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特許7602252アゾベンゼン構造を有する化合物、ベシクル及びベシクルの構造制御方法
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  • 特許-アゾベンゼン構造を有する化合物、ベシクル及びベシクルの構造制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】アゾベンゼン構造を有する化合物、ベシクル及びベシクルの構造制御方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 245/04 20060101AFI20241211BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20241211BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20241211BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
C07D245/04 CSP
A61K9/127
A61K47/22
A61K47/24
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021077870
(22)【出願日】2021-04-30
(65)【公開番号】P2022171296
(43)【公開日】2022-11-11
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村岡 貴博
(72)【発明者】
【氏名】内田 紀之
(72)【発明者】
【氏名】笠 勇之介
【審査官】一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-178689(JP,A)
【文献】Pascal Lentes et al.,Photoswitching of Diazocines in Aqueous Media,J. Org. Chem.,2021年02月19日,Vol.86,pp.4355-4360
【文献】Martin S. Maier et al.,Oxidative Approach Enables Efficient Access to Cyclic Azobenzenes,J. Am. Chem. Soc.,2019年,Vol.141,pp. 17295-17304
【文献】Cuihua Hu et al.,Cucurbit[8]uril-Based Giant Supramolecular Vesicles: Highly Stable, Versatile Carriers for Photoresponsive and Targeted Drug Delivery,ACS Appl. Mater. Interfaces,2018年,Vol.10,pp.4603-4613
【文献】Philipp Glock et al.,Optical Control of a Biological Reaction-Diffusion System,Angew. Chem. Int. Ed.,2018年,Vol.57,pp.2362-2366
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 245/04
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるアゾベンゼン構造を有する化合物。
【化1】
(一般式(1)において、Rの一方及びRの一方はそれぞれ独立に、-Z、-O-Z、-CO-O-Z、-O-CO-Z、-CO-NH-Z、-NH-CO-Z、-NH-CO-O-Z、-O-CO-NH-Z、-NH-CO-NH-Z、-NH-CS-NH-Z、-S-Z、-CO-S-Z、-S-CO-Z、又は-S-S-Zであり、
Zはそれぞれ独立に、炭素数1~40の置換又は無置換の脂肪族炭化水素基であり、前記置換又は無置換の脂肪族炭化水素基中のメチレン構造の少なくとも一つが、-O-、-S-、-NH-、-CO-、-S-S-、-SO-、-CO-O-、-CO-NH-、及び-NH-CO-O-から選択される構造で置き換えられていてもよく、
の他方、Rの他方及び、R~R10はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~24の炭化水素基である。)
【請求項2】
前記R~Rの少なくとも2つは水素原子であり、前記R~R10の少なくとも2つは水素原子である、請求項1に記載のアゾベンゼン構造を有する化合物。
【請求項3】
前記炭素数1~40の置換又は無置換の脂肪族炭化水素基が、炭素数5~35の置換又は無置換の脂肪族炭化水素基である、請求項1又は2に記載のアゾベンゼン構造を有する化合物。
【請求項4】
前記炭素数1~40の置換又は無置換の脂肪族炭化水素基が、炭素数7~30の置換又は無置換の脂肪族炭化水素基である、請求項1又は2に記載のアゾベンゼン構造を有する化合物。
【請求項5】
前記Rの一方及びRの一方がそれぞれ独立に、-Z、-O-Z、-CO-O-Z、-O-CO-Z、-CO-NH-Z、-NH-CO-Z、-NH-CO-NH-Z、-NH-CS-NH-Z、-S-Z、-CO-S-Z、-S-CO-Z、又は-S-S-Zである、請求項1~4のいずれか1項に記載のアゾベンゼン構造を有する化合物。
【請求項6】
前記置換又は無置換の脂肪族炭化水素基が、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、又は置換若しくは無置換のアルキニル基である、請求項1~5のいずれか1項に記載のアゾベンゼン構造を有する化合物。
【請求項7】
前記置換又は無置換の脂肪族炭化水素基が、無置換の脂肪族炭化水素基、又はイオン性官能基及び非イオン性極性官能基から選択される少なくとも1種の基で置換された脂肪族炭化水素基である、請求項1~6のいずれか1項に記載のアゾベンゼン構造を有する化合物。
【請求項8】
前記Rの一方及びRの一方がそれぞれ独立に、下記一般式(2)~(25)から選択される基である、請求項1~7のいずれか1項に記載のアゾベンゼン構造を有する化合物。
【化2】
【化3】
(一般式(2)~(25)において、nはそれぞれ独立に5~15の整数であり、一般式(4)、(6)、(8)、(20)、(22)、(24)及び(25)において、Xはカウンターアニオンであり、一般式(10)、(12)、(14)、(16)及び(18)において、Yはカウンターカチオンである。)
【請求項9】
脂質二重層中に、請求項1~8のいずれか1項に記載のアゾベンゼン構造を有する化合物を含む、ベシクル。
【請求項10】
前記脂質二重層中に、両親媒性分子及びアゾベンゼン構造を有する化合物を含み、
前記両親媒性分子及びアゾベンゼン構造を有する化合物の合計100質量%に対して、アゾベンゼン構造を有する化合物を0.01~40質量%含む、請求項9に記載のベシクル。
【請求項11】
前記両親媒性分子がリン脂質である請求項10に記載のベシクル。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか1項に記載のベシクルに光照射を行い、アゾベンゼン構造を有する化合物の光異性化を行うことにより、ベシクルの構造変化を行う、ベシクルの構造制御方法。
【請求項13】
前記ベシクルの構造変化が、ベシクル内部への分裂又はベシクル外部への分裂である、請求項12に記載のベシクルの構造制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アゾベンゼン構造を有する化合物、ベシクル及びベシクルの構造制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベシクルの一種であるリポソームは、生体適合性や生分解性に優れており、その内部に分子を封入することができることから、医学、バイオテクノロジー等の分野で様々な検討が行われている。
【0003】
例えばドラッグキャリアとして、リポソームを使用する場合には、温度応答性や、pH応答性等の刺激応答性を利用して、薬物を放出する必要がある。例えば、温度変化によって、リン脂質膜の流動性を変化させることにより、膜変形を誘導することが知られている(例えば非特許文献1参照)。
【0004】
また、アゾベンゼン化合物を用いた光応答性リポソームが提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1ではアゾベンゼン化合物として、具体的にはKAON12を使用した例のみが開示されている。特許文献1では、紫外光、例えば365nmを用いてリポソームの変形が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-178689号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】M. Yanagisawa et al., “Shape deformation of ternary vesicles coupled with phase separation”, Phys. Rev. Lett. 100:148102 (2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特定のアゾベンゼン構造を有する化合物を脂質二重層中に含むベシクルは、光照射によって容易に構造変化が起こることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本開示は、光照射によりベシクルの構造変化を行う、ベシクルの構造制御方法、該制御方法に使用可能なベシクル、及び該ベシクルの脂質二重層中に含まれるアゾベンゼン構造を有する化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特定のアゾベンゼン構造を脂質二重層中に含むベシクルは、光照射によってアゾベンゼン構造を有する化合物の光異性化が起こり、ベシクルの構造変化を行うことが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本実施形態の態様例は、以下の通りに記載される。
