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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】膜形成用組成物及び気体分離膜
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20241211BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20241211BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20241211BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D7/62
C09D7/20
C09K3/10 G
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021561282
(86)(22)【出願日】2020-11-11
(86)【国際出願番号】 JP2020042086
(87)【国際公開番号】W WO2021106569
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2023-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2019215763
(32)【優先日】2019-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】小高 一利
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/221200(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/038027(WO,A1)
【文献】特開昭63-171609(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038285(WO,A1)
【文献】特表2010-513021(JP,A)
【文献】特表2013-512100(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102827371(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 183/04
C09D 7/62
C09D 7/20
C09K 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンと、前記シリコーンを溶解させる溶剤と、表面修飾シリカと、1つ以上の酸素原子、または窒素原子を有し比誘電率が1乃至30である特定溶剤とを含み、
前記シリコーンを溶解させる溶剤は、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、芳香族系溶剤、およびナフテン系溶剤から選択される少なくとも1種であり、
前記特定溶剤は、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、4-ヘプタノール、n-ブタノール、イソプロパノール、およびシクロヘキサノールからなる1価アルコールの群から選択される単独又は2種類以上の混合溶媒であり、且つ含有量が、全溶剤中の0.01~70質量%であり、
前記表面修飾シリカは、シリカ表面に親水性基が導入されたシリカ、及びシリカ表面にデンドリマー高分子又はハイパーブランチ高分子が付加されたシリカから選択される、
膜形成用組成物。
【請求項2】
前記特定溶剤の比誘電率が1乃至25である、請求項1に記載の膜形成用組成物。
【請求項3】
前記特定溶剤の比誘電率が2乃至20である、請求項1に記載の膜形成用組成物。
【請求項4】
前記表面修飾シリカが、デンドリマー高分子又はハイパーブランチポリマーが付加されたシリカである、請求項に記載の膜形成用組成物。
【請求項5】
気体分離膜形成用組成物である請求項1乃至の何れか一項に記載の膜形成用組成物。
【請求項6】
請求項1乃至の何れか一項に記載の膜形成用組成物を用いて形成された、気体分離膜。
【請求項7】
請求項1乃至の何れか一項に記載の膜形成用組成物を用いて形成された、半導体封止材。
【請求項8】
請求項1乃至の何れか一項に記載の膜形成用組成物を用いて形成された、ガスバリア材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーン及びシリコーンの溶剤中に、表面修飾された微粒子が均一に分散した、膜形成用組成物に関する。特に気体分離膜を形成するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコ―ン樹脂中に微粒子を分散させた組成物およびその組成物から作製される膜は、屈折率制御材や半導体封止材、あるいは各種分離用材料等、多岐の用途に使用されている。これら材料の特性を最大限に引き出すためには、シリコーン樹脂中に当該微粒子が均一に分散していることが重要であり、その分散手法が種々検討されている。例えば、界面活性剤やレベリング剤を添加する方法や粒子の表面を化学的に修飾する方法等が報告されている(特許文献1)。
【0003】
特に、発明者らは、粒子表面を化学修飾することで、各種マトリクス樹脂中で、粒子の分散性が向上することを見出している(特許文献2、3)。
