(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20241211BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20241211BHJP
【FI】
H01L21/304 622A
B24B37/00 H
(21)【出願番号】P 2020212274
(22)【出願日】2020-12-22
【審査請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田邉 誼之
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/093450(WO,A1)
【文献】特表2014-505358(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150158(WO,A1)
【文献】特開2018-049980(JP,A)
【文献】特開2011-258825(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウェーハを研磨するために用いられる研磨用組成物であって、
最高被占軌道(HOMO)のエネルギー準位が-9.50eV以上である含窒素有機化合物と、
水と、
を含
み、
前記含窒素有機化合物は、飽和炭化水素環基または窒素原子を1個含む飽和複素環基を有する化合物である、研磨用組成物。
【請求項2】
砥粒をさらに含む、請求項
1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記砥粒はコロイダルシリカである、請求項
2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記含窒素有機化合物以外の塩基性化合物をさらに含む、請求項1~
3のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
シリコンウェーハの研磨方法であって、請求項1~
4のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて研磨する研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン、ステンレス鋼等の金属もしくは半導体、またはこれらの合金;炭化ケイ素、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム等の化合物半導体ウェーハ材料等は、平坦化などの各種要求により研磨がなされ、各種分野で応用されている。
【0003】
高平坦でキズや不純物の無い高品質な鏡面を有するミラーウェーハは、集積回路等の半導体素子に用いられるが、このミラーウェーハを作製するための単結晶シリコン基板(シリコンウェーハ)を研磨する技術については、様々な研究がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1では、コロイダルシリカ、弱酸塩、および第4級アンモニウム化合物を含む研磨用組成物であって、弱酸塩および第4級アンモニウム化合物の含有量が特定の範囲である研磨用組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、さらなる研磨速度の向上が求められていた。
【0007】
したがって、本発明は、シリコンウェーハの研磨において、高い研磨速度を実現できる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、シリコンウェーハを研磨するために用いられる研磨用組成物であって、最高被占軌道(HOMO)のエネルギー準位が-9.50eV以上である含窒素有機化合物と、水と、を含む、研磨用組成物によって解決される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シリコンウェーハの研磨において、高い研磨速度を実現できる手段が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下の範囲)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で測定する。
【0011】
以下、本発明の研磨用組成物につき、詳細を説明する。
【0012】
〔研磨用組成物〕
本発明の一形態は、シリコンウェーハを研磨するために用いられる研磨用組成物であって、最高被占軌道(HOMO)のエネルギー準位(以下、単に「HOMO準位」とも称する)が-9.50eV以上である含窒素有機化合物と、水と、を含む、研磨用組成物である。かような本発明の研磨用組成物によれば、シリコンウェーハを高い研磨速度で研磨することができる。
【0013】
本発明の研磨用組成物により上記効果が得られる作用機序は不明であるが、以下のように考えられる。本発明に係る含窒素有機化合物は、HOMO準位が-9.50eV以上であり、窒素原子の非共有電子対は高い求核性を有する。この非共有電子対が、シリコンウェーハ表面に求核攻撃をすることにより、シリコンウェーハのケイ素-ケイ素結合は弱くなる。これにより、シリコンウェーハの膜表面(すなわち研磨面)が脆化するため、シリコンウェーハの研磨速度が向上すると考えられる。
【0014】