【0011】
(1)下記一般式(1)で表されるアゾベンゼン構造を有する化合物。
【化1】
(一般式(1)において、Rの一方及びRの一方はそれぞれ独立に、-Z、-O-Z、-CO-O-Z、-O-CO-Z、-CO-NH-Z、-NH-CO-Z、-NH-CO-O-Z、-O-CO-NH-Z、-NH-CO-NH-Z、-NH-CS-NH-Z、-S-Z、-CO-S-Z、-S-CO-Z、又は-S-S-Zであり、
Zはそれぞれ独立に、炭素数1~40の置換又は無置換の脂肪族炭化水素基であり、前記置換又は無置換の脂肪族炭化水素基中のメチレン構造の少なくとも一つが、-O-、-S-、-NH-、-CO-、-S-S-、-SO-、-CO-O-、-CO-NH-、及び-NH-CO-O-から選択される構造で置き換えられていてもよく、
の他方、Rの他方及び、R~R10はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~24の炭化水素基である。)
(2)前記R~Rの少なくとも2つは水素原子であり、前記R~R10の少なくとも2つは水素原子である、(1)に記載のアゾベンゼン構造を有する化合物。
(3)前記炭素数1~40の置換又は無置換の脂肪族炭化水素基が、炭素数5~35の置換又は無置換の脂肪族炭化水素基である、(1)又は(2)に記載のアゾベンゼン構造を有する化合物。
(4)前記炭素数1~40の置換又は無置換の脂肪族炭化水素基が、炭素数7~30の置換又は無置換の脂肪族炭化水素基である、(1)又は(2)に記載のアゾベンゼン構造を有する化合物。
(5)前記Rの一方及びRの一方がそれぞれ独立に、-Z、-O-Z、-CO-O-Z、-O-CO-Z、-CO-NH-Z、-NH-CO-Z、-NH-CO-NH-Z、-NH-CS-NH-Z、-S-Z、-CO-S-Z、-S-CO-Z、又は-S-S-Zである、(1)~(4)のいずれかに記載のアゾベンゼン構造を有する化合物。
(6)前記置換又は無置換の脂肪族炭化水素基が、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、又は置換若しくは無置換のアルキニル基である、(1)~(5)のいずれかに記載のアゾベンゼン構造を有する化合物。
(7)前記置換又は無置換の脂肪族炭化水素基が、無置換の脂肪族炭化水素基、又はイオン性官能基及び非イオン性極性官能基から選択される少なくとも1種の基で置換された脂肪族炭化水素基である、(1)~(6)のいずれかに記載のアゾベンゼン構造を有する化合物。
(8)前記Rの一方及びRの一方がそれぞれ独立に、下記一般式(2)~(25)から選択される基である、(1)~(7)のいずれかに記載のアゾベンゼン構造を有する化合物。
【化2】
【化3】
(一般式(2)~(25)において、nはそれぞれ独立に5~15の整数であり、一般式(4)、(6)、(8)、(20)、(22)、(24)及び(25)において、Xはカウンターアニオンであり、一般式(10)、(12)、(14)、(16)及び(18)において、Yはカウンターカチオンである。)
(9)脂質二重層中に、(1)~(8)のいずれかに記載のアゾベンゼン構造を有する化合物を含む、ベシクル。
(10)前記脂質二重層中に、両親媒性分子及びアゾベンゼン構造を有する化合物を含み、前記両親媒性分子及びアゾベンゼン構造を有する化合物の合計100質量%に対して、アゾベンゼン構造を有する化合物を0.01~40質量%含む、(9)に記載のベシクル。
(11)前記両親媒性分子がリン脂質である(10)に記載のベシクル。
(12)(9)~(11)のいずれかに記載のベシクルに光照射を行い、アゾベンゼン構造を有する化合物の光異性化を行うことにより、ベシクルの構造変化を行う、ベシクルの構造制御方法。
(13)前記ベシクルの構造変化が、ベシクル内部への分裂又はベシクル外部への分裂である、(12)に記載のベシクルの構造制御方法。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、ベシクルの構造制御方法に使用可能な、新規なアゾベンゼン構造を有する化合物及び該化合物を脂質二重層中に含むベシクルが提供される。本開示により提供されるベシクルの構造制御方法は、光照射を行うことによりベシクルの構造変化を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】AzoC12-NMe のメタノール溶液(AzoC12-NMe :0.88mM)に、波長400nmの光を6分間照射した際の吸収スペクトルの変化を図1(a)に示し、前記波長400nmの光を照射後、波長500nmの光を3分間照射した際の吸収スペクトルの変化を図1(b)に示す。
図2】AzoC12-NMe のメタノール溶液(AzoC12-NMe :0.88mM)のHPLC分析を行った結果を図2(a)に示す。調製した溶液に波長400nmの光を10分間照射し、溶液の一部を分取し、HPLC分析を行った結果を図2(b)に示す。前記波長400nmの光を照射後、波長500nmの光を3分間照射し、溶液の一部を分取し、HPLC分析を行った結果を図2(c)に示す。
図3】構造最適化計算(計算条件:DFT B3LYP 6-31G*)により求めた、一般式(1)において、Rの一方及びRの一方が-O-Meであり、Rの他方、Rの他方及び、R~R10が水素原子である化合物の構造(アゾ基(-N=N-)がシス体又はトランス体)を、図3に示す。
図4】実施例3~5で得たGUV分散液の光照射前、及び波長400nmの光を1分間又は10分間照射した後の吸収スペクトルを図4に示す。
図5】実施例7の観察結果(ベシクル内部への分裂)を示す図(顕微鏡写真)である。
図6】実施例9の観察結果(ベシクル外部への分裂)を示す図(顕微鏡写真)である。
図7】実施例11の観察結果(ベシクル外部への分裂)を示す図(顕微鏡写真)である。
図8】実施例12の観察結果(PSビーズが膜変形によってベシクル内部への分裂と共に取り込まれる)を示す図(顕微鏡写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
<アゾベンゼン構造を有する化合物>
本実施形態に係るアゾベンゼン構造を有する化合物は、下記一般式(1)で表される。本実施形態に係るアゾベンゼン構造を有する化合物を脂質二重層中に含むベシクルは、光の照射によって、ベシクルの構造を変化させることが可能であることを、本発明者らは見出した。その理由は明らかではないが、その理由の一つは、一般式(1)で表されるアゾベンゼン構造を有する化合物は、アゾ基(-N=N-)が8員環を構成しているため、アゾ基の光異性化によって、アゾベンゼン構造を構成する二つのベンゼン環の相対的な位置や、RとRとの相対角度が大きく変化し、この大きな構造変化に伴いベシクルを構成する他の成分(例えばリン脂質等の両親媒性分子)の流動性に変化が生じることにより、ベシクルの構造の変化が引き起こされるためであると、本発明者らは推定した。
【0016】
【化4】
【0017】
(一般式(1)において、Rの一方及びRの一方はそれぞれ独立に、-Z、-O-Z、-CO-O-Z、-O-CO-Z、-CO-NH-Z、-NH-CO-Z、-NH-CO-O-Z、-O-CO-NH-Z、-NH-CO-NH-Z、-NH-CS-NH-Z、-S-Z、-CO-S-Z、-S-CO-Z、又は-S-S-Zであり、
Zはそれぞれ独立に、炭素数1~40の置換又は無置換の脂肪族炭化水素基であり、前記置換又は無置換の脂肪族炭化水素基中のメチレン構造の少なくとも一つが、-O-、-S-、-NH-、-CO-、-S-S-、-SO-、-CO-O-、-CO-NH-、及び-NH-CO-O-から選択される構造で置き換えられていてもよく、
の他方、Rの他方及び、R~R10はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~24の炭化水素基である。)
【0018】
前述のようにRの一方及びRの一方はそれぞれ独立に、-Z、-O-Z、-CO-O-Z、-O-CO-Z、-CO-NH-Z、-NH-CO-Z、-NH-CO-O-Z、-O-CO-NH-Z、-NH-CO-NH-Z、-NH-CS-NH-Z、-S-Z、-CO-S-Z、-S-CO-Z、又は-S-S-Zであるが、-Z、-O-Z、-CO-O-Z、-O-CO-Z、-CO-NH-Z、-NH-CO-Z、-NH-CO-NH-Z、-NH-CS-NH-Z、-S-Z、-CO-S-Z、-S-CO-Z、又は-S-S-Zであることがより好ましく、-Z、-O-Z、-CO-O-Z、-O-CO-Z、-CO-NH-Z、又は-NH-CO-Zであることが更に好ましく、-Z、又は-O-Zであることが特に好ましい。これらの基は、合成が容易であるとともに、後述のベシクルの構造変化を容易に行うことができるため好ましい。
【0019】
Zはそれぞれ独立に、炭素数1~40の置換又は無置換の脂肪族炭化水素基である。前記置換又は無置換の脂肪族炭化水素基中のメチレン構造の少なくとも一つが、-O-、-S-、-NH-、-CO-、-S-S-、-SO-、-CO-O-、-CO-NH-、及び-NH-CO-O-から選択される構造で置き換えられていてもよい。前記置き換えは、置換又は無置換の脂肪族炭化水素基一つあたり、メチレン構造の一つが置き換えられていてもよく、二つ以上が置き換えられていてもよい。メチレン構造を置き換える数は通常は10以下であり、好ましくは2以下である。
【0020】
