガリウムを用いた。成長炉内に送るキャリアガスには水素を用いた。n-GaN薄膜の膜厚は光を吸収するに十分足る2μmとした。キャリア密度は3×1018cm-3であった。
【0036】
ステップS2にて、n-GaN薄膜の表面上に、Niを蒸着により1nmの膜厚で堆積した。
【0037】
ステップS3にて、この試料を空気中において、摂氏300度で1時間熱処理して、NiO層を形成した。試料断面をTEM観察するとNiOの膜厚が2nmであった。
【0038】
ステップS4にて、図2で示した5μm角でピッチ10μmの格子状パターンとなるように、マスクを用いて、NiO層の表面上に膜厚約50nmのSiO2を真空蒸着した。パターンの形状から、NiO層の表面積は約0.75cm2であり、SiO2層の表面積は約0.25cm2であった。試料の表面積は約1cm2である。
【0039】
ステップS5にて、エポキシ樹脂を用いて、サファイア基板の裏面(n-GaN薄膜を形成していない面)およびサファイア基板とn-GaN薄膜の側面を覆うように保護層を形成した。
【0040】
以上の工程により、実施例1の半導体光電極を得た。後述の酸化還元反応試験では、n-GaN表面をけがき、表面の一部に導線を接続し、Inを用いてはんだ付けし、インジウム表面が露出しないようにエポキシ樹脂で被覆したものを酸化電極として設置した。
【0041】
<実施例2>
実施例2の半導体光電極は、図4で示した構成の半導体光電極である。サファイア基板を用い、第2の半導体薄膜13の材料に窒化インジウムガリウムを用いた。
【0042】
ステップS1にて、サファイア基板上に、n-GaN薄膜をMOCVD法によりエピタキシャル成長させた。成長原料には、アンモニアガス、トリメチルガリウムを用いた。成長炉内に送るキャリアガスには水素を用いた。n-GaN薄膜の膜厚は2μmとした。キャリア密度は3×1018cm-3であった。
【0043】
ステップS1-2にて、n-GaN薄膜上に、インジウムの組成比を5%とした窒化インジウムガリウム(InGaN)薄膜を成長させた。成長原料には、アンモニアガス、トリメチルガリウム、トリメチルインジウムを用いた。成長炉内に送るキャリアガスには水素を用いた。InGaN薄膜の膜厚は光を十分に吸収するに足る100nmとした。
【0044】
ステップS2にて、InGaN薄膜の表面上に、Niを蒸着により1nmの膜厚で堆積した。
【0045】
ステップS3にて、この試料を空気中において、摂氏300度で1時間熱処理して、NiO層を形成した。試料断面をTEM観察するとNiOの膜厚が2nmであった。
【0046】
ステップS4にて、図2で示した5μm角でピッチ10μmの格子状パターンとなるように、マスクを用いて、NiO層の表面上に膜厚約50nmのSiO2を真空蒸着した。
【0047】
ステップS5にて、エポキシ樹脂を用いて、サファイア基板の裏面およびサファイア基板とn-GaN薄膜とInGaN薄膜の側面を覆うように保護層を形成した。
【0048】
以上の工程により、実施例2の半導体光電極を得た。後述の酸化還元反応試験では、InGaN表面をけがき、n-GaNを露出させ、n-GaN表面の一部に導線を接続し、Inを用いてはんだ付けし、インジウム表面が露出しないようにエポキシ樹脂で被覆したものを酸化電極として設置した。
【0049】
<実施例3>
実施例3の半導体光電極は、図4で示した構成の半導体光電極である。サファイア基板を用い、第2の半導体薄膜13の材料に窒化アルミニウムガリウムを用いた。
【0050】
ステップS1にて、サファイア基板上に、n-GaN薄膜をMOCVD法によりエピタキシャル成長させた。成長原料には、アンモニアガス、トリメチルガリウムを用いた。成長炉内に送るキャリアガスには水素を用いた。n-GaN薄膜の膜厚は2μmとした。キャリア密度は3×1018cm-3であった。
【0051】
ステップS1-2にて、n-GaN薄膜上に、アルミニウムの組成比を10%とした窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)薄膜を成長させた。成長原料には、アンモニアガス、トリメチルガリウム、トリメチルアルミニウムを用いた。成長炉内に送るキャリアガスには水素を用いた。AlGaN薄膜の膜厚は光を十分に吸収するに足る100nmとした。
【0052】
ステップS2以降の工程は実施例2と同様に行った。
【0053】
<実施例4>
実施例4の半導体光電極は、図1で示した構成の半導体光電極である。実施例1とはn-GaN基板を用いた点で異なる。
【0054】
ステップS1にて、n-GaN基板上に、n-GaN薄膜をMOCVD法によりエピタキシャル成長させた。成長原料には、アンモニアガス、トリメチルガリウムを用いた。成長炉内に送るキャリアガスには水素を用いた。n-GaN薄膜の膜厚は2μmとした。キャリア密度は3×1018cm-3であった。
【0055】
ステップS2以降の工程は実施例1と同様に行った。
【0056】
<実施例5>
