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特許7602757耐熱性液卵黄分解物の製造方法、およびこれを配合した加工食品用中間原料、ならびに加工食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】耐熱性液卵黄分解物の製造方法、およびこれを配合した加工食品用中間原料、ならびに加工食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 15/00 20160101AFI20241212BHJP
   A23J 3/34 20060101ALI20241212BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20241212BHJP
   A23L 23/00 20160101ALI20241212BHJP
【FI】
A23L15/00 A
A23J3/34
A23L7/10 Z
A23L23/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023187399
(22)【出願日】2023-11-01
【審査請求日】2024-04-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】木原 明彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆久
(72)【発明者】
【氏名】海藤 綾乃
(72)【発明者】
【氏名】山本 紘義
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-078720(JP,A)
【文献】特開平06-189713(JP,A)
【文献】特開2001-078721(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第114098016(CN,A)
【文献】国際公開第94/013158(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/181917(WO,A1)
【文献】月刊フードケミカル,Vol.36, No.9,2020年,p.23-26
【文献】高耐熱性ロングライフ卵黄液の調製とその応用,日本農芸化学会2018年度大会講演要旨集,2018年,講演番号:3B09a08
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/10 - 23/00
A23J 3/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料液卵黄40質量%以上の液卵黄をプロテアーゼで加水分解する耐熱性液卵黄分解物の製造方法であって、
前記プロテアーゼがgeobacillus stearothermophilusより抽出したプロテアーゼであり、
前記加水分解を多価アルコールの存在下で行い、
前記多価アルコールが、原料液卵黄100質量部に対し5質量部以上であり、
前記多価アルコールが還元水あめであり、
前記加水分解による分解度が0.40以上0.85以下である、
ことを特徴とする耐熱性液卵黄分解物の製造方法。
【請求項2】
請求項記載の製造方法で得られた耐熱性液卵黄分解物を配合する、
ことを特徴とする70℃以上の加熱処理を伴う加工食品用の中間原料の製造方法
【請求項3】
請求項記載の加工食品用中間原料を配合する、
ことを特徴とする70℃以上の加熱処理を伴う加工食品の製造方法
【請求項4】
請求項記載の製造方法で得られた耐熱性液卵黄分解物を配合する、
ことを特徴とする70℃以上の加熱処理を伴う加工食品の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵黄液が凝固する温度で加熱処理しても凝固、あるいは凝集物が殆ど観察されず、しかも卵黄風味が維持された耐熱性液卵黄分解物の製造法、およびこれを配合した加工食品用中間原料、ならびに加工食品に関する。詳しくは、多価アルコールの存在下、特定の酵素であるgeobacillus stearothermophilusより抽出したプロテアーゼで特定範囲に加水分解する卵黄風味が維持された耐熱性液卵黄分解物の製造方法、およびこれを配合した加工食品用中間原料または加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
