IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サノフイの特許一覧

<>
  • 特許-抗CD38抗体および製剤 図1
  • 特許-抗CD38抗体および製剤 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】抗CD38抗体および製剤
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20241211BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241211BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20241211BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20241211BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20241211BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241211BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241211BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20241211BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20241211BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20241211BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
C07K16/28
A61K39/395 N ZNA
A61K47/22
A61K47/26
A61K9/19
A61P43/00 105
A61P35/00
A61P35/02
A61K47/14
C12N15/13
C12P21/08
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021562989
(86)(22)【出願日】2020-04-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-22
(86)【国際出願番号】 US2020029531
(87)【国際公開番号】W WO2020219681
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】62/837,518
(32)【優先日】2019-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/859,699
(32)【優先日】2019-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】20305145.3
(32)【優先日】2020-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】20305146.1
(32)【優先日】2020-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ベアトリス・カメロン
(72)【発明者】
【氏名】マリエル・シロン・ブロンデル
(72)【発明者】
【氏名】ジャック・デュマ
(72)【発明者】
【氏名】アラン・フルニエ
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン・キングスベリー
(72)【発明者】
【氏名】センドリーヌ・レモワーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン・マリー
(72)【発明者】
【氏名】ネイサン・オストバーグ
(72)【発明者】
【氏名】サンケット・パッケ
(72)【発明者】
【氏名】アンジェラ・ヴィロン-オッドス
(72)【発明者】
【氏名】ジシュアン・ジャン
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108752475(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0224817(US,A1)
【文献】特表2010-506582(JP,A)
【文献】国際公開第2019/064263(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/204343(WO,A1)
【文献】特表2008-505174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトCD38に特異的に結合する抗体であって、
a)配列番号2のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号7のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
b)配列番号3のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号7のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
c)配列番号4のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号7のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
d)配列番号5のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号8のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
e)配列番号5のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号9のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
f)配列番号6のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号8のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
g)配列番号6のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号9のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)
を含む前記抗体。
【請求項2】
製剤化された抗体を含む医薬組成物であって、製剤化された抗体は、抗体、ショ糖、L-ヒスチジンおよびポリソルベート80(PS80)を含み、抗体は、ヒトCD38に特異的に結合し、濃度50mg/mLで存在し、ショ糖は、濃度8%(質量/容積)で存在し、L-ヒスチジンは濃度10mMで存在し、PS80は、濃度0.05%(容積/容積)で存在し、製剤はpH6.2を有し、抗体は、
a)配列番号2のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号7のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
b)配列番号3のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号7のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
c)配列番号4のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号7のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
d)配列番号5のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号8のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
e)配列番号5のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号9のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
f)配列番号6のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号8のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
g)配列番号6のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号9のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)
を含む、前記医薬組成物。
【請求項3】
ヒトCD38に特異的に結合する製剤化された抗体の単位剤形であって、製剤化された抗体は、抗体215mg、L-ヒスチジン6.21mg、ショ糖344mgおよびポリソルベート80 2.15mgを含み、製剤化された抗体は、凍結乾燥され、抗体は、
a)配列番号2のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号7のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
b)配列番号3のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号7のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
c)配列番号4のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号7のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
d)配列番号5のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号8のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
e)配列番号5のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号9のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
f)配列番号6のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号8のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
g)配列番号6のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号9のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)
を含む、前記単位剤形。
【請求項4】
製剤化された抗体は凍結乾燥されている、請求項2に記載の医薬組成物または請求項3に記載の単位剤形。
【請求項5】
(i)HCアミノ酸配列の1位におけるアミノ酸は、ピログルタミンである;および/または
(ii)キャピラリ等電点電気泳動法(cIEF)によって測定した場合に抗体は、等電点(pI)5.8~9.0を有する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体、医薬組成物または単位剤形。
【請求項6】
(i)抗体は、主電荷バリアントおよび少なくとも1つの酸性電荷バリアントを含み、抗体は、
a)少なくとも1つの電荷バリアントのHCは、配列番号1によって付番されるN289、N318、N387およびN392からなる群から選択される脱アミド化されたアスパラギンを少なくとも1つ含むこと、もしくは
b)抗体は、主電荷バリアントおよび少なくとも1つの酸性電荷バリアントを含み、主電荷バリアントは、抗体の少なくとも71%を含み、酸性電荷バリアントは、抗体の30%以下しか含まないこと、もしくは
c)主電荷バリアントは、等電点(pI)7.5を有し、1つもしくはそれ以上の酸性電荷バリアントは、キャピラリ等電点電気泳動法(cIEF)によって測定した場合にpI5.8を有すること、
の少なくとも1つを有する;ならびに/または
(ii)抗体は、少なくとも1つの塩基性電荷バリアントを含み、抗体は、
a)塩基性電荷バリアントは、4%以下の抗体を含むこと、もしくは
b)1つもしくはそれ以上の塩基性電荷バリアントは、キャピラリ等電点電気泳動法(cIEF)によって測定した場合にpI9.0を有すること、
のうち少なくとも1つを有する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の抗体、医薬組成物または単位剤形。
【請求項7】
抗体は、
a)158F、158V、もしくは158Fと158V両方のバリアントCD16a(FcγRIIIa)を発現するナチュラルキラー細胞の存在下で、抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)によって、細胞の表面上にCD38受容体密度≦13000個のCD38部位を有するCD38発現細胞を死滅させることができ、および/または