実施例5の半導体光電極は、図4で示した構成の半導体光電極である。実施例2とはn-GaN基板を用いた点で異なる。
【0057】
ステップS1にて、n-GaN基板上に、n-GaN薄膜をMOCVD法によりエピタキシャル成長させた。成長原料には、アンモニアガス、トリメチルガリウムを用いた。成長炉内に送るキャリアガスには水素を用いた。n-GaN薄膜の膜厚は2μmとした。キャリア密度は3×1018cm-3であった。
【0058】
ステップS1-2以降の工程は実施例2と同様に行った。
【0059】
<実施例6>
実施例6の半導体光電極は、図4で示した構成の半導体光電極である。実施例2とはn-GaN基板を用いた点で異なる。
【0060】
ステップS1にて、n-GaN基板上に、n-GaN薄膜をMOCVD法によりエピタキシャル成長させた。成長原料には、アンモニアガス、トリメチルガリウムを用いた。成長炉内に送るキャリアガスには水素を用いた。n-GaN薄膜の膜厚は2μmとした。キャリア密度は3×1018cm-3であった。
【0061】
ステップS1-2以降の工程は実施例3と同様に行った。
【0062】
続いて、比較対象例1-4について説明する。
【0063】
<比較対象例1>
比較対象例1は、図6に示すように、実施例1の半導体光電極について光透過層を形成しない構成である。図6の比較対象例1の半導体光電極5は、基板51、半導体薄膜52、触媒層54、および保護層56を備える。
【0064】
比較対象例1の半導体光電極は、実施例1においてステップS4の工程を実施していない。比較対象例1のNiO層(半導体薄膜52)の表面積を約0.75cm2として、反応場の面積を実施例1と同じにした。その他の点においては実施例1と同様である。
【0065】
<比較対象例2>
比較対象例2は、図7に示すように、実施例2の半導体光電極について光透過層を形成しない構成である。図7の比較対象例2の半導体光電極5は、基板51、半導体薄膜52、第2の半導体薄膜53、触媒層54、および保護層56を備える。
【0066】
比較対象例2の半導体光電極は、実施例2においてステップS4の工程を実施していない。比較対象例1のNiO層(半導体薄膜52)の表面積を約0.75cm2として、反応場の面積を実施例2と同じにした。その他の点においては実施例2と同様である。
【0067】
<比較対象例3>
比較対象例3は、図8に示すように、実施例1の半導体光電極のSiO2層上に光遮蔽層を形成した構成である。図8の比較対象例3の半導体光電極5は、基板51、半導体薄膜52、触媒層54、光透過層55、および保護層56を備え、さらに、光遮蔽層55の上に光遮蔽層57を備える。
【0068】
比較対象例3の半導体光電極は、実施例1のステップS4の工程においてSiO2層を40nm形成後、同じマスクを用いて、SiO2層の上にNiを厚さ10nmで蒸着した。その他の点においては実施例1と同様である。
【0069】
<比較対象例4>
比較対象例4は、図9に示すように、実施例2の半導体光電極のSiO2層上に光遮蔽層を形成した構成である。図9の比較対象例4の半導体光電極5は、基板51、半導体薄膜52、第2の半導体薄膜53、触媒層54、光透過層55、および保護層56を備え、さらに、光遮蔽層55の上に光遮蔽層57を備える。
【0070】
比較対象例4の半導体光電極は、実施例2のステップS4の工程においてSiO2層を40nm形成後、同じマスクを用いて、SiO2層の上にNiを厚さ10nmで蒸着した。その他の点においては実施例2と同様である。
【0071】
[酸化還元反応試験]
実施例1-6と比較対象例1-4について図10の装置を用いて酸化還元反応試験を行った。
【0072】
図10の装置は、酸化槽110と還元槽120を備える。酸化槽110には、水溶液111が入れられ、酸化電極1として実施例1-4の半導体光電極1または比較対象例1-4の半導体光電極5が水溶液111中に入れられる。還元槽120には、水溶液121が入れられ、還元電極122が水溶液121中に入れられる。
【0073】
酸化槽110の水溶液111には、1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を用いた。水溶液111として、水酸化カリウム水溶液または塩酸を用いてもよい。酸化電極1が窒化ガリウムで構成される場合、アルカリ性水溶液が好ましい。
【0074】
還元槽120の水溶液121には、0.5mol/lの炭酸水素カリウム水溶液を用いた。水溶液121として、炭酸水素ナトリウム水溶液、塩化カリウム水溶液、または塩化ナトリウム水溶液を用いてもよい。
【0075】
還元電極122には白金(ニラコ製)を用いた。還元電極122は金属または金属化合物であればよい。還元電極122として、例えば、ニッケル、鉄、金、銀、銅、インジウム、またはチタンを用いてもよい。
【0076】
