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特許7602474信号処理方法、学習モデル生成方法、信号処理装置、放射線検出装置及びコンピュータプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】信号処理方法、学習モデル生成方法、信号処理装置、放射線検出装置及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/17 20060101AFI20241211BHJP
   G01N 23/2252 20180101ALI20241211BHJP
【FI】
G01T1/17 A
G01T1/17 F
G01T1/17 H
G01N23/2252
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021552358
(86)(22)【出願日】2020-10-08
(86)【国際出願番号】 JP2020038107
(87)【国際公開番号】W WO2021075345
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2023-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2019191446
(32)【優先日】2019-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】村田 駿介
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-221455(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03546926(EP,A1)
【文献】特開2009-229127(JP,A)
【文献】特開平08-029538(JP,A)
【文献】特開2007-057356(JP,A)
【文献】特表2011-508201(JP,A)
【文献】米国特許第10422896(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/17
G01N 23/2252
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線の検出に応じた階段波又は前記階段波を変換したパルス波を、波高別にカウントする信号処理方法において、
前記階段波を含む信号を構成する信号値の列と、前記パルス波を含む信号を構成する信号値の列との少なくとも一方を入力した場合に複数の前記パルス波の重なりの有無に関する情報を出力する学習モデルへ、前記階段波を含む信号を構成する信号値の列と前記パルス波を含む信号を構成する信号値の列との少なくとも一方を入力し、
前記学習モデルが出力する前記情報に応じて、複数の前記パルス波の重なりが無い場合の前記階段波又は前記パルス波をカウントすること
を特徴とする信号処理方法。
【請求項2】
前記学習モデルが出力する前記情報に応じて、複数の前記パルス波が重なる場合の前記階段波又は前記パルス波をカウントしないこと
を特徴とする請求項1に記載の信号処理方法。
【請求項3】
前記学習モデルは、前記パルス波を整形した波を含む信号を構成する信号値の列を更に入力した場合に前記情報を出力する学習モデルであり、
前記信号を構成する信号値の列を更に前記学習モデルへ入力すること
を特徴とする請求項1又は2に記載の信号処理方法。
【請求項4】
前記学習モデルは、前記階段波及び前記パルス波の少なくとも一方の特徴量を更に入力した場合に前記情報を出力する学習モデルであり、
前記特徴量を前記学習モデルへ入力すること
を特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の信号処理方法。
【請求項5】
前記情報は、複数の前記パルス波の重なりの有無を示す情報、重なっている前記パルス波の数の確率、又は信号に含まれる階段波の数の確率を含むこと
を特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の信号処理方法。
【請求項6】
夫々に単一のパルス波からなり、前記単一のパルス波の波高、立ち上がり及びなまりの少なくともいずれか一つがランダムである複数のパルス波信号を生成し、
夫々に複数のパルス波が重なった重畳波からなり、前記複数のパルス波の間隔、波高、立ち上がり及びなまりの少なくともいずれか一つがランダムである複数の重畳波信号を生成し、
前記複数のパルス波信号及び前記複数の重畳波信号を教師データとして、任意のパルス波を含む信号を構成する信号値の列を入力した場合に複数のパルス波の重なりの有無に関する情報を出力する学習モデルを生成すること
を特徴とする学習モデル生成方法。
【請求項7】
夫々に単一の階段波からなり、前記単一の階段波の波高、立ち上がり及びなまりの少なくともいずれか一つがランダムである複数の階段波信号を生成し、
夫々に複数の階段波からなり、前記複数の階段波を変換した複数のパルス波が重なることになり、前記複数の階段波の間隔、波高、立ち上がり及びなまりの少なくともいずれか一つがランダムである複数の近接階段波信号を生成し、
前記複数の階段波信号及び前記近接階段波信号を教師データとして、任意の階段波を含む信号を構成する信号値の列を入力した場合に前記複数の階段波を変換した複数のパルス波の重なりの有無に関する情報を出力する学習モデルを生成すること
を特徴とする学習モデル生成方法。
【請求項8】
放射線の検出に応じた階段波をパルス波へ変換し、前記パルス波の波高別に、前記パルス波をカウントする信号処理方法において、
前記パルス波を含む信号を構成する信号値の列と所定の係数列との積和演算を行い、
前記所定の係数列は、重なった複数の前記パルス波を含む信号を構成する信号値の列及び前記所定の係数列の間の積和演算の結果と、単一の前記パルス波を含む信号を構成する信号値の列及び前記所定の係数列の間の積和演算の結果とが、所定の値に対して大であるか小であるかについて異なるように、予め定められており、
前記積和演算の結果に応じて、複数の前記パルス波の重なりがあるか否かを判定し、
重なっていない前記パルス波をカウントすること
を特徴とする信号処理方法。
【請求項9】
放射線の検出に応じた階段波を含む信号を処理する信号処理装置において、
前記階段波を含む信号を構成する信号値の列と、前記階段波を変換したパルス波を含む信号を構成する信号値の列との少なくとも一方を入力した場合に、複数の前記パルス波の重なりの有無に関する情報を出力する学習モデルを備えること
を特徴とする信号処理装置。
【請求項10】
放射線検出時に放射線のエネルギーに応じた階段波を出力する放射線検出器と、
前記階段波をパルス波へ変換する変換部と、
前記階段波を含む信号を構成する信号値の列及び前記階段波を変換したパルス波を含む信号を構成する信号値の列の少なくとも一方を入力した場合に、複数の前記パルス波の重なりの有無に関する情報を出力する学習モデルと、
前記学習モデルが出力する前記情報に応じて、複数の前記パルス波の重なりが無い場合の前記階段波又は前記パルス波をカウントするカウント部と、
前記階段波又は前記パルス波の波高、及びカウント数に応じて、放射線のスペクトルを生成するスペクトル生成部と
を備えることを特徴とする放射線検出装置。
【請求項11】
放射線の検出に応じた階段波を含む信号を構成する信号値の列と前記階段波を変換したパルス波を含む信号を構成する信号値の列との少なくとも一方を入力した場合に複数の前記パルス波の重なりの有無に関する情報を出力する学習モデルへ、前記階段波を含む信号を構成する信号値の列及び前記パルス波を含む信号を構成する信号値の列の少なくとも一方を入力して、前記情報を出力する
処理をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線の検出によって発生する信号を処理するための信号処理方法、学習モデル生成方法、信号処理装置、放射線検出装置及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
X線等の放射線を検出する放射線検出装置は、放射線検出器と、放射線検出器が出力する信号を処理する信号処理装置とを備えている。放射線検出器は、半導体放射線検出素子等を用いて構成されており、放射線が検出される都度、階段波を出力する。信号処理装置は、階段波をパルス波へ変換し、パルス波の波高を測定する。パルス波の波高は放射線のエネルギーに対応する。
【0003】