一方、表面が化学修飾された微粒子は、溶剤の種類によっては良い分散性が得られず、特にシリコーンが溶解するような溶剤に対する分散性が悪いことが知られている。そのため、シリコーン及びシリコーンの溶剤中に当該表面修飾微粒子を分散させようとしても、凝集や沈降が生じてしまい、結果として、これら組成物から作製した膜は、平坦性に乏しいという問題があった。
また、特許文献4のように粒子表面をポリマー等で修飾した粒子を一度乾固させた場合には、シリコーンに再分散させることは容易ではない。このような場合も適切な分散剤と湿式粉砕などを用いて分散することは可能であるが、分散処理の工数が増加する上、通常、シリカ微粒子を用いた場合は完全には解砕されないため微粒子の凝集体が残り、膜厚が数100μmの気体分離膜への適用に限定される問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-119848号公報
【文献】WO2017/179738号公報
【文献】WO2018/038027号公報
【文献】特開2012-224777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、表面修飾された微粒子をシリコーン中に均一に分散させることは、従来の手法では困難である。これら微粒子に対しても、一般的な分散手法(界面活性剤の添加、粉砕処理等)を用いることで、粒子の分散性を改善することは可能であるが、膜の作製への適性を思考した場合には、添加剤による樹脂性能への悪影響や、ブリードアウト、微粒子の凝集体の残存などにより、当初設計した微粒子の機能を損ねる懸念がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑み、シリコーン及びシリコーンを溶解させる溶剤中に、表面修飾された微粒子を均一に分散させるための成分と各成分の混合条件を鋭意検討し、平坦性及び粒子の分散性に優れるシリコーン被膜を成膜することができる膜形成用組成物を提供することを課題とする。本発明者は溶剤の比誘電率に着目し、溶剤の比誘電率が特定の範囲にある場合は、シリコーン及びシリコーンを溶解させる溶剤との溶解性が良いことを突き止めた。さらに、表面修飾された微粒子と溶剤との相互作用を持たせるために、ヘテロ原子を含む特定溶剤を含有させる膜形成用組成物を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、以下の第1観点~第11観点のいずれか一つに記載の気体分離膜の製造方法に関する。
第1観点:シリコーンと、前記シリコーンを溶解させる溶剤と、表面修飾された微粒子と、1つ以上の酸素原子、または窒素原子を有し比誘電率が1乃至30である特定溶剤とを含む膜形成用組成物。
第2観点:前記特定溶剤の比誘電率が1乃至25である、第1観点に記載の膜形成用組成物。
第3観点:前記特定溶剤の比誘電率が2乃至20である、第1観点に記載の膜形成用組成物。
第4観点:前記表面修飾された微粒子が、シリカ、ジルコニア、セリア、チタニア、アルミナ、および粘土鉱物から選ばれる1種以上の微粒子である、第1観点乃至第3観点の何れかに記載の膜形成用組成物。
第5観点:前記表面修飾された微粒子がシリカである、第4観点に記載の膜形成用組成物。
第6観点:前記表面修飾された微粒子が、デンドリマー高分子又はハイパーブランチポリマーが付加されたシリカである、第5観点に記載の膜形成用組成物。
第7観点:前記特定溶剤が、1価アルコール、モノエステル、モノケトン、およびエーテルからなる群から選ばれる1種以上の溶剤である、第1観点乃至第6観点の何れかに記載の膜形成用組成物。
第8観点:気体分離膜形成用組成物である第1観点乃至第7観点の何れかに記載の膜形成用組成物。
第9観点:第1観点乃至第8観点の何れかに記載の膜形成用組成物を用いて形成された、気体分離膜。
第10観点:第1観点乃至第8観点の何れかに記載の膜形成用組成物を用いて形成された、半導体封止材。
第11観点:第1観点乃至第8観点の何れかに記載の膜形成用組成物を用いて形成された、ガスバリア材、である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シリコーン及びシリコーンを溶解させる溶剤中に、1つ以上の酸素原子、または窒素原子を有し比誘電率が1乃至30である特定溶剤を含有させ、且つ粒子を乾燥させることなく樹脂と混合させることにより、表面修樹された微粒子が均一に分散した、膜形成用組成物が得られるようになった。その結果、シリコーン膜中に表面修飾微粒子が均一に分散した、成膜性に優れた膜を提供することが可能になった。また、表面修飾微粒子の分散性が良好であるので、膜厚の制約なく気体分離膜の作製することも可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例13に係る膜の表面SEM写真である。
図2】実施例13に係る膜の断面SEM写真である。
図3】比較例7に係る膜の表面SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において用いられる微粒子は、平均粒子径がナノオーダーのナノ粒子であり、特に材質は問わないが、好ましくは無機微粒子である。ここで、ナノ粒子は、平均一次粒子径が1nm~1000nmのものをいい、特に、2nm~500nmのものをいう。なお、平均一次粒子径は、窒素吸着法(BET法)によるものとする。
