(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】水素ガス製造装置、水素ガス供給装置、燃料電池システム、移動体、及び水素ガス製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 3/04 20060101AFI20241211BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20241211BHJP
H01M 8/0606 20160101ALI20241211BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20241211BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20241211BHJP
H01M 8/0438 20160101ALI20241211BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20241211BHJP
H01M 8/0662 20160101ALI20241211BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20241211BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20241211BHJP
B01D 53/04 20060101ALI20241211BHJP
B60L 50/70 20190101ALI20241211BHJP
【FI】
C01B3/04 B
H01M8/10 101
H01M8/0606
H01M8/04537
H01M8/04746
H01M8/0438
H01M8/00 Z
H01M8/0662
B01D53/22
B01D71/02 500
B01D53/04
B60L50/70
(21)【出願番号】P 2024062591
(22)【出願日】2024-04-09
【審査請求日】2024-04-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】株式会社三井E&S
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】八田 直樹
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/116982(WO,A1)
【文献】特開2019-210185(JP,A)
【文献】特開2020-158337(JP,A)
【文献】特開2011-146174(JP,A)
【文献】特開2018-177615(JP,A)
【文献】特開2007-216106(JP,A)
【文献】特開2006-097785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
61/00-71/82
B60L 1/00-3/12
7/00-13/00
15/00-58/40
C01B 3/00-6/34
C02F 1/44
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化アンモニアを原料として供給しながら、供給される前記液化アンモニア、前記液化アンモニアを気化させたアンモニアガス、前記アンモニアガスを分解して得た分解ガス、前記分解ガスを精製した精製ガスを一方向に順次流して水素ガスを製造する水素ガス製造装置であって、
液化アンモニアを貯蔵するタンクと、
前記タンクから前記液化アンモニアを下流側に導く原料アンモニアラインと、
前記原料アンモニアライン内に設けられ、前記液化アンモニアを気化させてアンモニアガスにする気化器と、
気化した前記アンモニアガスを分解用温度に加熱する昇温用加熱器と、
前記気化器の下流側において前記原料アンモニアラインと接続され、前記分解用温度に加熱された前記アンモニアガスを触媒に接触させて分解し、水素ガス、窒素ガス及び残留アンモニアガスを含む分解ガスを生成させるアンモニア分解部と、
前記アンモニア分解部と接続され、前記分解ガスを下流側に導く分解ガスラインと、
前記分解ガスライン内に設けられ、前記分解ガスを冷却する冷却器と、
前記冷却器の下流側において前記分解ガスラインと接続され、冷却された前記分解ガスから前記残留アンモニアガス及び前記窒素ガスの一方を除去し1次精製ガスを生成する1次精製部と、
前記1次精製部と接続され、前記1次精製ガスを下流側に導く1次精製ガスラインと、
前記1次精製ガスラインと接続され、前記1次精製ガスから前記残留アンモニアガス及び前記窒素ガスの他方を除去し2次精製ガスを生成する2次精製部と、
前記2次精製部と接続され、前記2次精製ガスを下流側に導き、排出する2次精製ガスラインと、を備え、
前記1次精製部及び前記2次精製部のうち前記残留アンモニアガスが除去される方の精製部は、前記残留アンモニアガスを吸着させる吸着剤を有するアンモニア吸着部であり、
前記1次精製部及び前記2次精製部のうち前記窒素ガスが除去される方の精製部は、分離膜を有し、前記分離膜は、前記分離膜の上流側と下流側の間につくられた差圧により前記水素ガスを選択的に透過させて前記窒素ガスから分離するよう構成されている、水素分離部であり、
前記水素ガス製造装置は、前記1次精製ガスライン及び前記2次精製ガスラインのうち、前記水素分離部と接続され、前記分離膜を透過した前記水素ガスが流れる精製ガスラインに設けられた減圧機であって、当該精製ガスラインを流れる前記精製ガスを吸い込んで下流側に排出することで前記減圧機の上流側の当該精製ガスの圧力を減圧する減圧機をさらに備え、
前記減圧機の上流側の前記圧力が減圧されることにより、前記タンクから前記2次精製ガスラインにかけて前記液化アンモニア
、前記
アンモニアガス、前記分解ガス、及び前記精製ガスが下流側に流れるよう、前記タンク内で気化したアンモニアガスの蒸気圧と、前記減圧機の上流側の前記圧力との間に圧力差が形成され、前記圧力差の一部として前記差圧が形成さ
れ、
前記昇温用加熱器は、前記原料アンモニアライン内の前記気化器の下流側に設けられ、
前記アンモニア分解部から又は前記アンモニア分解部の下流側において取り出された、前記分解ガス、前記1次精製ガス及び前記2次精製ガスのいずれかのガスの一部を空気と共に燃焼させ、燃焼ガスを排出する燃焼器と、
前記燃焼器と接続され、前記燃焼ガスが流れる燃焼ガスラインと、をさらに備え、
前記燃焼ガスラインの一部及び前記昇温用加熱器は、前記燃焼ガスが流れる第1高温側流路と、前記アンモニアガスが流れる第1低温側流路とを有する第1熱交換器を構成してなり、
前記第1熱交換器は、前記第1高温側流路を流れる前記燃焼ガスと、前記第1低温側流路を流れる前記アンモニアガスとの熱交換によって、前記燃焼ガスが冷却され、前記アンモニアガスが昇温されるよう構成される、水素ガス製造装置。
【請求項2】
前記分離膜の上流側に、前記分解ガス又は前記1次精製ガスの圧力を加圧する加圧機を備えていない、請求項1に記載の水素ガス製造装置。
【請求項3】
前記水素分離部の上流側に、前記分解ガス又は前記1次精製ガスの圧力を加圧する加圧機を備えている、請求項1に記載の水素ガス製造装置。
【請求項4】
前記タンクは、前記タンク内を加熱することにより、前記タンクから前記2次精製ガスラインにかけての前記液化アンモニア
、前記
アンモニアガス、前記分解ガス、及び前記精製ガスの下流側への流れが保たれるように前記蒸気圧を維持する保温用加熱器を有している、請求項1又は2に記載の水素ガス製造装置。
【請求項5】
前記冷却器及び前記気化器は、前記分解ガスが流れる第
2高温側流路と、前記液化アンモニアが流れる第
2低温側流路とを有する第
2熱交換器を構成してなり、
前記第
2熱交換器は、前記第
2高温側流路を流れる前記分解ガスと、前記第
2低温側流路を流れる前記液化アンモニアとの熱交換によって、前記分解ガスが冷却され、前記液化アンモニアが加熱され気化されるよう構成される、請求項1又は2に記載の水素ガス製造装置。
【請求項6】
前記冷却器を第1冷却器というとき、前記分解ガスライン内の前記第1冷却器の上流側又は下流側に設けられ、前記分解ガスを冷却する第2冷却器をさらに備える、請求項5に記載の水素ガス製造装置。
【請求項7】
前記第2冷却器を通る前記分解ガスが、外部の空気、又は、外部の空気との熱交換により冷却された液体冷媒、との熱交換により冷却される、請求項6に記載の水素ガス製造装置。
【請求項8】
液化アンモニアを原料として供給しながら、供給される前記液化アンモニア、前記液化アンモニアを気化させたアンモニアガス、前記アンモニアガスを分解して得た分解ガス、前記分解ガスを精製した精製ガスを一方向に順次流して水素ガスを製造する水素ガス製造装置であって、
液化アンモニアを貯蔵するタンクと、
前記タンクから前記液化アンモニアを下流側に導く原料アンモニアラインと、
前記原料アンモニアライン内に設けられ、前記液化アンモニアを気化させてアンモニアガスにする気化器と、
気化した前記アンモニアガスを分解用温度に加熱する昇温用加熱器と、
前記気化器の下流側において前記原料アンモニアラインと接続され、前記分解用温度に加熱された前記アンモニアガスを触媒に接触させて分解し、水素ガス、窒素ガス及び残留アンモニアガスを含む分解ガスを生成させるアンモニア分解部と、
前記アンモニア分解部と接続され、前記分解ガスを下流側に導く分解ガスラインと、
前記分解ガスライン内に設けられ、前記分解ガスを冷却する冷却器と、
前記冷却器の下流側において前記分解ガスラインと接続され、冷却された前記分解ガスから前記残留アンモニアガス及び前記窒素ガスの一方を除去し1次精製ガスを生成する1次精製部と、
前記1次精製部と接続され、前記1次精製ガスを下流側に導く1次精製ガスラインと、
前記1次精製ガスラインと接続され、前記1次精製ガスから前記残留アンモニアガス及び前記窒素ガスの他方を除去し2次精製ガスを生成する2次精製部と、
前記2次精製部と接続され、前記2次精製ガスを下流側に導き、排出する2次精製ガスラインと、を備え、
前記1次精製部及び前記2次精製部のうち前記残留アンモニアガスが除去される方の精製部は、前記残留アンモニアガスを吸着させる吸着剤を有するアンモニア吸着部であり、
前記1次精製部及び前記2次精製部のうち前記窒素ガスが除去される方の精製部は、分離膜を有し、前記分離膜は、前記分離膜の上流側と下流側の間につくられた差圧により前記水素ガスを選択的に透過させて前記窒素ガスから分離するよう構成されている、水素分離部であり、
前記水素ガス製造装置は、前記1次精製ガスライン及び前記2次精製ガスラインのうち、前記水素分離部と接続され、前記分離膜を透過した前記水素ガスが流れる精製ガスラインに設けられた減圧機であって、当該精製ガスラインを流れる前記精製ガスを吸い込んで下流側に排出することで前記減圧機の上流側の当該精製ガスの圧力を減圧する減圧機をさらに備え、
前記減圧機の上流側の前記圧力が減圧されることにより、前記タンクから前記2次精製ガスラインにかけて前記液化アンモニア、前記アンモニアガス、前記分解ガス、及び前記精製ガスが下流側に流れるよう、前記タンク内で気化したアンモニアガスの蒸気圧と、前記減圧機の上流側の前記圧力との間に圧力差が形成され、前記圧力差の一部として前記差圧が形成され、
前記アンモニア吸着部は、前記残留アンモニアガスを吸着した前記吸着剤を加熱する再生用加熱器と、不活性ガスを外部から導入するための不活性ガス導入ラインと、前記吸着剤から脱離した前記残留アンモニアガスが流れる脱離アンモニア排出ラインとを備え、
前記アンモニア吸着部は、前記再生用加熱器により加熱されることにより、前記吸着剤に吸着された前記残留アンモニアガスが前記吸着剤から脱離し、前記不活性ガス導入ラインを通って導入された前記不活性ガスと共に、前記脱離アンモニア排出ラインを通って前記アンモニア吸着部から排出されるよう構成される、
水素ガス製造装置。
【請求項9】
前記アンモニア分解部から又は前記アンモニア分解部の下流側において取り出された、前記分解ガス、前記1次精製ガス及び前記2次精製ガスのいずれかのガスの一部を空気と共に燃焼させ、燃焼ガスを排出する燃焼器をさらに備え、
前記不活性ガスと共に排出された前記残留アンモニアガスは、前記燃焼器に導かれ、燃焼される、請求項
8に記載の水素ガス製造装置。
【請求項10】
前記昇温用加熱器は、前記原料アンモニアライン内の前記気化器の下流側に設けられ、
前記水素ガス製造装置は、前記燃焼器と接続され、前記燃焼ガスが流れる燃焼ガスラインをさらに備え、
前記燃焼ガスラインの一部及び前記昇温用加熱器は、前記燃焼ガスが流れる第
1高温側流路と、前記アンモニアガスが流れる第
1低温側流路とを有する第
1熱交換器を構成してなり、
前記第
1熱交換器は、前記第
1高温側流路を流れる前記燃焼ガスと、前記第
1低温側流路を流れる前記アンモニアガスとの熱交換によって、前記燃焼ガスが冷却され、前記アンモニアガスが昇温されるよう構成される、請求項
9に記載の水素ガス製造装置。
【請求項11】
前記脱離アンモニア排出ライン及び前記タンクと接続され、前記吸着剤から脱離した前記残留アンモニアガスを液化することにより前記不活性ガスから分離するように構成された再液化部をさらに備え、
前記不活性ガスと共に排出された前記残留アンモニアガスは前記再液化部に導かれ、液化されることにより前記不活性ガスから分離され、前記タンクに回収される、請求項
8に記載の水素ガス製造装置。
【請求項12】
前記アンモニア吸着部は、前記一方向に対し並列に配置された複数のアンモニア吸着器を有し、
前記複数のアンモニア吸着器それぞれは、前記吸着剤と、前記不活性ガス導入ラインと、前記脱離アンモニア排出ラインとを有し、
前記アンモニア吸着部は、前記複数のアンモニア吸着器のうち1つ以上のアンモニア吸着器において、前記再生用加熱器により加熱されることにより前記吸着剤から脱離した前記残留アンモニアガスが、前記不活性ガス導入ラインから導入される前記不活性ガスと共に、前記脱離アンモニア排出ラインを通って排出される間、残りのアンモニア吸着器に前記分解ガス又は前記1次精製ガスが導入され、当該ガス中の前記残留アンモニアガスが当該アンモニア吸着器の前記吸着剤に吸着されることにより除去され、当該残留アンモニアガスが除去された前記分解ガス又は前記1次精製ガスが前記アンモニア吸着部の下流側に導かれるよう構成され、前記複数のアンモニア吸着器の間で、前記1つ以上のアンモニア吸着器と、前記残りのアンモニア吸着器とを切り替えられるよう構成されている、請求項
8から
11のいずれか1項に記載の水素ガス製造装置。
【請求項13】
液化アンモニアを原料として供給しながら、供給される前記液化アンモニア、前記液化アンモニアを気化させたアンモニアガス、前記アンモニアガスを分解して得た分解ガス、前記分解ガスを精製した精製ガスを一方向に順次流して水素ガスを製造する水素ガス製造装置であって、
液化アンモニアを貯蔵するタンクと、
前記タンクから前記液化アンモニアを下流側に導く原料アンモニアラインと、
前記原料アンモニアライン内に設けられ、前記液化アンモニアを気化させてアンモニアガスにする気化器と、
気化した前記アンモニアガスを分解用温度に加熱する昇温用加熱器と、
前記気化器の下流側において前記原料アンモニアラインと接続され、前記分解用温度に加熱された前記アンモニアガスを触媒に接触させて分解し、水素ガス、窒素ガス及び残留アンモニアガスを含む分解ガスを生成させるアンモニア分解部と、
前記アンモニア分解部と接続され、前記分解ガスを下流側に導く分解ガスラインと、
前記分解ガスライン内に設けられ、前記分解ガスを冷却する冷却器と、
前記冷却器の下流側において前記分解ガスラインと接続され、冷却された前記分解ガスから前記残留アンモニアガス及び前記窒素ガスの一方を除去し1次精製ガスを生成する1次精製部と、
前記1次精製部と接続され、前記1次精製ガスを下流側に導く1次精製ガスラインと、
前記1次精製ガスラインと接続され、前記1次精製ガスから前記残留アンモニアガス及び前記窒素ガスの他方を除去し2次精製ガスを生成する2次精製部と、
前記2次精製部と接続され、前記2次精製ガスを下流側に導き、排出する2次精製ガスラインと、を備え、
前記1次精製部及び前記2次精製部のうち前記残留アンモニアガスが除去される方の精製部は、前記残留アンモニアガスを吸着させる吸着剤を有するアンモニア吸着部であり、
前記1次精製部及び前記2次精製部のうち前記窒素ガスが除去される方の精製部は、分離膜を有し、前記分離膜は、前記分離膜の上流側と下流側の間につくられた差圧により前記水素ガスを選択的に透過させて前記窒素ガスから分離するよう構成されている、水素分離部であり、
前記水素ガス製造装置は、前記1次精製ガスライン及び前記2次精製ガスラインのうち、前記水素分離部と接続され、前記分離膜を透過した前記水素ガスが流れる精製ガスラインに設けられた減圧機であって、当該精製ガスラインを流れる前記精製ガスを吸い込んで下流側に排出することで前記減圧機の上流側の当該精製ガスの圧力を減圧する減圧機をさらに備え、
前記減圧機の上流側の前記圧力が減圧されることにより、前記タンクから前記2次精製ガスラインにかけて前記液化アンモニア、前記アンモニアガス、前記分解ガス、及び前記精製ガスが下流側に流れるよう、前記タンク内で気化したアンモニアガスの蒸気圧と、前記減圧機の上流側の前記圧力との間に圧力差が形成され、前記圧力差の一部として前記差圧が形成され、
前記アンモニア吸着部は、前記一方向に直列に配置された複数のアンモニア吸着器を有し、前記複数のアンモニア吸着器それぞれは前記吸着剤を有し
、
前記複数のアンモニア吸着器のうち、第1のアンモニア吸着器の前記吸着剤はルイス酸点を有する吸着剤であり、前記第1のアンモニア吸着器の下流側に配置される第2のアンモニア吸着器の前記吸着剤はブレンステッド酸点を有する吸着剤である、
水素ガス製造装置。
【請求項14】
前記原料アンモニアライン内の前記気化器の下流側に設けられ、前記アンモニアガスの流量を調節する流量調節器、及び/又は、前記水素分離部に導かれる前記分解ガス又は前記
精製ガスが流れる前記ガスライン内に設けられ、当該ガスライン内を流れる当該ガスの圧力を調節する上流側調圧器、を備える、請求項1又は2に記載の水素ガス製造装置。
【請求項15】
前記1次精製部は前記アンモニア吸着部であり、前記2次精製部は前記水素分離部である、請求項1又は2に記載の水素ガス製造装置。
【請求項16】
水素ガスを供給先に供給する水素ガス供給装置であって、
請求項1に記載の水素ガス製造装置と、
前記水素ガス製造装置の2次精製ガスラインと接続され、前記2次精製ガスラインから排出された2次精製ガスを前記供給先に向けて導き、排出する最終ガス排出ラインであって、前記2次精製ガスが前記供給先の側と異なる側に流れるよう分岐した分岐部を有する最終ガス排出ラインと、
前記分岐部と接続され、前記異なる側に流れる前記2次精製ガスを貯留する精製ガスタンクと、
前記最終ガス排出ライン内の前記分岐部の上流側に設けられ、前記精製ガスタンク内に前記2次精製ガスを圧入する加圧機と、
前記最終ガス排出ライン内に設けられ、前記最終ガス排出ラインを流れる前記2次精製ガスの流路を切り替える一組の切替弁であって、前記2次精製ガスラインから排出された前記2次精製ガスを前記精製ガスタンクに向けて流すか、前記精製ガスタンク内の前記2次精製ガスを前記供給先の側に導き排出させるか、前記2次精製ガスラインから排出された前記2次精製ガスを前記供給先の側に導き排出させるか、を切り替える一組の切替弁と、を備える水素ガス供給装置。
【請求項17】
請求項1に記載の水素ガス製造装置、又は請求項
16に記載の水素ガス供給装置と、
負極及び正極を備え、前記負極及び前記正極が外部負荷と接続され、前記水素ガス製造装置又は前記水素ガス供給装置から排出された2次精製ガスが前記負極に供給され、空気が前記正極に供給されることにより発電するよう構成された固体高分子型燃料電池と、を備える燃料電池システム。
【請求項18】
以下の水素ガス製造装置又は以下の水素ガス供給装置と、
以下の固体高分子型燃料電池と、を備える燃料電池システムであって、
水素ガス製造装置は、
液化アンモニアを原料として供給しながら、供給される前記液化アンモニア、前記液化アンモニアを気化させたアンモニアガス、前記アンモニアガスを分解して得た分解ガス、前記分解ガスを精製した精製ガスを一方向に順次流して水素ガスを製造する水素ガス製造装置であって、
液化アンモニアを貯蔵するタンクと、
前記タンクから前記液化アンモニアを下流側に導く原料アンモニアラインと、
前記原料アンモニアライン内に設けられ、前記液化アンモニアを気化させてアンモニアガスにする気化器と、
気化した前記アンモニアガスを分解用温度に加熱する昇温用加熱器と、
前記気化器の下流側において前記原料アンモニアラインと接続され、前記分解用温度に加熱された前記アンモニアガスを触媒に接触させて分解し、水素ガス、窒素ガス及び残留アンモニアガスを含む分解ガスを生成させるアンモニア分解部と、
前記アンモニア分解部と接続され、前記分解ガスを下流側に導く分解ガスラインと、
前記分解ガスライン内に設けられ、前記分解ガスを冷却する冷却器と、
前記冷却器の下流側において前記分解ガスラインと接続され、冷却された前記分解ガスから前記残留アンモニアガス及び前記窒素ガスの一方を除去し1次精製ガスを生成する1次精製部と、
前記1次精製部と接続され、前記1次精製ガスを下流側に導く1次精製ガスラインと、
前記1次精製ガスラインと接続され、前記1次精製ガスから前記残留アンモニアガス及び前記窒素ガスの他方を除去し2次精製ガスを生成する2次精製部と、
前記2次精製部と接続され、前記2次精製ガスを下流側に導き、排出する2次精製ガスラインと、を備え、
前記1次精製部及び前記2次精製部のうち前記残留アンモニアガスが除去される方の精製部は、前記残留アンモニアガスを吸着させる吸着剤を有するアンモニア吸着部であり、
前記1次精製部及び前記2次精製部のうち前記窒素ガスが除去される方の精製部は、分離膜を有し、前記分離膜は、前記分離膜の上流側と下流側の間につくられた差圧により前記水素ガスを選択的に透過させて前記窒素ガスから分離するよう構成されている、水素分離部であり、
前記水素ガス製造装置は、前記1次精製ガスライン及び前記2次精製ガスラインのうち、前記水素分離部と接続され、前記分離膜を透過した前記水素ガスが流れる精製ガスラインに設けられた減圧機であって、当該精製ガスラインを流れる前記精製ガスを吸い込んで下流側に排出することで前記減圧機の上流側の当該精製ガスの圧力を減圧する減圧機をさらに備え、