放射線が検出される間隔が短い場合、複数のパルス波が重なり、パルス波の波高が変化する所謂パイルアップが発生することがある。このとき、誤った放射線のエネルギーが測定され、放射線のスペクトルには、誤ったエネルギーを有するピーク、所謂サムピークが発生する。そこで、信号処理装置は、パルス波の重なりを検出し、重なったパルス波の波高の測定を行わないことにより、サムピークの発生を抑制する。従来、パルス波の重なりを検出する方法には、いくつかの方法がある。例えば、波高の閾値を用いてパルス波を検出し、複数のパルス波の検出間隔が短い場合に、パルス波の重なりが発生したと判定する。また、パルス波の底辺の長さ又はパルス波の立ち上がり速度等の信号波形の特徴量に基づいて、パルス波の重なりが発生したか否かを判定する方法がある。特許文献1には、パルス波の微分波形が負の値から正の値へ変化する場合に、パルス波の重なりが発生したと判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-229127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の何れの方法であっても、パルス波の重なりを検出できないことがある。パルス波の検出間隔に基づく方法では、検出間隔が非常に短い場合に、信号処理装置は、複数のパルス波の重なりを検出できないことがある。底辺の長さ等の信号波形の特徴量に基づく方法は、特徴量のみに着目するため、ノイズに弱いという問題がある。また、パルス波を検出するための閾値を低くした場合は、波高の高い複数のパルス波の重なりを検出できず、閾値を高くした場合は、波高の低いパルス波を検出できない。放射線のスペクトルに基づいて元素分析を行う際には、複数のパルス波の重なりを検出できない場合に、サムピークが発生し、存在しない元素を誤検出する虞がある。波高の低いパルス波を検出できない場合は、軽元素等、放射線のエネルギーの低い元素の検出が困難となる。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、放射線のスペクトルに基づいた元素分析の精度を向上させることができる信号処理方法、学習モデル生成方法、信号処理装置、放射線検出装置及びコンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る信号処理方法は、放射線の検出に応じた階段波又は前記階段波を変換したパルス波を、波高別にカウントする信号処理方法において、前記階段波を含む信号を構成する信号値の列と、前記パルス波を含む信号を構成する信号値の列との少なくとも一方を入力した場合に複数の前記パルス波の重なりの有無に関する情報を出力する学習モデルへ、前記階段波を含む信号を構成する信号値の列と前記パルス波を含む信号を構成する信号値の列との少なくとも一方を入力し、前記学習モデルが出力する前記情報に応じて、複数の前記パルス波の重なりが無い場合の前記階段波又は前記パルス波をカウントすることを特徴とする。
【0008】
本発明の一形態においては、学習モデルを利用して、パルス波の重なりを検出する。学習モデルは、パルス波を含む信号を構成する信号値の列及び/又は階段波を含む信号を構成する信号値の列を入力された場合に、複数のパルス波の重なりの有無に関する情報を出力する。学習モデルを用いることにより、複数のパルス波の重なりを効果的に検出することができる。
【0009】
本発明に係る信号処理方法は、前記学習モデルが出力する前記情報に応じて、複数の前記パルス波が重なる場合の前記階段波又は前記パルス波をカウントしないことを特徴とする。
【0010】
本発明の一形態においては、複数のパルス波が重なる場合は、放射線の検出に応じたカウントを行わない。パルス波の重なりに起因して放射線のエネルギーを誤って測定することを防止することができる。
【0011】
本発明に係る信号処理方法は、前記学習モデルは、前記パルス波を整形した波を含む信号を構成する信号値の列を更に入力した場合に前記情報を出力する学習モデルであり、前記信号を構成する信号値の列を更に前記学習モデルへ入力することを特徴とする。
【0012】
本発明の一形態においては、パルス波を含む信号及び/又は階段波を含む信号に加えて、パルス波を整形した波を含む信号を構成する信号値の列を、学習モデルへ入力する。微分フィルタ等のフィルタによってパルス波を整形した波の形状は、複数のパルス波の有無に応じて異なる。このため、パルス波を整形した波を利用することにより、複数のパルス波の重なりをより効果的に検出することができる。
【0013】
本発明に係る信号処理方法は、前記学習モデルは、前記階段波及び前記パルス波の少なくとも一方の特徴量を更に入力した場合に前記情報を出力する学習モデルであり、前記特徴量を前記学習モデルへ入力することを特徴とする。
【0014】
本発明の一形態においては、波高又は時間幅等の信号波形の特徴量を更に学習モデルへ入力する。信号波形の特徴量は、複数のパルス波の有無に応じて異なるので、信号波形の特徴量を用いることにより、複数のパルス波の重なりをより効果的に検出することができる。
【0015】
本発明に係る学習モデル生成方法は、夫々に単一のパルス波からなり、前記単一のパルス波の波高、立ち上がり及びなまりの少なくともいずれか一つがランダムである複数のパルス波信号を生成し、夫々に複数のパルス波が重なった重畳波からなり、前記複数のパルス波の間隔、波高、立ち上がり及びなまりの少なくともいずれか一つがランダムである複数の重畳波信号を生成し、前記複数のパルス波信号及び前記複数の重畳波信号を教師データとして、任意のパルス波を含む信号を構成する信号値の列を入力した場合に複数のパルス波の重なりの有無に関する情報を出力する学習モデルを生成することを特徴とする。
【0016】
本発明の一形態においては、夫々に単一のパルス波からなる複数のパルス波信号と、夫々に複数のパルス波が重なった重畳波からなる複数の重畳波信号とを、波高、立ち上がり及びなまりの少なくともいずれか一つがランダムになるようにシミュレーションにより生成する。生成した複数のパルス波信号及び複数の重畳波信号を教師データとして、学習モデルの学習を行う。パルス波の重なりの有無に関する情報を出力する学習モデルが生成できる。また、シミュレーションにおいてパルス波のなまりをランダムにすることにより、実際の信号に近い信号を生成することができる。
【0017】
本発明に係る学習モデル生成方法は、夫々に単一の階段波からなり、前記単一の階段波の波高、立ち上がり及びなまりの少なくともいずれか一つがランダムである複数の階段波信号を生成し、夫々に複数の階段波からなり、前記複数の階段波を変換した複数のパルス波が重なることになり、前記複数の階段波の間隔、波高、立ち上がり及びなまりの少なくともいずれか一つがランダムである複数の近接階段波信号を生成し、前記複数の階段波信号及び前記近接階段波信号を教師データとして、任意の階段波を含む信号を構成する信号値の列を入力した場合に前記複数の階段波を変換した複数のパルス波の重なりの有無に関する情報を出力する学習モデルを生成することを特徴とする。
【0018】
本発明の一形態においては、夫々に単一の階段波からなる複数の階段波信号と、複数の近接階段波信号とを、波高、立ち上がり及びなまりの少なくともいずれか一つがランダムになるようにシミュレーションにより生成する。生成した複数の階段波信号及び複数の近接階段波信号を教師データとして、学習モデルの学習を行う。階段波を変換したパルス波の重なりの有無に関する情報を出力する学習モデルが生成できる。
【0019】
本発明に係る信号処理方法は、放射線の検出に応じた階段波をパルス波へ変換し、前記パルス波の波高別に、前記パルス波をカウントする信号処理方法において、前記パルス波を含む信号を構成する信号値の列と所定の係数列との積和演算を行い、前記所定の係数列は、重なった複数の前記パルス波を含む信号を構成する信号値の列及び前記所定の係数列の間の積和演算の結果と、単一の前記パルス波を含む信号を構成する信号値の列及び前記所定の係数列の間の積和演算の結果とが、所定の値に対して大であるか小であるかについて異なるように、予め定められており、前記積和演算の結果に応じて、複数の前記パルス波の重なりがあるか否かを判定し、重なっていない前記パルス波をカウントすることを特徴とする。
【0020】
本発明の一形態においては、パルス波を含む信号を構成する信号値の列と所定の係数列との積和演算を行い、積和演算の結果に基づいて、パルス波の重なりを検出する。係数列は、単一のパルス波を含む信号を構成する信号値の列及び係数列の間の積和演算の結果と、重なった複数のパルス波を含む信号を構成する信号値の列及び係数列の間の積和演算の結果とが異なるように、定められている。この方法においても、複数のパルス波の重なりを効果的に検出することができる。
【0021】
本発明に係る信号処理装置は、放射線の検出に応じた階段波を含む信号を処理する信号処理装置において、前記階段波を含む信号を構成する信号値の列と、前記階段波を変換したパルス波を含む信号を構成する信号値の列との少なくとも一方を入力した場合に、複数の前記パルス波の重なりの有無に関する情報を出力する学習モデルを備えることを特徴とする。
【0022】
本発明に係る放射線検出装置は、放射線検出時に放射線のエネルギーに応じた階段波を出力する放射線検出器と、前記階段波をパルス波へ変換する変換部と、前記階段波を含む信号を構成する信号値の列及び前記階段波を変換したパルス波を含む信号を構成する信号値の列の少なくとも一方を入力した場合に、複数の前記パルス波の重なりの有無に関する情報を出力する学習モデルと、前記学習モデルが出力する前記情報に応じて、複数の前記パルス波の重なりが無い場合の前記階段波又は前記パルス波をカウントするカウント部と、前記階段波又は前記パルス波の波高、及びカウント数に応じて、放射線のスペクトルを生成するスペクトル生成部とを備えることを特徴とする。
【0023】
本発明に係るコンピュータプログラムは、放射線の検出に応じた階段波を含む信号を構成する信号値の列と前記階段波を変換したパルス波を含む信号を構成する信号値の列との少なくとも一方を入力した場合に複数の前記パルス波の重なりの有無に関する情報を出力する学習モデルへ、前記階段波を含む信号を構成する信号値の列及び前記パルス波を含む信号を構成する信号値の列の少なくとも一方を入力して、前記情報を出力する処理をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0024】
