(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】映像伝送システム、映像伝送方法、映像送信装置、映像受信装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H04N 21/24 20110101AFI20241211BHJP
【FI】
H04N21/24
(21)【出願番号】P 2022568014
(86)(22)【出願日】2020-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2020046307
(87)【国際公開番号】W WO2022123774
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】持田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】山口 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】白井 大介
(72)【発明者】
【氏名】山口 高弘
【審査官】富樫 明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-121214(JP,A)
【文献】国際公開第2013/065477(WO,A1)
【文献】特開2015-177296(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0268701(US,A1)
【文献】特開2017-184165(JP,A)
【文献】特開平9-64892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 21/00 - 21/858
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
映像データのパケットを送信バッファに格納し、前記送信バッファに格納されたパケットを送信する映像送信装置と、
前記パケットを受信する映像受信装置と、
前記映像受信装置における各パケットの到着時刻から、前記映像送信装置および前記映像受信装置の間の伝送路の特性を推定する推定部を備え、
前記映像送信装置は、前記伝送路の特性の逆特性から特定されるタイミングで前記パケットを送信
し、
前記特性は、各パケットの遅延ジッタから推定され、
前記推定部は、各パケット群の各パケットの各遅延ジッタから特定される遅延ジッタパターンを推定する
映像伝送システム。
【請求項2】
前記映像送信装置は、前記
映像データのパケットを第1の伝送路と第2の伝送路のそれぞれに送信し、
前記映像受信装置は、前記第1の伝送路と前記第2の伝送路のそれぞれから受信した前記パケット
を使って、前記映像データを補完し、
前記推定部は、前記特性を、前記第1の伝送路から受信したパケットと前記第2の伝送路から受信したパケットの到着時間差から推定し、
前記映像送信装置は、到着時間が遅い伝送路へパケットを送信してから前記到着時間差に従った時間が経過した後に、到着時間が早い伝送路へのパケットを送信する
請求項1に記載の映像伝送システム。
【請求項3】
前記映像送信装置および前記映像受信装置は、それぞれ、FPGAを備える同じ仕様のハードウエアにおいて、それぞれの機能を実現するプログラムにより実装され
、
前記映像送信装置側の送信バッファのバッファサイズと、前記映像受信装置側の、前記第1の伝送路で受信するパケットを格納する第1の受信バッファのバッファサイズと、前記第2の伝送路で受信するパケットを格納する第2の受信バッファのバッファサイズを合計する合計バッファサイズは、同じである
請求項2に記載の映像伝送システム。
【請求項4】
映像送信装置が、映像データのパケットを送信バッファに格納し、前記送信バッファに格納されたパケットを送信するステップと、
映像受信装置が、前記パケットを受信するステップと、
コンピュータが、前記映像受信装置における各パケットの到着時刻から、前記映像送信装置および前記映像受信装置の間の伝送路の特性を推定するステップと、
前記映像送信装置が、前記伝送路の特性の逆特性から特定されるタイミングで前記パケットを送信するステップ
を備え
、
前記特性は、各パケットの遅延ジッタから推定され、
前記推定するステップは、各パケット群の各パケットの各遅延ジッタから特定される遅延ジッタパターンを推定する映像伝送方法。
【請求項5】
映像データのパケットを格納する送信バッファと、
前記送信バッファに格納されたパケットを、映像受信装置に送信する送信部と、