【0011】
ここで、微粒子としては、シリカ、ジルコニア、セリア、チタニア、アルミナ等の金属酸化物、層状ケイ酸塩化合物等の粘土鉱物が挙げられるが、好ましくは、シリカ微粒子であり、より好ましくは、表面修飾シリカ微粒子である。
また、シリカ微粒子としては、球状ナノ粒子の他、異形シリカナノ粒子、例えば、細長い形状、数珠状又は金平糖状のシリカナノ粒子を用いることにより、気体の透過量が大きく改善された気体分離膜とすることができる。異形シリカナノ粒子としては、国際公開公報WO2018-038027号に記載のものを用いることができるが、特に、(1)動的光散乱法による測定粒子径D1と窒素ガス吸着法による測定粒子径D2の比D1/D2が4以上であって、D1は40~500nmであり、そして透過型電子顕微鏡観察による5~40nmの範囲内の一様な太さを有する細長い形状のシリカナノ粒子、(2)窒素ガス吸着法による測定粒子径D2が10~80nmの球状コロイダルシリカ粒子とこの球状コロイダルシリカ粒子を接合するシリカからなり、動的光散乱法による測定粒子径D1と球状コロイダルシリカ粒子の窒素ガス吸着法による測定粒子径D2の比D1/D2が3以上であって、D1は40~500nmであり、前記球状コロイダルシリカ粒子が連結した数珠状のシリカナノ粒子、及び(3)窒素ガス吸着法により測定される比表面積をS2、画像解析法により測定される平均粒子径D3から換算した比表面積をS3として、表面粗度S2/S3の値が1.2~10の範囲にあり、平均粒子径D3が10~60nmの範囲である、コロイダルシリカ粒子の表面に複数の疣状突起を有する金平糖状のシリカナノ粒子、を挙げることができる。
なお、異形シリカナノ粒子は、表面修飾異形シリカナノ粒子であるのがより好ましい。
【0012】
表面修飾シリカとしては、親水性基が表面に導入されたものが好ましい。親水性基が表面に導入された表面修飾シリカは、親水性基を有するシラン化合物とシリカとを加熱条件下で処理することにより得ることができる。親水性基を有するシラン化合物としては、例えば、アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)を挙げることができる。
【0013】
また、表面修飾シリカとしては、シリカ表面にデンドリマー高分子又はハイパーブランチ高分子が付加されたシリカナノ粒子を挙げることができる。以下にデンドリマー高分子又はハイパーブランチ高分子付加型の表面修飾シリカナノ粒子について製造方法を例示しながら説明する。
【0014】
シリカ表面にデンドリマー高分子又はハイパーブランチ高分子が付加された表面修飾シリカを製造するには、先ず、第1溶媒に分散された状態のまま、ハイパーブランチ形成用モノマーまたはデンドリマー形成用モノマーと反応する官能基を有する反応性官能基含有化合物で処理されて、シリカの表面に反応性官能基が付加された反応性官能基修飾ナノシリカ粒子とする。好ましい反応性官能基含有化合物としては、シランカップリング剤であり、例えば、一般式(1)で表される、末端にアミノ基を含有する化合物である。
【0015】
【化1】
(式中、Rはメチル基又はエチル基を表し、R2は置換基を有していてもよい炭素数1~5のアルキレン基、アミド基、アミノアルキレン基を表す。)
【0016】
一般式(1)で表されるシランカップリング剤において、アミノ基は末端にあることが好ましいが、末端になくてもよい。
前記一般式(1)で表される化合物としては、例えば、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。その他のアミノ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシランなどが代表的なものとして挙げられる。
【0017】
また、反応性官能基含有化合物としては、アミノ基以外にも、例えばイソシアネート基、メルカプト基、グリシジル基、ウレイド基、ハロゲン基などの他の基を有するものであってもよい。
アミノ基以外の官能基を有するシランカップリング剤としては、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0018】
また、用いられる反応性官能基含有化合物は、前記一般式(1)のようなトリアルコキシシラン化合物でなくてもよく、例えば、ジアルコキシシラン化合物、モノアルコキシシラン化合物であってもよい。
シリカナノ粒子のシラノール基と反応する反応性官能基含有化合物の官能基は、アルコキシ基以外の基、例えば、イソシアネート基、メルカプト基、グリシジル基、ウレイド基、ハロゲン原子などであってもよい。
【0019】
シリカナノ粒子の反応性官能基含有化合物による処理においては、シリカナノ粒子は水又は炭素原子数1~4のアルコールに分散した液中に反応性官能基含有化合物を投入し、攪拌することにより行われる。
シリカナノ粒子表面への反応性官能基の付加は、上記のように1段階反応によってもよいし、必要に応じ2段階以上の反応で行われてもよい。2段階反応の具体例をカルボキシル基修飾シリカナノ粒子の調製で説明すると、例えば、上記のように、先ず、シリカナノ粒子をアミノアルキルトリアルコキシシランで処理して、アミノ基修飾シリカナノ粒子を調製し、次いで一般式(2)で表されるジカルボン酸化合物又はその酸無水物で処理することにより、シリカナノ粒子に付加された反応性官能基の末端がカルボキシル基であるシリカナノ粒子を調製することができる。