本発明の一形態においては、信号処理装置は、学習モデルを利用して、パルス波の重なりを検出する。学習モデルは、パルス波を含む信号を構成する信号値の列及び/又は階段波を含む信号を構成する信号値の列を入力された場合に、複数のパルス波の重なりの有無に関する情報を出力する。放射線検出装置は、複数のパルス波の重なりが無い場合の階段波又はパルス波をカウントし、放射線のスペクトルを生成する。信号処理装置は、複数のパルス波の重なりを効果的に検出することができ、放射線検出装置は、スペクトルに基づいた元素分析の精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明にあっては、パルス波の重なりを効果的に検出し、元素分析の精度を向上させることができる等、優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施形態1に係る放射線検出装置の機能構成を示すブロック図である。
図2A】階段波及びパルス波の例を示す模式的特性図である。
図2B】階段波及びパルス波の例を示す模式的特性図である。
図3A】放射線の検出される間隔が短い場合の階段波及びパルス波の例を示す模式的特性図である。
図3B】放射線の検出される間隔が短い場合の階段波及びパルス波の例を示す模式的特性図である。
図4】処理部へ入力される信号の例を模式的に示すグラフである。
図5】実施形態1に係る学習モデルの機能構成例を示す概念図である。
図6】学習モデルの学習を行う学習装置の構成例を示すブロック図である。
図7】学習モデルを生成する処理の手順を示すフローチャートである。
図8】実施形態1に係る信号処理装置が実行する処理の手順を示すフローチャートである。
図9】複数の方法で得られた放射線のスペクトルを示すスペクトル図である。
図10】実施形態2に係る放射線検出装置の機能構成を示すブロック図である。
図11】実施形態3に係る放射線検出装置の機能構成を示すブロック図である。
図12】実施形態3に係る学習モデルの機能構成例を示す概念図である。
図13】実施形態3に係る信号処理装置が実行する処理の手順を示すフローチャートである。
図14】実施形態4に係る放射線検出装置の機能構成を示すブロック図である。
図15】実施形態4に係る学習モデルの機能構成例を示す概念図である。
図16】実施形態4に係る信号処理装置が実行する処理の手順を示すフローチャートである。
図17】実施形態5に係る処理部の機能構成を示すブロック図である。
図18】実施形態6に係る放射線検出装置の機能構成を示すブロック図である。
図19】係数列の例を示すグラフである。
図20】係数列の例を示すグラフである。
図21】実施形態6に係る信号処理装置が実行する処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
<実施形態1>
図1は、実施形態1に係る放射線検出装置10の機能構成を示すブロック図である。放射線検出装置10は、放射線検出器1と、信号処理装置2と、分析部3とを備えている。放射線検出器1は、放射線検出素子11と、プリアンプ12とを備えている。放射線検出素子11は、SDD(Silicon Drift Detector)等の半導体放射線検出素子であり、入射した放射線のエネルギーに応じた電荷を発生し、発生した電荷に応じた電流信号を出力する。プリアンプ12は、放射線検出素子11が出力した電流信号を電圧信号へ変換し、放射線検出時に一段のステップ状に信号値が上昇する階段波を生成する。放射線検出器1は、プリアンプ12が生成した階段波を含む信号を出力する。
【0028】
放射線検出器1が出力した信号は、信号処理装置2へ入力される。信号処理装置2は、信号処理方法を実行する。信号処理装置2は、A/D(アナログ/デジタル)変換部21を備えている。A/D変換部21は、放射線検出器1から階段波を含む信号を入力され、階段波を含む信号をA/D変換する。A/D変換部21には波形整形部22が接続されている。波形整形部22は、A/D変換部21から階段波を含む信号を入力される。波形整形部22は、階段波を含む信号を所定のフィルタに通して、信号の波形を整形することにより、階段波を含む信号をパルス波を含む信号へ変換する。波形整形部22が用いるフィルタは、例えば微分フィルタ又は台形整形フィルタである。波形整形部22での処理により、階段波がパルス波へ変換され、信号に含まれるノイズが低減され、所定の増幅が行われる。波形整形部22はパルス波を含む信号を出力する。波形整形部22は変換部に対応する。
【0029】
図2A及び図2Bは、階段波及びパルス波の例を示す模式的特性図である。図中の横軸は時間を示し、縦軸は信号値を示している。図2Aは放射線検出器1が出力する階段波を含む信号を示している。放射線検出器1は、放射線を検出する都度、一段のステップ状に信号値が上昇する階段波を出力する。一回の放射線検出に応じて、信号値が一段のステップ状に上昇する一つの階段波が生成される。放射線検出器1が放射線を複数回検出した場合、複数の階段波を含む信号が出力される。放射線が検出される都度、信号値は上昇していく。信号値が上昇するステップの高さを階段波の波高とする。階段波の波高は、放射線のエネルギーに対応する。実際には、階段波は完全なステップ状ではなく、信号波形に立ち上がり及びなまりが含まれている。立ち上がりは、信号値が基準値から立ち上がる際の信号波形の歪みであり、なまりは、階段波が終了する際の信号波形の歪みである。
【0030】
図2Bは、図2Aに示す信号を波形整形部22で変換した信号を示す。階段波は、パルス波へ変換される。パルス波は、信号値がゼロになる所定の信号基準から信号値がピーク値まで上昇し、その後信号基準まで下降する信号である。信号基準は例えばゼロである。信号基準からピーク値までの高さをパルス波の波高とする。パルス波の波高は放射線のエネルギーに対応する。パルス波の形には、立ち上がり及びなまりが含まれている。立ち上がりは、信号値が基準値から立ち上がる際の信号波形の歪みであり、なまりは、パルス波が終了する際の信号波形の歪みである。図2Bには、放射線検出器1が放射線を複数回検出した間隔が長く、複数のパルス波が重畳していない例を示している。
【0031】
図3A及び図3Bは、放射線の検出される間隔が短い場合の階段波及びパルス波の例を示す模式的特性図である。図中の横軸は時間を示し、縦軸は信号値を示している。図3Aは放射線検出器1が出力する階段波を含む信号を示している。図2Aに示した例に比べて、放射線検出器1が放射線を複数回検出した間隔が短く、複数の階段波の間隔が短い。図3Bは、図3Aに示す信号を波形整形部22で変換した信号を示す。複数のパルス波の間隔が短く、複数のパルス波が重なった重畳波が形成されている。重畳波の波高は、単独のパルス波の波高とは異なっており、重畳波の波高に応じて誤った放射線のエネルギーが測定される。
【0032】
波形整形部22には、処理部23及びパルス検出部24が接続されている。波形整形部22は、処理部23及びパルス検出部24へ、パルス波を含む信号を入力する。パルス検出部24は、波形整形部22から信号を入力され、信号に含まれているパルス波を検出する。例えば、パルス検出部24は、信号値が所定の閾値を超過した場合に、パルス波を検出したと判定する。パルス検出部24は、処理部23に接続されている。パルス検出部24は、パルス波を検出した場合に、パルス波を検出したことを示す情報を処理部23へ入力する。
【0033】
処理部23は、波形整形部22からパルス波を含む信号を入力され、パルス検出部24から、パルス波を検出したことを示す情報を入力される。処理部23は、演算を行う素子を用いて構成されている。処理部23は、バッファメモリ231と、複数のパルス波の重なりがあるか否かを判定するための学習モデル232とを含んでいる。例えば、学習モデル232は、FPGA(field-programmable gate array )を用いて構成されている。処理部23は、パルス波が検出された場合に、学習モデル232を用いて、信号に複数のパルス波の重なりが含まれるか否かを判定する。複数のパルス波の重なりがあるか否かを判定する方法については、後述する。
【0034】
波形整形部22及び処理部23には、波高測定部25が接続されている。波形整形部22は、波高測定部25へ、パルス波を含む信号を入力する。処理部23は、波高測定部25へ、複数のパルス波の重なりの有無を示す情報を入力する。波高測定部25は、複数のパルス波の重なりが無い場合に、波形整形部22から入力された信号に含まれるパルス波の波高を測定する。複数のパルス波の重なりがある場合は、波高測定部25は、波形整形部22から入力された信号に含まれるパルス波の波高を測定しない。
【0035】
波高測定部25には、カウント部26が接続されている。波高測定部25は、測定したパルス波の波高をカウント部26へ入力する。カウント部26は、波高別にパルス波をカウントする。例えば、カウント部26は、マルチチャネルアナライザである。カウント部26は、全ての波高についてパルス波をカウントする形態であってもよく、又は特定の波高についてのみパルス波をカウントする形態であってもよい。信号処理装置2は、パルス波の波高とカウント部26がカウントしたカウント数との関係を示すデータを出力する。カウント数は、パルス波の波高に対応するエネルギーを有する放射線を放射線検出器1が検出した回数に対応する。
【0036】
