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特許7602220複合体、その製造方法、及び、それを含む形状記憶部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】複合体、その製造方法、及び、それを含む形状記憶部材
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20241211BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023520957
(86)(22)【出願日】2022-04-26
(86)【国際出願番号】 JP2022018807
(87)【国際公開番号】W WO2022239633
(87)【国際公開日】2022-11-17
【審査請求日】2023-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2021079389
(32)【優先日】2021-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和3年8月18日、公益社団法人高分子学会のウェブサイトで公開された第70回高分子討論会のWEB予稿集において発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和3年9月6日、第70回高分子討論会において発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和3年9月24日、公益社団法人日本化学会のウェブサイトで公開された日本化学会秋季事業第11回CSJ化学フェスタ2021のWeb予稿集において発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和3年10月21日、第11回CSJ化学フェスタ2021において発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和4年1月14日、つくば医工連携フォーラムのウェブサイトで公開されたつくば医工連携フォーラム2022の予稿集において発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和4年1月21日、つくば医工連携フォーラム2022において発表
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100190067
【弁理士】
【氏名又は名称】續 成朗
(72)【発明者】
【氏名】宇都 甲一郎
(72)【発明者】
【氏名】荏原 充宏
(72)【発明者】
【氏名】菊池 明彦
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106566398(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0095206(KR,A)
【文献】特開2021-023499(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106674998(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111572019(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106883586(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0150789(US,A1)
【文献】EBARA, Mitsuhiro et al.,Focus on the interlude between topographic transition and cell response on shape-memory surfaces,Polymer,2014年,55,pp.5961-5968,ISSN 0032-3861
【文献】LIU, Wan-Chen et al.,Highly Stretchable, Self-Healable Elastomers from Hydrogen-Bonded Interpolymer Complex (HIPC) and Th,ACS Omega,2018年,3,pp.11368-11382,ISSN 2470-1343
【文献】TANG, Pandeng et al.,Intrinsically Stretchable and Shape Memory Conducting Nanofiber for Programmable Flexible Electronic,ACS Applied Materials & Interfaces,2019年,11,pp.48202-48211,ISSN 1944-8252
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋ポリマーであって、示差走査熱量測定(DSC)を行ったときに吸熱ピークを有する架橋ポリマーと、
金属ナノワイヤと、
を含む複合体であって、
前記架橋ポリマーが、以下の式1で表される硬化性化合物1の硬化物、以下の式2で表される硬化性化合物2の硬化物、及び、前記硬化性化合物1と前記硬化性化合物2から構成される硬化性化合物の複合物の硬化物からなる群より選択され、
導電性試験において、少なくとも、変形前の状態、及び、外部から応力を加えて所定の方向に100%以上変形させた状態で、電気抵抗を測定可能な程度の導電性を有し、かつ、
前記架橋ポリマー及び/又は前記金属ナノワイヤの良溶媒を用いる安定性試験において、前記金属ナノワイヤの脱離を実質的に生じない、
複合体。
【化1】
(式1中、L はポリ(オキシアルキレンカルボニル)基を表し、X は硬化性基を有する基を表し、R は水素原子、又は、前記硬化性基を有さない1価の置換基を表し、q1は2以上の整数を表し、p1は0以上の整数を表し、q1が2かつp1が0のとき、M は単結合、又は、2価の基を表し、q1が2かつp1が1以上のとき、及び、q1が3以上のとき、M はp1+q1価の基を表し、複数あるR 、及び、L はそれぞれ同一でも異なってもよい)
【化2】
(式2中、L は高分子鎖を表し、前記高分子鎖は、オキシアルキレンカルボニル基からなる繰り返し単位、D-乳酸に由来する繰り返し単位、及び、L-乳酸に由来する繰り返し単位をすべて含み、X は前記式1中のX が有するのと同一の硬化性基を有する基を表し、R は水素原子、又は、前記硬化性基を有さない1価の置換基を表し、q2は2以上の整数を表し、p2は0以上の整数を表し、q2が2かつp2が0のとき、M は単結合、又は、2価の基を表し、q2が2かつp2が1以上のとき、及び、q2が3以上のとき、M はp2+q2価の基を表し、複数あるR 、及び、L はそれぞれ同一でも異なってもよい)
【請求項2】
前記金属ナノワイヤが、銀ナノワイヤである、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
熱重量測定(TG)によって算出される前記金属ナノワイヤの含有率が、5%以上60%以下である、請求項1に記載の複合体。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載の複合体を含む形状記憶部材。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の複合体の製造方法であって、
金属ナノワイヤを含む成形体を作製する工程と、
前記成形体に、硬化性化合物を含む組成物を適用する工程と、
前記組成物を適用した成形体にエネルギーを付与して、前記硬化性化合物を硬化させる工程と、
を含
前記硬化性化合物が、以下の式1で表される硬化性化合物1、以下の式2で表される硬化性化合物2、及び、前記硬化性化合物1と前記硬化性化合物2から構成される硬化性化合物の複合物からなる群より選択される、方法。
【化3】
(式1中、L はポリ(オキシアルキレンカルボニル)基を表し、X は硬化性基を有する基を表し、R は水素原子、又は、前記硬化性基を有さない1価の置換基を表し、q1は2以上の整数を表し、p1は0以上の整数を表し、q1が2かつp1が0のとき、M は単結合、又は、2価の基を表し、q1が2かつp1が1以上のとき、及び、q1が3以上のとき、M はp1+q1価の基を表し、複数あるR 、及び、L はそれぞれ同一でも異なってもよい)
【化4】
(式2中、L は高分子鎖を表し、前記高分子鎖は、オキシアルキレンカルボニル基からなる繰り返し単位、D-乳酸に由来する繰り返し単位、及び、L-乳酸に由来する繰り返し単位をすべて含み、X は前記式1中のX が有するのと同一の硬化性基を有する基を表し、R は水素原子、又は、前記硬化性基を有さない1価の置換基を表し、q2は2以上の整数を表し、p2は0以上の整数を表し、q2が2かつp2が0のとき、M は単結合、又は、2価の基を表し、q2が2かつp2が1以上のとき、及び、q2が3以上のとき、M はp2+q2価の基を表し、複数あるR 、及び、L はそれぞれ同一でも異なってもよい)
【請求項6】
前記エネルギーの付与が、前記成形体を加熱して行われる、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記エネルギーの付与が、加圧条件下で行われる、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体、その製造方法、及び、それを含む形状記憶部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステル樹脂は優れた生分解性を有することが知られており、研究が進められている。非特許文献1には、温度応答性ポリ(ε-カプロラクトン)膜が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】K. Uto, et al., J. Control. Release, 2006, 110(2), 408-413.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載された膜は、付与された変形を記憶し、所定の温度(この温度を、以下「駆動温度」ともいう。)に加熱すると、変形が付与される前の形状に戻るという、形状記憶能を有していた。しかし、形状記憶能の発揮のためには、膜、及び/又は、膜の周囲環境を加熱する必要があるため、例えば、生体への適用を企図した場合、加熱方法の選択の難しさ、及び、加熱による周辺組織への悪影響等の点で、改善の余地があった。
【0005】
そこで、本発明は、電流の印加による局所的な加熱により駆動可能な形状記憶部材に適用できる複合体を提供することを課題とする。
また、本発明は、そのような複合体を製造する方法、及び、当該複合体を含む形状記憶部材を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0007】
[1] 架橋ポリマーであって、示差走査熱量測定(DSC)を行ったときに吸熱ピークを有する架橋ポリマーと、金属ナノワイヤと、を含む複合体であって、導電性試験において、少なくとも、変形前の状態、及び、外部から応力を加えて所定の方向に100%以上変形させた状態で、電気抵抗を測定可能な程度の導電性を有し、かつ、前記架橋ポリマー及び/又は前記金属ナノワイヤの良溶媒を用いる安定性試験において、前記金属ナノワイヤの脱離を実質的に生じない、複合体。
[2] 上記架橋ポリマーが、後述する式1で表される硬化性化合物1の硬化物、後述する式2で表される硬化性化合物2の硬化物、及び、硬化性化合物1と上記硬化性化合物2から構成される硬化性化合物の複合物の硬化物からなる群より選択される、[1]に記載の複合体。
[3] 上記金属ナノワイヤが、銀ナノワイヤである、[1]又は[2]に記載の複合体。
[4] 熱重量測定(TG)によって算出される上記金属ナノワイヤの含有率が、10%以上25%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の複合体。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の複合体を含む形状記憶部材。
[6] [1]~[4]のいずれかに記載の複合体の製造方法であって、金属ナノワイヤを含む成形体を作製する工程と、上記成形体に、硬化性化合物を含む組成物を適用する工程と、上記組成物を適用した成形体にエネルギーを付与して、上記硬化性化合物を硬化させる工程と、を含む、方法。
[7] 上記エネルギーの付与が、上記成形体を加熱して行われる、[6]に記載の方法。
[8] 上記エネルギーの付与が、加圧条件下で行われる、[6]又は[7]に記載の方法。
[9] 上記硬化性化合物が、後述する式1で表される硬化性化合物1、後述する式2で表される硬化性化合物2、及び、上記硬化性化合物1と上記硬化性化合物2から構成される硬化性化合物の複合物からなる群より選択される、[6]~[8]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電流の印加による局所的な加熱により駆動可能な形状記憶部材に適用できる複合体を提供できる。
また、本発明によれば、そのような複合体を製造する方法、及び、当該複合体を含む形状記憶部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る複合体の構造を示す模式的な斜視図である。
図2】(a)実施例の2-1で合成した銀ナノワイヤのSEM像を示す図である。(b)実施例の2-2で合成した銀ナノワイヤのSEM像を示す図である。
図3】実施例の3-1で作製した複合体のSEM像を示す図である。(a)表面、(b)断面。
図4】実施例の3-1で作製した複合体における、電力(W)と温度(℃)の関係性を示すグラフである。
図5】(a)~(f)実施例の3-4で作製した3種類の複合体の、パーマネント形状(変形前)及びテンポラリー形状(変形後)での、表面のSEM像を示す図である。
図6】実施例の4-1で作製した複合体4(10)、複合体4(20)、複合体4(30)、及び複合体4(50)のDSC曲線を示す図である。
図7】複合体4(10)、複合体4(20)、複合体4(30)、及び複合体4(50)のTG曲線を示す図である。
図8】20回の変形と回復の繰り返しサイクルにおける試験片に生じた応力(MPa)を、試験時間(s)との関係で示したグラフである。(a)複合体4(10)、(b)複合体4(20)、(c)複合体4(30)、(d)複合体4(50)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含有する範囲を意味する。
【0011】
(用語の定義)
本明細書において、「パーマネント形状」とは、対象の物質において、内部(残留)応力が緩和された状態、言い換えれば、熱力学的に最も安定な形状を意味し、典型的には、外部から応力を与えない状態で、結晶の融解温度付近(又はそれ以上)に物質を加熱して、その後、室温まで冷却した際に得られる形状を意味する。
なお、結晶の融解温度とは、対象の物質の示差走査熱量測定(DSC)を行い、その昇温過程における吸熱ピークのピークトップの温度を意味する(複数の吸熱ピークを有する場合、最も高温側のピークのピークトップ温度とする)。融解温度付近とは、示差走査熱量測定の吸熱ピークの高温側の終端温度程度を意味する。なお、示差走査熱量測定は、後述する方法により行うものとする。
【0012】
本明細書において、「テンポラリー形状」とは、対象の物質において、外部から応力を与えて変形させた状態で、結晶の融解温度付近に加熱後、結晶化温度程度(又はそれ以下)に冷却されることで、結晶化等によって一時的に変形が固定された際の形状を意味する。なお、結晶化温度とは、対象の物質の示差走査熱量測定を行い、その冷却過程における発熱ピークのピークトップの温度を意味する。
【0013】
本明細書において、複合体が有する形状記憶能に関して用いられる「駆動」、「駆動する」、「駆動させる」、及び、「駆動可能な」との用語は、それぞれ、複合体の形状記憶能の発揮(当該形状記憶能が発揮されること)、複合体が形状記憶能を発揮すること、複合体の形状記憶能を発揮させること、及び、複合体が形状記憶能を発揮することが可能であること(複合体の形状記憶能を発揮させることが可能であること)、を意図するものとする。
【0014】
[複合体]
図1は、本発明の一実施形態に係る複合体の構造を示す模式的な斜視図である。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る複合体(以下、「本実施形態の複合体」ともいう。)100は、架橋ポリマー110と、金属ナノワイヤ120と、を含む複合体である。なお、図1では、本実施形態の複合体100の外観形状がシート状(フィルム状、膜状等とも称され得る。)である態様を示しているが、複合体100の外観形状は特に制限されず、用途に応じて適宜定めることができる。
【0015】
本実施形態の複合体100において、金属ナノワイヤ120は、架橋ポリマー110に組み込まれている。言い換えると、複合体100において、金属ナノワイヤ120は、単に架橋ポリマー110の表面を部分的に覆っているのではなく、架橋ポリマー110が有する架橋構造内部に埋め込まれている。このような構造であることにより、複合体100は、後述する安定性試験において、金属ナノワイヤ120の脱離を実質的に生じない。
【0016】
また、本実施形態の複合体100において、金属ナノワイヤ120は、電流の印加による局所的な加熱により複合体100を駆動可能な程度に分散した状態で、架橋ポリマー110に組み込まれている。このような構造であることにより、複合体100は、一定の導電性を有する。より具体的には、複合体100は、後述する導電性試験において、少なくとも、変形前の状態(パーマネント形状)、及び、外部から応力を加えて所定の方向に100%以上変形させた状態(テンポラリー形状)で、電気抵抗を測定可能な程度の導電性を有する。より好ましくは、複合体100は、更に、上記100%以上変形させた状態でエネルギーを与えて変形前と同程度のサイズに回復させた状態でも、電気抵抗を測定可能な程度の導電性を有する。これにより、複合体100は、電流の印加による局所的な加熱により駆動可能であり、より好ましい態様では、複数回の変形と回復の繰り返しが可能である。