酸化槽110と還元槽120はプロトン膜130を介して繋がっている。酸化槽110で生成したプロトンはプロトン膜130を介して還元槽120へ拡散する。プロトン膜130には、ナフィオン(登録商標)を用いた。ナフィオンは、炭素-フッ素からなる疎水性テフロン骨格とスルホン酸基を持つパーフルオロ側鎖から構成されるパーフルオロカーボン材料である。
【0077】
酸化電極1と還元電極122は導線132で電気的に接続されており、酸化電極1から還元電極122へ電子が移動する。
【0078】
光源140として、300Wの高圧キセノンランプ(照度5mW/cm2)を用いた。光源140は、酸化電極として設置する半導体光電極を構成する材料が吸収可能な波長の光を照射できればよい。例えば、窒化ガリウムで構成される酸化電極では、吸収可能な波長は365nm以下の波長である。光源140としては、キセノンランプ、水銀ランプ、ハロゲンランプ、疑似太陽光源、または太陽光などの光源を用いてもよいし、これらの光源を組み合わせてもよい。
【0079】
酸化還元反応試験では、各反応槽において窒素ガスを10ml/minで流し、サンプルの光照射面積を1cm2(実施例1の場合、表面積は1.5cm2)とし、撹拌子とスターラーを用いて250rpmの回転速度で各反応槽の底の中心位置で水溶液111,121を攪拌した。
【0080】
反応槽内が窒素ガスに十分に置換された後、光源140を試験対象の半導体光電極のNiOが形成されている面を向くように固定し、半導体光電極に均一に光を照射した。
【0081】
光照射10時間後に、各反応槽内のガスを採取し、ガスクロマトグラフにて反応生成物を分析した。その結果、酸化槽110では酸素が、還元槽120では水素が生成していることを確認した。なお、還元電極の金属を例えば、Ni,Fe,Au,Pt,Ag,Cu,In,Ti,Co,Ruに変えたり、セル内の雰囲気を変えたりすることで、二酸化炭素の還元反応による炭素化合物の生成、窒素の還元反応によるアンモニアの生成も可能である。
【0082】
[試験結果]
実施例1-6および比較対象例1-4における、光照射時間に対する酸素・水素ガスの生成量を表1に示す。各ガスの生成量は、半導体光電極の表面積で規格化して示した。
【0083】
【表1】
【0084】
実施例1-6および比較対象例1-4のいずれも光照射時に酸素と水素を生成していることがわかった。
【0085】
実施例2は実施例1に比べてガスの生成量が多かった。これは、光吸収層のInGaN薄膜がGaN薄膜に比べて吸収可能な波長域が広いためである。実施例3も実施例1に比べてガスの生成量が多かった。これは、光吸収層にAlGaNを用いたことで、AlGaN/GaNヘテロ構造が形成され、AlGaN中に大きな電界が生じ、電荷分離が促進されたためである。実施例4と実施例5並びに実施例4と実施例6を比較しても同様である。
【0086】
反応場の面積が同じにも関わらず、実施例1は比較対象例1に比べてガスの生産量が多かった。図11Aおよび図11Bに示すように、表面が平坦であるよりも、実施例1は光透過層15を備えることで表面張力を低減でき、生成ガスの離脱が促進されたためと考える。実施例2と比較対象例2を比較しても同様である。
【0087】
ただし、実施例1と比較対象例1とでは、実施例1のほうが光吸収面積が大きく、その影響により生成量が増加した可能性が考えられる。そこで、比較対象例3と比較対象例1を比べる。比較対象例3は光遮蔽層57で光透過層55の部分の光を遮蔽することで、比較対象例1と光吸収面積および反応場面積を等しくしている。比較対象例3は比較対象例1に比べてガスの生成量が多かった。これより、半導体光電極の表面を凹凸化して表面張力が下がり、生成ガスの脱離が促進されたことによりガスの生成量が増加したと考える。比較対象例2と比較対象例4を比較しても同様である。
【0088】
生成ガスの脱離は、半導体光電極表面の表面張力に依存する。表面張力は半導体光電極表面の構造によって低減できることから、半導体光電極の表面構造を凹凸化し、生成ガスの脱離を促進することで、水分解反応による水素・酸素生成量(光エネルギー変換効率)の高効率化を図ることができた。
【0089】
以上説明したように、本実施形態の半導体光電極1は、導電性または絶縁性の基板11と、基板11の表面上に配置された半導体薄膜12と、半導体薄膜12の表面上に配置された触媒層14と、触媒層14の表面上に格子状に配置された光透過層15と、基板11の裏面および基板11と半導体薄膜12の側面を覆うように配置された保護層16を有する。半導体光電極1の表面に凹凸パターンの光透過層15を備えることにより、生成ガスの半導体光電極1の表面からの離脱が促進されるので、酸化還元反応によるガスの生成量の増大つまり光エネルギー変換効率の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0090】
1…半導体光電極
11…基板
12,13…半導体薄膜
14…触媒層
15…光透過層
16…保護層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B