複数のパルス波の重なりがある場合に波高測定部25がパルス波の波高を測定しないことにより、信号処理装置2は、重なったパルス波についてはカウントを行わない。なお、波高測定部25は、重なったパルス波については、波高の測定は行うものの、測定した波高をカウント部26へ入力しない形態であってもよい。波高測定部25は、重なったパルス波の波高をもカウント部26へ入力し、カウント部26は、重なったパルス波のカウントをしない形態であってもよい。波高測定部25は、重なったパルス波の波高をもカウント部26へ入力し、カウント部26は、重なっていないパルス波と重なったパルス波とを区別してカウントする形態であってもよい。
【0037】
分析部3は、パーソナルコンピュータ等のコンピュータで構成されている。分析部3は、信号処理装置2が出力したデータを入力される。分析部3は、パルス波の波高とカウント数との関係から、放射線検出器1が検出した放射線のスペクトルを生成する処理を行う。分析部3はスペクトル生成部に対応する。分析部3は、更に、生成した放射線のスペクトルに基づいて、放射線源の元素分析等の更なる処理を行ってもよい。例えば、試料へ放射線を照射し、試料から発生した特性X線を放射線検出器1で検出し、特性X線のスペクトルに基づいて、試料に含まれる元素の定性分析又は定量分析を行う。なお、信号処理装置2は、放射線のスペクトルを生成する機能をも有していてもよい。
【0038】
重なったパルス波が単独のパルス波と誤ってカウントされ、誤った放射線のエネルギーが測定された場合、放射線のスペクトルは、誤ったエネルギーを有するピークであるサムピークを含むことになる。サムピークを含むスペクトルに基づいて元素分析を行った場合は、サムピークに応じた存在しない元素を誤って検出する虞がある。或は、存在する元素のピークにサムピークが重なり、当該元素の量が過剰に検出される虞がある。例えば、Fe(鉄)のK線を検出したことにより発生する複数のパルス波が重なった場合、サムピークはPb(鉛)のL線のピークに重なり、Pbの量が過剰に検出される。Cu(銅)のK線を検出したことにより発生する複数のパルス波が重なった場合、サムピークはCd(カドミウム)のK線のピークに重なり、Cdの量が過剰に検出される。
【0039】
処理部23における複数のパルス波の重なりがあるか否かを判定する方法を説明する。図4は、処理部23へ入力される信号の例を模式的に示すグラフである。図中の横軸は時間を示し、縦軸は信号値を示す。信号は、所定の時間間隔で得られた離散的な信号値の時系列で構成される。即ち、信号は、信号値の列からなる一次元データで表される。
【0040】
図2B及び図3Bに示すように、単一のパルス波を含む信号と、複数のパルス波が重なった重畳波を含む信号とでは、信号の形が異なり、信号値の時間変化も異なる。学習モデル232は、パルス波を含む信号を構成する信号値の列を入力された場合に、複数のパルス波の重なりがあるか否かを示す情報を出力するように、予め学習されている。
【0041】
図5は、実施形態1に係る学習モデル232の機能構成例を示す概念図である。学習モデル232は、夫々に複数のノードを有する入力層、複数の中間層及び出力層を備えた全結合のニューラルネットワークを用いる。入力層は、パルス波を含む信号を構成する信号値の列が入力される複数のノード41を有する。信号値の列の中の一つの信号値が一つのノード41へ入力され、夫々の信号値がいずれかのノード41へ入力される。例えば、入力層にはm個のノード41が含まれており、パルス波を含む信号を構成するm個の信号値が入力層へ入力される。
【0042】
学習モデル232はn(nは自然数)層の中間層を有している。第1の中間層は、複数のノード421を有する。入力層の夫々のノード41は、複数のノード421へ信号値を出力する。複数のノード421は、入力層のノード41から信号値を受け付け、信号値にパラメータを用いて演算し、第2の中間層に含まれる複数のノード422へ演算結果のデータを出力する。各中間層に含まれるノードは、前の中間層の複数のノードからデータを受け付け、受け付けたデータにパラメータを用いて演算し、後の中間層のノードへデータを出力する。例えば、ノードは、前の層の各ノードから受け付けたデータの値をx、各ノードに対応する重みをw、バイアス値をb、活性化関数をf()として、f(Σ(w*x)+b)の演算を行い、演算結果のデータを後の層の複数のノードへ出力する。活性化関数は、例えば、relu関数又はシグモイド関数である。活性化関数は、一般的に機械学習で用いられるその他の関数であってもよい。
【0043】
学習モデル232の出力層は、単一のノード43を有する。第nの中間層に含まれる複数のノード42nは、出力層に含まれるノード43へデータを出力する。出力層のノード43は、複数のノード42nからデータを受け付け、受け付けたデータにパラメータを用いて演算し、複数のパルス波の重なりの有無を示す情報を出力する。例えば、ノード43での活性化関数は、(Σ(w*x)+b)の演算結果が正の値であるか否かを示すデータを出力する関数である。例えば、ノード43は、正の値を示すデータとして1の値を出力し、ゼロ以下の値を示すデータとしてゼロの値を出力してもよい。例えば、正の値を示すデータは、複数のパルス波の重なりが無いことを示す情報であり、ゼロ以下の値を示すデータは、複数のパルス波の重なりがあることを示す情報である。なお、ノード43は、パルス波の重なりの有無を示す情報として、複数のパルス波の重なりが存在する確率を出力してもよい。学習モデル232は、ニューラルネットワークとして、畳みこみニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)、又は再帰型ニューラルネットワーク(RNN:Recurrent Neural Network)を用いてもよい。
【0044】
学習モデル232の学習は、コンピュータを用いて行われる。図6は、学習モデル232の学習を行う学習装置5の構成例を示すブロック図である。学習装置5は学習モデル生成方法を実行する。学習装置5は、サーバ装置等のコンピュータである。学習装置5は、演算部51と、メモリ52と、記憶部53と、表示部54と、操作部55とを備えている。演算部51は、例えばCPU(Central Processing Unit )、GPU(Graphics Processing Unit)、又はマルチコアCPUを用いて構成されている。演算部51は、量子コンピュータを用いて構成されていてもよい。メモリ52は、演算に伴って発生する一時的なデータを記憶する。メモリ52は、例えばRAM(Random Access Memory)である。記憶部53は、不揮発性であり、例えばハードディスクである。表示部54は、例えば液晶ディスプレイ又はELディスプレイ(Electroluminescent Display)である。操作部55は、使用者からの操作を受け付けることにより、テキスト等の情報の入力を受け付ける。操作部55は、例えばキーボード又はタッチパネルである。記憶部53は、コンピュータプログラム531を記憶している。演算部51は、コンピュータプログラム531に従って処理を実行する。
【0045】
図7は、学習モデル232を生成する処理の手順を示すフローチャートである。以下、ステップをSと略す。演算部51は、コンピュータプログラム531に従って以下の処理を実行する。演算部51は、夫々に単一のパルス波からなる複数のパルス波信号を生成する(S11)。S11では、演算部51は、シミュレーションにより、パルス波の波高、立ち上がり及びなまりの少なくとも一つがランダムである複数のパルス波信号を生成する。パルス波の波高、立ち上がり及びなまりの全てがランダムであってもよい。パルス波信号は信号値の列で構成される。例えば、パルス波信号に含まれる信号値の数は、学習モデル232の入力層のノード41の数と同じである。
【0046】
演算部51は、パルス波の波高、立ち上がり時定数及び立ち上がり開始時刻を、一様分布の乱数により生成する。乱数として、指数分布又はポアソン分布の乱数を用いてもよい。また、演算部51は、パルス波のなまりの時定数をランダムに生成する。演算部51は、生成したパラメータに従ったパルス波にホワイトノイズを重畳して、パルス波信号を生成する。パルス波に重畳するノイズは1/fノイズであってもよく、ノイズを重畳しなくてもよい。パルス波に重畳するノイズは、放射線検出器1の特性に応じたノイズであることが望ましい。パルス波信号は、図2Bに示す如き信号である。演算部51は、生成した複数のパルス波信号を含んだパルス波データ532を記憶部53に記憶する。放射線検出器1のサイズが大きい場合、実際に測定される信号のなまりが大きく変動する。シミュレーションにおいてパルス波のなまりをランダムにすることにより、実際の信号に近い信号を生成することができる。
【0047】
演算部51は、次に、夫々に複数のパルス波が重なった重畳波からなる複数の重畳波信号を生成する(S12)。S12では、演算部51は、シミュレーションにより、波高、立ち上がり及びなまりの少なくとも一つがランダムである二つのパルス波が夫々に重なった複数の重畳波信号を生成する。重畳波信号も信号値の列で構成される。演算部51は、一つ目のパルス波の波高、立ち上がり時定数及び立ち上がり開始時刻、並びに二つ目のパルス波の波高、立ち上がり時定数及び立ち上がり開始時刻を、一様分布の乱数により生成する。また、演算部51は、パルス波のなまりの時定数をランダムに生成する。なまりの時定数は二つのパルス波で同一であってもよい。演算部51は、生成したパラメータに従った重畳波にノイズを重畳して、重畳波信号を生成する。重畳波信号は、図3Bに示す如き信号である。演算部51は、生成した複数の重畳波信号を含んだ重畳波データ533を記憶部53に記憶する。