前記減圧機の上流側の前記圧力が減圧されることにより、前記タンクから前記2次精製ガスラインにかけて前記液化アンモニア、及び前記アンモニアガス、前記分解ガス、及び前記精製ガスが下流側に流れるよう、前記タンク内で気化したアンモニアガスの蒸気圧と、前記減圧機の上流側の前記圧力との間に圧力差が形成され、前記圧力差の一部として前記差圧が形成される、水素ガス製造装置であり、
水素ガス供給装置は、
水素ガスを供給先に供給する水素ガス供給装置であって、
前記水素ガス製造装置と、
前記水素ガス製造装置の2次精製ガスラインと接続され、前記2次精製ガスラインから排出された2次精製ガスを前記供給先に向けて導き、排出する最終ガス排出ラインであって、前記2次精製ガスが前記供給先の側と異なる側に流れるよう分岐した分岐部を有する最終ガス排出ラインと、
前記分岐部と接続され、前記異なる側に流れる前記2次精製ガスを貯留する精製ガスタンクと、
前記最終ガス排出ライン内の前記分岐部の上流側に設けられ、前記精製ガスタンク内に前記2次精製ガスを圧入する加圧機と、
前記最終ガス排出ライン内に設けられ、前記最終ガス排出ラインを流れる前記2次精製ガスの流路を切り替える一組の切替弁であって、前記2次精製ガスラインから排出された前記2次精製ガスを前記精製ガスタンクに向けて流すか、前記精製ガスタンク内の前記2次精製ガスを前記供給先の側に導き排出させるか、前記2次精製ガスラインから排出された前記2次精製ガスを前記供給先の側に導き排出させるか、を切り替える一組の切替弁と、を備える水素ガス供給装置であり、
固体高分子型燃料電池は、
負極及び正極を備え、前記負極及び前記正極が外部負荷と接続され、前記水素ガス製造装置又は前記水素ガス供給装置から排出された2次精製ガスが前記負極に供給され、空気が前記正極に供給されることにより発電するよう構成された固体高分子型燃料電池であり、
前記燃料電池システムは、
前記水素ガス製造装置の2次精製ガスライン又は前記水素ガス供給装置の最終ガス排出ラインと接続され、当該ラインから排出された前記2次精製ガスを前記負極に導く精製ガス供給ラインと、
前記負極に導かれた前記2次精製ガスに含まれる水素ガスのうち、前記発電の際に消費されずに前記負極から排出される余剰の水素ガスと、前記水素ガス製造装置の分離膜を透過した、前記2次精製ガスに含まれる窒素ガスとを含む水素含有ガスを、前記精製ガス供給ラインと接続された前記2次精製ガスライン又は前記最終ガス排出ラインに導き前記2次精製ガスと合流させる水素含有ガス排出ラインであって、流路切替器が設けられた水素含有ガス排出ラインと、
前記水素含有ガス排出ラインから前記流路切替器を介して分岐し、前記水素含有ガスを外部に排出する水素含有ガス処理ラインと、をさらに備え、
前記流路切替器は、前記水素含有ガスの流れる方向を前記2次精製ガスライン又は前記最終ガス排出ラインの側、及び、前記水素
含有ガス処理ライン側のいずれかに切り替えるよう構成され、
前記水素含有ガスは、前記水素含有ガスの流れる方向が前記2次精製ガスライン又は前記最終ガス排出ラインの側に切り替えられていることにより、前記2次精製ガスライン又は前記最終ガス排出ラインから排出される前記2次精製ガスと共に、前記負極に循環供給されるよう構成され、
前記水素含有ガスの流れる方向が前記2次精製ガスライン又は前記最終ガス排出ラインの側に切り替わった時点からの前記発電中の、前記固体高分子型燃料電池の発電電気量、又は経過時間がそれぞれの所定値に達することにより、前記水素含有ガスの流れる方向が前記水素含有ガス処理ライン側に切り替わり、前記時点から濃縮された前記窒素ガスを含む前記水素含有ガスが外部に排出されるよう構成され、
前記水素含有ガス処理ラインから外部への、前記濃縮された前記窒素ガスを含む前記水素含有ガスの排出が完了することにより、前記水素含有ガスの流れる方向が前記2次精製
ガスライン又は前記最終ガス排出ラインの側に切り替わるように構成されている、
燃料電池システム。
【請求項19】
以下の水素ガス製造装置又は以下の水素ガス供給装置と、
以下の固体高分子型燃料電池と、を備える燃料電池システムであって、
水素ガス製造装置は、
液化アンモニアを原料として供給しながら、供給される前記液化アンモニア、前記液化アンモニアを気化させたアンモニアガス、前記アンモニアガスを分解して得た分解ガス、前記分解ガスを精製した精製ガスを一方向に順次流して水素ガスを製造する水素ガス製造装置であって、
液化アンモニアを貯蔵するタンクと、
前記タンクから前記液化アンモニアを下流側に導く原料アンモニアラインと、
前記原料アンモニアライン内に設けられ、前記液化アンモニアを気化させてアンモニアガスにする気化器と、
気化した前記アンモニアガスを分解用温度に加熱する昇温用加熱器と、
前記気化器の下流側において前記原料アンモニアラインと接続され、前記分解用温度に加熱された前記アンモニアガスを触媒に接触させて分解し、水素ガス、窒素ガス及び残留アンモニアガスを含む分解ガスを生成させるアンモニア分解部と、
前記アンモニア分解部と接続され、前記分解ガスを下流側に導く分解ガスラインと、
前記分解ガスライン内に設けられ、前記分解ガスを冷却する冷却器と、
前記冷却器の下流側において前記分解ガスラインと接続され、冷却された前記分解ガスから前記残留アンモニアガス及び前記窒素ガスの一方を除去し1次精製ガスを生成する1次精製部と、
前記1次精製部と接続され、前記1次精製ガスを下流側に導く1次精製ガスラインと、
前記1次精製ガスラインと接続され、前記1次精製ガスから前記残留アンモニアガス及び前記窒素ガスの他方を除去し2次精製ガスを生成する2次精製部と、
前記2次精製部と接続され、前記2次精製ガスを下流側に導き、排出する2次精製ガスラインと、を備え、
前記1次精製部及び前記2次精製部のうち前記残留アンモニアガスが除去される方の精製部は、前記残留アンモニアガスを吸着させる吸着剤を有するアンモニア吸着部であり、
前記1次精製部及び前記2次精製部のうち前記窒素ガスが除去される方の精製部は、分離膜を有し、前記分離膜は、前記分離膜の上流側と下流側の間につくられた差圧により前記水素ガスを選択的に透過させて前記窒素ガスから分離するよう構成されている、水素分離部であり、
前記水素ガス製造装置は、前記1次精製ガスライン及び前記2次精製ガスラインのうち、前記水素分離部と接続され、前記分離膜を透過した前記水素ガスが流れる精製ガスラインに設けられた減圧機であって、当該精製ガスラインを流れる前記精製ガスを吸い込んで下流側に排出することで前記減圧機の上流側の当該精製ガスの圧力を減圧する減圧機をさらに備え、
前記減圧機の上流側の前記圧力が減圧されることにより、前記タンクから前記2次精製ガスラインにかけて前記液化アンモニア、及び前記アンモニアガス、前記分解ガス、及び前記精製ガスが下流側に流れるよう、前記タンク内で気化したアンモニアガスの蒸気圧と、前記減圧機の上流側の前記圧力との間に圧力差が形成され、前記圧力差の一部として前記差圧が形成される、水素ガス製造装置であり、
水素ガス供給装置は、
水素ガスを供給先に供給する水素ガス供給装置であって、
前記水素ガス製造装置と、
前記水素ガス製造装置の2次精製ガスラインと接続され、前記2次精製ガスラインから排出された2次精製ガスを前記供給先に向けて導き、排出する最終ガス排出ラインであって、前記2次精製ガスが前記供給先の側と異なる側に流れるよう分岐した分岐部を有する最終ガス排出ラインと、
前記分岐部と接続され、前記異なる側に流れる前記2次精製ガスを貯留する精製ガスタンクと、
前記最終ガス排出ライン内の前記分岐部の上流側に設けられ、前記精製ガスタンク内に前記2次精製ガスを圧入する加圧機と、
前記最終ガス排出ライン内に設けられ、前記最終ガス排出ラインを流れる前記2次精製ガスの流路を切り替える一組の切替弁であって、前記2次精製ガスラインから排出された前記2次精製ガスを前記精製ガスタンクに向けて流すか、前記精製ガスタンク内の前記2次精製ガスを前記供給先の側に導き排出させるか、前記2次精製ガスラインから排出された前記2次精製ガスを前記供給先の側に導き排出させるか、を切り替える一組の切替弁と、を備える水素ガス供給装置であり、
固体高分子型燃料電池は、
負極及び正極を備え、前記負極及び前記正極が外部負荷と接続され、前記水素ガス製造装置又は前記水素ガス供給装置から排出された2次精製ガスが前記負極に供給され、空気が前記正極に供給されることにより発電するよう構成された固体高分子型燃料電池であり、
前記水素ガス製造装置及び前記水素ガス供給装置の1次精製部はアンモニア吸着部であり、2次精製部は水素分離部であり、
前記水素ガス製造装置の2次精製ガスライン又は前記水素ガス供給装置の最終ガス排出ラインと接続され、当該ラインから排出された前記2次精製ガスを前記負極に導く精製ガス供給ラインと、
前記負極に導かれた前記2次精製ガスに含まれる水素ガスのうち、前記発電の際に消費されずに前記負極から排出される余剰の水素ガスと、前記水素ガス製造装置の分離膜を透過した、前記2次精製ガスに含まれる窒素ガスとを含む水素含有ガスを、前記精製ガス供給ラインと接続された前記2次精製ガスライン又は前記最終ガス排出ラインに導き前記2次精製ガスと合流させる水素含有ガス排出ラインであって、流路切替器が設けられた水素含有ガス排出ラインと、
前記水素含有ガス排出ラインから前記流路切替器を介して分岐し、前記水素ガス製造装置又は前記水素ガス供給装置の1次精製ガスラインと接続された水素含有ガス処理ラインと、をさらに備え、
前記流路切替器は、前記水素含有ガスの流れる方向を前記2次精製ガスライン又は前記最終ガス排出ラインの側、及び、前記水素
含有ガス処理ライン側のいずれかに切り替えるよう構成され、
前記水素含有ガスは、前記水素含有ガスの流れる方向が前記2次精製ガスライン又は前記最終ガス排出ラインの側に切り替えられていることにより、前記2次精製ガスライン又は前記最終ガス排出ラインから排出される前記2次精製ガスと共に、前記負極に循環供給されるよう構成され、
前記水素含有ガスの流れる方向が前記2次精製ガスライン又は前記最終ガス排出ラインの側に切り替わった時点からの前記発電中の、前記固体高分子型燃料電池の発電電気量、又は経過時間がそれぞれの所定値に達することにより、前記水素含有ガスの流れる方向が前記水素含有ガス処理ライン側に切り替わり、前記時点から濃縮された前記窒素ガスを含む前記水素含有ガスが、前記水素含有ガス処理ラインを経て前記1次精製ガスラインに導かれ、前記1次精製ライン内を流れる1次精製ガスと合流し前記水素分離部に導かれ、前記分離膜により前記窒素ガスが分離除去され、前記窒素ガスが分離除去された前記合流後の前記
2次精製ガスが、前記2次精製ガスライン又は前記最終ガス排出ライン、及び前記
精製ガス供給ラインを経由して、前記負極に供給されるよう構成され、
前記合流後の前記
1次精製ガスからの前記窒素ガスの前記分離除去が完了することにより、前記水素含有ガスの流れる方向が前記2次精製ガスライン又は前記最終ガス排出ラインの側に切り替わるように構成されている、
燃料電池システム。
【請求項20】
以下の燃料電池システムと、以下のモータと、を備える移動体であって、
燃料電池システムは、
以下の水素ガス製造装置又は以下の水素ガス供給装置と、
以下の固体高分子型燃料電池と、を備える燃料電池システムであって、
水素ガス製造装置は、
液化アンモニアを原料として供給しながら、供給される前記液化アンモニア、前記液化アンモニアを気化させたアンモニアガス、前記アンモニアガスを分解して得た分解ガス、前記分解ガスを精製した精製ガスを一方向に順次流して水素ガスを製造する水素ガス製造装置であって、
液化アンモニアを貯蔵するタンクと、
前記タンクから前記液化アンモニアを下流側に導く原料アンモニアラインと、
前記原料アンモニアライン内に設けられ、前記液化アンモニアを気化させてアンモニアガスにする気化器と、
気化した前記アンモニアガスを分解用温度に加熱する昇温用加熱器と、
前記気化器の下流側において前記原料アンモニアラインと接続され、前記分解用温度に加熱された前記アンモニアガスを触媒に接触させて分解し、水素ガス、窒素ガス及び残留アンモニアガスを含む分解ガスを生成させるアンモニア分解部と、
前記アンモニア分解部と接続され、前記分解ガスを下流側に導く分解ガスラインと、
前記分解ガスライン内に設けられ、前記分解ガスを冷却する冷却器と、
前記冷却器の下流側において前記分解ガスラインと接続され、冷却された前記分解ガスから前記残留アンモニアガス及び前記窒素ガスの一方を除去し1次精製ガスを生成する1次精製部と、
前記1次精製部と接続され、前記1次精製ガスを下流側に導く1次精製ガスラインと、
前記1次精製ガスラインと接続され、前記1次精製ガスから前記残留アンモニアガス及び前記窒素ガスの他方を除去し2次精製ガスを生成する2次精製部と、
前記2次精製部と接続され、前記2次精製ガスを下流側に導き、排出する2次精製ガスラインと、を備え、
前記1次精製部及び前記2次精製部のうち前記残留アンモニアガスが除去される方の精製部は、前記残留アンモニアガスを吸着させる吸着剤を有するアンモニア吸着部であり、
前記1次精製部及び前記2次精製部のうち前記窒素ガスが除去される方の精製部は、分離膜を有し、前記分離膜は、前記分離膜の上流側と下流側の間につくられた差圧により前記水素ガスを選択的に透過させて前記窒素ガスから分離するよう構成されている、水素分離部であり、
前記水素ガス製造装置は、前記1次精製ガスライン及び前記2次精製ガスラインのうち、前記水素分離部と接続され、前記分離膜を透過した前記水素ガスが流れる精製ガスラインに設けられた減圧機であって、当該精製ガスラインを流れる前記精製ガスを吸い込んで下流側に排出することで前記減圧機の上流側の当該精製ガスの圧力を減圧する減圧機をさらに備え、
前記減圧機の上流側の前記圧力が減圧されることにより、前記タンクから前記2次精製ガスラインにかけて前記液化アンモニア、及び前記アンモニアガス、前記分解ガス、及び前記精製ガスが下流側に流れるよう、前記タンク内で気化したアンモニアガスの蒸気圧と、前記減圧機の上流側の前記圧力との間に圧力差が形成され、前記圧力差の一部として前記差圧が形成される、水素ガス製造装置であり、
水素ガス供給装置は、
水素ガスを供給先に供給する水素ガス供給装置であって、
前記水素ガス製造装置と、
前記水素ガス製造装置の2次精製ガスラインと接続され、前記2次精製ガスラインから排出された2次精製ガスを前記供給先に向けて導き、排出する最終ガス排出ラインであって、前記2次精製ガスが前記供給先の側と異なる側に流れるよう分岐した分岐部を有する最終ガス排出ラインと、
前記分岐部と接続され、前記異なる側に流れる前記2次精製ガスを貯留する精製ガスタンクと、
前記最終ガス排出ライン内の前記分岐部の上流側に設けられ、前記精製ガスタンク内に前記2次精製ガスを圧入する加圧機と、
前記最終ガス排出ライン内に設けられ、前記最終ガス排出ラインを流れる前記2次精製ガスの流路を切り替える一組の切替弁であって、前記2次精製ガスラインから排出された前記2次精製ガスを前記精製ガスタンクに向けて流すか、前記精製ガスタンク内の前記2次精製ガスを前記供給先の側に導き排出させるか、前記2次精製ガスラインから排出された前記2次精製ガスを前記供給先の側に導き排出させるか、を切り替える一組の切替弁と、を備える水素ガス供給装置であり、
固体高分子型燃料電池は、
負極及び正極を備え、前記負極及び前記正極が外部負荷と接続され、前記水素ガス製造装置又は前記水素ガス供給装置から排出された2次精製ガスが前記負極に供給され、空気が前記正極に供給されることにより発電するよう構成された固体高分子型燃料電池であり、
モータは、
前記燃料電池システムの前記負極及び前記正極と接続され、前記燃料電池システムの燃料電池の発電により生成した電力が供給されることにより駆動し、前記移動体を推進させる動力を生成する
モータである、移動体。
【請求項21】
液化アンモニアを原料として供給しながら、供給される前記液化アンモニア、前記液化アンモニアを気化させたアンモニアガス、前記アンモニアガスを分解して得た分解ガス、前記分解ガスを精製した精製ガスを一方向に順次流して水素ガスを製造する水素ガス製造方法であって、
液化アンモニアを貯蔵したタンクから前記液化アンモニアを下流側に導き、気化させてアンモニアガスにするステップと、
気化した前記アンモニアガスを分解用温度に加熱するステップと、
前記分解用温度に加熱された前記アンモニアガスを触媒に接触させて分解し、水素ガス、窒素ガス及び残留アンモニアガスを含む分解ガスを生成させるステップと、
前記分解ガスを冷却するステップと、
冷却された前記分解ガスから前記残留アンモニアガス及び前記窒素ガスの一方を除去し1次精製ガスを生成するステップと、
前記1次精製ガスから前記残留アンモニアガス及び前記窒素ガスの他方を除去し2次精製ガスを生成するステップと、を備え、
前記1次精製ガスを生成するステップ及び前記2次精製ガスを生成するステップのうち前記残留アンモニアガスを除去する方のステップは、前記残留アンモニアガスを吸着させる吸着剤を用いて前記残留アンモニアガスを前記吸着剤に吸着させるステップであり、
前記1次精製ガスを生成するステップ及び前記2次精製ガスを生成するステップのうち前記窒素ガスを除去する方のステップは、
セラミック製又は高分子製の分離膜を用いて、前記分離膜の上流側と下流側の間につくられた差圧により前記水素ガスを選択的に透過させて前記水素ガスを前記窒素ガスから分離するステップであり、
前記水素ガス製造方法は前記分離膜を透過した前記水素ガスを含む前記精製ガスを吸い込んで下流側に排出することで上流側の当該精製ガスの圧力を減圧するステップをさらに備え、
前記上流側の前記圧力が減圧されることにより、前記タンクから前記分離膜の前記下流側にかけて前記液化アンモニア
、前記
アンモニアガス、前記分解ガス、及び前記精製ガスが下流側に流れるよう、前記タンク内で気化したアンモニアガスの蒸気圧と、前記上流側の前記圧力との間に圧力差が形成され、前記圧力差の一部として前記差圧が形成され
、前記差圧は0.5MPa~0.9MPaである、水素ガス製造方法。
【請求項22】
液化アンモニアを原料として供給しながら、供給される前記液化アンモニア、前記液化アンモニアを気化させたアンモニアガス、前記アンモニアガスを分解して得た分解ガス、前記分解ガスを精製した精製ガスを一方向に順次流して水素ガスを製造する水素ガス製造装置であって、
液化アンモニアを貯蔵するタンクと、
前記タンクから前記液化アンモニアを下流側に導く原料アンモニアラインと、
前記原料アンモニアライン内に設けられ、前記液化アンモニアを気化させてアンモニアガスにする気化器と、
気化した前記アンモニアガスを分解用温度に加熱する昇温用加熱器と、
前記気化器の下流側において前記原料アンモニアラインと接続され、前記分解用温度に加熱された前記アンモニアガスを触媒に接触させて分解し、水素ガス、窒素ガス及び残留アンモニアガスを含む分解ガスを生成させるアンモニア分解部と、
前記アンモニア分解部と接続され、前記分解ガスを下流側に導く分解ガスラインと、
前記分解ガスライン内に設けられ、前記分解ガスを冷却する冷却器と、
前記冷却器の下流側において前記分解ガスラインと接続され、冷却された前記分解ガスから前記残留アンモニアガス及び前記窒素ガスの一方を除去し1次精製ガスを生成する1次精製部と、
前記1次精製部と接続され、前記1次精製ガスを下流側に導く1次精製ガスラインと、
前記1次精製ガスラインと接続され、前記1次精製ガスから前記残留アンモニアガス及び前記窒素ガスの他方を除去し2次精製ガスを生成する2次精製部と、
前記2次精製部と接続され、前記2次精製ガスを下流側に導き、排出する2次精製ガスラインと、を備え、
前記1次精製部及び前記2次精製部のうち前記残留アンモニアガスが除去される方の精製部は、前記残留アンモニアガスを吸着させる吸着剤を有するアンモニア吸着部であり、
前記1次精製部及び前記2次精製部のうち前記窒素ガスが除去される方の精製部は、分離膜を有し、前記分離膜は、前記分離膜の上流側と下流側の間につくられた差圧により前記水素ガスを選択的に透過させて前記窒素ガスから分離するよう構成された、セラミック製分離膜又は高分子製分離膜である、水素分離部であり、
前記水素ガス製造装置は、前記1次精製ガスライン及び前記2次精製ガスラインのうち、前記水素分離部と接続され、前記分離膜を透過した前記水素ガスが流れる精製ガスラインに設けられた減圧機であって、当該精製ガスラインを流れる前記精製ガスを吸い込んで下流側に排出することで前記減圧機の上流側の当該精製ガスの圧力を減圧する減圧機をさらに備え、
前記減圧機の上流側の前記圧力が減圧されることにより、前記タンクから前記2次精製ガスラインにかけて前記液化アンモニア、前記アンモニアガス、前記分解ガス、及び前記精製ガスが下流側に流れるよう、前記タンク内で気化したアンモニアガスの蒸気圧と、前記減圧機の上流側の前記圧力との間に圧力差が形成され、前記圧力差の一部として前記差圧が形成され、前記差圧は0.5MPa~0.9MPaである、水素ガス製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化アンモニアを原料として水素ガスを製造する水素ガス製造装置、水素ガス供給装置、燃料電池システム、移動体、及び水素ガス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンニュートラルの潮流から、燃料電池自動車(FCV)や、家庭用又は業務用のオンサイト設備に燃料電池が広く利用されている。燃料電池の燃料ガスとなる水素ガスを製造する際に二酸化炭素を発生させない方法として、アンモニアを原料として水素ガスを製造する方法が知られている。この方法では、一般に、高温にしたアンモニアガスを触媒と接触させて分解することにより、主として水素ガス及び窒素ガスからなる混合ガスを生成することを行う。
【0003】
アンモニア分解ガスには、窒素ガスのほか、未分解の残留アンモニアなどが含まれている。残留アンモニアが水素ガスと共に燃料電池の負極(燃料極)に供給されると、負極の白金触媒が被毒して触媒活性が低下し、燃料電池の発電性能が低下するという問題がある。そのため、アンモニア分解ガス中に残留するアンモニアは十分に除去されることが好ましい。従来、ゼオライト等の吸着剤にアンモニアを吸着させ、アンモニア分解ガスから除去することが知られている(例えば、非特許文献1、3、特許文献1~3)。
【0004】