【0020】
【化2】
(式中、R3は置換基を有していてもよい炭素原子数1~20のアルキレン基又は置換基を有していてもよい炭素原子数6~20の芳香族基を表す。)
【0021】
上記一般式(2)で表される化合物としては、例えば、マロン酸、アジピン酸、テレフタル酸などが挙げられる。ジカルボン酸化合物は、上記式で挙げられたものに限定されるものではない。
2段を超える反応でシリカナノ粒子表面への反応性官能基を付加する場合は、下記一般式(3)で表される末端にアミノ基を2つ有するモノマーを、前記式(1)、次いで前記式(2)で表される化合物で処理されたシリカナノ粒子に付加することにより、表面修飾基の末端がアミノ基であるシリカナノ粒子を調製し、前記の反応を繰り返すことにより行うことができる。
【0022】
【化3】
(式中、R4は炭素原子数1~20のアルキレン基、又は(C25-O-)pおよび/又は(C37-O-)qを表し、p、qは各々独立に1以上の整数である。)
【0023】
前記一般式(3)で表されるモノマーの例としては、エチレンジアミン、ポリオキシエチレンビスアミン(分子量2,000)、o,o’-ビス(2-アミノプロピル)ポリプロピレングリコール-ブロック-ポリエチレングリコール(分子量500)などが挙げられる。
【0024】
このようにして調製した反応性官能基修飾シリカナノ粒子の第1溶媒分散液は、第2溶媒に置換して次の反応を行うことができる。
第2溶媒は、第1溶媒より疎水性の溶媒であり、テトラヒドロフラン(THF)、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセロアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)及びγ-ブチロラクトン(GBL)のうち1種以上から選択される少なくとも一種であることが好ましく、混合溶媒でもよい。
【0025】
第2溶媒への置換方法は特に限定されず、反応性官能基修飾シリカナノ粒子の第1溶媒分散液を濃縮して得られる湿潤状態の析出物を第2溶媒に分散させても良いし、反応性官能基修飾シリカナノ粒子の第1溶媒分散液を乾燥させずに第1溶媒を留去しながら第2溶媒をチャージして溶媒置換を行い、第2溶媒の分散液としても良い。
【0026】
このように溶媒置換した後、反応性官能基修飾シリカナノ粒子の第2溶媒分散液を用い、第2溶媒存在下で、反応性官能基修飾シリカナノ粒子に、多分岐構造のデンドリマー高分子又はハイパーブランチ高分子が付加される。すなわち、反応性官能基修飾シリカナノ粒子にデンドリマー形成用モノマー又はハイパーブランチ高分子形成用モノマーを反応させて、前記反応性官能基にデンドリマー高分子又はハイパーブランチ高分子が付加されたシリカナノ粒子を調製してデンドリマー高分子又はハイパーブランチ高分子付加シリカナノ粒子の第2溶媒分散液を得る。
【0027】
本発明で用いられるハイパーブランチ高分子形成用モノマーとして、下記の一般式(4)で示されるカルボキシル基を1個、アミノ基を2個有する化合物を用いることが好ましく、アミノ基を3個以上有する化合物であってもよいし、R5は炭素原子数1~20のアルキレン基、炭素原子数6~20の芳香族基以外の基であってもよい。下記一般式(4)で表されるハイパーブランチ形成用モノマーの例としては、3,5-ジアミノ安息香酸、3,5-ジアミノ-4-メチル安息香酸などが挙げられる。
【0028】
【化4】
(式中、R5は置換基を有していてもよい炭素原子数1~20のアルキレン基又は置換基を有していてもよい炭素原子数6~20の芳香族基を表す。)
【0029】
さらに、ハイパーブランチ高分子形成用モノマーとして、下記の一般式(5)で表されるカルボキシル基を1個、ハロゲン原子を2個有する化合物を用いることもできる。
【0030】
【化5】
(式中、R6は置換基を有していてもよい炭素原子数1~20のアルキレン基又は置換基を有していてもよい炭素原子数6~20の芳香族基を表し、X1およびX2はハロゲン原子を表す。)
【0031】
上記一般式(5)で表される化合物としては、例えば、3,5-ジブロモ-4-メチル安息香酸、3,5-ジブロモサリチル酸、3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシ-安息香酸などが挙げられる。
また、ハイパーブランチ高分子形成用モノマーは、上記1個のカルボキシル基と2個以上のアミノ基、又は1個のカルボキシル基と2個以上のハロゲン原子を含有する化合物に限られるものではなく、シリカナノ粒子に修飾された反応性官能基に応じて、ハイパーブランチ高分子が形成可能なモノマーが適宜用いられればよい。
【0032】
さらに、2段階反応でカルボキシル基による表面修飾が行われたシリカナノ粒子の場合には、下記の一般式(6)で表される1個のアミノ基と2個のカルボキシル基を有する化合物を用いて、ハイパーブランチ高分子を付加することができる。
【0033】
【化6】
(式中、R7は炭素原子数1~20のアルキレン基又は置換基を有していてもよい炭素原子数6~20の芳香族基を表す。)
【0034】
上記一般式(6)で表される化合物としては、例えば、2-アミノテレフタル酸、4-アミノテレフタル酸、DL-2-アミノスベリン酸などが挙げられる。
【0035】
また、下記の一般式(7)に示すように、他のモノマー種として、アミノ基を1つ、ハロゲンを2つ以上有するモノマーもハイパーブランチ高分子形成用モノマーとして使用することができる。