b)表面プラスモン共鳴(SPR)によって測定してKD 59nMでアミノ酸158位にフェニルアラニンを有するCD16a(FcγRIIIa)(158F)に結合し、抗体は、SPRによって測定してKD 75nMでアミノ酸158位にバリンを有するCD16a(158V)に結合し、および/または
c)FcγRIIIa 158F発現HEK細胞に対する結合によって測定してKD 96nMでアミノ酸158位にフェニルアラニンを有するCD16a(FcγRIIIa)(158F)に結合し、抗体は、FcγRIIIa 158V発現HEK細胞に対する結合によって測定してKD 40nMでアミノ酸158位にバリンを有するFcγRIIIa(158V)に結合し、および/または
d)FcγRIIa 131R発現HEK細胞に対する結合によって測定してKD 94nMでアミノ酸131位にアルギニンを有するCD32a(FcγRIIa)(131R)に結合し、抗体は、FcγRIIa 131H発現HEK細胞に対する結合によって測定してKD 222nMでアミノ酸131位にヒスチジンを有するFcγRIIa(131H)に結合する、
請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体、医薬組成物または単位剤形。
【請求項8】
a)抗体は、158F、158Vもしくは158Fと158V両方のバリアントCD16a(FcγRIIIa)を発現するナチュラルキラー細胞の存在下で、ADCCによって、細胞表面にCD38受容体密度>400000個を有するCD38発現細胞を死滅させることができ、ADCCによって、細胞表面にCD38受容体密度≧100000個を有するCD38発現細胞を死滅させることができ、ADCCによって、細胞の表面にCD38受容体密度≦13000個を有するCD38発現細胞を死滅させることができ、および/または
b)抗体は、ヒト末梢血単核細胞(PMBC)の存在下で、抗体依存性細胞貪食作用(ADCP)によって、細胞表面にCD38受容体密度>400000個を有するCD38発現細胞を死滅させることができる、
請求項1~7のいずれか1項に記載の抗体、医薬組成物または単位剤形。
【請求項9】
a)CD16a(FcγRIIIa)の高親和性バリアント(158V)を発現するナチュラルキラー細胞の存在下で、抗体は、EC50約0.6ng/mLでADCCによってKMS-12BM細胞を死滅させることができ、および/または
b)CD16a(FcγRIIIa)の低親和性バリアント(158F)を発現するナチュラルキラー細胞の存在下で、抗体は、EC50約0.65ng/mLでADCCによってKMS-12BM細胞を死滅させることができ、および/または
c)CD16a(FcγRIIIa)の高親和性バリアント(158V)を発現するナチュラルキラー細胞の存在下で、抗体は、EC50約0.09ng/mLでADCCによってRPMI-8226細胞を死滅させることができ、および/または
d)CD16a(FcγRIIIa)の低親和性バリアント(158F)を発現するナ
チュラルキラー細胞の存在下で、抗体は、EC50約0.09ng/mLでADCCによってRPMI-8226細胞を死滅させることができ、および/または
e)CD16a(FcγRIIIa)の高親和性バリアント(158V)を発現するナチュラルキラー細胞の存在下で、抗体は、EC50約0.14ng/mLでADCCによってMOLP-8細胞を死滅させることができ、および/または
f)CD16a(FcγRIIIa)の低親和性バリアント(158F)を発現するナチュラルキラー細胞の存在下で、抗体は、EC50約0.28ng/mLでADCCによってMOLP-8細胞を死滅させることができ、および/または
g)CD16a(FcγRIIIa)の高親和性バリアント(158V)を発現するヒトPMBCの存在下で、抗体は、EC50約31.87ng/mLでADCPによってMOLP-8細胞を死滅させることができる、
請求項7または8に記載の抗体、医薬組成物または単位剤形。
【請求項10】
抗体は、マウス腫瘍モデルにおいてマウスの生存を改善する能力があり、モデル内のマウスは、ヒトCD16a(158F)を発現しており、マウスは、ヒトCD38を発現するEL4細胞500000個を注射される、請求項1~9のいずれか1項に記載の抗体、医薬組成物または単位剤形。
【請求項11】
ヒトCD38に特異的に結合する抗体を含む医薬組成物を調製する方法であって、抗体は、
a)配列番号2のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号7のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
b)配列番号3のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号7のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
c)配列番号4のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号7のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
d)配列番号5のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号8のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
e)配列番号5のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号9のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
f)配列番号6のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号8のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
g)配列番号6のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号9のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)
を含み、方法は、
i)細胞培養において抗体を発現させる工程と;
ii)抗体をクロマトグラフィーおよび限外濾過からなる群から選択される少なくとも1つの精製工程に供して精製された抗体溶液を作製する工程と;
iii)精製された抗体溶液を調整して
-濃度50mg/mLで精製した抗体、
-濃度8質量/容積%でショ糖、
-濃度10mMでL-ヒスチジン、および
-濃度0.05容積/容積%でポリソルベート80
を含む製剤化された抗体を作製する工程であって、製剤化された抗体は、pH6.2を有する、工程と;
iv)製剤化された抗体を凍結乾燥し、
それによって医薬組成物を調製する工程と
を含む、前記方法。
【請求項12】
復元された製剤化された抗体を調製する方法であって、
a)ショ糖、L-ヒスチジン、ポリソルベート80およびヒトCD38に特異的に結合する抗体を含む凍結乾燥された抗体製剤を準備する工程と;
b)希釈剤中に凍結乾燥された抗体製剤を復元する工程であって、復元された抗体製剤は
-濃度50mg/mLで抗体、
-濃度8質量/容積%でショ糖、
-濃度10mMでL-ヒスチジン、および
-濃度0.05容積/容積%でポリソルベート80
を含み、復元された抗体製剤はpH6.2を有し;
抗体は、
i)配列番号2のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号7のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
ii)配列番号3のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号7のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
iii)配列番号4のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号7のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
iv)配列番号5のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号8のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
v)配列番号5のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号9のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
vi)配列番号6のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号8のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
vii)配列番号6のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号9のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)
を含む、工程と
を含む前記方法。
【請求項13】
CD38発現細胞を含む疾患の処置における使用のための抗体であって、ヒトCD38に特異的に結合する抗体の1またはそれ以上の用量を投与することを含み、抗体は、
a)配列番号2のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号7のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
b)配列番号3のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号7のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
c)配列番号4のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号7のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
d)配列番号5のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号8のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
e)配列番号5のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号9のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
f)配列番号6のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号8のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)、または
g)配列番号6のアミノ酸配列を有する重鎖(HC)および配列番号9のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)
を含む前記抗体。
【請求項14】
(i)疾患は、血液学的起源である;ならびに/または
(ii)1もしくはそれ以上の用量の抗体は、凍結乾燥された抗体製剤として提供され、復元された抗体製剤がpH6.2を有し、10mM L-ヒスチジン、8質量/容積%ショ糖および0.05容積/容積%ポリソルベート80を含む液体中に濃度50mg/mLで抗体を含むように、投与前に、凍結乾燥された抗体製剤を復元して、復元された抗体
製剤を形成する;ならびに/または
(iii)抗体は、用量20mg/kg、10mg/kg、5mg/kg、3mg/kgもしくは1.5mg/kgで投与される;ならびに/または
(iv)医薬組成物は、製剤化された抗体を含み、該製剤化された抗体は、濃度50mg/mLで存在する抗体、濃度8%(質量/容積)でショ糖、濃度10mMでL-ヒスチジンおよび濃度0.05%(容積/容積)でポリソルベート80(PS80)を含み、製剤化された抗体は、pH6.2を有する;ならびに/または
(v)キャピラリ等電点電気泳動法(cIEF)によって測定した場合に抗体は、等電点(pI)5.8~9.0を有する;ならびに/または
(vi)HCアミノ酸配列の1位におけるアミノ酸は、ピログルタミンである、
請求項13に記載の使用のための抗体。
【請求項15】
(i)抗体は、主電荷バリアントおよび少なくとも1つの酸性電荷バリアントを含み、抗体は、
a)少なくとも1つの電荷バリアントのHCは、配列番号1によって付番されるN289、N318、N387およびN392からなる群から選択される脱アミド化されたアスパラギンを少なくとも1つ含むこと、もしくは
b)抗体は、主電荷バリアントおよび少なくとも1つの酸性電荷バリアントを含み、主電荷バリアントは、抗体の少なくとも71%を含み、酸性電荷バリアントは、抗体の30%以下しか含まないこと、もしくは
c)主電荷バリアントは、等電点(pI)7.5を有し、1つもしくはそれ以上の酸性電荷バリアントは、キャピラリ等電点電気泳動法(cIEF)によって測定した場合にpI5.8を有すること、
の少なくとも1つを有する;ならびに/または
(ii)抗体は、少なくとも1つの塩基性電荷バリアントを含み、抗体は、
a)塩基性電荷バリアントは、4%以下の抗体を含むこと、もしくは