【0017】
なお、導電性試験におけるテンポラリー形状に関し、上記100%以上変形させた状態は、100%の変形であってもよく、200%の変形であってもよく、300%の変形であってもよく、300%を超える変形であってもよい。より高い割合で変形させた状態で電気抵抗を測定可能な程度の導電性を有し、更に、当該変形させた状態でエネルギーを与えて変形前と同程度のサイズに回復させた状態でも電気抵抗を測定可能な程度の導電性を有すると、複合体100をより広範な用途に適用することが可能となり、望ましい。
【0018】
さらに、本実施形態の複合体100において、金属ナノワイヤ120は、架橋ポリマー110がそれ単独で有する特性を実質的に損なわない状態で、架橋ポリマー110に組み込まれている。具体的には、複合体100は、金属ナノワイヤ120の含有量(含有率)が異なる条件で作製された少なくとも2つ以上の試料のDSC曲線において、実質的に同一の温度帯に吸熱ピーク及び発熱ピークが確認される。このことは、複合体100において、架橋ポリマー110が有する架橋構造内部に金属ナノワイヤ120が埋め込まれていること、及び、そのようにして架橋ポリマー110に組み込まれた金属ナノワイヤ120の量は、複合体100に含まれる架橋ポリマー110の融点や結晶化温度には実質的に影響を及ぼさないことを意味する。これにより、複合体100は、架橋ポリマー110を含むことによる形状記憶能(詳細は後述)をより効果的に発揮することができ、かつ、金属ナノワイヤ120を含むことで電流の印加による局所的な加熱により駆動可能であるという、架橋ポリマー110と金属ナノワイヤ120の特長を相加的もしくは相乗的に兼ね備えた構造を有する。
【0019】
加えて、本実施形態の複合体100において、金属ナノワイヤ120が、架橋ポリマー110がそれ単独で有する特性を実質的に損なわない状態で架橋ポリマー110に組み込まれていることは、金属ナノワイヤ120がそれ単独で有する特性を実質的に損なわない状態で架橋ポリマー110に組み込まれていることをも意味する。つまり、金属ナノワイヤ120は、架橋ポリマー110が有する架橋構造内部に金属ナノワイヤ120が埋め込まれていることで、複合体100が、電流の印加による局所的な加熱により駆動可能であるという特徴をもたらすだけでなく、架橋ポリマー110に組み込まれた状態で、金属ナノワイヤ120がそれ単独で有する特性を発揮することができる。具体的には、例えば金属ナノワイヤ120が銀ナノワイヤである態様においては、複合体100は、ナノワイヤを構成する銀に由来する抗菌性を発揮することができる。このように、本実施形態の複合体100においては、後述するように、導電性の観点(すなわち、電流の印加による局所的な加熱により駆動を可能にする観点)で、金属ナノワイヤ120の材質としての金属を選択することに加えて、複合体100に所望の特性を付与する観点で、当該金属を選択することをも可能である。
【0020】
上述した複合体100における金属ナノワイヤ120の分散状態は、パーコレーション(percolation;浸透)の概念を用いて説明することもできる。パーコレーションの概念(パーコレーション問題)は当該分野でよく知られており、自己相似性との関係も周知である。n次元の格子(例えば立方格子)を与え、そのサイト(あるいはボンド)部分をある確率pで占有する手続きを考える。もしp≒1ならばサイトは全て連結され、格子全体のネットワークが形成されるであろう。反対にp≒0の場合には、占有されたサイトは殆どなく、占有されたサイトがあったとしてもその周囲は空のままであろう。このように、空間の点あるいはボンドが確率的に占有される過程をパーコレーション(浸透)と呼び、互いに連結した占有サイトの集まりはクラスタと呼ばれる。これは、ランダムな媒質中を液体が浸透する過程や、森林火災が伝搬する過程を理想化したモデルと考えることができる。
【0021】
パーコレーション問題では、p>pで初めて無限大の大きさの連結されたボンド(またはサイト)のクラスタ(パーコレーション・クラスタ)が出現するような臨界確率(パーコレーション閾値)pが存在し、その値は空間次元、ボンドを占有するかサイトを占有するか、格子の種類などに依存して決まる。実際に、コンピュータシミュレーションによると、パーコレーション・クラスタは自己相似性を有し、そのフラクタル次元Dは、2次元ではD=91/48=約1.89であり、3次元ではD=約2.53であることが分かっている。なお、フラクタル次元Dの値は、対象物の走査型電子顕微鏡(SEM)画像から算出することができる。
【0022】
以上のことを踏まえ、本実施形態の複合体100においては、金属ナノワイヤ120が、上述したパーコレーション・クラスタモデルに基づく自己相似性もしくはそれと同等の自己相似性を有していることが好ましい。これにより、複合体100は、導電性に優れ、電流の印加による局所的な加熱により駆動可能な形状記憶部材に使用するのに好適である。
【0023】
〔架橋ポリマー〕
本実施形態の複合体100に含まれる架橋ポリマー110は、化学架橋された高分子化合物である。すなわち、架橋ポリマー110は、化学反応により形成された共有結合によって分子同士が結合した架橋構造を有する高分子化合物である。
【0024】
高分子化合物に架橋構造を導入する方法は特に制限されないが、後述する硬化性化合物(架橋性モノマー)にエネルギーを与えて(典型的には、加熱して)、硬化させる方法が挙げられる。
【0025】
架橋ポリマー110は、示差走査熱量測定(DSC)を行ったときに吸熱ピークを有する。すなわち、架橋ポリマー110は、示差走査熱量測定を行ったときに、融解による吸熱ピークが検出されること、言い換えれば、融解ピークが検出される程度の結晶性を有する。これにより、複合体100は、付与された変形を記憶し、駆動温度に加熱すると、変形が付与される前の形状に戻るという、形状記憶能を発揮し得る。
【0026】
ここで、示差走査熱量測定は、一般的な示差走査熱量計を用い、以下の試験条件で行うものとする。
<示差走査熱量測定の試験条件>
測定容器:アルミニウム製サンプルパン
試料量・サイズ:上記サンプルパンのサイズに応じて適宜調整する。
測定開始温度:0℃
測定終了温度:120℃
昇温速度:0.01~20℃/minの範囲で設定する。好ましくは、5~10℃/minの範囲である。
測定手順:まず、試料を室温から120℃まで加熱し、120℃に達したら、今度は-5℃まで冷却する。次に、試料の温度が-5℃に達した後、今度は所定の昇温速度で0℃~120℃まで昇温させ、DSC曲線を取得する。
【0027】
架橋ポリマー110の融解ピークの温度としては特に制限されないが、33.0~58.0℃が好ましい。
なかでも、複合体をウェアラブルデバイス等として生体表面に接触させた状態で駆動させる場合、架橋ポリマー110の融解ピーク温度は、生体表面温度を考慮して、33.0~37.0℃が好ましく、34.0~36.5℃がより好ましい。
一方、複合体を生体内に配置又は留置した状態で駆動させる場合、架橋ポリマー110の融解ピーク温度は、生体内温度を考慮して、37.0~45.0℃とすることが好ましく、37.0℃を超えて、44.0℃以下が好ましい。
【0028】
架橋ポリマー110の結晶化度としては特に制限されないが、示差走査熱量測定で得られる結晶化度が10.0~40.0%であることが好ましい。複合体を生体表面で駆動させる場合、架橋ポリマー110の結晶化度は、10.0~15.5%が好ましい。複合体を生体内で駆動させる場合、架橋ポリマー110の結晶化度は、15.5%超40.0%以下が好ましく、15.5%超28.0%以下がより好ましく、下限は15.5%を超えることが更に好ましい。
【0029】
架橋ポリマー110としては、上述した結晶性を有していれば、特に制限されない。以下では、本実施形態の複合体100に含まれる架橋ポリマー110に好適な硬化物を得るための硬化性化合物(架橋性モノマー)、及び、その製造方法の例示的な形態について説明する。
【0030】
<硬化性化合物1>
例示的な一形態において、架橋ポリマー110は、以下の式1で表される硬化性化合物1の硬化物である。
【0031】
【化1】
【0032】
式1中、Lはポリ(オキシアルキレンカルボニル)基を表し、Xは硬化性基を有する基を表し、Rは水素原子、又は、上記硬化性基を有さない1価の置換基を表し、q1は2以上の整数を表し、p1は0以上の整数を表し、q1が2かつp1が0のとき、Mは単結合、又は、2価の基を表し、q1が2かつp1が1以上のとき、及び、q1が3以上のとき、Mはp1+q1価の基を表し、複数あるR、及び、Lはそれぞれ同一でも異なってもよい。
【0033】
式1のLのポリ(オキシアルキレンカルボニル)基とは、オキシアルキレンカルボニル基を繰り返し単位として有する高分子鎖からなる2価の基であり、具体的には、以下の式IIで表される基である。
【0034】
【化2】
【0035】
式II中、L21はアルキレン基を表し、L21のアルキレン基の炭素数としては特に制限されないが、1~20個が好ましく、2~10個がより好ましい。
なかでも、より優れた本発明の効果を有する複合体が得られる点で、L21としては、炭素数が2~10個のアルキレン基が更に好ましい。
【0036】
また、式II中、nは、2以上の数を表し、特に制限されないが、2~200が好ましく、2~100がより好ましく。5~50が更に好ましく、10~30が特に好ましい。
【0037】
後述するが、硬化性化合物1は環状エステルの開環重合によって調製することもできる。この場合、開環重合開始剤(例えば多価アルコール)と、モノマー(例えば、ラクトン化合物)との仕込み比によってnの数を調整できる。より具体的には、多価アルコールのヒドロキシ基1つに対して、ラクトン化合物が所望のn数反応するよう仕込めばよい。
【0038】
なお、上記nの数は、硬化物のH-NMR(Nuclear Magnetic Resonance)測定により決定できる。
【0039】
式1に戻り、Xは硬化性基を有する基である。本明細書において、硬化性基を有する基とは、硬化性基そのもの、又は、その構造中に硬化性基を部分構造として有する原子団を意味する。
の硬化性基を有する基としては特に制限されないが、以下の式(III)で表される基が好ましい。
【0040】
【化3】
【0041】
式III中、Zは硬化性基を表し、Lは単結合、又は、2価の基を表す。また、「*」は結合位置を表す。
の2価の基としては特に制限されないが、-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-、-O-、-S-、-NR20-(R20は水素原子又は1価の有機基を表す)、アルキレン基(炭素数1~10個が好ましい)、シクロアルキレン基(炭素数3~10個が好ましい)、アルケニレン基(炭素数2~10個が好ましい)、及び、これらの組み合わせ等が挙げられる。なかでも、より優れた本発明の効果を有する複合体が得られる点で、Lとしては、単結合、又は、-O-、-C(O)-、アルキレン基、-NR20-、及び、これらの組み合わせが好ましい。
【0042】
式III中、Zの硬化性基とは、硬化反応に関与する基をいう。硬化性基としては、特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する複合体が得られる点で、ラジカル重合が可能な基が好ましく、エチレン性不飽和結合を有する基がより好ましい。エチレン性不飽和結合を有する基としては特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、及び、アリル基等が挙げられ、中でも、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
なお、本明細書において「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイル、及び、メタクリロイルのいずれか一方、又は、両方を意味する。
【0043】
式1に戻り、Mのp+q価の基としては、Mが2価の基である場合には、その形態は特に制限されないが、式IIIのLの2価の基としてすでに説明した基が好ましい。
【0044】
が3価以上の基である場合には、特に制限されないが、例えば、以下の式(4a)~(4d)で表される基が挙げられる。
【0045】
【化4】
【0046】
式4a中、Lは3価の基を表す。Tは単結合又は2価の基を表し、3個のTは互いに同一でも異なってもよい。
としては、窒素原子、3価の炭化水素基(炭素数1~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、3価の複素環基(5員環~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Lの具体例としては、グリセロール残基、トリメチロールプロパン残基、フロログルシノール残基、及び、シクロヘキサントリオール残基等が挙げられる。
【0047】
式4b中、Lは4価の基を表す。Tは単結合又は2価の基を表し、4個のTは互いに同一でも異なってもよい。
なお、Lの好適形態としては、4価の炭化水素基(炭素数1~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、4価の複素環基(5~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Lの具体例としては、ペンタエリスリトール残基、及びジトリメチロールプロパン残基等が挙げられる。
【0048】
式4c中、Lは5価の基を表す。Tは単結合又は2価の基を表し、5個のTは互いに同一でも異なってもよい。
なお、Lの好適形態としては、5価の炭化水素基(炭素数2~10が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、5価の複素環基(5~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Lの具体例としては、アラビニトール残基、フロログルシドール残基、及びシクロヘキサンペンタオール残基等が挙げられる。
【0049】
式4d中、Lは6価の基を表す。Tは単結合又は2価の基を表し、6個のTは互いに同一でも異なってもよい。
なお、Lの好適形態としては、6価の炭化水素基(炭素数2~10が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、6価の複素環基(6~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Lの具体例としては、マンニトール残基、ソルビトール残基、ジペンタエリスリトール残基、ヘキサヒドロキシベンゼン、及び、ヘキサヒドロキシシクロヘキサン残基等が挙げられる。
【0050】
式4a~式4d中、T~Tで表される2価の基は、すでに説明したMの2価の基と同様の形態であってもよく、同一でもよい。
また、Mが7価以上の基である場合には、式4a~式4dで表した基を組み合わせた基を用いることができる。
【0051】
式1に戻り、p1は0以上の整数を表し、2以下が好ましく、1以下がより好ましく、0が更に好ましい。
また、q1は、2以上の整数を表し、4以下が好ましく、3以下がより好ましく、2が更に好ましい。
【0052】
式1中、Rは水素原子、又は、上記硬化性基を有さない1価の置換基を表す。
硬化性基を有さない1価の置換基としては特に制限されないが、例えば、*-L″-R′で表される基が挙げられる。
上記式中、L″は、単結合、又は、2価の基を表し、R′は、水素原子、又は、炭化水素基(直鎖状、分岐鎖状、若しくは、環状のいずれであってもよい)を表し、*は結合位置を表す。
【0053】
より優れた本発明の効果を有する複合体が得られる点で、硬化性化合物1は以下の式1Bで表される化合物が好ましい。
【0054】
【化5】
【0055】
式1B中、M1Bはr1価の基であり、その形態は、好適形態を含め、すでに説明した式1中のMで表される基と同様である。
1Bはポリ(オキシアルキレンカルボニル)基を表し、X1Bは硬化性基を有する基を表し、その形態は、好適形態を含め、すでに説明した式1におけるL、及び、Xと同様である。
【0056】
更に優れた本発明の効果を有する複合体が得られる点で、硬化性化合物1は、以下の式1Dで表される化合物が好ましい。
【0057】
【化6】
【0058】
式1D中、ALは炭素数1~20個のアルキレン基を表す。アルキレン基の炭素数としては特に制限されないが、3個以上が好ましく、10個以下が好ましい。Lは炭素数1~5の炭化水素を表し、-CHCH-、-CHCHCH-、-CHCHCHCH-、及び、-CHC(CHCH-からなる群より選択される少なくとも1種の基が好ましく、-CHCHCHCH-がより好ましい。X1Dは硬化性基を有する基を表し、その形態は、好適形態を含め、すでに説明した式1のXで表される基と同様である。
【0059】
式1D中、wは2以上の整数を表し、100以下が好ましく、50以下がより好ましく、20以下の整数が好ましい。
【0060】
硬化性化合物1の数平均分子量としては特に制限されないが、一般に、2000~8000が好ましい。
また、硬化性化合物1の分子量分布(Mw/Mn)としては特に制限されないが、一般に、1.1~1.6が好ましい。
なお、硬化性化合物1の数平均分子量、重量平均分子量は、後述する実施例に記載した方法によりGPC(Gel Permeation Chromatography)測定により求められる値を意味する。
【0061】
<硬化性化合物2>
別の例示的な形態において、架橋ポリマー110は、以下の式2で表される硬化性化合物2の硬化物である。
【0062】
【化7】
【0063】