前記映像受信装置から、各パケットの到着時刻から推定された、映像送信装置および前記映像受信装置の間の伝送路の特性を受信し、前記送信部が、前記伝送路の特性の逆特性から特定されるタイミングで前記パケットを送信する制御を行う制御部
を備え
、
前記特性は、各パケットの遅延ジッタから推定され、各パケット群の各パケットの各遅延ジッタから特定される遅延ジッタパターンである映像送信装置。
【請求項6】
映像データのパケットを送信バッファに格納し、前記送信バッファに格納されたパケットを送信する映像送信装置に接続し、
前記映像送信装置から、前記パケットを受信する受信部と、
各パケットの到着時刻から、前記映像送信装置および映像受信装置の間の伝送路の特性を推定する推定部
を備え
、
前記特性は、各パケットの遅延ジッタから推定され、
前記推定部は、各パケット群の各パケットの各遅延ジッタから特定される遅延ジッタパターンを推定する映像受信装置。
【請求項7】
コンピュータを、
請求項5に記載の映像送信装置または
請求項6に記載の映像受信装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、映像伝送システム、映像伝送方法、映像送信装置、映像受信装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
通信ネットワークを通して非圧縮映像および音声を伝送する方式に関して、非特許文献1ないし非特許文献3がある。
【0003】
非特許文献1は、映像エッセンスをReal-time Transport Protocol(RTP)ペイロードに格納したパケットを、伝送する方法を開示する。非圧縮映像伝送において、RTPパケットへの画素マッピング方法および映像パラメタが変わらない限り、フレーム当たりのパケット数は一定である。
【0004】
非特許文献2は、非圧縮映像伝送における望ましいRTPパケットの送信タイミングモデルを開示する。Linearモデルにおいて、RTPパケット送出間隔は、常に一定である。Gappedモデルは、Serial Digital Interface(SDI)をベースにしたタイミングモデルである。Gappedモデルにおいて、各フレーム内でSDIの有効画素に相当する期間にのみ一定間隔で、RTPパケットが送出される。受信装置は、送信タイミングモデルに基づいて設計される。
【0005】
非特許文献3は、通信ネットワーク上でのパケット損失に対応するための完全冗長伝送(シームレスプロテクション)を開示する。シームレスプロテクションにおいて、同一のRTPパケットは、異なる二経路で送出される。受信側は、二経路からそれぞれ受信したRTPパケットをRTPヘッダのシーケンス番号に基づいて統合する。一方の経路におけるRTPパケットの損失の補償が可能になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】SMPTE ST 2110-20:2017 Professional Media Over Managed IP Networks:Uncompressed Active Video
【文献】SMPTE ST 2110-21:2017 Professional Media Over Managed IP Networks:Traffic Shaping and Delivery Timing for Video
【文献】SMPTE ST 2022-7:2013 Seamless Protection Switching of SMPTE ST 2022 IP Datagrams
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら伝送路によって、受信側において映データが設定されたRTPパケットの受信タイミングに影響が生じる場合がある。例えば、伝送路上のネットワーク装置におけるパケットの滞留により、遅延ジッタが発生する場合がある。遅延ジッタによるRTPパケット到着の遅れを補償するため、遅延ジッタの変動幅よりも大きい容量の受信バッファが必要となる。またRTPパケットの到着間隔が詰まった場合、受信側のハードウエア等の仕様により、受信側は、受信バッファにRTPパケットを取り込むことができず、RTPパケットを取りこぼす場合がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、伝送路が、映像データが設定されたパケットの到着タイミングに与えた影響を相殺可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様の映像伝送システムは、映像データのパケットを送信バッファに格納し、前記送信バッファに格納されたパケットを送信する映像送信装置と、前記パケットを受信する映像受信装置と、前記映像受信装置における各パケットの到着時刻から、前記映像送信装置および前記映像受信装置の間の伝送路の特性を推定する推定部を備え、前記映像送信装置は、前記伝送路の特性の逆特性から特定されるタイミングで前記パケットを送信する。
