(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】油脂の劣化予測装置、劣化予測システム、劣化予測方法、油脂交換システム及びフライヤーシステム
(51)【国際特許分類】
G01N 29/036 20060101AFI20241211BHJP
G01N 29/44 20060101ALI20241211BHJP
A47J 37/12 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
G01N29/036
G01N29/44
A47J37/12 391
(21)【出願番号】P 2021554201
(86)(22)【出願日】2020-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2020036682
(87)【国際公開番号】W WO2021079692
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2023-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2019193843
(32)【優先日】2019-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】廣末 頼泰
(72)【発明者】
【氏名】山口 隆司
(72)【発明者】
【氏名】橋本 昌晴
(72)【発明者】
【氏名】小薗 伸介
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-178731(JP,A)
【文献】特開2018-155660(JP,A)
【文献】特開2003-194786(JP,A)
【文献】特開2018-205226(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0272415(US,A1)
【文献】米国特許第05586486(US,A)
【文献】食用(フライ)油の交換時期の目安は,教えて!goo[online],NTTレゾナント株式会社,2005年06月03日,検索日2020.11.25, インターネット<URL:https://oshiete.goo.ne.jp/qa/1424984.html>
【文献】「フライヤー油交換時期を明確にするメリット」,株式会社ボトルネックソリューションズのホームページ[online],2016年12月05日,検索日2024.7.30, インターネット<URL:https://karattokun.bn-solutions.jp/oil/av-checking/>
【文献】「天ぷら油の交換」,江戸蕎麦手打處 流山 昇山のホームページ[online],2016年11月24日,検索日2024.7.30, インターネット<URL:https://shouzan.jp/archives/667>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
A47J 37/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用の油脂の劣化度合いを予測する劣化予測装置であって、
油槽に収容された前記油脂を用いて揚げ物を調理
している調理中の音響データを取得する音響データ取得部と、
揚げ物の種類ごとに音響データと前記油脂の劣化度合いとの相関を示す相関データを対応付けて記憶している記憶手段において、前記油脂で調理中の揚げ物の種類に対応付けて記憶される前記相関データを取得する相関データ取得部と、
前記音響データ取得部によって
取得された前記音響データと前記相関データ取得部によって取得された前記相関データとに基づいて、前記油脂の劣化度合いを判定する判定部と、
を備えていることを特徴とする劣化予測装置。
【請求項2】
前記油脂の劣化度合い又は前記油脂の交換のタイミングを報知する報知部をさらに備え、
前記報知部は、
前記油脂の劣化度合いが前記判定部によって前記油脂の劣化度合いに基づいて予め定めた交換の閾値を超えたと判定された場合に、前記報知を行うことを特徴とする請求項1に記載の劣化予測装置。
【請求項3】
前記判定部が前記油脂の劣化度合いを判定する際に用いる前記音響データは、前記音響データから抽出した指標であり、
前記指標は、周波数平均、周波数標準偏差、周波数中央値、周波数標準誤差、周波数最頻値、周波数第一四分位数、周波数第三四分位数、周波数四分位範囲、周波数重心、周波数スキューネス、周波数クルトシス、周波数スペクトル平坦性、周波数スペクトルエントロピー、周波数スペクトル精度、音響複雑度指数、音響エントロピー、優位周波数から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の劣化予測装置。
【請求項10】
食用の油脂の劣化度合いを予測する劣化予測方法であって、
油槽に収容された前記油脂を用いて揚げ物を調理
している調理中の音響データを取得する音響データ取得ステップと、
揚げ物の種類ごとに音響データと前記油脂の劣化度合いとの相関を示す相関データを対応付けて記憶している記憶手段において、前記油脂で調理中の揚げ物の種類に対応付けて記憶される前記相関データを取得する相関データ取得ステップと、
前記音響データ取得ステップにおいて取得された前記音響データと前記相関データ取得ステップにおいて取得された前記相関データとに基づいて、前記油脂の劣化度合いを判定する判定ステップと、
を備えていることを特徴とする劣化予測方法。
【請求項11】
請求項1~3の何れか1項に記載の劣化予測装置から出力される前記油脂の劣化度合いに関する報知情報
を油脂販売業者と、油脂製造業者と、店舗の統括本部と、工場の統括本部と、廃油回収業者と、清掃作業業者との1又は2以上に通知することを特徴とする油脂交換システム。
【請求項13】