また、アンモニア分解ガスから窒素ガスが除去されていないと、発電時の最大出力が低下するため、アンモニア分解ガス中の窒素ガスは除去されることが好ましい。従来、アンモニア分解ガス中の窒素ガスを除去するために、圧力スイング(PSA)法や深冷分離法を用いて窒素ガスを除去することが知られている(例えば、非特許文献1、2、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-104778号公報
【文献】国際公開第2023/022995号
【文献】特開昭54-126689号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】大陽日酸株式会社,内閣府・戦略的イノベーション創造プログラム(SIP),課題「エネルギーキャリア」,研究テーマ「アンモニア水素ステーション基盤技術」終了報告書(公開用),2019年3月25日
【文献】沼田昭浩,“深冷分離法による水素の回収”,日立評論,Vol.53,No.12,p.1164-1971(1971)
【文献】Junyoung Cha et al.,“Ammonia as an efficient COx-free hydrogen carrier Fundamentals and feasibility analyses for fuel cell applications”,Applied Energy,Vol. 224,p.194-204(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、3および非特許文献1に記載された、液化アンモニアを原料とする水素製造プロセスにおいては、アンモニアの触媒分解による水素の生成後に、吸着剤を用いた吸着による残留アンモニアの除去、およびPSA法または深冷分離法による窒素の分離除去を行うことによる、精製された水素の製造方法が開示されている。これらによって得られる精製された水素は、小型高効率の発電システムとして広く実用化されている固体高分子型燃料電池(PEFC)用の燃料として用いることが可能である。また非特許文献2においては、関連する深冷分離法の詳細が開示されている。これらにおけるPSA法や深冷分離法による窒素除去には、一般に高圧の圧縮機を必要とし、その設置スペースを必要とする。さらに、PSA法においては、加圧下での吸着剤への窒素吸着、および減圧時の吸着剤からの窒素脱離排出の繰り返しによって窒素除去を行うので、圧縮機を頻繁に起動し、駆動し続けなければならないため、消費される動力が大きい。また深冷分離法においても、一層の高圧条件下や、高圧状態からの断熱膨張等を用いた冷却条件下で、窒素を液化ないし吸着剤に吸着させて分離除去するため、その消費動力は非常に大きくなる。こうした操作を要するPSA法や深冷分離法を行うためには大型の装置が必要となり、移動体や小型のオンサイト設備に搭載あるいは設置することは困難である。
【0008】
一方、非特許文献3には、アンモニアの触媒分解による水素生成工程、およびその後の吸着剤を用いた吸着による残留アンモニアガスの除去工程のみから構成され、消費動力が大きく大型の設備を必要とする上述のPSA法や深冷分離法による窒素分離工程が省略された、液化アンモニアを原料とする水素製造プロセスが開示されている。非特許文献3の水素製造プロセスにおいては、製造された水素を固体高分子型燃料電池(PEFC)用の燃料として用いる場合に、該燃料電池(PEFC)の負極触媒を被毒させる上述の残留アンモニアガスが除去されているので、製造される水素を該燃料電池(PEFC)の燃料として使用でき、また消費動力が小さく、移動体や小型のオンサイト設備に搭載あるいは設置が可能な、装置の小型軽量化が可能である。しかしながら、非特許文献3のプロセスでは窒素分離が行われないため、製造される水素中にはモル比で水素:窒素=75:25に相当する窒素が残留する。このため、非特許文献3のプロセスでは、製造される水素を燃料電池(PEFC)に供給して発電する際に、窒素の混在によって負極での水素濃度の低下に基づく濃度分極が増大し、特に高出力時に発電効率の顕著な低下を招く。
【0009】
また、特許文献2においては、非特許文献3と同様に上述の窒素分離工程が省略され、アンモニアの触媒分解による水素生成工程および残留アンモニアガスの吸着除去工程のみからなる水素製造プロセスで製造される、窒素を含有する水素を燃料電池(PEFC)に供給して発電する態様が示され、特に、燃料電池(PEFC)側の負極に溝を切る等の変形を加えたり、発電中に負極において高濃度に蓄積される窒素を間欠的にパージするなどによって、上述の発電効率の低下を改善する態様が開示されている。しかし、こうした態様によっても、濃度分極の増大による発電効率の低下は本質的に避けがたい上、一般に市販される仕様と異なる特殊な燃料電池(PEFC)が必要となること自体、汎用性の面において問題がある。
【0010】
本発明は、液化アンモニアを原料として供給しながら水素ガスを製造する際に、液化アンモニアのタンク内の蒸気圧と、分離膜の下流側の圧力との圧力差を設けることで、液化アンモニアを原料として順次生成されるガスが滞ることなく下流側に流れるようにし、その圧力差の一部として、分離膜の上流側と下流側の間の差圧を形成することにより、上記圧力差を形成するための減圧機とは別の減圧機を上記差圧の形成のために用いる必要がなく、加えて、高圧の圧縮機を用いることなく窒素除去を行うことができ、消費される動力が少なく、小型で簡素な水素ガス製造装置を提供し、水素ガス供給装置、燃料電池システム、移動体、及び水素ガス製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、以下の態様を包含する。
態様1
液化アンモニアを原料として供給しながら、供給される前記液化アンモニア、前記液化アンモニアを気化させたアンモニアガス、前記アンモニアガスを分解して得た分解ガス、前記分解ガスを精製した精製ガスを一方向に順次流して水素ガスを製造する水素ガス製造装置であって、
液化アンモニアを貯蔵するタンクと、
前記タンクから前記液化アンモニアを下流側に導く原料アンモニアラインと、
前記原料アンモニアライン内に設けられ、前記液化アンモニアを気化させてアンモニアガスにする気化器と、
気化した前記アンモニアガスを分解用温度に加熱する昇温用加熱器と、
前記気化器の下流側において前記原料アンモニアラインと接続され、前記分解用温度に加熱された前記アンモニアガスを触媒に接触させて分解し、水素ガス、窒素ガス及び残留アンモニアガスを含む分解ガスを生成させるアンモニア分解部と、
前記アンモニア分解部と接続され、前記分解ガスを下流側に導く分解ガスラインと、
前記分解ガスライン内に設けられ、前記分解ガスを冷却する冷却器と、
前記冷却器の下流側において前記分解ガスラインと接続され、冷却された前記分解ガスから前記残留アンモニアガス及び前記窒素ガスの一方を除去し1次精製ガスを生成する1次精製部と、
前記1次精製部と接続され、前記1次精製ガスを下流側に導く1次精製ガスラインと、
前記1次精製ガスラインと接続され、前記1次精製ガスから前記残留アンモニアガス及び前記窒素ガスの他方を除去し2次精製ガスを生成する2次精製部と、
前記2次精製部と接続され、前記2次精製ガスを下流側に導き、排出する2次精製ガスラインと、を備え、
前記1次精製部及び前記2次精製部のうち前記残留アンモニアガスが除去される方の精製部は、前記残留アンモニアガスを吸着させる吸着剤を有するアンモニア吸着部であり、
前記1次精製部及び前記2次精製部のうち前記窒素ガスが除去される方の精製部は、分離膜を有し、前記分離膜は、前記分離膜の上流側と下流側の間につくられた差圧により前記水素ガスを選択的に透過させて前記窒素ガスから分離するよう構成されている、水素分離部であり、
前記水素ガス製造装置は、前記1次精製ガスライン及び前記2次精製ガスラインのうち、前記水素分離部と接続され、前記分離膜を透過した前記水素ガスが流れる精製ガスラインに設けられた減圧機であって、当該精製ガスラインを流れる前記精製ガスを吸い込んで下流側に排出することで前記減圧機の上流側の当該精製ガスの圧力を減圧する減圧機をさらに備え、
前記減圧機の上流側の前記圧力が減圧されることにより、前記タンクから前記2次精製ガスラインにかけて前記液化アンモニア及び前記ガスが下流側に流れるよう、前記タンク内で気化したアンモニアガスの蒸気圧と、前記減圧機の上流側の前記圧力との間に圧力差が形成され、前記圧力差の一部として前記差圧が形成される、水素ガス製造装置。
【0012】
態様2
前記分離膜の上流側に、前記分解ガス又は前記1次精製ガスの圧力を加圧する加圧機を備えていない、態様1に記載の水素ガス製造装置。
【0013】
態様3
前記水素分離部の上流側に、前記分解ガス又は前記1次精製ガスの圧力を加圧する加圧機を備えている、態様1に記載の水素ガス製造装置。
【0014】
態様4
前記タンクは、前記タンク内を加熱することにより、前記タンクから前記2次精製ガスラインにかけての前記液化アンモニア及び前記ガスの下流側への流れが保たれるように前記蒸気圧を維持する保温用加熱器を有している、態様1又は2に記載の水素ガス製造装置。
【0015】
態様5
前記冷却器及び前記気化器は、前記分解ガスが流れる第1高温側流路と、前記液化アンモニアが流れる第1低温側流路とを有する第1熱交換器を構成してなり、
前記第1熱交換器は、前記第1高温側流路を流れる前記分解ガスと、前記第1低温側流路を流れる前記液化アンモニアとの熱交換によって、前記分解ガスが冷却され、前記液化アンモニアが加熱され気化されるよう構成される、態様1から4のいずれか1つに記載の水素ガス製造装置。
【0016】
態様6
前記冷却器を第1冷却器というとき、前記分解ガスライン内の前記第1冷却器の上流側又は下流側に設けられ、前記分解ガスを冷却する第2冷却器をさらに備える、態様5に記載の水素ガス製造装置。
【0017】
態様7
前記第2冷却器を通る前記分解ガスが、外部の空気、又は、外部の空気との熱交換により冷却された液体冷媒、との熱交換により冷却される、態様6に記載の水素ガス製造装置。
【0018】
態様8
前記昇温用加熱器は、前記原料アンモニアライン内の前記気化器の下流側に設けられ、
前記アンモニア分解部から又は前記アンモニア分解部の下流側において取り出された、前記分解ガス、前記1次精製ガス及び前記2次精製ガスのいずれかのガスの一部を空気と共に燃焼させ、燃焼ガスを排出する燃焼器と、
前記燃焼器と接続され、前記燃焼ガスが流れる燃焼ガスラインと、をさらに備え、
前記燃焼ガスラインの一部及び前記昇温用加熱器は、前記燃焼ガスが流れる第2高温側流路と、前記アンモニアガスが流れる第2低温側流路とを有する第2熱交換器を構成してなり、
前記第2熱交換器は、前記第2高温側流路を流れる前記燃焼ガスと、前記第2低温側流路を流れる前記アンモニアガスとの熱交換によって、前記燃焼ガスが冷却され、前記アンモニアガスが昇温されるよう構成される、態様1から7のいずれか1つに記載の水素ガス製造装置。
【0019】
態様9
前記アンモニア吸着部は、前記残留アンモニアガスを吸着した前記吸着剤を加熱する再生用加熱器と、不活性ガスを外部から導入するための不活性ガス導入ラインと、前記吸着剤から脱離した前記残留アンモニアガスが流れる脱離アンモニア排出ラインとを備え、
前記アンモニア吸着部は、前記再生用加熱器により加熱されることにより、前記吸着剤に吸着された前記残留アンモニアガスが前記吸着剤から脱離し、前記不活性ガス導入ラインを通って導入された前記不活性ガスと共に、前記脱離アンモニア排出ラインを通って前記アンモニア吸着部から排出されるよう構成される、態様1から7のいずれか1つに記載の水素ガス製造装置。
【0020】
態様10
前記アンモニア分解部から又は前記アンモニア分解部の下流側において取り出された、前記分解ガス、前記1次精製ガス及び前記2次精製ガスのいずれかのガスの一部を空気と共に燃焼させ、燃焼ガスを排出する燃焼器をさらに備え、
前記不活性ガスと共に排出された前記残留アンモニアガスは、前記燃焼器に導かれ、燃焼される、態様9に記載の水素ガス製造装置。
【0021】
態様11
前記昇温用加熱器は、前記原料アンモニアライン内の前記気化器の下流側に設けられ、
前記水素ガス製造装置は、前記燃焼器と接続され、前記燃焼ガスが流れる燃焼ガスラインをさらに備え、
前記燃焼ガスラインの一部及び前記昇温用加熱器は、前記燃焼ガスが流れる第2高温側流路と、前記アンモニアガスが流れる第2低温側流路とを有する第2熱交換器を構成してなり、
前記第2熱交換器は、前記第2高温側流路を流れる前記燃焼ガスと、前記第2低温側流路を流れる前記アンモニアガスとの熱交換によって、前記燃焼ガスが冷却され、前記アンモニアガスが昇温されるよう構成される、態様10に記載の水素ガス製造装置。
【0022】
態様12
前記脱離アンモニア排出ライン及び前記タンクと接続され、前記吸着剤から脱離した前記残留アンモニアガスを、液化することにより前記不活性ガスから分離するように構成された再液化部をさらに備え、
前記不活性ガスと共に排出された前記残留アンモニアガスは前記再液化部に導かれ、液化されることにより前記不活性ガスから分離され、前記タンクに回収される、態様9から11のいずれか1つに記載の水素ガス製造装置。
【0023】
態様13
前記アンモニア吸着部は、前記一方向に対し並列に配置された複数のアンモニア吸着器を有し、
前記複数のアンモニア吸着器それぞれは、前記吸着剤と、前記不活性ガス導入ラインと、前記脱離アンモニア排出ラインとを有し、
前記アンモニア吸着部は、前記複数のアンモニア吸着器のうち1つ以上のアンモニア吸着器において、前記再生用加熱器により加熱されることにより前記吸着剤から脱離した前記残留アンモニアガスが、前記不活性ガス導入ラインから導入される前記不活性ガスと共に、前記脱離アンモニア排出ラインを通って排出される間、残りのアンモニア吸着器に前記分解ガス又は前記1次精製ガスが導入され、当該ガス中の前記残留アンモニアガスが当該アンモニア吸着器の前記吸着剤に吸着されることにより除去され、当該残留アンモニアガスが除去された前記分解ガス又は前記1次精製ガスが前記アンモニア吸着部の下流側に導かれるよう構成され、前記複数のアンモニア吸着器の間で、前記1つ以上のアンモニア吸着器と、前記残りのアンモニア吸着器とを切り替えられるよう構成されている、態様9から12のいずれか1項に記載の水素ガス製造装置。
【0024】
態様14
前記アンモニア吸着部は、前記一方向に直列に配置された複数のアンモニア吸着器を有し、前記複数のアンモニア吸着器それぞれは前記吸着剤を有している、態様1から13のいずれか1つに記載の水素ガス製造装置。
【0025】
態様15
前記原料アンモニアライン内の前記気化器の下流側に設けられ、前記アンモニアガスの流量を調節する流量調節器、及び/又は、前記水素分離部に導かれる前記ガスが流れる前記ガスライン内に設けられ、当該ガスライン内を流れる当該ガスの圧力を調節する上流側調圧器、を備える、態様1から14のいずれか1つに記載の水素ガス製造装置。
【0026】
態様16
前記1次精製部は前記アンモニア吸着部であり、前記2次精製部は前記水素分離部である、態様1から15のいずれか1つに記載の水素ガス製造装置。
【0027】
態様17
水素ガスを供給先に供給する水素ガス供給装置であって、
態様1から16のいずれか1つに記載の水素ガス製造装置と、
前記水素ガス製造装置の2次精製ガスラインと接続され、前記2次精製ガスラインから排出された2次精製ガスを前記供給先に向けて導き、排出する最終ガス排出ラインであって、前記2次精製ガスが前記供給先の側と異なる側に流れるよう分岐した分岐部を有する最終ガス排出ラインと、
前記分岐部と接続され、前記異なる側に流れる前記2次精製ガスを貯留する精製ガスタンクと、
前記最終ガス排出ライン内の前記分岐部の上流側に設けられ、前記精製ガスタンク内に前記2次精製ガスを圧入する加圧機と、
前記最終ガス排出ライン内に設けられ、前記最終ガス排出ラインを流れる前記2次精製ガスの流路を切り替える一組の切替弁であって、前記2次精製ガスラインから排出された前記2次精製ガスを前記精製ガスタンクに向けて流すか、前記精製ガスタンク内の前記2次精製ガスを前記供給先の側に導き排出させるか、前記2次精製ガスラインから排出された前記2次精製ガスを前記供給先の側に導き排出させるか、を切り替える一組の切替弁と、を備える水素ガス供給装置。
【0028】
態様18
態様1から16のいずれか1つに記載の水素ガス製造装置、又は態様17に記載の水素ガス供給装置と、
負極及び正極を備え、前記負極及び前記正極が外部負荷と接続され、前記水素ガス製造装置又は前記水素ガス供給装置から排出された2次精製ガスが前記負極に供給され、空気が前記正極に供給されることにより発電するよう構成された固体高分子型燃料電池と、を備える燃料電池システム。
【0029】
態様19
前記燃料電池システムは、
前記水素ガス製造装置の2次精製ガスライン又は前記水素ガス供給装置の最終ガス排出ラインと接続され、当該ラインから排出された前記2次精製ガスを前記負極に導く精製ガス供給ラインと、
前記負極に導かれた前記2次精製ガスに含まれる水素ガスのうち、前記発電の際に消費されずに前記負極から排出される余剰の水素ガスと、前記水素ガス製造装置の分離膜を透過した、前記2次精製ガスに含まれる窒素ガスとを含む水素含有ガスを、前記精製ガス供給ラインと接続された前記2次精製ガスライン又は前記最終ガス排出ラインに導き前記2次精製ガスと合流させる水素含有ガス排出ラインであって、流路切替器が設けられた水素含有ガス排出ラインと、
前記水素含有ガス排出ラインから前記流路切替器を介して分岐し、前記水素含有ガスを外部に排出する水素含有ガス処理ラインと、をさらに備え、
前記流路切替器は、前記水素含有ガスの流れる方向を前記2次精製ガスライン又は前記最終ガス排出ラインの側、及び、前記水素ガス処理ライン側のいずれかに切り替えるよう構成され、
前記水素含有ガスは、前記水素含有ガスの流れる方向が前記2次精製ガスライン又は前記最終ガス排出ラインの側に切り替えられていることにより、前記2次精製ガスライン又は前記最終ガス排出ラインから排出される前記2次精製ガスと共に、前記負極に循環供給されるよう構成され、
前記水素含有ガスの流れる方向が前記2次精製ガスライン又は前記最終ガス排出ラインの側に切り替わった時点からの前記発電中の、前記固体高分子型燃料電池の発電電気量、又は経過時間がそれぞれの所定値に達することにより、前記水素含有ガスの流れる方向が前記水素含有ガス処理ライン側に切り替わり、前記時点から濃縮された前記窒素ガスを含む前記水素含有ガスが外部に排出されるよう構成され、
前記水素含有ガス処理ラインから外部への、前記濃縮された前記窒素ガスを含む前記水素含有ガスの排出が完了することにより、前記水素含有ガスの流れる方向が前記2次精製スライン又は前記最終ガス排出ラインの側に切り替わるように構成されている、態様18に記載の燃料電池システム。
【0030】
態様20
前記水素ガス製造装置及び前記水素ガス供給装置の1次精製部はアンモニア吸着部であり、2次精製部は水素分離部であり、
前記水素ガス製造装置の2次精製ガスライン又は前記水素ガス供給装置の最終ガス排出ラインと接続され、当該ラインから排出された前記2次精製ガスを前記負極に導く精製ガス供給ラインと、
前記負極に導かれた前記2次精製ガスに含まれる水素ガスのうち、前記発電の際に消費されずに前記負極から排出される余剰の水素ガスと、前記水素ガス製造装置の分離膜を透過した、前記2次精製ガスに含まれる窒素ガスとを含む水素含有ガスを、前記精製ガス供給ラインと接続された前記2次精製ガスライン又は前記最終ガス排出ラインに導き前記2次精製ガスと合流させる水素含有ガス排出ラインであって、流路切替器が設けられた水素含有ガス排出ラインと、
前記水素含有ガス排出ラインから前記流路切替器を介して分岐し、前記水素ガス製造装置又は前記水素ガス供給装置の1次精製ガスラインと接続された水素含有ガス処理ラインと、をさらに備え、
前記流路切替器は、前記水素含有ガスの流れる方向を前記2次精製ガスライン又は前記最終ガス排出ラインの側、及び、前記水素ガス処理ライン側のいずれかに切り替えるよう構成され、
前記水素含有ガスは、前記水素含有ガスの流れる方向が前記2次精製ガスライン又は前記最終ガス排出ラインの側に切り替えられていることにより、前記2次精製ガスライン又は前記最終ガス排出ラインから排出される前記2次精製ガスと共に、前記負極に循環供給されるよう構成され、
前記水素含有ガスの流れる方向が前記2次精製ガスライン又は前記最終ガス排出ラインの側に切り替わった時点からの前記発電中の、前記固体高分子型燃料電池の発電電気量、又は経過時間がそれぞれの所定値に達することにより、前記水素含有ガスの流れる方向が前記水素含有ガス処理ライン側に切り替わり、前記時点から濃縮された前記窒素ガスを含む前記水素含有ガスが、前記水素含有ガス処理ラインを経て前記1次精製ガスラインに導かれ、前記1次精製ライン内を流れる1次精製ガスと合流し前記水素分離部に導かれ、前記分離膜により前記窒素ガスが分離除去され、前記窒素ガスが分離除去された前記合流後の前記ガスが、前記2次精製ガスライン又は前記最終ガス排出ライン、及び前記水素ガス供給ラインを経由して、前記負極に供給されるよう構成され、
前記合流後の前記ガスからの前記窒素ガスの前記分離除去が完了することにより、前記水素含有ガスの流れる方向が前記2次精製ガスライン又は前記最終ガス排出ラインの側に切り替わるように構成されている、態様18に記載の燃料電池システム。
【0031】
態様21
移動体であって、
態様20に記載の燃料電池システムと、
前記燃料電池システムの負極及び正極と接続され、前記燃料電池システムの燃料電池の発電により生成した電力が供給されることにより駆動し、前記移動体を推進させる動力を生成するモータと、を備える移動体。
【0032】
態様22
液化アンモニアを原料として供給しながら、供給される前記液化アンモニア、前記液化アンモニアを気化させたアンモニアガス、前記アンモニアガスを分解して得た分解ガス、前記分解ガスを精製した精製ガスを一方向に順次流して水素ガスを製造する水素ガス製造方法であって、
液化アンモニアを貯蔵したタンクから前記液化アンモニアを下流側に導き、気化させてアンモニアガスにするステップと、
気化した前記アンモニアガスを分解用温度に加熱するステップと、
前記分解用温度に加熱された前記アンモニアガスを触媒に接触させて分解し、水素ガス、窒素ガス及び残留アンモニアガスを含む分解ガスを生成させるステップと、