【0010】
本発明の一態様の映像伝送方法は、映像送信装置が、映像データのパケットを送信バッファに格納し、前記送信バッファに格納されたパケットを送信するステップと、映像受信装置が、前記パケットを受信するステップと、コンピュータが、前記映像受信装置における各パケットの到着時刻から、前記映像送信装置および前記映像受信装置の間の伝送路の特性を推定するステップと、前記映像送信装置が、前記伝送路の特性の逆特性から特定されるタイミングで前記パケットを送信するステップを備える。
【0011】
本発明の一態様の映像送信装置は、映像データのパケットを格納する送信バッファと、前記送信バッファに格納されたパケットを、映像受信装置に送信する送信部と、前記映像受信装置から、各パケットの到着時刻から推定された、映像送信装置および前記映像受信装置の間の伝送路の特性を受信し、前記送信部が、前記伝送路の特性の逆特性から特定されるタイミングで前記パケットを送信する制御を行う制御部を備える。
【0012】
本発明の一態様の映像受信装置は、映像データのパケットを送信バッファに格納し、前記送信バッファに格納されたパケットを送信する映像送信装置に接続し、前記映像送信装置から、前記パケットを受信する受信部と、各パケットの到着時刻から、前記映像送信装置および映像受信装置の間の伝送路の特性を推定する推定部を備える。
【0013】
本発明の一態様は、上記映像送信装置または映像受信装置として、コンピュータを機能させるプログラムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、伝送路が、映像データが設定されたパケットの到着タイミングに与えた影響を相殺可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る映像伝送システムのシステム構成、映像送信装置および映像受信装置の各機能ブロックを説明する図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る映像伝送システムにおける映像伝送方法を説明するシーケンス図である。
【
図3】
図3は、パケットの理想的な到着時間、観察された到着時間および遅延ジッタの状況を説明する一例である。
【
図4】
図4は、本発明の第2の実施の形態に係る映像伝送システムのシステム構成、映像送信装置および映像受信装置の各機能ブロックを説明する図である。
【
図5】
図5は、本発明の第3の実施の形態により拡大されるジッタ許容時間を説明する図である。
【
図6】
図6は、映像送信装置および映像受信装置に用いられるコンピュータのハードウエア構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付し説明を省略する。
【0017】
(第1の実施の形態)
(映像伝送システム)
映像伝送システム1は、映像送信装置2と映像受信装置3を備える。映像送信装置2と映像受信装置3は、伝送路4により相互に通信可能に接続される。映像送信装置2と映像受信装置3は、Precision Time Protocol(PTP)等により時刻を同期する。
【0018】
映像送信装置2は、映像データを複数のパケットに変換する。映像送信装置2は、変換されたパケットを、伝送路4を介して映像受信装置3に送信する。映像データは、再生対象の映像エッセンスである。
【0019】
映像受信装置3は、映像送信装置2から伝送路4を介してパケットを受信する。映像受信装置3は、受信した各パケットから映像データを生成して、生成された映像データを再生する。
【0020】
第1の実施の形態において映像送信装置2は、送信バッファ22を備え、送信バッファ22にパケットを一時格納する。映像送信装置2は、映像受信装置3において推定された伝送路4の特性の逆特性に従って、送信バッファ22に格納されたパケットを送信する。第1の実施の形態において伝送路4の特性は、パケットの到着時刻から推定される。
【0021】
第1の実施の形態に係る映像伝送システム1において、映像受信装置3は、映像データが設定されたパケットの到着タイミングに伝送路4が与えた影響として、遅延ジッタを算出する。映像受信装置3は、遅延ジッタから伝送路4の特性を特定する。映像送信装置2は、パケットを送信バッファ22に一時的に格納し、映像受信装置3で遅延ジッタから特定された伝送路4の特性の逆特性に従って、パケットを送信することにより、特定された伝送路4の特性を相殺する。これにより映像伝送システム1は、送信バッファ22により映像送信装置2による送信タイミングを調整することで、映像受信装置3における遅延ジッタを補償することが可能になる。