b)1つもしくはそれ以上の塩基性電荷バリアントは、キャピラリ等電点電気泳動法(cIEF)によって測定した場合にpI9.0を有すること、
のうち少なくとも1つを有する、
請求項13または14に記載の使用のための抗体。
【請求項16】
血液学的起源の疾患は、アミロイドーシス、非ホジキンリンパ腫(NHL)、ワルデンストレーム病、多発性骨髄腫(MM)、急性リンパ球性白血病(ALL)、および急性骨髄性白血病(AML)からなる群から選択される、請求項14または15に記載の使用のための抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2019年4月23日に出願の米国特許仮出願第62/837,518号;2019年6月10日に出願の米国特許仮出願第62/859,699号;2020年2月17日に出願の欧州特許出願第20305145.3号;および2020年2月17日に出願の欧州特許出願第20305146.6号の利益を主張するものであり、すべての内容は参照により本明細書に組み入れる。
【0002】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含有し、その全体は参照により本明細書に組み入れる。2020年4月17日に作成された前記ASCIIコピーは、704023_SA9-289PC_ST25.txtと命名され、サイズ44,783バイトである。
【0003】
細胞毒性活性を改善した抗CD38抗体およびその安定な製剤が、本明細書に提供される。
【背景技術】
【0004】
CD38は、リンパ球マーカーとして同定された2型グリコシル化された45キロダルトン(kDa)の膜タンパク質である。CD38は、造血細胞の生存および分化のモジュレーションを介した白血球ホメオスタシスにおいて役割を有する(非特許文献1)。CD38は、CD31に結合する受容体として機能し、細胞接着およびシグナル伝達に関係する。シグナル伝達におけるCD38の機能は、細胞系譜、分化段階、おそらく、異なる共受容体との会合に応じて用途が広いと思われる(Richards JO、ら、2008年)。CD38は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)から環状アデノシン二リン酸リボース(cADPR)の合成およびADPリボースへの加水分解を触媒する外酵素でもある(非特許文献2)。これら反応産物は、カルシウム動員および細胞内シグナル伝達に関係している(非特許文献3)。
【0005】
健康なヒトにおいてCD38の発現は、NK細胞、単球、樹状細胞、マクロファージ、顆粒球、活性化型TおよびB細胞ならびに形質細胞で検出される。それに対し、造血幹細胞、休止TおよびB細胞、または組織マクロファージにおいて発現は検出されていない。さらに、形質細胞異形成[例えば、多発性骨髄腫(MM)、アミロイド症]ならびに例えばワルデンストレーム疾患、非ホジキンリンパ腫(NHL)、急性リンパ球性白血病(ALL)および急性骨髄性白血病(AML)を含めた造血起源の他のがんなどいくつかの血液悪性腫瘍は、CD38を発現する。
【0006】
CD38の発現は、>98%の患者がこのタンパク質について陽性であることからMMにおいて特に顕著である(非特許文献4、非特許文献5)。悪性のクローン性MM細胞におけるCD38の強く、一律な発現は、正常細胞における制限された発現パターンと対照的であり、この抗原が、腫瘍細胞の特定の標的化に有用であることを示唆している。
【0007】
MMは、細胞表面におけるCD38発現、骨髄(BM)における形質細胞のクローン性増殖および過剰量のモノクローナル免疫グロブリン[通常IgGもしくはIgA型または尿中遊離軽鎖(パラプロテイン、MタンパクまたはM成分とも呼ばれる)]の産生によって特徴付けられる悪性形質細胞疾患である。MMは、60歳以上の患者の80%より多くで加齢と支配的に関連する疾患である。
【0008】
MMの疾患経過は、疾患の悪性度および関連する予後因子によって異なる。多発性骨髄腫における特定の染色体異常は、臨床転帰不良と関連することが示されてきた。高リスクの細胞遺伝学的変化は、なかでも、del(17p)、t(4;14)、およびt(14;16)ならびに1q獲得を含む。過去20年間に、生存期間の中央値は、3年から6年に改善されたが;一部の患者は10年より長く生きることができる(非特許文献6)。処置の選択肢および生存は、患者の年齢、健康および疾患の状態に基づく。身体的健康が良好な症候性活動性疾患を示すおよそ65歳未満の患者は、自家幹細胞移植(ASCT)による初期療法を一般に受けることになる。幹細胞を採集する前に疾患の細胞減量を達成するために、導入化学療法が投与される。導入処置レジメンには、アルキル化剤、デキサメタゾン単独、サリドマイド+デキサメタゾン、ならびにビンクリスチン、アドリアマイシン(登録商標)(ドキソルビシン)およびデキサメタゾン(VAD;またはこのレジメンに対する修飾)がある;しかしながら、後の2つのレジメンは、より高い毒性と関連する(非特許文献7、非特許文献8)。ベルケイド(登録商標)(ボルテゾミブ)単独、ボルテゾミブ併用およびレブラミド(登録商標)(レナリドマイド)+デキサメタゾンによる処置は、導入療法として予後の改善を実証しており、これら薬剤は、より高い奏功率およびより低い毒性を実証する(Richardson PG 2010年、非特許文献9;非特許文献10;非特許文献11)。承認された追加の薬物には、ポマリドミド[レナリドマイドと同じIMiD(登録商標)クラスに属する]およびカルフィルゾミブおよびイキサゾミブ(ボルテゾミブと同じプロテアソーム阻害剤クラスに属する)がある。これらの新たな処置に加えて、モノクローナル抗体、特に抗CD38抗体が、骨髄腫患者の処置に主要な役割を果たし始めた。抗CD38抗体であるダラツムマブは、単剤としておよびMMに対する他の処置と併用してMMの処置用として承認された(非特許文献12;非特許文献13)。イサツキシマブ、抗CD38抗体は、再発性または難治性の多発性骨髄腫において単剤として奏功率25~29%および併用療法で奏功率60%を誘導することが報告されており(非特許文献14);第3相研究の最近の結果は、イサツキシマブの追加が、再発性および難治性の多発性骨髄腫においてポマリドミド-デキサメタゾンによる無増悪生存期間を改善できることを示した(非特許文献15)。加えて、エロツズマブ、抗Slam-F7抗体は、1~3つの前選択療法を受けたMM成人患者の処置用としてレナリドマイドおよびデキサメタゾンとの併用で、ならびにレナリドマイドおよびプロテアソーム阻害剤を含む少なくとも2つの前療法を受けたMM成人患者の処置用としてポマリドミドおよびデキサメタゾンとの併用で承認された[Bristol-Myers Squibb Company、エムプリシティ(登録商標)(エロツズマブ)[添付文書]]。米国食品医薬品局ウェブサイト。非特許文献16。2018年11月に修正された。
【0009】
これらCD38発現疾患に対する療法の現在の目的は、できるだけ効果的に疾患を制御し、生活の質を最大化し、生存を延長することである。例えば、MM患者は、一生の間に平均4~8つの異なるレジメンを受けることになる。したがって、より新しい療法により患者の予後が改善しているにもかかわらず、MMは、致死的疾患のままである。したがって、抗体療法を含めた現在の療法を受け、進行した患者の処置は依然として、難しい満たされていない大きな医学的必要性である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Richards,JO、ら、Mol Cancer Ther.2008年;7(8):2517~27頁
【文献】DiLillo DJ,Ravetch JV.Cell.2015年;161(5):1035~45頁
【文献】Derer S、ら、MAbs.2014年;6(2):409~21頁
【文献】Reinherz EL、ら、Proc Natl Acad Sci USA.1980年;77(3):1588~92頁
【文献】Lin P、ら、Am J Clin Pathol.2004年;121(4):482~8頁
【文献】Ocio EM、ら、Expert Rev Hematol.2014年;7(1):127~41頁
【文献】Richardson PG、ら、Blood.2010年;116(5):679~86頁
【文献】Arnulf B、ら、Haematologica.2012年;97:1925~8頁
【文献】Kumar S、ら、Blood.2012年;119(19):4375~82頁
【文献】Roussel M、ら、J Clin Oncol.2014年;32:2712~7頁
【文献】Durie BGM、ら、Lancet.2017年;389:519~27頁
【文献】Touzeau C、Moreau P.Expert Opin Biol Ther.2017年;17(7):887~93頁
【文献】Tzogani K.ら、Oncologist.2018年;23:1~11頁
【文献】Martin T、ら、Blood.2017年;129(25):3294~303頁
【文献】J Clin Oncol 37、2019年(補遺;要約8004)
【文献】www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2018/761035s008lbl.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
抗体処置を含めた、CD38発現疾患に対する現在利用可能な処置と比較して、本明細書に提供される抗体、使用および処置の方法は、疾患の優れた臨床応答または処置を提供できると考えられる。ヒトCD38に特異的に結合し、CD38を発現する細胞の優れた死滅を媒介する抗体、抗体を含む製剤および単位剤形、抗体を調製する方法ならびに抗体を使用する方法が、本明細書に提供される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一態様において、ヒトCD38に特異的に結合する抗体が、提供される。一部の実施形態において、本明細書に提供される抗体は、配列番号7、8および9からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)ならびに配列番号2、3、4、5および6からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖(HC)を含む。
【0013】
一部の実施形態において、本明細書に提供される抗体は、配列番号7のアミノ酸配列を有するLCならびに配列番号2、配列番号3および配列番号4からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCを含む。一部の実施形態において、本明細書に提供される抗体は、配列番号7のアミノ酸配列を有するLCおよび配列番号2のアミノ酸配列を有するHCを含む。一部の実施形態において、本明細書に提供される抗体は、配列番号7のアミノ酸配列を有するLCおよび配列番号3のアミノ酸配列を有するHCを含む。一部の実施形態において、本明細書に提供される抗体は、配列番号7のアミノ酸配列を有するLCおよび配列番号4のアミノ酸配列を有するHCを含む。
【0014】
一部の実施形態において、本明細書に提供される抗体は、配列番号8のアミノ酸配列を有するLCならびに配列番号5および配列番号6からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCを含む。一部の実施形態において、本明細書に提供される抗体は、配列番号8のアミノ酸配列を有するLCおよび配列番号5のアミノ酸配列を有するHCを含む。一部の実施形態において、本明細書に提供される抗体は、配列番号8のアミノ酸配列を有するLCおよび配列番号6のアミノ酸配列を有するHCを含む。
【0015】
一部の実施形態において、本明細書に提供される抗体は、配列番号9のアミノ酸配列を有するLCならびに配列番号6および配列番号7からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCを含む。一部の実施形態において、本明細書に提供される抗体は、配列番号9のアミノ酸配列を有するLCおよび配列番号6のアミノ酸配列を有するHCを含む。一部の実施形態において、本明細書に提供される抗体は、配列番号9のアミノ酸配列を有するLCおよび配列番号7のアミノ酸配列を有するHCを含む。
【0016】
別の態様において、製剤化された抗体を含む医薬組成物が、本明細書に提供される。医薬組成物の一部の実施形態において、抗体は、ショ糖、L-ヒスチジンならびにポリソルベート80と組み合わせて上述のアミノ酸配列を有するHCおよびLCを含む。一部の実施形態において、抗体は、濃度50mg/mLで存在し、ショ糖は濃度8%(質量/容積)で存在し、L-ヒスチジンは濃度10mMで存在し、ポリソルベート80(PS80)は濃度0.05%(容積/容積)で存在し、製剤はpH6.2を有する。一部の実施形態において、医薬組成物は、凍結乾燥されている。
【0017】
別の態様において、製剤化された抗体を含む単位剤形が、本明細書に提供される。一部の実施形態において、抗体は、上述のアミノ酸配列を有するHCおよびLCを含み、単位剤形は、抗体215mg、L-ヒスチジン6.21mg、ショ糖344mgおよびポリソルベート80 2.15mgを含む。一部の実施形態において、抗体の単位剤形は、凍結乾燥されている。
【0018】