卵黄の耐熱性を改質する方法として、卵黄をプロテアーゼで加水分解する方法が知られている。例えば、特許第3254026号公報(特許文献1)には、バチルス(Bacillus)属細菌等に由来するプロテアーゼで部分加水分解することにより、耐熱性及び耐冷凍性を改質した卵黄の製造方法が開示されている。
【0003】
特許文献1には、バチルス(Bacillus)属細菌由来のプロテアーゼとして、各種市販のものが紹介されている。同文献の実施例では、プロテアーゼS「アマノ」(天野製薬株式会社製)を使用している。
しかしながら、該プロテアーゼで部分加水分解したものの加熱処理品は、耐熱性は付与されるものの苦味を伴い卵黄風味が維持されているとは言い難いものであった。
【0004】
また、特許文献1には、バチルス(Bacillus)属細菌由来のプロテアーゼとして、geobacillus stearothermophilus由来のプロテアーゼとしてサモアーゼ(大和化成株式会社製)が記載されている。しかしながら、同文献の製造方法により得られたものの加熱処理品は、凝固しないものの凝集物が観察され、十分に耐熱性が付与されたとは言い難いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3254026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、卵黄液が凝固する温度で加熱処理しても凝固、あるいは凝集物が殆ど観察されず、しかも卵黄風味が維持された耐熱性液卵黄分解物の製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。
その結果、卵黄液を多価アルコールの存在下、特定の酵素であるgeobacillus stearothermophilusより抽出したプロテアーゼで特定範囲に加水分解するならば意外にも、卵黄液が凝固する温度で加熱処理しても凝固、あるいは凝集物が殆ど観察されず、しかも卵黄風味が維持された耐熱性液卵黄分解物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)原料液卵黄40質量%以上の液卵黄をプロテアーゼで加水分解する耐熱性液卵黄分解物の製造方法であって、
前記プロテアーゼがgeobacillus stearothermophilusより抽出したプロテアーゼであり、
前記加水分解を多価アルコールの存在下で行い、
前記多価アルコールが、原料液卵黄100質量部に対し5質量部以上であり、
前記加水分解による分解度が0.40以上0.85以下である、耐熱性液卵黄分解物の製造方法、
(2)前記多価アルコールが還元水あめである、(1)の耐熱性液卵黄分解物の製造方法、
(3)(1)または(2)の製造方法で得られた耐熱性液卵黄分解物を配合する、70℃以上の加熱処理を伴う加工食品用の中間原料、
(4)(3)の加工食品用中間原料を配合する、70℃以上の加熱処理を伴う加工食品、
(5)(1)または(2)の製造方法で得られた耐熱性液卵黄分解物を配合する、70℃以上の加熱処理を伴う加工食品、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、卵黄液が凝固する温度で加熱処理しても凝固、あるいは凝集物が殆ど観察されず、しかも卵黄風味が維持された耐熱性液卵黄分解物が得られることから、卵黄の非凝固状態を維持したい加熱を伴う加工食品の利用拡大が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を詳細に説明する。
なお、本発明において特に規定しない限り、「%」は「質量%」を、「倍」は「質量倍」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0011】
<本発明の特徴>
本発明は、酵素分解する前の無添加の状態では加熱凝固する液卵黄を、多価アルコール存在下で、特定のプロテアーゼで分解することで、得られた液卵黄分解物に耐熱性を付与するばかりでなく、卵黄の風味も維持される耐熱性液卵黄分解物の製造方法を提供することに特徴を有する。
【0012】
