(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】エチレンオキサイドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 301/08 20060101AFI20241211BHJP
C07D 303/04 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
C07D301/08
C07D303/04
(21)【出願番号】P 2022546753
(86)(22)【出願日】2020-09-01
(86)【国際出願番号】 JP2020033124
(87)【国際公開番号】W WO2022049638
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-02-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】志村 光則
(72)【発明者】
【氏名】武田 大
(72)【発明者】
【氏名】松本 純
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-172272(JP,A)
【文献】特開2018-168410(JP,A)
【文献】特開昭61-103544(JP,A)
【文献】国際公開第2019/225495(WO,A1)
【文献】SEN-I GAKKAISHI,1992年,48,38-42
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 301/
C07D 303/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンオキサイドの製造方法であって、
エチレン及び酸素を含む原料を希釈ガスの存在下で反応させてエチレンオキサイドを含む第1混合物を得るエチレンオキサイド生成工程と、
前記第1混合物を、エチレン、酸素、及び二酸化炭素を含む気体成分である第2混合物と、エチレンオキサイド及び水を含む液体成分である第3混合物とに気液分離する気液分離工程と、
前記第2混合物から二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離工程と、
前記第2混合物から分離された二酸化炭素を電解還元することによって、カソードにおいてエチレン、メタン及び未反応の二酸化炭素を含む第4混合物を得ると共に、アノードにおいて酸素を得る二酸化炭素の電解還元工程とを有し、
前記二酸化炭素分離工程は、更に前記第4混合物から二酸化炭素を分離し、
前記エチレンオキサイド生成工程は、前記二酸化炭素分離工程において二酸化炭素が除去された前記第2混合物及び前記第4混合物と、前記電解還元工程で得られた酸素とを前記原料及び前記希釈ガスの少なくとも一部として使用し、
前記第4混合物は、前記二酸化炭素分離工程において処理される前の前記第2混合物に混合され
、
前記アノードにおいて発生した酸素は、前記二酸化炭素分離工程において二酸化炭素が除去された前記第2混合物及び前記第4混合物に混合された後、前記エチレンオキサイド生成工程に戻されるエチレンオキサイドの製造方法。
【請求項2】
前記電解還元工程では、前記カソードにおける前記エチレンの選択率が30%以上となるように、前記カソードに担持された触媒が選択されている請求項
1に記載のエチレンオキサイドの製造方法。
【請求項3】
前記電解還元工程では、気体の二酸化炭素が供給されるカソードガス室、カソード液が供給されるカソード液室、アノード液が供給されるアノード液室、前記カソードガス室と前記カソード液室とを区画するガス拡散電極としてのカソード、前記カソード液室と前記アノード液室とを区画するイオン伝導性を有する隔壁、及び前記アノード液室に配置されたアノードを有する電解還元装置が使用される請求項1
又は2に記載のエチレンオキサイドの製造方法。
【請求項4】
前記電解還元工程で発生した前記第4混合物から一酸化炭素を除去する一酸化炭素除去工程を更に有する請求項1~
3のいずれか1つの項に記載のエチレンオキサイドの製造方法。
【請求項5】