は高分子鎖を表し、上記高分子鎖は、オキシアルキレンカルボニル基からなる繰り返し単位、D-乳酸に由来する繰り返し単位、及び、L-乳酸に由来する繰り返し単位をすべて含み、Xは式1中のXが有するのと同一硬化性基を有する基を表し、Rは水素原子、又は、上記硬化性基を有さない1価の置換基を表し、q2は2以上の整数を表し、p2は0以上の整数を表し、q2が2かつp2が0のとき、Mは単結合、又は、2価の基を表し、q2が2かつp2が1以上のとき、及び、q2が3以上のとき、Mはp2+q2価の基を表し、複数あるR、及び、Lはそれぞれ同一でも異なってもよい。
【0064】
式2のLの高分子鎖は、オキシアルキレンカルボニル基からなる繰り返し単位、D-乳酸に由来する繰り返し単位、及び、L-乳酸に由来する繰り返し単位をすべて含む高分子鎖である。なおLの高分子鎖は上記以外の繰り返し単位を有していてもよく、その場合、ポリ(オキシアルキレン)基(鎖)が好ましい。
【0065】
乳酸には下記式で表されるL-乳酸とD-乳酸という2種類の光学位異性体が存在し、これらをポリエステル化することでポリ乳酸ポリマーが得られる。
【0066】
典型的には、乳酸は、以下の式のとおり環状ラクチドに変換され、開環重合されることにより、ポリマー化することができる。本明細書においては、このD-乳酸から誘導される、ポリマーの繰り返し単位を「D-乳酸に由来する繰り返し単位」、L-乳酸から誘導される、ポリマーの繰り返し単位を「L-乳酸に由来する繰り返し単位」という。
【0067】
【化8】
【0068】
従って、Lの高分子鎖は、以下の式で表されるP1の繰り返し単位(オキシアルキレンカルボニル基からなる繰り返し単位)と、P2D(D-乳酸に由来する繰り返し単位)と、P2L(L-乳酸に由来する繰り返し単位)とを有する。なお、下記式中、nは、1~20の整数を表し、2~10の整数が好ましく、3~8の整数がより好ましい。
【0069】
【化9】
【0070】
の高分子鎖におけるP1単位、P2D単位、及び、P2L単位の配列順序は特に制限されず、ランダムでも、トリブロックでも、マルチブロックでもよい。Lの高分子鎖融点をより低く制御しやすい観点では、ランダムに配列されている(ランダム共重合体である)ことが好ましい。Lの高分子鎖は、硬化物(架橋体)において、架橋点間に位置する高分子鎖となるが、この高分子鎖の繰り返し単位の配列がランダムであると、高分子鎖は規則正しい折り畳み構造や伸び切り鎖構造をとりにくく、硬化物の融点がより低くなったり、硬化物が融点を有しなく(結晶性を有しなく)なったりする。
【0071】
におけるP1単位、P2D単位、及び、P2L単位の含有量としては特に制限されないが、各単位の合計含有量を100モル%としたとき、P1単位は、1~10モル%であってもよく、10モル%以上であってもよく、20モル%以上であってもよく、30モル%以上であってもよく、40モル%以上であってもよく、50モル%以上であってもよく、60モル%以上であってもよい。架橋ポリマーが硬化性化合物2の硬化物のみから構成される場合には、LにおけるP1単位の含有量は、60モル%を超えて、100モル%未満であることが好ましい。なお、上限は、90モル%以下であってもよく、80モル%以下であってもよく、70モル%以下であってもよい。
また、P2D単位、及び、P2L単位の含有量は、それぞれ、1~5モル%であってもよく、5モル%以上であってもよく、10モル%以上であってもよく、15モル%以上であってもよい。上限は、それぞれ、45モル%以下であってもよく、40モル%以下であってもよく、35モル%以下であってもよく、30モル%以下であってもよく、25モル%以下であってもよく、20モル%以下であってもよい。架橋ポリマーが硬化性化合物2の硬化物のみから構成される場合には、LにおけるP2D単位、及び、P2L単位の含有量は、それぞれ、1モル%以上20モル%未満であることが好ましい。なお、この場合の上限は、それぞれ、15モル%以下であってもよく、10モル%以下であってもよく、5モル%以下であってもよい。
【0072】
高分子鎖におけるP1単位、P2D単位、及び、P2L単位の繰り返し数としては特に制限されないが、硬化物の変形率がより大きくなりやすい観点では、繰り返し数は10以上が好ましく、20以上がより好ましく、30以上が更に好ましく、200以下が好ましく、100以下がより好ましく、70以下が更に好ましい。
【0073】
例示的な好ましい一態様では、LにおけるP1単位、P2D単位、及び、P2L単位の繰り返し数の合計は、10~100である。
【0074】
式2に戻り、Xは硬化性基を有する基である。Xが有する硬化性基は、式1におけるXが有する硬化性基と同一である。また、Xの基の具体例は、Xの基と同一であり、好適形態も同様である。
また、Rの1価の置換基も、式1におけるRの1価の置換基と同様のものが挙げられ、好適形態も同様である。
また、Mの2価の基、及び、3価以上の基も、式1におけるMの2価の基、及び、3価以上の基とそれぞれ同様のものが挙げられ、好適形態も同様である。
【0075】
式2中、p2は0以上の整数を表し、2以下が好ましく、1以下がより好ましく、0が更に好ましい。
また、q2は、2以上の整数を表し、3以上が好ましく、8以下が好ましく、6以下がより好ましい。
【0076】
より優れた本発明の効果を有する複合体が得られる点で、硬化性化合物2は以下の式1Cで表される化合物が好ましい。
【0077】
【化10】
【0078】
式1C中、M1Cは、r2価の基であり、L1Cは高分子鎖を表し、高分子鎖は、オキシアルキレンカルボニル基からなる繰り返し単位、D-乳酸に由来する繰り返し単位、及び、L-乳酸に由来する繰り返し単位をすべて含み(更にポリ(オキシアルキレン)基を含んでもよく)、X1Cは、式1BにおけるX1Bが有するのと同一の硬化性基を有する基を表し、r2は2以上の整数を表し、複数あるL1Cはそれぞれ同一でも異なってもよい。
【0079】
ここで、L1Cの高分子鎖、M1の2価、又は、3価以上の基、X1Cの硬化性基は、それぞれ、式2におけるLの高分子鎖、Mの2価、又は、3価以上の基、Xの硬化性基と同様の基が挙げられ、好適形態も同様である。
r2は、2以上の整数が好ましく、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下が更に好ましい。r2が上記数値範囲内であると、より優れた本発明の効果を有する複合体が得られる。
【0080】
より優れた本発明の効果を有する複合体が得られる観点で、硬化性化合物2は以下の式1Eで表される化合物が好ましい。
【0081】
【化11】
【0082】
式1E中、L1Eaは、高分子鎖を表し、オキシアルキレンカルボニル基からなる繰り返し単位、D-乳酸に由来する繰り返し単位、及び、L-乳酸に由来する繰り返し単位をすべて含み、L1Ebは、単結合、又は、ポリ(オキシアルキレン)基(鎖)からなる高分子鎖を表し、X1Eは式1DにおけるX1Dが有するのと同一の硬化性基を有する基を表す。
【0083】
ここで、L1Eの高分子鎖、及び、X1Eの硬化性基を有する基は、それぞれ、式2におけるLの高分子鎖、及び、Xの硬化性基を有する基と同様の基が挙げられ好適形態も同様である。
【0084】
硬化性化合物2の数平均分子量としては特に制限されないが、一般に、8000~40000が好ましい。また、硬化性化合物の分子量分布(Mw/Mn)としては特に制限されないが、一般に、1.10~1.80が好ましい。
なお、硬化性化合物2の数平均分子量、重量平均分子量は、後述する実施例に記載した方法によりGPC(Gel Permeation Chromatography)測定により求められる値を意味する。
【0085】
<硬化性化合物の製造方法>
ここで、硬化性化合物1、及び、硬化性化合物2(以下、これらを合わせて、単に「硬化性化合物」ともいう。)の製造方法について説明する。
硬化性化合物の製造方法としては特に制限されないが、より簡便に硬化性化合物が得られる点で、環状化合物を開環重合して得られた前駆体化合物に、硬化性基を有する基を導入して得る方法が好ましい。
【0086】
環状化合物としては公知の環状化合物を使用することができ、特に制限されないが、加水分解によって開環し得るものが好ましく、例えば、β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、β-バレロラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプリロラクトン、δ-バレロラクトン、β-メチル-δ-バレロラクトン、δ-ステアロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-オクタノイックラクトン、2-メチル-ε-カプロラクトン、4-メチル-ε-カプロラクトン、ε-カプリロラクトン、ε-パルミトラクトン、α-ヒドロキシ-γ-ブチロラクトン、及び、α-メチル-γ-ブチロラクトン等の環状エステル(ラクトン化合物);グリコリド、及び、ラクチド等の環状ジエステル;等が挙げられる。
【0087】
なかでも、開環重合の反応性が良好である点で、環状化合物としては、ラクトン化合物またはラクチドが好ましく、ラクトン化合物としては、β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、β-バレロラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプリロラクトン、δ-バレロラクトン、β-メチル-δ-バレロラクトン、δ-ステアロラクトン、ε-カプロラクトン、2-メチル-ε-カプロラクトン、4-メチル-ε-カプロラクトン、ε-カプリロラクトン、及び、ε-パルミトラクトンからなる群から選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。
【0088】
また、特に硬化性化合物2の合成には、ラクチドを用いることができ、このラクチドとしては、2分子のL-乳酸が脱水縮合して形成されるL-ラクチド(LLラクチド)、2分子のD-乳酸が脱水縮合して形成されるD-ラクチド(DDラクチド)、及び、1分子のL-乳酸と1分子のD-乳酸が脱水縮合して形成されるメソラクチド、並びに、D-ラクチドとL-ラクチドの等量混合物であるDL-ラクチド(ラセミラクチド)等が挙げられる。得られる硬化物の融点がより低くなりやすい点では、DL-ラクチドが好ましい。
【0089】
環状化合物を開環重合して前駆体化合物を得る方法としては特に制限されないが、金属触媒の存在下、アルコールを開始剤として開環重合する方法が挙げられる。
【0090】
・金属触媒
金属触媒としては特に制限されないが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類、遷移金属類、アルミニウム、ゲルマニウム、スズ、及び、アンチモン等の脂肪酸塩、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、及び、アルコラート等が挙げられる。
より具体的には、塩化第一スズ、臭化第一スズ、ヨウ化第一スズ、硫酸第一スズ、酸化第二スズ、ミリスチン酸スズ、オクチル酸スズ(Tin (II)-ethylhexanoate)、ステアリン酸スズ、テトラフェニルスズ、スズメトキシド、スズエトキシド、スズブトキシド、酸化アルミニウム、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウム-イミン錯体、四塩化チタン、チタン酸エチル、チタン酸ブチル、チタン酸グリコール、チタンテトラブトキシド、塩化亜鉛、酸化亜鉛、ジエチル亜鉛、三酸化アンチモン、三臭化アンチモン、酢酸アンチモン、酸化カルシウム、酸化ゲルマニウム、酸化マンガン、炭酸マンガン、酢酸マンガン、酸化マグネシウム、及び、イットリウムアルコキシド等の化合物が挙げられる。
【0091】
金属触媒の使用量は金属触媒中の金属元素に換算して、環状化合物1モル当たり0.01×10-4~100×10-4モル程度が好ましい。
【0092】
・開始剤
開始剤としては特に制限されないが、1価又は2価以上のアルコールが挙げられる。
【0093】
1価のアルコールとしては特に制限されないが、RIN-OHで表されるアルコールが挙げられ、RINは、置換基を有していてもよい炭素数1~20個の脂肪族炭化水素基を表す。
脂肪族炭化水素基としては、特に制限されないが、炭素数1~20個のアルキル基等が挙げられる。
1価のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、ペンチルアルコール、n-ヘキシルアルコール、シクロヘキシルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、n-デシルアルコール、n-ドデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール、ラウリルアルコール、エチルラクテート、及び、ヘキシルラクテート等が挙げられる。
【0094】
また、2価以上のアルコール(多価アルコール)としては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、ジトリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、グリセリン、ジグリセロール、及び、ペンタエリスリトールエトキシラート等が挙げられる。
【0095】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する複合体が得られる点で、2価のアルコール又は4価のアルコールが好ましく、2価のアルコールとしては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、及び、ネオペンチルグリコールからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
また、4価のアルコールとしては、ペンタエリスリトール、及び、ペンタエリスリトールエトキシラート等が好ましい。
開始剤の使用量は、特に制限されないが、環状化合物1モル当たり、好ましくは0.0001~0.1モル程度が好ましい。
【0096】
・開環重合
開環重合は、環状化合物の揮散を防ぐため、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。重合温度は、特に制限されないが、100~250℃が好ましい。
重合時間としては特に制限されないが、0.1~48時間程度が好ましい。
【0097】
・硬化性基の導入
環状化合物の開環重合で得られた前駆体化合物に硬化性基を導入する方法としては特に制限されないが、例えば、前駆体化合物が有するヒドロキシ基に対して反応性を示す置換基、及び、硬化性基の両方を有する化合物を反応させる方法(イ)、並びに、前駆体化合物が有するヒドロキシ基を他の官能基に置換し、この置換基に対して反応性を示す官能基、及び、硬化性基の両方を有する化合物を反応させる方法(ロ)等が挙げられる。なかでも、より簡便に硬化性化合物(マクロモノマー)が得られる点で、(イ)の方法が好ましい。
【0098】
上記(イ)の方法で、前駆体化合物のヒドロキシ基と反応させる化合物としては、特に制限されないが、例えば、硬化性基が(メタ)アクリロイル基である場合、塩化(メタ)アクリル酸、及び、臭化(メタ)アクリル酸等の不飽和酸ハロゲン化合物類等が挙げられる。
前駆体化合物のヒドロキシ基と反応させる化合物の使用量としては、特に制限されないが、ヒドロキシ基に対し、0.1~20モル当量程度が好ましい。
【0099】
<硬化性化合物の複合物>
別の例示的な形態において、架橋ポリマー110は、上記硬化性化合物1と上記硬化性化合物2から構成される硬化性化合物の複合物の硬化物である。
【0100】
上記硬化性化合物の複合物における、硬化性化合物1及び硬化性化合物2の含有量としては、上述した結晶性を有していれば、特に制限されない。例えば、複合体の用途等を考慮して、架橋ポリマーの融解ピーク温度が所望の範囲内となるように、硬化性化合物1及び硬化性化合物2の含有量を調整することができる。
【0101】
具体的には、硬化性化合物1の含有量としては、硬化性化合物2との関係では、その合計を100モル%としたとき、20モル%以上が好ましく、30モル%以上がより好ましく、35モル%以上が更に好ましく、40モル%以上が特に好ましい。
上限は、99モル%以下が好ましく、95モル%以下がより好ましく、90モル%以下が更に好ましく、85モル%以下が特に好ましい。
【0102】
なかでも、複合体を生体表面で駆動させる場合、硬化性化合物1の含有量は、45~65モル%が好ましい。
また、複合体を生体内で駆動させる場合、硬化性化合物1の含有量は、65~99モル%が好ましく、65~85モル%がより好ましい。
【0103】
硬化性化合物2の含有量としては、硬化性化合物1との関係では、その合計を100モル%としたとき、1モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上が更に好ましく、15モル%以上が特に好ましく、80モル%以下が好ましく、70モル%以下がより好ましく、65モル%以下が更に好ましく、60モル%以下が特に好ましい。
【0104】
なかでも、複合体を生体表面で駆動させる場合、硬化性化合物2の含有量は、35~50モル%が好ましい。
また、複合体を生体内で駆動させる場合、硬化性化合物2の含有量は、1~35モル%が好ましく、10~35モル%がより好ましい。
【0105】
例示的な好ましい一態様では、上記硬化性化合物の複合物における、硬化性化合物1と硬化性化合物2の含有量に対する硬化性化合物2の含有量のモル基準の比([硬化性化合物2]/[硬化性化合物1+硬化性化合物2])は、0.01~0.65である。
【0106】
また、別の例示的な好ましい態様では、上記硬化性化合物の複合物の硬化物がより低い融点とより高い変形率を両立できる観点で、以下の方法により準備される試験体が結晶性を有しないことが好ましい。
【0107】
試験体の準備方法:硬化性化合物2の500mgと、過酸化ベンゾイルの15mgと、キシレンの695μLとを混合して得られる組成物を80℃に加熱して重合させ、得られた重合体をアセトンで洗浄し、メタノール中で収縮させた後、減圧乾燥させて試験体を得る。
【0108】
<硬化物>
