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  • 特許-抗体分析方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】抗体分析方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/00 20060101AFI20241212BHJP
   B01J 20/281 20060101ALI20241212BHJP
   G01N 30/86 20060101ALI20241212BHJP
   C07K 17/00 20060101ALI20241212BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20241212BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20241212BHJP
   C07K 14/735 20060101ALI20241212BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20241212BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20241212BHJP
【FI】
C07K16/00
B01J20/281 R ZNA
G01N30/86 M
C07K17/00
G01N33/50 U
G01N33/68
C07K14/735
G01N30/88 J
C12N15/13
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020206008
(22)【出願日】2020-12-11
(65)【公開番号】P2022092978
(43)【公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 泰之
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/244901(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/084032(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/004583(WO,A1)
【文献】特開2018-197224(JP,A)
【文献】特開2015-083558(JP,A)
【文献】Scientific Reports,2018年,Vol.8,3955
【文献】Biotechnology Progress,2020年,Vol. 36,e3016
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00-96
B01J 20/281-292
C07K 14/00-14/825
C12N 15/00-90
C07K 16/00
C07K 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液由来試料中に含まれる抗体の分析方法であって、
(1)血液由来試料を、Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体を充填したカラムに供し、当該試料中に含まれる抗体を分離することで前記抗体の分離パターンを得る工程;
(2)リツキシマブを含む試料を前記カラムに供し、当該試料中に含まれるリツキシマブを分離することで前記リツキシマブの分離パターンを得る工程;
(3)(2)で得られた分離パターンから各ピーク領域間の境界となる溶出時間を同定する工程;及び
(4)(3)で同定した溶出時間に基づき、(1)で得られた分離パターンにおけるピーク領域を同定する工程を、含み、
前記Fc結合性タンパク質が、配列番号1に記載の17~192番目までのアミノ酸残基からなる配列において、以下(I)~(X)のアミノ酸置換が導入されているアミノ酸配列を含み、かつ抗体結合活性を有するポリペプチドである、方法
(I)配列番号1に記載の27番目のバリンをグルタミン酸に置換
(II)配列番号1に記載の29番目のフェニルアラニンをイソロイシンに置換
(III)配列番号1に記載の35番目のチロシンをアスパラギンに置換
(IV)配列番号1に記載の48番目のグルタミンをアルギニンに置換
(V)配列番号1に記載の75番目のフェニルアラニンをロイシンに置換
(VI)配列番号1に記載の92番目のアスパラギンをセリンに置換
(VII)配列番号1に記載の117番目のバリンをグルタミン酸に置換
(VIII)配列番号1に記載の121番目のグルタミン酸をグリシンに置換
(IX)配列番号1に記載の171番目のフェニルアラニンをセリンに置換
(X)配列番号1に記載の176番目のバリンをフェニルアラニンに置換
【請求項2】
以下の(5)の工程を更に含む、請求項1に記載の方法
(5)(4)で同定したピーク領域に基づき、前記抗体に結合している糖鎖の構造を同定する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液由来試料に含まれる抗体の分析方法に関する。特に本発明は、前記抗体を精度高く分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がんや免疫疾患等の治療に抗体を含む医薬品(抗体医薬品)が用いられている。抗体医薬品に用いる抗体は、遺伝子工学的手法により創出され、当該抗体は、発現可能な細胞(例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞等)を培養した後、カラムクロマトグラフィ等を用いて高純度に精製し製造されている。しかしながら、近年の研究により、前記製造により得られた抗体は、酸化、還元、異性化、糖鎖付加等の修飾を受けることで多様な分子の集合体となっていることが判明しており、薬効や安全性への影響が懸念されている。特に、抗体に結合している糖鎖構造は、抗体医薬品の活性、動態、及び安全性に大きな影響を与えることが報告されており、詳細な糖鎖構造の解析が重要である(非特許文献1)。また、リウマチ等の疾患では、血液中の抗体に付加される糖鎖構造の変化が知られており(非特許文献2及び3)、抗体に付加された糖鎖構造を分析することで疾患を検出できる可能性がある。