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本願の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
【0015】
[研磨対象物]
本発明に係る研磨用組成物は、シリコンウェーハを研磨する用途に用いられる。ここで、シリコンウェーハは、単結晶シリコン基板や、多結晶シリコン基板のように単体シリコンからなるものであってもよいし、単体シリコンからなる層とそれ以外の層とで構成されるものであってもよい。またシリコンウェーハは、不純物程度の含有量でシリコン以外の元素が含まれることは許容される。したがって、上記シリコンウェーハは、ホウ素等のp型ドーパントや、リン等のn型ドーパントを含んでいてもよい。シリコンウェーハの結晶方位も特に制限されず、<100>、<110>、<111>のいずれであってもよい。また、シリコンウェーハの抵抗率にも特に制限はない。シリコンウェーハの厚さは、例えば600~1000μmであるが、特に限定されるものではない。シリコンウェーハの口径も制限されず、どのような口径のウェーハにも適応可能である。
【0016】
次に、本発明の研磨用組成物の構成成分について説明する。
【0017】
[含窒素有機化合物]
本発明に係る研磨用組成物は、HOMO準位が-9.50eV以上である含窒素有機化合物を含む。当該含窒素有機化合物は、シリコンウェーハ表面に求核攻撃を行い、シリコンウェーハのケイ素-ケイ素結合は弱くなる。これにより、シリコンウェーハの膜表面(すなわち研磨面)が脆化するため、シリコンウェーハの研磨速度が向上すると考えられる。
【0018】
本明細書において、HOMO準位は、半経験的分子軌道法プログラムMOPACのハミルトニアンであるPM7法(Parametric Method 7)を用いて算出される値を採用する。
【0019】
含窒素有機化合物のHOMO準位が-9.50eV未満の場合、シリコンウェーハの研磨速度が低下する。当該HOMO準位は、好ましくは-9.30eV以上、より好ましくは-9.20eV以上である。HOMO準位の上限は特に制限されないが、通常0eV以下である。
【0020】
上記含窒素有機化合物に含まれる窒素原子の数は1以上であればよく、特に限定されない。ここに開示される技術において、上記含窒素有機化合物としては、分子中に窒素原子を1以上10以下含むものを好ましく使用することができる。上記含窒素有機化合物に含まれる窒素原子の数の下限は、1以上であってもよく、2以上であってもよく、3以上であってもよく、4以上であってもよい。上記含窒素有機化合物に含まれる窒素原子の数の上限は、10以下であってもよく、8以下であってもよく、6以下であってもよく、5以下であってもよく、4以下であってもよい。
【0021】
ここで、含窒素有機化合物に含まれる窒素原子は飽和複素環内にあってもよいし、飽和複素環外にあってもよい。飽和複素環内に含まれる窒素原子の数の下限は、1以上であってもよく、2以上であってもよく、3以上であってもよく、4以上であってもよい。飽和複素環内に含まれる窒素原子の数の上限は、5以下であってもよく、4以下であってもよく、3以下であってもよく、2以下であってもよい。飽和複素環外に含まれる窒素原子の数の下限は、1以上であってもよく、2以上であってもよく、3以上であってもよく、4以上であってもよい。飽和複素環外に含まれる窒素原子の数の上限は、5以下であってもよく、4以下であってもよく、3以下であってもよく、2以下であってもよい。
【0022】
本発明において用いられる含窒素有機化合物の例を以下に示す。なお、カッコ内の数値は、HOMO準位の値である。
【0023】
ジエチルアミン(-8.91eV)、エチレンジアミン(-9.45eV)、1-(3-アミノプロピル)イミダゾール(-9.42eV)、ピペラジン(-8.96eV)、N-(2-アミノエチル)ピペラジン(-8.90eV)、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン(-8.59eV)、4-アミノピペリジン(-9.17eV)、シス-1,2-シクロヘキサンジアミン(-9.13eV)、1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)(-8.65eV)、トリエチレンテトラミン(-8.87eV)、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ-7-エン(DBU)(-8.55eV)、1,5-ジアザビシクロ[4,3,0]ノン-5-エン(DBN)(-8.70eV)、キヌクリジン(1-アザビシクロ[2,2,2]オクタン)(-8.91eV)、ホモキヌクリジン(1-アザビシクロ[3,2,2]ノナン)(-8.57eV)、グラナタン(9-メチル-9-アザビシクロ[3,3,1]ノナン)(-8.50eV)等が挙げられる。
【0024】
上記含窒素有機化合物は、1種単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。また、上記含窒素有機化合物は市販品を用いてもよいし、合成品を用いてもよい。
【0025】
これら含窒素有機化合物の中でも、飽和炭化水素環基または窒素原子を1個含む飽和複素環基を有する化合物が好ましい。このような化合物は、不飽和結合を有しないことで窒素原子上の孤立電子対の電子局在化により、シリコンウェーハ表面への求核攻撃がより効率的に起こると考えられる。よって、シリコンウェーハの研磨速度がさらに高くなると考えられる。