前記分解ガスを冷却するステップと、
冷却された前記分解ガスから前記残留アンモニアガス及び前記窒素ガスの一方を除去し1次精製ガスを生成するステップと、
前記1次精製ガスから前記残留アンモニアガス及び前記窒素ガスの他方を除去し2次精製ガスを生成するステップと、を備え、
前記1次精製ガスを生成するステップ及び前記2次精製ガスを生成するステップのうち前記残留アンモニアガスを除去する方のステップは、前記残留アンモニアガスを吸着させる吸着剤を用いて前記残留アンモニアガスを前記吸着剤に吸着させるステップであり、
前記1次精製ガスを生成するステップ及び前記2次精製ガスを生成するステップのうち前記窒素ガスを除去する方のステップは、分離膜を用いて、前記分離膜の上流側と下流側の間につくられた差圧により前記水素ガスを選択的に透過させて前記水素ガスを前記窒素ガスから分離するステップであり、
前記水素ガス製造方法は前記分離膜を透過した前記水素ガスを含む前記精製ガスを吸い込んで下流側に排出することで上流側の当該精製ガスの圧力を減圧するステップをさらに備え、
前記上流側の前記圧力が減圧されることにより、前記タンクから前記分離膜の前記下流側にかけて前記液化アンモニア及び前記ガスが下流側に流れるよう、前記タンク内で気化したアンモニアガスの蒸気圧と、前記上流側の前記圧力との間に圧力差が形成され、前記圧力差の一部として前記差圧が形成される、水素ガス製造方法。
【発明の効果】
【0033】
上記態様の水素ガス製造装置及び水素ガス製造方法によれば、液化アンモニアを原料として供給しながら水素ガスを製造する際に、液化アンモニアのタンク内の蒸気圧と、分離膜の下流側の圧力との圧力差を設けることで、液化アンモニアを原料として順次生成されるガスが滞ることなく下流側に流れるようにし、その圧力差の一部として分離膜の上流側と下流側の間の差圧を形成することにより、上記圧力差を形成するための減圧機とは別の減圧機を上記差圧の形成のために用いる必要がなく、加えて、高圧の圧縮機を用いることなく窒素除去を行うことができ、それにより消費される動力を低減でき、設備を小型で簡素にすることができる。また、そのような水素ガス製造装置を備える、水素ガス供給装置、燃料電池システム及び移動体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】一実施形態の水素ガス製造装置A1の構成を示す図である。
【
図2】一実施形態の水素ガス製造装置A5の構成を示す図である。
【
図3】一実施形態の水素ガス製造装置A2の構成を示す図である。
【
図4】一実施形態の水素ガス製造装置A3の構成を示す図である。
【
図5】一実施形態の水素ガス製造装置A4の構成を示す図である。
【
図6】一実施形態の水素ガス供給装置B1の構成を示す図である。
【
図7】一実施形態の水素ガス供給装置B2の構成を示す図である。
【
図8】一実施形態の燃料電池システムC1の構成を示す図である。
【
図9】一実施形態の燃料電池システムC2の構成を示す図である。
【
図10】一実施形態の燃料電池システムC3の構成を示す図である。
【
図11】一実施形態の燃料電池システムC4の構成を示す図である。
【
図12】一実施形態の燃料電池システムC5の構成を示す図である。
【
図13】一実施形態の燃料電池システムC6の構成を示す図である。
【
図14】一実施形態の燃料電池システムC7の構成を示す図である。
【
図15】一実施形態の燃料電池システムC9の構成を示す図である。
【
図16】一実施形態の燃料電池システムC8の構成を示す図である。
【
図17】一実施形態の燃料電池システムC10の構成を示す図である。
【
図18】一実施形態の燃料電池システムC11の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、実施形態の水素ガス製造装置、水素ガス供給装置、燃料電池システム、移動体、及び水素ガス製造方法について説明する。
【0036】
図1に、一実施形態の水素ガス製造装置A1の構成を示す。以降の説明において、水素ガス製造装置An(nは1~5の整数)を、まとめて水素ガス製造装置Aという場合がある。
【0037】
水素ガス製造装置A1は、液化アンモニアを原料として供給しながら、供給される液化アンモニア、液化アンモニアを気化させたアンモニアガス、アンモニアガスを分解して得た分解ガス、分解ガスを精製した精製ガスを一方向に順次流して水素ガスを製造する装置である。一方向とは、水素ガス製造装置A1を構成する各部(ライン及び機器を含む)を通って、液化アンモニア、アンモニアガス、分解ガス、精製ガスが流れる方向(以降、ガスの流れ方向ともいう)を意味する。
【0038】
水素ガス製造装置A1は、タンク1と、原料アンモニアライン3と、気化器5と、昇温用加熱器7と、アンモニア分解部9と、分解ガスライン11と、冷却器13と、1次精製部15と、1次精製ガスライン17と、2次精製部19と、2次精製ガスライン21と、を備える。
【0039】
タンク1は、液化アンモニアを貯蔵する容器である。液化アンモニアにされるアンモニアは、例えば、水蒸気改質反応やシフト反応などを通して天然ガス、石炭ガス等から得られる水素ガスと空気中の窒素ガスとを原料とした、ハーバー・ボッシュ法を用いて合成したものであってもよく、水電解によって得られる水素ガスと空気中の窒素ガスとを原料として合成したものであってもよく、その合成法は制限されない。タンク1は、一般に、内部の液化アンモニアの量が減少した際に外部からこれを補充するための、開閉可能な弁を有するノズルを備える(図示されていない)。
【0040】
タンク1に貯蔵される液化アンモニアは、一酸化炭素や、硫化水素、二酸化硫黄等の硫黄化合物等の成分が予め十分に除去されていることが好ましい。液化アンモニアを原料として水素ガス製造装置A1により製造される後述する2次精製ガスは、水素ガスを主成分とし、例えば、固体高分子型燃料電池(PEFC)の燃料ガスとして用いられる。その際、2次精製ガスに上記した成分が不純物として含まれていると、PEFCの負極が被毒し、発電性能が低下するおそれがある。そのため、タンク1に貯蔵される液化アンモニアは、電極の被毒が問題とならない程度に不純物が十分に除去されていることが好ましい。水電解により得られる水素ガスと、窒素ガスとの合成によって得られるアンモニアには、上記した不純物は含まれ難く、2次精製ガスの原料となる液化アンモニアとして好ましい。天然ガス、石炭ガス等の原料からハーバー・ボッシュ法により合成されるアンモニアも、合成の各工程での純度を十分に管理することにより、一般に、上記した不純物の量を問題ない程度に抑制できる。
【0041】
液化アンモニアは、タンク1内の液面の上方に気化したアンモニアガスが充満した気相空間が形成されるように貯蔵され、液相の液化アンモニアと気相のアンモニアガスとは、タンク1内部の温度における気液平衡状態を形成する。水素ガス製造装置A1の運転中、後述する供給弁4を除き、タンク1は通常密閉されている。水素ガス製造装置A1の運転中のタンク1内部の気相の圧力(以降、タンク内圧ともいう)は、液化アンモニアの供給量が急激に変動する場合等を除いて、タンク1内部の温度におけるアンモニアの飽和蒸気圧に維持される。後述するように、このタンク内圧は、水素ガス製造装置A1において液化アンモニアから水素ガスを製造する過程での、系内のガスを移動させる推進力の一部になる。
【0042】
原料アンモニアライン3は、タンク1から液化アンモニアを下流側に導くラインである。本明細書において、ラインは、配管を含むほか、配管に設けられた弁を含んでいてもよい。原料アンモニアライン3には、タンク1内の液化アンモニアが下流側に供給される際に開かれる供給弁4が設けられている。
【0043】
気化器5は、原料アンモニアライン3内に設けられ、液化アンモニアを気化させてアンモニアガスにする機器である。気化器5は、加熱機構を備えており、液化アンモニアの蒸発潜熱より大きい熱量を液化アンモニアに与えることができる。加熱機構には、液化アンモニアと高温のガスとの間で熱交換を行う熱交換器(例えば、後で参照する
図5に示される第1熱交換器25)や電気加熱器等を用いることができ、これらを併用することもできる。熱交換器は、第1熱交換器25に制限されず、前記気化に十分な熱量及び温度を有する何らかの熱源が外部にある場合に、その熱源によって加熱された流体である熱媒体を気化器5の熱交換器に導くことにより、液化アンモニアを気化させるものであってもよい(該態様は図示されない)。この熱交換機は、水素ガス製造装置A1の起動時および定常運転時(起動時を除く運転時)の両方において好ましく用いられる。
【0044】
昇温用加熱器7は、気化したアンモニアガスを分解用温度に加熱する機器である。分解用温度とは、アンモニア分解部9でのアンモニアガスの分解反応(反応式2NH
3→3H
2+N
2)に必要な温度であり、十分なアンモニアガスの分解率が得られるように触媒の性能等に応じて設定される。昇温用加熱器7は、原料アンモニアライン3内の気化器5の下流側に設けられ、原料アンモニアライン3内を流れるアンモニアガスを加熱するものであってもよく、アンモニア分解部9に設けられ、アンモニア分解部9の装置(例えば後述する分解塔)を加熱するものであってもよく、
図1に示す例のように、これら両方の場所に設けられていてもよい。
【0045】
昇温用加熱器7には、電気加熱器や、アンモニアガスと高温のガスとの間で熱交換を行う熱交換器(例えば、
図5に示される第2熱交換器33)等を用いることができ、これらを併用することもできる。このうち、電気加熱器は、アンモニア分解部9に設けられると、水素ガス製造装置A1の起動時に通電により独立して加熱できるため、分解反応を容易に開始できる点で好ましく用いられる。また、第2熱交換器33は、前記昇温に十分な熱量及び温度を有する何らかの熱源が外部にある場合、その熱源によって加熱された流体の熱媒体を第2熱交換器33に導くことにより、所定の分解用温度に加熱昇温させることができる。そのような第2熱交換器33は、水素ガス製造装置A1の起動時および定常運転時(起動時を除く運転時)の両方において好ましく用いられる。また、後述する燃焼ガスを第2熱交換器33における熱源として加熱を行うこともでき、この場合は、水素ガス製造装置A1の定常運転時に好ましく用いられる。
【0046】
一実施形態によれば、昇温用加熱器7には、
図2に示すように、アンモニア分解部9に導入されるアンモニアガスの一部を空気と共に燃焼させて残りのアンモニアガスを分解用温度に加熱する、自己熱改質を行う構成(ATR)を用いることができる。この構成は、電気加熱器、第2熱交換器33等と併用することもできる。
図2は、水素ガス製造装置A5の構成を示す図である。水素ガス製造装置A5では、アンモニア分解部9に設けた昇温用加熱器7として、自己熱改質を行う構成(ATR)と、アンモニア分解部9の装置(例えば分解塔)に設けられた電気加熱器とが併用されるが、電気加熱器は省略することができる。水素ガス製造装置A5では、自己熱改質を行うため、アンモニア分解部9に、外部の空気を導入するための外気導入ライン10が接続されている。アンモニア分解部9の装置内には、分解反応を促進させるための後述する触媒の上流側に、アンモニアガスの燃焼を促進させる燃焼用酸化触媒が設けられていてもよい。燃焼用酸化触媒には、造粒またはハニカム状に成型された多孔質セラミックスや、ハニカム状に成型された耐窒化性を有する金属(例えば、ニッケル(Ni)、およびインコネル(登録商標)600、同625、同718および同750、インコロイ(登録商標)800および同825、ハステロイ(登録商標)C276および同C22、ナイモニック(登録商標)75、同80Aおよび同90等のニッケル合金類、SUS310S等のステンレス等)の担体に、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)等の貴金属、およびマンガン(Mn)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、銅(Cu)等の金属の酸化物のうちの、少なくともいずれか1種からなる超微粒子の触媒を担持させたもの等を用いることができる。また、自己熱改質を行う構成(ATR)によれば、運転停止状態にあるアンモニア分解部9の装置を迅速に加熱でき、アンモニア分解部9を起動することができる。
【0047】
図1に戻り、アンモニア分解部9は、気化器5の下流側において原料アンモニアライン3と接続され、分解用温度に加熱されたアンモニアガスを触媒に接触させて分解(クラッキング)し、水素ガス、窒素ガス及び残留アンモニアガスを含む分解ガスを生成させる部分である。アンモニア分解部9には、好ましくは、アンモニアガスを下方から上方に向けて流動させながら、内側に配置した触媒と接触させて分解する分解塔が用いられる。
【0048】
アンモニア分解に用いる触媒としては、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(St)、バリウム(Ba)、希土類元素(例えばセリウム(Ce)、ランタン(La)、イットリウム(Y)等)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)等の元素の酸化物、酸窒化物又はこれらの元素の複合酸化物、複合酸窒化物、ないしはゼオライト類、黒鉛、活性炭、ナノカーボン類(例えば気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラフェン等)等の比表面積の大きい担体上に、触媒成分の超微粒子等を分散して担持させたものが好ましく用いられる。さらに、高い助触媒効果を与える担体成分として、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のアミド類およびイミド類(例えばNaNH2、Ca(NH2)2、Mg(NH2)2、CaNH、LiCaN等)等を含む材料が、担体として、ないしは上述の担体に混合されて用いられてもよい。触媒成分の超微粒子には、鉄(Fe)酸化物、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)等の微小(1nm以上1μm未満)粒径を有するものが用いられ、好ましくは、低温で分解反応を特に促進させ、分解温度を低くすることができるルテニウム(Ru)の超微粒子が用いられる。ルテニウム(Ru)の超微粒子を担持した触媒を用いて分解反応を行う場合の分解用温度は、上述の担体の材質、組成、構造等によっても影響を受けるが、優良な性能を示すルテニウム(Ru)担持触媒においては、例えば500~600℃に設定される。これにより、高い分解率(アンモニア分解部9の装置内の圧力にも依存するが、例えば絶対圧1MPa以下において約95~99%)でアンモニアガスを分解させやすくなる。
【0049】
アンモニア分解部9で用いられる触媒は、アンモニア分解部9の装置内を流れるアンモニアガスの圧力損失が低減されるよう、造粒されたものが充填されてもよく、ハニカム状に成型したものが配置されてもよく、種々の形態のものを用いることができる。ハニカム状に成型した触媒は、前述のアンモニア分解用の超微粒子触媒を担持させた触媒担体をハニカム状に成型したものであってもよく、前述した耐窒化性を有する金属製ハニカムに、アンモニア分解用の超微粒子触媒を担持させた触媒担体を被覆したものであってもよい。
【0050】
分解ガスは、例えば、反応式2NH3→3H2+N2における生成比に従い、主に、水素ガスと窒素ガスをモル比75:25で含むと共に、アンモニア分解部9で生成した段階では、他に、固体高分子型燃料電池(PEFC)の電極を被毒させ得る未分解の残留アンモニアガスを少量(例えば1000体積ppm~5体積%)含む。
【0051】
分解ガスライン11は、アンモニア分解部9と接続され、分解ガスを下流側に導くラインである。
【0052】
冷却器13は、分解ガスライン11内に設けられ、分解ガスを冷却する機器である。分解ガスを例えば100℃未満、好ましくは常温(約25℃)程度またはそれ以下に冷却することにより、後述するアンモニア吸着部においてより多くの残留アンモニアガスを吸着剤に吸着させることができ、残留アンモニアガスの除去率が向上する。また、分解ガスを冷却することにより、後述する水素分離部においてより多くの水素ガスを窒素ガスから分離することができ、窒素ガスの除去率が向上する。また、水素分離部が熱に弱い高分子製分離膜や樹脂製容器などを含む場合は、冷却することにより、これらの材質の劣化も防止できる。
【0053】
1次精製部15は、冷却器13の下流側において分解ガスライン11と接続され、冷却された分解ガスから残留アンモニアガス及び窒素ガスの一方を除去し1次精製ガスを生成する部分である。さらに、1次精製部15の下流に設けられる2次精製部19は、1次精製ガスから残留アンモニアガス及び窒素ガスのうちの残りの一方を除去し2次精製ガスを生成する部分である。以下では、1次精製部15において残留アンモニアガスが除去され、2次精製部19において窒素ガスが除去される場合について、水素ガス製造装置A1を詳細に説明する。
【0054】
図1に示す水素ガス製造装置A1の1次精製部15は、残留アンモニアガスを除去するアンモニア吸着部である。以降の説明で、1次精製部15であるアンモニア吸着部をアンモニア吸着部15という。アンモニア吸着部15は、残留アンモニアガスを吸着する吸着剤を有する。アンモニア吸着部15には、分解ガスを入口側から出口側に向けて流動させながら、内側に配置した吸着剤に残留アンモニアガスを吸着させる吸着塔が用いられる。
【0055】
アンモニア吸着部15において用いられる吸着剤には、好ましくは、X型、A型等のゼオライトのように、ルイス酸点を多く有する多孔質吸着剤等が用いられ、特に、細孔径が約5~20Åの細孔を多く有するゼオライト、中でもゼオライト13Xなどが良好に用いられる。これらのゼオライトにおいては、リチウム(Li)、カルシウム(Ca)、およびナトリウム(Na)のうちの少なくとも1種の陽イオンが含まれていることが好ましい。これらの吸着剤は、残留アンモニアガス等を吸着することにより破過に達する時点で加熱されることにより、アンモニアガス等を脱離させて再生させることができるので、繰り返し使用可能である。なお、不純物ないし前述の自己熱改質を行う構成(自己熱改質器ともいう)(ATR)におけるアンモニア分解の際の副生成物として分解ガスに水分が含まれている場合、アンモニア吸着部15では、残留アンモニアガスのみでなく水分も吸着剤に吸着され、分解ガスから除去される。
【0056】
昇温用加熱器7に、上述した自己熱改質を行う構成(ATR)を採用した場合、残留アンモニアガスに加え水蒸気も吸着剤に吸着されるため、アンモニア吸着部15の吸着剤の破過時間は短くなる。したがって、昇温用加熱器7に、自己熱改質(ATR)を行う構成を採用した場合、吸着剤の再生処理の頻度を増やす必要がある場合がある。
【0057】
アンモニア吸着部15を通過し、残留アンモニアガスが除去された1次精製ガスは、ほぼ、75体積%の水素ガス及び25体積%の窒素ガスからなる混合ガスであり、1次精製ガスを更に後段(下流側)で精製して得られる2次精製ガスを固体高分子型燃料電池(PEFC)の燃料ガスとして用いたときに電極を被毒させる残留アンモニアガスの濃度は、1次精製ガス中において、例えば数百体積ppb程度以下であり、好ましくは100体積ppb未満である。
【0058】
1次精製ガスライン17は、1次精製部15と接続され、1次精製ガスを下流側に導くラインである。
【0059】
2次精製部19は、1次精製ガスライン17と接続され、1次精製ガスから残留アンモニアガス及び窒素ガスのうちの他方を除去し2次精製ガスを生成する部分であるが、ここでは特に、残留アンモニアガスが既に除去された1次精製ガスから、窒素ガスを除去する場合について説明する。
図1に示す水素ガス製造装置A1の2次精製部19は、窒素ガスを除去する水素分離部である。以降の説明で、2次精製部19である水素分離部を水素分離部19という。水素分離部19は、分離膜を有し、分離膜の上流側と下流側の間につくられた差圧(以降、単に差圧ともいう)により水素ガスを選択的に透過させて窒素ガスから分離するよう構成されている。水素分離部19には、1次精製ガスの入口と2次精製ガスの出口を有し(以下、それぞれ入口、出口という)、入口から出口に向かって流れる精製ガスの流路の途中に、精製ガスから水素ガスの透過分離を行い得る構造の分離膜を配置した流通式のガス分離膜モジュールが用いられる。
【0060】
水素分離部19の内部に設置された分離膜モジュールには入口からガスが圧入され、分離膜により隔てられたモジュール内の上流側(入口側)と下流側(出口側)との差圧によって、ガスに含まれる成分の中から水素ガスが選択的に分離膜を透過し、窒素ガスは殆ど透過せず、それぞれの排出ラインから排出される。
【0061】
水素ガスを分離する分離膜には、一般に、パラジウム(Pd)又はパラジウム合金製の膜、ゼオライトや多孔質シリカ、多孔質アルミナ、多孔質アルミノシリケート等の結晶質ないしは非晶質セラミック製の膜、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製等の分離層を有する多孔質の高分子製の膜が用いられる。分離膜には、所定の差圧において、窒素ガスに対してより多くの水素ガスを透過させる性能(選択透過性)が高く、かつ水素ガスの透過量が多い(透過速度が速い)ものが好ましく用いられる。
【0062】
上記した分離膜のうち、パラジウム(Pd)又はパラジウム合金製の膜は、特に水素ガスの選択透過性に優れ、一度の透過で国際規格ISO14687-2 2012 Grade D(以下、ISO14687-2という)に規定される99.97体積%以上の高純度の水素ガスが得られる。しかし、パラジウム(Pd)は希少で高価なため表面積の大きな膜を作製するのが困難であり、特に常温(約25℃程度)付近においては水素ガスの透過速度が非常に遅く、極めて大きい差圧の印加が必要等の問題がある。そのため、後述する燃料電池システムや移動体の稼働に要求される大量の水素ガスを迅速に精製するのに適していない。また、パラジウム(Pd)又はパラジウム合金製の分離膜を用いて水素ガスの分離を行うためには、水素分離部19の上流側において分解ガスを高温に加熱する必要がある。そのため、パラジウム(Pd)又はパラジウム合金製分離膜は、水素分離部19に用いる分離膜から除かれる。
【0063】