【0003】
抗体の糖鎖構造を分析する方法として、糖鎖の切り出しを含むLC-MS分析(特許文献1及び2)が主に実施されている。しかしながら、前記分析方法では非常に煩雑な操作を伴い、多大な時間を要する。
【0004】
より簡便な抗体の分子構造の分析方法として、不溶性担体に固定化されたFc結合性タンパク質と抗体との親和性に基づくアフィニティクロマトグラフィ分析による方法がある。当該方法においては、抗体のFc領域に結合した糖鎖構造が、Fc結合性タンパク質との抗体との親和性に影響を与えるため、得られる分離パターン(溶出パターン、クロマトグラム)内のピーク領域に基づき、前記糖鎖構造を判定することができる(特許文献3)。
【0005】
しかしながら、血液由来試料を対象として前記分析を行なった場合、当該試料中の抗体は多様な糖鎖修飾を受けているため、例えば、図1の下段(測定サンプル)に示すとおり、抗体の分離パターンにおいて、各領域間の境界点が不明瞭となる。そのため、ピーク領域を精度高く同定し、ひいては抗体の糖鎖構造を精度高く判定することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-194500号公報
【文献】特開2016-099304号公報
【文献】WO2019/244901号
【非特許文献】
【0007】
【文献】CHROMATOGRAPHY、34(2)、83-88(2013)
【文献】Science、320、373-376(2008)
【文献】Nature Communication、7、11205(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、血液由来試料中に含まれる抗体を、Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体を用いたアフィニティクロマトグラフィで分析する際、得られる前記抗体の分離パターンから精度よくピーク領域を同定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、抗ヒトCD20ヒト・マウスキメラ抗体(リツキシマブ)を、Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体を用いたアフィニティクロマトグラフィで分析した場合、明瞭な分離パターンを得ることができ、さらにピーク間の境界における溶出時間(境界時間)が、血液由来試料中の抗体を前記アフィニティクロマトグラフィで分析した場合に得られるそれらとほぼ一致していることを明らかにした(図1)。すなわち、リツキシマブに関する明瞭な分離パターンを指標とすれば、血液由来試料中に含まれる抗体を分析した際に得られる不明瞭な分離パターンから、ピーク領域を精度高く同定できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下の[1]から[4]に記載の態様を包含する。
[1] 血液由来試料中に含まれる抗体の分析方法であって、以下の(1)から(4)の工程を含む、方法
(1)血液由来試料を、Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体を充填したカラムに供し、当該試料中に含まれる抗体を分離することで前記抗体の分離パターンを得る工程;
(2)リツキシマブを含む試料を前記カラムに供し、当該試料中に含まれるリツキシマブを分離することで前記リツキシマブの分離パターンを得る工程;
(3)(2)で得られた分離パターンから各ピーク領域間の境界となる溶出時間を同定する工程;
(4)(3)で同定した溶出時間に基づき、(1)で得られた分離パターンにおけるピーク領域を同定する工程。
[2] 以下の(5)の工程を更に含む、[1]に記載の方法
(5)(4)で同定したピーク領域に基づき、前記抗体に結合している糖鎖の構造を同定する工程。
[3] Fc結合性タンパク質がFcγRIIIaである、[1]又は[2]に記載の方法。
[4] Fc結合性タンパク質が以下の(1)から(3)のいずれかから選択されるポリペプチドである、[1]又は[2]に記載の方法:
(1)配列番号1に記載の17~192番目までのアミノ酸残基からなる配列を含み、当該アミノ酸配列において、少なくとも配列番号1に記載の176番目のバリンがフェニルアラニンに置換されているポリペプチド;
(2)配列番号1に記載の17~192番目までのアミノ酸残基からなる配列を含み、当該アミノ酸配列において、少なくとも配列番号1に記載の176番目のバリンがフェニルアラニンに置換され、さらに当該176番目以外の1若しくは数個の位置にて、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド;