【0026】
飽和炭化水素環基または窒素原子を1個含む飽和複素環基を有する化合物は、単環式化合物であってもよいし、多環式化合物であってもよい。多環式化合物の環同士の結合の形式は、環集合、架橋、縮合、スピロ縮合等、特に制限されない。
【0027】
上記飽和炭化水素環の例としては、例えば、シクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環、ノルボルナン環、ボルナン環、アダマンタン環、テトラヒドロナフタレン環、ビシクロ[2.2.2]オクタン環等が挙げられる。
【0028】
上記窒素原子を1個含む飽和複素環の例としては、例えば、アゼチジン環、ピロリジン環、モルホリン環、チオモルホリン環、ピペリジン環、ヘキサヒドロアゼピン環、アザビシクロ[3.2.1]オクタン環、1,4-ヘキサヒドロオキサゼピン環、オクタヒドロアゾシン環、オクタヒドロインドール環、3-アザビシクロ[3.1.0]ヘキサン環、1-アザビシクロ[2,2,2]オクタン環、1-アザビシクロ[3,2,2]ノナン環、9-アザビシクロ[3,3,1]ノナン環等が挙げられる。
【0029】
飽和炭化水素環基または窒素原子を1個含む飽和複素環基を有する含窒素有機化合物のより具体的な例としては、例えば、4-アミノピペリジン(-9.17eV)、シス-1,2-シクロヘキサンジアミン(-9.13eV)、キヌクリジン(1-アザビシクロ[2,2,2]オクタン)(-8.91eV)、ホモキヌクリジン(1-アザビシクロ[3,2,2]ノナン)(-8.57eV)、グラナタン(9-メチル-9-アザビシクロ[3,3,1]ノナン)(-8.50eV)等が挙げられる。
【0030】
研磨用組成物がそのまま研磨液として用いられる場合、上記含窒素有機化合物の含有量(濃度)の下限は、研磨用組成物全量に対して、0.20mM(Mはmol/L)以上であることが好ましく、0.50mM以上であることがより好ましく、1.00mM以上であることがさらに好ましい。また、研磨用組成物がそのまま研磨液として用いられる場合、上記含窒素有機化合物の含有量(濃度)の上限は、研磨用組成物全量に対して、10.0mM以下であることが好ましく、5.0mM以下であることがより好ましく、3.0mM以下であることがさらに好ましい。このような含有量の範囲であれば、シリコンウェーハを高い研磨速度で研磨することができる。
【0031】
また、研磨用組成物が希釈して研磨に用いられる場合、すなわち該研磨用組成物が濃縮液である場合、含窒素有機化合物の含有量の上限は、保存安定性等の観点から、研磨用組成物全量に対して、100mM以下であることが好ましく、50mM以下であることがより好ましい。また、濃縮液とすることの利点を活かす観点から、含窒素有機化合物の含有量の下限は、研磨用組成物全量に対して、10mM以上であることが好ましく、20mM以上であることがより好ましい。
【0032】
なお、含窒素有機化合物を2種以上組み合わせて用いる場合は、上記の含有量は2種以上の含窒素有機化合物の合計含有量を指す。
【0033】
含窒素有機化合物の含有量は、研磨用組成物に含まれる砥粒との相対的関係によっても特定され得る。具体的には、研磨用組成物における含窒素有機化合物の含有量は、砥粒100質量部に対して凡そ0.01質量部以上とすることが適当であり、研磨速度向上の観点から、好ましくは凡そ0.1質量部以上、より好ましくは凡そ0.5質量部以上(例えば凡そ0.6質量部以上)である。また、研磨面の品質向上の観点から、含窒素有機化合物の含有量は、砥粒100質量部に対して凡そ10質量部以下とすることが適当であり、好ましくは凡そ5質量部以下、より好ましくは凡そ3質量部以下(例えば凡そ2.5質量部以下)である。
【0034】
また、含窒素有機化合物の含有量は、研磨用組成物に含まれる塩基性化合物の含有量との相対的関係によっても特定され得る。具体的には、塩基性化合物の含有量(CB)に対する含窒素有機化合物の含有量(CN)の比(CN/CB)は、0.001以上とすることが適当であり、研磨速度向上の観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上(例えば0.1以上)である。また、研磨面の品質向上の観点から、上記比(CN/CB)は、1000以下とすることが適当であり、好ましくは200以下、より好ましくは100以下であり、20以下(例えば10以下)でもよい。
【0035】
[水]
本発明に係る研磨用組成物は、各成分を分散または溶解するために分散媒として水を含む。水は、シリコンウェーハの汚染や他の成分の作用を阻害するのを防ぐ観点から、不純物をできる限り含有しないことが好ましい。このような水としては、例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、例えば、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水などを用いることが好ましい。
【0036】