【0036】
【化7】
(式中、R8は置換基を有していてもよい炭素原子数1~20のアルキレン基又は置換基を有していてもよい炭素原子数6~20の芳香族基を表し、XおよびX2はハロゲン原子を表す。)
【0037】
上記一般式(7)で表される化合物としては、例えば、3,5-ジブロモ-4-メチルアニリン、2,4-ジブロモ-6-ニトロアニリンなどが挙げられる。
【0038】
上記2段階反応でカルボキシル基による表面修飾が行われたシリカナノ粒子を用いる場合においても、上記1段階で表面アミノ基修飾がなされたシリカナノ粒子を用いる場合と同様に、上記一般式(6)および(7)におけるカルボキシル基、ハロゲン原子は2個以上でもよいし、さらにカルボキシル基と反応するアミノ基以外の官能基を有する他のモノマーが用いられてもよい。
【0039】
これらの反応により形成されるハイパーブランチ高分子1本鎖の重量平均分子量は、例えば、200~2,000,000程度が好ましく、また分岐度としては、0.5~1程度が好ましい。
反応は、ハイパーブランチ高分子形成用モノマーを、第2溶媒であるテトラヒドロフラン(THF)、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセロアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)及びγ-ブチロラクトン(GBL)のうち1種以上の溶媒に溶解させ、続いてカルボン酸活性化試薬のBenzotriazol-1-yloxytris(dimethylamino)phosphonium hexafluorophosphate(BOP)と求核試薬のトリエチルアミンを添加して攪拌し、この溶液にアミノ基修飾シリカナノ粒子を投入し、撹拌することにより行うことができる。前記BOPとトリエチルアミンの組み合わせ以外に、カルボン酸活性化試薬がトリフェニルホスフィンでもよく、求核試薬はピリジンを用いても良い。
【0040】
次にデンドリマー高分子が付加されたシリカナノ粒子について説明する。以下では、先ず、アミノ基修飾シリカナノ粒子へのデンドリマー付加を説明する。
本発明において、アミノ基修飾シリカナノ粒子に対してデンドリマー付加を行うに当たり、先ず、アミノ基修飾シリカナノ粒子に対し、例えば、下記の一般式(8)で表されるカルボキシル基を3個有するモノマー、又はカルボキシル基を4個以上有するモノマーを付加することが必要となる。使用されるモノマーの例としては、トリメシン酸やピロメリット酸などが挙げられる。
【0041】
【化8】
(式中、R9は置換基を有していてもよい炭素原子数1~20のアルキレン基又は置換基を有していてもよい炭素原子数6~20の芳香族基を表す。)
【0042】
前記カルボキシル基を3個有するモノマー、又はカルボキシル基を4個以上有するモノマーの付加に続いて、下記の一般式(3)で表される末端にアミノ基を2つ有するモノマーを付加する。これらの付加を繰り返すことで、デンドリマー修飾シリカナノ粒子が調製される。
【0043】
【化9】
(式中、R4は炭素原子数1~20のアルキレン基、又は(C25-O-)pおよび/又は(C37-O-)qを表し、p、qは各々独立に1以上の整数である。)
【0044】
前記の2段階反応により官能基としてカルボキシル基により修飾されたシリカナノ粒子を用いた場合には、カルボキシル基修飾シリカナノ粒子を下記の一般式(9)で表されるアミノ基を3個有するモノマー、又はアミノ基を4個以上有するモノマーを用いて処理する。アミノ基を3個有するモノマーとして、1,2,5-ペンタントリアミンなど、アミノ基を4個以上有するモノマーとして、1,2,4,5-ベンゼンテトラアミンなどが挙げられる。
【0045】
【化10】
(式中、R10は置換基を有していてもよい炭素原子数1~20のアルキレン基又は置換基を有していてもよい炭素原子数6~20の芳香族基を表す。)
【0046】
次いで、この粒子に対して下記の一般式(10)で表される末端にカルボキシル基を2つ有するモノマーを付加する。前記モノマーの例としては、こはく酸、レブリン酸、o,o’-ビス[2-(スクシニルアミノ)エチル]ポリエチレングリコール(分子量2,000)などが挙げられる。
【0047】
【化11】
(式中、R11は炭素原子数1~20のアルキレン基、又は(C25-O-)pおよび/又は(C37-O-)qを表し、p、qは各々独立に1以上の整数である。)
【0048】
以下、これらの付加を繰り返すことで表面デンドリマー修飾シリカナノ粒子が調製される。なお、デンドリマー形成モノマーとしては、アミノ基、カルボキシル基以外の基を用いてもよい。
【0049】
こうして調製されたハイパーブランチ高分子又はデンドリマー高分子が付加された表面修飾シリカナノ粒子は、マトリクス樹脂と混合され、最終的に製膜される。なお、ハイパーブランチ高分子又はデンドリマー高分子が付加されたシリカナノ粒子は、マトリクス樹脂と混合される前に乾燥されても良いし、他の第2溶媒又は第2溶媒以外の溶媒と、少なくとも部分的に溶媒置換してもよい。
【0050】
本発明において、シリコーンがマトリクス樹脂として使用される。かかるシリコーンとしては、一般的に膜形成用に用いられているシリコーン樹脂を用いることができる。例えば、モメンティブ社製シリコーンYSR3022、TSE382、信越化学工業社製 KS-847T、KE44、KE45、KE441、KE445、東レ・ダウコーニング社製 SH780、SE5007など市販のものが挙げられるが、特にこれに限定されるものではない。