【0048】
演算部51は、次に、パルス波データ532に含まれる複数のパルス波信号及び重畳波データ533に含まれる複数の重畳波信号を教師データとして、学習モデル232を生成するための処理を行う(S13)。S13では、演算部51は、複数のパルス波信号及び複数の重畳波信号を構成する信号値の列を、夫々に学習モデル232の入力層へ入力する。入力層のノード41の夫々には、一つの信号値が入力される。演算部51は、パルス波信号には、複数のパルス波の重なりが無いことを示す情報を関連付け、重畳波信号には、複数のパルス波の重なりがあることを示す情報を関連付ける。学習モデル232によって、出力層のノード43から複数のパルス波の重なりがあるか否かを示す情報が出力される。演算部51は、入力されたパルス波信号又は重畳波信号に関連付けられた情報とノード43から出力された情報とを変数とする誤差関数により情報の誤差を計算し、誤差逆伝播法によって誤差が最小となるように、学習モデル232の各ノードの演算のパラメータを調整する。即ち、パルス波信号が入力されたときには複数のパルス波の重なりが無いことを示す情報に近い情報が出力され、重畳波信号が入力されたときには複数のパルス波の重なりがあることを示す情報に近い情報が出力されるように、パラメータが調整される。
【0049】
演算部51は、複数のパルス波信号及び複数の重畳波信号を用いて処理を繰り返して、学習モデル232の各ノードのパラメータを調整することにより、学習モデル232の機械学習を行う。演算部51は、調整された最終的なパラメータを記録した学習済データ534を記憶部53に記憶する。このようにして、学習された学習モデル232が生成される。S13が終了した後、演算部51は処理を終了する。処理部23に含まれる学習モデル232は、学習済データ534に基づいて製造される。例えば、処理部23に含まれるFPGAに学習済データ534に記録されたパラメータが書き込まれることにより、学習モデル232が製造される。なお、演算部51は、シミュレーションにより作成したパルス波信号及び重畳波信号を用いるのではなく、実際に測定されたパルス波信号及び重畳波信号を用いて学習モデル232の機械学習を行ってもよい。
【0050】
次に、信号処理装置2が実行する処理を説明する。図8は、実施形態1に係る信号処理装置2が実行する処理の手順を示すフローチャートである。放射線検出素子11に放射線が入射した場合、放射線検出器1は、放射線のエネルギーに応じた階段波を生成し、階段波を含む信号を出力する。信号処理装置2は、放射線検出器1から階段波を含む信号が入力される(S21)。A/D変換部21は、入力された信号をA/D変換する(S22)。A/D変換部21は、A/D変換した信号を波形整形部22へ入力する。波形整形部22は、入力された信号の波形を整形する(S23)。波形整形により、波形整形部22は信号に含まれるノイズを低減し、信号に含まれる階段波をパルス波へ変換する。波形整形部22は、パルス波を含む信号を処理部23、パルス検出部24及び波高測定部25へ入力する。
【0051】
処理部23へ入力される信号は、信号値の時系列で構成される。処理部23は、信号値をバッファメモリ231に順次記憶する(S24)。S21~S24の処理は個々に繰り返し実行され、信号値はバッファメモリ231に順次記憶される。バッファメモリ231は、先入れ先出しメモリであり、順次的に入力された複数の信号値を記憶する。バッファメモリ231が記憶する複数の信号値の量が上限に達している状態で新たな信号値が入力された場合、バッファメモリ231は、記憶している複数の信号値の中で最初に記憶した信号値を消去し、新たな信号値を記憶する。
【0052】
パルス検出部24は、入力された信号に含まれているパルス波の検出を待ち受ける(S25)。S25では、例えば、パルス検出部24は、信号値が所定の閾値を超過した場合に、信号に含まれているパルス波を検出したと判定する。閾値は予め処理部23に記憶されている。パルス波の検出がない場合は(S25:NO)、パルス検出部24は、S25の処理を繰り返す。
【0053】
信号に含まれているパルス波を検出した場合は(S25:YES)、パルス検出部24は、パルス波を検出したことを示す情報を処理部23へ入力し、処理部23は、パルス波を含む信号を構成する信号値の列を学習モデル232へ入力する(S26)。S26では、処理部23は、例えば、パルス波を検出したことを示す情報を入力された時点でバッファメモリ231に記憶されている複数の信号値を、学習モデル232へ入力する。処理部23は、信号を構成する信号値を、間引いた上で学習モデル232へ入力してもよい。パルス波を含む信号を入力された学習モデル232は、前述したように、ニューラルネットワークの演算を行い、複数のパルス波の重なりがあるか否かを示す情報を出力する。
【0054】
処理部23は、学習モデル232が出力した複数のパルス波の重なりの有無を示す情報を波高測定部25へ入力する。波高測定部25は、入力された情報に基づいて、複数のパルス波の重なりがあるか否かを特定する(S27)。複数のパルス波の重なりが無いことを示す情報が入力されており、複数のパルス波の重なりが無い場合は(S27:NO)、波高測定部25は、入力された信号に含まれるパルス波の波高を測定する(S28)。波高測定部25は、測定したパルス波の波高をカウント部26へ入力する。カウント部26は、波高測定部25から入力された波高別に、パルス波をカウントし(S29)、処理を終了する。複数のパルス波の重なりがあることを示す情報が入力されており、複数のパルス波の重なりがある場合(S27:YES)、波高測定部25は、重なった複数のパルス波については波高の測定を行わず、信号処理装置2は処理を終了する。この結果、カウント部26は、重なった複数のパルス波をカウントしない。信号処理装置2は、S21~S29の処理を個々に繰り返し実行する。
【0055】
信号処理装置2は、パルス波の波高とカウント部26がカウントしたカウント数との関係を示すデータを出力する。分析部3は、信号処理装置2が出力したデータを入力され、データに基づいて、放射線検出器1が検出した放射線のスペクトルを生成する。
【0056】
図9は、複数の方法で得られた放射線のスペクトルを示すスペクトル図である。図中の横軸は放射線のエネルギーをkeVの単位で示し、縦軸は放射線のカウント数を示す。図9に示すスペクトルには、11.8keV付近のピークと、12.4keV付近のピークとが含まれている。しかしながら、これらのピークはいずれも、重なった複数のパルス波の波高を測定したことによって得られるサムピークである。図9には、パルス波の重なりの検出を行わない場合のスペクトルを破線で示し、従来技術によってパルス波の重なりの検出を行った場合のスペクトルを細い実線で示す。また、本実施形態によってパルス波の重なりの検出を行った場合のスペクトルを太い実線で示す。
【0057】
図9に示すように、パルス波の重なりの検出を行った場合は、サムピークの強度が減少する。本実施形態では、従来技術に比べて、サムピークの強度がより減少している。このため、本実施形態では、従来検出が困難であった複数のパルス波の重なりを効果的に検出することができる。複数のパルス波の重なりを効果的に検出することにより、パルス波の重なりに起因して放射線のエネルギーを誤って測定することを抑制することができる。これにより、放射線のスペクトルにサムピークが発生することを抑制し、スペクトルに基づいた元素分析の精度を向上させることができる。例えば、存在しない元素を誤って検出することを抑制することができる。また、パルス波を検出するための閾値を低くしたとしても、複数のパルス波の重なりを検出することが可能となる。このため、パルス波を検出するための閾値を低くすることが可能となり、軽元素等、放射線のエネルギーの低い元素の検出が容易となる。
【0058】
以上詳述した如く、信号処理装置2は、学習モデル232を用いて、複数のパルス波の重なりを検出する。学習モデル232は、パルス波を含む信号を構成する信号値の列を入力された場合に、複数のパルス波の重なりの有無を示す情報を出力する。学習モデル232を用いることにより、従来検出が困難であった複数のパルス波の重なりを検出することができる。学習モデル232は信号の波形の全体から複数のパルス波の重なりの有無を判定するので、信号波形の特徴量に基づいた従来の判定方法に比べて、ノイズの影響を受け難くなり、より確実に複数のパルス波の重なりの有無が得られる。これによって、放射線検出装置10は、放射線のスペクトルに基づいた元素分析の精度を向上させることができる。また、信号処理装置2は、信号値の列を処理することによって、信号の画像を処理する場合に比べて高速に処理を実行することができ、ほぼリアルタイムにパルス波の重なりを検出することができる。
【0059】
<実施形態2>
図10は、実施形態2に係る放射線検出装置10の機能構成を示すブロック図である。放射線検出器1及び分析部3の構成及び機能は、実施形態1と同様である。処理部23は、波形整形部22及びA/D変換部21に接続されている。処理部23は、パルス波を含む信号を波形整形部22から入力され、階段波を含む信号をA/D変換部21から入力される。処理部23は、パルス波を含む信号を構成する信号値と、階段波を含む信号を構成する信号値を、バッファメモリ231に記憶する。
【0060】