Zが置換された脂肪族炭化水素基である場合には、置換された脂肪族炭化水素基としては、無置換の脂肪族炭化水素基中のメチレン構造の少なくとも一つが、-O-、-S-、-NH-、-CO-、-S-S-、-SO-、-CO-O-、-CO-NH-、及び-NH-CO-O-から選択される構造で置き換えられた基であってもよく、無置換の脂肪族炭化水素基の末端が置換基で置換された基であってもよく、無置換の脂肪族炭化水素基中のメチレン構造の少なくとも一つが、-O-、-S-、-NH-、-CO-、-S-S-、-SO-、-CO-O-、-CO-NH-、及び-NH-CO-O-から選択される構造で置き換えられると共に、末端が置換基で置換された基であってもよい。
【0021】
炭素数1~40の置換又は無置換の脂肪族炭化水素基としては、炭素数5~35の置換又は無置換の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、炭素数7~30の置換又は無置換の脂肪族炭化水素基であることがより好ましく、炭素数8~25の置換又は無置換の脂肪族炭化水素基であることが特に好ましい。炭素数が前記範囲であることが、ベシクルを構成する脂質二重層の厚さと、これらの基の大きさとのバランスの観点から好ましい。
【0022】
置換又は無置換の脂肪族炭化水素基が、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、又は置換若しくは無置換のアルキニル基であることが好ましい。また、別の好ましい態様としては、置換又は無置換の脂肪族炭化水素基が、炭素炭素二重結合及び炭素炭素三重結合から選択される少なくとも1種の結合を2つ以上、好ましくは2~5つ、より好ましくは2~3つ有する、置換又は無置換の脂肪族炭化水素基である態様が挙げられる。炭素炭素二重結合及び炭素炭素三重結合としては、置換又は無置換の脂肪族炭化水素基を構成する鎖中に存在してもよく、末端に存在してもよく、鎖中及び末端に存在してもよい。
【0023】
無置換の脂肪族炭化水素基としては、例えば、直鎖状の脂肪族炭化水素基、分岐を有する鎖状の脂肪族炭化水素基、環状の脂肪族炭化水素基、並びに環状構造及び鎖状構造を有する脂肪族炭化水素基が挙げられる。また、置換された脂肪族炭化水素基とは、前記無置換の脂肪族炭化水素基が、脂肪族炭化水素以外の基、原子で置換された基を意味する。
【0024】
炭素数1~40の無置換の脂肪族炭化水素基としては、例えば炭素数が1~40の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数が2~40の直鎖状又は分岐状のアルケニル基若しくは不飽和二重結合含有基、炭素原子数が3~40の環状飽和又は環状不飽和炭化水素基が挙げられる。
【0025】
炭素数が1~40の直鎖状又は分岐状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、1-プロピル基、1-ブチル基、1-ペンチル基、1-ヘキシル基、1-ヘプチル基、1-オクチル基、1-ノニル基、1-デシル基、1-ウンデシル基、1-ドデシル基、1-トリデシル基、1-テトラデシル基、1-ペンタデシル基、1-ヘキサデシル基、1-ヘプタデシル基、1-オクタデシル基、1-ノナデシル基、1-イコシル基、1-エイコシル基、1-ヘンイコシル基、1-ヘンエイコシル基、1-ドコシル基、1-トリコシル基、1-テトラコシル基、1-ペンタコシル基、1-ヘキサコシル基、1-ヘプタコシル基、1-オクタコシル基、1-ノナコシル基、1-トリアコンチル基、1-ヘントリアコンチル基、1-ドトリアコンチル基、1-トリトリアコンチル基、1-テトラトリアコンチル基、1-ペンタトリアコンチル基、1-ヘキサトリアコンチル基、1-テトラコンチル基、iso-プロピル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、iso-ブチル基、ペンタン-2-イル基、2-メチルブチル基、iso-ペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基(1,1-ジメチルプロピル基)、シアミル基、ペンタン-3-イル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、iso-ヘキシル基、1,1-ジメチルブチル基(2-メチルペンタン-2-イル基)、3-メチルペンタン-2-イル基、4-メチルペンタン-2-イル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、テキシル基、3-メチルペンタン-3-イル基、3,3-ジメチルブタ-2-イル基、ヘキサン-3-イル基、2-メチルペンタン-3-イル基、ヘプタン-4-イル基、2,4-ジメチルペンタン-2-イル基、3-エチルペンタン-3-イル基、4,4-ジメチルペンチル基、4-メチルヘプタン-4-イル基、4-プロピルヘプタン-4-イル基、2,3,3-トリメチルブタン-2-イル基、2,4,4-トリメチルペンタン-2-イル基等が挙げられる。
【0026】
炭素数が2~40の直鎖状又は分岐状のアルケニル基若しくは不飽和二重結合含有基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、iso-プロペニル基、アレニル基、ブタ-3-エン-1-イル基、クロチル基、ブタ-3-エン-2-イル基、メタリル基、ブタ-1,3-ジエニル基、ペンタ-4-エン-1-イル基、ペンタ-3-エン-1-イル基、ペンタ-2-エン-1-イル基、iso-ペンテニル基、2-メチルブタ-3-エン-1-イル基、ペンタ-4-エン-2-イル基、プレニル基、2-メチル-ブタ-2-エン-1-イル基、ペンタ-3-エン-2-イル基、2-メチル-ブタ-3-エン-2-イル基、ペンタ-1-エン-3-イル基、ペンタ-2,4-ジエン-1-イル基、ペンタ-1,3-ジエン-1-イル基、ペンタ-1,4-ジエン-3-イル基、iso-プレニル基(2-メチル-ブタ-1,3-ジエン-1-イル基)、ペンタ-2,4-ジエン-2-イル基、ヘキサ-5-エン-1-イル基、ヘキサ-4-エン-1-イル基、ヘキサ-3-エン-1-イル基、ヘキサ-2-エン-1-イル基、4-メチル-ペンタ-4-エン-1-イル基、3-メチル-ペンタ-4-エン-1-イル基、2-メチル-ペンタ-4-エン-1-イル基、ヘキサ-5-エン-2-イル基、4-メチル-ペンタ-3-エン-1-イル基、3-メチル-ペンタ-3-エン-1-イル基、2,3-ジメチル-ブタ-2-エン-1-イル基、2-メチルペンタ-4-エン-2-イル基、3-エチルペンタ-1-エン-3-イル基、ヘキサ-3,5-ジエン-1-イル基、ヘキサ-2,4-ジエン-1-イル基、4-メチルペンタ-1,3-ジエン-1-イル基、2,3-ジメチル-ブタ-1,3-ジエン-1-イル基、ヘキサ-1,3,5-トリエン-1-イル基、2-(シクロペンタジエニル)プロパン-2-イル基、2-(シクロペンタジエニル)エチル基等が挙げられる。
【0027】
炭素原子数が3~40の環状飽和又は環状不飽和炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、ジメチルシクロペンタジエニル基、n-ブチルシクロペンタジエニル基、n-ブチル-メチルシクロペンタジエニル基、テトラメチルシクロペンタジエニル基、1-メチルシクロペンチル基、1-アリルシクロペンチル基、1-ベンジルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキセニル基、シクロヘキサジエニル基、1-メチルシクロヘキシル基、1-アリルシクロヘキシル基、1-ベンジルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロヘプテニル基、シクロヘプタトリエニル基、1-メチルシクロヘプチル基、1-アリルシクロヘプチル基、1-ベンジルシクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロオクテニル基、シクロオクタジエニル基、シクロオクタトリエニル基、1-メチルシクロオクチル基、1-アリルシクロオクチル基、1-ベンジルシクロオクチル基、4-シクロヘキシル-tert-ブチル基、ノルボルニル基、ノルボルネニル基、ノルボルナジエニル基、2-メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2-イル基、7-メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン-7-イル基、ビシクロ[2.2.2]オクタン-1-イル基、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-イル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基、1-(2-メチルアダマンチル)、1-(3-メチルアダマンチル)、1-(4-メチルアダマンチル)、1-(3,5-ジメチルアダマンチル)、1-(3,5,7-トリメチルアダマンチル)等が挙げられる。
【0028】
炭素数1~40の置換された脂肪族炭化水素基としては、例えば前記炭素数1~40の無置換の脂肪族炭化水素基を、置換した基が挙げられる。置換された脂肪族炭化水素基としては、イオン性官能基及び非イオン性極性官能基から選択される少なくとも1種の基で置換された脂肪族炭化水素基が挙げられる。すなわち、置換又は無置換の脂肪族炭化水素基が、無置換の脂肪族炭化水素基、又はイオン性官能基及び非イオン性極性官能基から選択される少なくとも1種の基で置換された脂肪族炭化水素基であることが好ましい態様の一つである。
【0029】
イオン性官能基及び非イオン性極性官能基から選択される少なくとも1種の基としては、特に制限はないが、下記式(A1)~(A23)から選ばれる少なくとも一種の基であることが好ましい。なお、本発明において、基の端に示した波線は他の原子との結合部位を意味する。
【0030】
【化5】
【0031】
【化6】
【0032】
(式(A2)、(A4)、(A6)、(A18)、(A20)、(A22)及び(A23)において、Xはカウンターアニオンであり、式(A8)、(A10)、(A12)、(A14)及び(A16)において、Yはカウンターカチオンである。)