本実施形態の複合体100に含まれる架橋ポリマー110に好適な形状記憶材料として、上述した硬化性化合物1の硬化物、硬化性化合物2の硬化物、及び、硬化性化合物1と上記硬化性化合物2から構成される硬化性化合物の複合物の硬化物を得る方法は特に制限されないが、硬化性化合物1と硬化性化合物2と、必要に応じてその他の成分とを含む組成物にエネルギーを与えて(典型的には、加熱して)、硬化させて得ることができる。詳細は、以下の「複合体の製造方法」に関する項で説明する。
【0109】
〔金属ナノワイヤ〕
本実施形態の複合体100に含まれる金属ナノワイヤ(以下、単に「金属ナノワイヤ」ともいう。)120の材質は金属である。金属ナノワイヤ120の材質としての金属には、金属の酸化物や窒化物等のセラミックは含まない。具体的には、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられる。なかでも、導電性の観点から、銅、銀、白金、金が好ましく、銀がより好ましい。
【0110】
金属ナノワイヤ120の形状は、短軸方向の長さと長軸方向の長さの比(以下、これを「アスペクト比」とも称する。)が10以上のものであれば特に制限されないが、金属ナノワイヤの合成及び複合体の製造上の観点から、アスペクト比が大きすぎると取扱いが困難となる場合がある。そのため、アスペクト比は、10000以下が好ましく、1000以下がより好ましい。
【0111】
金属ナノワイヤ120は、直線状であってもよく、分岐状であってもよく、粒子が数珠状に繋がった形状であってもよく、これらの形状が入り混じったものであってもよい。ここで、直線状金属ナノワイヤとは、形状が棒状であることを意味し、分岐状金属ナノワイヤとは、形状が枝分かれ状であることを意味する。なお、金属ナノワイヤの剛性が低く、部分的もしくは全体的に湾曲していたり、折れ曲がったりしている場合には、直線状金属ナノワイヤに含むものとする。
【0112】
金属ナノワイヤ120の短軸方向の長さは特に制限されないが、1nm以上1μm以下が好ましい。短軸方向の長さが短すぎると、金属ナノワイヤの合成が困難となりやすいため、10nm以上500nm以下がより好ましい。金属ナノワイヤの長軸方向の長さは特に制限されないが、導電性の観点から、1μm以上1mm以下であることが好ましい。また、長軸方向の長さが長すぎると取扱いが困難となる場合があるため、10μm以上100μm以下であることがより好ましい。
金属ナノワイヤ120の形状や大きさは、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡によって確認することができる。
【0113】
金属ナノワイヤ120は、公知の方法によって合成することができる。例えば、溶液中で硝酸銀を還元する方法、及び、前駆体表面にプローブの先端部から印加電圧又は電流を作用させプローブ先端部で金属ナノワイヤをひき出し、当該金属ナノワイヤを連続的に形成する方法等が挙げられる。溶液中で硝酸銀を還元する方法としては、具体的には、金属複合化ペプチド脂質からなるナノファイバーを還元する方法(特開2002-266007号公報)や、ポリオール還元と呼ばれる方法であって、エチレングリコール中で過熱しながら還元する方法(Y. Sun, et al., Chem Mater., 2002, 14(11), 4736-4745.)、クエン酸ナトリウム中で還元する方法(K. K. Caswell, et al., Nano Lett., 2003, 3(5), 667-669.)等が挙げられる。なかでも、エチレングリコール中で過熱しながら還元する方法は、比較的容易に結晶性の高い金属ナノワイヤを合成できるので好ましい。
【0114】
本実施形態の複合体100における、金属ナノワイヤ120の含有量としては、特に制限されず、複合体100を電流の印加による局所的な加熱により駆動させるに十分な量であればよい。
【0115】
具体的には、熱重量測定(TG)によって算出される金属ナノワイヤ120の含有率が、5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、15%以上であることがさらに好ましく、20%以上であることがよりさらに好ましい。これにより、金属ナノワイヤ120は、複合体100において、電流の印加による局所的な加熱により複合体100を駆動可能な程度に分散した状態で、架橋ポリマー110に組み込まれ得る。なお、熱重量測定は、後述する実施例に記載の方法により行うものとする。
【0116】
一方、本実施形態の複合体100は、電流の印加による局所的な加熱により駆動可能であることを特徴の一つとして有するので、金属ナノワイヤ120の含有率は、必要以上に高い値であることは要しない。そのような観点から、熱重量測定(TG)によって算出される金属ナノワイヤ120の含有率は、60%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、40%以下であることがさらに好ましく、35%以下であることがよりさらに好ましい。金属ナノワイヤ120の含有率をより低い値とすることで、電流の印加によって生じるジュール熱が意図しない周囲環境に伝わる等の悪影響を回避することができる。一方、複合体の用途によっては、上述したような周囲環境へのジュール熱の伝搬・拡散をそれほど考慮する必要がない場合もあり得る。そのため、複合体が電気抵抗を測定可能な程度の導電性を有する限りにおいて、金属ナノワイヤ120の含有率は、5%以上60%以下であってもよく、5%以上50%以下であってもよく、5%以上40%以下であってもよく、5%以上35%以下であってもよく、10%以上35%以下であってもよく、15%以上35%以下であってもよく、20%以上35%以下であってもよい。
【0117】
〔複合体の導電性〕
上述したように、本実施形態の複合体100は、架橋ポリマー110に金属ナノワイヤ120が組み込まれた構造を有するので、パーマネント形状、及び、テンポラリー形状の両方において、電気抵抗を測定可能な程度の導電性を有する。
【0118】
複合体の導電性試験は、任意のサイズの試験片を作製し、少なくとも、パーマネント形状(変形前の状態)、引張試験機を用いて100%引き伸ばした状態、及び、エネルギーを付与して(典型的には、加熱して)100%収縮させた状態(変形前と同程度のサイズに回復した状態)の、三通りの条件における、電気抵抗(Ω)を測定するものとする。
試験片がシート状である場合の具体的な試験方法については、後述する実施例に記載のとおりである。試験片がシート状以外の形状である場合については、当業者であれば適宜設計変更が可能である。
【0119】
〔複合体の構造的安定性〕
また、上述したように、本実施形態の複合体100は、架橋ポリマー110に金属ナノワイヤ120が組み込まれた構造を有するので、構造的な安定性に優れている。
【0120】
具体的には、複合体100は、架橋ポリマー110及び/又は金属ナノワイヤ120の良溶媒を用いる安定性試験において、金属ナノワイヤ120の脱離を実質的に生じない。
【0121】
ここで、「金属ナノワイヤの脱離を実質的に生じない」とは、安定性試験の前後における試験溶媒の目視観察において、複合体から脱離した金属ナノワイヤに起因する、試験溶媒の懸濁が実質的に見られないこと、及び/又は、安定性試験の前後における試験片の重量測定において、複合体から脱離した金属ナノワイヤに起因する、重量の減少が見られないことを意味するものとする。なお、実際上は、安定性試験後の試験片では、試験溶媒の若干の残留が生じ得るため、本実施形態の複合体100から作製した試験片では、試験後の重量は、試験前の重量と実質的に同じ、若しくは、試験前の重量より若干の増加が見られ得る。一方、本実施形態の複合体100のような構造を有しない材料から作製した試験片では、試験後の重量は、試験前の重量より明らかに減少する。
【0122】
安定性試験で使用する溶媒、すなわち、架橋ポリマー110及び/又は金属ナノワイヤ120の良溶媒としては特に制限されず、架橋ポリマー及び/又は金属ナノワイヤの構造・材質等に応じて適宜選択すればよい。具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール等のアルコール類が挙げられる。
試験片がシート状である場合の具体的な試験方法については、後述する実施例に記載のとおりである。試験片がシート状以外の形状である場合については、当業者であれば適宜設計変更が可能である。
【0123】
[複合体の製造方法]
本実施形態の複合体100の製造方法としては特に制限されないが、より簡便に、電流の印加による局所的な加熱により駆動可能な形状記憶部材に適用できる複合体が得られる点で、以下の製造方法が好ましい。
【0124】
本発明の一実施形態に係る複合体の製造方法(以下、「本実施形態の製造方法」ともいう。)は、
金属ナノワイヤを含む成形体を作製する工程(以下、「成形体作製工程」ともいう。)と、
前記成形体に、硬化性化合物を含む組成物を適用する工程(以下、「組成物適用工程」ともいう。)と、
前記組成物を適用した成形体にエネルギーを付与して、前記硬化性化合物を硬化させる工程(以下、「硬化工程」ともいう。)と、
を含む。
以下では、上記各工程について説明する。
【0125】
(成形体作製工程)
成形体作製工程は、金属ナノワイヤを含む成形体を作製する工程である。具体的には、金属ナノワイヤを任意の溶媒に分散させた金属ナノワイヤ分散溶液を調製し、これを任意の支持体上に適用し、所定の温度で溶媒を乾燥させることにより、金属ナノワイヤを含む成形体を得ることができる。
【0126】
金属ナノワイヤを分散させる溶媒としては特に制限されず、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール等のアルコール類、及び、DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)等、常温で液体であり、かつ、揮発性に優れた有機溶媒が挙げられる。
【0127】
(組成物適用工程)
組成物適用工程は、成形体作製工程で得られた成形体に、硬化性化合物を含む組成物を適用する工程である。
【0128】
上記組成物に含まれる硬化性化合物としては特に制限されないが、上述した硬化性化合物1、硬化性化合物2、及び、硬化性化合物1と上記硬化性化合物2から構成される硬化性化合物の複合物からなる群より選択されることが好ましい。
【0129】
上記組成物は、上述した硬化性化合物を含んでいれば、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、硬化剤、及び、溶媒が挙げられる。
【0130】
<硬化剤>
硬化剤は、硬化性化合物に作用して、硬化反応を起こさせる機能を有する化合物である。
硬化剤としては、特に制限されず、公知の化合物が使用でき、典型的にはラジカル重合開始剤が好ましい。硬化剤としては、熱エネルギーの付与により硬化反応が進行する熱硬化剤、及び/又は、光照射(光エネルギーの付与)により硬化反応が進行する光硬化剤が使用できる。
【0131】
熱硬化剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、及び、過酸化ベンゾイル等の過酸化物等が挙げられる。
光硬化剤としては、例えば、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、キサントン、及び、チオキサントン等の芳香族ケトン化合物;2-エチルアントラキノン等のキノン化合物;アセトフェノン、トリクロロアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインエーテル、2,2-ジエトキシアセトフェノン、及び、2,2-ジメトキシー2-フェニルアセトフェノン等のアセトフェノン化合物;メチルベンゾイルホルメート等のジケトン化合物;1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(O-ベンゾイル)オキシム等のアシルオキシムエステル化合物;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等のアシルホスフィンオキシド化合物;テトラメチルチウラム、及び、ジチオカーバメート等のイオウ化合物;過酸化ベンゾイル等の有機化酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;有機スルフォニウム塩化合物;ヨードニウム塩化合物;フォスフォニウム化合物;等が挙げられる。
【0132】
組成物中における硬化剤の含有量は、組成物中の硬化性化合物の全質量に対して、0.001~10質量%が好ましい。なお、組成物は、硬化剤の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。組成物が2種以上の硬化剤を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0133】
<溶媒>
組成物は、溶媒を含有していてもよい。組成物が含有する溶媒としては特に制限されないが、硬化性化合物、及び、硬化剤を溶解、及び/又は、分散させ得るものであって、硬化反応中に蒸発しにくい溶媒を選択すればよい。
例えば、硬化剤として過酸化ベンゾイル(BPO)を用いる場合、硬化反応の温度は80℃程度となるため、沸点が硬化反応の温度以上となる溶媒が好ましい。このような溶媒を用いると、硬化反応中の溶媒の蒸発がより抑制できるので、気泡の混入がより少ない硬化物が得られやすい。このような溶媒としては例えば、キシレン、酢酸ブチル、DMF、及び、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0134】
一方、硬化剤として光硬化剤を用いる場合、硬化反応の温度は熱硬化剤を用いる場合よりも一般に低いため、より沸点の低い溶媒を用いても、気泡の混入がより少ない硬化物が得られる。溶媒としては例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、及び、アセトン等が使用できる。
【0135】
組成物中における溶媒の含有量としては特に制限されないが、組成物が溶媒を含有する場合、組成物の全質量を100質量%としたとき、10~90質量%が好ましい。なお、組成物は、溶媒の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。組成物が2種以上の溶媒を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0136】
(硬化工程)
硬化工程は、上記組成物を適用した成形体にエネルギーを付与して、上記硬化性化合物を硬化させる工程である。
【0137】
硬化工程において、成形体に与えるエネルギーの種類は、上述した組成物に含まれ得る硬化剤の種類によって適宜選択されればよく、加熱、及び/又は、光照射が好ましい。
【0138】
エネルギーを与える方法としては特に制限されないが、例えば、支持体上に形成された成形体を加熱し、及び/又は、当該成形体に光照射し、硬化性化合物を硬化させる方法が挙げられる。
なお、加熱温度・加熱時間、及び、光照射の強度・照射時間等は、成形体の形状、及び、硬化剤の種類等によって適宜選択されればよい。
より具体的には、加熱の温度としては、例えば、40~200℃であってもよい。また、加熱の時間としては、例えば、1分~24時間であってもよい。
【0139】
また、成形体に対するエネルギーの付与は、加圧条件下で行われてもよい。これにより、硬化性化合物が硬化する過程で、金属ナノワイヤが、硬化物の架橋構造内部により効率的に組み込まれ得る。その結果、得られる複合体において、架橋ポリマーが有する架橋構造内部に金属ナノワイヤが効果的に埋め込まれた構造が得られやすい。なお、加える圧力は、成形体の形状、及び、厚み等によって適宜調整すればよい。
【0140】
更に、本実施形態の製造方法は、上記硬化工程の後、得られた生成物(金属ナノワイヤと、硬化性化合物の硬化物とを含む複合体)を乾燥させる工程(以下、「乾燥工程」ともいう。)を含んでもよい。
【0141】
乾燥工程は、上記生成物を乾燥させて、生成物に含有される溶媒の少なくとも一部を除去する工程である。乾燥の方法は特に制限されず、例えば、20~50℃で、1分~24時間静置する方法、及び、減圧下で保持する方法等が挙げられる。なお、乾燥条件は、生成物の形状、及び、厚み等によって適宜選択されればよい。
【0142】
なお、本硬化物の大きさ、及び、形状は特に制限されない。用途に応じて適宜定めればよい。本硬化物は、形状記憶能を有し、その駆動温度がより低く、かつ、優れた変形率を有するため、結紮具、及び、縫合糸等の医療器具等に適用できる。また、本硬化物は、形状記憶能を活かし、膜として用いることもできる。例えば、基材と、基材上に配置された接着剤層とを有する接着テープの基材をこの膜とすれば、医療用のテープとして好ましく使用可能である。
【0143】
[形状記憶部材]
本実施形態の複合体100の使用方法としては特に制限されないが、上述したとおり、本実施形態の複合体100は、架橋ポリマー110を含むことにより、形状記憶能を有する。本実施形態の複合体100は、応力下で軟化点(結晶の融解温度付近の温度)まで加熱し、冷却することで、テンポラリー形状を固定できる。その後、テンポラリー形状の複合体100を軟化点まで再加熱すると、パーマネント形状に戻る。また、本実施形態の複合体100は、金属ナノワイヤ120を含むこと(より具体的には、金属ナノワイヤ120が、架橋ポリマー110に組み込まれていること)により、電流の印加による局所的な加熱により駆動可能である。このように、本実施形態の複合体100は、それを含む部材を作製し、電気駆動型の形状記憶部材として使用するのに好適である。
【0144】
具体的には、ウェアラブルデバイス等の生体表面に適用される装置及び器具等を構成する部材として、また、生体内に適用される装置及び器具等を構成する部材として使用することができる。あるいは、所望の用途に応じて、本実施形態の複合体を単独で、若しくは、他の部材と組み合わせて使用することも可能である。
【実施例
【0145】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0146】
1.硬化性化合物の合成及び分析
1-1.