一方、ゼオライト(例えばSOD型ゼオライト)や多孔質シリカ、多孔質アルミナ、多孔質アルミノシリケート等の結晶質ないしは非晶質セラミック製の分離層を有する分離膜や、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製等の分離層を有する多孔質の高分子製分離膜は、パラジウム(Pd)又はパラジウム合金製分離膜と比べ安価で、原料となる資源の制約も少ない。これらの分離膜としては、孔径がオングストロームレベル(1オングストローム以上、100nm未満)の多数の微細孔を有するものが用いられ、ガス成分の分子サイズの差等に基づく分離が可能である。これらの微細孔としては、特に、水素と窒素のそれぞれの分子径の中間に相当する約3Åの狭い孔径分布を有するものが特に好ましい。そのため、水素分離部19の分離膜としては、上述した仕様のセラミック製分離膜や高分子製分離膜が好ましく用いられる。
【0064】
特に、高分子製分離膜は一般に軽量であり、多様な形状(例えば細く薄い中空糸状等)に成型することが可能である。こうした中空糸状の膜が束ねられて容器に封入されてなる分離膜モジュールでは、表面積の大きな分離膜を効率的に容器に封入でき、モジュールの大きさあたりの水素ガスの透過量を増大させることができるため、狭い場所へのオンサイト設備の設置や、移動体への搭載等に有利である。また、高分子製分離膜には、水素ガスの選択透過性や透過量(透過速度)を増大させるために表面処理等が施されたものもあり、そうした高分子製分離膜では、比較的小さな差圧条件においても常温(約25℃程度)付近で十分な水素ガスの透過速度が得られるため、水素分離部19の上流側において1次精製ガスを昇圧する必要がなく、水素ガスの製造に要する所要動力が軽減でき、製造コストを低減する上で有利である。そのため、上述した仕様の高分子製分離膜が特に好ましく用いられる。
【0065】
分離膜の上流側と下流側の間の差圧の大きさは、水素ガスの所定の透過速度が得られるよう、適正な大きさに設定される。例えば、良好な性能を有する高分子製分離膜を用いて常温(約25℃程度)付近で分離を行う場合、差圧は、例えば、0.5~0.9MPa程度の範囲内に設定される。
【0066】
選択透過性と透過量(透過速度)は一般に温度によって影響を受け、温度が上がると選択透過性はやや低下し、透過量(透過速度)は増加する場合が多い。そのため、分離膜モジュールに導入されるガスの温度は、両者のバランスを考慮して定められることが好ましい。また、セラミック製等の分離膜に比べ耐熱性が一般に低い高分子製分離膜を用いて分離を行う場合は、水素ガス製造装置A1を例えば常温(約25℃程度)付近で好適に運転でき、その温度域において、水素ガスの十分な選択透過性と透過量(透過速度)とを両立できることが好ましい。
【0067】
分離膜によって分離され透過する、単位時間当たりの2次精製ガス透過量は、分離膜の透過面積、分離膜における2次精製ガスの透過係数、および差圧の大きさによって、以下の式1で定まる。ここで透過係数とは、分離膜固有の透過面積、差圧および単位時間当たりの2次精製ガス透過量である。
式1:
(分離膜における単位時間当たりの2次精製ガス透過量[kg-H2/h])
=(分離膜の透過面積[m2])
×(2次精製ガスの透過係数[kg-H2/(m2・MPa・h)])
×(差圧[MPa])
また、上述の水素ガス製造装置A1においては、上記の単位時間当たりの2次精製ガス透過量は、2次精製ガスの単位時間当たりの製造量に相当する。従って、2次精製ガスの単位時間当たりの製造量も、同様に式1で与えられる。
【0068】
2次精製ガスの所望の透過量(透過速度)を確保するためには、十分な膜の面積が必要になるため、1つの分離膜モジュールだけでは十分な膜面積が確保できない場合には、水素分離部19は、ガスが流れる方向に対し、複数の分離膜モジュールが並列に配置されたものであってもよい。前述の式1に基づき、並列に配置される分離膜モジュールの必要な数は、以下の式2で計算した値を目安に定めることができる。なお、計算結果の小数点以下の部分は繰り上げられる。
式2:
(分離膜モジュールの所要並列数)
=(目的とする単位時間当たりの2次精製ガス透過量[kg-H2/h])
/{(分離膜モジュール1基当たりの分離膜の透過面積[m2])
×(分離膜モジュール固有の分離膜の透過面積、差圧および単位時間、当たりの
2次精製ガス透過量[kg-H2/(m2・MPa・h)])
×(設定差圧[MPa])}
【0069】
高分子製分離膜としては、例えば、中空糸状高分子膜がモジュール化された、東レ株式会社製「水素ガス分離用高分子分離膜モジュール」や、住友電工ファインポリマー株式会社製「ポアフロンナノ0.3」等を好適に用いることができる。
【0070】
2次精製ガスは、水素ガス製造装置A1により製造され、水素ガス製造装置A1から排出されるガスである。2次精製ガスは、固体高分子型燃料電池(PEFC)の燃料ガスとして用いたときに負極を被毒させ得る残留アンモニアガスを実質的に含まず、さらに、窒素ガスの大半が水素分離部19により除去された、水素ガスを主成分とする混合ガス(水素主体のガス)である。2次精製ガスとしての混合ガス(水素主体のガス)は、例えば、95~98体積%程度の水素ガスと、2~5体積%程度の窒素ガスとからなる。従って、窒素除去が行われない場合(窒素濃度約25体積%)に比べ、2次精製ガスに含まれる窒素ガスは大幅に少なくなっている。このため、2次精製ガスを固体高分子型燃料電池(PEFC)の燃料ガスとして用いたときには、窒素除去が行なわれない場合に比べて濃度分極が抑制されるため、高い発電効率を維持することができ、発電時の最大出力の低下が起こり難い。また、窒素除去が行なわれない場合に比べて2次精製ガスのエネルギー密度が増大するため、外部のタンク(例えば後述する精製ガスタンク(高圧水素タンクを含む)に2次精製ガスを充填したときのエネルギーの貯蔵量は大きく向上する。
【0071】
ISO14687-2では、固体高分子型燃料電池(PEFC)の電極を被毒させる等の影響を及ぼすアンモニア等の各不純物の許容濃度が規定され、併せて水素純度が99.97%以上であることが規定されている。この規定によれば、ヘリウムの許容濃度は300体積ppm未満、窒素、アルゴンの合計の許容濃度は100体積ppm未満とされているが、これらの微量成分は水素ガスの濃度をわずかに希釈するにすぎず、2次精製ガスに含まれていても、固体高分子型燃料電池(PEFC)の特性に殆ど影響を与えない。一方、1次精製ガスに含まれていた窒素ガスは、2次精製ガスにおいてはその大半が除去されており(例えば、水素ガス濃度は約95~98体積%程度になる)、2次精製ガスを固体高分子型燃料電池(PEFC)の燃料ガスとして用いたときの負極における濃度分極も、窒素除去を行なわない場合(水素ガス濃度約75%以下)に比べて顕著に抑制され、発電効率や発電時の最大出力の大きさは、ISO14687-2で既定される高純度水素を用いた場合と大きな差はなくなる。従って、2次精製ガスを燃料として固体高分子型燃料電池(PEFC)により発電を行う際には、非特許文献3に記載された、負極に溝を施すような特殊な固体高分子型燃料電池(PEFC)は、特に必要とされない。また、外部のタンクに高圧充填された状態でのエネルギー密度や、流体としての性状、例えば、2次精製ガスが流れることにより発生する、常温(約25℃)付近における流路抵抗等も、上記規格を満たす高純度の水素ガスと大差ない。
【0072】
2次精製ガスライン21は、2次精製部19(水素分離部)と接続され、2次精製ガスを下流側に導き、水素ガス製造装置A1から排出するラインである。排出された2次精製ガスは、供給先(例えば、後述する燃料電池や高圧水素タンク)に直接供給されてもよく、後で説明する水素ガス供給装置の精製ガスタンクに貯留されてもよい。
【0073】
液化アンモニア、アンモニアガス、分解ガス、1次精製ガスおよび2次精製ガス(以降、これらのガスをまとめて一連のガスということがある)は、タンク1内のアンモニアの蒸気圧と、分離膜の下流側に設けられ、2次精製ガスを減圧排気する減圧機22によって減圧された分離膜の下流側(減圧機22の上流側)の圧力との圧力差によって、原料アンモニアライン3、分解ガスライン11、1次精製ガスライン17および2次精製ガスライン21をそれぞれ経由して下流側に流れるように構成される。そして、分離膜による水素分離の推進力となる差圧は、減圧機22による減圧排気によって生じる、前記分離膜の上流側及び下流側の間の圧力降下として形成される。すなわち、差圧は、前記圧力差の一部として形成される。ここで、分離膜の上流側の圧力とは、水素分離部19の上流側において水素分離部と接続された1次精製ガスライン17上の、水素分離部19に最も近い部位(
図1に示す例において上流側調圧器18)より下流側におけるガスの圧力を意味する。また、分離膜の下流側とは、水素分離部19の下流側において水素分離部19と接続された2次精製ガスライン21上の、水素分離部19に最も近い部位(
図1に示す例において下流側調圧器20)より上流側におけるガスの圧力を意味する。
【0074】
分離膜において水素を分離透過させるための差圧は、直接的には、上流側調圧器18、減圧機22、および下流側調圧器20の調節ないし駆動によって調整される。
【0075】
上流側調圧器18は、1次精製部15(アンモニア吸着部15)と水素分離部19の間の流路の開度を調節することにより、水素分離部19の上流側の圧力を適切な圧力に調整する機器である。上流側調圧器18には一般的な調圧弁(減圧弁)を用いることができるが、上流側調圧器18を流れる水素分離前のガスの質量流量を検出する機能を併せ持つことがより好ましい。
【0076】
減圧機22は、水素分離部19内の分離膜を透過した水素ガスを含む2次精製ガスを吸い込んで下流側に吐き出すことにより、減圧機22の上流側(即ち水素分離部19の下流側)の圧力を下げる機器である。減圧機22には、例えば、ポンプが用いられる。減圧機22によって減圧機22の上流側の圧力が減圧されることで、上記圧力差の一部としての上記差圧を生じさせる分離膜の下流側の減圧状態がつくられる。このように、差圧は、タンク1から2次精製ガスライン21にかけて液化アンモニア、アンモニアガス、分解ガス、1次精製ガス及び2次精製ガスが下流側に流れるように形成される上記圧力差を形成するため共通の減圧機22を用いてつくられるので、分離膜の下流側に、上記差圧をつくるための減圧ポンプ等の減圧機を別途配置する必要がない。すなわち、水素ガス製造装置A1において、上記圧力差を形成するための減圧機と、上記差圧を形成するための減圧機は、減圧機22により共通化されている。
【0077】
下流側調圧器20は、水素分離部19と減圧機22の間の流路の開度を調節することにより、減圧機22によって作られる減圧状態を緩和し、水素分離部19の下流側の圧力を適切に調整して、分離膜を透過する2次精製ガスの流量を所定の流量に制御する機器である。下流側調圧器20には、上流側調圧器18と同様に一般的な調圧弁(減圧弁)を用いることができるが、下流側調圧器20を流れる2次精製ガスの質量流量を検出する機能を併せ持つことがより好ましい。これにより、水素分離部19内の分離膜を介した差圧が適切に調整され、その差圧に基づいて定まる流量で分離膜を透過した水素ガスを含む2次精製ガスが、減圧機22によって2次精製ガスライン21を通り、排出される。
【0078】
水素ガス製造装置A1は、水素分離部19により大半の水素ガスが分離された、窒素を主成分とするガス(窒素主体のガス)を外部に排出するための窒素ガス排出ライン23をさらに備える。以降では、前記「窒素主体のガス」のことを、簡単に「窒素ガス」と呼ぶことがある。窒素ガス排出ライン23は、窒素主体のガスが水素分離部19の外部に排出されるよう、水素分離部19からの窒素主体のガスの出口に接続されている。窒素ガス排出ライン23には窒素排出調圧器24が設けられる。窒素排出調圧器24は、窒素ガス排出ライン23の流路の開度を調節することにより、水素分離部19の窒素主体のガスの出口における圧力を、上流側調圧器18によって調節された水素分離前の1次精製ガスの水素分離部19の内部への入口における圧力よりもやや低い圧力に保持し、窒素ガス排出ライン23を流れる窒素主体のガスの流量を、上流側調圧器18を流れる水素分離前の1次精製ガスの流量から下流側調圧器20を流れる2次精製ガスの流量を差し引いた流量に調節する機器である。窒素排出調圧器24には一般の調圧弁(減圧弁)を用いることができるが、窒素排出調圧器24を流れる窒素主体のガスの質量流量を検出するとともに、該流量が、上流側調圧器18を流れる水素分離前の1次精製ガスの質量流量から、下流側調圧器20を流れる2次精製ガスの質量流量を差し引いた値に等しくなるよう、窒素主体のガスの流量を制御する機能を併せ持つことがより好ましい。窒素排出調圧器24により、窒素主体のガスは、窒素ガス排出ライン23を通して水素分離部19から連続的に排出される。
【0079】
水素ガス製造装置A1においては、タンク1の内圧(蒸気圧)と、減圧機22の減圧排気により形成される減圧機22の上流側の圧力との圧力差を推進力として、液化アンモニア及び一連の前記ガスが下流側に流れる。下流側に流れるガスは、気化器5の下流側の原料アンモニアライン3において生成したアンモニアガスが、アンモニア分解部9の下流側の分解ガスライン11において分解ガスに変化し、1次精製部15(ここではアンモニア吸着部15)の下流側の1次精製ガスライン17において1次精製ガスに変化し、2次精製部(ここでは水素分離部19)の下流側の2次精製ガスライン21において2次精製ガスに変化する。このようにガスが順次変化する以上の過程を通じて、タンク1から2次精製ガスライン21にかけて液化アンモニア及び一連のガスが滞ることなく下流側に流れるよう所定の供給用圧力に、タンク1の内圧(蒸気圧)が維持される必要がある。さらに、前記差圧は、上流側調圧器18および下流側調圧器20により前述の調整がなされる。これによって、タンク1から下流側への一連のガスの流動が可能になり、分離膜による所定の単位時間当たり製造量での2次精製ガスの製造が可能になる。
【0080】
水素ガス製造装置A1の運転中は、タンク1から液化アンモニアが下流側に流れるに従い、液化アンモニアの気化、アンモニアガスの昇温および分解に伴うガス体積の増加や、冷却器13での冷却によるガス体積の減少等が起こる。そうした状態変化があってもなお、水素ガス製造装置A1内においては、これらのガスが滞留や逆流を起こすことなく、ガスの圧力が下流側に進むに従い常に順次下がるように、タンク1の内圧(蒸気圧)および減圧機22の減圧排気能力に加えて、水素ガス製造装置A1内の各機器の処理能力(単位時間当たりの処理量)および流路抵抗(圧力損失)、各ガスラインの流路抵抗(圧力損失)が適切に設計され、制御されることが好ましい。
【0081】
水素ガス製造装置A1では、タンク1の内圧(蒸気圧)と、減圧機22により減圧された分離膜の下流側の圧力との圧力差を利用して上記差圧をつくることができ、これにより、分離膜を用いた水素ガスの分離を行うので、圧力スイング(PSA)法や深冷分離法により水素ガスの分離を行うために一般に用いられる高圧の圧縮機(例えば1MPa以上の加圧を行うもの)等を必要とせず、PSA法のように高圧の圧縮機を頻繁に起動し、駆動し続ける必要もない。また深冷分離法のような、一層の高圧条件下や、高圧状態からの断熱膨張等を用いる冷却も不要である。このため、水素ガス製造装置A1によれば、分離膜の上流側の圧力を高めるために消費される動力を低減でき、水素ガスの製造に消費されるエネルギーを低減できる。また、PSA法や深冷分離法の実施に必要な高圧の圧縮機等は大型であるが、水素ガス製造装置A1では、高圧の圧縮機等が不要であり、その設置スペースを省略できることで、水素ガス製造装置A1を小型で簡素なものにすることができる。すなわち、水素ガス製造装置A1によれば、液化アンモニアを原料として水素ガスを製造する際に、高圧の圧縮機等を用いることなく窒素ガスの除去(水素ガスの分離)を行うことができ、それにより消費される動力が少なく、水素ガス製造装置A1が小型で簡素なものになる。
【0082】
このような水素ガス製造装置A1は、小型であるため、燃料電池自動車(FCV)や燃料電池(FC)船等の移動体に搭載することができる。水素ガス製造装置A1によれば、分離膜を用いて水素ガスの分離を連続的に行えるので、例えば、固体高分子型燃料電池(PEFC)に燃料ガスを連続的に供給するのに適している。
【0083】
また、水素ガス製造装置A1は、
図1の1次精製ガスライン17上に括弧書きで示したように、1次精製ガスの加圧を行う加圧機17aを備えていてもよい。加圧機17aにより、1次精製ガスは、例えば0.1~0.5MPa加圧される。加圧機17aには、例えば、ポンプ、圧縮機が用いられる。
【0084】
その際は、タンク1の内圧(蒸気圧)は、タンク1から2次精製ガスライン21にかけて液化アンモニア及び一連のガスが滞ることなく下流側に流れるよう所定の供給用圧力に維持されることにより、タンク1の下流側への液化アンモニア及び一連の各ガスの流動が可能になり、分離膜における所定の単位時間当たり処理量での2次精製ガスの透過製造が可能になる。即ち、加圧機17aを設けることにより、加圧機17aを設けない場合に比べ、タンク1の内圧(蒸気圧)を、加圧機17aによる加圧の大きさ分(例えば0.1~0.5MPa)、低下させることができる。その結果、タンク1の下流側のアンモニア分解部9における圧力も、加圧機17aを設けない場合に比べて、前記加圧の大きさ程度低下する。アンモニア分解部9におけるアンモニア分解反応(2NH
3→3H
2+N
2)は、進行に伴いガス体積が増大する反応であるため、一定の分解温度条件では、低圧であるほどアンモニア分解率が向上し、より多くの水素ガスを生じさせ、残留アンモニアガス量を低減できる。従って、加圧機17aを設けることにより、アンモニア分解部9における圧力を低減できるため、その結果、アンモニア分解部9におけるアンモニア分解率を向上させることができる。さらに、加圧機17aを設けることによって、外部環境温度の急激な低下等のためにタンク1の内圧(蒸気圧)が予期せず低下する等により、分離膜での水素分離に要する差圧が不足するような場合においても、その不足分の圧力を前記加圧により補い、膜分離の処理量を維持することもできる。なお、
図1の上記括弧書きは、任意の構成要素であることを意味し、水素ガス製造装置A1では、加圧機17aを備えるか否かについては、上述した得失を勘案した上で、選択することができる。
【0085】
一実施形態によれば、タンク1は、
図3に示すように、保温用加熱器1aを有していることが好ましい。
図3は、一実施形態の水素ガス製造装置A2を示す図である。保温用加熱器1aは、タンク1内を加熱することにより、タンク1から2次精製ガスライン21にかけての液化アンモニア及び一連のガスの下流側への流れが保たれるように蒸気圧を維持する機器である。具体的に、保温用加熱器1aは、加圧機17aを設けない場合、および設ける場合のそれぞれにおいて、2次精製ガスを所定の単位時間当たり製造量で製造する際の前記供給用圧力に、タンク内圧(蒸気圧)が維持されるよう、タンク1内の温度を所定温度に加熱、保持する機器である。前述のように、この供給用圧力は、タンク1から2次精製ガスライン21にかけて液化アンモニア及び一連のガスが滞ることなく下流側に流れる圧力である。保温用加熱器1aにより、タンク1内の液化アンモニアの蒸気圧を高めて、タンク内圧が供給用圧力になる温度までタンク1内を加熱、保持することで、タンク1の下流側への液化アンモニア及び一連の各ガスの流動が可能になり、分離膜における所定の単位時間当たり処理量での2次精製ガス製造が可能になる。また、保温用加熱器1aを設けることによって、外部環境温度の急激な低下等が起きても、タンク1の温度を一定に制御することにより、内圧(蒸気圧)を安定させ、分離膜での水素分離に要する差圧が不足するような場合においても、その不足分の圧力をタンク1内の前記加熱により補い、膜分離の処理量を維持することも可能である。このようにタンク内圧の変動を抑制できることで、単位時間当たりの液化アンモニアの処理量、さらには2次精製ガスの製造量を安定させることができる。
【0086】
図3に示した水素ガス製造装置A2において、加圧機17aを設けず、タンク内圧と共に上記圧力差を形成する圧力として、減圧機22により減圧された圧力のみを用いて水素ガス製造装置を運転する場合には、タンク1内の温度は、タンク内圧が上記の供給用圧力に維持されるよう、保温用加熱器1aによって、例えばおよそ40~50℃程度に維持されることが好ましい。このように通常の外気の温度よりやや高い温度にタンク1内の温度が維持されることで、タンク1の内圧はおよそ1.6~2MPa程度に保たれ、その結果、下流側のアンモニア分解部9における内圧は例えば1.1~1.5MPa程度になる。さらには、下流側の水素分離部19の分離膜において、所定の単位時間当たり処理量の水素分離に要する差圧(例えば0.5~0.9MPa程度)を付与し得る。
【0087】
一方、
図3に示した水素ガス製造装置A2において、減圧機22に加えて加圧機17aも設ける場合には、前述したように、加圧機17aを設けない場合に比べてタンク1の内圧(蒸気圧)を低減でき、アンモニア分解部9における圧力も低減される。その結果、アンモニア分解部9におけるアンモニア分解率が向上し、より多くの水素ガスを生じさせ、残留アンモニアガス量を低減できる。その際、供給用圧力に、タンク1の内圧(蒸気圧)が維持されるよう、保温用加熱器1aによってタンク1内が加熱、保持される。
【0088】
上述の加圧機17aを設ける場合には、タンク1内の前記温度は、タンク内圧が供給用圧力に維持されるよう、およそ35~40℃程度に維持されることが好ましい。このように通常の外気の温度よりわずかに高い温度にタンク1内の温度が維持されることで、タンク1の内圧が1.4~1.6MPa程度に保たれる。その結果、下流側のアンモニア分解部9における圧力も、例えば0.9~1.1MPa程度に低減されるため、特に高性能の分解触媒を採用した場合には、アンモニア分解反応の分解率を97~99%程度に高く保つことができる。さらに、下流側の分離膜においても、所定の単位時間当たり処理量の水素分離に要する差圧(例えば0.5~0.9MPa)を付与することができる。なお、前述のように加圧機17aを設けず、タンク1内の加熱温度を40~50℃程度とした場合は、アンモニア分解部9における圧力は例えば1.1~1.5MPa程度になり、上記高性能の分解触媒を採用した場合においても、アンモニア分解反応の分解率は95~97%程度になる。
