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特許7602263電子機能部材、歪みセンサ及び電子機能部材の製造方法
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  • 特許-電子機能部材、歪みセンサ及び電子機能部材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】電子機能部材、歪みセンサ及び電子機能部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/06 20060101AFI20241211BHJP
   H01B 5/02 20060101ALI20241211BHJP
   G01N 27/04 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
H01B7/06
H01B5/02 A
G01N27/04 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021512326
(86)(22)【出願日】2020-04-03
(86)【国際出願番号】 JP2020015353
(87)【国際公開番号】W WO2020204171
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】62/828,555
(32)【優先日】2019-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 未来社会創造事業、研究題目「スーパーバイオイメージャーの設計・試作・評価」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141955
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100085419
【弁理士】
【氏名又は名称】大垣 孝
(72)【発明者】
【氏名】染谷 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】宮本 明人
(72)【発明者】
【氏名】王 燕
(72)【発明者】
【氏名】松葉 頼重
(72)【発明者】
【氏名】川島 伊久衞
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108074660(CN,A)
【文献】特開2016-112246(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105527014(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107447539(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/06
H01B 5/02
G01N 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維網を構成する、ポリウレタンを材料として網状に形成された繊維と、
前記繊維を被覆する、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を材料として形成され被覆膜と、
前記被覆膜の表面に形成される導電膜とを備えることを特徴とする電子機能部材。
【請求項2】
前記繊維の直径は、100nm~1μmの範囲内であり、
前記被覆膜の膜厚は、30nm~300nmの範囲内である
ことを特徴とする請求項1に記載の電子機能部材。
【請求項3】
前記繊維網は、シート状に形成され、
前記導電膜は、前記繊維網の一方の主表面側に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電子機能部材。
【請求項4】
前記導電膜は、前記繊維網の双方の主表面側に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電子機能部材。
【請求項5】
検出部、測定部、及び、出力部を備え、
前記検出部は、測定対象物に取り付けられ、測定対象物の形状又はその変化に応じて電気抵抗値が変化する部分であり、
前記測定部は、前記検出部の電気抵抗値を測定し、その電気抵抗値を前記出力部に送り、
前記出力部は、前記測定部から受け取った電気抵抗値に基づいて、所定の信号を出力し、
前記検出部は、請求項1~のいずれか一項に記載の電子機能部材を備えて構成されることを特徴とする歪みセンサ。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の電子機能部材を製造する方法であって、
前記繊維網を、エレクトロスピニング法で形成する工程と、
前記被覆膜を、ディップコーティングにより形成する工程と、
前記導電膜を、真空蒸着により形成する工程と