各成分の分散または溶解のために、水と有機溶媒とを併用してもよく、有機溶媒は単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。この場合、用いられる有機溶媒としては、水と混和する有機溶媒であるアセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。また、これらの有機溶媒を水と混合せずに用いて、各成分を分散または溶解した後に、水と混合してもよい。
【0037】
[砥粒]
本発明の研磨用組成物は、砥粒を含むことが好ましい。研磨用組成物中に含まれる砥粒は、シリコンウェーハを機械的に研磨する作用を有する。
【0038】
本発明に使用される砥粒は、1種単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。砥粒としては、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子のいずれであってもよい。無機粒子の具体例としては、例えば、シリカ、アルミナ、セリア、チタニア等の金属酸化物からなる粒子、窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子が挙げられる。有機粒子の具体例としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子が挙げられる。また、該砥粒は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。なお、本明細書において特にことわりの無い限り、砥粒は表面修飾されていないものを指す。
【0039】
これら砥粒の中でも、シリカが好ましく、特に好ましいのはコロイダルシリカである。
【0040】
砥粒の平均一次粒子径の下限は、10nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましく、30nm以上であることがさらに好ましく、40nm以上であることがさらにより好ましく、50nm以上であることが特に好ましい。かような範囲であれば、高い研磨速度を維持できるため、粗研磨工程において好適に使用できる。また、砥粒の平均一次粒子径の上限は、200nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。いくつかの態様において、平均一次粒子径は75nm以下でもよく、60nm以下でもよい。かような範囲であれば、研磨後のシリコンウェーハの表面に欠陥が生じるのをより抑えることができる。なお、砥粒の平均一次粒子径は、例えば、BET法で測定される砥粒の比表面積に基づいて算出される。
【0041】
砥粒の平均二次粒子径の下限は、15nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましく、40nm以上であることがさらに好ましく、50nm以上であることがさらにより好ましく、60nm以上(例えば80nm以上)であることが特に好ましい。かような範囲であれば、高い研磨速度を維持することができる。また、砥粒の平均二次粒子径の上限は、300nm以下であることが好ましく、260nm以下であることがより好ましく、220nm以下であることがさらに好ましく、150nm以下(例えば130nm以下)であることが特に好ましい。かような範囲であれば、研磨後のシリコンウェーハの表面に欠陥が生じるのをより抑えることができる。砥粒の平均二次粒子径は動的光散乱法により測定することができる。例えば、大塚電子株式会社製の型式「FPAR-1000」またはその相当品を用いて測定することができる。
【0042】
砥粒の平均会合度は1.2以上であることが好ましく、1.4以上であることがより好ましく、1.5以上であることがさらに好ましい。ここで平均会合度とは砥粒の平均二次粒子径の値を平均一次粒子径の値で除することにより得られる。砥粒の平均会合度は1.2以上であると、研磨速度が向上する有利な効果があり、好ましい。また、砥粒の平均会合度は4以下であることが好ましく、より好ましくは3.5以下、さらに好ましくは3以下である。砥粒の平均会合度が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨することによる表面欠陥の少ない研磨面が得られやすい。
【0043】
研磨用組成物がそのまま研磨液として用いられる場合、砥粒の含有量は、研磨用組成物に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.4質量%以上であることがより好ましく、1.0質量%以上であることがさらに好ましい。砥粒の含有量の増大によって、研磨速度が向上する。また、研磨用組成物がそのまま研磨液として用いられる場合、スクラッチ防止等の観点から、砥粒の含有量は、通常は10質量%以下が適当であり、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。砥粒の含有量を少なくすることは、経済性の観点からも好ましい。
【0044】
また、研磨用組成物が希釈して研磨に用いられる場合、すなわち該研磨用組成物が濃縮液である場合、砥粒の含有量は、保存安定性や濾過性等の観点から、通常は、研磨用組成物に対して、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。また、濃縮液とすることの利点を活かす観点から、砥粒の含有量は、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。
【0045】