[硬化性化合物1(2b20PCLマクロモノマー)の合成]
下記スキームに基づき、硬化性化合物1(2b20PCLマクロモノマー)を合成した。
まず初めに、2価の開環重合開始剤である1,4-butanediol(2.21mL、0.025mol)とε-caprolactone(CL)(105.6mL、1mol)、触媒であるTin(II)-2 ethylhexanoate 0.2mLを丸底フラスコに加え、窒素雰囲気下で120℃、24時間反応させた。
【0147】
その後、反応物をhexaneとdiethyl etherの1:1体積比の混合溶媒に再沈殿させ、減圧乾燥することによって、2分岐20量体PCL(以下、「2b20PCL」ともいう。)を得た。
【0148】
次に、回収した2b20PCL(50g、0.011mol)の末端基に対して、acryloyl chlorideを10倍量(17.7mL、0.22mol)、triethylamineを11倍量(33.2mL、0.24mol)加え、72時間反応させた。その後、methanol中に再沈殿させて精製を行い、減圧乾燥することで、2b20PCLのマクロモノマーである、硬化性化合物1(2b20PCL macromonomer)を回収した。
【0149】
【化12】
【0150】
なお、「2b20PCL」の分子量、及び、オキシアルキレンカルボニル基の繰り返し数はGPC、及び、H-NMRによって求めた。試験条件は以下のとおりである。
GPCの結果から求めた2b20PCLの数平均分子量は3700、Mw/Mnは1.23だった。
【0151】
・GPC測定条件
測定装置: (東ソー)HLC―8220GPC
検出器:示差屈折率(RI)検出器
使用カラム:「Shodex(商標)」GPC LF―804(80mmI.D.×300mm×2本)
カラム温度:40℃
溶離液:DMF、流速0.5mL/分
試料:DMFに、0.2質量%で溶解させ、0.45μmのメンブレンフィルタでろ過
分子量標準ポリマー:ポリスチレン(分子量=1970、3930、7920、12140、及び、21030)、0.1質量%
【0152】
・NMR測定条件
測定装置:400MHz NMR(JEOL社製)
溶媒:重水素化クロロホルム(CDCl
試料濃度:~30mg/mL(3mass/vol%)
基準物質:テトラメチルシラン(TMS)
測定手法:H測定 共鳴周波数400MHz
観測スペクトル幅:0ppm~10ppm
積算回数:128回
測定温度:室温(20~25℃)
【0153】
1-2.
[硬化性化合物2(4b50P(CL-co-DLLA))の合成]
下記スキームに基づき、硬化性化合物2(CLとd,l-Lactide(DLLA)からなる共重合体)の合成を行った。
まず初めに、4価の開環重合開始剤であるpentaerythritol(343mg、0.0025mol)とε-caprolactone(32mL、0.3mol)、DLLA(14.5g、0.2mol)、触媒であるTin(II)2-ethylhexanoate 0.2mLを丸底フラスコに加え、窒素雰囲気下で140℃、24時間反応させ、4分岐50量体P(CL-co-DLLA)を得た。以下では、これを「4b50P(CL-co-DLLA)」ともいう。
【0154】
その後、末端基に対して、acryloyl chlorideを10倍量、triethylamineを11倍量加え、72時間反応させた。その後、methanol中に再沈殿させて精製を行い、減圧乾燥することで,4b50P(CL-co-DLLA)のマクロモノマーである、硬化性化合物2(4b50P(CL-co-DLLA)macromonomer)を回収した。なお、下記スキーム中、m:nはモル比で6:4である。
【0155】
なお、4b50P(CL-co-DLLA)のGPCで測定した数平均分子量は9900、Mw/Mnは1.44だった。
【0156】
【化13】
【0157】
1-3.
[硬化物の調製]
硬化性化合物1と硬化性化合物2とを用いて、組成物を調製し、加熱して硬化させ、硬化物を得た。表1は、組成物の配合である。
硬化性化合物1及び2の合計で500mgと、ラジカル重合開始剤(硬化剤)としてBPO 15mg(硬化性化合物の合計に対して3質量/体積%)とをxylene 695μLで完全に溶解させて組成物を得た。
【0158】
次に、この組成物をガラス基板に滴下し、厚さ0.2mmのポリテトラフルオロエチレン製スペーサーを介してもう1枚のガラス基板で挟み、80℃のオーブン内に一晩(3時間以上)静置し、硬化させた。
得られた硬化物はアセトンで十分に洗浄後、メタノール中で収縮させた後、減圧乾燥(オーバーナイト)させた。
【0159】
[DSC測定]
得られた硬化物の結晶の融解ピーク温度、及び、結晶化度を測定するために、DSC測定を行った。DSC測定は、エスアイアイ社製、「X-DSC 7000」;熱流束型)示差走査熱量分析計を用いて行った。試験条件は下記のとおりである。
【0160】
測定容器:アルミニウム製サンプルパン(φ6.8mm)
試料量・サイズ:サンプル量は約10mgとし、上記サンプルパンに入るように切断して使用した。
【0161】
開始温度: 0℃
昇温速度: 5℃/min
終了温度: 120℃
【0162】
まず、各試料(硬化物)を室温から120℃まで加熱し、120℃に達したら、今度は-5℃まで冷却した。次に、試料の温度が-5℃に達した後、今度は5℃/minの速度で0℃~120℃まで昇温させ、このDSC曲線を取得した。
【0163】
表1には、得られたDSC曲線から読み取った結晶の融解ピーク温度(Tm)と、結晶化度が示されている。結晶化度は、吸熱ピーク面積から、エンタルピー(ΔH)を算出し、(結晶化度)=(ΔH/142)×100として計算した。
なお、それぞれの値は小数点以下2桁まで求めて、四捨五入した。
【0164】
[弾性率の測定]
弾性率は、引張試験で応力-ひずみ曲線を求め、線形部分から算出した。試験片は、長さ17.5±2.5mm、幅5.00±0.90mm、厚み0.14±0.03mmのシート状とし、試験は室温で、引張速度は5mm/分とした。なお、それぞれの値は小数点以下2桁まで求めて、四捨五入した。
【0165】
なお、弾性率の値が低いほど、同じ力を与えた際の変形量が大きくなりやすい。また、破断ひずみの値が大きいほど、より大きな変形を受けても硬化物が破断しにくい。上記のことから、より小さい弾性率と、より大きい破断ひずみを併せ持つ硬化物は、形状記憶材料としてより大きい変形率を有する。
なお、表1中「比」とあるのは、組成物中における硬化性化合物1と硬化性化合物2の含有量に対する硬化性化合物2の含有量のモル基準の比([硬化性化合物2]/[硬化性化合物1+硬化性化合物2])を表している。
【0166】
【表1】
【0167】
表1の結果から、硬化性化合物1と硬化性化合物2とを有する組成物を硬化させて得られた例1~例6の硬化物は、いずれも結晶性を有し、形状記憶材料として利用可能な変形率を有していた。なかでも、例1~例5の硬化物は、小さい弾性率と、大きい破断ひずみを有しており、形状記憶材料として大きい変形率を有していた。
【0168】
より具体的には、例3及び例4の組成物の硬化物は、例1及び例2の組成物の硬化物と比較して硬化物の結晶の融解ピーク温度(Tm)がより高く、例5の組成物の硬化物と比較して硬化物の結晶の融解ピーク温度(Tm)がより低く、その温度も37.0~45.0℃の範囲内にあり、生体内で駆動させる用途(結紮具等)により適していた。
【0169】
また、例1及び例2の組成物の硬化物は、例3の組成物の硬化物と比較して硬化物の結晶の融解ピーク温度(Tm)がより低く、また、その温度も33.0~37.0℃の範囲内にあり、生体表面で駆動させる用途(ウェアラブルデバイス、及び、縫合糸等)により適していた。
【0170】
また、結晶化度が、10.0~15.5%の範囲内にある、例1及び例2の組成物の硬化物は、例3の組成物の硬化物と比較して硬化物の結晶の融解ピーク温度(Tm)がより低く、また、その温度も33.0~37.0℃の範囲内にあり、生体表面で駆動させる用途(ウェアラブルデバイス、及び、縫合糸等)により適していた。
【0171】
また、結晶化度が、15.5%超40.0%以下の範囲内にある、例3及び例4の組成物の硬化物は、例1及び例2の組成物の硬化物と比較して硬化物の結晶の融解ピーク温度(Tm)がより高く、例5の組成物の硬化物と比較して硬化物の結晶の融解ピーク温度(Tm)がより低く、その温度も37.0~45.0℃の範囲内にあり、生体内で駆動させる用途(結紮具等)により適していた。
【0172】
2.金属ナノワイヤの合成及び分析
2-1.
[銀ナノワイヤの合成1]
下記の手順により、銀ナノワイヤを合成した。
Poly vinylpyrrolidone(PVP)(494mg、34mM)、Ethylene glycol(160mL、2.9mM)、CuCl(0.43mg、4mM)を丸底ナスフラスコに加え、AgNO(480mg、94mM)を30分かけて滴下した。
その後、1時間撹拌して、銀ナノワイヤを合成した。
【0173】
得られた銀ナノワイヤ溶液を遠心分離(3500rpm、20min)し、上澄み除去後、ethanol中に再分散させた。この操作を3回繰り返すことで銀ナノワイヤを精製し、生成物である銀ナノワイヤを回収した。
【0174】
2-2.
[銀ナノワイヤの合成2]
下記の手順により、銀ナノワイヤを合成した。
Poly vinylpyrrolidone(PVP)(900mg)、Ethylene glycol(150mL)、FeCl(0.43mg)、AgNO(600mg)を丸底ナスフラスコに加え、溶解するまで撹拌した。
溶解後、オイルバスで110℃に加熱し、24時間撹拌しないで反応させ、銀ナノワイヤを合成した。
【0175】
得られた銀ナノワイヤ溶液にAcetoneを1:1の割合で加え、遠心分離(3500rpm、15min)し、上澄み除去後、ethanol中に再分散させた。この操作を3回繰り返すことで銀ナノワイヤを精製し、生成物である銀ナノワイヤを回収した。
【0176】
2-3.
[銀ナノワイヤの分析]
上記2-1及び2-2で合成した銀ナノワイヤの熱重量測定(TG)を行った。測定条件は以下のとおりである。
【0177】
・TG測定条件
測定装置:TG/DTA6200(セイコーインスツルメンツ社製)
昇温速度:10℃/min
測定温度範囲:25~600℃
雰囲気ガス:窒素
試料重量(質量):2.3mg
【0178】
その結果、いずれの試料においても、加熱に伴って12%の重量変化(質量減少)が見られた。このことから、本実施例で合成した銀ナノワイヤは、質量比で12%のPVPで被覆されていることが確認された。
【0179】
また、走査型電子顕微鏡(日本電子社製、JCM-500 Neoscope)を用いて銀ナノワイヤのSEM観察を行った。
図2(a)及び(b)は、それぞれ、上記2-1及び2-2で合成した銀ナノワイヤのSEM像を示す図である。なお、図2(a)のスケールバーは5μmであり、図2(b)のスケールバーは20μmである。
図2(a)及び(b)に示すように、本実施例で合成した銀ナノワイヤは、高いアスペクト比を有していた。具体的には、上記2-2で合成した銀ナノワイヤは、短軸方向の長さが平均で約150nmであり、長軸方向の長さが平均で約30μmであり、アスペクト比は平均で約200と計算された。
【0180】
3.複合体の作製及び分析(その1)
3-1.