を備えることを特徴とする電子機能部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子機能部材、及び、電子機能部材を用いて構成される歪みセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フレキシブルエレクトロニクスは、素材の軟らかさから様々な応用用途を有し、高い注目を集めている。中でも、世界的な社会の高齢化に伴い、ヘルスケア分野への関心が高まっている。例えば、人体の表面や体内への装着により、細胞や組織から直接生体情報を得る手段として注目を集めている。
【0003】
一般に、フレキシブルエレクトロニクスは、フレキシブルな基材上にエレクトロニクスデバイスを形成することで作製されるが、その柔軟性は十分とは言えない。そのため、表面追従性が十分とは言えず、高い精度の情報を得ることや装着時の違和感等を十分に低減することができない。
【0004】
このような問題を解決するために、エレクトロスピニング法で、水溶性のポリビニルアルコール(PVA)からなるナノファイバーの繊維網を形成し、その上に金を蒸着して電極層を形成することで、表面追従性、横方向への伸張性、ガスや水分の透過性、透明性が十分高い電子機能部材が提案されている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Akihito Miyamoto et.al.,Nature Nanotechnology 12,907(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の従来技術の電子機能部材を皮膚に直接貼り付けて使用する場合、耐伸縮性に改善の余地がある。
【0007】
そこで、この出願に係る発明者らが鋭意検討したところ、1種類の樹脂で構成された繊維網を、他の樹脂で被覆する構成にすることにより、耐伸縮性が改善されることを見出した。
【0008】
この発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、この発明の目的は、耐伸縮性が改善された電子機能部材、及び、歪みセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するために、この発明の電子機能部材は、繊維網を構成する、網状に形成された繊維と、繊維を被覆する、繊維よりもヤング率が低い被覆膜と、被覆膜の表面に形成される導電膜とを備えて構成される。
【0010】
また、この発明の歪みセンサは、検出部、測定部、及び、出力部を備え、検出部は、測定対象物に取り付けられ、測定対象物の形状又はその変化に応じて電気抵抗値が変化する部分であり、測定部は、検出部の電気抵抗値を測定し、その電気抵抗値を前記出力部に送り、出力部は、測定部から受け取った電気抵抗値に基づいて、所定の信号を出力する。
【発明の効果】
【0011】
この発明の電子機能部材及び歪みセンサによれば、1種類の樹脂で構成された繊維網を、他の樹脂で被覆する構成にすることにより、耐伸縮性が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ナノメッシュ電極を説明するための模式図である。
図2】耐伸縮性の評価結果を示す図(1)である。
図3】耐伸縮性の評価結果を示す図(2)である。
図4】歪みセンサの概略構成図である。
図5】SPMで得られたナノメッシュ電極の画像である。
図6】ナノメッシュ電極の電気抵抗値の変化の測定について説明するための図である。
図7】電気抵抗値の測定方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図を参照して、この発明の実施形態について説明するが、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係については、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更又は変形を行うことができる。
【0014】
(ナノメッシュ電極)
図1を参照して、この発明に係る電子機能部材としてナノメッシュ電極を説明する。図1は、ナノメッシュ電極を説明するための模式図である。図1(A)~(C)は、ナノメッシュ電極の模式的な構成図であり、図1(D)~(F)は、ナノメッシュ電極の繊維の模式的な断面図である。
【0015】
電子機能部材は、網状に設けられて、シート状の繊維網10を構成する繊維20と、繊維20を被覆する被覆膜30と、被覆膜30の表面に形成される導電膜40とを備えて構成される。
【0016】
繊維20を構成する芯材料として、ポリウレタンが用いられる。この場合、繊維網10は、13重量%のポリウレタン溶液を用いたエレクトロスピニング法で形成される。このポリウレタン溶液の溶媒として、例えば、N, N-dimethylformamideとmethyl ethyl ketoneの7:3混合溶液が用いられる。また、繊維網10の形成にあたり、エレクトロスピニング法の条件は、30分のスピニング時間、25kVの印加電圧、及び、1ml/hourの吐出レートとすることができる。エレクトロスピニング法を実施した後、1分間の紫外線(UV)オゾン処理を施し、繊維網10が得られる(図1(A)及び(D)参照)。
【0017】