別の態様において、ヒトCD38に特異的に結合する抗体を含む医薬組成物を調製するプロセスが、本明細書に提供される。一部の実施形態において、抗体は、上述のアミノ酸配列を有するHCおよびLCを含み、プロセスは、細胞培養において抗体を発現させる工程と、抗体を少なくとも1つのクロマトグラフィー精製工程および限外濾過工程に供して精製された抗体溶液を作製する工程と;精製された抗体溶液を調整して抗体製剤を作製する工程とを含む。一部の実施形態において、抗体製剤は、精製された抗体、ショ糖、L-ヒスチジンならびにポリソルベート80を含む。一部の実施形態において、抗体製剤は、濃度50mg/mLで抗体、濃度8質量/容積%でショ糖、濃度10mMでL-ヒスチジン;および濃度0.05容積/容積%でポリソルベート80(PS80)を含む。一部の実施形態において、抗体製剤は、pH6.2を有するように調製されている。抗体製剤を調製するプロセスの一部の実施形態において、抗体製剤は凍結乾燥されている。
【0019】
別の態様において、復元された抗体製剤を調製する方法が提供される。一部の実施形態において、凍結乾燥された抗体製剤は、ショ糖、L-ヒスチジン、PS80およびヒトCD38に特異的に結合する抗体を含む。一部の実施形態において、抗体は上述のアミノ酸配列を有するHCおよびLCを含む。一部の実施形態において、凍結乾燥された抗体製剤は、希釈剤中に復元され、それにより復元された抗体製剤を調製する。一部の実施形態において、復元された抗体製剤は、濃度50mg/mLで抗体、濃度8質量/容積%でショ糖、濃度10mMでL-ヒスチジン;および濃度0.05容積/容積%でPS80を含む。一部の実施形態において、復元された抗体製剤は、pH6.2を有する。
【0020】
別の態様において、多発性骨髄腫を有する患者を処置する方法が、提供される。一部の実施形態において、方法は、ヒトCD38に特異的に結合する抗体の1またはそれ以上の用量を患者に投与する工程を含み、抗体は、上述のアミノ酸配列を有するHCおよびLCを含む。
【0021】
別の態様において、多発性骨髄腫を処置する方法における使用のための抗体が提供される。一部の実施形態において、抗体は、ヒトCD38に特異的に結合し、抗体は、上述のアミノ酸配列を有するHCおよびLCを含む。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】mAb 1、2、3、5、6、7および8のアンフォールディングの開始を示すグラフである。
図2】mAb 1、3、5、6、7および8の等電点(pI)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
細胞表面に高、中および低レベルのCD38を発現する細胞に対して優れた抗体依存的細胞性細胞傷害(ADCC)を有する抗CD38抗体が、本明細書に提供される。一部の実施形態において、本明細書に提供される抗CD38抗体は、細胞表面にCD38を発現している細胞に対して優れた抗体依存性細胞貪食作用(ADCP)活性も有する。一部の実施形態において、本明細書に提供される抗体は、予想より低い等電点(pI)を有する。特に商業生産プロセスにおいて抗体の安定性に負の影響を及ぼす可能性がある予想より低いpI、およびより低温度でのタンパク質アンフォールディングの開始にもかかわらず、本明細書に提供される抗体は、ヒト患者への投与に安定な適切な形態で提供される。
抗体
【0024】
ヒトCD38に特異的に結合する抗CD38抗体が、本明細書に提供される。本明細書に提供される抗CD38抗体は、組換え方法を使用して作製される。抗抗原抗体を組換え産生する場合、抗体をコードしている核酸が単離され、さらなるクローニング(DNAの増幅)または発現のために複製可能なベクター内に挿入される。抗体をコードしているDNAは、従来通りの手順を使用して(例えば、抗体の重鎖および軽鎖をコードしている遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)容易に単離され、配列決定される。多くのベクターが利用可能である。ベクター成分は、シグナル配列、複製起点、1つもしくはそれ以上のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーターおよび転写終結配列のうちの1つまたはそれ以上を一般に含むが、これに限定されない。ベクターは、核酸の発現に適した宿主細胞へと一般に形質転換される。一部の実施形態において、宿主細胞は、真核生物細胞または原核生物細胞である。一部の実施形態において、真核生物宿主細胞は、哺乳動物細胞である。有用な哺乳動物宿主細胞系の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1系(COS-7、ATCC登録番号CRL 1651);ヒト胚腎臓系[293または懸濁培養での成長のためにサブクローニングされた293細胞、Grahamら、J.Gen Virol.36:59頁(1977年)];ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC登録番号CCL 10);マウスセルトリ細胞[TM4、Mather、Biol.Reprod.23:243~251頁(1980年)];サル腎臓細胞(CV1 ATCC登録番号CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC登録番号CRL-1587);ヒト子宮頸癌細胞(HELA、ATCC登録番号CCL 2);犬腎臓細胞(MDCK、ATCC登録番号CCL 34);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A、ATCC登録番号CRL 1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC登録番号CCL 75);ヒト肝臓細胞(Hep G2、HB 8065);マウス乳腫瘍(MMT 060562、ATCC登録番号CCL51);TRI細胞[Matherら、Annals N.Y.Acad.Sci.383:44~68頁(1982年)];MRC 5細胞;FS4細胞;およびヒト肝細胞腫系(Hep G2)である。他の有用な哺乳動物宿主細胞系には、DHFR-CHO細胞[Urlaubら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216頁(1980年)]を含めたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞;ならびにNS0およびSp2/0などの骨髄腫細胞系がある。抗体産生に適する特定の哺乳動物宿主細胞系の総説については、例えば、YazakiおよびWu、Methods in Molecular Biology、第248巻(B.K.C.Lo編、Humana Press、Totowa、N.J.2003年)、255~268頁を参照のこと。細胞から調製される抗CD38抗体は、例えば、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析およびアフィニティークロマトグラフィーを使用して精製され、なかでもアフィニティークロマトグラフィーが、一般に好ましい精製工程のうちの1つである。一般に、研究、試験および臨床応用に使用するための抗体を調製する様々な方法論は、当業者においてよく確立されており、上記の方法論と一致し、および/または当業者によって適当と考えられている。
【0025】
一部の実施形態において、抗体は、半バッチ培養様式で操作される500Lの使い捨てバイオリアクタを使用してCHO 8D6宿主細胞系(DXB11派生体)によって発現される。細胞培養プロセスは、マスター細胞バンクのバイアルを解凍することにより始められ、その後一連のシードトレイン細胞拡大工程を行う。細胞は、バイオリアクタに次いで移され、無血清、既知組成細胞培養培地を使用して培養される。培養は、10~14日後に抗体採取のために停止される。細胞および細胞培養破片が、深層濾過によって、採取された細胞培養から除去される。
【0026】
採取された材料をクロマトグラフィーおよび濾過工程によって次いでさらに処理して、精製された抗体を作製する。精製された抗体は、液体溶液中に製剤化され、≦-30℃で貯蔵される。
【0027】
適切なバイアルに製剤化された抗体を分注する前に、液体溶液は解凍され、0.2μm濾過デバイスを使用して無菌濾過される。製剤化された抗体は、USP1型ガラスバイアル、4.3mL/バイアルのような適切な容器に分注される。一部の実施形態において、充填されたバイアルは、製剤化された抗体を0.3mL過剰に含む。一部の実施形態において、製剤化された抗体は、バイアル内で凍結乾燥される。
【0028】
用語「抗体」は、2つの重鎖(HC)および2つの軽鎖(LC)を含む四量体タンパク質のことを一般に指す。各四量体は、2対の同一のポリペプチド鎖で一般に構成され、各対は、1つのLC(分子量約25kDaを一般に有する)および1つのHC(分子量約50~70kDaを一般に有する)を有する。本明細書では用語「HC」および「LC」とは、標的抗原に対する特異性を付与するのに充分な可変ドメイン配列を有する任意の免疫グロブリンポリペプチドのことを指す。各軽鎖および重鎖のアミノ末端部分は、抗原認識に一般に関与する約100~110またはより多くのアミノ酸からなる可変ドメインを一般に含む。各鎖のカルボキシ末端部分は、エフェクター機能に関与する定常ドメインを一般に定義する。したがって、典型的な抗体において、全長HC免疫グロブリンポリペプチドは、可変ドメイン(VH)と3つの定常ドメイン(CH1、CH2およびCH3)を含み、VHドメインは、ポリペプチドのアミノ末端にあり、CH3ドメインは、カルボキシル末端にあり、全長LC免疫グロブリンポリペプチドは、可変ドメイン(VL)と定常ドメイン(CL)を含み、VLドメインは、ポリペプチドのアミノ末端にあり、CLドメインは、カルボキシル末端にある。
【0029】
用語「抗体」は、最も広い意味で本明細書において使用され、モノクローナル抗体および多重特異性抗体(例えば、CD38標的に対する特異的結合ならびにADCCおよびADCPを誘発する能力を含めた所望の生物学的活性を呈する限り二重および三重特異性抗体)を含めた上述の典型的な抗体を特に網羅する。
【0030】
本明細書では用語「Fc」とは、単量体か多量体形態かにかかわらず、抗体の消化の結果得られるまたは他の手段によって作製される非抗原結合断片の配列を含む分子のことを指し、ヒンジ領域を含有することができる。Fc分子は、共有結合性(すなわち、ジスルフィド結合)および非共有結合性結合によって二量体または多量体形態に連結される単量体ポリペプチドからなる。典型的なFc分子の単量体サブユニット間の分子間ジスルフィド結合の数は、クラス(例えば、IgG、IgAおよびIgE)またはサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgA1、IgGA2およびIgG4)に応じて1~4個の範囲である。Fcの一例は、IgGのパパイン消化の結果得られるジスルフィド結合二量体である。
【0031】
本明細書に記載される抗体は、単離されている。用語「単離されたタンパク質」、「単離されたポリペプチド」もしくは「単離された抗体」とは、派生体の起源もしくは供給源に基づいて、(1)天然の状態で関連する天然に結合する成分と結合していない、(2)同種由来の他のタンパク質を実質的に含まない、(3)異なる種由来の細胞によって発現される、および/または(4)天然に存在しない、タンパク質、ポリペプチドもしくは抗体のことを指す。したがって、化学的に合成された、または天然を起源とする細胞と異なる細胞系において合成されたポリペプチドは、その天然の結合成分から「単離されている」ことになる。タンパク質は、当業者に周知のタンパク質精製技術を使用する単離によって天然に関連する成分を実質的に含まなくされる。
【0032】
一部の実施形態において、本明細書に提供される抗体は、表1に提供されるHCおよびLCアミノ酸配列を含む。
【0033】
【表1】
【0034】
結合特性
用語「親和性」は、例えば、受容体/リガンドまたは抗原/抗体のような2つのポリペプチド間の親和力の尺度のことを指す。2つのポリペプチド間の内因的誘引効果は、特定の相互作用の結合親和性平衡定数(KD)として表される。KDが、≦1μM、好ましくは≦100nMである場合、抗体は抗原に特異的に結合すると言われる。KD結合親和性定数は、例えば、表面プラスモン共鳴(SPR)[BIAcore(登録商標)]またはバイオレイヤー干渉法によって測定される。
【0035】
用語「koff」は、特定の抗体-抗原相互作用の解離速度定数のことを指す。koff解離速度定数は、例えば、バイオレイヤー干渉法によって測定される。
【0036】
CD38に対する結合
一部の実施形態において、本明細書に提供される抗体は、2つのHCおよび2つのLCを含む四量体タンパク質を含み、下記の通り表面プラスモン共鳴(SPR)によって測定した場合、親和性またはKD約1.91×10-10M~約6.7×10-10MでヒトCD38に結合する。一部の実施形態において、HCおよびLCはそれぞれ、配列番号2および7(mAb2)、3および7(mAb3)、4および7(mAb4)、5および8(mAb5)、5および9(mAb6)、6および8(mAb7)または6および9(mAb8)のアミノ酸配列を有する。
【0037】