前記バルブ制御部は、前記油槽に新油を自動で供給することを特徴とする請求項12に記載のフライヤーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂の劣化度合いを予測する劣化予測装置、劣化予測システム、劣化予測方法、油脂交換システム及びフライヤーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
揚げ物を調理するときに用いる食用の油脂は、食材を何度も調理すると劣化してくるため、適切な時期に交換する必要がある。このような油脂の交換時期を客観的に判断するため、油脂の色調や粘度、におい等を検出して判定する装置が知られている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1の検知装置は、油槽上方の換気扇にセンサ部が取り付けられている。このセンサ部は、においの元となるガス分子を吸着する感応膜と、感応膜に付着したガス分子を電気信号に変換するトランスデューサとを有しており、食用油から発生するにおいを検出する。そして、検知装置の制御部は、揚げ調理中にセンサ部によって検出されたにおいに関する情報と、食用油を用いて調理する食品の種類とに基づいて、食用油の劣化の度合いを判定する(段落0017、0021、
図1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の検知装置の場合、調理する食材以外にも調理場内に様々なにおい(揚げ物以外から発せられる香ばしいにおい、焦げたにおい等)が存在しているため、においのみから食用油の劣化を精度良く予測することは困難であった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、簡易かつ精度良く油脂の劣化を予測することができる劣化予測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の劣化予測装置は、食用の油脂の劣化度合いを予測する劣化予測装置であって、油槽に収容された前記油脂を用いて揚げ物を調理するときの音響データを取得する音響データ取得部と、前記音響データ取得部によって取得された前記音響データから前記油脂の劣化に関係する指標を抽出する指標抽出部と、前記指標抽出部によって抽出された前記指標に基づいて、前記油脂の劣化度合いを判定する判定部と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
劣化予測装置の音響データ取得部は、天ぷら等の揚げ物を調理するとき、油脂の音響データを取得する。指標抽出部は、この音響データから周波数平均、周波数標準偏差等の様々な音響成分を、油脂の劣化に関係する指標として抽出する。そして、判定部が当該指標に基づいて油脂の劣化度合い、すなわち使用により劣化が進んだか否かを判定する。これにより、本装置は、油脂の劣化を簡易かつ精度良く予測することができる。
【0009】
本発明の劣化予測装置において、前記油脂の劣化度合い又は前記油脂の交換のタイミングを報知する報知部をさらに備え、前記報知部は、前記判定部によって前記油脂の劣化度合いに基づいて予め定めた交換の閾値を超えたと判定された場合に、前記報知を行うことが好ましい。
【0010】
この構成によれば、劣化予測装置の報知部が油脂の劣化度合いを報知するので、ユーザは、油脂の使用状況を把握することができる。また、報知部は、判定部の判定結果に基づいて予め定めた閾値から油脂の交換のタイミングを報知するので、ユーザが適切なタイミングで油脂の交換を行うことができる。ここで、「交換のタイミング」とは、実際に油脂を交換するタイミングでもよいし、現在の油脂の劣化度合いから推定される使用可能な残り時間であってもよい。
【0011】
また、本発明の劣化予測装置において、前記指標は、周波数平均、周波数標準偏差、周波数中央値、周波数標準誤差、周波数最頻値、周波数第一四分位数、周波数第三四分位数、周波数四分位範囲、周波数重心、周波数スキューネス、周波数クルトシス、周波数スペクトル平坦性、周波数スペクトルエントロピー、周波数スペクトル精度、音響複雑度指数、音響エントロピー、優位周波数から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、前記指標は油脂の劣化と相関が高いものを1つ又は複数選択する。これにより、本装置は、その劣化を精度良く予測することができる。
【0013】
本発明の劣化予測システムは、検出装置と機械学習装置とからなり、食用の油脂の劣化度合いを予測する劣化予測システムであって、前記検出装置は、油槽に収容された前記油脂を用いて揚げ物を調理するときの音響データを取得する音響データ取得部と、前記機械学習装置が作成した、前記油脂の劣化を判定可能な学習モデルを記憶する記憶部と、前記学習モデルを用いて、前記音響データから前記油脂の劣化度合いを判定する判定部と、を備え、前記機械学習装置は、前記音響データ取得部によって取得された前記音響データから前記油脂の劣化に関係する指標を抽出し、前記指標を用いて線形回帰による機械学習を行い、前記学習モデルを作成する学習モデル作成部と、を備えていることを特徴とする。
【0014】
本発明の劣化予測システムは、検出装置と機械学習装置とで構成されている。検出装置は、音響データ取得部が揚げ物を調理するときの油脂の音響データを取得し、判定部が学習モデルを用いて油脂の劣化度合いを判定する。
【0015】
そして、学習モデル作成部は、取得した音響データから油脂の劣化に関係する指標を抽出し、線形回帰による機械学習を行う。これにより、学習モデルが更新されるため、本システムは、油脂の劣化を簡易かつ精度良く予測することができる。
【0016】
本発明の劣化予測システムにおいて、前記線形回帰は、単回帰、重回帰、部分最小二乗(PLS)回帰、又は直交射影部分最小二乗(OPLS)回帰から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0017】