【0089】
保温用加熱器1aは、タンク1の容器本体の外側または内側に配置することができる。保温用加熱器1aは、液化アンモニアを間接的に加温するものが好ましい。保温用加熱器1aには、例えば、温度調節機能を有する、熱交換器やヒータ等の加熱機構を用いてもよく、タンク1の容器本体の外側を覆う保温材を用いてもよく、これらを併用してもよい。保温用加熱器1aによるタンク1内の加熱は、水素ガス製造装置A2の運転中、断続的に又は継続して行うことができる。断続的に行う場合は、水素ガス製造装置A2の運転中に測定されるタンク1内の温度又はタンク内圧が所定の下限値に達するタイミングで開始し、所定の上限値に達するタイミングで終了する。
【0090】
なお、液化アンモニアが連続的に下流側に供給されることによりタンク1内の液化アンモニアが減るのに伴い、通常、タンク1内では、気相空間を満たすようにタンク1内の液化アンモニアが気化し、その際に気化熱が奪われることにより、タンク1内の冷却が進行する。このため、タンク1内の温度及び圧力は、外部からの加熱によって気化熱分の熱量を補償しないと、運転中、次第に低下する。このため、水素ガス製造装置A2の運転中、保温用加熱器1aでタンク1内を連続的に加熱して気化熱分の熱量を補償することにより、このような冷却の進行を防止してタンク1内の温度および内圧を維持することもできる。
【0091】
以上の実施形態では、水素ガス製造装置A1、A2のように、1次精製部15はアンモニア吸着部15であり、2次精製部19は水素分離部19である態様について説明した。これらの実施形態によれば、水素分離部19において水素ガスを分離する前にアンモニア吸着部15において残留アンモニアガスが除去される。このため、水素分離部19において水素ガスから分離された窒素主体のガスには残留アンモニアガスがほとんど残っておらず、その濃度(残留アンモニアガス除去後で数100体積ppb未満、好ましくは100体積ppb未満)は、例えば臭気に関する規制(日本の悪臭防止法における敷地境界での規制基準は、工業地域及び工業専用地域では2体積ppm、それ以外では1体積ppm)と抵触しない程度に低く、窒素主体のガス中の水素ガス濃度が燃焼下限界を下回っていれば、そのまま大気に放出できる。したがって、水素分離部19において水素ガスから分離された窒素主体のガスからは、残留アンモニアガスを除去する必要がなく、設備が簡略になる。
【0092】
一方、以上説明した実施形態と別の実施形態によれば、
図4に示すように、1次精製部15は水素分離部であり、2次精製部19はアンモニア吸着部であってもよい。
図4は、一実施形態の水素ガス製造装置A3を示す図である。
図4は、水素分離部の分離膜の上流側に前述の加圧機17aを設けない場合を示しているが、加圧機17aが設けられてもよく、それぞれの場合の効果は前述した効果と同様である。この実施形態においても、液化アンモニア、アンモニアガス、分解ガス、1次精製ガス(ここでは、水素ガスを主体とし、アンモニア分解部9において未分解の残留アンモニアガスを含むガス)、および2次精製ガス(ここでは、1次精製ガスから残留アンモニアガスが除去された水素主体のガス)は、タンク1内で気化したアンモニアガスの蒸気圧と、1次精製部(水素分離部)15の分離膜の下流側に設けられ、1次精製ガスを減圧排気する減圧機22により減圧された減圧機22の上流側の圧力との圧力差によって、原料アンモニアライン3、分解ガスライン11、1次精製ガスライン17および2次精製ガスライン21をそれぞれ経由して下流側に流れる。また、分離膜による水素分離の推進力となる差圧は、減圧機22による減圧排気の際に生じる、分離膜の上流側及び下流側の間の圧力降下として形成される。すなわち、差圧は、前記圧力差の一部として形成される。以上の過程を通じて、タンク1から2次精製ガスライン21にかけて液化アンモニア及び一連のガスが滞ることなく下流側に流れるよう所定の供給用圧力に、タンク1の内圧(蒸気圧)が維持される必要がある。このため、タンク1には、内部を加熱して所要の内圧(蒸気圧)を保つため、前述の保温用加熱器1aがさらに設けられることが好ましい(
図3には図示されていない)。水素ガス製造装置A3においても、分離膜によって分離され透過する、微量の残留アンモニアガスを含む水素主体のガスの単位時間当たり透過量(水素ガス製造装置A3の単位時間当たりの2次精製ガスの製造量にほぼ等しい)、および分離膜モジュールの所要並列数は、それぞれ前述の式1および式2によって定まる。
【0093】
一実施形態によれば、
図5に示すように、冷却器13及び気化器5は、分解ガスが流れる第1高温側流路と、液化アンモニアが流れる第1低温側流路とを有する第1熱交換器25を構成してなることが好ましい。
図5は、一実施形態の水素ガス製造装置A4を示す図である。第1熱交換器25は、第1高温側流路を流れる分解ガスと、第1低温側流路を流れる液化アンモニアとの熱交換によって、分解ガスが冷却され、液化アンモニアが加熱され気化されるよう構成される。この実施形態によれば、液化アンモニアの気化に必要な熱源を水素ガス製造装置A4内で調達し、高温の分解ガスのもつ熱を有効利用できるので、水素ガスを製造する際のエネルギー効率が向上する。なお、
図5を含め、以降参照する図面においては、原料アンモニアライン3のように、一部が途切れて表されたラインに関して、同じ高さ位置あるいは同じ水平方向位置に表れているラインは、同じラインの部分同士である。
【0094】
この実施形態において、冷却器13を第1冷却器13というとき、水素ガス製造装置A4は、
図5に示すように、分解ガスライン11内の第1冷却器13の上流側又は下流側に設けられ、分解ガスを冷却する第2冷却器27をさらに備えていてもよい。
図5に示す水素ガス製造装置A4において、第2冷却器27は、第1冷却器13の下流側に設けられている。アンモニア吸着部15による残留アンモニアガスの除去率は、分解ガスの温度が低いほど、好ましくは常温付近(25℃程度)以下であると、高くなる。したがって、第1冷却器13の冷却能力が十分でなく、冷却後の分解ガス温度が常温(例えば25℃程度)より数10℃以上高くなるような場合に、第2冷却器27による冷却を行うことで、第1冷却器13による冷却不足を補うことができ、残留アンモニアガスの除去率を高めることができる。
【0095】
さらに、この実施形態において、第2冷却器27としては、熱交換器構造を持つものや、空冷ファンなど外気の吹付による強制空冷構造、さらには電子冷却によるもの等を用いることができる。このうち、熱交換器構造を持つ第2冷却器27を通る分解ガスは、外部の空気、又は、外部の空気との熱交換により冷却された液体冷媒、との熱交換により冷却されることが好ましい。第2冷却器27が第1冷却器13の上流側に設けられる場合、冷媒として、外部から第2冷却器27内に取り入れた空気を用いることが好ましい。第2冷却器27が第1冷却器13の下流側に設けられる場合、冷媒として、例えば、ラジエータ(図示されていない)により外部の空気との熱交換により冷却した冷却水等の液体冷媒を用いることが好ましい。液体冷媒は、第2冷却器27において分解ガスとの間で熱交換した後、ラジエータに戻され再度外部の空気との熱交換により冷却され、第2冷却器27において利用されるよう循環させることができる。
【0096】
一実施形態によれば、昇温用加熱器7は、原料アンモニアライン3内の気化器5の下流側に設けられ、水素ガス製造装置A4は、
図5に示すように、燃焼器29と、燃焼ガスライン31と、をさらに備える。
燃焼器29は、アンモニア分解部9から又はアンモニア分解部9の下流側において取り出された、分解ガス、1次精製ガス及び2次精製ガスのいずれかのガスの一部(以降、オフガスともいう)を空気と共に燃焼させ、燃焼ガスを排出する機器である。オフガスは、アンモニア分解部9から直接取り出されてもよく、アンモニア分解部9の下流側において、例えば、第1冷却器13の上流側又は下流側、アンモニア吸着部15の下流側、水素分離部19の下流側のいずれかのライン上の位置から取り出されてもよい。
図5に示す例においては、オフガスは、分解ガスライン11の途中の部分から取り出され、分解ガスライン11の第2冷却器27の下流側の部分から分岐して延びる分岐ガスライン30を通って燃焼器29に導かれる。分岐ガスライン30は、オフガスが取り出されるアンモニア分解部9又はラインの部分と燃焼器29とを接続するラインである。燃焼器29には、外部から空気を導入する外気導入ライン32が接続されている。オフガスは、燃焼性の高い水素ガスを含むので、空気と共に燃焼させることができる。
【0097】
燃焼ガスライン31は、燃焼器29と接続され、燃焼ガスが流れるラインである。燃焼ガスライン31の一部及び昇温用加熱器7は、燃焼ガスが流れる第2高温側流路と、アンモニアガスが流れる第2低温側流路とを有する第2熱交換器33を構成してなることが好ましい。第2熱交換器33は、第2高温側流路を流れる燃焼ガスと、第2低温側流路を流れるアンモニアガスとの熱交換によって、燃焼ガスが冷却され、アンモニアガスが昇温されるよう構成される。燃焼ガスは、水素ガス製造装置A4内で生成したガスを燃料として生成させることができるので、アンモニアガスの昇温に必要な熱源を水素ガス製造装置A4内で調達できる。燃焼器29によるオフガスの燃焼は、水素ガス製造装置Aの起動時を除いて、水素ガス製造装置Aの定常運転中、常時継続して行われる。
【0098】
燃焼器29に外部から導入される空気の量は、燃焼器29に導入されるオフガスの量に対して、該空気中の酸素量がその燃焼における化学量論比またはそれ以上になる量であることが好ましい。燃焼に必要な酸素(空気)を十分な量供給することで、オフガスの不完全燃焼を抑制できる。
【0099】
燃焼器29内部の上流側には、アンモニアガスの燃焼を促進させる燃焼用酸化触媒が設けられていてもよい。燃焼器29内に燃焼用酸化触媒を設けると、水素ガス製造装置Aの始動の際の、分解ガス中の水素ガス濃度が低くアンモニアガス濃度が高い時点においても、分解ガスを効率よく燃焼させることができ、第2熱交換器33においてアンモニアガスを加熱昇温できる。燃焼用酸化触媒には、アンモニア分解部9内に設けられる前述の燃焼用酸化触媒と同様に、造粒またはハニカム状に成型された多孔質セラミックスや、ハニカム状に成型された耐窒化性を有する金属(例えば、ニッケル(Ni)、およびインコネル(登録商標)600、同625、同718および同750、インコロイ(登録商標)800および同825、ハステロイ(登録商標)C276および同C22、ナイモニック(登録商標)75、同80Aおよび同90等のニッケル合金類、SUS310S等のステンレス等)の担体に、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)等の貴金属、およびマンガン(Mn)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、銅(Cu)等の金属の酸化物のうちの、少なくともいずれか1種からなる超微粒子の触媒を担持させたもの等を用いることができる。なお、燃焼器29内に上述の燃焼用酸化触媒を設けない場合は、昇温用加熱器7において、電熱等による別の独立した加熱手段が併設され、水素ガス製造装置Aの始動時に、それによるアンモニアガスの加熱昇温が行われる必要がある。
【0100】
燃焼ガスには、分解ガスに混在する窒素ガスや空気中の窒素ガスに起因し生成した窒素酸化物(NOx)が混在する場合がある。このため、燃焼器29内に、NOxを分解する触媒を用いて、三元系触媒分解、ないしは選択触媒還元(SCR)等の方式によりNOxの除去を行う脱硝装置(図示されていない)が設けられていてもよい。これにより、オフガスの燃焼と並行して脱硝を行うことができる。SCRの方式により脱硝を行う場合、分解ガス等のガス中に含まれる残留アンモニアガスは、NOxを選択的に還元して無害な窒素ガスおよび水蒸気に変える還元剤として働く。そのため、燃焼ガス中のNOx量に対し残留アンモニアガス量が不足する場合には、タンク1から、適宜設けたライン(図示されていない)により導かれる不足量分の液化アンモニアを燃焼器29内の脱硝装置に追加的に供給し、利用することができる。
【0101】
一実施形態によれば、アンモニア吸着部15は、
図5に示すように、残留アンモニアガスを吸着した吸着剤を加熱する再生用加熱器35と、不活性ガスを外部から導入するための不活性ガス導入ライン37と、吸着剤から脱離した残留アンモニアガスが流れる脱離アンモニア排出ライン39と、を備えることが好ましい。アンモニア吸着部15は、吸着剤に吸着された残留アンモニアガスが、再生用加熱器35により加熱されることにより吸着剤から脱離し、不活性ガス導入ライン37を通って導入された不活性ガスと共に、脱離アンモニア排出ライン39を通ってアンモニア吸着部15から排出されるよう構成される。これにより、アンモニア吸着部15の吸着剤が、残留アンモニアガス等の吸着によって破過に達したときに吸着剤を加熱することにより、吸着された残留アンモニアガス等を脱離させ、吸着剤を再生させて、繰り返し使用することができる。
【0102】
再生用加熱器35には、例えば、電気加熱器を用いることができる。
図5に示す例において再生用加熱器35は、アンモニア吸着部15の装置(例えば上述の吸着塔)に設けられており、吸着剤をアンモニア吸着部15の装置ごと加熱する。例えば、吸着剤がX型ゼオライトである場合は、約400℃以上に加熱されることで、吸着されたアンモニアガスの9割以上が脱離される。
【0103】
不活性ガス導入ライン37は、
図5に示す例において、1次精製ガスライン17と接続されている。1次精製ガスライン17との接続位置からアンモニア吸着部15の装置まで延びる不活性ガス導入ライン37の部分は、1次精製ガスライン17と流路を一部共有している。
図5の例においては、不活性ガスは、不活性ガス導入ライン37を通り、この流路内を1次精製ガスとは反対方向に流れてアンモニア吸着部15の装置内に導入される。不活性ガスは、アンモニアとの化学的反応性がなく、かつ吸着剤へのアンモニアガスの吸着を実質的に阻害しないガスであることが好ましく、窒素ガスや、アルゴンガス、ヘリウムガス等の希ガスが好ましく用いられる。図面には窒素ガスが例示される。
【0104】
図5に示す例において、脱離アンモニア排出ライン39は、分解ガスライン11と接続されている。アンモニア吸着部15の装置から分解ガスライン11との接続位置まで延びる脱離アンモニア排出ライン39の部分は、分解ガスライン11と流路を一部共有している。この接続位置から燃焼器に向かって延びる脱離アンモニア排出ライン39の部分は、分岐ガスライン30と流路を共有している。
図5の例においては、脱離したアンモニアガスは、不活性ガスと共に、前者の流路内を分解ガスとは反対方向に流れ、さらに、後者の流路内をオフガスと同じ方向に流れて脱離アンモニア排出ライン39を通って排出されている。
【0105】
なお、アンモニア吸着部15への不活性ガスの導入は、必ずしも上述の
図5に示した方向である必要はなく、アンモニア吸着部15の上流側から、不活性ガスを分解ガスと同方向に導入しても構わない(この場合、不活性ガス導入ライン37は、アンモニア吸着部15の上流側に接続される)。その場合は、アンモニア吸着部15からの脱離アンモニアガスは、不活性ガスと共に、アンモニア吸着部15の下流側に向け、1次精製ガスが流れる方向と同方向に流動し、排出される(この場合、脱離アンモニア排出ライン39は、アンモニア吸着部15の下流側に接続される)。
【0106】
この実施形態において、水素ガス製造装置A4は、上述した燃焼器29をさらに備えることが好ましい。不活性ガスと共に排出されたアンモニアガスは、燃焼器29に導かれ、燃焼される。燃焼器29に供給されるオフガスは、燃焼性の高い水素ガスを含むので、アンモニア吸着部15において吸着剤から脱離させて排出させたアンモニアガスを水素ガスと共に燃焼させ、無害化、無臭化することができる。これにより、大気中への放出が制限されるアンモニアガスを、焼却処分により処理することができる。この実施形態の構成は、比較的小型に設計できることから、水素ガス製造装置A4を小型のオンサイト設備や移動体に好適に用いることができる。
【0107】
さらに、この実施形態において、昇温用加熱器7は、原料アンモニアライン3内の気化器の下流側に設けられ、水素ガス製造装置A4は、燃焼器29と接続され、燃焼ガスが流れる燃焼ガスライン31をさらに備え、燃焼ガスライン31の一部及び昇温用加熱器7は、上述した第2熱交換器33を構成してなることが好ましい。
【0108】
一実施形態によれば、アンモニア吸着部15が、再生用加熱器35と、不活性ガス導入ライン37と、脱離アンモニア排出ライン39とを備える上記実施形態において、水素ガス製造装置Aは、後で参照する
図12及び
図13のように、脱離アンモニア排出ライン39及びタンク1と接続され、吸着剤から脱離したアンモニアガスを液化することにより不活性ガスから分離するように構成された再液化部(気液分離器)41をさらに備える。不活性ガスと共に排出されたアンモニアガスは再液化部(気液分離器)41に導かれ、液化されることにより不活性ガスから分離され、タンク1に回収される。再液化部(気液分離器)41で液化されたアンモニアから分離された不活性ガスは、残留するアンモニアを吸着等により除去されたのち、系外に排出される。脱離アンモニア排出ライン39には、アンモニアガスを圧縮する圧縮機42、および冷却器43が設けられていることが好ましい。これにより、吸着剤から脱離し、排出され、圧縮されたアンモニアガスを、効率よく冷却し液化回収することができる。この実施形態によれば、大気中への放出が制限されるアンモニアガスを、水素ガスの原料となるタンク1内の液化アンモニアに戻すことで、脱離させたアンモニアガスの外部環境への流出を最少化することができる。圧縮機42には、例えばポンプが用いられる。再液化部(気液分離器)41は一般に比較的大型な装置になることから、この実施形態の水素ガス製造装置Aは、やや大型のオンサイト設備や、やや大型の移動体(例えば船舶等)に好適に用いることができる。また、この実施形態の構成は、
図13に示すように、アンモニア吸着部15から排出させたアンモニアガスを燃焼器29により燃焼させる上述の実施形態の構成と併用することもできる。
【0109】
アンモニア吸着部15から排出させた残留アンモニアガスを燃焼器29により燃焼させる実施形態を採用した上述の実施形態において、アンモニア吸着部15は、後で参照する
図16に示すように、ガスの流れ方向に対し並列に配置された複数のアンモニア吸着器15A、15Bを有していることが好ましい。複数のアンモニア吸着器15A、15Bそれぞれに、好ましくは、上述した吸着塔が用いられる。アンモニア吸着部15が備える複数のアンモニア吸着器の数は、図示される例において2つであるが、2つに制限されず、3つ、4つ以上であってもよい。
【0110】
複数のアンモニア吸着器15Aは、上述した吸着剤と、不活性ガス導入ライン37Aと、脱離アンモニア排出ライン39Aとを有している。複数のアンモニア吸着器15Bは、上述した吸着剤と、不活性ガス導入ライン37Bと、脱離アンモニア排出ライン39Bとを有している。アンモニア吸着器15A、15Bが有する吸着剤は、それぞれ上述した吸着剤と同様に構成され、互いに同種のものを用いることができる。
【0111】
不活性ガス導入ライン37A、37Bは、
図16に示す例において、不活性ガスの供給口37cから二手に分かれて延びるようにアンモニア吸着器15A、15Bに接続される部分であり、供給口37cにおいて互いに接続されている。供給口37cから供給された不活性ガスは、供給口37cから、不活性ガス導入ライン37A、37Bを通ってアンモニア吸着器15A、15Bに導入される。なお、
図16に示す例において、1次精製ガスライン17は、アンモニア吸着器15A、15Bそれぞれから延びて合流し、水素分離部19に向かって延びており、アンモニア吸着器15A、15Bそれぞれから延びる1次精製ガスライン17の部分は、不活性ガス導入ライン37A、37Bと接続され、不活性ガス導入ライン37A、37Bと流路を共有している。
【0112】
脱離アンモニア排出ライン39A、39Bは、
図16に示す例において、アンモニア吸着器15A、15Bそれぞれから延びて合流し、燃焼器29に向かって延びている。なお、
図16に示す例において、分解ガスライン11は、アンモニア分解部9からアンモニア吸着部15に向かって延びる途中で二手に分岐され、アンモニア吸着器15A、15Bそれぞれと接続されている。アンモニア吸着器15A、15Bそれぞれと接続される分解ガスライン11の部分は、不活性ガス導入ライン37A、37Bと流路を共有している。また、
図16に示す例において、分岐ガスライン30は、脱離アンモニア排出ライン39A、39Bが合流する部分と接続されており、脱離アンモニア排出ライン39A、39Bと流路を共有している。
【0113】
アンモニア吸着部15は、複数のアンモニア吸着器のうち1つ以上のアンモニア吸着器において、再生用加熱器35により加熱されることにより吸着剤から脱離した残留アンモニアガスが、不活性ガス導入ライン37から導入される不活性ガスと共に、脱離アンモニア排出ライン39を通って排出される間、残りのアンモニア吸着器に分解ガス又は1次精製ガスが導入され、当該ガス中の残留アンモニアガスが当該アンモニア吸着器の吸着剤に吸着されることにより除去され、当該残留アンモニアガスが除去された分解ガス又は1次精製ガスがアンモニア吸着部の下流側に導かれるよう構成されていることが好ましい。アンモニア吸着部15は、このように複数のアンモニア吸着器15A、15Bの間で、上記1つ以上のアンモニア吸着器と、上記残りのアンモニア吸着器とを切り替えられるよう構成されていることが好ましい。この切替は、アンモニアガスを吸着中の吸着剤が破過に達する前のタイミングにおいて、前述の分解ガスライン11の分岐される部位および脱離アンモニア排出ライン39の合流する部位における弁(これらは、例えば三方弁の構造を有する)の連動した切替操作によって行なわれる。この実施形態によれば、残留アンモニアガスの吸着(吸着剤の使用)を行うアンモニア吸着器と、残留アンモニアガスの脱離(吸着剤の再生)を行うアンモニア吸着器との切り替えを繰り返し行うことで、吸着剤の使用と再生を同時に行うことを継続して行えるので、水素ガス製造装置Aの運転を停止させる必要がなく、長時間連続して運転できる。なお、この実施形態によれば、水素ガス製造装置Aの運転を停止させる必要がなく、オフガスを燃焼器29において燃焼させ生成させた燃焼ガスの一部を、燃焼ガスライン31を通して昇温用加熱器7に導き、昇温用加熱器7においてアンモニアガスを昇温させながら、並行して、残りの燃焼ガスの一部を再生処理用ガスライン28を通して吸着剤の再生を行う方のアンモニア吸着器に導き、アンモニア吸着器の装置(吸着塔)の外壁面に接触させて加熱する構成を、再生用加熱器35の構成として採用できる。再生処理用ガスライン28は、燃焼器29からアンモニア吸着部15に向かって延び、途中で二手に分かれてアンモニア吸着器15A、15Bそれぞれに接続される。このような構成は、低温での残留アンモニアガスの吸着と、高温での残留アンモニアガスの脱離とを並行して行う際のエネルギーロスを低減することに寄与する。