[複合体の作製1]
下記の手順により、複合体を作製した。
上記2-1で合成した銀ナノワイヤ 20mgをEthanol 4mLに分散させ、銀ナノワイヤ懸濁溶液を調製した。この銀ナノワイヤ懸濁溶液を、ガラス基板の上にキャストし、常温でEthanolを乾燥させ、銀ナノワイヤfilmを作製した。
【0181】
次に、架橋ポリマーを構成する硬化性化合物として上記1-1で合成した硬化性化合物1(2b20PCLマクロモノマー)を用いて、2b20PCLマクロモノマー 500mgと、ラジカル重合開始剤(硬化剤)としてBPO 15mg(上記マクロモノマーに対して3質量/体積%)とをxylene 695μLで完全に溶解させて組成物を調製した。この組成物を、ガラス基板上に作製した銀ナノワイヤfilmの上に滴下し、厚さ0.2mmのポリテトラフルオロエチレン製スペーサー(4cm×4cm)を介してもう1枚のガラス基板で挟み、80℃のオーブン内に一晩(3時間以上)静置し、2b20PCLマクロモノマーを硬化させて、縦3cm、幅3cm、厚み0.012cmのシート状の複合体を作製した。
【0182】
3-2.
[複合体の作製2]
下記の手順により、複合体を作製した。
開環重合開始剤として4価の開環重合開始剤であるpentaerythritolを用いること以外は上記1-1と同様の手順で合成した硬化性化合物(4分岐50量体PCL(以下、「4b50PCL」ともいう。))のマクロモノマーを用いて、4b50PCLマクロモノマー 500mgと、ラジカル重合開始剤(硬化剤)としてBPO 15mg(上記マクロモノマーに対して3質量/体積%)とをxylene 695μLで完全に溶解させて組成物を調製した。この組成物を、ガラス基板の上に滴下し、厚さ0.2mmのポリテトラフルオロエチレン製スペーサー(4cm×4cm)を介してもう1枚のガラス基板で挟み、80℃のオーブン内に一晩(3時間以上)静置し、4b50PCLマクロモノマーを硬化させて、縦3cm、幅3cm、厚み0.016cmのシート状の硬化物を作製した。
【0183】
なお、4b50PCLを用いて、上記1-3と同様に組成物を調製し、加熱して硬化させて得られた硬化物の、融解ピーク温度(Tm)は、55.3℃であり、結晶化度は、31.3%であった。
【0184】
ここで、作製した硬化物を融点以上に加熱し、引張試験機を用いて元の形状から幅方向に300%引き伸ばした状態で冷却することで、引き伸ばした形状を固定化した。
【0185】
次に、上記2-1で合成した銀ナノワイヤ 11.14mgをEthanol 1mLに分散させ、銀ナノワイヤ懸濁溶液を調製した。この銀ナノワイヤ懸濁溶液を、上記引き伸ばした形状を固定化した硬化物の一方の表面に、0.1mLずつ、均一にキャストして乾燥させるサイクルを10サイクル繰り返し、複合体を作製した。
【0186】
3-3.
[複合体の作製3]
下記の手順により、複合体を作製した。
上記2-1で合成した銀ナノワイヤ 12.8mgを、DMF 350μLに分散させ、銀ナノワイヤ懸濁溶液を調製した。
この銀ナノワイヤ懸濁溶液に、上記1-1で合成した硬化性化合物1(2b20PCLマクロモノマー)(250mg)と、ラジカル重合開始剤(硬化剤)としてBPO 7.5mg(上記マクロモノマーに対して3質量/体積%)とを完全に溶解させた。
得られた銀ナノワイヤと2b20PCLマクロモノマーとを含む溶液を、ガラス基板の上に滴下し、厚さ0.2mmのポリテトラフルオロエチレン製スペーサー(4cm×4cm)を介してもう1枚のガラス基板で挟み、80℃のオーブン内に一晩(3時間以上)静置し、2b20PCLマクロモノマーを硬化させて、縦3cm、幅3cm、厚み0.014cmのシート状の複合体を作製した。
【0187】
また、DMF中に分散させる銀ナノワイヤの量を62mg、及び、84.7mgとしたこと以外は上記と同様の手順により、複合体を作製した。
【0188】
3-4.
[複合体の作製4]
下記の手順により、複合体を作製した。
上記2-2で合成した銀ナノワイヤ 15mgをEthanol 1mLに分散させ、銀ナノワイヤ懸濁溶液を調製した。この銀ナノワイヤ懸濁溶液を、ガラス基板の上にキャストし、常温でEthanolを乾燥させ、銀ナノワイヤfilmを作製した。ここで、ガラス基板の上には予め、PDMS(ポリジメチルシロキサン)製の矩形の型枠(内寸サイズ:縦3cm、幅3cm、深さ0.37cm)を配置し、当該型枠の内側に銀ナノワイヤ懸濁溶液をキャストした。
【0189】
次に、架橋ポリマーを構成する硬化性化合物として上記1-1で合成した硬化性化合物1(2b20PCLマクロモノマー)を用いて、2b20PCLマクロモノマー 500mgと、ラジカル重合開始剤(硬化剤)としてBPO 15mg(上記マクロモノマーに対して3質量/体積%)とをxylene 695μLで完全に溶解させて組成物を調製した。この組成物を、ガラス基板上に作製した銀ナノワイヤfilmの上に滴下し、厚さ0.2mmのポリテトラフルオロエチレン製スペーサー(4cm×4cm)を介してもう1枚のガラス基板で挟み、80℃のオーブン内に一晩(3時間以上)静置し、2b20PCLマクロモノマーを硬化させて、縦3cm、幅3cm、厚み0.012cmのシート状の複合体を作製した。
【0190】
また、Ethanol中に分散させる銀ナノワイヤの量を10mg、及び、5mgとしたこと以外は上記と同様の手順により、複合体を作製した。
【0191】
3-5.
[複合体の作製5]
下記の手順により、複合体を作製した。
上記1-1で合成した硬化性化合物1(2b20PCLマクロモノマー)を用いて、2b20PCLマクロモノマー 500mgと、ラジカル重合開始剤(硬化剤)としてBPO 15mg(上記マクロモノマーに対して3質量/体積%)とをxylene 695μLで完全に溶解させて組成物を調製した。この組成物を、ガラス基板の上に滴下し、厚さ0.2mmのポリテトラフルオロエチレン製スペーサー(4cm×4cm)を介してもう1枚のガラス基板で挟み、80℃のオーブン内に一晩(3時間以上)静置し、2b20PCLマクロモノマーを硬化させて、縦3cm、幅3cm、厚み0.015cmのシート状の硬化物を作製した。
【0192】
ここで、作製した硬化物から、縦2cm、幅1cmの短冊状の試験片を切り取った。
【0193】
次に、上記2-2で合成した銀ナノワイヤ 10mgをEthanol 1mLに分散させ、銀ナノワイヤ懸濁溶液を調製した。この銀ナノワイヤ懸濁溶液を、上記硬化物から切り取った試験片の一方の表面に、0.05mL(50μL)ずつ、均一にキャストして乾燥させるサイクルを10サイクル繰り返し、複合体を作製した。
【0194】
3-6.
[複合体の作製6]
下記の手順により、複合体を作製した。
上記1-1で合成した硬化性化合物1(2b20PCLマクロモノマー)を用いて、2b20PCLマクロモノマー 500mgと、ラジカル重合開始剤(硬化剤)としてBPO 15mg(上記マクロモノマーに対して3質量/体積%)とをxylene 695μLで完全に溶解させて組成物を調製した。この組成物を、ガラス基板の上に滴下し、厚さ0.2mmのポリテトラフルオロエチレン製スペーサー(4cm×4cm)を介してもう1枚のガラス基板で挟み、80℃のオーブン内に一晩(3時間以上)静置し、2b20PCLマクロモノマーを硬化させて、縦3cm、幅3cm、厚み0.015cmのシート状の硬化物を作製した。
【0195】
ここで、作製した硬化物から、縦2cm、幅1cmの短冊状の試験片を切り取り、融点以上に加熱し、引張試験機を用いて元の形状から縦方向に100%引き伸ばした状態で冷却することで、引き伸ばした形状を固定化した。
【0196】
次に、上記2-2で合成した銀ナノワイヤ 10mgをEthanol 1mLに分散させ、銀ナノワイヤ懸濁溶液を調製した。この銀ナノワイヤ懸濁溶液を、上記引き伸ばした形状を固定化した試験片の一方の表面に、0.05mL(50μL)ずつ、均一にキャストして乾燥させるサイクルを10サイクル繰り返し、複合体を作製した。
【0197】
〔複合体の作製手順について〕
ここで、上記3-1~3-6における、複合体の作製手順は、概略以下の三通りに分類することができる。
・作製手順A:支持体上に作製した金属ナノワイヤの成形体に、硬化性化合物を含む組成物を適用した後、エネルギーを付与して硬化性化合物を硬化させる。
・作製手順B:硬化性化合物を含む組成物を支持体上に適用し、エネルギーを付与して硬化性化合物を硬化させて作製した硬化物に、金属ナノワイヤの懸濁溶液を適用する。
・作製手順C:金属ナノワイヤと硬化物化合物を含む混合溶液を支持体上に適用した後、エネルギーを付与して硬化性化合物を硬化させる。
【0198】
なお、後述する表2~表5では、便宜的に、上記作製手順の記号A~Cを用いて、各例の複合体の作製手順を示している。また、以下でも同様に、上記作製手順の記号A~Cを用いて、各例の複合体の作製手順に言及することがある点に留意されたい。
【0199】
3-7.
[複合体の分析]
〔TG測定1〕
上記3-1及び3-3で作製した複合体の熱重量測定(TG)を行い、各複合体中の銀ナノワイヤの含有率を算出した。結果を表2に示す。
なお、測定条件は以下のとおりである。
【0200】
・TG測定条件
測定装置:TG/DTA6200(セイコーインスツルメンツ社製)
昇温速度:10℃/min
測定温度範囲:25~600℃
雰囲気ガス:窒素
試料重量(質量):5.3mg(n=3)
【0201】
〔電流印加による駆動試験1〕
また、上記3-1~3-3で作製した複合体から、縦3cm、幅0.5cmの短冊状の試験片を切り取り、融点以上に加熱し、引張試験機で縦方向に100%引き伸ばした状態で冷却することで、引き伸ばした形状を固定化した。その状態で、各試験片の縦方向の両端にワニ口クリップを挟み、電圧を印加して、元の形状への回復の有無を確認した。結果を表2に示す。
【0202】
【表2】
【0203】
表2に示した結果から、作製手順Cの場合には、電流の印加により駆動可能な複合体を得ることは困難であることが示唆された。より具体的には、作製手順Cの場合、作製手順Aよりも、銀ナノワイヤの含有率が高い複合体が得られているが、駆動試験において元の形状への回復は見られなかった。
一方、作製手順A及びBで得られた複合体では、駆動試験において元の形状への回復が見られた。特に、作製手順Aで得られた複合体(3-1の複合体)は、0.88Vの電圧印加(印加電流0.12A)により、少なくとも3回の変形と回復の繰り返しが可能であった。
【0204】
このことは、本発明の複合体の作製においては、架橋ポリマーが有する架橋構造の形成と、金属ナノワイヤのネットワーク構造の形成とは、同時進行的ではなく、時間差を有していることが好ましいことを示唆している。また、なかでも、作製手順Aのように、ネットワーク構造が形成された金属ナノワイヤの成形体に、架橋ポリマーを構成する硬化性化合物を含む組成物を適用した後、エネルギーを付与して硬化性化合物を硬化させることで、金属ナノワイヤが、電流の印加による局所的な加熱により複合体を駆動可能な程度に分散した状態で、架橋ポリマーに組み込まれやすいと考えられる。言い換えると、本発明の複合体がシート状の形状を有する態様では、少なくとも架橋ポリマーの一方の面に対して金属ナノワイヤが組み込まれていれば、電流の印加による局所的な加熱により複合体を駆動させることができ、架橋ポリマーの全体に渡って金属ナノワイヤが組み込まれていることは必須の要件ではないと考えられる。
【0205】
加えて、作製手順Aを適用した上記3-1では、硬化性化合物を硬化させる際、上記組成物が適用された銀ナノワイヤfilmはガラス基板で挟まれた状態であるため、一定の圧力が加わることで、架橋ポリマーの架橋構造への金属ナノワイヤの組み込みがより効率的に進行していると考えられる。
【0206】
図3(a)及び(b)は、それぞれ、上記3-1で作製した複合体の表面(銀ナノワイヤが組み込まれた面)及び断面のSEM像を示す図である。なお、図3(a)のスケールバーは50μmであり、図3(b)のスケールバーは200μmである。
図3(a)及び(b)に示すように、3-1の複合体において、金属ナノワイヤが、電流の印加による局所的な加熱により複合体を駆動可能な程度に分散した状態で、架橋ポリマーに組み込まれていることが確認された。
【0207】
ここで、上記3-1で作製した複合体から、縦3cm、幅0.5cmの短冊状の試験片を切り取り、DC電源(REGULATED DC POWER SUPPLY LX010-3.5 B TAKASAGO)を用いて、試験片の縦方向の両端にワニ口クリップを挟み、電力と温度の関係性を調査した。具体的な試験条件として、電流値を0.5Aずつ上昇させ、15秒間その電力を保持した状態で、その時の温度をプロットした。温度範囲としては、25~130℃の範囲で試験を行った。
【0208】
結果を図4に示す。
図4は、上記3-1で作製した複合体における、電力(W)と温度(℃)の関係性を示すグラフである。
図4に示すように、3-1の複合体では、電力の増加(電流値の上昇)に伴って温度が上昇し、温度が約130℃を超えると、架橋ポリマーの構造が損なわれることが確認された。この結果から、複合体に供給する電力(印加電流)を調節することによって、複合体の温度を制御することができることが分かった。
【0209】
一方、作製手順Bで得られた複合体(3-2の複合体)は、作製手順Aで得られた複合体(3-1の複合体)よりも高い電圧(8V)の印加により発熱挙動を示し、元の形状への回復が見られた。このことから、作製手順Bのように、架橋構造が形成された架橋ポリマーに対して金属ナノワイヤ(の懸濁溶液)を適用することでも、複合体において、電流の印加による局所的な加熱により複合体を駆動可能な程度に金属ナノワイヤを分散させることは可能であり得ると言える。しかしながら、後述するように、作製手順Bで得られる複合体においては、構造的な安定性に関する課題が存在し得る。