一部の実施形態において、抗体は、それぞれ配列番号3および7のアミノ酸配列を有するHCおよびLCを含み、抗体は、親和性またはKD約2×10-10MでヒトCD38に結合する。一部の実施形態において、抗体は、それぞれ配列番号5および8のアミノ酸配列を有するHCおよびLCを含み、抗体は、親和性またはKD約6.7×10-10MでヒトCD38に結合する。一部の実施形態において、抗体は、それぞれ配列番号5および9のアミノ酸配列を有するHCおよびLCを含み、抗体は、親和性またはKD約4.15×10-10MでヒトCD38に結合する。一部の実施形態において、抗体は、それぞれ配列番号6および8のアミノ酸配列を有するHCおよびLCを含み、抗体は、親和性またはKD約3.85×10-10MでヒトCD38に結合する。一部の実施形態において、抗体は、それぞれ配列番号6および9のアミノ酸配列を有するHCおよびLCを含み、抗体は、親和性またはKD約1.91×10-10MでヒトCD38に結合する。
【0038】
FcγRIIIa(CD16a)およびFcγRIIa(CD32a)に対する結合
本明細書に提供される抗体は、SPRによる測定で、一桁分以内のKD、それぞれ100nM未満のKDでアミノ酸158位にフェニルアラニン(F)を有する低親和性FcγRIIIa(CD16a)バリアント(158F)に結合する能力もあり、アミノ酸158位にバリン(V)を有する高親和性FcγRIIIa(CD16a)バリアント(158V)に結合する能力がある。一部の実施形態において、本明細書に提供される抗体は、SPRによって測定して100nMより低いKDでFcγRIIIa(CD16a)の158Fバリアントおよび158Vバリアントに結合し、158Fおよび158Vバリアントに対する結合において2倍未満しか異ならない。一部の実施形態において、本明細書に提供される抗体は、例えば、SPRによって測定した場合、約59nMまたはより低いKDでFcγRIIIa(CD16a)バリアント(158F)に結合する。
【0039】
一部の実施形態において、抗体は、配列番号2のアミノ酸配列を有するHCおよび配列番号7のアミノ酸配列を有するLCを含み、例えば、SPRによって測定して、KD約53nMでFcγRIIIa(158F)におよびKD約47nMでFcγRIIIa(158V)に結合する能力がある。一部の実施形態において、抗体は、配列番号3のアミノ酸配列を有するHCおよび配列番号7のアミノ酸配列を有するLCを含み、例えば、SPRによって測定してKD約59nMでFcγRIIIa(158F)に結合する能力があり、KD約75nMでFcγRIIIa(158V)に結合する能力がある。一部の実施形態において、抗体は、配列番号4のアミノ酸配列を有するHCおよび配列番号7のアミノ酸配列を有するLCを含み、例えば、SPRによって測定してKD約51nMでFcγRIIIa(158F)に結合する能力があり、KD約47nMでFcγRIIIa(158V)に結合する能力がある。
【0040】
本明細書に提供される抗体は、例えば、SPRによる測定でKD≦690nMでアミノ酸131位にアルギニンを有する低親和性FcγRIIa(CD32a)バリアント(131R)に結合する能力もあり、KD約270nM未満で131位にヒスチジンを有する高親和性FcγRIIa(CD32a)バリアント(131H)に結合する能力がある。
【0041】
一部の実施形態において、抗体は、配列番号2のアミノ酸配列を有するHCおよび配列番号7のアミノ酸配列を有するLCを含み、例えば、SPRによって測定してKD約690nMでFcγRIIa(CD32a)(131R)にまたはKD約120nMでFcγRIIa(CD32a)(131H)に結合する能力がある。一部の実施形態において、抗体は、配列番号3のアミノ酸配列を有するHCおよび配列番号7のアミノ酸配列を有するLCを含み、例えば、SPRによって測定して、KD≦約125nMまたは≦100nMでFcγRIIa(CD32a)(131R)に結合する能力があり、KD約220nMでFcγRIIa(CD32a)(131H)に結合する能力がある。一部の実施形態において、抗体は、配列番号4のアミノ酸配列を有するHCおよび配列番号7のアミノ酸配列を有するLCを含み、例えば、SPRによって測定してKD約510nMでFcγRIIa(CD32a)(131R)に結合する能力があり、KD約60nMでFcγRIIa(CD32a)(131H)に結合する能力がある。
【0042】
一部の実施形態において、抗体は、それぞれFcγRIIIa(CD16a)158Fまたは158V発現HEK細胞に対する結合によって測定して、約70nMまたはより低い見かけのKDでFcγRIIIa(CD16a)158Fに、および約32nMまたはより低い見かけのKDでFcγRIIIa(CD16a)158Vに結合する能力もある。一部の実施形態において、配列番号2のアミノ酸配列を有するHCおよび配列番号7のアミノ酸配列を有するLCを含む抗体は、FcγRIIIa(CD16a)158Fまたは158V発現HEK細胞に対する結合によってそれぞれ測定して約70nMの見かけのKDでFcγRIIIa(CD16a)158Fに結合する能力もあり、約18nMの見かけのKDでFcγRIIIa(CD16a)158Vに結合する能力もある。一部の実施形態において、配列番号3のアミノ酸配列を有するHCおよび配列番号7のアミノ酸配列を有するLCを含む抗体は、FcγRIIIa(CD16a)158Fまたは158V発現HEK細胞に対する結合によってそれぞれ測定して約60nMの見かけのKDでFcγRIIIa(CD16a)158Fに結合する能力もあり、約32nMの見かけのKDでFcγRIIIa(CD16a)158Vに結合する能力もある。一部の実施形態において、配列番号4のアミノ酸配列を有するHCおよび配列番号7のアミノ酸配列を有するLCを含む抗体は、FcγRIIIa(CD16a)158Fまたは158V発現HEK細胞に対する結合によってそれぞれ測定して約44nMの見かけのKDでFcγRIIIa(CD16a)158Fに結合する能力もあり、約28nMの見かけのKDでFcγRIIIa(CD16a)158Vに結合する能力もある。
【0043】
一部の実施形態において、抗体は、それぞれFcγRIIa(CD32a)131Rまたは131H発現HEK細胞に対する結合によって測定して、約890nMまたはより低い見かけのKDでアミノ酸131位にアルギニンを有するFcγRIIa(CD32a)バリアント(131R)に、および約840nMまたはより低い見かけのKDでFcγRIIa(CD32a)バリアント131Hに結合する能力もある。一部の実施形態において、配列番号2のアミノ酸配列を有するHCおよび配列番号7のアミノ酸配列を有するLCを含む抗体は、FcγRIIa(CD32a)131Rまたは131H発現HEK細胞に対する結合によってそれぞれ測定して約890nMの見かけのKDでFcγRIIa(CD32a)131Rに結合する能力もあり、約840nMの見かけのKDでFcγRIIa(CD32a)131Hに結合する能力もある。一部の実施形態において、配列番号3のアミノ酸配列を有するHCおよび配列番号7のアミノ酸配列を有するLCを含む抗体は、FcγRIIa(CD32a)131Rまたは131H発現HEK細胞に対する結合によってそれぞれ測定して約87nMの見かけのKDでFcγRIIa(CD32a)131Rに結合する能力もあり、約222nMの見かけのKDでFcγRIIa(CD32a)131Hに結合する能力もある。一部の実施形態において、配列番号4のアミノ酸配列を有するHCおよび配列番号7のアミノ酸配列を有するLCを含む抗体は、FcγRIIa(CD32a)131Rまたは131H発現HEK細胞に対する結合によってそれぞれ測定して約467nMの見かけのKDでFcγRIIa(CD32a)131Rに結合する能力もあり、約544nMの見かけのKDでFcγRIIa(CD32a)131Hに結合する能力もある。
【0044】
作用機序
本明細書に提供される抗体は、細胞表面で高(およそ400000個/細胞)、中(およそ100000個/細胞)および低(およそ13000個/細胞)レベルのCD38分子を発現している細胞の抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)によってCD38発現細胞を死滅させる能力がある。本明細書に提供される抗体は、低親和性FcγIIIa(CD16a)受容体バリアント(158F)および/または高親和性FcγIIIa(CD16a)受容体バリアント(158V)を発現するナチュラルキラー(NK)細胞の存在下でそのようなADCCを誘発する。ADCCは、当業者に公知の方法を使用して、例えば、細胞ベースの効力アッセイにおいて抗体およびエフェクター細胞の存在下で標的細胞溶解を測定することにより測定される。標的細胞は、例えば、KMS12-BM、RPMI-8226またはMOLP-8のようなCD38発現細胞であり得る。加えて、エフェクター細胞は、例えば、ADCCによって標的細胞を死滅させるために誘導される任意の細胞であり得る。一部の実施形態において、エフェクター細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)のようなヒト血液から単離される初代細胞またはPBMCから精製されるヒトNK細胞である。別の実施形態において、細胞は、細胞表面にFcγRIIIa(158V)またはFcγRIIIa(158F)を発現するNK-92細胞のようなナチュラルキラー細胞系である(WO06/023148を参照のこと)。さらに他の実施形態において、NK細胞系は、FcγIIIa(CD16a)158Fまたは158Vを発現するように操作されたJurkat細胞系などの細胞系である(例えばPromega、G701Aを参照のこと)。
【0045】
本明細書に提供される抗体は、抗体依存性細胞貪食作用(ADCP)によって、細胞表面に高レベルのCD38を発現している細胞を死滅させる能力がある。本明細書に提供される抗体は、ヒトPBMCの存在下でそのようなADCPを誘発する。一実施形態において、本明細書に提供される抗体は、FcγRIIIa(158V)を発現するヒトPMBCによってCD38発現細胞の約41%の貪食作用を誘発し、相対的EC50 212.6pMである。
【0046】
医薬組成物および製剤化された抗体
用語「医薬製剤」とは、活性成分の生物学的活性を有効にするような形態であり、製剤が投与されることになる対象にとって容認できないほど有毒な追加成分を全く含有しない調合剤のことを指す。そのような製剤は、一般に無菌である。「薬学的に許容可能な」賦形剤(媒体、添加物)は、利用される活性成分の有効用量を得るために対象哺乳動物に合理的に投与されるものである。
【0047】
本明細書に提供される抗体の医薬組成物および製剤は、所望の純度を有する抗体を1つまたはそれ以上の任意選択の薬学的に許容可能な担体[Remington’s Pharmaceutical Sciences、第16版、Osol,A.編(1980年)]と混合することによって調製され、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で提供される。
【0048】
一部の実施形態において、本明細書に提供される医薬組成物は、抗体ならびに以下の賦形剤:ショ糖、L-ヒスチジンおよびポリソルベート80(PS80)のうち1つまたはそれ以上を含む、製剤化された抗体を含む。一部の実施形態において、抗体は、表1に提供されるモノクローナル抗体のうちいずれか1つのHCおよびLCアミノ酸配列を含む。一部の実施形態において、抗体は、濃度5mg/mL~50mg/mLで、医薬組成物中に存在する。一部の実施形態において、抗体は、濃度5mg/mLで医薬組成物中に存在する。一部の実施形態において、抗体は、濃度10mg/mLで医薬組成物中に存在する。一部の実施形態において、抗体は、濃度20mg/mLで医薬組成物中に存在する。一部の実施形態において、抗体は、濃度50mg/mLで医薬組成物中に存在する。各賦形剤の濃度は、医薬組成物が、注入による投与用として希釈されるように選択される。例えば、一部の実施形態において、ショ糖は、濃度8%(質量/容積)~10%(質量/容積)で存在する。一部の実施形態において、ショ糖は、濃度8%(質量/容積)で存在する。他の実施形態において、ショ糖は、濃度10%(質量/容積)で存在する。一部の実施形態において、L-ヒスチジンは、濃度10mM~20mMで存在する。一部の実施形態において、L-ヒスチジンは、濃度10mMで存在する。一部の実施形態において、L-ヒスチジンは、濃度20mMで存在する。一部の実施形態において、PS80は、濃度0.005%(容積/容積)~0.05%(容積/容積)で存在する。一部の実施形態において、PS80は、濃度0.005%(容積/容積)で存在する。一部の実施形態において、PS80は、濃度0.02%(容積/容積)で存在する。一部の実施形態において、PS80は、濃度0.05%(容積/容積)で存在する。一部の実施形態において、例えば医薬組成物が液体形態である場合、医薬組成物のpHは、抗体の安定性を維持するために最適化される。一部の実施形態において、製剤化された抗体のpHは、pH約6.0~約6.5を有する。一部の実施形態において、製剤化された抗体は、pH約6.0を有する。一部の実施形態において、製剤化された抗体は、pH約6.2を有する。一部の実施形態において、製剤化された抗体は、pH約6.5を有する。一部の実施形態において、製剤化された抗体は、pH6.0を有する。一部の実施形態において、製剤化された抗体は、pH6.2を有する。一部の実施形態において、製剤化された抗体は、pH6.5を有する。
【0049】