【0033】
イオン性官能基及び非イオン性極性官能基から選択される少なくとも1種の基としては、前記式(A2)、(A4)、(A6)、(A8)、(A10)、(A12)、(A14)、(A16)、(A18)、(A20)、(A22)、及び(A23)から選ばれる少なくとも一種の基であることがより好ましく、式(A2)、(A6)、(A10)、(A12)、(A14)、及び(A16)から選ばれる少なくとも一種の基であることが特に好ましい。
【0034】
Zは、炭素数1~40の置換又は無置換の脂肪族炭化水素基であるが、脂肪族炭化水素基部分が直鎖アルキル基であることが好ましい態様の一つである。また、イオン性官能基及び非イオン性極性官能基から選択される少なくとも1種の基としては、特に制限はないが、前記式(A1)~(A23)から選ばれる少なくとも一種の基であることが好ましい。直鎖アルキル基の末端が、イオン性官能基及び非イオン性極性官能基から選択される少なくとも1種の基で置換されていることが好ましい態様の一つである。Zとしては、具体的には、下記一般式(B1)~(B24)から選ばれる少なくとも一種の基であることが好ましい。前述のようにRの一方及びRの一方はそれぞれ独立に、-Z、又は-O-Zであることが特に好ましい。具体的には、Rの一方及びRの一方としては、それぞれ独立に、下記一般式(B1)~(B24)及び下記一般式(2)~(25)から選択される基であることが特に好ましい。また、Rの一方及びRの一方がそれぞれ独立に、下記一般式(2)~(25)から選択される基であることがさらに好ましい。Rの一方及びRの一方は、異なる基でもよいが、同様の基であることが、合成容易の観点から好ましい。
【0035】
【化7】
【0036】
【化8】
【0037】
(一般式(B1)~(B24)において、nはそれぞれ独立に5~15の整数であり、基(B3)、(B5)、(B7)、(B19)、(B21)、(B23)及び(B24)において、Xはカウンターアニオンであり、基(B9)、(B11)、(B13)、(B15)及び(B17)において、Yはカウンターカチオンである。)
【0038】
【化9】
【0039】
【化10】
【0040】
(一般式(2)~(25)において、nはそれぞれ独立に5~15の整数であり、一般式(4)、(6)、(8)、(20)、(22)、(24)及び(25)において、Xはカウンターアニオンであり、一般式(10)、(12)、(14)、(16)及び(18)において、Yはカウンターカチオンである。)
【0041】
カウンターアニオンとしては、例えば、ハロゲン化物イオン(例えば、F、Cl、Br、I)が挙げられる。また、カウンターカチオンとしては、例えば、アルカリ金属イオン(例えばLi、Na、K)が挙げられる。カウンターアニオン及び、カウンターカチオンとしては、二価以上のイオンであってもよい。例えばカルシウムイオン(Ca2+)がカウンターカチオンである場合には、「(Ca2+1/2」がYに相当する。
【0042】
nはそれぞれ独立に5~15の整数であるが、それぞれ独立に7~15の整数であることが好ましく、10~15の整数であることがより好ましい。
【0043】
前述のようにRの他方、Rの他方及び、R~R10はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~24の炭化水素基であるが、水素原子又は炭素数1~20の炭化水素基であることが好ましく、水素原子又は炭素数1~15の炭化水素基であることがより好ましく、水素原子又は炭素数1~10の炭化水素基であることが更に好ましく、水素原子又は炭素数1~6の炭化水素基であることが特に好ましい。
【0044】
の他方及びRの他方は、少なくとも一方が水素原子であることが好ましく、両方が水素原子であることがより好ましい。また、前記R~Rの少なくとも2つは水素原子であり、前記R~R10の少なくとも2つは水素原子であることが好ましく、R~Rの少なくとも3つは水素原子であり、前記R~R10の少なくとも3つは水素原子であることがより好ましく、R~Rの全てが水素原子であり、前記R~R10の全てが水素原子であることが特に好ましい。また、Rの他方、Rの他方及び、R~R10の全てが水素原子であることは、特に好ましい態様の一つである。
【0045】
炭素数1~24の炭化水素基としては、例えば、炭素数1~24の脂肪族炭化水素基、炭素数6~24の芳香族炭化水素基が挙げられるが、リン脂質等の両親媒性分子と混ざりやすくするという観点から炭素数1~24の脂肪族炭化水素基が好ましい。また、炭素数1~24の炭化水素基としては、炭素数1~15の炭化水素基が好ましく、炭素数1~10の炭化水素基がより好ましく、炭素数1~6の炭化水素基が特に好ましい。
【0046】
炭素数6~24の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントラセニル基等が挙げられる。
【0047】
炭素数1~24の脂肪族炭化水素基としては、例えば炭素数が1~24の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数が2~24の直鎖状又は分岐状のアルケニル基若しくは不飽和二重結合含有基、炭素原子数が3~24の環状飽和又は環状不飽和炭化水素基が挙げられる。
【0048】
炭素数が1~24の直鎖状又は分岐状のアルキル基としては、前述の炭素数が1~40の直鎖状又は分岐状のアルキル基として挙げた基の中で、炭素数が24以下のものが挙げられる。炭素数が2~24の直鎖状又は分岐状のアルケニル基若しくは不飽和二重結合含有基としては、前述の炭素数が2~40の直鎖状又は分岐状のアルケニル基若しくは不飽和二重結合含有基として挙げた基の中で、炭素数が24以下のものが挙げられる。炭素原子数が3~24の環状飽和又は環状不飽和炭化水素基としては、前述の炭素原子数が3~40の環状飽和又は環状不飽和炭化水素基として挙げた基の中で、炭素数が24以下のものが挙げられる。
【0049】
炭素数1~24の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、1-プロピル基、又はiso-プロピル基が特に好ましい。
【0050】
本実施形態に係るアゾベンゼン構造を有する化合物の具体例としては、後述の実施例で合成した、下記式(C1)~(C3)で表せられる化合物が挙げられる。なお、本発明において、式(C1)で表される化合物を、AzoC12-NHとも記し、式(C2)で表される化合物を、AzoC12-NMe とも記し、式(C3)で表される化合物をAzoC16とも記す。
【0051】
【化11】
【0052】
本実施形態に係るアゾベンゼン構造を有する化合物の合成方法としては特に制限はないが、例えば、実施例に記載した方法や、W. Moormann et al., “Solvent-free synthesis of diazocine”, Synthesis 49:3471 (2017)に記載された方法等の従来公知の有機合成法等によって合成することができる。
【0053】
(ベシクル)
本実施形態に係るベシクルは、脂質二重層中に、前述の本実施形態に係るアゾベンゼン構造を有する化合物を含む。本実施形態に係るベシクルは後述のように光照射を行うことにより、ベシクルの内部への分裂や、ベシクルの外部への分裂といったベシクルの構造制御を行うことが可能である。
【0054】
脂質二重層中には、アゾベンゼン構造を有する化合物を含むが、それ以外にも通常は両親媒性分子を含む。すなわち、脂質二重層中に、両親媒性分子及びアゾベンゼン構造を有する化合物を含むことが好ましい。また、両親媒性分子及びアゾベンゼン構造を有する化合物の合計100質量%に対して、アゾベンゼン構造を有する化合物を0.01~40質量%含むことが好ましく、0.8~25質量%含むことがより好ましく、5~15質量%含むことが特に好ましい。本実施形態に係るベシクルは、両親媒性分子及びアゾベンゼン構造を有する化合物の合計100質量%に対するアゾベンゼン構造を有する化合物の量が、少量の場合であっても、ベシクルの構造制御を行うことができるため、多量に用いることが必要なKAON12と比べて、有用である。
【0055】
両親媒性分子としては、リン脂質、糖脂質、ステロール、カチオン性脂質等が挙げられる。両親媒性分子がリン脂質であることが安定な二分子膜(脂質二重層)を形成させる観点から好ましい。
【0056】
両親媒性分子がリン脂質である場合には、リン脂質及びアゾベンゼン構造を有する化合物の合計100mol%に対して、アゾベンゼン構造を有する化合物が40mol%以下であることが好ましく、30mol%以下であることがより好ましく、20mol%以下であることが更に好ましく、15mol%以下であることが特に好ましい。また、アゾベンゼン構造を有する化合物が0.01mol%以上であることが好ましく、0.1mol%以上であることがより好ましく、0.5mol%以上であることが更に好ましく、1mol%以上であることが特に好ましい。
【0057】
リン脂質としては例えば、DOPC(1,2-ジオレオイルsn-グリセロ-3-ホスホコリン)、DOPA(1,2-ジオレオイル-SN-グリセロ-3-リン酸ナトリウム塩)、DPPC(1,2-ジパルミトイルsn-グリセロ-3-ホスホコリン)、DMPC(1,2-ミニストリルsn-グリセロ-3-ホスホコリン)、DPPG(1,2-ジパルミトイルsn-グリセロ-3-ホスファチジルグリセロール)、POPC(1,2-ジパルミトイルーオレイルsn-グリセロ-3-ホスホコリン)等が挙げられる。
【0058】
糖脂質としては例えば、グリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質が挙げられる。ステロールとしては例えばコレステロール、フィトステロール(例えばシトステロール、スチグマステロール、フコステロール、スピナステロール、ブラシカステロール等)が挙げられる。
【0059】