なお、砥粒を2種以上組み合わせて用いる場合は、上記の含有量は2種以上の砥粒の合計含有量を指す。
【0046】
[塩基性化合物]
本発明に係る研磨用組成物は、塩基性化合物を含むことが好ましい。本明細書において、塩基性化合物とは、研磨用組成物に添加されることによって該組成物のpHを上昇させる機能を有する化合物であって、上記のHOMO準位が-9.50eV以上である含窒素有機化合物以外の化合物を指す。塩基性化合物は、研磨対象となる面を化学的に研磨する働きをし、研磨速度の向上に寄与し得る。また、塩基性化合物は、研磨用組成物の分散安定性の向上に役立ち得る。
【0047】
本発明で使用される塩基性化合物は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。塩基性化合物としては、窒素を含む無機の塩基性化合物、アルカリ金属または第2族金属の水酸化物、各種の炭酸塩や炭酸水素塩;水酸化第四級アンモニウムまたはその塩;アンモニア、アミン等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。炭酸塩または炭酸水素塩の具体例としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。水酸化第四級アンモニウムまたはその塩の具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。アミンの具体例としては、ヘキサメチレンテトラミン;イミダゾールやトリアゾール等のアゾール類;ピリジン等が挙げられる。
【0048】
研磨速度向上等の観点から、好ましい塩基性化合物として、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。なかでもより好ましいものとして、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、および炭酸カリウムからなる群より選択される少なくとも1種が例示される。
【0049】
研磨用組成物がそのまま研磨液として用いられる場合、研磨用組成物中の塩基性化合物の含有量(濃度)の下限は、3mM以上であることが好ましく、5mM以上であることがより好ましい。かような範囲であれば、高い研磨速度を維持できる。また、塩基性化合物の濃度の増加によって、安定性も向上し得る。また、研磨用組成物がそのまま研磨液として用いられる場合、上記塩基性化合物の含有量(濃度)の上限は、50mM以下であることが好ましく、30mM以下であることがより好ましく、10mM以下であることがさらに好ましい。
【0050】
また、研磨用組成物が希釈して研磨に用いられる場合、すなわち該研磨用組成物が濃縮液である場合、塩基性化合物の含有量(濃度)の上限は、保存安定性や濾過性等の観点から、400mM以下であることが好ましく、350mM以下であることがより好ましく、300mM以下であることがさらに好ましい。また、濃縮液とすることの利点を活かす観点から、塩基性化合物の含有量(濃度)の下限は、50mM以上であることが好ましく、100mM以上であることがより好ましく、150mM以上であることがさらに好ましい。
【0051】
なお、塩基性化合物を2種以上組み合わせて用いる場合、上記の含有量は2種以上の塩基性化合物の合計含有量を指す。
【0052】
[その他の成分]
本発明に係る研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、水溶性高分子、界面活性剤、キレート剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0053】
上記水溶性高分子の例としては、セルロース誘導体、デンプン誘導体、オキシアルキレン単位を含むポリマー、窒素原子を含有するポリマー、ビニルアルコール系ポリマー等が挙げられる。具体例としては、ヒドロキシエチルセルロース、プルラン、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのランダム共重合体やブロック共重合体、ポリビニルアルコール、アセタール化ポリビニルアルコール、ビニルアルコールとアルキレンオキサイドとの共重合体、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレングリコール、ポリビニルイミダゾール、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルカプロラクタム、ポリビニルピペリジン、ポリアクリロイルモルホリン、ポリヒドロキシアクリルアミド等が挙げられる。水溶性高分子は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。ここに開示される研磨用組成物は、水溶性高分子を実質的に含まない態様、すなわち、少なくとも意図的には水溶性高分子を含有させない態様でも好ましく実施され得る。
【0054】
(界面活性剤)
本発明の研磨用組成物は、必要に応じてノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤等の界面活性剤をさらに含んでもよい。
【0055】