(3)配列番号1に記載の17~192番目までのアミノ酸残基からなる配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列において、配列番号1に記載の176番目のバリンに相当するアミノ酸残基がフェニルアラニンに置換されており、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、血液由来試料中に含まれる抗体を、Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体を用いたアフィニティクロマトグラフィで分析する際、前記分析で得られた前記抗体の分離パターンから精度よくピーク領域を同定することが可能となる。これにより、血液由来試料に含まれる抗体のピークの同定を自動化することができ、プログラムにより機械的にピークを同定することで客観性を確保することができるため、測定機器や場所、作業者等に依存せず同一の結果を求めることが可能となる。さらにまた、このようにして同定されたピーク領域に基づき、血液由来試料中の抗体に結合している糖鎖の構造等を同定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】Fc結合性タンパク質固定化ゲル充填カラムで、リツキシマブを分析して得られる分離パターンと、血液由来試料に含まれていた抗体の分離パターンとを示し、リツキシマブの分離パターンに基づき、前記抗体のピーク領域を判定した結果を示す図である。
図2】Fc結合性タンパク質固定化ゲル充填カラムでヒトミエローマ血漿由来IgG1を分析して得られる分離パターンと、血液由来試料に含まれていた抗体の分離パターンとを示し、ヒトミエローマ血漿由来IgG1の分離パターンに基づき、前記抗体のピーク領域を判定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明は、血液由来試料中に含まれる抗体の分析方法であって、以下の(1)から(4)の工程を含む、方法に関する。
(1)血液由来試料を、Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体を充填したカラムに供し、当該試料中に含まれる抗体を分離することで前記抗体の分離パターンを得る工程;
(2)リツキシマブを含む試料を前記カラムに供し、当該試料中に含まれるリツキシマブを分離することで前記リツキシマブの分離パターンを得る工程;
(3)(2)で得られた分離パターンから各ピーク領域間の境界となる溶出時間を同定する工程;
(4)(3)で同定した溶出時間に基づき、(1)で得られた分離パターンにおけるピーク領域を同定する工程。
【0014】
(血液由来試料)
本発明において「血液由来試料」とは、血液(全血)又はその成分を含むものであって、抗体を含む又は含み得る溶液のことである。当該溶液の形態としては、下記に示す、血液、尿等の体液そのものであってもよい。
血液(全血)、希釈血液、血清、血漿、髄液、臍帯血、成分採血液等の血液検体;
尿、唾液、精液、糞便、痰、羊水、腹水等の血液由来成分を含み得る検体。
また、これら体液から、分離された前記タンパク質又はそれらに含有する前記タンパク質を含み得る緩衝液の形態であってもよい。
【0015】
これら血液由来試料は、後述の本発明の方法に、直接評価に用いてもよく、適宜前処理をしたのち用いてもよい。前処理としては、定法から適宜選択して行うことができる。定法としては、遠心分離、カラムによる精製等が挙げられる。
【0016】
血液由来試料を単離され、本発明の対象となる「被検者」は、本発明の方法の対象となる個体を示し、特に制限はなく、ヒトのみならず、非ヒト動物であってもよい。かかる被検者として、例えば脊椎動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくは霊長類(ヒト、サル、チンパンジー、オランウータン、ゴリラ等)、有蹄類(ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等)、げっ歯類(マウス、ラット、モルモット等)が挙げられるが、通常ヒトである。被検者は男性でもよく女性でもよい。また子供、若者、中年、老人等、いずれの年代の個体であってもよい。さらに健常者であってもよく、そうでなくてもよい。
【0017】
本発明における血液由来試料に含まれる抗体は、ガンマグロブリン、免疫グロブリンとも称され、少なくとも糖鎖が付加されたFc領域を含んでいればよい。抗体は、IgG、IgM、IgA、IgD、IgE、いずれであってもよい。ただし、後述の抗体を分離するために用いられるFc結合性タンパク質としてFcレセプターを用いる場合は、当該レセプターに対応した抗体である必要がある。例えば、Fc結合性タンパク質としてヒトFcγレセプターを用いる場合は、対象抗体はヒトIgGである。なお前記IgGは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、いずれであってもよい。
【0018】
(リツキシマブ)
本発明の方法において、前述の血液由来試料中に含まれる抗体を分析した際に得られる不明瞭な分離パターンから、ピーク領域を精度高く同定するための指標として用いられる「リツキシマブ」は、抗ヒトCD20ヒト・マウスキメラ抗体からなるモノクローナル抗体であり、以下の番号にて識別される抗体である。
CAS番号:174722-31-7
ATCコード:L01XC02
DrugBank:DB00073
UNII:4F4X42SYQ6
KEGG:D02994
ChEMBL:CHEMBL1201576。
リツキシマブは、医薬品として販売されている(例えば、全薬工業及び中外製薬から、販売名:リツキサンとして販売されている)ので、購入することにより入手できる。
【0019】
本発明の方法に供される、リツキシマブを含む試料としては、特に制限はないが、Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体に効率よく結合するという観点から、後述の平衡化液で置換または希釈されたリツキシマブを含む試料が好ましい。
【0020】
(Fc結合性タンパク質)