【0022】
映像送信装置2は、生成部21、送信バッファ22、送信部23および制御部24を備える。生成部21、送信部23および制御部24は、CPU901に実装される。送信バッファ22は、メモリ902またはストレージ903に形成される。映像送信装置2は、映像データのパケットを送信バッファ22に格納し、送信バッファ22に格納されたパケットを送信する。
【0023】
生成部21は、映像データのパケットを生成して、生成したパケットを送信バッファ22に格納する。パケットは、RTPパケットなど、リアルタイムに映像データを転送するプロトコルによるパケットである。映像データをRTPパケット化する方法として、例えば非特許文献1がある。
【0024】
送信バッファ22は、映像データのRTPパケットを格納する。送信バッファ22は、制御部24が制御する送信タイミングになるまで、各RTPパケットを格納する。
【0025】
送信部23は、送信バッファ22に格納されたRTPパケットを、映像受信装置3に送信する。送信部23は、制御部24によって指定されたタイミングでパケットを送信する。具体的には送信部23は、伝送路4の特性の逆特性から特定されるタイミングでパケットを送信する。
【0026】
送信部23は、RTPパケットを任意のネットワークプロトコルパケットに、格納して、伝送路4に送出する。ネットワークプロトコルとして、User Datagram Protocol(UDP)/Internet Protocol(IP)/Ethernetを使用してもよい。伝送路の種類は問わない。専用に波長が割り当てられた波長パスが用いられても良い。
【0027】
制御部24は、映像受信装置3から、伝送路4の特性を受信し、送信部23が、伝送路4の特性の逆特性から特定されるタイミングでパケットを送信する制御を行う。具体的には制御部24は、映像受信装置3において推定された伝送路4の特性の逆特性から、送信部23がパケットを送信するタイミングを決定する。ここで逆特性とは、推定された伝送路4の特性によって生じた遅延ジッタを相殺する特性である。なお制御部24は、伝送路4またはそれ以外の通信ネットワークを介して、映像受信装置3から伝送路4の特性を受信する。
【0028】
制御部24による送信タイミングの制御方法として、任意の方法を用いる。例えば、送信タイミングが到達した際に制御部24が送信部23に知らせる方法、制御部24が送信タイミングを送信部23に通知し送信部23が通知された送信タイミングに従って送信する方法などがある。
【0029】
映像受信装置3は、受信部31、受信バッファ32、再生部33および推定部34を備える。受信部31、再生部33および推定部34は、CPU901に実装される。受信バッファ32は、メモリ902またはストレージ903に形成される。映像受信装置3は、各パケットの到着時刻から推定された、映像送信装置2および映像受信装置3の間の伝送路4の特性を特定し、映像送信装置2に送信する。
【0030】
受信部31は、映像送信装置2から伝送路4を介してパケットを受信する。受信部31は、受信したパケットを受信バッファ32に格納する。具体的には受信部31は、送信部23が格納した任意のネットワークプロトコルパケットからRTPパケットを取り出して、RTPパケットを受信バッファ32に格納する。
【0031】
受信バッファ32は、受信部31が取り出したRTPパケットを一時格納する。受信バッファ32は、各パケットの到着時刻を記録して、推定部34に入力する。各パケットの到着時刻は、受信部31によって計測されても良い。
【0032】
再生部33は、受信バッファ32に格納されたRTPパケットから映像データを構成して、ディスプレイ(図示せず)等に再生する。
【0033】
推定部34は、映像受信装置3における各パケットの到着時刻から、映像送信装置2および映像受信装置3間の伝送路4の特性を推定する。ここで、伝送路4の特性は、各パケットの遅延ジッタから推定される。推定部34の処理については、後に詳述する。
【0034】
なお本発明の実施の形態において、映像送信装置2が制御部24を備え、映像受信装置3が推定部34を備える場合を説明するがこれに限らない。例えば、制御部24と推定部34は、映像送信装置2および映像受信装置3のそれぞれと通信可能なサーバ内に備えられても良い。また映像送信装置2および映像受信装置3のいずれか一方が、制御部24および推定部34の両方を備えても良い。映像送信装置2が、伝送路の特性の逆特性でパケットを送信することができれば、映像伝送システム1はどのように形成されても良い。