本発明に使用できるノニオン性界面活性剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。ノニオン性界面活性剤の例としては、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、およびアルキルアルカノールアミド等が挙げられる。中でも、研磨用組成物の分散安定性向上の観点から、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテルがより好ましい。
【0056】
研磨用組成物がそのまま研磨液として用いられる場合、ノニオン性界面活性剤の含有量は、研磨用組成物に対して、好ましくは0.00001質量%以上、より好ましくは0.00002質量%以上、さらに好ましくは0.00003質量%以上である。かような範囲であれば、研磨用組成物の分散安定性が向上する。研磨用組成物がそのまま研磨液として用いられる場合、ノニオン性界面活性剤の含有量の上限は、0.002質量%以下とすることが適当であり、高い研磨速度を維持する観点から、好ましくは0.001質量%以下である。
【0057】
また、研磨用組成物が希釈して研磨に用いられる場合、すなわち該研磨用組成物が濃縮液である場合、ノニオン性界面活性剤の含有量は、保存安定性や濾過性等の観点から、通常は、0.1質量%以下であることが適当であり、0.05質量%以下であることがより好ましい。また、濃縮液とすることの利点を活かす観点から、ノニオン性界面活性剤の含有量は、0.0001質量%以上であることが好ましく、0.0002質量%以上であることがより好ましく、0.0005質量%以上であることがさらに好ましい。
【0058】
なお、ノニオン性界面活性剤を2種以上組み合わせて用いる場合は、上記の含有量は2種以上のノニオン性界面活性剤の合計含有量を指す。
【0059】
(キレート剤)
研磨用組成物に含まれうるキレート剤は、単独でもまたは2種以上を組み合わせても用いることができる。キレート剤としては、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の例には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸およびトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが含まれる。有機ホスホン酸系キレート剤の例には、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)(EDTPO)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸およびα-メチルホスホノコハク酸が含まれる。これらのうち有機ホスホン酸系キレート剤がより好ましい。なかでも好ましいものとして、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミン五酢酸が挙げられる。特に好ましいキレート剤として、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が挙げられる。
【0060】
研磨用組成物がそのまま研磨液として用いられる場合、キレート剤の含有量の下限は、研磨用組成物に対して、0.0001質量%以上であることが好ましく、0.001質量%以上であることがより好ましく、0.002質量%以上であることがさらに好ましい。キレート剤の含有量の上限は、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以下であることがさらに好ましく、0.15質量%以下であることが特に好ましい。
【0061】
また、研磨用組成物が希釈して研磨に用いられる場合、すなわち該研磨用組成物が濃縮液である場合、キレート剤の含有量は、保存安定性や濾過性等の観点から、通常は、5質量%以下であることが適当であり、3質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以下であることが特に好ましい。また、濃縮液とすることの利点を活かす観点から、キレート剤の含有量は、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることがさらに好ましい。
【0062】
なお、キレート剤を2種以上組み合わせて用いる場合は、上記の含有量は2種以上のキレート剤の合計含有量を指す。
【0063】
研磨用組成物に含まれうる防腐剤および防カビ剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。防腐剤および防カビ剤としては、例えば、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンや5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン等のイソチアゾリン系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類、およびフェノキシエタノール等が挙げられる。
【0064】