<液卵黄>
本発明において、液卵黄とは、本発明の必須原料である多価アルコールを含有した、プロテアーゼで加水分解する前の液状物で、原料液卵黄を40%以上含有したものである。後述の試験例1で示しているとおり、多価アルコールを含有せず原料液卵黄40%以上となるように水希釈した液卵黄は、生卵黄が確実に凝固する温度で凝固することから、本発明においては、原料液卵黄40%以上の液卵黄を対象とした。
なお、本発明において、前記液卵黄と、水や多価アルコール等を添加する前の液卵黄を区別するため、添加前の液卵黄を本発明では、原料液卵黄という。
【0013】
<原料液卵黄>
本発明に用いることができる原料液卵黄としては、生卵黄や市場で一般的に流通している商業用の卵黄液等を用いると良い。さらに、これらを冷蔵したもの、冷凍したもの、あるいは噴霧乾燥や凍結乾燥等で乾燥したものを水戻したもの、あるいは本発明の効果を損なわない範囲で、食塩や砂糖等を添加したもの等も用いることができる。
【0014】
<多価アルコール>
本発明の液卵黄に含有させる多価アルコールとしては、加工食品の食品原料として用いることができる1分子中にアルコール性ヒドロキシ基を2個以上もつ有機化合物であれば、いずれのものでも良い。具体的には例えば、澱粉を糖化したデキストリンを更に還元した還元澱粉糖化物(またはデキストリンアルコールともいう)、該還元澱粉糖化物を水で希釈し70%濃度に調整された還元水あめ、ソルビトール、該ソルビトールを水で希釈し70%濃度に調整されたD-ソルビトール液、マルチトール、キシリトール、グリセリン等が挙げられ、特に、本発明の効果である卵黄風味が維持され耐熱性に優れた液卵黄分解物が得られ易く、しかも安価で生産的にも取り扱い易いことから前記還元水あめが好ましい。
なお、本発明において、多価アルコールとして例えば、還元水あめ等水で希釈したものを用いる場合は、水を除いた部分が、多価アルコールの実際の濃度となる。
【0015】
<多価アルコールの含有量>
本発明において、プロテアーゼで加水分解する前の液卵黄の多価アルコールの含有量は、原料液卵黄100部に対し5部以上、好ましくは7.5部以上、より好ましくは10部以上である。多価アルコールの含有量が、前記含有量を下回ると、生卵黄が凝固する温度で加熱処理した場合、全体が凝固することはないものの凝集物が観察され、十分に耐熱性を付与することが出来ない。なお、本発明では、多価アルコールの上限の含有量は、特に、限定するものではないが、原料液卵黄100部に対し35部以下、好ましくは25部以下、より好ましくは20部以下とすると良い。多価アルコールの含有量を前記上限内とすることで、添加物の少ない耐熱性液卵黄分解物が得られると共に、多価アルコール含有量が前記含有量を上回ったとしても、含有量に応じた耐熱性効果の付与が期待するほど増加し難く経済的でないからである。
【0016】
<多価アルコールの添加時期>
本発明において、多価アルコールの添加時期は、プロテアーゼで加水分解を開始する前であれば、特に限定するものではない。具体的には例えば、原料液卵黄に多価アルコールを添加し均一に混合した後、酵素分解する所定の温度に加温し、その後、酵素を添加し加水分解を開始する。あるいは、原料液卵黄を酵素分解する所定の温度に加温後、多価アルコールを添加し均一に混合したものに酵素を添加し加水分解を開始する等の方法が挙げられる。
【0017】
<プロテアーゼ>
本発明は、所定量の多価アルコールを含有した液卵黄をプロテアーゼで加水分解する。プロテアーゼとしては、様々な由来の酵素が存在するが、本発明においては、geobacillus stearothermophilusより抽出したプロテアーゼを用いることを必須とする。本発明では、geobacillus stearothermophilusより抽出したプロテアーゼであれば、いずれのものでも良いが、具体的には例えば、天野エンザイム(株)製の商品名「サモアーゼPC10F」等が挙げられる。
【0018】
<プロテアーゼによる加水分解の分解度>