前記一酸化炭素除去工程は、前記二酸化炭素分離工程において二酸化炭素を除去する前の前記第4混合物から一酸化炭素を除去する請求項
4に記載のエチレンオキサイドの製造方法。
【請求項6】
水和法により前記第3混合物に含まれるエチレンオキサイドからエチレングリコールを生成するエチレングリコール生成工程を更に有する請求項1~請求項
5のいずれか1つの項に記載のエチレンオキサイドの製造方法。
【請求項7】
前記電解還元工程では、他のプラントから排出される二酸化炭素を電解還元する二酸化炭素の一部として使用する請求項1~請求項
6のいずれか1つの項に記載のエチレンオキサイドの製造方法。
【請求項8】
前記電解還元工程では、自然エネルギーによって発電された電力を使用して二酸化炭素の電解還元を行う請求項1~請求項
7のいずれか1つの項に記載のエチレンオキサイドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンオキサイドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示されるように、触媒に銀を使用し、気体のエチレンを接触酸化してエチレンオキサイドを製造するエチレンオキサイドの製造方法が公知である。この製造方法では、エチレンが完全燃焼して二酸化炭素が生成する副反応が生じる。この副反応はエチレンの転化率が高いほど生じ易くなる。そのため、エチレンの転化率を低下させ、反応生成物からエチレンオキサイドを回収した後に未反応のエチレン及び酸素等を原料して再び使用する循環法がエチレンオキサイドの製造方法に多く採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
反応生成物に含まれる二酸化炭素は、エチレンオキサイド、エチレン、及び酸素等から分離され、一部が回収されて食品製造に使用されるが、大部分は大気へ放出されている。エチレンオキサイドの製造工程から排出される二酸化炭素は、大量であるため、地球環境保全の観点から低減することが望ましい。
【0005】
本発明は、以上の背景を鑑み、二酸化炭素の排出量を低減することができるエチレンオキサイドの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、エチレンオキサイドの製造方法であって、エチレン及び酸素を含む原料を希釈ガスの存在下で反応させてエチレンオキサイドを含む第1混合物を得るエチレンオキサイド生成工程(1)と、前記第1混合物を、エチレン、酸素、及び二酸化炭素を含む気体成分である第2混合物と、エチレンオキサイド及び水を含む液体成分である第3混合物とに気液分離する気液分離工程(2)と、前記第2混合物から二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離工程(3)と、前記第2混合物から分離された二酸化炭素を電解還元することによって、カソードにおいてエチレン、メタン及び未反応の二酸化炭素を含む第4混合物を得ると共に、アノードにおいて酸素を得る電解還元工程(4)とを有し、前記二酸化炭素分離工程は、更に前記第4混合物から未反応の二酸化炭素を分離し、前記エチレンオキサイド生成工程は、前記二酸化炭素分離工程において二酸化炭素が除去された前記第2混合物及び前記第4混合物と、前記電解還元工程で得られた酸素とを前記原料及び前記希釈ガスの少なくとも一部として使用する。
【0007】
この態様によれば、エチレンオキサイドの生成時に発生する二酸化炭素を利用して、エチレンオキサイドの原料となるエチレン及び酸素を生成することができる。これにより、温室効果ガスである二酸化炭素の排出量を大幅に低減することができる。また、エチレンオキサイドの製造方法において、原料コストの削減が可能になる。更に、二酸化炭素からエチレンを生成するときに副生成物として生じるメタンを、エチレンオキサイドの反応時の酸素濃度を低減するための希釈ガスとして使用することができ、希釈ガスのコストを削減することができる。また、二酸化炭素分離工程を利用して、電解還元工程においてのカソードから発生した第4混合物から二酸化炭素を除去することができる。
【0008】
上記の態様において、前前記第4混合物は、前記二酸化炭素分離工程において処理される前の前記第2混合物に混合されるとよい。
【0009】