【0035】
図2を参照して、本発明の実施の形態に係る映像伝送方法を説明する。
図2に示す例では、映像送信装置2は、まず、逐次パケットを送信する。映像受信装置3において伝送路4の特性が推定された後、映像送信装置2は、推定された特性の逆特性に従って、パケットを送信する場合を説明する。
【0036】
まずステップS1において映像送信装置2は、映像データから複数のRTPパケットを生成する。映像送信装置2は、生成した各RTPパケットを送信バッファ22に格納する。ステップS2において映像送信装置2は、送信バッファ22に格納されたRTPパケットを、逐次、映像受信装置3に送信する。ステップS3においてRTPパケットは、映像送信装置2から映像受信装置3に送信される。
【0037】
ステップS4において映像受信装置3は、受信したRTPパケットを受信バッファ32に格納する。ステップS5において映像受信装置3は、受信したRTPパケットから映像データを生成して再生する。
【0038】
ステップS6において映像受信装置3は、各RTPパケットの到着時刻から、伝送路4の特性を推定する。ステップS7において映像受信装置3は、推定した伝送路4の特性を、映像送信装置2に送信する。
【0039】
ステップS8において映像送信装置2は、ステップS6で送信された伝送路4の特性の逆特性から特定されるタイミングで、RTPパケットを送信する。ステップS9においてRTPパケットは、映像送信装置2から映像受信装置3に送信される。
【0040】
このような映像伝送システム1によれば、伝送路の特性の逆特性に従ってRTPパケットが映像送信装置2から映像受信装置3に送信される。映像伝送システム1は、映像受信装置3内で発生する遅延ジッタ、およびRTPパケットの取りこぼしを抑制する。また映像伝送システム1は、映像受信装置3内のRTPパケットの到着タイミングを平滑化することが可能になる。
【0041】
伝送路4の特性の推定方法の例を説明する。推定部34は、推定対象となるRTPパケット群について、映像受信装置3における到着時刻を取得する。推定対象は、例えば映像データの1フレームを構成するためのパケット群である。他の例として推定対象は、1秒などの所定時間内に受信したパケット群であっても良い。
【0042】
推定対象のパケット群の理想的なパケットの到着時刻の系列を、TIDEAL(k)とする。ただし、kはフレーム内におけるRTPパケットのインデックスで、推定対象のパケット数をNとすると、0≦k≦N-1である。理想的なRTPパケットの到着時刻は、送信タイミングモデルから特定される。
【0043】
推定対象の最初のRTPパケット到着時刻を0とすると、TIDEAL(k)=C*kとなる。Cは送信タイミングモデルに基づく理想的なRTPパケット送信間隔である。
【0044】
映像受信装置3で観察された推定対象のパケット群の各RTPパケット到着時刻の系列をTOBSERVED(k)とする。k番目のRTPパケットが受けた遅延ジッタTJITTER(k)は、TJITTER(k)=TOBSERVED(k)-TIDEAL(k)となる。
【0045】
図3に、T
IDEAL(k)、T
OBSERVED(k)、T
JITTER(k)の例を示す。
図3に示す例において、T
IDEAL(k)は、2*kで表され、純増する。これに対し、T
OBSERVED(k)は、T
IDEAL(k)に対して遅延が生じる。
【0046】
推定部34は、推定した遅延ジッタパターンJ(k)を、伝送路4の特性として特定する。推定部34は、複数フレームについてTJITTER(k)を平均化した遅延ジッタパターンをJ(k)として採用してもよい。推定部34は、直近の複数フレームにおけるTJITTER(k)から深層学習等で予測した遅延ジッタパターンをJ(k)として採用してもよい。推定部34は、推定した伝送路4の特性を、映像送信装置2に送信する。
【0047】
次に、RTPパケットの送信タイミングの特定方法を説明する。映像送信装置2の制御部24は、映像受信装置3において推定された伝送路4の特性を取得する。制御部24は、送信部23によるRTPパケットの送信タイミング送信タイミングTCONTROL(k)を、TCONTROL(k)=C*k-J(k)となるように制御する。ここで制御部24は、推定部34が推定した推定対象の後続のパケットに対して、送信タイミングを制御する。推定部34が推定したフレームの次以降に送信されるフレームのパケットに対して、送信タイミングを制御する。
【0048】