カチオン性脂質としては、DOTAP(1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン,クロリド)等が挙げられる。
【0060】
ベシクルを構成する脂質二重層は、両親媒性分子、アゾベンゼン構造を有する化合物以外の成分を含有してもよい。両親媒性分子、アゾベンゼン構造を有する化合物以外の成分としては薬剤、検出薬、疎水性の脂質分子であるコレステロール、コール酸等が挙げられる。
【0061】
本実施形態に係るベシクルは、脂質二重層の内側(ベシクル内部)に、通常は液体(水、水を含む緩衝液等の溶液等)を含むが、それ以外の成分をベシクルの使用目的に応じて含んでいてもよい。ベシクルが含むそれ以外の成分としては、例えば、薬剤、検出薬、核酸(DNA、RNA)、たんぱく質、糖鎖などが挙げられる。
【0062】
ベシクルの大きさとしては、ベシクルの使用目的に応じて適宜設定すればよく、特に制限はないが、例えば500nm~200μmであり、好ましくは1~150μmであり、より好ましくは3~100μmであり、特に好ましくは5~50μmである。
【0063】
ベシクルの製造方法としては、脂質二重層を形成する材料として、上述のアゾベンゼン構造を有する化合物を用いる以外には、特に制限はなく、実施例に記載の方法や、T. Muraoka et al., “A synthetic ion channel with anisotropic ligand response”, Nature Communication 11:2924 (2020)に記載された方法等の従来公知の人工的なベシクルの製造方法に従って行うことができる。
【0064】
<ベシクルの構造制御方法>
本実施形態に係るベシクルの構造制御方法は、前述の本実施形態に係るベシクルに光照射を行い、アゾベンゼン構造を有する化合物の光異性化を行うことにより、ベシクルの構造変化を行う。
【0065】
ベシクルの構造制御方法は、通常は液体中で行われ、好ましくは水溶液中で行われる。水溶液中には、水を含み、適宜緩衝液を構成するための成分や、液体培地を構成するための成分を含む。水溶液のpHとしては特に制限はないが、通常は、5~9が好ましく、6~8がより好ましく、6.5~7.5が特に好ましい。pH7が好ましい態様の一つである。
【0066】
ベシクルの構造制御方法は、通常は100℃以下で行われ、好ましくは5~60℃で行われ、より好ましくは20~40℃で行われる。温度としては、室温(20~30℃)又は体温付近(35~38℃)であることが好ましい態様の一つである。
【0067】
ベシクルの構造制御方法は、常圧(大気圧)下で行っても、加圧下で行っても、減圧下で行ってもよいが、通常は常圧下で行われる。また、ベシクルの構造制御方法を行う雰囲気としては特に制限はなく、大気(空気)雰囲気下で行っても、不活性ガス(例えば、希ガス、窒素)雰囲気下で行っても、酸素雰囲気下で行っても、二酸化炭素雰囲気下で行っても、混合ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0068】
本実施形態に係るベシクルの構造制御方法は、ベシクルの動的挙動を光照射により制御することができる。この理由の一つは、ベシクルの脂質二重膜中に含まれる一般式(1)で表されるアゾベンゼン構造を有する化合物は、アゾ基(-N=N-)が8員環を構成しているため、アゾ基の光異性化によって、アゾベンゼン構造を構成する二つのベンゼン環の相対的な位置や、RとRとの相対角度が大きく変化し、この大きな構造変化に伴いベシクルを構成する他の成分(例えばリン脂質等の両親媒性分子)の流動性に変化が生じることにより、ベシクルの構造変化を起こすことができるためであると、本発明者らは推定している。ベシクルの構造変化が、ベシクル内部への分裂又はベシクル外部への分裂であることが好ましい。なお、ベシクル内部への分裂とは、あるベシクルに光を照射することにより、ベシクルの内部に向かって脂質二重膜が貫入し、ベシクルの内部に別のベシクルが形成されることを意味する。また、ベシクル外部への分裂とは、あるベシクルに光を照射することにより、ベシクルの外部に向かって脂質二重膜が出芽し、ベシクルの外側に別のベシクルが形成されることを意味する。
【0069】
光照射は、少なくとも波長367~420nmの可視光を含む光であることが、効率的にアゾベンゼン構造を有する化合物の光異性化を行う観点から好ましい態様の一つである。また、別の例としては、光照射は、少なくとも波長460~530nmの可視光を含む光であることが、効率的にアゾベンゼン構造を有する化合物の光異性化を行う観点から好ましい態様の一つである。アゾベンゼン構造を有する化合物が有するアゾ基(-N=N-)が、シス体である場合には、前記波長367~420nmの可視光で、効率的に光異性化を行うことができる。一方、アゾベンゼン構造を有する化合物が有するアゾ基(-N=N-)が、トランス体である場合には、波長460~530nmの可視光で、効率的に光異性化を行うことができる。光照射の波長は、アゾ基(-N=N-)がシス体であるかトランス体であるか等に応じて適宜設定することもできる。
【0070】
光照射として、生体への害が少ない可視光を利用できるため、本実施形態に係るベシクルの構造制御方法は様々な用途に使用することができる。本実施形態に係るベシクルの構造制御方法は、生体(例えば、ヒト、ヒト以外の哺乳類、鳥類、爬虫類、魚類、甲殻類、昆虫)内で行ってもよく、生体外(in vitro)で行ってもよい。
【0071】
本実施形態に係るベシクルの構造制御方法は、ベシクルの構造変化を利用し、ベシクルの外部に存在する物質をベシクル内部に取り込むことや、ベシクルの内部に存在する物質を外部に放出することができるため、様々な用途に利用することができる。用途の具体例としては、核酸導入、薬剤送達システム、再生医療材料分野等の研究のために利用することができる。
【実施例
【0072】
以下、実施例を挙げて本実施形態を説明するが、本開示はこれらの例によって限定されるものではない。
【0073】
[実施例1]
下記スキームに示した方法で、AzoC12-NH及びAzoC12-NMe を合成した。
【0074】
【化12】
【0075】
(1-アジド-12-ブロモドデカン(生成物3)の合成)
【化13】
【0076】
2口ナスフラスコを窒素置換後、1,12ジブロモドデカン(化合物2)(3.0g,9.14mmol)を入れ、乾燥DMF(10ml)に溶解させた。その後NaN(198mg,3.05mmol)を加え、60℃で19時間撹拌した。その後100mlの水を加え、30mlの酢酸エチルで3回抽出後、200mlの飽和食塩水で1回洗浄した。分離した有機相にNaSOを加え、濾過し、減圧下で濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン)によって生成物3(820mg,31%)を淡黄色液体として得た。
【0077】
生成物3の分析結果は以下の通りであった。
TLC Rf(Merck 60 F254, ヘキサン): 0.38
1H NMR (400 MHz, TMS含有CDCl3): δ 3.38 (t, J = 7.1 Hz, 2H), 3.24 (t, J = 7.1 Hz, 2H), 1.84 (quin, J = 7.3 Hz, 2H), 1.58 (quin, J = 7.1 Hz, 2H), 1.28 (m, 16H) ppm
13C NMR (400 MHz, TMS含有CDCl3): δ 26.7, 28.2, 28.7, 28.8, 29.1, 29.4, 29.5, 32.8, 33.8, 51.4 ppm
ESI MS (positive mode): m/z: C12H24BrN3の計算値: [M + H]+290.1232; 実測値: 290.1230
【0078】
((1S,2S)-1,2-ビス(2-ニトロフェニル)エタン-1,2-ジオール(生成物5)の合成)
【化14】
【0079】
2口ナスフラスコを窒素置換後、化合物4(5.0g,33.1mmol)を入れ、THF/Water=3/1(40ml)に溶解させた。30分の窒素バブリングで脱気した後、PBu(6.7g,33.1mmol)を加えて室温で12時間撹拌した。その後水を加え、塩化メチレンで3回抽出し、分離した有機相に飽和食塩水を加え1回洗浄した。有機相にNaSOを加え、濾過し、減圧下で濃縮後、再沈殿(エタノール)によって生成物5(2.8g,56%)を淡黄色固体として得た。
【0080】
生成物5の分析結果は以下の通りであった。
TLC Rf(Merck 60 F254, CH2Cl2): 0.13
1H NMR (400 MHz, TMS含有CDCl3): δ 7.78 (2H, t, J = 8.0 Hz), 7.62 (2H, t, J = 7.2 Hz), 7.44 (2H, t, J = 7.2 Hz), 5.59 (2H, s), 3.49 (2H, s,) ppm
13C NMR (400 MHz, TMS含有CDCl3): δ 71.9, 124.5, 129.0, 129.4, 133.2, 134.7, 148.6 ppm
ESI MS (positive mode): m/z: C14H12N2O6の計算値: [M + Na]+ 327.0593; 実測値: 327.0592
【0081】
((1S,2S)-1,2-ビス(2-アミノフェニル)エタン-1,2-ジオール(生成物6)の合成)
【化15】
【0082】
2口ナスフラスコを窒素置換後、生成物5(300mg,0.98mmol)を入れ、EtOH/Water=10/1(40ml)に溶解させた。その後Fe(542mg,9.86mmol)、続けてNHCl(106mg,1.97mmol)を加えた後、2時間加熱還流した。反応終了後、室温まで冷却した。水を加え、塩化メチレンで3回抽出し、分離した有機相に飽和食塩水を加え1回洗浄した。有機相にNaSOを加え、濾過し、減圧下で濃縮後、再結晶(エタノール)によって生成物6(150mg,63%)を白色固体として得た。