本発明の方法において、前述の血液由来試料から抗体を分離するために用いられる「Fc結合性タンパク質」とは、試料中に含まれる抗体のFc領域に対する結合能を有し、かつ抗体の糖鎖構造(例えば、Fc領域の糖鎖構造)の違いを認識できるポリペプチドであれば、特に制限はない。例えば、前記抗体がヒト由来の抗体である場合、Fc結合性タンパク質として、ヒトFc結合性タンパク質が挙げられる。ヒトFc結合性タンパク質の好ましい例として、ヒトFcレセプターが挙げられる。ヒトFcレセプターには、ヒト免疫グロブリンG(IgG)に対するレセプターであるヒトFcγレセプター、ヒト免疫グロブリンA(IgA)に対するレセプターであるヒトFcαレセプター、ヒト免疫グロブリンD(IgD)に対するレセプターであるヒトFcδレセプター、ヒト免疫グロブリンE(IgE)に対するレセプターであるヒトFcεレセプター等が挙げられるが、いずれのレセプターも本発明におけるヒトFc結合性タンパク質として利用可能である。
【0021】
ヒトFcγレセプターの具体例として、ヒトFcγRI(CD64)、ヒトFcγRIIa(CD32a)、ヒトFcγRIIb(CD32b)、ヒトFcγRIIc(CD32c)、ヒトFcγRIIIa(CD16a)又はヒトFcγRIIIb(CD16b)の細胞外領域の部分配列を少なくとも含むポリペプチド、並びに当該ポリペプチドを構成するアミノ酸残基の一部を置換、欠失、挿入及び/又は付加したポリペプチドが挙げられる。中でも、ヒトFcγRIIIaの細胞外領域の部分配列を少なくとも含むポリペプチドや、当該ポリペプチドを構成するアミノ酸残基の一部を置換、欠失、挿入及び/又は付加したポリペプチドが、本発明でヒトFc結合性タンパク質として用いるヒトFcγレセプターとして好ましい。
【0022】
ヒトFcγRIIIaの細胞外領域の部分配列を少なくとも含むポリペプチドや、当該ポリペプチドを構成するアミノ酸残基の一部を置換、欠失、挿入及び/又は付加したポリペプチドの具体例として、以下の(1)から(3)に記載のポリペプチドが挙げられる。
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列の17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、当該アミノ酸配列において、少なくとも176番目のバリンがフェニルアラニンに置換されているポリペプチド;
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列の17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、当該アミノ酸配列において、少なくとも176番目のバリンがフェニルアラニンに置換され、さらに176番目以外の1若しくは数個の位置にて、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド;
(3)配列番号1に記載の17~192番目までのアミノ酸残基からなる配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列において、配列番号1の176番目のバリンに相当するアミノ酸残基がフェニルアラニンに置換されており、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド。
【0023】
前記(1)に記載のポリペプチドの一例として、配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目から199番目までのアミノ酸残基を含むポリペプチドや、特開2018-197224号公報に開示のポリペプチド(Fc結合性タンパク質)が挙げられる。
【0024】
前記(2)に記載の置換、欠失、挿入又は付加の例として、特開2015-086216号公報、特開2016-169167号公報、及び特開2017-118871号公報に開示されているアミノ酸残基の置換等が挙げられる。
【0025】
前記(3)において相同性とは、類似性(similarity)又は同一性(identity)を意味し、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)等のアラインメントプログラムを用いて決定できる。例えば、「アミノ酸配列の同一性」とは、blastpを用いて算出されるアミノ酸配列間の同一性を意味してよく、具体的には、blastpをデフォルトのパラメータで用いて算出されるアミノ酸配列間の同一性を意味してもよい。相同性は70%以上であればよく、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上(例えば、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の相同性を有していてもよい。
【0026】
また、本発明において、各アミノ酸残基の「何番目」とは、各配列番号に記載のアミノ酸配列において最初のメチオニンを1番目とする順番を意味する。したがって、本発明にかかる「176番目」とは、配列番号1に記載のアミノ酸配列の176番目を意味する。さらに、「配列番号1の176番目のバリンに相当するアミノ酸残基」とは、前記70%以上の相同性を有するアミノ酸配列におけるアミノ酸残基であって、当該アミノ酸配列と配列番号1に記載の17~192番目までのアミノ酸残基からなる配列とのアラインメントにおいて、配列番号1に示すアミノ酸配列における176番目のバリンと同一の位置に配列されるアミノ酸残基を意味する。
【0027】
(不溶性担体)
本発明において、上述の血液由来試料から抗体を分離するために、前述のFc結合性タンパク質は、不溶性担体に固定化して用いられる。「不溶性担体」とは、当該担体を充填したカラムに通液される液体(例えば、平衡化液や溶出液等の、抗体の吸着又は溶出に用いる液体)に対して不溶性の担体を意味し、Fc結合性タンパク質を共有結合で固定化するための官能基(例えばヒドロキシ基)を備えていることが望ましい。不溶性担体としては、ジルコニア、ゼオライト、シリカ、皮膜シリカ等の無機系物質に由来した担体、セルロース、アガロース、デキストラン等の天然有機高分子物質に由来した担体、ポリアクリル酸、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリメタクリレート、ビニルポリマー等の合成有機高分子物質に由来した担体が挙げられる。