推定部34は、RTPパケットの送信開始時に上記のような推定を行い、TCONTROL(k)を固定して動作させてもよい。または、推定部34は、動作中に随時推定を行い、TCONTROL(k)を動的に変化させてもよい。随時推定の場合、推定部34は、定期的に推定してもよい。あるいは推定部34は、映像受信装置3における遅延ジッタの大きさを監視し、基準値が閾値を超えたときに推定しても良い。基準値として、TJITTER(k)のL1ノルムやL2ノルムが、用いられてもよい。
【0049】
これにより、受信バッファ32で観察されるRTPパケット到着間隔が平滑化され、RTPパケットの取りこぼしの防止効果が期待できる。また、遅延ジッタを吸収するために必要な受信バッファサイズの削減効果が期待できる。さらに、バッファサイズが小さくなることにより、遅延削減効果も期待できるとともに、必要なメモリデバイス容量の削減に寄与し、コストおよび実装面積の削減が期待できる。
【0050】
(第2の実施の形態)
図4を参照して、第2の実施の形態に係る映像伝送システム6を説明する。第1の実施の形態に係る映像伝送システム1は、パケットの遅延ジッタから伝送路4の特性を特定するのに対し、第2の実施の形態に係る映像伝送システム6は、映像データが設定されたパケットの到着タイミングに第1の伝送路9および第2の伝送路10が与えた影響として、シームレスプロテクションのRTPパケット到着時間差を算出する。映像伝送システム6は、RTPパケットの到着時間差から第1の伝送路9および第2の伝送路10の特性を特定する。第2の実施の形態において、第1の実施の形態との差異に着目して説明する。
【0051】
映像伝送システム6は、映像送信装置7および映像受信装置8を備える。映像送信装置7と映像受信装置8は、第1の伝送路9および第2の伝送路10のそれぞれにより相互に通信可能に接続される。
【0052】
第2の実施の形態において映像送信装置7は、送信バッファ72を備え、送信バッファ72にパケットを一時格納する。映像送信装置7は、映像受信装置3において推定された第1の伝送路9および第2の伝送路10の特性の逆特性に従って、送信バッファ72に格納されたパケットを送信することにより、特定された第1の伝送路9および第2の伝送路10の特性を相殺する。第1の伝送路9および第2の伝送路10の特性は、第1の伝送路9から受信したパケットと第2の伝送路10から受信したパケットの到着時間差から推定される。
【0053】
映像送信装置7は、生成部71、送信バッファ72、第1の送信部73、第2の送信部74および制御部75を備える。生成部71、第1の送信部73、第2の送信部74および制御部75は、CPU901に実装される。送信バッファ72は、メモリ902またはストレージ903に形成される。映像送信装置7は、映像データのパケットを送信バッファ72に格納し、送信バッファ72に格納されたパケットを第1の伝送路9と第2の伝送路10のそれぞれに送信する。
【0054】
生成部71は、映像データのRTPパケットを生成して、生成したRTPパケットを送信バッファ72に格納する。
【0055】
送信バッファ72は、映像データのRTPパケットを格納する。送信バッファ72は、第1の送信部73および第2の送信部74のそれぞれについて、制御部24が制御する送信タイミングになるまで、各RTPパケットを格納する。送信バッファ72は、シーケンス番号1つに対して、1つのRTPパケットを格納する。この1つのRTPパケットは、第1の送信部73および第2の送信部74のそれぞれによって映像受信装置8に送信されるまで、送信バッファ72に格納される。
【0056】
第1の送信部73および第2の送信部74は、送信バッファ22に格納されたRTPパケットを、映像受信装置3に送信する。第1の送信部73は、第1の伝送路9を介してRTPパケットを送信する。第2の送信部74は、第2の伝送路10を介してRTPパケットを送信する。第1の送信部73および第2の送信部74は、制御部75によって指定されたタイミングでパケットを送信する。具体的には第1の送信部73および第2の送信部74は、到着時間が遅い伝送路へパケットを送信してから到着時間差に従った時間が経過した後に、到着時間が早い伝送路へのパケットを送信する。
【0057】
制御部75は、映像受信装置8から、第1の伝送路9および第2の伝送路10の特性を受信し、第1の送信部73および第2の送信部74が、第1の伝送路9および第2の伝送路10の特性の逆特性から特定されるタイミングでパケットを送信する制御を行う。ここで第1の伝送路9および第2の伝送路10の特性は、シーケンス番号が同じRTPパケットを映像送信装置7が同時に映像受信装置8に送信した際の、到着時間の差分である。逆特性とは、シーケンス番号が同じRTPパケットが、第1の伝送路9と第2の伝送路10のそれぞれを介して送信される際の遅延を相殺する特性である。具体的には制御部24は、シーケンス番号が同じRTPパケットが、映像受信装置8において同時に到着するように、第1の送信部73および第2の送信部74それぞれが、そのパケットを送信するタイミングを決定する。なお制御部75は、第1の伝送路9、第2の伝送路10またはそれ以外の通信ネットワークを介して、映像受信装置8から特性を受信する。