この態様によれば、二酸化炭素分離工程を流用して電解還元工程で生成された第4混合物から未反応の二酸化炭素を除去することができる。
【0010】
上記の態様において、前記電解還元工程では、カソードにおけるエチレンの選択率が30%以上となるように、前記カソードに担持された触媒が選定されているとよい。
【0011】
この態様によれば、二酸化炭素の電解還元時に生成されるエチレンの割合を増加させることによってメタンの生成量を低減させ、メタンが希釈ガスとしての必要量に対して過剰になることを抑制することができる。
【0012】
上記の態様において、前記電解還元工程では、気体の二酸化炭素が供給されるカソードガス室(11)、カソード液が供給されるカソード液室(12)、アノード液が供給されるアノード液室(13)、前記カソードガス室と前記カソード液室とを区画するガス拡散電極としてのカソード(16)、前記カソード液室と前記アノード液室とを区画するイオン伝導性を有する隔壁(17)、及び前記アノード液室に配置されたアノード(18)を有する電解還元装置(10)が使用されるとよい。
【0013】
この態様によれば、カソードにおいて生成されるエチレン及びメタンを含む第4混合物、及び未反応の二酸化炭素と、アノードにおいて生成される酸素との混合を避けることができる。そのため、酸素から二酸化炭素を分離する工程を省略することができる。
【0014】
上記の態様において、前記電解還元工程で発生した前記第4混合物から一酸化炭素を除去する一酸化炭素除去工程を更に有するとよい。また、前記一酸化炭素除去工程は、前記二酸化炭素分離工程において二酸化炭素を除去する前の前記第4混合物から一酸化炭素を除去するとよい。
【0015】
この態様によれば、エチレンオキサイド生成工程において使用される触媒が一酸化炭素によって被毒されるような場合、これを抑制することができる。
【0016】
上記の態様において、水和法により前記第3混合物に含まれるエチレンオキサイドからエチレングリコールを生成するエチレングリコール生成工程(6)を更に有するとよい。
【0017】
この態様によれば、生成されたエチレンオキサイドを利用してエチレングリコールを生成することができる。
【0018】
上記の態様において、前記電解還元工程(4)では、他のプラントから排出される二酸化炭素を電解還元する二酸化炭素の一部として使用するとよい。
【0019】
この態様によれば、エチレン及びメタンの生成量を増加させることができ、原料及び希釈ガスを更に削減することができる。
【0020】
上記の態様において、前記電解還元工程(4)では、自然エネルギーによって発電された電力を使用して二酸化炭素の電解還元を行うとよい。
【0021】
この態様によれば、二酸化炭素の排出量を抑制することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上の態様によれば、二酸化炭素の排出量を低減することができるエチレンオキサイドの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】エチレンオキサイド及びエチレングリコールの製造工程を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るエチレンオキサイドの製造方法の実施形態について説明する。実施形態に係るエチレンオキサイドの製造方法は、
図1に示すように、エチレン及び酸素を含む原料を希釈ガスの存在下で反応させてエチレンオキサイドを含む第1混合物を得るエチレンオキサイド生成工程1と、前記第1混合物を、エチレン、酸素、及び二酸化炭素を含む気体成分である第2混合物と、エチレンオキサイド及び水を含む液体成分である第3混合物とに気液分離する気液分離工程2と、第2混合物から二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離工程3と、第2混合物から分離された二酸化炭素を電解還元することによって、カソードにおいてエチレン、メタン及び未反応の二酸化炭素を含む第4混合物を得ると共に、アノードにおいて酸素を得る二酸化炭素の電解還元工程4とを有する。また、二酸化炭素分離工程3は、更に第4混合物から未反応の二酸化炭素を分離する。また、エチレンオキサイド生成工程1は、二酸化炭素分離工程3において二酸化炭素が除去された第2混合物及び第4混合物と、電解還元工程4で得られた酸素とを原料及び希釈ガスの少なくとも一部として使用する。