本発明は、前記特定のプロテアーゼを用いるばかりでなく、本発明の効果である卵黄液が凝固する温度で加熱処理しても凝固、あるいは凝集物が殆ど観察されず、しかも卵黄風味が維持された耐熱性液卵黄分解物が得るため、ならびに工業的規模での生産性を考慮し、該加水分解の程度を示す分解度が0.40以上0.85以下、好ましくは、0.40以上0.80以下、より好ましくは0.45以上0.75以下である。分解度が前記範囲を上回った場合、得られた液卵黄分解物は、耐熱性を付与できるものの苦味を呈し卵黄の風味を維持することが出来ない。一方、前記分解度の下限値については、工業的規模での生産性を考慮し規定したものである。つまり、酵素による加水分解において、該加水分解を停止させるには、添加した酵素を失活させる必要がある。酵素失活は、一般的に酵素が失活する温度に昇温させ、酵素失活処理を施す等の方法が採られる。しかしながら、前記酵素失活させるための昇温過程で、酵素による加水分解が進行するため、工業的規模での生産において、分解度を前記下限値より低く抑えることは難しい。また、仮に、分解度を前記下限値より低く抑えることが出来たとしても、得られた液卵黄分解物に耐熱性を付与できない場合があるためである。
【0019】
<プロテアーゼによる加水分解の分解度の測定>
本発明において、前記特定のプロテアーゼによる加水分解の分解度の測定は、次の方法により測定したものである。つまり、本発明の製造方法である前記特定のプロテアーゼで加水分解して得られた耐熱性液卵黄分解物0.5gを50mL容量の遠沈管に採取し、2%(w/v)NaCl水溶液9.5mLを加えて撹拌した後、10%(w/v)トリクロロ酢酸(TCA)溶液10mLを加え良く撹拌させた。その後30分静置した後3,500rpm×10分遠心し、0.45μmフィルターでろ過を行った。このろ液を分光光度計にて280nmの波長で測定し,該吸光度を「分解度」とした。
【0020】
<プロテアーゼの添加量>
本発明において、前記特定のプロテアーゼの添加量は、前記特定範囲の分解度を得られる量であれば、特に限定するものではないが、生産性を考慮し、原料液卵黄100部に対し、好ましくは0.001~5.0部、より好ましくは0.002~3.0部添加すると良い。プロテアーゼの添加量を前記範囲とすることで、所定の分解度にコントロールし易く、生産性に優れているからである。
【0021】
<プロテアーゼによる加水分解の処理温度および処理時間>
本発明の前記特定のプロテアーゼによる前記特定範囲の分解度を得るための加水分解の処理温度および処理時間は、プロテアーゼの添加量にもよるが、具体的には例えば、処理時間は、好ましくは5~90分、より好ましくは10~75分、処理温度は、好ましくは40~75℃、より好ましくは45~70℃とすると良い。加水分解の処理温度および処理時間を前記範囲とすることで、プロテアーゼの添加量と同様、所定の分解度にコントロールし易く、生産性に優れているからである。
【0022】
<プロテアーゼによる加水分解後の酵素失活するための失活処理温度および失活処理時間>
本発明の前記特定のプロテアーゼによる前記特定範囲の分解度となるように加水分解した後、常法に則り酵素失活処理を行う。その際の失活処理温度および失活処理時間は、前記特定のプロテアーゼの添加量にもよるが、前記特定のプロテアーゼが失活すれば特に限定するものではない。具体的には例えば、加水分解後の分解液を失活処理温度である好ましくは80~100℃、より好ましくは85~98℃に昇温し、失活処理時間としては、好ましくは1~45分、より好ましくは2~30分処理すると良い。
【0023】
<酵素失活後の処理等>
本発明は、前記酵素失活後、常法に則り冷却する。冷却は、特に限定するものではないが、卵黄成分である油脂及びリン脂質等の油分の酸化を考慮し、30分以内に室温(25℃)まで冷却する急冷が好ましい。また、本発明の製造方法で得られた耐熱性液卵黄分解物は、長期保存の目的で、冷蔵保存あるいは冷凍保存としても良い。
【0024】
<その他の原料>
本発明の製造方法は、液卵黄、多価アルコール、およびgeobacillus stearothermophilusより抽出したプロテアーゼを必須原料とするが、本発明の効果を損なわない限り、他の原料を使用することができる。例えば、砂糖等の糖、食塩、pH調整剤、キレート剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【0025】
<加工食品用中間原料または加工食品>