学習モデルの作成に、単回帰、重回帰、部分最小二乗(PLS)回帰、直交射影部分最小二乗(OPLS)回帰等の線形回帰を用いる。これにより、本システムは、油脂の劣化を精度良く判定可能な学習モデルを作成することができる。
【0018】
また、本発明の劣化予測システムにおいて、前記検出装置と前記機械学習装置とが一体となっていることが好ましい。
【0019】
例えば、店舗又は工場内の油槽の付近に、本発明の一体型の劣化予測システムを設置することで、ユーザは、その場で油脂の劣化の予測結果を取得することができる。
【0020】
また、本発明の劣化予測システムにおいて、前記検出装置は、店舗又は工場の前記油槽の付近に設置され、前記機械学習装置は、前記店舗又は前記工場とは離れた遠隔地に設置されていることが好ましい。
【0021】
音響データ取得部等を有する検出装置は、店舗又は工場の油槽の付近に設置されるが、機械学習装置は店舗の遠隔地に設置されていてもよい。機械学習装置は、検出装置とは別個の装置であるので、機械学習装置が作成する学習モデルについては通信等により取得することができる。
【0022】
また、本発明の劣化予測システムにおいて、前記検出装置は、前記音響データ取得部によって取得された前記音響データを前記機械学習装置に送信する第1通信部を備え、前記機械学習装置は、前記検出装置から前記音響データを受信する第2通信部を備えていることが好ましい。
【0023】
検出装置は第1通信部を備えているので、音響データを機械学習装置に送信する。また、機械学習装置は第2通信部を備えているので、当該音響データを受信して、機械学習を行う。検出装置と機械学習装置が別個の装置の場合には、本システムは、各通信部でデータの送受信を行って、必要な作業を分担することができる。
【0024】
また、本発明の劣化予測システムにおいて、前記第1通信部及び前記第2通信部は、無線通信が可能であることが好ましい。
【0025】
検出装置は、機械学習装置に対し第1通信部により無線通信で音響データを送信することができるので、検出装置の機能を最小限にして小型化することができる。
【0026】
本発明の劣化予測方法は、食用の油脂の劣化度合いを予測する劣化予測方法であって、前記油脂を用いて、揚げ物を調理するときの音響データを取得する音響データ取得ステップと、前記音響データ取得ステップで取得した前記音響データから前記油脂の劣化に関係する指標を抽出する指標抽出ステップと、前記指標抽出ステップで抽出した前記指標に基づいて、前記油脂の劣化度合いを判定する判定ステップと、を備えていることを特徴とする。
【0027】
本発明の劣化予測方法では、音響データ取得ステップにおいて、天ぷら等の揚げ物を調理するときの油脂の音響データを取得する。そして、指標抽出ステップにおいて、この音響データから周波数平均、周波数標準偏差等の様々な音響成分を、油脂の劣化に関係する指標として抽出する。さらに、判定ステップにおいて、当該指標に基づいて、油脂の劣化度合い、すなわち使用により劣化が進んだか否かを判定する。これにより、本方法は、油脂の劣化を簡易かつ精度良く予測することができる。
【0028】
本発明の油脂交換システムは、上述の劣化予測装置から出力される前記油脂の劣化度合いに関する報知情報に基づいて、a)油脂販売業者に通知して、新たな油脂を発注する、b)油脂製造業者に通知して、油脂の製造計画又は販売計画を立案する、c)店舗若しくは工場の統括本部、又は油脂製造業者に通知して、統括する店舗又は工場へ油脂の使用方法を提案又は指導する、d)廃油回収業者又は油脂製造業者に通知して、廃油の回収を手配する、e)清掃作業業者に通知して、油槽の清掃を手配する、のうち1又は2以上を行うことを特徴とする。
【0029】
本発明の油脂交換システムでは、油脂の劣化度合いに関する報知情報に基づき、例えば、当該報知情報が所定回数に報知されたとき、油脂販売業者に通知して新たな油脂を発注する。また、当該報知情報に基づき油脂製造業者に通知して、油脂の製造計画又は販売計画を立案する。これにより、本システムは、油脂の交換ペースに応じた製造、販売計画を確立することができる。
【0030】
また、油脂交換システムでは、当該報知情報に基づき店舗若しくは工場の統括本部、又は油脂製造業者に通知して、統括する店舗又は工場に油脂の使用方法を提案又は指導する。例えば、統括本部が各店舗に対して、油脂を無駄なく、適宜交換しながら使用するよう指導をする。さらに、当該報知情報に基づき廃油回収業者に通知して廃油の回収を手配し、清掃作業業者に通知して油槽の清掃を手配するので、本システムは、油脂の供給から廃油までを迅速に行うことができる。
【0031】
本発明のフライヤーシステムは、上述の劣化予測装置から出力される前記油脂の劣化度合いに関する報知情報に基づいて、油槽に設けられたバルブを制御するバルブ制御部を備え、前記バルブ制御部は、前記油槽に収容された前記油脂を自動で廃油することを特徴とする。
【0032】
本発明のフライヤーシステムでは、バルブ制御部が油脂の劣化度合いに関する報知情報に基づき、油槽のバルブを制御する。これにより、本システムは、使用中の油脂を自動で廃油することができる。
【0033】
本発明のフライヤーシステムにおいて、前記バルブ制御部は、前記油槽に新油を自動で供給することが好ましい。
【0034】
この構成によれば、バルブ制御部は、油槽に自動で新油を供給するためにバルブの制御を行う。これにより、本システムは、ユーザが油脂の劣化度合いの確認及び廃油、新油の供給までの一連の作業負担を軽減することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、油脂の劣化を簡易かつ精度良く予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】第1実施形態に係る劣化予測装置及びフライヤーの概要を説明する図。