一部の実施形態において、本明細書に提供される医薬組成物の抗体および/または製剤化された抗体は、1つまたはそれ以上の荷電されたアイソフォームを含む。荷電されたアイソフォームは、主アイソフォーム、酸性アイソフォームおよび塩基性アイソフォームと一般に記載される。主アイソフォームは、抗体の所与のバッチ内で最も一般的なアイソフォームのことを指す。酸性アイソフォームは、主アイソフォームと比較してより低い等電点(pI)を有し、塩基性アイソフォームは、主アイソフォームと比較してより高いpIを有する。荷電されたアイソフォームは、HCおよび/またはLCのアミノ酸配列に対する翻訳後修飾の結果得られる。例えば、脱アミド、糖化およびシアリル化の増大は、抗体のpIの低下を引き起こす場合がある。N末端グルタミン酸の、pyroGlu(または、pyroQ)への変換は、1つの正電荷の喪失をもたらし、それはpIの低下を引き起こす場合がある。加えて、C末端リジンの存在は、抗体のpIの増大を引き起こす場合がある。さらに、C末端プロリンのアミド化は、抗体のpIの増大を引き起こす場合がある。
【0050】
本明細書に提供される抗体(医薬組成物中の抗体および製剤化された抗体を含む)の一部の実施形態において、HCアミノ酸配列の1位におけるアミノ酸は、ピログルタミンである。本明細書に提供される抗体の一部の実施形態において、HCは、グリシンからなるC末端アミノ酸を有する。
【0051】
本明細書に提供される抗体の荷電されたアイソフォームは、電荷に基づいてポリペプチドを分離するための当業者に公知の方法を使用して分離され、定量化される。例えば、一部の実施形態において、弱い陽イオン交換カラムが、リン酸/塩化ナトリウム勾配緩衝液による高速液体クロマトグラフィー(HPLC)システムに使用される。このシステムにおいて、カラムに抗体を入れた後、抗体の酸性アイソフォームが最初に、その後主アイソフォーム、次いで抗体の塩基性アイソフォームが溶出することになる。別の実施形態において、キャピラリ等電点電気泳動法(cIEF)が、使用される。キャピラリ等電点電気泳動法は、等電点(pI)値によってタンパク質を分離する方法である。cIEFにおいて、抗体試料は、キャピラリ内のpH勾配上の等電点に泳動し、それによりキャピラリの長さに沿って異なる電荷アイソフォームを分離する。cIEFバリアントを同定し、特徴付けるために、電荷アイソフォームは強い陽イオン交換クロマトグラフィー(SCX)によって単離され、cIEFによって分析される。キャピラリ内で分離された荷電されたアイソフォームの画像は、全カラム検出を使用し、280nmで吸光度を測定する電荷結合素子カメラを使用して撮像される。試験試料の電荷アイソフォーム分布を、cIEFを使用して参照基準と比較して、抗体の電荷アイソフォームを同定する。一部の実施形態において、cIEFは、参照基準、例えば、あらかじめ定義された分布パターン内の電荷アイソフォーム分布パターンを有する試験抗体と比較してまたは参照基準の分布パターンと比較して抗体の電荷アイソフォーム分布を決定することによって、商業生産中の抗体の同一性を確認するための品質管理尺度として使用される。
【0052】
一部の実施形態において、抗体(医薬組成物中の抗体および製剤化された抗体を含む)は、表1に提供されるモノクローナル抗体のうちいずれか1つのHCおよびLCアミノ酸配列ならびに少なくとも約70%の主アイソフォーム、約30%以下の酸性アイソフォームおよび4%未満の塩基性アイソフォームからなる群から選択される1つまたはそれ以上の荷電したアイソフォームパラメータを含む。一部の実施形態において、抗体は、71%の主アイソフォーム、28%の酸性アイソフォームおよび4%未満の塩基性アイソフォームを含む。一部の実施形態において、抗体は、約5.8~約9.0の範囲の等電点で電荷アイソフォームを含有する。一部の実施形態において、抗体は、約5.85~約8.97の範囲の等電点で電荷アイソフォームを含有する。
【0053】
一部の実施形態において、抗体(医薬組成物中の抗体および製剤化された抗体を含む)は凍結乾燥されている。抗体(医薬組成物中の抗体および製剤化された抗体を含む)は、規定された用量の抗体を容器から取り出して患者へ投与できるように、容器(例えば、バイアル)中にあることができる。
【0054】
CD38に特異的に結合する製剤化された抗体の単位剤形が、本明細書に提供される。一部の実施形態において、抗体は、表1に提供されるモノクローナル抗体のうちいずれか1つのHCおよびLCアミノ酸配列を含み、単位剤形は、抗体、ならびにショ糖、L-ヒスチジンおよびポリソルベート80の群から選択される賦形剤を1つまたはそれ以上含む。一部の実施形態において、単位剤形は、抗体約215mg、L-ヒスチジン約6.21mg、ショ糖約344mg、およびポリソルベート80約2.15mgを含む。一部の実施形態において、単位剤形は、抗体215mg、L-ヒスチジン6.21mg、ショ糖344mgおよびポリソルベート80 2.15mgを含む。一部の実施形態において、単位剤形は凍結乾燥されている。単位剤形は、規定された投薬量の抗体を容器から取り出して患者へ投与できるように、容器(例えば、バイアル)中にあることができる。一部の実施形態において、抗体、医薬製剤および/または製剤化された抗体は、エラストマー製の密封栓を取り付けたガラスバイアル中にある。一部の実施形態において、バイアルは、抗体約215mgを含有する。一部の実施形態において、バイアルは、抗体215mgを含有する。一部の実施形態において、バイアルの充填容量は、約4mLを取り出せるように確定された。一部の実施形態において、バイアルの充填容量は、4mLを取り出せるように確定された。
調製のプロセス
【0055】
抗体、医薬組成物および単位剤形を調製するプロセスが、本明細書に提供される。一部の実施形態において、抗体は、表1に提供されるモノクローナル抗体のうちいずれか1つのHCおよびLCアミノ酸配列を含む。一実施形態において、プロセスは、適切な細胞培養において抗体を発現させる工程を含む。抗体は、少なくとも1つのクロマトグラフィー工程および少なくとも1つの限外濾過工程に供され、それにより精製された抗体溶液が作製される。精製された抗体溶液を調整して、抗体を濃縮し、賦形剤を添加し、pHを調整する。一実施形態において、抗体の濃度は、約50mg/mLになるように調整され;ショ糖、L-ヒスチジンおよびポリソルベート80が添加され、pHは、少なくとも約6.0になるように調整される。一実施形態において、抗体の濃度は、50mg/mLになるように調整され;ショ糖、L-ヒスチジンおよびポリソルベート80が添加され、pHは、少なくとも6.0になるように調整される。一部の実施形態において、pHは、約6.2である。一部の実施形態において、pHは、6.2である。一部の実施形態において、ショ糖は、濃度約8質量/容積%であり、L-ヒスチジンは、濃度約10mMであり;ポリソルベート80は、濃度約0.05容積/容積%である。一部の実施形態において、ショ糖は、濃度8質量/容積%であり、L-ヒスチジンは、濃度10mMであり;ポリソルベート80は、濃度0.05容積/容積%である。一部の実施形態において、抗体、医薬組成物および/または製剤化された抗体は、凍結乾燥される。
【0056】
一部の実施形態において、復元され製剤化された抗体を調製する方法が提供され、製剤化された抗体は、凍結乾燥された形態で提供され、表1に提供されるモノクローナル抗体のうちいずれか1つのHCおよびLCアミノ酸配列、濃度約8質量/容積%のショ糖、濃度約10mMのL-ヒスチジンならびに濃度約0.05容積/容積%のポリソルベート80を含む。一部の実施形態において、復元され製剤化された抗体を調製する方法が提供され、製剤化された抗体は、凍結乾燥された形態で提供され、表1に提供されるモノクローナル抗体のうちいずれか1つのHCおよびLCアミノ酸配列、濃度8質量/容積%のショ糖、濃度10mMのL-ヒスチジンならびに濃度0.05容積/容積%のポリソルベート80を含む。一部の実施形態において、使用の前に、製剤化された抗体は、適切な容量の注射用蒸留水中に復元されて、濃度約50mg/mLの抗体、濃度約8質量/容積%のショ糖、濃度約10mMのL-ヒスチジンおよび濃度約0.05容積/容積%のポリソルベート80を含む溶液が作製され、復元された抗体のpHは、約6.2である。一部の実施形態において、使用の前に、製剤化された抗体は、適切な容量の注射用蒸留水中に復元されて、濃度50mg/mLの抗体、濃度8質量/容積%のショ糖、濃度10mMのL-ヒスチジンおよび濃度0.05容積/容積%のポリソルベート80を含む溶液が作製され、復元された抗体のpHは、6.2である。
【0057】
本明細書では、用語「処置」または「処置する」とは、臨床病理学の過程で処置される個体または細胞の天然の経過を改変するように設計された臨床的介入のことを指す。処置による所望の効果には、疾患の進行の速度を低下させること、疾患状態を改良または緩和すること、および寛解または予後を改善することがある。例えば、がん性細胞の増殖を減少させる、がん性細胞を破壊する、疾患に起因する症状を低下させる、疾患を患っている個体の生活の質を増大させる、疾患を処置するのに必要な他の医薬品の用量を低下させる、および/もしくは個体の生存を延長することを含むがこれに限定されないがんと関連する1つもしくはそれ以上の症状が緩和または排除される場合、個体は成功裏に「処置された」。
【0058】
本明細書に提供される抗CD38抗体の有効量を、それを必要とする対象に投与する工程を含む、個体において多発性骨髄腫(再発性多発性骨髄腫または再発性および難治性多発性骨髄腫など)の進行を処置するまたは遅延させる方法が、本明細書に提供される。一部の実施形態において、抗体は、表1に提供されるモノクローナル抗体のうちいずれか1つのHCおよびLCアミノ酸配列を含む。一部の実施形態において、抗体は、マウスMMモデルにおいてマウスの生存を改善する能力があり、モデル内のマウスは、ヒトCD16a(158F)の低親和性バリアントを発現しており、マウスは、ヒトCD38を発現するEL4細胞500000個を注射される。一部の実施形態において、1またはそれ以上の用量の抗CD38抗体が、凍結乾燥製剤として提供され、復元された抗体製剤がpH6.2を有し、約10mM L-ヒスチジン、約8質量/容積%ショ糖および約0.05容積/容積%ポリソルベート80を含む液体中に濃度約50mg/mLで抗体を含むように、投与前に、凍結乾燥製剤を復元して、復元された抗体製剤を形成する。一部の実施形態において、1またはそれ以上の用量の抗CD38抗体が、凍結乾燥製剤として提供され、復元された抗体製剤がpH6.2を有し、10mM L-ヒスチジン、8質量/容積%ショ糖および0.05容積/容積%ポリソルベート80を含む液体中に濃度50mg/mLで抗体を含むように、投与前に、凍結乾燥製剤を復元して、復元された抗体製剤を形成する。
【0059】
一部の実施形態において、1またはそれ以上の用量の抗体が、患者に投与される。一部の実施形態において、用量は、約0.1、約0.2、約0.3、約0.5、約1.0、約2.5、約5、約10または約20mg/kgの抗体であることができる。一部の実施形態において、用量は、0.1、0.2、0.3、0.5、1.0、2.5、5、10および20mg/kgの抗体であることができる。一部の実施形態において、抗体は、静脈内投与される。一部の実施形態において、抗体は、皮下投与される。
【0060】
定義
この明細書および添付の特許請求の範囲に使用される、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上明確な指図がない限り複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「分子」に対する参照は、2つまたはより多くのそのような分子の組合せなどを場合により含む。
【0061】
本明細書では用語「約」とは、この技術分野の当業者にとって容易に知られるそれぞれの値の通常の誤差範囲のことを指す。「約」値またはパラメータの参照は、その値またはパラメータそれ自体を対象とする実施形態を本明細書に含む(および記載する)。一部の実施形態において、用語「約」は、前記値の記載された値プラスまたはマイナス10%を示し;例えば「約10mg/kg」は、9~11mg/kgを包含できる。一部の実施形態において、用語「約」は、前記値の記載された値プラスまたはマイナス5%を示し;例えば「約20mg/kg」は、19~21mg/kgを包含できる。
【0062】
処置を目的とした「対象」または「個体」とは、ヒト、家庭および農場動物、ならびにイヌ、ウマ、ネコ、ウシ等のような動物園、スポーツまたはペット動物を含めた哺乳動物と分類される任意の動物のことを指す。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0063】
例を、例証目的でおよび本発明の一部の特定の実施形態について記載するために以下に述べた。しかしながら、請求項の範囲は、本明細書に述べられる例によって決して限定されるべきでない。
【0064】
実施例
1.抗体設計:
エフェクター細胞上の活性化FcγRIIIaおよびFcγRIIa受容体に対する親和性を増強するために、抗体のFc部分に突然変異を有するFcを操作した抗CD38抗体を生成した。
【0065】
2つのヒト化重鎖(HC)(配列番号5および配列番号6)は、フレームワーク領域内に14個および10個の突然変異を保有し(配列番号1と比較して)、それは、ホモサピエンスにおいてそれぞれ74.49%から88.78%および84.69%へとジャーミナリティ(germinality)スコアの増大をもたらした。2つのヒト化軽鎖(LC)(配列番号8および配列番号9)は、フレームワーク領域内に17個および15個の突然変異を保有し(配列番号7と比較して)、それは、ホモサピエンスにおいてそれぞれ64.36%から81.19%および79.21%へとジャーミナリティスコアの増大をもたらした。加えて、LC2および3において、11位のメチオニンをロイシンで置換して、潜在的問題を含むメチオニン酸化を回避した。HCおよびLC配列を表2に提供し、mAb HCおよびLC対合を表3に提供した。