本発明の製造方法で得られた耐熱性液卵黄分解物は、非凝固状態の卵黄のコク味や乳化力を活かした加工食品であって、卵黄が凝固する70℃以上の加熱調理、加熱殺菌等、70℃以上の加熱処理を伴う加工食品に配合すると良い。70℃以上の加熱処理を伴う加工食品としては、特に限定するものではないが、具体的には例えば、カルボナーラソース、フラワーペースト、カスタードクリーム、殺菌処理を伴うマヨネーズソース類、加熱調理用や焼成用のマヨネーズソース類、親子丼やカツ丼等の丼物等が挙げられる。また、本発明の製造方法で得られた耐熱性液卵黄分解物は、前記70℃以上の加熱処理を伴う加工食品の卵黄部分以外の原料と組み合わせた中間原料とし、該中間原料を前記70℃以上の加熱処理を伴う加工食品に使用しても良い。前記中間原料としては、加工食品の卵黄部分以外の原料との組み合わせであれば、特に限定するものではないが、具体的には例えば、70℃以上の加熱処理を伴う加工食品がカルボナーラソースの場合は、牛乳または生クリームとの混合物等が挙げられる。
【0026】
以下、本発明について、実施例、比較例及び試験例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【0027】
[試験例1]
試験例1は、原料液卵黄を水希釈により様々な濃度とした場合の凝固性への影響を調べた。商業用の原料液卵黄(キユーピータマゴ(株)製)を表1に示す濃度に水で希釈した。得られた各濃度の液卵黄をエッペンドルフチューブに1mlずつ分注し、90℃の湯浴で15分間加熱処理を施した後、チューブから取り出し、凝固状態を観察した。結果を表1に示す。
【0028】
表1中の各記号は、下記のとおりである。
〇:指で押しても凝固した状態が保たれている。
△:指で押す前は、凝固した状態だが、指で押すと凝固状態が崩れた。
×:濁った液状の状態であった。
【0029】
【表1】
【0030】
表1の結果より、原料液卵黄の濃度が40%以上であれば、液卵黄は、凝固することが推定された。したがって、本発明では、液卵黄が凝固する原料液卵黄40%以上を対象とした。
【0031】
[実施例1]:耐熱性液卵黄分解物の製造方法
商業用の原料液卵黄200kg(キユーピータマゴ(株)製)、還元水あめ(物産フードサイエンス(株)製:商品名エスイー100、水分30%)30kgおよび清水70kgを均一に混合し、液卵黄300kgを調製した。その後、液卵黄300kgを60℃に昇温し、geobacillus stearothermophilusより抽出したプロテアーゼである天野エンザイム(株)製のサモアーゼPC10F(商品名)0.09kgを添加し、酵素分解処理を60℃で50分間行った。その後、90℃に昇温し、同温で20分間酵素失活処理を行った後、3kgポリ袋に1kgずつ充填し、該充填物を4℃チラー水(冷却水)で30分以内に品温が室温(25℃)以下となるように冷却し、本発明の耐熱性液卵黄分解物を得た。得られた耐熱性液卵黄分解物を長期保管の目的で冷凍庫(マイナス18℃)に保管した。
なお、原料液卵黄100部に対し、前記還元水あめ中の水分を除いた多価アルコール割合は10.5部であり、前記酵素の割合は0.04部である。
【0032】
得られたポリ袋に充填された耐熱性液卵黄分解物(冷凍品)を品温10℃程度になるように解凍後、段落0020記載の測定方法で分解度を測定したところ0.61であった。
また、解凍品をポリ袋に充填したまま90℃の湯浴に10分間加熱処理を施したが、凝固、あるいは凝集物は観察されず、加熱品を喫食したところ卵黄風味が維持されていた。
【0033】
[試験例2]
実施例1以外、表2に示す所定量の原料液卵黄、多価アルコールおよび清水を均一に混合後、60℃に昇温し、所定量のプロテアーゼを添加し、酵素分解処理を60℃で所定時間行った。その後、酵素処理液を直ちに20g容量のナイロンポリ袋に20g充填・密封し、所定温度に設定した湯浴で酵素失活処理を行った。その後、氷水で30分以内に品温が室温(25℃)以下となるように冷却し、本発明の耐熱性液卵黄分解物を得た。得られた耐熱性液卵黄分解物を長期保管の目的で冷凍庫(マイナス18℃)に保管した。
なお、実施例1乃至5、および比較例1、2では、プロテアーゼとして、天野エンザイム(株)製のサモアーゼPC10F(商品名)、比較例3では、ナガセケムテックス(株)製の食品用精製パパイン(商品名)、比較例4では、新日本化学工業(株)製のスミチームBNP(商品名)を使用した。