【0083】
生成物6の分析結果は以下の通りであった。
TLC Rf(Merck 60 F254, 酢酸エチル/ヘキサン = 1/1): 0.13
1H NMR (400 MHz, TMS含有CDCl3): δ 7.02 (2H, t, J = 7.6 Hz), 6.91 (2H, dd, J = 7.6 Hz, J = 1.6 Hz), 6.63 (2H, t, J = 7.6 Hz), 6.57 (2H, dd, J = 7.5 Hz, J = 1.0 Hz) 5.06 (2H, s), 4.03 (6H, br) ppm
ESI MS (positive mode): m/z: C14H16N2O2の計算値: [M + H]+245.1290; 実測値: 245.1288
【0084】
(2,2’-((1R,2R)-1,2-ビス((12-アジドドデシル)オキシ)エタン-1,2-ジイル)ジアニリン(生成物7)の合成)
【化16】
【0085】
2口ナスフラスコを窒素置換後、NaH(60%,流動パラフィンに分散,65mg,1.64mmol)を入れ、乾燥ヘキサンで3回洗浄した。その後真空乾燥させ、乾燥DMF(2ml)を加えた。その後氷冷し、生成物6(100mg,0.41mmol)の乾燥DMF溶液(3ml)を7分かけて滴下した。滴下終了後、室温で30分撹拌した。その後、生成物3(261mg,0.90mmol,2.05mmol)の乾燥DMF(1ml)溶液を5分で滴下した。滴下終了後、室温で5時間撹拌した。水を加えてNaHを失活させ、その酢酸エチルで3回抽出した。分離した有機相にNaSOを加え、濾過し、減圧下で濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/4)によって生成物7(203mg,75%)を淡黄色油状液体として得た。
【0086】
生成物7の分析結果は以下の通りであった。
TLC Rf(Merck 60 F254, 酢酸エチル/ヘキサン = 1/4): 0.39
1H NMR (400 MHz, TMS含有CDCl3): δ 7.21 (2H, dd, J = 7.6 Hz, J = 1.6 Hz), 7.08 (2H, td, J = 7.6 Hz, J = 1.7 Hz), 6.75 (2H, t, J = 7.6 Hz), 6.65 (2H, dd, J = 8.0 Hz, J = 0.9 Hz) 4.59 (2H, s), 4.21 (4H, br), 3.32 (2H, m), 3.25 (4H, t, J = 6.9 Hz), 3.03 (2H, m), 1.60 (4H, quin, J = 7.3 Hz), 1.61-1.02 (36H, m) ppm
13C NMR (400 MHz, TMS含有CDCl3): δ 26.0, 26.9, 29.0, 29.3, 29.4, 29.7, 51.6, 69.7, 82.7, 116.6, 118.2, 125.6, 128.2, 129.2, 146,0 ppm
ESI MS (positive mode): m/z: C38H62N8O2の計算値: [M + H]+663.5074; 実測値: 663.5073
【0087】
((11R,12R,Z)-11,12-ビス((12-アジドドデシル)オキシ)-11,12-ジヒドロジベンゾ[c,g][1,2]ジアゾシン(生成物8)の合成)
【化17】
【0088】
生成物7(460mg,0.69mmol)の入った2口ナスフラスコを窒素置換後、乾燥CHCl(10ml)に生成物7を溶解させた。その後PIDA(ヨードベンゼンジアセタート)(447mg,1.39mmol)を加え室温で5時間撹拌した。反応溶液を減圧下で濃縮し、カラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/4)によって生成物8(171mg,37%)を黄色油状液体として得た。
【0089】
生成物8の分析結果は以下の通りであった。
TLC Rf(Merck 60 F254, 酢酸エチル/ヘキサン = 1/4): 0.48
1H NMR (400 MHz, TMS含有CDCl3): δ 7.50 (2H, d, J = 7.6 Hz), 7.21 (2H, td, J = 7.5 Hz, J = 1.3 Hz), 7.16 (2H, t, J = 7.5 Hz), 6.95 (2H, dd, J = 7.5 Hz, J = 1.0 Hz) 4.58 (2H, s), 3.76 (2H, q), 3.62 (2H, q, J = 6.3 Hz), 3.25 (4H, t), 1.66-1.58 (8H, m), 1.28 (32H, m) ppm
13C NMR (400 MHz, TMS含有CDCl3): δ 26.4, 26.9, 27.0, 29.0, 29.3, 29.6, 29.73, 29.77, 29.8, 30.3, 32.8, 45.3, 51.6, 72.7, 79.6, 119.9, 127.50, 127.57, 127.7, 152.8 ppm
ESI MS (positive mode): m/z: C38H58N8O2の計算値: [M + Na]+681.4580; 実測値: 681.4582
【0090】
(12,12’-(((11R,12R,Z)-11,12-ジヒドロジベンゾ[c,g][1,2]ジアゾシン-11,12-ジイル)ビス(オキシ))ビス(ドデカン-1-アミン),(生成物:AzoC12-NH)の合成)
【化18】
【0091】
生成物8(170mg,0.26mmol)の入った2口ナスフラスコを窒素置換後、乾燥THF(5ml)に生成物8を溶解させた。そこにPPh(271mg,1.03mmol)を加え、室温で15時間撹拌した。その後水(1ml)を加え、さらに室温で10時間撹拌した。反応溶液を減圧下で濃縮し、カラムクロマトグラフィー(NHシリカ,5%MeOH(メタノール)含有CHCl)によってAzoC12-NH(81mg,51%)を黄色固体として得た。
【0092】
AzoC12-NHの分析結果は以下の通りであった。
TLC Rf(NHsilica, 5%MeOH含有CHCl3): 0.50
1H NMR (400 MHz, TMS含有CDCl3): δ 7.50 (2H, d, J = 7.6 Hz,), 7.21 (2H, t, J = 7.5 Hz), 7.16 (2H, t, J = 7.5 Hz), 6.95 (2H, dd, J = 7.5 Hz, J = 1.0 Hz) 4.58 (2H, s), 3.76 (2H, q), 3.62 (2H, q, J = 6.3 Hz), 2.67 (4H, t, J = 6.4 Hz), 1.66 (4H, quin, J = 7.1 Hz), 1.41 (8H, m), 1.28 (32H, s) ppm
13C NMR (400 MHz, TMS含有CDCl3): δ 26.3, 27.0, 29.60, 29.64, 29.76, 30.3, 33.94, 42.4, 62.4, 72.6, 79.6, 119.9, 127.4, 127.5, 127.7, 152.8 ppm
ESI MS (positive mode): m/z: C38H62N4O2の計算値: [M + H]+607.4951; 実測値: 607.4948
【0093】
(12,12’-(((11R,12R,Z)-11,12-ジヒドロジベンゾ[c,g][1,2]ジアゾシン-11,12-ジイル)ビス(オキシ))ビス(N,N,N-トリメチルドデカン-1-アンモニウム),(生成物:AzoC12-NMe )の合成)
【化19】
【0094】
AzoC12-NH(45mg,0.074mmol)の入った2口ナスフラスコを窒素置換後、乾燥MeOH(メタノール)(5ml)にAzoC12-NHを溶解させた。その後MeI(126mg,0.89mmol)を加え、続けて120℃で20分乾燥させたKCO(123mg,0.89mmol)を加え24時間撹拌した。反応溶液を減圧下で濃縮し、HPLCによって精製し、AzoC12-NH及びAzoC12-NMe (63mg,90%)を得た。
【0095】
HPLCによる精製は、以下の条件で行った。
機種:日本分光製HPLC
検出機:UV-4075 UV/VIS検出器
検出波長:425nm
カラム:YMC製Triat C18カラム
移動相:0.1vol%TFA(トルフルオロ酢酸)を含有する、水/アセトニトリル(体積比)、0~3分:70/30、3分超18分未満:グラジエント、18~23分:0/100、23分超30分未満:グラジエント、30~35分:70/30
流速:18.9mL/min
【0096】
AzoC12-NMe の分析結果は以下の通りであった。
TLC Rf(NHsilica, 5%MeOH含有CHCl3): 0.01
1H NMR (400 MHz, TMS含有CD3OD): δ 7.47 (2H, m), 7.27 (2H, t, J = 7.5 Hz), 7.18 (2H, t, J = 7.5 Hz), 6.94 (2H, d, J = 7.5 Hz) 4.61 (2H, s, CH2), 3.37 (4H, m), 3.15 (18H, s), 1.78 (4H, m), 1.39-1.35 (40H, m) ppm
ESI MS (positive mode): m/z: C44H76I2N4O2の計算値: [M-I]+819.5007, 実測値 [M-I]+ 819.0000
【0097】
(AzoC12-NMe の光異性化による吸収スペクトルの変化)
AzoC12-NMe の光異性化を確認するために、吸収スペクトルの測定を行った。
AzoC12-NMe をMeOH(メタノール)に溶解し、AzoC12-NMe を0.88mMで含む溶液を調製した。調製した溶液に波長400nmの光を6分間照射した際の吸収スペクトルの変化を図1(a)に示し、前記波長400nmの光を照射後、波長500nmの光を3分間照射した際の吸収スペクトルの変化を図1(b)に示す。光の照射は300Wキセノン光源 MAX-303(朝日分光製)を用いて行った。