【0114】
なお、上述の
図16の例においては、不活性ガスは、不活性ガス導入ライン37Aまたは37Bを通り、1次精製ガスライン17内を1次精製ガスとは反対方向に流れてアンモニア吸着器15Aまたは15Bの装置内に導入されている。さらに
図16の例においては、脱離したアンモニアガスは、不活性ガスと共に、分解ガスライン11内を分解ガスとは反対方向に流れ、さらに脱離アンモニア排出ライン39Aまたは39Bの流路内をオフガスと同じ方向に流れ、排出されている。ただし、アンモニア吸着器15Aまたは15Bへの不活性ガスの導入は必ずしもこの方向である必要はなく、アンモニア吸着器15A、15Bの上流側から、不活性ガスを分解ガスと同方向に導入しても構わない(この場合、不活性ガス導入ライン37A、37Bは、アンモニア吸着器15A、15Bの上流側に接続される)。その場合は、アンモニア吸着器15A、15Bからの脱離アンモニアガスは、不活性ガスと共に、アンモニア吸着器15A、15Bの下流側に向け、1次精製ガスと同方向に流動し、排出される(この場合、脱離アンモニア排出ライン39A、39Bは、アンモニア吸着部15の下流側に接続される)。
【0115】
一実施形態によれば、
図15に示すように、アンモニア吸着部15は、ガスの流れ方向に直列に配置された2基のアンモニア吸着器15X、15Yを有し、2基のアンモニア吸着器15X、15Yそれぞれは吸着剤を有していることが好ましい。複数のアンモニア吸着器15X、15Yそれぞれには上述した吸着塔と同様の構造のものが用いられる。
図152基のアンモニア吸着器15X、15Yは、
図15に示す例において、接続ライン15aによりガスの流れ方向に互いに接続されている。アンモニア吸着器15Xにおいて残留アンモニアガスが吸着されたガスは、接続ライン15aを通ってアンモニア吸着器15Yに導かれる。
【0116】
この実施形態によれば、上流側のアンモニア吸着器(以降、1次吸着器という)15Xを通過したガス中にわずかに残った残留アンモニアガスを、下流側のアンモニア吸着器(以降、2次吸着器という)15Yにおいて吸着剤に吸着させて除去し、精製ガス中の残留アンモニアガスの濃度をさらに低くすることができる。2次吸着器15Yを通過した精製ガスの残留アンモニアは、好ましくは100体積ppb未満である。これにより、2次精製ガスを固体高分子型燃料電池(PEFC)に供給したときの残留アンモニアガスによる電極の被毒を防止する効果が向上する。
【0117】
1次吸着器15Xの吸着剤には、好ましくは、前述した吸着器が1基だけの場合に用いられたものと同様の、固体ルイス酸型の吸着剤が用いられ、具体的には、X型、A型等のゼオライトのようにルイス酸点を多く有する多孔質吸着剤等が用いられる。特に、細孔径が約5~20Åの細孔を多く有するゼオライト、中でもゼオライト13Xなどが良好に用いられる。これらのゼオライトにおいては、リチウム(Li)、カルシウム(Ca)、およびナトリウム(Na)の内の少なくとも1種の陽イオンが含まれていることが好ましい。これらの吸着剤は、アンモニアガス等の吸着により破過に達する時点で加熱されることにより、アンモニアガス等を脱離させて再生させることができるので、繰返し使用することが可能である。
【0118】
2次吸着器15Yの吸着剤には、好ましくは、ブレンステッド酸型の吸着剤が用いられ、具体的には、活性アルミナやシリカ・アルミナゲル、硫酸・リン酸等の不揮発性の強い酸で表面が酸処理されるか、これらの酸を含浸させた活性炭、シリカゲルやアルミナゲル等、さらには強酸性ないし超強酸性のイオン交換基を有するイオン交換樹脂(例えばスルホン酸基、硫酸基を数多く有するハイドロカーボンないしフロロカーボンのポリマー)等のように、ブレンステッド酸点を有し、酸性度が高く交換容量の大きい吸着剤が用いられる。2次吸着器15Yの破過に達した時点の吸着剤は、2次吸着器15Yの装置から取り外して新品に交換される。あるいは、上述のブレンステッド酸型の吸着剤によっては、または水素ガス製造装置Aの運転停止中に、これらの吸着剤よりも強い液状の強酸ないし超強酸を流動させる等の操作ができるように2次吸着器15Yが構成されていれば、破過した吸着剤に強酸ないし超強酸を流通させるにより、吸着剤に吸着したアンモニウムイオン(NH4
+)を水素イオン(H+)に交換させて再生させることができる場合もある。また、破過時点で取り外された該吸着剤に対し、オフラインで、上述のイオン交換による再生処理を行うことにより、再生及び再利用ができる場合もある。また活性アルミナやシリカ・アルミナゲル等の吸着剤では、オフラインでのか焼による再生処理が有効な場合もある。なお、通常、1次吸着器15Xにより残留アンモニアガスの大部分が吸着されるため、2次吸着器15Yの吸着剤により吸着される残留アンモニアガスの実質的な量は非常に少ない。そのため、2次吸着器15Yの吸着剤は、少量でも比較的長時間使用できることが多い。
【0119】
一実施形態によれば、水素ガス製造装置Aは、
図1等に示すように、原料アンモニアライン3内の気化器5の下流側に設けられアンモニアガスの流量を調節する流量調節器6、を備えることが好ましい。
【0120】
流量調節器6は、アンモニアガスの流量を所定の流量に調節する機器である。流量調節器6には、マスフローメータ、超音波式流量計、電磁式流量計等を用いることができる。流量調節器6により調節されたアンモニアガスの質量流量に従って単位時間当たりの液化アンモニアの処理量が設定される。この液化アンモニアの単位時間当たり処理量は、水素分離部19の分離膜での1次精製ガスの単位時間当たり処理量等を基に、次式で定まる。
式3:
(液化アンモニアの単位時間当たり処理量[kg-NH3/h])
=(アンモニア吸着部15での単位時間当たりアンモニア吸着量[kg-NH3/h])
+(水素分離部19分離膜での単位時間当たり1次精製ガス処理量[kg-H2/h])
+(オフガスの単位時間当たり取り出し量[kg/h])
【0121】
式3において、第1項の単位時間当たりアンモニア吸着量は、アンモニア分解部9における単位時間当たりのアンモニア残留量(=分解ガス流量×残留アンモニアガス濃度)にほぼ等しい。第3項のオフガスの単位時間当たりの取り出し量は、第1熱交換器25でのアンモニアガスの昇温用熱媒や、アンモニア吸着部15の吸着剤から脱離したアンモニアガスを焼却処理するのに必要な燃焼ガスを得るために、オフガスをアンモニア分解部9の下流側で分岐させる場合に考慮する必要がある。
【0122】
式3によって定まる液化アンモニアの単位時間当たり処理量に基づき、(i)熱交換を行う各部(例えば、第1熱交換器25、第2熱交換器33)での単位時間あたりに交換される熱量、(ii)アンモニア分解部9での被処理ガス流量に基づく所要触媒量、(iii)アンモニア吸着部15での吸着剤の所要量、(iv)水素分離部での分離膜モジュールの所要並列数(前出の式2による)も設定される。
【0123】
(水素ガス供給装置)
次に、実施形態の水素ガス供給装置について説明する。
【0124】
図6に、一実施形態の水素ガス供給装置B1を示す。
図7に、一実施形態の水素ガス供給装置B2を示す。以降の説明において、水素ガス供給装置B1、B2を、まとめて水素ガス供給装置Bという場合がある。
水素ガス供給装置B1は、水素ガスを供給先に供給する装置である。水素ガス供給装置B1は、上述の水素ガス製造装置Aと、最終ガス排出ライン61と、精製ガスタンク63と、加圧機65と、一組の切替弁67と、を備える。
【0125】
最終ガス排出ライン61は、水素ガス製造装置Aの2次精製ガスライン21と接続され、2次精製ガスライン21から排出された2次精製ガスを供給先に向けて導き、排出する最終ガス排出ライン61であって、2次精製ガスが供給先の側と異なる側に流れるよう分岐した分岐部61aを有する。供給先としては、例えば、後述する燃料電池や高圧水素タンクが挙げられる。
【0126】
精製ガスタンク63は、分岐部61aと接続され、供給先と異なる側に流れる2次精製ガスを貯留する容器である。精製ガスタンク63には、例えば、2次精製ガスが充填された状態で、内圧が例えば80MPa~90MPaに維持される高圧タンクが用いられてもよく、少量の2次精製ガスの一時的な貯留のための簡易なタンク(バッファタンク)が用いられてもよい(例えば、後で参照する
図10に示す精製ガスタンク63)。上記高圧タンクは、水素ガス供給装置Bが、例えば、燃料電池自動車(FCV)等の移動体に水素ガスを供給する水素ステーション等に設置される場合に、精製ガスタンク63として好適に用いることができる。図示される例の水素ガス供給装置Bは、精製ガスタンク63を1つのみ備えるが、水素ガス供給装置Bが備える精製ガスタンクの数は2つ、3つ以上であってもよい。水素ガス供給装置Bは、複数の精製ガスタンク63として、例えば、分岐部61aに互いに並列に接続された複数の小型のタンクを備えていてもよい。小型のタンクとしては、例えば、10~90MPa程度の高圧で2次精製ガスを貯留する蓄圧器を用いることもできる。
【0127】
加圧機65は、最終ガス排出ライン61内の分岐部61aの上流側に設けられ、精製ガスタンク63内に2次精製ガスを圧入する機器である。加圧機65には、ポンプ、圧縮機を用いることができ、これらを併用することができる。
図6及び
図7に示す例において、精製ガスタンク63は上記高圧タンクであり、加圧機65は、精製ガスタンク63に2次精製ガスを高圧に圧入可能な圧縮機である。加圧機65は、加圧機65の下流側の圧力を上流側よりも高くすることができるだけでなく、同時に加圧機65の上流側の圧力を下げるため、2次精製ガスライン21に設けられる減圧機22を兼ねることができ、2次精製ガスライン21から減圧機22を省略できる場合がある。減圧機22を省略した装置においては、水素ガス製造装置Aの減圧機22は加圧機65により構成され、水素ガス製造装置Aの2次精製ガスライン21は、2次精製ガスライン21及び最終ガス排出ライン61により構成される。
【0128】
一組の切替弁67は、最終ガス排出ライン61内に設けられ、最終ガス排出ライン61を流れる2次精製ガスの流路を切り替える。一組の切替弁67は、
図6及び
図7に示す例において、最終ガス排出ライン61の分岐部61aの上流側に設けられた弁67aと、分岐部61aに設けられた弁67bと、最終ガス排出ライン61の分岐部61aの下流側に設けられた弁67cと、を含む。一組の切替弁67は、これらの弁67a~67cの開閉状態を切り替えることで、2次精製ガスライン21から排出された2次精製ガスを精製ガスタンク63に向けて流すか、精製ガスタンク63内の2次精製ガスを供給先の側に導き排出させるか、2次精製ガスライン21から排出された2次精製ガスを供給先の側に導き排出させるか、を切り替えるよう構成されている。
【0129】
水素ガス供給装置Bは、例えば、燃料電池自動車(FCV)等の移動体に水素ガスを供給するオンサイト型の水素ステーションとして好適に用いられる。なお、水素ガス製造装置Aのタンク1に外部から供給される液化アンモニアは、タンクローリー等の輸送手段を用いて輸送することができる。
【0130】
一実施形態によれば、最終ガス排出ライン61には、分岐部61aの下流側に第3冷却器69が設けられていることが好ましい。これにより、精製ガスタンク63に貯留された高圧の2次精製ガスを、例えば外部のタンクに急速に供給して貯留させる際に、外部のタンク内で2次精製ガスが断熱圧縮されることによって外部のタンクが過熱されるのを抑えることができる。第3冷却器69による冷却は、精製ガスタンク63が、上記高圧タンクである場合に有効である。外部のタンクは、例えば、燃料電池自動車(FCV)等の移動体に搭載される高圧水素タンク等である。2次精製ガスは、第3冷却器69により例えば―40~―30℃の冷却温度に冷却される。第3冷却器69には、例えば、2次精製ガスと冷媒との間で熱交換を行う熱交換器を用いることができる。冷媒には、外部に別途設けられる強力な冷熱源(例えば冷凍機など)によって冷却された、前記冷却温度において使用可能な冷媒が用いられる。
【0131】
一実施形態によれば、最終ガス排出ライン61には、加圧機65の上流側に、第4冷却器62が設けられていることが好ましい。精製ガスタンク63が上記高圧タンクであり、加圧機65が精製ガスタンク63に2次精製ガスを高圧に圧入可能な圧縮機である場合、2次精製ガスを加圧機65で圧縮する前に第4冷却器62により予め冷却しておくことで、2次精製ガスが加圧機65により断熱圧縮されることによって精製ガスタンク63が過熱されるのを抑えることができる。2次精製ガスは、例えば―40~―30℃の冷却温度に冷却される。第4冷却器62には、例えば、2次精製ガスと冷媒との間で熱交換を行う熱交換器を用いることができる。冷媒には、上述した、外部に別途設けられた強力な冷熱源(例えば冷凍機など)によって冷却された、前記冷却温度において使用可能な冷媒が用いられる。
【0132】
(燃料電池システム)
次に、実施形態の燃料電池システムCについて説明する。
【0133】
図8~
図18に燃料電池システムC1~C11を示す。
図8は、一実施形態の燃料電池システムC1の構成を示す図である。
図9は、一実施形態の燃料電池システムC2の構成を示す図である。
図10は、一実施形態の燃料電池システムC3の構成を示す図である。
図11は、一実施形態の燃料電池システムC4の構成を示す図である。
図12は、一実施形態の燃料電池システムC5の構成を示す図である。
図13は、一実施形態の燃料電池システムC6の構成を示す図である。
図14は、一実施形態の燃料電池システムC7の構成を示す図である。
図15は、一実施形態の燃料電池システムC8の構成を示す図である。
図16は、一実施形態の燃料電池システムC9の構成を示す図である。
図17は、一実施形態の燃料電池システムC10の構成を示す図である。
図18は、一実施形態の燃料電池システムC11の構成を示す図である。以降の説明では、燃料電池システムC1~C11を、まとめて燃料電池システムCという。
【0134】
燃料電池システムCは、上述の水素ガス製造装置A、又は、上述の水素ガス供給装置Bと、固体高分子型燃料電池(PEFC)81と、を備える。固体高分子型燃料電池(PEFC)は、発電効率が高く、作動温度が低く、軽量で小型であるため、燃料電池システムCは、燃料電池自動車(FCV)等の移動体や、家庭用又は業務用のオンサイト設備の発電システムとして用いるのに適している。
【0135】
固体高分子型燃料電池(PEFC)81は、負極及び正極を備え、負極及び正極が外部負荷91と接続され、水素ガス製造装置A又は水素ガス供給装置Bから排出された水素ガスが負極に供給され、空気が正極に供給されることにより発電するよう構成されている。固体高分子型燃料電池81による発電の際には、その出力電流値に応じて、水素ガス製造装置A又は水素ガス供給装置Bから供給される水素ガスの所要流量が定められる。
【0136】
固体高分子型燃料電池(PEFC)81は、高分子の電解質膜の両側にガス拡散層が設けられた触媒層、および集電体であるセパレータを積層してなる単セルを有し、好ましくは、複数の単セルが直列つなぎで積層されてなるバイポーラ構造のセルスタックを構成している。セルスタックは、各単セルの負極と接続された負極側端子と、各単セルの正極と接続された正極側端子とを有している。図示される固体高分子型燃料電池(PEFC)81はセルスタックを構成し、負極側端子と正極側端子は外部負荷91と接続されている。
【0137】
単セルの負極触媒層は、例えば、白金(Pt)等の白金族金属の超微粒子である触媒を担持したカーボンブラックからなる層であり、また正極触媒層は、例えば、イリジウム(Ir)酸化物等の白金族金属酸化物の超微粒子である触媒を担持したカーボンブラックからなる層であって、電解質膜の両面にそれぞれ接合され、固体高分子型燃料電池(PEFC)81の負極及び正極を構成する。電解質膜は、主としてスルホン酸基、カルボキシル基等のイオン交換基を有する超強酸性のフロロカーボンポリマーからなり、高い水素イオン(ヒドロニウムイオンH3O+)の伝導性を有する。セパレータには、十分な電子伝導性と機械的強度を有し、超強酸性の電解質との接合や負極、正極での還元/酸化環境において化学的に安定な、黒鉛や炭素質、ないしこれらを含む複合材料等からなる薄板が多く用いられる。負極端子と正極端子との間に外部負荷91を接続し、負極及び正極にそれぞれ水素ガスおよび酸素ガスを供給することにより、直流電力が出力され、発電ができる。このとき、固体高分子型燃料電池(PEFC)81の負極に供給される水素ガスに、一酸化炭素、アンモニア、硫化水素、または二酸化硫黄等の硫黄化合物等のガス成分が混在していると、負極触媒である白金等は、これらのガス成分に強く被毒され、触媒活性が低下することにより、固体高分子型燃料電池(PEFC)の発電性能は顕著に低下する。そのため、これらのガス成分の2次精製ガス中の濃度は、こうした被毒を生じない許容濃度の範囲内に低減される必要があり、例えば、燃料電池用水素ガスの国際規格であるISO14687-2に規定される許容範囲内であることが好ましい。
【0138】
最終ガス排出ライン61には、減圧機22の下流側に水素ガス供給ポンプ79が設けられている。水素ガス供給ポンプ79は、固体高分子型燃料電池(PEFC)81に水素ガスを高濃度で含有する2次精製ガスを供給するための機器である。なお、固体高分子型燃料電池81に供給される燃料の2次精製ガスには、一般に、電解質膜における水素イオン(ヒドロニウムイオンH
3O
+)の伝導を媒介する水分(水蒸気)が添加されるが、
図8~
図18では、この水分(水蒸気)を添加するためのライン等は省略されている。
【0139】
固体高分子型燃料電池(PEFC)81の負極に2次精製ガスを供給する、固体高分子型燃料電池(PEFC)81の水素ガス供給口には、水素ガス供給ポンプ79を介して最終ガス排出ライン61と接続された水素ガス供給ライン83が接続されている。一方、固体高分子型燃料電池81の負極から発電の際に消費されなかった余剰の水素ガスを含むガス(以下、水素含有ガスという)を排出する、固体高分子型燃料電池81の水素ガス排出口には、水素ガス排出ライン84が接続されている。水素ガス排出ライン84には、調圧器85が設けられており、調圧器85の下流側において水素ガス排出ライン84は最終ガス排出ライン61に合流するように接続される。合流した水素含有ガスは、最終ガス排出ライン61から排出される2次精製ガスと共に、固体高分子型燃料電池81の負極に供給されることにより、負極を経由した、水素ガスの循環ループが形成される。さらに、水素ガス排出ライン84には流路切替器86が設けられ、流路切替器86を介して水素ガス排出ライン84から分岐され、水素含有ガスを外部に排出する水素ガス処理ライン87を備えている。流路切替器86としては、例えば3方弁を用いることができる。流路切替器86は、水素含有ガスが、最終ガス排出ライン61側に向かう方向及び外部側に向かう方向のいずれかの方向に流れるよう水素含有ガスの流路を切り替える。通常の運転状態においては、流路切替器86は、水素含有ガスが水素ガス排出ライン84から最終ガス排出ライン61側に向かう方向に設定され、上述の循環ループが形成されている。
【0140】
水素ガス排出ライン84から最終ガス排出ライン61に合流した後の水素含有ガスは、最終ガス排出ライン61から供給される2次精製ガスと共に、水素ガス供給ポンプ79により固体高分子型燃料電池81の負極に循環供給され、発電に再利用される。ここで調圧器85は、固体高分子型燃料電池81から排出される水素含有ガスの圧力を調節する機器である。調圧器85は、固体高分子型燃料電池(PEFC)81による発電の際に、負極における2次精製ガスの圧力を、数100kPa程度の一定の加圧下に維持する。その際の循環ループの効果によって、固体高分子型燃料電池81の出力電流を得るのに必要な単位時間当たり2次精製ガス消費量に対し、負極への2次精製ガスの単位時間当たり供給量が十分過剰になるよう維持される。さらには、電解質膜を介した正極側に供給される空気圧との圧力バランスを維持すると共に、負極中の水分量の調整等にも寄与する。調圧器85には、調圧器85の上流側の1次圧を一定に保つ調圧弁が用いられる。なお、固体高分子型燃料電池(PEFC)の発電に伴い正極において発生した水は、正極において消費されなかった空気中の酸素ガス及び窒素ガスと共に、正極側の空気排出口から、その大半が排出される。
【0141】
図8に示された燃料電池システムC1の通常の運転状態においては、前述のように、流路切替器86により切り替えられた水素含有ガスの流路が水素ガス排出ライン84から最終ガス排出ライン61に向かう方向に保持されることにより、前述の水素ガスの循環ループが形成されている。このとき、固体高分子型燃料電池(PEFC)81による発電開始から暫くの間は、安定した高い出力が得られる。しかし、2次精製部の分離膜を透過し、最終ガス排出ライン61および水素ガス供給ライン83を経て固体高分子型燃料電池81に供給される2次精製ガス中には、主成分である水素ガスと共に、少量ながら、約2~5体積%程度の窒素ガスが含まれている。従って、固体高分子型燃料電池81による発電中、窒素ガスを含む2次精製ガスが供給され、水素ガス排出ライン84等を通じ、固体高分子型燃料電池81に循環供給され続けることになる。その間、固体高分子型燃料電池81の負極では水素ガスのみが燃料として消費されるため、前述の循環ループ内では、窒素ガス濃度が、前記約2~5体積%程度の初期濃度から次第に上昇していくという現象が起こる。こうした窒素ガス濃度の上昇は、固体高分子型燃料電池81の負極における濃度分極を増大させ、発電効率を低下させ得るため、その影響が許容できないレベルに達するまでに、該循環ループ内の窒素ガス濃度を低減させる必要がある。