【0025】
エチレンオキサイド生成工程1では、銀触媒の存在下で、エチレンガスを酸素ガスによって接触気相酸化させることによってエチレンオキサイドを含む第1混合物が得られる。エチレンオキサイド生成工程1が行われるエチレン酸化反応器は、例えば、銀触媒が充填された多管式反応容器であるとよい。原料としてのエチレンガス及び酸素ガスと、希釈ガスとが、加熱された後にエチレン酸化反応器に供給される。希釈ガスは、エチレン酸化反応器内における酸素濃度を低減させ、爆発を抑制する目的で使用される。希釈ガスは、例えばメタン、窒素、アルゴン等の不活性ガス等であってよい。本実施形態では、一例としてメタンが希釈ガスとして使用される。エチレン酸化反応器から得られる第1混合物は、反応生成物としてのエチレンオキサイドと、未反応のエチレン及び酸素と、希釈ガスとしてのメタンと、副反応の生成物としての水、二酸化炭素、ホルムアルデヒド及びアセトアルデヒド等のアルデヒド類、酢酸等の有機酸類とを含む。
【0026】
銀触媒は、アルミナ担体と、アルミナ担体に担持された銀とを含むとよい。銀の担持量は、例えば15~35wt%であるとよい。銀触媒は、セシウム、レニウム、タングステン、モリブデン等の助触媒を含むとよい。エチレンオキサイド生成工程1の反応条件は、例えば温度が230~270℃、圧力が15~25bar、GHSV(ガス毎時空間速度)が3000~8000hr-1であるとよい。また、副反応であるエチレンの燃焼による二酸化炭素及び水の生成を抑制するために、エチレンの転化率は8~15%に設定されるとよい。
【0027】
気液分離工程2では、第1混合物が水の凝固点(0℃)より高く、エチレンオキサイドの沸点(10.7℃)より低い温度まで冷却された後に、気体成分である第2混合物と液体成分である第3混合物とに気液分離される。第2混合物は、エチレン、酸素、及び二酸化炭素を含む。第3混合物は、水及びエチレンオキサイドを含む。また、アセトアルデヒドや酢酸等の副生成物も第3混合物に含まれる。気液分離工程2には、例えばノックアウトドラム等の気液分離装置が用いられるとよい。
【0028】
二酸化炭素分離工程3では、第2混合物から、二酸化炭素が分離される。二酸化炭素の分離は、ベンフィールド法及びMDEA(メチルジエタノールアミン)法等の化学吸着法や、セレクソール法及びレクチゾール法等の物理吸着法、膜分離法、PSA法(圧力変動吸着法)、PTSA法(圧力温度変動吸着法)等の公知の手法に基づく二酸化炭素分離装置によって実行されるとよい。第2混合物から分離され、各種の吸着材に吸着された二酸化炭素は、再生処理によって吸着剤から分離され、高濃度の気体状態になる。
【0029】
二酸化炭素が分離された後の第2混合物は、エチレン、酸素及びメタンを含む。エチレン、酸素及びメタンを含む気体は、エチレンオキサイド生成工程1に戻され、エチレンオキサイドを生成するための原料及び希釈ガスとして使用される。
【0030】
二酸化炭素の電解還元工程4では、二酸化炭素分離工程3で第2混合物から分離された二酸化炭素が電解還元される。電解還元工程4は、カソードにガス拡散電極を使用した電解還元装置や、セパレータに固体高分子膜を使用した電解還元装置等を使用するとよい。
【0031】
図2に示すように、電解還元工程4で使用される電解還元装置10は、例えば、3室型電解還元装置であるとよい。具体的には、電解還元装置10は、互いに区画されたカソードガス室11、カソード液室12、及びアノード液室13を有する電解セル14を有するとよい。カソードガス室11とカソード液室12とはガス拡散電極としてのカソード16によって区画されている。カソード液室12とアノード液室13とはイオン伝導性を有する隔壁17によって区画されている。アノード18は、アノード液室13に配置されている。カソードガス室11には、気液分離工程2において分離された気体の二酸化炭素が供給される。カソード液室12には、カソード液が供給される。アノード液室13には、アノード液が供給される。アノード18及びカソード16は直流電源19に接続されている。
【0032】