学習モデル232は、パルス波を含む信号と階段波を含む信号とを入力された場合に、複数のパルス波の重なりがあるか否かを示す情報を出力するように、予め学習されている。学習モデル232は、実施形態1と同様に、全結合のニューラルネットワークを用いる。学習モデル232の入力層は、パルス波を含む信号を構成する信号値の列が入力される複数のノード41に加えて、階段波を含む信号を構成する信号値の列が入力される複数のノード41を含んでいる。学習モデル232の出力層のノード43は、実施形態1と同様に、複数のパルス波の重なりの有無を示す情報を出力する。信号処理装置2のA/D変換部21及び処理部23以外の部分の構成は、実施形態1と同様である。
【0061】
学習モデル232の学習は、実施形態1と同様に、学習装置5によって行われる。学習装置5の演算部51は、S11での複数のパルス波信号の生成に加えて、パルス波が波形整形部22により変換される前の階段波を含む信号に対応する階段波信号を生成する。逆に、演算部51は、シミュレーションにより、階段波を含み、階段波の波高、立ち上がり及びなまりの少なくとも一つがランダムであり、ホワイトノイズを重畳した複数の階段波信号を生成し、階段波信号を微分することによりパルス波信号を生成してもよい。信号に重畳するノイズは1/fノイズであってもよく、ノイズを重畳しなくてもよい。また、演算部51は、S12での複数の重畳波信号の生成に加えて、重畳波が波形整形部22により変換される前の複数の階段波を含む信号に対応する近接階段波信号を生成する。逆に、演算部51は、シミュレーションにより、波高、立ち上がり及びなまりの少なくとも一つがランダムである二つの近接した階段波を含んだ複数の近接階段波信号を生成し、近接階段波信号を微分することにより重畳波信号を生成してもよい。なお、演算部51は、シミュレーションにより作成した階段波信号及び近接階段波信号を用いるのではなく、実際に測定された階段波信号及び近接階段波信号を用いてもよい。
【0062】
演算部51は、S13で、複数のパルス波信号及び階段波信号と、複数の重畳波信号及び近接階段波信号とを教師データとして、学習モデル232を生成するための処理を行う。S13では、演算部51は、パルス波信号及び階段波信号を構成する信号値の列を学習モデル232の入力層へ入力する。また、演算部51は、重畳波信号及び近接階段波信号を構成する信号値の列を学習モデル232の入力層へ入力する。演算部51は、誤差逆伝播法により、学習モデル232の各ノードの演算のパラメータを調整する。演算部51は、複数のパルス波信号及び複数の重畳波信号を用いて処理を繰り返して、学習モデル232の機械学習を行う。
【0063】
信号処理装置2は、実施形態1と同様に、S21~S25の処理を実行する。S26では、処理部23は、波形整形部22から入力されたパルス波を含む信号を構成する信号値の列と、A/D変換部21から入力された階段波を含む信号を構成する信号値の列とを、学習モデル232へ入力する。学習モデル232は、ニューラルネットワークの演算を行い、複数のパルス波の重なりがあるか否かを示す情報を出力する。信号処理装置2は、実施形態1と同様に、S27~S29の処理を実行する。信号処理装置2は、パルス波の波高とカウント数との関係を示すデータを出力し、分析部3は、信号処理装置2が出力したデータを入力され、放射線検出器1が検出した放射線のスペクトルを生成する。分析部3は、放射線のスペクトルに基づいて、放射線源の元素分析を行ってもよい。
【0064】
以上詳述した如く、実施形態2においては、信号処理装置2は、パルス波を含む信号に加えて、パルス波に変換する前の階段波を含む信号を学習モデル232へ入力して、パルス波の重なりを検出する。複数のパルス波が重なっている場合は、階段波の間隔が短く、階段波を含む信号の波形も、パルス波が重なっていない場合と比べて異なる。このため、パルス波を含む信号に加えて、階段波を含む信号をも用いることにより、パルス波の重なりがあるか否かの判定がより容易となる。信号処理装置2は、実施形態1に比べて、より効果的に複数のパルス波の重なりを検出することができ、放射線検出装置10は、スペクトルに基づいた元素分析の精度をより向上させることができる。
【0065】
なお、信号処理装置2は、パルス波を含んだ信号を用いずに、階段波を含んだ信号を用いて、複数のパルス波の重なりを検出する形態であってもよい。この形態では、学習モデル232は、階段波を含む信号を入力された場合に、複数のパルス波の重なりがあるか否かを示す情報を出力するように、予め学習されている。学習モデル232の入力層は、階段波を含む信号を構成する信号値の列が入力される複数のノード41を含んでいる。学習モデル232の学習では、学習装置5は、階段波信号及び近接階段波信号を生成し、複数の階段波信号及び近接階段波信号を教師データとして、学習モデル232の機械学習を行う。信号処理装置2は、S26では、パルス波を含む信号を構成する信号値の列は学習モデル232へ入力せず、階段波を含む信号を構成する信号値の列を学習モデル232へ入力する。学習モデル232は、同様に、複数のパルス波の重なりがあるか否かを示す情報を出力する。信号処理装置2は、実施形態1と同様に、効果的に複数のパルス波の重なりを検出することができる。
【0066】
また、信号処理装置2は、パルス波を含む信号及び/又は階段波を含む信号に加えて、パルス波を更に波形整形部22で整形した整形波を含む信号を更に学習モデル232へ入力して、複数のパルス波の重なりを検出する形態であってもよい。整形波は、例えば、階段波の二階微分に相当する。学習モデル232は、パルス波を含む信号を構成する信号値の列及び/又は階段波を含む信号を構成する信号値の列と、整形波を含む信号を構成する信号値の列とを入力された場合に、複数のパルス波の重なりがあるか否かを示す情報を出力するように、予め学習されている。学習モデル232の入力層は、整形波を含む信号を構成する信号値の列が入力される複数のノード41を含んでいる。学習モデル232の学習では、学習装置5は、整形波を含む信号、及び重畳波信号を整形した信号を生成し、パルス波信号及び/又は階段波信号と、整形波を含む信号と、重畳波信号及び/又は近接階段波信号と、重畳波信号を整形した信号とを教師データとして、機械学習を行う。信号処理装置2は、S26では、パルス波を含む信号を構成する信号値の列及び/又は階段波を含む信号を構成する信号値の列と、整形波を含む信号を構成する信号値の列とを学習モデル232へ入力する。学習モデル232は、複数のパルス波の重なりがあるか否かを示す情報を出力する。この形態においても、信号処理装置2は、より効果的に複数のパルス波の重なりを検出することができる。
【0067】
また、信号処理装置2は、パルス波を含む信号及び/又は階段波を含む信号に加えて、信号波形の特徴量を更に学習モデル232へ入力して、パルス波の重なりを検出する形態であってもよい。信号波形の特徴量は、例えば、波高、立ち上がり時定数、又は信号波の時間幅等である。学習モデル232は、パルス波を含む信号を構成する信号値の列及び/又は階段波を含む信号を構成する信号値の列と、信号波形の特徴量とを入力された場合に、複数のパルス波の重なりがあるか否かを示す情報を出力するように、予め学習されている。信号処理装置2は、S26で、パルス波を含む信号を構成する信号値の列及び/又は階段波を含む信号を構成する信号値の列と、信号波形の特徴量とを学習モデル232へ入力する。学習モデル232は、複数のパルス波の重なりがあるか否かを示す情報を出力する。更に、整形波を含む信号をも用いてもよい。信号波形の特徴量は、単一のパルス波と重畳波とで異なるので、信号波形の特徴量を用いることにより、複数のパルス波の重なりをより効果的に検出することができる。このため、放射線検出装置10は、スペクトルに基づいた元素分析の精度をより向上させることができる。
【0068】
<実施形態3>
実施形態3においては、学習モデル232が重なっているパルス波の数を判定する形態を示す。図11は、実施形態3に係る放射線検出装置10の機能構成を示すブロック図である。放射線検出器1及び分析部3の構成及び機能は、実施形態1と同様である。信号処理装置2は、A/D変換部21と、波形整形部22と、処理部23と、波高測定部25と、カウント部26とを備える。処理部23は、バッファメモリを有していない。処理部23は、A/D変換部21からの階段波を含む信号と、波形整形部22からのパルス波を含む信号との少なくとも一方を入力される。処理部23は、重なっているパルス波の数を示す情報を波高測定部25へ入力する。
【0069】
図12は、実施形態3に係る学習モデル232の機能構成例を示す概念図である。学習モデル232は、パルス波を含む信号を構成する信号値の列及び/又は階段波を含む信号を構成する信号値の列を入力された場合に、重なっているパルス波の数の確率を出力するように、予め学習されている。学習モデル232の出力層は、複数のノード43を有する。夫々のノード43は、複数のノード42nからデータを受け付け、受け付けたデータにパラメータを用いて演算し、信号に含まれるパルス波が重なっている数が特定の数である確率を出力する。例えば、一のノード43は、信号にパルス波が含まれていない確率を出力し、他のノード43は、複数のパルス波が重なっておらず、パルス波の数が一つである確率を出力し、更に他のノード43は、重なっているパルス波の数が二つである確率を出力する。ノード43は、パルス波が重なっている数が特定の数である確率を0~1の実数で出力してもよく、0又は1の二値で出力してもよい。
【0070】