なお、繊維20、この例では、ポリウレタンファイバーの直径は、100nm~1μmの範囲内であることが好ましく、200nm~700nmの範囲内であることがより好ましい。この場合、ポリウレタンファイバーは、いわゆる、ナノファイバーである。また、ポリウレタンのヤング率は、100MPa~700MPaであり、比較的ヤング率が高い。
【0018】
ここでは、芯材料としてポリウレタンを用いる例を説明したが、これに限定されない。芯材料として、エレクトロスピニング法によりナノファイバーの繊維網を形成できるものであればよい。ヤング率が非常に低い材料では、ナノファイバーの繊維網を作成しにくいためである。芯材料として、ポリウレタンの他に、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)誘導体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などを用いることができる。
【0019】
被覆膜30を構成する被覆材料として、シリコーン樹脂、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)が用いられる。この場合、被覆膜30は、繊維に対してPDMS溶液を用いたディップコーティングを施すことにより形成される。このPDMS溶液は、PDMS前駆体(プリカーサー)を、ヘキサン(hexane)で溶解させて得られる。PDMSプリカーサーとヘキサンの重量比は、例えば1:100である。
【0020】
被覆膜30の膜厚は、30nm~300nmの範囲内であることが好ましく、70nm~150nmの範囲内であることがより好ましい。また、PDMSのヤング率は、一般的には4MPa~40MPaであり、比較的ヤング率が低い(図1(B)及び(E)参照)。
【0021】
ここでは、被覆材料として、PDMSを用いる例を説明したが、これに限定されない。被覆材料としては、ヤング率が低い材料が好ましい。被覆材料として、PDMSの他に、例えば、エチレン酢酸ビニル(EVA)樹脂などを用いることができる。
【0022】
導電膜40を構成する導電部材として、金(Au)が用いられる。この場合、繊維20に被覆膜30を形成した被覆済繊維網11に対して、Auを真空蒸着することにより導電膜40が形成される。ここで、導電膜40を、シート状の被覆済繊維網11の両面側から形成すると、被覆膜30で被覆された繊維20の全面に導電膜40が形成される。この結果、ナノメッシュ電極12が得られる。
【0023】
ここで、図1(C)では、ナノメッシュ電極12の両面に導電膜40が設けられているが、これは、導電膜40が形成される面を示すために、便宜的に記載したものである。また、他の図においても、導電膜40が形成される面を示すために、便宜的に記載することがある。なお、導電膜40を、シート状の被覆済繊維網11の片面側からのみ形成してもよい。
【0024】
導電膜40の膜厚は、30nm~300nmの範囲内であることが好ましく、70nm~150nmであることがより好ましい。
【0025】
ここでは、導電部材として、Auを用いる例を説明したが、これに限定されない。導電部材としては、Auの他に、銀(Ag)、チタン(Ti)、白金(Pt)などを用いることができる。また、導電膜の形成方法は、真空蒸着に限定されない。導電膜の形成方法として、スパッタリング法や、上記導電部材の分散液を用いた、スピンコート、スリットコート、又は、スクリーン印刷を用いることができる。
【0026】
(耐伸縮性の評価)
図2及び図3を参照して、ナノメッシュ電極の耐伸縮性の評価を説明する。図2及び図3は、耐伸縮性の評価結果を示す図である。
【0027】
耐伸縮性の評価は、以下のように行われる。先ず、ガラス基板上に、PDMS層を200μmの厚みで形成する。次に、PDMS層上に、接着層を形成する。接着層は、液体状のPDMSを100nmの厚みでスピンコーティング法を施すことにより形成される。次に、接着層上に、評価対象のナノメッシュ電極を貼り付ける。液体状のPDMSが乾燥した後、ガラス基板を剥離する。このようにして得られた、200μmの厚みのPDMS層に貼り付けられたナノメッシュ電極の耐伸縮性を評価した。
【0028】
図2(A)では、横軸に、ナノメッシュ電極の伸び(%)を取って示し、縦軸に、電気抵抗の変化率ΔR/R(%)を取って示している。ここで、伸びが60%とは、伸張させる前の初期状態の、ナノメッシュ電極の伸張方向の長さが60%増加すること、すなわち、1.6倍になっていることを意味する。
【0029】
図2(A)は、繊維網の構成の違いを表している。図2(A)中、曲線Iは、PVA誘導体で繊維を構成し、被覆膜を設けない場合を示し、曲線IIは、芯材料をポリウレタン(PU)、被覆材料をPDMSとした場合を示し、曲線IIIは、芯材料をポリウレタン、被覆材料をポリパラキシレン(parylene)とした場合を示し、曲線IVは、ポリウレタンで繊維を構成し、被覆膜を設けない場合を示している。
【0030】
ここで、ポリパラキシレンのヤング率は、2GPa~3GPaであり、ポリウレタンよりもヤング率が高い。
【0031】
曲線I~IVのいずれの場合も、伸びが大きくなると抵抗値は、少しずつ増加する。PVA誘導体で繊維を構成した場合(曲線I)、伸びが50%付近で急激に抵抗値が増加する、すなわち、断線する。一方、繊維をポリウレタンで構成した場合(曲線II~IV)、伸びが150%付近又はそれ以上となったとき、急激に抵抗値が増加する。このように、繊維をポリウレタンで構成すると、繊維をPVA誘導体で構成する場合に比べて耐伸縮性が向上する。