また、ジオルガノポリシロキサン化合物(モノマー)から合成したシリコーンを使用することも可能である。また、マトリックス樹脂であるシリコーンに変性シリコーンや消泡剤としてのシリコーンなどを1種類以上添加しても良い。
【0051】
シリコーンは架橋剤を併用することができる。架橋剤は架橋密度を高めたり、耐熱性又は耐久性を高めたりする場合に使用される。例えば、末端が水酸基のシリコーンを用いた場合、加水分解性官能基を複数個有するシラン化合物およびその部分加水分解縮合物を架橋剤として用いることができる。そのシラン化合物の具体例としては、メチルトリス(ジエチルケトオキシム)シラン、メチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、ビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、フェニルトリス(ジエチルケトオキシム)シランなどのオキシムシラン;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどのアルコキシシラン;メチルトリアセトキシシラン、エチルトリアセトキシシランなどのアセトキシシラン;メチルトリス(ジメチルアミノ)シラン、メチルトリス(ジエチルアミノ)シラン、メチルトリス(N-メチルアセトアミド)シラン、ビニルトリス(N-エチルアセトアミド)シランなどのアミノフェニルトリエトキシシラン系シラン;メチルトリス(ジメチルアミノキシ)シラン、メチルトリス(ジエチルアミノキシ)シランなどアミノキシシランが挙げられるが、これらに限定されない。架橋剤を併用する場合、その添加量はシリコーンに対して約0.1質量%~約20質量%であることが好ましい。
【0052】
シリコーン樹脂と微粒子の質量比は、例えば99/1~20/80であり、好ましくは、95/5~40/60であり、より好ましくは、90/10~50/50である。
【0053】
シリコーンを溶解させる溶剤としては極性の低い溶剤が好ましく、製膜の際に常温で自然に蒸発し難いという観点から、沸点が60~200℃の範囲であることが好ましい。例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、等のノルマルパラフィン、イソパラフィン、芳香族系、ナフテン系溶剤が挙げられる。この中で、デカン、ノナンが特に好ましい。
【0054】
本発明の膜形成用組成物には、シリコーンを溶解させる溶剤の他、微粒子の分散性を向上させる目的で、1つ以上の酸素原子、または窒素原子を有し、比誘電率が1乃至30である溶剤を含有させる。ここで、比誘電率とは溶媒の誘電率と真空の誘電率の比のことであり、各溶媒の比誘電率については、文献(National Bureau of Standards Circular 514、1951)に記載されている。
【0055】
また、粒子の分散性を向上させる溶剤は、1つ以上の酸素原子、または窒素原子を有し、比誘電率が1乃至30である特定溶剤であるが、好ましくは比誘電率が1乃至25、より好ましくは1乃至20である。例えば、好ましい特定溶剤としては、主鎖が炭化水素である、1価アルコール、モノエーテル、モノエステル、モノケトンを挙げることができるが、これに限定されるものではない。特に具体例を例示すると、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、4-ヘプタノール、n-ブタノール、イソプロパノール、シクロヘキサノール、テトラヒドロフラン(THF)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、シクロペンタノンからなる単独又は2種類以上の混合溶媒が挙げられる。
【0056】
1つ以上の酸素原子、または窒素原子を有し、比誘電率が1乃至30である特定溶剤が、微粒子の分散性を向上される理由は定かではないが、おおむね以下のように考えられる。第一の理由として、本発明で使用する特殊溶剤は、親水部と疎水部を有する両親媒性であり、粒子表面には親水部を有するため、一般的な分散剤の安定効果が起因していると予想される。また、第二の理由として、シリコーンが有する末端シラノール基及びシロキサン結合部位によって、シリコーンは粒子表面に吸着し、ポリマーの立体障害効果が起因していると予想される。
【0057】
特定溶剤としてn-ヘキサノールを使用する場合のシリコーン樹脂と溶剤の質量比は、例えば1/99~50/50であり、好ましくは、1/99 ~30/70であり、より好ましくは、2/98~10/90である。
特定溶剤の含有量は、全溶剤中の0.01~70質量%であり、好ましくは、0.1質量%~50質量%、より好ましくは、0.1質量%~30質量%の範囲になるように設定する。
何れにしても、膜形成用組成物の全質量に対して、前記微粒子の量が0.01質量%~50質量%、好ましくは、0.1質量%~15質量%の範囲になるように設定する。
【0058】
本発明の膜形成用組成物には、シリコーンを溶解させる溶剤の他、粒子の分散性を向上させる目的で、1つ以上の酸素原子、または窒素原子を有し、比誘電率が1乃至30である特定溶剤を含有させる。そのため、シリコーンを溶解させる溶剤と、1つ以上の酸素原子、または窒素原子を有し、比誘電率が1乃至30である特定溶剤とは、相溶することが好ましい。