【0098】
図1(a)及び図1(b)から、吸収スペクトルが等吸収点を有し、可逆的に変化することが示された。これによって、AzoC12-NMe のアゾ基(-N=N-)が、光異性化していることが示唆された。吸収スペクトルの波長変化より図1(a)では、光照射に伴い、シス体(cis-体)からトランス体(trans-体)への異性化が起こり、図1(b)では、光照射に伴い、トランス体からシス体への異性化が起こることが示唆された。また、図1より、吸収スペクトルはKAON12よりも長波長側にシフトしており、シス体の吸収波長は、400nm以上の可視光にも十分存在しており、可視光応答性を有することが示唆された。
【0099】
(AzoC12-NMe の光異性化の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による解析)
AzoC12-NMe の光異性化を解析するためにHPLC分析を行った。
AzoC12-NMe をMeOHに溶解し、AzoC12-NMe を0.88mMで含む溶液を調製した。調製した溶液の一部を分取し、HPLC分析を行った。結果を図2(a)に示す。
【0100】
調製した溶液に波長400nmの光を10分間照射し、溶液の一部を分取し、HPLC分析を行った。結果を図2(b)に示す。前記波長400nmの光を照射後、波長500nmの光を3分間照射し、溶液の一部を分取し、HPLC分析を行った。結果を図2(c)に示す。光の照射は300Wキセノン光源 MAX-303(朝日分光製)を用いて行った。
【0101】
HPLC分析は、以下の条件で行った。
機種:日本分光製HPLC
検出機:UV-4075 UV/VIS検出器
検出波長:425nm
カラム:YMC製Triat C18カラム
移動相:0.1vol%TFA(トルフルオロ酢酸)を含有する、水/アセトニトリル(体積比)、0~2分:70/30、2分超18分未満:グラジエント、18~27分:0/100、27分超32分未満:グラジエント、32分~35分:70/30
流速:1.0mL/min
【0102】
光照射前のAzoC12-NMe は99%超がシス体であり、波長400nm、10分間の光照射によって、66%がトランス体に変換され、その後の500nm、3分間の光照射によってAzoC12-NMe は再び99%超がシス体となった。
【0103】
(AzoC12-NMe の立体構造)
構造最適化計算(計算条件:DFT B3LYP 6-31G*)により求めた、一般式(1)において、Rの一方及びRの一方が-O-Meであり、Rの他方、Rの他方及び、R~R10が水素原子である化合物の構造(アゾ基(-N=N-)がシス体又はトランス体)を、図3に示した。図3では、酸素原子と結合する炭素原子同士の炭素炭素結合を、紙面に直行する方向に見たSide Viewと、2つのメチル基からN=N結合の方向へ見たTop Viewを示した。Side Viewで示した角度は、2つのC-O結合の間の二面角を示す。すなわち、一般式(1)において、Rの一方及びRの一方が-O-Meであり、Rの他方、Rの他方及び、R~R10が水素原子である化合物が光異性化により、立体構造が大きく変化することが示唆された。
【0104】
AzoC12-NMe 及び実施例で合成した他の化合物(AzoC12-NH、AzoC16)等の一般式(1)で表されるアゾベンゼン構造を有する化合物は、同様に光異性化により、アゾベンゼン構造を有する化合物の立体構造が大きく変化することが示唆された。
【0105】
[実施例2]
下記スキームに示した方法で、AzoC16を合成した。
【0106】
【化20】
【0107】
(1,2-ビス(2-ニトロフェニル)エタン(生成物12)の合成)
【化21】
【0108】
2口ナスフラスコに窒素雰囲気下にしたのち、2‐ニトロトルエン(10.0g,75.0mmol)を入れ、乾燥THF(250ml)に溶解させた。フラスコを氷浴し、そこにカリウムtert-ブトキシド(10.0g,89.0mmol)を加え、0℃で5分間撹拌した。続けてBr(4.0g,25mmol)を加え、さらに15分間撹拌した。攪拌後、水を加え、塩化メチレンで3回抽出を行い、合わせた有機相を飽和食塩水で1回洗浄した。分離した有機相にNaSOを加え、濾過し減圧下で濃縮後、再結晶(エタノール)によって生成物12(9.75g,97%)を淡黄色固体として得た。
【0109】
生成物12の分析結果は以下の通りであった。
TLC Rf(Merck 60 F254, 酢酸エチル/ヘキサン = 1/3): 0.38(原料は0.5)
1H NMR (400 MHz, TMS含有CDCl3): δ = 7.96 (2H, dd, J = 8.2 Hz, J = 1.2 Hz), 7.54 (2H, pseudo t), 7.42 (2H, dd, J = 7.7 Hz, J = 1.3 Hz), 7.38 (2H, pseudo t), 3.25 (4H, s) ppm
13C NMR (400 MHz, TMS含有CDCl3): δ 57.1, 84.6, 116.2, 118.2, 121.9, 128.7, 130.0, 145.7 ppm
ESI MS (positive mode): m/z: C14H12N2O4の計算値: [M + H]+273.0875; 実測値: 273.0878
【0110】
((Z)-11,12-ジヒドロジベンゾ[c,g][1,2]ジアゾシン(生成物13)の合成)
【化22】
【0111】
生成物12(9.75g,35mmol)が入った2口ナスフラスコを窒素置換し、EtOH(500ml)に生成物12を溶解させた。続いてZn(22g,350mmol)を加えた。そこに0.2MのBa(OH)・8HOaq.(570ml)を加え3時間加熱還流した。セライト濾過でZnを除去後、塩化アンモニウム水溶液を加え、酢酸エチルで3回抽出し、飽和食塩水で1回洗浄した。分離した有機相にNaSOを加え、濾過し減圧下で濃縮後、カラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/3)によって生成物13(2.93g,40%)を黄色固体として得た。
【0112】
生成物13の分析結果は以下の通りであった。
TLC Rf(Merck 60 F254, 酢酸エチル/ヘキサン = 1/3): 0.56
1H NMR (400 MHz, TMS含有CDCl3): δ = 7.13 (2H, pseudo t), 7.02 (2H, pseudo t), 6.98 (2H, d, J = 7.7 Hz), 6.83 (2H, d, J = 7.8 Hz), 2.87 (4H, m) ppm
13C NMR (400 MHz, TMS含有CDCl3): δ = 155.49, 129.60, 128.08, 127.01, 126.66, 118.70, 31.65 ppm
ESI MS (positive mode): m/z: C14H12N2の計算値: [M + H]+209.1079; 実測値: 209,1079
【0113】
((Z)-11-ブロモ-11,12-ジヒドロジベンゾ[c,g][1,2]ジアゾシン(生成物14)の合成)
【化23】
【0114】
生成物13(2.29g,14.0mmol)の入った2口ナスフラスコを窒素置換後、CCl(100ml)に生成物13を溶解させた。その後、NBS(N-ブロモスクシンイミド)(2.99g,16.8mmol)、続けて過酸化ベンゾイル(17mg,0.07mmol)を加えて24時間加熱還流した。その後室温まで冷やし、析出したスクシンイミドを濾過し、減圧下で濃縮した。カラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/3)によって生成物14(3.2g,80%)を紫色固体で得た。
【0115】
生成物14の分析結果は以下の通りであった。
TLC Rf(Merck 60 F254, 酢酸エチル/ヘキサン = 1/3): 0.48
1H NMR (400 MHz, CDCl3 containing TMS): δ = 7.25-7.19 (2H, m), 7.10 (2H, m), 6.98 (1H, m), 5.19 (1H, m), 3.38 (1H, m), 3.12 (1H, m) ppm
ESI MS (positive mode): m/z: C14H11BrN2の計算値: [M + Na]+309.0003; 実測値: 308.9999
【0116】
((5Z,11Z)-ジベンゾ[c,g][1,2]ジアゾシン(生成物15)の合成)
【化24】
【0117】
生成物14(3.20g,11.2mmol)の入った2口ナスフラスコを窒素置換し、MeOH(300ml)に生成物14を溶解させた。そこにKOH(3.00g,53.6mmol)を加え、40℃で27時間撹拌した。撹拌終了後、塩化アンモニウム水溶液を加え中和し、酢酸エチルで3回抽出した。有機相を飽和食塩水で1回洗浄し、分離した有機相にNaSOを加え、濾過後、減圧下で濃縮した。カラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/4)によって生成物15(2.00g,87%)を黄色固体として得た。
【0118】
生成物15の分析結果は以下の通りであった。
TLC Rf(Merck 60 F254, 酢酸エチル/ヘキサン = 1/3): 0.56
1H NMR (400 MHz, TMS含有CDCl3): δ = 7.26 (2H, t, J = 7.3 Hz), 7.13 (2H, t, J = 7.3 Hz), 7.05 (2H, dd, J = 7.8 Hz, J = 0.9 Hz), 7.01 (2H, dd, J = 7.8 Hz, J = 0.9 Hz), 6.72 (2H, s) ppm