【0028】
Fc結合性タンパク質の不溶性担体への固定化は、例えば、当該担体表面に有する、Fc結合性タンパク質と共有結合で固定化可能な官能基を利用して固定化できる。より具体的に、不溶性担体表面にヒドロキシ基を有している場合、活性化剤を用いて当該ヒドロキシ基からFc結合性タンパク質と共有結合可能な活性化基を形成することで、当該活性化基とFc結合性タンパク質とを共有結合できる。ヒドロキシ基に対する活性化剤の具体例として、エピクロロヒドリン(活性化基としてエポキシ基を形成)、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(活性化基としてエポキシ基を形成)、トレシルクロリド(活性化基としてトレシル基を形成)、ビニルブロミド(活性化基としてビニル基を形成)が挙げられる。また、ヒドロキシ基をアミノ基やカルボキシ基等に変換した後、活性化剤を作用させて活性化することもできる。アミノ基やカルボキシ基等に対する活性化剤の具体例として、3-マレイミドプロピオン酸N-スクシンイミジル(活性化基としてマレイミド基を形成)、1,1’-カルボニルジイミダゾール(活性化基としてカルボニルイミダゾール基を形成)、ハロゲン化酢酸(活性化基としてハロゲン化アセチル基を形成)が挙げられる。
【0029】
(血液由来試料中に含まれる抗体の分析方法)
本発明の方法においては、(1)血液由来試料を、Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体を充填したカラムに供し、当該試料中に含まれる抗体を分離することで前記抗体の分離パターンを得る工程と、(2)リツキシマブを含む試料を前記カラムに供し、当該試料中に含まれるリツキシマブを分離することで前記リツキシマブの分離パターンを得る工程とを行う。
【0030】
これら工程(1)及び(2)において、分離パターンは、以下の(a)及び(b)の工程を行うことによって、得ることができる。
(a)Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体を充填したカラムに試料を添加し、当該試料中に含まれる抗体を前記担体に吸着させる工程(以下、「吸着工程」とも表記する);
(b)前記担体に吸着した抗体を溶出液を用いて溶出させ、抗体の分離パターンを得る工程(以下、「分離工程」とも表記する)。
【0031】
以下、各工程を詳細に説明する。
【0032】
(a)吸着工程
本工程は、Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体を充填したカラムに抗体を含む試料を添加し、当該抗体を前記担体に吸着させる工程である。
【0033】
本工程に供される試料は、上述の血液由来試料又はリツキシマブを含む試料である。なお、試料は、適宜液体媒体で溶解、懸濁、分散、又は溶媒交換等した後、カラムに添加してもよい。前記液体媒体の例として、後述する平衡化液が挙げられる。
【0034】
Fc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体を充填したカラムへの、試料の添加は、例えば、ポンプ等の送液手段を用いて添加すればよい(以降、本明細書では、液体をカラムに添加することを「液体をカラムに送液する」とも表記する)。試料の添加(送液)量、液相の種類、液相の送液速度、カラム温度等の吸着工程の実施条件は、抗体が前記担体に吸着される限り、特に制限されない。吸着工程の実施条件は、抗体の種類、Fc結合性タンパク質の種類、不溶性担体の種類、カラムのスケール等の諸条件に応じて適宜設定できる。液相としては、後述する平衡化液が例示できる。送液速度は、例えば、カラムの内径が4.6mmの場合に、0.1mL/分から2.0mL/分、0.2mL/分から1.5mL/分、又は0.4mL/分から1.2mL/分であってよい。送液速度は、例えば、カラムの内径の2乗に比例するように設定すればよい。カラム温度は、0℃から50℃の範囲で適宜設定すればよい。
【0035】
本工程前及び/又は本工程後に、平衡化液をカラムに添加(送液)する平衡化工程をさらに実施してもよい。特に本工程後に平衡化工程を実施すると、Fc結合性タンパク質に結合しない抗体や、試料雰囲気下では前記タンパク質に結合するが平衡化緩衝液雰囲気下では結合しない抗体を、カラムから排除できる点で好ましい(前記排除される、抗体を含む画分のことを、本明細書では「未吸着画分」とも表記する)。未吸着画分は、後述する分離パターンにおいて、試料をカラムに添加(送液)後、検出されるピークが平衡化工程中に最小値を取るまでの領域の画分のことをいう。未吸着画分と、後述する分離工程で、溶出液添加後に検出されるピークとは溶出時間として離れているほうが分離精度が高く、好ましい。特に未吸着画分と溶出液添加後に検出されるピーク領域との間の検出値が一定値を取っていると、平衡化工程により未吸着画分がカラムから十分に除かれたことがわかり好ましい。ここでいう一定値とは同一の値以外にも検出値が一定の傾きをもって変化する状態をも含める。
【0036】
平衡化液の例として水性緩衝液が挙げられる。具体的にはpH5.0から8.0の弱酸性から弱アルカリ性緩衝液が例示できる。緩衝液の成分は、緩衝液のpH等の諸条件に応じて適宜選択できる。緩衝液の成分としては、リン酸、酢酸、ギ酸、MES(2-Morpholinoethanesulfonic acid)、MOPS(3-Morpholinopropanesulfonic acid)、クエン酸、コハク酸、グリシン、ピペラジンが例示できる。なお前記緩衝液に、塩化ナトリウムや塩化カリウム等の塩をさらに添加してもよい。当該塩は、同業者が容易に想定し得る塩であれば特に限定されない。
【0037】
(b)分離工程