アノード液及びカソード液は、電解質が溶解した水溶液である。電解質は、カリウム、ナトリウム、リチウム、又はこれらの化合物の少なくとも1つを含む。電解質は、例えば、LiOH、NaOH、KOH、Li2CO3、Na2CO3、K2CO3、LiHCO3、NaHCO3、及びKHCO3からなる群の少なくとも1つを含むとよい。
【0033】
カソード16は、ガス拡散電極であり、ガス拡散層21と、マイクロポーラス層22とを有する。ガス拡散層21は、二酸化炭素を含む気体を透過するが、カソード液を含む水溶液の透過を抑制する。マイクロポーラス層22は、二酸化炭素を含む気体とカソード液を含む水溶液とを共に透過させる。ガス拡散層21及びマイクロポーラス層22はそれぞれ平面状に形成されている。ガス拡散層21はカソードガス室11側に配置され、マイクロポーラス層22はカソード液室12側に配置されている。
【0034】
ガス拡散層21は、例えばカーボンペーパーやカーボンフェルト、カーボンクロス等の多孔質の導電性基材の表面に、ポリテトラフルオロエチレン等の撥水性被膜を形成したものであってよい。導電性基材は、直流電源19の負極に接続され、電子の供給を受ける。マイクロポーラス層22は、ガス拡散層21の表面にカーボンブラック等を用いて形成され、触媒を担持している。触媒は、公知の二酸化炭素還元触媒であってよく、例えば銅等の第11族元素、亜鉛等の第12族元素、ガリウム等の第13族元素、ゲルマニウム等の第14族元素、又はこれらの金属化合物の少なくとも1種を含む。金属化合物は、酸化物、硫化物、リン化物の少なくとも1つを含む。触媒は、二酸化炭素を還元してエチレンを生成するために適したものが好ましく、例えば銅又は銅化合物が好ましい。マイクロポーラス層22にはイオン交換樹脂等のバインダーが加えられてもよい。
【0035】
アノード18は、例えば、チタニウム、ニッケル、モリブデン、白金、金、銀、銅、鉄、鉛等の金属材料又はこれらの金属合金材料、カーボン等の炭素系材料又は導電性セラミックで構成されている。アノード18の形状は、平板、複数の開口を備えた平板、メッシュ、及び多孔体であってよい。平板に形成される開口の形状は、円形、ひし形、星形等であってよい。平板は、波形や湾曲に形成されてもよく、表面に凹凸を有してもよい。アノード18には、白金やイリジウム等の酸素発生触媒が担持されている。アノード18は、隔壁17のアノード液室13側の面に設けられてもよい。
【0036】
直流電源19は、火力発電や原子力発電、太陽光発電、風力発電、水力発電等によって得られた電力を、必要に応じて直流に変換し、カソード16及びアノード18に供給する。二酸化炭素排出量の削減の観点から、自然エネルギー(再生可能エネルギー)を利用した太陽光発電や風力発電、水力発電等によって得られた電力を直流電源19として使用することが好ましい。直流電源19は、アノード18に対してカソード16が負電位になるように電圧を印加する。直流電源19は、参照電極を使用してカソード16の電位を取得し、カソード16の電位が所定の範囲内となるように印加する電圧を制御するとよい。
【0037】
カソードガス室11は、入口24及び出口25を有する。二酸化炭素分離工程3から供給される二酸化炭素ガスは、入口24から供給され、出口25から排出される。カソードガス室11の出口25は、ガス循環路26を介して入口24に接続されている。
【0038】
カソード液室12は、入口27及び出口28を有する。カソード液室12の入口27及び出口28は、カソード液循環路29によって接続されている。同様に、アノード液室13は、入口31及び出口32を有する。アノード液室13の入口31及び出口32は、アノード液循環路33によって接続されている。カソード液循環路29には、カソード側気液分離装置35が設けられている。アノード液循環路33には、アノード側気液分離装置36が設けられている。また、カソード液循環路29及びアノード液循環路33のそれぞれには、カソード液及びアノード液の電解質濃度を所定の範囲に調節するための電解質濃度制御装置37、38が設けられているとよい。電解質濃度制御装置37、38は、カソード液及びアノード液の電解質濃度を検出するセンサと、所定の濃度の新しいカソード液及びアノード液を供給する電解質液供給機と、循環するカソード液及びアノード液の一部を排出する排水装置とを含むとよい。