【0210】
〔安定性試験1:パーマネント形状での安定性〕
次に、上記3-3~3-5で作製した複合体を用いて、パーマネント形状での構造的な安定性を試験した。
なお、3-3及び3-4の複合体に関しては、それぞれ、熱重量測定(TG)によって算出された銀ナノワイヤの含有率が26.7%のもの(表2参照)、及び、17.3±2.5%のもの(後述する表4参照)のものを用い、3-5の複合体と同じサイズの、縦2cm、幅1cmの短冊状の試験片を切り取って、本試験に供した。試験手順は以下のとおりである。
【0211】
上記3種類の試験片を、それぞれ、銀ナノワイヤの良溶媒であるエタノール 5mLを収容した10mLサンプル管に浸漬させた。このとき、いずれの試験片も、目視観察において特段変化は見られなかった。
次に、各サンプル管を振動させて撹拌を生じさせたところ、目視観察において、3-3及び3-4の複合体の試験片では特段変化は見られなかったが、3-5の複合体の試験片では、銀ナノワイヤの脱離が見られた。
更に、超音波洗浄器(US-105、エスエヌディ社製)を用いて各サンプル管を1分間超音波処理に供した結果、目視観察において、3-3及び3-4の複合体の試験片では特段変化は見られなかったが、3-5の複合体の試験片では、脱離した銀ナノワイヤに起因する溶媒の懸濁が生じた。
以上の結果を表3に示す。
【0212】
ここで、上述した安定性試験1に供する前後の試験片の重量変化について説明する。
目視観察において銀ナノワイヤの脱離が見られなかった3-3及び3-4の複合体の試験片では、試験前と試験後で、約0.2~約0.5mgの重量の増加が見られた。これは、試験溶媒であるエタノールの部分的な残留に伴うものであると考えられる。
一方、目視観察において明らかな銀ナノワイヤの脱離が見られた3-5の複合体の試験片では、試験前と試験後で、約3mgの重量の減少が見られ、試験後の試験片の重量は、上記3-5の作製手順における、硬化物から試験片を切り取った後の重量とほぼ一致していた。すなわち、3-5の複合体の試験片では、上記安定性試験1により、複合体を構成していた銀ナノワイヤのほぼ全てが架橋ポリマーから脱離したと考えられる。実際に、試験後の試験片の外観は、銀ナノワイヤによる金属光沢を有さず、2b20PCLマクロモノマーの硬化物のパーマネント形状と同様の性状であった。
【0213】
〔安定性試験2:テンポラリー形状での安定性〕
次に、上記3-3、3-4、及び、3-6で作製した複合体を用いて、テンポラリー形状での構造的な安定性を試験した。
なお、3-3及び3-4の複合体に関しては、上記安定性試験1で用いたのと同じ銀ナノワイヤの含有率を有する試料を用い、3-6の複合体と同じサイズの、縦2cm、幅1cmの短冊状の試験片を切り取り、融点以上に加熱し、引張試験機を用いて元の形状から縦方向に100%引き伸ばした状態で冷却することで、引き伸ばした形状を固定化した状態で、本試験に供した。
【0214】
試験手順は、上述した安定性試験1と同様であるので、詳細な説明は省略する。
また、試験結果も、上述した安定性試験1と同様であった。具体的には、上記3種類の試験片を、それぞれ、銀ナノワイヤの良溶媒であるエタノール 5mLを収容した10mLサンプル管に浸漬させたときには、いずれの試験片も、目視観察において特段変化は見られなかった。
次に、各サンプル管を振動させて撹拌を生じさせたところ、目視観察において、3-3及び3-4の複合体の試験片では特段変化は見られなかったが、3-6の複合体の試験片では、銀ナノワイヤの脱離が見られた。
更に、超音波洗浄器(US-105、エスエヌディ社製)を用いて各サンプル管を1分間超音波処理に供した結果、目視観察において、3-3及び3-4の複合体の試験片では特段変化は見られなかったが、3-6の複合体の試験片では、脱離した銀ナノワイヤに起因する溶媒の懸濁が生じた。
以上の結果を表3に示す。
【0215】
ここで、上述した安定性試験2に供する前後の試験片の重量変化についても、上記安定性試験1と同様の傾向が見られた。具体的には、目視観察において銀ナノワイヤの脱離が見られなかった3-3及び3-4の複合体の試験片では、試験前と試験後で、約0.1~約0.6mgの重量の増加が見られた。これは、試験溶媒であるエタノールの部分的な残留に伴うものであると考えられる。
一方、目視観察において明らかな銀ナノワイヤの脱離が見られた3-6の複合体の試験片では、試験前と試験後で、約1.3mgの重量の減少が見られ、試験後の試験片の重量は、上記3-6の作製手順における、硬化物から試験片を切り取った後の重量とほぼ一致していた。すなわち、3-6の複合体の試験片では、上記安定性試験2により、複合体を構成していた銀ナノワイヤのほぼ全てが架橋ポリマーから脱離したと考えられる。実際に、試験後の試験片の外観は、銀ナノワイヤによる金属光沢を有さず、2b20PCLマクロモノマーの硬化物のテンポラリー形状と同様の性状であった。
【0216】
【表3】
【0217】
〔TG測定2〕
次に、上記3-4で作製した複合体の熱重量測定(TG)を行い、各複合体中の銀ナノワイヤの含有率を算出した。結果を表4に示す。
なお、測定条件は以下のとおりである。
【0218】
・TG測定条件
測定装置:TG/DTA6200(セイコーインスツルメンツ社製)
昇温速度:10℃/min
測定温度範囲:25~550℃
雰囲気ガス:窒素
試料重量(質量):3mg(n=2)
【0219】
〔電流印加による駆動試験2〕
また、上記3-4で作製した複合体から、縦3cm、幅0.5cmの短冊状の試験片を切り取り、融点以上に加熱し、引張試験機で縦方向に100%引き伸ばした状態で冷却することで、引き伸ばした形状を固定化した。その状態で、各試験片の縦方向の両端にワニ口クリップを挟み、電圧を印加して、元の形状への回復の有無を確認した。結果を表4に示す。
【0220】
【表4】
【0221】
表4に示した結果から、作製手順Aの場合でも、電流の印加により駆動可能な複合体を得るためには、一定量以上の銀ナノワイヤが必要であることが示唆された。言い換えると、作製手順Aで得られる複合体では、複合体中の銀ナノワイヤの含有率が一定の値以上であれば、電流の印加により駆動可能な複合体となることが示唆された。これら、作製手順として必要な金属ナノワイヤの量、及び、複合体中の金属ナノワイヤの含有率は、目的の複合体の形状及びサイズ等にもよるものと考えられるが、上記3-4で用いたPDMS製の型枠の内寸サイズ、より具体的には、縦3cm×幅3cmの面積(9cm)に対しては、少なくとも、5mgを超える量の金属ナノワイヤ(銀ナノワイヤ)を使用することで、銀ナノワイヤが、電流の印加による局所的な加熱により複合体を駆動可能な程度に分散した状態のネットワーク構造が形成され得ると言える。また、そのようにして形成されたネットワーク構造を有する金属ナノワイヤ(銀ナノワイヤ)が架橋ポリマーの架橋構造に組み込まれた複合体においては、銀ナノワイヤの含有率は、約5%以上、好ましくは10%以上であり得ると言える。
【0222】
図5(a)~(f)は、上記3-4で作製した3種類の複合体の、パーマネント形状(変形前)及びテンポラリー形状(変形後)での、表面のSEM像を示す図である。
図5(a)~(c)は、それぞれ、5mg、10mg、15mgの銀ナノワイヤを使用して作製した複合体の、パーマネント形状(変形前)での、表面(銀ナノワイヤが組み込まれた面)のSEM像を示す図である。
図5(d)~(f)は、それぞれ、5mg、10mg、15mgの銀ナノワイヤを使用して作製した複合体の、テンポラリー形状(変形後)での、表面(銀ナノワイヤが組み込まれた面)のSEM像を示す図である。
なお、図5(a)、(c)、(d)及び(e)のスケールバーは10μmであり、図5(b)のスケールバーは20μmであり、図5(f)のスケールバーは5μmである。
【0223】
図5(a)~(c)に示すように、パーマネント形状(変形前)においては、銀ナノワイヤの含有率が異なる(複合体の作製時に使用した銀ナノワイヤの量が異なる)3種類の複合体の間で、銀ナノワイヤの分散状態に目立った違いは見られなかった。
一方、図5(d)~(f)に示すように、テンポラリー形状(変形後)においては、図5(e)及び(f)に比べて、図5(d)のSEM像における銀ナノワイヤの分散状態(銀ナノワイヤ同士の重なりの程度)が少なくなっている様子が見られた。
【0224】
これらの結果から、本発明の複合体が電流の印加により駆動するためには、パーマネント形状のみならず、所望の変形状態(テンポラリー形状)においても、金属ナノワイヤのネットワーク構造が一定程度保持されていることが必要であること、また、それにより、電流の印加による局所的な加熱により複合体が駆動可能であり得ることが示唆された。
【0225】
〔導電性試験〕
次に、上記3-4で作製した複合体から、縦2cm、幅0.5cmの短冊状の試験片を切り取り、試験片の縦方向の両端にワニ口クリップを挟み、ソースメータ(2400 SourceMeter、KEITHLEY社製)を用いて電気抵抗を測定した。
また、各試験片を融点以上に加熱し、引張試験機で縦方向に100%引き伸ばした状態で冷却することで、引き伸ばした形状を固定化し、同様に電気抵抗を測定した。
更に、引き伸ばした形状を固定化した試験片を加熱して形状を回復させ、同様に電気抵抗を測定した。なお、ここでは、形状回復時の電気抵抗の測定を意図しているため、「加熱」は、電流の印加による加熱ではない点に留意されたい。
結果を表5に示す。
【0226】
また、比較のために、上記3-3、3-5及び3-6で作製した複合体についても、上記と同様の試験片を切り取り、同様の手順で電気抵抗を測定した。なお、3-3の複合体としては、熱重量測定(TG)によって銀ナノワイヤの含有率が26.7%と算出された複合体を用いたが、これを重さ換算すると、18.2mgとなる。
結果を表5に示す。
【0227】
【表5】
【0228】
なお、表5における、3-5及び3-6の複合体の銀ナノワイヤの含有率の値は、上述した安定性試験1及び2の結果、並びに、上記2-3で説明した銀ナノワイヤの熱重量測定(TG)によって確認されたPVPの含有率(被覆率)に基づいて算出された、見積値である。
【0229】
表5に示すように、3-4の複合体のうち、電流の印加による形状回復が見られなかった複合体(表4参照)では、加熱による形状回復時の電気抵抗が1.3±0.18(×10)(Ω)であったことから、少なくとも、所定の変形形状(テンポラリー形状)から形状が回復したパーマネント形状での複合体の電気抵抗としては、1.0×10Ω以下を満たすことが好ましいことが示唆された。
また、テンポラリー形状では、複合体が引き伸ばされることによって金属ナノワイヤのネットワーク構造も引き伸ばされるため、複合体の電気抵抗は、パーマネント形状での値よりも大きくなるが、1.0×10Ω以下を満たせば、電流の印加による駆動が可能であることが示唆された。
加えて、複合体中の金属ナノワイヤの含有率が同程度であっても、初回の変形前であるパーマネント形状、及び、テンポラリー形状から回復した後のパーマネント形状での電気抵抗の値に差が生じ得ることが分かった。このことは、本発明の複合体において、架橋ポリマーの架橋構造に組み込まれた金属ナノワイヤのネットワーク構造の性状(金属ナノワイヤの分散状態)が、電流の印加による駆動と関連しており、金属ナノワイヤの含有率として概ね5%以上25%以下、より好ましくは10%以上25%以下の範囲内であれば、電流の印加による局所的な加熱により複合体を駆動可能な程度に分散した状態とすることができると考えられる。もちろん、上述したように、複合体の用途によっては、金属ナノワイヤの含有率として25%を超えていてもよく、表5の結果は、それを否定するものでもない。
【0230】
これに対して、3-3の複合体では、試験片の抵抗が高すぎて、上記試験によって電気抵抗の値を測定することができなかった。表5では、これを「N.D.」として示している。
3-5及び3-6の複合体では、複合体を作製した後の状態において、電気抵抗の値を測定することができた。なお、3-6の複合体は、複合体の作製の際に、架橋ポリマーを構成する硬化性化合物1の硬化物を引き伸ばした状態で銀ナノワイヤ懸濁溶液を適用しているため、表5における「変形前」に相当する試験結果は存在せず、「変形時」の結果が、上述した内容に対応する。このことから、作製手順Bによって得られる複合体では、金属ナノワイヤは、少なくとも電気抵抗を測定可能な程度に分散した状態であり得ると言える。
しかしながら、3-5の複合体では、試験片の形状を変化させると(表5の「変形時」において)、架橋ポリマーの層から銀ナノワイヤの層が剥離する(部分的に脱離する)様子が確認され、電気抵抗の値を測定することができなかった。表5では、これを「N.D.」として示している。そのため、3-5の複合体については、加熱による形状回復時の電気抵抗の値は測定せず、試験終了とした。
また、3-6の複合体でも、3-5の複合体と同様に、試験片の形状を変化させると(表5の「回復時」において)、架橋ポリマーの層から銀ナノワイヤの層が剥離する(部分的に脱離する)様子が確認され、電気抵抗の値を測定することができなかった。表5では、これを「N.D.」として示している。
これらの結果、及び、上述した安定性試験1及び2の結果から、複合体の作製手順の観点において、作製手順Aの優位性が示唆された。
【0231】
4.複合体の作製及び分析(その2)
4-1.