学習モデル232の学習では、学習装置5は、パルス波及び階段波を含まない信号と、パルス波信号及び/又は階段波信号と、重畳波信号及び/又は近接階段波信号とを教師データとして、機械学習を行う。学習装置5は、パルス波及び階段波を含まない信号には、パルス波が無い確率が1であり他の確率が0である情報を関連付け、パルス波信号及び/又は階段波信号には、パルス波が一つである確率が1であり他の確率が0である情報を関連付け、重畳波信号及び/又は近接階段波信号には、パルス波が複数である確率が1であり他の確率が0である情報を関連付ける。学習装置5は、入力層へ入力した信号に関連付けられた情報が示す夫々の確率と、出力層から出力された夫々の確率とを変数とする誤差関数により情報の誤差を計算し、誤差逆伝播法によって誤差が最小となるように、学習モデル232の各ノードの演算のパラメータを調整する。
【0071】
図13は、実施形態3に係る信号処理装置2が実行する処理の手順を示すフローチャートである。信号処理装置2は、放射線検出器1から階段波を含む信号が入力され(S31)、A/D変換部21は、信号をA/D変換する(S32)。A/D変換部21は、A/D変換した信号を波形整形部22へ入力する。波形整形部22は、入力された信号の波形を整形する(S33)。波形整形により、階段波はパルス波へ変換される。波形整形部22は、パルス波を含む信号を波高測定部25へ入力する。
【0072】
処理部23は、A/D変換部21からの階段波を含む信号、及び/又は波形整形部22からのパルス波を含む信号を入力され、入力された信号を構成する信号値の列を学習モデル232へ入力する(S34)。学習モデル232は、前述したように、ニューラルネットワークの演算を行い、重なっているパルス波の数の確率を出力する。処理部23は、重なっているパルス波の数を示す情報を波高測定部25へ入力する。このとき、処理部23は、重なっているパルス波の数を示す情報として、学習モデル232が出力した確率を波高測定部25へ入力してもよい。また、処理部23は、重なっているパルス波の数を確率に基づいて判定し、重なっているパルス波の数を示す情報として、判定した数を示す情報を波高測定部25へ入力してもよい。例えば、処理部23は、確率が最大である数、又は確率が所定値以上である数を、重なっているパルス波の数であると判定する。
【0073】
波高測定部25は、入力された情報に基づいて、パルス波の数が一つであるか否かを特定する(S35)。パルス波の数が一つである場合は(S35:YES)、波高測定部25は、入力された信号に含まれるパルス波の波高を測定する(S36)。波高測定部25は、測定したパルス波の波高をカウント部26へ入力する。カウント部26は、波高別にパルス波をカウントし(S37)、処理を終了する。パルス波の数が一つ以外の数である場合は(S35:NO)、波高測定部25は波高の測定を行わず、信号処理装置2は処理を終了する。この結果、カウント部26は、重なった複数のパルス波をカウントしない。信号処理装置2は、S31~S37の処理を繰り返し実行する。
【0074】
信号処理装置2は、パルス波の波高とカウント部26がカウントしたカウント数との関係を示すデータを出力する。分析部3は、信号処理装置2が出力したデータを入力され、データに基づいて、放射線検出器1が検出した放射線のスペクトルを生成する。分析部3は、放射線のスペクトルに基づいて、放射線源の元素分析を行ってもよい。本実施形態においても、信号処理装置2は、効果的に複数のパルス波の重なりを検出することができ、放射線検出装置10は、スペクトルに基づいた元素分析の精度をより向上させることができる。
【0075】
なお、信号処理装置2は、パルス波を更に波形整形部22で整形した整形波を含む信号をも用いて、複数のパルス波の重なりを検出する形態であってもよい。また、信号処理装置2は、信号波形の特徴量をも用いて、複数のパルス波の重なりを検出する形態であってもよい。
【0076】
<実施形態4>
実施形態4においては、学習モデル232が階段波の数と波高とを判定する形態を示す。図14は、実施形態4に係る放射線検出装置10の機能構成を示すブロック図である。放射線検出器1及び分析部3の構成及び機能は、実施形態1と同様である。信号処理装置2は、A/D変換部21と、処理部23と、カウント部26とを備える。A/D変換部21は、階段波を含む信号を処理部23へ入力する。
【0077】
図15は、実施形態4に係る学習モデル232の機能構成例を示す概念図である。学習モデル232は、階段波を含む信号を構成する信号値の列を入力された場合に、信号に含まれる階段波の数の確率及び階段波の波高を出力するように、予め学習されている。学習モデル232の出力層は、複数のノード43を有する。夫々のノード43は、複数のノード42nからデータを受け付け、受け付けたデータにパラメータを用いて演算する。一のノード43は、信号に含まれている階段波の波高を出力する。他のノード43は、信号に含まれる階段波の数の確率を出力する。例えば、信号に階段波が含まれていない確率を出力するノード43と、階段波の数が一つである確率を出力するノード43と、階段波の数が二つである確率を出力するノード43とがある。ノード43は、階段波の数が特定の数である確率を0~1の実数で出力してもよく、0又は1の二値で出力してもよい。信号に含まれる階段波の数の確率は、複数の階段波を変換した複数のパルス波の重なりの有無に関する情報である。
【0078】
学習モデル232の学習では、学習装置5は、階段波を含まない信号と、階段波信号と、近接階段波信号とを教師データとして、機械学習を行う。学習装置5は、階段波を含まない信号には、波高がゼロであり、階段波が無い確率が1であり他の確率が0であることを示す情報を関連付ける。学習装置5は、階段波信号には、階段波の波高と、階段波が一つである確率が1であり他の確率が0であることとを示す情報を関連付ける。学習装置5は、近接階段波信号には、複数の階段波の波高の合計と、階段波が複数である確率が1であり他の確率が0であることを示す情報を関連付ける。学習装置5は、入力層へ入力した信号に関連付けられた情報が示す波高及び夫々の確率と、出力層から出力された夫々の確率とを変数とする誤差関数により情報の誤差を計算し、誤差逆伝播法によって誤差が最小となるように、学習モデル232の各ノードの演算のパラメータを調整する。
【0079】
図16は、実施形態4に係る信号処理装置2が実行する処理の手順を示すフローチャートである。信号処理装置2は、放射線検出器1から階段波を含む信号が入力され(S41)、A/D変換部21は、信号をA/D変換する(S42)。A/D変換部21は、A/D変換した信号を処理部23へ入力する。
【0080】
処理部23は、入力された信号を構成する信号値の列を学習モデル232へ入力する(S43)。学習モデル232は、前述したように、ニューラルネットワークの演算を行い、信号に含まれる階段波の波高、及び階段波の数の確率を出力する。処理部23は、波高及び階段波の数を示す情報をカウント部26へ入力する。このとき、処理部23は、階段波の数を示す情報として、学習モデル232が出力した確率をカウント部26へ入力してもよい。また、処理部23は、階段波の数を確率に基づいて判定し、階段波の数を示す情報として、判定した数を示す情報をカウント部26へ入力してもよい。例えば、処理部23は、確率が最大である数、又は確率が所定値以上である数を、階段波の数であると判定する。
【0081】
カウント部26は、入力された情報に基づいて、階段波の数が一つであるか否かを特定する(S44)。階段波の数が一つである場合は(S44:YES)、カウント部26は、波高別に階段波をカウントし(S45)、処理を終了する。これにより、カウント部26は、複数の階段波を変換した複数のパルス波の重なりが無い場合の階段波をカウントする。階段波の数が一つ以外の数である場合は(S44:NO)、カウント部26はカウントを行わず、信号処理装置2は処理を終了する。この結果、カウント部26は、複数の階段波を変換した複数のパルス波が重なる場合の階段波をカウントしない。信号処理装置2は、S41~S45の処理を繰り返し実行する。
【0082】
信号処理装置2は、階段波の波高とカウント部26がカウントしたカウント数との関係を示すデータを出力する。分析部3は、信号処理装置2が出力したデータを入力され、データに基づいて、放射線検出器1が検出した放射線のスペクトルを生成する。分析部3は、放射線のスペクトルに基づいて、放射線源の元素分析を行ってもよい。本実施形態においても、信号処理装置2は、複数の階段波を変換した複数のパルス波の重なりを効率的に検出することができ、放射線検出装置10は、スペクトルに基づいた元素分析の精度をより向上させることができる。なお、信号処理装置2は、信号波形の特徴量をも用いて、複数のパルス波の重なりを検出する形態であってもよい。
【0083】
<実施形態5>
図17は、実施形態5に係る処理部23の機能構成を示すブロック図である。処理部23は、演算部233及びメモリ234を有する。演算部233は、例えばCPU、GPU、又はマルチコアCPUを用いて構成されている。演算部233は、量子コンピュータを用いて構成されていてもよい。メモリ234は、不揮発性のメモリである。メモリ234は、コンピュータプログラム235を記憶している。演算部233は、コンピュータプログラム235に従って処理部23に必要な処理を実行する。学習モデル232は、コンピュータプログラム235に従って演算部233が情報処理を実行することにより実現される。
【0084】