【0039】
また、ガス循環路26には内部を循環するガスの一部を排出するガス循環流量調節装置40が設けられている。ガス循環流量調節装置40の排出口は、第1ガス戻し通路41に接続されている。第1ガス戻し通路41には、カソード側気液分離装置35のガス排出通路が接続されている。ガス循環流量調節装置40は、第1ガス戻し通路41にガスを排出することによって、ガス循環路26及びカソードガス室11を循環するガスの流量及び圧力を調節する。ガス循環流量調節装置40によって、カソードガス室11のガス圧は、カソード液室12の液圧よりも所定値高くなるように維持されている。これにより、カソード液室12のカソード液がカソード16を通過してカソードガス室11に流入することが抑制されている。カソードガス室11内のガスの一部は、カソード16を通過してカソード液室12に流入する。カソードガス室11内からカソード液室12に流入するガスの量は、少ないことが好ましい。
【0040】
カソードガス室11の二酸化炭素はカソード16のガス拡散層21の内部に拡散し、マイクロポーラス層22において還元され、第4混合物が得られる。第4混合物は、エチレン及びメタンを主生成物として含み、水素、一酸化炭素、ギ酸等の副生成物を微小量含む。第4混合物の大部分は、カソード16のカソードガス室11側に発生する。なお、第4混合物の一部は、カソード16のカソード液室12側に発生する。カソード液室12内の第4混合物には、カソード液室12内に流入した未反応の二酸化炭素が混入する。同様に、カソードガス室11内の第4混合物には、未反応の二酸化炭素が混入する。
【0041】
カソード16のカソード液室12側に発生した第4混合物の内、エチレン、メタン、及び副生成物の水素や一酸化炭素は気体であり、未反応の二酸化炭素と共にカソード液循環路29のカソード側気液分離装置35によってカソード液から分離され、第1ガス戻し通路41に流れる。第4混合物の内のギ酸は、液体でありカソード液と共にカソード液循環路29を循環し、電解質濃度制御装置37からカソード液と共に排出される。
【0042】
カソード16のカソードガス室11側に発生した第4混合物の内、エチレン、メタン、及び副生成物の水素や一酸化炭素は、未反応の二酸化炭素と共にガス循環路26を循環し、ガス循環流量調節装置40から第1ガス戻し通路41に排出される。カソード16のカソード液室12で生成されたエチレン、メタン、及び副生成物の水素や一酸化炭素と、未反応の二酸化炭素とを含む第4混合物は、カソード側気液分離装置35及びガス循環流量調節装置40から第1ガス戻し通路41に流れる。
【0043】
アノード18では、アノード液中の水及び水酸化物イオンが酸化され、酸素が発生する。酸素は、気体であり、アノード液循環路33のアノード側気液分離装置36によってアノード液から分離され、第2ガス戻し通路42に流れる。
【0044】
電解還元工程4では、カソード16におけるエチレンの生成に対する選択率が30%以上となるようにカソード16に担持された触媒が選択されているとよい。
【0045】
二酸化炭素の電解還元工程4のカソード16で発生したエチレン及びメタンを含む第4混合物は、第1ガス戻し通路41によって二酸化炭素分離工程3に供給され、二酸化炭素が除去される。エチレン及びメタンを含む第4混合物は、一酸化炭素や水素を含むことがあり、このような場合は二酸化炭素分離工程3に供給される前に、一酸化炭素除去工程5に供給されて一酸化炭素が除去されてもよい。一酸化炭素除去工程5では、例えばゼオライト等を用いた吸着材を使用して一酸化炭素を吸着してもよい。なお、一酸化炭素除去工程5は必須の構成ではなく、省略してもよい。また、エチレン及びメタンを含む第4混合物は、二酸化炭素分離工程3に供給される前に、水素除去工程に供給されて水素が除去されてもよい。水素除去工程は、例えば圧力スイング吸着法(PSA)等を適用することができる。なお、水素除去工程は必須の構成ではなく、省略してもよい。第1ガス戻し通路41から供給される第4混合物は、気液分離工程2から二酸化炭素分離工程3に供給される第2混合物に混合されるとよい。これにより、第4混合物は第2混合物と共に気液分離工程2において二酸化炭素が取り除かれ、エチレンオキサイド生成工程1に戻され、原料及び希釈ガスの一部として使用される。