ここに開示される研磨用組成物は、酸化剤を実質的に含まないことが好ましい。研磨用組成物中に酸化剤が含まれていると、当該組成物が供給されることでシリコンウェーハの表面が酸化されて酸化膜が生じ、これにより研磨レートが低下してしまうことがあり得るためである。ここで、研磨用組成物が酸化剤を実質的に含有しないとは、少なくとも意図的には酸化剤を配合しないことをいい、原料や製法等に由来して微量の酸化剤が不可避的に含まれることは許容され得る。上記微量とは、研磨用組成物における酸化剤のモル濃度が0.0005モル/L以下(好ましくは0.0001モル/L以下、より好ましくは0.00001モル/L以下、特に好ましくは0.000001モル/L以下)であることをいう。好ましい一態様に係る研磨用組成物は、酸化剤を含有しない。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムおよびジクロロイソシアヌル酸ナトリウムをいずれも含有しない態様で好ましく実施され得る。
【0065】
[研磨用組成物の特性]
本発明に係る研磨用組成物は、典型的には該研磨用組成物を含む研磨液の形態で上記のシリコンウェーハに供給され、そのシリコンウェーハの粗研磨に用いられる。本発明に係る研磨用組成物は、例えば、希釈して研磨液として使用されるものであってもよく、そのまま研磨液として使用されるものであってもよい。ここで希釈とは、典型的には、水による希釈である。本発明に係る技術における研磨用組成物の概念には、シリコンウェーハに供給されて研磨に用いられる研磨液(ワーキングスラリー)と、希釈して研磨に用いられる濃縮液(ワーキングスラリーの原液)との双方が包含される。上記濃縮液の濃縮倍率は、例えば、体積基準で2倍以上140倍以下程度とすることができ、通常は4倍以上80倍以下程度(例えば5倍以上50倍以下程度)が適当である。
【0066】
研磨用組成物がそのまま研磨液として用いられる場合、研磨用組成物のpHは、好ましくは8.0以上であり、より好ましくは8.5以上であり、さらにより好ましくは9.5以上であり、特に好ましくは10.0以上(例えば10.2以上)である。研磨用組成物のpHが高くなると研磨速度が上昇する。一方、研磨用組成物がそのまま研磨液として用いられる場合、研磨用組成物のpHは、好ましくは12.0以下であり、より好ましくは11.5以下である。研磨用組成物のpHが12.0以下であれば、砥粒の溶解を抑制し、該砥粒による機械的な研磨作用の低下を防ぐことができる。
【0067】
また、研磨用組成物が希釈して研磨に用いられる場合、すなわち該研磨用組成物が濃縮液である場合、研磨用組成物のpHは、好ましくは9.5以上であり、より好ましくは10.0以上であり、さらにより好ましくは10.5以上である。また、研磨用組成物のpHは、12.0以下であることが適当であり、11.5以下であることが好ましい。
【0068】
なお、研磨用組成物のpHは、pHメーターを使用して測定することができる。標準緩衝液を用いてpHメーターを3点校正した後に、ガラス電極を研磨用組成物に入れる。そして、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより研磨用組成物のpHを把握することができる。pHメーターは、例えば、株式会社堀場製作所製のガラス電極式水素イオン濃度指示計(型番F-72)を使用することができる。また、標準緩衝液は、例えば、フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01、中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86、炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01である。ここでpHは25℃の値である。
【0069】
本発明に係る研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。多液型は、研磨用組成物の一部または全部を任意の混合比率で混合した液の組み合わせである。また、研磨用組成物の供給経路を複数有する研磨装置を用いた場合、研磨装置上で研磨用組成物が混合されるように、予め調整された2つ以上の研磨用組成物を用いてもよい。
【0070】
[研磨用組成物の製造方法]
本発明の研磨用組成物は、例えば、各成分を水中で攪拌混合することにより得ることができる。ただしこの方法に制限されない。また、各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。
また、混合時間も特に制限されない。
【0071】
[研磨方法]
本発明に係る研磨用組成物は、例えば以下の操作を含む態様で、シリコンウェーハの研磨工程に使用することができる。よって、本発明は、上記の研磨用組成物を用いてシリコンウェーハを研磨する研磨方法をも提供する。
【0072】
まず、本発明に係る研磨用組成物を用意する。次いで、その研磨用組成物をシリコンウェーハに供給し、常法により研磨を行う。例えば、一般的な研磨装置にシリコンウェーハをセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて該シリコンウェーハの表面(研磨対象面)に研磨用組成物を供給する。典型的には、上記研磨用組成物を連続的に供給しつつ、シリコンウェーハの表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。かかる研磨工程を経てシリコンウェーハの研磨が完了する。
【0073】