【0032】
図2(B)~(E)は、それぞれ、図2(A)の曲線I~IVに対応するナノメッシュ電極において、伸縮サイクル試験を行った結果を示している。図2(B)~(E)では、横軸に繰り返し周期を100サイクル(100 cycles)単位で取って示し、縦軸に、電気抵抗の変化率ΔR/R(%)を取って示している。ここでは、伸張(30%)と開放(0%)とを繰り返している。
【0033】
図2(B)のPVA誘導体で繊維を構成する場合、及び、図2(D)の芯材料をポリウレタン、被覆材料をポリパラキシレン(parylene)とした場合は、繰り返し周期ごとに電気抵抗の変化率ΔR/R(%)が変動している。また、図2(E)のポリウレタンで繊維を構成し、被覆膜を設けない場合は、繰り返し周期ごとの電気抵抗の変化率ΔR/R(%)の変動は小さいが、回数が増えるにつれて、電気抵抗の変化率ΔR/R(%)の値が大きくなっている。
【0034】
これに対し、図2(C)の芯材料をポリウレタン(PU)、被覆材料をPDMSとした場合は、繰り返し周期ごとの電気抵抗の変化率ΔR/R(%)の変動は小さく、さらに、回数が増えても、電気抵抗の変化率ΔR/R(%)はほぼ一定である。
【0035】
このように、芯材料をポリウレタン(PU)、被覆材料をPDMSとすることで、優れた耐伸縮性が示されている。
【0036】
図3では、芯材料をポリウレタン(PU)、被覆材料をPDMSとしたナノメッシュ電極において、シート状の被覆済繊維網の両面に導電膜を設けた場合(I)と、シート状の被覆済繊維網の片面にのみ導電膜を設けた場合(II)を示している。
【0037】
両面に導電膜を設けた場合(I)及び片面にのみ導電膜を設けた場合(II)のいずれの場合も、伸びが大きくなると抵抗値は、少しずつ増加する。片面にのみ導電膜を設けた場合(II)は、伸びが60%付近で、急激に抵抗値が増加する、すなわち、断線する。一方、両面に導電膜を設けた場合(II)は、伸びが150%付近まで、抵抗値が少しずつ増加し、伸びが150%を超えるあたりで、急激に抵抗値が増加する。このように、両面に導電膜を設けると、片面にのみ導電膜を設ける場合よりも、優れた耐伸縮性が得られる。
【0038】
(ナノメッシュ電極の貼付け方法)
この発明に係る電子機能部材であるナノメッシュ電極は、水溶性の材質で繊維を形成していない。このため、単にナノメッシュ電極を測定対象物の皮膚などの表面に置いた後、水蒸気暴露を行うだけでは、貼り付けることができない。
【0039】
ナノメッシュ電極の皮膚への貼付け方法の例として、3つの方法を説明する。
【0040】
第1の方法では、10重量%のPVA水溶液を皮膚に塗り、PVAが乾燥する前に、PVA上にナノメッシュ電極を貼り付ける。第2の方法では、PVAを樹脂材料とする繊維網をエレクトロスピニング法により形成した後、ナノメッシュ電極を積層する。その後、PVAの繊維網を皮膚に接するように設置し、水蒸気暴露を行う。この方法では、PVAを樹脂材料とする繊維網の一部又は全部が水溶することを利用して、皮膚に貼り付ける。第3の方法では、10重量%のPVA水溶液を用いた500rpmのスピンコート法によりPVAフィルムを製作し、このPVAフィルムを皮膚に貼る。PVAフィルム上にナノメッシュ電極を置き、第2の方法と同様に水蒸気暴露を行う。この第1~第3の方法により、ナノメッシュ電極を皮膚に貼り付けることができる。
【0041】
(歪みセンサ)
図4を参照して、このナノメッシュ電極を用いた歪みセンサについて説明する。図4は、歪みセンサの概略構成図である。
【0042】
歪みセンサは、例えば、検出部110、測定部120、及び、出力部130を備えて構成される。検出部110は、測定対象物200に取り付けられ、測定対象物200の形状又はその変化に応じて電気抵抗値が変化する部分である。測定部120は、検出部110の電気抵抗値を測定し、その電気抵抗値を出力部130に送る。出力部130は、測定部120から受け取った電気抵抗値に基づいて、所定の信号を出力する。測定部120及び出力部130については、当業者が、任意好適に構成することができるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0043】
検出部110は、ナノメッシュ電極で構成される。以下の説明では、検出部とナノメッシュ電極を同じ符号110を付す場合がある。
【0044】
ナノメッシュ電極110では、非導電性の繊維の表面に導電膜40が形成されている。また、繊維が網状の繊維網を構成している。この場合、ナノメッシュ電極110が伸張されると、単位面積当たりの、繊維が占める面積(以下、繊維密度と称する。)が減少するので、導電膜の接触点の数が減少する。導電膜の接触点の数が減少すれば、電気抵抗が大きくなる。一方、ナノメッシュ電極110が圧縮されると、繊維密度が増加するので、導電膜の接触点の数が増える。導電膜の接触点の数が増加すれば、電気抵抗が小さくなる。
【0045】