【0046】
第2ガス戻し通路42から供給される酸素、すなわち電解還元工程4においてアノード18から発生した酸素は、エチレンオキサイド生成工程1に戻され、原料の一部として使用される。電解還元工程4においてアノード18から発生した酸素は、二酸化炭素分離工程3において二酸化炭素が除去された第2混合物及び第4混合物に混合された後、エチレンオキサイド生成工程1に戻されるとよい。
【0047】
二酸化炭素分離工程3及び第2ガス戻し通路42から供給されるガスの各成分の流量を検出するセンサ51が設けられてもよい。また、図示しない制御装置が、センサ51の検出値に基づいて、エチレンオキサイド生成工程1に新しく供給するエチレン、酸素、メタンのそれぞれの流量を制御する流量制御バルブ52、53、54を制御することによって、エチレンオキサイド生成工程1のエチレン酸化反応器に供給されるエチレン、酸素、及びメタンの各流量を調節してもよい。
【0048】
気液分離工程2で第1混合物から分離されたエチレンオキサイド及び水を含む第3混合物は、エチレングリコール生成工程6において原料として使用される。エチレングリコール生成工程6では、エチレンオキサイドを触媒下で加水分解することによって、すなわち水和法によって、エチレングリコールを生成する。触媒は、例えば「Amberlist(アンバーリスト)」(登録商標)、「Doulit」(登録商標)、「DOWEX」(登録商標)等のレジン触媒であるとよい。エチレングリコール生成反応において、反応温度は100~120℃であり、反応圧力は20~35barであるとよい。
【0049】
上記の実施形態の効果について説明する。実施形態に係るエチレンオキサイドの製造方法によれば、エチレンオキサイドの生成時に発生する二酸化炭素を利用して、エチレンオキサイドの原料となるエチレン及び酸素を生成することができる。これにより、温室効果ガスである二酸化炭素の排出量を低減することができる。また、エチレンオキサイドの製造方法において、原料コストの削減が可能になる。更に、二酸化炭素からエチレンを生成するときに副生成物として生じるメタンを、エチレンオキサイドの反応時の酸素濃度を低減するための希釈ガスとして使用することができ、希釈ガスのコストを削減することができる。
【0050】
二酸化炭素の電解還元工程4において、カソード16におけるエチレンの生成に対するファラデー効率が30%以上とすることによって、二酸化炭素の電解還元時に生成されるメタンの生成量を低減させ、メタンが希釈ガスとしての必要量に対して過剰になることを抑制することができる。
【0051】
以下に上記実施形態の実施例について説明する。
【0052】
(実施例1)
エチレンオキサイド生成工程1の実施例について説明する。αアルミナに20wt%の銀を担持し、更に助触媒としてレニウムを3wt%添加した触媒約30ccを充填した固定床型の反応器を使用した。エチレン25mol%、酸素10mol%、メタン65mol%のガスを温度250℃、圧力20bar、GHSV=5000hr-1の条件で反応器に供給した。反応器の出口から得られた反応生成物の割合は、エチレン22.6mol%、酸素3.7mol%、メタン65.9mol%、エチレンオキサイド2.1mol%、二酸化炭素2.3mol%、水3.4mol%であった。
【0053】
(実施例2)
二酸化炭素分離工程3における二酸化炭素の吸収方法の実施例について説明する。液の温度が40℃になるように設定した恒温水槽内に、ガラス製のガス吸収ビンを浸し、これにN-メチルジエタノールアミンを18.8wt%、ピペラジンを31.2wt%含む水溶液50mLを充填した。この液の中に、大気圧、0.7L/minで二酸化炭素20wt%及び窒素80wt%を含む混合ガスを泡状に分散させて吸収させた。吸収液入口及び吸収液出口のガス中の二酸化炭素濃度を測定して、入口及び出口の二酸化炭素流量の差から二酸化炭素吸収量を測定した。飽和吸収量は吸収液出口の二酸化炭素濃度が入口の二酸化炭素濃度に一致する時点における量とした。二酸化炭素飽和吸収量は115.7g/Lであった。次に同じガス気流中で液温を数分にて70℃に上昇させ、液からの二酸化炭素脱離量と脱離速度を測定した。二酸化炭素脱離量は25.4g/Lであり、脱離速度は2.05g/L/minであった。