ESI MS (positive mode): m/z: C14H10N2の計算値: [M + H]+207.0922; 実測値: 207.0922
【0119】
((11R,12S,Z)-11,12-ジヒドロジベンゾ[c,g][1,2]ジアゾシン-11,12-ジオール(生成物16)の合成)
【化25】
【0120】
生成物15(560mg,2.71mmol)の入った2口ナスフラスコを窒素置換後、アセトン/水=1/1(20ml)に生成物15を溶解させた。その後、N-メチルモルホリンN-オキシド(50%、水中,約4.8mol/L,0.73ml,3.53mmol)を加え、続けてマイクロカプセル化OsO(含有量約10%,350mg,0.14mmol)を加え、室温で24時間撹拌した。濾過後、カラムクロマトグラフィー(CHCl)によって生成物16(140mg,21%)を黄色固体として得た。
【0121】
生成物16の分析結果は以下の通りであった。
TLC Rf(Merck 60 F254, CH2Cl2): 0.12
1H NMR (400 MHz, TMS含有CDCl3): δ = 7.53 (2H, dd, J = 7.6 Hz, J = 1.2 Hz), 7.24 (2H, t, J = 7.6 Hz), 7.18 (2H, t, J = 7.6 Hz), 6.92 (2H, dd, J = 7.6 Hz, J = 1.2 Hz), 4.97 (2H, s), 3.03 (2H, s) ppm
ESI MS (positive mode): m/z: C14H12N2O2の計算値: [M + Na]+263.0796; 実測値: 263.0788
【0122】
((11R,12S,Z)-11,12-ビス(ヘキサデシルオキシ)-11,12-ジヒドロジベンゾ[c,g][1,2]ジアゾシン(生成物:AzoC16)の合成
【化26】
【0123】
2口ナスフラスコを窒素置換後、NaH(60%,流動パラフィンに分散,116mg,2.92mmol)を入れ、乾燥ヘキサンで3回洗浄した。その後真空乾燥させ、乾燥THF(3ml)を加えた。その後室温で1‐ヨードヘキサデカン(410mg,1.17mmol)の乾燥THF溶液(5ml)を15分かけて滴下した。滴下終了後加熱を始め、生成物16(70mg,0.29mmol)の乾燥THF(10ml)溶液を加熱還流条件下で20分かけて滴下した。滴下終了後13時間加熱還流した。室温まで冷却後水を加えてNaHを失活させ、その塩化メチレンで3回抽出した。分離した有機相にNaSOを加え、濾過し、減圧下で濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/3)によってAzoC16(10mg,5%)を黄色固体として得た。
【0124】
AzoC16の分析結果は以下の通りであった。
TLC Rf(Merck 60 F254, 酢酸エチル/ヘキサン = 1/3): 0.62
1H NMR (400 MHz, TMS含有1H): δ = 7.21 (2H, d, J = 7.4 Hz), 7.12 (2H, t, J = 7.4 Hz), 6.94 (2H, t, J = 7.4 Hz), 6.86 (2H, d, J = 7.4 Hz), 4.88 (2H, s), 3.50 (4H, t, J = 6.3 Hz), 1.57 (8H, m), 1.26 (48H, s), 0.88 (6H, t, J = 6.8 Hz) ppm
【0125】
[実施例3]
ダーラム管に2mMのリン脂質(両親媒性分子)(DOPC:1,2-ジオレオイルsn-グリセロ-3-ホスホコリン)のCHCl/MeOH=2/1溶液(18μL)と2mMのAzoC12-NMe のMeOH溶液(2μL)を入れ、窒素を吹き付けて乾かした。さらにデシケーター中で3時間乾燥させ、脂質フィルムを作製した。MilliQ水(200μL)を加え37.5℃で3時間以上のインキュベートすることでGUV(巨大リポソーム(Giant Unilamellar Vesicle))が水中に分散したGUV分散液を得た(水中の両親媒性分子(DOPC)濃度0.18mM、AzoC12-NMe 濃度0.02M)。
【0126】
[実施例4]
両親媒性分子を、DOPCから、DOTAP(1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン,クロリド)に変更した以外は実施例3と同様に行い、GUV分散液を得た。
【0127】
[実施例5]
両親媒性分子を、DOPCから、DOPA(1,2-ジオレオイル-SN-グリセロ-3-リン酸ナトリウム塩)に変更した以外は実施例3と同様に行い、GUV分散液を得た。
【0128】
[実施例6]
実施例3~5で得たGUV分散液(水中、両親媒性分子濃度0.18mM、AzoC12-NMe 濃度0.02mM)の光照射前、及び波長400nmの光を1分間又は10分間照射した後の吸収スペクトルを測定した。結果を図4に示す。吸収スペクトルが等吸収点をもって変化したことから、AzoC12-NMe が、GUVを構成する脂質二重層中で、光異性化していることが示唆された。光照射は300Wキセノン光源 MAX-303(朝日分光製)を用いて行った。
【0129】
[実施例7]
実施例3で得たGUV分散液(水中、両親媒性分子(DOPC)濃度0.18mM、AzoC12-NMe 濃度0.02mM)に対して光(波長370nm)を300Wキセノン光源 MAX-303(朝日分光製)を用いて照射した際の膜変形の挙動を顕微鏡観察した。顕微鏡観察は、スライドガラスに厚さ0.2mmのシリコンフィルムをのせ、そこにGUV分散液(水中、両親媒性分子(DOPC)濃度0.18mM、AzoC12-NMe 濃度0.02mM)6μLを入れ、カバーガラスを乗せたものを観察した。
【0130】
光照射を開始してから171秒後にリン脂質膜が内側に貫入し、173秒後にベシクル内部に別のベシクルが形成される様子が観察された。すなわち、ベシクル内部への分裂が観察された。結果を図5に示す。
【0131】
[実施例8]
AzoC12-NMe を、AzoC12-NHに変更した以外は実施例3と同様に行い、GUV分散液(水中のリン脂質(DOPC)濃度0.18mM、AzoC12-NH濃度0.02M)を得た。
【0132】
[実施例9]
実施例8で得たGUV分散液(水中、両親媒性分子(DOPC)濃度0.18mM、AzoC12-NH濃度0.02mM)に対して光(波長370nm)を300Wキセノン光源 MAX-303(朝日分光製)を用いて照射した際の膜変形の挙動を顕微鏡観察した。顕微鏡観察は、スライドガラスに厚さ0.2mmのシリコンフィルムをのせ、そこにGUV分散液(水中、両親媒性分子(DOPC)濃度0.18mM、AzoC12-NH濃度0.02mM)6μLを入れ、カバーガラスを乗せたものを観察した。
【0133】
光照射を開始してから144秒後にリン脂質膜が外側に出芽し、146秒後にベシクル外部に別のベシクルが形成される様子が観察された。すなわち、ベシクル外部への分裂が観察された。結果を図6に示す。
【0134】
[実施例10]
ダーラム管に2mMの両親媒性分子(DOPC:1,2-ジオレオイルsn-グリセロ-3-ホスホコリン)のCHCl/MeOH=2/1溶液(19.8μL)と0.2mMのAzoC16のMeOH溶液(2μL)を入れ、窒素を吹き付けて乾かした。さらにデシケーター中で3時間乾燥させ、脂質フィルムを作製した。MilliQ水(200μL)を加え37.5℃で3時間以上のインキュベートすることでGUVが水中に分散したGUV分散液を得た(水中の両親媒性分子(DOPC)濃度0.198mM、AzoC16濃度0.002M)。
【0135】
[実施例11]
実施例10で得たGUV分散液(水中、両親媒性分子(DOPC)濃度0.198mM、AzoC16濃度0.002mM)に対して光(波長370nm)を300Wキセノン光源 MAX-303(朝日分光製)を用いて照射した際の膜変形の挙動を顕微鏡観察した。顕微鏡観察は、スライドガラスに厚さ0.2mmのシリコンフィルムをのせ、そこにGUV分散液(水中、両親媒性分子(DOPC)濃度0.198mM、AzoC16濃度0.002mM)6μLを入れ、カバーガラスを乗せたものを観察した。
【0136】
光照射を開始してから109秒後にリン脂質膜が外側に出芽し、120秒後にベシクル外部に別のベシクルが形成される様子が観察された。すなわち、ベシクル外部への分裂が観察された。結果を図7に示す。
【0137】
[実施例12]
実施例3で得たGUV分散液(水中、両親媒性分子(DOPC)濃度0.18mM、AzoC12-NMe 濃度0.02mM)に対して、アニオン性のPS(ポリスチレン)ビーズ(直径1μm、GUV分散液全体に対して0.0026wt%)共存下で、光(波長370nm)を300Wキセノン光源 MAX-303(朝日分光製)を用いて照射した際の膜変形の挙動を顕微鏡観察した。顕微鏡観察は、スライドガラスに厚さ0.2mmのシリコンフィルムをのせ、そこにアニオン性のPSビーズ共存下のGUV分散液(水中、両親媒性分子(DOPC)濃度0.18mM、AzoC12-NMe 濃度0.02mM)6μLを入れ、カバーガラスを乗せたものを観察した。
【0138】
光照射を開始してから600秒後にベシクル表面に接着しているPSビーズが膜変形によってベシクル内部への分裂と共に取り込まれる様子が観察された。結果を図8に示す。
【0139】
実施例1、2より新規なアゾベンゼン構造を有する化合物が得られた。実施例1、2で得られた化合物を用いたベシクルは、光異性化によりベシクルの構造が変化することが明らかとなった。
【0140】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
【0141】
以上、本実施形態を詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本開示に含まれるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8