上記工程で使用される研磨パッドは特に限定されない。例えば、ポリウレタンタイプ、不織布タイプ、スウェードタイプ、砥粒を含むもの、砥粒を含まないもの等のいずれを用いてもよい。また、上記研磨装置としては、シリコンウェーハの両面を同時に研磨する両面研磨装置を用いてもよく、シリコンウェーハの片面のみを研磨する片面研磨装置を用いてもよい。
【0074】
研磨条件も特に制限されないが、例えば、研磨定盤の回転速度は、10rpm以上500rpm以下が好ましく、シリコンウェーハにかける圧力(研磨圧力)は、3kPa以上70kPa以下、例えば3.45kPa以上69kPa以下が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0075】
上記研磨用組成物は、いわゆる「かけ流し」で使用されてもよいし、循環して繰り返し使用されてもよい。ここでかけ流しとは、いったん研磨に使用したら使い捨てにする態様をいう。研磨用組成物を循環使用する方法として以下の例が挙げられる。研磨装置から排出される使用済みの研磨用組成物をタンク内に回収し、回収した研磨用組成物を再度研磨装置に供給する方法である。研磨用組成物を循環使用する場合には、環境負荷を低減できる。かけ流しで研磨用組成物を使用する場合に比べて、廃液として処理される使用済みの研磨用組成物の量が減るためである。また、研磨用組成物の使用量が減ることによりコストを抑えることができる。
【0076】
[用途]
上述のように、本発明の研磨用組成物は、高い研磨速度でシリコンウェーハを研磨することができる。かかる特長を活かして、ここに開示される研磨用組成物は、予備研磨工程、すなわちポリシング工程における最初の研磨工程(一次研磨工程)あるいはその次の中間研磨工程(二次研磨工程)において特に好ましく使用され得る。上記予備研磨工程は、典型的には、シリコンウェーハの両面を同時に研磨する両面研磨工程として実施される。ここに開示される研磨用組成物は、このような両面研磨工程において好ましく使用され得る。
【実施例】
【0077】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0078】
なお、含窒素有機化合物のHOMOのエネルギー準位は、半経験的分子軌道法プログラムMOPACのハミルトニアンであるPM7法(Parametric Method 7)を用いて計算した。
【0079】
研磨用組成物のpHは、株式会社堀場製作所製のpHガラス電極式水素イオン濃度指示計(型番F-72)を用いて測定した。
【0080】
[研磨用組成物の濃縮液の調製]
(実施例1)
砥粒としてコロイダルシリカ(平均一次粒子径55nm)33質量%、塩基性化合物として水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を200mM、および含窒素有機化合物として4-アミノピぺリジンを40mMの濃度となるよう、上記成分およびイオン交換水を室温(25℃)で30分攪拌混合し、研磨用組成物の濃縮液を調製した。各例に係る研磨用組成物の濃縮液のpHは11.6であった。
【0081】
研磨用組成物の濃縮液の各成分の含有量は、以下の通りである:
コロイダルシリカ 33質量%
TMAH 200mM
4-アミノピぺリジン 40mM。
【0082】
(実施例2~10)
4-アミノピぺリジンに代えて、下記表1に記載の含窒素有機化合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、研磨用組成物の濃縮液を調製した。
【0083】
(比較例1)
含窒素有機化合物を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、研磨用組成物の濃縮液を調製した。
【0084】
(比較例2~4)
4-アミノピぺリジンに代えて、下記表1に記載の含窒素有機化合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、研磨用組成物の濃縮液を調製した。
【0085】
(研磨速度の評価)
調製された研磨用組成物の濃縮液を、イオン交換水を用いて体積基準で30倍希釈した。この希釈して調製された研磨用組成物を用いて、ベアのシリコンウェーハ(60mm×60mm、伝導型:P型、結晶方位:<100>)を、以下の研磨条件で片面研磨を行い、研磨済みのシリコンウェーハを得た。なお、希釈後の研磨用組成物のpHは10.4であった:
<研磨条件>
研磨機:日本エンギス株式会社製 卓上研磨機、EJ-380IN
パッド:ポリウレタンパッド ニッタ・デュポン株式会社製 SUBA800
研磨圧力:16kPa
研磨用組成物の流量:100L/min
定盤回転数:+50rpm(研磨機上方からみて、反時計回りを正とする)
ヘッド回転数:+45rpm(研磨機上方からみて、反時計回りを正とする)
研磨用組成物の維持温度:25℃
取り代:4μm
研磨時間:14~18分。
【0086】
〔研磨速度の評価〕
各実施例および各比較例の研磨用組成物を用いてシリコンウェーハを研磨した後、下記数式(1)~(3)に従って研磨速度を算出した。
【0087】
【0088】
なお、下記表1の研磨速度は、比較例1の研磨用組成物を用いた場合の研磨速度を100%としたときの比率を示しており、数値が大きいほど研磨速度が高いことを表す。
【0089】
評価結果を下記表1に示す。
【0090】
【0091】
上記表1から明らかなように、実施例の研磨用組成物を用いた場合、シリコンウェーハを高い研磨速度で研磨できることが分かった。