【0059】
1つ以上の酸素原子、または窒素原子を有し、比誘電率が1乃至30である特定溶剤が、シリコーンを溶解できる場合は、シリコーンを溶解させる溶剤としても使用することができる。この場合、本発明の膜形成用組成物に含まれる溶剤を1種類とすることもできる。
【0060】
本発明の膜形成用組成物では、シリコーンおよびシリコーンを溶解する溶剤と共に、特定溶剤を含有することにより、微粒子の分散性が著しく向上したものとなる。
本発明の膜形成用組成物は、ミキサーなどの攪拌手段により容易に良好な分散状態を得ることができるが、必要に応じて超音波処理、湿式ジェットミル処理、湿式ビーズミル処理、高圧ホモジナイザー処理などを施すようにしてもよい。これにより、分散状態はさらに向上したものとなる。
【0061】
主鎖が炭化水素の1価アルコールは、比誘電率が1~30の範囲にあれば、微粒子の分散は攪拌だけでも良好であり、超音波処理を施す必要はない。また、主鎖が炭化水素のモノエーテル、モノエステル、およびモノケトン、又はその他の溶剤においても、比誘電率が1~30の範囲にあれば、微粒子の分散性を向上させることができるが、特にこの場合において、比誘電率が1~10、18~30の範囲にある場合には、攪拌により分散させた後、超音波処理を施すのが好ましい。
【0062】
膜の製造方法としては、前記組成物を、基板上に塗布した後に、溶剤を蒸発させる。塗布する基板としては、溶剤によって劣化が生じなければ、材質や表面の状態は問わないが、例えば表面に凹凸のないSiウエハー、ガラス基板、PET、PANフィルムなどが挙げられる。また、表面に細孔を有する不織布(支持体)としてポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン(PSF )、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミド、ポリアミド、酢酸セルロース、トリアセテート、ポリアクリロニトリル、エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0063】
塗布方法としては、基板上に均一にむらなく塗布できることが好ましく、例えば、ディップ塗布(浸漬法)、スピン塗布法、ブレード塗布法、噴霧塗布法、バーコーター方式、マイクログラビア方式、グラビア方式、スロットダイ方式など公知の塗工方法及び塗工技術を利用することができ、特に限定されるものでなく、ブレード塗布法が好ましく、特に、ドクターブレードを用いるのが好ましい。
【0064】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって何ら限定されるものではない。
【実施例
【0065】
以下の実施例を説明する。なお、実施例において記載した比誘電率は以下の文献を参照したものである。
文献1 National Bureau of Standards Circular 514、1951
文献2 化学便覧2 基礎編II改定5版、日本化学会編集、丸善(株)出版、621、2014
文献3 特開2015-191090号公報
【0066】
[表面修飾シリカST-G1の合成]
冷却管、温度計及び撹拌機を取り付けた1000mLの四つ口丸底フラスコに、シリカのイソプロパノール(IPA)分散液(IPA-ST、日産化学(株)製、シリカ濃度:30.5質量%、平均一次粒子径12nm)491.80g、超純水2.69g、IPA2494.5gを量り取り、撹拌しながら還流になるまで昇温させた。その後、APTES(東京化成工業(株)製)11.03gを添加し、還流下で1時間撹拌した。得られた分散液をエバポレーターでIPA、水を留去しながら1-メチル-2-ピロリドン(NMP)をチャージし、溶液中の水分量がカールフィッシャー水分計にて0.1質量%以下に達したのを確認し、終了した。次いで、NMPにてAPTES修飾シリカ濃度を約5.4質量%になるように調整した。この溶液をST-G0-NMPゾルとする。
【0067】
冷却管、温度計及び撹拌機を取り付けた1000mLの四つ口丸底フラスコに得られたST-G0-NMPゾル全量と1,3-ジアミノ安息香酸(DABA)(Aldrich製)22.75g、トリエチルアミン(TEA)(関東化学(株)製)15.13g、Benzotriazol-1-yloxytris(dimethylamino)phosphonium hexafluorophosphate(BOP)(東京化成工業(株)製)66.12gを量り取り、室温下で5分間撹拌し、80℃へ昇温後、1時間反応させた。この反応液をろ紙(細孔7μm)を用いてろ過後、ろ液を反応液の9倍量のメタノールへ投入し、静定を行った。その後、上澄み液を捨てた後、同量のメタノールを追加し、攪拌・静定を行った。この操作を計5回行ったところで洗浄を終了した。この溶液をST-G1-メタノールゾルとする。
【0068】
[ST-G1/シリコーン分散液の調製]
ナスフラスコにモメンティブ社製シリコーンYSR3022、ST-G1―メタノールゾルをシリコーンとST-G1の質量比が9/1になるように添加後、トルエンをST-G1-メタノールゾルと当量添加し、攪拌した。次に、エバポレーターにてトルエンを完全除去しない程度に溶媒留去後、デカンをチャージし、残りのトルエンを留去した。最終ワニスの濃度を約10質量%に調製した。ここでのワニス濃度は、シリコーンとST-G1の総固形分濃度を意味する。また、この溶液をシリコーン分散液と表記する。