【0066】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【0067】
【表3】
【0068】
2.生化学的特徴付け:
A:CD38に対する結合
一実験において、ヒトCD38に対するmAb1~8の結合親和性および動力学的定数を、Biacore(登録商標)機器を使用してSPRによって測定した。簡潔には、抗CD38抗体を、抗Fc抗体が共有結合しているCM5チップに捕捉した。複数濃度のhuCD38を、試験する捕捉された抗体に注射した。結合曲線(センサグラム)を生成させ、動態解析を、Biacore Evaluationソフトを使用して実行した。
【0069】
表4に示すように、mAb3および8が、ヒトCD38に対して最も高い親和性を有した(各バリアントに対するt検定:p値>2)。
【0070】
【表4】
【0071】
別の実験において、ヒトCD38に対するmAb1および3の結合親和性を、上述の通りBiacore(登録商標)機器を使用してSPRによって測定した。mAb1は、Kd 0.22nMを有し、mAb3は、Kd 0.20nMを有した。
【0072】
ヒトCD38に対する結合親和性に対する温熱ストレスの効果:mAbを温熱ストレスに供した(10mMヒスチジンpH6、8%ショ糖、0.02% PS80中に40℃で14日間)後の、ヒトCD38に対するmAb1~8の結合親和性および動力学的定数を、Biacore(登録商標)機器を使用してSPRによって測定した。上のパラグラフに記載されるものと同じプロトコールを使用した。
【0073】
表5に示すように、熱ストレスを受けた試料は、対応するストレスを受けていない試料CD38(表4)と非常によく似た親和性および動力学的定数を示した(各バリアントに対するt検定:p値>2)。
【0074】
【表5】
【0075】
B:in silicoでのFcγRIIa、FcγRIIIaおよびFcγRIIbに対する親和性の測定
一実験において、FcγRIIIa 158V受容体またはFcγRIIIa 158F受容体に対するmAbの親和性を、表面プラスモン共鳴(SPR)を使用して測定した。mAbを、供給元(ThermoFisher Scientific)にしたがった一過性トランスフェクションによりHEK293細胞において作製し、供給元(GE Healthcare)にしたがってプロテインAアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。V158またはF158を含むFcγRIIIa(CD16a)細胞外ドメインを、一過性発現によってHEK293細胞においてC末端Hisタグ付きで作製し、供給元(Ni-セファロース、GE Healthcare)にしたがって固定化した金属アフィニティークロマトグラフィー(IMac)によって精製した。BIACore 2000(GE Healthcare)でのSPRによる親和性を、CM5チップ上に固定化した抗His IgGを使用する捕捉アッセイによって実行した。FcγRIIIa-Hisタグを、ランニングバッファーに次いで添加し、その後続いて濃度8~256nMで抗CD38 mAbを添加した。分析を、BIAevaluation Software4_1(GE Healthcare)を使用して、5未満の許容可能なχ値(試験した最高濃度の2%を意味する)および25を超える最大の理論的共鳴単位のパーセンテージ(1/4より高い生産的相互作用を意味する)による2状態反応を使用して実行した。
【0076】
表6に示すように、mAb2~4は、FcγRIIIa 158Vに対してmAb1より9倍高い親和性およびFcγRIIIa 158F受容体に対してmAb1より27倍高い親和性を有した。
【0077】
【表6】
【0078】
別の実験において、FcγRIIIa 158V受容体またはFcγRIIIa 158F受容体に対するmAb1および3の親和性を、上述の通りSPRを使用して測定した。mAb3は、KD 75nMでFcγRIIIa 158Vに結合し、mAb3は、KD 59nMでFcγRIIIa 158Fに結合した。
【0079】
アミノ酸131位にアルギニン(FcγRIIa 131R)またはアミノ酸131位にヒスチジン(FcγRIIa 131H)を有するFcγRIIa受容体に対するmAbの親和性を、AlphaScreen近接アッセイを使用して測定した。
【0080】
R131またはH131を含むFcγRIIa細胞外ドメインは、R&D System(バッチ1330-CD)またはBiorbyt(バッチORB138408)によってそれぞれ提供された。アッセイは、供給元(Perkin Elmer)によって記載されるビーズに基づく近接アッセイであり、天然のIgG1を用いる抗CD38に対する競合によって抗CD38 Fcバリアントの順位付けが可能になった。天然のIgG1を持つビオチン化抗CD38をドナービーズ上に捕捉し、FcγRIIa Hisタグタンパク質をアクセプタービーズ上に捕捉した。抗CD38とFcγRIIaが相互作用すると、ビーズは近接する。680nmでのドナービーズの励起は、一重項酸素の放出を引き起こし、それは拡散し、近接している場合、アクセプタービーズからの520~620nmの光の放射を誘発する。光量は、相互作用の程度に正比例し、光量を、EnVisionマルチモードプレートリーダー(Perkin Elmer)で測定した。競合アッセイの間、タグがない競合mAb、抗CD38 Fc-バリアントDE(S239D/I332E、Eu付番)、ADE(G236A/S239D/I332E、Eu付番)、またはADLE(G236A/S239D/F243L/I332E、Eu付番)を使用して、ビオチン化抗CD38と天然のIgG1およびFcγRIIa-Hisタグタンパク質の間の相互作用を競合させた。ビオチン化抗CD38の濃度を、前もって実行した較正曲線から設定した。タグがないmAbの濃度を増大させることで、ビオチン化抗CD38を置き換え、シグナルを低下させられるように、タグがない競合mAbを様々なレベルで使用した。データを、最大シグナルに対して標準化した。2つの実験を行い、IC50を、BIOST@T-SPEED-LTS 2.1.0により評価した。
【0081】
表7に示すように、mAb3は、mAb1と比較して、FcγRIIa 131RおよびFcγRIIa 131Hに対してそれぞれ14倍および18倍を超える高い親和性を示した。
【0082】
【表7】
【0083】
C:in vitroでのFcγRIIa、FcγRIIIaおよびFcγRIIbに対する親和性の測定
HEK293T-FcγRIIIa-158F、HEK293T-FcγRIIIa-158V、HEK293T-FcγRIIa-131H、HEK293T-FcγRIIa-131R、HEK293T-FcγRIまたはHEK293T-FcγRIIbを、10個細胞/ウェルで96ウェルマイクロプレートに播種した。プレートを、800gで1分間遠心分離し、異なる濃度で抗体を含有するPBS 50μLに4℃で30分間再懸濁した。PBS 1% FBS 200μLを次いで添加して細胞を洗浄し、その後800gで1分間遠心分離した。FITCとコンジュゲートした二次抗体[ヤギ抗ヒトIgG(H+L)FITC断片、参照109-546-088 Jackson ImmunoResearch、終濃度10μg/mL]を用いて4℃で30分間細胞を染色する前に、洗浄工程を合計3回繰り返した。細胞を、PBS 1% FBS 200μLで3回洗浄し、MACSVYB(B1流路)で取得する前にPBS 100μLに再懸濁した。表8に示すように、mAb2、3および4は、mAb1と比較してHEK細胞において発現されたFcγRIIIa 158Fに対してそれぞれ32倍、38倍および51倍高い親和性を有し、mAb2、3および4は、mAb1と比較してHEK細胞において発現されたFcγRIIIa 158Vに対してそれぞれ9倍、5倍および6倍高い親和性を有した。
【0084】
【表8】
【0085】
表9に示すように、mAb3は、mAb1と比較してHEK細胞において発現されたFcγRIIa 131Hに対しておよそ5倍高い親和性を有し、mAb3は、mAb1と比較してHEK細胞において発現されたFcγRIIa 131Rに対しておよそ16倍高い親和性を有した。
【0086】
【表9】
【0087】
表10に示すように、mAb2、3および4は、mAb1と比較してFcγRIに対して類似レベルの結合親和性を、およびmAb1と比較してHEK細胞において発現されたFcγRIIbに対して1.8~3.9分の1の親和性を有した。
【0088】
【表10】
【0089】
D:in vitroでの細胞毒性活性の測定
抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC):
エフェクター細胞としてFcγRIIIa受容体を過剰発現するように操作したNK92細胞系を使用する抗体依存的細胞性細胞傷害性(ADCC)アッセイを、カルセイン-アセトキシメチル(カルセイン-AM;Invitrogen)放出アッセイを使用して調査した。生細胞において、非蛍光性カルセインAMは、緑の蛍光性カルセインに変換される。標識した標的細胞を、SAR442085抗体およびNK92エフェクター細胞とインキュベートした。ADCCによる標的細胞の溶解は、蛍光性カルセインの放出をもたらした。蛍光強度は、存在するADCC活性のレベルに比例した。
【0090】
多発性骨髄腫標的細胞(MOLP-8、RPMI 8226、MM1RまたはKMS12-BM)を、カルセインAM(50μgを、DMSO 25μL中に希釈し、4×10個の細胞を染色するためにカルセイン10μLを、RPMI 1640+1% FBS+1%プロベネシド4mL中に次いで希釈した)で30分間標識し、次いで洗浄し、密度2×10個細胞/ウェルで、96ウェル丸底プレート上で培養した。示したFcγRIIIaバリアントで形質導入したナチュラルキラー(NK)細胞を添加する前に、示した試験mAbまたは対照アイソタイプmAbを10μg/mL~0.01pg/mLの様々な濃度で添加して30分間おいてオプソニン化させた。158Fまたは158Vを発現しているNK細胞を、E:T比5:1(標的細胞2×10個に対してNK細胞1×10個)でエフェクター細胞として添加した。プレートを、5% COの加湿したインキュベーター内で、37℃で1時間次いでインキュベートし、上清100μLを採取し、不透明な96ウェルマイクロプレートに移して、Tecan Infinite M1000による蛍光測定法を使用して分析し(励起フィルター:492nm;放出フィルター:515nm)、それによりカルセイン放出を測定した。放出を最大化するために、細胞を2% Triton X-100で溶解させた。培養培地バックグラウンドの蛍光値を、実験的放出(A)、標的細胞の自発的放出(B)および標的細胞の最大の放出(C)から減算した。各プレート(複製)について細胞毒性およびADCCパーセンテージを、以下の式を使用して算出した:
細胞毒性(%)=(A-B)/(C-B)×100%
【0091】
各実験を、少なくとも3回繰り返した。データポイントをGraphPad Prism 5(GraphPad Software、Inc.San Diego、CA)を使用して4パラメータ方程式に当てはめることによって最大半量の有効濃度(EC50)値を算出した。
【0092】
高CD38受容体密度の標的細胞
多発性骨髄腫細胞系MOLP-8のADCCを、上述の通りin vitroで評価した。MOLP-8細胞は、細胞表面上に高いCD38受容体密度(およそ400,000個/細胞)を呈した。
【0093】
表11は、158Vを発現しているNK細胞の存在下でMOLP-8細胞に対して試験した各抗体のEC50を示す。表11に示すように、FcγRIIIaの高親和性バリアント(158V)を発現しているNK細胞の存在下でmAb2、3および4は、mAb1の24~33分の1のEC50でMOLP-8細胞のADCCを誘発した。
【0094】
【表11】
【0095】
表12は、158Fを発現しているNK細胞の存在下でMOLP-8細胞に対して試験した各抗体のEC50を示す。表12に示すように、mAb4は、低親和性FcγRIIIaバリアント(158F)を発現しているNK細胞の存在下でmAb1の約97分の1のEC50でMOLP-8細胞に対して最も強いADCC活性を示した。mAb2および3は、低親和性FcγRIIIaバリアント(158F)を発現しているNK細胞の存在下でmAb1の約59~69分の1のEC50でMOLP-8細胞のADCCを誘発した。
【0096】
【表12】
【0097】
中程度のCD38受容体密度の標的細胞
多発性骨髄腫細胞系RPMI-8226のADCCを、上述の通りin vitroで評価した。RPMI-8226細胞は、細胞表面上に中程度のCD38受容体密度(およそ70,000個/細胞)を呈した。
【0098】
表13は、158Vを発現するNK細胞の存在下でRPMI-8226細胞に対して試験した各抗体のEC50を示す。表13に示すように、mAb2~4は、FcγRIIIaの高親和性バリアント(158V)を発現するNK細胞の存在下で中程度のCD38受容体密度を発現するMM細胞に対してADCCを誘発するmAb1と比較して、約27分の1のEC50を持つ類似レベルの増強された能力を実証した。
【0099】
【表13】
【0100】
表14は、158Fを発現するNK細胞の存在下でRPMI-8226細胞に対して試験した各抗体のEC50を示す。mAb4は、FcγRIIIaの低親和性バリアントを発現するNK細胞の存在下で中程度のCD38受容体密度を発現するMM細胞に対してADCCを誘発するmAb1と比較して約73倍増強された能力を実証し、FcγRIIIaの低親和性バリアントを発現するNK細胞の存在下で中程度のCD38受容体密度を発現するMM細胞に対してADCCを誘発するmAb1と比較して、mAb3は約65倍およびmAb2は約49倍増強された能力を実証した。