【
図2】第1実施形態に係る劣化予測装置の機能ブロック図。
【
図3】劣化予測装置によるフライ油の劣化判定のフローチャート。
【
図4】第2実施形態に係る劣化予測装置(劣化予測システム)の機能ブロック図。
【
図5A】機械学習(単回帰)により得られた検量線とテストデータの加熱時間との関係を示す図。
【
図6A】機械学習(重回帰)により得られた検量線とテストデータの酸価との関係を示す図。
【
図7A】機械学習(OPLS)により得られた検量線とテストデータの加熱時間との関係を示す図。
【
図8A】機械学習(OPLS)により得られた検量線とテストデータの酸価との関係を示す図。
【
図9A】機械学習(PLS)により得られた検量線とテストデータの色との関係を示す図。
【
図10A】機械学習(PLS)により得られた検量線とテストデータの粘度上昇率との関係を示す図。
【
図11】第3実施形態の油脂交換システムを説明する図。
【
図12】第4実施形態のフライヤーシステムを説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面を参照して、本発明に係る劣化予測装置の一実施形態について説明する。
【0038】
[第1実施形態]
まず、
図1を参照して、本発明の第1実施形態に係る劣化予測装置1及びフライヤー20の概要を説明する。図示するように、劣化予測装置1は、主に音響データ取得部2(本発明の「音響データ取得部」)と、処理部3とで構成されている。音響データ取得部2は、例えば、指向性の高いマイクロフォンであり、フライヤー20に収容されたフライ油(本発明の「油脂」)により、揚げ物を調理するときの音響(泡の破裂音等)を取得する。
【0039】
取得した音響(以下、音響データ)は、処理部3に送信される。そして、処理部3により特徴量が抽出され、当該特徴量からフライ油の劣化が分析される。詳細は後述するが、処理部3は、表示部5、制御部10等を有する。
【0040】
フライヤー20は箱状のキャビネット21を有し、内部にフライ油を収容するための油槽22を備える。油槽22に収容されたフライ油は、ヒーター23により温度の調整が可能となっている。例えば、コロッケを調理する場合、フライ油を180℃に調整する。
【0041】
また、油槽22の底面には、バルブ24を介して排油管25が接続されている。油槽22の底面は、排油をし易くするため下方に向けて傾斜した、漏斗状となっている。劣化したフライ油は、バルブ24を開放することにより廃油として排出される。廃油タンク26は、廃油を収容するため、排油管25の下部に配置される。
【0042】
油槽22は、レストラン、居酒屋等で使用される大型フライヤー用を想定しているが、これに限られない。すなわち、油槽22は、より小型のフライヤーに用いられるものでもよいし、家庭用の揚げ物調理具であってもよい。
【0043】
本実施形態では、音響データ取得部2は、フライヤー20から約1mの高さ(油槽22の斜め上方)に設置する。通常、調理により油煙が発生するため、フライヤー20の上方には、油煙を室外へ排出するための換気扇が設置されている(図示省略)。音響データ取得部2は、換気扇の側面等に取り付けてもよい。また、音響データ取得部2は、キャビネット21の側面若しくは壁面、天井等の油槽22の付近に設置されていればよい。
【0044】
図2は、第1実施形態に係る劣化予測装置1の機能ブロック図である。
【0045】
劣化予測装置1は音響データ取得部2と処理部3とで構成され、処理部3は、入力部4と、表示部5と、記憶部6と、報知部7と、制御部10とを有する。まず、音響データ取得部2は、コロッケ、天ぷら等を調理する際の音響を取得する。
【0046】
音響データ取得部2は、マイクロフォンを用いてもよいし、ビデオカメラやスマートフォンの録画機能で音響を録音してもよい。例えば、音響データ取得部2は、オーディオサンプルレートを48kHzとして、揚げ種の調理時間の音響データを取得する。なお、音響データにおいて、揚げ種の投入や取り出しによる作業音はノイズとなるため、録音開始後の10秒間、終了前の10秒間の音響はカットする。
【0047】
フライ油が劣化すると、フライ油に含まれる脂肪酸が分解され、調理時の音響が徐々に変化する。制御部10の指標抽出部11は、取得された音響データからフライ油の劣化に関係する指標(以下、指標データ)を抽出し、結果受付部12で当該指標データを受け付ける。
【0048】
指標データとしては、調理時の音響の周波数(frequency)に特徴が表れることが多いため、周波数平均(f_mean)、周波数標準偏差(f_sd)、周波数中央値(f_median)、周波数標準誤差(f_sem)、周波数最頻値(f_mode)を用いた。
【0049】
その他の指標データとしては、最小周波数から25%の位置にある周波数第一四分位数(f_Q25)、最小周波数から75%の位置にある周波数第三四分位数(f_Q75)、周波数四分位範囲(f_IQR)、周波数重心(f_cent)、周波数歪度(f_skewness)、周波数尖度(f_kurtosis)、周波数スペクトル平坦性(f_sfm)、周波数スペクトルエントロピー(f_sh)、周波数スペクトル精度(prec)、音響複雑度指数(d.ACI)、音響エントロピー(d.H)、優位周波数(dfnum)が挙げられる。なお、音響の解析には、seewave(Sound Analysis and Synthesis)、ropls(PCA,PLS(-DA) and OPLS(-DA) for multivariate analysis)を用いた。
【0050】
制御部10は、具体的には、劣化予測装置1の全体を制御及び管理するプロセッサであり、制御手順を規定したプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)で構成される。このようなプログラムは、例えば、記憶部6又は他の外部記憶媒装置に記憶される。