また、多価アルコールの種類および割合、前記酵素の割合、酵素処理条件、酵素失活条件ならびに分解度は、表2に示すとおりである。
ただし、表2中の多価アルコールの割合は、使用した多価アルコールがいずれも30%の水分を含むため、水分を除いた多価アルコール部分のみの割合の値であり、還元水あめには、物産フードサイエンス(株)製:商品名エスイー100またはエスイー57を使用した。
また、分解度は、解凍品を段落0020記載の測定方法で測定した値である。
【0034】
表2中の耐熱性評価は、実施例1と同様、10℃程度に解凍後、90℃の湯浴に10分間加熱処理を施し、その状態を目視で観察し評価した。下記に評価基準を示す。
【0035】
<耐熱性評価基準>
◎:凝固、あるいは凝集物は観察されなかった。
〇:凝固していないものの、極僅かに凝集物が観察されたが、問題とならない程度であった。
△:凝固していないものの、僅かに凝集物が観察された。
×:凝固した。あるいは、多数の凝集物が観察された。
【0036】
表2中の風味評価は、加熱処理後に凝固しなかったものを対象に、専門パネラーが喫食し評価した。下記に評価基準を示す。
【0037】
<風味評価基準>
◎:苦味が殆どなく、卵黄風味が維持されていた。
〇:僅かに苦味を呈するが問題とならない範囲であり、卵黄風味が維持されていた。
△:やや苦味を呈するが、卵黄風味は維持されていた。
×:苦味を強く感じられ、卵黄風味が維持されていなかった。
【0038】
【表2】
【0039】
表2より、プロテアーゼとして、geobacillus stearothermophilusより抽出したもの(サモアーゼPC10F(商品名))を使用し、多価アルコールを原料液卵黄100部に対し5部以上配合し、前記酵素による分解度が0.40以上0.85以下に加水分解した液卵黄分解物は、卵黄液が凝固する温度で加熱処理しても凝固、あるいは凝集物が殆ど観察されず、しかも卵黄風味が維持されることが理解される。特に、多価アルコールを原料液卵黄100部に対し10部以上配合し、分解度が0.45以上0.75以下である実施例1乃至4で得られた液卵黄分解物は、優れた耐熱性を有し、かつ卵黄風味の維持にも優れていた。
【0040】
[実施例6]:加工食品であるフラワーペーストの中間原料
実施例1で得られた耐熱性液卵黄分解物35gに撹拌させながら、菜種油65gを徐々に添加し、乳化状のフラワーペーストの中間原料(100g)を製した。
【0041】
[実施例7]:加工食品用中間原料を配合したフラワーペースト
実施例6の中間原料(耐熱性液卵黄分解物35gと菜種油65gの乳化状中間原料)100g、澱粉20g、薄力粉10g、グラニュー糖72.5g、脱脂粉乳30gおよび清水267.5g、合計500gを80℃で加熱しながら均一に混合した。その後、ゆっくり全体を撹拌させながら、冷水で室温(25℃)まで冷却し、フラワーペーストを製した。
得られたフラワーペーストは、卵黄の凝集物もなく、滑らかなペースト状物であった。
【0042】
[実施例8]:加工食品であるカルボナーラ
食塩12g(小さじ2)を溶かした沸騰水1000mLで乾麺100gを所定時間茹でた。一方、実施例1で得られた耐熱性液卵黄分解物75g、生クリーム100gおよび粉チーズ12g(大さじ2)を予め均一に混合し、ソース用の混合物を製した。フライパンにオリーブオイル12g(大さじ1)および短冊切りしたベーコン50gを入れ、中火でベーコンに焼き色が付くまで炒めた後、前記茹でた麺および茹で汁50gを加え、とろみが付くまで中火で加熱した。とろみが付いたら弱火にして、前記ソース用の混合物を添加・混合し、全体に味がなじんだらフライパンを火から下した。皿に盛りつけ、粗挽き黒コショウを適量散らしてカルボナーラを製した。
得られたカルボナーラのソース部は、喫食中滑らかさが維持されていた。
【要約】
【課題】 本発明は、卵黄液が凝固する温度で加熱処理しても凝固、あるいは凝集物が殆ど観察されず、しかも卵黄風味が維持された耐熱性液卵黄分解物の製造法、およびこれを配合した加工食品用中間原料、ならびに加工食品を提供する。
【解決手段】所定量の多価アルコールの存在下、geobacillus stearothermophilusより抽出したプロテアーゼで所定の分解度となるように液卵黄を加水分解する耐熱性液卵黄分解物の製造方法、およびこれを配合した加工食品用中間原料、ならびに加工食品。
【選択図】 なし