【0069】
[ワニスの分散性評価]
(実施例1)
調製したシリコーン分散液および特定溶剤としてn-ヘキサノール(比誘電率:13.3、25℃、文献1)をスクリュー瓶に分取し、ワニス濃度5質量%、n-ヘキサノールが10質量%になるようにデカンを添加して希釈した。得られた分散液をミックスローター100rpm・1時間、次いでシンキー社製の自公転式ミキサーあわとり練太郎にて2000rpm、3分間の条件で混合した。混合後、スクリュー瓶を静置し、3時間後のワニスの分散安定性を以下の基準にて評価した。
【0070】
[評価基準]
目視による沈降物がないこと 且つ 沈降保持率 90%以上 〇
目視による沈降物があること 且つ/又は 沈降保持率 90%未満 ×
ここでの沈降保持率は以下のように定義した。
沈降保持率 100%:微粒子の沈降が確認されない
沈降保持率 0%: 微粒子が完全に沈降した
沈降保持率(%)=[容器底面から粒子沈降層の最上位の高さ/容器底面からワニスの最上位の高さ]×100
【0071】
(実施例2)
実施例1のn-ヘキサノールをn-ヘプタノール(比誘電率:12.1、22℃、文献1)に変更した以外同じ条件でワニス調製し、評価した。
【0072】
(実施例3)
実施例1のn-ヘキサノールを4-ヘプタノール(比誘電率:6.1、22℃、文献1)に変更した以外同じ条件でワニス調製し、評価した。
【0073】
(実施例4)
実施例1のn-ヘキサノールをn-ブタノール(比誘電率:17.1、25℃、文献1)に変更した以外同じ条件でワニス調製し、評価した。
【0074】
(実施例5)
実施例1のn-ヘキサノールをイソプロパノール(比誘電率:18.3、25℃、文献1)に変更した以外同じ条件でワニス調製し、評価した。
【0075】
(実施例6)
実施例1のn-ヘキサノールをPGME(比誘電率:12.3、20℃、文献3)に変更した以外同じ条件でワニス調製し、評価した。
【0076】
(実施例7)
実施例1のn-ヘキサノールをシクロペンタノン(比誘電率:16.3、-51℃、文献1)に変更した以外同じ条件でワニス調製し、評価した。
【0077】
(実施例8)
実施例1のn-ヘキサノールをシクロヘキサノール(比誘電率:15.0、25℃、文献1)に変更した以外同じ条件でワニス調製し、評価した。
【0078】
比較実施例9
実施例1のn-ヘキサノールをメチルエチルケトン(MEK)(比誘電率:18.5、20℃、文献1)に変更した。また、分散方法に関しては、自公転ミキサー処理後に超音波照射1分間を行う工程を追加した。それ以外は実施例1と同じ条件でワニスを調製し、評価した。
【0079】
比較実施例10
比較実施例9のMEKをテトラヒドロフラン(THF)(比誘電率:7.5、22℃ 、文献2)に変更した以外は比較実施例9と同じ条件でワニスを調製し、評価した。
【0080】
比較実施例11
比較実施例9のMEKを1,4-ジオキサン(比誘電率:2.2、25℃、文献1)に変更した以外は比較実施例9と同じ条件でワニスを調製し、評価した。
【0081】
比較実施例12
比較実施例9のMEKを酢酸エチル(比誘電率:6.0 25℃、文献1)に変更した以外は比較実施例9と同じ条件でワニスを調製し、評価した。
【0082】
(比較例1)
実施例1のn-ヘキサノールを添加しない以外は同じ条件でワニス調製し、評価した。
【0083】
(比較例2)
実施例1のn-ヘキサノールを1,2-ヘキサンジオールに変更した以外は同じ条件でワニス調製し、評価した。
【0084】
(比較例3)
実施例1のn-ヘキサノールをプロピレングリコールに変更した以外は同じ条件でワニス調製し、評価した。
【0085】
(比較例4)
実施例1のn-ヘキサノールをN-メチルピロリドン(NMP)に変更した以外は同じ条件でワニス調製し、評価した。
【0086】
(比較例5)
実施例1のn-ヘキサノールをジメチルアセトアミド(DMAc)に変更した以外は同じ条件でワニス調製し、評価した。
【0087】
(比較例6)
実施例1のn-ヘキサノールをジメチルスルホキシド(DMSO)に変更した以外は同じ条件でワニス調製し、評価した。
【0088】
【表1】
【0089】
上記の検討より、実施例1~8、比較実施例9~12のワニスは、比較例1~6と比較し、分散安定性に優れることが確認された。
【0090】
[シリコーン被膜性の評価]
(実施例13)
実施例1のワニス濃度を2.5質量%へ変更し、あわとり練太郎2000rpm、3分間混合後、超音波照射を1分間行った。次いで硬化剤モメンティブ社製YC6831をシリコーンに対し7質量%になるように添加し、あわとり練太郎にて2000rpm、30秒間混合し、ワニスを調製した。得られたワニスをシリコン基板上へドクターブレード(ギャップ 50μm)を用いて塗布後、120℃のホットプレートで乾燥した。得られた膜の表面状態および断面をSEMにて観察した(図1図2)。
【0091】
(比較例7)
比較例1のワニス濃度を2.5質量%に変更したワニスを用いて、実施例13と同様の塗工及び評価を行った(図3)。
【0092】
SEMの観察結果より、実施例13の膜は、比較例7と比較し、膜の平坦性及び粒子の分散性に優れることが確認された。
以上の結果より、本発明のワニスは、粒子の分散安定性に優れ、更に平坦性及び粒子の分散性に優れる膜を提供し得る組成物であることが示された。
図1
図2
図3