本工程は、前記(a)の工程で不溶性担体に吸着した抗体を、溶出液を用いて溶出させ、当該抗体の分離パターンを得る工程である。すなわち、カラムに溶出液を添加(送液)することで、担体に吸着した抗体を溶出できる。溶出液の種類、溶出液の送液形式、液相の送液速度、カラム温度等の溶出工程の実施条件は、所望の態様で抗体が分離される限り、例えば、所望の分離パターンが得られる限り、特に制限されない。溶出工程の実施条件は、抗体の種類、Fc結合性タンパク質の種類、不溶性担体の種類、カラムのスケール等の諸条件に応じて適宜設定できる。溶出液としては、抗体とFc結合性タンパク質との親和性を弱めるものを用いればよく、例えば、溶出前の液相(より具体的には、平衡化工程を行なう場合は当該工程で用いた平衡化液)よりもpHが酸性側の水性緩衝液が挙げられる。具体例として、溶出前の液相(例えば、平衡化液)がpH5.0からpH8.0の弱酸性から弱アルカリ性緩衝液である場合は、pH2.5からpH4.5の酸性緩衝液を溶出液として用いればよい。緩衝液の成分は、緩衝液のpH等の諸条件に応じて適宜選択できる。緩衝液の成分としては、リン酸、酢酸、ギ酸、MES(2-Morpholinoethanesulfonic acid)、MOPS(3-Morpholinopropanesulfonic acid)、クエン酸、コハク酸、グリシン、ピペラジンが挙げられる。溶出液の送液形式は、液相中の溶出液の比率を連続的に変化させて溶出させるリニアグラジエント(linear gradient)溶出であってもよく、前記比率を段階的に変化させて溶出させるステップワイズ(stepwise)溶出であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。グラジエントは、例えば、10分から60分、15分から50分、又は20分から40分で液相中の溶出液の比率が0%(v/v)から100%(v/v)に増大するように設定すればよい。送液速度は、例えば、カラムの内径が4.6mmの場合に、0.1mL/分から2.0mL/分、0.2mL/分から1.5mL/分、又は0.4mL/分から1.2mL/分であってよい。送液速度は、例えば、カラムの内径の2乗に比例するように設定してよい。カラム温度は、例えば、0℃から50℃の範囲で適宜設定すればよい。
【0038】
カラムから溶出した抗体を検出器を用いて検出することで、抗体の分離パターンが得られる。前記検出器としては、UV検出器や質量検出器が例示できる。抗体の分離パターンとしては、抗体の溶出時のクロマトグラムが例示できる。検出器による測定データの取得間隔は任意の時間間隔でよいが、時間間隔が広がることで抗体の分離パターンの本来の特徴をクロマトグラムに反映する際の精度が低下するため、時間間隔は1分以下が好ましく、10秒以下がさらに好ましく、さらに2秒以下が特により好ましい。
【0039】
本工程により、試料中に含まれる抗体が分離された態様で得られる。分離された抗体は、例えば、当該抗体を含有する溶出画分として得てもよい。すなわち、分離された抗体を含有する溶出画分を分取することにより、分離された抗体が得られる。溶出画分は、例えば、常法により分取できる。溶出画分は、具体的には、例えば、オートサンプラー等の自動フラクションコレクター等により分取できる。さらに、分離された抗体を溶出画分から回収してもよい。分離された抗体は、例えば、常法により溶出画分から回収できる。分離された抗体は、具体的には、例えば、タンパク質の分離精製に用いられる公知の方法により溶出画分から回収できる。
【0040】
本発明の分析方法は、前記(b)の工程により得られたリツキシマブの分離パターンを基に、血液由来試料に含まれる抗体の分離パターンのピーク領域を同定することを特徴としている。
【0041】
より具体的に、本発明の方法は、(3)前記(2)で得られた分離パターンから各ピーク領域間の境界となる溶出時間を同定し、(4)(3)で同定した溶出時間に基づき、前記(1)で得られた分離パターンにおけるピーク領域を同定することによって、血液由来試料中に含まれる抗体を分析する。
【0042】
本発明における分離パターンのピークとは、具体的には、ピーク面積、ピーク溶出時間、ピーク幅、ピーク検出数、ピーク高さが挙げられ、特に本発明において同定するピークとは、ピーク溶出時間、ピーク幅、ピーク検出数が挙げられる。抗体の分離パターンは、そのまま、あるいは適宜、ベースラインの補正等の補正を実施してから、ピークの抽出に用いてよい。ピークは、絶対値であってもよく、相対値であってもよい。相対値としては、任意の溶出時間を任意の値として用いてもよく、例えば溶出開始した時間を0としてもよく、溶出液を導入した合計時間に対する比率や差分であってもよい。
【0043】
本発明における「第1~第3ピーク」とは、それぞれ、特記しない限り、溶出の開始後(例えば、グラジエントの開始後)に1~3番目に溶出するピークを意味してよい。なお、ピークは、特に、ピーク面積%が1%以上のものであってもよい。言い換えると、「第1~第3ピーク」とは、特に、それぞれ、溶出の開始後に1~3番目に溶出する、ピーク面積%が1%以上のピークを意味してもよい。「ピーク面積%」とは、各ピーク(ピーク領域)の面積を、全ピークの面積で割った値(百分率)を意味する。
【0044】