演算部233は、コンピュータプログラム235に従って情報処理を実行することにより、実施形態1~4における処理部23に必要な処理を実行する。このようにして、実施形態1~4における処理部23が実現される。放射線検出器1及び分析部3の構成及び機能は、実施形態1~4と同様である。信号処理装置2の処理部23以外の部分の構成及び機能は、実施形態1~4と同様である。信号処理装置2及び放射線検出装置10は、実施形態1~4と同様の処理を実行する。本実施形態においても、信号処理装置2は、複数の階段波を変換した複数のパルス波の重なりを効率的に検出することができ、放射線検出装置10は、スペクトルに基づいた元素分析の精度をより向上させることができる。なお、信号処理装置2の処理部23以外の部分の一部又は全部も、コンピュータプログラムを用いて実現されてもよい。
【0085】
<実施形態6>
実施形態6では、信号処理装置2は、学習モデルを用いずにパルス波の重なりを効果的に検出する。図18は、実施形態6に係る放射線検出装置10の機能構成を示すブロック図である。放射線検出器1及び分析部3の構成及び機能は、実施形態1と同様である。信号処理装置2は、A/D変換部21と、波形整形部22と、処理部23と、パルス検出部24と、波高測定部25と、カウント部26と、記憶部27とを備える。処理部23は、学習モデルを含んでいない。処理部23には、記憶部27が接続されている。記憶部27は、不揮発性である。例えば、記憶部27は不揮発性の半導体メモリで構成されている。記憶部27は、所定の係数列を記憶している。信号処理装置2の処理部23及び記憶部27以外の部分の構成は、実施形態1と同様である。
【0086】
図19及び図20は、係数列の例を示すグラフである。図中の横軸はクロックを単位にした時間を示し、縦軸は係数の値又は信号値を示す。係数列は、複数の係数が並んだ一次元の配列である。図19には、単一のパルス波を含む信号を破線で示し、係数列を実線で示している。パルス波を含む信号を構成する信号値の列をクロックの間隔で並べて示している。また、係数列に含まれる複数の係数を順番にクロックの間隔で並べて示している。係数列に含まれる複数の係数は、パルス波を含む信号を構成する信号値の列と積和演算を行うためのものである。係数列に含まれる係数の数をmとする。係数列をa1 ,a2 ,…,am ,とし、パルス波を含む信号を構成する信号値の列をx1 ,x2 ,…とする。積和演算は、(a1 *x1 +a2 *x2 +…+am *xm +C)で表される。Cは定数値である。定数値Cは記憶部27に記憶されている。
【0087】
図19に示すように、係数列は、パルス波とほぼ同時に立ち上がり、パルス波よりも短い期間で増大と減少とを行い、パルス波のピーク付近でほぼゼロになり、以後はマイナスの値となり、ゆっくりとゼロの値に近づく。係数列は、単一のパルス波を含む信号を構成する信号値の列との積和演算の結果が、ほぼゼロになるように設定されている。図19に示すように、クロック150の時点でパルス波を含む信号の値がほぼゼロとなり、これ以後の積和演算はほぼゼロとなる。クロック150の時点以前では、パルス波のピーク以前の信号値とプラスの係数との積和演算の結果はプラスの値となり、パルス波のピーク以後の信号値とマイナスの係数との積和演算の結果はマイナスの値となり、合計でほぼゼロとなるように、係数の値の変化が定められている。このため、単一のパルス波を含む信号を構成する信号値の列と係数列との積和演算の結果は、ほぼゼロになる。このように、係数列は、単一のパルス波を含む信号との積和演算の結果がほぼゼロになるように定められている。
【0088】
図20には、重畳波を含む信号を破線で示し、係数列を実線で示している。図19及び図20に示す係数列は同一である。図20に示すように、重畳波の時間幅は単一のパルス波よりも大きいので、重畳波を含む信号では、クロック150の時点以後でも、信号値はプラスの値を保っている。また、係数列は、クロック150の時点以後はマイナスの値となっている。このため、重畳波を含む信号を構成する信号値の列と係数列との積和演算の結果は、クロック150の時点以後ではマイナスの値となる。クロック150の時点以前では、単一のパルス波と同様に、積和演算の結果はほぼゼロとなる。このため、重畳波を含む信号を構成する信号値の列と係数列との積和演算の結果は、マイナスの値となる。このように、係数列は、重畳波を含む信号との積和演算の結果がマイナスの値になるように定められている。即ち、ゼロ未満の所定の値を基準値として、係数列は、単一のパルス波を含む信号との積和演算の結果が基準値より大となり、重畳波を含む信号との積和演算の結果が基準値より小となるように、定められている。
【0089】
図21は、実施形態6に係る信号処理装置2が実行する処理の手順を示すフローチャートである。信号処理装置2は、実施形態1におけるS21~S25の処理と同様のS51~S55の処理を実行する。信号に含まれているパルス波を検出した場合は(S25:YES)、パルス検出部24は、パルス波を検出したことを示す情報を処理部23へ入力し、処理部23は、入力された信号を構成する信号値の列と記憶部27に記憶している係数列との積和演算を行う(S56)。
【0090】
処理部23は、積和演算の結果に従って、入力された信号に複数のパルス波の重なりがあるか否かを判定する(S57)。S57では、処理部23は、積和演算の結果がゼロ未満の基準値未満である場合に、複数のパルス波の重なりがあると判定し、積和演算の結果が基準値以上である場合に、複数のパルス波の重なりは無いと判定する。基準値は予め処理部23又は記憶部27に記憶されている。処理部23は、複数のパルス波の重なりの有無を示す情報を波高測定部25へ入力する。複数のパルス波の重なりが無い場合は(S57:NO)、波高測定部25は、入力された信号に含まれるパルス波の波高を測定し(S58)、測定した波高をカウント部26へ入力する。カウント部26は、波高測定部25から入力された波高別に、パルス波をカウントし(S59)、処理を終了する。
【0091】
複数のパルス波の重なりがある場合(S57:YES)、波高測定部25は、重なった複数のパルス波については波高の測定を行わず、信号処理装置2は処理を終了する。この結果、カウント部26は、重なった複数のパルス波をカウントしない。信号処理装置2は、S51~S59の処理を個々に繰り返し実行する。信号処理装置2は、パルス波の波高とカウント数との関係を示すデータを出力する。分析部3は、信号処理装置2が出力したデータを入力され、データに基づいて、放射線検出器1が検出した放射線のスペクトルを生成する。分析部3は、放射線のスペクトルに基づいて、放射線源の元素分析を行ってもよい。
【0092】
なお、係数列は、単一のパルス波を含む信号を構成する信号値の列との積和演算の結果が基準値より小となり、重畳波を含む信号を構成する信号値の列との積和演算の結果が基準値より大となるように、定められていてもよい。例えば、係数列は、単一のパルス波を含む信号を構成する信号値の列と係数列との積和演算の結果がほぼゼロになり、重畳波を含む信号との積和演算の結果がプラスの値になるように定められていてもよい。この形態では、S57で、処理部23は、ゼロを超過する所定の値を基準値として、積和演算の結果が基準値を超過する場合に、複数のパルス波の重なりがあると判定し、積和演算の結果が基準値以下である場合に、複数のパルス波の重なりは無いと判定する。
【0093】
以上詳述した如く、実施形態6においては、信号処理装置2は、パルス波を含む信号を構成する信号値の列と所定の係数列との積和演算を行い、積和演算の結果に基づいて、パルス波の重なりを検出する。実施形態6においても、信号処理装置2は、効果的にパルス波の重なりを検出することができ、放射線検出装置10は、スペクトルに基づいた元素分析の精度をより向上させることができる。学習モデルを使用せずに積和演算によって判定を行うので、信号処理装置2は、より高速に処理を実行することができる。
【0094】
信号処理装置2は、実施形態1又は2に示した学習モデル232を用いる方法と、実施形態6に示した積和演算の結果を用いる方法とを両方実行する形態であってもよい。例えば、信号処理装置2は、学習モデル232を用いる方法と積和演算の結果を用いる方法との両方でパルス波の重なりがあるか否かを判定し、何れか一方の方法でパルス波の重なりがあると判定した場合に、パルス波の重なりが発生したと判定する。実施形態1~6では、信号処理装置2がカウント部26を備える形態を示したが、カウント部26は信号処理装置2の外部に設けられていてもよい。また、実施形態1~6では、放射線検出素子11が半導体放射線検出素子である例を示したが、放射線検出器1は、半導体放射線検出素子以外の放射線検出素子11を用いた形態であってもよい。例えば、放射線検出器1は、シンチレーション検出器であってもよい。
【0095】
本発明は上述した実施の形態の内容に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。即ち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0096】
1 放射線検出器
10 放射線検出装置
11 放射線検出素子
2 信号処理装置
21 A/D変換部
22 波形整形部
23 処理部
232 学習モデル
235 コンピュータプログラム
25 波高測定部
26 カウント部
27 記憶部
3 分析部
5 学習装置
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21