【0142】
燃料電池システムC1では、前述のように、水素ガス排出ライン84には流路切替器86が設けられ、流路切替器86を介して水素ガス排出ライン84から分岐され、水素含有ガスを外部に排出する水素ガス処理ライン87を備える。上述の窒素ガス濃度の上昇が進み、発電効率の低下が許容レベルを超える前に、水素含有ガスの向かう方向が水素ガス処理ライン87側の方向になるように流路切替器86により水素含有ガスの流路を切り替えることで、前記循環ループ内に滞在していた、窒素ガスが濃縮されたガスを、水素ガス供給ポンプ79によって、水素含有ガスとして系外に排出させることができる。循環ループ内に滞在する水素含有ガスの系外(外部)への排出が完了し、供給ポンプ79が供給する2次精製ガスによって循環ループ内が完全に置換された時点で、循環ループ内に滞在する水素含有ガス中の窒素ガス濃度は、概ね初期状態(例えば約2~5体積%程度)に回復する。その時点で、前記流路切替器86が通常時の最終ガス排出ライン61側に戻される。
上述の一連の処理の間も、固体高分子型燃料電池81の発電を継続することが可能である。以上の、窒素ガスが濃縮されたガスを間欠的に系外に排出させる燃料電池システムC1の構成により、上述の第1循環ループ内で上昇した窒素ガス濃度を初期状態(例えば約2~5体積%程度)に回復させることができ、固体高分子型燃料電池81の負極における濃度分極の増大および発電効率の低下を阻止し、安定な高い出力による発電を維持できる。
【0143】
上述の構成において、水素ガス処理ライン87から排出される水素含有ガスには、依然として水素ガスが高濃度に含まれ、燃焼性がある。このため、排出に際しては、例えば、水素含有ガスが、燃料電池システムC1中に設けられている水素ガス製造装置A又は水素ガス供給装置Bの、水素分離部19の窒素ガス排出ライン23から排出される、燃焼性が低い窒素ガス主体のガス等と混合された上で、火気や静電気等が十分排除された状況下で多量の空気と混合され、系外に排出される等の防火対策が講じられることが好ましい。また、最終的に系外に排出される配管の先端部分には、例えば、逆火防止用のフレームアレスタが設けられることが好ましい。
【0144】
以上の、窒素ガスが濃縮されたガスを間欠的に系外に排出させる燃料電池システムC1の構成は、特許文献2で開示された、固体高分子型燃料電池の発電中に負極に蓄積される窒素ガスを間欠的にパージする態様に類似する。しかし、固体高分子型燃料電池に供給される燃料のガス中の窒素ガスの初期濃度が、特許文献2では約25体積%と高いのに対し、本件発明の燃料電池システムC1では、例えば約2~5体積%程度と遥かに低いため、通常運転時における負極での濃度分極は、特許文献2と比べて抑制され、より高い電力効率が得られる。さらに、本件発明の燃料電池システムC1では、上述の窒素ガスの初期濃度の差のため、窒素ガス濃度の回復に要する上記排出の実施頻度が特許文献2と比べて減少するので、系外排出により損失する水素ガスの量は、特許文献2よりも著しく少ない。
なお、
図10~
図18の燃料電池システムC3~C11においても、窒素ガスが濃縮されたガスを間欠的に系外に排出させる、燃料電池システムC1と同様の構成が設けられた例が示されている。
【0145】
図9には、固体高分子型燃料電池81の負極における濃度分極の増大および発電効率の低下を防止し、安定な高い出力による発電を維持できる、別の燃料電池システムC2が示されている。燃料電池システムC2は、残留アンモニアガスの除去後における水素分離部の分離膜を利用する構成になるため、内部に設けられる水素ガス製造装置A又は水素ガス供給装置Bにおいては、1次精製部15としてアンモニア吸着部を有し、2次精製部として水素分離部を有する構成が好ましく用いられる。燃料電池システムC2では、
図8に示された燃料電池システムC1における、窒素ガスが濃縮されたガスを系外に間欠的に排出させる構成に替えて、水素ガス排出ライン84から流路切替器86を介して分岐され、2次精製部19(水素分離部)の分離膜の上流側において2次精製ガスライン21に合流する水素ガス処理ライン87が設けられる。流路切替器86としては、例えば3方弁を用いることができる。水素ガス処理ライン87には、還流ポンプ88が設けられ、さらに2次精製ガスライン21に合流する手前側の部分に、調圧弁89および逆止弁90を備える。
【0146】
燃料電池システムC2では、前述の窒素ガス濃度の上昇が進み、発電効率の低下が許容レベルを超える前に、水素含有ガスが排出される方向が水素ガス処理ライン87側の方向になるように、流路切替器86により流路が切り替えられると共に、還流ポンプ88が始動される。前記循環ループ内に滞在していた、窒素ガスが濃縮された水素含有ガスは、還流ポンプ88により加圧され、水素ガス処理ライン87を経て、水素分離部19の分離膜の上流側で、1次精製ガスライン17を通る1次精製ガスと合流する。この合流の手前側の水素ガス処理ライン87の部分において、水素ガス処理ライン87内の窒素ガスが濃縮された水素含有ガスの圧力は、1次精製ガスライン中の1次精製ガスの圧力と等しくなるように、調圧弁89によって調節される。この調圧により、1次精製ガスライン17の上流方向への水素含有ガスの遡上や、一次精製ガスの水素ガス処理ライン87への流入が防止される。その後、窒素ガスが濃縮された水素含有ガスは、1次精製ガスと共に、それぞれ含有する窒素ガスが分離膜によって分離された後(その際に前記1次精製ガスは窒素ガスが分離された2次精製ガスとなる)、供給ポンプ79によって、最終ガス排出ライン61及び水素ガス供給ライン83を経て、燃料ガスとして固体高分子型燃料電池81に供給される。以上において、前記窒素ガスが濃縮された水素含有ガスが還流ポンプ88により輸送される単位時間当たり流量は、前記合流の際に、分離膜おける分離処理の能力を超えない程度に制限される必要がある。
【0147】
供給ポンプ79が供給する、2次精製ガス、および窒素ガスが除去された水素含有ガスによって、前記循環ループ内が完全に置換された時点で、循環ループ内に滞在するガス中の窒素ガス濃度は概ね初期状態(例えば約2~5体積%程度)に回復し、流路切替器68は通常時の最終ガス排出ライン61側に戻され、還流ポンプ88が停止される。ここで、前記逆止弁90は、還流ポンプ88の停止後の水素ガス処理ライン87内の圧力低下を伴う、水素ガス処理ライン87への前記1次精製ガスの流入を防止する。
【0148】
上述の一連の処理の間も、固体高分子型燃料電池81の発電を継続することが可能である。以上の、窒素ガスが濃縮されたガス中の窒素ガスを除去する燃料電池システムC2の構成により、上述の第1循環ループ内で上昇した窒素ガス濃度を、初期状態(例えば約2~5体積%程度)に回復させることができ、固体高分子型燃料電池81の負極における濃度分極の増大および発電効率の低下を阻止し、安定な高い出力による発電を維持できる。
【0149】
上述した、窒素ガスが濃縮されたガス中の窒素ガスを除去する燃料電池システムC2では、前記の燃料電池システムC1に比べて構成がやや複雑になるが、燃料電池システムC2内の機材のみを用いることによって、系外排出により損失する水素ガスの量をほぼゼロにできるという利点がある。また、この燃料電池システムC2と同様の構成は、
図10~
図18に示された燃料電池システムC3~C11に対しても、窒素ガスが濃縮されたガスを間欠的に系外に排出させる前記燃料電池システムC1と同様の構成に替えて、適用することが可能である。
【0150】
なお、上述の燃料電池システムC1および燃料電池システムC2においては、前記循環ループ内に滞在するガスの排出に際して、排出されにくいデッドボリュームを減少させるため、水素ガス排出ライン84および最終ガス排出ライン61との合流部位と、流路切替器86との間の配管長は、できるだけ短いことが好ましい。
【0151】
次に、上述の燃料電池システムC1および燃料電池システムC2において、通常の運転時の前記循環ループを形成している状態から、前記の流路切替器86を切り替え(燃料電池システムC2では同時に還流ポンプ88が始動され)、前記循環ループ内の窒素ガスが濃縮されたガスの処理に移るタイミング(以下、「処理開始時点」という)、および、同処理が完了し、前記流路切替器86を再度切替えて元に戻すタイミング(燃料電池システムC2では同時に還流ポンプ88が停止される。以下、「処理終了時点」という)について説明する。
【0152】
燃料電池システムC1および燃料電池システムC2では、発電中に、前記水素含有ガスの向かう方向が、水素ガス処理ライン87側から最終ガス排出ライン61側になるように、流路切替器86が設定された時点(この時に前記循環ループが形成されるため、以降では「循環ループ形成時点」という)から、発電の経過に伴い、前記循環ループ内に滞在するガス中の窒素ガスの濃度は、初期状態(例えば約2~5体積%程度)から次第に上昇する。この循環ループ内の窒素ガス濃度の上昇が、固体高分子型燃料電池81の負極での水素ガスの濃度分極の増大を生じさせ、発電効率を低下させる。この発電効率の低下が、許容できないレベルに達する時点が、上記「処理開始時点」となる。この「許容できないレベル」には任意性があり、発電電力の供給の対象や目的等によって、適宜想定される。想定された「許容できないレベル」まで発電効率が低下する時の前記循環ループ中の窒素ガス濃度が、許容上限の窒素ガス濃度であり、上記「処理開始時点」は、循環ループ中の窒素ガス濃度が、この許容上限の窒素ガス濃度に達する時点になる。
【0153】
循環ループ中の窒素ガス濃度は、所定の濃度検出手段を循環ループ内に設けることによって実際に監視することも可能だが、より簡便に検知できる指標を用いることが好ましい。以下、発電中、循環ループ形成時点後のある時点における、循環ループ中の窒素ガス濃度は、循環ループ内の容積(固体高分子型燃料電池81の負極の気相容積を含む)、循環ループ中の窒素ガスの初期濃度(燃料として供給される前記2次精製ガス中の窒素ガス濃度で近似され、例えば約2~5体積%程度)、および循環ループ形成時点からその時点までの、固体高分子型燃料電池81の発電電気量の関数となる。このうち、循環ループ内の容積、および循環ループ中の窒素ガスの初期濃度は、この燃料電池システムの既定値であり、定数となる。また、固体高分子型燃料電池81の出力電流は、一般に発電条件として予め設定される数値であり、かつ常時監視される。このため、固体高分子型燃料電池81の発電電気量も、出力電流の経過時間での積分値として容易に常時監視できる。以上から、前記循環ループ中の窒素ガス濃度は、循環ループ形成時点からの発電電気量および経過時間の関数となり、いずれも容易に常時監視できる。従って、発電効率の低下が前述の許容できないレベルに達した時点における、循環ループ形成時点からの発電電気量および経過時間を、それぞれの所定値として実験によって予め求めておけば、前記の許容上限の窒素ガス濃度に代わる常時監視可能な指標として、これらを用いることができる。以上から、燃料電池システムC1及びC2における前記「処理開始時点」は、前記水素含有ガスの向かう方向が、最終ガス排出ライン61側から水素ガス処理ライン87側になるように流路切替器86が設定される、循環ループ形成時点からの発電電気量又は経過時間が、上記のそれぞれの所定値に達する時点として、検知される。このタイミングで、前記の流路切替器86の切り替え等を実施することができる。
【0154】
前述のように、前記「処理開始時点」において前記循環ループ内に滞在している、前記許容上限の窒素ガス濃度に達したガスに対し、燃料電池システムC1では、その全量を系外に排出することによって、また燃料電池システムC2では、その全量中に濃縮された窒素ガスを前記分離膜により分離除去することによって、循環ループ内の窒素ガス濃度を、初期状態の窒素ガス濃度(例えば約2~5体積%制度)に概ね回復させることができる。前記「処理終了時点」は、以上の処理を終了する時点である。この「処理開始時点」において前記循環ループ内に滞在する、前記許容上限の窒素ガス濃度に達したガスの質量は、次式4で概算される。
式4:
(循環ループ内に滞在する許容上限の窒素ガス濃度のガスの質量[kg])
≒(循環ループ容積[m3])×(循環ループ内圧・温度でのガス密度[kg/m3])
≒(循環ループ容積[m3])×(循環ループ内圧・温度での窒素ガス密度[kg/m3])
【0155】
式4の右辺において、「循環ループ内圧・温度でのガス密度」は、循環ループの内圧及び温度での許容上限の窒素ガス濃度のガスの密度である。窒素ガスは水素ガスに比べて密度が一桁以上大きいため、例えば窒素ガス濃度が20~30体積%程度に上昇すると、そのガス密度においては、窒素ガス密度の寄与が支配的になる。このため、許容上限の窒素ガス濃度の実際の値は不詳だが、ここでは純窒素ガスの密度で近似されると仮定する。さらに、循環ループの内圧及び温度での窒素ガス密度は、次式5で求められる。
【0156】
式5:
(循環ループ内圧・温度での窒素ガス密度[kg/m3])
=(標準状態0.1013MPa,0℃での窒素ガス密度1.250[kg/m3])
×273.2/(273.2+循環ループ内温度[℃])
×(循環ループ内圧[MPa])/(0.1013[MPa])
【0157】
式5において、循環ループ内圧は調圧器85の1次側圧力で近似でき、また循環ループ内温度も、一般に監視されることが多い固体高分子型燃料電池内部の温度で近似できる。従って、式4および式5から、循環ループ内に滞在する許容上限の窒素ガス濃度のガスの質量の近似値が算出される。燃料電池システムC1及びC2において、上記の循環ループ内に滞在する許容上限の窒素ガス濃度の窒素ガスを含む水素含有ガスの処理を行う際には、前記水素ガス処理ライン87における該ガスの単位時間当たり質量流量は、例えばマスフローメータ等を設けることによって計測できる(図示されていない)。式4、5によって概算された循環ループ内に滞在する許容上限の窒素ガス濃度の該ガスの質量に対し、例えばその2倍程度の量を目安として、これを計測された単位時間当たり質量流量で除して得られる時間にわたって上記の処理を行えば、該処理が概ね終了すると推定される。これを「処理終了時点」と見做し、このタイミングで前記の流路切替器86の再切り替え等を実施することができる。
【0158】
(移動体)
次に、実施形態の移動体について説明する。
移動体は、上述の燃料電池システムCと、モータと、を備える。
【0159】
モータは、固体高分子型燃料電池(PEFC)の発電により生成した電力が供給されることにより駆動し、移動体を推進させる動力を生成する装置である。モータは、燃料電池システムCの負極及び正極と接続される負荷である。モータは、好ましくはセルスタックを構成する固体高分子型燃料電池(PEFC)の負極側端子及び正極側端子と接続される。モータは、固体高分子型燃料電池(PEFC)から電力が供給されると、モータを駆動(例えば回転型モータでは回転軸を回転、リニア型モータでは直線移動)させて機械的動力を出力する。
【0160】
移動体は、さらに、モータ及び固体高分子型燃料電池(PEFC)に接続された2次電池を備えることが好ましい。2次電池は一般に、モータ及び固体高分子型燃料電池(PEFC)に対して並列に接続され、固体高分子型燃料電池(PEFC)によりモータを駆動しながら2次電池への充電も同時に行える、浮動充電の構成が採用されることが多い(これらは図示されていない)。これにより、固体高分子型燃料電池(PEFC)の出力やモータの回転数が変動しても、モータに供給される電力を安定させることができる。
【0161】
移動体は、例えば、航空機、ヘリコプター、ドローン等の空域の移動体、車両(乗用車、トラック、バス等)、鉄道車両、荷役機械等の陸域の移動体、および船舶等の水域の移動体である。移動体は、モータから出力された機械的動力が伝達されることより駆動して、移動体を推進させる駆動体をさらに備える。駆動体は、例えば航空機、ヘリコプター、ドローン等の空域の移動体ではこれらの飛行を推進するプロペラやロータ等であり、車両(乗用車、トラック、バス等)、鉄道車両、荷役機械等の陸域の移動体ではこれらの移動を推進する車輪やキャタピラ等であり、船舶等の水域の移動体ではこれらの航行を推進するスクリュやウォータージェット機構等である。
【0162】
移動体は、水素ガス製造装置A又は水素ガス供給装置Bから排出される2次精製ガスの少なくとも一部を貯留するタンク(上述した高圧水素タンク)をさらに備えていてもよい。
【0163】
燃料電池システムCのタンク1は、例えば、移動体の積荷や燃料として液化アンモニアを充填し、移動体に搭載されたものであってもよい。
【0164】
(水素ガス製造方法)
次に、実施形態の水素ガス製造方法について説明する。
実施形態の水素ガス製造方法は、液化アンモニアを原料として供給しながら、供給される液化アンモニア、液化アンモニアを気化させたアンモニアガス、アンモニアガスを分解して得た分解ガス、分解ガスを精製した精製ガスを一方向に順次流して水素ガスを製造する方法である。
【0165】
水素ガス製造方法は、以下のステップS1~S7を備える。
・液化アンモニアを貯蔵したタンクから液化アンモニアを下流側に導き、気化させてアンモニアガスにするステップS1。
・気化したアンモニアガスを分解用温度に加熱するステップS2。
・分解用温度に加熱されたアンモニアガスを触媒に接触させて分解し、水素ガス、窒素ガス及び残留アンモニアガスを含む分解ガスを生成させるステップS3。
・分解ガスを冷却するステップS4。
・冷却された分解ガスから残留アンモニアガス及び窒素ガスの一方を除去し1次精製ガスを生成するステップS5。
・1次精製ガスから残留アンモニアガス及び窒素ガスの他方を除去し2次精製ガスを生成するステップS6。
・分離膜を透過した水素ガスを含む前記精製ガスを吸い込んで下流側に排出することで上流側の当該精製ガスの圧力を減圧するステップS7。
【0166】
1次精製ガスを生成するステップS5及び2次精製ガスを生成するステップS6のうち残留アンモニアガスを除去する方のステップは、残留アンモニアガスを吸着させる吸着剤を用いて残留アンモニアガスを吸着剤に吸着させるステップである。
1次精製ガスを生成するステップS5及び2次精製ガスを生成するステップS6のうち窒素ガスを除去する方のステップは、分離膜を用いて、分離膜の上流側と下流側の間につくられた差圧により水素ガスを選択的に透過させて水素ガスを窒素ガスから分離するステップである。
【0167】
減圧するステップS7において前記減圧(減圧排気)が行われることにより、タンクから分離膜の下流側にかけて、液化アンモニア、アンモニアガス、分解ガス、1次精製ガスおよび2次精製ガスが下流側に流れるよう、タンク内の蒸気圧と、分離膜の下流側の圧力との間に圧力差が形成される。前記差圧は、減圧排気によって生じる、分離膜の上流側及び下流側の間の圧力降下として形成される。すなわち、前記圧力差の一部として前記差圧が形成される実施形態の水素ガス製造方法は、例えば、上述の水素ガス製造装置A、水素ガス供給装置B、燃料電池システムCのいずれかを用いて行うことができる。
【0168】
実施形態の水素ガス製造方法によれば、液化アンモニアを原料として供給しながら水素ガスを製造する際に、液化アンモニアのタンク内の蒸気圧と、分離膜の下流側の圧力との圧力差を設けることで、液化アンモニアを原料として順次生成されるガスが滞ることなく下流側に流れるようにし、その圧力差の一部として分離膜の上流側と下流側の間の差圧を形成することにより、上記圧力差を形成するための減圧機とは別の減圧機を上記差圧の形成のために用いる必要がない。加えて、高圧の圧縮機(例えば1MPa以上の加圧を行うもの)を用いることなく水素ガスの分離(窒素ガスの除去)を行うことができ、それにより消費される動力が少ない。また、小型で簡素な設備で水素ガスを製造することができる。
【0169】
以上、本発明の水素ガス製造装置、水素ガス供給装置、燃料電池システム、移動体、及び水素ガス製造方法について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0170】
1 タンク
1a 保温用加熱器
3 原料アンモニアライン
4 供給弁
5 気化器
6 流量調節器
7 昇温用加熱器
9 アンモニア分解部
10 外気導入ライン
11 分解ガスライン
13 冷却器
15 1次精製部(
図4以外の図に示すアンモニア吸着部)
15A、15B、15X、15Y アンモニア吸着器
15a 接続ライン
17 1次精製ガスライン
17a 加圧機
18 上流側調圧器
19 2次精製部(
図4以外の図に示す水素分離部)
20 下流側調圧器
21 2次精製ガスライン
22 減圧機
23 窒素ガス排出ライン
24 窒素排出調圧器
25 第1熱交換器
27 第2冷却器
28 再生処理用ガスライン
29 燃焼器
30 分岐ガスライン
31 燃焼ガスライン
32 外気導入ライン
33 第2熱交換器
35 再生用加熱器
37、37A、37B 不活性ガス導入ライン
37c 供給口
39、39A、39B 脱離アンモニア排出ライン
41 再液化部
42 圧縮機
43 冷却器
61 最終ガス排出ライン
62 第4冷却器
63 精製ガスタンク
65 加圧機
67 一組の切替弁
67a、67b、67c 弁
69 第3冷却器
79 精製ガス供給ポンプ
81 固体高分子型燃料電池
83 精製ガス供給ライン
84 水素含有ガス排出ライン
86 流路切替器
88 還流ポンプ
87 水素含有ガス処理ライン91 外部負荷
【要約】
【課題】液化アンモニアを原料として順次生成されるガスが滞ることなく下流側に流れるようにし、分離膜の上流側と下流側の間の差圧を形成するための減圧機を別途必要とせず、高圧の圧縮機を用いることなく窒素除去を行うことができ、それにより消費される動力が少なく、小型で簡素な水素ガス製造装置を提供する。
【解決手段】実施形態の水素ガス製造装置は、液化アンモニアのタンクと、アンモニアガスの分解ガスから、残留アンモニアガス及び窒素ガスを除去する1次精製部及び2次精製部と、減圧機とを備える。窒素ガスが除去される精製部の分離膜は、分離膜の上流側と下流側の間の差圧により水素ガスを窒素ガスから分離する。減圧機は、水素ガスが流れる精製ガスラインに設けられ、減圧機の上流側を減圧する。前記差圧は、タンク内圧と減圧機の上流側の圧力との間に形成された圧力差の一部として形成される。
【選択図】
図1