このように、ナノメッシュ電極110の伸縮により、電気抵抗が変化する。従って、ナノメッシュ電極110を測定対象物200に貼り付けて、電気抵抗を測定することにより、対象物の形状及びその変化を計測できる。
【0046】
従来の歪みセンサでは、柔らかいもの、又は、曲面などの非平面の形状や、その変化を測定することができない。このため、筋肉などの生体の動きに対しても追従が難しく、測定が困難である。
【0047】
これに対し、この実施形態の歪みセンサによれば、測定対象物200に取り付けられる検出部110が繊維網で構成されているので、生体の表面などの柔らかく、非平面の測定対象物についても、その形状や、その変化を測定することができる。
【0048】
歪みセンサの検出部110として用いられるナノメッシュ電極の、厚み依存性について説明する。ここでは、厚み依存性を評価するために、PVA誘導体を材料とした、ナノメッシュ電極を用いる。
【0049】
厚さ7μmのナノメッシュ電極と、厚さ10μmのナノメッシュ電極の2種類を作成した。ナノメッシュ電極を構成する繊維(ナノファイバー)の直径が約500nmであるので、厚さ7μmのナノメッシュ電極では約14層、厚さ10μmのナノメッシュ電極では約20層の層構造となる。
【0050】
また、厚さ7μmと厚さ10μmのナノメッシュ電極のそれぞれについて、厚さ50nmの導電膜と、厚さ75μmの導電膜の2種類を作成した。
【0051】
作成したナノメッシュ電極について、走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)を用いて、微視的な導通状態を観察した。
【0052】
図5は、SPMで得られたナノメッシュ電極の画像である。図5(A)は、通常の測定モードの画像であり、図5(B)は、電気抵抗の測定の参照となる参照領域の導電膜と、被測定対象となるナノメッシュ電極の導電膜とが導通している領域を示す画像である。
【0053】
図5(A)及び図5(B)を比較すると、参照領域と導通する導電膜と、参照領域と導通していない導電膜が存在することがわかる。導通していない導電膜は、ある繊維が表面側に存在する他の繊維の陰になり、導電膜が蒸着されておらず、上限の繊維の導電膜が導通していないためと考えられる。
【0054】
図6を参照して、ナノメッシュ電極に応力を印加した場合の、電気抵抗値の変化について説明する。図6は、ナノメッシュ電極の電気抵抗値の変化の測定について説明するための図である。図6(A)は、測定系の模式図であり、図6(B)及び(C)は、電気抵抗値の変化を表示するオシロスコープの画面を示している。
【0055】
ここでは、ナノメッシュ電極110に、100Ωの固定抵抗140を直列につなぎ、固定抵抗のナノメッシュ電極110と接続されていない一端に電圧を印加し、ナノメッシュ電極110の固定抵抗140と接続されていない一端を接地し、固定抵抗140の他端と、ナノメッシュ電極110の他端とを接続して、この固定抵抗140とナノメッシュ電極110の接続箇所の電圧を測定した。
【0056】
図6(B)は、ナノメッシュ電極に圧縮応力と引張応力を繰り返し印加した場合の電圧変化を示し、図6(C)は、ナノメッシュ電極を繰り返しねじった場合の電圧変化を示している。
【0057】
図6(B)及び(C)に示されるように、ナノメッシュ電極に、様々な応力を印加することにより、測定される電圧が変化すること、すなわち、ナノメッシュ電極の抵抗が変化していることがわかる。
【0058】
図7及び表1を参照して、引張応力と圧縮応力をそれぞれ印加したときの電気抵抗値について説明する。図7は、電気抵抗値の測定方法を説明するための模式図である。
【0059】
【表1】
【0060】
表1は、厚さ7μmと厚さ10μmのナノメッシュ電極のそれぞれについて、厚さ50nmの導電膜と、厚さ75μmの導電膜の2種類を作成したナノメッシュ電極の圧縮応力及び引張応力の印加時の電気抵抗値を示している。
【0061】
ここでは、繊維網の一方の主表面側にのみ導電膜を設けている。ナノメッシュ電極を幅5mm、長さ30mmの長方形状に切り出し、半径20mmの円柱210と密着させた。導電膜40を設けた面を円柱210に密着させることで、導電膜40が形成された側の繊維網12に圧縮応力を印加する(図7(A)参照)。また、導電膜40を設けた面の反対側の面を円柱210に密着させることで、導電膜40が形成された側の繊維網12に引張応力を印加している(図7(B)参照)。
【0062】
いずれのナノメッシュ電極においても、圧縮応力を印加した場合に比べて、引張応力を印加した場合は、電気抵抗値が35%~40%程度上昇している。従って、このナノメッシュ電極は、歪みセンサの検出部として有用であることがわかる。
【0063】
歪みセンサの検出部として、上述の耐伸縮性に優れるナノメッシュ電極を用いることができるが、これに限定されない。任意好適な従来公知のナノメッシュ電極を検出部に用いてもよい。
【符号の説明】
【0064】
10 繊維網
11 被覆済繊維網
12 ナノメッシュ電極
20 繊維
30 被覆膜
40 導電膜
110 検出部(ナノメッシュ電極)
120 測定部
130 出力部
140 固定抵抗
200 測定対象物
210 円柱
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7