【0051】
制御部10は、処理部3の全体を制御することにより、劣化予測装置1の各処理を実行する。例えば、制御部10は、ユーザ(店員)による所定の入力操作に基づいて、劣化予測装置1を起動する。所定の入力操作とは、例えば、劣化予測装置1の電源を投入する操作、調理する時間やフライ油の温度を設定する操作である。
【0052】
入力部4は、ユーザからの入力操作を受け付ける各種スイッチであり、例えば、操作ボタン、操作キー等で構成される。入力部4は、これに限られず、タッチパネルにより構成されるものでもよい。また、入力部4は、劣化予測装置1による処理の実行前にユーザからの所定の入力操作を受け付け、ユーザの入力操作に基づく信号を制御部10に送信する。
【0053】
表示部5は、ユーザが入力操作を行うための様々な項目を表示する。例えば、ユーザが調理する食品の種類を選択する場合、表示部5において、記憶部6に格納された食品の種類に関するデータに基づいて食品の種類を表示する。また、表示部5において、報知部7がフライ油の劣化度合いをユーザに報知する際、報知の補助的な役割として、交換が必要である旨を表示する。
【0054】
記憶部6は、半導体メモリ又は磁気メモリ等で構成され、各種情報及び劣化予測装置1を動作させるためのプログラム等を記憶する。記憶部6は、取得した音響データ、学習モデルの他、調理する食品に関するデータを記憶する。例えば、記憶部6は、取り扱う食品の種類毎に、音響データとフライ油の劣化度合いとの相関を示す相関データを記憶する。また、記憶部6は、食品の種類毎に異なる、報知のための閾値情報を記憶する。
【0055】
報知部7は、フライ油の劣化度合いが所定の閾値を超えたと判定された場合、その旨をユーザに報知する。このように、報知部7は、フライ油の交換のタイミングをユーザに報知する。ここで、「交換のタイミング」とは、実際にフライ油を交換するタイミング(「交換時期になりました。」等の表示)である。また、報知部7は、現在のフライ油の劣化度合い(「現在の劣化度合いは50%です。」等の表示)の報知も可能であるし、劣化度合いから推定される使用可能な残り時間(「あと20時間使えます。」等の表示)の報知も可能である。
【0056】
報知部7の例としてはスピーカがあり、音声ガイド、アラーム等の聴覚的な方法により報知を行うことができる。また、報知部7は、画像、文字、色彩の表示、発光等による視覚的な方法で報知を行ってもよい。例えば、表示部5を使用して、画像又は文字を表示して報知してもよいし、LED等の発光素子により報知してもよい。報知部7による報知は視覚的又は聴覚的な方法に限られず、それらの組み合わせやユーザがフライ油の交換時期を客観的に認識可能な任意の方法、例えば、振動等であってもよい。
【0057】
制御部10の比較判定部13は、取得した音響データとフライ油を用いて調理する食品の種類に応じた相関データとを比較し、フライ油の劣化度合いを判定する。油槽22に収容されたフライ油の調理中に発生する音響は、調理する食品の種類に依存する。フライ油の最適な交換時期についても、調理する食品の種類毎に異なる。
【0058】
相関データは、記憶部6に予め記憶されている。比較判定部13は、比較の際に、記憶部6から当該相関データを取得し、フライ油の劣化度合いを判定する。なお、相関データは機械学習部14で作成されるが、必ずしも劣化予測装置1の内部で作成する必要はなく、外部から提供された相関データを利用してもよい。
【0059】
制御部10は、フライ油の劣化度合いが食品の種類に応じた所定の閾値を超えたと判定した場合、報知を行うため報知部7を制御する。当該閾値は、食品の種類毎に予め定められている。当該閾値は、ユーザによって適宜変更可能なものであってもよい。また、閾値を複数設定してもよい。
【0060】
次に、
図3を参照して、劣化予測装置1によるフライ油の劣化判定のフローチャートを説明する。なお、
図3は、フライ油を交換する目安となる閾値を予め設定した場合のフローチャートである。
【0061】
まず、ユーザが調理する食品に関する情報を取得し、必要な設定を行う(STEP10)。調理時の音響は、揚げ種の食品がコロッケか、天ぷらかによって異なるため、劣化予測装置1を揚げ種に応じた設定とする。その後、STEP20に進む。
【0062】
STEP20では、調理時の音響から指標データを作成する。具体的には、音響データ取得部2により調理時の音響(音響データ)を取得して処理部3に送信し、周波数平均(f_mean)等の指標データを作成する。その後、STEP30に進む。
【0063】
STEP30では、記憶部より相関データを取得する。この相関データは、次ステップのフライ油の劣化度合いの判定の際、必要となる。その後、STEP40に進む。
【0064】
STEP40では、両データを比較し、フライ油の劣化度合いを判定する。具体的には、制御部10の比較判定部13が、音響データと相関データとを比較する。その後、STEP50に進む。
【0065】
次に、フライ油の劣化度合いが所定の閾値を超えたか否かを判定する(STEP50)。この閾値は揚げ種の食品に応じて異なるが、閾値を超えた場合にはSTEP60に進み、閾値を超えていない場合にはSTEP20にリターンする。
【0066】
フライ油の劣化度合が所定の閾値を超えた場合(STEP50:YES)、その旨をユーザに報知する(STEP60)。具体的には、ユーザにフライ油の交換を促すため、報知部7により報知する。その後、一連の処理を終了する。
【0067】
[第2実施形態]
次に、
図4を参照して、本発明の第2実施形態に係る劣化予測システム100の概要を説明する。劣化予測システム100は、主に検出装置30と、機械学習装置40とで構成されている。検出装置30と機械学習装置40とはネットワークNWで接続され、互いに各種データを送受信することができる。
【0068】