本発明における「ピーク領域」とは、前述のピークを有し、特定の溶出時間に挟まれた検出値の範囲のことをいう。例えば、第1ピーク領域とは、第1及び第2ピークの境界となる溶出時間(以下、境界時間とも記載)と当該境界時間より前の溶出時間の任意の値との間の検出値の領域のことをいう。前記溶出時間の任意の値とは、ベースライン補正を行った際の基準点であってもよく、溶出の開始時間であってもよく特に限定されないが、当該カラムに充填したFc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体に結合しない非吸着画分のピークから、当該担体に結合した抗体由来の分離ピークが得られるまでの間に設定すると好ましい。また、第2ピーク領域とは、第1及び第2ピークの境界時間と第2及び第3ピークの境界時間との間の検出値の領域のことをいい、第3ピーク領域とは、第2及び第3ピークの境界時間と当該境界時間より後の溶出時間の任意の値との間の検出値の領域のことをいう。前記溶出時間の任意の値とは、ベースライン補正を行った際の基準点であってもよく、溶出の終了時間であってもよく特に限定されないが、前記カラムに充填したFc結合性タンパク質を固定化した不溶性担体に結合した抗体由来の分離ピークが得られた後の時間から、前記カラムを溶出液で洗浄後、平衡化液に切り替えて当該カラムを平衡化する際、当該切り替わりに伴い発生する、検出値の変動が得られるまでの間に設定すると好ましい。
【0045】
本発明におけるリツキシマブのピーク領域の決定の方法としては、定法を用いればよく、例えば目視でピーク領域の境界時間を定めてもよいが、プログラム言語によってピーク領域の境界時間を識別可能な、各ピークトップ間に挟まれた領域において検出値が最小値を示す溶出時間を各ピークの境界時間とする方法、又は各ピークトップ間に挟まれた領域において検出値を示すクロマトグラムを微分することによって得られる導関数の符号が変化する溶出時間を境界時間とする方法であれば、ピーク領域の定義の自動化が可能となり、作業者間での差異も抑制できるため特に好ましい。
【0046】
リツキシマブのピーク領域を定める際に使用する各ピーク領域間の境界時間を、血液由来試料に含まれる抗体の分離パターンに適用することで、当該抗体のピークを同定することができる。リツキシマブの分離パターンは、前記抗体の測定前又は測定後に測定してよく、前記抗体の測定の直前又は直後に測定した値を基にピークの同定を行うと精度高く当該抗体のピークを同定することができるため好ましい。また、抗体の分離パターンを標準物質を基に溶出時間を補正した後に、血液由来試料に含まれる抗体のピークを同定する工程を行うと、当該溶出時間を補正したリツキシマブの分離パターンから得られるピークの境界時間を固定値として用いることができ、前記抗体の測定に合わせてリツキシマブの分離パターンを都度測定する必要がなくなるため、特により好ましい。前記溶出時間を補正することで、カラムのロット間、装置間、平衡化液及び/又は溶出液の組成の違いにおいても、別に定めたリツキシマブのピーク境界時間を用いることができるため、簡便に血液由来試料に含まれる抗体のピーク領域の同定が可能となる。
【0047】
そして、このようにして同定されたピーク領域によって、血液由来試料に含まれる抗体、に結合したN結合型糖鎖の糖鎖構造の違い等を識別できる(特許文献:WO2019/244901号)。前記識別可能な糖鎖構造としてN結合型糖鎖を構成するシアル酸、ガラクトース、マンノース、N―アセチルグルコサミン、フコースが挙げられ、糖鎖構造の一例として、G0、G0F、G1、G0F+GN、G1Fa、G1Fb、G1F+GN、G2、G2F、G1F+SA、G2F+SA、G2F+2SA、G2F+GN、G2+SA、G2+2SA、S1、S2、S3等が挙げられる。
【実施例
【0048】
以下、実施例及び比較例を参照して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら例に限定されるものではない。
【0049】
<アフィニティクロマトグラフィカラム(FcR9_Fカラム)の作製>
特開2018-197224号公報の方法で得られたFc結合性タンパク質FcR9_F_Cysを、以下に示す方法でゲルに固定化し、FcR9_Fカラムを作製した。なお、FcR9_F_Cys(配列番号2に記載のアミノ酸配列)において、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までが改良PelBシグナルペプチドであり、24番目のグリシン(Gly)から199番目のグルタミン(Gln)までがFc結合性タンパク質FcR9_F(特開2018-197224号公報)のアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、200番目のグリシン(Gly)から207番目のグリシン(Gly)までがシステインタグ配列である。また、前記FcR9_Fは、配列番号1に示す天然型FcγRIIIaの17番目から192番目までのアミノ酸残基であり、ただし以下の(I)から(X)に示すアミノ酸置換を有したポリペプチドである:
(I)配列番号1の27番目(配列番号2では34番目)のバリン(Val)をグルタミン酸(Glu)に置換
(II)配列番号1の29番目(配列番号2では36番目)のフェニルアラニン(Phe)をイソロイシン(Ile)に置換
(III)配列番号1の35番目(配列番号2では42番目)のチロシン(Tyr)をアスパラギン(Asn)に置換
(IV)配列番号1の48番目(配列番号2では55番目)のグルタミン(Gln)をアルギニン(Arg)に置換
(V)配列番号1の75番目(配列番号2では82番目)のフェニルアラニン(Phe)をロイシン(Leu)に置換
(VI)配列番号1の92番目(配列番号2では101番目)のアスパラギン(Asn)をセリン(Ser)に置換
(VII)配列番号1の117番目(配列番号2では124番目)のバリン(Val)をグルタミン酸(Glu)に置換
(VIII)配列番号1の121番目(配列番号2では128番目)のグルタミン酸(Glu)をグリシン(Gly)に置換
(IX)配列番号1の171番目(配列番号2では178番目)のフェニルアラニン(Phe)をセリン(Ser)に置換
(X)配列番号1の176番目(配列番号2では183番目)のバリン(Val)をフェニルアラニン(Phe)に置換。
【0050】
(1)2mLの分離剤用親水性ビニルポリマー(東ソー社製:液体クロマトグラフィ用充填剤)の表面の水酸基をヨードアセチル基で活性化した後、特開2018-197224号公報の方法で得られたFcR9_F_Cysを4mg反応させることで、FcR9_F固定化ゲルを得た。