【0101】
【表14】
【0102】
低いCD38受容体密度の標的細胞
多発性骨髄腫細胞系KMS-12BMのADCCを、上述の通りin vitroで評価した。KMS-12BM細胞は、細胞表面上に低いCD38受容体密度(およそ13000個/細胞)を呈した。
【0103】
表15は、FcγRIIIaの高親和性バリアント(158V)を発現するNK細胞の存在下でKMS-12BM細胞に対して試験した各抗体のEC50を示す。興味深いことに、表15に示すように、mAb2、3および4は、FcγRIIIaの高親和性バリアント(158V)を発現するNK細胞の存在下で低いCD38受容体密度を発現するMM細胞に対して、mAb1と比較して増強されたADCCを誘発する能力を実証した。mAb3は、mAb1のおよそ69分の1のEC50を有し、mAb4は、mAb1のおよそ91分の1のEC50を有した。
【0104】
【表15】
【0105】
表16は、FcγRIIIaの低親和性バリアント(158F)を発現するNK細胞の存在下でKMS-12BM細胞に対して試験した各抗体のEC50を示す。意外なことに、表16に示すように、mAb2、3および4は、FcγRIIIaの低親和性バリアント(158F)を発現するNK細胞の存在下で低いCD38受容体密度を発現するMM細胞に対して、mAb1と比較して増強されたADCCを誘発する能力を実証した。mAb3は、mAb1のおよそ145分の1のEC50を有し、mAb4は、mAb1のおよそ269分の1のEC50を有した。
【0106】
【表16】
【0107】
抗体依存性細胞貪食作用(ADCP):
ヒトPBMCを、Etablissement Fransais du Sangの7名の健康なドナーの白血球層から最初に単離した。これらドナーはすべて、同じFCGR3AおよびFCGR2A遺伝子型(FcγRIIIa-158V/VおよびFcγRIIa-131H/H)を呈した。血液を、50mLファルコン管に最初に採集した。96% Ficoll-Plaque(商標)Plus 15mLをSepmate管の底に非常に穏やかに添加し、次いで、1300gで10分間遠心分離する前に血液を管にゆっくり添加した。PBMC環を次いで採集し、PBS 50mLで洗浄し、300gで5分間もう1回遠心分離した。製造業者の指示にしたがう抗CD14磁気ビーズ(Miltenyi;参照130-050-201)によるPBMC染色の前に洗浄プロセスを2回繰り返した:AutoMACS pro(Posseld選択)による正の選択の前に基本的にインキュベーション時間4℃で15分間。単球を採集し、PBS 50mLで次いで洗浄した。単球を、T75フラスコ中のRPMI 1640、10% FBS、2%ヒト非働化血清、50ng/mL GM-CSF中で37℃、5% COで5日間培養した。培養5日後、単球をマクロファージに分化させた。マクロファージを採集するために、アキュターゼ(ThermoFisher、参照:A1110501)を37℃で15分間フラスコに入れて、細胞を剥離させ、次いで、RPMI、10% FBS、1%グルタミン20mLを添加して、アキュターゼ活性を停止させた。採集した細胞を、350gで10分間遠心分離し、続いてPBS 20mL中で洗浄し、300gで10分間もう1回遠心分離した。2つの実験のために、使用したマクロファージは、液体窒素中で凍結させたマクロファージバッチからであった。
【0108】
マクロファージを、20×10個細胞/mLで希釈剤C(Sigma Aldrichの製造業者の染色キット#PKH26GL-1KTに提供される)に再懸濁した。マクロファージ1容量に対して、PKH26 1容量(希釈剤C 1mLに希釈した20μL)を細胞に添加し、暗所で5分間インキュベーションした。RPMI 1640、10% FBSで50mLまで完了する前に、FBS 5mLを次いで添加して染色プロセスを1分間不活性化した。CD38発現MOLP-8細胞をPKH67蛍光色素で染色し、精製した単球から得たマクロファージをPKH26で染色し、それらをフローサイトメトリーによって識別可能にした。次いで、フローサイトメトリーによって二重陽性集団(MOLP-8細胞を貪食したマクロファージ)を分析する前にMOLP-8細胞およびマクロファージを、mAb1またはmAb3のいずれかの存在下で培養の中に終夜入れた。
【0109】
すべての実験において実現されたより高いパーセンテージ(%)の全貪食作用およびより低いEC50(相対的)値(EC50rel)によって実証される通り、mAb3は、mAb1と比較してMOLP-8細胞系に対する増強されたADCP活性を呈した。全貪食作用の%幾何平均は、mAb1の18.57%に対してmAb3で40.85%であり、EC50relの幾何平均は、値が64.86ng/mLを超えた(または432.62pMを超えた)mAb1に対してmAb3で31.87ng/mL(または212.57pM)であった。EC50rel値に基づくと、mAb3は、ADCP活性についてmAb1より少なくとも2.035倍優れていると思われた。
【0110】
in vivo有効性
mAb3のin vivo有効性を評価した。0日目に、ヒト化FcγR C57BL/6マウス(Smith P、DiLillo DJ、Bournazos S、Li F、Ravetch JV;Proc Natl Acad Sci USA.2012年;109(16):6181~6頁)にEL4-huCD38腫瘍細胞500000個を静脈内注射した。ヒト化FcγR C57BL/6マウスは、FcγRをコードしている全マウス遺伝子を削除され、導入遺伝子としてコードされたヒトFcγRをマウスゲノムに挿入された。ヒト化FcγR C57BL/6マウスは、huFcγR発現パターンおよび発現レベルを再現しており、炎症、細胞毒性および腫瘍クリアランスの種々のhuIgG媒介性モデルにおいて機能的であった。FcγRIIIaおよびFcγRIIa受容体を活性化した場合、マウスモデルに挿入されたヒトバリアントは、それぞれ、huFcγRIIIa 158FおよびhuFcγRIIa 131R(受容体の低親和性バリアント)であった。ヒトFcγR発現パターンおよび発現レベルのプロファイルを、マウスにおいて再現した。
【0111】
腫瘍細胞注射後1日目に開始して、試験または対照mAbを、1、4、7および14日目に腹膜内投与した。アイソタイプ対照mAbを、10mg/kgで投与した。mAb1、3および10を、10および1.25mg/kgで投与した。この生存モデルにおいて、有効性の主要評価項目は、生存期間の中央値(MST)、寿命の増大パーセント(%ILS)および長期生存者(対照群のMSTの2倍より優れているまたは等しい生存期間のマウスと定義した)であった。群間の生存の違いを、Coxモデルで評価した。
【0112】
表17に示すように、アイソタイプ対照群は、MST 39日間を有した。アイソタイプ対照群の20パーセントが、このモデルで長期間の生存を呈した。mAb1 10mg/kgで処置した群は、82.5日間より長いMST、112%を超える寿命の増大を有した。mAb1 10mg/kgで処置した群の50パーセントは、長期生存者であった。mAb1 1.25mg/kgで処置したマウスは、46.5日間を超えるMST、および19%を超える寿命の増大を有した。mAb1 1.25mg/kgで処置した群の30パーセントは、長期生存者であった。
【0113】
mAb10 10mg/kgで処置した群は、70日間より長いMST、70%の寿命の増大を有した。mAb10 10mg/kgで処置した群の50パーセントは、長期生存者であった。mAb10 1.25mg/kgで処置したマウスは、42日間を超えるMST、および8%の寿命の増大を有した。mAb10 1.25mg/kgで処置した群のわずか10%が、長期生存者であった。
【0114】
mAb3 10mg/kgで処置した群は、90日間より長いMST、131%を超える寿命の増大を有した。意外なことに、mAb3 10mg/kgで処置した群の90%が、長期生存者であった。10mg/kgでのmAb3は、アイソタイプ対照群と比較して統計学的に有意により活性があった(p=0.0351)。なおさらに驚くべきことに、mAb3 1.25mg/kgで処置したマウスも、90日間を超えるMST、および131%を超える寿命の増大を有した。さらに、mAb3 1.25mg/kgで処置した群の90%が、長期生存者であった。1.25mg/kgでのmAb3は、アイソタイプ対照群と比較して統計学的に有意により活性があり(p=0.0380)、同じ用量でmAb10より統計学的に有意に優れた(p=0.0380)。
【0115】
低親和性huFcγRIIIa(F158/F158)を有するマウスにおける用量10mg/kgでのmAb1、mAb3およびmAb10によるこの腫瘍モデルの処置は、寿命および長期生存者数に統計的に有意な改善をもたらした。しかしながら、驚くべきことに、用量1.25mg/kgで、mAb3は、寿命および長期生存者数に統計的に有意な改善をなお呈し、一方mAb1およびmAb10は不活性であった。
【0116】
【表17】
【0117】
E.安定性研究
熱安定性
mAb1、3、5、6、7および8の熱安定性を、Malvern MicroCal VP熱量計を使用する示差走査熱量測定(DSC)によって測定した。試料を、10mMヒスチジンHClを含む緩衝液中で、pH6.0で試験した。調製した試料を、参照としての緩衝液とともに3つ組でWheaton 96ウェル丸底プレートのウェルにロードした。温度勾配率1℃/分および20~120℃の範囲を使用して熱スキャンを収集し、独自ソフトウェア2.0を使用して処理した。
【0118】
表18に示すように、mAb3、5、6、7および8は、約40℃でタンパク質立体配座変化の開始を示し、mAb1の開始温度より約17度低い温度であり、mAbに典型的な温度より15~20℃低かった(図1)。さらに、mAb3、5、6、7および8のCH2ドメインのアンフォールディングは、mAb1より非常に早く始まり、70℃と比較して約50℃であった。
【0119】
【表18】
【0120】
等電点
mAb1、3、5、6、7および8それぞれの等電点(pI)を、キャピラリ等電点電気泳動法(cIEF)によって測定した。理論的pIを、分析プラットフォームSEDNTERPを使用しておよび以下のアミノ酸pKa値:Arg=12、Asp=4.5、Glu=4.6、His=6.2、Lys=10.4およびTyr=9.7を仮定して組成物から決定した。Cys残基内のすべてのスルフヒドリル側鎖は、pKaに寄与せずにジスルフィド結合していると仮定した(Laue TM、Shah BD、Ridgeway TM、およびPelletier SL.Computer-aided interpretation of analytical sedimentation data for protein.In Analytical Ultracentrifugation in Biochemistry and Polymer Science.Harding SE、Rowe AJ、およびHorton JC編、90~124頁、Royal Society of Chemistry、Chemistry、1991年)。
【0121】
驚くべきことに、表19に示すように、測定したpIは、mAb3で配列に基づいて算出したpIより低かった。
【0122】
【表19】
【0123】
mAb3の製剤の開発
熱安定性の結果に基づいて、凍結乾燥製剤を開発して、≦-30℃でのmAbの貯蔵および2~8℃での凍結乾燥したmAbの貯蔵に適するmAb3の妥当な安定性を確保した。異なる緩衝系、および異なるpHを使用したmAb3製剤を、凍結融解サイクル、撹拌研究ならびに40℃、25℃、5℃、-30℃および-80℃のストレス、加速および意図した貯蔵条件での短期間(12週間)のインキュベーションから構成される安定性研究において試験した。これら実験において、粒子形成(目視検査、光遮蔽法に基づく粒子計数、マイクロフローイメージング)に加えてタンパク質の凝集および化学分解を評価した。
【0124】
製剤開発研究の結果に基づいて、10mM L-ヒスチジン-HCl、8質量/容積%ショ糖および0.05質量/容積%ポリソルベート80、pH6.2を含有する製剤を選択した。
【0125】
凍結乾燥プロセス開発
mAb3用の凍結乾燥プロセスを開発して、凍結乾燥後に、製剤化した抗体が許容可能な安定性およびケーキ属性を有することを確実にした。凍結乾燥サイクル(乾燥温度、室圧、等)のプロセスパラメータを、研究室規模の凍結乾燥機(SP Scientificによって製造されるGenesis EL35)を使用する多数の開発作業に基づいて決定した。サイクルの堅牢性を、凍結速度、乾燥温度および室真空圧の制御された範囲で一連の凍結乾燥作業を行うことによって確立した。凍結乾燥した製剤化した抗体に対する安定性研究は、40℃、25℃および5℃のストレス、加速および意図した貯蔵条件での短期間(12週間)のインキュベーションから構成された。これら実験において、凍結乾燥させた粉末の属性(ケーキの外観、復元時間、酸素ヘッドスペース、水分含量)を、凝集、化学分解および粒子形成に加えて評価した。製剤および凍結乾燥開発研究に基づいて、mAb3の組成物を、50mg/mL mAb3、10mM L-ヒスチジン-HCl、8質量/容積%ショ糖、0.05質量/容積%ポリソルベート80、およびpH6.2として選択した。製剤化した抗体は、≦-30℃で貯蔵され、凍結乾燥した製剤化した抗体は、2~8℃で貯蔵された。
図1
図2
【配列表】
0007602485000001.app