検出装置30は、音響データ取得部2と、入力部4と、表示部5と、記憶部6と、報知部7と、通信部8と、制御部10とを有する。また、制御部10は、比較判定部13を有する。なお、通信部8を除く各構成は、第1実施形態の処理部3の構成と同じであるため、説明は省略する。
【0069】
検出装置30では、音響データ取得部2にコロッケ、天ぷら等を調理する際の音響が取得されると、比較判定部13が取得した音響データと調理する食品の種類に応じた相関データとを比較し、フライ油の劣化度合いを判定する。
【0070】
また、通信部8(本発明の「第1通信部」)は、ネットワークNWを介して音響データを機械学習装置40に自動送信する。この通信は有線でもよいし、Wi-Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)等の無線通信でもよい。劣化予測システム100では、店舗又は工場内(油槽22付近)に検出装置30のみがあればよいため、装置を小型化することができる。
【0071】
機械学習装置40は、通信部48(本発明の「第2通信部」)と、学習モデル作成部50とを有する。音響データは、機械学習装置40の通信部48で自動受信される。機械学習装置40は、フライヤー20とは離れた位置に設置されていてもよい。もちろん、検出装置30と機械学習装置40とが一体型のシステムであってもよい。
【0072】
学習モデル作成部50は、指標抽出部51と、記憶部52と、検量線作成部53とを有する。指標抽出部51は、受信した音響データからフライ油の劣化に関係する指標データを抽出し、当該指標データが記憶部52に記憶される。検量線作成部53は、いわゆる教師あり学習を行って、記憶された指標データ(説明変数)から線形回帰分析により検量線(モデル式)を作成する。
【0073】
線形回帰(分析)の種別は、単回帰、重回帰、部分最小二乗(PLS:Partial Least Squares)回帰、直交射影部分最小二乗(OPLS:Orthogonal Partial Least Squares)回帰等があるが、これらから選ばれる1種以上を利用することができる。
【0074】
単回帰は、1つの目的変数を1つの説明変数で予測する手法であり、重回帰は、1つの目的変数を複数の説明変数で予測する手法である。また、(直交射影)部分最小二乗回帰は、少数の特徴量である主成分(説明変数のみの主成分分析で得られる)と目的変数の
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が最大になるように主成分を抽出する手法である。また、(直交射影)部分最小二乗回帰は、説明変数の数がサンプルの数よりも多いとき、そして、説明変数の間の相関が高いときに適した手法である。
【0075】
図5A、
図5Bは、機械学習により得られた検量線と、テストデータの加熱時間(予測値及び実測値)との関係を示している。
【0076】
図5A中の直線M1は、周波数平均(f_mean)による単回帰分析により得られた検量線(モデル式)である。グラフは、横軸が加熱時間の予測値[h]、縦軸が加熱時間の実測値[h]であり、図中の「○」印が周波数平均(f_mean)から得られた予測値のプロットである。
【0077】
図5Bは、今回の加熱時間(フライ時間の実測値)、5回の予測値平均及び標準偏差の一覧を示している。例えば、加熱時間の実測値8[h]に対する予測値平均は8.9[h]であり、このときの標準偏差が1.4であった。予測値はおおよそ直線M1付近にあり(
図5A参照)、バラツキも比較的小さいことから、単回帰分析により得られた検量線は一定の精度があることが確認された。
【0078】
図6A、
図6Bは、機械学習により得られた検量線とテストデータの酸価(予測値及び実測値)の関係を示している。
【0079】
図6A中の直線M2は、周波数平均(f_mean)と周波数スペクトルによる平坦性(f_sfm)による重回帰分析により得られた検量線(モデル式)である。グラフは、横軸が酸価の予測値、縦軸が酸価の実測値であり、図の「○」印は、周波数平均(f_mean)及び平坦性(f_sfm)から得られた酸価の予測値のプロットである。
【0080】
図6Bは、今回の加熱時間、酸価の実測値、5回の予測値平均及び標準偏差の一覧を示している。例えば、加熱時間の実測値8[h]に対する酸価の実測値が0.16、予測値平均が0.11であり、このときの標準偏差が0.10であった。酸価の予測値は直線M2上に存在するものもあり(
図6A参照)、バラツキが小さいことから、重回帰分析により得られた検量線の精度が高いことが確認された。
【0081】
図7A、
図7Bは、機械学習により得られた検量線とテストデータの加熱時間(予測値及び実測値)の関係を示している。
【0082】
図7Aの直線M3は、直交射影部分最小二乗回帰(OPLS)分析により得られた検量線(モデル式)である。グラフは、横軸が加熱時間の予測値[h]、縦軸が加熱時間の実測値[h]であり、図中の「○」印は、周波数平均(f_mean)から得られた加熱時間の予測値のプロットである。
【0083】
図7Bは、今回の加熱時間(フライ時間の実測値)、5回の予測値平均及び標準偏差の一覧を示している。例えば、加熱時間の実測値8[h]に対する予測値平均が9.0[h]であり、このときの標準偏差が1.8であった。予測値は直線M3上に存在するものもあり(
図7A参照)、バラツキも比較的小さいことから、直交射影部分最小二乗回帰分析により得られた検量線についても、一定の精度が認められた。
【0084】
図8A、
図8Bは、機械学習により得られた検量線とテストデータの酸価(予測値及び実測値)の関係を示している。ここで、「酸価」は、基準油脂分析法2.3.1-2013で測定される値である。
【0085】
図8Aの直線M4は、直交射影部分最小二乗回帰(OPLS)分析により得られた検量線(モデル式)である。グラフは、横軸が酸価の予測値、縦軸が酸価の実測値であり、図中の「○」印は、周波数平均(f_mean)等の指標データから得られた酸価の予測値のプロットである。