【0051】
(2)(1)で作製したFcR9_F固定化ゲル1.2mLをφ4.6mm×50mmのステンレスカラムに充填してFcR9_Fカラムを作製した。
【0052】
(実施例1) <標準物質としてリツキシマブを用いた場合の、測定サンプルのピーク同定>
(1)インフォームドコンセントを得た健常者検体から採血した血液を遠心し、血清を得た。当該血清をPBS(Phosphate Buffered Saline)(pH7.4)で20倍希釈した後、0.2μm径のフィルター(Merck Millipore社製)に通すことで血清サンプルを調製した。
【0053】
(2)上記にて作製したFcR9_Fカラムを、高速液体クロマトグラフィ装置(東ソー社製)に接続し、100mMの塩化ナトリウムを含む10mMのクエン酸緩衝液(pH6.5)(以下「平衡化液」とも表記)で平衡化した後、標準物質としてリツキシマブ(全薬工業製、販売名:リツキサン点滴静注100mg)を平衡化液でリツキシマブ濃度1mg/mLになるように調製したリツキシマブ抗体溶液を流速1.2mL/minにて10μL添加した。検出器による測定間隔は、1/5秒毎にデータを取得することで行った。
【0054】
(3)流速1.2mL/minのまま平衡化液で7分間洗浄した後、500mMの塩化ナトリウムを含む10mMのクエン酸緩衝液(pH4.5)(以下「溶出液」とも表記)を用いたpHグラジエント(11分で溶出液が100%となるグラジエント)で吸着した抗体を溶出し、分離パターンを得た。
【0055】
(4)標準物質と分析した後、(2)及び(3)と同様な手順で、測定サンプルとして(1)で調製した血清サンプルを10μL添加することで分析し、当該血清サンプルに含まれていた抗体の分離パターンを得た。
【0056】
(5)(3)及び(4)で得た分離パターンを、pHグラジエントを開始した時間(溶出開始後7分)、及びpHグラジエントが終了した(すなわち溶出液が100%となった)時間(溶出開始後18分)における検出値が共に0となるよう、ベースライン補正した。
【0057】
(6)ベースライン補正した標準物質の分離パターンから、溶出開始後7分から18分の間に検出される3つのピーク間(溶出時間が短い方から第1、2、3ピーク)の谷領域で導関数が0を取る2つの溶出時間で分割した領域をピーク領域とした。第1ピーク領域は溶出開始後7分から第1と第2ピークの間の谷領域の導関数が0を取る溶出時間(第1と第2ピークとの境界時間)までの範囲とし、第2ピーク領域は第1と第2ピークの間の谷領域の導関数が0を取る溶出時間から第2と第3ピークの間の谷領域の導関数が0を取る溶出時間までの範囲(第2と第3ピークとの境界時間)とし、第3ピーク領域は第2と第3ピークの間の谷領域の導関数が0を取る溶出時間から溶出開始後18分までの範囲とした。当該標準物質で定義付けたピーク領域を、標準物質の分析直後に測定した前記血清サンプルのそれに適用することで、当該サンプルのピーク領域の同定を行った。
【0058】
(7)一方、ベースライン補正した測定サンプルの分離パターンのみに基づき、溶出開始7分以降において、ピークの谷となっている溶出時間を検出値の増減の傾きから推定し、溶出時間が短い方から第1と第2ピークとの境界時間、第2と第3ピークとの境界時間とした。得られた結果を図1に示す。
【0059】
(比較例1) <標準物質としてヒトミエローマ血漿由来IgG1を用いた場合の、測定サンプルのピーク同定>
標準物質としてヒトミエローマ血漿由来IgG1(Sigma社製)を用いた他は、実施例1と同様な方法で血清サンプルに関する各ピークの境界時間を求めた。得られた結果を図2に示す。
【0060】
図1に示すとおり、リツキシマブの分離パターンから得られる各ピーク領域間の境界時間を通るように縦に点線を引いた結果、測定サンプルの各ピークの境界時間と近しい箇所に前記点線が通っており、リツキシマブと血液由来試料中に含まれる抗体とにおいて、各ピーク領域間の境界がほぼ一致していることが明らかになった。
【0061】
一方、図2に示すとおり、ヒトミエローマ血漿由来IgG1の分離パターンから得られる各ピーク領域間を通るように縦に点線を引いた結果、測定サンプルの各ピークの境界時間とは異なる箇所に前記点線が通っており、リツキシマブと比較してヒトミエローマ血漿由来IgG1では血液由来試料中に含まれる抗体とは各ピーク領域間の境界が一致していないことが明らかになった。
【0062】
また、実施例1及び比較例1の各境界時間をまとめた結果を、下記表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示すとおり、測定サンプルを分析して得られた、第1と第2のピーク領域間の境界時間は、比較例1(ヒトミエローマ血漿由来IgG1)におけるそれらと比較して、実施例1(リツキシマブ)のそれらの方が極めて近い値であった。よって、この結果からも、リツキシマブの分析結果において得られる各境界時間を指標とすることにより、血液由来試料中に含まれる抗体のピーク領域を精度よく同定できることは、明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上説明したように、本発明によれば、血液由来試料中に含まれる抗体のピーク領域を精度よく同定することが可能となる。そして、このようにして同定されたピーク領域によって、血液中の抗体に結合している糖鎖構造を同定することも可能となる。抗体に結合している糖鎖構造は、抗体(抗体医薬品等)の活性、動態、及び安全性に大きな影響を与えることが知られている。また、抗体に付加された糖鎖構造を分析することで疾患を検出し得る。したがって、本発明は、抗体の体内における活性(薬効)予測等、及び疾患の検査等の、医薬品及び医療の分野において有用である。
図1
図2
【配列表】
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