【0054】
(実施例3)
二酸化炭素の電解還元工程4の実施例について説明する。上述したカソードガス室11、カソード液室12、アノード液室13を有する電解還元装置10を使用した。カソード16のガス拡散層21の触媒を銅-亜鉛複合体触媒とした。アノード18は酸化イリジウム触媒を担持したチタン板とした。アノード液及びカソード液は、1Mの炭酸水素カリウム水溶液を1mL/minで流した。カソードガス室11に二酸化炭素を100mL/minで流しながら、電流を300mA/cm2として6時間通電した。カソード液室12から発生したガスの成分を分析したところ、カソード16ではエチレン選択率が53%、メタン選択率が18%、水素選択率が20%であった。アノード液室13から発生したガスの成分を分析したところ、アノード18では酸素選択率が99%であった。
【0055】
(実施例4)
上述したエチレンオキサイドの製造方法を使用したプラントを想定し、エチレングリコールを100ton/hrで生産する場合の物質収支の計算結果を以下の表1に示す。
図1に示すように、系外から新規に加えられるエチレンオキサイド生成工程1の原料の組成をC1、エチレングリコール生成工程6の生成物の組成をC2、二酸化炭素分離工程3から電解還元工程4に供給される物質の組成をC3、二酸化炭素分離工程3によって二酸化炭素を除去された第2混合物及び第4混合物と電解還元工程4からの酸素との混合物の組成をC4、エチレングリコール生成工程6に供給される物質の組成をC5、系外から新規に加えられるエチレンオキサイド生成工程1の希釈ガスの組成をC6とする。物質収支の計算条件として、エチレンオキサイド生成工程1におけるエチレン酸化反応器の出口温度を250℃、出口圧力を20barとした。また、二酸化炭素分離工程3における二酸化炭素の吸収は、N-メチルジエタノールアミンを18.8wt%、ピペラジンを31.2wt%含む水溶液を用いた化学吸収法を使用した。エチレングリコール生成工程6における反応器の反応条件は、反応温度を100℃、圧力を25barとした。二酸化炭素の電解還元工程4での反応条件は、二酸化炭素の転化率が70%、カソード16におけるエチレン選択率が80%、メタン選択率が20%とした。
【0056】
【0057】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。第2ガス戻し通路42は第1ガス戻し通路41に接続されてもよい。この場合、アノード18で発生した酸素は、カソード16で発生した第4混合物と混合され、二酸化炭素分離工程3で二酸化炭素が分離された後に、エチレンオキサイド生成工程1に戻される。
【0058】
電解還元装置10は、公知の様々な電解還元装置を適用することができる。例えば、電解還元装置10は、カソードガス室11が省略され、カソード液室12にカソード16が配置されてもよい。この場合、二酸化炭素ガスは、カソード16の付近においてカソード液内にバブリングによって吹き込まれてもよい。また、二酸化炭素ガスは、カソード液内に溶解していてもよい。
【0059】
二酸化炭素の電解還元工程4では、他のプラントから排出される二酸化炭素を電解還元する二酸化炭素の一部として使用してもよい。エチレン及びメタンの生成量を増加させることができる。
【符号の説明】
【0060】
1 :エチレンオキサイド生成工程
2 :気液分離工程
3 :二酸化炭素分離工程
4 :電解還元工程
5 :一酸化炭素分離工程
6 :エチレングリコール生成工程
10 :電解還元装置
11 :カソードガス室
12 :カソード液室
13 :アノード液室
14 :電解セル
16 :カソード
17 :隔壁
18 :アノード
19 :直流電源
24 :入口
25 :出口
26 :ガス循環路
27 :入口
28 :出口
29 :カソード液循環路
31 :入口
32 :出口
33 :アノード液循環路
35 :カソード側気液分離装置
36 :アノード側気液分離装置
37 :電解質濃度制御装置
38 :電解質濃度制御装置
40 :ガス循環流量調節装置
41 :第1ガス戻し通路
51 :センサ
52 :流量制御バルブ
53 :流量制御バルブ
54 :流量制御バルブ