【0086】
図8Bは、今回の加熱時間、酸価の実測値、5回の予測値平均及び標準偏差の一覧を示している。例えば、加熱時間の実測値8[h]に対する酸価の実測値が0.16、予測値平均が0.13であり、このときの標準偏差が0.12であった。酸価の予測値はバラツキが小さいことから、直交射影部分最小二乗回帰分析により得られた検量線の精度が高いことが確認された。
【0087】
図9A、
図9Bは、機械学習により得られた検量線とテストデータの色(予測値及び実測値)の関係を示している。ここでいう「色」とは、フライ油の色調であり、基準油脂分析法2.2.1.1-1996で測定される「Y+10R」を示している。
【0088】
図9Aの直線M5は、部分最小二乗回帰(PLS)分析により得られた検量線(モデル式)である。グラフは、横軸が色の予測値、縦軸が色の実測値であり、図中の「○」印は、周波数平均(f_mean)等の指標データから得られた色の予測値のプロットである。
【0089】
図9Bは、今回の加熱時間、色の実測値、5回の予測値平均及び標準偏差の一覧を示している。例えば、加熱時間の実測値8[h]に対する色の実測値が6.5、予測値平均が6.9であり、このときの標準偏差が1.6であった。色の予測値はバラツキが比較的小さいことから、部分最小二乗回帰分析により得られた検量線は、一定の精度があることが確認された。
【0090】
図10A、
図10Bは、機械学習により得られた検量線とテストデータの粘度上昇率(予測値及び実測値)の関係を示している。ここでいう「粘度」とは、市販の粘度計、例えば、E型粘度計(TVE-25H:東機産業社製)で測定されるフライ油の粘り度合い(粘性)を示す数値であり、今回、加熱時間に対する粘度上昇率[%]を調べた。
【0091】
フライ油を初めて使用するときの粘度(使用開始時の粘度)の測定値をVsとすると、当該フライ油を使用して揚げ物を繰り返し揚げていくにつれて劣化が進行し、当該フライ油の粘度が上昇していく。使用開始してからの粘度の測定値をVtとすると、「粘度上昇率」は、Vsに対する粘度の上昇量(=Vt-Vs)の比率として定義される。
【0092】
図10Aの直線M6は、部分最小二乗回帰(PLS)分析により得られた検量線(モデル式)である。また、横軸が粘度上昇率の予測値[%]、縦軸が粘度上昇率の実測値[%]であり、図中の「○」印は、周波数平均(f_mean)等の指標データから得られた粘度上昇率の予測値のプロットである。
【0093】
図10Bは、今回の加熱時間、粘度上昇率の実測値、5回の予測値平均及び標準偏差の一覧を示している。例えば、加熱時間の実測値8[h]に対する粘度上昇率の実測値が3.52、予測値平均が3.87であり、このときの標準偏差が0.57であった。プロットした粘度上昇率の予測値はバラツキが小さいことから、部分最小二乗回帰分析により得られた検量線は精度が高いことが確認された。
【0094】
以上のように、検量線作成部53は指標データから線形回帰分析により検量線を作成するが、線形回帰としては単回帰、重回帰、部分最小二乗(PLS)回帰、直交射影部分最小二乗(OPLS)回帰の何れを利用してもよい。実際に作成された検量線は、加熱時間により変化するフライ油の酸価、色、粘度上昇率等で評価した結果においても、劣化度合いの精度が高く、音響に関する指標データからフライ油の劣化を正確に予測、判定することができた。
【0095】
図4の劣化予測システム100において、機械学習装置40が店舗とは離れた遠隔地に設置され、検出装置30が検出用サーバ、機械学習装置40が機械学習用サーバの関係であってもよい。
【0096】
この場合、店舗側の検出用サーバは、少なくとも、揚げ物を調理するときの音響データを取得する音響データ取得部と、機械学習用サーバと各種データ(音響データ、判定結果等)の送受信を行う通信部と、判定結果に基づいてフライ油の劣化度合い、交換のタイミング等を報知する報知部とを備える。
【0097】
また、遠隔地の機械学習用サーバは、少なくとも、検出用サーバと各種データの送受信を行う通信部と、受信した音響データからフライ油の劣化に関係する指標を抽出し、当該指標を用いて線形回帰による機械学習を行い、フライ油の劣化を判定可能な学習モデルを作成する学習モデル作成部と、作成した学習モデルを記憶する記憶部と、当該学習モデルを用いてフライ油の劣化度合いを判定する判定部とを備える。
【0098】
この構成によれば、機械学習用サーバ側では、学習モデル作成部が受信した音響データにより機械学習を行い、学習モデルを作成する。そして、判定部が学習モデルを用いてフライ油の劣化度合いを判定し、判定結果を検出用サーバ側に送信する。検出用サーバ側では、報知部が受信した当該判定結果に基づいて、フライ油の交換のタイミングを報知する。このように、機械学習用サーバ側で音響データを受信して判定まで行い、判定結果を検出用サーバに返すというように役割を分担することができる。
【0099】
学習モデルについては、機械学習用サーバ側が作成し、例えば、新たな音響データを取得する度に更新する。これにより、データ容量が比較的大きい学習モデルを送受信する必要がなく、検出用サーバを有する店舗側が、フライ油の交換のタイミングを取得することができる。
【0100】
[第3実施形態]
次に、
図11を参照して、本発明の第3実施形態に係る油脂交換システム200の概要を説明する。
【0101】
図11は、油脂交換システム200の概略図である。図示するように、油脂交換システム200は、劣化予測装置1及びフライヤー20’を備える店舗A~C、当該店舗A~Cを統括する統括本部H、当該店舗A~Cで使用するフライ油の製造業者(油脂メーカー)X、販売業者(問屋又は販売店)Y、廃油を回収する回収業者Zで構成される。なお、油脂メーカーが顧客に直接販売することもあるので、販売業者Yは油脂メーカーを含む概念である。