[複合体の作製]
上記作製手順Aにより、複合体を作製した。
具体的には、上記2-2で合成した銀ナノワイヤ 10mgをEthanol 1mLに分散させ、銀ナノワイヤ懸濁溶液(A)を調製した。この銀ナノワイヤ懸濁溶液(A)を、ガラス基板の上にキャストし、常温でEthanolを乾燥させ、銀ナノワイヤfilmを作製した。ここで、ガラス基板の上には予め、PDMS製の矩形の型枠(内寸サイズ:縦3cm、幅3cm、深さ0.37cm)を配置し、当該型枠の内側に銀ナノワイヤ懸濁溶液(A)をキャストした。
【0232】
次に、架橋ポリマーを構成する硬化性化合物として上記1-1で合成した硬化性化合物1(2b20PCLマクロモノマー)を用いて、2b20PCLマクロモノマー 500mgと、ラジカル重合開始剤(硬化剤)としてBPO 15mg(上記マクロモノマーに対して3質量/体積%)とをxylene 695μLで完全に溶解させて組成物を調製した。この組成物を、ガラス基板上に作製した銀ナノワイヤfilmの上に滴下し、厚さ0.5mmのポリテトラフルオロエチレン製スペーサー(4cm×4cm)を介してもう1枚のガラス基板で挟み、80℃のオーブン内に一晩(3時間以上)静置し、2b20PCLマクロモノマーを硬化させて、縦3cm、幅3cm、厚み0.031cmのシート状の複合体を作製した。
【0233】
ここで、本作製例では、上記2-2で合成した銀ナノワイヤ 20mgをEthanol 1mLに分散させた銀ナノワイヤ懸濁溶液(B)も調製し、ガラス基板上にキャストする溶液の種類及び量(キャストする回数)を4通りに設定することで、銀ナノワイヤfilm中の銀ナノワイヤの含有量、すなわち、複合体中の銀ナノワイヤの含有量が10mg、20mg、30mg、及び50mgである計4種類の複合体を作製した。具体的には、銀ナノワイヤの含有量が10mg及び20mgである複合体の作製には、銀ナノワイヤ懸濁溶液(A)を用い、銀ナノワイヤの含有量が30mg及び50mgである複合体の作製には、銀ナノワイヤ懸濁溶液(B)を用いた。以下では、これらの複合体を、「複合体4(10)」、「複合体4(20)」、「複合体4(30)」、及び「複合体4(50)」とも称することとする。なお、銀ナノワイヤfilm中の銀ナノワイヤの含有量が多いほど、ガラス基板上に作製される銀ナノワイヤfilmの厚さは厚くなるが、最終的に得られたシート状の複合体のサイズは、いずれも縦3cm、幅3cm、厚み0.031cmであった。
【0234】
4-2.
[複合体の分析]
〔DSC測定〕
複合体4(10)、複合体4(20)、複合体4(30)、及び複合体4(50)のDSC測定を行った。DSC測定は、エスアイアイ社製、「X-DSC 7000」;熱流束型)示差走査熱量分析計を用いて行った。試験条件は下記のとおりである。
【0235】
測定容器:アルミニウム製サンプルパン(φ6.8mm)
試料量・サイズ:サンプル量は約10mgとし、上記サンプルパンに入るように切断して使用した。
【0236】
開始温度: 0℃
昇温速度: 5℃/min
終了温度: 120℃
【0237】
まず、各試料(複合体)を室温から120℃まで加熱し、120℃に達したら、今度は-5℃まで冷却した。次に、試料の温度が-5℃に達した後、今度は5℃/minの速度で0℃~120℃まで昇温させ、このDSC曲線を取得した。
【0238】
図6は、複合体4(10)、複合体4(20)、複合体4(30)、及び複合体4(50)のDSC曲線を示す図である。
図6に示すように、いずれの複合体の試料も、実質的に同一の温度帯にDSC曲線における吸熱ピーク及び発熱ピークが確認された。また、図6には示していないが、銀ナノワイヤを含まないこと以外は上記4-1に記載したのと同じ条件で作製した硬化性化合物1(2b20PCLマクロモノマー)の硬化物(銀ナノワイヤが組み込まれていない架橋ポリマー)のDSC曲線においても、上記複合体のDSC曲線と実質的に同一の温度帯に吸熱ピーク及び発熱ピークが確認された。これらの結果から、本作製例の複合体の作製手順(上記作製手順A)では、銀ナノワイヤが硬化性化合物の硬化物(架橋ポリマー)に組み込まれることによって、複合体に含まれる架橋ポリマーの融点や結晶化度には実質的に影響を及ぼさないことが分かった。言い換えると、本作製例の複合体において、銀ナノワイヤは、架橋ポリマーの特性を維持し得る態様で、架橋ポリマーに組み込まれていることが分かった。
【0239】
なお、上記3-1で作製した複合体について図3(a)及び(b)を参照して説明したのと同様に、複合体4(10)、複合体4(20)、複合体4(30)、及び複合体4(50)の表面(銀ナノワイヤが組み込まれた面)及び断面のSEM像から、いずれの複合体においても、銀ナノワイヤが、電流の印加による局所的な加熱により複合体を駆動可能な程度に分散した状態で、架橋ポリマーに組み込まれていることが確認された。
【0240】
〔TG測定〕
次に、複合体4(10)、複合体4(20)、複合体4(30)、及び複合体4(50)の熱重量測定(TG)を行った。
なお、測定条件は以下のとおりである。
【0241】
・TG測定条件
測定装置:TG/DTA6200(セイコーインスツルメンツ社製)
昇温速度:10℃/min
測定温度範囲:25~550℃
雰囲気ガス:窒素
試料重量(質量):3mg(n=2)
【0242】
図7は、複合体4(10)、複合体4(20)、複合体4(30)、及び複合体4(50)のTG曲線を示す図である。
図7に示すように、いずれの複合体の試料においても、加熱に伴って一定の重量変化(質量減少)が見られ、銀ナノワイヤの含有量が多いほど、質量減少の割合(%)が高かった。これらの結果から、本作製例の複合体の作製手順(上記作製手順A)では、支持体上に金属ナノワイヤの成形体を作製する際に、一定の濃度を有する金属ナノワイヤの懸濁溶液の適用量(支持体へのキャスト量)を調節することによって、複合体中の金属ナノワイヤの含有量を制御することができることが分かった。
【0243】
なお、図7に示すTG曲線から、複合体4(10)、複合体4(20)、複合体4(30)、及び複合体4(50)中の銀ナノワイヤの含有率は、それぞれ、5.67%、10.42%、22.43%、及び31.35%と算出された。
【0244】
〔安定性試験〕
次に、複合体4(10)、複合体4(20)、複合体4(30)、及び複合体4(50)を用いて、上記3-3~3-6で作製した複合体を用いたのと同様の試験条件及び試験手順で、パーマネント形状及びテンポラリー形状での構造的な安定性を試験した。
【0245】
その結果、いずれの複合体の試験片でも、目視観察において特段の変化は見られず、パーマネント形状及びテンポラリー形状での構造的な安定性が確認された。
【0246】
〔導電性試験〕
次に、複合体4(10)、複合体4(20)、複合体4(30)、及び複合体4(50)から、縦3cm、幅0.5cmの短冊状の試験片を切り取り、試験片の縦方向の両端にワニ口クリップを挟み、ソースメータ(2400 SourceMeter、KEITHLEY社製)を用いて電気抵抗を測定した。
また、各試験片を融点以上に加熱し、引張試験機で縦方向に100%引き伸ばした状態で冷却することで、引き伸ばした形状を固定化し、同様に電気抵抗を測定した。
さらに、各試験片について、引張試験機で引き伸ばす割合を200%、300%とした場合についても同様に電気抵抗を測定した。
【0247】
その結果、いずれの複合体から取得した試験片でも、パーマネント形状及びテンポラリー形状において、電気抵抗を測定可能な程度の導電性を有することが確認された。
加えて、複合体に含まれる銀ナノワイヤの含有量が多い(含有率が高い)試料ほど、引張試験機で引き伸ばす割合が100%、200%、300%と高くなったときの電気抵抗の変化(上昇)が小さいことが分かった。
これらの結果から、形状記憶材料としてより大きい変形率での使用が意図される場合には、複合体の金属ナノワイヤの含有率をより高い値に設定することが有効であることが示唆された。
【0248】
〔電流印加による駆動試験1〕
次に、複合体4(10)、複合体4(20)、複合体4(30)、及び複合体4(50)から、縦3cm、幅0.5cmの短冊状の試験片を切り取り、融点以上に加熱し、引張試験機で縦方向に300%引き伸ばした状態で冷却することで、引き伸ばした形状を固定化した。その状態で、各試験片の縦方向の両端にワニ口クリップを挟み、2.0Vの電圧を印加して、元の形状への回復の様子を確認した。
【0249】
その結果、いずれの試料から取得した試験片でも、300%引き伸ばした状態(テンポラリー形状)を、効率的に保持できること(固定化率>99%)に加えて、元の形状(パーマネント形状)への回復性能にも優れていること(回復率>90%)ことが分かった。
【0250】
〔電流印加による駆動試験2〕
次に、上記駆動試験1と同様の試験片を用いて、縦方向への300%引き伸ばしと、2.0Vの電圧印加による元の形状への回復のサイクルを計20サイクル繰り返し、各サイクルにおける試験片に生じた応力と、各サイクル後(パーマネント形状への回復後)の電気抵抗を測定した。
【0251】
図8(a)~(d)は、それぞれ、複合体4(10)、複合体4(20)、複合体4(30)、及び複合体4(50)から取得した試験片について、各サイクルにおける試験片に生じた応力(MPa)を、試験時間(s)との関係で示したグラフである。
図8(a)~(d)に示すように、いずれの複合体から取得した試験片でも、縦方向への300%引き伸ばしを20回繰り返したときの応力値はほぼ一定であることが確認された。このことは、いずれの複合体も、300%という大きい変形率の条件下で、電流の印加による少なくとも20回の変形と回復の繰り返しに対して力学的(構造的)に安定であることを意味している。
さらに、各試験片における、1サイクル後の電気抵抗と20サイクル後の電気抵抗の値はほぼ同等であり、いずれの複合体も、上記条件での変形と回復の繰り返しに対する力学的(構造的)な安定性に加えて、電気的にも安定であることが確認された。
加えて、2.0Vという低い電圧で300%の変形と回復の繰り返しが可能な材料は、従来の温度応答性の形状記憶材料との対比において突出した成果であり、本発明者らによって初めて実証されたものである。
【0252】
〔電流印加による駆動試験3〕
次に、市販のワイヤレス給電装置を用いた非接触給電による、複合体の駆動試験を行った。具体的には、ワイヤレス電力給電実験キット(CQ出版社製、Tech Villageセレクト・シリーズ)を用いて、送電コイルと受電コイルとを有する電磁誘導方式のワイヤレス給電装置を組み立てた。
上記駆動試験1と同様の試験片を用いて、各試験片を融点以上に加熱し、引張試験機で縦方向に300%引き伸ばした状態で冷却することで、引き伸ばした形状を固定化した。その状態で、各試験片の縦方向の両端にワニ口クリップを挟み、送電コイルと受電コイルを十分に近づけ、送電コイルに交流電流を流すことで、受電コイルの中に磁束を発生させ、受電コイルにも電流が流れる状態として、元の形状への回復の様子を確認した。
【0253】
その結果、いずれの複合体から取得した試験片でも、300%引き伸ばした状態(テンポラリー形状)から元の形状(パーマネント形状)への回復が確認され、ワイヤレス給電方式による駆動が可能であることが分かった。
【0254】
〔抗菌性試験〕
次に、複合体4(10)、複合体4(20)、複合体4(30)、及び複合体4(50)を用いて、下記の手順により、簡易の抗菌性試験を行った。
【0255】
・寒天培地の作製
1Lビーカーに、ハイポリペプトン 10mg、酵母抽出物 2g、MgSO・7HO 1g、Agar 15g、蒸留水 1Lを加え、撹拌した。その後、120℃に設定したオートクレーブにビーカーを20分間収容することで溶質を溶解させ、かつ、溶液を滅菌した。ビーカーを取り出し、得られた溶液を90mmのディッシュに20mL注いだ後、冷却して寒天培地を作製した。
【0256】
・試験1(パーマネント形状での試験)
作製した寒天培地の上に、黄色ブドウ球菌(1.0×10 CFU/mL)を塗った。
検体として、各複合体から直径1cmの円形状の試験片を切り取り、エチレンオキサイドガス(EOG)により滅菌した後、銀ナノワイヤが組み込まれた面(複合体作製時に銀ナノワイヤfilmが位置していた側の面)が寒天培地に接触するように置いた。その後、30℃に設定したインキュベーター内で2日間インキュベートし、発育阻止帯(ハロー)の有無及び幅を評価した。なお、対照として、銀ナノワイヤを含まないこと以外は上記4-1に記載したのと同じ条件で作製した硬化性化合物1(2b20PCLマクロモノマー)の硬化物(銀ナノワイヤが組み込まれていない架橋ポリマー)を用いて、同様の試験を行った。
【0257】
その結果、対照の架橋ポリマーではハローは見られなかったのに対して、複合体4(10)、複合体4(20)、複合体4(30)、及び複合体4(50)から取得した試験片(検体)では、複合体に含まれる銀ナノワイヤの含有量が多い(含有率が高い)ほど、より多くのハローが見られた。より詳細には、複合体4(20)では、複合体4(10)に比べて明らかにハローの数の増加が見られ、複合体4(30)では、複合体4(20)よりも試験片の広い範囲にわたってより多くのハローが見られ、さらに、複合体4(50)では、試験片の全体にわたってさらにより多くのハローが見られた。加えて、複合体4(50)では、個々のハローの幅も大きい傾向が見られた。
【0258】
・試験2(テンポラリー形状での試験)
上記の方法で作製した寒天培地に黄色ブドウ球菌(1.0×10 CFU/mL)を塗った。
検体として、複合体4(50)を一定方向に300%引き伸ばした状態で冷却し、引き伸ばした形状を固定化したものから縦1cm、幅0.5cmの短冊状の試験片を切り取り、EOGにより滅菌した後、銀ナノワイヤが組み込まれた面(複合体作製時に銀ナノワイヤfilmが位置していた側の面)が寒天培地に接触するように置いた。その後、30℃に設定したインキュベーター内で2日間インキュベートし、ハローの有無及び幅を評価した。なお、ここでも、対照として、上述した架橋ポリマーを用いて同様の試験を行った。
【0259】
その結果、対照の架橋ポリマーでは、上述した試験1(パーマネント形状での試験)と同様に、テンポラリー形状でもハローは見られなかったのに対して、複合体4(50)から取得した試験片(検体)では、テンポラリー形状においても、試験1のパーマネント形状の場合とほぼ同程度の数及び幅のハローが試験片全体にわたって見られた。これらの結果から、本発明の複合体は、パーマネント形状及びテンポラリー形状のいずれにおいても、金属ナノワイヤが元々有する特性(金属ナノワイヤが銀ナノワイヤである場合には、当該特性は抗菌性であり得る。)を効果的に発揮することができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0260】
本発明の複合体は、形状記憶能を有し、電流の印加による局所的な加熱により駆動可能な形状記憶部材に適用できる。そのため、従来の温度応答性の形状記憶材料に比べて、より広範な用途に適用することができる。具体的には、例えば、架橋ポリマーの融解ピーク温度を、生体表面温度及び/又は生体内温度を考慮して調整することによって、従来の温度応答性の形状記憶材料では困難であった生体への適用が可能となり、電気駆動型の形状記憶部材として、低侵襲医療デバイス等への応用が期待される。
【符号の説明】
【0261】
100 複合体
110 架橋ポリマー
120 金属ナノワイヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8