【0058】
映像受信装置8は、第1の受信部81、第2の受信部82、第1の受信バッファ83、第2の受信バッファ84、再生部85および推定部86を備える。第1の受信部81、第2の受信部82、再生部85および推定部86は、CPU901に実装される。第1の受信バッファ83、第2の受信バッファ84は、メモリ902またはストレージ903に形成される。映像受信装置8は、第1の伝送路9と第2の伝送路10のそれぞれから受信したパケットを補完して、再生する。映像受信装置8は、各パケットの到着時間差から推定された、映像送信装置2および映像受信装置3間の第1の伝送路9および第2の伝送路10の特性を、映像送信装置7に送信する。
【0059】
第1の受信部81は、第1の伝送路9から、RTPパケットを受信する。第1の受信部81は、受信したRTPパケットを第1の受信バッファ83に格納する。
【0060】
第2の受信部82は、第2の伝送路10から、RTPパケットを受信する。第2の受信部82は、受信したRTPパケットを第2の受信バッファ84に格納する。
【0061】
再生部85は、第1の受信バッファ83および第2の受信バッファ84に格納されたRTPパケットから映像データを構成して、ディスプレイ(図示せず)等に再生する。再生部85は、同一のシーケンス番号が付された2つのRTPパケットを統合して、RTPパケットの欠落を補償して、映像データを再生する。
【0062】
推定部86は、映像受信装置3における各パケットの到着時刻から、映像送信装置2および映像受信装置3間の第1の伝送路9および第2の伝送路10の特性を推定する。ここで、伝送路4の特性は、第1の伝送路9から受信したパケットと第2の伝送路10から受信したパケットの到着時間差から推定される。
【0063】
映像受信装置8の推定部86におけるRTPパケット到着時間差の推定方法の例を以下に示す。推定部86は、RTPヘッダのシーケンス番号を参照することで、二経路間で同じ映像エッセンスを伝送するRTPパケットを特定することができる。
【0064】
対応するRTPパケットの組について、第1の伝送路9側のパケット到着時刻をT1、第2の伝送路10側のパケット到着時刻をT2とすると、到着時間差はT2-T1として計算される。値が正の場合、第2の伝送路10側のRTPパケットが遅れている。値が負の場合、第1の伝送路9側のRTPパケットが遅れている。
【0065】
推定部86は、到着時間差の推定値Dを映像送信装置7の制御部75に送信する。遅延ジッタの影響を低減するため、T2-T1の平均値が、Dとして採用されてもよい。
【0066】
次に、RTPパケットの送信タイミングの特定方法を説明する。映像送信装置7の制御部75は、RTPパケット到着時間差の推定値Dを受け取ると、制御部75は、固定遅延を、第1の送信部73または第2の送信部74に設定する。Dが正の場合、第1の送信部73は、第1の伝送路9への送出を、第2の送信部74が第2の伝送路10に送出してからDだけ遅延させる。Dが負の場合、第2の送信部74は、第2の伝送路10への送出を、第1の送信部73が第1の伝送路9に送出してから|D|だけ遅延させる。
【0067】
一般的にシームレスプロテクション伝送において、経路長の差に起因したRTPパケット到着時間差が発生する場合がある。シームレスプロテクションでは、RTPパケット統合のために受信側での待ち合わせが必要であるが、到着時間差が大きすぎる場合にはバッファオーバーフローが発生する可能性がある。バッファオーバーフローの発生を防止するためには、やはり受信バッファを大きく取る必要がある。
【0068】
これに対し第2の実施の形態に係る映像伝送システム6は、シーケンス番号が同じRTPパケットが同時に映像受信装置8に到着するように、映像送信装置7による送信タイミングが調整される。これにより、映像受信装置8におけるRTPパケットの待ち合わせ時間を削減することができる。
【0069】
第2の実施の形態において、削減可能なバッファサイズを見積もる。なおこのバッファサイズは、送信バッファ72、第1の受信バッファ83と第2の受信バッファ84の各バッファについて、削減可能なバッファサイズの合計である。前提として、受信バッファにおけるジッタ許容時間の最大値を、Δとする。Δは、映像受信装置の設計パラメタで、所与の値である。また、RTPパケット到着時間差をDとする。Dは、第1の伝送路9および第2の伝送路10によって決まる値である。また、映像一本当たりのビットレートをRとする。Rは映像フォーマットによって決まる値である。