【0102】
第1実施形態において、劣化予測装置1の報知部7は、フライ油の劣化度合いが所定の閾値を超えたと判定された場合に、スピーカ、表示部5等でユーザにその旨を報知したが、本実施形態においては、そのような報知に加えて、フライ油の劣化度合いに関する報知情報を出力する。報知情報は、フライ油の劣化度合いが当該閾値を超えたという内容でもよいが、劣化度合いが間もなく当該閾値を超えるという予告でもよい。
【0103】
図示するように、店舗B(居酒屋)から報知情報が統括本部Hに通知された場合、統括本部Hは、報知情報を受信した回数や頻度等を分析し、店舗Bのみならず、必要に応じて店舗A(天ぷら屋)及び店舗C(とんかつ屋)に対しても、フライ油の使用方法が適切か、適宜交換しているか、無駄がないか等を提案又は指導する。
【0104】
統括本部Hは、複数の店舗のみならず、フライヤーが設置された複数の工場を管理する立場であってもよい。また、統括本部Hは、店舗又は工場内に存在し、施設内の複数のフライヤーを管理してもよい。
【0105】
この報知情報は、フライ油の製造業者X及び販売業者Yにも通知される。製造業者Xは、当該報知情報を受けて、フライ油の製造計画又は販売計画を立案する。また、販売業者Yは、当該報知情報を受けて新たなフライ油を発注し、製造業者Xからフライ油Pを仕入れる。そして、販売業者Yは、店舗B(必要に応じて店舗A及び店舗C)に新たなフライ油Pを調達する。
【0106】
さらに、この報知情報は、フライ油の回収業者Z(製造業者Xでもよい)に通知される。回収業者Zは、当該報知情報を受けて、廃油Qの回収を手配する。例えば、回収業者Zは、所定回数の当該報知情報を受信したとき、店舗Bを訪問してフライヤー20’の油槽22から廃油Qを回収する。
【0107】
さらに、この報知情報は、清掃作業業者(図示省略)に通知されるようにしてもよい。清掃作業業者は、当該報知情報を受けて店舗Bを訪問し、フライヤー20’の油槽22の内部又はその付近の清掃を行う。これにより、油脂交換システム200では、店舗A~Cに対するフライ油の供給から廃油、清掃までが迅速に行われるようになる。
【0108】
また、この報知内容に基づいて、店舗内でのフライ油の交換を自動化すると、ユーザ(店員)の負担がより軽減される。フライ油の劣化度合いが閾値を超えたという内容の報知情報が出力されると、フライ油の交換が自動的に開始する。
【0109】
[第4実施形態]
最後に、
図12を参照して、本発明の第4実施形態に係るフライヤーシステム300の概要を説明する。
【0110】
図12は、本実施形態のフライヤーシステム300を構成する劣化予測装置1及びフライヤー20’を示している。なお、フライヤー20’について、第1実施形態のフライヤー20と同じ構成については同じ符号を付し、説明は省略する。
【0111】
図示するように、フライヤー20’の付近には、バルブ制御装置61(本発明の「バルブ制御部」)と、新油タンク62とが設置されている。新油タンク62には未使用のフライ油が収容され、給油管63を介して油槽22にフライ油が供給される。
【0112】
バルブ制御装置61は、劣化予測装置1からフライ油を交換する(閾値以上となった)旨の報知情報を受信すると、まず、バルブ24’に制御信号を送信してバルブ24’を開放する。これにより、自動で廃油が排油管25を介して廃油タンク26に排出される。
【0113】
十分時間が経過した後、バルブ制御装置61は、再度、バルブ24’に制御信号を送信してバルブ24’を閉鎖する。その後、バルブ制御装置61は、給油管63の途中に設けられたバルブ64に制御信号を送信してバルブ64を開放する。これにより、自動で新油が油槽22に供給される。なお、新油の給油量は、新油タンク62の水位センサで検出してもよいし、所定時間だけバルブ64を開放するようにしてもよい。
【0114】
本実施形態によれば、バルブ制御装置61は、劣化予測装置1から送信される報知情報に基づきバルブ24’,64を制御することで、使用中のフライ油を自動で排出することができる。さらに、バルブ制御装置61は、新油タンク62から自動で新油を供給する制御を行うことで、ユーザがフライ油の劣化度合いを確認して廃油とし、新油を供給するまで作業負担を軽減することができる。
【0115】
上述した劣化予測装置、劣化予測システム、油脂交換システムは、本発明の実施形態の一例に過ぎず、用途、目的等に応じて適宜変更することができる。今回、音響データから周波数平均(f_mean)と周波数スペクトルによる平坦性(f_sfm)を抽出して回帰分析を行う例を示したが、周波数標準偏差(f_sd)、優位周波数(dfnum)等もフライ油の劣化予測に適用可能である。
【0116】
また、劣化予測システムにおいて、各構成装置が行う役割を変更することもできる。
図4で示した劣化予測システム100は、検出装置30と機械学習装置40とで別装置として分離されていたが、音響データや学習モデルはデータ容量が大きく、通信に時間及び料金がかかる。このため、機械学習部を内蔵した検出装置を遠隔地から指示し、検出装置からフライ油の劣化度合い等の報知情報の受信可能な制御装置を新たに設けてもよい。
【符号の説明】
【0117】
1…劣化予測装置、2…音響データ取得部、3…処理部、4…入力部、5…表示部、6…記憶部、7…報知部、8…通信部(第1通信部)、10…制御部、11,51…指標抽出部、12…結果受付部、13…比較判定部、14…機械学習部、20,20’…フライヤー、21…キャビネット、22…油槽、23…ヒーター、24,24’,64…バルブ、25…排油管、26…廃油タンク、30…検出装置、40…機械学習装置、48…通信部(第2通信部)、50…学習モデル作成部、52…記憶部、53…検量線作成部、61…バルブ制御装置、62…新油タンク、63…給油管、100…劣化予測システム、200…油脂交換システム、300…フライヤーシステム。