【0070】
まず、シームプロテクションを用いる一般的な映像伝送システムにおいて、遅延ジッタと到着時間差を受信バッファのみで吸収する場合、必要なバッファサイズは、第1の受信バッファおよび第2の受信バッファの両方で吸収可能な容量を確保するため2R*(Δ+D)である。一方、第2の実施の形態で必要な送信バッファサイズはR*D、必要な受信バッファサイズは第1の受信バッファ83および第2の受信バッファ84の両方で2R*Δ、合計で必要なバッファサイズはR*(2Δ+D)である。従って、第2の実施の形態に係る映像伝送システム6において、バッファサイズをR*Dだけ削減することが可能である。
【0071】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態において、映像送信装置7および映像受信装置8は、それぞれ、FPGA(Field Programmable Gate Array)を備える同じ仕様のハードウエアにおいて、それぞれの機能を実現するプログラムにより実装される場合を説明する。ハードウエアは、FPGA、メモリおよび通信装置を備え、さらにCPU、ストレージ、入力装置および出力装置を備えても良い。同じ仕様のハードウエアを、設置現場において映像送信装置7および映像受信装置8のうちのいずれかとして機能させることにより、設置現場におけるコストの軽減が期待できる。
【0072】
第3の実施の形態において映像送信装置7の送信バッファ72のバッファサイズと、映像受信装置8の第1の受信バッファ83と第2の受信バッファ84の合計バッファサイズが、同じMである。
【0073】
映像一本当たりのビットレートをR、RTPパケット到着時間差をD、ジッタ許容時間をΔとする。
【0074】
D≦M/Rの場合、送信バッファ72でRTPパケット到着時間差を吸収し、第1の受信バッファ83および第2の受信バッファ84で遅延ジッタを吸収する。このとき、Δ=M/(2R)である。
【0075】
D>M/Rの場合、送信バッファ72でRTPパケット到着時間差を吸収し、第1の受信バッファ83および第2の受信バッファ84でRTP到着時間差の残差と遅延ジッタを吸収する。このとき、Δ=(3M)/(2R)-Dである。
【0076】
一方、RTPパケット到着時間差と遅延ジッタを第1の受信バッファ83および第2の受信バッファ84のみで吸収する場合、吸収可能なジッタ許容時間Δは、Δ=M/(2R)-Dとなる。ただし、D≦M/(2R)。
【0077】
従って、第3の実施の形態により拡大されるジッタ許容時間は、
図5における実線と破線の差に相当する領域である。
【0078】
上記説明した本実施形態の映像送信装置2、7および映像受信装置3、8のそれぞれは、例えば、CPU(Central Processing Unit、プロセッサ)901と、メモリ902と、ストレージ903(HDD:Hard Disk Drive、SSD:Solid State Drive)と、通信装置904と、入力装置905と、出力装置906とを備える汎用的なコンピュータシステムが用いられる。このコンピュータシステムにおいて、CPU901がメモリ902上にロードされたプログラムを実行することにより、映像送信装置2、7および映像受信装置3、8のそれぞれの各機能が実現される。
【0079】
なお、映像送信装置2、7および映像受信装置3、8のそれぞれは、1つのコンピュータで実装されてもよく、あるいは複数のコンピュータで実装されても良い。また映像送信装置2、7および映像受信装置3、8のそれぞれは、コンピュータに実装される仮想マシンであっても良い。
【0080】
映像送信装置2、7および映像受信装置3、8のそれぞれのプログラムは、HDD、SSD、USB(Universal Serial Bus)メモリ、CD (Compact Disc)、DVD (Digital Versatile Disc)などのコンピュータ読取り可能な記録媒体に記憶することも、ネットワークを介して配信することもできる。
【0081】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 映像伝送システム
2、7 映像送信装置
3、8 映像受信装置
4、9、10 伝送路
21、71 生成部
22、72 送信バッファ
23、73、74 送信部
24、75 制御部
31、81、82 受信部
32、83、84 受信バッファ
33、85 再生部
34、86 推定部
901 CPU
902 メモリ
903 ストレージ
904 通信装置
905 入力装置
906 出力装置